説明

ピラゾロピリミジノン誘導体化合物を含む慢性心不全治療用医薬組成物

本発明は、5−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニレンアミドスルホニル)フェニル]−1−メチル−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オン化合物を有効成分として含む慢性心不全治療剤に関する。該化合物は、サイクリックグアノシンモノホスファターゼ(cGMP)の細胞内分解を触媒するホスホジエステラーゼ5(PDE−5)を阻害し、これにより慢性心不全のいくつかの症候が緩和される。すなわち、これにより、左心室の拡張を抑制し、心室壁の薄肉化を低減し、心臓および血中の心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の高められたレベルを低下し、心室の線維化を抑制する。また、かかる化合物は、短時間で最大血漿中濃度に到達する利点を有し、従来のPDE−5阻害剤よりもインビボにおいて長い半減期を有するので、服用回数を減らすことができ、副作用が低く安全性が保証される。したがって、本化合物は、慢性心不全の治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニレンアミドスルホニル)フェニル]−1−メチル−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オンを有効成分として含む慢性心不全(CHF)治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、2つの心房(上部空洞)と2つの心室(下部空洞)、4つの弁膜からなっている。心臓が拍動する度に、右心房は全身からの静脈血を受け取る。次いで、血液は、三尖弁膜を通じて右心室に行く。同時に、肺で酸素供給された血液は、左心房、次いで、僧帽弁を通じて左心室へ流れる。右心室の収縮によって右心房に集められた血液が肺に移動し、該静脈血は酸素を受け取る。酸素供給された血液が、左心房に戻され、左心室に流れ込む。左心室は収縮して全身に血液を送る。心臓にある4つの弁膜のうち、2つは心房と心室との間で血液の逆流を防ぎ、残り2つは心室と動脈との間での逆流を防ぐ。心臓から送り出された血液は全身を循環し、組織へ酸素と栄養素を送達し、組織から老廃物を運び出す。また、心臓が拍出する血液の量は、身体の活動によって変化する。休息時には、比較的少量の血液が必要となり、運動時にはより多量の血液が必要になる。このように、血液に対する要求によって心臓の拍動が遅くなったり速くなったりすると、血管が弛緩したり収縮したりするようになる。
【0003】
心不全とは、心臓が身体組織の求めに応じた十分な血液量を送り出す能力を失っている病理学的状態であり、いくつかのファクターにより起こる。心筋が強力に収縮または弛緩することができない場合、血液循環は困難になり、より大量の血液が心臓の各空洞および肺に集まる。このことが起きると、心臓は、さらに大量の血液を組織や器官に送り出すため大きくなることによって、これに適応しようとする。このような状態が長引くと、適応作用は限界に達し、さらに重篤な問題を引き起こす。特に、心臓のポンプ機能が徐々に弱くなった場合、この状態を慢性心不全という。身体が、この状態に適応する方法には、脈拍増加、心臓肥大(拡張)、および体液鬱滞が含まれる。心臓の代償不全は欝血を伴うため、慢性心不全は欝血性心不全とも呼ばれる。
【0004】
米国心臓協会によると、米国人口の約5百万人ほどが心不全を経験し、毎年約550000人の新しいケースが診断されている。また、50歳以上の約1%、75歳以上の約5%程度が心不全に苦しんでいる。心不全の診断を受けた患者の約10%程度が、1年以内に心不全で死亡し、患者の50%が5年以内に死亡する。
【0005】
慢性心不全は、いくつかの疾患によって引き起こされ得、かかる疾患が、心機能低下の根本原因になる。しかしながら、他の要因が、心不全の原因疾患に苦しみながらも長い間比較的良好に過ごしていた患者において、心不全の進行に加担し得る。心不全の共通の原因としては、過度な後負荷および前負荷、心室内への血流流入障害、心筋虚血による心機能障害、並びに、原発性心筋疾患などを挙げることができる。心不全に加担する要因としては、感染性心内膜症、急性心筋炎、制御されない高血圧、急性心筋梗塞症、肺塞栓症、各種感染症、貧血、甲状腺機能亢進症、妊娠、肉体的および精神的過労、アルコールの過剰摂取、食べ過ぎなどを挙げることができる。
【0006】
心不全の症状は、病気の重篤さによって症状も様々に現われるが、最もよくある症状は、呼吸困難である。初期には運動時にのみ呼吸困難が起きるが、心不全が進行すると安静にしている時にも呼吸困難が起きる。心臓に戻ってくる血液量の差によって横になると呼吸困難がさらにひどくなる。その他の症状として、咳、喘鳴、心悸亢進、吐気、精神錯乱、夜尿、頻尿、全身むくみ、腹水、上腹部のつっかえ、痛症の症状と腹部膨満感などの症状、疲れの感じ易さ、全身衰弱感が含まれる。
【0007】
心不全は、診察、病歴、左心室または弁膜の異常有無の検査で診断される。心臓の機能を評価して、冠状動脈疾患、心筋梗塞等を調べるために心電図、心エコーそして心臓導管手術を実施する。
【0008】
慢性心不全の治療には、加担要因の除去、原因疾患の治療、低塩食、利尿剤による前負荷軽減、血管拡張剤による後負荷軽減などがある。また心筋収縮力を強化させるジゴキシンまたは、交感神経興奮性アミン類等も、慢性心不全の治療剤として使用されている。
【0009】
慢性心不全の1次選択薬物は、ACE(Angiotensin-converting enzyme)阻害剤、ニトレート、ヒドラジンのような血管拡張剤である。サイアザイド系列またはループ利尿剤は、体液流の遅延を減少させ得るので初期治療に追加される。ジギタリス配糖体も心不全治療剤として使用され、ベータ遮断剤の中でカルベジロール、メトプロロール、ビソプロロールは、慢性心不全に効能があると報告されている。
【0010】
ACE阻害剤は、血管平滑筋を弛緩させるcGMPを活性化させて動脈血管を拡張させる。ACE阻害剤の中でエナラプリル、カプトプリル、そしてリシノプリルは、慢性心不全患者の生存率を増加させ、キナプリルとフォシノプリルは、左心室不全を有している患者の症状を減少させる。このように、ACE阻害剤は、左心室不全による心不全患者の有病率と死亡率を減少させ、慢性心不全治療剤として使用されているので、RAS(Renin-Angiotensin system)に作用するロサルタンの心不全治療効果も期待され、今までの臨床研究結果は慢性心不全治療に有効であるとして報告された。しかし、低血圧患者では使用が制限され、腎臓の機能と体内カリウムの濃度に影響を及ぼし得る。また、患者の10%で慢性的な咳の副作用を示す。その外にも血圧低下によるめまい、皮膚発疹、唇、顔の頬に突然のむくみなどが現われたりする。
【0011】
このようなACE阻害剤の副作用のためにACE阻害剤を使用できない患者には、アンジオテンシンII受容体遮断剤が使用される。これは、ACE阻害剤と類似の作用を通じて心不全の症状を改善させる。現在、ACE阻害剤とアンジオテンシンII受容体遮断剤の併用に対する研究が進行中である。アンジオテンシンII受容体遮断剤は、一日1回の服用では深刻な副作用を起こさないが、稀に腎臓機能の異常を起こすことがある。
【0012】
ベータ遮断剤は、心不全の症状を悪化させることが知られてきたが、治療に有益な作用を示すことでも考慮されている。ベータ遮断剤は、心臓を弛緩させて収縮力を弱化させ、心臓の付加的緊張を減少させるのを助ける。ベータ遮断剤の中でカルベジロールとメトプロロールが主に使用されているが、これは心不全の進行を阻止して入院期間を短縮して死亡率を減少させる有益な作用を現わす。ベータ遮断剤は、低用量で始めて数ヶ月かけて漸進的に増量しなければならない。服用開始の何週間かは、身体への酸素供給が減少して症状がさらに悪くなる場合もある。それ以外の副作用としては、低血圧、呼吸困難、吐気などがある。
【0013】
さらに加えて、ホスホジエステラーゼIII阻害剤、アミオダロン(amiodarone)などのClassIII抗不整脈薬、植込み型除細動器(ICD)、アムロジピンやフェロジピンなどのカルシウムチャンネル遮断剤(CCB)などが使用されている。この中でICDは、まだ研究中であるため高危険群に対する使用に限って承認され、CCBは患者がCCBに対する他の適応症がある場合に限って使用される。
【0014】
ホスホジエステラーゼV(PDE−5)阻害剤の心臓に対する効果は、現在まで、シルデナフィルが圧力負荷を誘導したマウスで心室筋肉の肥大とリモデリング、線維化を抑制することが証明された(Nature medicine,2005年,第11(2)巻,214-222頁)。これに対する機序は、心臓内に内因性信号伝達体系と連結したサイクリックグアノシンモノホスファターゼ(cGMP)が心臓筋肉の増殖性反応を抑制することにより、薬効を現わすことが知られている(Journal of Biological Chemistry,2003年,第278巻,47694-47699頁)。
【0015】
本発明者等は、本願に先駆け、5−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニレンアミドスルホニル)フェニル]−1−メチル−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オン化合物を開発し、前記化合物を「ユデナフィル(udenafil)」と命名し、PED−5活性を阻害する効果があることを報告した(韓国登録特許第0353014号)。
【0016】
本発明者等は、前記ユデナフィル(ピラゾロピリミジノン誘導体化合物)が慢性心不全によって発生する心室内腔の拡張を抑制して心室壁厚が薄くなる現象を抑制する作用があることを新たに発見した。また、本発明者等は、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物が慢性心不全によって病態生理学的に増加する血中心房性ナトリウム利尿ペプチドの水準を減少させ、心室で発現される心房性ナトリウム利尿ペプチドメッセンジャーRNA(ANP mRNA)の発現も抑制する作用があることを確認した。これとともに、心室の線維化を示す指標である心室内コラーゲンの量が、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物によって減少することを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物を有効成分として含む新規な薬学的用途である慢性心不全に対する治療用医薬組成物を提供することにある。
【0018】
また、本発明の目的は、慢性心不全による心臓の形態学的変化を抑制して心房性ナトリウム利尿ペプチドの減少誘導及び心室線維化を抑制することによって、心臓の機能を改善する医薬組成物を提供することにある。
【0019】
さらに、本発明の目的は、他のPDE5阻害剤と比較して、薬物動態学的な面において優れ、安全性が優れたピラゾロピリミジノン誘導体化合物を有効成分として含む慢性心不全に対する治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、下記の化学式1で表わされる、5−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニレンアミドスルホニル)フェニル]−1−メチル−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オン化合物(以下、「ピラゾロピリミジノン誘導体化合物」という)を有効成分として含む新規な慢性心不全治療用医薬組成物を提供する。
【0021】
【化1】

【発明の効果】
【0022】
本発明は、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物を有効成分として含む医薬組成物を製造することにより、慢性心不全によって発生する心臓の形態学的な変化を抑制することができ、慢性心不全時に病態生理学的に増加する血中心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)及び心臓で発現する心房性ナトリウム利尿ペプチドメッセンジャーRNA(ANP mRNA)の発現を抑制する効果を示す心不全症治療剤として有用に用いることができ、心臓の線維化を抑制して心臓の収縮、弛緩機能を改善する治療効果を有する。
【0023】
また、本発明は、人体内半減期が長いので服用回数を減らすことができ、最高血中濃度に到達する時間が短くて、副作用の発生頻度が低く、薬物相互作用による副作用発生の可能性も低く、安全域役が広い慢性心不全治療用医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明によるピラゾロピリミジノン誘導体化合物の血清内心房性ナトリウム利尿ペプチドに対する減少効果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明によるピラゾロピリミジノン誘導体化合物の心室組織で発現する心房性ナトリウム利尿ペプチドメッセンジャーRNA発現減少に対する効果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明によるピラゾロピリミジノン誘導体化合物の心室組織で生成されるコラーゲン減少に対する効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前記ピラゾロピリミジノン誘導体化合物は、ホスホジエステラーゼ5阻害剤の一種で、ホスホジエステラーゼ5阻害活性が強力でありながらも選択性が優れ、溶解度が改善されて吸収が早く、生体利用率と体内分布容積が大きく、同一機序の薬物であるシルデナフィルと比較して体内半減期が3倍程度長いという特徴がある。
【0026】
ピラゾロピリミジノン誘導体化合物の理化学的性質を詳しくみると、水には溶けにくいが、酢酸、メタノール、クロロホルムにはよく溶けて、融点は158〜161℃、それぞれ6.5及び12.5程度のpKa、pKa値を有し、水和物や溶媒化物ではない白色または微白色を帯びた粉末である。
【0027】
前記ピラゾロピリミジノン誘導体化合物は、大きく分けて工程の合成過程を経て合成される。これを概略的に下記に示す。
【0028】
まず、第1工程では、4−[2−プロピルオキシ−5−(クロロスルホニル)ベンズアミド]−1−メチル−3−プロピル−5−カルバモイルピラゾールを製造する。この製造のために、一定量の4−[2−プロピルオキシベンズアミド]−1−メチル−3−プロピル−5−カルバモイルピラゾールを0℃に冷却した一定量のクロロスルホン酸に加えて、この混合物を撹拌、ろ過、洗浄及び乾燥などの過程を経て、4−[2−プロピルオキシ−5−(クロロスルホニル)ベンズアミド]−1−メチル−3−プロピル−5−カルバモイルピラゾールを得る。
【0029】
第2工程では、前記第1工程で得られるピラゾール化合物から、4−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニルエチルアミドスルホニル)ベンズアミド]−1−メチル−3−プロピル−5−カルバモイルピラゾールを製造する。その製造のために、0℃で第1工程の一定量の4−[2−プロピルオキシ−5−(クロロスルホニル)ベンズアミド]−1−メチル−3−プロピル−5−カルバモイルピラゾールのジクロロメタン溶液に一定量の2−(2−アミノエチル)−1−メチルピロリジンを加えて撹拌し、反応終了後、前記反応溶液をジクロロメタンで希釈して、その有機層を洗浄、乾燥、濃縮及びろ過などの過程を経て、4−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニルエチルアミドスルホニル)ベンズアミド]−1−メチル−3−プロピル−5−カルバモイルピラゾールを得る。
【0030】
最後に、第3工程では、前記第2工程で得た化合物から本発明の5−[2−プロピルオキシ−5−(1−メチル−2−ピロリジニレンアミドスルホニル)フェニル]−1−メチル−プロピル−1、6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オンを製造する。そのために、第2工程で合成された一定量のピラゾール化合物を、t−ブタノールに溶解してその溶液に一定量のカリウム−t−ブトキシドを加えて一定時間還流撹拌する。反応完結後、反応液を冷却、希釈、洗浄、乾燥させた後、減圧蒸留、溶媒除去及びシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行なって、一定量の純粋な本発明のピラゾロピリミジノン誘導体化合物を得ることができる。
【0031】
本発明は、慢性心不全治療用医薬組成物に関するものであり、具体的には下記のように説明することができる。
1)本発明は、心不全による心臓の形態変化を抑制する治療剤を提供する。
2)また、本発明は、心不全状態で増加する心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の発現を抑制して正常化させ、心室の線維化を抑制する治療剤を提供する。
3)また、本発明は、他のホスホジエステラーゼ5(PED−5)阻害剤と比較して薬物動態学的な面で優れかつ安全な慢性心不全治療剤を提供する。
【0032】
本発明によるピラゾロピリミジノン誘導体化合物を有効成分として含む治療剤は、一般的な医薬品製剤の形態で使用することができる。すなわち、本発明のピラゾロピリミジノン誘導体化合物は、実際の臨床投与時に経口及び非経口のさまざまな剤形で投与することができ、本発明では経口投与が好ましい。また、製剤の場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤する。
【0033】
経口投与のための固形製剤では、錠剤、丸薬、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロースまたはラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤する。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑剤なども使用される。
【0034】
また、経口投与のための液状製剤では、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられ、よく使用される単純希釈剤の水、リキッドパラフィン以外にさまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味料、芳香剤、保存剤などを含むことができる。非経口投与のための製剤では、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、座薬が含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤では、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレイン酸のような注射可能なエステルなどを使用することができる。座薬の基剤には、ハードファット、マクロゴ−ル、ツイーン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用することができる。
【0035】
併せて、本発明のピラゾロピリミジノン誘導体化合物を有効成分として含む医薬組成物の投与量または服用量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度によってその範囲が多様であり、服用する場合、成人を基準に1日50〜200mgを1回ないし数回に分けて服用することが好ましい。
発明の実施のための形態
【0036】
以下、本発明の実施例に対して詳しく説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【0037】
<実施例>心不全症動物モデルでのピラゾロピリミジノン誘導体化合物の治療効果
本発明の化学式1のピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与による心不全症に対する治療効果を調べるために、下記のような実験を行なった。
【0038】
SD系列の220〜240gの雄のラットを無作為に7匹ずつ3群に分けた。第1群は、正常対照群(Normal)で、第2群は心不全対照群(CHF)で、第3群は心不全が誘導されたラットにピラゾロピリミジノン誘導体化合物30mg/kgを経口投与した群(CHF+cpd.1)である。
【0039】
第1群は、偽手術を実施し、第2群と第3群は腹腔内にある腹腔大動脈と下大静脈に瘻管を形成して下大静脈を通じて右心房に流入する血流量を強制的に増加させた。このような手術を実施した8週後から8週間、第1群と第2群は、溶媒を5ml/kgの用量で経口投与し、第3群はピラゾロピリミジノン誘導体化合物30mg/kgを経口投与した。8週間の経口投与終了後、ペントバルビタール(50mg/kg,i.p.)で痲酔した後、Mモード心エコーを実施して左心室収縮期(S)及び弛緩期(D)の心室中隔厚(IWT)、左心室後壁厚(PWT)、左室収縮末期径(LVESD)、左室拡張末期径(LVEDD)を測定し、相対的心室厚(RWT)は、[IWT(D)+PWT(D)]/LVEDDの数式で計算して表1に示した。
【0040】
また、心エコー測定後、腹大動脈から採血後、血清を分離して血清内に存在する心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の濃度を測定して、図1に示し、左心室組織の中で100mgは液体窒素に保管後、RT−PCRを実施して心房性ナトリウム利尿ペプチドメッセンジャーRNA(ANP mRNA)発現水準を調査して図2に示し、残り組織は10%ホルマリンに固定した後、マッソントリクローム染色法でコラーゲンに対する染色を実施して心室線維化に対する影響を調査して図3に示した。提示された数値は、すべて平均±標準偏差で示した。
【0041】
その結果、表1にみられるように、短軸Mモード心エコー測定において、慢性心不全を誘導した群(CHF)は、左室拡張末期径及び左室収縮末期径が正常群(Normal)と比較して有意な増加を示したが、これは典型的な心不全状態である心室の拡張を意味する。また、収縮期の心室中隔厚、収縮期及び弛緩期の左室後壁厚が有意に減少したが、これは心室の内腔が大きくなりながら心室壁が薄くなった状態を意味し、臨床的に意味ある心臓の変化を示す。計算上の数値である相対的心室厚も有意な減少を示したが、これは上述した変化と一致した結果である。
【0042】
8週間のピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与群(CHF+cpd.1)では、慢性心不全を誘導した対照群と比較して弛緩期及び収縮期左心室内腔の大きさが有意に減少したが、これは慢性心不全時に現われる心室拡張が、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与によって抑制されたことを意味する。収縮期及び弛緩期の心室中隔厚と左室後壁厚も慢性心不全対照群と比較して有意に増加し、相対的心室厚も心不全対照群と比較して有意な増加を示した。このような結果は、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物が、心室の拡張と心室壁厚の減少を抑制する効果があることを示す結果である。
【0043】
図1は、血清に存在する心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を測定したもので、正常群(Normal)(0.029±0.003ng/ml)と比較して慢性心不全誘導群(CHF)で、有意な増加(0.040±0.004ng/ml)を示した。このような変化は、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与群(CHF+cpd.1)で有意な減少を示した(0.033±0.003ng/ml)。
【0044】
また、図2から分かるように、左心室組織で発現される心房性ナトリウム利尿ペプチドメッセンジャーRNA(ANP mRNA)発現は、正常群(0.607±0.169)と比較して、慢性心不全誘導群で有意な増加(0.963±0.114)を示し、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与群で心不全対照君と比較して有意な減少(0.739±0.120)を示した。これは、病態生理学的な変化によって増加した心房性ナトリウム利尿ペプチドが、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与によって減少して正常化することを意味する。
【0045】
図3は、心室組織線維化の指標であるコラーゲンの量を測定したもので、正常群(0.384±0.103)と比較して、慢性心不全誘導群(0.928±0.228)で有意な増加を示し、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物投与によって有意な減少(0.604±0.214)を示した。これは、正常な心室の収縮と弛緩機能に障害をもたらす心室の線維化が、ピラゾロピリミジノン誘導体化合物によって減少して機能が改善したことを意味する。
【0046】
【表1】

【0047】
下記に本発明の治療剤のための製剤例を例示する。
【0048】
<製剤例>経口投与のための医薬製剤の製造
1.散剤の製造
化学式1の化合物 2g
乳糖 1g
前記の成分を混合して気密包に充填して散剤を製造した。
【0049】
2.錠剤の製造
化学式1の化合物 100mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記の成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法にしたがって打錠して錠剤を製造した。
【0050】
3.カプセル剤の製造
化学式1の化合物 100mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記の成分を混合した後、通常のカプセル剤の製造方法にしたがってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】

で表わされるピラゾロピリミジノン誘導体を有効成分として含む、慢性心不全治療用医薬組成物。
【請求項2】
慢性心不全における心臓の形態学的な変化を抑制する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
慢性心不全における心室内腔拡張と心室壁厚変化を抑制する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
下記化学式1:
【化2】

で表わされるピラゾロピリミジノン誘導体の治療的に有効な量を、これを必要とする患者に投与する工程を含む、慢性心不全の治療方法。
【請求項5】
慢性心不全治療用製剤の製造における、下記化学式1:
【化3】

で表わされるピラゾロピリミジノン誘導体化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−529113(P2010−529113A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511107(P2010−511107)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/KR2008/003101
【国際公開番号】WO2008/153282
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(501187848)ドン・ア・ファーム・カンパニー・リミテッド (20)
【Fターム(参考)】