説明

ビード部材の搬送装置及び保持方法

【課題】ビードリングの周面にゴムを被覆してなるビード部材を、安定的に移載し、タイヤ成型ドラムのタイヤ構成部材上に、高い精度で位置決め保持できる搬送装置を提供する。
【解決手段】ビード部材の搬送装置1は、ビードリングの周面にゴムを被覆してなるビード部材を、ビードロック手段を備えるとともに、円筒状のタイヤ構成部材を配設したタイヤ成型ドラムに移載するものであって、ビード部材を保持する保持部10、及び保持部10をタイヤ成型ドラムに向けて前進変位させる移動部11のそれぞれを備え、保持部10に、ビード部材の半径方向に延在し、かつ、ビードリングの一部を露出させる1本以上の溝に嵌まり込んで、ビードリングに半径方向内側から掛合する掛合爪14を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生タイヤの成型工程で、タイヤのビード部に配設されるビードリングを、タイヤ構成部材を予め配設したタイヤ成型ドラム上に移載する搬送装置、及びこの搬送装置によるビードリングの保持方法に関するものであり、特に、予めビードリングの周面にゴムを被覆してなるビード部材を、所期した通りに安定的に保持して移載するとともに、タイヤ成型ドラムのタイヤ構成部材上に、高い精度で位置決め保持できる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば高炭素剛線を巻重ねてリング状にしたビードリングは、プライコード等の他の部材との間隔を確保するため、或いは、束ねたビードリングに高い剛性を付与するため、そのビードリングの周面にゴムを被覆してビード部材を形成し、このビード部材をビード部の構成部材として用いることが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
ところで、生タイヤの成型工程において、円筒状のタイヤ構成部材を予め配設したタイヤ成型ドラム上に、ビードリングを移載する搬送装置としては、特許文献2に記載されているように、ビードリングの外周面側を、周方向に間隔をおいて配置した把持部の縮径変位下で把持する装置や、特許文献3に記載されているように、複数個のマグネットを環状に配置してなる磁気吸着手段で、ビードリングの側面を吸着保持する装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−500123号公報
【特許文献2】特開2009−248498号公報
【特許文献3】特開2004−255769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビード部材において、ビードリングを被覆するゴムは、成型後の寸法に多少のばらつきが生じることが避けられず、これがため、特許文献2に記載されるようなビード部材の外周面側を把持する方法では、ビード部材中のビードリングの位置が定まらないが故に、タイヤ構成部材に対するビードリングの位置決め精度が低下する懸念があった。
また、特許文献3に記載されるような、マグネットでビード部材の側面を磁気吸着する方法では、上述したビード部材の外周面側を把持する方法の場合と同様、ビードリングの位置決め精度の低下が不可避となり、その上、マグネットとビードリングとの間に被覆ゴム厚み分の距離が存在することに起因する磁気吸着力の低下により、移載中のビード部材が落下したり、移動したりする懸念があった。
このため、ビードリングの周面に被覆ゴムを有するビード部材を、安定して保持して移載することができ、また、タイヤ成型ドラム上のタイヤ構成部材の周りに、高い精度で位置決め保持できるビード部材の搬送装置の出現、及びこの搬送装置によるビード部材の保持方法の提供が切に望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、ビードリングの周面に被覆ゴムを有するビード部材を、タイヤ構成部材を配設したタイヤ成型ドラムに対し、安定的に保持して移載することができ、しかもタイヤ構成部材の周りに高い精度で位置決め保持することができる搬送装置、及びこの搬送装置によるビード部材の保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ビードリングの周面にゴムを被覆してなるビード部材を、ビードロック手段を備えるとともに、円筒状のタイヤ構成部材を配設したタイヤ成型ドラムに移載するビード部材の搬送装置であって、ビード部材を保持する保持部、及び該保持部をタイヤ成型ドラムに向けて前進変位させる移動部のそれぞれを備え、前記保持部に、ビード部材の半径方向に延在し、かつ、ビードリングの一部を露出させる1本以上の溝に嵌まり込んで、ビードリングに半径方向内側から掛合する掛合爪を設けてなる、ビード部材の搬送装置にある。
【0008】
かかる搬送装置を用いたビード部材の保持方法は、ビード部材の半径方向に延びる溝に掛合爪を入れ込んだ状態で、掛合爪を、ビードリングの半径方向内側から掛合させるにある。
【0009】
そして本発明の、ビード部材のタイヤ成型ドラムへのセット方法は、ビード部材の溝に掛合爪を嵌め込んで、該掛合爪を、ビードリングに半径方向内側から掛合させてビード部材を保持し、次いで、移動部を前進変位させて、ビード部材を、タイヤ構成部材が予め配設された、タイヤ成型ドラムのビードロック手段と対応する位置に位置決め保持し、その後、ビードロック手段を拡径変位させて、ビード部材を、タイヤ構成部材上に位置決め固定させるにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のビード部材の搬送装置は、ビード部材の半径方向に延在し、かつ、ビードリングの一部を露出させる1本以上の溝に対し、搬送装置の保持部に、この溝に嵌まり込んで、ビードリングに半径方向内側から掛合する掛合爪を設けたので、ビードリングを、所期した通りに安定的に保持することができる。
【0011】
また、ビード部材の半径方向に延びる溝に掛合爪を入れ込んだ状態で、掛合爪を、ビードリングの半径方向内側から掛合させることで、被覆ゴムの厚みのばらつきのいかんにかかわらず、ビードリング自身を直接的にかつ確実に支持することができる。
【0012】
そして、ビード部材の溝に掛合爪を嵌め込んで、掛合爪を、ビードリングに半径方向内側から掛合させることでビード部材を保持し、次いで、移動部を前進変位させて、ビード部材を、タイヤ構成部材が予め配設された、タイヤ成型ドラムのビードロック手段と対応する位置に位置決め保持し、その後、ビードロック手段を拡径変位させることで、被覆ゴムの形成寸法にかかわらず、ビード部材を、タイヤ構成部材上に高い精度で位置決め固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従うビード部材の搬送装置を、タイヤ成型ドラムとともに示す略線側面図である。
【図2】図1に示す搬送装置の正面図である。
【図3】図2に示す搬送装置が備える掛合爪の、A−A線に沿う略線拡大断面図である。
【図4】本発明に従う搬送装置で移載するビード部材の一例を示す断面斜視図である。
【図5】図4に示すビード部材を成型する金型の一例を示す、(a)は、下金型を右側半分のみ示した部分平面図であり、(b)は、下金型のB−B線に沿う断面図であり、(c)は、下金型上に配設されたビードリングを併せて示すC−C線に沿う断面図であり、(d)は、(c)で示すビードリングに加え、そのビードリングを被覆する未加硫のゴム材料を併せて示すB−B線に沿う断面図であり、(e)は(b)で示す下金型の、上金型を型閉めした姿勢でのB−B線に沿う断面図である。
【図6】図3に示す掛合爪を、ビード部材に掛合させた状態を示す略線拡大断面図である。
【図7】タイヤ構成部材を予め配設した、図1に示すタイヤ成型ドラムの略線断面図であって、図の上側部分に、ビード部材を、ビードロック手段と対応する位置に位置決め保持した姿勢で示し、図の下側部分に、ビードロック手段を拡径姿勢とするとともに、タイヤ構成部材の中央部分を膨出変形させ、併せて、折り返し手段を機能させた姿勢で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明に従うビード部材の搬送装置1、及び円筒状のタイヤ構成部材を配設したタイヤ成型ドラム2を示す。図示の例では、タイヤ構成部材の外周側の各両端部分に、左右で逆の傾斜姿勢となるビード部材Bをそれぞれ移載するため、搬送装置1を、対をなす配置で総計2台設けている。なお、タイヤ成型ドラム2は、図7に示すように、周方向に所定の間隔をおいて複数配置されるビードロックセグメントからなり、それぞれが拡縮変位する一対のビードロック手段20を備えており、搬送装置1によって、ビードロック手段20と対応する位置に位置決め保持されるビード部材Bを、ビードロック手段20の拡径変位によって、タイヤ構成部材上に位置決め固定する。
【0015】
ここで搬送装置1は、図1、図2に示すように、ビード部材Bを保持する保持部10と、タイヤ成型ドラム2の中心軸線に沿って、タイヤ成型ドラム2の外側から中央部分に向けて、保持部10を前進変位させる移動部11とを備えてなる。
保持部10は、移動部11と連結する基部12を有し、この基部12に、タイヤ成型ドラム2を、その内側に挿通させる円形状の貫通孔13を備えている。また、基部12の正面側又は背面側の何れか一方には、貫通孔13に沿って配設されるとともに、その半径方向内側に向けて延在し、幅がtとなる少なくとも1個の掛合爪14(図示の例では6個)を、半径方向に変位可能に設ける。
そして、図3に示すように、掛合爪14は、拡径変位に伴って、後述するビード部材BのビードリングBRに内周側から掛合する、凹状の掛合部14aを備えている。図示の例で掛合部14aは、横断面形状が四角形となるビードリングBRの断面隅部と対応する鉤形状となっていて、僅かに上方に向けて傾斜する下面14bと、下面14bと略直角をなす側面14cとを有する。
【0016】
また、各移動部11は、図1、図2に示すように、基部12に連結したベース15の下面に、左右で対をなすスライダー16を、前後方向に間隔をおいて2対配設しており、それらのスライダー16を、例えば床面上に敷設した、タイヤ成型ドラム2の中心軸線に沿う向きに平行に延在する、2本の搬送レールR上に摺接配置させてなる。
これにより、搬送装置1は、図示しない駆動手段の作動に基づいて、タイヤ成型ドラム2に対して、前進、及び後退変位される。なお、駆動手段としては、例えばボールねじとモータとの組合せによるものや、シリンダーからなるものがあり、所期する搬送速度や、停止移動精度等に応じて種々のものの中から選択することができる
【0017】
ここで、本発明の搬送装置1で移載されるビード部材Bは、図4に示すように、ビードリングBRの周面にゴムGを被覆するとともに、そのゴムGに1本以上の溝Cを設けてなる。
溝Cは、リング状となるビード部材の半径方向に延在し、かつ、ビードリングBRの一部を露出させるものであり、図示の例では、横断面形状が略円形となるゴムGの上半分が切り取られた形状となっている。また、図示の例では、ビードリングBRの横断面形状は四角形であるが、任意の形状のものを採用でき、この場合、拡径変位下でビードリングBRの内周面に掛合する掛合部14aの形状も、ビードリングBRの横断面形状に対応する形状とする。そして、溝Cの幅Wは、掛合爪14の幅tよりも僅かに大きくなっている。
【0018】
上記のような溝付きのビード部材を形成するに当たっては、特開2009−29049号公報に記載されるような、二重環状の口金形状を有する押し出しダイの、その内側の孔にビードリングをセットし、ビードリングを支持する案内ローラの回転下でビードリングを押しダイに対して回転させるとともに、その押し出しダイの外側の空隙からゴムを押し出すことで溝なしのビード部材を成型し、その後、そのビード部材の被覆ゴムに、所期する溝を切削等で形成する方法や、ビードリングの周面にシート状のリングを螺旋状に巻き重ねることで、上述した方法と同様の溝なしビード部材を成型し、同じようにして溝を形成する方法等が用いられるが、特には、コンプレッション成型による方法が好ましい。
【0019】
ここで、コンプレッション成型とは、金型内にビードリング及び未加硫のゴム材料を配設しておき、その金型を加熱しながら加圧して、加硫を行う成型方法をいう。
具体的には、例えば図5(a)〜(c)に示すように、下金型30に、環状の成型溝30aを形成し、その成型溝30a内に、半径方向に沿って延在する支持板30bを、間隔をおいて複数個設け、さらに成型溝30aを挟んで両側に、環状の小溝30cを設ける。
そして、図5(c)に示すように、支持板30b上にビードリングBRを位置決め配置するとともに、図5(d)に示すように、2つ割にした未加硫のゴム材料G’を成型溝30a内に配設して、さらに、図5(e)に示すように、その下金型30に対応する上金型31を位置決め配置して型閉めを行う。
次いで、図示しない加熱手段によって、これらの金型を加熱するとともに、これもまた図示しない加圧手段の加圧下で、ゴム材料G’を加硫する。なお、ゴム材料G’の量を、成型溝30a、31aで区画形成される容積よりも若干多くしておけば、ゴム材料G’の余剰分は、加熱及び加圧によって小溝30c、31c内へ、余剰ゴムgとしてはみ出すので、金型から取り出し後にこのゴムgを削除することで、ビード部材Bの形状を所期した通りに成型することができる。この場合、溝Cは、ビードリングBRを位置決め配置する支持板30bによって、ゴム材料G’の加硫時に同時に形成することができる。
【0020】
そして上記のように形成されたビード部材Bは、図6に示すように、所要に応じて未加硫ビードフィラーBFを貼着した状態で、その溝Cに、半径方向内側から掛合爪14を嵌め込むことで、ビードリングBRが、内周側から掛合部14aで直接的に支持される。これにより、被覆ゴムGの厚みのばらつきのいかんにかかわらず、ビード部材Bを確実に掛合保持することができる。また、溝Cの幅Wは、掛合爪14の幅tに対しわずかに大きいだけなので、ビード部材Bを保持した際の、周方向のずれも最小限に抑えられる。
【0021】
次いで、ビードフィラーBFを含むビード部材Bを保持した姿勢で、搬送装置1を、円筒状のタイヤ構成部材Tを配設したタイヤ成型ドラム2に対して前進変位させる。
上述したようにビード部材Bは、ビードリングBRが掛合爪14に直接的に支持されており、被覆ゴムGの厚みのばらつきの影響を受けることがないので、図7の上側部分に示すように、タイヤ構成部材Tが予め配設された、タイヤ成型ドラム2のビードロック手段20と対応する位置への位置決め保持も、常に正確に行われる。
【0022】
その後は、図7の下側部分に示すように、ビードロック手段20を拡径変位させて、ビード部材Bを、タイヤ構成部材T上に位置決め固定する。なお、ビードロック手段20を構成するそれぞれのビードロックセグメントは、掛合爪14の、貫通孔13に沿う配列に対し、周方向にずれて配設されているので、ビードロック手段20を拡径変位させても、掛合爪14と干渉することはない。
そして、タイヤ構成部材Tの中央部分を、図示しないセンターブラダーのシェーピング作動によって膨出変形させた後、タイヤ構成部材Tの両端部分を、タイヤ成型ドラム2に設けた折り返しフィンガー21の、前進変位に伴う揺動変位によって、ビード部材B及びビードフィラーBFの周りで折り返す。
そしてさらに、図示は省略するが、折り返しフィンガー21の後退姿勢の下で、所要に応じた他のタイヤ構成部材の組付けを行って、所期する生タイヤが成型される。
【符号の説明】
【0023】
1 搬送装置
2 タイヤ成型ドラム
10 保持部
11 移動部
12 基部
13 貫通孔
14 掛合爪
15 ベース
16 スライダー
20 ビードロック手段
21 折り返しフィンガー
30 下金型
31 上金型
B ビード部材
BR ビードリング
G ゴム
C 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードリングの周面にゴムを被覆してなるビード部材を、ビードロック手段を備えるとともに、円筒状のタイヤ構成部材を配設したタイヤ成型ドラムに移載するビード部材の搬送装置であって、
ビード部材を保持する保持部、及び該保持部をタイヤ成型ドラムに向けて前進変位させる移動部のそれぞれを備え、
前記保持部に、ビード部材の半径方向に延在し、かつ、ビードリングの一部を露出させる1本以上の溝に嵌まり込んで、ビードリングに半径方向内側から掛合する掛合爪を設けてなる、ビード部材の搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置を用いたビード部材の保持方法であって、ビード部材の半径方向に延びる溝に掛合爪を入れ込んだ状態で、掛合爪を、ビードリングの半径方向内側から掛合させるビード部材の保持方法。
【請求項3】
請求項1に記載の搬送装置を用いた、ビード部材のタイヤ成型ドラムへのセット方法であって、
ビード部材の前記溝に掛合爪を嵌め込んで、該掛合爪を、ビードリングに半径方向内側から掛合させてビード部材を保持し、次いで、移動部を前進変位させて、ビード部材を、タイヤ構成部材が予め配設された、タイヤ成型ドラムのビードロック手段と対応する位置に位置決め保持し、その後、ビードロック手段を拡径変位させて、ビード部材を、タイヤ構成部材上に位置決め固定させるビード部材のタイヤ成型ドラムへのセット方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−245705(P2012−245705A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119650(P2011−119650)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】