説明

ヒトの皮膚の浸透性を向上させる方法及び装置

活性物質を経皮送達するためにヒト皮膚の透過性を向上させる方法。透過性は、少なくとも一部の範囲内が透明で、活性物質を含有し、かつ少なくとも一部の範囲内にて可撓性を有するプラスターと、外部光源とを用いて向上される。この方法によれば、外部光源により少なくとも短時間だけ照射され、かつプラスターの少なくとも一部の範囲に対して垂直に衝突する光が、プラスターの内部にて一体化された多数の個々の集束レンズにより皮膚の角質層上に集束されて、皮膚の透過性を向上させる変化を角質層内に発生させる。ヒト皮膚の透過性を向上させる本発明の方法によって、特定物質の再現可能な透過性が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部の範囲内が透明で、活性物質を含有し、かつ少なくとも一部の範囲内にて可撓性を有するプラスターと、少なくとも一つの外部光源とを用いた、活性物質を経皮送達するためにヒト皮膚の透過性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮治療システムは、長期に亘り、様々な局所及び全身疾患の治療における使用が確立されている。例えば、ニコチン、エストラジオール、ニトログリセリン、及びフェンタニル等の活性物質は、この方法によれば、経口的に摂取された場合と比較して、薬物動力学が相当改善され、また初回通過効果が回避されることにより、より標的に向けられたやり方で投与することができる。しかしながら、経皮送達に適した活性物質の選択性は限られている。数種の活性物質については、移送は可能ではあるが、同活性物質製剤は実行不可能なほどの広大な表面積を必要とする。
【0003】
この問題における可能な解決法の一つでは、透過促進剤を用いることにある。この促進剤、例えばエタノール、ブタノール、及び他の短鎖アルコールは、製剤に添加されてヒトの皮膚の透過性を一時的に上昇させる化学物質である。それにより、薬剤活性物質の十分に高い流速が可能となる。しかしながら、これらの促進剤は身体に取り入れられて、身体の代謝過程に負荷を課す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明は、ヒト皮膚の透過性を向上させる方法を開発することにある。本方法では、全身に影響を与えることなく、一定の活性物質について再現可能な透過性を達成させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は、独立請求項及び従属請求項3の特徴により達成される。外部光源から少なくとも短時間の間放射されて、プラスターの少なくとも一部の範囲内にて、プラスターに対して垂直に衝突した光が、多数の個々のポジティブレンズ(positive lense)を介してプラスター内で統合されて、皮膚の角質層上に集束される。この方法で、皮膚の透過性を向上させる角質層の変化が発生する。
【0006】
この目的のために、プラスターは、少なくとも一つの頂部層と、少なくとも一つの活性物質を含有する自己粘着層とを含有する。頂部層及び活性物質含有層は、一部の範囲内で透明であり、該透明範囲はプラスター内で互いに重なり、また頂部層は平面状に配列された多数の光学ポジティブレンズを有する。
【0007】
従って、経皮治療システムは、特に、皮膚の方向に向けられた少なくとも一つの活性物質含有マトリクス層と、透明な幾何学的に輪郭形成された頂部層とを備える。このシステムはプラスターの形態で皮膚に対して一時的に固着される。このような配置によって、プラスターが固着されている間、光源を使用して経皮吸収を向上させることが可能となる。
【0008】
本発明の更なる詳細を、従属請求項及び以下の図面で示した実施態様にて説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、それによって活性物質の経皮送達が大いに促進される物理的方法を示す。この目的のために、例えば、透明な頂部層、即ち支持層(12,13)と、活性物質を含有し、同じく透明な少なくとも一つの粘着層(50,40)とを有する粘着性のプラスター(10)を使用する。頂部層(12)は、光学レンズ(20〜22)の配列を備えている。皮膚(6)に固着されたプラスター(10)は、高輝度の照明を有する光源(1)によって少なくとも短時間照射される。プラスターの後面(14)に対して少なくとも殆ど垂直に衝突する光(2)は、個々のポジティブレンズ(20〜23)によって個別に集束され、皮膚(6)の角質層(7)上に投射される。個々の焦点又は焦線において、活性物質を移送するために角質層(7)を薄くそして開いた状態に保持する小さい焦点(8)が形成される。この焦線はポジティブレンズの屈折火線により生成する。
【0010】
本願にてマトリクス層及び/又は粘着層(40,50)は、例えば活性物質を数時間又は数日間に亘って放出し得る活性物質の貯蔵体を構成している。
【0011】
使用前の貯蔵されているプラスター(10)は、活性物質の望ましくない放出または活性物質の損失から粘着層(50)に接着している少なくとも一つの保護フィルムによって保護されている。
【0012】
頂部層(12)はこの場合、例えば透明フィルムであり、同フィルム内に多数の小レンズ(20)が一体化されている。個々の各レンズは、例えば両凸形状を有し、曲面の中心は各々光学軸(23)上に存在している。個々の光学軸(23)は概して、プラスターの後面(14)の特定の表面要素に対して垂直に指向されている。隣接する2個のレンズ(20)の光学軸(23)間の距離は、例えば50〜500μmである。ある場合にて、各距離は1mmに増大されてもよい。個々のレンズ(20)の焦点距離は、レンズ及びマトリクスの材料の可能な異なる屈折率を考慮に入れて、皮膚(6)の外側面(9)下にて角質層(7)内の平均焦点距離が約10〜20μmであるよう定められる。従って、例えば頂部層(12)の厚さが40μm、マトリクス及び粘着層(40,50)の厚さが100μmである場合、平均焦点距離は135μmである。
【0013】
図2によれば、径方向において、レンズ(20)は、例えば直立した正六角柱の周面(25)によって輪郭が画成されている。完全なレンズ(20)は、図1及び図2に示す円形の外側輪郭を有するであろう。これに代わって、各レンズ(20)はまた、円筒形の外側輪郭を有しても良い。その結果生じるレンズ間の間隙は、例えば水平な表面によって充填され得る。レンズを有する可撓性フィルム(12)の平均の厚さは、約40〜100μmである。プラスター(10)の透明部分の総表面積は、その用途に応じて、例えば2〜50cm2である。
【0014】
照射で角質層が僅かに着色するように見える応用では、プラスターの外側範囲内に存在するレンズを、例えば美容的な理由により一部不透明に、又は未着色の角質層から着色された角質層への移行のコントラストが低減されるように、凸曲面なしに形成してもよい。
【0015】
この原理は勿論、逆転させることも可能である。例えば、レンズを特定位置に配置して焦点を形成し、そしてまた光学的に不活性な間隙を配置して、角質層上に一時的な入れ墨の形態の日焼けパターンを形成することができる。
【0016】
頂部層に使用可能な材料には、その材料が屈折性及び透明性を有することを条件として、ポリカーボネート、ポリチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート及び他のポリエステル、ポリプロピレン、アクリレートポリマー、ポリアミド、並びに無機ガラス又は同様物がある。
【0017】
レンズの配列の光学的品質には一般に高い要求が課されないため、フィルム(12)は、例えば射出成形によって製造されてもよい。平均的なレンズと比較して小さいマイクロレンズの配列が使用される場合、フィルム(12)はまた、マイクロリソグラフィーにより製造されてもよい。
【0018】
図3によれば、異なる焦点距離を有するレンズ(20〜22)を、レンズ配列に配置してもよい。例証的な実施態様において、例えばレンズ配列内にて均一に配置された3個の異なるレンズ(20,21,22)が使用されている。これらの焦点距離は、例えば10〜50μmの範囲内で相違している。このようなレンズ配列によって、より厚い角質層を一時的により透過性となしうる。
【0019】
図4において、その頂部層(13)が、例えば図1の頂部層材料と比較して3〜4倍の厚さを有するプラスターが示されている。この実施態様では、個々のレンズ(20)の後部凸面(31)は、各々、頂部層(13)内に嵌め込まれた止まり穴(32)の底部を形成している。止まり穴(32)の内部面(33)は、レンズ表面(31)を除いて、全反射を防止するか、又は拡散反射形態の反射のみを許可する被膜等を備えている。必要によっては、被膜は光沢のない黒色状である。それによって、止まり穴(32)内に傾斜角にて衝突する光(3)は、レンズ下部の皮膚に全く変化を生じさせない。
【0020】
止まり穴(32)が設けられたレンズ配列に代わって、可撓性を有するハニカムグリッドが上部に固着された、図1に示したレンズ配列を使用することも可能である。例えばレンズ配列とは異なる材料から形成されているハニカムグリッドは、例えば六角形の断面を有する複数のチューブを備えている。チューブの中心軸は、皮膚表面に対してほぼ垂直に配置されている。
【0021】
余分な光を阻止するための別例の一つでは、個々のレンズ(20〜22)の殆ど全部の個々の縁上に、皮膚表面(9)に対して実質的に垂直に配置された1個またはそれ以上の短い突出部を配置する。プラスターの外側面(14)から突出した突出部は、余分な光に関して個々のレンズ表面(31)内に投影する。
【0022】
皮膚に適用される光の量を調節する別法の一つでは、光向性ガラス(phototrophic glass)を使用する。この種のレンズ材料は、数秒〜数分の間隔でレンズを可逆的に暗くする。レンズ配列を不透明な自己粘着カバーフィルムで完全に包囲することも想定し得る。
【0023】
この種の多様な暗化手段の代わりに、光の作用による老化の結果、数分又は数時間後に永久に不透明化又は暗化するレンズ材料を使用することもできる。
【0024】
プラスターを支持する角質層の対応する範囲に対する一定の照明によって、皮膚を通過する活性物質を再現可能に調節することができる。ここで重要な影響要素は、例えば一定の照射レベルと、光源とプラスターとの間の一定の距離である。治療開始時の光エネルギー又は放射エネルギーの一回の供給は、ある場合には不十分であるため、レンズの集束作用により構成された皮膚構造が開放状態に保持されることを確実にするために、例えば数分又は数時間の規定された時間間隔で光インパルスを放射するフラッシュランプを構成する必要があり得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】プラスター及び角質層の断面図を示す。
【図2】プラスターの縁を含まないレンズ配列の一部頂面図を示す。
【図3】異なる焦点距離のレンズを含む、図1と同様の断面図を示す。
【図4】余分な光の機械的遮光を含む、図1と同様の断面図を示す。
【符号の説明】
【0026】
1 光源。
2 光。光の方向は、プラスター表面に対して垂直である。
3 光。光の方向は、プラスター表面に対して傾斜している。
6 ヒトの皮膚。
7 角質層。
8 焦点、皮膚の角質層内における変化。
9 皮膚の表面。
10 プラスター。
11 一部遮光レンズを有するプラスター。
12,13 頂部層、支持層、フィルム。
13 止まり穴を有する頂部層。
14 プラスターの外側面、プラスターの後面。
20〜22 レンズ、凸レンズ。
23 光学軸。
25 周面。
26 外側輪郭。
31 表面、曲面状。
32 止まり穴。
33 内部面、円筒状。
40 マトリクス層。
50 粘着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の範囲内が透明で、活性物質を含有し、かつ少なくとも一部の範囲にて可撓性を有するプラスター(10,11)と、外部光源(1)とを用いる、活性物質の経皮送達のためにヒトの皮膚(6)の透過性を向上させる方法であって、該プラスター(10,11)は、少なくとも一つの活性物質放出層(40)と、平面状に配置された多数の光学ポジティブレンズ(20〜22)を有する少なくとも一つの頂部層(12,13)からなり、該プラスターを介して少なくとも一つの光源(1)からの頂部層(12,13)上に少なくとも短時間当る光(2)により、皮膚(6)の角質層(7)内に皮膚(6)の透過性を向上させる多数の個々の変化(8)を発生させる、上記方法。
【請求項2】
角質層内の変化(8)は、各々ポジティブレンズ(20〜22)の焦点又は焦線内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つの頂部層と、活性物質を含有する少なくとも一つの粘着層とを有する、活性物質を経皮送達するためのプラスターであって、
頂部層(12,13)及び活性物質を含有する層(40)は、少なくとも一部の範囲内にて透明で、該透明範囲は、プラスター(10,11)の内部で互いに重なり、かつ
頂部層(12,13)は、平面状に配置された複数の光学レンズ(20〜22)を有する、
ことを特徴とする上記プラスター。
【請求項4】
層(40)が粘着層であるか、又はもっぱら活性物質を含有する層としての層(40)に、活性物質に透過性を有し、かつ皮膚(6)に向けて配置された粘着層(50)が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のプラスター。
【請求項5】
光学レンズ(20〜22)の少なくともいくつかは、異なる焦点距離を有することを特徴とする請求項3に記載のプラスター。
【請求項6】
ヒトの皮膚(6)から反対方向側のプラスター(11)の面上において、光学レンズ(20〜22)の配列に遮光隆起部が配置されていることを特徴とする請求項3に記載のプラスター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−500525(P2007−500525A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521467(P2006−521467)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008068
【国際公開番号】WO2005/011797
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】