説明

ビニル系重合体の製造方法

【課題】 遷移金属錯体を触媒としてビニル系化合物を重合させる方法において、高品質のビニル系重合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 重合反応により得られたビニル系重合体混合物に所定の有機酸を添加して、所定の時間撹拌した後、該混合物に混合物のpHが6〜8となるように塩基性物質を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニル系重合体の製造方法に関する。詳しくは、遷移金属錯体を触媒としてビニル系重合体を製造する方法であって、ビニル系重合体を高い純度で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系化合物を重合させる方法として、リビングアニオン重合やリビングラジカル重合等がある。このうち、リビングラジカル重合は、重合可能なビニル系単量体の種類、重合体の分子量および構造を容易に制御できる点や種々の官能基を有する単量体を共重合できるという点で優れており、近年、積極的に研究が行われている。
【0003】
リビングラジカル重合法には、例えば、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる方法や、コバルトポルフィリン錯体やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いる方法(非特許文献1、非特許文献2参照)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合法(アトム・トランスファー・ラジカル・ポリメリゼーション(Atom Transfer Radical Polymerization):ATRP) (非特許文献3、特許文献1〜3参照)などがある。
【0004】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(Journal of American Chemical Society)」,1994年,第116巻,p.7943)
【非特許文献2】「マクロモレキュールズ(Macromolecules)」,1994年,第27巻,p.7228
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(Journal of American Chemical Society)」,1995年,117巻,p.5614
【特許文献1】国際公開第96/30421号パンフレット
【特許文献2】特開平11−193307号公報
【特許文献3】特開2003−147015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビニル系化合物の重合を行う際は、一般的には触媒が用いられており、最終的には重合体から触媒を除去する必要がある。触媒を除去する方法としては、例えば、ビニル系重合体を活性炭や活性アルミナ、アルミニウムシリケート、二酸化ケイ素などの吸着剤に接触させた後、吸着剤を取り除く方法や、重合後に所定の酸を添加した後、錯体を濾過によって除去する方法がある。
【0006】
しかし、吸着剤を用いる方法では、重合体および触媒の吸着に時間を要するばかりでなく、触媒の吸着(触媒の除去)を十分に行うことができない。
また、酸を用いる方法では、酸を重合体混合物に添加した後、重合体混合物を濾過し、濾液を中和した後、再度この濾液を濾過するため、プロセスが複雑で、処理に時間を要し、生産性を向上させることが困難である。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、触媒を精度よく、しかも容易に除去することが可能なビニル系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る方法は、遷移金属錯体を触媒としてビニル系化合物の重合反応を行うビニル系重合体の製造方法において、重合反応により得られたビニル系重合体混合物に所定の有機酸を添加して、所定の時間撹拌した後、該混合物に混合物のpHが6〜8となるように塩基性物質を添加することを特徴とする。
【0009】
本発明においては、遷移金属錯体を触媒としてビニル系化合物を重合させ、このビニル系重合体混合物に所定の有機酸を添加して所定の時間撹拌した後、濾過等のプロセスを経ることなく、該混合物のpHが6〜8となるように塩基性物質を添加する。これにより、遷移金属錯体に由来する金属塩を効率よく析出させることが可能となる。その結果、重合体に残留する金属が十分除去され、高品質の重合体が得られるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る方法によれば、容易に、ビニル系重合体中の金属濃度を極めて低減することができる。その結果、重合体の生産性を向上させることが可能なばかりでなく、高い品質の重合体を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ビニル系化合物の重合反応は、例えば、非特許文献3、特許文献1〜3等に記載の方法に従って行うことができる。
【0012】
本発明で用いるビニル系化合物(単量体)としては、例えば、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド化合物などが挙げられる。
【0013】
このうち、アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸脂肪族炭化水素(例えばアルキル)エステル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸脂環式炭化水素エステル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイルなどのアクリル酸芳香族炭化水素エステル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸アラルキルエステル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン、アクリル酸のエチレンオキサイド付加物などのアクリル酸とO、N、Siなどを有する官能基含有アルコールとのエステル、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどのアクリル酸フッ化アルキルエステルなどが挙げられる。
【0014】
また、メタアクリル酸エステルとしては、例えばメタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−ペンチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸n−ヘプチル、メタアクリル酸n−オクチル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸ステアリルなどのメタアクリル酸脂肪族炭化水素(例えばアルキル)エステル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸イソボルニルなどのメタアクリル酸脂環式炭化水素エステル、メタアクリル酸ベンジルなどのメタアクリル酸アラルキルエステル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸トルイルなどのメタアクリル酸芳香族炭化水素エステル、メタアクリル酸2−メトキシエチル、メタアクリル酸3−メトキシブチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン、メタアクリル酸のエチレンオキサイド付加物などのメタアクリル酸とO、N、Siなどを有する官能基含有アルコールとのエステル、メタアクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタアクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル、メタアクリル酸パーフルオロメチル、メタアクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタアクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタアクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどのメタアクリル酸フッ化アルキルエステルなどが挙げられる。
【0015】
芳香族アルケニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどを挙げられる。
【0016】
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0017】
共役ジエン系化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【0018】
ハロゲン含有不飽和化合物としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0019】
ケイ素含有不飽和化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
不飽和ジカルボン酸化合物としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステルなどが挙げられる。
【0021】
ビニルエステル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどが挙げられる。
【0022】
マレイミド系化合物としては、例えば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどが挙げられる。
【0023】
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体の種類および組み合わせは、重合体に要求されるガラス転移温度や、耐油性、耐候性、引っ張り物性、硬度、耐摩耗性等の要求される物性に応じて適宜決定する。他の重合体と組み合わせる場合には、それらとの相溶性等を考慮して適宜決定する。また、本発明に係る製造方法で製造される重合体は、直鎖状重合体、星状重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体又はこれらを組み合わせた重合体(例えば、少なくとも一つのブロックがランダム共重合体であるブロック共重合体、少なくとも一つの腕がブロック共重合体である星状重合体など)のいずれであってもよい。
【0024】
遷移金属錯体としては、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄又は2価のニッケルの錯体を用いることができる。このうち、コストや反応制御性の点から、1価の銅を中心金属とする金属錯体を用いるのが好ましい。このような金属錯体は、金属化合物と配位子とを反応させて生成することができる。例えば、臭化第一銅又は塩化第一銅と、等モル量のペンタメチルジエチレントリアミンなどの配位子とを、錯体が溶解する溶媒(例えばアセトニトリル)中で撹拌して反応させることにより生成させる。なお、生成した錯体は、臭化第一銅と配位子又は塩化第一銅と配位子とが結合した構造であるが、その構造の詳細については、まだ明らかになっていない。
【0025】
ここで、1価の銅化合物を用いた場合、触媒活性を高めるために、2,2′−ビピリジル、その誘導体(例えば、4,4′−ジノリル−2,2′−ビピリジル、4,4′−ジ(5−ノリル)−2,2′−ビピリジルなどの2,2′−ビピリジル系化合物)、1,10−フェナントロリン、その誘導体(例えば、4,7−ジノリル−1,10−フェナントロリン、5,6−ジノリル−1,10−フェナントロリンなどの1,10−フェナントロリン系化合物)、テトラメチルジエチレントリアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを配位子として添加する。
【0026】
使用する触媒および配位子の種類は、使用する開始剤、単量体および溶媒の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、開始剤として有機臭化物又は臭化スルホニル化合物を用い、溶媒としてアセトニトリルを用いてアクリル酸エステルなどのアクリル系単量体の重合を行う際は、臭化銅、好ましくは臭化第一銅に含まれる銅を中心金属とし、ペンタメチルジエチレントリアミンを配位子とする金属錯体触媒を用いるのが望ましい。これは、高分子鎖の成長末端が炭素−臭素結合を持つことが重合制御の点から好ましいことによる。また、開始剤として有機塩化物又は塩化スルホニル化合物を用い、溶媒としてアセトニトリル(場合によってはトルエンなどとの混合溶媒)を用いて、メタアクリル酸エステルなどのメタアクリル系単量体の重合を行う際は、塩化銅、好ましくは塩化第一銅に含まれる銅を中心金属とし、ペンタメチルジエチレントリアミンを配位子とする金属錯体触媒を用いるのが望ましい。これは、高分子鎖の成長末端が炭素−塩素結合を持つことが重合制御の点から好ましいことによる。
【0027】
使用する触媒および配位子の量は、使用する開始剤、単量体および溶媒の量と、必要とする反応速度の関係から適宜決定する。例えば、分子量の高い重合体を得ようとする場合には、分子量の低い重合体を得ようとする場合よりも、開始剤/単量体の比を小さくしなければならないが、そのような場合には、触媒、配位子を多くして、反応速度を増大させる。また、ガラス転移点が室温より高い重合体を生成する場合や、系の粘度を下げて撹拌効率を上げるために適当な有機溶媒を添加した場合には、反応速度が低下する傾向があるが、そのような場合には、触媒、配位子を多くして、反応速度を増大させる。
【0028】
開始剤としては、例えば、一官能性、二官能性又は多官能性の有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いる。これらは目的に応じて適宜選択される。例えば、ジブロック共重合体を製造する場合には、通常、開始剤の入手のしやすさの点から一官能性化合物を使用し、A−B−A型のトリブロック共重合体を製造する場合には、反応工程数、時間の短縮の点から二官能性化合物を使用するのが望ましい。また、分岐状ブロック共重合体を製造する場合には、反応工程数、時間の短縮の点から多官能性化合物を使用し、両末端に反応性官能基を導入した直鎖状重合体を製造する場合には、反応工程数、時間の短縮の点から二官能性化合物を使用するのが望ましい。
【0029】
一官能性化合物の具体例としては、例えば、臭化トシル、2−臭化プロピオン酸メチル、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチル、2−臭化イソ酪酸メチル、2−臭化イソ酪酸エチル、2−臭化イソ酪酸ブチルなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸エステル単量体の構造と類似しており、重合を制御しやすい点から、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチルを用いるのが好ましい。
【0030】
二官能性化合物の具体例としては、例えばビス(ブロモメチル)ベンゼン、ビス(1−ブロモエチル)ベンゼン、ビス(1−ブロモイソプロピル)ベンゼン、2,3−ジブロモコハク酸ジメチル、そのジエチル置換体およびジブチル置換体、2,4−ジブロモグルタル酸ジメチル、そのジエチル置換体およびジブチル置換体、2,5−ジブロモアジピン酸ジメチル、そのジエチル置換体およびジブチル置換体、2,6−ジブロモピメリン酸ジメチル、そのジエチル置換体およびジブチル置換体、2,7−ジブロモスベリン酸ジメチル、そのジエチル置換体およびジブチル置換体などが挙げられる。これらのうちでは、ビス(ブロモメチル)ベンゼン、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチルが、原料の入手性の点から好ましく用いられる。
【0031】
多官能性化合物の具体例としては、例えばトリス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(1−ブロモエチル)ベンゼン、トリス(1−ブロモイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。これらのうちではトリス(ブロモメチル)ベンゼンが、原料の入手性の点から好ましく用いられる。
【0032】
なお、重合を開始する基以外に官能基を持つ有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いると、末端又は分子内に重合を開始する基以外の官能基が導入された重合体が容易に得られる。このような重合を開始する基以外の官能基としては、アルケニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、シリル基などが挙げられる。
【0033】
使用する開始剤の量は、必要とするブロック共重合体の分子量に合わせて、単量体との比から決定する。すなわち、開始剤1分子あたり、何分子の単量体を使用するかによって、ブロック共重合体の分子量を制御することが可能である。
【0034】
重合は、室温〜200℃の範囲、好ましくは50〜150℃の範囲で行う。反応は無溶媒(塊状重合)又は各種の溶媒中で行うことができ、重合を途中で停止させることも可能である。重合を行う際、溶媒としては、例えばベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒などを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
溶媒を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする撹拌効率(すなわち、反応速度)の関係から適宜決定する。また、塊状重合、各種の溶媒中で行う重合において重合を途中で停止させる場合においても、反応を停止させる点での単量体の転化率は、系全体の粘度と必要とする撹拌効率(すなわち、反応速度)の関係から適宜決定する。
【0036】
重合を停止した後は、重合体混合物に所定の有機酸を添加し、この混合物を10分〜5時間程度撹拌する。これにより、金属錯体由来の金属塩が生成することとなる。なお、有機酸添加後の撹拌時間は、添加する有機酸の種類や撹拌の際の温度(好ましくは0〜200℃、更に好ましくは室温〜150℃)によって適宜変化させる。例えば、有機酸としてp−トルエンスルホン酸を用い、室温で反応を行った際は、2時間程度撹拌する。
【0037】
有機酸としては、第一に、その有機酸が、除去したい遷移金属錯体と、金属塩を生成し、第二に、生成した金属塩が、重合体の溶液あるいは融液から分離可能であって、第三に、有機酸が、重合体に致命的な影響を与えないものを用いる。これらの条件について以下に詳細に説明する。
【0038】
まず、第一の条件を満たすためには、有機酸が、ある程度以上の酸性度を有する必要がある。酸性度の指標として有機化合物の水溶液中の解離定数を用いるならば、第1解離段の酸解離定数の逆数の対数値(pKa)が、6.0以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。
【0039】
次に、第二の条件を満たすためには、生成した金属塩の溶媒に対する溶解度が小さいことが好ましく、難溶であることが更に好ましく、不溶であることが最も好ましい。金属塩の溶解度を事前に予測することは難しいが、金属錯体の溶媒に対する溶解度、用いる有機酸の溶媒に対する溶解度を参考にすることが出来る。
【0040】
更に、第三の条件を満たすためには、重合体の主鎖や側鎖が酸によって分解されない構造であること、重合体に酸と反応する官能基がないことが好ましい。
【0041】
また、有機酸の作用により金属錯体が一部分解してしまう場合を考慮すると、遊離した配位子をも除去できることが好ましい。すなわち、遊離した配位子が溶媒に不溶であるか、配位子と有機酸との反応により溶媒に不溶な有機塩が生成することが好ましい。この塩の溶解度を事前に予測することは難しいが、配位子の溶媒に対する溶解度、用いる有機酸の溶媒に対する溶解度を参考にすることが出来る。
【0042】
なお、以上の条件を満たさない場合であっても、反応させる有機酸の量や濃度、反応温度、反応時間、溶媒などを調整することにより、使用することが可能である。
【0043】
以上のような有機酸として、例えば、カルボン酸基又はスルホン酸基を含有する有機物を用いることができる。
【0044】
カルボン酸基を含有する有機物としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、4−メチル吉草酸、ヘプタン酸、ウンデカン酸、イコサン酸などの飽和脂肪族の一官能性のカルボン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などのハロゲンを含有する飽和脂肪族の一官能性のカルボン酸、アセトキシコハク酸、アセト酢酸、エトキシ酢酸、4−オキソ吉草酸、グリコール酸、グリシド酸、グリセリン酸、2−オキソ酪酸、グルタル酸などの置換基を含有する飽和脂肪族の一官能性のカルボン酸、プロピオル酸、アクリル酸、クロトン酸、4−ペンテン酸、アリルマロン酸、イタコン酸、オキサロ酢酸などの脂肪族不飽和の一官能性のカルボン酸、安息香酸、アセチル安息香酸、アセチルサリチル酸、アトロパ酸、アニス酸、ケイ皮酸、サリチル酸などの芳香環あるいは不飽和結合のα位にカルボン酸の炭素が結合した一官能性のカルボン酸、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、3−オキソグルタル酸、アゼライン酸、エチルマロン酸、4−オキソヘプタン2酸、3−オキソグルタル酸などの飽和脂肪族の二官能性のカルボン酸、マレイン酸、アセチレンジカルボン酸などの不飽和脂肪族の二官能性のカルボン酸、イソフタル酸などの芳香族の二官能性のカルボン酸、アニコット酸、イソカンホロン酸などのトリカルボン酸、アミノ酪酸、アラニンなどのアミノ酸、などが挙げられる。これらの2以上を併用してもよい。
【0045】
スルホン酸基を含有する有機物としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などの飽和脂肪族の一官能性のスルホン酸、1,2−エタンスルホン酸、1,3−プロパンスルホン酸、1,4−ブタンスルホン酸、1,5−ペンタンスルホン酸などの飽和脂肪族の二官能性のスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフチルアミンスルホン酸、アミノフェノールスルホン酸、p−フェノールスルホン酸などの芳香族の一官能性のスルホン酸、などが挙げられる。これらの2以上を併用してもかまわない。これらの中では、有機溶媒への分散しやすさ、酸と金属錯体の反応との生成物の性状、入手しやすさなどから、ベンゼンスルホン酸もしくはその誘導体が好ましく、それらの中ではp−トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0046】
また燐酸類を金属封鎖剤として利用することもできる。例えば、ポリ燐酸、ピロ燐酸などの縮合燐酸又は燐酸ジ(2-エチルヘキシル)などを用いることができる。
【0047】
有機酸の量は、例えば遷移金属錯体が銅錯体である場合は、銅1モル当たり、有機酸1モル以上であることが好ましい。また、配位子の配位座1モル当たり、有機酸0.5モルであることが好ましく、有機酸1.0モル以上であることがより好ましい。なお、有機酸の量を増やすと反応時間は短縮されるが、コストや余剰の有機酸を除く必要性を考慮すると、必要最小限の量に抑えることが望ましい。
【0048】
有機酸を重合体混合物に添加して、上記所定時間撹拌した後は、該混合物に塩基性物質を添加して、混合物のpHが6〜8になるようにする。このように、混合物のpHを6〜8に調整することより、有機酸のみを添加する方法では除去することができない微小な金属を十分除去し、高品質の重合体を得ることが可能になる。ただし、塩基性物質の添加量が多く、pHが大きくなりすぎると、微量金属が重合体中に溶解し、重合体の品質が低下することとなる。
【0049】
重合体の濾液のpH測定は、pH試験紙や、pHメーターを用いて行うことができる。ここで、通常のpHメーターでは、重合体溶液そのもののpHを測定することができないため、pH測定の際は、重合体溶液と水とを均一化できる、アルコール類(1−プロパノール、2−プロパノール等)の他の異なる溶媒を添加して、重合体溶液と水とを均一化して、pH測定を行うとよい。
【0050】
塩基性物質としては、固体状のものを用いるのが望ましい。これは、重合体混合物に塩基性物質を過剰量添加した際も、容易に除去可能なことによる。このような塩基性物質としては、例えば、塩基性活性アルミナ、塩基性吸着剤、固体無機酸、陰イオン交換樹脂、セルロース陰イオン交換体等が挙げられる。固体無機酸としては、Na2O、K2O、MgO、CaOなどを用いることができる。塩基性吸着剤としては、キョーワード500SH(協和化学製)などを用いることができる。
また、粒径10〜100ミクロンの塩基性物質を用いるのが望ましい。これは、塩基性固体が濾過助剤と同様の効果を奏し、重合体から微小な金属塩をも十分除去することが可能となるためである。
【0051】
重合体は、以上の反応混合物から金属塩を分離することにより得ることができる。なお、反応の際、溶媒を使用した場合は、金属塩を分離した後、溶媒を留去する必要がある。金属塩の分離は、フィルタープレスなどの濾過、デカンテーション、遠心沈降などの方法により行うことが出来る。分離処理は、金属塩が溶出するなどの問題が発生しない限り、粘度を低減して分離速度を向上させるために、高温で実施することが望ましい。ただし、溶媒を用いた場合には環境衛生および安全性、操作性の観点から溶媒の蒸気圧を高くなりすぎないよう、概ね200℃以下であって、室温〜100℃の範囲で行うのが好ましい。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
なお、実施例におけるEA、BA、MEA、MMAは、それぞれエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メチルメタアクリレートを意味する。
【0054】
また、本実施例に示す分子量は、以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めたものである。
【0055】
システム:Waters社製GPCシステム
カラム:昭和電工株式会社製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)
【0056】
(製造例1)(MMA−BA−MMA型ブロック共重合体、ソフトタイプの合成)
MMA−BA−MMA型ブロック共重合体を得るために以下の操作を行った。
500mlのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換したのち、臭化銅(臭化第一銅、以下同様)12.2g(84.8mmol)を量り取り、アセトニトリル(モレキュラーシーブスで乾燥後、窒素バブリングしたもの)180mlを加えた。70℃で5分間加熱攪拌したのち、室温に冷却し、開始剤2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル6.1g(17.0mmol)、BA 804.6g(900ml)を加えた。80℃で加熱攪拌し、銅錯体の配位子としてペンタメチルジエチレントリアミン(以下、トリアミンと略す)1.8ml(8.5mmol)を加えて系内に触媒を成形させ、重合を開始させた。重合開始から一定時間(30分)ごとに、重合溶液約0.2mlを抜き取り、この溶液をガスクロマトグラム分析することにより、BAの転化率を求めた。求めた転化率の増大する速度が所望の速度より遅い場合には、トリアミンを適宜追加することで系内に触媒を生成させ、重合速度を制御した。
【0057】
BAの転化率が96.2%の時点で(5時間後)、MMA 424.7g(453.7ml)、塩化銅(塩化第一銅、以下同様)8.4g(84.8mmol)、トリアミン1.8ml(8.5mmol)、トルエン(モレキュラーシーブスで乾燥後、窒素バブリングしたもの)1633.3mlのすべてを同時に加えた。
MMAの転化率が76.3%、BAの転化率が98.0%の時点(9時間後)でトルエン500mlを加え、水浴で反応器を冷却して反応を終了させた。これにより、BA/MMAの重量比が70.9/29.1のブロック共重合体を得た。なお、反応中、重合溶液は常に緑色を呈していた。また、反応中、加えたトリアミンの総量は7.1ml(33.9mmol)であった。
【0058】
次に、以上の反応混合物にトルエンを加え、固形分10%濃度の、ブロック共重合体と残存銅錯体の混合溶液(M−1)を得た。
得られたブロック共重合体溶液の一部を濾過試験1に従って濾過して銅錯体を除き、GPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが111000、分子量分布Mw/Mnが1.48であった。また濾液中に残存する触媒銅成分を定量したところ、重合体に対し重量基準で80ppmであった。
【0059】
(製造例2)(MMA−BA−MMA型ブロック共重合体、ハードタイプの合成)
5リットルのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、臭化銅11.4g(79.3mmol)を量り取り、アセトニトリル(モレキュラーシーブスで乾燥後窒素バブリングしたもの)100mlを加えた。5分間70℃で加熱攪拌した後、再び室温に冷却し、開始剤2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル5.7g(15.9mmol)、BA 447.0g(500.0ml)を加えた。80℃で加熱攪拌し、銅錯体の配位子としてジエチレントリアミン1.7ml(7.9mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から30分ごとに、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約0.2mlを抜き取り、サンプリング溶液のガスクロマトグラム分析によりアクリル酸ブチルの転化率を決定した。求めた転化率の増大する速度が所望の速度より遅い場合には、トリアミンを適宜追加して、重合速度を制御した。
【0060】
BAの転化率が90%を超えた時点で、MMA 1333.2g(1424.3ml)、塩化銅7.8g(79.3mmol)、ジエチレントリアミン1.7ml(7.9mmol)、トルエン(モレキュラーシーブスで乾燥後窒素バブリングしたもの)1424.3mlを加えた。BAの転化率が95.1%、MMAの転化率が49.2%になった時点でトルエン1500mlを加え、水浴で反応器を冷却して反応を終了させた。これにより、BA/MMAの重量比が39.3/60.7のブロック共重合体を得た。なお、反応中、重合溶液は常に緑色を呈していた。また、反応中に加えたトリアミンの総量は、6.8ml(31.6mmol)であった。
以上のようにして得られた反応混合物にトルエンを加え、固形分10%濃度の、ブロック共重合体と残存銅錯体の混合溶液(M−2)を得た。
得られたブロック共重合体溶液の一部を濾過試験1に従って濾過して銅錯体を除き、GPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが114000、分子量分布Mw/Mnが1.61であった。また濾液中に残存する触媒銅成分を定量したところ、重合体に対し重量基準で80ppmであった。
【0061】
(濾過試験1)
ADVANTEC製加圧濾過器(型番KST−90、濾過面積45.3cm2)を用い、加圧濾過テストを実施した。濾材はポリエステル製の濾布(敷島カンバス製T2781C、2重織、厚さ1.06mm、通気度30cm3/cm2・min)を用いた。濾過は、室温下、窒素加圧によって0.1MPaに加圧して行った。
【0062】
(pH試験1)
重合体溶液のpHをそのまま直接測定することはできないため、重合体溶液に対し、重量比でイソプロピルアルコールを2倍量、水を0.5倍量添加することで重合体溶液の均一化水溶液を作成して、pHメーターを用いて重合体溶液の模擬的なpHを測定した。
【0063】
(銅の定量)
試料約100〜200mgをTPFE製加圧容器に精密に秤量し、超高純度硫酸および超高純度硝酸を加えてマイクロウェーブ分解を行い、分解物を50mlに定容した。銅の濃度が高いと思われる場合には、この溶液をさらに50倍に希釈して測定した。
この溶液について、ICP質量分析器(HP−4500、横河アナリティカルシステムズ株式会社製)を使用し、ノーマルプラズマ条件で、内部標準物質を用いて定量し、同時に実施したブランク試験値を減算することにより、試料中の銅の定量を行った。
【0064】
(pH測定)
重合体溶液スラリー10ccをアドバンテック社製ディスポーザブルメンブランフィルター(25JP050AN)を用いてシリンジにより濾過し、これによって得られた濾液10gに対して、2-プロパノール11gと水3gを加え、撹拌して均一化した。この溶液のpHは、pH電極(GST−5311C)をとりつけたイオンメーター(東亜電波工業製:IM−40S)によって、室温下で行った。
【0065】
(実施例1)
製造例1で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−1)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のp−トルエンスルホン酸0.33g(1.9mmol)を加え、30℃で3時間撹拌した。撹拌中、溶液の色は、緑色から褐色に変化した。その後、この混合溶液にキョーワード500SH(協和化学製)0.1gを加え、溶液のpHを7.1とした後、この溶液を30℃で4時間撹拌した。なお、この溶液のpHは、pH試験1の方法に従って測定した。その後、濾過試験1の方法に従って濾過を行うことにより固形分を除き、無色透明の溶液を得た。なお、濾過時間は、全量濾過終了まで25分であった。
以上のようにして得られた濾液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体19gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は3ppmであった。
【0066】
(実施例2)
製造例2で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−2)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のp−トルエンスルホン酸0.32g(1.8mmol)を加え、25℃で2時間撹拌した。撹拌中、溶液の色は、緑色から褐色に変化した。その後、この溶液にキョーワード500SH(協和化学製)0.1gを加え、溶液のpHを7.4とした後、この溶液を25℃で4時間撹拌した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って固形分を除き、無色透明の溶液を得た。なお、濾過時間は全量濾過終了まで20分であった。
以上のようにして得られた濾液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体19gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は2ppmであった。
【0067】
(実施例3)
製造例2で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−2)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のp−フェノールスルホン酸0.32g(1.8mmol)を加え、室温下(約28℃)で2時間撹拌した。撹拌中、溶液の色は、緑色から褐色に変化した。その後、この溶液にキョーワード500SH(協和化学製)0.8gを加え、溶液のpHを7.2とした後、この溶液を室温下(約28℃)で4時間撹拌した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って固形分を除き、無色透明の溶液を得た。なお、濾過時間は全量濾過終了まで18分であった。
以上のようにして得られた濾液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体18gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は3ppmであった。
【0068】
(実施例4)
製造例2で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−2)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のシュウ酸・2水和物0.24g(1.9mmol)を加え、25℃で2時間撹拌した。撹拌中、溶液の色は緑色から褐色に変化した。その後、この溶液にキョーワード500SH(協和化学製)0.5gを加え、溶液のpHを7.8とした後、25℃で3時間撹拌した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って固形分を除き、無色透明の溶液を得た。なお、全量の濾過が終了するまでには、25分を要した。
以上のようにして得られた濾液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体19gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は3ppmであった。
【0069】
(比較例1)
製造例1で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−1)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のp−トルエンスルホン酸0.33g(1.9mmol)を加え、30℃で4時間撹拌した。撹拌中、溶液の色は緑色から褐色に変化した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って褐色の不溶分を除き、無色透明の濾液を得た。なお、全量の濾過が終了するのには、35分を要した。また濾液の銅含量を測定した結果、ポリマー換算で14ppmの銅が残留していた。更に、濾液のpHをpH試験1の方法に従って測定したところ、2.0であった。次に、濾液にキョーワード500SH(協和化学製)0.1gを加え、pHを7.5とした後、30℃で4時間撹拌した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って吸着剤を除き、無色透明の溶液を得た。なお、全量の濾過が終了するまでには、20分を要した。
以上のようにして得られた溶液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体18gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は12ppmであった。
【0070】
(比較例2)
製造例2で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−2)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のp−トルエンスルホン酸0.32g(1.8mmol)を加え、25℃で4時間撹拌した。撹拌中、溶液の緑色が褐色に変化していくのが観察された。撹拌終了後、濾過試験1に従って濾過を行って褐色の不溶分を除き、無色透明の濾液を得た。なお、全量の濾過が終了するのには、45分を要した。また、濾液の銅含量を測定した結果、ポリマー換算で16ppmの銅が残留していた。更に、濾液のpHをpH試験1の方法に従って測定したところ、1.5であった。次に、濾液にキョーワード500SH(協和化学製)0.1gを加え、pHを7.7とした後、25℃で2時間撹拌した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って吸着剤を除き、無色透明の溶液を得た。なお、全量の濾過が終了するまでには、30分を要した。
以上のようにして得られた溶液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体18gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は7ppmであった。
【0071】
(比較例3)
製造例1で作成した銅触媒含有重合体混合溶液(M−1)200mlに、添加したトリアミンの総量の3倍モル量のp−トルエンスルホン酸0.33g(1.9mmol)を加え、30℃で3時間撹拌した。撹拌中、溶液の色は、緑色から褐色に変化した。その後、キョーワード500SH(協和化学製)1.5gを加え、pHを8.5とした後、30℃で2時間撹拌した。その後、濾過試験1に従って濾過を行って固形分を除くと、濾液は透明ではあるものの、若干青く着色していた。なお、全量の濾過が終了までには、30分を要した。
以上のようにして得られた濾液を乾固させ、無色透明のブロック共重合体18gを得た。得られた重合体の銅含量を測定した結果、銅濃度は53ppmであった。
【0072】
【表1】

【0073】
以上の記載および表1からわかるように、本発明に係る方法では、酸処理後に濾過し、この濾液を中和して更に濾過する方法(比較例1,2)に比べて、銅の量が十分に低減され、合計の濾過時間も短縮されている。また、実施例1、実施例2からは、本発明に係る方法によれば、ブロック体の組成によらず、銅が十分除去された、高品質のビニル系化合物が得られることがわかる。更に、実施例3、4からは、本発明に係る方法によれば、有機酸の種類によらず、高品質のビニル系化合物が得られることがわかる。なお、比較例3からわかるように、塩基性物質を多く加えすぎると、重合体中の銅残存量が増加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体を触媒としてビニル系化合物の重合反応を行うビニル系重合体の製造方法において、重合反応により得られたビニル系重合体混合物に所定の有機酸を添加して、所定の時間撹拌した後、該混合物に混合物のpHが6〜8となるように塩基性物質を添加することを特徴とするビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸が、有機スルホン酸又は有機カルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
有機酸を添加した後、10分〜5時間撹拌することを特徴とする請求項1又は2に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記塩基性物質が、塩基性活性アルミナ、塩基性吸着剤、固体無機酸、陰イオン交換樹脂、セルロース陰イオン交換体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
固体無機酸が、Na2O、K2O、MgO、CaOのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記塩基性物質が、粒径が10〜100ミクロンの塩基性固体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−83287(P2006−83287A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269653(P2004−269653)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】