説明

ヒト単為生殖性胚盤胞に由来する患者特異的幹細胞株

HLAホモ接合ドナーおよびHLAヘテロ接合ドナーの両方から、HLAホモ接合型単為生殖性ヒト幹細胞(hpSC-Hhom)株を作製する方法を開示する。これらのhpSC-Hhom株は典型的なヒト胚性幹細胞形態を示して、適切な幹細胞マーカーを発現し、かつ高レベルのアルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性を有する。加えて、これらの細胞株を免疫不全動物に注射すると、奇形腫が形成される。さらに、HLAヘテロ接合ドナーの場合、hpSC-Hhom株はドナーの両親の片方のみからハプロタイプを受け継ぐ。SNPデータ解析から、HLAヘテロ接合型卵母細胞ドナーに由来するhpSC-Hhom株が、一塩基多型(SNP)解析によって評価される通り、ゲノム全体にわたりホモ接合性であることが示唆される。開示するプロトコールは、動物由来成分の使用を最小限に抑えており、よってこの幹細胞は臨床適用のためにより実用的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して胚性幹細胞、より具体的には、細胞に基づく治療のためのHLAホモ接合型単為生殖性ヒト幹細胞株を得る過程に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
無限に分裂することができ、すべての組織型の細胞に分化することができる最初のヒト胚性幹細胞(ESC)は、受精卵母細胞から得られた胚盤胞内部細胞塊(ICM)から誘導された。胚性幹細胞は、移植に基づく細胞治療のための多能性細胞の潜在的に無限の供給源である。
【0003】
ヒト胚性幹細胞(ES)細胞は、多様な細胞型に分化することができる多能性細胞である。胚性幹細胞は、免疫不全マウスに注射されると分化型腫瘍(奇形腫)を形成する。しかし、胚様体(EB)を形成するようにインビトロで誘導された胚性幹細胞は、特定の増殖条件下でいくつかの組織に特有である複数の細胞型に分化する可能性がある胚性幹細胞株の供給源を提供する。例えば、ES細胞は、神経成長因子およびレチノイン酸の存在下でニューロンに分化する。
【0004】
ヒト胚性幹細胞は、免疫拒絶の問題が解決され得るのであれば、顕著な治療的有益性を患者に付与する可能性を有する。レシピエントに遺伝的に関連のある胚性幹細胞は、そのような拒絶問題を克服することができる。現在、ヒト胚性幹細胞(hES)は3つの供給源:不妊症治療後に残り、研究用に提供された胚盤胞、提供された配偶子(卵母細胞および精子)から作製された胚盤胞、ならびに核移植(NT)の産物から誘導される。死体胎児組織は、ヒト胚性生殖細胞(hEG)の唯一の供給源である。hES細胞およびhEG細胞は、より特殊化した細胞または組織を作製する可能性に関わる顕著な科学的および治療的可能性を提供する。しかし、hES細胞およびhEG細胞の供給源に関する倫理的問題、ならびに研究にNTを使用することがヒトを作製するためにNTを使用することにつながり得るという懸念が、多くの国民の議論および討論を呼び起こしている。
【0005】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、胚性幹細胞作製用の卵母細胞を調製するための精子/NTによる受精の代替法として用いることができる。単為生殖的活性化とは、雄性配偶子からの寄与なしに雌性配偶子から、成体への最終的発達を伴ってまたは伴わずに胚細胞が生成されることである。
【0006】
卵母細胞の単為生殖的活性化は、卵母細胞を顕微操作するのに必要な複雑な設備を必要としないため、SCNTと比較して比較的簡便な組織適合性幹細胞の作製方法である。単為生殖性幹細胞は未受精卵母細胞から作製され、卵母細胞ドナー(潜在的患者)のみからの遺伝物質を含む。さらに、指向性細胞分化の後に、免疫拒絶を恐れることなく自己細胞を移植することができる。複数の単為生殖性マウスMHCホモ接合型幹細胞株、および1種類の単為生殖性霊長動物ヘテロ接合型胚性幹細胞株(Cyno-1)がすでに誘導されており、これらの株において細胞の多能性が実証されている。
【0007】
上記のように、同種組織および同種臓器移植に伴う最大のリスクは、免疫拒絶のリスクである。リスクの程度は、ドナーとレシピエントとの間の細胞表面抗原提示タンパク質の相違の程度に比例する。理想的な移植では、ドナー組織は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)においてレシピエントと組織適合性である。ヒト白血球抗原(HLA)系とは、ヒトMHCを呼称する名称であり、移植に重要な抗原を表す。ドナーとレシピエントの組織をHLA抗原について適合させると、レシピエントにおける細胞傷害性T細胞応答の機会が減少し、ひいては移植での生存の可能性が大きく増大する。
【0008】
MHCクラスIおよびII HLAハプロタイプは、両親から共に受け継がれるHLA-A、-B、-DR遺伝子座対立遺伝子の特定のセットである。HLA多型が高度であるにもかかわらず、米国コーカサス人集団には、200種類の共通HLAハプロタイプがあるにすぎない。このHLA多様性は、ヘテロ接合選択係数と組み合わせると、ヘテロ接合個体におけるこれらの対立遺伝子変種の組み合わせによって提供される独特な組織型のために、ドナー-レシピエントの適合を見出す機会が、1000人に1人〜数百万人に1人の範囲であることを意味する。
【0009】
移植に基づく幹細胞治療も、免疫拒絶のために固形臓器同種移植片が限定される場合と同様のHLA適合問題と直面する。HLA適合性幹細胞株は、免疫拒絶のリスクを克服することができる。単為生殖的に誘導された細胞に関しては、A23187および6-DMAPの組み合わせを用いて卵母細胞を活性化することによって、HLAヘテロ接合ドナーからHLAヘテロ接合型細胞株が誘導される。これらの細胞は卵母細胞ドナーとHLA適合性であるため、組織適合性派生物を提供する能力は限定される。
【0010】
ドナーとレシピエントとの間のMHC適合性は、ドナー細胞がHLAホモ接合性である場合;すなわち、各抗原提示タンパク質について同一対立遺伝子を含む場合に、顕著に増加する。さらに、ホモ接合型ドナー細胞が集団中に高頻度で見出されるハプロタイプを有する場合、これらの細胞は、多数の個体に対して、移植に基づく幹細胞治療において適用され得る。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、HLAホモ接合ドナーおよびHLAヘテロ接合ドナーの両方から、HLAホモ接合型単為生殖性ヒト幹細胞(hpSC-Hhom)株を作製するための方法を開示する。これらのhpSC-Hhom株はヒト胚性幹細胞形態を示して、典型的な幹細胞マーカー(すなわち、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4)を発現し、かつ高レベルのアルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性を有する。加えて、これらの細胞株を免疫不全動物に注射すると、奇形腫が形成される。SNPデータ解析から、HLAヘテロ接合型卵母細胞ドナーに由来するhpSC-Hhom株が、ゲノム全体にわたりホモ接合性であることが実証される。開示するプロトコールは、動物由来成分の使用を最小限に抑えており、それによってこれらの幹細胞が臨床適用に理想的に適したものとなる。
【0012】
1つの態様において、細胞株に含まれる少なくとも1つの細胞が、1つもしくは複数の一塩基多型(SNP)についてヘテロ接合性である、1つもしくは複数のHLA対立遺伝子についてホモ接合性である、またはホモ接合SNPおよびヘテロ接合SNPの組み合わせを含む、単為生殖性胚盤胞に由来する単離されたヒト幹細胞株を開示する。
【0013】
1つの局面において、少なくとも1つの細胞はHLA対立遺伝子についてホモ接合性である。別の局面において、少なくとも1つの細胞は、免疫不全マウスに移植されると奇形腫を形成する。さらなる局面において、少なくとも1つの細胞は胚盤胞ドナーとMHC適合性である。
【0014】
関連局面においては、少なくとも1つの細胞がドナー起源に従って実質的に遺伝的にインプリンティングされていることを含め、少なくとも1つの細胞は胚盤胞ドナーの一等親血縁者とMHC適合性である。
【0015】
1つの局面において、少なくとも1つの細胞は、(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して、内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養されると分化が阻害される。
【0016】
別の局面において、少なくとも1つの細胞は、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、およびオリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、ケラチノサイト、膵島細胞、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞を含む細胞に分化する。関連局面において、少なくとも1つの細胞は生存能力のある生物を形成する能力を有しない。
【0017】
別の態様において、分化細胞を含む細胞組成物を投与する段階を含む、それを必要とする対象を治療する方法であって、該分化細胞が単為生殖性胚盤胞由来の幹細胞株に由来し、該細胞株に含まれる少なくとも1つの細胞が、1つもしくは複数の一塩基多型(SNP)についてヘテロ接合性である、1つもしくは複数のHLA対立遺伝子についてホモ接合性である、またはホモ接合SNPおよびヘテロ接合SNPの組み合わせを含む、方法を開示する。
【0018】
1つの局面において、対象は、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄欠損または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心疾患、黄斑変性、軟骨欠損または損傷、熱傷、足部潰瘍、血管疾患、尿路疾患、エイズ、および癌を含む疾患を呈する。
【0019】
1つの態様において、自己幹細胞または同種幹細胞を含む幹細胞のライブラリーであって、該幹細胞が1名または複数名のヒトドナー由来の単為生殖的活性化卵母細胞に由来しており、かつ該幹細胞がHLAホモ接合型幹細胞である、ライブラリーを開示する。1つの局面において、各ライブラリーメンバーは、一塩基多型(SNP)マーカーに従って完全同胞(full sibling)、半同胞(half sibling)、または無関係(unrelated)であると同定される。別の局面において、各ライブラリーメンバーはHLA型に従って特徴づけられ、該ライブラリーメンバーは治療上使用するために潜在的レシピエントとHLA適合性である。
【0020】
別の局面において、卵母細胞ドナーはライブラリーのメンバーと組織適合性である。関連局面においては、ライブラリーの幹細胞がHLAヘテロ接合型卵母細胞ドナーに由来し得ることを含め、ライブラリーのメンバーは卵母細胞ドナー起源に従ってゲノムインプリンティングされている。さらなる局面において、ライブラリーの各メンバーは、ライブラリーの他のメンバーと比べて異なる組み合わせのMHC/HLA対立遺伝子についてホモ接合性である。
【0021】
1つの局面において、ライブラリーの各メンバーは、1つまたは複数のHLAクラスI遺伝子およびHLAクラスII遺伝子について少なくともホモ接合性である。関連局面において、HLAクラスI遺伝子は、HLA A*、HLA B*、HLAおよびCw*ハプロタイプの組み合わせを含む。別の関連局面において、HLAクラスII遺伝子は、HLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、およびDQB1*ハプロタイプの組み合わせを含む。
【0022】
別の態様において、所与の集団群中に共通して見出されるHLAハプロタイプについて卵母細胞ドナーをスクリーニングする段階、ヒト中期II卵母細胞を体外受精(IVF)培地中でインキュベートする段階、該細胞を、イオノフォアを含むIVF培地中でインキュベートする段階、該細胞を、ピューロマイシンを含むIVF培地中でインキュベートする段階、および該細胞を新鮮なIVF培地中でインキュベートする段階を含む、HLAホモ接合型幹細胞を作製する方法であって、1つまたは複数のインキュベーションを異なるO2圧下で行い、かつ細胞から得られた内部細胞塊(ICM)が培養可能な幹細胞を生じる、方法を開示する。
【0023】
本発明による例示的な方法および組成物を、以下により詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】phESC株に特有の特異的マーカーを示す。ヒトフィーダー層細胞上のphESCの未分化コロニー(A〜F)、SSEA-1に関する陰性染色(G〜L)、細胞表面マーカーSSEA-3(M〜R)、SSEA-4(S〜X)の発現。倍率(A)〜(E) ×100;(F) ×200;(G)〜(X) ×400。フィーダー細胞上のphESCコロニーのアルカリホスファターゼ陽性染色(A〜F)、OCT-4(G〜L)、TRA-1-60(K〜R)、およびTRA-1-81(S〜X)。倍率(A、B、O、R) ×100;(C〜F、M、S、X) ×200;(G〜L、N、P、Q、T〜W) ×400。
【図2】phESC細胞が陽性対照細胞と比較して高レベルのテロメラーゼ活性を示すことを示す;「+」:細胞500個からの抽出物;「-」:テロメラーゼが不活化された熱処理細胞抽出物;「対照+」:テロメラーゼ陽性細胞抽出物(TRAPEZEキットに同梱);「B」:CHAPS溶解緩衝液、プライマー-ダイマー/PCR混入対照;TSR8:テロメラーゼ量的対照鋳型(0.1および0.2アトモル/μl);「M」:マーカー、DNAラダー。
【図3】phESC株のGバンド核型を示す。phESC-1 (A)、phESC-3 (B)、phESC-4 (C)、phESC-5 (D)、およびphESC-6 (E)株は、正常な46, XX核型を有する。phESC-7株は47,XXX核型を有する(F)。
【図4】phESCの、全3つの胚葉の派生物へのインビトロ分化を示す。外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(A)、NCAM(B)、βIIIチューブリン(C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、中胚葉マーカーである筋特異的α-アクチニン(G)およびデスミン(J)、内皮マーカーであるPECAM-1(E)およびVE-カドヘリン(F)に関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテイン(H、L)の陽性染色によって示される。phESCは色素上皮様細胞(I、K)を生成した。倍率(I) ×100;(A〜H、J〜M)、×400。
【図5】phESCのインビボ分化およびSCIDマウスにおける奇形腫形成を示す。3胚葉のマーカーに関する免疫蛍光染色。中胚葉細胞マーカーである筋肉アクチンは、他の細胞を取り囲みながら組織化されており、明らかに識別可能である(A)。大量のフィブロネクチンの存在は、中胚葉起源の結合組織に特異的である(B)。神経分化細胞(外胚葉起源)の領域は広範囲におよび、βチューブリンに対する抗体で強く標識される(C)。未熟内胚葉細胞マーカーであるα-フェトプロテインは、腺の外観を呈する領域に回収され得る(D)。核はDAPIで染色した(A)、(D)。倍率(A)、(C)、(D) ×100;(B) ×200。
【図6】インプリンティングされた遺伝子の発現のRT-PCR解析を示す。廃棄されたIVF胚に由来する2種類のhESC株、hES1およびhES2を、phESC株:phESC-1;phESC-3;phESC-4;phESC-5;phESC-6、およびphESC-7(それぞれ1、3、4、5、6、および7)における父性発現遺伝子SNRPNおよびPEG1_2ならびに母性発現遺伝子TSSC5およびH19の発現解析用の陽性対照として使用した。PEG1_1遺伝子は両対立遺伝子で発現され、さらなる対照として使用した。GAPDHはmRNA量的対照として含めた。「RT-」のデータから、RT試料に遺伝子混入がないことが実証される。
【図7】hpSC-Hhom株に特有の特異的マーカーを示す。全4種類のhpSC-Hhom株による細胞は、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、OCT-4(DAPIにより核を染色)、アルカリホスファターゼについて陽性染色を示し、SSEA-1について陰性染色を示した。マウス胚性幹細胞(ESC)を、SSAE-1染色の陽性対照として使用した。
【図8】hpSC-Hhom株が、陽性対照細胞と比較して高レベルのテロメラーゼ活性を示すことを示す;「K1+」:テロメラーゼ陽性細胞抽出物(TRAPEZEキットに同梱);「K2+」:細胞500個由来の抽出物;「K-」または「-」:テロメラーゼが不活化された熱処理細胞抽出物;Buf:CHAPS溶解緩衝液、プライマー-ダイマー/PCR混入対照;TSR:テロメラーゼ量的対照鋳型(0.1および0.2アトモル/μl);「M」:マーカー、DNAラダー。
【図9】ヒトHLAホモ接合型単為生殖性幹細胞株のGバンド核型を示す:hpSC-Hhom-1(A)株およびhpSC-Hhom-4(B)株は、正常なヒト46,XX核型を有する;hpSC-Hhom-2(C)株は、15%の細胞が47,XX,+8核型、第8染色体の異数体を示す:hpSC-Hhom-3(D)株は、4.2%の細胞が47,XX,+1核型、第1染色体の異数体を示す。
【図10】hpSC-Hhom-4の、全3つの胚葉由来の派生物へのインビトロ分化を示す:外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(A)およびNCAM(B)の陽性免疫細胞化学染色として明白である;内胚葉分化は、α-フェトプロテイン(C)の陽性免疫細胞化学染色として明白である;分化細胞は、中胚葉マーカーである筋特異的デスミン(D)およびα-アクチニン(E)について陽性であった;倍率×200 (A〜E)。
【図11】hpSC-Hhom-4のインビボ分化を示す。SCIDマウスにおける奇形腫形成。全3つの胚性胚葉(外胚葉、内胚葉、および中胚葉)由来の派生物:間葉系細胞によって取り囲まれた十分に形成された呼吸器型腺、ヘマトキシリン/エオシン(h/e)染色、倍率×140 (A);単層の細胞を有するおそらく神経管;右側は内胚葉腺であり、下部は軟骨分化、h/e染色、倍率×70 (B);間葉系細胞によって取り囲まれた骨、中央は立方上皮を有する管状腺、ピクロフクシン(picrofucsin)染色、倍率×140 (C);間葉系細胞および脂肪組織によって取り囲まれた十分に形成された骨、h/e染色、倍率×140 (D);左側は内胚葉腺である;中胚葉および脂肪組織、コラーゲン;右側および下部に骨が見られる、Kraberg染色、倍率×70 (E);間葉系細胞によって取り囲まれた内胚葉腺構造、コラーゲン線維の高産生、ワンギーソン染色、倍率×280 (F);重層上皮、中央は角質増殖性真珠であり、左側は別の腺、h/e染色、倍率×140 (G);腺のコロニー、h/e染色、倍率×70 (H);脂肪組織および間葉系細胞によって取り囲まれた、褐色色素、おそらく胆汁色素を産生する細胞を含む腺、h/e染色、倍率×140 (I)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本組成物、方法、および培養法について記載する前に、本発明が記載の特定の組成物、方法、および実験条件に限定されず、したがって組成物、方法、および条件が変更可能であることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲においてのみ限定されるため、本明細書で使用する専門用語は特定の態様を説明する目的のためのみのものであって、限定を意図するものではないこともまた理解されるべきである。
【0026】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用するように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」とは、特記する場合を除き、複数形への言及を含む。したがって、例えば「その方法」への言及は、本開示を読めば当業者に明らかとなるであろう、本明細書に記載する種類などの1つまたは複数の方法および/または段階を含む。
【0027】
本発明は、移植に基づく幹細胞治療に有用なヒトHLAホモ接合型単為生殖性幹細胞株を誘導するための少なくとも2つの異なるアプローチを開示する。
【0028】
1つの態様において、1つの細胞株がHLAホモ接合ドナーから誘導され、これは、卵母細胞活性化中にA23187および6-DMAPを使用する段階、第2極体の放出を阻止する段階、ならびにそれによってMII卵母細胞の遺伝物質をすべて保持する段階を含む。これらの卵母細胞に由来する幹細胞のHLA遺伝子型は、ドナーのものと適合した(Revazova et al., Cloning Stem Cells (2007)9(3):432-449)。関連局面において、HLAホモ接合ドナーに由来する二倍体hpSC-Hhom-1株もまた得られ得る。
【0029】
別の態様では、HLAホモ接合型胚性幹細胞をHLAヘテロ接合型卵母細胞ドナーから誘導することができ、これは、第2極体の放出を可能にするA23187とピューロマイシンとの組み合わせによる卵母細胞の単為生殖的活性化を用いる段階を含む。したがって、活性化卵母細胞は中期II染色体のセットの半分のみを含み、これによりホモ接合遺伝子型の形成が可能になった。例えば、カルシウムイオノフォアとピューロマイシンとの組み合わせによって活性化されたヒト卵母細胞の80パーセントは、第2極体が放出されて前核を示す。さらに、細胞遺伝学的解析から、78パーセントが染色体の正常な一倍体セットを含むことが実証される(Yamano S. et al, J Med Investigation (2000) 47(1-2):1-8)。さらに、A23187およびピューロマイシンで活性化されたヒト卵母細胞は、染色体の一倍体セットを有する前核1個および極体2個を示した(Nakagawa K., et al., Zygote (2001) 9:83-88)。一倍体染色体の正常なセットを有するこのような前核単為生殖体は、マウスモデルにおいて作り出されている(Nakasaka H. et al., Zygote (2000) 8:203-208)。
【0030】
このようなプロトコールを用いることにより、HLAヘテロ接合ドナーから単離された卵母細胞から複数の二倍体細胞株が得られる(例えば、これらに限定されないが、hpSC-Hhom-2、hpSC-Hhom-3、hpSC-Hhom-4)。
【0031】
理論によって縛られることはないが、HLA遺伝子型同定データから、HLAハプロタイプがドナーの両親の片方からのみ受け継がれることが示唆される。SNP解析データから、これら3つの細胞株が、SNP解析により評価して、ゲノム全体にわたってホモ接合性であることが示唆される。例えば、本発明において開示する例示的な細胞株(実施例1を参照されたい)は二倍体の核型を有し、これは、二倍体幹細胞株が一倍体マウス胚から誘導された以前の研究に対応する(Kaufman et al., J Embryol Exp Morphol (1983) 73:249-261)。
【0032】
卵母細胞活性化後に一倍体遺伝物質が複製する正確な機構およびタイミングは不明であるが、理論によって縛られることはないものの、DNA複製は細胞の分割または分裂なしに起こるようである。以前の研究から、単為生殖的活性化マウス卵母細胞の80%がその一倍体状態を桑実期まで保ち、これらの胚に由来するその後の幹細胞株が二倍体になることが示唆される(Kaufman M.H. et al., 1983、前記)。
【0033】
補充療法以外にも、hpSC-Hhom株に由来する細胞および組織の貯蔵物は、遺伝性障害の治療において貴重であり得る。オンライン版ヒトメンデル遺伝(Online Mendelian Inheritance in Man)(OMIM)、ジョンズ・ホプキンス大学、および国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によれば、100を超える遺伝性障害が存在し、そのリストは拡大し続けている。例として、アルツハイマー病、糖尿病、グレーブス病、血友病、ハンチントン病、筋ジストロフィー、パーキンソン病、鎌状赤血球貧血、フェニルケトン尿症、すなわちPKU、および重症複合免疫不全症(SCID)が挙げられる。このような状況では、同じ遺伝的欠陥を保有していないドナーから得られた細胞株を使用することが重要であろう。
【0034】
「分化」とは、細胞に、ある特殊化した機能を獲得させ、かつ他のある特殊化した機能単位に変化する能力を失わせる、細胞内で起こる変化を指す。分化できる細胞は、全能性細胞、多能性細胞、または多分化能細胞のいずれかであり得る。分化は、成熟成体細胞に対して部分的または完全であってよい。
【0035】
「雌性発生」とは、すべて雌性起源、好ましくはヒト雌性起源の哺乳動物DNA、例えばヒトまたは非ヒト霊長動物卵母細胞DNAを含む、卵母細胞または他の胚細胞型などの細胞の活性化によって起こる、識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚の生成を指す。そのような雌性哺乳動物DNAは、例えば少なくとも1つのDNA配列の挿入、欠失、もしくは置換によって遺伝子改変されてもよく、または改変されなくてもよい。例えば、該DNAは、所望のコード配列または胚形成を促進もしくは阻害する配列の挿入または欠失によって改変され得る。典型的に、そのような胚は、すべて雌性起源のDNAを含む卵母細胞のインビトロ活性化によって得られる。雌性発生は、以下で定義する単為生殖を含む。これはまた、精子DNAが活性化卵母細胞中のDNAに寄与しない活性化法を含む。
【0036】
関連局面において、卵母細胞は、IVFのために調製された過排卵対象から得られる。IVFで用いられる、ホルモンによる女性対象の処置などの「過排卵」技法は、自然の周期におけるような通常の単一の卵子ではなく、いくつかの卵子(卵母細胞)を生成するように卵巣を刺激するよう設計されている。
【0037】
卵子生成を促進するのに必要な医薬には、これらに限定されないが以下のものが含まれ得る:Lupron(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)、Orgalutran、Antagon、またはCetrotide(ゴナドトロピン放出ホルモン拮抗薬)、Follistim、Bravelle、またはGonal-F(FSH、卵胞刺激ホルモン)、Repronex(FSHとLH、黄体形成ホルモンとの組み合わせ)、およびPregnylまたはNovarel(hCG、ヒト繊毛性ゴナドトロピン)。
【0038】
関連局面において、卵子の採取は経膣超音波誘導下で行い得る。これを達成するには、各卵胞の位置を特定するために超音波を用いて、針を膣壁を通して卵巣に挿入する(例えばIV鎮静法下で)。卵胞液を試験管中に吸引して卵子を得る。
【0039】
卵母細胞の活性化が精子の進入なしに起こる過程である「単為生殖」(「単為生殖的活性化(parthenogenically activated)」および「単為生殖的活性化(parthenogenetically activated)」は互換的に用いられる)とは、すべて雌性起源のDNAを含む卵母細胞または胚細胞の活性化、例えば卵割球の活性化によって得られる、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む初期胚の発生を指す。関連局面において、「単為生殖体」とは、そのような活性化によって得られる、結果として生じた細胞を指す。別の関連局面において、「胚盤胞」とは、外部栄養膜細胞および内部細胞塊(ICM)でできた細胞の中空球を含む、受精卵母細胞または活性化卵母細胞の分割段階を指す。さらなる関連局面において、「胚盤胞形成」とは、卵母細胞の受精または活性化後の、その卵母細胞を引き続き培地中で一定期間培養して、それを外部栄養膜細胞およびICMからできた細胞の中空球にまで発生させる過程(例えば、5〜6日)を指す。
【0040】
1つの態様において、単為生殖的活性化卵母細胞を用いてクローン化ヒト胚性幹細胞株を作製する過程を開示する。発病(pathogenesis)は自然界において生殖の稀な形態ではないものの、哺乳動物はこの形態の生殖ができることは知られていない。しかしながら、近交系マウス系統LT/Svの雌由来の卵母細胞において、自発的な単為生殖が10%の割合で見出され得(Hoppe and Illmensee, Proc Natl Acad Sci USA (1982) 79:1912-1916)、かつ自発的な単為生殖はヒトにおける胞状奇胎の形成の原因にもなる(Berkowitz and Goldstein, New Eng J Med (1996) 335(23):1740-1748)。有胎盤哺乳動物由来の卵母細胞は、インビトロで単為生殖を起こすように誘発され得る;しかし、胚発生は成功していない。
【0041】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化および活性化卵母細胞の代理母への移植後、胚の生存には限界がある:マウスでは10日間;ヒツジでは21日間;ブタでは29日間;およびウサギでは11.5日間(Kure-bayashi et al., Theriogenology (2000) 53:1105-1119;Hagemann et al., Mol Reprod Dev (1998) 50:154-162;Ozil and Huneau, Development (2001) 128:917-928;Surani and Barton, Science (1983) 222:1034-1036)。この発生停止の理由は、遺伝子インプリンティングによる可能性が高い。母性ゲノムと父性ゲノムとは後成的に異なること、ならびに胚発生の成功には両セットが必要であることが示されている(Surani, Cell (1998) 93:309-312;Sasaki et al., (1992) 6:1843-1856)。理論によって縛られることはないが、単為生殖体では、遺伝物質のすべてが母性起源であるはずであり、したがって父性インプリンティングを欠いているはずである。父性インプリンティングは、胚体外組織発生、したがって除核卵母細胞の受精後の栄養膜組織の発生に関与すると考えられている(Surani and Barton, (1983)、前記)。そのため動物では、除核接合子は、その後に単為生殖的活性化を伴う核移植に有用であり得る。
【0042】
哺乳動物の単為生殖体は、胚が最終的に死滅する限られた発生のみを起こす。カニクイザルでは、中期II期にある卵母細胞のわずかに14パーセントが、インビトロ単為生殖的活性化後に、8日間の培養を経て胚盤胞期にまで発生した(Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Supple 1):11911-11916)。
【0043】
LT/Sv近交系マウス系統の処女雌において自発的活性化単為生殖体として形成された胚は、数日以内に死滅する。これらの胚の内部細胞塊(ICM)を含む細胞から、受精除核C57BL/6jマウス卵母細胞への核移植を行うと、LT/Svゲノムを有するクローン化マウスが得られる(Hoppe and Illmensee, Proc Natl Acad Sci USA (1982) 79:1912-1916)。このように、受精卵母細胞を用いることによって、単為生殖体の全期発生が可能となる。1つの局面においては、受精除核ヒト卵母細胞を用いて、ドナーの核を含む単為生殖胚の胚盤胞期までの発生を支持することができる。
【0044】
「多能性細胞」とは、未分化状態で長期間、理論上は無期限にインビトロで維持することができ、異なる分化した組織型、すなわち外胚葉、中胚葉、および内胚葉を生じ得る、すべて雌性または雄性起源のDNAを含む細胞の活性化により生成される胚由来の細胞を指す。細胞の多能性状態は好ましくは、雄性発生法または雌性発生法により生成される胚の内部細胞塊またはその内部細胞塊由来の細胞を適切な条件下で培養することにより、例えば線維芽細胞フィーダー層もしくは別のフィーダー層または白血病抑制因子(LIF)を含む培養物上で培養することにより維持される。そのような培養細胞の多能性状態は、種々の方法、例えば、(i) 多能性細胞に特有であるマーカーの発現の確認;(ii) 多能性細胞の遺伝子型を表す細胞を含むキメラ動物の作製;(iii) 動物、例えばSCIDマウスへの細胞の注射による、異なる分化細胞型のインビボでの生成;ならびに(iv) 胚様体および他の分化細胞型への細胞のインビトロでの分化(例えば、フィーダー層またはLIFの非存在下で培養した場合)の観察により確認することができる。
【0045】
「二倍体細胞」とは、すべて雄性または雌性起源の二倍体DNA含有物を有する細胞、例えば卵母細胞または卵割球を指す。
【0046】
「一倍体細胞」とは、すべて雄性または雌性起源である一倍体DNA含有物を有する細胞、例えば卵母細胞または卵割球を指す。
【0047】
活性化とは、例えばこれに限定されないが減数分裂の中期IIにある受精または未受精卵が、典型的に染色分体対の分離、第2極体の放出を含む過程を起こし、それぞれ1本の染色分体を有する半数の染色体を有する卵母細胞を生じる過程を指す。活性化は、すべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞を誘発して、識別可能な内部細胞塊および栄養外胚葉を有する胚にまで発生させる方法であって、多能性細胞の作製に有用であるが、それ自体は生存能力のある子孫にまで発達させることができない可能性が高い方法を含む。活性化は、例えば以下条件のうちの1つにおいて行うことができる:(1) 第2極体の放出を引き起こさない条件;(ii) 極体の放出を引き起こすが、極体の放出が阻害される条件;または(iii) 一倍体卵母細胞の第一の細胞分裂を阻害する条件。
【0048】
「中期II」とは、細胞のDNA含有物が、各染色体が2本の染色分体によって示される一倍体の数の染色体からなる細胞発生の段階を指す。本発明では、ヒト中期II卵母細胞の単為生殖的活性化後の第2減数分裂の抑制、および二倍体胚の生成により、MHCヘテロ接合型phESCが誘導された。
【0049】
一般に、哺乳動物の卵管および子宮内の酸素圧は、通常大気において認められる酸素圧の半分よりもはるかに低い(Fischer and Bavister, J Reprod Fertil (1993) 99:673-679;Kaufman et al., Comp. Biochme Physiol Comp Physiol (1994) 107:673-678)。IVF後のヒト胚の培養を成功させるには、20%および5%の酸素濃度が用いられている。しかしながら、酸素の増加は、アポトーシスを誘導し得る活性酸素種を生じ得る(Van Soom et al., Theriogeology (2002) 57:1453-1465)。低酸素濃度は着床前胚の生存率を高め、それらの正常な発生を助け、多数の細胞数および十分に形成された内部細胞塊(ICM)によって示される健常胚盤胞の形成を高率で引き起こすことが報告されている(Dumoulin et al., Hum Reprod (1999) 14:465-469)。以前の研究において、ヒト単為生殖胚は、酸素含量が高い(20%)気体混合物を用いてインビトロで発生がなされた(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:152-161;Cibelli et al., J Reg Med (2001) 2:25-31)。
【0050】
1つの態様において、ICM単離およびphESC培養の方法は、ヒト皮膚線維芽細胞を用いる段階を含み、細胞は、動物血清の代わりにヒト臍帯血血清(HUCBS)を用いて増殖させ、フィーダー細胞として使用した。phESC株の誘導および培養は、HUCBSを添加した、hESC培養用に設計されたVitroHES培地(Vitrolife)中で行うことができる。例えば、hESCの作製におけるHUCBSの使用は、ICM成長およびphESC増殖にプラス効果をもたらした(例えば、VitroHES培地中でのphESCの増殖は、HUCBSの非存在下よりもこれを添加した場合により良好であった)。さらに、栄養外胚葉生成物から機械的に薄く切り取ることによる全胚盤胞からのICMの単離は、免疫手術およびトリプシン処理に対して、より穏やかでかつ好ましい方法であるようであった。さらに、本方法によって、動物由来試薬との相互作用の排除が可能になった。
【0051】
本発明のphESC株はhESC株によって示される典型的な特徴を示すが、phESC株は、単為生殖により誘導されたサルES細胞株Cyno-1で見られるように、卵母細胞ドナーの遺伝子型と実質的に同じ遺伝子型を含む独特の特徴を示す(Vrana et al., 2003, Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100:11911-11916)。したがって、単為生殖胚からのhESC株の作製は、SCNTと比較して、MHCが適合し、およびおそらくは組織適合性の胚性幹細胞を作製するためのより優れた方法であると考えられる。
【0052】
マウスおよびサル単為生殖性幹細胞の以前の研究が示す通り、これらの細胞は、全3種類の胚性胚葉からの派生物を伴う奇形腫を形成し得る(Lin et al., 2003、前記;Vrana et al.、前記)。選択的な培養条件下でのサル単為生殖性胚性幹細胞は、神経細胞、ならびに機能的なドーパミン作動性およびセロトニン作動性ニューロンに分化した(Vrana et al., 2003、前記)。本発明のphESCもまた、インビトロで全3種類の胚葉の派生物に分化することができ、多能性である。さらに、phESC由来の胚様体は、拍動する心筋細胞様細胞を生じさせることができた。
【0053】
本発明は、単為生殖性ヒト胚性幹細胞を作製する方法を実証し、実験データから、phESCを、ヒト変性疾患の治療において大きな価値があると考えられる機能的細胞に分化させることができることが示される。
【0054】
1つの態様において、中期II卵母細胞は、種々のO2圧気体環境下において卵母細胞をインキュベートすることにより活性化する。関連局面において、低O2圧気体環境は、約2%、3%、4%、または5%のO2濃度を含む気体混合物によって作製する。さらなる関連局面において、気体混合物は約5% CO2を含む。さらに、気体混合物は、約90% N2、91% N2、または93% N2を含む。この気体混合物は、約5% CO2、20% O2、および75% N2である、5% CO2空気と区別されるべきである。
【0055】
「O2圧」とは、流体(すなわち、液体または気体)中の酸素の分圧(気体混合物の単一成分による圧力)を指す。低圧とは酸素の分圧(pO2)が低い場合であり、高圧とはpO2が高い場合である。
【0056】
「定義された培地条件」とは、最適な増殖に必要なその中の成分の濃度が詳細な、細胞を培養するための環境を指す。例えば、細胞の用途(例えば、治療適用)に応じて、異種タンパク質を含む条件から細胞を取り出すことは重要である;すなわち、培養条件は動物質を含まない条件であるか、または非ヒト動物タンパク質を含まない。関連局面において、「体外受精(IVF)培地」とは、その上または中で受精卵母細胞を増殖させることができる、化学的に定義された物質を含む栄養系を指す。
【0057】
「細胞外マトリックス(ECM)基質」とは、最適な増殖を支持する細胞の直下の表面を指す。例えば、そのようなECM基質には、これらに限定されないが、マトリゲル、ラミニン、ゼラチン、およびフィブロネクチン基質が含まれる。関連局面において、そのような基質は、IV型コラーゲン、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカンを含み、種々の増殖因子(例えば、bFGF、上皮増殖因子、インスリン様増殖因子-1、血小板由来増殖因子、神経成長因子、およびTGF-β-1)を含み得る。
【0058】
「胚」とは、任意に改変され得るすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞、例えば卵母細胞または他の胚細胞の活性化によって生じ、識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を含み、生存能力のある子孫を生じることができず、かつDNAがすべて雄性または雌性起源である胚を指す。内部細胞塊またはその中に含まれる細胞は、上記のように多能性細胞の作製に有用である。
【0059】
「内部細胞塊(ICM)」とは、胎児組織を生じる胚の内部を指す。本明細書において、これらの細胞は、インビトロで多能性細胞の継続した供給源を提供するために用いられる。さらに、ICMには、雄性発生または雌性発生から生じる胚、すなわちすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞の活性化により生じる胚の内部が含まれる。そのようなDNAは、例えばヒトDNA、例えばヒト卵母細胞または精子DNAであり、遺伝子改変されている場合もあればされていない場合もある。
【0060】
「栄養外胚葉」とは胎盤組織を生じる初期胚の、別の部分を指し、これには、雄性発生または雌性発生から生じる胚、すなわちすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞、例えばヒト卵母細胞または精子の活性化により生じる胚の組織が含まれる。
【0061】
「分化細胞」とは、特定の分化した状態、すなわち非胚状態を有する非胚細胞を指す。3つの最初期分化細胞型は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉である。
【0062】
「実質的に同一である」とは、相違を測定する能力(例えば、HLAタイピング、SNP解析などによる)において本質的に同じであることにほぼ近い、特定の特徴に関する同一性の質を指す。
【0063】
「組織適合性」とは、生物が外来組織の移植片を許容する程度を指す。
【0064】
「ゲノムインプリンティング」とは、ゲノム全体にわたるいくつかの遺伝子が、それらの親起源に従って単一対立遺伝子的に発現する機構を指す。
【0065】
文法上の変化形を含めた「ホモプラスミー」とは、細胞または個体内に同じミトコンドリアDNA(mtDNA)型が存在することを指す。
【0066】
文法上の変化形を含めた「ヘテロプラスミー」とは、細胞または個体内に2つ以上のミトコンドリアDNA(mtDNA)型の混合物が存在することを指す。
【0067】
「片親性」とは、そこから別のものが生じ、それに対してその別のものが補助的なままである、1つまたは複数の細胞または個体を指す。
【0068】
「機械的に単離すること」とは、物理的力により細胞凝集体を分離する過程を指す。例えば、そのような過程は、非ヒト物質を含む可能性がある酵素(または他の細胞切断産物)の使用を排除する。
【0069】
天然環境において、卵巣由来の未成熟卵母細胞(卵子)は、減数分裂を経て減数分裂の中期IIまで進行する成熟過程を起こす。次いで、卵母細胞は中期IIで停止する。中期IIでは、細胞のDNA含有物は、それぞれ2本の染色分体によって示される一倍体の数の染色体からなる。
【0070】
そのような卵母細胞は、例えばこれに限定されないが糖のマイクロインジェクションによる凍結保存によって、永久に維持することができる。
【0071】
1つの態様において、凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階、卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結してこれを休眠状態に入らせる段階、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階、卵母細胞または単為生殖体を融解する段階、卵母細胞をイオノフォアの存在下において高O2圧下で単為生殖的に活性化し、その後卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階、活性化卵母細胞または単為生殖体を胚盤胞が形成されるまで培養する段階、胚盤胞から内部細胞塊(ICM)を単離する段階、およびICMの細胞をヒトフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、ICM細胞を培養する段階を高O2圧下で行う、方法を提供する。
【0072】
1つの局面において、記載通りに得られた卵母細胞は、胚試験済みミネラルオイル(Sigma)で被覆した改変等張IVFまたは任意の他の適切な培地に移す。必要に応じて、卵母細胞は、マイクロインジェクション用に計画した量と同じ濃度の細胞外糖と共にインキュベートし得る。例えば、0.1 M糖を注入するには、卵母細胞を0.1 M糖を含むDMEM/F-12中で平衡化し得る。1つの局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度(すなわち、低Na+培地)を含む。関連局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも高いK+濃度(すなわち、高K+)を含む。さらなる関連局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度および高いK+濃度(すなわち、低Na+/高K+培地)を含む。1つの局面において、凍結保存剤は、これに限定されないがHEPESを含む有機緩衝液を含む。別の局面において、凍結保存剤は、アポトーシスタンパク質(例えば、カパーゼ(capase))を阻害する成分を含む。
【0073】
または、マイクロインジェクションの前に細胞容積を減少させるために、卵母細胞を任意に、NaClなどの任意の他の実質的非透過性溶質で平衡化することができる。細胞容積のこの最初の減少で、マイクロインジェクションの前に高張培地中でインキュベートしていない卵母細胞と比較して、マイクロインジェクションした卵母細胞の最終容積がより小さくなり得る。最終容積がこのように小さくなることで、卵母細胞の膨張による潜在的有害作用が最小限に抑えられ得る。マイクロインジェクション用の細胞を調製するためのこの一般的手順はまた、他の細胞型(例えば、活性化卵母細胞、hES細胞など)にも使用することができる。
【0074】
次いで、卵母細胞に凍結保存剤をマイクロインジェクションする。マイクロインジェクションの装置および手順は当技術分野において十分に特徴づけられており、細胞内に小分子を注入する際の使用が知られているマイクロインジェクション装置を本発明において用いることができる。例示的なマイクロインジェクション段階では、卵母細胞に圧力10 psiで30ミリ秒間マイクロインジェクションし得る。標準的なマイクロインジェクション技法の別の例は、Nakayama and Yanagimachi(Nature Biotech. 16:639-642, 1998)により記載されている方法である。
【0075】
本過程で有用な凍結保存剤には、凍結保護特性を有し、通常は非透過性である任意の化学物質が含まれる。特に、凍結保存剤は、単独の、または他の従来の凍結保存剤と混合した糖を含み得る。トレハロース、スクロース、フルクトース、およびラフィノースなどの炭水化物糖を、約1.0 M以下、より好ましくは0.4 M以下の濃度までマイクロインジェクションすることができる。1つの局面において、濃度は0.05 M〜0.20 Mである。さらに、貯蔵前に、細胞外の糖または従来の凍結保存剤を添加してもよい。マイクロインジェクション前に細胞を高張溶液中でインキュベートした場合、実質的非透過性溶質はマイクロインジェクション後に培地中に残存させてもよく、またはこの溶質を低濃度含むまたは含まない培地で細胞を洗浄することにより培地から除去してもよい。
【0076】
大きすぎて膜を通過することができないために通常細胞膜を透過しないある種の糖または多糖は、凍結保存目的に関して優れた生理化学的および生物学的特性を有する。これらの糖は通常はそれ自体では細胞膜を通過しないが、記載の方法を用いることで、通常は非透過性であるこれらの糖を細胞内にマイクロインジェクションして有益な効果をもたらすことができる。
【0077】
本方法において凍結保存剤として特に有用である、細胞に対する安定または保存効果を有する非透過性糖には、スクロース、トレハロース、フルクトース、デキストラン、およびラフィノースが含まれる。これらの糖の中でも、グルコースの非還元二糖であるトレハロースは、細胞構造を安定化する上で低濃度で並はずれて効果的であることが示されている。細胞外糖脂質または糖タンパク質の添加もまた、細胞膜を安定化し得る。
【0078】
凍結保存剤のマイクロインジェクション後、細胞を貯蔵用に調製する。凍結および/または乾燥の種々の方法を使用して、細胞を貯蔵用に調製することができる。特に、本明細書においては3つのアプローチ:真空乾燥または風乾、凍結乾燥、および凍結融解プロトコールを記載する。乾燥過程は、安定化された生体物質を外気温で輸送および貯蔵できるという利点を有する。
【0079】
典型的には、1〜2 M DMSOを加えた卵母細胞を中間温度(-60℃〜-80℃)まで非常に遅い冷却速度(0.3〜0.5℃/分)で冷却してから、貯蔵のために液体窒素中に入れる。次いで、試料をこの温度で貯蔵し得る。
【0080】
次に懸濁した材料を、例えば液体窒素(LN2)中にバイアルを所望の時間放置することにより、凍結保存温度で貯蔵し得る。
【0081】
タンパク質を真空乾燥または風乾するおよび凍結乾燥するプロトコールは、当技術分野において十分に特徴づけられており(Franks et al., 「Materials Science and the Production of Shelf-Stable Biologicals」, BioPharm, October 1991, p. 39;Shalaev et al., 「Changes in the Physical State of Model Mixtures during Freezing and Drying: Impact on Product Quality」, Cryobiol. 33, 14-26 (1996))、そのようなプロトコールを用いて、記載の方法により貯蔵するための細胞懸濁液を調製することができる。風乾に加えて、細胞懸濁液から水分を除去するために用いられ得る他の対流乾燥法は、窒素または他の気体の対流を含む。
【0082】
本発明の方法で有用な例示的な蒸発真空乾燥プロトコールは、12ウェルプレートのウェルに各20μlを入れる段階、外気温で2時間真空乾燥する段階を含み得る。当然のことながら、バイアル中の細胞を乾燥させる段階を含む他の乾燥法を用いることもできる。この様式で調製した細胞は、乾燥状態で貯蔵し、DMEMまたは任意の他の適切な培地で希釈することにより再水和することができる。
【0083】
貯蔵用の細胞を調製するために凍結乾燥を使用する本発明の方法は、細胞懸濁液の凍結から開始する。当技術分野において公知である凍結法を使用することができるが、凍結融解法に関して本明細書において記載した簡便な浸漬凍結法を、凍結乾燥プロトコールにおける凍結段階に使用してもよい。
【0084】
凍結後、2段階の乾燥過程を使用し得る。第1段階では、凍結した水を蒸発させるために昇華エネルギーを加える。2次乾燥は、試料中の純粋な結晶氷が昇華された後に行う。凍結乾燥細胞は、真空乾燥に関して上記したのと同じ様式で貯蔵および水和することができる。その後、生存細胞を回復させ得る。
【0085】
凍結または乾燥状態から細胞を回復させた後、外部凍結保存剤を任意に培地から除去し得る。例えば、低濃度の凍結保存剤を含む対応する培地を添加することによって、培地を希釈することができる。例えば、回復させた細胞は、細胞貯蔵に使用した濃度よりも低濃度の糖を含む培地中で約5分間インキュベートし得る。このインキュベーションに関して、培地は、凍結保存剤として使用したものと同じ糖;ガラクトースなどの異なる凍結保存剤;または任意の他の実質的非透過性溶質を含み得る。培地のモル浸透圧濃度の減少によって誘導される浸透圧ショックを最小限に抑えるために、毎回より低濃度の凍結保存剤でこの希釈段階を複数回行うことによって、細胞外凍結保存剤の濃度をゆっくりと減少させることができる。この希釈段階は、存在する細胞外凍結保存剤がなくなるまで、または凍結保存剤の濃度または培地のモル浸透圧濃度が所望のレベルに減少するまで繰り返すことができる。
【0086】
単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、自己幹細胞、およびそれらに由来する分化細胞は、将来の必要性に応じて、細胞の回復を可能にする様式で貯蔵または「バンク化」することができる。単為生殖的活性化卵母細胞および自己幹細胞または同種幹細胞の一定分量を任意の時点で取り出して、多くの未分化細胞の培養物にまで増殖させ、次いで特定の細胞型または組織型に分化させることができ、その後疾患を治療するために、または対象中の多機能組織と置換するために用いることができる。1つの局面において、細胞はドナーから単為生殖的に誘導され、個体または近親者が細胞に長期間アクセスできるように細胞を保存し得る。別の局面において、細胞は、ヒト集団において共通であるHLAハプロタイプについてホモ接合性であるドナーから単為発生的に誘導され、同じまたはほぼ同じHLAハプロタイプを有する個体が細胞に長期間アクセスできるように細胞を保存し得る。1つの局面において、細胞は、ヒト集団において共通であるHLAハプロタイプを有するドナーから単為生殖的に誘導され、同じまたはほぼ同じHLAハプロタイプを有する個体が細胞に長期間アクセスできるように細胞を保存し得る。
【0087】
1つの態様において、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞もしくは同種幹細胞試料、ならびにそれらの分化派生物を貯蔵するための細胞バンクを提供する。別の態様において、そのような細胞バンクを管理する方法を提供する。その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20030215942号は、幹細胞バンクシステムの例を提供する。
【0088】
上記のような方法を用いて、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞または同種幹細胞試料、ならびにそれらの分化派生物の単離およびインビトロ増殖、ならびにそれらの凍結保存により、移植可能なヒト幹細胞の「バンク」の確立が容易になる。より少量の細胞を貯蔵することが可能であるため、バンク化手順は比較的小さな空間を占め得る。したがって、多くの個体の細胞を、比較的わずかな費用で短期的または長期的に貯蔵または「バンク化」することができる。
【0089】
1つの態様においては、試料の一部は、処理および貯蔵の前または後に試験に利用される。
【0090】
本発明はまた、試料の位置を探す必要がある場合に容易に検索できるように、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞もしくは同種幹細胞試料、ならびにそれらの分化派生物を記録するまたはこれに索引を付ける方法を提供する。この目的を達成するには、任意の索引付けおよび検索システムを用いることができる。単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己同種幹細胞、ならびにそれらの分化派生物を貯蔵できるように、任意の適切な型の貯蔵システムを用いることができる。試料は個体試料を貯蔵するように設計することができ、または何百、何千、およびさらには何百万という異なる細胞試料を貯蔵するよう設計することができる。
【0091】
貯蔵された単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞もしくは同種幹細胞試料、ならびにそれらの分化派生物は、信頼性のあるかつ正確な検索のために索引を付けることができる。例えば、各試料に英数字コード、バーコード、もしくは任意の他の方法、またはそれらの組み合わせで印を付けることができる。また、各単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己同種幹細胞試料、ならびにそれらの分化派生物、ならびにバンク中のその位置の同定を可能にする、ならびにバンク外にある細胞試料の供給源および/または型の同定を可能にする情報のアクセス可能でかつ可読のリストが存在してもよい。この索引付けシステムは、例えば手作業でまたは非手作業で当技術分野において公知である任意の方法で管理することができ、例えばコンピュータおよび従来のソフトウェアを用いることができる。
【0092】
1つの態様においては、試料が必要な場合にいつでもドナーが利用できるように、索引付けシステムを用いて細胞試料を組織化する。他の態様において、細胞試料は、元のドナーと血縁関係にある個体によって利用され得る。別の態様において、細胞試料は、細胞試料のHLAハプロタイプと適合するHLAハプロタイプを有する個体によって利用され得る。索引付けシステムに一旦記録された時点で、細胞試料を適合目的のために利用することができ、例えば適合プログラムは適合する型情報を有する個体を同定し、個体は適合する試料の提供を受ける選択権を有する。
【0093】
貯蔵バンクシステムは、複数の個体および複数の細胞試料に関連した複数の記録を記憶するシステムを含み得る。各記録は、細胞試料または特定の個体に関する型情報、遺伝型情報、または表現型情報を含み得る。1つの態様において、システムは、試料の型と試料の入手を希望する個体の型を適合させる交差適合表を含む。
【0094】
1つの態様において、データベースシステムは、バンク中の各単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞もしくは同種幹細胞試料、またはそれらの分化派生物の情報を記憶する。特定の情報は、各試料と関連して記憶される。情報は、特定のドナー、例えばドナーの同定およびドナーの病歴と関連し得る。例えば、各試料のHLA型を同定することができ、HLA型情報が各試料と関連して記憶され得る。記憶される情報はまた、在庫情報であってよい。各試料と共に記憶される情報は探索可能であり、直ちに位置を探しクライアントに提供できるような方法で試料を特定する。
【0095】
したがって、本発明の態様は、ドナー、寄託日、寄託細胞の型、存在する細胞表面マーカーの型、細胞のHLA型、ドナーに関する遺伝情報、または他の適切な情報、ならびに維持記録および貯蔵細胞の位置などの貯蔵の詳細、ならびに他の有用な情報などの情報を含むコンピュータベースのシステムを利用する。
【0096】
「コンピュータベースのシステム」という用語は、貯蔵細胞に関する情報を記憶、探索、および検索するために用いられるハードウェア、ソフトウェア、および任意のデータベースを指す。コンピュータベースのシステムは好ましくは、上記の記憶媒体、ならびにデータにアクセスするおよびデータを操作するためのプロセッサを含む。本態様のコンピュータベースのシステムのハードウェアは、中央演算処理装置(CPU)およびデータベースを含む。当業者は、現在利用できるコンピュータベースのシステムのいずれか1つが適切であることを容易に理解し得る。
【0097】
1つの態様において、コンピュータシステムは、メインメモリ(好ましくはRAMとして実装される)、ならびにハードドライブおよびリムーバブル媒体記憶装置などの種々の2次記憶装置に接続されたバスに接続されたプロセッサを含む。リムーバブル媒体記憶装置は、例えばフロッピーディスクドライブ、DVDドライブ、光ディスクドライブ、コンパクトディスクドライブ、磁気テープドライブ等を示し得る。制御論理および/またはその中に記録されたデータを含むフロッピーディスク、コンパクトディスク、磁気テープ等のリムーバブル記憶媒体は、リムーバブル記憶装置に挿入することができる。コンピュータシステムは、リムーバブル媒体記憶装置に一旦挿入されたリムーバル媒体記憶装置から制御論理および/またはデータを読み出すための適切なソフトウェアを含む。単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関する情報は、周知の様式でメインメモリ、2次記憶装置のいずれか、および/またはリムーバブル記憶媒体に保存され得る。これらのデータにアクセスするおよびこれらのデータを処理するためのソフトウェア(探索ツール、比較ツール等)は、実行中のメインメモリ中に存在する。
【0098】
本明細書で使用する「データベース」とは、それらの分化派生物を含めた単為生殖的活性化卵母細胞収集物、および/または自己幹細胞もしくは同種幹細胞収集物、ならびにドナーに関する任意の有用な情報を記憶し得るメモリを指す。
【0099】
貯蔵された単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞もしくは同種幹細胞、ならびにそれらの分化派生物に関するデータは、種々の形式の種々のデータ処理プログラムで記憶および操作することができる。例えば、データは、Microsoft WORDまたはWORDPERFECTなどの文書処理ファイルにテキストとして、DB2、SYBASE、またはORACLEなどの当業者に周知の種々のデータベースプログラムでASCIIファイル、htmlファイル、またはpdfファイルとして記憶することができる。
【0100】
「探索プログラム」とは、データベース中の凍結保存試料に関する詳細を探索するため、またはそのような試料に関する情報を比較するために、コンピュータベースのシステム上で実行される1つまたは複数のプログラムを指す。「検索プログラム」とは、データベース中の関心対象のパラメータを同定するために、コンピュータベースのシステム上で実行され得る1つまたは複数のプログラムを指す。例えば、検索プログラムを用いて、特定のプロファイルと適合する試料、特定のマーカーもしくはDNA配列を有する試料を見出すこと、または特定の個体に対応する試料の位置を見出すことができる。
【0101】
1つの細胞バンク中に貯蔵できる細胞試料の数に上限はない。1つの態様においては、異なる個体からの数百の産物が、1つのバンクまたは貯蔵設備に貯蔵される。別の態様においては、最大で数百万までの産物が、1つの貯蔵施設に貯蔵され得る。単一の貯蔵施設を用いて単為生殖的活性化卵母細胞および/もしくは自己幹細胞試料を保存することができ、または複数の貯蔵施設を使用することもできる。
【0102】
本発明のいくつかの態様において、貯蔵設備は、例えば自動ロボット検索機構および細胞試料操作機構などの、貯蔵細胞試料を組織化するおよびそのような試料に索引を付ける任意の方法のための手段を有し得る。設備は、細胞試料を処理するための顕微操作装置を含み得る。細胞試料の効率的な貯蔵および検索には、公知の従来技術を用いることができる。例示的な技術には、これらに限定されないが、機械視覚、ロボティクス、自動搬送システム(Automated Guided Vehicle System)、自動格納検索システム(Automated Storage and Retrieval Systems)、コンピュータ統合生産、コンピュータ支援プロセス計画(Computer Aided Process Planning)、統計的プロセス制御等が含まれる。
【0103】
試料を必要とする個体に関連した型情報または他の情報は、例えばデータベースシステム、索引付けシステム等の、適切な適合産物を同定するために用いることのできるシステムに記録することができる。システムに一旦記録された時点で、個体とドナー細胞試料の型の間で適合が行われ得る。好ましい態様において、ドナー試料は、試料を必要とする個体と同じ個体に由来する。しかし、類似してはいるが同一ではないドナー/レシピエント適合もまた用いることができる。適合試料は、適合する型識別子を有する個体に使用することができる。本発明の1つの態様において、個体の識別情報は細胞試料と関連して記憶される。いくつかの態様において、適合過程は試料の採取の頃に行われるか、または処理、貯蔵中の任意の時点で、もしくは必要に応じて行われ得る。したがって、本発明のいくつかの態様では、適合過程は、個体が細胞試料を実際に必要とする前に行われる。
【0104】
それらの分化派生物を含めた単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己もしくは幹細胞試料が個体によって必要とされる場合、それらは必要に応じて数分以内に検索され、研究、移植、または他の目的に利用され得る。試料はまた、それを移植または他の必要性のために調製する目的でさらに処理され得る。
【0105】
通常、中期IIで停止している卵母細胞は排卵され、精子により受精する。精子は、活性化と称される過程で減数分裂の完了を開始する。活性化の間に、染色分体の対は分離し、第2極体が放出され、卵母細胞はそれぞれ1本の染色分体を有する一倍体の数の染色体を保持する。精子は染色体のもう一方の一倍体相補体を提供して、単一の染色分体を有する完全な二倍体細胞が作製される。次に染色体は、最初の細胞周期中のDNA合成を経て進行する。これらの細胞は次いで胚へと発生する。
【0106】
これに対して本明細書に記載する胚は、細胞、典型的にはすべて雄性または雌性起源のDNAを含む哺乳動物卵母細胞または卵割球の人工的活性化により発生する。発明の背景で論じたように、未受精卵母細胞の人工的活性化に関する多くの方法が文献に報告されている。そのような方法には、物理的方法、例えば培養卵母細胞の穿刺、操作などの機械的方法、冷却および加熱などの熱的方法、電気パルスの反復、トリプシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼなどの酵素処理、浸透圧処理、2価陽イオンならびにイオノマイシンおよびA23187などのカルシウムイオノフォアによるようなイオン処理、エーテル、エタノール、テトラカイン、リグノカイン、プロカイン、フェノチアジンなどの麻酔薬の使用、チオリダジン、トリフルオペラジン、フルフェナジン、クロロプロマジンなどの精神安定剤、シクロヘキシミド、ピューロマイシンなどのタンパク質合成阻害剤の使用、リン酸化阻害剤、例えばスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、およびDMAPなどのプロテインキナーゼ阻害剤の使用、これらの組み合わせ、加えて他の方法が含まれる。
【0107】
そのような活性化法は当技術分野で周知であり、例えば米国特許第5,945,577号において論じられている。
【0108】
1つの態様においては、中期IIにあるヒト細胞、典型的にはすべて雄性または雌性起源のDNAを含む卵母細胞または卵割球を、卵母細胞の人工的活性化をもたらすために人工的に活性化する。
【0109】
関連局面においては、二倍体である活性化細胞、例えば卵母細胞を、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚に発生させる。これは、胚盤胞発生を促進する公知の方法および培地を用いて引き起こすことができる。
【0110】
雌性発生胚を培養して識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を生じさせた後、内部細胞塊の細胞を用いて所望の多能性細胞株を作製する。これは、内部細胞塊に由来する細胞または内部細胞塊全体を、分化を阻害する培養物上に移すことによって達成し得る。これは、分化を阻害するフィーダー層、例えば出生後ヒト組織に由来する線維芽細胞等の線維芽細胞もしくは上皮細胞、またはLIFを産生する他の細胞上に内部細胞塊を移すことによって行うことができる。これらに限定されないが、馴化培地(Amit et al., Developmental Biol (2000) 227:271-278)、bFGFおよびTGF-β1(LIFを伴うまたは伴わない)(Amit et al., Biol Reprod (2004) 70:837-845)、gp130/STAT3経路を活性化する因子(Hoffman and Carpenter, Nature Biotech (2005) 23(6):699-708)、PI3K/Akt、PKB経路を活性化する因子(Kim et al., FEBS Lett (2005) 579:534-540)、骨形成タンパク質(BMP)スーパーファミリーのメンバーである因子(Hoffman and Carpenter (2005)、前記)、ならびに標準/β-カテニンWntシグナル伝達経路を活性化する因子(例えば、GSK-3特異的阻害剤;Sato et al., Nat Med (2004) 10:55-63)の添加を含む他の因子/成分を用いて、細胞を未分化状態で維持するための適切な培養条件を提供することができる。関連局面において、このような因子は、フィーダー細胞および/またはECM基質を含む培養条件を構成し得る(Hoffman and Carpenter (2005)、前記)。
【0111】
1つの局面において、内部細胞塊細胞は、ヒト出生後包皮もしくは皮膚線維芽細胞または白血病抑制因子を産生する他の細胞上で、または白血病抑制因子の存在下で培養する。関連局面においては、フィーダー細胞を、ICMと共に播種する前に不活化する。例えば、フィーダー細胞は、抗生物質を用いて有糸分裂を不活化することができる。関連局面において、抗生物質は、これに限定されないがマイトマイシンCであってよい。関連局面において、フィーダー細胞は、放射を用いて非活性化することができる。
【0112】
培養は、細胞を長期間、理論的には永久に未分化の多能性状態で維持する条件下で行う。1つの態様においては、卵母細胞を高O2圧下でカルシウムイオノフォアで単為生殖的に活性化し、その後卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる。単為生殖的活性化卵母細胞から生じたICMを高O2圧下で培養するが、この場合細胞は例えば、20% O2を含む気体混合物を用いて維持する。1つの局面において、培養可能とは、培養し得ることまたは培養に適していることを指す。関連局面において、ICMの単離は4日間の胚盤胞培養後に機械的に行い、この場合の培養はフィーダー細胞上で行う。そのような培養は例えば、免疫手術の場合のように、動物源に由来する物質を使用する必要性を排除する。
【0113】
関連局面において、ICM用の培地には、これに限定されないがヒト臍帯血清を含む非動物血清を補充し、この場合、血清は定義された培地(例えば、IVF、MediCult A/S、デンマーク;Vitrolife、スウェーデン;またはZander IVF, Inc.、フロリダ州、ベロビーチから入手可能)中に存在する。別の局面において、提供する培地および過程は動物産物を含まない。関連局面において、動物産物は、非ヒト供給源に由来する血清、インターフェロン、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、および増殖因子を含む産物である。
【0114】
本発明によって作製された細胞の多能性状態は、種々の方法により確認することができる。例えば、細胞を、特有のES細胞マーカーの有無に関して試験することができる。ヒトES細胞の場合、そのようなマーカーの例は前記に同定されており、これにはSSEA-4、SSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT 4が含まれ、当技術分野で公知である。
【0115】
また多能性は、適切な動物、例えばSCIDマウスに細胞を注射し、分化細胞および組織の生成を観察することによって確認することができる。多能性を確認するさらに別の方法は、本多能性細胞を用いてキメラ動物を作製し、導入した細胞の異なる細胞型への寄与を観察することである。キメラ動物を作製する方法は当技術分野で周知であり、米国特許第6,642,433号に記載されている。
【0116】
多能性を確認するさらに別の方法は、分化を支持する条件下で培養した場合の(例えば、線維芽細胞フィーダー層の除去)、胚様体および他の分化細胞型へのES細胞分化を観察することである。この方法を利用して、本多能性細胞が組織培養で胚様体および異なる分化細胞型を生じることが確認された。
【0117】
完全に雌性起源のDNAに由来する生じた多能性細胞および細胞株、好ましくはヒト多能性細胞および細胞株は、多くの治療および診断適用を有する。そのような多能性細胞は、多くの疾患状態の治療において細胞移植療法または遺伝子治療(遺伝子改変されている場合)に用いることができる。
【0118】
この点で、マウス胚性幹(ES)細胞はほぼすべての細胞型に分化し得ることが知られている。したがって、本発明に従って作製されたヒト多能性(ES)細胞は、類似の分化能を有するはずである。本発明による多能性細胞は、公知の方法に従って、所望の細胞型が得られるよう分化させるために誘導される。例えば、本発明に従って作製されたヒトES細胞は、分化培地中で細胞分化を提供する条件下でそのような細胞を培養することにより、造血幹細胞、筋細胞、心筋細胞、肝細胞、島細胞、網膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿路細胞等に分化するよう誘導することができる。ES細胞の分化をもたらす培地および方法は当技術分野で公知であり、適切な培養条件も当技術分野で公知である。
【0119】
例えば、Palacios et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7530-7537 (1995)は、幹細胞を誘導手順に供することによる胚細胞株からの造血幹細胞の生成を開示しており、これは、最初にそのような細胞の凝集物をレチノイン酸を欠く懸濁培地中で培養し、その後レチノイン酸を含む同じ培地中で培養し、次に細胞凝集物を細胞接着を提供する基質に移すことを含む。
【0120】
さらに、Pedersen, J. Reprod. Fertil. Dev., 6:543-552 (1994)は、特に造血細胞、筋細胞、心筋細胞、神経細胞を含む種々の分化細胞型を生成するための胚性幹細胞のインビトロ分化法を開示している多くの論文について言及する総説である。
【0121】
さらに、Bain et al., Dev. Biol., 168:342-357 (1995)は、神経特性を有する神経細胞を生成するための、胚性幹細胞のインビトロ分化を開示している。これらの参考文献は、胚細胞または幹細胞から分化細胞を得るための報告された方法の例である。したがって、当業者であれば、公知の方法および培地を用いて、遺伝子改変またはトランスジェニックES細胞を含む本ES細胞を培養して、所望の分化細胞型、例えば神経細胞、筋細胞、造血細胞等を得ることができる。本明細書に記載する方法によって作製される多能性細胞は、任意の所望の分化細胞型を得るために用いることができる。
【0122】
例えば、hpSC-Hhom株の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)ホモ接合性は、治療適用に独自に適していると考えられる。卵母細胞ドナーをそのHLAハプロタイプおよびドナーの生物学上の親のHLAハプロタイプに従って適切に選択することによって、ならびにFDAに認可された製造プロトコールを用いて、その組織派生物が集合的にかなりの数の個体とMHC適合し得る細胞株のバンクを作製することが可能である。共通した型に関して選択されたわずか10種類の一連のHLAホモ接合型ヒト胚性幹細胞株が、英国のレシピエントの37.7%に対して完全なHLA-A、HLA-B、およびHLA-DR適合を、ならびに67.4%に対して有益な適合を提供し得ることが示唆されている(Taylor C.J. et al., Lancet (2005) 366(9502):2019-2025)。米国人集団を用いると、計算から、人種集団当たりほぼ200種類の共通ハプロタイプが存在することが示唆される(Mori M. et al., Transplantation (1997) 64:1017-1027)。hpSC-Hhom-4株は最もよく見られるハプロタイプを保有し、この集団内の約5%の個体に対してMHC適合を潜在的に提供する。したがって、hpSC-Hhom株は、直ちに臨床に適用するために利用することができる、集団にHLA適合した分化細胞および組織の貯蔵物を確立するのに理想的に適している。考えられる懸念は、ヘテロ接合レシピエントにおいて移植片対宿主病(Billingham, RE., Harv Led (1966) 62:21-78)を潜在的に誘発し得る造血系派生物であり、このような場合には、患者特異的な単為生殖性幹細胞が解決法を提供し得る。
【0123】
分化ヒト細胞の治療的使用法は、比類なきものである。例えば、ヒト造血幹細胞は、骨髄移植を必要とする医学的治療において用いることができる。このような手順は、多くの疾患、例えば卵巣癌および白血病などの後期癌、ならびにエイズなどの免疫系を損なう疾患を治療するために用いられる。造血幹細胞は、例えば男性または女性の癌またはエイズ患者に由来する雄性または雌性DNAを除核卵母細胞と組み合わせ、上記の通りに多能性細胞を得て、このような細胞を分化を支持する条件下で造血幹細胞が得られるまで培養することにより得ることができる。そのような造血細胞は、癌およびエイズを含む疾患の治療に用いられ得る。
【0124】
または、本多能性細胞を神経細胞株を生成する分化条件下で培養することにより、このような細胞を用いて神経障害患者を治療することができる。このようなヒト神経細胞の移植により治療可能な特定の疾患には、一例として、特にパーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、および脳性麻痺が含まれる。パーキンソン病の特定の症例において、移植された胎児脳神経細胞が周囲の細胞と正しく連結して、ドーパミンを産生することが実証されている。これは、パーキンソン病症状の長期回復をもたらし得る。関連局面においては、手、足、および脊髄の損傷後に運動を回復させるために、神経前駆体を用いて、切断された/損傷した神経線維を再結合することができる。
【0125】
本発明の1つの目的は、卵母細胞ドナーへの自己移植またはHLA適合レシピエントへの同種移植に適した分化細胞を生成するために使用できる多能性ヒト細胞を、本質的に無制限に提供することである。不妊治療後に残った胚盤胞に由来するか、またはNTを用いて作製されたヒト胚性幹細胞およびそれらの分化子孫は、同種細胞移植療法に用いられた場合に、レシピエントの免疫系によって拒絶される可能性が高い。単為生殖的に誘導された幹細胞は、現在の移植法に付随する重要な問題、すなわち卵母細胞ドナーに対する宿主対移植片または移植片対宿主拒絶のために起こり得る移植組織の拒絶を軽減し得る分化細胞をもたらすはずである。従来、拒絶は、シクロスポリンなどの抗拒絶剤の投与により防止または軽減される。しかしこのような薬物は、顕著な副作用、例えば免疫抑制、発癌性特性を有し、加えて非常に高価である。開示の方法によって作製された細胞は、場合によっては卵母細胞ドナーに対する抗拒絶剤の必要性を排除するはずであり、他の場合では少なくともその必要性を大幅に減少させるはずである。
【0126】
本発明の別の目的は、卵母細胞ドナーの家族のメンバー(例えば、兄弟姉妹)に対する同種移植に適した分化細胞を生成するために使用できる多能性ヒト細胞を、本質的に無制限に提供することである。細胞は、卵母細胞ドナーの直接の家族メンバーの細胞と免疫学的および遺伝学的に類似しており、よってドナーの家族メンバーによって拒絶される可能性は低い。
【0127】
本方法の別の目的は、哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化がSCNTと比較して比較的簡便な手順であり、より少ない細胞操作で幹細胞が作製されることである。
【0128】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、卵母細胞の機械的操作を必要とする方法(例えば、SCNT)よりも、幹細胞の作製においてより効率的であることが示されている。
【0129】
SCNTの1つの欠点は、ミトコンドリア呼吸鎖活性欠損を有する対象が、SCNT胎児および子孫において一般的に遭遇する異常との顕著な類似性を有する表現型を示すことである(Hiendleder et al, Repro Fertil Dev (2005) 17(1-2):69-83)。細胞は一般的に1つのミトコンドリアDNA(mtDNA)型のみを含み、これはホモプラスミーと称されるが、ヘテロプラスミーは、通常変異体および野生型mt DNA分子の組み合わせとして存在するか、または野生型変種の組み合わせを形成する(Spikings et al., Hum Repro Update (2006) 12(4):401-415)。ヘテロプラスミーはミトコンドリア病をもたらし得るため、母系のみの伝達を保証するために種々の機構が存在する。しかし、ホモプラスミーを維持するための正常な機構を迂回するプロトコールの使用が増加していることから(例えば、細胞質移植(CT)およびSCNT)、撹乱したミトコンドリア機能が、これらの供給源に由来する幹細胞に固有となる可能性がある。
【0130】
1つの局面において、単為生殖体は片親性であるため、ヘテロプラスミーの可能性が最小限に抑えられる。
【0131】
細胞療法により治療可能な他の疾患および病態には、一例として、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、急性疾患(ウイルス性肝炎、薬物過剰摂取(アセトアミノフェン)等)、慢性疾患(慢性肝炎等(一般的に肝硬変をもたらす))、遺伝的肝臓障害(B型血友病、第IX因子欠損症、ビリルビン代謝障害、尿素回路障害、リソソーム蓄積症、a1-抗トリプシン欠乏症等)を含む肝疾患、心疾患、軟骨置換、熱傷、足部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎疾患、網膜疾患、尿路疾患、ならびに加齢関連疾患および病態が含まれる。
【0132】
この方法論を用いて、欠陥遺伝子、例えば欠陥免疫系遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子を置換すること、または増殖因子、リンホカイン、サイトカイン、酵素等の治療上有益なタンパク質の発現をもたらす遺伝子を導入することができる。
【0133】
例えば、脳由来成長因子をコードする遺伝子を本発明に従って作製されたヒト多能性細胞に導入し、この細胞を神経細胞へと分化させ、この細胞をパーキンソン病患者に移植して、このような疾患における神経細胞の消失を遅延させることができる。
【0134】
また、本多能性ヒトES細胞は、特に臨床的および生物学的研究に関与する遺伝子を研究するための、分化のインビトロモデルとして使用することができる。そのような研究には、これらに限定されないが、初期発生の調節、再生医療、または薬剤開発が含まれる。例えば、関心対象の遺伝子と共に転写されるレポーター遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(gfp)、ルシフェラーゼ等)の挿入を用いて、疾患、発生生物学、再生医療、または薬剤開発を研究することができる。また、本ES細胞を用いて生成された分化細胞組織および器官も、薬物研究において用いることができる。
【0135】
さらに、本ES細胞またはこれに由来する分化細胞は、他のES細胞および細胞コロニーを作製するための核ドナーとして用いることができる。
【0136】
さらに、本開示に従って得られる多能性細胞は、胚形成に関与するタンパク質および遺伝子を同定するために用いることができる。これは、例えば差次的発現によって、すなわち本発明に従って提供される多能性細胞において発現されるmRNAを、これらの細胞が異なる細胞型、例えば神経細胞、心筋細胞、他の筋細胞、皮膚細胞等へと分化する際に発現されるmRNAと比較することによって行うことができる。こうして、どの遺伝子が特定の細胞型の分化に関与しているかを決定することが可能になると考えられる。
【0137】
さらに、デュシェーヌ型筋ジストロフィーを引き起こす遺伝的欠陥のような特定の遺伝的欠陥を有するES細胞および/またはその分化子孫は、遺伝的欠陥に関連した特定の疾患を研究するためのモデルとして用いることができる。
【0138】
また、所望の分化細胞型の生成および増殖を誘導する条件を同定するために、記載の方法に従って作製された多能性細胞株を、様々な濃度の様々な増殖因子の混合物、および様々な細胞マトリックス上で培養するなどの様々な細胞培養条件下、または様々な気体分圧下に曝露することも、本開示の別の目的である。
【0139】
以下の実施例は本発明の説明を意図するものであって、限定を意図するものではない。
【0140】
実施例
ヒト単為生殖性胚形成幹細胞の作製
材料および方法
ドナーの選択およびインフォームドコンセントの過程
IVFのためにセンターに初めて訪れた女性のプールからドナーを募集し、臨床ガイドラインに従ってIVF手順に適格であることを認めた。
【0141】
各潜在的ドナーにその医師より申し入れし、研究について情報を提供し、推奨した。ドナーが参加を選択した場合には、研究の目的および手順の概要を説明してある、ロシア語で書かれた包括的なインフォームドコンセント書類(米国を拠点とする独立したESCRO委員会によって審査および認可された)をドナーに提示した。潜在的ドナーに質問があった場合には、医師を利用することができた。インフォームドコンセントに署名した潜在的ドナーのみが、研究に参加した。
【0142】
ドナーは、卵母細胞に対する金銭的補償を受けずに自発的に提供した。署名されたインフォームドコンセントには、提供された材料はすべて研究目的のために使用し、生殖目的で使用しないこと、すなわちヒトES細胞およびそれらの分化子孫を誘導するための方法の開発に使用することが記載されていた。
【0143】
研究の適格性は、ヒトの細胞、組織、ならびに細胞および組織に基づく製品のドナーに関するFDA適格性判定(FDA HCT/Ps, 2004)、およびロシア保険省の規則No. 67 (02.26.2003)に従って判定した。これには、胸部X線、血液検査(肝機能検査を含む)、および尿検査による徹底した健康診断が含まれた。トラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、梅毒、HIV、HBV、およびHCVについてもスクリーニングを行った。
【0144】
HLA型に従って、潜在的ドナーおよび親を研究参加についてさらにスクリーニングした。
【0145】
本プロトコールにおいて、卵母細胞採取の優先事項はIVF手順の成功であった。IVFには、完全に発達した最良の卵丘卵母細胞複合体が選択された。採取された卵母細胞の総数が11個未満である場合には、その女性を研究目的のための提供から自動的に排除した。
【0146】
ドナーの過排卵
月経周期の3〜13日目に、FSH(Gonal-F, Lab. Serono、スイス)を使用して各ドナーに卵巣刺激を与えた。全部で1500 IUを投与した。ドナーの月経周期の10〜14日目に、0.25 mg/日のゴナドリベリン拮抗薬Orgalutran(Organon、オランダ)を注射した。ドナーの月経周期の12〜14日目に、75 IU FSH+75 IU LH(Menopur、Ferring GmbH、ドイツ)を毎日注射した。ドナーの月経周期の14日目に、超音波検査により直径18〜20 mmの卵胞が示されたならば、単回8000 IU用量のhCG(Choragon、Ferring GmbH、ドイツ)を投与した。およそ16日目となるhCG注射の約35時間後に、経膣穿刺を行った。超音波誘導下針吸引により、麻酔したドナーの胞状卵胞から卵胞液を滅菌試験管に採取した。
【0147】
卵母細胞の活性化および単為生殖胚の培養
卵胞液から卵丘卵母細胞複合体(COC)を取り出し、Flushing Medium(MediCult)で洗浄し、その後流動パラフィン(MediCult)重層を伴うUniversal IVF培地(MediCult)中、37℃加湿雰囲気において20% O2、5% CO2下で2時間インキュベートした。活性化の前に、COCをSynVitro Hyadase(MediCult)で処理して卵丘細胞を除去し、その後パラフィン重層したUniversal IVF培地中で30分間インキュベートした。卵母細胞および胚のさらなる培養は、COCの培養について記載した条件で行ったA23187処理を除いて、O2低減気体混合物(90% N2+5% O2+5% CO2)を用いて37℃の加湿雰囲気下で行った。活性化は、パラフィン重層したUniversal IVF培地中で、卵母細胞を5μM A23187(Sigma)に5分間、および10μg/mlピューロマイシン(Sigma)またはI mM 6-DMAP(Sigma)に4時間連続して曝露することによって行い、その後Universal IVF培地で卵母細胞を慎重に洗浄した。次に、卵母細胞をパラフィン重層した新鮮なIVF培地中に移し、培養を続けた。翌日(1日目)、製造業者の推奨に従ってBlastAssist System培地(MediCult)を継続して用いて、単為生殖的活性化卵母細胞を胚盤胞期になるまで培養した。培養の5〜6日目に、誘導された胚盤胞から内部細胞塊(ICM)を単離した。
【0148】
胚盤胞内部細胞塊の単離およびhpSC-Hhomの培養
0.5%プロナーゼ(Sigma)処理により、透明帯を除去した。胚盤胞全体を、hpSC-Hhomの培養用に設計された培地中で、マイトマイシンCで有糸分裂を不活化したヒト新生児皮膚線維芽細胞(NSF)(Revazova et al, 2007、前記)のフィーダー層上に乗せた。胚盤胞の接着後に栄養膜細胞が拡張した時点で、ICMが目に見えるようになった。さらに3〜4日間培養した後、細く引いたガラスピペットを用いて、栄養外胚葉生成物からICMを機械的に薄く切り取ることによりICMを単離した。単離したICMを新鮮なフィーダー層上にプレーティングし、さらに3〜4日間培養した。培養して5日後に、最初のコロニーを機械的に切断し、再プレーティングした。その後の継代はすべて、5〜6日間の培養後に行った。初期継代のコロニーは、機械的に凝集塊に分割して、再プレーティングした。hpSC-Hhomのさらなる継代は、IV型コラゲナーゼ処理および機械的解離により行った。hpSC-Hhomの増殖は、加湿雰囲気において37℃、5% CO2で行った。
【0149】
ICMおよびhpSC-Hhomの培養には、4 ng/ml hrbFGF(Chemicon)、5 ng/ml hrLIF(Chemicon)、および10%ヒト臍帯血血清を補充したVitroHES(Vitrolife)を使用した。NSFを培養するための培地は、90% DMEM(高グルコース、L-グルタミン含)(Invitrogen)、10%ヒト臍帯血血清、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)(Invitrogen)からなった。培地調製の前に、ヒト臍帯血血清は梅毒、HIV、HBV、およびHCVについてスクリーニングした。
【0150】
hpSC-Hhomの特徴づけ
胚性幹細胞マーカーの免疫染色のため、hpSC-Hhomコロニーを4%パラホルムアルデヒドにより室温で20分間固定して、SSEA-1、SSEA-3、およびSSEA-4を同定した;100%メタノールを-20℃で5分間使用して、残りのマーカーを同定した。使用したモノクローナル抗体には、ChemiconによるSSEA-1(MAB4301)、SSEA-3(MAB4303)、SSEA-4(MAB4304)、TRA-1-60(MAB4360)、およびTRA-1-81(MAB4381)、ならびにSanta Cruz BiotechnologyによるOCT-4(sc-9081)が含まれ、二次抗体には、Molecular Probes(Invitrogen)によるAlexa Fluor 546(オレンジ色蛍光)および488(緑色蛍光)が含まれた。核はDAPI(Sigma)で染色した。アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性は、APキットおよびTRAPEZEキット(Chemicon)で検出した。染色体スライドはルーティング法によって調製した。Gバンド法はトリプシン・ギムザ技法に従って行い、各例において中期のもの30〜100個を核型分析した。
【0151】
胚様体の形成および神経分化
hpSC-Hhomコロニーを機械的に凝集塊に分割し、85%ノックアウトDMEM、15%ヒト臍帯血血清、1×MEM NEAA、1 mM Glutamax、0.055 mM P-メルカプトエタノール、ペニシリン・ストレプトマイシン(50 U/50μg)(血清以外すべてInvitrogenによる)を含む培地中、2%アガロース(Sigma)で予め被覆した24ウェルクラスタープレートに入れた。胚様体を懸濁状態で14日間培養し、その後成長発達のためにプレーティングするか、または懸濁状態でさらに1週間培養した。
【0152】
培養皿表面に接着した2週齢胚様体を、分化培地DMEM/F12、B27、2 mM Glutamax、ペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)、および20 ng/ml hrbFGF(いずれもInvitrogenによる)中で1週間にわたって培養することにより、神経分化を誘導した。いくつかの胚様体は神経形態を有する分化細胞を生じ、他の胚様体は解離しさらに培養して、ニューロスフェアを生成した。
【0153】
胚様体の形成に使用したのと同じ培地で接着表面上にプレーティングしてから5日培養した後に、拍動する胚様体が自発的に現れた。
【0154】
hpSC-Hhom分化派生物の免疫細胞化学
胚様体、ニューロスフェア、または収縮胚様体を、ポリ-D-リジン(Sigma)処理したマイクロカバーガラス(VWR Scientific Inc.)の上に乗せ、適切な分化培地中で約1週間培養した。免疫染色のため、分化細胞を100%メタノールにより-20℃で5分間固定した。
【0155】
外胚葉マーカーの検出のため、モノクローナルマウス抗神経フィラメント68抗体(Sigma)、抗ヒトCD56(NCAM)抗体(Chemicon)、および抗βIIIチューブリン抗体(Chemicon)を用いて、神経マーカーを明らかにした。抗グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)抗体(Chemicon)を用いて、グリア細胞マーカーを検出した。
【0156】
3週齢の胚様体におけるまたは収縮胚様体における中胚葉マーカーの検出には、モノクローナルマウス抗デスミン抗体(Chemicon)、抗ヒトαアクチニン抗体(Chemicon)を筋特異的マーカーとして使用し、抗ヒトCD31/PECAM-1抗体(R&D Systems)、抗ヒトVE-カドヘリン(CD 144)抗体(R&D Systems)を内皮マーカーとして使用した。
【0157】
胚様体における内胚葉マーカーの検出には、モノクローナルマウス抗ヒトα-フェトプロテイン抗体(R&D Systems)を使用した。二次抗体Alexa Fluor 546(オレンジ色蛍光)および488(緑色蛍光)は、Molecular Probes(Invitrogen)による。核はDAPI(Sigma)で染色した。HLA遺伝子型同定。
【0158】
ドナーおよびその親の両方について、HLAハプロタイプの検査およびHLA遺伝子型同定を行った。Dynal(Invitrogen)によるDynabeads DNA Direct Bloodを用いて、血液、卵丘細胞、hpSC-Hhom、およびNSFからゲノムDNAを抽出した。HLA遺伝子型同定は、対立遺伝子特異的配列決定プライマー(PCR-SSP、Protrans)を用いてPCRにより行った。試験はすべて、製造業者の推奨に従って行った。
【0159】
Asymetrix SNPマイクロアレイ解析
フェノール/クロロホルム抽出法により、血液、卵丘細胞、hpSC-Hhom、およびNSFからゲノムDNAを単離した。Affymetrix Mapping 250K Nsp Arrayを用いて、ドナー3名、hpSC-Hhom株4株、およびNSFから得られたDNA試料をすべて遺伝子型同定した。252,973個の2成分性SNPマーカーを含む最初のデータセットは、ゲノム試料の同等性を決定するのに必要な数を超えていたことから、計算を単純化するためにデータセットを減らした。
【0160】
遺伝学的考察に基づき、以下の基準を用いてマーカーを選択した:1) マーカーにおけるヘテロ接合性の程度が高いほど、SNP試料の起源を同定する上で提供される情報が多い。2成分性SNPマーカーのヘテロ接合性の上限を最大0.5と設定する。ヘテロ接合性が0.375を超えるSNPマーカーのみを選択した(すなわち、対立遺伝子の頻度は、コーカサス人集団において0.25未満でもなく、0.75を超えることもない。);2) 常染色体22本のすべてを使用した;3) 共通起源に関する試料の同定は、遺伝子型同定の誤差に対して非常に敏感であるため、信頼性の低いマーカーは除いた。Affymetrixデータセットにおいて、信頼度スコアの高さは信頼性の低さに対応するため、信頼度スコアの高いマーカーを除いた。初期設定では、マーカーの信頼度スコアが0.25を超える場合、そのマーカーに対してコールは作製されない。全12試料に対して、0.02以下の信頼度スコアを有するマーカーのみを選択することにより、信頼性に関してさらにより厳密な必要条件を適用した。
【0161】
これらの条件を適用して、SNPマーカーの数を252,973個から4,444個に減らした。互いに非常に近接したマーカーは、それらの間に厳重な連鎖が存在するという理由で、提供される情報が少ないため、マーカー間の距離が少なくとも0.1 cM(1 Mbp=1 cM)であるマーカーのみを選択することにより、1つの最終段階を行ってマーカーの数を減らした(無作為的抽出は行わなかった)。これらの段階により、最終的に3,993個のマーカーが選択された。
【0162】
このようにして選択された3,993個のマーカーを、Relcheck(バージョン0.67、著作権(C) 2000 Karl W. Broman、Johns Hopkins University、GNU一般公有使用許諾バージョン2(1991年6月)の下で許可される)によって解析した。Relcheckは、一対のSNP試料間の関係を決定する方法を提供する。これは、試料間の遺伝的関連に従ってマーカーの所与の構成を観察するための尤度比の計算に基づく。Relcheckの使用は、一卵性双生児が同じDNAを共有することから、試料が一卵性双生児に由来し得るかどうかを調べることによって、2つの試料間の同等性の試験を行うことができるという知見に基づく。Relcheckは、遺伝子型同定の誤差率を約0.4%と仮定して行った。Relcheckプログラムは、5種類の型の関係:一卵性双生児、親/子孫対、完全同胞(full sibs)、半同胞(half sibs)、および無関係を同定する(Boehnke M. et al., Am J Hum Genet (1997) 61:423-429;Broman K.W. et al., Am J Hum Genet (1998) 63:1563-1563)。
【0163】
ドナーおよび幹細胞試料について、15本の染色体にわたりヘテロ接合SNPの比率を決定するために、以前の解析に使用した無作為に抽出した1495個のSNPマーカーを、幹細胞株6株、ドナー4名、および対照試料1例について解析した。
【0164】
第1〜第12染色体それぞれの最後に得られるpマーカー(短腕)と最初に得られるqマーカー(長腕)との間の中間点をとることによって、各染色体のセントロメアの位置を決定した。末端動原体型の第13〜第15染色体については、p腕上にSNPマーカーが存在しないため、セントロメアは位置0(q腕の開始点)にあると仮定した。
【0165】
第1〜第15染色体について、以下の値をセントロメアの位置として使用した(p腕の末端からのMbp)。
染色体番号 Mbp
第1染色体=131.5051
第2染色体=92.7926
第3染色体=93.1514
第4染色体=51.0889
第5染色体=46.8726
第6染色体=60.5099
第7染色体=57.8019
第8染色体=45.3089
第9染色体=54.6881
第10染色体=39.0399
第11染色体=52.7549
第12染色体=35.6473
第13染色体=0
第14染色体=0
第15染色体=0
【0166】
各SNPマーカーについて、特定の染色体におけるセントロメアからの絶対距離を計算した(すなわち、セントロメアからの両方向を同等に処理して、「マイナス」の距離もすべてプラスの距離に変換した)。ヘテロ接合体の比率を計算する目的のために、染色体距離(セントロメアからの)を15区間(出力では「Bin」と称する)に分割した。各区間は10 Mbp長であった。各「Bin」に割り当てられた数字は、その区間の染色体距離の上界に対応する。単位はすべて、メガ塩基対(Mbp)で表す。例えば:
Bin=10は、セントロメアからの区間[0, 10] Mbpに対応する。
Bin=70は、セントロメアからの区間[60, 70] Mbpに対応する。
Bin=150は、セントロメアからの区間[140, 150] Mbpに対応する。
【0167】
元のAffymetrix SNPデータセットに提供される塩基対距離を用いて、これまでのデータ解析との一貫性を維持した。各区間について、その区間内にある全SNPのヘテロ接合性に関する指標変数の平均値をとることによって、ヘテロ接合性の比率を推定した。
【0168】
ドナーおよび幹細胞について、ヘテロ接合性変数は、ドナー(2、12、10、11)および幹細胞試料(3、4、5、9、6、7、8)の各SNPマーカー位置におけるヘテロ接合性指標変数の平均値を保存する。ホモ接合性率の対応値は、1からヘテロ接合体値を減算することによって容易に得ることができる。
【0169】
内部対照は、同じhpSC-Hhom株に由来する分割培養物間の対をなす遺伝子型関係を「一卵性双生児」であると正確に同定した。
【0170】
インプリンティングされた遺伝子の解析
記載される通りに全RNAを抽出し(Chomcznski and Sacchi, Anal Biochem (1987) 162:156-159)、イソプロパノールで沈殿させた。RNAse不含DNAse処理(Promega)を用いて、残存するゲノムDNAを除去した。反応量20μl中でRevertAid M-MuLV逆転写酵素(Fermentas)を用いて、全RNA 1μgからcDNAを合成した。Taq DNAポリメラーゼ(Fermentas)を用いて、cDNA 1μlでPCR反応を行った。反応はすべて、製造業者の説明書に従って行った。
【0171】
プライマーの配列およびPCR条件は以下の通りであった:
TSSC5(Lee et al., Cancer Res (1998) 58:4155-4159)フォワードプライマー

およびリバースプライマー

、条件は94℃で4分間の1サイクル;94℃で1分間、55℃で1分間、および72℃で1分間の33サイクル。産物の大きさは364 bpであった。
H19(Hashimoto et al., Nat Genet (1995) 9:109-110))フォワードプライマー

およびリバースプライマー

、条件は94℃で4分間の1サイクル;94℃で1分間、52℃で1分間、および72℃で1分間の38サイクル。産物の大きさは148 bpであった。
PEG1_1(Li et al., J Biol Chem (2002) 277:13518-13527)フォワードプライマー

およびリバースプライマー

、条件は94℃で4分間の1サイクル;94℃で1分間、55℃で1分間、および72℃で1分間の35サイクル。産物の大きさは155 bpであった。
PEG1_2(Li et al., 2002、前記)フォワードプライマー

およびリバースプライマー

、条件は94℃で4分間の1サイクル;94℃で1分間、65℃で1分間、および72℃で1分間の39サイクル。産物の大きさは230 bpであった。
SNRPN(Glenn et al., Hum Mol Genet (1993) 2:2001-2005)フォワードプライマー

およびリバースプライマー

、条件は94℃で4分間の1サイクル;94℃で1分間、55℃で1分間、および72℃で1分間の33サイクル。産物の大きさは246 bpであった。
GAPDH(Adjaye et al., Gene (1999) 237:373-383)フォワードプライマー

およびリバースプライマー

、条件は94℃で4分間の1サイクル;94℃で1分間、55℃で1分間、および72℃で1分間の21サイクル。産物の大きさは450 bpであった。
【0172】
5%ポリアクリルアミドゲル電気移動(5μl/レーン)によりPCR産物を解析し、エチジウムブロマイドで染色し、バイオイメージングシステム(UVP)を用いて記録した。RT-PCR実験を繰り返し行い、再現性のある結果を得た。GAPDHを遍在性発現対照とした。対照として各PCRセット中にRT陰性試料(逆転写段階で逆転写酵素を使用しない)を含めることによって、ゲノムの混入がないことを確認した。
【0173】
奇形腫の形成および評価
動物手順はすべて、国際実験動物管理公認協会(AAALAC)によって認可されているロシア科学アカデミー(Pushchino, Moscow Region, Russia)のShemyakin & Ovchinnikov生物有機化学研究所のBiological Testing Laboratory-Branchによって行われた。
【0174】
Charles River研究所Research Model and Services(ドイツ)から入手した、CB17/ICR-PRKDC-SCID CRLマウスから繁殖させて得られた免疫不全SCID-ベージュマウスを、奇形腫の形成に使用した。マウスに注射する際には、IV型コラゲナーゼを用いてhpSC-Hhomを培養皿から酵素的に分離し、次いで凝集塊になるよう再懸濁した。約2〜5百万個のhpSC-Hhom細胞を、上部後肢の皮下腔に注射した。約2カ月後、確立された奇形腫を除去し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。組織の半分をスクロース中で凍結保護し、残りの半分を5% agar-agar中に封入し、次にビブラトームを用いて60 um切片に切断した。切片をスライドガラス上に封入し、ヘマトキシリン/エオシン、Kraberg、ワンギーソン、およびピクロフクシンで染色した。
【0175】
phES細胞のフィーダー層として使用した、マイトマイシンC処理したヒト線維芽細胞約2〜5百万個を、対照として注射した。対照動物では、奇形腫増殖は認められなかった。
【0176】
実施例1. 単為生殖体の作製
全員31歳を超える卵母細胞ドナー5名が本研究に参加した。体外受精(IVF)の当初の目的によりホルモン刺激を用いて、卵母細胞が得られた。ドナー5名から全部で46個の卵丘卵母細胞複合体(COC)が得られ、これらを本研究に使用した(表1)。
【0177】
(表1)単為生殖体および単為生殖性胚性幹細胞株の作製

1卵母細胞2個は活性化されなかった;2卵母細胞1個は活性化後に変性した;3卵母細胞1個は活性化されなかった;4卵母細胞2個は中期I期にあったため廃棄した;5単為生殖的活性化卵母細胞の総数=40個;6誘導された胚盤胞の総数=23個
【0178】
卵母細胞を活性化する前に、COCを大気酸素圧において保持した。卵丘細胞を除去した後、明瞭な第1極体を伴う正常な中期II卵母細胞のみを活性化手順に供した。卵母細胞を5μMイオノマイシンで5分間活性化し、その後6-DAMPと共に4時間インキュベートして、第2極体の放出を妨げ、二倍体胚を生成した。卵母細胞および胚の操作および培養は、標準的なIVF手順を用いて、低減酸素(90% N2+5% O2+5% CO2)下で、製造業者の推奨に従ってMedical培地中で行った。単為生殖的活性化後、40個の卵母細胞のみが卵割することができた。これらの手順によって、胚培養の5日または6日目に胚盤胞23個が生成された。胚盤胞のうち11個が、目に見えるICMを有した(表1)。
【0179】
単為生殖性hESC株の誘導
臨床用途に予定されているhESCの誘導および培養では、動物起源の成分を排除するまではいかなくとも、最小限に抑えることが非常に重要である。そのために、一部の研究者は、ICM単離のために免疫手術を用いず、むしろ機械的手段を用いて胚盤胞全体からICMを単離した(Kim et al., Stem Cells (2005) 23:1228-1233)。培地およびフィーダー細胞も、動物病原体を含む恐れがある。汚染の可能性を排除するために、研究者らは、マウス線維芽細胞の代わりにフィーダー細胞としてヒト細胞を使用するか(Cheng et al., Stem Cells (2003) 21:131-142;Hovatta et al., Hum Repro (2003) 18:1404-1429;Stojkovic et al., Stem Cells (2005) 23:306-314)、またはフィーダーを含まない条件もしくは無血清条件でhESCを培養している(Amit et al., 2004;Klimanskaya et al., Lancet (2005) 365:1636-1641)。これらの以前の研究を考慮して、ICMの単離およびphESCのための培養条件を改良した。
【0180】
phESCの誘導および培養には、マイトマイシンCで有糸分裂を不活化したヒト新生児皮膚線維芽細胞をフィーダー細胞として使用した(NSF)。これらの細胞は元々、動物血清の代わりにヒト臍帯血血清を含む培地を用いて誘導し、増殖させた。phESC培地は、臍帯血由来ヒト血清、hrbFGF、およびhrLIFを補充したVitroHES培地(Vitrolife)からなった。phESCは、37℃、5% CO2、加湿雰囲気において増殖させた。
【0181】
誘導された単為生殖性胚盤胞すべてを最初に0.5%プロナーゼで処理して、透明帯を除去した。トリプシン処理(Li et al., Mol Reprod Dev (2003) 65:429-434)および従来の免疫手術(Solter and Knowles, Proc Natl Acad Sci USA (1975) 72:5099-5102)を用いて、胚盤胞2個由来の十分に形成されたICMが第1卵母細胞ドナーから得られた。phESCを作製するための記載の条件において、ICMをさらにヒトフィーダー細胞上に乗せた。トリプシン処理した胚盤胞に由来するICMは、生細胞をもたらさなかった。免疫手術後に誘導されたICMは細胞成長を示し、phESC-1細胞株が作製された。残りの21個の胚盤胞全体は、記載の条件において最初にフィーダー上に乗せた。広がった栄養膜細胞から機械的に薄く切り取ることによりICMを単離し、新鮮なフィーダー細胞上に戻した。この様式で、5つのphESC株(phESC-3〜phESC-7)が得られた(表1)。
【0182】
phESC株の特徴づけ
phESC株はhESCで予測される形態を示し、密に詰まった細胞、顕著な核小体、および低い細胞質対核比を有するコロニーを形成した(図1)。これらの細胞は、従来のhES細胞マーカーSSEA-3、SSEA-4(図1)、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4(図1の続き)を発現し、未分化マウス胚性幹細胞の陽性マーカーであるSSEA-1を発現しない(図1)。いずれの株に由来する細胞も、高レベルのアルカリホスファターゼ(図1の続き)およびテロメラーゼ活性(図2)を示す。
【0183】
Gバンド核型分析から、phESC-7株を例外として、phESC株が正常なヒト46,XX核型を有することが示された(図3)。phESC-7株の細胞の約91%が47,XXX核型を有し、9%の細胞が48,XXX,+6核型を有する。細胞株の中で中期のものを100個解析することにより、異なる程度のX染色体異形が認められた;phESC-1株およびphESC-6株の細胞の約12%が、X染色体異形を示した;phESC-5株の細胞の42%、ならびに細胞株phESC-7、phESC-3、およびphESC-4のそれぞれ70%、80%、および86%が、X染色体異形を示した(図3)。
【0184】
phESCの分化能
phESC-1株は、35継代に及ぶ10カ月の培養中、未分化のままであった。他の細胞株も、少なくとも21継代にわたり培養に成功した。いずれのphESC株に由来する細胞も懸濁培養で胞状胚様体を形成し、インビトロでの分化後に全3つの胚葉、外胚葉、中胚葉、および内胚葉の派生物を生じた(図4)。phESC-1株による胚様体の約5%が、プレーティングして5日後に拍動する細胞を生じた。phESC-6株は、色素上皮様細胞(図4 L、K)を生成した。外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(図4A)、NCAM(図4B)、βIII-チューブリン(図4C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(図4D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、筋特異的マーカーであるα-アクチニン(図4G)およびデスミン(図4J)、ならびに内皮マーカーPEC AM-1(図4E)およびVE-カドヘリン(図4F)を含む中胚葉マーカーに関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテイン(図4H、L)に関する分化派生物の陽性染色によって示される。phESCを免疫不全マウスおよびラットに皮下注射することにより、phESC株が全3つの胚葉由来の派生物を形成する能力をインビボで調べた(図5)。いずれのphESC株に由来する細胞も、注射の約2カ月後に奇形腫を形成することができた。組織学的検査から、上皮;被膜;平滑筋;脂肪組織;造血組織;神経幹、および腺上皮を含む組織化された構造の存在が実証された。免疫組織化学的解析から、β-チューブリン(図5C)、外胚葉マーカー;フィブロネクチン(図5B)および筋肉アクチン(図5A)、中胚葉マーカー;ならびにα-フェトプロテイン(図5D)、内胚葉マーカーに関する陽性染色が明らかになった。これらのデータから、phESCがインビボで、人体において見出されるすべての細胞型をもたらす3つの胚葉に分化し得ることが実証される。
【0185】
phESC株のDNAプロファイリング
phESC株、ドナー体細胞、およびフィーダー細胞すべての比較DNAプロファイリングを行った。これらの研究では、ドナーの体細胞に対するphESCの遺伝的類似性を確認するために、Affymetrix一塩基多型(SNP)マイクロアレイ(Mapping 50K Hind 240 Array)を使用した。マーカー間距離中央値が1.12 Mbpである、常染色体15本(第1〜第15染色体)にわたる全部で1459個のSNPマーカーを選択した。phESC株とその関連ドナー体細胞との間の対をなす遺伝子型関係はすべて「完全同胞」(遺伝的に一致)であると同定され、他の組み合わせの対はすべて「無関係」であると同定された。内部対照により、同じphESC株に由来する分割培養物間の対をなす遺伝子型関係は、「一卵性双生児」であると同定された(表2)。
【0186】
(表2)phESCおよび関連ドナー由来のDNA試料の同定


解析したDNA試料は以下の通りに番号付けした:1-ヒト新生児皮膚線維芽細胞、2-phESC-7株ドナー、3-phESC-7株、4-phESC-1株、5-phESC-1株、6-phESC-3株、7-phESC-4株、8-phESC-5株、9-phESC-6株、10-phESC-6株ドナー、11-phESC-3〜phESC-5株ドナー、12-phESC-1株ドナー。
出力表示中のIBS欄は、対が同定され、同質対立遺伝子を0個、1個、または2個共有するマーカーの数を示す。(遺伝子型同定に誤差のない理想的な条件下におけるMZ双生児では、すべてのマーカーがIBS=2に位置しなくてはならない)。出力はP(観察されたマーカー|所与の関係)を直接示していないが、類似性の尺度として、LODスコア=log10{P(観察されたマーカー|推定される関係)/P(観察されたマーカー|最大尤度が得られ、よってコールが作成された関係)}を示す。このLODスコアが小さいほど、2つの試料間の推定される関係の可能性は低い。
【0187】
SNPマーカーの比較解析から、全体的に、ドナー細胞がセントロメアからの距離にわたってヘテロ接合性傾向の明らかなパターンを示さないようであるのに対して、幹細胞は、起こり得る染色体組換えの結果として、中央部におけるヘテロ接合性率と比較して、セントロメアおよびテロメア近傍でいくらか低いヘテロ接合性率を示すことが明らかになった(表A〜I)。
【0188】
(表A)ヘテロ接合性ドナー/幹細胞染色体Bin
ヘテロドナー幹染色体Bin

ヘテロドナー幹染色体Bin

ヘテロドナー幹染色体Bin

ヘテロドナー幹染色体Bin

ヘテロドナー幹染色体Bin

【0189】
(表B)染色体01における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ01染色体Bin ヘテロ01染色体Bin

ヘテロ01染色体Bin ヘテロ01染色体Bin

ヘテロ01染色体Bin

【0190】
(表C)染色体02および03における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ02 03染色体Bin ヘテロ02 03染色体Bin

ヘテロ02 03染色体Bin ヘテロ02 03染色体Bin

【0191】
(表D)染色体12および04における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ12 04染色体Bin ヘテロ12 04染色体Bin

ヘテロ12 04染色体Bin ヘテロ12 04染色体Bin

【0192】
(表E)染色体12および05における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ12 05染色体Bin ヘテロ12 05染色体Bin

ヘテロ12 05染色体Bin ヘテロ12 05染色体Bin

【0193】
(表F)染色体11および16における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ11 06染色体Bin ヘテロ11 06染色体Bin

ヘテロ11 06染色体Bin ヘテロ11 06染色体Bin

【0194】
(表G)染色体11および07における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ11 07染色体Bin ヘテロ11 07染色体Bin

ヘテロ11 07染色体Bin ヘテロ11 07染色体Bin

【0195】
(表H)染色体11および08における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ11 08染色体Bin ヘテロ11 08染色体Bin

ヘテロ11 08染色体Bin ヘテロ11 08染色体Bin

【0196】
(表I)染色体10および09における染色体Bin、ヘテロ/頻度
ヘテロ10 09染色体Bin ヘテロ10 09染色体Bin

ヘテロ10 09染色体Bin ヘテロ10 09染色体Bin

染色体=考慮する染色体番号;Bin=特定の区間、数字はセントロメアからの10 Mbp区間の上界を与える;度数=考慮する染色体と区間の各組み合わせに関するSNPマーカー数;他の欄は、考慮する染色体と区間の各組み合わせに関するヘテロ接合性率である;染色体=.、Bin=.
行:試料における全1459マーカーに関する全体的概要;染色体=.、Bin=** 行:全染色体にわたってまとめた区間ごとの概要;染色体=**、Bin=.
行:全区間にわたってまとめた染色体ごとの概要;染色体=**、Bin=** 行:染色体および区間の各組み合わせに関する概要。
【0197】
7対すべてにおいて、幹細胞は、それらのドナー細胞対応物よりも低いヘテロ接合性率を示す。全体的に、ドナー細胞がセントロメアからの距離にわたってヘテロ接合性傾向の明らかなパターンを示さないようであるのに対して、幹細胞は、中央部におけるヘテロ接合性率と比較して、セントロメアおよびテロメア近傍でいくらか低いヘテロ接合性率を示す。
【0198】
HLAタイピングの結果によると、全phESC株に由来する幹細胞は卵母細胞ドナーとMHC適合するようであり、よってこれは治療用途のための細胞を作製するのに可能な方法となる(表3)。フィーダー細胞として使用したヒト線維芽細胞由来の遺伝物質のHLA解析から、ヒト線維芽細胞由来の物質がphESC株に混入していないことが明らかになった(表3)。
【0199】
(表3)HLAタイピングの結果

【0200】
インプリンティングされた遺伝子の解析
ヒト胚におけるゲノムインプリンティングの変化は、母性または父性発現遺伝子に関連した障害の発症に寄与し得る(Gabriel et al., Proc Natl Acad Sci USA (1998) 95:14857-14862)。phESC分化およびそれらの派生物の機能性に及ぼす影響が考えられるため、phESCにおけるインプリンティングの研究は詳細な検査を必要とする。予備研究として、未分化phESCにおけるヒトインプリンティング遺伝子(Morison et al., Trends Genet (2005) 21:457-465)、TSSC5、H19、PEG1、およびSNRPNについて、発現解析を行った(図6)。廃棄されたIVF胚に由来する2つのhESC株を対照として使用した。phESC株すべておよびまた対照株においても、母性発現遺伝子TSSC5(Morison et al., 2005、前記)およびH19(Morison et al.,2005、前記)の転写産物が認められた。ヒトPEG1遺伝子は、2つの選択的プロモーターから転写される(Li et al., 2002、前記)。第1プロモーターからの遺伝子領域は両対立遺伝子で発現され、第2プロモーターからの遺伝子領域(アイソフォーム1)は父性発現される(Li et al., 2002、前記)。第1プロモーターからのPEG1遺伝子の発現は、phESC株において影響を受けなかった。PEG1遺伝子の父性発現領域および父性発現SNRPN遺伝子(Morison et al., 2005、前記)の解析から、これらの遺伝子の発現が、対照hESC株と比較してphESC株において有意に下方制御されることが実証された(図6 FP)。これらの結果から、記載のphESC株の単為生殖性起源のさらなる証拠が提供される。
【0201】
実施例2. HLAホモ接合ドナーからのhpSC-Hhom株の誘導
HLAホモ接合型単為生殖性ヒト幹細胞株を単離する当初の目的により、HLAホモ接合ドナー由来の卵母細胞を使用した。ドナー(ドナー1)およびその両親の両方のHLA遺伝子型同定から、両親がいずれもヘテロ接合性であることが示された。親それぞれから同じハプロタイプA*25, B* 18, DRB1*15が受け継がれ、ドナーはHLAホモ接合遺伝子型A*25, A*25, B*18, B* 18, DRB1*15, DRB1*15を有していた(表5、事例1)。
【0202】
ドナー1から卵丘卵母細胞複合体(COC) 19個が採取され、そのうちの7個を研究に使用した(表4)。
【0203】
(表4)単為生殖体およびHLAホモ接合型単為生殖性ヒト幹細胞株の起源

【0204】
A23187および6-DMAP処理による以前に記載されたプロトコールを用いて、単為生殖的活性化を行った(Revazova et al., 2007、前記)。単為生殖胚4個が胚盤胞期を達成し、そのうちの1個からhpSC-Hhom-1株の単離が可能となった。
【0205】
hpSC-Hhom-1株の細胞とドナー1の体細胞との間の遺伝子型関係は、SNP解析によって「完全同胞」(遺伝的に一致)であると同定された。SNPマーカー比較から、ドナー1の細胞はヘテロ接合性のパターンを示すようであるのに対して、hpSC-Hhom-1細胞は低いヘテロ接合性率を示すことが明らかになった。
【0206】
HLA遺伝子型同定から、hpSC-Hhom-1株がHLAホモ接合性:A*25, A*25, B*18, B* 18, DRB1*15, DRB1*15であり、ドナーと完全にHLA適合することが実証された(表5、事例1)。
【0207】
(表5)HLA遺伝子型同定

太字は、ドナーによって、およびひいてはその後hpSC-Hhom株によって受け継がれたドナーの母親のHLAハプロタイプを示す;下線は、そのように受け継がれたドナーの父親のHLAハプロタイプを示す。
【0208】
HLAヘテロ接合ドナーからのhpSC-Hhom株の誘導
HLAホモ接合型卵母細胞ドナーは稀に出現するため、HLAヘテロ接合ドナーから得られた卵母細胞からHLAホモ接合型細胞株を単離すること模索した。ドナー2から全部で18個のCOCが得られ、そのうちの7個が研究用に提供された(表4)。これらの卵母細胞を、A23187およびピューロマイシン処理による異なるプロトコールを用いて単為生殖的に活性化した。18時間後、活性化卵母細胞において第2極体の放出および前核1個の形成が認められた。これらの接合体から胚盤胞3個が発育し、2つのhpSC-Hhom株:hpSC-Hhom-2およびhpSC-Hhom-3の単離が可能となった。
【0209】
卵母細胞ドナー2の体細胞とhpSC-Hhom-2株およびhpSC-Hhom-3株との間で行ったSNP解析から、その関係が「親/子孫対」として示された。さらに、これら細胞株の両方が、ドナーのヘテロ接合型体細胞とは対照的に、ゲノム全体にわたって(評価したSNPマーカーにおいて)ホモ接合性であるようであった。
【0210】
HLA遺伝子型同定の結果に基づくと、これら両方の株による細胞はHLAホモ接合性のようであった:hpSC-Hhom-2株は、HLA遺伝子型A*68, A*68, B*18, B*18, DRB1*13, DRB1*13を示し、hpSC-Hhom-3株は、HLA遺伝子型A*02, A*02, B*13, B*13, DRB1*07, DRB1*07を示した(調べた遺伝子座において)。また、hpSC-Hhom株はそれぞれ異なるHLAハプロタイプを受け継ぎ、一方はドナーの父親から、そしてもう一方はドナーの母親から受け継いでいた。hpSC-Hhom-2株では、ドナーの父親のHLAハプロタイプ(A*68, B*18, DRB1*13)がホモ接合状態で見出され、hpSC-Hhom-3株では、ドナーの母親のHLAハプロタイプ(A*02, B*13, DRB1*07)がホモ接合状態で見出された(表5、事例2)。
【0211】
HLAハプロタイプに従って選択したHLAヘテロ接合ドナーの卵母細胞からのhpSC-Hhom株の単離
最終段階として、集団内で高頻度であることが知られているHLAハプロタイプを有するhpSC-Hhom株の単離を行った。IVF候補のHLAハプロタイプスクリーニングによって、共通ハプロタイプを保有する2名のHLAヘテロ接合型卵母細胞ドナーが得られた。HLAハプロタイプ頻度の公開リストによると(Mori M. et al., Transplantation (1997) 64:1017-1027)、ドナー3(HLAハプロタイプA*02, B*08, DRB1*03)およびドナー4(HLAハプロタイプA*01, B*08, DRB1*03)(表5、事例3および事例4)は、米国人集団内で見出される共通ハプロタイプを保有していた。しかしながら、ヘテロ接合HLA遺伝子型を有するために、各ドナーは高頻度のハプロタイプのみならず、共通性の低いハプロタイプも保有していた。したがって、単離されたhpSC-Hhom株にどちらのハプロタイプが存在するかを正確に予測することは不可能であった。
【0212】
ドナーの卵母細胞の単為生殖的活性化には、A23187およびピューロマイシンを使用した。COC 20個が得られ、卵母細胞10個が研究用に提供されたドナー3の卵母細胞からのhpSC-Hhom株の単離は成功しなかった。これらはいずれも、胚盤胞期に到達しなかった。さらに、このドナーのIVF手順も妊娠の達成に成功しなかった。併せて考えると、これらの知見から、この特定ドナーによる卵母細胞の質が不良であったことが示され得る(表4)。
【0213】
ドナー4からCOC 27個が得られ、卵母細胞14個が研究用に提供された。卵母細胞の単為生殖的活性化後に胚盤胞2個が得られ、そこからhpSC-Hhom-4株が単離された(表4)。
【0214】
hpSC-Hhom-4とドナー4の体細胞との間の遺伝子型関係は、事例2と同様に、SNP解析によって「親/子孫対」であると同定された。hpSC-Hhom-4株は、ドナーのヘテロ接合型体細胞と比較して、ゲノム全体にわたり(評価したSNPマーカーにおいて)ホモ接合性のようであった(ヘテロ接合SNPマーカー1,174個)。
【0215】
HLA遺伝子型同定によると、hpSC-Hhom-4株はHLAホモ接合性であり(評価した遺伝子座において)、いくつかの人種集団によって共有される、米国人集団において最もよく見られるHLAハプロタイプ(表6):A*01, B*08, DRB1*03を有していた(表5、事例4)。
【0216】
(表6)米国人集団におけるHLAハプロタイプA*01, B*08, DRB1*03の人種集団による頻度および順位(出典はMori M. et al, 1997、前記)

aコーカサス系アメリカ人(CAU)、先住アメリカ人(NAT)、アフリカ系アメリカ人(AFR)、ラテン系アメリカ人(LAT)、およびアジア系アメリカ人(ASI)
bHLA-A, -B, -DRハプロタイプ頻度
c各人種集団内の個別の順位
【0217】
IVF手順の結果、ドナー4名のうち3名(ドナー1、2、および4)が妊娠した。IVFの成功率が高かったのは、主にIVF妊娠の予後が良好なドナーが選択されたためであった。興味深いことに、ドナー2から2種類のhpSC-Hhom株が単離され、そのドナーはIVF手順により双生児を妊娠した。
【0218】
hpSC-Hhom株の特徴づけ
いずれのhpSC-Hhom株に由来する細胞も、ヒト胚性幹細胞で予測される形態を示し、密に詰まったコロニーを形成し、低い細胞質対核比を有して顕著な核小体を示した。いずれの細胞も、一般的なヒト胚性幹細胞マーカーSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4を発現し、未分化マウス胚性幹細胞の陽性マーカーであるSSEA-1を発現しなかった(図7)。いずれの株も、高レベルのアルカリホスファターゼ(図7)およびテロメラーゼ活性(図8)を示した。
【0219】
Gバンド核型分析から、hpSC-Hhom-1株およびhpSC-Hhom-4株が正常なヒト46,XX核型を有することが実証された(図9、AおよびB)。hpSC-Hhom-2株およびhpSC-Hhom-3株はいずれも1名のドナーから誘導され、核型異常を示した。hpSC-Hhom-2株による細胞の約15%は、第8染色体の異数体:47,XX,+8核型を示し(図9、C)、hpSC-Hhom-3株による細胞の4.2%は、第1染色体の異数体:47,XX,+1核型を示した(図9、D)。中期のものを100個解析して、いずれの細胞株においてもX染色体異形は認められなかった(図9)。
【0220】
hpSC-Hhom-4株は、27継代にわたり未分化のままであった。他の細胞株も、少なくとも21継代にわたり培養に成功した。hpSC-Hhom-4株による細胞は懸濁培養で胞状胚様体を形成し、インビトロでの分化後に、全3つの胚葉‐外胚葉、中胚葉、および内胚葉からの派生物を生じた(図10)。外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(図10A)およびNCAM(図10B)の陽性免疫細胞化学染色によって確認された。分化細胞は、中胚葉筋特異的マーカーであるデスミン(図10C)およびα-アクチニン(図10D)についても陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテインの陽性染色によって確認された(図10E)。
【0221】
hpSC-Hhom細胞を免疫不全マウスに皮下注射することにより、全hpSC-Hhom株が全3つの胚葉からの派生物を形成する能力をインビボでさらに調べた(図11)。いずれのhpSC-Hhom株も、注射の約2カ月後に奇形腫を形成することができた。奇形癌腫の形成は認められなかった。hpSC-Hhom細胞のフィーダー層として使用した約4百万個のマイトマイシンC処理ヒト線維芽細胞もまた対照として注射したが、奇形腫増殖は示さなかった。
【0222】
細胞移植片の組織学的検査から、様々な腺型(一部は褐色色素、おそらく胆汁色素を産生)、軟骨分化、十分に形成された骨、間葉系細胞、コラーゲン線維の高産生、脂肪組織、神経管、および不全角化真珠を伴う重層扁平上皮を含む、組織化された構造の存在が実証された(図11)。これらの知見から、hpSC-Hhomがインビボで、全3つの胚葉に由来する組織に分化することが示唆される。
【0223】
本発明を上記の実施例を参照して説明したが、修正および変更が本発明の精神および範囲の範囲内に包含されることが理解されよう。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図1−1】

【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞株に含まれる少なくとも1つの細胞が、
(a) 1つもしくは複数の一塩基多型(SNP)についてヘテロ接合性である;または
(b) 1つもしくは複数のHLA対立遺伝子についてホモ接合性である;または
(c) (a)および(b)の組み合わせである、
単為生殖性胚盤胞に由来する単離されたヒト幹細胞株。
【請求項2】
少なくとも1つの細胞がHLA対立遺伝子についてホモ接合性である、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項3】
少なくとも1つの細胞が、免疫不全マウスに移植されると奇形腫を形成する、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項4】
少なくとも1つの細胞が未受精卵母細胞ドナーとMHC適合性である、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項5】
少なくとも1つの細胞が胚盤胞ドナーの一等親血縁者とMHC適合性である、請求項4記載の単離された細胞株。
【請求項6】
少なくとも1つの細胞が、ドナー起源に従って実質的に遺伝的にインプリンティングされている、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項7】
少なくとも1つの細胞が、(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して、内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養されると分化が阻害される、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項8】
少なくとも1つの細胞が、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、およびオリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、ケラチノサイト、膵島細胞、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される細胞に分化する、請求項7記載の単離された細胞株。
【請求項9】
少なくとも1つの細胞が生存能力のある生物を形成する能力を有しない、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項10】
少なくとも1つの細胞が、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、請求項1記載の単離された細胞株。
【請求項11】
請求項1記載の幹細胞株に由来する分化細胞を含む細胞組成物を投与する段階を含む、それを必要とする対象を治療する方法。
【請求項12】
対象が、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄欠損または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心疾患、黄斑変性、軟骨欠損または損傷、熱傷、足部潰瘍、血管疾患、尿路疾患、エイズ、および癌からなる群より選択される疾患を呈する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
自己幹細胞または同種幹細胞を含む幹細胞のライブラリーであって、該幹細胞が1名または複数名のヒトドナー由来の単為生殖的活性化卵母細胞に由来しており、かつ該幹細胞がHLAホモ接合型幹細胞である、ライブラリー。
【請求項14】
各ライブラリーメンバーが、一塩基多型(SNP)マーカーに従って完全同胞、半同胞、または無関係であると同定されている、請求項13記載のライブラリー。
【請求項15】
卵母細胞ドナーがライブラリーのメンバーと組織適合性である、請求項13記載のライブラリー。
【請求項16】
ライブラリーのメンバーが卵母細胞ドナー起源に従ってゲノムインプリンティングされている、請求項13記載のライブラリー。
【請求項17】
幹細胞がHLAヘテロ接合型またはHLAホモ接合型卵母細胞ドナーに由来している、請求項13記載のライブラリー。
【請求項18】
各メンバーが、ライブラリーの他のメンバーと比べて異なる組み合わせのMHC対立遺伝子についてホモ接合性である、請求項13記載のライブラリー。
【請求項19】
各メンバーが、1つまたは複数のHLAクラスI遺伝子およびHLAクラスII遺伝子について少なくともホモ接合性である、請求項13記載のライブラリー。
【請求項20】
HLAクラスI遺伝子が、HLA A*、HLA B*、HLAおよびCw*ハプロタイプの組み合わせから選択される、請求項13記載のライブラリー。
【請求項21】
HLAクラスII遺伝子が、HLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、およびDQB1*ハプロタイプの組み合わせから選択される、請求項13記載のライブラリー。
【請求項22】
各メンバーが、(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して、内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の1つまたはすべての派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養されると分化が阻害される、請求項13記載のライブラリー。
【請求項23】
染色体が正倍数体であり、かつ長期培養を通して変化しない核型を各メンバーが維持する、請求項22記載のライブラリー。
【請求項24】
各メンバーが、外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列細胞に分化し得る、請求項13記載のライブラリー。
【請求項25】
各ライブラリーメンバーがHLA型に従って特徴づけられ、かつ各メンバーが潜在的レシピエントとHLA適合性である、請求項13記載のライブラリー。
【請求項26】
(a) 所与の集団群中に共通して見出されるHLAハプロタイプについて卵母細胞ドナーをスクリーニングする段階;
(b) ヒト中期II卵母細胞を体外受精(IVF)培地中でインキュベートする段階;
(c) 段階(b)の細胞を、イオノフォアを含むIVF培地中でインキュベートする段階;
(d) 段階(c)の細胞を、ピューロマイシンを含むIVF培地中でインキュベートする段階;および
(e) 段階(d)の細胞を、低O2圧下で新鮮なIVF培地中でインキュベートする段階
を含む、HLAホモ接合型幹細胞を作製する方法であって、
インキュベート段階(b)〜(d)を高O2圧下で行い、かつ段階(d)の細胞から得られた内部細胞塊(ICM)が培養可能な幹細胞を生じる、方法。
【請求項27】
段階(a)の卵母細胞ドナーの生物学上の親のHLAタイピングを行う段階をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
HLAホモ接合型幹細胞を含む細胞バンクであって、該幹細胞が、HLAホモ接合型またはHLAヘテロ接合型ヒト卵母細胞ドナー由来の単為生殖的活性化卵母細胞に由来している、細胞バンク。
【請求項29】
幹細胞が、所与の集団群中に共通して見出されるHLAハプロタイプに対する同一性によって類別されている、請求項28記載の細胞バンク。
【請求項30】
凍結保存された自己幹細胞または同種幹細胞を含む、請求項28記載の細胞バンク。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−525794(P2010−525794A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502160(P2010−502160)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/004529
【国際公開番号】WO2008/124142
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(308035276)インターナショナル ステム セル コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】