説明

ビーム検出部材およびそれを用いたビーム検出器

【課題】放射光ビームや軟X線ビーム等の位置及びその強度分布、更には、これらの時間変化を高精度で長期間安定して検出することが可能で、従来の検出装置よりも低コストで製造し得るビーム検出部材およびそれを用いたビーム検出器を提供する。
【解決手段】ビームの位置や強度を検出するためのビーム検出部材2であって、ビーム7が照射されるビーム照射部6が、少なくとも珪素(Si)、窒素(N)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、リン(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)から選ばれた一種または二種以上の元素(X)を、X/C=0.1〜1000ppm含む多結晶ダイヤモンド(C)膜4からなり、この多結晶ダイヤモンド膜4に前記ビーム7が照射されると発光8,8aする発光機能を有する。このようなビーム検出部材2と前記発光現象を観測する発光観測手段3,3aとによりビーム検出器1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクロトロン放射光設備等で発生する高エネルギー放射光等のビームをビーム照射部に照射することにより、このビーム光の位置・強度等の検出を行うビーム検出部材およびそれを用いたビーム検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、材料、エレクトロニクス分野等の研究開発において、ビーム状の紫外線からX線まで発生させるシンクトロン放射光設備等が広く活用されてきている。このようなビーム光は肉眼では見えないため、このようなビーム位置を正確に測定することは容易ではなく、光学系の調整が困難である。
【0003】
更に、放射光のエネルギーは高いので、誤って非照射対象物や実験者に高エネルギー光を照射したり、また、実験者が気づかない間に間接的に多量のX線が照射されたりする危険性がある。従って、放射ビーム光の位置を短時間で、且つ容易に測定するビーム検出器やビーム検出方法が必要とされている。一般に、電子ビームの位置等を観察する蛍光板は、放射光のエネルギーが大きく蛍光板自体が損傷を受けるので、本目的には使用不可能である。
【0004】
次に、従来例に係るビーム検出器またはビーム検出方法について、図8〜10を参照しながら以下説明する。図8は従来例に係るX線ビームモニター装置の一実施例を示す概略構成図、図9は従来例に係る放射光位置モニターの一具体例を概略説明するための俯瞰図および断面図、図10は従来例に係るビームモニターの実施例の校正を示す斜視図である。
【0005】
先ず、図8において、本従来例に係る透過型X線ビームモニター装置は、モニター板12の表面半分と裏面半分に光電膜14,15を形成した構造を有し、X線ビーム11が照射されると光電膜14,15から電子(光電子)が放出され、各面から放出された電子量を2次電子倍増管16a,16bで測定する。表面の光電膜14と裏面の光電膜15は重複しない位置に配置されているので、中心位置からのビーム11の一次元的なずれを測定することが出来るものである(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、前記従来例に係るX線ビームモニターはビームの1次元的な中心位置(例えばx座標)は推定できるが、2次元的な位置(y座標)は決定できない。y座標を決定するには、第1のビームモニターに直行するように第2のビームモニターを設置する必要がある。
【0007】
ところが、そのように校正すると、放射光ビームが前記モニターを2回通過するのでビームの吸収や散乱が生じ、ビームの質が低下するという問題点が生じる。また、放出電子による信号が交錯して、正確なビーム中心位置が決められないという問題も生じる。
【0008】
次に、図9において、本従来例に係る放射光位置モニターは、中心に穿孔22のある円盤状の気相合成ダイヤモンド板21を用い、その周辺に4分割された扇状の金属電極23,23’を、ダイヤモンド板21の両面に配置する。前記金属電極23,23’に放射光が照射されると光電子が放出されるので、光電子電流をモニターすることにより放射光ビームの中心位置を推定する。本従来例に係る放射光位置モニターでは、4分割された金属電極23,23’が配置されているので、放射光ビームの中心位置の(x,y)座標が分かる(特許文献2参照)。
【0009】
前記放射光位置モニターは、ビームの中心位置を検出するために、ダイヤモンド板21を挟んで対向する電極23および23’から発生する光電子による電流からビーム中心位置を推定するものである。しかしながら、このような推定はビーム強度の断面分布が真円形であれば妥当であるが、一般にビーム強度の断面分布は歪んだ楕円形であったり、2つの円が重複した形状であったりすることに加え、断面分布が時間的に変化する。
【0010】
従って、前記従来例で提示された放射光位置モニターは、ビーム位置を正確に推定出来ないばかりか、断面分布の変化を捉えることも出来ないという問題点がある。更に、本従来例に係るモニター方式では、放射光ビームが放射光位置モニターの中心の穿孔22から大きくずれた場合には、全く機能しない。即ち、前記放射光ビームの位置を予め知らなければ、放射光ビーム位置のモニターが出来ないという自己矛盾を抱えている。
【0011】
また、他の従来例に係る放射光位置モニターは、構造的には図9と類似しているため、本図9を用いて説明すると、電子放出ではなくダイヤモンド板21の両面に配置された電極間23,23’の電流(光電流)を測定することにより、放射光ビーム中心位置を推定する方式である。前記放射光ビームはある程度の広がりを持つが、前記ビーム周辺部の比較的強度の弱いビーム光が電極23および23’で挟まれたダイヤモンド板21を通過する時に、前記ダイヤモンド中に多数の電子・正孔対を生成し、生成した電子及び正孔が各々、正、負電極23,23’に移動し、電極間に電流が流れる(特許文献3参照)。
【0012】
前記従来例に係る放射光位置モニターは、前記図9において、ダイヤモンド板21を挟んで対向する電極23および23’間に流れる光電流を測定するものである。しかし、一般に、気相合成で作製されたダイヤモンド板の膜質は不均一であるので、ビームが位置モニターに対称に照射されていたとしても、各電極からの出力が等しくならず、この結果ビーム位置が正確に推定出来ないという問題点がある。更に、上記特許文献2の場合と同じく、放射光ビームが放射光位置モニターの中心から大きくずれた場合には、全く機能しない。
【0013】
更に、図10において、他の従来例として提案されているビームモニターによれば、端面同士を平行に離間して配置された両面に電極33を有する1対のダイヤモンド板31a,31bからなる第1ユニット37と、測定対象のビームが進行する方向に前記第1ユニット37から離間して配置された第2ユニット38とを有している。
【0014】
そして同時に、このビームモニターの第2ユニット38には、端面同士を平行に離間して配置された両面に電極33を有する1対のダイヤモンド板31c,31dが、測定対象のビーム36の進行方向に1または複数組配置されていて、前記第1ユニット37および第2ユニット38を構成するダイヤモンド板31a,31b,31c,31dのうち、1または複数対のダイヤモンド板はその相互間隔41a,41bを調整可能とするものである(特許文献4参照)。
【0015】
【特許文献1】特開平7-318657号公報
【特許文献2】特開平8-279624号公報
【特許文献3】特開平8-297166号公報
【特許文献4】特開平11-174199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記ビームモニターは、ダイヤモンド板31a,31b,31c,31dにボロンをドーピングして構成されている。しかしながら、この従来例に係るビームモニターの測定原理は、前記ダイヤモンド板に発生する電流を測定するものであり、低抵抗率のダイヤモンド板を得るために単にボロンをドーピングしているに過ぎない。従って、前記従来例に係る特許文献2において提案されている放射光位置モニターと同様の問題点を有している。
【0017】
即ち、ビーム位置を正確に推定出来ないばかりか、断面分布の変化を捉えることも出来ないという問題点がある。また、放射光ビームが放射光位置モニターの中心から大きくずれた場合には、全く機能しない。即ち、前記放射光ビームの位置を予め知らなければ、放射光ビーム位置のモニターが出来ないという自己矛盾を抱えているのである。
【0018】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであって、高エネルギーから低エネルギーに至るまでの放射光ビームや、軟X線ビーム等の位置及びその強度分布、更には、これらの時間変化を高精度で長期間安定して検出することが可能で、従来の検出装置よりも低コストで製造し得るビーム検出部材およびそれを用いたビーム検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明のビーム検出部材が採用した手段は、ビームの位置や強度を検出するためのビーム検出部材におけるビーム照射部がダイヤモンド膜を用いて構成され、このダイヤモンド膜が、少なくとも珪素(Si)、窒素(N)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、リン(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)から選ばれた一種または二種以上の元素(X)を含む多結晶ダイヤモンド(C)膜からなる。
【0020】
同時に、前記ビーム検出部材は、これら上述の元素から選ばれた一種または二種以上の元素Xを、X/C=0.1〜1000ppm含ませることによって、前記多結晶ダイヤモンド膜にビームが照射されると発光する発光機能を付与されたことを特徴とするものである。
【0021】
前記ビームが放射光ビームであって、前記ダイヤモンド膜が、エネルギー5〜300keVのビーム照射領域で発光する多結晶ダイヤモンド膜を用いることも特徴である。
【0022】
前記ダイヤモンド膜の少なくとも一部が基板で保持されるとともに、前記多結晶ダイヤモンド膜の膜厚が、0.1μm〜3mmであることも特徴である。
【0023】
前記多結晶ダイヤモンド膜をなすダイヤモンド粒子の平均粒子径が、0.1μm〜1mmであることも特徴である。
【0024】
前記発光波長が150〜800nmであることも特徴である。
【0025】
前記発光が、波長730〜760nmの領域にピーク強度を示すことも特徴である。
【0026】
前記発光が、波長500〜600nmの領域にピーク強度を示すことも特徴である。
【0027】
前記多結晶ダイヤモンド膜が、表面平坦度30〜100nmであることも特徴である。
【0028】
前記ビーム検出部材を複数個組み合わせ、モジュール構成をなしたことも特徴である。
【0029】
前記多結晶ダイヤモンド膜が自立膜構造を形成し、この自立膜部分がビームを照射されるビーム検出部材であることも特徴である。
【0030】
前記多結晶ダイヤモンド膜が、前記ビーム照射部とこのビーム照射部より厚さが厚い厚膜部とからなることも特徴である。
【0031】
前記基板がシリコン基板である、もしくは基板と多結晶ダイヤモンド膜との間に二酸化珪素の薄膜を介在させたものであることも特徴である。
【0032】
本発明のビーム検出器が採用した手段は、ビームの位置や強度を検出するためのビーム検出部材を備えたビーム検出器において、本発明のビーム検出部材と前記発光現象を観測する発光観測手段とを備え、この発光観測手段によって観測された発光状態により、前記ビームの位置や強度を検出することを特徴とするものである。
【0033】
前記ビームが放射光ビームであって、前記ダイヤモンド膜がエネルギー5〜300keVのビーム照射領域で発光する多結晶ダイヤモンド膜を用い、前記発光観測手段がカメラであることも特徴である。
【発明の効果】
【0034】
本発明のビーム検出部材は、少なくともビーム位置や強度を検出するためのビーム照射部が多結晶ダイヤモンド膜を用いて構成され、この多結晶ダイヤモンド膜が、少なくとも珪素(Si)、窒素(N)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、リン(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)から選ばれた一種または二種以上の元素(X)を、X/C=0.1〜1000ppm含む多結晶ダイヤモンド(C)膜からなることによって、このダイヤモンド膜に前記ビームが照射されると発光する発光機能を付与されので、ビーム照射スポットから十分な強度を有する可視光や紫外光等の単色光が得られる。
【0035】
ダイヤモンド膜の内部で励起された可視光は、多結晶ダイヤモンド膜の内部に存在する微細な結晶粒界によって散乱されながら膜外部に出て来る。従って、厳密に言えば、真のビーム径よりもμmオーダーの広がりを持って検出される。しかし、実用上は、μmオーダーの広がりは問題にならない。これに対して、ダイヤモンド膜を単結晶で構成すると、膜内に粒界が存在しないので内部散乱は起こらないが、励起された可視光は、膜表面で反射されて試料の端部から膜外部に取り出される。結果的に、ビームスポットは観察されず、ビーム位置検出には用をなさない。
【0036】
また、本発明のビーム検出部材は、前記ビームが放射光ビームであって、前記ダイヤモンド膜がエネルギー5〜300keVのビーム照射領域で発光する多結晶ダイヤモンド膜を用い、前記発光波長が150〜800nmであるので、発光が可視光領域にあれば放射線ビームの照射スポットは肉眼で判別され、前記ビームの照射位置を肉眼で特定することができる。
【0037】
更に、本発明のビーム検出部材は、前記ダイヤモンド膜の少なくとも一部が基板で保持されるとともに、前記多結晶ダイヤモンド膜の膜厚が0.1μm〜3mmであり、また、ダイヤモンド粒子の平均粒子径が0.1μm〜1mmであるので、適正サイズの発光領域および適切な発光輝度と高品質の透過放射光ビームが得られる。
【0038】
また更に、本発明のビーム検出部材は、前記発光が波長730〜760nmまたは500〜600nmの領域にピーク強度を示すので、各々多結晶ダイヤモンド膜の中に含まれた珪素(Si)およびホウ素(B)に関連する発光であるが、特に発光強度が顕著で、容易に発光を検出してビーム位置を特定できる。
【0039】
本発明のビーム検出部材は、前記多結晶ダイヤモンド膜が表面平坦度30〜100nmであるので、未研磨の前記ダイヤモンド膜と比較して放射光ビームによる発光強度が2〜5倍に向上する。
【0040】
また、本発明のビーム検出部材は、前記ビーム検出部材を複数個組み合わせモジュール構成をなしたので、複数個の照射光ビームの位置や強度を同時に検出、観測することができる。
【0041】
更に、本発明のビーム検出部材は、前記多結晶ダイヤモンド膜が自立膜構造を有し、この自立膜部分がビームを照射されるビーム照射部であるので、大電流の電子線に対しても破損することが無い。
【0042】
また更に、本発明のビーム検出部材は、前記多結晶ダイヤモンド膜が、前記ビーム照射部とこのビーム照射部よりも厚さが厚い厚膜部とからなるので、ビーム照射部の温度上昇を抑制することが出来る。
【0043】
本発明のビーム検出部材は、前記基板がシリコン基板である、もしくは基板と多結晶ダイヤモンド膜との間に二酸化珪素の薄膜を介在させたものであるので、前記基板の平坦性と放射光ビームに対する垂直度の確保が容易となる。
【0044】
一方、本発明のビーム検出器は、ビームの位置や強度を検出するためのビーム検出部材を備えたビーム検出器において、ビーム検出部材と前記発光現象を観測する発光観測手段とを備えているので、前記発光が非可視光領域であっても、この発光観測手段によって観測された発光状態により、前記ビームの位置や強度を検出できるのである。
【0045】
そして、本発明のビーム検出器は、前記ビームが放射光ビームであって、前記ダイヤモンド膜がエネルギー5〜300keVのビーム照射領域で発光する多結晶ダイヤモンド膜を用い、前記発光観測手段がカメラであるので、軟X線から紫外線領域に対応する広波長領域と広エネルギー範囲の放射光ビームをモニターすることができるとともに、前記カメラを用いて鮮明なスポット像を撮影できる。また、前記カメラにビデオカメラ等を用いることにより、放射光ビームの位置および強度分布リアルタイムで測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
先ず、本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材およびそれを用いたビーム検出器について、添付図1〜3を参照しながら以下に説明する。図1は本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材の表面を模式的に示した模式的斜視図、図2は本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材の裏面を模式的に示した模式的斜視図である。また、添付図3は本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材を用いたビーム検出器の全体構成を模式的に示した模式的断面図である。
【0047】
本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材2は、添付図1および2に示す通り、基板5の裏面に多結晶ダイヤモンド(C)膜4が形成され、前記基板5はその周縁部のみをリング状の枠として構成されている。そして、前記多結晶ダイヤモンド膜4には、例えば珪素(Si)が、原子比でSi/C=0.1〜1000ppmドープされている。
【0048】
前記多結晶ダイヤモンド膜4にSi原子を取り込むことによって、添付図3を用いて後述するように、放射光ビーム7を照射させた際、照射スポット7aから十分な強度を有する赤色の単色光が発光8されるのである。前記原子比Si/Cが0.1ppm未満では発光強度が弱過ぎ、またSi/Cが1000ppmを越えるとダイヤモンド膜4の結晶性が低下し、発光強度が低下する。更に具体的には、前記原子比Si/Cは、1〜100ppmであるのが好ましく、5〜50ppmであるのがより好ましい。
【0049】
前記多結晶ダイヤモンド膜4にドーピングさせる他の好ましい元素を列挙すれば、少なくとも珪素(Si)原子、窒素(N)原子、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、リン(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)から選ばれた一種または二種以上の元素(X)である。
【0050】
そして、このような元素Xを、原子比X/C=0.1〜1000ppmドープさせることによって、前記多結晶ダイヤモンド膜4にビームが照射されると、放射光ビーム照射スポット7aから十分な強度を有する可視光や紫外光等が得られるのである。これら不純物の総濃度(X/C)の上下限および望ましい範囲は上記Siの場合と同様である。
【0051】
そして、前記ビーム検出部材2は、放射光ビーム7が照射されると通過するビーム照射部6の領域の基板は除去されており、多結晶ダイヤモンド膜4が、図3に示す如く自立構造をなしている。このような構造は、例えば基板5としてシリコンを用い、除去すべき領域を残して耐酸性材料でシリコン基板をマスクし、これをフッ硝酸溶液でエッチングすることにより作成することができる。
【0052】
前記多結晶ダイヤモンド膜4の膜厚は、例えば、ビーム照射部6では薄く5〜30μmに、その他の基板5上では厚く70〜100μmとするのが好ましい。このような多結晶ダイヤモンド膜4の膜厚分布は、ダイヤモンド膜4の選択成長技術を応用して実現できる。前述の如く、前記ダイヤモンド膜4の厚さをビーム照射部6では薄く、その他は厚くする理由は、ビーム照射部6の温度上昇を抑制するためである。
【0053】
本発明に係るビーム検出部材2は、図1および図2に示したような単純な構成であるので、従来例に係る特許文献1〜4で提示された複雑な製作プロセスを必要とするビーム検出部材と比べて、製造コストは大幅に低減できる。
【0054】
そして、本発明の実施の形態1に係る放射光検出器1は、図3に示す如く、上述したような本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材2と、放射光ビーム7の照射側に配置された発光観測手段3とを備えている。前記ビーム検出部材2のビーム照射部6を構成する多結晶ダイヤモンド膜4に放射光ビーム7を照射し、前記多結晶ダイヤモンド膜4から発光8させて、この発光8を発光観測手段3により観測することにより、前記ビーム光7の照射スポット7aや強度の検出を行うのである。
【0055】
前記発光現象は、ビーム照射スポット7aから全方位に均等に発光するので、例えば、前記ビーム検出部材2の裏側への発光8aを発光観察手段3aにより観察することもできる。前記発光観測手段3は、通常の光学カメラやデジタルカメラ、あるいは紫外線CCDカメラ、ビデオカメラ等を用いることができる。
【0056】
前記多結晶ダイヤモンド膜4の膜厚は、入射する放射光ビーム7のエネルギーやエネルギー密度により最適値が決まる。一般には、多結晶ダイヤモンド膜4の膜厚は0.1μm〜3mmが適切である。前記膜厚が0.1μm未満であれば、発光領域が小さすぎるので発光が微弱となる。
【0057】
逆に、膜厚が3mm以上であると、多結晶ダイヤモンド膜4の合成に長時間かかり、製造コストが増大するとともに、透過した放射光ビーム7が多結晶ダイヤモンド膜4により吸収・散乱され、透過した放射光ビーム7の質が低下する。前記多結晶ダイヤモンド膜4の膜厚は適用条件にもよるが、3〜20μmがより好ましい。
【0058】
多結晶ダイヤモンド膜4の粒径については発光輝度と相関があり、平均粒子径が0.1μm〜1mmであるのが好ましい。前記平均粒径が0.1μm未満であると、多結晶ダイヤモンド膜4中に非ダイヤモンド成分が増え、これによる結晶欠陥密度も増大するので、発光輝度が低下する。
【0059】
逆に、平均粒径が1mmを越える大きさとするには長時間の成膜が必要となり、製造コストが増大する。また、透過した放射光ビーム7が大粒径の多結晶ダイヤモンド膜により吸収・散乱され、透過した放射光ビーム7の質が低下する。多結晶ダイヤモンド膜4の合成時間を考慮すると、ダイヤモンドの平均粒径は1〜10μmがより好ましい。
【0060】
本発明に係る多結晶ダイヤモンド膜4にエネルギーが5〜300keVの放射光ビーム7を照射すると、発光波長が150〜800nmの発光8を多結晶ダイヤモンド膜4から発生させることができる。前記発光8が可視光領域にあれば、放射光ビーム7の照射スポット7aは肉眼で判別でき、前記発光8が可視光より短波長領域にあれば、発光観察手段3として紫外線CCDカメラを用いて照射スポット7aを特定することができる。
【0061】
更に、前記多結晶ダイヤモンド膜4は、表面平坦度が30〜100nmであるのが好ましい。前記多結晶ダイヤモンド膜4の表面平坦度を30〜100nmとすれば、放射光ビーム7による発光強度が2〜5倍に向上するが、前記表面平坦度を30nm未満とするには、特別に時間をかけて多結晶ダイヤモンド膜を成膜し、かつ、特別に時間をかけて膜表面を研磨平坦化するプロセスを要するためコストがかかり過ぎ、一方、前記表面平坦度が100nmを越えると、膜表面での光の散乱によって光の取り出し効率が低下してしまうからである。
【0062】
多結晶ダイヤモンド膜4の表面平坦度は、このダイヤモンド膜4表面を、機械的および/または化学機械的に研磨加工して向上させることが出来る。このような研磨加工方法としては、水にアルミナやシリカ、チタニア等の砥粒を分散させた研磨液に浸漬し、ダイヤモンドを擦過しながらその表面を研磨する化学機械研磨方法や、酸素分圧と内部温度が制御可能な真空室内において、鉄、ニッケル、コバルト、銅の酸化金属体をダイヤモンド表層部の炭素によって還元しつつダイヤモンドを研磨する方法等がある。また、前記表面平坦度は、触針段差計やレーザ光の干渉・位相差を利用した顕微鏡によって簡単に測定できる。
【0063】
次に、本発明の実施の形態2に係るビーム検出部材を、添付図4を参照しながら以下説明する。図4は、本発明の実施の形態2に係るビーム検出部材の表面を模式的に示した模式的平面図である。尚、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、ビーム検出部材の全体構成が、図1に示したような構成でない所に相違があり、その他は同構成であるから、上記実施の形態1と同一のものに同一符号を付して、その相違する点について以下説明する。
【0064】
即ち、本発明の実施の形態2に係るビーム検出部材2aは、図4に示す如く、モジュール検出部材単体2を複数個平面的に接続し、モジュール構成をなして形成されたものである。このような構成とすることにより、ビームの検出範囲を拡大することが出来る。また、このようなモジュール化に当たっては、必ずしも平面的に接続する必要はなく、用途に応じて曲面を形成するように接続しても良い。
【0065】
次に、本発明に係るビーム検出器1からの発光スペクトルを観測した例を、以下図5および図6を参照しながら説明する。図5は本発明に係り、多結晶ダイヤモンド膜に珪素(Si)をドープしたビーム検出部材を備えたビーム検出器からの発光スペクトルの観測例、図6は本発明に係り、多結晶ダイヤモンド膜にホウ素(B)をドープしたビーム検出部材を備えたビーム検出器からの発光スペクトルの観測例を夫々示す図である。
【0066】
先ず、図5に示した多結晶ダイヤモンド膜4に珪素(Si)をドープした例では、放射光ビーム7の照射により、波長738±0.5nm(半値幅は6±0.5nm)において強い発光バンドが見られた。ビデオカメラでは鮮やかな赤色のスポットが撮影されたが、これは、発光スペクトル幅が狭く、発光強度が十分得られるようにSiの原子比Si/Cを選択した効果である。また、図6の多結晶ダイヤモンド膜4にホウ素(B)をドープした例では、放射光ビーム7の照射により、波長540±10nmにおいて強い発光バンドが見られた。
【0067】
この様に、前記発光が、波長730〜760nmまたは500〜600nmの領域にピーク強度を示すのが好ましい。前記発光8が波長730〜760nmまたは500〜600nmの領域であれば、各々多結晶ダイヤモンド膜の中に含まれた珪素(Si)またはホウ素(B)に関連する発光であり、特に発光強度が顕著で容易に発光を検出してビーム位置を特定できるからである。
【0068】
本発明に係るビーム検出部材2は、熱伝導率の高いダイヤモンドを用いて構成されているため、放射光ビームスポット7aの局所的過熱が無い。また、ダイヤモンドは原子番号の小さい(即ち電子数の少ない)炭素で構成されているため、放射線7との相互作用が小さく、殆ど吸収が無いことも特徴である。従って、本発明に係るビーム検出部材2を試料の放射光ビーム7入射側と透過側に設置して、放射光ビーム7の位置と強度変化を測定することも可能である。
【0069】
尚、放射光透過部6の多結晶ダイヤモンド膜4の表面平坦性や平行度(放射光ビームに対する垂直度)が重要な要素となる場合がある。そのため、多結晶ダイヤモンド膜4の成長表面を研磨して平坦化したり、基板として表面の平坦なシリコン・ウエハを用いて、表面平坦性を確保したりすることが出来る。
【0070】
また、放射光ビーム7に対する垂直度を確保するために、1)基板5として厚さ1cm程度のシリコン板を用いて、多結晶ダイヤモンド膜4の反りを防ぐ、2)予め基板5の一部に二酸化珪素をコーティングしておいて、前記ダイヤモンド膜4と基板5との熱膨張率の差を緩和する、といった工夫も有効である。
【0071】
本発明に係るビーム検知部2は、放射線に耐久性のあるダイヤモンドを用いて構成されているため、放射光の他にも、電子線、加速放射線粒子等の高エネルギービームの測定にも適用することができる。特に、多結晶ダイヤモンド膜2を、自立膜構造とすることにより、大電流の電子線に対しても破損のない検出部として使用できる。
【0072】
尚、本発明に係るビーム検出部材2の典型的な実施形態として図1,2に示したが、本発明においては、原則的に、多結晶ダイヤモンド膜4に放射光ビーム7が照射され、発光(可視光や紫外光)8現象が起これば良いので、必ずしも多結晶ダイヤモンド膜2を自立膜構造とする必要は無い。また、基板5は、シリコン基板以外に、高融点金属やセラミックスを用いることも出来るし、シリコン基板等の基板と多結晶ダイヤモンド膜との間に二酸化珪素の薄膜を介在させたものでも良い。このような変形例は、本発明の範囲である。
【0073】
また、高強度の放射光ビーム7に対して使用する際には、ビーム照射部6以外の多結晶ダイヤモンド膜4および基板5に、熱伝導率が大きく加工性に優れたアルミニウム等の金属膜を被覆し、この部分を水冷治具と接合して、ビーム照射部6の多結晶ダイヤモンド膜4の温度上昇を防ぐことも出来る。
【実施例】
【0074】
<実施例1>
以下のプロセスにより、図1,2に示すビーム検出部材2を作製した。先ず、1インチ径のシリコン基板を、数10μm径のダイヤモンド粉末のエタノール混濁液中で超音波を印加することにより、核発生促進処理を行った。基板に付着しているダイヤモンド粉末を洗い流した後、シリコン基板をマイクロ波プラズマCVD装置内に設置し、ダイヤモンド膜を成膜した。原料ガスとして、1体積%のメタンと99体積%の水素の混合ガスを用いた。ガス圧は45Torr、基板温度は800℃に設定した。
【0075】
前記多結晶ダイヤモンド膜中にSiを混入させるために、原料ガスに更に水素希釈したシラン(SiH)乃至はジシラン(Si)を添加するか、シリコン基板の横にシリコン・ウエハ片を配置した。この結果、8〜30時間の成膜で厚さ10〜40μmの多結晶ダイヤモンド膜を得た。膜中には5〜50ppmのSi原子が取り込まれていることを確認した。また、この膜のダイヤモンド粒子の平均粒子径は約20μmであった。
【0076】
次に、多結晶ダイヤモンド膜を約200℃のクロム酸硫酸飽和溶液中で表面洗浄し、次いで100℃の王水中で表面洗浄した。その後、シリコン基板の裏面をフッ硝酸に溶け難いポリイミド膜で保護し、フッ硝酸に漬け、放射光ビームが透過する領域のシリコンをエッチング除去した。
【0077】
作製したビーム検出部材を保持台に設置し、発光観測手段としてカラーCCDカメラを用いてビーム検出器を構成した。前記ビーム照射部に、エネルギーが5〜300keVの放射光ビームを照射したところ、放射光ビームの照射スポットの多結晶ダイヤモンド膜領域から、明瞭な赤色の発光が観察された。放射光の加速電圧・ビーム電流を変化させて測定を行ったが、放射光のエネルギーに比例して、照射スポットの輝度が変化することを確認した。また、照射スポットを拡大して観察したところ、時間とともにビーム断面形状が複雑に変化することが分かった。
【0078】
<実施例2>
実施例1と同様のプロセスで、ボロンをドープしたダイヤモンドを作成した。多結晶ダイヤモンド膜中にボロンをドープするために、原料ガスに水素希釈したジボラン(B)やトリメチルボロン(B(CH)を添加したり、シリコン基板の横にホウ酸(B)片を配置した。この結果、20〜75時間の成膜によって、厚さ15〜48μmの多結晶ダイヤモンド膜を得た。この膜中には、1〜100ppmのボロン原子が取り込まれていた。
【0079】
このようなボロンドープダイヤモンド試料から、実施例1と同様の方法で、シリコン基板の一部をエッチング処理して、ビーム検出部材とした。このようなビーム検出部材に、エネルギー15keVのX線ビームを照射したところ、照射スポットの多結晶ダイヤモンド膜領域から、青緑色の発光が観察された。また、照射するX線ビームの線量を変化させて観察したところ、図7に示す如く、線量に比例して照射スポットの輝度が変化した。尚、図7中のSiドープは、実施例1で作成した試料の発光強度の変化を示す。
【0080】
<実施例3>
実施例1と同様な方法で、ビーム検出部材を構成する多結晶ダイヤモンド膜中に、Si,N,Li,Be,B,P,Sを混入した多結晶ダイヤモンド膜を合成した。多結晶ダイヤモンド膜中にこれら元素が取り込まれた場合には、放射光のエネルギーにより照射スポットから可視光〜紫外光が発光されることを確認した。但し、発光スペクトルは、表1に示す如く、添加元素の種類と添加濃度によって大きく異なった。
【0081】
【表1】

【0082】
また、元素を複数添加すると、添加された元素の夫々の発光波長で発光することを確認した。元素を複数種類添加する場合は、各元素夫々について1〜100ppm、更には5〜50ppm添加することが好ましい。
【0083】
<実施例4>
上記実施例1〜3で作成したビーム検出用の多結晶ダイヤモンド膜表面の研磨は、アルミナ砥粒分散研磨液を用いた化学機械研磨方法で実施した。未研磨(as-grown)のダイヤモンド膜表面には、最大で3μmの高低差(peak-to-valley)があるが、このように研磨加工した後の表面平坦度は30〜100μmであった。
【0084】
このような表面平坦性の高いダイヤモンド膜から、実施例1〜3と同様な方法で、基板の一部をエッチング除去してビーム検出部材とした。これらのビーム検出部材に、実施例1〜3と同一条件でX線ビームを照射して発光強度を測定したところ、前記実施例1〜3と比較して、夫々2〜5倍の輝度が得られた。
【0085】
<実施例5>
基板として表面が(001)面であるシリコン基板(1インチ径)を使用した。まず、シリコン基板を基板温度約800℃で5体積%メタンと95体積%水素の混合プラズマに1時間曝して、シリコン基板表面を炭化した。次いで、前記基板に−200Vのバイアス電圧を20分間印加して、基板全面にダイヤモンド核を形成した。
【0086】
その後、前記バイアス電圧の印加を止め、再び、3体積%メタンと97体積%水素の混合ガスを使用して、マイクロ波プラズマCVD法によりダイヤモンド表面に6時間成膜した。前記ガス圧は45Torr、基板温度は800℃に設定した。この結果、シリコン基板全面に、膜厚5μmのダイヤモンド膜が得られた。
【0087】
次に、前記基板中心部に直径15mm、厚さ0.2mmの石英円板を置き、再び反応容器内に収納して、同じくメタン/水素混合ガスで80時間のダイヤモンド合成を行った。その結果、石英円板で覆われていない基板周縁部のみに、膜厚70μmのダイヤモンド膜を積層した。
【0088】
その後、石英円板を除去し、シリコン基板側の15μm径領域をフッ硝酸によりエッチング除去し、図1,2に示したようなビーム検出部材を作製した。周辺部の多結晶ダイヤモンド膜の膜厚を増やした理由は、ダイヤモンドの高熱伝導率性を利用して、放射光ビーム照射部の多結晶ダイヤモンド膜の温度上昇を抑制するためである。
【0089】
作製した前記ビーム検出部材を保持台に設置し、発光観測手段としてカラーCCDカメラを用いてビーム検出器を構成した。前記ビーム照射部にエネルギーが5〜300keVの放射光を照射したところ、放射光ビーム照射スポットから赤色の発光が観察された。加速電圧・ビーム電流を増加させて測定すると、前記ビーム照射部の破損もなく、加速電圧・ビーム電流に比例した発光強度が観測された。
【0090】
本実施例5では、意図的に不純物元素を添加しなかったが、2次イオン質量分析(SIMS)によれば、多結晶ダイヤモンド膜中にSiが5〜50ppm検出された。これは、上記プロセスにおいて、シリコン基板が水素プラズマによりエッチングされ、多結晶ダイヤモンド膜に混入したものと考えられる。
【0091】
<比較例1>
シリコン基板上に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてダイヤモンド膜を合成した。このダイヤモンド中のシリコン元素量は0.07ppmであった。これは、基板のシリコン原子が、前記ダイヤモンド膜合成中に混入したものと考えられる。このようにして作成したビーム検出部材のビーム照射部に、波長0.037〜0.24nmの放射光ビームを照射したが、発光は観察されなかった。他の元素についても同様に、0.1ppm未満の元素をダイヤモンド膜中に添加してビーム検出部材を作成しても、発光は見られなかった。
【0092】
<比較例2>
原料ガス中にジシラン(Si)を添加して、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてダイヤモンド膜を合成した。このダイヤモンド中のシリコン元素量は約1200ppmであった。これは、基板のシリコン原子が、前記ダイヤモンド膜合成中に混入したものと考えられる。
【0093】
このようにして合成されたダイヤモンド膜は、粒径が0.1μm未満であった。作成されたビーム検出部材のビーム照射部に、エネルギーが5〜300keVの放射光ビームを照射したが、発光は観察されなかった。他の元素についても同様に、1000ppmを越える元素をダイヤモンド膜中に添加したビーム検出部材を作成しても、発光は認められなかった。
【0094】
本発明に係るビーム検出器は、ビーム検出部材を構成する多結晶ダイヤモンド膜中に前述した原子を取り込んだ結果、各原子乃至は各原子の取り込みによる結晶欠陥が固有の電子エネルギー準位を形成し、放射光ビーム照射により電子が価電子帯から高エネルギー状態に励起され、種々のエネルギー緩和過程を経て、特定又は複数の電子エネルギー準位から価電子帯に遷移する際の発光を観測する方式である。
【0095】
不純物元素の含まれたダイヤモンドが、電子エネルギー励起により特定のスペクトルを有する発光を生じることは科学的には知られていたが、実際に放射光ビームを照射して、可視光や紫外光を発光させ、更に、これを放射光ビームの位置・強度検出部や検出器に用いられた従来例は見当たらない。
【0096】
本発明に係るビーム検出部材は、耐放射線性に優れたダイヤモンド膜とシリコン基板等の基板で構成されているため、他の材料のように短時間で性能が劣化することがない。また、多結晶ダイヤモンド膜中に、例えばSi原子を制御してドープすることにより、放射光ビーム照射スポットから十分な強度を有する赤色の単色光の発光が観察され、通常のビデオカメラ等の発光観測手段を用いてビーム検出器を構成し、鮮明なスポット像が撮影できる。
【0097】
従って、本発明に係るビーム検出部材およびこれを用いたビーム検出器は、放射光ビームの位置及び強度分布をリアルタイムで測定できる。また、前記放射光ビームは常時モニタ可能であるので、放射光ビームの光学系を遠隔操作により微調整することが可能であり、更には、誤って高エネルギーの放射光ビームが非照射体に照射されることによる事故も未然に防止できる。また、本発明に係る多結晶ダイヤモンド膜からの発光が可視光でなく紫外光である場合でも、発光観測手段として紫外線CCDカメラを用いて、放射光ビームの位置や強度分布を測定できる。
【0098】
本発明に係るビーム検出器は、前述したように、放射光ビームを直接多結晶ダイヤモンド膜に照射し、多結晶ダイヤモンド膜からの発光位置とその強度分布を発光観測手段によりモニタすることによって、ビーム位置と強度分布を決定することが出来る。前記多結晶ダイヤモンド膜の面積には原理的に制限が無いので、放射光ビームが移動する可能性のある数cm〜数10cm径の範囲をカバーすることは容易である。従って、放射光ビーム位置が標準位置より大きく外れても、ビーム位置が分かる。
【0099】
また、前記多結晶ダイヤモンド膜の放射光ビーム照射スポットから可視光を発光させることも可能であるので、複雑な電子信号処理をすることなく、ビーム位置、強度及び強度分布を直接的に観測できることが特徴である。本発明にかかるビーム検出器は、このような方式であるので、電子信号の交錯・ノイズ等といった問題は全く無い。また、直接的にビーム断面を観察しているので、その断面形状が真円でなくとも、また時間的に変化しても検出や観測が可能である。
【0100】
本発明にかかるビーム検出部材は、軟X線〜紫外線に対応する波長0.1〜10nmの放射光ビームの照射によって多結晶ダイヤモンドが発光することだけが必要であるので、肉眼やカメラ等の発光観測手段により広波長領域と広エネルギー範囲の放射光ビームをモニターすることが出来る。更に、多結晶ダイヤモンド膜として、厚さ数μm〜数10μmの薄い材料を使用できるので、本発明による検出器により、放射光ビームが弱められたり、散乱されたりすることは無い。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材の表面を模式的に示した模式的斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材の裏面を模式的に示した模式的斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るビーム検出部材を用いたビーム検出器の全体構成を模式的に示した模式的断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るビーム検出部材の表面を模式的に示した模式的平面図である。
【図5】本発明に係り、多結晶ダイヤモンド膜に珪素(Si)をドープしたビーム検出部材を備えたビーム検出器からの発光スペクトルの観測例を示す図である。
【図6】本発明に係り、多結晶ダイヤモンド膜にホウ素(B)をドープしたビーム検出部材を備えたビーム検出器からの発光スペクトルの観測例を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係るビーム検出部材におけるX線線量に対する照射スポットの強度を示す図である。
【図8】従来例に係るX線ビームモニター装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図9】従来例に係る放射光位置モニターの一具体例を概略説明するための俯瞰図および断面図である。
【図10】従来例に係るビームモニターの実施例の校正を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0102】
1…ビーム検出器, 2,20…ビーム検出部材, 3,3a…発光観測手段,
4…多結晶ダイヤモンド膜, 5…基板, 6…ビーム照射部,
7…放射光ビーム,7a…ビーム照射スポット,
8,8a…発光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームの位置や強度を検出するためのビーム検出部材であって、ビームが照射されるビーム照射部が、少なくとも珪素(Si)、窒素(N)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、リン(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)から選ばれた一種または二種以上の元素(X)を、X/C=0.1〜1000ppm含む多結晶ダイヤモンド(C)膜からなり、この多結晶ダイヤモンド膜に前記ビームが照射されると発光する発光機能を有することを特徴とするビーム検出部材。
【請求項2】
前記ビームが放射光ビームであって、前記ダイヤモンド膜がエネルギー5〜300keVのビーム照射領域で発光する多結晶ダイヤモンド膜を用いることを特徴とする請求項1に記載のビーム検出部材。
【請求項3】
前記ダイヤモンド膜の少なくとも一部が基板で保持されるとともに、前記多結晶ダイヤモンド膜の膜厚が0.1μm〜3mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のビーム検出部材。
【請求項4】
前記多結晶ダイヤモンド膜をなすダイヤモンド粒子の平均粒子径が0.1μm〜1mmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項5】
前記発光波長が150〜800nmであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項6】
前記発光が、波長730〜760nmの領域にピーク強度を示すことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項7】
前記発光が、波長500〜600nmの領域にピーク強度を示すことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項8】
前記多結晶ダイヤモンド膜が表面平坦度30〜100nmであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項9】
前記ビーム検出部材を複数個組み合わせ、モジュール構成をなしたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項10】
前記多結晶ダイヤモンド膜が自立膜構造を形成し、この自立膜部分がビームを照射されるビーム照射部であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項11】
前記多結晶ダイヤモンド膜が、前記ビーム照射部とこのビーム照射部よりも厚さが厚い厚膜部とからなることを特徴とする請求項1乃至10の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項12】
前記基板がシリコン基板である、もしくは基板と多結晶ダイヤモンド膜との間に二酸化珪素の薄膜を介在させたものであることを特徴とする請求項3乃至11の何れか一つの項に記載のビーム検出部材。
【請求項13】
ビームの位置や強度を検出するためのビーム検出部材を備えたビーム検出器において、請求項1乃至12の何れか一つの項に記載のビーム検出部材と、前記発光現象を観測する発光観測手段とを備え、この発光観測手段によって観測された発光状態により、前記ビームの位置や強度を検出することを特徴とするビーム検出器。
【請求項14】
前記ビームが放射光ビームであって、前記ダイヤモンド膜がエネルギー5〜300keVのビーム照射領域で発光する多結晶ダイヤモンド膜を用い、前記発光観測手段がカメラであることを特徴とする請求項13に記載のビーム検出器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−262381(P2007−262381A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−673(P2007−673)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】