説明

ビスフェノールAの製造方法および竪型固定床反応器

【課題】反応器内のイオン交換樹脂触媒中を流通する反応液の偏流を解消することにより、局所的な触媒劣化を防ぎ、ビスフェノールAを長期間安定して製造することが出来るビスフェノールAの製造方法および竪型固定床反応器を提供する。
【解決手段】イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器にフェノ−ル原料とアセトン原料とを流通させ、ビスフェノールA含有反応液を得る反応工程を包含するビスフェノールAの製造方法であって、当該反応器内に形成されたイオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における反応液の温度と、竪型固定床反応器の出口における反応液の温度との温度差(ΔT)の絶対値が、1.0〜5.0℃である際に、イオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAの製造方法および竪型固定床反応器に関し、詳しくは、反応器内のイオン交換樹脂触媒中を流通する反応液の偏流(チャネリング)を解消することにより、局所的な触媒劣化を防ぎ、ビスフェノールAを長期間安定して製造することが出来るビスフェノールAの製造方法および竪型固定床反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAは、通常、フェノールとアセトンとを酸性触媒の存在下で反応させることにより製造される。酸性触媒としては、反応速度が大きく、選択性も良い観点から、一般にスルホン酸型陽イオン交換樹脂が使用されている。反応は、通常、スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器に下降流でフェノール原料とアセトン原料とを流通させて、連続的に行われる。一定期間反応を行った後、運転を停止し、劣化した触媒の洗浄や交換が行われる。
【0003】
スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒の劣化原因としては、種々の要因が考えられ、様々な対処法が検討されている。例えば、アセトン原料中の劣化原因となるメタノールの濃度を所定値以下に調節する方法(例えば特許文献1参照)、反応液から低沸点成分を除去し、晶析、分離後に得られる母液を再利用する際、母液中の触媒劣化原因となる不純物を除去する方法(例えば特許文献2〜4参照)等が知られている。しかしながら、これらの方法を採用して反応を行ったとしても、スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒の劣化は避けられず、アセトン転化率が低下する。
【0004】
【特許文献1】特開2005−162742号公報
【特許文献2】特公昭49−48319号公報
【特許文献3】特開平1−230538号公報
【特許文献4】特開平5−331088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の触媒劣化およびアセトン転化率の低下の原因について、本発明者らは詳細に検討したところ、触媒層内において反応液の偏流が発生し、それにより徐々に反応液の流れ状態が変化することが明らかになった。すなわち、触媒層を流通する反応液は、反応器内の触媒層全体にわたって均一に流通するのではなく、反応液の通りやすい部分、即ち流路が形成され、その一部の流路の流量が大きくなる偏流を形成することが明らかになった。そのため、流量の大きい流路の周辺の触媒に対する負荷が大きくなり、触媒の劣化が早まる。流量の大きい流路の周辺の触媒が劣化すると、その部分でアセトン転化率の低い反応液の流量が大きくなるため、触媒層全体を流通する反応液のアセトン転化率は低くなる。従って、触媒層中を流通する反応液の偏流により局所的に触媒が劣化するという根本原因を解消しない限り、上記の様な不純物を除去するという従来法だけでは、触媒の劣化およびアセトン転化率の低下の問題を解決できないことが明らかになった。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、反応器内のイオン交換樹脂触媒中を流通する反応液の偏流を解消することにより、局所的な触媒劣化を防ぎ、ビスフェノールAを長期間安定して製造することが出来るビスフェノールAの製造方法および竪型固定床反応器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、(1)触媒層の出口から触媒層高の20%以内の範囲にある何れかの位置の反応液の温度と、反応器出口の反応液の温度との間には、反応初期の安定した状態では殆ど差が無いこと、(2)触媒層の偏流が生じて特定の流路の流量が大きく又は小さくなると、偏流の生じた部分の温度は反応器出口の反応液の温度と比較して下降または上昇していること、(3)流量の大きな流路部分の温度と反応器出口の反応液の温度との差の絶対値が一定温度以上となった際、イオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させることにより、触媒層中に生じた偏流が解消され、触媒の局所的劣化を防ぐことが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第1の要旨は、イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器にフェノ−ル原料とアセトン原料とを流通させ、ビスフェノールA含有反応液を得る反応工程を包含するビスフェノールAの製造方法であって、当該反応器内に形成されたイオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における反応液の温度と、固定床反応器の出口における反応液の温度との温度差(ΔT)の絶対値が、1.0〜5.0℃である際に、イオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させることを特徴とするビスフェノールAの製造方法に存する。
【0009】
本発明の第2の要旨は、イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器であって、イオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における少なくとも2点の位置の反応液の温度が測定可能に成されていることを特徴とする竪型固定床反応器に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のビスフェノールAの製造方法によれば、反応器内のイオン交換樹脂触媒中を流通する反応液の偏流を防ぎ、局所的な触媒劣化を防ぎ、ビスフェノールAを長期間安定して製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。本発明のビスフェノールAの製造方法は、少なくとも、イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器にフェノ−ル原料とアセトン原料とを流通させ、ビスフェノールA含有反応液を得る反応工程を包含する。
【0012】
本発明における反応工程は、触媒としてイオン交換樹脂を充填した竪型固定床反応器を使用する。竪型固定床反応器に供給するフェノール原料とアセトン原料は、化学量論的にフェノール過剰で反応させる。フェノールとアセトンとのモル比(フェノール/アセトン)は、通常3〜30、好ましくは、5〜20である。反応器に供給する原料混合物の液空間速度は、通常0.2〜50/hである。反応温度は、通常30〜120℃、好ましくは55〜100℃である。反応圧力は、通常、常圧〜600kPaである。
【0013】
上記のフェノール原料とは、フェノールを主成分とする原料であり、そのフェノール含有割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。純粋なフェノールを使用することも出来るが、その他の化合物としてビスフェノールA、その2,4異性体、クロマン、トリスフェノール、イソプロペニルフェノールや環状2量体などを含んでいてもよい。ビスフェノールAを回収する回収工程で分離された母液、不純物処理工程で処理された反応液などをそのまま、或いはこれらの混合液をリサイクルして使用することも出来る。
【0014】
上記のアセトン原料とは、アセトンを主成分とする原料であり、そのアセトン含有割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。純粋なアセトンを使用することも出来るが、水などの不純物を含んでいてもよい。アセトン循環工程で分離回収されたアセトンをそのまま、或いは純粋なアセトンとの混合液をリサイクルして使用することも出来る。
【0015】
触媒のイオン交換樹脂としては、好ましくはスルホン酸型などの強酸性陽イオン交換樹脂が使用される。触媒は、通常含イオウ化合物のような助触媒と共に使用される。この場合、硫化水素、アルキルチオール等の含イオウ化合物をフェノール原料やアセトン原料と共に供給する方法(方法1)と、予め含イオウ化合物を結合させたイオン交換樹脂を触媒として使用する方法(方法2)がある。
【0016】
方法1において、アルキルチオールとしては、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール等が使用される。方法2においては、好ましくは強酸性陽イオン交換樹脂を部分的に含イオウアミン化合物で変性した樹脂が使用される。含イオウアミン化合物としては、例えば2−(4−ピリジル)エタンチオール、2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチル−4−メルカプトブチルアミン、2,2−ジメチルチアゾリジン等の、ビスフェノールAの合成に使用される一般的な助触媒を使用することが出来る。酸性イオン交換体中の酸基(スルホン酸型の場合はスルホン酸基)の通常2〜30モル%、好ましくは5〜20モル%を含イオウアミン化合物で変性させたイオン交換樹脂触媒が使用される。
【0017】
本発明のビスフェノールAの製造方法で使用する竪型固定床反応器は、本発明の第2の要旨に記載した様に、イオン交換樹脂触媒層の出口(下降流の場合は最下流部)から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における少なくとも2点の位置の反応液の温度が測定可能に成されていることを特徴とする。ここでいう触媒層の出口とは、触媒層を通過した反応液が触媒層から出てくる場所を意味する。例えば、後述する実施例1の場合、触媒支持部材(図1の符号3)と触媒層(図1の符号4)の接触面を意味する。温度測定装置としては、熱電対温度計などが挙げられる。反応液の温度測定位置としては、下降流の場合を例にとると、好ましくは触媒層中心部と触媒層支持部材下流部の2点、より好ましくは触媒層中心部、周辺部、触媒層支持部材下流の配管部などが挙げられる。さらに、触媒層の水平方向の温度だけでなく、触媒層の高さ方向についても複数箇所で測定できることが好ましい。これは、反応液の流通方向の温度変化が単調増加でなくなることを知ることが出来るからである。ただし、温度計の設置によって触媒層中に偏流が生じないようにしておくことが好ましい。なお、本発明の竪型固定床反応器は、上記の様に触媒層の中の温度変化を測定するものであるため、断熱型反応器であることが好ましい。
【0018】
上記の様な温度測定ができ、イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器にフェノ−ル原料とアセトン原料とを流通させ、ビスフェノールA含有反応液を得る。反応初期の安定した状態では、イオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における反応液の温度と、反応器出口の反応液の温度との間には、殆ど差が無い。しかし、運転時間が経過するにつれ、触媒層中に偏流が形成され、流量の大きい流路の周辺の触媒の負荷が大きくなるため、反応率が低下しそれ以外の部分と比較して反応液の温度が低くなる。また、流量が少ない部分では、触媒の負荷が小さいため、反応率が高くなって反応液の温度が高くなる。
【0019】
本発明の製造方法において、イオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における反応液の温度と、竪型固定床反応器の出口における反応液の温度との温度差(ΔT)の絶対値が1.0〜5.0℃となった際に、イオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させる。これにより、触媒層中の偏流が解消され、触媒が劣化する前に、反応初期の安定した状態の触媒負荷に戻すことができ、触媒の寿命を長くすることができる。温度差(ΔT)の絶対値が1.0℃未満においてイオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させることももちろん可能であるが、通常の運転条件では、1.0℃以上となった際に行えば触媒の劣化を十分防ぐことができ、また、あまり頻繁に反応を停止してイオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させることは、安定した運転や、生産効率の面から好ましくはない。温度差(ΔT)の絶対値が5.0℃を超えてからイオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させても、アセトン転化率の回復効果は一応見られるが、すでに触媒が劣化しているために、十分な回復が難しく、反応初期状態よりも生産効率が大きく悪化する。温度差(ΔT)の絶対値の好ましい範囲は1.5〜4.0である。
【0020】
イオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させる方法は、特に限定されず、例えば、下降流式の竪型固定床反応器に上昇流で流体を供給する方法(逆洗浄法)、攪拌機や触媒層に振動を与える装置を使用する等の機械的な手段で触媒層を流動する方法などが挙げられる。中でも、逆洗浄法は、新たな付帯装置を必要とせず、触媒層全体を均一に流動させることができるため好ましい。竪型固定床反応器に上昇流で供給する流体としては特に制限されず、水、フェノール等の触媒を流動させることが出来る流体を使用すればよく、好ましくは原料フェノールや純粋なフェノールを使用する。
【0021】
図1は、後述する実施例1で使用した反応器とフロー図を示す。上記の逆洗浄法の一例について図1を使用して説明する。通常の運転においては、バルブ81及び82を開き、バルブ83及びバルブ84を閉じ、ポンプ7を使用してフェノール原料とアセトン原料とをライン91及び92を介して反応器1に供給する。反応器1は、触媒支持部材3の上に高さ・の触媒層4を有しており、下降流で反応原料を流通させ、ライン93及びバルブ82を介して得られた反応液を次の工程に送る。逆洗浄を行う際は、バルブ81及び82を閉じ、バルブ83及び84を開き、ポンプ7を使用してフェノール原料のみをライン91及び94を介して上昇流で反応器1に供給する。上昇流で供給されたフェノール原料は触媒層4を洗浄し、ライン95及びバルブ84を介して排出される。この際、触媒層の流動が起り、反応時に形成された触媒層中の偏流路などが解消され、触媒が均一に充填された状態に戻る。
【0022】
反応液の流速は、通常、最低流動化速度以上かつその120%の速度以下に設定し、触媒量の0.5倍以上の流通量となるまで触媒層を逆洗浄することが好ましい。また、その際、逆洗浄している触媒が反応器上部より反応器外に流出しないような速度とすることが好ましい。最低流動化速度は、流体やイオン交換樹脂の比重、イオン交換樹脂の粒径および重量から計算により求める方法や、実際に実験を行うこと等により求めることができる。逆洗浄した後、バルブを切替え、反応原料の供給を開始して反応を再開する。
【0023】
本発明のビスフェノールAの製造方法において、上記反応工程に引続いて行われる各工程に特に制限は無く、例えば公知の方法を採用することができる。反応工程に引続いて行われる各工程としては、反応工程で得られた反応混合物からビスフェノールAを含む成分と未反応アセトンを含む低沸点成分とに分離する低沸点成分分離工程、ビスフェノールAを含む成分からビスフェノールAをフェノールとの付加物として晶析させてスラリーを得る晶析工程、当該晶析工程で得られたスラリーをビスフェノールAとフェノールのアダクト結晶と母液とに分離してビスフェノールAとフェノールのアダクト結晶を回収する回収工程、分離された母液をアルカリ加熱処理した後に蒸留して軽質分と重質分とに分離し、軽質分を再結合反応処理する不純物処理工程、低沸点成分分離工程で得られた低沸点成分から未反応アセトンを分離回収し、反応工程に循環させるアセトン循環工程などが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0025】
実施例1:
図1に示す竪型固定床反応器を使用した。反応器1の底面の半径は2.8mで、触媒層高・が3.25m(触媒量:80m)となる様に、スルホン酸基の15%が2−(4−ピリジル)エタンチオールで変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒を充填した。触媒層内には、熱電対温度計5を2箇所設置した。設置箇所は、図1に示す様に、触媒層の水平方向において、反応器の外周からの距離rが250cmの同じ位置であり、高さ方向に触媒層の最低面から15cm(触媒層の最低面から5%:測定点1=図中符号52)及び47cm(触媒層の最低面から14%:測定点2=図中符号53)であった。さらに、反応器の出口付近に熱電対温度計6を設置した(測定点0=図中符号51)。図1に示す様に、竪型固定床反応器1は、バルブ81〜84を使用して反応液の流通方向を逆転することが出来、最小流動化供給量は13.5t/hであった。
【0026】
反応器1の上部から、フェノール87重量%及びその他の化合物(ビスフェノールA及びその異性体を含む)13重量%から成るフェノ−ル原料55t/hとアセトン純度99.7重量%のアセトン原料1.7t/hとの混合原料を55℃の温度で下降流(ダウンフロー)で供給し、断熱条件で連続反応を開始した。反応開始後10時間経過した時点(反応が安定した時点)におけるアセトン転化率は99.5%であった。この時点での測定点1及び測定点2の温度は72.0℃、反応器出口(測定点0)の温度は72.0℃で等しかった。
【0027】
運転開始から12ヶ月経過した時点での測定点1の温度は72.9℃、測定点2の温度は72.9℃、反応器出口(測定点0)の温度は69.9℃であった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差の絶対値は3.0℃、測定点2と測定点0との温度差の絶対値は3.0℃であった。この時点でのアセトン転化率は87.5%であった。そこで、バルブ81及び82を閉じ、バルブ83及び84を開き、ポンプ7を使用してフェノール原料のみをライン91及び94を介し、温度63.0℃、流量15t/hで3時間、上昇流(アップフロー)で反応器1に供給し、触媒層を流動させた。
【0028】
その後、反応原料の供給を再開し、下降流(ダウンフロー)で反応を開始した。反応開始後10時間の時点での測定点1、測定点2および反応器出口(測定点0)の温度は71.1℃で等しかった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差は0.0℃、測定点2と測定点0との温度差は0.0℃であった。この時点におけるアセトン転化率は94.5%であった。その後、さらに運転を継続し、最初に反応を開始してから24ヶ月経過した時点でのアセトン転化率は82.0%であった。
【0029】
比較例1:
運転開始から12ヶ月経過した時点での反応の停止および触媒の流動操作を行わず、運転を継続した他は、実施例1と同様の操作を行った。最初に反応を開始してから24ヶ月経過した時点での測定点1の温度は71.9℃、測定点2の温度は71.9℃、反応器出口(測定点0)の温度は65.9℃であった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差は6.0℃、測定点2と測定点0との温度差は6.0℃であった。この時点における。アセトン転化率は64.0%であった。
【0030】
そこで、実施例1と同様に、反応原料の供給を停止し、液の流通方向を逆転させ、フェノール原料のみを15t/hの流量で3時間、上昇流(アップフロー)で反応器に供給し、反応温度69.0℃で触媒層を流動させた。反応原料の供給を再開し、ダウンフローで反応を開始した。反応開始後10時間の時点での測定点1の温度は68.3℃、測定点2の温度は68.3℃、反応器出口(測定点0)の温度は67.4℃であった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差は0.9℃、測定点2と測定点0との温度差は0.9℃であった。この時点におけるアセトン転化率は72.5%であった。
【0031】
実施例2:
図1に示す竪型固定床反応器と基本的な構造が同一の反応器を使用した。反応器1の底面の半径は3.3mで、触媒層高・が3.2m(触媒量:110m)となる様に、スルホン酸基の15%が2−(4−ピリジル)エタンチオールで変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒を充填した。触媒層内には、熱電対温度計5を2箇所設置した。設置箇所は、触媒層の水平方向において、反応器の外周からの距離rが300cmの同じ位置であり、高さ方向に触媒層の最低面から15cm(触媒層の最低面から5%:測定点1=図中符号52)及び47cm(触媒層の最低面から14%:測定点2=図中符号53)であった。竪型固定床反応器1は、バルブ81〜84を使用して反応液の流通方向を逆転することが出来、最小流動化供給量は18.8t/hであった。
【0032】
反応器上部から、実施例1で使用したのと同じフェノ−ル原料100t/hとアセトン原料3.5t/hとの混合原料を60.0℃の温度で下降流(ダウンフロー)で供給し、断熱条件で連続反応を開始した。反応開始後10時間経過した時点(反応が安定した時点)におけるアセトン転化率は98.0%であった。この時点での測定点1の温度、測定点2の温度、反応器出口(測定点0)の温度はいずれも78.7℃で等しかった。
【0033】
運転開始から9ヶ月経過した時点での測定点1の温度は74.6℃、測定点2の温度は74.6℃、反応器出口(測定点0)の温度は76.6℃であった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差の絶対値は2.0℃、測定点2と測定点0との温度差の絶対値は2.0℃であった。この時点でのアセトン転化率は87.0%であった。そこで、バルブ81及び82を閉じ、バルブ83及び84を開き、ポンプ7を使用してフェノール原料のみをライン91及び94を介し、温度67.0℃、流量20t/hで3時間、上昇流(アップフロー)で反応器1に供給し、触媒層を流動させた。
【0034】
その後、反応原料の供給を再開し、下降流(ダウンフロー)で反応を開始した。反応開始後10時間の時点での測定点1の温度、測定点2の温度、反応器出口(測定点0)の温度はいずれも78.2℃で等しかった。この時点におけるアセトン転化率は95.5%であった。その後、さらに運転を継続し、最初に反応を開始してから18ヶ月経過した時点でのアセトン転化率は81.5%であった。
【0035】
比較例2:
運転開始から9ヶ月経過した時点での反応の停止および触媒の流動操作を行わず、運転を継続した他は、実施例2と同様の操作を行った。最初に反応を開始してから18ヶ月経過した時点での測定点1の温度は66.8℃、測定点2の温度は66.8℃、反応器出口(測定点0)の温度は72.4℃であった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差は5.6℃、測定点2と測定点0との温度差は5.6℃であった。この時点における。アセトン転化率は61.0%であった。
【0036】
そこで、実施例1と同様に、バルブ81及び82を閉じ、バルブ83及び84を開き、ポンプ7を使用してフェノール原料のみをライン91及び94を介し、温度65.0℃、流量20t/hで3時間、上昇流(アップフロー)で反応器1に供給し、触媒層を流動させた。反応原料の供給を再開し、下降流(ダウンフロー)で反応を開始した。反応開始後10時間の時点での測定点1の温度は72.7℃、測定点2の温度は72.7℃、反応器出口(測定点0)の温度は73.5℃であった。すなわち、測定点1と測定点0との温度差の絶対値は0.8℃、測定点2と測定点0との温度差の絶対値は0.8℃であった。この時点におけるアセトン転化率は70.5%であった。
【0037】
上記の実施例および比較例における触媒層の流動時期およびΔT,アセトン転化率ならびに運転期間について、以下の表1に纏めて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読みとれる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、その様な変更を伴う場合も本発明の技術的範囲であると理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例1で使用した竪型固定床反応器の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1:反応器
2:断熱材
3:触媒支持部材
4:触媒層
5:熱電対
6:熱電対
7:ポンプ
51:測定点0
52:測定点1
53:測定点2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器にフェノ−ル原料とアセトン原料とを流通させ、ビスフェノールA含有反応液を得る反応工程を包含するビスフェノールAの製造方法であって、当該反応器内に形成されたイオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における反応液の温度と、固定床反応器の出口における反応液の温度との温度差(ΔT)の絶対値が、1.0〜5.0℃である際に、イオン交換樹脂触媒の少なくとも一部を流動させることを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
【請求項2】
竪型固定床反応器に上昇流で流体を供給することによりイオン交換樹脂触媒の流動を行う請求項1に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項3】
イオン交換樹脂触媒を充填した竪型固定床反応器であって、イオン交換樹脂触媒層の出口から触媒層高20%以内の範囲にある何れかの位置における少なくとも2点の位置の反応液の温度が測定可能に成されていることを特徴とする竪型固定床反応器。

【図1】
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【公開番号】特開2007−161709(P2007−161709A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312765(P2006−312765)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】