説明

ヒドロキサメートで開始されるポリマー

【課題】 ヒドロキサメートを用いてポリマーを生成するためのプロセス、およびこのプロセスにより生成されるポリマーを提供すること。
【解決手段】 上記ポリマーは、ポリマー成分;および明細書に記載される式のヒドロキサメートであって、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、ヒドロキサメート、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2008年10月15日に出願された米国仮出願番号61/105,479の利益および優先権を主張する。この米国仮出願の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、ヒドロキサメートで開始されるポリマー、このようなポリマーを含む組成物、およびこのようなポリマーまたは組成物で作製またはコーティングされた物品に関する。
【背景技術】
【0003】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、ほとんどの細胞外マトリックス分子(コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニンおよびプロテオグリカン)に対する基質特異性を有する、中性亜鉛依存性エンドペプチダーゼである。これは、その触媒活性のために、亜鉛に依存する。
【0004】
ほとんどの細胞は、インビボでMMPを発現しない。その代わりに、増殖因子、ホルモン、炎症性サイトカイン、細胞−マトリックス相互作用および細胞形質転換は、これらの発現を調節する。好中球および好酸球の分泌顆粒は、いくらかのMMPを貯蔵することが公知であるが、ほとんどの細胞型は、通常、非常に低い量のMMPを合成する。
【0005】
MMPは、シグナル配列、アミノ末端プロペプチドドメイン、触媒性亜鉛結合ドメイン、プロリンリッチヒンジ領域、およびカルボキシ末端のヘモペキシン様ドメインを含む、いくつかの共通の構造特性を共有する。
【0006】
細胞外マトリックスの分解は、形態形成、生殖、ならびに成長および維持のプロセス(例えば、細胞移動、血管形成、および組織再生)に関連する生理学的リモデリングにおける、通常の事象である。しかし、炎症およびいくつかの疾患状態の間、過剰なMMPは、周囲のタンパク質性マトリックスに損傷を与え得、これにより、結合組織の破壊もしくは弱化、制御されない細胞の移動/侵入、および/または組織線維症が生じ得る。例えば、結合組織の弱化または破壊は、慢性関節リウマチ、変形性関節症、慢性歯周炎(chronic periodontis)、ならびに動脈瘤および心臓瘤を生じ得る。従って、MMPインヒビターが、骨粗鬆症、変形性関節炎、ヒト慢性歯周疾患および種々の型の動脈瘤を処置するために使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に疾患または損傷に応答しての炎症を減少させ得、そしてMMPによる細胞外マトリックスの分解を防止し得る、医療デバイスおよび組成物が、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
ポリマー成分;および
式:
【0009】
【化1】

のヒドロキサメートであって、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、ヒドロキサメート、
を含む、ヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【0010】
(項目2)
が、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される基で官能基化されたポリマーを含む、上記項目に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【0011】
(項目3)
上記ポリマー成分が、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、カプロラクトン、バレロラクトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【0012】
(項目4)
上記ポリマー成分が、吸収性環状アミド、クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、ポリアルキルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【0013】
(項目5)
上記ポリマー成分が、グリコール酸、乳酸、βヒドロキシ酪酸、γヒドロキシ吉草酸、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【0014】
(項目6)
上記項目のいずれかに記載のヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む物品であって、この物品が医療デバイスを含む、物品。
【0015】
(項目7)
上記項目のいずれかに記載のヒドロキサメートで開始されるポリマーを含むコーティング。
【0016】
(項目8)
1種以上のモノマーをヒドロキサメート含有開始剤と重合条件下で接触させる工程;および
ポリマーを回収する工程、
を包含する方法。
【0017】
(項目9)
上記ヒドロキサメート含有開始剤が、式:
【0018】
【化2】

のヒドロキサメート含有開始剤であり、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0019】
(項目10)
が、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される成分で官能基化されたポリマーを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0020】
(項目11)
上記ポリマーが、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、カプロラクトン、バレロラクトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0021】
(項目12)
上記1種以上のモノマーが、吸収性環状アミド、クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、ポリアルキルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合したラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0022】
(項目13)
上記1種以上のモノマーが、グリコール酸、乳酸、βヒドロキシ酪酸、γヒドロキシ吉草酸、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のモノマーと共重合したラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0023】
(項目14)
上記1種以上のモノマーと上記ヒドロキサメート開始剤とが、約160℃〜約200℃の温度で、約4時間〜約30時間にわたって加熱される、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0024】
(項目15)
ポリマー成分;および
式:
【0025】
【化3】

のヒドロキサメートであって、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、ヒドロキサメート、
を含むヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む医療デバイス。
【0026】
(項目16)
が、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される成分で官能基化されたポリマーを含む、上記項目のいずれかに記載の医療デバイス。
【0027】
(項目17)
上記ポリマー成分が、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、カプロラクトン、バレロラクトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載の医療デバイス。
【0028】
(項目18)
上記ポリマー成分が、吸収性環状アミド、クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、ポリアルキルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載の医療デバイス。
【0029】
(項目19)
上記医療デバイスが、縫合糸、外科手術用メッシュ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ステープル、クリップ、バットレス、ラップバンド、カテーテル、包帯、ステント、移植片、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、移植片、組織足場、ピン、ねじ、整形外科用金属類、ペーサー、ペースメーカー、および移植物からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の医療デバイス。
【0030】
(項目20)
上記ポリマー成分が、グリコール酸、乳酸、βヒドロキシ酪酸、γヒドロキシ吉草酸、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、上記項目のいずれかに記載の医療デバイス。
【0031】
(項目21)
上記医療デバイスの表面の少なくとも一部分が、上記ヒドロキサメートで開始されるポリマーを含むコーティングを有する、上記項目のいずれかに記載の医療デバイス。
【0032】
摘要
ヒドロキサメートで開始されるポリマー、およびこのようなポリマーを含む組成物は、医療デバイス、送達薬剤、このような物品のためのコーティングなどを作製する際に使用するために適切である。
【0033】
(要旨)
本開示は、ヒドロキサメートを用いてポリマーを生成するためのプロセス、およびこのプロセスにより生成されるポリマーに関する。このようなポリマーから形成される医療デバイスもまた提供される。
【0034】
ある実施形態において、本開示のヒドロキサメートにより開始されるポリマーは、ポリマー成分および式:
【0035】
【化4】

のヒドロキサメートを含み得、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてRは水素を含み得る。
【0036】
本開示の方法は、1種以上のモノマーをヒドロキサメート含有開始剤と重合条件下で接触させる工程、およびポリマーを回収する工程を包含し得る。ある実施形態において、このヒドロキサメート含有開始剤は、式:
【0037】
【化5】

のヒドロキサメート含有開始剤であり、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてRは水素を含み得る。
【0038】
本開示の医療デバイスは、ポリマー成分および式:
【0039】
【化6】

のヒドロキサメートを含む、ヒドロキサメートで開始されるポリマーを含み得、この式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、これらの基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせであり得、そしてRは水素を含み得る。
【0040】
本開示のポリマーから形成される医療デバイスとしては、縫合糸、外科手術用メッシュ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ステープル、クリップ、バットレス(buttress)、ラップバンド、カテーテル、包帯、ステント、移植片、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、移植片、組織足場、ピン、ねじ、整形外科用金属類、ペーサー(pacer)、ペースメーカー、および移植物が挙げられる。
【0041】
他の実施形態において、基材(医療デバイスが挙げられる)は、この医療デバイスの表面の少なくとも一部分上にコーティングを有し得、このコーティングは、ヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(詳細な説明)
本開示は、ヒドロキサメートで開始されるポリマー、およびこのようなポリマーを含む組成物を提供する。
【0043】
任意のモノマーが、本開示によるポリマーを形成するために利用され得るが、ただし、その重合反応は、ヒドロキサメートで開始される。本発明のヒドロキサメートで開始されるポリマーは、生体吸収性であっても非吸収性であってもよい。ある実施形態において、生体吸収性ポリマーが、本開示の組成物において利用され得る。本明細書中で使用される場合、用語「ポリマー」は、「ポリマー成分」と交換可能に使用され得、そしてホモポリマーおよびコポリマー(ランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたはセグメント化コポリマーが挙げられるが、これらに限定されない)を包含する。
【0044】
ある実施形態において、ポリマーは、1種以上の環状ラクトンの開環重合によって、ヒドロキサメートを開始剤として使用して形成され得る。このような実施形態において、1種以上のラクトンモノマーが、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーを形成するために利用され得る。適切なラクトンモノマーとしては、ラクチド;グリコリド;アルキレンカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、およびジメチルトリメチレンカーボネート);ジオキサノン;ジオキセパノン;カプロラクトン;バレロラクトン;これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
ある実施形態において、さらなるモノマーがラクトンモノマーに添加され得、これによってコポリマーを形成する。上記ラクトンと共重合し得るモノマーとしては、吸収性環状アミド;クラウンエーテルから誘導される吸収性環状エーテル−エステル;エステル化が可能なヒドロキシ酸(αヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸および乳酸)ならびにβヒドロキシ酸(例えば、βヒドロキシ酪酸およびγヒドロキシ吉草酸)が挙げられる);ポリアルキルエーテル(例えば、ポリエチレングリコール);ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
ある実施形態において、非吸収性のヒドロキサメートで開始されるポリマーを形成するモノマーが使用され得る。このような非吸収性のヒドロキサメートで開始されるポリマーの例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ポリエステル/ポリエーテル、ポリウレタン、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本開示のポリマーは、1種以上のモノマーをヒドロキサメート開始剤の存在下で重合させることにより形成され得る。本開示によるポリマーの形成を開始する際に使用するために適切なヒドロキサメートとしては、例えば、以下の式(I):
【0048】
【化7】

のヒドロキサメート基を有するポリマーまたは組成物が挙げられる。この式(I)において、Rは、ビニル基(酢酸ビニルが挙げられる);アクリレート基(アクリル酸ヒドロキシアルキルが挙げられる);ヒドロキシメタクリレート基(メタクリル酸ヒドロキシアルキル、メタクリル酸ヒドロキシエチルが挙げられる)、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリルアミン、アルキルアミン、他のアルキル基;アルコキシ基;アルケニル基;ならびにヒドロキシル基を有するポリマー(上記基のうちのいずれか(例えば、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチルなど)を末端とするポリマーが挙げられる)などであり得;そしてRは水素であり得る。
【0049】
本明細書中で使用される場合、「アルキル」とは、単独でかまたは複合語(例えば、「ハロアルキル」もしくは「アルキルチオ」)においてのいずれかで使用され、直鎖または分枝鎖のC1〜12アルキル基を含む。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどが挙げられる。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「アルコキシ」とは、直鎖または分枝鎖のアルコキシを含み、ある実施形態においては、C1〜12アルコキシであり、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、およびブトキシ異性体である。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「アルケニル」とは、直鎖、分枝鎖または単環式もしくは多環式のアルケンから形成される基を含み、エチレン性モノ不飽和またはエチレン性ポリ不飽和の上で定義されたようなアルキル基またはシクロアルキル基を含み、ある実施形態においては、C2〜12アルケニルである。アルケニルの例としては、ビニル;アリル;1−メチルビニル;ブテニル;イソブテニル;3−メチル−2−ブテニル;1−ペンテニル;シクロペンテニル;1−メチル−シクロペンテニル;1−ヘキセニル;3−ヘキセニル;シクロヘキセニル;1−ヘプテニル;3−ヘプテニル;1−オクテニル;シクロオクテニル;1−ノネニル;2−ノネニル;3−ノネニル;1−デセニル;3−デセニル;1,3−ブタジエニル;1,4−ペンタジエニル;1,3−シクロペンタジエニル;1,3−ヘキサジエニル;1,4−ヘキサジエニル;1,3−シクロヘキサジエニル、1,4−シクロヘキサジエニル;1,3−シクロヘプタジエニル;1,3,5−シクロヘプタトリエニル;および/または1,3,5,7−シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0052】
このようなヒドロキサメート官能性組成物を形成するための方法は、当業者の知識の範囲内である。例えば、ある実施形態において、ヒドロキサメート官能性ポリマーは、架橋ポリメタクリル酸(PMAA)−co−メタクリル酸メチル(MAA)ビーズの表面修飾により生成され得、これにより、ヒドロキサメート官能性ポリマー(すなわち、PMAA−MAA−ヒドロキサメート)を生成する。
【0053】
他の実施形態において、重合性ヒドロキサメートモノマーが合成され得、これが次に、ヒドロキサメート開始剤として利用され得る。いくつかの実施形態において、上記式Iを参照すると、RはCH=C−CHであり得、そしてRは水素であり得る。他の実施形態において、ヒドロキサメートモノマーは、ヒドロキサメートホモポリマーを合成するために利用され得るか、または他の任意の適切なコモノマーと共重合してヒドロキサメート開始剤として使用するために適切なコポリマーを生成し得る。
【0054】
上記ヒドロキサメートモノマーから合成されるヒドロキサメートホモポリマーはまた、任意の誘導体化可能なポリマーにグラフトされ得る。次いで、上記式Iに対応する得られるヒドロキサメート官能性組成物は、モノマーであっても、ホモポリマーであっても、コポリマーであっても、ヒドロキサメート開始剤として使用されて、ヒドロキサメート官能性ポリマーを生成し得る。
【0055】
2種以上のヒドロキサメートが開始剤として使用され得ることが、もちろん理解されるべきである。
【0056】
重合を実施するための条件は、当業者の知識の範囲内である。使用されるモノマーが環状ラクトンである場合、例えば、モノマーが乾燥され、反応容器中でヒドロキサメート開始剤および所望であれば適切な重合触媒と混合され、そして約160℃〜約200℃の温度で、約4時間〜約30時間にわたって加熱され得る。
【0057】
ある実施形態において、上記式Iのヒドロキサメートは、環式化合物と反応し得、従って、開環重合(ROP)を起こし得る。例えば、式Iの化合物は、以下の式:
【0058】
【化8】

の化合物と反応して、以下の式:
【0059】
【化9】

のヒドロキサメートを形成し得、この式において、RおよびRは、式Iについて上で定義されたとおりである。
【0060】
別の実施形態において、上記式Iのヒドロキサメートは、ビス(ヒドロキシ)酸の重合を開始し得る。得られる成分は、ポリウレタンを形成するために使用され得る。例えば、ROPを高濃度の開始剤を用いて、ビス(ヒドロキシ)酸またはエステル(例えば、RがHまたはアルキルである場合)を使用して、以下のように開始し得る。
【0061】
【化10】

このカルボン酸は、当業者の知識の範囲内である方法を利用して、ヒドロキサメートに変換され得る。
【0062】
ある実施形態において、得られたポリウレタンは、次いで、ヒドロキシに誘導体化され得るか、またはアルギネートもしくは他の陰イオン性多糖類と結合し得る。
【0063】
得られるヒドロキサメート官能性ポリマーは、MMP阻害特性を有し得る。
【0064】
例えば、ある実施形態において、ヒドロキサメート官能性ポリマーを有する組成物は、創傷処置において使用され得るか、または医療デバイスおよび移植物の形成において使用され得る。慢性創傷は、治癒に数ヶ月または数年かかり得る。これは部分的には、新たに形成されるマトリックスを合成と同時に分解する高レベルのMMPに起因する。本開示のヒドロキサメート官能性ポリマーは、そのヒドロキサメート基の存在に起因して、創傷またはその隣接部位におけるMMPの活性を阻害し得、これによって、治癒を促進する。
【0065】
同様に、腫瘍の新脈管形成または脈管形成、および転移の形成は、細胞の移動および侵入を必要とし、これらはプロMMPの放出により可能にされる。従って、本開示のヒドロキサメート官能性ポリマー(これは、これらのMMPに反対に作用する)は、腫瘍の新脈管形成および/または脈管形成を最小にするために適切であり得る。
【0066】
さらに、組織リモデリングは、MMPの分泌または発現に対して二次的に起こる。従って、MMPの作用によって、創傷修復に関連する血管が再吸収されるか、または虚血性組織が破壊される。従って、本開示のヒドロキサメート官能性ポリマー(これは、これらのMMPに反対に作用する)は、創傷修復を増強するために適切であり得る。
【0067】
MMPの活性はまた、アテローム性動脈硬化症斑の形成に関与するプロセス(炎症性細胞の浸潤、新脈管形成、ならびに平滑筋細胞の移動および増殖)の多くのために必須である。上昇したレベルのMMPは、ヒトアテローム性動脈硬化症斑および動脈瘤の部位に発現される。さらに、MMPによるマトリックス分解は、斑の不安定性および破壊を引き起こし得、これは、アテローム性動脈硬化症の臨床症状をもたらす。従って、本開示のヒドロキサメート官能性ポリマー(これは、これらのMMPに反対に作用する)は、アテローム性動脈硬化症斑の形成、および動脈瘤の部位の破壊の発生を減少させるために適切であり得る。
【0068】
関節炎の文脈において、軟骨分解における活性化MMPと類似の役割が実証されている。数種のMMP(MMP−1、MMP−3、MMP−8およびMMP−13が挙げられる)ならびにアグリカナーゼ(別のメタロプロテイナーゼ)の上昇した濃度および活性は、変形性関節症および慢性関節リウマチの患者の滑液において同定されている。従って、本開示のヒドロキサメート官能性ポリマー(これは、これらのMMPに反対に作用する)は、関節炎を処置するため、および/または軟骨の分解を最小にするために適切であり得る。
【0069】
活性MMPの割合の増加が、冠状動脈疾患の処置のための脈管介入(例えば、バルーン血管形成術または冠状血管内ステント配置)後の再狭窄の進行に関連することの証拠もまた蓄積されている。プロ(不活性)MMP−2のみを構成的に発現する非疾患脈管壁とは異なり、損傷した動脈またはアテローム性動脈硬化症の動脈は、MMP−2活性の劇的な増加を示す。このことは、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−12、およびMMP−13の誘導された発現に関連して起こる。従って、本開示のヒドロキサメート官能性ポリマー(これは、これらのMMPに反対に作用する)は、再狭窄を減少させるために利用され得る。
【0070】
本開示のヒドロキサメート官能性ポリマーは、MMP酵素の活性中心の亜鉛に結合することによって、MMPを不活性化し得る。複数の付着点があるので、ヒドロキサメートは、亜鉛に対する分子磁石のように挙動する。
【0071】
ある実施形態において、本開示のヒドロキサメート官能性ポリマーは、特定のMMP型に対するいかなる特異性もなしに、MMPの活性形態に結合し得る。他の実施形態において、ヒドロキサメート官能性ポリマーは、局所組織環境において、MMPの活性形態に対する優先的な結合を提供し得る。これは、MMP調節カスケードにおける1つのステージ(すなわち、マトリックス分解の直前のステージ)を特異的に標的とするので、有利であり得る。さらに、選択的結合は、過剰阻害の危険性を減少させる。過剰阻害は、組織の代謝回転ならびに必須のプロセス(例えば、細胞移動および新脈管形成)の健常な速度を妨げることによって、治癒を遅延させる。
【0072】
得られるヒドロキサメート官能性ポリマーは、従来の熱可塑性プロセス(成形、押出しなど)の後に固体材料に作製されるか、またはスプレー乾燥、溶媒エバポレーションもしくは他の任意の従来のポリマー加工方法によってビーズもしくはナノ粒子に作製される、他の材料をコーティングするために適切であり得る。
【0073】
例えば、ヒドロキサメート官能性ポリマーの小さいビーズが、疾患組織または損傷組織の近隣に注入され得る。あるいは、ヒドロキサメート官能性ポリマーは、例えば、ポリマー樹脂内に配合するかまたはデバイスコーティングとして、組織と接触するデバイスに組み込まれ得る。
【0074】
このように生成されたヒドロキサメートで開始されたポリマーは、加水分解により分解可能な結合を介してポリマー鎖のヘッドに結合したヒドロキサメートを有する。有利には、加水分解の際に、本発明のヒドロキサメートで開始したポリマーは、低濃度のヒドロキサメートを放出し得、これによって、ヒドロキサメート官能性ポリマーまたはヒドロキサメート官能性ポリマーを含む物品が適用される移植または損傷の部位で、MMP活性の阻害を提供する。
【0075】
本発明のヒドロキサメートで開始されるポリマーは、任意の公知の技術(例えば、押し出し、成型および/または溶媒キャスティング)を使用して、物品に形成され得る。本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーを用いて物品を形成する方法は、当業者の知識の範囲内である。ポリマーは、単独で使用されても、他のポリマー(吸収性または非吸収性のいずれか)とブレンドされてもよい。
【0076】
ある実施形態において、外科手術用物品(本明細書中で医療デバイスともまた称される)が、本明細書中に記載されるヒドロキサメートで開始されるポリマーから製造され得る。適切な医療デバイスとしては、クリップおよび他のファスナー、ステープル、縫合糸、ピン、ねじ、プロテーゼデバイス、創傷包帯、包帯、薬物送達デバイス、吻合リング、外科手術用刃、コンタクトレンズ、眼内レンズ、外科手術用メッシュ、ステント、ステントコーティング、移植片、カテーテル、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、組織足場、ステープル止めデバイス、バットレス、腹腔鏡バンド(ラップバンド)、整形外科用金属類、ペーサー、ペースメーカー、薬物送達デバイス、軟組織修復デバイス(メッシュ固定具が挙げられる)、ならびに他の移植物および移植可能デバイスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
繊維もまた、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーから作製され得る。ある実施形態において、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーで製造された繊維は、他の繊維(吸収性繊維または非吸収性繊維のいずれか)と編まれるかまたは織られて、布を形成し得る。繊維はまた、不織材料に作製されて、メッシュおよびフェルトなどの布を形成し得る。
【0078】
ある実施形態において、ヒドロキサメートで開始されるポリマーの組み合わせが、必要に応じて上記式(I)により包含されるさらなるヒドロキサメートと組み合わせられて、ある実施形態において、遊離ヒドロキサメートを本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーと混合することによって、コーティングにおいても利用され得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、本開示による組成物は、ヒドロキサメートで開始されるポリマーを他の成分と組み合わせることによって形成され得る。ある実施形態において、ヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む組成物が、外科手術用デバイスのためのコーティングとして使用され得る。外科手術用デバイスおよび/または医療デバイスのコーティングは、ある実施形態において、この医療デバイスの表面の少なくとも一部分上にあり得る。このような表面としては、外側表面、内側表面、およびこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0080】
ある実施形態において、コーティング組成物は、脂肪酸成分(例えば、脂肪酸または脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩)と組み合わせられた、本発明のヒドロキサメートで開始されるポリマーを含み得る。適切な脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよく、そして約12個より多い炭素原子を有する高級脂肪酸を含む。適切な飽和脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸およびラウリン酸が挙げられる。適切な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸が挙げられる。さらに、脂肪酸のエステル(例えば、トリステアリン酸ソルビタンまたは硬化ヒマシ油)が使用され得る。
【0081】
適切な脂肪酸塩としては、C以上の高級脂肪酸(ある実施形態においては、約12個〜約22個の炭素原子を有する脂肪酸)の多価金属イオン塩、およびこれらの混合物が挙げられる。ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸の、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩が挙げられる脂肪酸塩が、本開示のいくつかの実施形態において有用であり得る。いくつかの有用な塩としては、市販の「食品等級」のステアリン酸カルシウムが挙げられ、これは、約3分の1のC16脂肪酸と3分の2のC18脂肪酸との混合物を含み、少量のC14脂肪酸およびC22脂肪酸を含む。
【0082】
本開示の組成物に含まれ得る適切な脂肪酸エステルの塩としては、ステアロイルラクチル酸カルシウム、ステアロイルラクチル酸マグネシウム、ステアロイルラクチル酸アルミニウム、ステアロイルラクチル酸バリウム、またはステアロイルラクチル酸亜鉛;パルミチルラクチル酸カルシウム、パルミチルラクチル酸マグネシウム、パルミチルラクチル酸アルミニウム、パルミチルラクチル酸バリウム、またはパルミチルラクチル酸亜鉛;および/あるいはオレイルラクチル酸カルシウム、オレイルラクチル酸マグネシウム、オレイルラクチル酸アルミニウム、オレイルラクチル酸バリウム、またはオレイルラクチル酸亜鉛が挙げられる。ある実施形態において、ステアロイル−2−ラクチル酸カルシウム(例えば、商品名VERVとしてAmerican Ingredients Co.,Kansas City,Mo.から市販されているステアロイル−2−ラクチル酸カルシウム)が利用され得る。利用され得る他の脂肪酸エステル塩としては、ステアロイルラクチル酸リチウム、ステアロイルラクチル酸カリウム、ステアロイルラクチル酸ルビジウム、ステアロイルラクチル酸セシウム、ステアロイルラクチル酸フランシウム、パルミチルラクチル酸ナトリウム、パルミチルラクチル酸リチウム、パルミチルラクチル酸カリウム、パルミチルラクチル酸ルビジウム、パルミチルラクチル酸セシウム、パルミチルラクチル酸フランシウム、オレイルラクチル酸ナトリウム、オレイルラクチル酸リチウム、オレイルラクチル酸カリウム、オレイルラクチル酸ルビジウム、オレイルラクチル酸セシウム、およびオレイルラクチル酸フランシウムが挙げられる。
【0083】
利用される場合、脂肪酸成分の量は、全組成物の約5重量%〜約60重量%であり得る。ある実施形態において、脂肪酸成分は、全組成物の約15重量%〜約55重量%の量で存在し得る。
【0084】
1つの実施形態において、ヒドロキサメートで開始されるポリマーは、この組成物の約45重量%〜約60重量%の量で存在し得、そして脂肪酸成分(例えば、脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩)は、この組成物の約40重量%〜約55重量%の量で存在し得る。ある実施形態において、ヒドロキサメートで開始されるポリマーは、この組成物の約50重量%〜約55重量%の量で存在し得、そして脂肪酸成分は、この組成物の約45重量%〜約50重量%の量で存在し得る。
【0085】
他の実施形態において、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーは、さらなるポリマー材料(例えば、オリゴマーおよび/またはポリマー)と組み合わせられ得る。さらなるポリマー材料は、吸収性であっても非吸収性であってもよい。さらなるポリマー材料は、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーとブレンドまたは結合(例えば、ブロックコポリマーを形成)し得る。
【0086】
ある実施形態において、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーは、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)と組み合わされ得る。このような組み合わせとしては、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーと、ポリアルキレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーとのブレンドまたはコポリマーが挙げられ得る。従って、得られる組成物は、上記ヒドロキサメートで開始されるポリマーの存在に起因して、MMP阻害特性を有し得る。この組成物中で利用され得る生体吸収性ポリマーは、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、グリコリド、ラクチド、グリコール酸、乳酸、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノンなどが挙げられるモノマーから誘導される連結を含むポリマー、ならびにこれらのホモポリマー、コポリマーおよび組み合わせが挙げられる。
【0087】
これらのヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む組成物はまた、上記布および医療デバイス上のコーティングとして使用され得る。
【0088】
本開示の組成物で作製またはコーティングされ得る布は、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーから作製される繊維、ならびに他の天然繊維、合成繊維、天然繊維のブレンド、合成繊維のブレンド、および天然繊維と合成繊維とのブレンドを含む。布を形成するために利用される他の適切な材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ポリエステル/ポリエーテル、ポリウレタン、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な材料の具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、およびナイロン6,6が挙げられる。
【0089】
医療デバイスが、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーから形成され得る。ある実施形態において、医療デバイスはまた、吸収性材料、非吸収性材料、およびこれらの組み合わせから形成され得る。医療デバイスを形成するために利用され得る適切な吸収性材料としては、トリメチレンカーボネート、カプロラクトン、ジオキサノン、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。医療デバイスを形成するために利用され得る適切な非吸収性材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンド)が挙げられる。
【0090】
上記のように、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーはまた、物品(布および医療デバイスが挙げられる)のためのコーティングを形成するために使用され得る。ある実施形態において、本開示の組成物は、溶液として適用され得、そしてこの溶媒が蒸発させられて、コーティング組成物(ある実施形態においては、ヒドロキサメートで開始されるポリマー)を残す。溶液を形成する際に利用され得る適切な溶媒としては、選択されたコーティング組成物のために適切な任意の溶媒または溶媒の組み合わせが挙げられる。適切であるためには、溶媒は、(1)ヒドロキサメートで開始されるポリマーを含むコーティング成分と混和性であるべきであり、そして(2)コーティングされる物品(例えば、縫合糸)を形成するために使用される任意の材料の完全性にかなりの影響を与えるべきではない。適切な溶媒のいくつかの例としては、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水が挙げられる。ある実施形態において、塩化メチレンが溶媒として使用され得る。
【0091】
本開示のコーティング溶液の調製はまた、比較的単純な手順であり、そしてブレンド、混合などにより達成され得る。ある実施形態において、ヒドロキサメートで開始されるポリマーと塩化メチレンとがコーティング溶液を形成するために使用される場合、所望の量のヒドロキサメートで開始されるポリマーが容器に入れられ得、続いて所望の量の塩化メチレンが添加され得る。次いで、これらの2つの成分が徹底的に混合されて、これらの成分を組み合わせ得る。ある実施形態において、上記のような脂肪酸成分(ステアロイル乳酸カルシウムが挙げられる)が、このコーティング溶液に含まれ得る。
【0092】
任意の公知の技術が、コーティング(例えば、溶液または懸濁物として)を物品に適用するために使用され得る。適切な技術としては、浸漬、噴霧、ワイピングおよびブラッシングが挙げられる。コーティング溶液または懸濁物で濡らされた物品は、引き続いて、溶媒を気化させて除去するために充分な時間および温度で、乾燥オーブンに通されるかまたは乾燥オーブン内に保持され得る。
【0093】
ある実施形態において、本開示による医療デバイスは、縫合糸であり得る。本開示による縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよく、そして任意の従来の材料(生体吸収性材料と非生体吸収性材料との両方が挙げられ、例えば、外科手術用ガット、絹、綿、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)、ポリアミド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)およびグリコリド−ラクチドコポリマーなど)から作製され得る。
【0094】
ある実施形態において、縫合糸は、ポリオレフィンから作製され得る。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドが挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリプロピレンが、縫合糸を形成するために利用され得る。ポリプロピレンは、アイソタクチックポリプロピレンであっても、アイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレンまたはアタクチックポリプロピレンとの混合物であってもよい。
【0095】
他の実施形態において、縫合糸は、合成吸収性ポリマー(例えば、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、アルキレンカーボネート(すなわち、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)、ジオキサノン、ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせ)から作製されるポリマーから作製され得る。利用され得る1つの組み合わせとしては、グリコリドおよびラクチドをベースとするポリエステル(グリコリドとラクチドとのコポリマーが挙げられる)が挙げられる。
【0096】
上記のように、縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。縫合糸がモノフィラメントである場合、このような縫合糸を製造する方法は、当業者の知識の範囲内である。このような方法としては、縫合糸材料(例えば、ポリオレフィン樹脂)を形成する工程、ならびにこの樹脂を押し出し、延伸し、そして焼きなまししてモノフィラメントを形成する工程を包含する。
【0097】
縫合糸が複数のフィラメントから作製される場合、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、編組、織ることまたは編むこと)を使用して作製され得る。これらのフィラメントはまた、組み合わせられて不織縫合糸を製造し得る。フィラメント自体は、縫合糸形成プロセスの一部として、延伸されるか、配向されるか、捲縮させられるか、撚られるか、混繊されるか、または空気で絡ませられて、糸を形成し得る。
【0098】
ある実施形態において、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編組により製造され得る。編組は、当業者の知識の範囲内である任意の方法によりなされ得る。例えば、縫合糸および他の医療デバイスのための編組構築物は、米国特許第5,019,093号;同第5,059,213号;同第5,133,738号;同第5,181,923号;同第5,226,912号;同第5,261,886号;同第5,306,289号;同第5,318,575号;同第5,370,031号;同第5,383,387号;同第5,662,682号;同第5,667,528号;および同第6,203,564号に記載されており、これらの各々の全開示は本明細書中に参考として援用される。一旦、縫合糸が構築されると、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の手段により滅菌され得る。
【0099】
いくつかの場合において、管状の編組またはシースが、コア構造体の周りに構築され得、編組機の中心に通して供給される。公知の管状編組縫合糸(コアを有するものを含む)は、例えば、米国特許第3,187,752号;同第3,565,077号;同第4,014,973号;同第4,043,344号;および同第4,047,533号に開示されている。
【0100】
ある実施形態において、本開示による縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の外科手術用針に取り付けられて、針付き縫合糸を製造し得る。この針付き縫合糸を組織に通すことによって創傷が縫合され得、創傷閉鎖を作製する。次いで、この針がこの縫合糸から除去され得、そしてこの縫合糸が結ばれ得る。この縫合糸はこの組織内に残り得、そのMMP阻害特性により創傷治癒を促進することを補助し得、これによって、感染を最小にする。縫合糸コーティングはまた、有利には、外科医がこの縫合糸を組織に通す能力を増強し、そしてこの外科医がこの縫合糸を結び得る容易さおよび安全性を増加させる。
【0101】
本開示による医療デバイスは、当業者の知識の範囲内である技術に従って滅菌され得る。
【0102】
所望であれば、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーに加えて、本明細書中に記載される組成物は、必要に応じて、さらなる成分(例えば、色素、抗菌剤、増殖因子、抗炎症剤など)を含み得る。用語「抗菌剤」とは、本明細書中で使用される場合、抗生物質、防腐剤、殺菌剤およびこれらの組み合わせを含む。
【0103】
ヒドロキサメートで開始されるポリマーと組み合わせられ得る抗生物質の種類としては、テトラサイクリン(ミノサイクリンなど);リファマイシン(リファンピンなど);マクロライド(エリスロマイシンなど);ペニシリン(ナフシリンなど);セファロスポリン(セファゾリンなど);β−ラクタム抗生物質(イミペネムおよびアズトレオナムなど);アミノグリコリド(ゲンタマイシンおよびTOBRAMYCIN(登録商標)など);クロラムフェニコール;スルホンアミド(スルファメトキサゾールなど);糖ペプチド(バンコマイシンなど);キノロン(シプロフロキサシンなど);フシジン酸;トリメトプリム;メトロニダゾール;クリンダマイシン;ムピロシン;ポリエン(アンホテリシンBなど);アゾール(フルコナゾールなど);β−ラクタムインヒビター(スルバクタムなど)、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0104】
ヒドロキサメートで開始されるポリマーと組み合わせられ得る防腐剤および殺菌剤の例としては、ヘキサクロロフェン;陽イオン性ビグアニド(クロルヘキシジンおよびシクロヘキシジンなど);ヨウ素およびヨードフォア(ポビドン−ヨウ素など);ハロ置換フェノール性化合物(PCMX(すなわち、p−クロロ−m−キシレノール)およびトリクロサン(すなわち、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)など);フラン医薬調製物(ニトロフラントインおよびニトロフラゾンなど);メテナミン;アルデヒド(グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドなど);アルコール、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、これらの抗菌剤のうちの少なくとも1つは、防腐剤(例えば、トリクロサン)であり得る。
【0105】
本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーは、種々の任意の成分(例えば、安定剤、増粘剤、着色料など)と組み合わせられ得る。任意の成分は、本開示のヒドロキサメートで開始されるポリマーから形成される組成物の総重量の約10%までの量で存在し得る。
【0106】
少量のヒドロキサメートが本開示の組成物において必要とされるので、既存の処方物および製造プロセスは、本明細書中に記載される組成物を製造するために、最小の改変のみしか必要としない。この処方および製造の容易さは、他のMMPインヒビターを既存の材料に添加することと比較して、本開示の組成物を調製するために必要な時間と費用との両方を減少させ得る。
【0107】
上記説明は多くの具体例を含むが、これらの具体例は、本明細書中の開示の範囲に対する限定と解釈されるべきではなく、単に、本開示の特に有用な実施形態の例示と解釈されるべきである。当業者は、本開示の範囲および趣旨内で、他の多くの可能性を、添付の特許請求の範囲により規定されるものとして予測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分;および
式:
【化11】

のヒドロキサメートであって、該式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、ヒドロキサメート、
を含む、ヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【請求項2】
が、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される基で官能基化されたポリマーを含む、請求項1に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【請求項3】
前記ポリマー成分が、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、カプロラクトン、バレロラクトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項1に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【請求項4】
前記ポリマー成分が、吸収性環状アミド、クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、ポリアルキルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項1に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【請求項5】
前記ポリマー成分が、グリコール酸、乳酸、βヒドロキシ酪酸、γヒドロキシ吉草酸、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項1に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマー。
【請求項6】
請求項1に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む物品であって、該物品が医療デバイスを含む、物品。
【請求項7】
請求項1に記載のヒドロキサメートで開始されるポリマーを含むコーティング。
【請求項8】
1種以上のモノマーをヒドロキサメート含有開始剤と重合条件下で接触させる工程;および
ポリマーを回収する工程、
を包含する方法。
【請求項9】
前記ヒドロキサメート含有開始剤が、式:
【化12】

のヒドロキサメート含有開始剤であり、該式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
が、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される成分で官能基化されたポリマーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマーが、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、カプロラクトン、バレロラクトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記1種以上のモノマーが、吸収性環状アミド、クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、ポリアルキルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合したラクトンモノマーを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記1種以上のモノマーが、グリコール酸、乳酸、βヒドロキシ酪酸、γヒドロキシ吉草酸、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のモノマーと共重合したラクトンモノマーを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記1種以上のモノマーと前記ヒドロキサメート開始剤とが、約160℃〜約200℃の温度で、約4時間〜約30時間にわたって加熱される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
ポリマー成分;および
式:
【化13】

のヒドロキサメートであって、該式において、Rは、ビニル基、ヒドロキシアクリレート基、ヒドロキシメタクリレート基、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルアミン、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、上記基を末端とするポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そしてRは水素を含む、ヒドロキサメート、
を含むヒドロキサメートで開始されるポリマーを含む医療デバイス。
【請求項16】
が、ビニルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される成分で官能基化されたポリマーを含む、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記ポリマー成分が、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノン、カプロラクトン、バレロラクトン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項18】
前記ポリマー成分が、吸収性環状アミド、クラウンエーテルから誘導された吸収性環状エーテル−エステル、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、ポリアルキルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項19】
前記医療デバイスが、縫合糸、外科手術用メッシュ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ステープル、クリップ、バットレス、ラップバンド、カテーテル、包帯、ステント、移植片、ステント/移植片、結び目のない創傷閉鎖具、封止剤、接着剤、接着防止デバイス、アンカー、トンネル、骨充填剤、合成腱、合成靭帯、移植片、組織足場、ピン、ねじ、整形外科用金属類、ペーサー、ペースメーカー、および移植物からなる群より選択される、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項20】
前記ポリマー成分が、グリコール酸、乳酸、βヒドロキシ酪酸、γヒドロキシ吉草酸、ポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーと共重合した1種以上のラクトンモノマーを含む、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項21】
前記医療デバイスの表面の少なくとも一部分が、前記ヒドロキサメートで開始されるポリマーを含むコーティングを有する、請求項15に記載の医療デバイス。

【公開番号】特開2010−95720(P2010−95720A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237763(P2009−237763)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】