説明

ビタミンB12修飾ポリマーとその製造法及び脱ハロゲン化触媒

【課題】ビタミンB12修飾ポリマーとその製造法及び脱ハロゲン化触媒を提供する。
【解決手段】
本発明のビタミンB12修飾ポリマーは、不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるビタミンB12修飾直鎖状ポリマー及びビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーを含むビタミンB12修飾ポリマーである。該ビタミンB12修飾ポリマーは、ラジカル型有機合成反応の触媒として使用することができ、例えば、脱ハロゲン化反応、炭素−炭素結合反応等に使用できるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB12修飾ポリマーとその製造法及び脱ハロゲン化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイパーブランチポリマーはデンドリマーと共にデンドリティック(樹枝状)ポリマーとして分類され、従来の高分子は一般的に紐状の形状であるのに対し、これらのデンドリティックポリマーは積極的に分枝を導入している点でその特異な構造を有し、特に末端基数の多さがデンドリティックポリマーの最も顕著な特徴である。このような末端基数の多いデンドリティックポリマーは、末端基の種類によって分子間相互作用が大きく左右されるので、ガラス転移温度や溶解性、薄膜形成性などが大きく変化し、一般の線状高分子にはない特徴を有する。
ハイパーブランチポリマーのデンドリマーに対する利点は、その合成の簡便さが挙げられ、特に工業的生産においては有利である。一般にデンドリマーが保護−脱保護を繰り返し合成されるのに対し、ハイパーブランチポリマーは1分子中に2種類の置換基を合計3個以上もつ、いわゆるABx型モノマーの1段階重合により合成される。
ビタミンB12は、テトラピロール系の平面配位子であるコリン環内の4個の窒素原子にコバルトが配位した金属錯体であり、中心コバルトが+1ないし+3の酸化状態をとることができるので、この多様な電子状態が自在に変化することにより、多彩な反応の触媒として応用されている。
高分子表面へのビタミンB12の固定化は、修飾電極の耐久性向上を目指したものや(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)、高分子薄膜上への固定化(非特許文献4参照)が報告されている。また、電極上にビタミンB12化合物を共有結合で担持した修飾電極を用いて、電解質溶液中で電解還元することが報告されているが(非特許文献5参照)、かかる方法では、電解質溶液に伝導性を与えるために、大量の電解質を用いる必要があった。また、ビタミンB12化合物が固定化された高度分岐高分子(特許文献1)が報告されているが、この高度分岐高分子の合成には、高度分岐高分子の重合、ビタミンB12化合物の固定化反応と2段階の反応が必要なため大変煩雑であり、またビタミンB12の固定化量を制御する事は困難であった。さらに、高度分岐高分子とビタミンB12化合物の固定化に利用している共有結合がエステル結合のため耐久性に課題がある。また直鎖状高分子へビタミンB12を固定化した例はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ビタミンB12の固定化量を制御したビタミンB12修飾ポリマーを簡便に製造する方法を提供すること、また固定化に用いる結合を耐久性の高いものにする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、不飽和二重結合を有する部分を共有結合で固定化したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合することで、固定化量を制御したビタミンB12修飾ポリマー触媒を簡便に合成することができ、この際、共有結合をアミド結合にすることで、耐久性が向上することを見出した。本触媒は、脱ハロゲン化反応において、高い触媒活性を有するとともに、複数のビタミンB12部位を近接した場所に固定化しているため、これまでの触媒と異なり還元時に炭素−炭素結合を促進する効果を見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、第1観点として、下記式(1)
【化1】

{式中、
3ないしR9のいずれか一つは、下記式(2):
【化2】

[式中、R10は水素原子又はメチル基を表し、X1は酸素原子又は窒素原子を表し、A1は下記式(3):
【化3】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1ないし2
0の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、X2、X3、X4及びX5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表す。)で表される構造を表す。]で表される、不飽和二重結合を有する構造部分を表し、
それ以外のR3ないしR9は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立して、シアノ基、ヒドロキシル基又はメチル基を表す。}
で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるビタミンB12修飾ポリマー、
第2観点として、前記ビタミンB12化合物は不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、第1観点に記載のビタミンB12修飾ポリマー、
第3観点として、前記不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物が、式(4)
【化4】

(式中、R3ないしR9、A1、X1、Y1及びY2は前記式(1)に記載の定義と同義である。)で表されることを特徴とする、第1観点又は第2観点に記載のビタミンB12修飾ポリマー、
第4観点として、第1観点ないし第3観点のうちいずれか一つに記載の不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるポリマーであって、
前記不飽和二重結合を有する化合物が、式(5)
【化5】

[式中、R10は水素原子又はメチル基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1ないし5のアルキル基、炭素原子数1ないし5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7ないし12のアリールアルキル基を表し、また、R1とR2は、それらと結合する窒素原子と一緒になって環を形成していてもよく、
3は式(3):
【化6】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1ないし20の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、X2、X3、X4及びX5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表す。)で表される構造を表す。]で表されるジチオカルバメート化合物であり、
下記式(6)で表される構造式を重合開始部位として、下記式(7)で表されるビタミンB12の骨格を有する直鎖構造の繰り返し単位と下記式(8)で表される枝分かれ構造の繰り返し単位を有し、かつ下記式(7)で表される直鎖構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であり、下記式(8)で表される枝分かれ構造の繰り返し単位の総数が2から100,000の整数であるビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー
【化7】

[式(6)ないし(8)中、
9は前記式(1)に記載の定義と同義であり、R10及びA3は前記式(5)に記載の定義と同義であり、R11は式(9):
【化8】

[式中、R3ないしR9のいずれか一つは、式(10):
【化9】

(式中、X1及びA1は、前記式(1)に記載の定義と同義である。)で表される構造を表し、それ以外のR3ないしR9は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立して、シアノ基、ヒドロキシル基又はメチル基を表す。]で表される構造を表す。]、
第5観点として、分子末端にN,N−ジエチルジチオカーバメート基を有する、第4観点に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー、
第6観点として、前記A3が式(11)
【化10】

で表される構造である、第4観点に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー、
第7観点として、第1観点ないし第3観点のうちいずれか一つに記載の不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるポリマーであって、
前記不飽和二重結合を有する化合物が、式(12)
【化11】

[式中、R12は水素原子又はメチル基を表し、R13は式(13)及び/又は式(14):
【化12】

(式(13)中、X6、X7、X8、X9及びX10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、炭素数1ないし20のハロアルキル基、炭素原子数1ないし20のヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アセトキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基又はシアノ基を表し、
式(14)中、R14は水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、炭素数1ないし20のハロアルキル基、炭素原子数1ないし20のヒドロキシアルキル基、炭素数1ないし20のエポキシアルキル基を表す。)で表される構造を表す。]で表される不飽和二重結合を有する化合物であり、
前記式(7)で表されるビタミンB12の骨格を有する構造の繰り返し単位と下記式(15)で表される構造の繰り返し単位を有し、かつ下記式(7)で表される構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であり、下記式(15)で表される構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であるビタミンB12修飾直鎖状ポリマー
【化13】

(式中、R12及びR13は前記式(12)に記載の定義と同義である。)、
第8観点として、第1観点ないし第3観点のいずれか1つに記載のビタミンB12修飾ポリマーを含むラジカル型有機合成反応触媒、
第9観点として、脱ハロゲン化反応を促進するのに使用される第8観点に記載のラジカル型有機合成反応触媒、
第10観点として、炭素−炭素結合反応を促進するのに使用される第8観点に記載のラジカル型有機合成反応触媒、
第11観点として、第4観点ないし第6観点のいずれか1つに記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーを含むラジカル型有機合成反応触媒、
第12観点として、脱ハロゲン化反応を促進するのに使用される第11観点に記載のラ
ジカル型有機合成反応触媒、
第13観点として、炭素−炭素結合反応を促進するのに使用される第11観点に記載のラジカル型有機合成反応触媒、
第14観点として、第7観点に記載のビタミンB12修飾直鎖状ポリマーを含むラジカル型有機合成反応触媒、
第15観点として、脱ハロゲン化反応を促進するのに使用される第14観点に記載のラジカル型有機合成反応触媒、
第16観点として、炭素−炭素結合反応を促進するのに使用される第14観点に記載のラジカル型有機合成反応触媒、
第17観点として、式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることにより第1観点ないし第3観点のうちいずれか1つに記載のビタミンB12修飾ポリマーを製造する方法、
第18観点として、前記ビタミンB12化合物は、不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、第17観点に記載のビタミンB12修飾ポリマーの製造方法、
第19観点として、式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と式(5)で表される不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることにより第4観点ないし第6観点のうちいずれか1つに記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーを製造する方法、
第20観点として、前記ビタミンB12化合物は、不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、第19観点に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーの製造方法、
第21観点として、式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と式(12)で表される不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることにより第7観点に記載のビタミンB12修飾直鎖状ポリマーを製造する方法、
第22観点として、前記ビタミンB12化合物は、不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、第21観点に記載のビタミンB12修飾直鎖状ポリマーの製造方法、
第23観点として、前記式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物、
第24観点として、アミノ末端基を有する不飽和二重結合を有する化合物とビタミンB12化合物とを、縮合剤の存在下で反応させ、不飽和二重結合を有する化合物のアミノ末端基とビタミンB12化合物中のいずれかのカルボキシル基とでアミド結合を形成することを特徴とする第23観点に記載のビタミンB12化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の不飽和二重結合を有する部分を共有結合で固定化したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合する方法を用いれば、一段階で脱ハロゲン化反応に有効なビタミンB12修飾ポリマー触媒を合成する事ができ、かつビタミンB12の固定化量も任意に制御する事ができる。また、反応混合液からビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー触媒を容易に分離でき、触媒の再利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、参考例2で合成したビタミンB12モノマーのMALDI−TOF−MSスペクトルである。
【図2】図2は、参考例2で合成したビタミンB12モノマーのUV−visスペクトルである。
【図3】図3は、参考例2で合成したビタミンB12モノマーの1HNMRスペクトルである。
【図4】図4は、実施例1で合成したビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子のUV−visスペクトルである。
【図5】図5は、実施例1で合成したビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子の1HNMRスペクトルである。
【図6】図6は、実施例1で合成したビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子のGPCチャートである。
【図7】図7は、実施例2で合成したビタミンB12モノマーとスチリルエチルトリメトキシシランの共重合高分子のUV−visスペクトルである。
【図8】図8は、ビタミンB12モノマーとスチリルエチルトリメトキシシランの共重合高分子のGPCチャートである。
【図9】図9は、ビタミンB12モノマーとスチレン−DCの共重合HBPのUV−visスペクトルである。
【図10】図10は、ビタミンB12モノマーとスチレン−DCの共重合HBPのGPCチャートである。
【図11】図11は、実施例4で得られたビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子(アコシアノ体)のUV−visスペクトルである。
【図12】図12は、実施例5で得られたビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子(Co(II)体)のUV−visスペクトルである。
【図13】図13は、実施例5で得られたビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子(Co(II)体)のCVである。
【図14】図14は、実施例5で得られたビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子(Co(II)体)の臭化フェネチル添加後のCVである。
【図15】図15は、実施例7で得られた各種溶液の写真であり、それらはAで表されるビタミンB12誘導体の溶液(左)、Bで表されるビタミンB12誘導体の溶液(中)及び本発明のビタミンB12修飾ポリマーの溶液(右)である。
【図16】図16は、NaOH水溶液で攪拌後の塩化メチレン層のGPCチャートである。
【図17】図17は、実施例8の紫外線照射後のビタミンB12修飾ポリマーの経時変化を追跡したUV−visスペクトルである。
【図18】図18は、実施例9の脱臭素化反応終了後の溶液のGCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のビタミンB12修飾ポリマーは、前記式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるビタミンB12修飾ポリマーである。
前記ビタミンB12化合物は、アミド結合によってビタミンB12化合物に不飽和二重結合を有する部分が結合した構造を有するものが好ましい。その例として、前記式(4)で表されるものが挙げられる。
【0009】
本発明に用いられるビタミンB12化合物とはビタミンB12骨格を有する化合物であり、例えば、ビタミンB12(シアノコバラミン)が挙げられる。
【0010】
本発明のビタミンB12修飾ポリマーの例として、ビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーが挙げられ、具体的には不飽和二重結合を有する化合物が前記式(5)で表されるジチオカルバメート化合物であり、前記式(6)で表される構造式を重合開始部位として、前記式(7)で表されるビタミンB12の骨格を有する直鎖構造の繰り返し単位と前記式(8)で表される枝分かれ構造の繰り返し単位を有し、かつ前記式(7)で表される直鎖構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であり、前記式(8)で表される枝分かれ構造の繰り返し単位の総数が2から100,000の整数であるビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーである。
【0011】
また、本発明のビタミンB12修飾ポリマーの例として、ビタミンB12修飾直鎖状ポリマーが挙げられ、具体的には不飽和二重結合を有する化合物が前記式(12)で表される不飽和二重結合を有する化合物であり、前記式(7)で表されるビタミンB12の骨格を有する構造の繰り返し単位と前記式(15)で表される構造の繰り返し単位を有し、かつ前記式(7)で表される構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であり、前記式(15)で表される構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であるビタミンB12修飾直鎖状ポリマーである。
【0012】
本発明のビタミンB12修飾ポリマーは、不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを重合開始剤を用いて熱重合反応を行うことによって得られる。重合開始剤はアゾビスイソブチロニトリル及びアゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等が用いられ、反応温度は30ないし100℃、反応時間としては1ないし24時間から適宜選択される。
また、本発明のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーの製造において、ジスルフィド化合物を添加してもよい。ジスルフィド化合物は、一般に、生成するポリマーの分子量を低下させる作用を有することが知られているが、ハイパーブランチポリマーの製造においてはハイパーブランチポリマーの分岐度を高める効果も有している。
【0013】
前記ビタミンB12化合物の製造方法として、例えばアミノ末端基を有する不飽和二重結合を有する化合物とビタミンB12化合物とを、縮合剤の存在下で反応させ、不飽和二重結合を有する化合物のアミノ末端基とビタミンB12化合物中のいずれかのカルボキシル基とでアミド結合を形成する製法が挙げられる。本反応は、不活性溶媒中、塩基を添加して行うことが好ましい。
縮合剤としては、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、クロロギ酸エステルやトシル酸クロライドのような酸クロライド(混合酸無水物法)、または2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物のような酸無水物等が挙げられる。
塩基としては、例えば、三級アミンが使用され、具体的には、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、またはトリエチルアミン等が挙げられる。
不活性溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル及びアセトニトリル等のニトリル系溶媒等並びにこれらの溶媒の混合溶液が挙げられる。
反応温度は、溶媒の氷点から沸点の範囲であれば特に制限されないが、操作上0℃ないし80℃が好ましい。反応時間は、反応の速度に依存するが、数時間から数十日間が好ましい。
【0014】
本発明で用いられる不飽和二重結合を有する化合物としては、前記式(12)で表されるものが挙げられ、具体的に例えばスチレン化合物、アクリル酸エステル化合物等が挙げられる。
以下、上記化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
スチレン化合物としては、アルキルスチレン、ハロゲン化スチレン、ニトロソスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等を挙げることができる。アルキルスチレンとしては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン等を挙げることができる。ハロゲン化スチレンとしては、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン等を挙げることができる。また、以下の式で表されるようなスチレン骨格を有する化合物も例として挙げることができる。
【化14】

アクリル酸エステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸t−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸アセトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸ビニル、アクリル酸2−フェニルビニル、アクリル酸1−プロペニル、アクリル酸アリル、アクリル酸2−アリロキシエチル、アクリル酸プロパルギル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、アクリル酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、アクリル酸トリエチレングリコールモノメチルエーテル、アクリル酸トリエチレングリコールモノエチルエーテル、アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、アクリル酸ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、アクリル酸β−フェノキシエトキシエチル、アクリル酸ノニルフェノキシポリエチレングリコール、アクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、アクリル酸トリフロロエチル、アクリル酸オクタフロロペンチル、アクリル酸パーフロロオクチルエチル、アクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸トリブロモフェニル、アクリル酸トリブロモフェニルオキシエチル、アクリル酸γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0015】
本発明のビタミンB12修飾ポリマー(ビタミンB12修飾直鎖状ポリマー及びビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーを含む)は、ラジカル型有機合成反応の触媒として使用することができ、例えば、脱ハロゲン化反応、炭素−炭素結合反応等に好適に使用できる。
本発明のビタミンB12修飾ポリマー触媒を用いた脱ハロゲン化反応及び炭素−炭素結合反応は、有機ハロゲン化物を有機溶媒中でビタミンB12修飾ポリマー触媒と酸化チタンのような固体光触媒の共存下、光照射することにより行うことができる。
固体光触媒は、光を照射することにより触媒活性を示す固体であるが、紫外光照射ではハイブリッド触媒の分解の恐れがあり、可視光を照射することにより触媒活性を示す可視光応答型の光触媒が好ましく用いられる。可視光応答型光触媒としては、酸化チタンが挙げられ、通常、結晶性のもの、例えばアナターゼ型、ルチル型、アナターゼ・ルチル型、ブルッカイト型が用いられる。
照射する光は、固体光触媒として紫外光応答型の光触媒を用いた場合は紫外光が、可視光応答型の光触媒を用いた場合は可視光がそれぞれ用いられる。
本発明の脱ハロゲン化反応及び炭素−炭素結合反応に用いうる溶媒としては、基質及びビタミンB12錯体に対して反応しないもの、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられる。酸化チタンが光増感作用を効率良く起こすためには、価電子帯のホールと高い反応性を示す、アルコール類を含む溶媒系が望ましい。
本発明の脱ハロゲン化方法及び炭素−炭素結合反応に適用される有機ハロゲン化物は、
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を有する有機化合物であって、例えば1,1−ビス(4−クロロフェニル)−2,2,2−トリクロロエタン〔DDT〕、1,1−ビス(4−クロロフェニル)−2,2−ジクロロエタン〔DDD〕、2−ブロモエチルベンゼン、2−クロロエチルベンゼン、臭化ベンジル、塩化ベンジルなどのハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、フルオロトリクロロメタン、1,1,1−トリクロロメタン、ブロモホルム、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、臭化アリル、塩化アリル、ヨウ化メチルなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0016】
脱ハロゲン化温度は、通常20℃ないし40℃、好ましくは30℃ないし35℃程度である。脱ハロゲン化に要する時間は、通常6時間ないし24時間程度である。
ビタミンB12化合物において、中心金属原子であるコバルト原子は通常、3価または2価であるが、−0.4ないし−2.0V vs. Ag/AgClの電位をかけると1価に還元される。コバルト原子が1価に還元されたビタミンB12化合物は、高い還元力を示すので、本発明の脱ハロゲン化方法では、かかるビタミンB12化合物が、有機ハロゲン化物に作用して還元し、脱ハロゲン化するものと考えられる。
脱ハロゲン化後のビタミンB12化合物は、反応混合物から脱ハロゲン化物を回収した後、再利用することができる。脱ハロゲン化物を回収せずに、そのまま再利用することも可能である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について実施例を挙げて詳述するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0018】
測定機器
[1]分取用GPC
日本分析工業社製、LC−9201
[2]分析用GPC
日立ハイテクノロジーズ社製、L−2000
[3]超伝導核磁気共鳴装置(NMR)
ブルカーバイオスピン製 AVANCE−500−S
[4]サイクリックボルタンメトリー(CV)
BAS社製 ALS−630C
[5]電子スペクトル(UV−Vis)
日立ハイテクノロジーズ社製、HITACHI U−3000型分光光度計
[6]電子スペクトル(UV−Vis)
株式会社日立製作所製、U−3300型紫外線分光光度計
[7]ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)
(株)島津製作所製、GC−MS−QP5050AHガスクロマトグラフ質量分析計[8]ガスクロマトグラフィー(GC)
(株)島津製作所製、GC−2010ガスクロマトグラフ分析計
【0019】
参考例1 ビタミンB12誘導体の合成
【化15】

ビタミンB12誘導体を以下に示す操作で合成し、1つのカルボキシル基を有する(CN)2Cob(III)6C1エステル、及び2つのカルボキシル基を有する(CN)2Cob(III)5C1エステルの混合物を得た。
シアノコバラミン2.5g(1.9×10-3 mol)のメタノール溶液300mLに
98%冷濃硫酸30mLを滴下した。遮光条件下、窒素雰囲気下で120時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、冷水100mLを加えた後、固体炭酸ナトリウムで中和し、シアン化カリウム1.0g(1.5×10-2mol)を加えた。四塩化炭素(100mL×2)、塩化メチレン(100mL×2)の順に抽出を行い、塩化メチレン抽出液を水(100mL×2)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧乾固した。ベンゼン/n−へキサンで再沈殿を行い、紫色粉末(914mg 収率45%)を得た。
【0020】
参考例2 ビタミンB12モノマーの合成
【化16】

25mLの二口ナス型フラスコに参考例1で得られた1つのカルボキシル基を有するビタミンB12誘導体200.3mg(1.86×10-4mol)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)117.2mg(9.59×10-4mol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC/HCl)176.2mg(9.19×10-4mol)を入れ、窒素置換した。乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(2mL)を加えて溶解させた後、氷浴下で30分撹拌した。アミノメチルスチレン1)130μLを加え、6時間撹拌後、室温に戻して12時間撹拌した。その後、蒸留水を加え四塩化炭素50mL×3で抽出した。有機相を3%HCl水溶液100mLで洗浄した後、KCN水溶液100mLで激しく振とうし、蒸留水で2回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶液を濃縮し、塩化メチレン/n−ヘキサンで再沈殿した。生成物をろ過、減圧乾燥し紫色粉末を得た(収量:126.6mg、収率:59.7%)。MALDI−TOF−MSスペクトル、UV−visスペクトル及び1HNMRスペクトルをそれぞれ図1、図2及び図3に示す。
1) Vincenzo Bertini,et al.,Tetrahedron Lett.,2004,60,11407に従って合成した。
【0021】
実施例1 ビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子の合成
【化17】

30mLナス型フラスコに参考例2で合成したビタミンB12モノマー50.2mg(4.41×10-5mol)、スチレン234.3mg(2.25×10-3mol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3.7mg (2.3×10-5mol)、ベンゼン2mLを入れ、Freeze−pump−thawで脱気、窒素置換した。その後、油浴70℃で24時間撹拌して、室温に戻し、ベンゼン/メタノールで再沈殿した。組成比はUV−visスペクトルから算出した(組成比n:m=1.7:98.3)。
収量:81.3mg、Mw=36000、Mn=27000、Mw/Mn=1.34
ビタミンB12モノマーとスチレンの共重合高分子のUV−visスペクトル、1HNM
Rスペクトル及びGPCチャートをそれぞれ図4、図5及び図6に示す。
【0022】
実施例2 ビタミンB12モノマーとスチリルエチルトリメトキシシランの共重合高分子の合成
【化18】

30mLのシュレンク管にビタミンB12モノマー102mg(8.59×10-5mol)、スチリルエチルトリメトキシシラン1.10g(4.13×10-3mol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)6.91mg(4.21×10-5mol)、ベンゼン0.826gを入れ、Freeze−pump−thawで脱気、窒素置換した。その後、油浴80℃で17時間撹拌して、室温に戻しアセトン/メタノールで再沈殿した後、アセトン/水で再沈殿して紫色固体として得た。
収量:583mg、Mw=643000、Mn=164000、Mw/Mn=3.92
ビタミンB12モノマーとスチリルエチルトリメトキシシランの共重合高分子のUV−visスペクトル及びGPCチャートをそれぞれ図7及び図8に示す。
【0023】
実施例3 ビタミンB12モノマーとスチレン−ジチオカルバメート(DC)の共重合HBPの合成
【化19】

30mLのシュレンク管にビタミンB12モノマー102mg(8.58×10-5mol)、スチレン−DC1.14g(4.29×10-3mol)、ジスルフィラム(DCDC)13.2mg(4.45×10-5mol)、トルエン2.11gを入れ、30分窒素バブリングして窒素置換した。その後、油浴105℃で24時間撹拌して、室温に戻し塩化メチレン/ジエチルエーテルで再沈殿して黒紫色固体として得た。
Mw=13900、Mn=7000、Mw/Mn=1.98
ビタミンB12モノマーとスチレン−DCの共重合HBPのUV−visスペクトル及びGPCチャートをそれぞれ図9及び図10に示す。
【0024】
実施例4 ビタミンB12−スチレン共重合高分子のアクアシアノ化
【化20】

ビタミンB12−スチレン共重合高分子41.5mgを塩化メチレン50mLに溶解し、30%過塩素酸水溶液40mLを加え、分液漏斗で激しく振とうした。有機相が紫色から赤色に変化した後、蒸留水で3回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去してベンゼン/n−ヘキサンで再沈殿し、赤色粉末を得た(収量:29.3mg)。ビタミンB12−スチレン共重合高分子(アコシアノ体)のUV−visスペクトルを図11に示す。
【0025】
実施例5 ビタミンB12−スチレン共重合高分子のCo(II)化
【化21】

ビタミンB12−スチレン共重合高分子(アコシアノ体)29.3mgをアセトニトリル/ベンゼン混合溶媒100mLに溶解し、10分間撹拌しながら窒素バブリングして脱気した。そのまま溶液が赤色から黒茶色に変化するまでNaBH4を加えた後、5分間窒素
バブリングした。その後、溶液が黒茶色から橙色に変化するまで60%過塩素酸水溶液をゆっくりと滴下した。塩化メチレン100mLを加え、蒸留水で3回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去してベンゼン/n−ヘキサンで再沈殿し、橙色粉末を得た(収量:19.2mg)。ビタミンB12−スチレン共重合高分子(Co(II)体)のUV−visスペクトルを図12に示す。
【0026】
実施例6 ビタミンB12−スチレン共重合高分子(Co(II)体)のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定
ビタミンB12−スチレン共重合高分子(Co(II)体)を用いて、高分子中のビタミンB12誘導体0.57mM、過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウム0.1MのDMF溶液2mLを調整した作用電極にグラッシカーボン電極、対電極に白金電極、参照電極にAg/AgCl電極を用いCV測定を行った。その結果を図13に示す。
次いで、基質として臭化フェネチル40μLを加えて測定した。その結果を図14に示す。
図13においてCoII/CoIの可逆的な酸化還元波が見られ、B12−HBPハイブリ
ッド触媒が電気化学的に応用可能であることが確認できた。実際に図14においてCoII/CoIの不可逆的な還元波(−0.5V付近)及びコバルトアルキル錯体の1電子還元
波(−1.3V付近)が見られた。これは電気化学的に活性化されたCo(I)種が臭化フェネチルを求核攻撃し、脱ハロゲン化反応が進行していることを示している。また、図14中、+0.5V付近の可逆ピークは内部標準フェロセンに由来するものである。
【0027】
実施例7 耐アルカリ性試験
<実験操作>
【化22】

上記A及びBで表されるビタミンB12誘導体、並びに実施例1で得られた本発明のビタミンB12修飾ポリマーの塩化メチレン溶液を調製し、1MのNaOH水溶液を加え、激しく振とうした。12時間後、本発明のビタミンB12修飾ポリマーを含む溶液の塩化メチレン層のGPC分析を行った。その結果を図16に示す。また、図15は、各種溶液の写真を示したものであり、それらは上記Aで表されるビタミンB12誘導体(左)、上記Aで表されるビタミンB12誘導体(中)及び本発明のビタミンB12修飾ポリマー(右)である。不飽和二重結合を有する部分がビタミンB12化合物とアミド結合した本発明のビタミンB12修飾ポリマーは、安定に塩化メチレン層に存在しており、アミド結合がアルカリに対して安定であることが判明した。塩化メチレン層のGPC分析からも、本発明のビタミンB12修飾ポリマーが安定に存在することが確認された。一方、上記Bのエステル結合で連結したものは、加水分解が進行し、NaOH層へと移動した。
【0028】
実施例8 ビタミンB12修飾ポリマーの自己光増感能測定
ビタミンB12−スチレン共重合高分子(Co(II)体)をテトラヒドロフラン(TH
F)に溶解し、高分子中のビタミンB12誘導体の濃度が1.0×10-6Mになるように調整した。そこにトリエタノールアミンを加え、1.0×10-1 M溶液とした。Freeze−pump−thawにより溶液中の溶存酸素を脱気した後、ブラックライト(フナコシ(株)製、15W)により反応器外表面における紫外線強度1.76mWcm-2の紫外線を24時間照射した。紫外線照射を開始してから1、2、3、5、7及び10時間後に測定したビタミンB12修飾ポリマー溶液のUV−visスペクトルを図17に示す。
図17に示されたように、紫外線照により、ビタミンB12−スチレン共重合高分子(C
o(II)体)を表す470nmの吸収ピークが減少し、ビタミンB12−スチレン共重合
高分子(Co(I)体)を表す390nmの吸収ピークが増加することが示されたことから、ビタミンB12−スチレン共重合高分子(Co(I)体)の生成を確認した。
【0029】
実施例9 ビタミンB12ポリマーの光増感型触媒反応
【化23】

ビタミンB12−スチレン共重合高分子(Co(II)体)をテトラヒドロフラン(TH
F)3mLに溶解し、高分子中のビタミンB12誘導体の濃度が1.0×10-4Mになるよ
うに調整した。そこにトリエタノールアミン及び臭化フェネチルを加え、それぞれの濃度が3.0M及び3.0×10-2Mの溶液とした。Freeze−pump−thaw法により溶液中の溶存酸素を脱気した後、ブラックライト(フナコシ(株)製、15W)により反応器外表面における紫外線強度1.76mWcm-2の紫外線を110時間照射した。照射後の溶液をGC及びGC−MSで測定した結果、臭化フェネチルのピークは観察されず、臭化フェネチルの脱臭素化反応が進行して得られるエチルベンゼン、スチレン及びtrans−1,4−ジフェニル−1−ブテンのピークが観察された。測定したGCチャートを図18に、得られた生成物及びその収量を表1に示す。
【0030】
実施例10 光増感型触媒反応(ブランク実験)
トリエタノールアミン及び臭化フェネチルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、それぞれの濃度が3.0M及び3.0×10-2Mとなるように調整した。Freeze−pump−thaw法により溶液中の溶存酸素を脱気した後、ブラックライト(フナコシ(株)製、15W)により反応器外表面における紫外線強度1.76mWcm-2の紫外線を120時間照射した。照射後の溶液をGC及びGC−MSで測定した結果、触媒であるビタミンB12修飾ポリマーの非存在下では、脱臭素化反応が進行せず、臭化フェネチルのピ
ークのみが観察された。
【表1】

表1 ビタミンB12修飾ポリマーの光増感型触媒反応
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2008−266571号公報
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】「ヘルベチカ・ケミカ・アクタ(Helv.Chim.Acta.)」、(スイス)1985年、68、p.1301
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイアティ・ケミカル・コミュニケーションズ(J.Chem.Soc.Chem.Commun.)」、(英国)、1989年、p.1094
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(J.Am.Chem.Soc.)」、(米国)、1999年、121、p.2909
【非特許文献4】「シンレット(Synlett)」、(米国)、2000年、11、p.1694
【非特許文献5】「ケミカル・コミュニケーションズ(Chem.Commun.)」、(英国)、2004年、p.50−51

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、
3ないしR9のいずれか一つは、下記式(2):
【化2】

[式中、R10は水素原子又はメチル基を表し、X1は酸素原子又は窒素原子を表し、A1は下記式(3):
【化3】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1ないし2
0の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、X2、X3、X4及びX5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表す。)で表される構造を表す。]で表される、不飽和二重結合を有する構造部分を表し、
それ以外のR3ないしR9は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立して、シアノ基、ヒドロキシル基又はメチル基を表す。]
で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるビタミンB12修飾ポリマー。
【請求項2】
前記ビタミンB12化合物は不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、請求項1に記載のビタミンB12修飾ポリマー。
【請求項3】
前記不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物が、式(4)
【化4】

(式中、R3ないしR9、A1、X1、Y1及びY2は前記式(1)に記載の定義と同義である。)で表されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のビタミンB12修飾ポリマー。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一項に記載の不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるポリマーであって、前記不飽和二重結合を有する化合物が、式(5)
【化5】

[式中、R10は水素原子又はメチル基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1ないし5のアルキル基、炭素原子数1ないし5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7ないし12のアリールアルキル基を表し、また、R1とR2は、それらと結合する窒素原子と一緒になって環を形成していてもよく、
3は式(3):
【化6】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1ないし2
0の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、X2、X3、X4及びX5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表す。)で表される構造を表す。]で表されるジチオカルバメート化合物であり、
下記式(6)で表される構造式を重合開始部位として、下記式(7)で表されるビタミンB12の骨格を有する直鎖構造の繰り返し単位と下記式(8)で表される枝分かれ構造の繰り返し単位を有し、かつ下記式(7)で表される直鎖構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であり、下記式(8)で表される枝分かれ構造の繰り返し単位の総数が2から100,000の整数であるビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー。
【化7】

[式(6)ないし(8)中、
9は前記式(1)に記載の定義と同義であり、R10及びA3は前記式(5)に記載の定義と同義であり、R11は式(9):
【化8】

[式中、R3ないしR9のいずれか一つは、式(10):
【化9】

(式中、X1及びA1は、前記式(1)に記載の定義と同義である。)で表される構造を表し、それ以外のR3ないしR9は、それぞれ独立して、ヒドロキシル基又は炭素原子数1ないし20のアルコキシ基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立して、シアノ基、ヒドロキシル基又はメチル基を表す。]で表される構造を表す。]
【請求項5】
分子末端にN,N−ジエチルジチオカーバメート基を有する、請求項4に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー。
【請求項6】
前記A3が式(11)
【化10】

で表される構造である、請求項4に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマー。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一項に記載の不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物とを共重合させることにより得られるポリマーであって、
前記不飽和二重結合を有する化合物が、式(12)
【化11】

[式中、R12は水素原子又はメチル基を表し、R13は式(13)及び/又は式(14):
【化12】

(式(13)中、X6、X7、X8、X9及びX10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、炭素数1ないし20のハロアルキル基、炭素原子数1ないし20のヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アセトキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基又はシアノ基を表し、
式(14)中、R14は水素原子、炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数1ないし20のアルコキシ基、炭素数1ないし20のハロアルキル基、炭素原子数1ないし20のヒドロキシアルキル基、炭素数1ないし20のエポキシアルキル基を表す。)で表される構造を表す。]で表される不飽和二重結合を有する化合物であり、
前記式(7)で表されるビタミンB12の骨格を有する構造の繰り返し単位と下記式(15)で表される構造の繰り返し単位を有し、かつ下記式(7)で表される構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であり、下記式(15)で表される構造の繰り返し単位の総数が1から100,000の整数であるビタミンB12修飾直鎖状ポリマー。
【化13】

(式中、R12及びR13は前記式(12)に記載の定義と同義である。)
【請求項8】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のビタミンB12修飾ポリマーを含むラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項9】
脱ハロゲン化反応を促進するのに使用される請求項8に記載のラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項10】
炭素−炭素結合反応を促進するのに使用される請求項8に記載のラジカル型有機合成反応
触媒。
【請求項11】
請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーを含むラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項12】
脱ハロゲン化反応を促進するのに使用される請求項11に記載のラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項13】
炭素−炭素結合反応を促進するのに使用される請求項11に記載のラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項14】
請求項7に記載のビタミンB12修飾直鎖状ポリマーを含むラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項15】
脱ハロゲン化反応を促進するのに使用される請求項14に記載のラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項16】
炭素−炭素結合反応を促進するのに使用される請求項14に記載のラジカル型有機合成反応触媒。
【請求項17】
式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることにより請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のビタミンB12修飾ポリマーを製造する方法。
【請求項18】
前記ビタミンB12化合物は、不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、請求項17に記載のビタミンB12修飾ポリマーの製造方法。
【請求項19】
式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と式(5)で表される不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることにより請求項4ないし請求項6のうちいずれか1項に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーを製造する方法。
【請求項20】
前記ビタミンB12化合物は、不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、請求項19に記載のビタミンB12修飾ハイパーブランチポリマーの製造方法。
【請求項21】
式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分が共有結合したビタミンB12化合物と式(12)で表される不飽和二重結合を有する化合物を共重合させることにより請求項7に記載のビタミンB12修飾直鎖状ポリマーを製造する方法。
【請求項22】
前記ビタミンB12化合物は、不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物である、請求項21に記載のビタミンB12修飾直鎖状ポリマーの製造方法。
【請求項23】
前記式(1)で表される不飽和二重結合を有する部分がアミド結合したビタミンB12化合物。
【請求項24】
アミノ末端基を有する不飽和二重結合を有する化合物とビタミンB12化合物とを、縮合剤の存在下で反応させ、不飽和二重結合を有する化合物のアミノ末端基とビタミンB12化合物中のいずれかのカルボキシル基とでアミド結合を形成することを特徴とする請求項23に記載のビタミンB12化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−229408(P2010−229408A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47813(P2010−47813)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】