説明

ヒアルロン酸誘導体及びそれを含む薬剤

生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介し、ヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ステロイド性抗炎症化合物や疾患修飾性抗リウマチ化合物が生体内で分解可能なスペーサーを介し導入されているヒアルロン酸誘導体及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症 (OA) やリウマチ性膝関節症 (RA) 等の関節症の治療剤としてヒアルロン酸ナトリウム溶液が使われている。ヒアルロン酸ナトリウム溶液は、通常注射剤として使用され、患部である膝、肩等の関節に直接投与され、関節症による機能障害の改善及び疼痛抑制を目的として繁用されている。
【0003】
このような関節症による痛みの抑制、緩和剤として非ステロイド性抗炎症剤 (NSAIDs又はNSAIDとも言う。) や関節リウマチ等の病態を是正する疾患修飾性抗リウマチ化合物(以下、DMARDとも言う)も使用されている。一般にこれらNSAIDsは、経口投与する場合が多く、上記ヒアルロン酸ナトリウム溶液注射剤の注入投与とNSAIDsの経口投与を併用する場合も多い。経口投与によるこれらNSAIDsの使用では、NSAIDsが吸収され、血液中を循環し、患部に到達するまでにそのほとんどが消失してしまうという問題がある。その為、血中有効量を維持し、NSAIDsを患部に行き届かすには大量のNSAIDsの服用が必要になっている。この様な大量のNSAIDs経口服用には、消化器障害という大きな副作用があり、問題となっている。
また、DMARDとしては、炎症の原因と考えられている免疫異常等の制御に関する免疫療法薬(免疫調整剤や免疫抑制剤)が挙げられる。
【0004】
一方、ヒアルロン酸は、N-アセチル-D-グルコサミンとD-グルクロン酸の二糖単位を基本骨格とする繰り返し構造により構成された多糖であり、各二糖単位にカルボキシル基及び多数の水酸基を有していることから極めて親水性が高いことが知られている。ヒアルロン酸が親水性すなわち水分子との水和性が高い一例として、ヒアルロン酸は自重の約1000倍の水を保持することが可能とされている。しかし、従来、このように高い親水性を有するヒアルロン酸にNSAIDsの様な疎水性の高い薬剤を導入するとヒアルロン酸分子自身の疎水性が増大する為、水に半不溶のゲル状あるいは不溶物の形態となると知られており、注射剤としての使用が困難あるいは不可能であった。更に、長期の徐放を目的とし、薬剤の導入率の増加に従い、不溶化度も増し、注射剤として不適な形態となっていた。
【0005】
NSAIDsに限らず薬剤をヒアルロン酸に導入した例としては、関節症治療薬であるマトリックスプロテアーゼ阻害剤(MMP阻害剤)とヒアルロン酸とをスペーサーを介さずに又はスペーサーを介して結合させた結合体の報告がある(特許文献1)。しかし当該報告では、MMP阻害剤とヒアルロン酸との好適な結合様式としてはより強い共有結合を挙げており、投与部位において結合体がMMP阻害剤とヒアルロン酸とに解離、分解をしないことを前提として、MMP阻害剤の作用とヒアルロン酸の効果の相乗的な薬効が期待出来ると示唆している。また、ヒアルロン酸との結合部位としてはカルボキシル基を挙げているが、当該カルボキシル基への薬剤の導入率は非常に低く、又、注射剤として適性な態様(溶液)を保つ処理はしていない。
【0006】
他にも、ヒアルロン酸を水溶性カルボジイミドで活性化し、それに求核試薬を反応させたもの (特許文献2) があるが、これら薬剤はNSAIDsでなく、最終剤形は不溶性フィルムであった。また、ハロゲン化ジ低級アルキルホスフィノチオイル
(Rpt−X) を縮合剤として用い、ヒアルロン酸に種々の薬剤を導入した例 (特許文献3) もあるが、調製した誘導体に関する剤形までは言及しておらず、その調製に溶液として使用できるような処理も工程に組み込まれていない。
【特許文献1】WO99/59603
【特許文献2】特表平3−502704
【特許文献3】特開平9−188705
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
直接患部にNSAIDsを注入することによりNSAIDsの経口投与による消化器障害という問題点を回避する方法も理論上は考えられるが、例えば膝関節腔内にNSAIDsを直接注入した場合、吸収が速い為、NSAIDsの効果の持続時間は短かく、このような方法は採用されていない。また、NSAIDs自体が痛みの緩和、抑制を目的とする為、このような方法は関節症の根本的治療となり得ない。
そこで本発明は、関節症の治療剤であるヒアルロン酸ナトリウムにNSAIDsやDMARDを化学的に導入した新規誘導体を作成し、これを患部に注入することによる、関節症に伴う痛みの緩和、抑制及び関節症の根本治療に大きく寄与できる薬剤の提供、及び、NSAIDsやDMARDの放出をコントロールすることによる持続的効果を有する薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を考慮し、関節症患者の患部に注入できる注射剤として使用可能であり、更に関節症の根本治療のみならず疼痛、炎症の緩和、抑制にも高い効果を有するNSAIDs導入ヒアルロン酸誘導体やDMARD導入ヒアルロン酸誘導体を開発すべく鋭意検討した。
【0009】
その結果、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介してNSAIDsやDMARDがヒアルロン酸に導入された誘導体が上記目的に適していること、さらに好ましくは製造工程において、アルカリ処理を加えることで溶解性が向上し、注入剤
(注射剤) として注入可能な溶液として利用可能な可溶性NSAIDs導入ヒアルロン酸誘導体や可溶性DMARD導入ヒアルロン酸誘導体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は以下の通りである。
(1)生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介し、ヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体。
【0011】
(2)抗炎症化合物が、非ステロイド性抗炎症化合物及び疾患修飾性抗リウマチ化合物から選択される上記(1)記載のヒアルロン酸誘導体。
【0012】
(3)抗炎症化合物が、カルボキシル基を有している上記(1)又は(2)記載のヒアルロン酸誘導体。
【0013】
(4)抗炎症化合物が、サリチル酸、アスピリン、メフェナム酸、トルフェナム酸、フルフェナム酸、ジクロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、アセメタシン、アンフェナク、エトドラク、フェルビナク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、チアラミド、トルメチン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン及びアクタリトからなる群から選ばれる化合物の残基である、上記(3)記載の誘導体。
【0014】
(5)スペーサーが、ヒアルロン酸と結合する官能基及び抗炎症化合物と結合する官能基をそれぞれ少なくとも1つ以上有している化合物である上記(1)〜(4)の何れかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0015】
(6)スペーサーが、炭素数2〜18のジアミノアルカン、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアミノアルキルアルコール及びアミノ酸から選択される上記(1)〜(5)の何れかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0016】
(7)ヒアルロン酸の重量平均分子量が500,000〜3,000,000である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0017】
(8)抗炎症化合物が、ヒアルロン酸の繰り返し2糖単位当たり5〜50モル%導入されている上記(1)〜(7)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0018】
(9)ヒアルロン酸に非ステロイド性抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸の誘導体であって、該抗炎症化合物が導入されているヒアルロン酸構成二糖単位あたりの部分構造が、下記式(1)で示されるヒアルロン酸誘導体。
Y−CO−NH−R−(O−R)n (1)
Y−CO−はヒアルロン酸の構成二糖単位1残基を示し、RはZ−CO−で示される非ステロイド性抗炎症化合物残基又は水素原子を示し(但し、全てが水素原子である場合を除く)、−HN−R−(O−)nはn個のヒドロキシル基を有するHN−R−(OH)nで示されるスペーサー化合物のスペーサー残基を示し、Rは置換基を有していても良い炭素数2〜12の直鎖あるいは分岐を有する炭化水素基を示し、−CO−NH−はヒアルロン酸の構成糖であるグルクロン酸のカルボキシル基とスペーサー化合物が有するアミノ基とのアミド結合を示し、−O−CO−はスペーサー化合物が有する水酸基と非ステロイド性抗炎症化合物残基が有するカルボキシル基とのエステル結合を示す。nは1〜3の整数を示す。また、当該ヒアルロン酸誘導体における非ステロイド性抗炎症化合物の導入率は、ヒアルロン酸の繰り返し二糖単位あたり5〜50モル%であり、ヒアルロン酸誘導体を構成するヒアルロン酸残基中のカルボニル基は、非ステロイド性抗炎症化合物残基の導入率に応じて、該スペーサー結合抗炎症化合物残基との結合に関与するアミド結合として又は関与しない遊離のカルボキシル基として存在するものとする。
【0019】
(10)非ステロイド性抗炎症化合物が、下記式(2)で示される化合物である上記(9)記載のヒアルロン酸誘導体。
【0020】
【化1】

(2)
【0021】
は低級アルキル基及び低級アルコキシル基から選択される置換基又は水素原子を示す。R、R及びRはそれぞれ独立に、低級アルキル基、低級アルコキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Xは、それぞれ独立に同一又は異り、低級アルキル基及びトリフルオロメチル基から選択される置換基又はハロゲン原子を示し、少なくともXのどちらか一つはハロゲン原子である。
【0022】
(11)非ステロイド性抗炎症化合物が、ジクロフェナク又はその誘導体である上記(10)記載のヒアルロン酸誘導体。
【0023】
(12)上記式(1)におけるRが、置換基を有していてもよいエチレン基、トリメチレン基又はプロピレン基である上記(9)〜(11)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0024】
(13)ヒアルロン酸と、スペーサー結合抗炎症化合物を反応させるか、若しくは、スペーサー結合ヒアルロン酸と、抗炎症化合物を反応させ、ついで該反応液をアルカリ性条件とする工程を含む方法によって得られうる、上記(1)〜(12)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0025】
(14)上記ヒアルロン酸誘導体を1.0重量%で水性媒体に溶解して得られる溶液が、24℃の温度条件下、5.0kg/cm2の加圧下で多孔質フィルター(孔径(ポアサイズ)0.45μm、直径25mm)を1分間に2mL以上通過可能であることを特徴とする、上記(1)〜(13)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0026】
(15)上記ヒアルロン酸誘導体を1.0重量%で水性媒体に溶解して得られる溶液が、24℃の温度条件下、5.0kg/cm2の加圧下で多孔質フィルター(孔径(ポアサイズ)0.22μm、直径25mm)を1分間に2mL以上通過可能であることを特徴とする、上記(1)〜(13)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【0027】
(16)上記(1)〜(15)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体が水性媒体に溶解した、注入具により押し出し可能なヒアルロン酸誘導体溶液。
【0028】
(17)水性媒体が、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水及び注射用水から選択される水性媒体である上記(16)記載のヒアルロン酸誘導体溶液。
【0029】
(18)濾過滅菌された上記(17)記載のヒアルロン酸誘導体溶液。
【0030】
(19)上記(1)〜(15)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体を有効成分として含有する薬剤。
【0031】
(20)関節症処置剤、抗炎症剤または鎮痛剤である、上記(19)記載の薬剤。
【0032】
(21)非経口投与用である、上記(19)又は(20)記載の薬剤。
【0033】
(22)局所投与用の注入剤である、上記(21)記載の薬剤。
【0034】
(23)関節投与用の注入剤である、上記(21)又は(22)記載の薬剤。
【0035】
(24)上記(1)〜(15)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体を有効成分として含有し、かつ該ヒアルロン酸誘導体を水性媒体に溶解した溶液からなる、注入具により押し出し可能な薬剤。
【0036】
(25)上記(16)〜(18)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体溶液が、該溶液を押し出すことが可能な注入具に充填されたヒアルロン酸誘導体注入用キット。
【0037】
(26)充填された溶液が上記(19)〜(24)のいずれかに記載の薬剤である、上記(25)記載のキット。
【0038】
(27)上記(1)〜(15)のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体を薬学的に許容されるリン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水または注射用水に溶解した溶液を注射筒に充填し、薬剤押出用プランジャーで摺動可能に密封してなる医療用注射剤キット。
【0039】
(28)生体内で分解されうる部位を有するスペーサーと抗炎症化合物とが共有結合した誘導体。
【0040】
(29)生体内で分解されうる部位を有するスペーサーが、ジアミノアルカン、アミノアルキルアルコールまたはアミノ酸の残基である、上記(28)に記載の誘導体。
【0041】
(30)生体内で分解されうる部位を有するスペーサーが、当該スペーサー1分子に対し2個以上の抗炎症化合物を結合し得る化合物の残基である、上記(28)又は(29)記載の誘導体。
【0042】
(31)抗炎症化合物が、サリチル酸、アスピリン、メフェナム酸、トルフェナム酸、フルフェナム酸、ジクロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、アセメタシン、アンフェナク、エトドラク、フェルビナク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、チアラミド、トルメチン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン及びアクタリトからなる群から選ばれる化合物の残基である、上記(28)〜(30)のいずれかに記載の誘導体。
【0043】
(32)共有結合が、エステル結合またはアミド結合である、上記(28)〜(31)のいずれかに記載の誘導体。
【0044】
(33)下記式(3)で示される上記(32)記載の誘導体。
N−R−(O−R)n (3)
はZ−CO−で示される非ステロイド性抗炎症化合物残基又は水素原子を示し(但し、全てが水素原子である場合を除く)、HN−R−(O−)nはn個のヒドロキシル基を有するHN−R−(OH)nで示されるスペーサー化合物のスペーサー残基を示し、Rは置換基を有していても良い炭素数2〜12の直鎖あるいは分岐を有する炭化水素基を示し、−O−CO−はスペーサー化合物が有する水酸基と非ステロイド性抗炎症化合物残基が有するカルボキシル基とのエステル結合を示す。nは1〜3の整数を示す。
【0045】
(34)ヒアルロン酸とスペーサー結合抗炎症化合物とを反応させるか、若しくは、スペーサー結合ヒアルロン酸と抗炎症化合物とを反応させることを特徴とする、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介し、ヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体の製造法。
【0046】
(35)ヒアルロン酸とスペーサー結合抗炎症化合物との反応生成物、若しくは、スペーサー結合ヒアルロン酸と抗炎症化合物との反応生成物の溶液を、アルカリ性条件下で処理する工程を含むことを特徴とする、上記(34)記載のヒアルロン酸誘導体の製造法。
【発明の効果】
【0047】
本発明により、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介しヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合したヒアルロン酸誘導体、特に非ステロイド性抗炎症化合物が共有結合にて結合している非ステロイド性抗炎症化合物導入ヒアルロン酸誘導体(以下、本発明物質1とも言う)、同様に疾患修飾性抗リウマチ化合物が共有結合にて結合している疾患修飾性抗リウマチ化合物導入ヒアルロン酸誘導体(以下、本発明物質2とも言う。尚、前述の本発明物質1と本発明物質2を合わせて、本発明物質とも言う。)、及び、それら誘導体を有効成分として含有する薬剤(以下、本発明薬剤とも言う)
が提供される。本発明物質は、注射剤等の溶媒として使用される緩衝液、生理食塩水、注射用水等に良く溶解するため、患部に直接投与可能な注射剤として使用できる。また、本発明薬剤は、関節症の治療、炎症の抑制や疼痛の抑制に用いることができ、注入剤として非経口投与または局所投与(例えば、関節内投与)も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ラットブラジキニン惹起疼痛モデルに対する疼痛スコアを示す図である。
【図2】ラット1%硝酸銀溶液惹起疼痛モデルに対する疼痛スコアを示す図である。
【図3】ラット1%硝酸銀溶液惹起疼痛モデルに対する荷重負荷率 (%) を示す図である。
【図4】ウサギ膝関節へのアミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウム(KP−HA)、ケトプロフェンとHA混合物及びケトプロフェンの投与による、ウサギ膝関節での経時的残存率を示す図である。
【図5】ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対する導入率(DS)の異なるアミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムの効果を示す図である。
【図6】ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するジクロフェナクナトリウムの経口投与による効果を示す図である。
【図7】ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するジクロフェナク単剤、ヒアルロン酸での効果を示す図である。
【図8】ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するアミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(65kDa)ナトリウム、ジアミノプロパン−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム及びアミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムの効果比較を示す図である。
【図9(a)】COX-2に対するジクロフェナクナトリウム単剤、およびジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の作用(in vitro)を示す図である。
【図9(b)】COX-2に対するヒアルロン酸ナトリウム単剤、およびジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の作用(in vitro)を示す図である。
【図10(a)】ラットアジュバント関節炎(AIA)モデルに対するアジュバンド投与足におけるジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の投与による効果を示す図である。
【図10(b)】ラットアジュバント関節炎(AIA)モデルに対するアジュバンド非投与足におけるジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の投与による効果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
本発明物質は、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介し、ヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体である。本発明においては、抗炎症化合物とは、非ステロイド性抗炎症化合物(NSAID又はNSAIDs)及び疾患修飾性抗リウマチ化合物(DMARD)から選択される。
なお、「NSAIDs」は複数の化合物が分類されている非ステロイド性抗炎症化合物を総称する場合に用い、「NSAID」は各々の非ステロイド性抗炎症化合物を指す場合もあるが、本明細書中では特に厳密に使い分けてはいない。
【0050】
本発明物質1は非ステロイド性抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体であり、概念的構造は以下のような一般式(4)で表される。
HA−SP−NSAID (4)
(HAはヒアルロン酸鎖を、SPはスペーサー残基を、NSAIDは非ステロイド性抗炎症化合物残基を、及び、−は共有結合を示す。)
【0051】
また、本発明物質2は疾患修飾性抗リウマチ化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体であり、概念的構造は以下のような一般式(5)で表される。
HA−SP−DMARD (5)
(HAはヒアルロン酸鎖を、SPはスペーサー残基を、DMARDは疾患修飾性抗リウマチ化合物残基を、及び、−は共有結合を示す。)
【0052】
本発明物質は、水性溶媒に溶解可能であり、その溶液は粘性を有する溶液である。
ここで「水性溶媒」とは、水、水を含む緩衝液、薬学的に許容される金属塩、pH調整剤等を含む水溶液、緩衝液等を意味し、具体的には注射用水、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水等が例示される。
【0053】
本発明物質に用いられるヒアルロン酸は、N-アセチル-D-グルコサミンとD-グルクロン酸とがβ1,3結合で結合してなる二糖単位を基本骨格とし、当該二糖単位が繰り返しβ1,4結合して構成されたグリコサミノグリカン、つまり通常用いられるヒアルロン酸であれば特に限定されない。また、動物由来、微生物由来及び化学的合成等何れにより入手したものも用いることが可能である。
【0054】
ヒアルロン酸の重量平均分子量は特に限定されないが、10,000〜5,000,000が例示される。好ましくは500,000〜3,000,000、より好ましくは関節症治療剤として用いられている規格である600,000〜1,500,000および1,500,000〜3,000,000が挙げられる。
【0055】
なお、本発明に用いられるヒアルロン酸は塩を形成していない遊離した状態でも良く、また薬学的に許容されうる塩の状態でも良い。ヒアルロン酸の薬学的に許容されうる塩とは、例えばナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属イオンとの塩、及び、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属イオンとの塩等が挙げられる。ヒアルロン酸誘導体を生体に適用するための薬剤等に使用する場合には、生体への親和性が特に高いことから、使用されるヒアルロン酸塩は薬学的に許容されるアルカリ金属イオンとの塩が好ましく、中でもナトリウムイオンとの塩が特に好ましい。
【0056】
本発明における抗炎症化合物の一つであるNSAIDsとしては、通常、非ステロイド性抗炎症剤と呼ばれる化合物全般を指称し、特に限定されないが、中でも特に関節症への適用があるものが望ましい。従来よりNSAIDsの分類法として化学構造における骨格の違いによる分類がある。本発明に適用されるNSAIDsをこの分類毎に例示すると、サリチル酸系NSAIDsとしてサリチル酸、アスピリン等があり、フェナム酸系NSAIDsとしてメフェナム酸、トルフェナム酸、フルフェナム酸等、アリール酢酸系NSAIDsとしてジクロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、アセメタシン、アンフェナク、エトドラク、フェルビナク等、プロピオン酸系NSAIDsとしてイブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン等、オキシカム系NSAIDsとしてピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム等、その他のNSAIDsとしてチアラミド、トルメチン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン等がある。
【0057】
本発明に適用されるNSAIDsとしては、その化学構造中にカルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有しているものが望ましい。本発明物質1は、これらNSAIDsの有している官能基に合わせてスペーサーの官能基を選択することが可能である為、特に限定はされないが、カルボキシル基を少なくとも有しているNSAIDsが特に好ましく用いられる。
中でも、下記式(6)で示される骨格を有する化合物がより好ましく用いられる。
【0058】
【化2】

(6)

更には、下記式(2)で示される化合物が特に好ましく用いられる。
【0059】
【化3】

(2)
【0060】
は低級アルキル基及び低級アルコキシル基から選択される置換基又は水素原子を示す。R、R及びRはそれぞれ独立に、低級アルキル基、低級アルコキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Xは、それぞれ独立に同一又は異り、低級アルキル基及びトリフルオロメチル基から選択される置換基又はハロゲン原子を示し、少なくともXのどちらか一つはハロゲン原子である。また、上記の低級アルキル基及び低級アルコキシル基は、分岐を有していても良い炭素数1〜12の低級アルキル基及び低級アルコキシル基が好ましく、分岐を有していても良い炭素数1〜6の低級アルキル基及び低級アルコキシル基が更に好ましい。
【0061】
また、Rは、Rが結合しているベンゼン環においてカルボキシメチル基を1位、アミノ残基を2位とした場合に、5位の位置に結合しているのが好ましい。
上記式(2)で示される化合物としては、例えば、WO99/11605に記載の化合物が挙げられ、同公報の記載内容は本明細書の記載の引用として取り込まれる。
なお、NSAIDが有するカルボキシル基は遊離型であっても、塩を形成していても構わない。
【0062】
本発明におけるもう一つの抗炎症化合物であるDMARDは、通常、抗リウマチ剤として用いられている薬剤全般を指称し、特に限定されないが、その化学構造中にカルボキシル基、水酸基、アミノ基、メルカプト基等の官能基を有しているものが望ましい。DMARDとしては、アクタリット、メトトレキサート、サラゾスルファピリジン、ブシラミン等が挙げられる。
【0063】
なお、本発明における抗炎症化合物としては、上述に説明のNSAIDやDMARDがあげられるが、中でもカルボキシル基を有している化合物が好ましい。
なお、上述のNSAIDsやDMARDの有している官能基に合わせてスペーサーの官能基を選択することにより、望ましい結合様式にてヒアルロン酸に導入することが可能である。また、本発明物質は、必ずしも1種類のNSAID又はDMARDが導入されている必要は無く、2種類以上のNSAISやDMARDを導入しているヒアルロン酸誘導体も包含される。
【0064】
前記のSPで表されるスペーサーは、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーであり、ヒアルロン酸と結合する官能基、及び、NSAIDs又はDMARDと結合する官能基をそれぞれ少なくとも1つ以上有している化合物(以下、スペーサー化合物ともいう)
の残基である。スペーサーの生体内で分解されうる部位は、該ヒアルロン酸誘導体より遊離されるNSAIDs又はDMARDが効力を有すれば特に限定されるものではないが、NSAIDs又はDMARDとスペーサーとの結合部位で分解されることが望ましい。
【0065】
スペーサー化合物の官能基は、各々ヒアルロン酸及びNSAIDs又はDMARDとの結合様式により種々選択できる。例えば、ヒアルロン酸のカルボキシル基とアミド結合でスペーサーを導入する場合、アミノ基を有しているスペーサー化合物を選択し、ヒアルロン酸のカルボキシル基とエステル結合で導入する場合、水酸基を有しているスペーサー化合物を選択し、ヒアルロン酸の水酸基とエステル結合で導入する場合、カルボキシル基を有しているスペーサー化合物を選択することができる。
この場合、ヒアルロン酸への導入のし易さ及び生体内での安定性よりヒアルロン酸のカルボキシル基にアミド結合で導入できるアミノ基を有するスペーサー化合物が望ましい形態の1つとして挙げられる。
【0066】
同様に、NSAIDs又はDMARDと結合するスペーサー化合物の官能基も、NSAIDs又はDMARDの有している官能基に合わせ選択できる。例えば、水酸基を有しているNSAIDs又はDMARDの場合、カルボキシル基を有するスペーサー化合物を選択すればエステル結合により結合でき、カルボキシル基を有しているNSAIDs又はDMARDの場合、水酸基を有するスペーサー化合物を選択すればエステル結合により結合でき、アミノ基を有するスペーサー化合物を選択すればアミド結合により結合でき、メルカプト基を有しているNSAIDs又はDMARDの場合、カルボキシル基を有するスペーサー化合物を選択すればチオエステル結合により結合できる。
【0067】
この場合は、生体内での分解のし易さを考慮してNSAIDs又はDMARDとエステル結合にて結合できる官能基を有するスペーサー化合物が望ましく、さらにNSAIDs又はDMARDのカルボキシル基とスペーサー化合物の水酸基とがエステル結合で結合していることが特に好ましい。
スペーサー化合物は上述の様に、ヒアルロン酸やNSAIDs又はDMARDの特性に従い適宜選択可能であるが、例えば、炭素数2〜18のジアミノアルカン、置換基を有していても良い炭素数2〜12のアミノアルキルアルコール、アミノ酸等が挙げられる。アミノ酸としては、天然、非天然のアミノ酸であってもよく、特に限定されないが、好ましくは、グリシン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸が挙げられる。
【0068】
上述の様にヒアルロン酸及びNSAIDsとの結合様式を考慮した場合、スペーサー化合物の望ましい一例として置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアミノアルキルアルコールが挙げられる。
また、1分子中にNSAIDs又はDMARDと結合するこれら官能基を2個以上有しているスペーサー化合物 (以下、多価スペーサー化合物ともいう) でも構わない。
【0069】
多価スペーサー化合物を選択した場合、1つのスペーサーに複数のNSAIDs又はDMARDを同時に結合することが可能となる。よって、NSAIDs又はDMARDを導入するヒアルロン酸の官能基、例えば1つのカルボキシル基に対し複数のNSAIDs又はDMARDを同時に導入することが可能になる。これら多価スペーサー化合物の例として、セリノール及びその誘導体、セリン誘導体、トレオニン誘導体、2−アミノ−1,5−ペンタンジオール及びその誘導体、3−アミノ−1,2−プロパンジオール及びその誘導体、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びその誘導体、ビスホモトリス及びその誘導体などが挙げられる。
【0070】
この多価スペーサー化合物を用いるメリットは、ヒアルロン酸の親水性に寄与するカルボキシル基や水酸基の多くを置換反応に関与させることなく、より多くのNSAIDs又はDMARDを導入することが出来る為、多くのNSAIDs又はDMARDが導入されているにもかかわらず、親水性すなわち水性媒体への可溶性をより保持することが可能となる点である。
【0071】
本発明物質の合成方法は、上述の様な可溶性の本発明物質が得られる方法であれば特に限定されない。
なお、一般的に、ヒアルロン酸へ化合物を導入したヒアルロン酸誘導体においては、ヒアルロン酸の有するカルボキシル基や水酸基が化合物の結合に関与する為、物質の導入率の上昇に伴い、ヒアルロン酸誘導体の親水性が低下する。
【0072】
本発明物質1の合成方法の一例としては、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介してヒアルロン酸にNSAIDsを導入する導入反応後に、アルカリ処理を行うことを特徴とする方法が挙げられる。
【0073】
上記導入反応後の反応溶液をアルカリ性とするアルカリ処理は、該溶液がアルカリ性となる処理である限り特に限定されない。具体的には有機塩基又は無機塩基の何れかを該溶液に添加する方法が例示されるが、その後の処理等を考慮すると無機塩基の方が好ましい。更には、無機塩基の中にあっても水酸化ナトリウムのような強塩基より、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムのような弱塩基の方が、ヒアルロン酸やNSAIDsに影響を及ぼすおそれが低いことから望ましい。ここでのアルカリ処理のpH条件は7.2〜11、好ましくは7.5〜10が例示される。
【0074】
アルカリ処理の処理時間は、ヒアルロン酸の低分子化に影響を及ぼさなければ特に限定されないが、2〜12時間、好ましくは2〜6時間が挙げられ、当該時間処理すればヒアルロン酸に影響を与えず可溶性のヒアルロン酸誘導体を得ることができる。
具体的一例としては、スペーサーを導入したNSAIDs誘導体をヒアルロン酸と反応した後、反応液に例えば炭酸水素ナトリウム等の弱アルカリを加え、数時間攪拌処理した後、中和、エタノール沈殿、乾燥等の後処理をすることにより目的とする可溶性のヒアルロン酸誘導体を得ることができる。
上述の方法は、本発明物質2の合成にも適用でき、可溶性の本発明物質2を得ることが出来る。
【0075】
なお、ヒアルロン酸にスペーサー及びNSAIDs又はDMARDを導入する方法は、ヒアルロン酸にスペーサーを導入した後に、該スペーサー結合ヒアルロン酸にNSAIDs又はDMARDを導入する方法、あるいは、予めスペーサーをNSAIDs又はDMARDに導入した後に、該スペーサー結合NSAIDs又は該スペーサー結合DMARDをヒアルロン酸に導入する方法のどちらでも良いが、後者の方法の方が望ましい。
【0076】
NSAIDs又はDMARD、ヒアルロン酸及びスペーサーをそれぞれ結合させる方法は特に限定されるものでは無いが、例えば、エステル結合、アミド結合及びチオエステル結合などを達成できる方法であれば、該結合反応を行う手段として一般的に用いられる常法を用いることが可能であり、反応条件に関しても当業者が適宜判断し選択することが出来る。
【0077】
なお、ヒアルロン酸と、スペーサー結合NSAIDs又はスペーサー結合DMARD、若しくは、スペーサー化合物との結合は、ヒアルロン酸のカルボキル基あるいは水酸基どちらを利用しても達成できるが、官能基の持つ反応性の高さからカルボキシル基の方が容易に達成できる。このような結合を達成する方法として、例えば水溶性カルボジイミド等(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩
(EDCI・HCl)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドメチオシド等)の水溶性の縮合剤を使用する方法、N-ヒドロキシこはく酸イミド
(HOSu) やN-ヒドロキシベンゾトリアゾール (HOBt) 等の縮合補助剤と上記の縮合剤とを使用する方法、活性エステル法、酸無水物法等が挙げられる。これらの中では水性溶媒の存在下の反応として、水溶性の縮合剤を使用する方法、又は縮合補助剤と水溶性の縮合剤とを使用する方法が好ましく、特に副反応の抑制という観点から縮合補助剤と水溶性の縮合剤とを使用する方法がより好ましい。このようなヒアルロン酸のカルボキシル基と、スペーサー結合NSAIDs又はスペーサー結合DMARD、若しくは、スペーサー化合物との結合はエステル結合又はアミド結合でなされることが好ましく、アミド結合でなされることが更に好ましい。
【0078】
本発明物質におけるヒアルロン酸へのNSAIDs又はDMARDの導入率は、本発明物質の合成工程において、縮合剤、縮合補助剤、スペーサー結合NSAIDs又はスペーサー結合DMARDの投入量を変えることにより調整可能である。なお、導入率は、吸光度の測定やHPLC、NMR等を用いる方法で測定することができる。
【0079】
本発明においては、該誘導体の水性溶媒への可溶性が保たれるならば、NSAIDs又はDMARDの導入率は特に制限はされないが、ヒアルロン酸の繰り返し二糖単位あたり0.1〜80モル%が好ましく、5〜50モル%がより好ましい。また、本発明物質を医薬品の有効成分として用いる場合、患部におけるNSAIDs又はDMARDの有効濃度あるいは徐放効率を考慮して適性導入率が決定される。
【0080】
上述の様に、ヒアルロン酸のカルボキシル基にスペーサー結合NSAIDs又はスペーサー結合DMARDが導入されると、カルボキシル基はアミド結合あるいはエステル結合を形成することによりその親水性を低下、喪失することになる。
この問題点を解決する手段の1つとして、多価スペーサー化合物を利用することにより、親水性をより維持したまま、多くのNSAIDs又はDMARDの導入が可能になる。例えば、3個の水酸基と1個のアミノ基を有するアミノトリオール誘導体をスペーサー化合物に用いた場合、3個の水酸基全てにNSAIDsを導入すればスペーサー1分子に3分子のNSAIDsが導入されることになる。このアミノトリオール結合NSAIDsがヒアルロン酸のカルボキシル基に対し例えば20%の置換率(ヒアルロン酸二糖単位当たりの置換率)
で導入された場合、NSAIDsの導入率は3倍の60%ということになる。
【0081】
更に先述の様に、本発明物質の合成方法の一例として挙げられる、抗炎症化合物導入ヒアルロン酸誘導体を合成する為の導入反応後にアルカリ処理を行う方法を用いると、得られるヒアルロン酸誘導体の水性媒体への溶解性は保持される。この溶解性の保持効果はスペーサー化合物の種類や薬剤の導入率などをあまり考慮する必要が無く、また、簡易な処理である為、非常に有用である。
【0082】
上述の説明を総括すると、例えば具体的な本発明物質1の好適な形態として下記式(1)により示されるヒアルロン酸構成二糖単位を有するヒアルロン酸誘導体が挙げられる。なお、下記式(1)は、抗炎症化合物が導入されているN-アセチル-D-グルコサミンとD-グルクロン酸とがβ-1,3結合しているヒアルロン酸構成二糖単位あたりの部分構造を示す。
Y−CO−NH−R−(O−R)n (1)
Y−CO−はヒアルロン酸の構成二糖単位1残基を示し、RはZ−CO−で示されるNSAID残基又は水素原子を示し(但し、全てが水素原子である場合を除く)、−HN−R−(O−)nはn個のヒドロキシル基を有するHN−R−(OH)nで示されるスペーサー化合物のスペーサー残基を示し、Rは、置換基を有していても良い炭素数2〜12の直鎖あるいは分岐を有する炭化水素基を示し、−CO−NH−はヒアルロン酸の構成糖であるグルクロン酸のカルボキシル基とスペーサー化合物が有するアミノ基とのアミド結合を示し、−O−CO−はスペーサー化合物が有する水酸基とNSAIDが有するカルボキシル基とのエステル結合を示す。nは1〜3の整数を示す。なお、ヒアルロン酸誘導体を構成するヒアルロン酸残基中のカルボニル基は、NSAID残基の導入率に応じて、該スペーサー結合抗炎症化合物残基との結合に関与するアミド結合として、または関与しない遊離のカルボキシル基として存在するものとする。
【0083】
における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシル基、アシル基、カルボキシル基、ハロゲン等が挙げられ、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アシル基における炭素数は1〜11が好ましく、1〜4が更に好ましく、アリール基としてはフェニル基が好ましい。例えば置換基としてカルボキシル基を有するスペーサー化合物としてはセリンが、カルボキシル基とメチル基を有するスペーサー化合物としてはトレオニンが挙げられる。
【0084】
なお、上記式(1)によると、Y−COOHは反応前のヒアルロン酸構成二糖単位一つを示し、HN−R−(OH)nは反応前のスペーサー化合物を示し、HOOC−Zは反応前のNSAIDを示す。
上記式(1)で示されるヒアルロン酸構成二糖単位を合成する最も好適な方法としては、スペーサー化合物とNSAIDを結合させた後、次いで、ヒアルロン酸と反応させる方法が挙げられる。この反応を概念的に表すと以下の通りである。
【0085】
HN−R−(OH)n + HOOC−Z → (エステル形成)
→ (脱保護) → HN−R−(O−R)n
N−R−(O−R)n + Y−COOH →
Y−CO−NH−R−(O−R)n
【0086】
はアミノ基の保護基を示し、保護基としては、アミノ基の保護基として通常用られている保護基を使用することが可能であり特に限定されないが、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基の様なウレタン型保護基やホルミル基、フタロイル基の様なアシル型保護基が挙げられ、好ましくはウレタン型保護基が挙げられる。なお、R、R及びZは前記と同意義である。
但し、上記は反応経路を概念的に示したものであり、当業者であれば考えうる反応を効率的に行う工夫等については省略している。
【0087】
上記式(1)において、Rは置換基を有していても良い炭素数2〜5の直鎖あるいは分岐を有する炭化水素基がより好ましく、中でも炭素数2又は3の炭化水素基が好ましく、例えば、エチレン基、トリメチレン基又はプロピレン基が挙げられる。
【0088】
また、上記式(1)において用いられるNSAIDとしては、上述に記載のNSAIDから選択することが可能である。更には、下記式(7)で示される化合物が好ましく挙げられる。
【0089】
【化4】

(7)
【0090】
は低級アルキル基及び低級アルコキシル基から選択される置換基又は水素原子を示し、分岐を有していても良い炭素数1〜12の低級アルキル基又は水素原子がより好ましく、中でも炭素数1〜4の低級アルキル基又は水素原子がより好ましい。
、Xはそれぞれ独立に、低級アルキル基及びトリフルオロメチル基から選択される置換基又はハロゲン原子を示し、少なくともどちらか一つはハロゲン原子である。X、Xは同一又は異なるハロゲン原子がより好ましく、中でもフッ素原子又は塩素原子から選択されるとより好ましい。
また、Rは、Rが結合しているベンゼン環においてカルボキシメチル基を1位、アミノ残基を2位とした場合に、5位の位置に結合しているのが好ましい。
【0091】
上記式(7)で示される化合物の典型的な例としては、下記式(8)及び(9)で示される化合物が挙げられる。
【0092】
【化5】

(8)
【0093】
【化6】

(9)
【0094】
例えば、式(9)で示されるジクロフェナクを用いたジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体を合成した場合、上記式(1)における−CO−Zは下記式(10)で示される。
【0095】
【化7】

(10)
【0096】
なお、ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体は、非常に強力な鎮痛作用、抗炎症作用を有する。
【0097】
上記式(1)で示されるヒアルロン酸構成二糖単位を有する本発明物質に用いることが出来るヒアルロン酸としては、重量平均分子量50,000〜3,000,000を有するヒアルロン酸が好ましく、重量平均分子量50,000〜2,000,000を有するヒアルロン酸がより好ましく選択される。
【0098】
上記式(1)で示されるヒアルロン酸構成二糖単位を有する本発明物質におけるNSAIDsの導入率(DS)は、ヒアルロン酸の繰り返し二糖単位あたり、5〜50モル%が好ましく、10〜50%がより好ましい。
【0099】
本発明物質の大きな特徴として、本発明物質が水性溶媒に溶解可能である、つまり、易水溶性である点が挙げられ、本発明物質に水性溶媒を添加すると、加温や可溶化処理等をすること無く溶解する。なお、導入率が高くても、例えば5%以上、更には10%以上であっても溶解可能である。その為、本発明物質を水性媒体に溶解させた溶液は注入可能な液体状であり、且つ、濾過フィルターに対して通過性を有している。ちなみに、先述した様に、通常、高い親水性を有するヒアルロン酸にNSAIDs又はDMARDの様な疎水性の高い薬剤を導入するとヒアルロン酸分子自身の疎水性が増大する為、水に半不溶の粘弾性の高いゲル状あるいは不溶物の形態となることが知られており、注入具より押出する様な注入剤としては不適である。
【0100】
しかし、本発明物質は、例えば上述の様に製造工程においてアルカリ処理を行うことによりヒアルロン酸誘導体の溶解性が保持される為、濾過フィルターへの通過性を有する透明な溶液となり得る。
よって、本発明物質の溶液はフィルター濾過が可能であり、フィルター濾過による除塵、除菌、滅菌が可能となる。すなわち、5μmあるいは、0.45μmのフィルターを通過させることにより除塵、除菌が可能となり、更に望ましくは0.22μmのフィルターを通過させることにより滅菌することも可能となる。
【0101】
より具体的には、本発明物質を1.0重量%で水性媒体に溶解して得られる溶液が、24℃の温度条件下、5.0kg/cm2の加圧下で多孔質フィルター(孔径(ポアサイズ)0.45μm、直径25mm)を1分間に2mL以上通過可能であることが好ましい。
また、本発明物質を1.0重量%で水性媒体に溶解して得られる溶液が、上記と同様の条件にて、多孔質フィルター(孔径(ポアサイズ)0.22μm、直径25mm)を1分間に2mL以上通過可能であることが一層好ましい。
【0102】
後述の様に本発明物質を生体(哺乳動物、特にヒトが好ましい)に適用する薬剤として用いる場合、除塵及び殺菌、滅菌は必須事項となる為、本発明物質のこの様な特性は非常に有用である。また、加熱や紫外線照射などによる滅菌においては、ヒアルロン酸誘導体の分解や低分子化などが懸念されるが、濾過滅菌においては、その様な問題は回避出来る。
【0103】
本発明薬剤とは、本発明物質であるヒアルロン酸誘導体を有効成分として含有する薬剤である。本発明薬剤は、上述の様な本発明物質の特性を活かし、注射具(注入具)等により押し出し可能な形態をとることが可能であり、水性媒体に本発明物質を溶解した溶液としても利用される。例えば、生体内投与可能な生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水又は注射用水を溶媒として、0.1重量%〜10重量%の本発明物質濃度を有する溶液が挙げられる。この溶液は濁っておらず透明であるのが好ましい。
【0104】
上述の様に本発明薬剤は、フィルター濾過による除塵、除菌、滅菌が可能である。5μmあるいは0.45μmのフィルターを通過させることにより除塵、除菌が可能となり、0.22μmのフィルターを通過させることにより滅菌することも可能となる。さらに、本発明薬剤は、本発明薬剤が有する濾過滅菌可能であるという利点を損なわない範囲において、本発明物質と製薬上許容されうる担体と組み合わせて使用することも可能である。
この様に調製された本発明薬剤は、濾過滅菌を適用することができ、かつ、粘弾性をある程度有している状態であるのが好ましい。
【0105】
本発明薬剤は、非経口投与用薬剤や局所投与用薬剤として用いることが可能である。非経口投与および局所投与に用いる形態としては、上述の本発明物質を水性溶媒に溶解した溶液が好ましく、注射や注入等の投与方法が好ましく挙げられる
(本明細書中においては、「注入」が「注射」を包含する場合もある)。注入により局所投与を行うことにより、消化器系での副作用を回避することが出来る。また、消化器系による代謝も回避できる為、経口投与より投与量を減少させることが可能であり、更には、大量の経口投与による全身性毒性の問題も回避出来る。
【0106】
注射や注入等において用いられる押出装置は、充填されている薬剤を押出することにより投与することを目的とする通常用いられている注射器や注入具等の器具を用いることが可能である。
なお、本発明薬剤や本発明物質の溶液が薬剤押出用プランジャー等を具備した押出可能な注入具内に充填されたキットも提供可能である。また、該キットは、本発明物質を薬学的に許容されるリン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水または注射用水に溶解した溶液を注射筒に充填し、薬剤押出用プランジャーで摺動可能に密封してなる医療用注射剤キットとすることが可能である。なお、薬剤押出用プランジャーは通常用いられているものを用いることが可能であるが、ゴム又は合成ゴム等の弾性体によって形成され、シリンジに摺動可能に密着状態で挿入される。また、キットには、プランジャーを押込操作し、薬剤を押出する為のプランジャロッドも含まれていても良い。
【0107】
本発明薬剤の対象疾患、投与ルートは特に限定されるものでは無いが、関節症の処置、炎症の抑制や疼痛の抑制などを目的とする処置剤 (以下、本発明処置剤ともいう) として用いることが可能であり、好ましい。なお、本明細書において「処置剤」とは、治療にだけ用いられる「治療剤」だけでなく、予防や症状の緩和目的に使用される薬剤も包含する。
本発明処置剤は、後述の様にNSAIDs等の抗炎症化合物の徐放作用や薬物送達システム(Drug Delivery System)作用を有するだけで無く、関節症の処置において、抗炎症化合物による治療効果以外にも、現在臨床にて用いられているヒアルロン酸製剤による関節症への効果も同時に期待出来る。
【0108】
また、本発明処置剤の投与量は、投与ルート、投与形態、使用目的、投与対象となる動物の具体的症状、年齢、体重等に応じて、治療効果が最も適切に発揮される様に個別に決定されるべき事項であり、特に限定されない。例えば、ヒト用の注射剤の場合、ヒアルロン酸誘導体として、成人1人1回当たり1mg〜1,000mg程度、好ましくは5mg〜500mg程度、より好ましくは10mg〜100mg程度が挙げられる。しかし、本発明処置剤の作用の強さには、有効成分である本発明物質に用いられているNSAIDs又はDMARD自体が有する薬効の強さが、大きく影響すると考えられる為、必ずしも上記範囲が好適とは限らず、NSAIDs又はDMARD単体に換算した用量を考慮して設定する必要がある。また、後述の実施例において示されている様に、本発明薬剤はNSAIDs単体を投与する場合と異なり、投与部位に安定的に、且つ、持続的に存在する為、この点も考慮して設定する必要がある。
【0109】
本発明処置剤の適用部位は非経口投与により投与可能な部位であれば特に限定されないが、中でも関節が好ましく、膝関節、肩関節、股関節、顎関節等が特に好ましい。特に変形性膝関節症(OA)及びリウマチ性膝関節症(RA)への適用が望ましい。
【0110】
尚、本発明薬剤を関節症の処置剤として用いる際は、前述の様に関節への注入 (注射) 剤として適正な濃度を適宜選択することが出来るが、溶液の濃度としては0.3〜3.0重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がより好ましい。
【0111】
本発明薬剤の最も望ましい1つの形態としては以下の構成が挙げられる。
NSAID: 上記式(2)で示される化合物
スペーサー及び結合形態: アミノアルキルアルコールがNSAIDとエステル結合、ヒアルロン酸とアミド結合で結合
ヒアルロン酸の分子量: 重量平均分子量500,000〜3,000,000
NSAIDの導入率: ヒアルロン酸2糖単位当たり5〜50モル%
濃度及び溶媒: 0.3〜3.0重量%濃度のリン酸緩衝生理的食塩水溶液
提供状態: 滅菌状態でシリンジに充填されている。
【0112】
更に、NSAIDとしては、上記式(7)で示される化合物がより好ましく、上記式(8)及び上記式(9)で示される化合物が更に好ましく、中でもジクロフェナク又はその誘導体がより好ましい。スペーサーとしてはアミノプロピルアルコール又はアミノエチルアルコールから選択されるとより好ましい。
導入率としては、ヒアルロン酸二糖単位当たり10〜50モル%がより好ましい。
また、5μmあるいは0.45μmのフィルター濾過が可能であり、更には、0.22μmのフィルター濾過が可能であると最も好ましい。
【0113】
後述の実施例で示される様に、本発明薬剤は関節症の処置剤、特に関節症処置用の関節注入剤として用いることが特に好適である。例えば、関節腔内にNSAIDs等の低分子化合物を直接注入した場合は、これら化合物は直ちに滑膜を通過し血中へと移行する為、大きな効果は期待できない。
【0114】
一方、本発明物質であるNSAIDsを共有結合にて導入したNSAIDs導入ヒアルロン酸誘導体の溶液を関節腔内に投与した場合は、上記の様に低分子化合物単体では滑膜において代謝が早いにもかかわらず、後述の実施例で示される様に滑膜組織でNSAIDsが持続的に存在する。一般的に知られている様にヒアルロン酸は滑膜への親和性を有することから、本発明薬剤はヒアルロン酸とNSAIDsが結合した状態である程度滑膜内に留まり、組織あるいは細胞に徐々に取り込まれた後、NSAIDsがヒアルロン酸より遊離し、作用すると推測される。つまり、本発明薬剤の投与では、NSAIDsは即座に血中に移行することなく、持続的に関節液や滑膜組織にNSAIDsが存在している為、持続的効果を示すと推測される。
【0115】
これより、本発明薬剤は、ヒアルロン酸とスペーサー化合物との結合がNSAIDsとスペーサー化合物との結合より生体内での分解に耐性を示すことが好ましい。また、NSAIDsとスペーサー化合物の結合部分は関節腔内では分解されず、滑膜に取り込まれた後、滑膜組織内で分解される形態が好ましい。NSAIDsとスペーサー化合物及びヒアルロン酸とスペーサー化合物との結合様式を変えることにより、生分解への耐性を変えることができ、それにより遊離し易さや遊離速度をコントロールすることも可能となる。例えば、生体内で起こる加水分解を考えた場合、エステル結合はアミド結合に比べ分解を受けやすい。このため、ヒアルロン酸とアミド結合、NSAIDsとエステル結合により結合するスペーサーを選択した場合、エステル結合は加水分解を受けやすく、加水分解を受けた本発明物質はNSAIDsを遊離し、作用することになる。本発明薬剤は、徐放用製剤も可能である。
【0116】
なお、後述の実施例では、ヒアルロン酸とスペーサー化合物とをアミド結合で結合し、NSAIDsとスペーサー化合物とをアミド結合又はエステル結合とした本発明物質2種類を各々投与したところ、NSAIDsとスペーサー化合物とがエステル結合した本発明物質の方がより顕著な疼痛抑制効果を示した。
【0117】
NSAIDsによる関節症に伴う炎症や疼痛の抑制には、標的細胞内のシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害活性によるプロスタグランジンの産出抑制が機序となっていることが知られている。COX-2阻害作用の評価の為の汎用方法であるChemiluminescent
COX Inhibitor Screening Assay Kit(Cayman社製)を用いて本発明物質の評価を行った。その結果、NSAIDs単体が明らかにCOX−2阻害作用を示した投与量とNSAIDs換算で単体投与量に相当する量のNSAIDsを含有する本発明物質1の投与量においても、本発明物質1にはCOX-2阻害作用は確認されなかった。
【0118】
このin vitroでの評価により、様々な条件や状態が関与する生体内投与での挙動に一概に適用することは出来ないが、本発明薬剤が、作用部位においてNSAIDsを遊離する方がより好適であることは明らかに推測される。
【0119】
また、本発明物質は、低分子化合物である為に単独投与では生体内代謝が早く、効率的に標的部位(細胞)へデリバリーし難いことが知られているNSAIDs又はDMARDの薬物送達システム(DDS)基材としても有用である。本発明のNSAIDs又はDMARD導入ヒアルロン酸誘導体の形態で、NSAIDs又はDMARDを標的細胞までデリバリーし、更にその形態で細胞内に取り込ませ、持続的に標的部位に存在させることは、代謝の影響を低減し、効率良い効果を得る為には極めて重要である。
本発明物質を用いることにより、薬剤の単独投与よりも、投与部位において治療に有効な薬剤量が効率的に保持される為、経口投与よりはるかに微量ではるかに強力な治療効果が期待できる。また、効果の徐放性および持続性のアップも図れる為、臨床において投与回数の減少等も期待出来る。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲の限定を意図するものではない。
尚、以下の実施例において、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸ナトリウムはすべて生化学工業株式会社製のものを用いた。
以下、特に断りのない限り、以下の実施例ではリン酸緩衝生理食塩水(PBS)として、5mMのPBSを用いた。
【0121】
<試験例> フィルター通過性試験
1.0重量%で被検物質を溶解したPBSを調製した。24℃条件下、5.0kg/cm2の加圧下で0.45μm多孔質フィルター (直径25mm)
に下記実施例で調製した被検物質の溶液を通過させ、1分間あたりの通過量 (mL) を測定した。2mL以上通過した場合を「A」、2mL未満通過した場合を「B」、通過しない場合を「C」で示す。
【0122】
<製造例>
(参考例1)t−ブトキシカルボニル−アミノプロパノール(Boc-NH(CH2)3OH) (Boc−アミノプロパノール)の合成
アミノプロパノール1.542g (20.5mmol) をジクロロメタン10mLに溶解し、氷冷下ジ−t−ブチル−ジカルボナート (Boc2O)
4.484g (20.5mmol)/ジクロロメタン溶液10mLをゆっくり滴下した。その後反応液を室温に戻し、2時間40分攪拌し、原料の消失を薄層クロマトグラフィー
(TLC) で確認した後、ジクロロメタンを減圧留去した。反応は定量的に進行し、収量3.92gでオイル状物質を得た。構造は、1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0123】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.46 (9H, s, Boc), 1.66
(2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-), 3.27 (3H,
m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.66 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
4.91 (1H, br, CH2OH)
【0124】
(実施例1)アミノプロパノール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−ケトプロフェンの合成
Boc−アミノプロパノール2.371g (13.5mmol) とケトプロフェン3.441g (13.5mmol) (東京化成工業株式会社製)をジクロロメタン14mLに溶解し、氷冷下で4-ジメチルアミノピリジン
(DMAP) 323mg (2.6mmol)、水溶性カルボジイミド塩酸塩 (WSCI・HCl) 2.833g (14.8mmol)/ジクロロメタン14mLを順次加えた。室温に戻し、一昼夜攪拌した後、ジクロロメタンを減圧留去し、酢酸エチルを加え、5%クエン酸で2回、水、5%重曹で2回、水、飽和食塩水で順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去し、標記化合物を5.430g
(収率98%) で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0125】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.43 (9H, s, Boc), 1.54
(3H, d, -OCOCH(CH3)-), 1.77 (2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
3.09 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.82 (1H,
q, -OCOCH(CH3)-), 4.15 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
4.69 (1H, br, -NHCH2-), 7.42-7.83 (9H, m, Aromatic H)
【0126】
2) アミノプロパノール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−ケトプロフェン5.330g (12.95mmol) に氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル20mLを加え、氷冷下で15分、室温で2時間攪拌した。Boc−アミノプロパノール−ケトプロフェンの消失をTLCにて確認した後、溶媒を減圧留去し、残渣をジエチルエーテルにて2回デカンテーションした。その後、減圧乾燥し標記物質を定量的に収量4.569gで得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0127】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.50 (5H, d, -OCOCH(CH3)-),
2.08 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.04 (2H,
br, -NHCH2CH2CH2O-), 3.82 (1H, q, -OCOCH(CH3)-),
4.16 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 7.36-7.80
(9H, m, Aromatic H), 8.20 (br, H3N+CH2-)
【0128】
(実施例2)アミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム200mg (0.5mmol/二糖単位) を水22.5mL/ジオキサン22.5mLに溶解させた後、2Mヒドロキシこはく酸イミド
(HOSu) 水溶液0.25mL、1mol/L WSCI・HCl水溶液0.25mL、実施例1で得られた0.5Mアミノプロパノール−ケトプロフェン塩酸塩水溶液0.5mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液3mL加え、3時間20分攪拌した。反応液に50%酢酸86μLを加え中和後、塩化ナトリウム800mgを加え攪拌した。エタノール200mLに加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。198mgの白色固体を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は15.5%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0129】
(実施例3)アミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸400mg (1.0mmol/二糖単位) を水45mL/ジオキサン45mLに溶解させた後、HOSu 1.66mmol/水1mL、WSCI・HCl
0.83mmol/水1mL、実施例1で得られたアミノプロパノール−ケトプロフェン塩酸塩0.83mmol/水4mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に炭酸水素ナトリウム300mg/水1mL加え、3時間10分攪拌した。反応液に酢酸86μLを加え中和後、塩化ナトリウム400mgを加え攪拌した。エタノール300mLを加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。246mgの白色固体を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は26.3%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0130】
(実施例4)アミノプロパノール−ナプロキセン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−ナプロキセンの合成
Boc−アミノプロパノール350mg (2mmol) とナプロキセン462g (2mmol)(和光純薬工業株式会社製)をジクロロメタン2mLに溶解し、氷冷下でDMAP
48mg (0.4mmol)、WSCI・HCl 422g (2.2mmol)/ジクロロメタン2mLを順次加えた。室温に戻し、4時間50分攪拌した後、ジクロロメタンを減圧留去し、酢酸エチルを加え、5%クエン酸で2回、水、5%重曹で2回、水、飽和食塩水で順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去し、標記化合物を720mg
(収率93%) の白色結晶で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0131】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.42 (9H, s, Boc), 1.58
(3H, d, -OCOCH(CH3)-), 1.75 (2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
3.07 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.85 (1H,
q, -OCOCH(CH3)-), 3.91 (3H, s, -OCH3), 4.13
(2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 4.63 (1H, br,
-NHCH2-), 7.09-7.75 (6H, m, Aromatic H)
【0132】
2) アミノプロパノール−ナプロキセン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−ナプロキセン684mg (1.76mmol) をジクロロメタン1mL溶解に氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル2mLを加え、氷冷下で20分間、室温で1時間攪拌した。Boc−アミノプロパノール−ナプロキセンの消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテルを加え、3回デカンテーションした。その後、減圧乾燥し標記物質を定量的に収量564mgで得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0133】
1H-NMR (500MHz, CDCl3 + CD3OD) δ (ppm) = 1.57
(3H, d, -OCOCH(CH3)-), 2.02 (2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
2.88 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.87 (1H,
q, -OCOCH(CH3)-), 3.90 (3H, s, -OCH3), 4.17
(2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 7.08-7.73 (6H,
m, Aromatic H), 8.10 (br, H3N+CH2-)
【0134】
(実施例5)アミノプロパノール−ナプロキセン導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム100mg (0.25mmol/二糖単位) を水11.5mL/ジオキサン11.5mLに溶解させた後、HOSu
(0.2mmol)/水0.1mL、WSCI・HCl (0.1mmol)/水0.1mL、実施例4で得られたアミノプロパノール−ナプロキセン塩酸塩
(0.1mmol)/水0.3mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mL加え、3時間35分攪拌した。反応液に50%酢酸43μLを加え中和後、塩化ナトリウム500mgを加え攪拌した。エタノール50mLを加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。95mgの白色固体を得た。HPLCによるナプロキセンの導入率は13.1%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0135】
(実施例6)アミノプロパノール−イブプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−イブプロフェンの合成
Boc−アミノプロパノール352mg (2mmol) とイブプロフェン412g (2mmol) (和光純薬工業株式会社製)をジクロロメタン2mLに溶解し、氷冷下でDMAP
48mg (0.4mmol)、WSCI・HCl 423g (2.2mmol)/ジクロロメタン2mLを順次加えた。室温に戻し、一昼夜攪拌した後、酢酸エチルを加え、5%クエン酸で2回、水、5%重曹で2回、水、飽和食塩水で順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去し、標記化合物を665mg
(収率91%) で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0136】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 0.88 (6H, d, -CH(CH3)2),
1.44 (9H, s, Boc), 1.49 (3H, d, -OCOCH(CH3)-), 1.75 (2H, m,
-NHCH2CH2CH2O-), 1.85 (1H, m, -CH2CH(CH3)2),
2.45 (2H, d, -CH2CH(CH3)2), 3.05 (2H,
m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.69 (1H, q, -OCOCH(CH3)-),
4.13 (2H, t, -NHCH2CH2CH2O-), 4.63 (1H,
br, -NHCH2-), 7.07-7.21 (4H, m, Aromatic H)
【0137】
2) アミノプロパノール−イブプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−イブプロフェン636mg (1.75mmol) をジクロロメタンに1mL溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル4mLを加え、氷冷下で10分間、室温で3時間攪拌した。Boc−アミノプロパノール−イブプロフェンの消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテルを加え、3回デカンテーションした。その後、減圧乾燥し標記物質を収量406mg
(77%) で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0138】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 0.89 (6H, d, -CH(CH3)2),
1.47 (3H, d, -OCOCH(CH3)-), 1.83 (1H, m, -CH2CH(CH3)2),
2.08 (2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
2.44(2H, d, -CH2CH(CH3)2), 3.01 (2H, t,
-NHCH2CH2CH2O-), 3.71 (1H, q, -OCOCH(CH3)-),
4.11-4.27 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
7.06-7.20 (4H, m, Aromatic H), 8.25 (br, H3N+CH2-)
【0139】
(実施例7)
アミノプロパノール−イブプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム100mg (0.25mmol/二糖単位) を水11.5mL/ジオキサン11.5mLに溶解させた後、HOSu
(0.2mmol)/水0.1mL、WSCI・HCl (0.1mmol)/水0.1mL、実施例6で得られたアミノプロパノール−イブプロフェン塩酸塩
(0.1mmol)/水0.3mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mLを加え、3時間35分攪拌した。反応液に50%酢酸43μLを加え中和後、塩化ナトリウム500mgを加え攪拌した。エタノール50mLを加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。93mgの白色固体を得た。HPLCによるイブプロフェンの導入率は16.4%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0140】
(実施例8)アミノプロパノール−フルルビプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−フルルビプロフェンの合成
Boc−アミノプロパノール352mg (2mmol) とフルルビプロフェン489g (2mmol)(和光純薬工業株式会社製)をジクロロメタン2mLに溶解し、氷冷下でDMAP
48mg (0.4mmol)、WSCI・HCl 423g (2.2mmol)/ジクロロメタン2mLを順次加えた。室温に戻し、一昼夜攪拌した後、酢酸エチルを加え、5%クエン酸で2回、水、5%重曹で2回、水、飽和食塩水で順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去し、標記化合物を753mg
(収率94%) で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0141】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.26 (9H, s, Boc), 1.54
(3H, d, -OCOCH(CH3)-), 1.80 (2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
3.13 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-), 3.76 (1H,
q, -OCOCH(CH3)-), 4.15 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
4.66 (1H, br, -NHCH2-), 7.10-7.55 (9H, m, Aromatic H)
【0142】
2) アミノプロパノール−フルルビプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−フルルビプロフェン720mg (1.79mmol) をジクロロメタン1mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル4mLを加え、氷冷下で3分間、室温で3時間10分攪拌した。Boc−アミノプロパノール−フルルビプロフェンの消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテルを加え、2回デカンテーションした。その後、減圧乾燥し標記物質を収量352mg
(94%) で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0143】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.51 (3H, d, -OCOCH(CH3)-),
2.10 (2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-), 3.05
(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-), 3.76 (1H, q,
-OCOCH(CH3)-), 4.13-4.29 (2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
7.07-7.53 (9H, m, Aromatic H), 8.27 (br, H3N+CH2-)
【0144】
(実施例9)アミノプロパノール−フルルビプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム100mg (0.25mmol/二糖単位) を水11.5mL/ジオキサン11.5mLに溶解させた後、HOSu
(0.2mmol)/水0.1mL、WSCI・HCl (0.1mmol)/水0.1mL、上記実施例8で得られたアミノプロパノール−フルルビプロフェン塩酸塩
(0.1mmol)/水0.3mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mLを加え、3時間35分攪拌した。反応液に50%酢酸43μLを加え中和後、塩化ナトリウム500mgを加え攪拌した。エタノール50mLを加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。94mgの白色固体を得た。HPLCによるフルルビプロフェンの導入率は21.1%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0145】
(実施例10)アミノプロパノール−アセチルサリチル酸塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−アセチルサリチル酸の合成
Boc−アミノプロパノール (2.11mmol)、アセチルサリチル酸 (2.11mmol)(和光純薬工業株式会社製)、DMAP (0.42mmol) をジクロロメタン−ジオキサン
(2:1、6ml) に溶解し、氷冷下でWSCI・HCl (2.35mmol) を加えた。室温に戻し、一昼夜撹拌した後、酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=3:1、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (298.0mg、収率48%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0146】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.44 (9H, s, Boc),
1.90-1.96 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
2.35 (3H, s, -COCH3), 3.24-3.28 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
4.35 (2H, t, BocHNCH2CH2CH2O-), 4.78
(1H, s, NH), 7.11 (1H, dd, Aromatic), 7.32 (1H, td, Aromatic), 7.55-7.59 (1H,
m, Aromatic), 8.01 (1H, dd, Aromatic)
【0147】
2) アミノプロパノール−アセチルサリチル酸塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−アセチルサリチル酸 (0.814mmol) をジクロロメタン (1ml) に溶解し、氷冷下で4N塩酸/酢酸エチル
(3ml) を加えて2時間撹拌した。Boc−アミノプロパノール−アセチルサリチル酸の消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテルを加えた。生じた沈殿を遠心分離し、上清をデカンテーションした。得られた沈殿を減圧乾燥し、標記化合物213.9mg
(収率96%) を得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0148】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 2.22 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
2.35 (3H, s, -COCH3), 3.13 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
4.41 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
7.09 (1H, dd, Aromatic), 7.31 (1H, dt, Aromatic), 7.56 (1H, dt, Aromatic), 7.99
(1H, dd, Aromatic)
【0149】
(実施例11)アミノプロパノール−アセチルサリチル酸導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (100mg)0.25 mmol/二糖単位を水−ジオキサン (1:1) に溶解し、2mol/L HOSu (0.1ml)、1mol/L
WSCI・HCl (0.1ml)、上記実施例10で得られたアミノプロパノール−アセチルサリチル酸塩酸塩 (0.10mmol) の水−ジオキサン (1:1) 溶液
(2ml) を順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (1.5ml) を加えて3時間撹拌した。50%酢酸水溶液 (43μl) を加えて中和後、塩化ナトリウム
(0.4g) を加えて撹拌した。エタノール (100ml) を加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて各2回順次洗浄した。その後減圧乾燥し、標記化合物
(97.7mg) を得た。吸光光度法によるアセチルサリチル酸の導入率は、13.5%であった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0150】
(実施例12)アミノプロパノール−フェルビナク塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−フェルビナクの合成
Boc−アミノプロパノール (2.04mmol)、フェルビナク (2.04mmol)(Aldrich Chem. Co.製)、DMAP (0.41mmol)
をジオキサン (7ml) に溶解させた後、氷冷下でWSCI・HCl (2.35mmol) のジオキサン−ジクロロメタン (3:4) 溶液 (7ml) を加えた。反応液にジメチルホルムアミド
(DMF) (3ml) を加え澄明とした後、室温に戻し、一昼夜撹拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=3:1、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (623.0mg、収率83%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0151】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.44 (9H, s, Boc),
1.80-1.85 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
3.15-3.19 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
3.67 (2H, s, PhCH2-), 4.18 (2H, t, BocHNCH2CH2CH2O-),
4.67 (1H, s, NH), 7.34-7.59 (9H, m, Aromatic)
【0152】
2) アミノプロパノール−フェルビナク塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−フェルビナク (1.69mmol) をジクロロメタン (1ml) に溶解し、氷冷下で4N塩酸/酢酸エチル (3ml) を加えた。室温に戻して2時間撹拌した。Boc−アミノプロパノール−フェルビナクの消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテルを加え、生じた沈殿を遠心分離した。得られた沈殿をジエチルエーテルにて3回デカンテーションした後減圧乾燥し、標記化合物
(511.7mg、収率99%) を得た。構造は1H-NMR (CDCl3:CD3OD=1:1)
にて同定した。
【0153】
1H-NMR (500MHz, CDCl3:CD3OD = 1:1) δ (ppm) =
1.98-2.04 (2H, m, H2NCH2CH2CH2O-),
2.95 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
3.73 (2H, s, -PhCH2-), 4.23 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
7.33-7.59 (9H, m, Aromatic)
【0154】
(実施例13)アミノプロパノール−フェルビナク導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (200mg) 0.5 mmol/二糖単位を水−ジオキサン (1:1、45ml) に溶解し、2mol/L HOSu
(0.25ml)、1mol/L WSCI・HCl (0.25ml)、実施例12で得られた0.5Mフェルビナク−プロパノールアミン塩酸塩水溶液 (0.5ml) を順次加えて一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液
(3ml) を加えて3時間撹拌した。反応液に50%酢酸水溶液 (86μl) を加え中和後、塩化ナトリウム (0.8g) を加えて撹拌した。エタノール
(200ml) を加えて撹拌した。生じた沈殿を遠心分離し、得られた沈殿を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて各2回順次洗浄した。これを室温にて一晩減圧乾燥し、標記化合物
(205.1mg) を得た。HPLCによるフェルビナクの導入率は27.8%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0155】
(実施例14)アミノプロパノール−フェンブフェン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−フェンブフェンの合成
Boc−アミノプロパノール (2.18mmol)、フェンブフェン (2.18mmol)(ICN Biochemicals. Inc.製)、DMAP
(0.44mmol) をDMF−ジクロロメタン (5:3、8ml) に溶解し、氷冷下でWSCI・HCl (2.48mmol) のジクロロメタン溶液 (5ml)
を加えた。徐々に反応温度を室温とし、一昼夜撹拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムにて脱水乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(クロロホルム:酢酸エチル=40:1、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (747.8mg、収率83%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0156】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.44 (9H, s, Boc),
1.82-1.87 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
2.79 (2H, t, -COC2H4CO-), 3.20-3.24 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
3.36 (2H, t, -COC2H4CO-) 4.19 (2H, t, BocHNCH2CH2CH2O-),
4.76 (1H, s, NH), 7.39-7.64 (5H, m, Aromatic), 7.70 (2H, td, Aromatic), 8.06
(2H, td, Aromatic)
【0157】
2) アミノプロパノール−フェンブフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−フェンブフェン (1.82mmol) をジクロロメタン (4ml) に溶解し、氷冷下、4N塩酸・酢酸エチル溶液
(4ml) を加え、その後徐々に室温として90分間撹拌した。反応開始直後に、白色沈殿の析出が見られた。Boc−アミノプロパノール−フェンブフェンの消失をTLCにて確認した後、反応液にジエチルエーテルを加え、白色沈殿を遠心分離した。沈殿をジエチルエーテルで3回洗浄した後減圧乾燥し、標記化合物
(621.4mg、収率98%) を得た。構造は1H-NMR (CDCl3:CD3OD=1:1)
にて同定した。
【0158】
1H-NMR (500MHz, CDCl3:CD3OD=1:1) δ (ppm) =
2.01-2.07 (2H, m, H2NCH2CH2CH2O-),
2.79 (2H, t, -COC2H4CO-), 3.05 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
3.44 (2H, t, -COC2H4CO-), 4.26 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
7.41-7.50 (3H, m, Aromatic), 7.66 (dd, 2H, Aromatic), 7.75 (d, 2H, Aromatic),
8.08 (d, 2H, Aromatic)
【0159】
(実施例15)アミノプロパノール−フェンブフェン導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (200mg) 0.5mmol/二糖単位の水−ジオキサン (1:1、45ml) に溶解させた後、2mol/L HOSu
(0.25ml)、1mol/L WSCI・HCl (0.25ml)、実施例14で得られたアミノプロパノール−フェンブフェン塩酸塩 (0.25mmol) の水−ジオキサン
(25:8) 溶液 (0.66ml) を加えて一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (3ml) を加えて3時間撹拌した。50%酢酸水溶液
(86μl) を加えて中和後、塩化ナトリウム (0.8g) を加えて撹拌した。エタノール (200ml) を加えて撹拌した。生じた沈殿を遠心分離し、得られた沈殿を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて各2回洗浄した。減圧乾燥し、標記化合物
(214.1mg) を得た。HPLCによるフェンブフェンの導入率は23.8%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0160】
(実施例16)アミノプロパノール−メフェナム酸塩酸塩の合成
1) Boc−アミノプロパノール−メフェナム酸
Boc−アミノプロパノール (0.616mmol)、メフェナム酸 (0.620mmol)(和光純薬工業株式会社製)、DMAP (0.126mmol) をジクロロメタン
(3ml) に溶解し、氷冷下でWSCI・HCl (0.758mmol) のジクロロメタン溶液 (1.5ml) を加えた。徐々に反応温度を室温とし、一昼夜撹拌した。再度反応液を氷冷し、WSCI・HCl
(0.207mmol) のジクロロメタン溶液 (1ml) を加えて徐々に室温としながら5時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次洗浄した。硫酸ナトリウムにて脱水乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=6:1、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (190.4mg、収率78%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0161】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.45 (9H, s, Boc),
1.96-2.01 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
2.18 (3H, s, PhCH3), 2.33 (3H, s, PhCH3),
3.31-3.32 (2H, m, BocHNCH2CH2CH2O-),
4.38 (2H, t, BocHNCH2CH2CH2O-), 4.78 (1H,
s, NH), 6.64-6.67 (1H, m, Aromatic), 6.74 (1H, dd, Aromatic), 7.02-7.26 (4H, m,
Aromatic), 7.94 (1H, dd, Aromatic), 9.24 (1H, s, -PhNHPh-)
【0162】
2) アミノプロパノール−メフェナム酸塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノプロパノール−メフェナム酸 (0.462mmol) をジクロロメタン (0.5ml) に溶解し、氷冷下で4N塩酸/酢酸エチル (1.5ml)
を加えて3時間撹拌した。Boc−アミノプロパノール−メフェナム酸の消失をTLCで確認後、反応液にジエチルエーテルを加え、生じた沈殿を遠心分離した。得られた沈殿をジエチルエーテルにて洗浄した後減圧乾燥し、標記化合物
(154.4mg、qu.) を得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0163】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 2.16 (3H, s, PhCH3),
2.25-2.30 (2H, m, H2NCH2CH2CH2O-),
2.31 (3H, s, PhCH3), 3.20 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
4.44 (2H, t, H2NCH2CH2CH2O-),
6.63-6.66 (1H, m, Aromatic), 6.70-6.72 (1H, dd, Aromatic), 7.02 (1H, d,
Aromatic), 7.09 (1H, t, Aromatic), 7.14 (1H, d, Aromatic), 7.22-7.25 (1H, m,
Aromatic), 7.92 (1H, dd, Aromatic), 9.17 (1H, s, -PhNHPh-)
【0164】
(実施例17)アミノプロパノール−メフェナム酸導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (100mg) 0.25 mmol/二糖単位を水−ジオキサン (1:1、22.5ml) に溶解し、2mol/L HOSu
(0.1ml)、1mol/L WSCI・HCl (0.1ml)、実施例16で得られたアミノプロパノール−メフェナム酸塩酸塩 (0.10mmol) の水−ジオキサン
(1:1) 溶液 (2ml) を順次加えて一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (1.5ml) を加えて4時間撹拌した。50%酢酸水溶液
(43μl) を加えて中和後、塩化ナトリウム (0.4g) を加えて撹拌した。エタノール (100ml) を加えて撹拌し、生じた沈殿を遠心分離した。得られた沈殿を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて各2回順次洗浄した。減圧乾燥し、標記化合物
(101.7mg) を得た。吸光光度法により算出したメフェナム酸導入率は、17.5%であった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0165】
(実施例18)アミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩の合成
1)Boc-アミノプロパノール-ジクロフェナクの合成
Boc-アミノプロパノール135.8mg (0.775mmol) をジクロロメタン1mLに溶解し、ジクロフェナク229.6mg (0.775mmol)(和光純薬工業株式会社製)のジクロロメタン溶液4mL、DMAP
18.9mg (0.155mmol) のジクロロメタン溶液1mL、DMF 0.5mLを順次加え、氷冷下でWSCI・HCl 191.4mg
(0.998mmol) のジクロロメタン溶液2mLを加えて徐々に室温としながら7時間撹拌した。さらに反応液を氷冷し、追加操作としてジクロフェナク91.9mg
(0.310mmol) のジクロロメタン溶液1mL、DMAP 7.5mg (0.061mmol)、WSCI・HCl 70.9mg (0.370mmol) のジクロロメタン溶液1mLを順次加え徐々に室温としながら撹拌した。この追加操作を計5回行った。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液で2回、5%重曹水で2回、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、標記化合物を280.2mg
(80%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
1H-NMR (500MHz,CDCl3)δ(ppm)=1.44(9H, s, Boc), 1.85(2H,
quant, -NHCH2CH2CH2O-), 3.16(2H, q, -NHCH2CH2CH2O-),
3.82(2H, s, Ph-CH2-CO), 4.22(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),
4.68(1H, s, NH), 6.54-7.35(8H, m, Aromatic H, NH)
【0166】
2)アミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩の合成
上記で得たBoc-アミノプロパノール-ジクロフェナク1019mgをジクロロメタン2mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル8mLを加えて3時間撹拌した。ジエチルエーテル150mLを加えて沈殿させ、沈殿を減圧乾燥した。標記化合物を791mg
(90%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0167】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)=2.13(2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
3.08(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),3.84(2H, s,
Ph-CH2-CO), 4.25(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),
6.52-7.33(8H, m, Aromatic H, NH)
【0168】
(実施例19)アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸500mg (1.25mmol/二糖単位)を水56.3mL/ジオキサン56.3mLに溶解させた後、HOSu
(1mmol)/水0.5mL、WSCI・HCl (0.5mmol)/水0.5mL、上記実施例18で得られたアミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩
(0.5mmol)/(水:ジオキサン=1:1、5mL)を順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液7.5mLを加え、3時間40分撹拌した。反応液に50%酢酸215μLを加え中和後、塩化ナトリウム2.5gを加えて撹拌した。エタノール400mlを加えて沈殿させ、沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。541mgの白色固体を得た。分光光度計によるジクロフェナクの導入率は18.2%だった。
【0169】
(実施例20)アミノプロパノール−エトドラク塩酸塩の合成
1)Boc-アミノプロパノール-エトドラクの合成
Boc-アミノプロパノール178.8mg (1.02mmol)、エトドラク293.8mg (1.02mmol)(和光純薬工業株式会社製)、DMAP
23.8mg (0.20mmol) をジクロロメタン4mLに溶解し、氷冷下でWSCI・HCl 233.8mg (1.22mmol)のジクロロメタン溶液2mLを加えて徐々に室温としながら一昼夜撹拌した。さらに氷冷下でWSCI・HCl
68.8mg (0.36mmol) のジクロロメタン溶液2mLを加えて徐々に室温としながら80分間撹拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液で2回、5%重曹水で2回、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、標記化合物を436.3mg
(96%)得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0170】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)=0.83(3H, t, -CH2CH3),
1.37(3H, t, -CH2CH3), 1.43(9H, s, Boc), 1.79(2H,
quant, -NHCH2CH2CH2O-), 3.14(2H, q, -NHCH2CH2CH2O-),
4.10-4.22(2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
4.63(1H, s, NH), 7.00-7.37(3H, m, Aromatic H), 8.97(1H, s, NH)
【0171】
2)アミノプロパノール-エトドラク塩酸塩の合成
上記で得たBoc-アミノプロパノール-エトドラク421.5mg (0.948mmol) をジクロロメタン1mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル3mLを加えて3時間撹拌した。ジエチルエーテル、ヘキサンを加えて沈殿させ、沈殿を減圧乾燥した。沈殿をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、標記化合物を197.6mg
(55%)得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0172】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)=0.81(3H, t, -CH2CH3),
1.35(3H, t, -CH2CH3), 1.92-2.17(4H, m, -CH2CH3,
-NHCH2CH2CH2O-), 4.12(1H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
4.20(1H, quant, -NHCH2CH2CH2O-), 6.99-7.35(3H,
m, Aromatic H), 8.99(1H, s, NH)
【0173】
(実施例21)アミノプロパノール−エトドラク導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸114mg (0.285mmol/二糖単位)を水12.8mL/ジオキサン12.8mLに溶解させた後、HOSu
(0.228mmol)/水0.1mL、WSCI・HCl (0.114mmol)/水0.1mL、実施例20で得られたアミノプロパノール−エトドラク塩酸塩
(0.114mmol)/(水:ジオキサン=1:1、2mL)を順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.71mLを加え、4時間半撹拌した。反応液に50%酢酸49μLを加え中和後、塩化ナトリウム456mgを加えて撹拌した。エタノール110mlを加えて沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。111mgの白色固体を得た。HPLCによるエトドラクの導入率は14.4%だった。
【0174】
(実施例22)アミノプロパノール−アクタリット塩酸塩の合成
1)Boc-アミノプロパノール-アクタリットの合成
参考例1で得られたBoc-アミノプロパノール123.1mg (0.703mmol)、をジクロロメタン2mLに溶解し、アクタリット136.0mg
(0.704mmol) のDMF溶液(1mL)を加え、氷冷下でDMAP 17.1mg (0.140mmol)、WSCI・HCl 175.4mg
(0.915mmol) を順次加えて徐々に室温としながら一昼夜撹拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%重曹水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、標記化合物を203.1mg
(83%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0175】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)=1.44(9H, s, Boc), 1.80(2H,
quant, -NHCH2CH2CH2O-), 2.18(3H, s,
NAc), 3.14(2H, q, -NHCH2CH2CH2O-),
3.59(2H, s, Ph-CH2-CO), 4.15(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),
4.66(1H, s, NH), 7.13(1H, s, NH), 7.23(2H, d, Aromatic H), 7.46(2H, d, Aromatic
H)
【0176】
なお、アクタリトは、下記合成法にて調製した。
p-アミノフェニル酢酸(和光純薬工業株式会社製)(1.02mmol)をジクロロメタン−メタノール−水(1:3:1、50ml)に溶解し、氷冷下で無水酢酸(2.12mmol)を加えて徐々に室温としながら一昼夜撹拌した。溶媒を減圧留去し、標記化合物(196.4mg、収率99%)を得た。構造は1H-NMRにて同定した。
1H-NMR (500MHz,CD3OD) d(ppm)=2.11(3H, s, Ac), 3.55(2H, s,
Ph-CH2-), 7.21-7.49 (4H, m, Aromatic H)
【0177】
2)アミノプロパノール-アクタリト塩酸塩の合成
上記で得たBoc-アミノプロパノール-アクタリット201.3mg (0.574mmol) をジクロロメタン2mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル3mLを加えて3時間撹拌した。ジエチルエーテルを加えて沈殿させ、沈殿をジエチルエーテルで2回洗浄後、減圧乾燥し、標記化合物を161.3mg
(98%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0178】
1H-NMR (500MHz,CD3OD) δ(ppm)=1.94-1.99(2H, m, -NHCH2CH2CH2O-),
2.11(3H, s, NAc), 2.94(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),
3.63(2H, s, Ph-CH2-CO), 4.19(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),
7.22-7.51(4H, m, Aromatic H)
【0179】
(実施例23)アミノプロパノール−アクタリト導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸100mg (0.25mmol/二糖単位)を水11.25mL/ジオキサン11.25mLに溶解させた後、HOSu
(0.2mmol)/水0.1mL、WSCI・HCl (0.1mmol)/水0.1mL、実施例22で得られたアミノプロパノール−アクタリト塩酸塩
(0.1mmol)/(水:ジオキサン=1:1、2mL)を順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mLを加え、3時間撹拌した。反応液に50%酢酸43μLを加え中和後、塩化ナトリウム400mgを加えて撹拌した。エタノール100mlを加えて沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。97mgの白色固体を得た。HPLCによるアクタリトの導入率は13.2%だった。
【0180】
(実施例24)アミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム200mg (0.5mmol/二糖単位) を水23mL/ジオキサン23mLに溶解させた後、HOSu水溶液0.3mmol/2mL、WSCl・HCl水溶液0.15mmol/2mL、実施例1で得られたアミノプロパノール−ケトプロフェン塩酸塩水溶液1.5mmol/2mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液を11.5mL採取し、塩化ナトリウム100mgを加え攪拌した。エタノール50mLを加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。35mgの白色個体を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は7.2%であった。
得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「C」であった。
【0181】
(参考例2)Boc−セリノールの合成
セリノール (10.1mmol) (Aldrich Chem. Co.製)を水−ジオキサン (1:1、20ml) に溶解し、氷冷下でBoc2O
(10.8mmol) のジオキサン溶液 (15ml) を加え、室温に戻して一昼夜撹拌した。溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサンにて洗浄後減圧乾燥し、標記化合物
(1847mg、収率95%) を得た。構造は1H-NMRにて同定した。
1H-NMR (500MHz, CD3OD) δ(ppm) = 1.44 (9H, s, Boc),
3.57-3.58 (5H, m, Serinol)
【0182】
(実施例25)セリノール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−セリノール−ケトプロフェンの合成
ケトプロフェン (1.11mmol) (東京化成工業株式会社製)をジクロロメタン (3ml) に溶解し、トリエチルアミン (1.11mmol)、塩化ジメチルホスフィノチオイル
(Mpt-Cl) (1.11mmol) のジクロロメタン溶液 (2ml) を順次加えて25分間撹拌した。さらにトリエチルアミン (0.36mmol) を加えて20分間撹拌した。反応液を氷冷し、トリエチルアミン
(1.11mmol)、DMAP (0.19mmol)、参考例2で得たBoc−セリノール (0.50mmol) を順次加え、室温に戻して一昼夜撹拌した。反応液を再び氷冷し、25%アンモニア水
(2ml)、ジオキサン (10ml) を順次加えて20分間撹拌した。反応液を5mlに濃縮し、酢酸エチルを加えた。水、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次、分液洗浄し、硫酸ナトリウムにて脱水乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=2:1、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (287.3mg、収率87%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0183】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.38-1.40 (9H, m, Boc),
1.51-1.53 (6H, m, -OCOCH(CH3)-), 3.76-3.81 (2H, m, -OCOCH(CH3)-),
3.96-4.11 (4H, m, -CH2CH(NHBoc)CH2-), 4.61
(1H, btd, -CH2CH(NHBoc)CH2-), 7.40-7.80 (18H, m,
Aromatic)
【0184】
2) セリノール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
Boc−セリノール−ケトプロフェン (0.428mmol) をジクロロメタン (1ml) に溶解し、氷冷下で4N塩酸/酢酸エチル (4ml) を加え、その後徐々に室温として2時間撹拌した。Boc−セリノール−ケトプロフェンの消失をTLCで確認した後、ジエチルエーテル、ヘキサンを加え、析出した沈殿を遠心分離した。得られた沈殿を減圧乾燥し、標記化合物
(243.6mg、qu.) を得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0185】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.49 (6H, t, -OCOCH(CH3)-),
3.79 (1H, m, -CH2CH(NHBoc)CH2-), 4.00-4.53 (6H, m,
Serinol, Ketoprofen), 7.31-7.80 (18H, m, Aromatic)
【0186】
(実施例26)セリノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (100mg)0.25mmol/二糖単位を水−ジオキサン (1:1、22.5ml) に溶解し、2mol/L HOSu
(0.1ml)、1mol/L WSCI・HCl (0.1ml)、実施例25で得られたセリノール−ケトプロフェン塩酸塩 (0.10mmol) のジオキサン溶液
(2ml) を加えて一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (1.5ml) を加えて4時間撹拌した。50%酢酸水溶液 (43μl) を加えて中和し、塩化ナトリウム
(0.4g) を加えて撹拌した。エタノール (100ml) を加えて撹拌し、生じた沈殿を遠心分離した。得られた沈殿を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて各2回順次洗浄した。減圧乾燥し、標記化合物
(92.3mg) を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は11.2%であった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0187】
(実施例27)2−アミノ−1,5−ペンタンジオール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノ−1,5−ペンタンジオール−ケトプロフェンの合成
Boc−アミノ−1,5−ペンタンジオール (Boc-NHCH(CH2OH)CH2CH2CH2OH、Aldrich
Chem. Co.製) (1.98mmol) をジクロロメタン (2ml) に溶解し、ケトプロフェン (3.96mmol) (東京化成工業株式会社製)のジクロロメタン溶液
(4ml)、DMAP (0.791mmol) のジクロロメタン溶液 (1ml) を順次加え撹拌した。反応液を氷冷し、WSCI・HCl (4.93mmol) のジクロロメタン溶液
(5ml) を加えて徐々に室温としながら一昼夜撹拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次洗浄し、硫酸ナトリウムにて脱水乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=5:2、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (1.361g、収率99%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0188】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.39-1.40 (9H, m, Boc),
1.51-1.55 (6H, m, -OCOCH(CH3)-), 3.75-4.55 (8H, m,
Ketoprofen, 2-amino-1,5-pentanediol), 7.40-7.80 (18H, m, Aromatic)
【0189】
2) 2−アミノ−1,5−ペンタンジオール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノ−1,5−ペンタンジオール−ケトプロフェン (1.95mmol) をジクロロメタン (1ml) に溶解し、氷冷下で4N塩酸/酢酸エチル
(4ml) を加え、その後徐々に室温として3時間撹拌した。反応液にヘキサンを加え、析出した白色沈殿を遠心分離した。得られた沈殿を減圧乾燥し、標記化合物
(1.20g、収率98%) を得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0190】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.50 (3H, d, -OCOCH(CH3)-),
1.51 (3H, d, -OCOCH(CH3)-), 3.47 (1H, bd,
2-amino-1,5-pentanediol), 3.44-4.48 (6H, m, Ketoprofen, 2-amino-1,5-pentanediol),
7.33-7.84 (18H, m, Aromatic)
【0191】
(実施例28)2−アミノ−1,5−ペンタンジオール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (137mg) 0.34mmol/二糖単位を水−ジオキサン (1:1、30.8ml) に溶解させた後、2mol/L
HOSu (0.137ml)、1mol/L WSCI・HCl (0.137ml)、実施例27で得られた2-アミノ−1,5−ペンタンジオール−ケトプロフェン塩酸塩
(0.137mmol) の水−ジオキサン (1:1) 溶液 (4ml) を順次加えて一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (2.1ml) を加えて5時間撹拌した。50%酢酸水溶液
(59μl) を加えて中和後、塩化ナトリウム (0.548g) を加えて撹拌した。エタノール (140ml) を加えて撹拌し、生じた沈殿を遠心分離した。
得られた沈殿を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて洗浄した。減圧乾燥し、標記化合物 (135.1mg) を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は18.5%であった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0192】
(実施例29)3−アミノ−1, 2−プロパンジオール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−アミノ−1, 2−プロパンジオール−ケトプロフェンの合成
Boc−アミノ−1, 2−プロパンジオール (Boc-NHCH2CH(OH)CH2OH、Aldrich
Chem. Co.製) (2.05mmol) をジクロロメタン (2ml) に溶解し、ケトプロフェン (4.11mmol)(東京化成工業株式会社製)のジクロロメタン溶液
(4ml)、DMAP (0.803mmol) のジクロロメタン溶液 (1ml) を順次加え撹拌した。反応液を氷冷し、WSCI・HCl (4.94mmol) のジクロロメタン溶液
(5ml) を加えて徐々に室温としながら一昼夜撹拌した。反応液を氷冷し、WSCI・HCl (1.24mmol) のジクロロメタン溶液 (1ml) を加えて室温にて1時間、35℃にて2時間撹拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて順次洗浄した。硫酸ナトリウムにて脱水乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=2:1、0.5%トリエチルアミン) にて精製し、標記化合物 (1.175g、収率87%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0193】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.36-1.40 (9H, m, Boc),
1.42-1.53 (6H, m, -OCOCH(CH3)-), 3.10-3.30 (2H, m, BocNHCH2-),
3.65-3.82 (2H, m, -OCOCH(CH3)-), 3.99-4.36 (2H, m, BocNHCH2(CHO-)CH2O-),
4.49-4.76 (1H, m, BocNH-), 5.04-5.09 (1H, m, BocNHCH2(CHO-)CH2O-),
7.38-7.80 (18H, m, Aromatic)
【0194】
2) 3−アミノ−1, 2−プロパンジオール−ケトプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−アミノ−1, 2−プロパンジオール−ケトプロフェン (1.76mmol) をジクロロメタン (1ml) に溶解し、氷冷下で4N塩酸/酢酸エチル
(4ml) を加え、3時間撹拌した。反応液にヘキサンを加え、析出した白色沈殿を減圧乾燥し、標記化合物 (1.029g、収率97%) を得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.33-1.49 (6H, m,
-OCOCH(CH3)-), 3.02-3.20 (m, 2H, H2NCH2(CHO-)CH2O-),
3.56-3.82 (1H, m, -OCOCH(CH3)-), 3.90-4.15 (2H, m, H2NCH2(CHO-)CH2O-,
-OCOCH(CH3)-), 4.18-4.50 (1H, m, H2NCH2CH(O-)CH2O-),
5.35-5.37 (1H, m, H2NCH2CH(O-)CH2O-),
7.30-7.80 (18H, m, Aromatic)
【0195】
(実施例30)3−アミノ−1, 2−プロパンジオール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸 (200mg)0.5mmol/二糖単位を水−ジオキサン (1:1、45ml) に溶解し、2mol/L HOSu
(0.25ml)、1mol/L WSCI (0.25ml)、実施例29で得られた3−アミノ−1, 2−プロパンジオール−ケトプロフェン塩酸塩
(0.20mmol) の水−ジオキサン (1:1) 溶液 (4ml) を順次加えて一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (3ml) を加えて4時間撹拌した。50%酢酸水溶液
(86μl) を加えて中和し、塩化ナトリウム (0.8g) を加えて撹拌した。エタノール (200ml) を加えて撹拌し、生じた沈殿を遠心分離した。得られた沈殿を80%エタノール水溶液、エタノール、ジエチルエーテルにて洗浄した。沈殿を減圧乾燥し、標記化合物
(217.4mg) を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は40.3%であった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0196】
(参考例3)Boc-トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの合成
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(10.1mmol)を水−ジオキサン(1:2、30ml)に溶解し、Boc2O(10.8mmol)の水−ジオキサン溶液(1:9、10ml)を加え、室温で45分間、40℃で70分間撹拌した。Boc2O(5.41mmol)のジオキサン溶液(3ml)を加え徐々に室温としながら一昼夜撹拌した。溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサンにて洗浄後減圧乾燥し、標記化合物(2.21g、収率99%)を得た。構造は1H-NMRにて同定した。
1H-NMR (500MHz,CD3OD)d(ppm)=1.44(9H,s,Boc),3.68(6H,s,-C(CH2OH)3)
【0197】
(実施例31)トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェンの合成
ケトプロフェン419mg (1.65mmol) (東京化成工業株式会社製)をジクロロメタン3mLを溶解し、氷冷下でトリエチルアミン230μL
(1.65mmol)、Mpt-Cl 213mg (1.65mmol)/ジクロロメタン2mLを順次加え、10分間攪拌した。トリエチルアミン230μL
(1.65mmol)、DMAP 33mg (0.27mmol)、参考例3で得たBoc−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン (Boc-NHC(CH2OH)3)
110mg (0.5mmol) を順次加え、室温に戻し、一昼夜攪拌した。アンモニア水2mLを加え、ジクロロメタンとアンモニア水が均一になるまでジオキサンを加え40分間攪拌した。ジクロロメタンを減圧留去し、酢酸エチルを加え、5%クエン酸で2回、水、5%重曹で2回、水、飽和食塩水で順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー
(ジクロロメタン:メタノール=100:1→75:1) に精製した。標記化合物を定量的に467mg得た。構造は1H-NMR (CDCl3)
にて同定し、Boc−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン1分子に対しケトプロフェン3分子が導入されていることを確認した。
【0198】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.29 (9H, s, Boc),
1.44-1.54 (3H×3, m, -OCOCH(CH3)-), 3.76 (1H×3, q, -OCOCH(CH3)-),
4.04-4.27 (6H, m, -NHC(CH2O-KP)3), 4.81 (1H, br, -NH-),
7.37-7.85 (9H×3, m, Aromatic H)
【0199】
2) トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン453mg (0.49mmol) をジクロロメタン1mL溶解に氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル3mLを加え、氷冷下で30分間、室温で1時間30分攪拌した。Boc−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェンの消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテル、ヘキサンを加え、デカンテーションした。その後、減圧乾燥し標記物質を収量411mg
(97%) で得た。構造は1H-NMR (CDCl3) にて同定した。
【0200】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.39-1.50 (3H×3, m,
-OCOCH(CH3)-), 3.96 (1H×3, q, -OCOCH(CH3)-),
4.09-4.46 (6H, m, -NHC(CH2O-KP)3), 7.25-7.80
(9H×3, m, Aromatic H), 9.31 (br, H3N+CH2-)
【0201】
(実施例32)グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン塩酸塩の合成
1) Boc−グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェンの合成
Boc−グリシン133mg (0.76mmol) をクロロホルム1mLに溶解し、氷冷下でトリエチルアミン106μL (0.76mmol)、Mpt-Cl
98mg (0.76mmol)/クロロホルム1mLを加え10分間攪拌した。その後、実施例31で得られたトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン塩酸塩433mg
(0.5mmol)/トリエチルアミン70μL (0.5mmol)/クロロホルム2mL、トリエチルアミン106μL (0.76mmol) を4回に分け徐々に加えた。室温で1時間攪拌後、更に氷冷下でトリエチルアミン106μL
(0.76mmol) を加え、Boc−グリシン131mg (0.75mmol) をクロロホルム1mLで溶解し、氷冷下でトリエチルアミン105μL
(0.75mmol)、Mpt-Cl 95mg (0.75mmol)/クロロホルム1mLを加え活性化したBoc−グリシンの混合酸無水物を加え、室温で一昼夜攪拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸で2回、水、5%重曹で2回、水、飽和食塩水で順次、分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、酢酸エチルを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー
(ヘキサン:酢酸エチル=3:2) に精製した。標記化合物を411mg (収率55%) 得た。構造は1H-NMR (CDCl3)
にて同定した。
【0202】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.43 (9H, s, Boc),
1.45-1.52 (3H×3, m, -OCOCH(CH3)-), 3.56 (2H, br, -NHCH2CO-),
3.76 (1H×3, q, -OCOCH(CH3)-), 3.98-4.28 (6H, m, -NHC(CH2O-KP)3),
5.51 (1H, br, -NHCH2CO-), 6.63 (1H, br, -NHC(CH2O-KP)3),
7.34-7.83 (9H×3, m, Aromatic H)
【0203】
2) グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン塩酸塩の合成
上記で得たBoc−グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン361mg (0.37mmol) に氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル2mLを加え、室温で2時間攪拌した。Boc−グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェンの消失をTLCにて確認した後、ジエチルエーテル、ヘキサンを加え、デカンテーションした。その後、減圧乾燥し標記物質を定量的に収量336mgで得た。構造は1H-NMR
(CDCl3) にて同定した。
【0204】
1H-NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm) = 1.40 (3H×3, m, -OCOCH(CH3)-),
3.68-4.24 (11H, m, 2H; -NHCH2CO-, 1H×3; -OCOCH(CH3)-,
6H; -NHC(CH2O-KP)3), 7.27-7.82 (9H×3, m, Aromatic
H), 8.31 (br, H3N+CH2-)
【0205】
(実施例33)グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸の合成
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム100mg (0.25mmol/二糖単位) を水11.5mL/ジオキサン11.5mLに溶解させた後、2mol/L
HOSu/水0.1mL、1mol/L WSCI・HCl/水0.1mL、実施例32で得られたグリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−ケトプロフェン塩酸塩93mg
(0.1mmol)/ジオキサン3mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mLを加え、4時間45分攪拌した。反応液に50%酢酸43μLを加え中和後、塩化ナトリウム400mgを加え攪拌した。エタノール100mLを加え沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。95mgの白色固体を得た。HPLCによるケトプロフェンの導入率は39%だった。得られた物質を濃度1.0重量%となるようにPBSに溶解し、溶液を作製した。当該溶液は無色透明な液であり、フィルター通過性試験は「A」であった。
【0206】
(参考例4)Boc-アミノプロピルブロマイドの合成
3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩1.222g(5.58mmol)をジクロロメタン20mLに溶解し、氷冷下でトリエチルアミン0.778mL(5.58mmol)を加え、さらにBoc2O
1.214g (5.56mmol) のジクロロメタン溶液50mLを10分間で滴下し撹拌した。室温で50分間撹拌した後、酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。標記化合物1.304(98%)を得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0207】
1H-NMR (500MHz,CDCl3)δ(ppm)=1.44(9H, s, Boc), 2.05(2H,
quant, -NHCH2CH2CH2Br), 3.28(2H, q, -NHCH2CH2CH2Br),
3.44(2H, t, -NHCH2CH2CH2Br), 4.64(1H,
s, NH)
【0208】
(実施例34)アミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩の合成
(1)Boc-アミノプロパノール-ジクロフェナク
ジクロフェナクナトリウム1.476g (4.64mmol) をDMF3mLに溶解し、氷冷下で参考例6で得られたBoc−アミノプロピルブロマイド1.105g
(4.64mmol) のDMF溶液7mLを滴下した。室温で一晩撹拌後、60℃で10時間撹拌した。室温で一晩撹拌後、60℃で9時間、さらに室温で3日間撹拌した。酢酸エチルを加え、5%重曹水、水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:1、0.5%トリエチルアミン)で精製し、標記化合物を1.702g
(81%) 得た。
【0209】
(2)アミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩
上記で得たBoc-アミノプロパノール-ジクロフェナク1019mg (2.25mmol) をジクロロメタン2mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル8mLを加えて3時間撹拌した。ジエチルエーテル150mLを加えて沈殿させ、沈殿を減圧乾燥した。標記化合物を791mg
(90%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0210】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)=2.13(2H, quant, -NHCH2CH2CH2O-),
3.08(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),3.84(2H, s,
Ph-CH2-CO), 4.25(2H, t, -NHCH2CH2CH2O-),
6.52-7.33(8H, m, Aromatic H, NH)
【0211】
(実施例35)アミノプロパノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム(DS4.3%)の合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸500mg (1.25mmol/二糖単位)を水57.5mL/ジオキサン57.5mLに溶解させた後、0.33M・HOSu/水0.75mL、0.16M・WSCI・HCl/水0.75mL、上記実施例34で得られた0.16Mアミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩/水0.75mLを順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に炭酸水素ナトリウム375mg/水3mLを加え、4時間撹拌した。反応液に酢酸108μLを加え中和後、塩化ナトリウム3.0gを加えて撹拌した。エタノール200mlを加えて沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。505mgの白色固体を得た。分光光度計によるジクロフェナクの導入率は4.3%だった。
【0212】
(実施例36)アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム(DS9.7%)の合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸500mg (1.25mmol/二糖単位)を水57.5mL/ジオキサン57.5mLに溶解させた後、0.5M・HOSu/(水:ジオキサン=1:1)1.0mL、0.25M・WSCI・HCl/(水:ジオキサン=1:1)1.0mL、上記実施例34で得られた0.25Mアミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩/(水:ジオキサン=1:1)1.0mLを順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に炭酸水素ナトリウム380mg/水5mLを加え、4時間撹拌した。反応液に酢酸108μLを加え中和後、塩化ナトリウム3.0gを加えて撹拌した。エタノール200mlを加えて沈殿させ、沈殿物を80%エタノールで3回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。503mgの白色固体を得た。分光光度計によるジクロフェナクの導入率は9.7%だった。
【0213】
(実施例37)平均分子量65kDaのヒアルロン酸を用いたアミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(65kDa)ナトリウム(DS17.1%)の合成
平均分子量65kDaのヒアルロン酸200.8mg (0.50mmol/二糖単位)を水22.5mL/ジオキサン22.5mLに溶解させた後、1M・HOSu
0.4mL、0.5M・WSCI・HCl 0.4mL、上記実施例34で得られた0.1Mアミノプロパノール−ジクロフェナク塩酸塩 /(水:ジオキサン=1:1)2.0mLを順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液3mLを加え、3時間撹拌した。反応液に50%酢酸86μLを加え中和後、塩化ナトリウム1.0gを加えて撹拌した。エタノール200mlを加えて沈殿させ、沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。190.5mgの白色固体を得た。分光光度計によるジクロフェナクの導入率は17.1%だった。
【0214】
(参考例5)Boc-アミノエチルブロマイド
3−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩2.155g(10.5mmol)をジクロロメタン20mLに溶解し、氷冷下でトリエチルアミン1.463mL(10.5mmol)を加え、さらにBoc2O
2.299g (10.5mmol) のジクロロメタン溶液5mLを加え撹拌した。室温で90分間撹拌した後、酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。標記化合物2.287g(97%)を得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0215】
1H-NMR (500MHz,CDCl3)δ(ppm)=1.45(9H, s, Boc),
3.45-3.55(4H, m, -NHCH2CH2Br), 4.93(1H, s, NH)
【0216】
(実施例38)アミノエタノール−ジクロフェナク塩酸塩の合成
(1)Boc-アミノエタノール-ジクロフェナク
参考例5で得られたBoc−アミノエチルブロマイド2.287g (10.2mmol) のDMF溶液 5mLを氷冷し、ジクロフェナクナトリウム3.255g
(10.2mmol) のDMF溶液 6mLを加え、室温で一晩撹拌した。60℃で11時間撹拌し、室温で一晩撹拌した。酢酸エチルを加え、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=20:1、0.5%トリエチルアミン)で精製し、標記化合物を2.675g
(60%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0217】
1H-NMR (500MHz,CDCl3)δ(ppm)=1.42(9H, s, Boc), 3.41(2H, d,
-NHCH2CH2O-), 3.83(2H, s, Ph-CH2-CO),
4.21(2H, t, -NHCH2CH2O-), 4.72(1H, s, NH),
6.54-7.47(8H, m, Aromatic H, NH)
【0218】
(2)アミノエタノール−ジクロフェナク塩酸塩
上記で得られたBoc-アミノエタノール-ジクロフェナク2.108g (4.80mmol) をジクロロメタン5mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル20mLを加えて2.5時間撹拌した。ジエチルエーテル、ヘキサンを加えて沈殿させ、沈殿を減圧乾燥した。標記化合物を1.775g
(98%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0219】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)=3.18(2H, t, NH2CH2CH2O-),
3.94(2H, s, Ph-CH2-CO), 4.37(2H, t, NH2CH2CH2O-),
6.47-7.31(8H, m, Aromatic H, NH)
【0220】
(実施例39)アミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム(DS14.7%)の合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸500mg (1.25mmol/二糖単位)を水57.5mL/ジオキサン57.5mLに溶解させた後、2M・HOSu
0.5mL、1M・WSCI・HCl 0.5mL、実施例38で得られたアミノエタノール−ジクロフェナク塩酸塩 188.6mg (0.5mmol) の溶液(水:ジオキサン=1:1)3mLを順次加え、一昼夜撹拌した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液7.5mLを加え、4時間撹拌した。反応液に50%酢酸215μLを加え中和後、塩化ナトリウム2.5gを加えて撹拌した。エタノール500mlを加えて沈殿させ、沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。473.7mgの白色固体を得た。分光光度計によるジクロフェナクの導入率は14.7%だった。
【0221】
(実施例40)ジアミノプロパン−ジクロフェナク塩酸塩の合成
(1)Boc-プロピルアミド-ジクロフェナク
N-(2-アミノプロピル)カルバミン酸tert-ブチル 338.4mg (1.94mmol、東京化成工業株式会社製)、ジクロフェナク694.4mg
(2.34mmol) をジクロロメタン3mLに溶解し、氷冷下でDMAP 59.0mg (0.483mmol)、WSCI・HCl 505.3mg
(2.64mmol) を加えて70分間撹拌し、室温としながら90分間撹拌した。酢酸エチルを加え、5%クエン酸水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、標記化合物を835.5g
(95%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0222】
1H-NMR (500MHz,CDCl3)δ(ppm)=1.45(9H, s, Boc), 1.60(2H,
quant, -NHCH2CH2CH2NHBoc), 3.14(2H, q,
-NHCH2CH2CH2NHBoc), 3.31(2H, q, -NHCH2CH2CH2NHBoc),
3.69(2H, s, Ph-CH2-CO), 4.93(1H, s, NH),6.50-7.60(9H, m,
Aromatic H, NH)
【0223】
(2)ジアミノプロパン−ジクロフェナク塩酸塩
上記で得られたBoc-プロピルアミド-ジクロフェナク825.0mg (1.82mmol) のジクロロメタン溶液1mLに氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル20mLを加えて2時間撹拌した。ジエチルエーテルを加えて沈殿させ、沈殿を減圧乾燥した。標記化合物を714.5mg
(101%) 得た。構造は1H-NMRにて同定した。
【0224】
1H-NMR (500MHz,CDCl3) δ(ppm)= 1.90(2H, t, -NHCH2CH2CH2NH2),
2.99(2H, t, -NHCH2CH2CH2NH2),
3.26(2H, d, -NHCH2CH2CH2NH2),
3.71(2H, s, Ph-CH2-CO), 6.40-7.49(8H, m, Aromatic H, NH)
【0225】
(実施例41)ジアミノプロパン−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム(DS18.1%)の合成
重量平均分子量80万のヒアルロン酸200mg (0.5mmol/二糖単位)を水22.5mL/ジオキサン22.5mLに溶解させた後、2M・HOSu 0.2mL、1M・WSCI・HCl
0.2mL、実施例40で得られたジアミノプロパン−ジクロフェナク塩酸塩 78.4mg (0.2mmol) の溶液(水:ジオキサン=1:1)1mLを順次加え、一昼夜撹拌した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液3mLを加え、4時間撹拌した。反応液に50%酢酸86μLを加え中和後、塩化ナトリウム1gを加えて撹拌した。エタノール200mlを加えて沈殿させ、沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。206.2mgの白色固体を得た。分光光度計によるジクロフェナクの導入率は18.1%だった。
【0226】
(実施例42)生物試験用1%アミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウム溶液の調製
実施例3で得られたアミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウム (導入率26.3%) 22mgに総量2.19gとなるように5mMリン酸緩衝生理的食塩水を加え、一晩攪拌し、1%溶液を調製した。溶液を0.45μmフィルターで濾過し、標記溶液とした。この溶液のエンドトキシン含量を日本薬局方掲載の一般試験法であるエンドトキシン試験法(比色法)で測定したところ、エンドトキシン値0.0073EU/Mlであった。
【0227】
<投与実験>
(実施例43)
ラットブラジキニン惹起疼痛モデルに対するアミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの効果
1) 被験物質の投与
全身麻酔剤として小動物用麻酔器 (TK-4、バイオマシナリー製) に充填したイソフルラン (フォーレン (登録商標)、大日本製薬株式会社製) の吸入麻酔 (濃度3.0%、流量2.0L/min)
を用いた。
PBS、1%のヒアルロン酸ナトリウム溶液 (HA)、PBSにケトプロフェンを溶解した3.7mg/mLのケトプロフェンナトリウム溶液 (KP)、及び、実施例42で調製した1%のアミノプロパノール-ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムのPBS溶液
(KP-HA) を被験物質として用いた。
ラット (Crj:SD系 (SPF)、雄性、7週齢) をエーテル麻酔下で背位固定し、左後肢膝関節周辺を広くバリカンで剃毛した。関節周囲を70%アルコールで噴霧消毒し、29Gインシュリン用針付きシリンジ
(テルモ製) を用いて上記各被験物質を20μL/jointの用量で左後肢膝関節腔内に投与した。各被験物質群毎5例 (n=5) にて実施した。
【0228】
2) 発痛物質 (BK+PGE2溶液) の投与
各被験物質投与1日後に、無麻酔下にて、ラットを背位固定し、関節周囲を70%アルコールで噴霧消毒した後、29Gインシュリン用針付きシリンジ (テルモ製、注射針の太さは0.33mm)
を用いて、左後肢膝関節腔内に発痛物質であるブラジキニン (BK) とプロスタグランジンE2 (PGE2) の混合溶液を50μL/関節の用量で投与した。なお、この発痛物質溶液は、BK及びPGE2各々終濃度4μg/mL、2μg/mLと成るように調製した。発痛物質投与直後より疼痛反応を肉眼観察した。
【0229】
3) 疼痛観察
発痛物質投与直後より、約2分間、歩行状態を足上げの有無、三足歩行、跛行程度を肉眼で観察し、スコア化した。疼痛スコアは、足上げ:1点加算、跛行あるいは三足歩行:1点加算とし、0〜2点の段階に評価した。なお、評価はブラインド下で実施した。各個体の疼痛反応をスコア化したグラフを図1に示す。
図1において、結果は、平均疼痛スコア±標準偏差によって示される。
結果、PBS投与群と比し、KP-HA>KP>HAの順で疼痛抑制効果が認められた。
【0230】
(実施例44)
ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するアミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウムの関節腔内投与による効果
1) 疼痛惹起物質の投与
全身麻酔剤として小動物用麻酔器 (TK-4、バイオマシナリー製) に充填したイソフルラン(フォーレン (登録商標)、大日本製薬株式会社製) の吸入麻酔 (濃度3.0%、流量2.0L/min)
を用いた。
ラット (Crj:SD系 (SPF)、雄性、6週齢) をエーテル麻酔下で背位固定し、左後肢膝関節周辺を広くバリカンで剃毛した。関節周囲を70%アルコールで噴霧消毒し、29Gインシュリン用針付きシリンジ
(テルモ製) を用いて、1%硝酸銀溶液を50μL/関節の用量で左後肢膝関節腔内に投与した。
【0231】
2) 被験物質の投与
各々PBSを溶媒とする、1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液 (HA) および実施例42で調製した1%アミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウム溶液
(KP-HA) を被験物質として作製した。1%硝酸銀溶液投与後24時間に、ラットを5匹ずつ2群に分け、各群に被験物質を投与した。投与方法は、疼痛惹起物質と同様、イソフルランによる吸入麻酔下、関節周囲を70%アルコールで噴霧消毒し、29Gインシュリン用針付きシリンジを用いて40μL/関節の用量で左後肢膝関節腔内に投与した(n=5)。
【0232】
3) 評価方法
歩行状態をブラインド下でスコア化した下記疼痛スコア表を用いて、各群の歩行状態を肉眼観察した。結果は図2に示す。
図2において、結果は、平均疼痛スコア±標準偏差によって示される。
スコア0:正常 (ほぼ正常を含む)
1:軽度の跛行
2:重度の跛行
3:三足歩行
【0233】
また、硝酸銀投与足 (左後肢) にかかる荷重を四肢荷重測定装置 ((有) トッケン社製) を用いて測定し、体重で除算したものを荷重負荷率として測定した (なお、荷重負荷率は正常時約32%であった)。被験物質投与後2日まで毎日1回測定した。結果は図3に示す。
図2よりHA投与群、KP-HA投与群共に疼痛スコアは徐々に軽減するが、KP-HA投与群は、HA投与群より疼痛軽減の度合い (疼痛よりの回復度) が速かった。また、荷重負荷率測定では通常疼痛から回復するほど荷重負荷率が高くなるが、図3の結果より、KP-HA投与群はHA投与群より荷重負荷率の値がより短い時間で有意に高くなった。図2と図3の結果におけるKP-HA群とHA群の相関関係は同じであった。
【0234】
(実施例45)ウサギ膝関節におけるNSAIDs導入ヒアルロン酸の徐放性の検討
1)被験物質の投与方法
実施例42で得た1%アミノプロパノール−ケトプロフェン導入ヒアルロン酸ナトリウム溶液(KP−HA)、1.42mgのケトプロフェンを1mLのPBSに溶解したケトプロフェン溶液(KP)及び1.41mgのケトプロフェンを1mLの1%
HA溶液に溶解したケトプロフェンとHAの混合溶液(KP+HA)を被験物質として用いた。
【0235】
各被験物質についてウサギを5匹ずつ用い、ケタミン全身麻酔下(1mL/head、i.v.)で背位固定し、左膝関節周辺を広くバリカンで剃毛し、25Gの注射針(テルモ製、注射針の太さは0.5mm)を装着したテルモ1m
Lシリンジにてウサギ膝外側から関節腔内に上記被験物質を各々300μL投与した。
被験物質投与から6時間、12時間、24時間、2日、4日後に剖検を実施した。
【0236】
2)関節液中の遊離型KP量及び結合型KP量の測定方法
ウサギをケタミン全身麻酔下で放血屠殺し、関節液を全量回収した後、分離した膝関節部の関節腔に25G注射針を用いて生理的食塩液2mL注入して関節腔内を洗浄し、この洗浄液も回収した。この洗浄は2回行った。回収した洗浄液を合わせた関節液中のKP量及びHA−KP量を下記手順にて測定した。
関節液(4 ml vol.)に1N HCl (0.2ml) を加えて塩酸酸性を確認した後、溶液と同体積の酢酸エチルを加えて激しく撹拌し、上部の有機層を回収した。この抽出操作を計3回行った。回収した有機層にアセトニトリル溶液を添加してアセトニトリル溶液とし、HPLCを用いて、遊離KP量を測定した。(関節液中の遊離型KP量)
【0237】
次いで、上記の抽出操作にて得られた水層に1N NaOHを加えて強塩基性とし、室温下1時間撹拌した。続いて、水層を氷冷し、4N HClをゆっくり加えながら撹拌して塩酸酸性とした後、溶液と同体積の酢酸エチルを加えて激しく撹拌し、上部の有機層を回収した。この抽出操作を計3回行った。回収した有機層にアセトニトリル溶液を添加してアセトニトリル溶液とし、HPLCを用いて、HA−KP量(結合型KP量)を測定した。(関節液中結合体HA−KP量)
【0238】
3)滑膜組織の消化液中のKP量の測定方法
上記(2)の関節液を回収した後の膝関節から滑膜組織を分離、採取した。採取した滑膜組織は生理的食塩液100mLで念入りに洗浄し、付着する関節液を完全に除去した。滑膜組織は膝蓋骨を取り除いた後、チューブに入れ、10mM酢酸ナトリウム溶液
(pH7.5) で2mg/mL濃度に調製したプロテアーゼK(Lot No.102K8633、SIGMA製)5mLを添加し、適宜ボルテックスで攪拌しながら、55℃で41時間酵素消化を行った。消化後、100℃、5分間で酵素を失活させ、得られた消化液中のKP量を下記手順にて測定した。
【0239】
得られた消化液に1/4量の4N NaOHを加え、室温下1時間撹拌した。続いて、溶液を氷冷し、4N HClを加えて塩酸酸性とした後、溶液と同体積のジエチルエーテルを加えて激しく撹拌し、上部有機層を除去した。この脱脂操作を計3回行った。氷冷下、脱脂操作後の溶液に4N
HClを加えて撹拌し、塩酸酸性を確認した後、溶液と同体積の酢酸エチルを加えて激しく撹拌し、上部有機層を回収した。この抽出操作を計3回行った。回収した有機層にアセトニトリル溶液を添加してアセトニトリル溶液とし、HPLCを用いて、遊離KP量を測定した。
【0240】
(滑膜組織消化液中の遊離型KP量)
関節液中、滑膜組織消化液中の継時的なKP及びHA−KPの残存率を算出した。(表1、図4)
【0241】
【表1】

【0242】
被験物質としてKP(単剤)あるいはKP+HA(混合物)を投与した場合には、6時間、12時間後には、関節液及び滑膜組織からKPは消失した。しかし、本発明物質であるKP−HA(結合体)を投与した場合には、4日後にも関節液及び滑膜組織共にKPの存在が認められており、投与部位においてKPが持続的に存在し、持続的効果を示すと推測される。
関節で起こる疼痛は無神経組織である軟骨ではなく、滑膜組織を介し発生すると推測されており、また、NSAIDsを関節腔内に投与すると、NSAIDsは滑膜へ速やかに移行し、滑膜に移行して作用を示すと考えられている。その為、滑膜中のNSAIDs濃度の維持は疼痛抑制の持続的効果や徐放的効果に大きく関与すると考られる。上記表より、KP(単剤)の投与では、6時間後には滑膜の通過や代謝により滑膜組織から消失しているが、KP−HA(結合体)を投与した場合には、滑膜組織にも持続的にKPが保持されており、NSAIDsの徐放性製剤として、より有効であることが示唆される。
【0243】
(実施例46)ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対する導入率(DS)の異なるアミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムの関節腔内投与による効果
上記実施例44の実験手順に準じ実験を行い、下記被験物質関する関節腔内投与について評価を行った。
被験物質:
(i) 実施例19で得られた1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム (DS18.2%) のPBS溶液
(ii) 実施例36で得られた1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム (DS9.7%) のPBS溶液
(iii) 実施例35で得られた1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム (DS4.3%) のPBS溶液
(iv) PBS
【0244】
上記実施例44と同様に、歩行状態をブラインド下でスコア化した疼痛スコア表を用いて、各群の歩行状態を肉眼観察した。結果は図5に示す。結果は、平均疼痛スコア±標準偏差によって示され、DS18%、DS10%及びDS4%が、それぞれDS18.2%、DS9.7%及びDS4.3%に対応する。また、図5において、*は危険率0.01<p<0.05でPBSに対して有意差があり、**は危険率p<0.01でPBSに対して有意差があることを示す。
結果より、被験物質であるDS18.2%、DS9.7%及びDS4.3%のジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム誘導体はいずれも、鎮痛効果を示した。中でもDS18.2%及びDS9.7%の被験物質はPBSと比して劇的に鎮痛効果を示した。
また、鎮痛効果は、ジクロフェナクの導入率(DS)の増加に依存的に向上した。
【0245】
(参考例6)ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するジクロフェナクナトリウムの経口投与による効果
上記実施例44に準じ実験を行い、被験物質の投与方法に関しては下記被験物質の経口投与を行い評価した。但し、被験物質の投与はラット用経口ゾンデ(フチガミ器械店)を用いて1mL/headの用量で経口投与した。
【0246】
被験物質:
(i) 1% ジクロフェナクナトリウム懸濁液(10%アラビアゴム)
(ii) 0.02% ジクロフェナクナトリウム懸濁液(10%アラビアゴム)
なお、(i)(高用量群)はジクロフェナクナトリウムとして50mg/kgの投与に値してており、(ii)(低用量群)はジクロフェナクナトリウムとして、ほぼ臨床投与量と同量である1mg/kgの投与に値している。
【0247】
上記実施例46と同様に、歩行状態をブラインド下でスコア化した疼痛スコア表を用いて、各群の歩行状態を肉眼観察した。結果は図6に示す。図6において、「Diclofenac
Na(p.o.) 50mg/kg」は上記(i)(高用量群)に、「Diclofenac Na(p.o.) 1mg/kg」は上記(ii)(低用量群)に対応する。なお、図6には、参考として上記実施例46で測定されたジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体
(DS18.2%) 及びPBSの関節腔内注入による疼痛スコアの結果もあわせて、それぞれ「Diclofenac-HA」、「PBS」として、記載した。
【0248】
結果より、ジクロフェナクナトリウムの高用量群(50mg/kg)の経口投与においては、疼痛抑制効果は認められたが、翌日から便潜血反応陽性、黄疸様症状、体重減少が認められた。高用量群の用量は、臨床投与量の数十倍の用量であり、副作用、毒性的に現実的な用量ではない。
【0249】
ほぼ臨床投与量である低用量群(1mg/kg)の経口投与群は、PBSの関節注入群と比較しても効果が認められなかった。
一方、ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の関節腔内投与では、投与後から疼痛抑制が見られており、また、ジクロフェナクナトリウムの高用量群(50mg/kg)の経口投与の様な副作用と思われる症状も観察されず、高い有用性が確認された。
【0250】
(参考例7)ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するジクロフェナク単剤、ヒアルロン酸の関節腔内投与による効果
上記実施例44に準じ実験を行い、被験物質の投与方法に関しては下記被験物質に関する関節腔内投与を行い評価した。
【0251】
被験物質:
(i) 0.1%ジクロフェナク溶液
(ii) 0.1%ジクロフェナク/1%ヒアルロン酸混合溶液
(iii) PBS
【0252】
上記実施例46と同様に、歩行状態をブラインド下でスコア化した疼痛スコア表を用いて、各群(n=9)の歩行状態を肉眼観察した。結果は図7に示す。図7において、結果は、平均疼痛スコア±標準偏差によって示され、0.1%Diclofenc
Naは上記(i)0.1%ジクロフェナク溶液に、「0.1%Diclo+HA」は上記(ii)0.1%ジクロフェナク/1%ヒアルロン酸混合溶液に対応する。なお、図7には、参考として上記実施例46で測定されたジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体(DS18.2%)の結果もあわせて、「Dic-HA(結合体)」として記載した。
結果より、ジクロフェナク単剤及びジクロフェナクとヒアルロン酸との混合物は、対照群であるPBSと比べ有意な効果は示さなかった。
【0253】
(実施例47)ラット1%硝酸銀惹起疼痛モデルに対するアミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(65kDa)ナトリウム、ジアミノプロパン−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム及びアミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムの関節腔内投与による効果
上記実施例44に準じ実施を行い、下記被験物質に関する関節腔内投与について評価した。
【0254】
被験物質:
(i) 実施例37で得られた1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(65kDa)ナトリウムのPBS溶液
(ii) 実施例41で得られた1%ジアミノプロパン−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムのPBS溶液
(iii) 実施例39で得られた1%アミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムのPBS溶液
(iv) PBS
【0255】
上記実施例44と同様に、歩行状態をブラインド下でスコア化した疼痛スコア表を用いて、各群(n=7)の歩行状態を肉眼観察した。結果は図8に示す。図8において、結果は、平均疼痛スコアによって示され、「65kDa」は上記(i)1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(65kDa)ナトリウムのPBS溶液に、「ジアミド」は上記(ii)1%ジアミノプロパン−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムのPBS溶液に、「C2」は上記(iii)1%アミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウムのPBS溶液に対応する。また、図8において、Dは危険率0.05<p<0.1でPBSに対して有意差があり、*は危険率0.01<p<0.05でPBSに対して有意差があり、**は危険率p<0.01でPBSに対して有意差があることを示す。
【0256】
結果より、スペーサー炭素数がアミノプロパノールより一つ少ないアミノエタノールを用いたアミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム溶液も高い鎮痛効果を示したが、ジクロフェナクがアミド結合により導入されたジアミノプロパン−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム溶液は、本実施例の実験系では全く効果を示さなかった。また、分子量65kDaのヒアルロン酸を用いたジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体は、分子量80万のものに比し、鎮痛効果は低減した。
これらよりジクロフェナクとの結合様式あるいは、ヒアルロン酸の分子量に鎮痛効果は依存することが明らかになった。
【0257】
(実施例48)COX-2に対するジクロフェナクナトリウム単剤、およびジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の作用(in vitro)
Chemiluminescent COX Inhibitor Screening Assay kit (Cayman)(羊由来のCOX-2によるPeroxidase活性を指標に阻害剤をスクリーニングするキット)を用いて下記被験物質についてCOX-2阻害作用を評価した。
【0258】
被験物質:
(i) 実施例19で得られたアミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(Dic-C3-HA)(200μg/ml HA相当,80μM Diclofenac相当)
(ii) 実施例39と同様の手順で得られたアミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(Dic-C2-HA、DS18.5%)(200μg/ml
HA相当,80μM Diclofenac相当)
(iii) 80μM ジクロフェナクナトリウム水溶液
(iv) 200μg/ml ヒアルロン酸ナトリウム(HA)水溶液
【0259】
上記各被験物質の原液、および蒸留水で10倍、100倍、1000倍希釈した被験物質を作製し、COX Inhibitor Screening Assay kit
にてCOX-2阻害活性を測定 (無処理群n=6、被験物質群n=3) した。結果は、無処理群のCOX-2酵素活性を100%とし、各処理群の酵素活性値を下記式により相対%で表記した。結果は図9(a)及び図9(b)に示す。図9(a)において、「Diclofenac
Na」は上記ジクロフェナクナトリウム水溶液に、「Dic-C3-HA」は上記アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム水溶液に、「Dic-C2-HA」は上記アミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム水溶液に対応する。図9(b)において、「HA」は上記200μg/mlヒアルロン酸ナトリウム水溶液に対応する。
酵素活性値(%)=被験物質処理群÷無処理群×100
【0260】
結果、ジクロフェナクナトリウム単剤が明らかなCOX-2阻害活性を示した濃度において、相当濃度のジクロフェナクを含むジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体(Dic-C3-HA及びDic-C2-HA)はCOX-2阻害活性を示さなかった。HA単剤も、COX-2阻害活性は示さなかった。この結果より、in
vivoでのジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の効果は、ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体そのものの作用ではなく、HAより遊離されるジクロフェナクに起因する可能性が示唆された。
in vivo(実施例46,47)でのジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の効果が、ジクロフェナク単体よりも優れている理由の一つとして、HAが、その細胞への親和性により、より多くの量のジクロフェナクを標的細胞内のCOX-2まで運ぶためであることが考えられる。
【0261】
(実施例49)ラットアジュバント関節炎(AIA)モデルに対するジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の作用
1)アジュバントの惹起
Mycobacterium butyricum (Lot No.2115687、Difco) 6mg/mLをオートクレーブで121℃、20分熱処理した後、29Gインシュリン用針付きシリンジ(テルモ)を用いて50μL/jointの用量で右後肢足蹠皮下に注射した。
【0262】
2)試験物質の投与
被験物質:
(i) 実施例19で得られた1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(DS18%)ナトリウムのPBS溶液(Diclofenac-HA)
(ii) PBS
上記被験物質はアジュバント注射時と同様に無麻酔下で29Gインシュリン用針付きシリンジ(テルモ)を用いて50μL/jointの用量で両足の脛骨−足根骨関節腔内にアジュバント注射直後、注射後1、2、3週に投与した(計4回)(n=14)。
【0263】
4)評価
アジュバント惹起前、惹起後3、5、7、10、12、14、21、28日に評価。
・体重
・両後肢足容積(ラット・マウス後肢足蹠浮腫容積測定装置(TK-101CMP、(有)ユニコム社製))
【0264】
5)結果
アジュバント投与足及び非投与足の膨張率を下記式により測定した。アジュバント投与足の膨張率の結果は図10(a)に、アジュバント非投与足の膨張率の結果は図10(b)に示す。図10において、「Diclofenac-Ha」は上記(i)1%アミノプロパノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸(DS18%)ナトリウムのPBS溶液を、「normal」はアジュバント及び被験物質非投与群を示す。図10において、Dは危険率0.05<p<0.1でPBSに対して有意差があり、*は危険率0.01<p<0.05でPBSに対して有意差があり、**は危険率p<0.01でPBSに対して有意差があることを示す。
【0265】
膨張率(%)=(測定日の足容積−アジュバント惹起前の足容積)
/アジュバント惹起前容積×100
【0266】
アジュバント惹起後3日から投与足(R)で浮腫が認められ始め、Diclofenac-HAは惹起後3、5、21日でPBS群と比較して統計学的有意に、7、26、28日では有意ではないものの足浮腫容積を抑制する作用を示した。その他の時点でも有意ではないもののいずれの時点でもDiclofenac-HA群が低値を示した。
【0267】
非投与足(L)は惹起後14日から明らかな腫脹(二次炎症)が認められた。この浮腫をDiclofenac-HAは惹起後14、26日で統計学的有意に抑制した。また、21、28日では有意ではないものの抑制傾向を示した。
なお、当該ラットアジュバント関節炎(AIA)モデルは自己免疫疾患による関節炎であるリウマチ性関節炎のモデルとして一般的に用いられおり、上記結果より本発明物質はリウマチ性関節炎への効果も期待される。
【0268】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱すること無く様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2004年1月7日出願の日本特許出願 (特願2004-2478) に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0269】
本発明により、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介しヒアルロン酸にNSAIDsが共有結合にて結合しているNSAIDs導入ヒアルロン酸誘導体、同様にDMARDが共有結合にて結合しているDMARD導入ヒアルロン酸誘導体、及び、それら誘導体を有効成分として含有する薬剤が提供される。NSAIDs導入ヒアルロン酸誘導体及びDMARD導入ヒアルロン酸誘導体は、注射剤等の溶媒として使用される緩衝液に良く溶解するため、患部に直接投与可能な注射剤として使用できる。また、本発明薬剤は、関節症の治療、炎症の抑制や疼痛の抑制に用いることができ、注入剤として非経口投与または局所投与(例えば、関節内投与)も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介し、ヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体。
【請求項2】
抗炎症化合物が、非ステロイド性抗炎症化合物及び疾患修飾性抗リウマチ化合物から選択される請求項1記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項3】
抗炎症化合物が、カルボキシル基を有している請求項1又は2記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項4】
抗炎症化合物が、サリチル酸、アスピリン、メフェナム酸、トルフェナム酸、フルフェナム酸、ジクロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、アセメタシン、アンフェナク、エトドラク、フェルビナク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、チアラミド、トルメチン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン及びアクタリトからなる群から選ばれる化合物の残基である、請求項3記載の誘導体。
【請求項5】
スペーサーが、ヒアルロン酸と結合する官能基及び抗炎症化合物と結合する官能基をそれぞれ少なくとも1つ以上有している化合物である請求項1〜4の何れかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項6】
スペーサーが、炭素数2〜18のジアミノアルカン、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアミノアルキルアルコール及びアミノ酸から選択される請求項1〜5の何れかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項7】
ヒアルロン酸の重量平均分子量が500,000〜3,000,000である請求項1〜6のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項8】
抗炎症化合物が、ヒアルロン酸の繰り返し2糖単位当たり5〜50モル%導入されている請求項1〜7のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項9】
ヒアルロン酸に非ステロイド性抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体であって、抗炎症化合物が導入されているヒアルロン酸構成二糖単位あたりの部分構造が、下記式(1)で示されるヒアルロン酸誘導体。
Y−CO−NH−R−(O−R)n (1)
Y−CO−はヒアルロン酸の構成二糖単位1残基を示し、RはZ−CO−で示される非ステロイド性抗炎症化合物残基又は水素原子を示し(但し、全てが水素原子である場合を除く)、−HN−R−(O−)nはn個のヒドロキシル基を有するHN−R−(OH)nで示されるスペーサー化合物のスペーサー残基を示し、Rは置換基を有していても良い炭素数2〜12の直鎖あるいは分岐を有する炭化水素基を示し、−CO−NH−はヒアルロン酸の構成糖であるグルクロン酸のカルボキシル基とスペーサー化合物が有するアミノ基とのアミド結合を示し、−O−CO−はスペーサー化合物が有する水酸基と非ステロイド性抗炎症化合物残基が有するカルボキシル基とのエステル結合を示す。nは1〜3の整数を示す。また、当該ヒアルロン酸誘導体における非ステロイド性抗炎症化合物の導入率は、ヒアルロン酸の繰り返し二糖単位あたり5〜50モル%であり、ヒアルロン酸誘導体を構成するヒアルロン酸残基中のカルボニル基は、非ステロイド性抗炎症化合物残基の導入率に応じて、該スペーサー結合抗炎症化合物残基との結合に関与するアミド結合として又は関与しない遊離のカルボキシル基として存在するものとする。
【請求項10】
非ステロイド性抗炎症化合物が、下記式(2)で示される化合物である請求項9記載のヒアルロン酸誘導体。
【化8】

(2)

は低級アルキル基及び低級アルコキシル基から選択される置換基又は水素原子を示す。R、R及びRはそれぞれ独立に、低級アルキル基、低級アルコキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Xは、それぞれ独立に同一又は異り、低級アルキル基及びトリフルオロメチル基から選択される置換基又はハロゲン原子を示し、少なくともXのどちらか一つはハロゲン原子である。
【請求項11】
非ステロイド性抗炎症化合物が、ジクロフェナク又はその誘導体である請求項10記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項12】
上記式(1)におけるRが、置換基を有していてもよいエチレン基、トリメチレン基又はプロピレン基である請求項9〜11のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項13】
ヒアルロン酸と、スペーサー結合抗炎症化合物を反応させるか、若しくは、スペーサー結合ヒアルロン酸と、抗炎症化合物を反応させ、ついで該反応液をアルカリ性条件とする工程を含む方法によって得られうる、請求項1〜12のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項14】
上記ヒアルロン酸誘導体を1.0重量%で水性媒体に溶解して得られる溶液が、24℃の温度条件下、5.0kg/cm2の加圧下で多孔質フィルター(孔径(ポアサイズ)0.45μm、直径25mm)を1分間に2mL以上通過可能であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項15】
上記ヒアルロン酸誘導体を1.0重量%で水性媒体に溶解して得られる溶液が、24℃の温度条件下、5.0kg/cm2の加圧下で多孔質フィルター(孔径(ポアサイズ)0.22μm、直径25mm)を1分間に2mL以上通過可能であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体が水性媒体に溶解した、注入具により押し出し可能なヒアルロン酸誘導体溶液。
【請求項17】
水性媒体が、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水及び注射用水から選択される水性媒体である請求項16記載のヒアルロン酸誘導体溶液。
【請求項18】
濾過滅菌された請求項17記載のヒアルロン酸誘導体溶液。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体を有効成分として含有する薬剤。
【請求項20】
関節症処置剤、抗炎症剤または鎮痛剤である、請求項19記載の薬剤。
【請求項21】
非経口投与用である、請求項19又は20記載の薬剤。
【請求項22】
局所投与用の注入剤である、請求項21記載の薬剤。
【請求項23】
関節投与用の注入剤である、請求項21又は22記載の薬剤。
【請求項24】
請求項1〜15のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体を有効成分として含有し、かつ該ヒアルロン酸誘導体を水性媒体に溶解した溶液からなる、注入具により押し出し可能な薬剤。
【請求項25】
請求項16〜18のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体溶液が、該溶液を押し出すことが可能な注入具に充填されたヒアルロン酸誘導体注入用キット。
【請求項26】
充填された溶液が請求項19〜24のいずれかに記載の薬剤である、請求項25記載のキット。
【請求項27】
請求項1〜15のいずれかに記載のヒアルロン酸誘導体を薬学的に許容されるリン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水または注射用水に溶解した溶液を注射筒に充填し、薬剤押出用プランジャーで摺動可能に密封してなる医療用注射剤キット。
【請求項28】
生体内で分解されうる部位を有するスペーサーと抗炎症化合物とが共有結合した誘導体。
【請求項29】
生体内で分解されうる部位を有するスペーサーが、ジアミノアルカン、アミノアルキルアルコールまたはアミノ酸の残基である、請求項28に記載の誘導体。
【請求項30】
生体内で分解されうる部位を有するスペーサーが、当該スペーサー1分子に対し2個以上の抗炎症化合物を結合し得る化合物の残基である、請求項28又は29記載の誘導体。
【請求項31】
抗炎症化合物が、サリチル酸、アスピリン、メフェナム酸、トルフェナム酸、フルフェナム酸、ジクロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、アセメタシン、アンフェナク、エトドラク、フェルビナク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、チアラミド、トルメチン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン及びアクタリトからなる群から選ばれる化合物の残基である、請求項28〜30のいずれかに記載の誘導体。
【請求項32】
共有結合が、エステル結合またはアミド結合である、請求項28〜31のいずれかに記載の誘導体。
【請求項33】
下記式(3)で示される請求項32記載の誘導体。
N−R−(O−R)n (3)
はZ−CO−で示される非ステロイド性抗炎症化合物残基又は水素原子を示し(但し、全てが水素原子である場合を除く)、HN−R−(O−)nはn個のヒドロキシル基を有するHN−R−(OH)nで示されるスペーサー化合物のスペーサー残基を示し、Rは置換基を有していても良い炭素数2〜12の直鎖あるいは分岐を有する炭化水素基を示し、−O−CO−はスペーサー化合物が有する水酸基と非ステロイド性抗炎症化合物残基が有するカルボキシル基とのエステル結合を示す。nは1〜3の整数を示す。
【請求項34】
ヒアルロン酸とスペーサー結合抗炎症化合物とを反応させるか、若しくは、スペーサー結合ヒアルロン酸と抗炎症化合物とを反応させることを特徴とする、生体内で分解されうる部位を有するスペーサーを介し、ヒアルロン酸に抗炎症化合物が共有結合にて結合しているヒアルロン酸誘導体の製造法。
【請求項35】
ヒアルロン酸とスペーサー結合抗炎症化合物との反応生成物、若しくは、スペーサー結合ヒアルロン酸と抗炎症化合物との反応生成物の溶液を、アルカリ性条件下で処理する工程を含むことを特徴とする、請求項34記載のヒアルロン酸誘導体の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【国際公開番号】WO2005/066214
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516899(P2005−516899)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000125
【国際出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】