説明

ピストン機構

【課題】流体の移送に伴って作動するピストン機構に関するものであり、特にピストンの移動に伴う機械的な摩擦損失が極めて小さいためにタービンにも勝る効率を得て利用範囲を大幅に広げることが出来るピストン機構を提供することである。
【解決手段】回転軸の偏芯部に回転自在に嵌め合わされた回転リングには複数の偏芯部を有し、夫々の偏芯部には回転自在に嵌め合わされたリング部材が設けられ、該リング部材に固着されたステー部の両先端部にピストンが固着され、該ピストンはシリンダーの内部に摺動自在に嵌め合わされたごとく構成されたピストン機構により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の移送に伴って作動するエンジン及びポンプとして作動する容積型流体機構として働くピストン機構に関するものであり、特にピストンの移動に伴う機械的な摩擦損失が極めて小さいために利用範囲を大幅に広げることが出来るピストン機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されているピストン機構の主なものはいわゆるレシプロエンジンなどに使用されているごときクランクシャフトと往復ピストンとをコネクティングロッドで結合したものであり、一部に繭型形状のシリンダーの内部で3角形のピストンが回転しながら移動するいわゆるヴァンケル型ロータリー方式のものがある。
【0003】
両者とも、容積型流体機構であるためにタービン機構に比べると広い回転速度範囲において容積効率が高く速度変動の大きな用途に適したものである。 しかし、前者はピストンとシリンダーにサイドフォースが加わること等で生じる機械的摩擦損失が大きいと云う欠点があり、小さな圧力差では作動しにくいという欠点がある。 後者は上記のごとき摩擦損失は少ないがピストンとシリンダーが矩形状態で接する構造のために流体の漏れを防止する事が難しく用途が限られている。 一方、現在用途が広がっているタービン機構は、流体の圧力差を運動エネルギーに変換して作動するものである為に、一定条件での回転運動においては高い効率を示すが、回転速度、圧力、流量などの条件の変化においては大幅な効率ダウンとなる欠点を有する。
【0004】
機械的な摩擦損失が少ないピストン機構が実現すると、多くの用途において流体の流れを機械的運動のエネルギーに変換するエンジンとしての作動が出来るとともに、これとは逆に機械的運動エネルギーを流体の圧力エネルギーに変換するポンプとしての作動も可能となり、このような機構の実現が望まれている。
【0005】
機械的な摩擦損失の軽減の為には前述のヴァンケル型ロータリー方式のものは、ある程度有効ではあるが、シール部材とシリンダーの接触圧が高くこの部分の摩擦力の軽減が課題となっている。 また、繭型のシリンダーの高精度な加工が困難でありコスト高の原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−008199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は機械的な摩擦損失が極めて小さく、又シリンダーの形状は円筒形で流体漏れの恐れがないためにシールの圧力も充分低く設定できる為にこの部分での摩擦力の発生もきわめて小さく、更に高速回転においてもレシプロ機構のごとき振動が生じることのないピストン機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のピストン機構が上記課題を解決するための第1の手段は、回転軸の第1偏芯部に回転自在に嵌め合わされた回転リングには第1偏芯部の偏芯量と等しい偏芯量の複数の第2偏芯部を有し、夫々の第2偏芯部には回転自在に嵌め合わされたリング部材が設けられ、該リング部材の中心軸と直交する両方向に固着されたステー部を有し、該ステー部の両先端部に円形のピストンが設けられている。 該ピストンは前記回転軸の回転中心軸から放射状に設けられた円筒状のシリンダーの内部に摺動自在に嵌め合わされたごとく構成されたピストン機構を提供することにある。
【0009】
本発明のピストン機構が上記課題を解決するための第2の手段は、回転軸に設けられた永久磁石とヨークにより流路を塞ぐ球状体を吸引することで開閉するバルブ開閉機構によって吸気バルブ及び排気バルブの開閉を行うごとくなしたピストン機構を提供することにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の効果は、偏芯量の等しい回転軸と回転リングの合成運動によりピストンは正確な直線往復運動をするために、ピストン側壁とシリンダーとの接触圧力はなく、これによる摩擦力が発生しないことである。
【0011】
本発明の第2の効果は、上記のピストンの直線往復運動は回転運動の合成であり、クランクによる早戻り運動を含まない為に完全に動バランスを取ることが出来るので、高速回転しても振動を発生することがないことである。
【0012】
本発明の第3の効果は、吸気、排気バルブの開閉が回転軸に設けられた永久磁石とヨークにより流路を塞ぐ球状体を吸引することで開閉するバルブ開閉機構によって行われるために、バルブ開閉の為の摩擦力の発生もなく機構全体としての摩擦損失を極めて小さくすることができるものである。
【0013】
本発明の第4の効果は、シリンダーとピストンの係合部は円形であり、シールが容易なため流体の漏れが少なくシールによって発生する摩擦力も最小限にすることが出来るので、極めて遅い運転速度でも効率良く使用することが出来る。
【0014】
本発明の第5の効果は、内部にヴァンケルエンジンにあるようなギヤーなどの機構を含まずに簡単な構造であり繭型シリンダーの加工などの高度な加工技術を用いない為、安価にまたコンパクトにまとめることが出来る。
【0015】
上記のごとく本発明のピストン機構は、タービンでは対応できない低速運転から、これまでのピストン機構では対応できない高速運転まで広い応用範囲を持つものであり又、極めて小さな圧力差での用途に適応可能な為、総合的にこれまでのピストン機機構の性能をはるかに超えた多くの効果を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はピストン機構の1実施方法を示した側断面図である。
【図2】図2はピストン機構の1実施方法を示した図1と直角方向の側断面図である。
【図3】図3はピストン機構の1実施方法を示した上断面図である。
【図4】図4はピストン機構の1実施方法を示したA−A断面図である。
【図5】図5はピストン機構の1実施方法を示したB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のピストン機構をその性能を損なわない範囲で簡略化して実現するための実施形態を示す。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明装置のピストン機構の1実施形態を示した側断面図であり、図2は図1と直角方向の側断面図、図3はその上断面図、図4はそのA−A断面図である、図5はそのB−B断面図である。 図1〜5において、筐体1に回転自在に嵌め合わされた回転軸2に設けられた第1偏芯部3には偏芯リング4が回転自在に嵌め合わされている。 偏芯リング4には第1偏芯部3の偏芯量と等しい偏芯量を持つ2個の第2偏芯部5を有し、該第2偏芯部5には夫々リング部材6が回転自在に嵌め合わされている。 該リング部材6にはその中心軸と直交して両方向に伸びるごとく固着されたステー部7が設けられ、該ステー部7の両先端部には円形のピストン8が固着されている。 また、筐体1には回転軸2の回転中心を中心として放射状に4個の円筒状のシリンダー9が形成され、該シリンダー9の内部にはピストン8が摺動自在に嵌め合わされたごとく構成されている。 この場合、上記ステー部7を摺動自在に支持する為にシリンダー9の根本部分に配置されたローラー19がステー部7に接触して回転し、ステー部7の摺動を円滑にするとともにピストン8とシリンダー9とが直接接触するのを防止している。 10は流体の漏れを防止するシール部材である。 形状的には公知のピストンリング状のものでも良いが図においては流体の圧力差が1/100気圧程度の極めて小さな圧力差の状態を想定している為極柔らかな可撓性のリング状に表示している。 尚、筐体1と回転軸2、第1偏芯部3と偏芯リング4、第2偏芯部5とリング部材6、ローラー19の軸等の回転自在な嵌合部にはころがりベアリングを用いているが摩擦抵抗の軽減のためにこれが望ましい。 ローラー19はいわゆるリニアーベアリングと交換しても本発明の主旨を外れるものではない。
【0019】
吸入流路11には磁性材料で形成された球体12が図においては重力で流路を塞ぐごとく挿入され、排出流路13には磁性材料で形成された球体14が図においては重力で流路を塞ぐごとく挿入されている。 吸入流路11及び排出流路13は夫々シリンダー9の頂部に結合されている。 また、回転軸2にはヨーク15、16と永久磁石17、18が取り付けられており、ヨーク15の一部は吸入流路11の壁を介して球体12に接近しており、一部は切り欠かれており、ヨーク16の一部は排出流路13の壁を介して球体14に接近しており、一部は切り欠かれている。
[作用]
【0020】
上記実施形態に示す本発明のピストン機構の作用について説明する。 本発明のピストン機構は、完全な等速回転運動の合成によるものであり、いわゆるレシプロ機構のごとき不等速の揺動運動を含むものではない。 すなわち、回転軸2の第1偏芯部3が回転するとき該偏芯部3に回転自在に嵌め合わされている偏芯リング4は、回転軸2と同じ回転速度で逆方向に回転する。 従って第1偏芯部3の偏芯量と等しい偏芯量を持つ2個の第2偏芯部5の中心は2等辺3角形の底辺に相当する方向に直線運動することとなる。 この場合、互いに逆方向に変芯した2個の第2偏芯部5は夫々直角の方向に移動することとなる。 しかも第1偏芯部3と第2偏芯部5の偏芯方向が丁度逆になった状態では回転軸2の回転軸の中心と第2偏芯部の中心とは一致する為に、上記直線運動は回転軸2の回転中心を通る直線である。 このときに他方の第2偏芯部5の中心は上死点又は下死点の位置にある。 この直交する2直線上にステー部7があり、シリンダー9が根本のローラー19によって支持されていればピストン8とシリンダー9は互いに接触すること無しに往復運動することとなる。
【0021】
吸入流路11には磁性材料で形成された球体12は、本実施形態においては通常重力及び流入流体の圧力によって吸入流路11を塞いでいる。 また、排出流路13には鋼球などの磁性材料で形成された球体14は、本実施形態においては通常重力及び流出流体の圧力によって吸入流路13を塞いでいる。 ピストン8の上死点付近でヨーク15の外周部Cが球体12に接近すると永久磁石17の磁力が球体12を吸引するごとく働き球体12は吸入流路11を塞いだ状態からヨーク15の外周部側に転出して吸入流路11が開く。 このときほぼ同時にヨーク16の外周部Eが球体14から離れると永久磁石18の吸引力が球体14を吸引する力がなくなり球体14は排出流路13を塞いだ状態となる。 この状態で回転軸2が回転してピストン8が移動すると吸入流路11から流体がシリンダー9に流れ込む。 回転軸2が180°回転してピストン8の下死点付近でヨーク15の外周部Dが球体12から離れると永久磁石17の磁力が球体12を吸引する力はなくなり球体12は吸入流路11を塞いだ状態となる。 このときほぼ同時にヨーク16の外周部Fが球体14に接近すると永久磁石18の磁力が球体14を吸引するごとく働き球体14は排出流路13を開く。 この状態で回転軸2が回転してピストン8が移動するとシリンダー9から流体が排出流路13に流れ出す。 この動きが4個のシリンダーで90°の位相ズレを維持しながら連続的に行われるので、回転軸2の回転運動に伴って流体が移動する。 この説明においては流体の流れによって回転軸2が従動的に動く状態であり、流体の力によって回転するエンジンとして働くものとなる。 この状態で回転軸2が外部の力によって逆回転した場合には流体は逆方向に流され、ピストン機構はポンプとして働くことになる。 いずれの場合でも機械的な摩擦損失はきわめて小さく、1/100気圧の圧力差でもエンジンとして使用する場合に充分作動するものであり、従来のピストン機構とはまったく異なる作動範囲を持つものである。
【0022】
上記の説明では球体12、14は重力によって吸入流路11及び流出流路13を塞ぐごとくなされているが、重力の代わりに図示しない圧縮スプリングを使用しても本発明の主旨を損なうものではない。 特に高速回転する場合には、球体12、14の動きを高速で行う必要が有るので上記の圧縮スプリングが必要となる。 このような状態となっても上記の球体12、14を動かす機構には従来のレシプロ機構にあるごときカムとホロワーに生じるごとき大きな摩擦抵抗が生じることはない。
【0023】
尚、上記説明において第2偏芯部5の数は2個としているが、3個以上でも本発明の主旨を損なうものではないことは言うまでもない。その場合はピストン8及びシリンダー9の数は第2偏芯部5の数の倍数となることは当然のことである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
回転軸の第1偏芯部と回転リングの第2偏芯部を有するリング部材と該リング部材とステー部の両先端部に円形のピストンと放射状に設けられた円筒状のシリンダーによって構成された本発明のピストン機構は摩擦損失が少なく、又振動がないのでの、極わずかな圧力差でも低速域から高速域まで有効に作動し、エンジン及びポンプとしての容積型流体機構の用途を著しく広げることが出来る。
【符号の説明】
【0025】
1 筐体
2 回転軸
3 第1偏芯部
4 偏芯リング
5 第2偏芯部
6 リング部材
7 ステー部
8 ピストン
9 シリンダー
10 シール部材
11 吸入流路
12 球体
13 排出流路
14 球体
15、16 ヨーク
17、18 永久磁石
19 ローラー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の第1偏芯部に回転自在に嵌め合わされた回転リングには第1偏芯部の偏芯量と等しい偏芯量を持つ複数の第2偏芯部を有し、夫々の第2偏芯部には回転自在に嵌め合わされたリング部材が設けられ、該リング部材の中心軸と直交する両方向に固着されたステー部の両先端部にピストンが固着され、該ピストンは前記回転軸の回転中心軸から放射状に設けられたシリンダーの内部に摺動自在に嵌め合わされたごとく構成されたピストン機構。
【請求項2】
回転軸に設けられた永久磁石とヨークにより流路を塞ぐ球状体を吸引することで開閉するバルブ開閉機構によって吸気バルブ及び排気バルブの開閉を行うごとくなしたことを特徴とする請求項1記載のピストン機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237269(P2012−237269A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107843(P2011−107843)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000189589)
【Fターム(参考)】