説明

ヒトSDF−5蛋白および組成物

【課題】軟骨および結合組織などの組織および器官の形成、増殖、分化および維持に関与する新規遺伝子、およびそれによりコードされる蛋白、およびかかる遺伝子または蛋白を含む、軟骨または結合組織の疾病の治療用組成物を提供する。
【解決手段】精製ヒトSDF−5蛋白およびその製造方法を開示する。ヒトSDF−5蛋白をコードするDNA分子も開示する。Wnt遺伝子のその受容体への結合調節に当該蛋白を使用してもよい。好ましい具体例において、軟骨細胞および/または軟骨組織の形成、成長、分化、増殖および/または維持の誘導、ならびに膵臓組織の修復のごとき他の組織の修復に当該蛋白を使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本発明は、1997年2月6日出願の第08/796153号の一部継続出願である1997年5月8日出願の第08/848439号の一部継続出願である。
【0002】
本発明は、フラズルド(frazzled)蛋白ファミリーの新規メンバー、それらをコードするDNA、ならびにそれらを得る方法に関する。これらの蛋白を用いて組織および器官における因子の発現および/または組織および器官の分化を誘導してもよく、特に、軟骨細胞および/または軟骨組織の形成、成長、分化、増殖および/または維持を誘導してもよい。よって、これらの蛋白は、骨関節炎、リューマチ性関節炎および関節軟骨欠損のごとき軟骨の疾病の治療において、および/または他の組織および器官、例えば膵臓、肝臓、肺、腎臓および/または他の組織の細胞の形成、成長、分化、増殖および/または維持の促進および/または抑制において有用でありうる。これらの蛋白は、他の組織再生および分化因子の活性増強に使用してもよい。当該蛋白は、発明者によりトSDF−5と称される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
軟骨および結合組織のごとき組織および器官の形成、増殖、分化および維持に関与する分子の検索は、骨関節炎のごときこれらの組織に対する変性またはダメージを含む症状の治療に有用な因子に対する非常に大きな必要性が存在するため、広範囲にわたっている。
【0004】
フリズルド(frizzled)と命名されたファミリーのいくつかの蛋白の構造は、すでに詳細に調べられている。本発明は、フリズルド蛋白のリガンド結合ドメインに対する相同性を有するファミリーであるフラズルドと命名された蛋白のファミリーに関する。フリズルド蛋白ファミリーのメンバーは、ショウジョウバエにおいてウィングレス(Wg)蛋白に結合することが示されている。Bhanot et al., Nature, 382: 225-230 (1996)(非特許文献1)。哺乳動物および他の種において、フリズルドファミリーの蛋白は、Wnt遺伝子のファミリーにより生じる蛋白に結合することが示されている膜結合受容体分子である。Wang et al., J. Biol. Chem., 271: 4468-4476 (1996)(非特許文献2)。Wnt遺伝子は、膵臓、肺、肝臓、腎臓および脳を包含する組織および器官において発現されることがわかっている。
【非特許文献1】Bhanot et al., Nature, 382: 225-230 (1996)
【非特許文献2】Wang et al., J. Biol. Chem., 271: 4468-4476 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軟骨および結合組織などの組織および器官の形成、増殖、分化および維持に関与する新規遺伝子、およびそれによりコードされる蛋白を提供することを目的とした。さらに本発明は、かかる遺伝子または蛋白を含む、軟骨または結合組織の疾病の治療用組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
驚くべきことに、発明者らは、フラズルド蛋白ファミリーのメンバーは軟骨細胞および/または軟骨組織の形成を誘導できることを見出した。したがって、本発明は、軟骨細胞および/または軟骨組織の形成を誘導する方法であって、フラズルド蛋白ファミリーのメンバーである少なくとも1種の蛋白を含む組成物を前駆細胞に投与することを含む方法を提供する。好ましい具体例において、組成物は、配列番号:2のアミノ酸1、18、19、20、21、22、23、24または25から295までのアミノ酸配列を有する蛋白を含む。好ましい具体例において、本発明は、配列番号:1のアミノ酸21から295まで、あるいは配列番号:3のアミノ酸1から275までのアミノ酸配列を有する蛋白を包含する。1の具体例において、当該方法は、インビボにおいて組成物を患者に投与することを含む。あるいはまた、当該方法は、インビトロにおいて組成物を細胞に投与し、ついで、軟骨細胞および/または軟骨組織を回復させることを含むものであり、その後、それらの軟骨細胞および/または軟骨組織を患者に投与してもよい。さらに、組成物は、適当な投与用担体を含んでいてもよい。
【0007】
また本発明は、フラズルドおよびフリズルド蛋白ファミリーの新規メンバーをコードする新規DNA配列を提供する。特定の具体例において、本発明は、ヒトSDF−5として知られるフラズルド蛋白をコードする新規DNA配列を提供する。ヌクレオチド配列およびこれらのDNA配列によりコードされる対応アミノ酸配列を配列表に示す。詳細には、本発明は、ヒトSDF−5蛋白をコードしている単離DNA配列であって、配列番号:1のヌクレオチド256、307、310、313、316、319、322、325または328から1140まで、または配列番号:2のアミノ酸1、18、19、20、21、22、23、24または25から295までのアミノ酸をコードするヌクレオチド、または配列番号:3のアミノ酸1から275までをコードするヌクレオチド、ならびに上記のものから容易に得ることができ、フラズルド活性を維持している上記配列のフラクションおよび変種からなる群より選択されるDNA配列を含む単離DNA配列を包含する。さらに本発明は、厳密な条件下でこれらの配列にハイブリダイゼーションし、フラズルド活性を示す蛋白をコードしている配列を包含する。
【0008】
他の具体例において、本発明は、発現制御配列に作動するように結合された上記DNA分子を含むベクター、ならびにこれらのベクターで形質転換された宿主細胞を包含する。さらなる他の具体例において、本発明は、精製ヒトSDF−5蛋白、新規ヒトSDF−5蛋白、およびヒトSDF−5蛋白を含有する組成物の製造方法を包含する。これらの方法は、上記のごときヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列で形質転換された宿主細胞を培養し、ついで、培地から該ヒトSDF−5蛋白を回収し、精製する工程を含む。さらに本発明は、上記方法により製造される精製ヒトSDF−5ポリペプチド、ならびに上記DNA配列によりコードされるアミノ酸配列を含む精製ヒトSDF−5ポリペプチドを包含する。本発明蛋白は、配列番号:2のアミノ酸1、18、19、20、21、22、23、24または25から295までのアミノ酸配列、あるいは配列番号:3のアミノ酸1から275までのアミノ酸配列を含んでいてもよく、また、分子量約30ないし約35kdのヒトSDF−5蛋白を含んいてもよく、該SDF−5蛋白は配列番号:2または3のアミノ酸配列を含み、1またはそれ以上の遺伝子の転写を調節する能力を有する。
【0009】
また本発明は、患者における軟骨組織の形成または維持を誘導する方法を包含し、該方法は、SDF−5蛋白を含有する有効量の組成物を患者に投与することを含む。該組成物はさらに1またはそれ以上の骨形態形成蛋白(BMP)、好ましくはBMP−2、BMP−4、BMP−7、MP52、BMP−12およびBMP−15から選択されるBMP、最も好ましくはBMP−2を含んでいてもよい。該方法を用いて、骨関節炎または関節軟骨欠損もしくはダメージに苦しむ患者を治療してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軟骨細胞および/または軟骨組織の形成を誘導することだできる遺伝子または蛋白が提供される。また、かかる遺伝子または蛋白を含む、軟骨または結合組織の疾病の治療用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
配列の説明
配列番号:1 ヒトSDF−5 DNA
配列番号:2 ヒトSDF−5蛋白
配列番号:3 ヒトSDF−5成熟蛋白
【0012】
寄託物の説明
ヒトSDF−5 DNAコーディング配列を含むcDNAインサートpSDF−5をアンピシリン・イー・コリ(E. coli)株に挿入して、1997年2月4日にthe American Type Culture Collection, 12301 Parklawn Drive, Rockville, MD 20852に寄託した。この寄託物は受託番号ATCC 98314を付与された。この寄託はブダペスト条約の規定を満たすものである。
【0013】
発明の詳細な説明
本明細書の用語「フラズルド蛋白」とは、フリズルド蛋白ファミリーの細胞外結合ドメインに対する配列相同性を有するヒトのフラズルド蛋白のメンバーをいい、Hfz3、Hfz5およびHfz7ならびに他のヒトのフラズルド蛋白、さらに他の種に見出され、Wang et al., J. Biol. Chem., 271: 4468-4476 (1996)に記載されたような他の種由来のフリズルド蛋白に対する相同性を有するフラズルド蛋白を包含する。フラズルド蛋白ファミリーの1の特定のメンバーは、配列番号:2に示すアミノ酸配列を有するヒトSDF−5蛋白であり、あるいはまた他の種に見出されるこの蛋白のホモログ(homologues)、そしてSDF−5に構造的および/または機能的に密接に関連している他の蛋白である。フラズルド関連蛋白は、ショウジョウバエ、アフリカツメガエル、シー・エレガンス(C. elegans)、ゼブラダニオおよびラット、マウス、ヒトを包含する他の種にも存在する。「フラズルド蛋白」は、対立遺伝子変種または突然変異もしくは欠失により誘発された変種のごときフラズルド蛋白の変種、ならびにフラズルドまたはフリズルド蛋白のフラグメントも包含し、該変種およびフラグメントはフラズルド活性、好ましくはWnt蛋白のごとき蛋白に対する結合能、あるいはフリズルド蛋白のごとき膜結合受容体への結合能を保持している。
【0014】
本明細書の用語「フラズルド活性」とは、本発明フラズルド蛋白により示される1またはそれ以上の活性をいう。詳細には、「フラズルド活性」は、Wnt蛋白への結合能を包含し、よって、フリズルド蛋白受容体のごとき蛋白受容体へのWnt蛋白の結合を調節する能力を包含しうる。さらに「フラズルド活性」は、細胞および/または組織、例えば結合組織、器官の形成、分化、増殖および/または維持ならびに傷の治癒を調節する能力を包含しうる。「フラズルド活性」は、本明細書記載のアッセイにおけるフラズルド蛋白の活性も包含する。
【0015】
よって、本発明は、フラズルド活性を保持している、配列番号:2または3に示すヒトSDF−5蛋白のアミノ酸配列の蛋白変種および機能的フラグメントを包含する。また本発明は、上記のごとき精製ヒトSDF−5蛋白に対する抗体も包含する。本発明組成物は、治療量の少なくとも1種の上記ヒトSDF−5蛋白を含む。
【0016】
CHO細胞のごとき哺乳動物細胞により発現されるヒトSDF−5蛋白は、種々のN末端を有するヒトSDF−5蛋白の活性種の混成集団として存在すると考えられる。一部には、Von Heginjeシグナルペプチド推定アルゴリズムによれば、最初の17ないし24個のアミノ酸は成熟ペプチド分泌のためのシグナリングに関与しているようである。活性種はシグナルペプチドを含んでいてもよく、配列番号:2のアミノ酸残基1、18、19、20、21、22、23、24または25から開始するアミノ酸配列を含むであろう。よって、活性ヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列は、配列番号:1のヌクレオチド256、307、310、313、316、319、322、325または328から1140までを含むDNA配列を包含する。したがって、SDF−5の活性種は、配列番号:2のアミノ酸1、18、19、20、21、22、23、24または25から295までのアミノ酸を含むものを包含すると考えられる。
【0017】
さらにもう1つの具体例において、本発明は、遺伝子調節を変化させる必要のある患者における遺伝子調節を変化させる方法であって、有効量の上記組成物を該患者に投与することを含む方法を包含する。膵臓の遺伝子に対する調節の変化を、Wnt蛋白による受容体蛋白への結合、例えば本発明ヒトSDF−5蛋白とWnt蛋白との間の結合を刺激または抑制することにより行ってもよい。よって、ヒトSDF−5蛋白ファミリーは、フリズルド受容体蛋白のごとき受容体蛋白に対するWnt遺伝子の結合相互作用を調節することができる。
【0018】
また本発明は、プロモーターまたオペレーターのごとき組織特異的または誘導可能な調節配列に連結された、本発明コーディングDNA配列および他のフラズルドコーディング配列を含むハイブリッドまたは融合ベクターも包含する。本発明の好ましい具体例において、ヒトSDF−5蛋白のコーディング配列が、軟骨細胞および/または軟骨組織において選択的に発現される遺伝子由来の1またはそれ以上のプロモーター、エンハンサーおよび/または調節エレメントに、作動可能に連結される。例えば、II型コラーゲンエンハンサー、プロモーターは、間葉組織凝結および軟骨形成中に軟骨において発現されることが知られている。Metsaranta et al., Dev. Dynamics, 204: 202-210 (1996); Li et al., Genes Decelop., 9: 2821-2830 (1986)。本発明において有用なもう1つの調節エレメントはテナスシン(tenascin)Cプロモーターである。テナスシンCは関節軟骨において発現される。Pacifici et al., Matrix Biol., 14: 689-698。さらに、ヒトSDF−5をコードするDNA配列を、軟骨細胞および/または軟骨組織において選択的に産生されるプロテオグリカンコア蛋白由来の1またはそれ以上の調節配列に、作動可能に連結してもよい。本発明の他の好ましい具体例において、ヒトSDF−5蛋白のコーディング配列が、IDX遺伝子から単離されたプロモーターに、作動可能に連結される。このプロモーターは膵臓細胞および組織において選択的に発現される。よって、IDXプロモーターがヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列に作動可能に結合されているハイブリッドDNAベクターは、膵臓組織における蛋白の選択的発現に有用であり、例えば、Wnt蛋白とその受容体蛋白との間の結合、例えば発現されたヒトSDF−5蛋白とWnt蛋白との間の結合を刺激または抑制することによる、患者における膵臓病の治療または膵臓の遺伝子調節の変化に有用である。他の組織選択的調節エレメントおよび誘導可能エレメントを用いたベクターも、本発明ヒトSDF−5蛋白の選択的または誘導可能な発現に有用である。
【0019】
本発明のもう1つの態様は、医薬上許容される賦形剤または担体中の治療上有効量のヒトSDF−5蛋白を含有する医薬組成物を提供する。本発明のこれらの組成物を軟骨細胞および/または軟骨組織表現型の形成に使用してもよい。さらにこれらの組成物を用いて、ベータ細胞およびランゲルハンス島に典型的に見出される他の細胞タイプ、または他の膵臓細胞、ならびに肝臓、脾臓、脳、心臓および腎臓組織のごとき他の器官の組織の形成、成長、増殖、分化および/または維持を促進および/または抑制してもよい。ヒトSDF−5蛋白を含む組成物を用いて、分化した組織または器官を構成する細胞(例えば膵臓細胞)へと分化しうる前駆細胞または膵臓幹細胞のごとき幹細胞を処理して、かかる細胞、組織または器官の形成、分化、増殖および/または維持を促進してもよい。かかる細胞の形成および維持方法は、例えば、WO93/00441に記載されており、参照によりその開示は本明細書に記載されているものとみなす。
【0020】
本発明組成物は、ヒトSDF−5蛋白のほかに、表皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、形質転換成長因子(TGF−αおよびTGF−β)、アクチビン、インヒビン、骨形態形成蛋白(BMP)およびインスリン様成長因子(IGF)のごとき成長因子を包含する治療上有用な作用剤を含んでいてもよい。組成物は適当なマトリックス、例えば、組成物を支持し、軟骨細胞および/または軟骨組織の成長のための表面を提供するためのマトリックスを含んでいてもよい。マトリックスは、ヒトSDF−5蛋白を除々に放出させるものであってもよく、さらに/あるいはヒトSDF−5蛋白提供のための適当な環境を提供するものであってもよい。
【0021】
ヒトSDF−5蛋白含有組成物を、多くの組織欠損の治療方法、ならびに種々のタイプの組織および傷の治癒および維持方法に使用してもよい。治療可能な組織および傷としては、軟骨のみならず表皮、神経、筋肉(心筋を包含)、骨、腱および靭帯のごとき他の結合組織、および他の組織および傷、ならびに膵臓、肝臓、脾臓、肺、脳、心臓および腎臓組織のごとき他の器官等がある。本発明のこれらの方法は、かかる組織の形成、傷の治癒または組織の修復を要する患者に有効量のヒトSDF−5蛋白を投与することを含む。ヒトSDF−5含有組成物を用いて、リューマチ性関節炎、骨関節炎、および軟骨または他の器官または組織(膵臓、肝臓、脾臓、肺、心臓および腎臓の組織および他の組織および器官のごとき)の他の異常を治療または予防することができる。これらの方法は、本発明蛋白を少なくとも1種の他の蛋白、例えばEGF、FGF、TGF−α、TGF−β、BMP、アクチビン、インヒビンおよびIGFのごとき成長因子と組み合わせて投与することを含んでもよい。
【0022】
本発明のさらなる態様は、ヒトSDF−5蛋白の発現をコードするDNA配列である。かかる配列は、配列番号:1において5’から3’方向へと示されるヌクレオチド配列を包含するが、遺伝コードの縮重を除いては配列番号:1のDNA配列と同一であり、配列番号:2または3の蛋白をコードするDNA配列も包含される。厳密な条件下で配列番号:1のDNA配列にハイブリダイゼーションし、かつ1またはそれ以上のWnt蛋白に対する結合能を有する蛋白、および/またはインスリン産生ベータ細胞のごとき膵臓細胞、または肝臓、脾臓、肺、心臓、脳および腎臓のごとき他の器官の組織の形成、成長、増殖、分化、維持を促進および/または抑制する能力のある蛋白をコードしているDNA配列も本発明に包含される。好ましいDNA配列は、厳密な条件下[T. Maniatis et al, Molecular Cloning (A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory (1982), 387〜389ページ参照]でハイブリダイゼーションするDNA配列を包含する。かかるDNA配列が、配列番号:2または3に示す成熟ヒトSDF−5アミノ酸配列に対して少なくとも約80%の相同性、より好ましくは少なくとも約90%の相同性を有するポリペプチドをコードしていることが一般的に好ましい。結局、配列番号:1の配列の対立遺伝子または他の変種は、かかるヌクレオチド変化がペプチド配列の変化を引き起こすか否かにかかわらず、そのペプチド配列がやはりフラズルド活性を有している場合には、本発明に包含される。また本発明は、フラズルド蛋白の活性を保持しているポリペプチドをコードする、配列番号:1に示すヒトSDF−5蛋白のDNA配列の機能的フラグメントを包含する。配列番号:2または3に示される本発明ヒトSDF−5蛋白の特定の変種またはフラグメントがフラズルド活性を維持しているかどうかを調べることは、本明細書記載のアッセイを用いて通常的に行われる。
【0023】
本発明DNA配列は、例えば、細胞集団中の他のフラズルド蛋白をコードするmRNAの検出のためのプローブとして有用である。本発明DNA配列は、後で説明する遺伝子治療用ベクターの調製にも有用である。
【0024】
本発明のさらなる態様は、発現制御配列に作動可能に結合した上記DNA配列を含むベクターを包含する。本発明の組み換えヒトSDF−5蛋白の新規製造方法にこれらのベクターを使用してもよく、該方法において、発現制御配列に作動可能に結合されたヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列で形質転換された細胞系が適当な培地で培養され、ヒトSDF−5蛋白が培地から回収され、精製される。この方法は、ポリペプチド発現用宿主細胞として、よく知られた多くの原核細胞および真核細胞の両方を使用することができる。ベクターを遺伝子治療用途に使用してもよい。かかる使用において、ベクターをエキソビボにおいて患者の細胞中にトランスフェクションし、細胞を患者に再導入する。別法として、ベクターをインビボにおいて標的化トランスフェクションにより患者に導入してもよい。
【0025】
本発明の好ましい具体例において、ヒトSDF−5のコーディング配列に作動可能に結合したプロモーターおよび/またはエンハンサーのごとき1またはそれ以上の本来的なものでない調節エレメントを用いてベクターを調製して、所望細胞組織において、および/または発達中の所望時期において、ヒトSDF−5を発現させる。例えば、発達中にベータ細胞を包含する膵臓細胞において構成的に発現されることが知られており、十分に特徴が知られているIDX遺伝子由来のプロモーターエレメントを用いてベクターを構築してもよい。IDX遺伝子由来のプロモーターをフラズルドのコーディング配列に作動可能に結合させ、WO93/00441に記載のように膵臓幹細胞のごとき適当な細胞を形質転換することにより、これらの細胞においてヒトSDF−5を発現させることができ、かくして、インスリンを分泌しうる膵臓ベータ細胞のごとき細胞の形成、成長、増殖、分化および/または維持についての所望の効果をインビトロまたはインビボのいずれかにおいて促進することができる。
【0026】
本発明のさらなる態様はヒトSDF−5蛋白またはポリペプチドである。かかるポリペプチドは、配列番号:2または3に示す配列を含むアミノ酸配列、あるいは天然に存在する対立遺伝子変種ならびにフラズルドの能力(軟骨細胞および/または軟骨組織および/または膵臓または肝臓、肺、心臓、脳および腎臓組織のごとき他の器官組織の形成、成長、増殖、分化および/または維持を促進および/または抑制する能力であって、フラズルド蛋白に特徴的なもの)を保持している他の蛋白変種を包含する配列番号:2または3のアミノ酸配列の変種を有することにより特徴づけられる。好ましいポリペプチドは、配列番号:2および3に示す成熟ヒトSDF−5アミノ酸配列に対して少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性を有するポリペプチドを包含する。結局、配列番号:2または3の配列の対立遺伝子変種または他の変種は、かかるアミノ酸変化が突然変異、化学的変換、あるいはポリペプチド作成のためのDNA配列の変更によってなされたものであるかどうかにかかわらず、ペプチド配列がやはりフラズルド活性を有しているかぎり、本発明に包含される。また本発明は、フラズルド蛋白の活性を保持している、配列番号:2または3に示すヒトSDF−5のアミノ酸配列のフラグメントも包含する。当業者は、当該分野で知られた方法を用いてヒトSDF−5蛋白のかかる変種およびフラグメントを容易に得ることができ、本明細書実施例に記載のごとくそれらの活性を容易にアッセイすることができる。
【0027】
本発明の精製蛋白を用い、当該分野で知られている抗体生成法を用いて、ヒトSDF−5蛋白および/または他の関連蛋白に対するモノクローナルまたはポリクローナルな抗体を得てもよい。よって、本発明は、ヒトSDF−5および/または他のフラズルド蛋白に対する抗体も包含する。抗体は、ヒトSDF−5蛋白の精製、あるいはインビトロまたはインビボでフラズルド蛋白の効果を抑制または防止することに有用でありうる。ヒトSDF−5蛋白は、胚性細胞および/または幹細胞の成長および/または分化の誘導に有用でありうる。よって、本発明蛋白または組成物は、胚性細胞または幹細胞のごとき細胞集団を処理して細胞の成長および/または分化を促進、豊富化または抑制することに有用でありうる。例えば、ヒトSDF−5蛋白は、細胞集団を処理して、軟骨細胞、軟骨組織および/または膵臓細胞のごとき他の細胞または他の組織もしくは器官の表現型を形成、分化、増殖および/または維持を促進および/または抑制することに有用でありうる。処理された細胞集団は、とりわけ、後で説明する遺伝子治療用途に有用でありうる。
【0028】
ヒトSDF−5遺伝子が分泌因子をコードしており、それゆえ、Wnt蛋白と結合可能な可溶性受容体を提供し、かくして、Wnt蛋白によるシグナルトランスダクションを開始および/またはブロックするということは、特に興味深い。よって、ヒトSDF−5遺伝子ファミリーは、フリズルド受容体蛋白のごとき受容体蛋白に対するWnt遺伝子の結合相互作用を調節する可能性がある。膵臓および他の器官におけるWnt遺伝子の存在および/または発現に伴うこれらの蛋白のシグナルトランスダクション調節活性は、ヒトSDF−5蛋白が、組織および器官の分化に対する重要なレギュレーターであり、組織および器官の誘導、形成、成長、分化、増殖および/または維持に関与している可能性があることを示唆する。よって、本発明蛋白は、傷の治癒ならびに器官の修復および再生プロセス、あるいはまた組織の分化、例えば胚の発達において有用でありうる。特に、ヒトSDF−5蛋白が軟骨細胞および/または軟骨組織の誘導、形成、成長、分化、増殖および/または維持ならびに修復に有用でありうることが、本発明者により観察された。よって、これらの蛋白およびそれらを含む組成物は、骨関節炎、リューマチ性関節炎および関節軟骨欠損のごとき軟骨の疾病の治療、ならびに細胞の形成、成長、分化、増殖および/または維持の促進および/または抑制、例えば軟骨細胞および/または軟骨組織の形成において有用でありうる。
【0029】
本発明ヒトSDF−5蛋白は、配列番号:1の配列に類似した配列によりコードされる因子を包含するが、該因子中には自然発生的(例えば、ポリペプチド中のアミノ酸変化を引き起こしうるヌクレオチド配列中の対立遺伝子変異)あるいは人工的に作成された修飾または欠失が存在している。例えば、合成ポリペプチドが、配列番号:2または3のアミノ酸残基の一連の配列を全体的または部分的に複製したものであってもよい。これらの配列は、1次、2次、または3次構造およびコンホーメーション的特質を配列番号:2または3のヒトSDF−5ポリペプチドと共有することによって、それらに共通した生物学的特性を有する可能性がある。よって、本来のヒトSDF−5のこれらの修飾および欠失体を、治療プロセスにおいて天然のヒトSDF−5ポリペプチドの生物学的活性置換体として用いてもよい。ヒトSDF−5およびヒトSDF−5の変種またはフラグメントを本明細書記載のアッセイに供することにより、ヒトSDF−5の変種またはフラグメントがフラズルドの生物学的活性を有しているかどうかを容易に決定することができる。さらに、変種またはフラグメントを競合アッセイに用いてWnt遺伝子への結合を試験してもよい。
【0030】
本明細書記載のヒトSDF−5蛋白配列の他の特別な変異は糖鎖付加部位の修飾を包含する。これらの修飾はO−結合またはN−結合糖鎖付加部位を含むものであってもよい。例えば、糖鎖付加の不存在またはごく部分的な糖鎖付加は、アスパラギン結合糖鎖付加認識部位の置換または欠失により生じる。アスパラギン結合糖鎖付加認識部位は、適当な細胞の糖鎖付加酵素により特異的に認識されるトリペプチド配列を含む。これらのトリペプチド配列は、アスパラギン−X−スレオニンまたはアスパラギン−X−セリンであり、通常にはXはいずれかのアミノ酸である。糖鎖付加認識部位の1番目または3番目のアミノ酸位置の一方または両方における種々のアミノ酸置換または欠失(および/または2番目の位置におけるアミノ酸欠失)は、修飾トリペプチド配列において糖鎖付加を生じさせない。かかるヒトSDF−5変種は本発明の範囲内である。さらに、ヒトSDF−5蛋白の細菌による発現は、糖鎖付加部位が未修飾であっても、糖鎖付加されていない蛋白を生じるであろう。ヒトSDF−5のかかる細菌により産生されたバージョンは本発明の範囲内である。
【0031】
また本発明は、他の蛋白性物質をコードするDNA配列が結合しておらず、ヒトSDF−5蛋白の発現をコードしている新規DNA配列をも包含する。これらのDNA配列は、配列番号:1に5’から3’方向に示したDNA配列ならびに厳密な条件下(例えば、0.1X SSC, 0.1% SDS, 65℃; T. Maniatis et al, Molecular Cloning (A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory (1982), 387-389ページ参照)でそれらにハイブリダイゼーションする配列であってフラズルド活性を有する蛋白をコードしている配列を包含する。これらのDNA配列もまた、配列番号:1のDNA配列を含むDNA配列、ならびに厳密な条件下でそれらにハイブリダイゼーションし、フラズルド活性を有する蛋白をコードしているDNA配列を包含する。
【0032】
同様に、配列番号:1の配列によりコードされたヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列、あるいは配列番号:2または3のアミノ酸配列を含むヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列は、遺伝学的コードの縮重または対立遺伝子変異(種の集団中における天然に存在する塩基変化であり、アミノ酸変化を生じさせるものであっても、生じさせないものであってもよい)によりコドン配列が異なっていても、本明細書記載の新規因子をコードする。コードされるポリペプチドの活性、半減期または産生を増大させるための点突然変異または誘発された修飾(挿入、欠失および置換を包含)により引き起こされる配列番号:1のDNA配列における変異も本発明に包含される。
【0033】
本発明のもう1つの態様は、ヒトSDF−5蛋白の新規製造方法を提供する。本発明方法は、本発明ヒトSDF−5蛋白をコードするDNA配列で形質転換された適当な細胞系を、調節配列の制御下において培養することを含む。形質転換宿主細胞を培養して、ヒトSDF−5蛋白を培地から回収し精製する。精製蛋白は、同時産生される他の蛋白ならびに他の混入物質を実質的に含まない。
【0034】
適当な細胞または細胞系はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)のごとき哺乳動物細胞であってもよい。適当な哺乳動物宿主細胞ならびに形質転換、培養、増幅、スクリーニング、生成物の製造および精製方法の選択は当該分野において知られている。例えば、Gething and Sambrook, Nature, 293:620-625 (1981)あるいはKaufman et al, Mol. Cell. Biol., 5(7):1750-1759 (1985)またはHowleyらの米国特許第4,419,446号参照。もう1つの適当な哺乳動物細胞系は本明細書の実施例に記載されているサルCOS−1細胞系である。哺乳動物細胞CV−1も適当であるかもしれない。
【0035】
細菌細胞も適当な宿主であるかもしれない。例えば、種々のイー・コリ株(例えばHB101、MC1061)はバイオテクノロジーの分野において宿主細胞としてよく知られている。ビー・ズブチリス(B. subtilis)、シュードモナス(Pseudomonas)、他のバチルス等をこの方法に使用してもよい。細菌細胞における蛋白の発現には、一般的には、フラズルドのシグナルペプチドをコードするDNAは必要ない。
【0036】
当業者に知られた多くの酵母細胞株も、本発明ポリペプチド発現のための宿主細胞として利用できる。さらに、所望ならば、本発明方法において昆虫細胞を宿主として用いてもよい。例えば、Miller et al, Genetic Engineering, 8:277-298 (Plenum Press 1986)およびその中で引用された文献参照。
【0037】
本発明のもう1つの態様は、これらの新規SDF−5ポリペプチドの発現方法に使用するベクターを提供する。好ましくは、ベクターは、本発明新規因子をコードする上記の新規DNA配列の全長を含む。さらに、ベクターは、フラズルド蛋白配列の発現を可能にする適当な発現制御配列を含む。あるいはまた、上記修飾配列を含むベクターも本発明の具体例である。さらに、ヒトSDF−5シグナルペプチド配列を欠失させ、他のフラズルド蛋白または他の適当なプロペプチドの完全シグナルペプチドをコードする配列に置き換えることにより、配列番号:1の配列またはヒトSDF−5蛋白をコードする他の配列を加工して、成熟ヒトSDF−5蛋白を発現させることもできる。よって、本発明は、ヒトSDF−5ポリペプチドをコードするDNA配列に正しい読み枠において結合している、フラズルドファミリーのメンバー由来のシグナルペプチドをコードするキメラDNA分子を包含する。
【0038】
ベクターを細胞系の形質転換法に使用してもよく、ベクターは、選択された宿主における複製および発現を指令しうる、本発明コーディング配列に作動可能に結合された調節配列を含む。かかるベクターの調節配列は当業者に知られており、宿主細胞に応じて選択できる。かかる選択は通常のことであり、本発明の一部を形成しない。
【0039】
ラット、ヒトまたは他の哺乳動物のSDF−5蛋白を製造するために、それをコードするDNAを適当な発現ベクター中に移行させ、慣用的な遺伝子工学的手法により哺乳動物細胞または他の好ましい真核細胞または原核細胞宿主中に導入する。生物学的に活性のある組み換えヒトSDF−5を得るための好ましい発現系は安定に形質転換された哺乳動物細胞であると考えられる。
【0040】
当業者は、配列番号:1の配列、またはSDF−5蛋白をコードする他のDNA配列または他の修飾配列ならびにpCD(Okayama et al., Mol. Cell Biol., 2:161-170 (1982))、pJL3、pJL4(Gough et al., EMBO J., 4:645-653 (1985))およびpMT2 CXMのごとき既知ベクターを用いることにより、哺乳動物発現ベクターを構築することができる。
【0041】
哺乳動物発現ベクターpMT2 CXMはp91023(b)(Wong et al., Science 228:810-815, 1985)の誘導体であり、テトラサイクリン耐性遺伝子のかわりにアンピシリン耐性遺伝子を含み、さらにcDNAクローン挿入のためのXhoI部位を含むことにおいて異なっている。pMT2 CXMの機能的エレメントは記載されており(Kaufman, R.J., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:689-693)、アデノウイルスVA遺伝子、72bpのエンハンサーを含むSV40複製開始点、5’スプライス部位およびアデノウイルス後期mRNA上に存在するアデノウイルス三分節リーダー配列の大部分を含むアデノウイルス大後期プロモーター、3’スプライスアクセプター部位、DHFRインサート、SV40初期ポリアデニル化部位(SV40)、ならびにイー・コリ中での増殖に必要なpBR322配列を含んでいる。
【0042】
受託番号ATCC 67122としてthe American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD (USA)に寄託されたpMT−VWFのEcoRI消化によりプラスミドpMT2 CXMを得る。EcoRI消化によりpMT2−VWFに存在するcDNAインサートを切り出し、pMT2を直鎖状とし、それをライゲーション(ligation)し、これを用いてイー・コリHB101またはDH−5を形質転換してアンピシリン耐性とすることができる。慣用的方法によりプラスミドpMT2 DNAを調製することができる。ついで、ループアウト/イン突然変異(Morinaga, et al., Biotechnology 84: 636 (1984))を用いてpMT2 CXMを構築する。これにより、SV40複製開始点およびpMT2エンハンサー配列の近傍のHindIII部位に対応した塩基1075〜1145が除去される。さらに、下記配列:
5' PO-CATGGGCAGCTCGAG-3'
をヌクレオチド1145に挿入する。この配列は制限エンドヌクレアーゼXhoI認識部位を含む。pMT23と命名されたpMT2 CXMの誘導体は制限エンドヌクレアーゼPstI、Eco1 RI、SalIおよびXhoIの認識部位を含む。慣用的方法によりプラスミドpMT2 CXMおよびpMT23 DNAを調製してもよい。
【0043】
pMT21に由来するpEMC2β1は本発明の実施に適するかもしれない。pMT21はpMT2に由来し、pMT2はpMT2−VWFに由来する。上記のごとく、EcoRI消化によりpMT−VWF中に存在するcDNAインサートを切り出し、pMT2を直鎖状とし、これをライゲーションし、これを用いてイー・コリHB101またはDH5を形質転換させてアンピシリン耐性とすることができる。慣用的方法によりプラスミドpMT2 DNAを調製することができる。
【0044】
pMT21は下記の2つの修飾によりpMT2に由来するものである。第1は、cDNAクローニング用のG/Cテイリング由来の19個のG残基の伸長部分を含む、76bpのDHFR cDNA5’非翻訳領域が欠失されている。このプロセスにおいて、XhoI部位が挿入されてDHFRのすぐ上流に下記配列:
【化1】

が得られる。第2は、EcoRVおよびXbaI消化、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントでの処理、およびClaIリンカー(CATCGATG)へのライゲーションにより単一のClaI部位が導入されている。これにより、250bpのセグメントがアデノウイルス関連RNA(VAI)領域から欠失されるが、VAI RNA遺伝子発現または機能は妨げられない。pMT21をEcoRIおよびXhoIで消化して、ベクターpEMC2B1を得るために使用する。
【0045】
EcoRIおよびPstIでの消化により、EMCVリーダーの一部をpMT2−ECAT1(S.K. Jung, et al, J. Virol 63:1651-1660 (1989))から得て、2752bpのフラグメントを生じさせる。このフラグメントをTaqIで消化して、508bpのEcoRI−TaqIフラグメントを得て、これを低融点アガロースゲル電気泳動により精製する。下記の配列:
【化2】

を有する68bpのアダプターおよびその相補鎖を合成する。これは5’TaqI突出末端および3’XhoI突出末端を有する。
【0046】
この配列はEMCウイルスリーダー配列のヌクレオチド763から827までに合致する。また、EMCウイルスリーダー中の位置10のATGがATTに変化しており、その後にXhoI部位がある。pMT21 EcoRI−XhoIフラグメント、EMCウイルスEcoRI−TaqIフラグメント、および68bpのオリゴヌクレオチドアダプターTaqI−XhoIアダプターのスリーウェイライゲーション(three way ligation)によりベクターpEMC2β1が得られる。
【0047】
このベクターは、哺乳動物細胞において所望cDNAを高レベルで発現させるように適切に関連づけられたSV40複製開始点およびエンハンサー、アデノウイルス大後期プロモーター、アデノウイルス三分節リーダー配列の大部分のcDNAコピー、小さなハイブリッド介在配列、SV40ポリアデニル化シグナルおよびアデノウイルスVAI遺伝子、DHFRおよびβ−ラクタマーゼマーカーならびにEMC配列を含む。
【0048】
ベクター構築物はヒトSDF−5 DNA配列の修飾を含んでいてもよい。例えば、コーディング領域の5’および3’末端にある非コーディングヌクレオチドを除去することによりヒトSDF−5 cDNAを修飾することができる。欠失された非コーディングヌクレオチドを、発現に有利であることが知られている他の配列に置き換えてもよく、置き換えなくてもよい。これらのベクターを、ヒトSDF−5蛋白の発現のために適当な宿主細胞中に形質転換する。さらに、ヒトSDF−5コーディングシグナルペプチド配列を欠失させ、他の蛋白の完全なシグナルペプチドをコードする配列に置き換えることにより、配列番号:1の配列、ヒトSDF−5蛋白をコードする他の配列を加工して成熟ヒトSDF−5蛋白を発現させることができる。
【0049】
当業者は、コーディング配列に隣接する哺乳動物調節配列を細菌配列に置換することにより、配列番号:1の配列を加工して、細菌細胞により細胞内または細胞外発現される細菌ベクターを作成することができる。例えば、コーディング配列をさらに加工することができる(例えば、他の既知リンカーを連結、あるいは非コーディング配列を欠失させることにより修飾、あるいは既知方法によりヌクレオチドを変化させる)。ついで、修飾ヒトSDF−5コーディング配列を、T. Taniguchi et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 77:5230-5233 (1980)に記載されたような方法を用いて既知細菌ベクター中に挿入することができる。ついで、この典型的な細菌ベクターを細菌宿主中に形質転換し、それにより蛋白を発現させる。ヒトSDF−5蛋白を細菌細胞の細胞外で発現させるための方法としては、例えば、欧州特許出願EPA 第177343号参照。
【0050】
昆虫細胞での発現のために、同様の操作を行って昆虫ベクターを構築することができる(例えば、出願公開された欧州特許出願第155476号記載の方法参照)。本発明因子を酵母により細胞内または細胞外発現させるために、酵母の調節配列を用いて酵母ベクターを構築してもよい(例えば、公開されたPCT出願WO86/00639および欧州特許出願EPA 第123289号参照)。
【0051】
本発明ヒトSDF−5蛋白を哺乳動物細胞において高レベルで産生させる方法は、異型のヒトSDF−5遺伝子の多数のコピーを含む細胞の構築を包含してもよい。異型遺伝子を増幅可能マーカー、例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子に連結し、Kaufman and Sharp, J. Mol. Biol., 159:601-629 (1982)の方法に従ってメトトレキセート(MTX)濃度を上昇させつつ増殖させて、増大した遺伝子コピーを含む細胞を選択することができる。
【0052】
例えば、発現を可能にする他のプラスミドの配列に作動可能に結合された本発明ヒトSDF−5蛋白のDNA配列を含むプラスミドならびにDHFR発現プラスミドpAdA26SV(A)3[Kaufman and Sharp, Mol. Cell. Biol., 2:1304 (1982)]を、リン酸カルシウム共沈およびトランスフェクション、エレクトロポレーションまたはプロトプラスト融合を包含する種々の方法により同時にDHFR欠損CHO細胞中に導入することができる。透析されたウシ胎児血清を含有するアルファ培地中での選択に関してDHFR発現形質転換体を選択し、ついで、Kaufman et al., Mol Cell Biol., 5:1750 (1983)に記載のごとくMTX濃度を上昇させつつ(例えば、逐次的に0.02、0.2、1.0、ついで5μMのMTX)増殖させることにより、増殖に関して選択する。形質転換体をクローン化し、本明細書記載のアッセイの1つにより、生物学的に活性のあるヒトSDF−5の発現をモニターする。ヒトSDF−5蛋白発現はMTXレベルの上昇に伴って増大するはずである。[35S]メチオニンまたはシステインを用いるパルスラベリングおよびポリアクリルアミドゲル電気泳動のごとき当該分野で知られた標準的方法を用いてヒトSDF−5ポリペプチドを特徴づける。同様の方法により他の関連SDF−5蛋白を得ることができる。
【0053】
フラズルド活性を示す本発明SDF−5蛋白は、ヒトおよび他の動物における軟骨細胞および/または軟骨組織ならびに膵臓組織、および他の器官の組織のごとき細胞および組織の誘導、形成、成長、分化、増殖および/または維持ならびに治癒に適用される。ヒトSDF−5蛋白を用いるかかる調合物は、リューマチ性関節炎および骨関節炎および軟骨に対する外傷の治療、ならびに膵臓腫瘍、糖尿病および他の膵臓組織の疾病の予防において予防的使用をしてもよい。フラズルド蛋白により誘導される、ベータ細胞、ランゲルハンス島、および膵臓表現型の他の細胞のデノボ形成は、先天性の、外傷により誘導される、あるいは腫瘍学的な組織欠損または症状の修復に貢献する。ヒトSDF−5蛋白を膵臓病、および他の組織および器官の修復プロセスに使用してもよい。かかる作用剤は、適当な幹細胞を誘引する環境を提供し、膵臓形成細胞の成長および増殖を刺激し、あるいは膵臓形成細胞の前駆細胞の分化を誘導する可能性があり、さらに他の組織および器官の再生を助ける可能性がある。本発明ヒトSDF−5ポリペプチドは膵臓炎または糖尿病のごとき器官の疾病の治療にも有用でありうる。
【0054】
本発明蛋白を傷の治癒および関連組織の修復に使用してもよい。傷のタイプは、熱傷、切り傷および潰瘍を包含するが、これらに限らない(傷の治癒および関連組織の修復については例えば、PCT公開WO84/01106参照)。さらに本発明蛋白はニューロン、星状細胞および/またはグリア細胞の生存率を高め、それゆえ、移植ならびにニューロンの生存率および修復の低下を示す症状の治療において有用であると考えられる。さらに本発明蛋白は、神経、表皮、筋肉、骨、軟骨、腱および靭帯のごとき結合組織のごとき他のタイプの組織、ならびに膵臓、肝臓、脾臓、肺、心臓、脳および腎臓組織に関連した症状の治療に有用でありうる。本発明蛋白は食物の添加物として、あるいは細胞培養培地の添加物としても価値を有する。この用途には、蛋白を無傷の状態で使用してもよく、あるいは前消化して、より容易に吸収される添加物としてもよい。
【0055】
本発明蛋白は、フラズルドファミリーの蛋白に特徴的な他の有用な特性も有しうる。かかる特性は、血管形成、化学走性および/または化学誘引特性、および分化応答、細胞増殖応答、および細胞の付着、移動を包含する応答、および細胞外マトリックスに対する影響を包含する。これらの特性は、本発明蛋白を傷の治癒、繊維症の軽減および瘢痕組織形成の抑制のための有効な作用剤としている。本発明蛋白は、インスリン、グルカゴンまたは他の内分泌もしくは外分泌ホルモンのごとき貴重なホルモンを分泌しうる細胞の形成の誘導にも有用でありうる。
【0056】
本発明のさらなる態様は、軟骨および結合組織の疾病、ならびに膵臓病、糖尿病、および膵臓組織の疾病または疾患に関連した他の症状の治療方法ならびに治療用組成物である。さらに本発明は、傷の治癒および組織の修復のための治療方法ならびに組成物を包含する。かかる組成物は、医薬上許容される賦形剤、担体またはマトリックスと混合された治療上有効量の少なくとも1種の本発明ヒトSDF−5蛋白を含む。さらに本発明組成物はニューロンおよびグリア細胞の生存率を高め、それゆえ、移植ならびにニューロンの生存率低下を示す症状の治療に有用であると考えられる。
【0057】
本発明蛋白は、他の関連蛋白および成長因子と協奏的に、あるいはおそらく相乗的に作用うしうると考えられる。それゆえ、本発明のさらなる治療方法および組成物は、骨形態形成蛋白(BMP)を包含するTGF−βスーパーファミリーの蛋白のメンバー、成長および分化因子(GDF)および他の蛋白、例えば米国特許第5108922、5013649、5116738、5106748、5187076および5141905号に開示されたBMP−1、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6およびBMP−7;PCT出願公開WO91/18098に開示されたBMP−8;およびPCT出願公開WO93/00432に開示されたBMP−9;PCT出願公開WO94/26893に開示されたBMP−10;PCT出願公開WO94/26892に開示されたBMP−11、あるいはPCT出願公開WO95/16035に開示されたBMP−12またはBMP−13、あるいはPCT出願公開WO96/36710に開示されたBMP−15あるいは1996年9月18日出願の同時係属特許出願第08/715202号に開示されたBMP−16のごとき治療上有効量の少なくとも1種の他の蛋白と一緒になった治療上有効量の少なくとも1種の本発明ヒトSDF−5蛋白を含む。
【0058】
有用でありうる他の組成物は、Vgr−2ならびにPCT出願公開WO94/15965;WO94/15949;WO95/01801;WO95/01802;WO94/21681;WO94/15966等に記載されたものを包含する成長および分化因子(GDF)を含有していてもよい。WO94/01557に開示されたBIP;およびPCT出願公開WO93/16099に開示されたMP52を包含してもよい。上記すべての開示を、参照により本明細書に開示されているものとみなす。好ましい具体例において、SDF−5が蛋白BMP−2、BMP−7、MP52、BMP−12またはBMP−13と組み合わされる。
【0059】
組成物は、表皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子(TGF−αおよびTGF−β)、アクチビン、インヒビン、およびk−繊維芽細胞成長因子(kFGF)、副甲状腺ホルモン(PHT)、白血病抑制因子(LIF/HILDA/DIA)、インスリン様成長因子(IGF−IおよびIGF−II)のごとき他の作用剤および成長因子を含んでいてもよい。これらの作用剤の一部を本発明に使用してもよい。
【0060】
pH、等張性、安定性等において生理学的に許容されるかかる蛋白組成物の処方は当業者に明らかである。またフラズルド蛋白における種特異性が欠乏している場合の獣医学的用途にも、本発明治療組成物は目下のところ価値を有する。詳細には、本発明SDF−5蛋白でのかかる治療に適した対象は、ヒトのほかには家畜およびサラブレッドのウマである。
【0061】
治療方法は、組成物を局所的、全身的、または局部的に、注射または移植のごとき方法で投与することを包含する。投与する場合、本発明に使用する治療組成物は、もちろん、パイロジェン不含で、生理学的に許容される形態である。さらに、望ましくは、組成物をカプセル封入してもよく、あるいは膵臓または他の組織のダメージ部位へのデリバリーのために粘性のある形態として注射してもよい。局所的投与は傷の治癒および組織の修復に適しているかもしれない。本発明方法において、上記組成物に含有されていてもよいSDF−5蛋白以外の治療上有用な作用剤を、SDF−5組成物のかわりに、あるいはそれに加えて、同時または逐次投与してもよい。
【0062】
移植には、好ましくは、組成物は、ヒトSDF−5蛋白を膵臓または他の組織のダメージ部位にデリバリーすることのできるマトリックスを含む。マトリックスは、ヒトSDF−5および/または他の蛋白を除々に放出するほか、細胞を浸潤させるために正しくヒトSDF−5を提供し、適切な環境を提供する。かかるマトリックスは、現在他の移植医療に使用されている材料から作られてもよい。マトリックス材料の選択は、生体適合性、生分解性、機械的特性、美容上の外観および界面特性に基づいて行われる。ヒトSDF−5組成物の個々の適用により、適切な処方が決定される。
【0063】
例えば形成が望まれる組織量、組織ダメージ部位、ダメージを受けた組織の状態、傷のサイズ、ダメージを受けた組織のタイプ、患者の年齢、性別、食事、感染症の重さ、投与期間ならびに他の臨床的要因のごときヒトSDF−5蛋白の作用を変化させる種々の要因を担当医が考慮することにより、投与規則が決定されるであろう。復元に用いるマトリックスおよび組成物中のヒトSDF−5蛋白のタイプに応じて用量は変更されうる。IGF I(インスリン様増殖因子I)のごとき他の既知成長因子の添加もまた、用量に影響しうる。
【0064】
組織の成長および/または修復を定期的に評価することにより、進展をモニターすることができる。例えば、X線、組織形態学的試験およびテトラサイクリン標識により進展をモニターすることができる。
【0065】
用途および生物学的活性
本発明蛋白は、下記の1またはそれ以上の用途または生物学的活性(本明細書に引用されたアッセイに関連するものも含む)を示すと考えられる。本発明蛋白に関して説明された用途または活性は、かかる蛋白の投与または使用により、あるいはかかる蛋白をコードしているポリヌクレオチドの投与または使用(例えば、遺伝子治療またはDNA導入に適したベクターのごとき)により提供されうる。
【0066】
研究用途および有用性
本発明により提供される蛋白は、高処理量スクリーニングのための一群の多数の蛋白を含む、生物学的活性を決定するためのアッセイに;抗体の生成または他の免疫応答を誘導するために;生物学的液体中の蛋白(またはその受容体)のレベルを定量的に決定するために設計されたアッセイにおける試薬(標識試薬を包含)として;対応蛋白が優先的に発現される(構成的に、または組織分化もしくは発達の特定段階において、または疾病状態において発現される)組織のマーカーとして;ならびに、もちろん関連受容体またはリガンドを単離するために用いてもよい。蛋白がもう1つの蛋白に結合または潜在的に結合する場合、結合する他の蛋白を同定し、あるいは、または結合相互作用の阻害剤を同定するために蛋白を使用することができる。これらの結合相互作用に関与する蛋白を用いて、結合相互作用に関するペプチドまたは小型分子状阻害剤またはアゴニストのスクリーニングを行うこともできる。
【0067】
これらの研究用途のいずれかまたはすべては、研究用製品として商品化するために試薬グレードまたはキットのフォーマットへと発展させることができる。
【0068】
上記使用を実行するための方法は当業者によく知られている。かかる方法を開示する文献は、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Sambrook, J., E.F. Fritsch and T. Maniatis eds., 1989,および"Methods in Enzymology: Guide to Molecular Cloning Techniques", Academic Press, Berger, S.L. and A.R. Kimmel eds., 1987を包含するが、これらに限らない。
【0069】
栄養としての用途
本発明蛋白を栄養源または添加物として使用することができる。かかる用途は、蛋白またはアミノ酸添加物としての用途、炭素源としての用途、窒素源としての用途および炭水化物源としての用途を包含するが、これらに限らない。かかる場合、本発明蛋白を特定の生物のエサとして添加してもよく、あるいは粉末、ピル、溶液、懸濁液またはカプセルの形態のごとき別個の固体または液体調合物として投与することもできる。微生物の場合、微生物が培養される培地に本発明蛋白またはポリヌクレオチドを添加することができる。
【0070】
サイトカインおよび細胞増殖/分化活性
本発明蛋白はサイトカイン活性、細胞増殖活性(誘導もしくは阻害)または細胞分化活性(誘導もしくは阻害)を示しうるか、またはある種の細胞集団において他のサイトカインの産生を誘導しうる。今日まで見いだされてきた多くの蛋白性因子(すべての既知サイトカインを包含)は、1またはそれ以上の因子依存的細胞増殖アッセイにおいて活性を示しており、よって、アッセイはサイトカイン活性の便利な確認法として役立つ。本発明蛋白の活性は、細胞系(32D、DA2、DA1G、T10、B9、B9/11、BaF3、MC9/G、M+(preB M+)、2E8、RB5、DA1、123、T1165、HT2、CTLL2、TF−1、Mo7eおよびCMKを包含するが、これらに限らない)のための多くの常套的な因子依存的細胞増殖アッセイのいずれかにより確認される。
【0071】
本発明蛋白の活性を、とりわけ、下記方法により測定してもよい:
T細胞または胸腺細胞の増殖についてのアッセイは、Current Protocols in Immunology, Ed by J. E. Coligan, A.M. Kruisbeek, D.H. Margulies, E.M. Shevach, W Strober, Pub. Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 3, In Vitro assays for Mouse Lymphocyte Function 3.1-3.19; Chapter 7, Immunologic studies in Humans); Takai et al., J. Immunol. 137:34943500, 1986; Bertagnolli et al., J. Immunol. 145:1706-1712, 1990; Bertagnolli et al., Cellular Immunology 133:327-341, 1991; Bertagnolli, et al., J. Immunol. 149:3778-3783, 1992; Bowman et al., J. Immunol. 152: 1756-1761, 1994に記載されたものを包含するが、これらに限らない。
【0072】
脾臓細胞、リンパ節細胞または胸腺細胞のサイトカイン生成および/または増殖に関するアッセイは、Polyclonal T cell stimulation, Kruisbeek, A.M. and Shevach, E.M. In Current Protocols in Immunology. J.E.e.a. Coligan eds. Vol 1 pp. 3.12.13.12.14, John Wiley and Sons, Toronto. 1994; and Measurement of mouse and human Interferon γ, Schreiber, R.D. In Current Protocols in Immunology. J.E.e.a. Coligan eds. Vol 1 pp. 6.8.16.8.8, John Wiley and Sons, Toronto. 1994に記載されたものを包含するが、これらに限らない。
【0073】
造血およびリンパ生成細胞の増殖および分化についてのアッセイは、Measurement of Human and Murine Interleukin 2 and Interleukin 4, Bottomly, K., Davis, L.S. and Lipsky, P.E. In Current Protocols in Immunology. J.E.e.a. Coligan eds. Vol 1 pp. 6.3.16.3.12, John Wiley and Sons, Toronto. 1991; deVries et al., J. Exp. Med. 173:12051211, 1991; Moreau et al., Nature 336:690692, 1988; Greenberger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:29312938, 1983; Measurement of mouse and human interleukin 6 Nordan, R. In Current Protocols in Immunology. J.E.e.a. Coligan eds. Vol 1 pp. 6.6.16.6.5, John Wiley and Sons, Toronto. 1991; Smith et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83:18571861, 1986; Measurement of human Interleukin 11 - Bennett, F., Giannotti, J., Clark, S.C. and Turner, K. J. In Current Protocols in Immunology. J.E.e.a. Coligan eds. Vol 1 pp. 6.15.1 John Wiley and Sons, Toronto. 1991; Measurement of mouse and human Interleukin 9 - Ciarletta, A., Giannotti, J., Clark, S.C. and Turner, K.J. In Current Protocols in Immunology. J.E.e.a. Coligan eds. Vol 1 pp. 6.13.1, John Wiley and Sons, Toronto. 1991
に記載されたものを包含するが、これらに限らない。
【0074】
抗原に対するT細胞クローンの応答についてのアッセイ(特に、増殖およびサイトカイン産生を測定することによりAPC−T細胞相互作用ならびに直接的なT細胞の効果を同定する)は、Current Protocols in Immunology, Ed by J. E. Coligan, A.M. Kruisbeek, D.H. Margulies, E.M. Shevach, W Strober, Pub. Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 3, In Vitro assays for Mouse Lymphocyte Function; Chapter 6, Cytokines and their cellular receptors; Chapter 7, Immunologic studies in Humans); Weinberger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:60916095, 1980; Weinberger et al., Eur. J. Immun. 11:405411, 1981; Takai et al., J. Immunol. 137:34943500, 1986; Takai et al., J. Immunol. 140:508512, 1988に記載されたものを包含するが、これらに限らない。
【0075】
免疫刺激または抑制活性
また本発明蛋白は、本明細書記載のアッセイにおける活性(これらに限らない)を包含する免疫刺激または免疫抑制活性を示すものであってもよい。蛋白は、種々の欠乏症および障害(重症の免疫欠乏合併症(SCID)を包含)において有用である可能性があり、例えば、Tおよび/またはBリンパ球の増殖をアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションすることにおいて、ならびにNK細胞および他の細胞集団の細胞溶解活性を有効ならしめることにおいて有用でありうる。これらの免疫欠乏症は遺伝的なものであってもよく、またウイルス(例えば、HIV)ならびに細菌または真菌感染により引き起こされるものであってもよく、あるいは自己免疫疾患により引き起こされるものであってもよい。より詳細には、ウイルス、細菌、真菌または他の感染物質により引き起こされる感染性疾患、例えば、HIV、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ミコバクテリア、レシュマニア、マラリアおよびカンジダ種のごとき種々の真菌感染症を、本発明蛋白を用いて治療可能である。もちろん、この点において、免疫系に対するブーストが指示される場合、すなわち、癌の治療において、本発明蛋白を用いてよい。
【0076】
本発明蛋白を用いて治療してもよい自己免疫疾患は、例えば、多発性硬化症、全身性の深在性エリトマーデス、リューマチ性関節炎、自己免疫性肺炎、Guillain-Barre症候群、自己免疫性甲状腺炎、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、対宿主移植片疾患および自己免疫性の炎症性の目の疾患を包含する。本発明のかかる蛋白を、喘息または他の呼吸器系の疾患のごときアレルギー性反応および症状の治療に用いてもよい。免疫抑制が望まれる他の症状(例えば、喘息(特にアレルギー性喘息)および関連呼吸器系の問題を包含)を本発明蛋白を用いて治療してもよい。免疫抑制が望まれる他の状態(例えば、器官移植を包含)を、本発明蛋白を用いて治療してもよい。
【0077】
本発明蛋白を用いて、多くのやり方で免疫応答を可能にすることもできる。ダウンレギュレーションは、すでに進行中の免疫応答を阻害またはブロックする形態のものであってもよく、あるいは免疫応答の誘導を妨害することを含むものであってもよい。T細胞応答を抑制することにより、あるいはT細胞中に特異的な耐性を誘導することにより、あるいはその両方により活性化T細胞の機能を阻害してもよい。一般的には、T細胞応答の免疫抑制は活性のある、非抗原特異的なプロセスであり、T細胞を抑制剤に連続的に曝露することを必要とする。耐性とは、T細胞における非応答性またはアネルギーを意味し、一般的には抗原特異的であり耐性化剤への曝露を止めた後も持続するという点で免疫抑制とは異なる。操作上は、耐性化剤の不存在下で特異的抗原に曝露した際のT細胞応答の欠如により耐性が示されうる。
【0078】
1またはそれ以上の抗原機能(Bリンパ球抗原機能(例えばB7のごとき)を包含するが、これに限らない)をダウンレギュレーションすることまたは妨害すること、例えば、活性化T細胞による高レベルのリンホカイン合成の妨害は、組織、皮膚および器官の移植および対宿主移植片疾患(GVHD)において有用であろう。例えば、T細胞機能のブロックは組織移植における組織破壊を減少させるはずである。典型的には、組織移植において、移植片の拒絶反応は、組織片がT細胞により外来のものと認識されることにより開始され、次いで、移植片を破壊する免疫反応が起こる。免疫細胞上でのB7リンパ球抗原とその本来的なリガンドとの相互作用を阻害またはブロックする分子(別のBリンパ球抗原(例えば、B7−1、B7−3)の活性を有するモノマー形態のペプチドと混合された、あるいは単独の、B7−2活性を有する可溶性でモノマー形態のペプチド)の移植前の投与は、応答的な同時刺激シグナルを伝達することなく免疫細胞上の本来のリガンドへの分子の結合を誘導する可能性がある。この点においてBリンパ球抗原機能をブロックすることは、T細胞のごとき免疫細胞によるサイトカイン合成を妨害し、かくして、免疫抑制剤として作用する。そのうえ、同時刺激の欠如はT細胞の反応を失わせるのに十分でありうる。Bリンパ球抗原ブロッキング試薬による長期の耐性の誘導により、これらのブロッキング試薬の繰り返し投与の必要性が回避されうる。対象において十分な免疫抑制または耐性を達成するためには、Bリンパ球抗原の組み合わせの機能をブロックすることも必要かもしれない。
【0079】
器官移植拒絶反応またはGVHDを妨害することにおける個々のブロッキング試薬の有効性を、ヒトにおける有効性を推定しうる動物モデルを用いて評価することができる。使用可能な適当な系の例は、ラットにおける同種心臓移植片およびマウスにおける異種膵臓島細胞移植片を包含し、それらは両方ともインビボでのCTLA4Ig融合蛋白の免疫抑制効果を試験するために使用された(Lenschow et al., Science 257:789-792 (1992)およびTurka et al., Proc Natl. Acad. Sci. USA, 89:11102-11105 (1992)に記載されている)。さらに、GVHDのネズミモデル(Paul ed., Fundamental Immunology, Ravan Press, New York, 1989, pp.846-847参照)を用いて、インビボでの当該疾患の進行に対するBリンパ球抗原機能のブロッキング効果を決定することができる。
【0080】
また、抗原機能をブロックすることは自己免疫疾患の治療にとり治療的に有用でありうる。多くの自己免疫疾患は、自己組織に対して反応性があり、疾病の病理に関与するサイトカインおよび自己抗体の産生を促進するT細胞の不適当な活性化の結果である。自己反応性T細胞の活性化を妨害することは疾病の徴候を減少または除去しうる。Bリンパ球抗原の受容体:リガンド相互作用を破壊することによりT細胞の同時刺激をブロックする試薬の投与を用いてT細胞活性化を阻害し、疾病プロセスに関与しうる自己抗体またはT細胞由来のサイトカインの産生を妨害することができる。さらに、ブロッキング試薬は、疾病の長期の寛解を導く可能性のある自己反応性T細胞の抗原特異的耐性を誘導しうる。自己免疫疾患の予防または改善におけるブロッキング試薬の有効性を、ヒトの自己免疫疾患についての十分に特徴づけられた多くの動物モデルを用いて決定することができる。例は、ネズミの実験的自己免疫脳炎、MRLlpr/lprマウスまたはNZBハイブリッドマウスにおける全身性深在性エリトマトーデス、ネズミ自己免疫コラーゲン関節炎、NODマウスおよびBBラットにおける糖尿病、およびネズミの実験的重症筋無力症(Paul ed., Fundamental Immunology, Raven Press, New York, 1989, pp.840-856)を包含する。
【0081】
免疫応答をアップレギュレーションするための手段としての抗原機能(好ましくは、Bリンパ球抗原機能)のアップレギュレーションは治療に有用でもある。免疫応答のアップレギュレーションは存在している免疫応答を促進する形態または最初の免疫応答を除去する形態であってよい。例えば、Bリンパ球抗原機能を刺激することによる免疫応答の促進は、ウイルス感染の場合に有用でありうる。さらに、インフルエンザ、通常のかぜ、および脳炎のごとき全身的なウイルス性疾患を、刺激性形態のBリンパ球抗原を全身投与することにより改善してもよい。
【0082】
別法として、T細胞を患者から取り、本発明ペプチドを発現するACPsを付加したウイルス抗原とともにインビトロにおいてT細胞を同時刺激するか、または刺激性形態の本発明可溶性ペプチドと一緒にし、次いで、インビトロで活性化されたT細胞を患者体内に再導入することにより、感染患者における抗ウイルス免疫応答を促進してもよい。抗ウイルス免疫応答を促進するもう1つの方法は、感染細胞を患者から取り、本明細書記載の本発明蛋白をコードする核酸をそれらにトランスフェクションして細胞がその表面に蛋白全体または一部を発現するようにし、次いで、トランスフェクション細胞を患者体内に再導入することであろう。すると、感染細胞はインビボにおいて同時刺激シグナルをT細胞に伝えることができ、そのことによりT細胞を活性化することができよう。
【0083】
もう1つの適用例において、抗原機能(好ましくは、Bリンパ球抗原機能)のアップレギュレーションまたは促進は腫瘍免疫性の誘導において有用でありうる。本発明の少なくとも1種のペプチドをコードする核酸でトランスフェクションされた腫瘍細胞(例えば、肉腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、神経芽細胞腫、癌腫)を対象に投与して対象中の腫瘍特異的耐性を克服することができる。所望ならば、腫瘍細胞をトランスフェクションしてペプチドの組み合わせを発現させることができる。例えば、患者から得た腫瘍細胞を、B7−2様活性を有するペプチドのみ、またはB7−1様活性および/またはB7−3様活性を有するペプチドと組み合わせて発現することを指令する発現ベクターで、エキソビボにおいてトランスフェクションすることができる。トランスフェクションされた腫瘍細胞を患者に戻して、トランスフェクションされた細胞の表面上にペプチドを発現させる。別法として、遺伝子治療法を用いてインビボでのトランスフェクションのために腫瘍細胞を標的化することができる。
【0084】
腫瘍細胞表面上におけるBリンパ球抗原の活性を有する本発明ペプチドの存在は、T細胞に必要な同時刺激シグナルを提供して、T細胞により媒介されるトランスフェクションされた腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導する。さらに、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子を欠く腫瘍細胞、あるいは十分量のMHCクラスIまたはMHCクラスII分子を再発現できない腫瘍細胞を、MHCクラスIα鎖蛋白およびβマイクログロブリン蛋白またはMHCクラスIIα鎖およびMHCクラスIIβ鎖蛋白の全体または一部(例えば、末端切断蛋白の細胞質ドメイン)をコードしている核酸でトランスフェクションして、そのことによりクラスIまたはクラスIIMHC蛋白を細胞表面上に発現させることができる。Bリンパ球抗原(例えば、B7−1、B7−2、B7−3)の活性を有するペプチドと組み合わせた適当なクラスIまたはクラスII HMCの発現は、T細胞により媒介されるトランスフェクションされた腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導する。所望により、不変鎖のごとき、MHCクラスII結合蛋白の発現をブロックするアンチセンス構築物をコードしている遺伝子を、Bリンパ球抗原の活性を有するペプチドをコードしているDNAとともに同時トランスフェクションして腫瘍関連抗原の提示を促進し、腫瘍特異的免疫性を誘導こともできる。よって、ヒト対象におけるT細胞により媒介される免疫応答の誘導は、対象における腫瘍特異的耐性を克服するに十分でありうる。
【0085】
本発明蛋白の活性を、特に、下記方法により測定してもよい:
胸腺細胞または脾臓細胞の細胞毒性に適したアッセイは、Current Protocols in Immunology, Ed by J. E. Coligan, A.M. Kruisbeek, D.H. Margulies, E.M. Shevach, W Strober, Pub. Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 3, In Vitro assays for Mouse Lymphocyte Function 3.1-3.19; Chapter 7, Immunologic studies in Humans); Herrmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2488-2492, 1981; Herrmann et al., J. Immunol. 128: 1968-1974, 1982; Handa et al., J. Immunol. 135: 1564-1572, 1985; Takai et al., J. Immunol. 137: 3494-3500, 1986; Takai et al., J. Immunol. 140: 508-512, 1988; Herrmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2488-2492, 1981; Herrmann et al., J. Immunol. 128: 1968-1974, 1982; Handa et al., J. Immunol. 135: 1564-1572, 1985; Takai et al., J. Immunol. 137: 3494-3500, 1986; Bowmanet al., J. Virology 61: 1992-1998; Takai et al., J. Immunol. 140: 508-512, 1988; Bertagnolli et al., Cellular Immunology 133: 327-341, 1991; Brown et al., J. Immunol. 153: 3079-3092, 1994に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0086】
T細胞依存性免疫グロブリン応答およびイソタイプスイッチングのためのアッセイ(特に、T細胞依存性抗体応答を転調させ、Th1/Th2プロフィールに影響する蛋白を同定する)は、Maliazewski,J.Immunol.144:3028-3033,1990に記載されているアッセイを包含するが、これに限らず、さらにB細胞の機能のアッセイは、In vitro antibody production,Mond,J.J.and Brunswick,M.In Current Protocols in Immunology J.E.Coligan eds.Val 1 pp.3.8.1-3.8.16,John Wiley and Sons,Tronto 1994に記載のアッセイを包含する。
【0087】
混合リンパ球反応(MLR)アッセイ(特に、主としてTh1およひCTL応答を発生させる蛋白を同定する)は、Current Protocols in Immunology, Ed by J. E. Coligan, A.M. Kruisbeek, D.H. Margulies, E.M. Shevach, W Strober, Pub. Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 3, In Vitro assays for Mouse Lymphocyte Function 3.1-3.19; Chapter 7, Immunologic studies in Humans); Takai et al., J. Immunol. 137: 3494-3500, 1986; Takai et al., J. Immunol. 140: 508-512, 1988; Bertagnolli et al., J. Immunol. 149: 3778-3783, 1992に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0088】
樹枝状細胞依存的アッセイ(特に、無処理のT細胞を活性化する樹枝状細胞により発現される蛋白を同定する)は、Guery et al., J. Immunol. 134: 536-544, 1995; Inaba et al., Journal of Experimental Medicine 173: 549-559, 1991; Macatonia et al., Journal of Immunology 154: 5071-5079, 1995; Porgador et al., Journal of Experimental Medicine 182: 255-260, 1995; Nair et al., Journal of Virology 67: 4062-4069, 1993; Huang et al., Science 264: 961-965, 1994; Macatonia et al., Journal of Experimental Medicine 169: 1255-1264, 1989; Bhardwaj et al., Journal of Clinical Investigation 94: 797-807, 1994; and Inaba et al., Journal of Experimental Medicine 172: 631-640, 1990に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0089】
リンパ球生存/アポトーシスのアッセイ(特に、超抗体誘導後のアポトーシスを防止する蛋白、ならびにリンパ球のホメオスタシスを調節する蛋白を同定する)は、Darzynkiewicz et al., Cytometry 13: 795-808, 1992; Gorczyca et al., Leukemia 7: 659-670, 1993; Gorczyca et al., Cancer Research 53: 1945-1951, 1993; Itoh et al., Cell 66: 233-243, 1991; Zacharchuk, Journal of Immunology 145: 4037-4045, 1990; Zamai et al., Cytometry 14: 891-897, 1993; Gorczyca et al., International Journal of Oncology 1: 639-648, 1992に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0090】
初期段階のT細胞のコミットメント(commitment)および発達のアッセイは、Antica et al.,Blood 84: 111-117,1994; Fine et al.,Cellular Immunology 155: 111-122, 1994; Galy et al.,Blood 85: 2770-2778, 1995; Toki et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7548-7551, 1991に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0091】
造血調節活性
本発明蛋白は、造血の調節において有用であり、それゆえ、骨髄およびリンパ球欠乏症の治療において有用である。コロニー形成細胞または因子依存性細胞系を支持する最低限の生物学的活性でさえも、造血の調節への関与を示している。例えば、赤血球系前駆細胞のみの増殖を支持すること、あるいは他のサイトカインと組み合わされて、例えば種々の貧血の治療に有用性を示すこと、あるいは放射線療法/化学療法と組み合わされて赤芽前駆細胞および/または赤芽細胞の産生を刺激すること;顆粒球のごとき骨髄細胞および単球/マクロファージの増殖を支持すること(すなわち、伝統的なCSF活性)、例えば、化学療法と組み合わされて、引き続き起こる骨髄抑制を防止することに有用であり;巨核細胞の増殖、次いで、血小板の増殖を支持すること、またそれにより血小板減少症のごとき種々の血小板疾患を予防または治療することに有用であり、また一般的には血小板輸液の代わりにあるいはそれと相補的に使用され;さらに/あるいは造血幹細胞(成熟して上記のすべての造血細胞となり、それゆえ、種々の幹細胞疾患(通常には、移植により治療される疾患であり、例えば、再生不良性貧血および発作性ヘモグロビン尿症)において有用性がわかる)の増殖を支持することに有用であり、さらにはインビボまたはエキソビボでの放射線/化学療法後(すなわち、骨髄移植と組み合わされる)、あるいは遺伝子治療のために遺伝子操作された後の幹細胞コンパートメントの正常細胞としての再増殖においても有用である。
【0092】
本発明蛋白の活性を、特に、下記方法測定してもよい。
種々の造血細胞系の増殖および分化に適したアッセイはすでに引用されている。
【0093】
胚の幹細胞の分化のアッセイ(特に、胚の分化造血に影響する蛋白を同定する)は、Johansson et al. Cellular Biology 15: 141-151, 1995; Keller et al., Molecular and Cellular Biology 13: 473-486, 1993; McClanahan et al., Blood 81: 2903-2915, 1993に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0094】
幹細胞生存および分化のアッセイ(特に、リンパ−造血を調節する蛋白を同定する)は、Methylcellulose colony forming assays, Freshney, M.G. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 265-268, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994; Hirayama et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 5907-5911, 1992; Primitive hematopoietic colony forming cells with high proliferative potential, McNiece, I.K. and Briddell, R.A. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 23-39, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994; Neben et al., Experimental Hematology 22: 353-359, 1994; Cobblestone area forming cell assay, Ploemacher, R.E. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 1-21, Wiley-Liss, Inc.., New York, NY. 1994; Long term bone marrow cultures in the presence of stromal cells, Spooncer, E., Dexter, M. and Allen, T. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 163-179, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994; Long term culture initiating cell assay, Sutherland, H.J. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 139-162, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0095】
組織増殖活性
本発明蛋白は、骨、軟骨、腱、靭帯および/または神経組織の成長または再生、ならびに傷の治癒および組織修復に用いる組成物において、さらに熱傷、裂傷および潰瘍の治療において有用性を有する。
【0096】
骨が正常に形成されない環境において軟骨および/または骨の成長誘導する本発明蛋白は、ヒトおよび他の動物における骨折および軟骨損傷または欠損の治癒における用途がある。本発明蛋白を用いるかかる調合物は、閉鎖性骨折ならびに解放性骨折の軽減に有用であり、また人工関節の固定の改善にも有用である。骨形成剤により誘導されるデノボ骨形成は、先天性の、外傷による、あるいは腫瘍学的切除により誘発される脳顔面頭蓋の欠損の修復に貢献し、さらに美容整形外科手術においても有用である。
【0097】
本発明蛋白を歯周病の治療および他の歯の修復プロセスに用いてもよい。かかる作用剤は、骨形成細胞を誘引する環境を提供し、骨形成細胞の増殖を刺激し、あるいは骨形成細胞前駆体の分化を誘導しうる。本発明蛋白は、例えば、骨および/または軟骨修復の刺激により、あるいは炎症または炎症プロセスにより媒介される組織破壊のプロセス(コラゲナーゼ活性、破骨細胞活性等)をブロックすることにより、骨粗鬆症または骨関節炎の治療においても有用でありうる。
【0098】
本発明蛋白によるものとしてもよい組織発生活性のもう1つのカテゴリーは腱/靭帯の形成である。腱/靭帯様組織または他の組織が正常に形成されない環境におけるかかる組織の形成を誘導する本発明蛋白は、ヒトおよび他の動物における腱または靭帯の裂傷、変形および他の腱または靭帯の欠損の治癒、に適用される。腱/靭帯様組織誘導蛋白を用いるかかる調合物は、腱または靭帯組織に対するダメージの予防ならびに腱または靭帯の骨または他の組織への固定の改善に用いてもよい。本発明組成物により誘導されるデノボ腱/靭帯様組織形成は、先天性の、外傷による、あるいは腫瘍学的切除により誘発される脳顔面頭蓋の欠損の修復に貢献し、さらに腱または靭帯の付着または修復のための美容整形外科手術においても有用である。本発明組成物は、腱−または靭帯−形成細胞を誘引するための環境を提供し、腱−または靭帯−形成細胞の増殖を刺激し、腱−または靭帯−形成細胞の前駆体の分化を誘導し、あるいはインビボに戻した場合に組織修復を行うようにエキソビボでの腱/靭帯細胞または前駆体の増殖を誘導しうる。本発明組成物は、腱炎、手根骨トンネル症候群および他の腱または靭帯の欠損にも有用である。本発明組成物は、適当なマトリックスおよび/または当該分野でよく知られた担体のごとき隔離剤を含んでいてもよい。
【0099】
本発明蛋白は、神経細胞の増殖ならびに神経および脳組織の再生に、すなわち、中枢および末梢神経系疾患およびニューロパシーならびに機械的疾患および外傷性疾患(神経細胞または神経組織に対する変性、死もしくは外傷を包含)の治療にも有用でありうる。より詳細には、末梢神経傷害、末梢ニューロパシーおよび局在化ニューロパシーのごとき末梢神経系の疾病、ならびにアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋委縮性外側脊髄硬化症およびShy-Drager症候群のごとき中枢神経系の疾病の治療に蛋白を使用してもよい。本発明により治療してもよいさらなる症状は、脊髄疾患のごとき機械的疾患および外傷性疾患、頭部外傷ならびに卒中のごとき脳血管系の疾患を包含する。化学療法または他の医学的療法により引き起こされる末梢ニューロパシーは、本発明蛋白を用いて治療可能である。
【0100】
また本発明蛋白は、圧迫性潰瘍、血管機能不全に関連した潰瘍、外科的および外傷による創傷等(これらに限らない)を包含する非治癒性創傷のより好ましく迅速な閉口の促進にも有用でありうる。
【0101】
また本発明蛋白は、器官(例えば、膵臓、肝臓、腸、腎臓、皮膚、内皮を包含)、筋肉(平滑筋、骨格筋または心筋)、および血管(血管内皮を包含)組織のごとき他の組織の発生、あるいはかかる組織を構成している細胞の増殖促進のための活性を示しうる。望ましい効果の一部は、線維症性瘢痕を抑制することによる正常組織の再生であってもよい。本発明蛋白は脈管形成活性も示しうる。
【0102】
本発明蛋白は、腸の保護または再生、および肺または肝臓の線維症、種々の組織の再灌流傷害、および全身的なサイトカインのダメージにより生じる症状の治療にも有用でありうる。
【0103】
本発明蛋白は、前駆体組織または細胞からの上記組織の分化促進または抑制;あるいは上記組織の増殖抑制にも有用でありうる。
【0104】
本発明蛋白の活性は、とりわけ、以下の方法により測定してもよい:
組織再生活性のアッセイは、国際公開WO95/16035(骨、軟骨、腱);国際公開WO95/05846(神経、ニューロン);国際公開WO91/07491(皮膚、内皮)に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0105】
創傷治癒活性のアッセイは、Maibach, HI and Rovee, DT, eds., Year Book Medical Publishers, Inc., Chicago(Eaglstein and Mertz, J. Invest. Dermatol 71: 382-384 (1978)により修飾されている)に記載されたものを包含するが、これらに限らない。
【0106】
アクチビン/インヒビン活性
また、本発明蛋白はアクチビン−またはインヒビン−関連活性を示しうる。インヒビン類は、卵胞刺激ホルモン(FSH)の放出抑制能により特徴づけられ、アクチビン類は、卵胞刺激ホルモン(FSH)の放出刺激能により特徴づけられる。よって、本発明蛋白は、単独であるいはインヒビンαファミリーのメンバーとのヘテロダイマーの形態で、メスの哺乳動物の繁殖力を減少させ、オスの哺乳動物の精子形成減少させるインヒビンの能力に基づく不妊薬として有用でありうる。十分な量の他のインヒビンの投与により、これらの哺乳動物において不妊を誘導することができる。別法として、本発明蛋白は、ホモダイマーとしてあるいはインヒビン−βグループの他の蛋白のサブユニットとのヘテロダイマーとして、下垂体前葉細胞からのFSH放出の刺激におけるアクチビン分子の能力に基づいて、繁殖力を誘導する治療薬として有用でありうる。例えば、米国特許第4798885号参照。また本発明蛋白は、性的に未成熟な哺乳動物における繁殖の向上に有用である可能性があり、その結果、ウシ、ヒツジおよびブタのごとき家畜の生存期間中の繁殖力が増大する。
【0107】
本発明蛋白の活性は、とりわけ、下記方法により測定してもよい:
アクチビン/インヒビン活性のアッセイは、Vale et al., Endocrinology 91: 562-572, 1972; Ling et al.,Nature 321: 779-782, 1986; Vale et al., Nature 321: 776-779, 1986; Mason et al., Nature 318: 659-663,1985; Forage et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 3091-3095,1986に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0108】
化学走性/ケモキネシス活性
本発明蛋白は、哺乳動物細胞、例えば単球、好中球、T細胞、肥満細胞、好酸球および/または内皮細胞の化学走性またはケモキネシス活性(例えば、ケモカインとして作用)を有する可能性がある。化学走性およびケモキネシス蛋白を用いて所望細胞集団を所望作用部位に動員または誘引することができる。化学走性またはケモキネシス蛋白は、組織に対する傷害および他の外傷の治療ならびに局所的な感染の治療に特に有利である。例えば、リンパ球、単球または好中球の腫瘍または感染部位への誘引は、腫瘍または感染因子に対する免疫応答を改善しうる。
【0109】
特定の蛋白またはペプチドは特定の細胞集団に対して化学走性活性を有しており、刺激可能な場合には、直接的または間接的にかかる細胞集団の方向または運動を指令する。好ましくは、蛋白またはペプチドは、細胞の方向づけられた運動を直接的に刺激する能力を有する。特定の蛋白が細胞集団に対する化学走性活性を有するかどうかを、かかる蛋白またはペプチドを細胞化学走性の既知アッセイに用いることにより容易に決定することができる。
【0110】
本発明蛋白の活性は、とりわけ、下記方法により測定してもよい:
化学走性活性のアッセイ(化学走性を誘導または妨害する蛋白を同定するアッセイ)は、細胞の膜を越えた移動を誘導する蛋白の能力ならびに1の細胞集団の他の細胞集団への付着を誘導する蛋白の能力を測定するアッセイを含む。移動および付着に適したアッセイは、Current Protocols in Immunology, Ed by J.E. Coligan, A.M. Kruisbeek, D.H. Margulies, E.M. Shevach, W.Strober, Pub. Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 6.12, Measurement of alpha and beta Chemokines 6.12.1-6.12.28; Taub et al. J. Clin. Invest. 95: 1370-1376, 1995; Lind et al. APMIS 103: 140-146, 1995; Muller et al Eur. J. Immunol. 25: 1744-1748; Gruber et al. J. of Immunol. 152: 5860-5867, 1994; Johnston et al. J. of Immunol. 153: 1762-1768, 1994
に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0111】
止血および血栓溶解活性
また、本発明蛋白は、止血または血栓溶解活性を示す可能性がある。結果として、かかる蛋白は、種々の凝血疾患(血友病のごとき遺伝性疾患を包含)の治療に有用であり、あるいは外傷、手術または他の原因により生じた傷害の治療における凝血および他の止血を促進しうる。本発明蛋白は、血栓の溶解または血栓形成阻害ならびにそれらにより生じる症状(例えば、心筋梗塞および中枢神経系血管の梗塞(例えば、卒中)のごとき)の治療および予防に有用でありうる。
【0112】
本発明蛋白の活性を、とりわけ、下記方法により測定してもよい:
止血および血栓溶解活性のアッセイは、Linet et al., J. Clin. Pharmacol. 26: 131-140,1986; Burdick et al., Thrombosis Res. 45: 413-419, 1987; Humphrey et al., Fibrinolysis 5: 71-79 (1991); Schaub, Prostaglandins 35: 467-474, 1988に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0113】
受容体/リガンド活性
また、本発明蛋白は、受容体、受容体リガンドまたは受容体/リガンド相互作用の阻害剤もしくはアゴニストとしての活性を示しうる。かかる受容体およびリガンドの例は、サイトカイン受容体およびそれらのリガンド、受容体キナーゼおよびそれらのリガンド、受容体ホスファターゼおよびそれらのリガンド、細胞−細胞相互作用に関与する受容体およびそれらのリガンド(細胞付着分子(セレクチン、インテグリンおよびそれらのリガンドのごとき)ならびに抗原提示、抗原認識、細胞性および体液性免疫応答の発生に関与する受容体/リガンド対などを包含)を包含するがこれらに限らない。受容体およびリガンドは、関連する受容体/リガンド相互作用に対する潜在的なペプチドまたは小型分子阻害剤のスクリーニングにも有用である。本発明蛋白(受容体およびリガンドのフラグメントを包含するが、これらに限らない)は、それ自体、受容体/リガンド相互作用の阻害剤として有用でありうる。
【0114】
本発明蛋白の活性を、とりわけ、下記方法により測定してもよい:
受容体−リガンド活性の適当なアッセイは、Current Protocols in Immunology, Ed by J. E. Coligan, A. M. Kruisbeek, D. H. Margulies, E. M. Shevach, W. Strober, Pub. Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 7.28, Measurement of Cellular Adhesion under static conditions 7.28.1-7.28.22), Takai et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 6864-6868, 1987; Bierer et al., J. Exp. Med. 168: 1145-1156, 1988; Rosenstein et al., J. Exp. Med. 169: 149-160 1989; Stoltenborg et al., J. Immunol. Methods 175: 59-68, 1994; Stitt et al., Cell 80: 661-670, 1995に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0115】
抗炎症活性
本発明蛋白は抗炎症活性を示しうる。抗炎症活性は、刺激応答に関与している細胞に刺激を与えることにより、細胞−細胞相互作用(例えば、付着のごとき)を阻害または促進することにより、炎症プロセスに関与している細胞の化学走性を阻害または促進することにより、細胞溢出を阻害または促進することにより、あるいは炎症応答をより直接的に阻害または促進する他の因子の産生を刺激または抑制することにより発揮される。かかる活性を示す蛋白を用いて炎症の症状(慢性もしくは急性症状を包含、感染に関連した炎症(敗血性ショック、敗血症もしくは全身性炎症応答症候群(SIRS)のごとき)、虚血−再潅流傷害、エンドトキシンによる致命的傷害、関節炎、補体により媒介される超急性拒否反応、腎炎、サイトカインもしくはケモカインにより誘導される肺の傷害、炎症性腸疾患、クローン病またはTNFもしくはIL−1のごときサイトカインの過剰産生から生じる疾病を包含するがこれらに限らない)を治療することができる。本発明蛋白は、アナフィラキシーおよび抗原性物質もしくは材料に対する過敏症の治療にも有用でありうる。
【0116】
腫瘍阻害活性
腫瘍の免疫学的治療または予防に関する上記活性のほかに、本発明蛋白は他の抗腫瘍活性を示しうる。ある蛋白は腫瘍増殖を直接的または間接的に(例えば、ADCCを介して)阻害しうる。ある蛋白は、腫瘍組織または腫瘍前駆体組織に作用して、腫瘍増殖を支持するに必要な組織の形成を阻害し(例えば、脈管形成を阻害することにより)、腫瘍増殖を阻害する他の因子、作用剤または細胞タイプの産生を引き起こすことにより、あるいは腫瘍増殖を促進する因子、作用剤または細胞タイプを除去または阻害することにより腫瘍阻害活性を示しうる。
【0117】
他の活性
本発明蛋白は、下記のさらなる活性または効果の1つまたはそれ以上を示しうる:細菌、ウイルス、真菌および他の寄生虫(これらに限らず)を包含する感染性因子の殺傷;身長、体重、体毛の色、目の色、皮膚または他の組織の色素沈着、または器官または身体部分のサイズまたは形態(例えば、豊胸またはその逆)を包含する身体特性への影響(抑制または促進);摂食した脂肪、蛋白または炭水化物の消化への影響;食欲、性欲、ストレス、認識(認識の疾患を包含)、鬱(鬱病性疾患を包含)および暴力的行為(これらに限らず)を包含する行動特性への影響;鎮痛効果または他の痛み軽減効果の提供;造血系以外の系統における胚の幹細胞の分化および増殖の促進;ホルモンまたは内分泌活性;酵素の場合、酵素欠乏の修正および関連疾患の治療;過剰増殖性疾患(例えば、乾癬のごとき)の治療;免疫グロブリン様活性(例えば、抗体または補体に結合する能力);ならびにワクチン組成物において抗原として作用してかかる蛋白またはかかる蛋白と交差反応する他の物質もしくは存在に対する免疫応答を生じさせる能力。
【0118】
下記実施例は、ヒトSDF−5蛋白の回収および特徴づけ、他のSDF−5蛋白を回収するためのDNAの使用、ヒト蛋白の取得ならびに組み換え法による蛋白発現を説明する。
【実施例1】
【0119】
実施例1:ネズミSDF−5に対するヒト相同体のクローニング
ネズミSDF−5のヌクレオチド配列(Honjo教授から個人的に得た)を用いてGenBankを調査した。DNA配列がcDNAの5’または3’末端のいずれかにおいて同定されている数個のESTはネズミSDF−5に対して高度の同一性を示した。いくつかのESTはヒト起源のものであった。種々のヒトESTを全長のネズミSDF−5ヌクレオチド配列と並置比較したところ、EST配列が由来したクローンのうちSDF−5の全コーディング配列を含むものはなかった。ネズミSDF−5ヌクレオチドの5’において最も類似していたのはH14917であった。このESTは、胸部組織由来のヒトcDNAのDNA配列の5’末端であった。ネズミSDF−5との並置比較によれば、EST H14917により示されるヒト胸部cDNAは5’末端における約147ヌクレオチドのコーディング配列を欠くものであった。
【0120】
ネズミSDF−5の全長誘導体の単離を試みるために、H14917配列のヌクレオチド18から44までの逆相補物であるビオチン化オリゴヌクレオチドプローブ(5'-ビオチン-ATCGATGCCGTGGCACAGCTGC AGGTTG-3')を合成した。以下に述べる組織に由来する5個の別個のヒト全長cDNAライブラリーを用いる溶液豊富化プロトコールに、このプローブを使用した。該組織とは、成人肺、成人心臓、成人腎臓、胎児脳、および乳腺である。豊富化後、豊富化した各ライブラリーからの約60000個のコロニーをそれぞれ10枚のプレートに撒き、ついで、同じオリゴヌクレオチドをポリヌクレオチドキナーゼおよび[g−35P]ATPを用いて標識した後プローブとして使用する、標準的ハイブリダイゼーション法に供した。技術的問題のため、乳腺ライブラリーに関してはわずか4枚のプレート(24000個のコロニー)にしか撒かなかった。乳腺ライブラリーだけが、プローブにハイブリダイゼーションするcDNAクローンを含んでいるようであった。20個の陽性コロニーを拾い、増殖させ、再度プレートに撒いた。ついで、これらの再プレーティングされた陽性クローンを再度同じプローブにハイブリダイゼーションさせて、それらを確認し、それらの純度を確かめた。最初の12個の陽性コロニーをすべてDNAc配列決定に供した。正しい方向の1のクローン(単離体#4)が選択され、それはヒトSDF−5の全コーディング配列を含んでおり、その配列は他の単離体との比較により確認された。
【実施例2】
【0121】
実施例2
W−20バイオアッセイ
A.W−20細胞の説明
インジケーター細胞系としてのW−20骨髄基質細胞の使用は、BMP蛋白での処理後のこれらの細胞の骨芽細胞への変換に基づく[Thies et al.,Journal of Bone and Minaral Research,5:305(1990);およびThieset et al.,Endocrinology,130:1318(1992)]。詳細には、W−20細胞は、マサチューセッツ州ボストンのチルドレンズ・ホスピタル(Children’s Hospital)のD.Nathan博士の研究室の研究者により成体マウスから取られたクローン化された骨髄基質細胞系である。ある種のBMP蛋白でのW−20細胞の処理は、(1)アルカリ性ホスファターゼ産生増加、(2)PTHにより刺激されるcAMPの誘導、および(3)細胞によるオステオカルシン(osteocalcin)合成の誘導を引き起こす。(1)および(2)は骨芽細胞の表現形に関連した特徴を示すが、オステオカルシン合成能は成熟骨芽細胞によってのみ示される特性である。さらにそのうえ、現在まで、我々は、BMPで処理した場合のみ起こるW−20基質細胞の骨芽細胞様への変換を観察してきた。この様式において、BMP処理されたW−20細胞により示されるインビトロ活性は、BMPについて知られているインビボでの骨形成活性と相関がある。
【0122】
新規骨誘導分子のBMP活性を比較することにおいて有用な2種のインビトロでの分析を以下に説明する。
【0123】
B.W−20アルカリ性ホスファターゼ分析のプロトコール
W−20細胞を、96ウェルの組織培養プレートにウェルあたり200μlの培地(10%熱不活性化ウシ胎児血清、2mMグルタミンおよび100ユニット/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを含有するDME)中10000個の割合で撒く。95%空気、5%COのインキュベーター中37℃において細胞を一晩付着させる。マルチチャンネルピペッターで各ウェルから200μlの培地を除去し、10%熱不活性化ウシ胎児血清、2mMグルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するDME中の同体積の試験試料で置換した。試験物質を3系で分析する。試験試料および標準をW−20インジケーター細胞とともに24時間インキュベーションする。24時間後、37℃のインキュベーターからプレートを取り出し、試験培地細胞をから除去する。W−20細胞層をウェルあたり200μlのカルシウム/マグネシウム不含リン酸緩衝化セイラインで3回洗浄し、これらの洗液を捨てる。ガラス製装置で蒸留された50μlの水を各ウェルに添加し、次いで、分析プレートを急速に冷凍するためにドライアイス/エタノール浴に置く。凍結したら、分析プレートをドライアイス/エタノール浴から取り出し、37℃で融解させる。この工程を2回以上繰り返して全部で3回の凍結融解工程を行う。工程終了後、膜結合アルカリ性ホスファターゼを測定に供する。50μlの分析混合物(50mMグリシン、0.05%トリトンX−100、4mM MgCl、5mM リン酸p−ニトロフェノール、pH=10.3)を各分析ウェルに添加し、次いで、分析プレートを、1分間に60回振盪しながら37℃で30分インキュベーションする。30分間のインキュベーションの終わりに、100μlの0.2N NaOHを各ウェルに添加し、分析プレートを氷上に置くことにより反応を停止する。各ウェルの分光学的吸光度を405ナノメーターの波長において読む。次いで、これらの値を既知標準と比較して各試料のアルカリ性ホスファターゼ活性の評価を行う。例えば、既知量のリン酸p−ニトロフェノールを用いると、吸光度値が得られる。これを表Iに示す。
【0124】
表I
【表1】

【0125】
既知量のBMPに関する吸光度値を決定し、表IIに示すような単位時間あたり開裂されたリン酸p−ニトロフェノールのμモル数に変換することができる。
【0126】
表II
【表2】

【0127】
次いで、これらの値を用いて既知量のSDF−5の活性をBMP−2活性と比較する。
【0128】
C.オステオカルシンRIAプロトコール
W−20細胞を、24ウェルのマルチウェル組織培養ディッシュの各ウェルに、2mlのDME(10%熱不活性化ウシ胎児血清、2mMグルタミンを含有)中10個となるように撒く。95%空気、5%CO中37℃において細胞を一晩付着させる。翌日、培地を、2mlの全体積中10%ウシ胎児血清、2mMグルタミンおよび試験物質を含有するDMEに交換する。各試験物質を3系のウェルに入れる。試験物質をW−20細胞とともに合計96時間(48時間目に同じ培地で培地交換)インキュベーションする。96時間のインキュベーションの終わりに、各ウェルから50μlの試験培地を取り、マウスオステオカルシンについてのラジオイムノ分析を用いてオステオカルシン産生について分析を行う。分析の詳細は、マサチューセッツ州02072、スタウトン、ペイジ・ストリート378のバイオメディカル・テクノロジーズ・インコーポレイテッド(Biomedical Techologies Inc.)により製造されたキットに説明がある。分析のための試薬は、製品番号BT−431(マウスオステオカルシン標準)、BT−432(ヤギ抗−マウス・オステオカルシン)、BT−431R(ヨウ素化されたマウス・オステオカルシン)、BT−415(正常ヤギ・血清)およびBT−414(ロバ抗−ヤギIgG)として見いだされる。BMP処理に応答したW−20細胞により合成されたオステオカルシンについてのRIAを、製造者により提供されるプロトコールに記載されたようにして行う。
【0129】
試験試料に関して得られた値をマウスオステオカルシンの既知標準に関する値と比較し、既知量のBMP−2での処理に応答してW−20細胞により産生されたオステオカルシン量と比較する。BMP−2により誘導されたW−20によるオステオカルシン合成量を表IIIに示す。
【0130】
表III
【表3】

【実施例3】
【0131】
実施例3
ローゼン−改変サムパス−レディアッセイ
Sampath and Reddi,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:6591-6595(1983)に記載されたラット骨形成アッセイの改変バージョンを用いて骨および/または軟骨および/または他の結合組織におけるBMP蛋白の活性を評価する。サムパス−レディ法のエタノール沈殿工程を、アッセイすべきフラクションを水に対して透析(組成物が溶液の場合)または限界濾過(組成物が懸濁液の場合)することに置き換える。次いで、溶液または懸濁液を0.1%TFAに対して平衡化させる。得られた溶液を20mgのラットマトリックスに添加する。蛋白処理していない疑似ラットマトリックス試料は対照として役立つ。この材料を凍結し、凍結乾燥して得られた粉末を5番のゼラチンカプセルに封入する。21〜49日齢のロング・エバンズ・ラット(Long Evans rat)の腹胸部の皮下にカプセルを移植する。インプラントを7〜14日後に取る。各インプラントの半分をアルカリ性ホスファターゼアッセイ[Proc.Natl.Acad.Sci.,69:1601(1972)]に用いる。
【0132】
各インプラントのもう半分を固定し、組織学的分析用に処理する。1ミクロンのグリコメタクリレート切片をフォン・コッサおよび酸フクシンで染色して各インプラントにおいて誘導された骨および軟骨の形成の評点をつける。+1ないし+5は、新たな骨および/または軟骨細胞ならびにマトリックスにより占められたインプラントの各組織学的切片の面積を表す。+5の評点は、インプラントの50%よりも多くの部分が、インプラントにおける蛋白の直接の結果として生成された新たな骨および/または軟骨であることを示す。評点+4、+3、+2および+1は、それぞれ、インプラントの40%、30%、20%および10%よりも多くの部分が新たな軟骨および/または骨を含んでいることを示す。
【0133】
別法として、同じ方向に集密になった線維芽細胞の高密度の束の存在により容易に認識される胚性の腱に似た組織の出現についてインプラントを検査する[腱/靭帯様組織は、例えば、Ham and Cormack,Histology (JB Lippincott Co.),1979,pp.367-369に記載されており、その開示を参照により本明細書に記載されているものとみなす]。SDF−5蛋白含有インプラントにおいて腱/靭帯様組織を観察する、さらなるアッセイにおいてこれらの知見は再現されうる。本発明SDF−5蛋白をこの活性に関して評価してもよい。
【実施例4】
【0134】
実施例4
SDF−5の発現
ネズミ、ヒトまたは他の哺乳動物のSDF−5蛋白を製造するために、該蛋白をコードしているDNAを適当な発現ベクター中に移し、慣用的な遺伝子工学的方法により哺乳動物細胞または他の好ましい真核細胞宿主もしくは原核細胞宿主中に導入する。生物学的に活性のある組み換えヒトSDF−5の好ましい発現系は、安定に形質転換された哺乳動物細胞であると考えられる。
【0135】
当業者は、配列番号:1の配列またはSDF−5蛋白をコードしている他のDNA配列、あるいは他の修飾された配列およびpCD[Okayama et al., Mol. Cell Biol., 2: 161〜170 (1982)]、pJL3、pJL4[Gough et al., EMBO J., 4: 645〜653 (1985)]ならびにpMT2 CXMのごとき知られたベクターを用いることにより、哺乳動物発現ベクターを構築することができる。
【0136】
哺乳動物発現ベクターpMT2 CXMは、p91023(b)(Wong et al., Science, 228: 810〜815, 1985)の誘導体であるが、テトラサイクリン耐性遺伝子の代わりにアンピシリン耐性遺伝子を有し、さらにcDNAクローン挿入のためのXhoI部位を有することにおいてp91023(b)とは異なる。pMT2CXMの機能的エレメントは記載されており(Kaufman,R.J. et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:689〜693)、アデノウイルスVA遺伝子、72bpのエンハンサーを含むSV40複製開始点、5’スプライス部位ならびにアデノウイルス後期mRNA上に存在するアデノウイルス三分節リーダー配列の大部分を含むアデノウイルス大後期プロモーター、3’スプライス受容部位、DHFR挿入断片、SV40初期ポリアデニル化部位(SV40)、ならびにイー・コリ中での増殖に必要なpBR322配列を含んでいる。
【0137】
pMT2−VWFのEcoRI消化によりプラスミドpMT2 CXMを得る。pMT2−VWFは、受託番号ATCC67122の下で、American Type Culture Collection (ATCC),Rockville,MD(USA)に寄託されている。EcoRI消化により、pMT2−VWF中に存在するcDNA挿入断片を切り出し、ライゲーションして、イー・コリHB101またはDH−5をアンピシリン耐性へと形質転換するのに用いる直鎖状のpMT2を得る。プラスミドpMT2 DNAを慣用的方法により調製することができる。次いで、ループアウト/イン変異誘発(loopout/in mutagenesis)[Morinaga et al.,Bio-technology,84:636(1984)]を用いてpMT2 CXMを構築する。これにより、pMT2のSV40・複製開始点ならびにエンハンサー配列近傍のHindIII部位に対応する塩基1075〜1145が除去される。さらに、そのヌクレオチド1145の位置に以下の配列:
【化3】

を挿入する。この配列は制限エンドヌクレアーゼXhoIの認識部位を有する。pMT23と命名されたpMT2 CXMの誘導体は、制限エンドヌクレアーゼPstI、EcoRI、SalIおよびXhoIの認識部位を有する。プラスミドpMT2 CXMおよびpMT23 DNAを慣用的方法により調製することができる。
【0138】
pMT21由来のpEMC2β1も本発明の実施に適する。pMT21は、pMT2−VWF由来のpMT2に由来する。上記のごとく、EcoRI消化により、pMT−VWF中に存在するcDNA挿入断片を切り出し、ライゲーションして、イー・コリHB101またはDH−5をアンピシリン耐性へと形質転換するのに用いる直鎖状のpMT2を得る。プラスミドpMT2 DNAを慣用的方法により調製することができる。
【0139】
pMT21は、以下の2つの修飾を経てpMT2から誘導される。最初に、cDNAクローニングのためのG/Cテイリングから伸長した19個のG残基を含む、DHFRcDNAの76bpの5’非翻訳領域を欠失させる。この工程において、XhoI部位を挿入してDHFRのすぐ上流に以下の配列:
【化4】

を得る。
【0140】
次いで、EcoRVおよびXbaIでの消化、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントでの処理、そしてClaIリンカー(CATCGATG)への連結により、単一のClaI部位を導入する。これにより、250bpの断片がアデノウイルス関連RNA(VAI)領域から欠失されるが、VAI RNA遺伝子の発現または機能は阻害されない。pMT21をEcoRIおよびXhoIで消化し、ベクターpEMC2B1を得るために用いる。
【0141】
EcoRIおよびPstIでの消化により、EMCVリーダーの一部がpMT2−ECAT1[S.K.Jung et al.,J.Virol,63:1651〜1660(1989)]から得られ、これは2752bpのフラグメントである。このフラグメントをTaqIで消化し、508bpのEcoRI−TaqIフラグメントを得、これを低融点アガロースゲル上の電気泳動により精製する。以下の配列:
【化5】

を有する68bpのアダプターおよびその相補鎖を合成する。これは5’TaqI突出末端および3’XhoI突出末を有する。
【0142】
この配列は、ヌクレオチド763ないし827由来のEMCウイルスリーダー配列に合致する。さらにこの配列は、EMCウイルスリーダー内の位置10におけるATGがATTに変化しており、XhoI部位が後に続いている。pMT21のEcoRI−XhoIフラグメント、EMCウイルスのEcoRI−TaqIフラグメント、および68bpのオリゴヌクレオチドアダプターをスリーウェイライゲーションしてベクターpEMC2β1を得る。
【0143】
このベクターは、哺乳動物細胞における高レベルの所望cDNAの発現の指令のために適当に関連づけられたSV40複製開始点ならびにエンハンサー、アデノウイルス大後期プロモーター、アデノウイルス三分節リーダー配列の大部分のcDNAコピー、小型のハイブリッド介在配列、SV40ポリアデニル化シグナルおよびアデノウイルスVA I遺伝子、DHFRおよびβ−ラクタマーゼマーカーおよびEMC配列を含む。
【0144】
ベクターの構築はSDF−5関連DNA配列の修飾を包含する。例えば、コーディング領域の5’および3’末端上の非コーディングヌクレオチドを除去することにより、SDF−5のcDNAを修飾してもよい。欠失された非コーディングヌクレオチドを、発現に有益であることが知られている他の配列で置換してもよく、置換しなくてもよい。これらのベクターを、SDF−5蛋白の発現にとり適当な宿主細胞中に形質転換する。別法として、SDF−5プロペプチド配列を欠失させ、他のBMP蛋白の完全なプロペプチドをコードしている配列に置き換えることにより成熟SDF−5蛋白を発現するように、配列番号:1の配列またはSDF−5蛋白をコードしている他の配列を加工してもよい。
【0145】
当業者は、コーディング配列に隣接している哺乳動物の調節配列を除去するかまたは細菌の配列に置き換えて、細菌細胞による細胞内または細胞外発現用の細菌ベクターを作成することにより、配列番号:1の配列を加工することができる。例えば、コーディング配列をさらに加工することができる(例えば、他の既知リンカーに連結する、あるいはその非コーディング配列を欠失させるかまたは他の既知方法によりそのヌクレオチドを変化させる)。次いで、T.Taniguchi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:5230〜5233(1980)に記載されたような方法を用いて修飾されたSDF−5関連コーディング配列を既知細菌ベクター中に挿入することができる。次いで、この典型的な細菌ベクターを細菌宿主細胞中に形質転換し、それによりSDF−5蛋白を発現させる。細菌細胞においてSDF−5蛋白を細胞外発現させるための方法については、欧州特許公開EPA177343参照。
【0146】
昆虫細胞における発現のために、昆虫ベクターの構築を行うために同様の操作を行うことができる[例えば、公開された欧州特許出願第155,476号記載の方法参照]。酵母細胞による本発明因子の細胞内または細胞外発現のための酵母の調節配列を用いて、酵母ベクターを構築することもできる[例えば、公開されたPCT出願WO86/00639および欧州特許出願公開EPA123289号記載の方法参照]。
【0147】
高レベルの本発明SDF−5蛋白を哺乳動物細胞において製造する方法は、異型SDF−5遺伝子の多数のコピーを有する細胞の構築を包含する。異型遺伝子を増幅可能なマーカー、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子に連結し、Kaufman and Sharp,J.Mol.Biol.,159:601〜629(1982)の方法により、メトトレキセート(MXT)濃度を上昇させていって増加した遺伝子コピーを有する細胞を該マーカー関して選択できる。このアプローチを種々の異なる細胞タイプに使用することができる。
【0148】
例えば、リン酸カルシウム共沈ならびにトランスフェクション、エレクトロポーレーションまたはプロトプラスト融合をはじめとする種々の方法により、SDF−5蛋白の発現を可能にする他のプラスミドの配列と作動的に連結された本発明SDF−5蛋白に対するDNA配列を含むプラスミドと、DHFR発現プラスミドpAdA26SV(A)3[Kaufman and Sharp, Mol. Cell. Biol., 2: 1304 (1982)]とを、DHFR欠損細胞DUKX−BII中に同時に導入することができる。DHFRを発現する形質転換体を、透析されたウシ胎児血清を含むアルファ培地における増殖に関して選択し、次いで、Kaufman et al., Mol. Cell. Biol., 5: 1750 (1983)記載のごとく、MTX濃度を増加させていった場合の増殖による増幅について選択を行う。形質転換体を増殖させ、生物学的に活性のあるSDF−5の発現を、上記実施例3記載のローゼンにより改変されたサムパス−レディのラット・骨形成分析によりモニターする。SDF−5蛋白の発現はMTX耐性レベルの増加に伴って増加するはずである。[35S]メチオニンまたはシステインでのパルスラベリングおよびポリアクリルアミドゲル電気泳動のごとき当該分野で知られた標準的方法を用いて、SDF−5ポリペプチドを特徴づける。同様の方法により他の関連SDF−5蛋白を製造することができる。
【実施例5】
【0149】
実施例5
発現されたSDF−5の生物学的活性
上記実施例4において得られた、発現されたSDF−5蛋白の生物学的活性を測定するために、蛋白を細胞培養物から回収し、同時に産生された他の蛋白性物質ならびに他の混入物質からSDF−5蛋白を単離することにより精製する。実施例3記載のラット・骨形成分析により、精製蛋白を分析してもよい。
当業者に知られた標準的方法を用いて精製を行う。
【0150】
銀染色[Oakley et al., Anal. Biochem., 105: 361 (1980)]で染色されるSDS−PAGEアクリルアミド[Laemmli, Nature, 227: 680 (1970)]およびイムノブロット[Towbin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76: 4350 (1979)]のごとき標準的方法を用いて蛋白の分析を行う。
【実施例6】
【0151】
実施例6
ノーザン分析を用いて、SDF−5を種々の細胞系に対する影響について試験することができる。適当な細胞系は、E13マウス・肢芽由来の細胞系を包含する。SDF−5での処理から10日後、組織分化の状態について表現型を組織学的に調べる。さらに、SDF−5で処理した細胞由来のmRNAのノーザン分析を、表IVに記載する骨、軟骨および/または腱/靭帯に関する下記マーカーの1つまたはそれ以上を包含する種々のマーカーについて行うこともできる。
【0152】
表IV
【表4】

1−初期にマーカーが観察され、成熟骨組織が形成されるにつれマーカーが見られなくなる。
2−マーカーは腱の部位に依存し、骨界面において最強。
3−低レベルのマーカーが見られる。
【実施例7】
【0153】
実施例7
発現の分析
インサイツ(in situ)ハイブリダイゼーションを用いてSDF−5 mRNAをマウス胚のセクション10.5−15.5dpcに局在化させた。発生中の体肢骨格の関節およびいくつかの腱および靭帯においてSDF−5が発現された。体軸骨格または体肢骨格の骨あるいは筋肉においては発現は検出されなかった。これらの明白な観察結果は、結合組織形成におけるSDF−5の関与を強く示すものであった。これらの結果から、軟骨形成がSDF−5により調節されている可能性が最も高く、この情報は、インビトロアッセイを用いたこの蛋白の評価の基礎となった。
【0154】
インビトロ活性
ネズミのSDF−5をCHO細胞において発現させた。MLB13YMC−クローン14細胞を増殖させて集密とし、SDF−5、BMP−2、SDF−5およびBMP−5の混合物のいずれかで処理するか、あるいは処理を行わなかった。SDF−5含有CHOならし培地を1:20希釈して使用し(最終濃度10ng/ml未満)、CHO細胞により得られた模擬ならし培地をBMP−2および無処理細胞培養に添加した。BMP−2を100ng/mlの濃度として使用した。4日後、RNAを集め、GeneChip 50スキャナー(Affymetrix)により遺伝子発現を分析した。無処理またはSDF−5処理細胞においては、骨または軟骨の表現型の特徴を有する遺伝子の発現は検出できなかった。BMP−2は、低軟骨質マーカーとともに厚肥性の軟骨および骨のマーカー遺伝子発現を誘導した。BMP−2のみで処理した細胞と比較すると、SDF−5およびBMP−2の両方の混合物で処理した細胞において、骨(オステオカルシン;アルカリ性ホスファターゼ;PTH/PTHrP受容体)および厚肥性軟骨マーカー(タイプXコラーゲン)が有意に減少し、あるいは存在せず、さらに、軟骨に関するマーカー(コラーゲンタイプIIおよびIX;デコリン;アグレカン)が増加していた。SDF−5との混合物を用いた場合には軟骨表現型が大きく促進されるように思われることを除き、この効果はPTHrPおよびBMP−2の混合物に関してすでに観察されている結果と同様である。
【実施例8】
【0155】
実施例8
胚性幹細胞アッセイ
本発明SDF−5蛋白の効果をアッセイするために、多くの利用可能な胚性幹細胞系に対するインビトロでの成長および分化効果をアッセイすることができる。1のかかる細胞系はES−E14TG2であり、メリーランド州RockvilleのAmerican Type Culture Collectionから入手できる。
【0156】
アッセイを行うために、100ユニットのLIF存在下で細胞を増殖させて、それらを未分化状態に保つことができる。まず、LIFを除去し、懸濁液中で細胞をいわゆる胚様体として凝集させることによりアッセイをセットアップする。3日後、胚様体をゼラチン被覆プレート(PCR分析用12ウェルプレート、免疫細胞化学用24ウェルプレート)上に置き、アッセイすべき蛋白で処理する。細胞に栄養分を供給し、2〜3日ごとに蛋白因子で処理する。15%ウシ胎児血清(FBS)補足培地またはより少量のFBSを含むCDM限定培地においてアッセイを行えるように、細胞を適合させてもよい。
【0157】
処置期間(7〜21日の範囲)の終わりに、細胞からRNAを集め、以下のマーカーに従って定量的マルチプレックスPCRにより分析する。該マーカーは、Brachyury(中胚葉マーカー)、AP−2(外胚葉マーカー)、およびNHF−3α(内胚葉マーカー)である。免疫細胞化学により、ニューロン細胞(グリアおよびニューロン)、筋肉細胞(心筋細胞、骨格筋および平滑筋)の分化、ならびにプロテオグリカンコア蛋白(軟骨)およびサイトケラチン(真皮)のごとき他の種々の表現型マーカーを検出することも可能である。LIFが除去された場合にこれらの細胞は自律的に分化する傾向があるので、つねに未処理対照との比較により結果を定量する。
【0158】
以上の記載は、本発明の目下好ましい具体例を詳述するものである。その実施において、当業者がこれらの記載を考慮して多くの改変ならびに変法を行うことが想定される。それらの改変ならびに変法は、添付した請求の範囲に包含されると確信する。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、医薬の分野、特に、軟骨細胞および/または軟骨組織の形成に関連する医薬の分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:1の256、307、310、313、316、319、322、325または328から1140または1143までのヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸1、18、19、20、21、22、23、24または25から295までをコードするヌクレオチド;
(c)配列番号:3のアミノ酸1から275までをコードするヌクレオチド;および
(d)(a)から(c)のいずれか1つの等価な縮重コドン配列
からなる群より選択されるDNA配列を含むDNA分子。
【請求項2】
DNAコーディング配列の5’末端にあり、これにイン−フレームで連結されている適当なシグナルペプチドをコードしているヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1記載のDNA分子。
【請求項3】
発現制御配列に作動可能に結合された請求項1または2のDNA分子を含むベクター。
【請求項4】
請求項3のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項5】
下記工程:
(a)請求項1または2記載のDNA分子、または請求項3記載のベクターで形質転換された宿主細胞を培養し、ついで、
(b)培地から該ヒトSDF−5蛋白を回収し精製すること
を含む、ヒトSDF−5蛋白の製造方法。
【請求項6】
配列番号:2または配列番号:3に記載される、または請求項1または2のDNA分子によりコードされるアミノ酸配列を含むか、あるいは請求項5記載の方法により製造される、ヒトSDF−5ポリペプチド。
【請求項7】
約30ないし35kdの分子量を有し、配列番号:3のアミノ酸配列を含み、1またはそれ以上の遺伝子の転写を調節する能力を有する、ヒトSDF−5ポリペプチド。
【請求項8】
リューマチ性関節炎、骨関節炎、および関節軟骨欠損の予防処置、傷の治癒または組織の修復、または軟骨または結合組織の疾病の処置のための、請求項6または7記載の少なくとも1つのヒトSDF−5ポリペプチドを含む、組成物。
【請求項9】
リューマチ性関節炎、骨関節炎、および関節軟骨欠損の予防処置、傷の治癒または組織の修復、または軟骨または結合組織の疾病の処置のための医薬組成物を製造するための、請求項6または7記載のSDF−5ポリペプチドの使用。
【請求項10】
請求項6または7記載のヒトSDF−5ポリペプチドに対する抗体。
【請求項11】
BMP−2および請求項6または7記載のポリペプチドを含む組成物を適用することを含む、細胞の軟骨細胞への分化をインビトロで促進させる方法。
【請求項12】
必要に応じて医薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、リューマチ性関節炎、骨関節炎、および関節軟骨欠損の予防処置、傷の治癒または組織の修復、または軟骨または結合組織の疾病の処置のために細胞の軟骨細胞への分化を促進させるための医薬組成物の製造のための、BMP−2および請求項6または7記載のポリペプチドの使用。
【請求項13】
必要に応じて医薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、請求項8記載の組成物。

【公開番号】特開2009−45067(P2009−45067A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243785(P2008−243785)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【分割の表示】特願2007−107025(P2007−107025)の分割
【原出願日】平成9年10月15日(1997.10.15)
【出願人】(501418214)ジェネティクス インスティテュート,エルエルシー (35)
【Fターム(参考)】