説明

ヒートシンク及びその製造方法

【課題】 放熱性の高いヒートシンクを提供することを目的とする。また、特に冷却ファンを併用した際には、風速が低い領域においても十分な放熱特性を有するヒートシンクを提供することを目的とする。
【解決手段】 発熱体からの放熱のために用いるヒートシンクであって、該ヒートシンクの放熱面は水滴に対する接触角が10°以下の親水性を有することを特徴とするヒートシンクである。好ましくは、ヒートシンクの放熱面は親水性を有する粒子を表面に備える。さらに好ましくは、親水性を有する粒子が二酸化チタンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクに関する。さらに詳しくは、主に半導体素子上に設置され、半導体素子の内部で発生する熱を流動する気体・液体に吸収させることによって半導体を冷却したり、その他、熱交換素子としての種々の用途に用いられるヒートシンクの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、性能の向上に伴い発熱量を増大させてきた。半導体の温度が上昇すると半導体自体の性能が低下し、特に接合部が高温になると寿命が短くなり、ひどい場合には破損する恐れさえある。そこで、PCのCPU等には、半導体内部の熱を周囲の冷たい空気に拡散して冷却するためのヒートシンクが用いられてきた。
【0003】
従来のヒートシンクは、半導体素子を効率的に冷却するため、一般に、表面の形状等を工夫し、表面積を大きくして放熱性能を向上させている。
【0004】
例えば、(特許文献1)には、複数の孔を有する板状のベース部に、同様に複数の孔を有する柱状のフィンが立設されたヒートシンクが開示されている。また、(特許文献2)には、半導体素子とリードとが電気的に接続されて封止されたパッケージの上部に金属板を設け、その金属板の上部に金属細線製のコイル形放熱器が搭載された半導体装置が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平08−330483号公報
【特許文献2】特開平06−275746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(特許文献1)及び(特許文献2)の発明は、フィンの形状を工夫することで表面積を大きくするに過ぎず、放熱性の向上は十分なものではなかった。
【0007】
そこで、本発明は上述のような課題を解決するため、放熱性の高いヒートシンクを提供することを目的とする。また、特に冷却ファンを併用した際には、風速が低い領域においても十分な放熱特性を有するヒートシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ヒートシンクに二酸化チタン水溶液を塗布して、二酸化チタンの微粒子をヒートシンク表面に存在させた結果、放熱性に優れたヒートシンクが得られることを発見した。そして、二酸化チタンによる放熱性の向上は、二酸化チタンの有する親水性によるものであることを見出し、このような知見に基づき本発明を完成した。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のヒートシンクは、請求項1として、発熱体からの放熱のために用いるヒートシンクであって、該ヒートシンクの放熱面は水滴に対する接触角が10°以下の親水性を有することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、ヒートシンクの放熱面に水滴をおいた際にヒートシンク放熱面との間に形成される接触角が小さく、親水性が高いので、大気中に含まれる水分の吸着、蒸発(脱離)を利用してヒートシンクの放熱性能を向上させることが可能となる。
【0011】
また、請求項2では、請求項1記載のヒートシンクにおいて、該ヒートシンクの放熱面は親水性を有する粒子を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、簡便かつ迅速にヒートシンクの放熱面に親水性を付与することが可能となる。
【0013】
また、請求項3では、請求項2記載のヒートシンクにおいて、親水性を有する粒子が二酸化チタンであることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、親水性を有する粒子として最適な化合物が選択される。そして、光が当たる環境においては親水性に加えて光触媒による防汚性がヒートシンクの放熱面に付与される。
【0015】
また、本発明のヒートシンクの製造方法は、請求項4として、請求項2記載のヒートシンクを製造するための方法であって、前記ヒートシンクの放熱面に親水性を有する粒子を塗布する工程を有することを特徴とする。
【0016】
上記手段によれば、ヒートシンクの放熱面に水滴をおいた際にヒートシンク放熱面との間に形成される接触角が小さく、親水性の高いヒートシンクが得られる。なお、親水性を有する粒子をヒートシンクの放熱面に塗布する工程とは、噴霧、噴射、吹き付け、スプレー、浸漬、流下、滴下、塗り延べ等の方法を含む概念である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヒートシンクによれば、大気中に含まれる水分の吸着、蒸発(脱離)を利用した放熱性能に優れたヒートシンクが得られる。また、本発明のヒートシンクの製造方法によれば、簡便かつ低コストで親水性の高いヒートシンクを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明のヒートシンクは、発熱体からの放熱のために用いるヒートシンクであって、該ヒートシンクの放熱面は水に対する接触角が10°以下の親水性を有することを特徴とするものである。
【0019】
実施の形態に係るヒートシンクを用いた際の放熱のメカニズムについては次のように推察される。ヒートシンク放熱面が高い親水性を有するため、大気中に含まれる水分(湿気)がヒートシンクの放熱面に吸着する。そして、吸着した水分は、発熱体からヒートシンクに伝導した熱により蒸発して、ヒートシンクの放熱面から脱離する。その際、発熱体からヒートシンクに伝導した熱を気化熱として奪うので、ヒートシンクからの放熱がより促進されることとなる。
【0020】
ヒートシンク放熱面の親水性は、大気中の水分をヒートシンクの放熱面に吸着・蒸発(脱離)させるためのものであり、ヒートシンクの放熱面に水滴を滴下させた際にヒートシンクの放熱面と水滴との間に形成される接触角(水滴接触角)が10°以下であることを特徴する。水滴接触角としては、大気中の水分の吸着・蒸発(脱離)の観点から5°以下であることが好ましく、0°であることが特に好ましい。
【0021】
ヒートシンクの放熱面を親水性を有するように表面改質する方法としては、親水性を有する粒子をヒートシンク放熱面に塗布する工程、ヒートシンクの放熱面を改質処理する工程等が挙げられる。以下、具体的に述べる。
【0022】
親水性を有する粒子をヒートシンク放熱面に塗布する工程としては、噴霧、噴射、吹き付け、スプレー、浸漬、流下、滴下、塗り延べ等の各種方法により行うことが可能である。噴霧、噴射、吹き付け、あるいはスプレーによる塗布方法の例としては、親水性を有する粒子を分散させた溶液をヒートシンク放熱面にスプレー塗布する方法等が挙げられる。スプレー塗布を行う場合には、例えば、静電スプレー法により粒子を帯電させ、アースに接続されたヒートシンクの放熱面に静電気を使って塗布する方法を用いることができる。また、浸漬による塗布方法としては、親水性を有する粒子を分散させた溶液中に浸漬させて塗布する方法等が挙げられる。また、塗り延べによる塗布方法としては、親水性を有する粒子を分散させた溶液を刷毛などを用いてヒートシンクの放熱面に塗る方法等が挙げられる。
【0023】
親水性を有する粒子としては、ヒートシンクの放熱面に塗布した際に、ヒートシンク放熱面に高い親水性が賦与できるものであればよく特に限定されない。また、好ましい粒子としては、比表面積が大きいもの、熱伝導性が比較的高いものが挙げられる。具体的な化合物としては、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、ガリウムリン、ガリウム砒素、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコニウムなどの化合物を必要に応じて適宜選択して用いることができる。これらの化合物の中でも、二酸化チタンは比表面積が大きく、親水性が高く、無害であり、化学的に安定であり、かつ安価であって好ましく用いられる。また、二酸化チタンを用いた場合には、光を当てた際に光触媒能を生じるので、ヒートシンクの放熱面に防汚性を付与することが可能で、放熱性能の低下の原因となる汚れの付着を防止することができる。なお、二酸化チタンは、塩化チタン溶液、硫酸チタン水溶液あるいはペルオキソチタン酸溶液から公知の方法で製造することができる。また、上記では親水性を有する粒子として無機化合物を例として挙げたが、無機化合物以外にも高親水性を有するポリマーの粒子などを用いることも可能である。
【0024】
親水性を有する粒子の塗布量は、用いる化合物の種類、ヒートシンクの形状及び表面積などに応じて適宜設定することができる。塗布量が少ないと、放熱性能を向上させる効果が少ない場合がある。一方、塗布量が多いと、ヒートシンクの放熱性能がそれほど向上せず、特に親水性を有する粒子の熱伝導性が低い際には放熱性能が逆に低下することがある。また、ヒートシンクの放熱面を塗布する粒子の粒径としては、0.1nm〜0.1μm程度が好ましい。
【0025】
また、ヒートシンクの放熱面を改質処理する工程としては、放電を用いた改質処理方法がある。具体的には、例えば、酸素雰囲気中でヒートシンクをコロナ放電、グロー放電などを行う方法が挙げられる。
【0026】
なお、ヒートシンクとしては各種形状のものを用いることができる。例えば、基板上に平板のフィンを立設させたもの、基板上に剣山状のフィンを立設させたもの、基板上にコイル状のフィンを設けたもの等が挙げられ、目的とする放熱性能、コストなどを勘案して適宜選択することができる。
【0027】
本発明のヒートシンクは、放熱面に水滴をおいた際にヒートシンク放熱面との間に形成される接触角が小さく、親水性が高いので、大気中に含まれる水分の吸着、蒸発(脱離)が上手に利用でき放熱性能に優れている。また、親水性を有する粒子を放熱面に塗布することにより、簡便かつ低コストで優れた放熱性能を有するヒートシンクを得ることができる。
【0028】
次に、実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例)
ヒートシンクに対して、二酸化チタン粉末を12重量%含む二酸化チタン水溶液を塗布した。その後、100℃において熱風乾燥してヒートシンクを得た。ヒートシンクとしては、図1に示すように、基板上に8枚の平板状のフィンを等間隔に立設したものを用いた。なお、ヒートシンクの大きさは、幅49mm×奥行き50mm×高さ4mmである。また、二酸化チタンは、平均粒径7nm、比表面積300m/gのアナターゼ型のものを用いた。
【0029】
(比較例)
ヒートシンクとして、二酸化チタン水溶液を塗布していないものを用いた以外は(実施例)と同様に行った。
【0030】
(実施例)で得られたヒートシンクと(比較例)で得られたヒートシンクのそれぞれの放熱面を観察した結果、(実施例)で得られたヒートシンクの放熱面には二酸化チタンの微粒子により覆われていることがわかる。
【0031】
(水滴滴下試験)
(実施例)及び(比較例)で得られたヒートシンクの放熱面に水滴を滴下した際に水滴とヒートシンク放熱面との間に形成される接触角の測定を行った。その結果、二酸化チタン水溶液を塗布・乾燥して得られた(実施例)のヒートシンクは、水滴との間に形成される接触角が0°であった。一方、(比較例)のヒートシンクは、水滴との間に形成される接触角が43°であった。このことから、(実施例)で得られたヒートシンクの方が高い親水性を有していることがわかる。
【0032】
(放熱性能測定)
続いて、以上のような性質を有する(実施例)及び(比較例)のヒートシンクを、図2に示すような風洞装置に設置してヒートシンク放熱面の温度を測定することでヒートシンクの性能を調べた。具体的には、対向する面が開口されている略直方体の風洞5(幅400mm×奥行き170mm×高さ130mm)の内部に発熱体2(セラミックヒータ)を設置した。そして、ヒートシンク1は発熱体2の上に放熱パッド3を介して設置し、風洞5の一つの開口には、吸気ファン6を設けて、風洞5の内部に空気を流せるようにした。また、ヒートシンク1の温度は、ヒートシンク1の表面に取り付けた熱電対により測定した。なお、基準となる室内の温度は23℃であった。
【0033】
以上のような風洞装置を用いて、まず(実施例)と(比較例)で得られたヒートシンクの表面の温度を測定した。図3は、風洞内の風速を0.5m/s,1.0m/s,2.0m/s,3.0m/s,4.0m/s,5.0m/sと変化させた場合における(実施例)及び(比較例)のヒートシンクの表面の温度を測定した結果を示したものである。
【0034】
図3に示すように、(実施例)で得られたヒートシンク表面の温度が(比較例)で得られたヒートシンクと比較して低く、二酸化チタンを放熱面に塗布することで放熱性が向上することが分かる。
【0035】
次に、風洞内の湿度を0%,27%,56%と変化させて、(実施例)及び(比較例)のヒートシンクの表面の温度を測定した結果を図4に示す。なお、湿度0%の条件は、吸気ファンの代わりに乾燥空気(27℃において湿度0.01%以下)を風洞内に流すことで行った。なお、風速は各湿度条件下において、0.5m/sとなるようにした。また、基準となる室内の温度は、湿度27%,56%の実験の際には23℃であり、湿度を0%の実験の際には27℃であった。
【0036】
図4に示すように、湿度が高い条件では(実施例)で得られたヒートシンク表面の温度が(比較例)で得られたヒートシンクと比較して低く、二酸化チタンを放熱面に塗布することで放熱性が向上していることがわかる。一方、湿度が低く風洞内にほとんど水分がない条件下では、(実施例)及び(比較例)のヒートシンクに殆ど差がないことがわかる。このことは、ヒートシンク放熱面を親水性とすることで、大気中の水分を利用して放熱性を向上させることが可能であることを示している。
【0037】
さらに、実施例で得られたヒートシンクに紫外線を照射させた際にヒートシンクの表面の温度を測定した結果を、紫外線を照射していない場合のヒートシンクの表面温度を測定した結果と併せて図5に示す。
【0038】
図5に示すように、紫外線の照射の有無によるヒートシンクの表面の温度の違いは観察されず、今回の実験条件下では紫外線の照射による効果は得られなかった。しかしながら、二酸化チタンのように光触媒能を有する化合物を使用した際には、紫外線等の励起光を照射することで親水性が向上し、周囲の環境によってはヒートシンクの放熱性能が向上する場合があると考えられる。
【0039】
以上の実施例からも、本発明のヒートシンクは、ヒートシンクの放熱面を親水性とすることで、大気中の水分を利用して放熱性を向上させることが可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例及び比較例で用いたヒートシンクの斜視図である。
【図2】風洞装置の概略図である。
【図3】風洞内の風速を変化させた際における(実施例)及び(比較例)のヒートシンクの表面の温度を測定したものである。
【図4】風洞内の湿度を変化させた際における(実施例)及び(比較例)のヒートシンクの表面の温度を測定したものである。
【図5】紫外線の照射の有無による(実施例)のヒートシンクの表面の温度を測定したものである。
【符号の説明】
【0041】
1 ヒートシンク
2 発熱体
3 放熱パッド
4 熱電対
5 風洞
6 吸気ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体からの放熱のために用いるヒートシンクであって、該ヒートシンクの放熱面は水滴に対する接触角が10°以下の親水性を有することを特徴とするヒートシンク。
【請求項2】
請求項1記載のヒートシンクにおいて、該ヒートシンクの放熱面は親水性を有する粒子を備えたことを特徴とするヒートシンク。
【請求項3】
請求項2記載のヒートシンクにおいて、親水性を有する粒子が二酸化チタンであることを特徴とするヒートシンク。
【請求項4】
請求項2記載のヒートシンクを製造するための方法であって、前記ヒートシンクの放熱面に親水性を有する粒子を塗布する工程を有することを特徴とするヒートシンクの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−115810(P2007−115810A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304098(P2005−304098)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(590006446)株式会社コンピュータクラフト (2)
【出願人】(501195670)株式会社事業創造研究所 (12)
【Fターム(参考)】