説明

ピリング形成の少ない織物用アクリル繊維の製造方法及びそのようにして得られるアクリル繊維

1.0〜5.6dtexの範囲内のタイターを有する、ピリング形成の少ない織物用のアクリル繊維の製造方法であって、アクリロニトリル97〜99.99質量%及び以下の一般式:
CH2=C(R)-CH2SO3-M(式中、Rは水素原子又はCH3基を表し、一方、Mは水素原子又はアルカリ金属を表す)のスルホン型の強酸基を有するコモノマー0.01〜3質量%から本質的になるコポリマーの、溶媒中における湿式紡糸を含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ピリング(pilling)形成の少ない織物(fabric)用アクリル繊維の製造方法に関する。
より具体的には、本発明は、ピリング形成の少ない織物用アクリル繊維の製造方法及びそのようにして得られる繊維に関する。
【0002】
公知のように、アクリル繊維は、天然繊維、例えばウール及びコットンを模倣したものであり、非常に多くの場合それらを超える特異的な特性のために、合成及び人工繊維の中で高い地位を確立してきた。
コットン又はウールの紡織繊維サイクルにおけるアクリル繊維の加工可能性は、疑う余地なく優れており、前記天然繊維よりもかなり高い。同時に、明るく、長時間耐光性の色に容易に染色するアクリル繊維の可能性は、その天然の競争相手達と比較しても性能の点で頂点に位置する。
また、アクリル繊維は、ニットウエア、靴下類、スポーツウエア、家具、天幕、セメント補強剤等のような分野において天然繊維に多くの場合に認められかつ好まれる、多くの最終用途に適合させることができる。
【0003】
アクリル繊維を使用する主な分野は、疑う余地なく、単独で又はウールと組み合わせられるニットウエアである。しかし、このタイプの最終製品は、使用及び時間により増加する非審美的なピルが出現することにより示される厄介な問題を生じる。
ピルの出現に関連するこの現象は公知であり、また、それらが形成及び増加するメカニズムも同様である。例えば、過去において、本出願人は、アクリル繊維の提案のために、Leacril NPの商品名で知られるピルの形成、成長及び脱落(falling)の動力学的モデルにより、ピルの形成を研究した(Doria G、Trevisan E. “Textile Asia”、64、1989年);そのモデルは単一の繊維の糸からの抽出を遅らせるために表面が高度に波状であり、最終製品にピルを付けるフィラメントの破壊がし易いように繊維強度が低い。
【0004】
他の製造者は、本出願人により開発された上記モデルにより、「ピルなし」バージョン、即ち、縦方向及び結節(knot)の両方で低強度かつ低伸長の繊維のアクリル繊維を提案した。
これらの幾つかの市販の繊維は、ピルの形成がないか又は少ない「自然な」繊維を製造する工程から得られる。これらには水性溶媒を使用する工程があり、その工程では、紡糸液中のポリマー濃度が低いため、繊維を脆弱化する多数の潜在的「空間」を含む繊維が得られる。一方、多くの浸潤及び乾燥の紡糸工程は、加圧飽和蒸気のオートクレーブ中よりもオンライン(on-line)で繊維を緩め、従って、結節の少ない繊維を自然に製造する傾向にある。
【0005】
伝統的なアクリル繊維に関してピルなしでかつ改良されたバージョン(Leacril NPを含む)であるにもかかわらず、市場に現在存在する全ての市販の繊維は、最終製品の非審美的ピルの出現の問題は完全に解決されていない。
【0006】
実際、全ての市販のアクリル繊維は、ポリマーの組成に関連する「物理化学的」制限、即ち、湿性温熱下で低寸法安定性を受ける。湿性温熱に対する市販のアクリル繊維のこの不安定性の理由は、ポリマーの溶解性及び加工可能性を特により低い溶媒力(solvent capacity)の溶媒を使用して改良するために、より大きな分子的障害物(molecular encumbrance)及びイオン的中性を、コモノマー、例えば酢酸ビニル又はアクリル酸メチルのポリマー鎖に導入してCN基を「希釈する」必要性にある。
【0007】
実際、ポリアクリロニトリルホモポリマーは、双極子の強力な相互作用により、熱水及び蒸気に非感受性の極めて緻密な構造を有する:-CN基間の双極子型は、ポリマーの溶解を困難にし、また繊維への転換を困難にする。実際、本出願人によるRicemを除き、市場において、また技術用に採用されるポリアクリロニトリルホモポリマー繊維はない。
ビニルアセテート、メタクリレートタイプ等のコモノマーを5〜10%の割合で採用する紡織繊維用の伝統的なアクリル繊維において、水分子は、繊維を首尾よく透過し、実際の可塑剤として作用するCN基を「溶媒和化」し、繊維の脆弱性を低減し、低分子配向(伸展)及び低アニールで構成し、繊維それ自体をより延性にし、従ってピルの形成を遅らせることができる。
【0008】
水分子によるアクリル繊維の溶媒和化は、繊維の染色段階において、100℃以上の温度の水中において、又は人体の湿気を通る使用の間に行われる。
前記のものの代わりの溶液は、文献に提案されている。例えば、不活性材料、例えば、カオリン、シリカ又はTiO2の粒子の導入による繊維の弱化(日本国特許第3,174,012号)、フィラメントへの表面切開の誘導(米国特許第3,928,528号)、二つのプレート間の最終製品の不規則な表面での圧縮(米国特許3,894,318号)又は生産物価値2.0g/den未満での強靭性及び結節の伸展の低減(日本国特許第4057909号)、ポリマー濃度≦20%での紡糸液の維持。
【0009】
提案されたこれら全ての溶液は、低ストレッチ値で又は最終製品及び紡糸工程で外観が悪く、コポリマーから繊維が製造される場合に、いずれも無効であることが証明された。特に、低ストレッチ繊維の製造は、繊維の製造系の可能性に負に影響することを記憶すべきである。
【0010】
石炭パワープラント由来の熱煙霧の濾過における使用のためのポリアクリロニトリルホモポリマー繊維の生産者である本出願人は、特に改質されたポリアクリロニトリルホモポリマー繊維が、いずれかの市販のアクリル性繊維に匹敵不可能な、予期不能なピリング傾向を示すことを見い出した。ポリアクリロニトリルホモポリマー繊維が伝統的な紡織繊維の使用に好適ではないことが知られているので、特許請求の範囲に詳細に説明したこの結果は、特に驚くべきものであり、また予期されるものではない。過硫酸塩-亜硫酸水素塩レドックス触媒により従来得られるものと比較してより高い着色基(dyeable group)の含有物を導入することにより、この欠点を本出願人は克服した。
【0011】
6%より多いコモノマー、例えば酢酸ビニル又はアクリル酸メチルを含有する市販のアクリル繊維に関するレドックス触媒により製造されるスルホン基及びスルフェート基は、水及び蒸気の可塑化効果のために、全てのスルホン基及びスルフェート基に接近する繊維に染料が容易に浸透するために、暗い色への繊維の着色に通常十分である。
【0012】
ポリアクリロニトリルホモポリマー繊維の場合、市販の繊維用のアクリロニトリルをベースとしたコポリマーで得られるものと同様の結果を得るため、エチレン性不飽和スルホン化コモノマー、例えばメタアリルスルホン酸ナトリウムの添加により、ポリマー化に、所定量の(レドックス触媒由来のものに)追加のスルホン基を導入することで十分であった。
最大で3.0質量%以下まで、例えば0.01〜3.0質量%、好ましくは0.1〜3質量%のスルホン化コモノマーの導入により、湿潤熱下、ポリアクリロニトリルホモポリマー繊維の寸法安定性は未変化のままであり、繊維は、例外的なピリング性能を有する紡糸工程において構築された「脆弱性」を保持した。
【0013】
特に、本発明の目的は、少なくとも97質量%のアクリロニトリル及び以下の一般式のものから選ばれるスルホン型の強酸基を有するコモノマー3%以下(up to 3%)の量を本質的に含むコポリマーの湿式紡糸による、ピリングのないアクリル繊維の製造に関する:
CH2=C(R)-CH2SO3-M
(式中、Rは水素原子又は-CH3基を表し、一方、Mは水素原子又はアルカリ金属、例えばメチルアリルスルホン酸又はアリルスルホン酸又はそれらのナトリウム塩を表す)。
【0014】
本発明によると、アクリル繊維を製造するために使用されるアクリルコポリマーは、必須ではないが、ビニル型の中性コモノマー、例えばC1-C4酸のビニルエステル、例えば酢酸ビニル、又は(メタ)アクリル酸のアルキルC1-C4エステル、例えばアクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルを、最大1.5質量%以下の量で含むことができる。
【0015】
本発明の目的である、工程中に使用されるコポリマーは、過硫酸塩-亜硫酸水素塩型のレドックス触媒系を用いた水性サスペンジョン中のポリマー化により得られ、通常の紡織繊維使用において最終繊維の優れた染色性を確実にする多くの染色性鎖末端部位を有する。
【0016】
湿潤引伸、熱ロール上での乾燥及び蒸気中のアニーリングの後、17〜23質量%の範囲の固形物の割合において、糊状液による凝集浴(coagulation bath)中で得られる繊維は、最少破断強さが26cN/texであり、最少破断伸長が18%である。前記繊維(ICI Box試験又はMartindale試験)から出発して製造した純粋及び混合の織物の抗ピリング試験に対する優れた応答が予想されるループ機械特性のガイド(guiding)値は:引掛強さ(loop tenacity)≦4.0cN/tex、引掛伸長(loop elongation)≦1.5%及び強さ×伸長の結果又はループワーク≦6cN/texである。
【0017】
以下の実施例は、本発明を非制限的に説明するために提供するものである。
実施例
この例は、本発明の目的であるアクリル繊維の湿式紡糸による製造方法を記載している。
アクリロニトリル98%及びメチルアリルスルホン酸ナトリウム2%を含むコポリマーを、pH=2.8〜3.0、温度50℃の水性サスペンジョン中、過硫酸カリウム触媒及び亜硫酸水素ナトリウムアクチベータ(触媒の質量流速に対するアクチベータの質量流速で表した割合1.30〜1.90において供給した)と共に、連続重合により得た。非反応モノマーの除去、濾過及びペレットの乾燥後に得られたコポリマーは、溶液1g/l中、温度25℃で、ジメチルアセトアミド中で測定した場合に0.240〜0.290の範囲内に低下する比粘度を有していた。室温及び加熱速度1℃/分で溶媒/ポリマースラリーから出発して、温度90±2℃で(ロト粘度計で測定した)ジメチルアセトアミド中の最大溶解ピークを、そのコポリマーは有していた。
【0018】
このようにして得られたポリマーを、溶媒に対して固形物18±2質量%でジメチルアセトアミド中に溶解し、その後温度85℃で濾過ドープの押出を行った。
繊維の最終タイター(titer)は、2.2dtexであった。毛細管の直径52ミクロンのダイを使用し、42℃、水中ジメチルアセトアミド溶媒の濃度45%の凝固浴中に浸した。
【0019】
凝集浴から出したトウを、同等〜6倍の全ストレッチ比で伸長し、内部蒸気圧9.0atmで、ロール上で圧潰した。熱クリンプ加工後、トウをアニーラー中、圧力2.0〜3.0atmで蒸気の直接導入により確立し、残留収縮率を1%未満に維持した。
【0020】
このようにして得られた繊維の破断強さは約28cN/texであり、破断伸長は約23%であった。ループで測定した強さは約2.2cN/texであり、引掛伸長は約1%であり、製品の強さ×伸長は約2.2cN/tex(ループワーク)であることが証明された。
【0021】
得られた繊維の最終断面は円形であった。トウ状の繊維を引き剥がし、上部に変形させ、その後紡ぎ、Nm 2/28-ツイスト400 z-240 s-のタイター(titer)において、100%アクリル糸及び50%アクリル及び50%ウール糸(23ミクロン)の混合を得た。
その後これらの糸で二つの編まれた織物を製造し、標準的な方法BS-5811/86(ICI BOX Test)により染めた後、そのピリング耐性試験を実施した。1(不良)〜5(優良)の範囲のピリング形成評価スケールにおいて、14,400サイクル後に与えられた水準は、前記100%アクリル繊維を含む糸由来の織物、並びに混合ウール織物の両方について、4及び5であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜5.6dtexの範囲内のタイターを有する、ピリング形成の少ない織物用のアクリル繊維の製造方法であって、アクリロニトリル97〜99.99質量%、及び以下の一般式のスルホン型の強酸基を有するコモノマー3質量%以下から本質的になるコポリマーの、溶媒中における湿式紡糸を含む、前記方法:
CH2=C(R)-CH2SO3-M
(式中、Rは水素原子又は-CH3基を表し、一方、Mは水素原子又はアルカリ金属を表す)。
【請求項2】
湿式紡糸用溶媒がジメチルアセトアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コポリマーが、ビニル型の中性コモノマー、例えばC1-C4酸のビニルエステル又は(メタ)アクリル酸のC1-C4アルキルエステルを含み、その量が最大で1.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
強スルホン酸基を有するイオン型の不飽和コモノマーが、メチルアリルスルホン酸、アリルスルホン酸並びに関連ナトリウム及びカリウムアルカリ塩から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アクリロニトリルから本質的になるコポリマーが、ポリマー化工程により、水性サスペンジョン中、過硫酸塩-亜硫酸水素塩触媒レドックス対の存在下で得られ、供給されるモノマーに対して、その過硫酸塩の濃度が0.4〜0.6%(カリウム又はナトリウム又はアンモニウムの過硫酸塩として)であり、亜硫酸水素塩が0.6〜1.4%(亜硫酸水素ナトリウムとして)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アクリロニトリルから本質的になるコポリマーが、45℃〜65℃の温度で得られる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アクリロニトリルから本質的になるコポリマーが、pH2.6〜3.0の水性サスペンジョン中で得られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1.0〜5.6dtexのタイターを有するアクリル繊維であって、アクリロニトリル97〜99.9質量%、以下の一般式を有するものから選ばれるスルホン型の強酸基を有するコモノマー0.01〜3質量%:
CH2=C(R)-CH2SO3-M
(式中、Rは水素原子又は-CH3基を表し、一方、Mは水素原子又はアルカリ金属を表す)、及びビニル型の中性コモノマー、例えばC1-C4酸のビニルエステル、例えばビニルアセテート、又は(メタ)アクリル酸のC1-C4アルキルエステル0〜1.5質量%を含む、前記アクリル繊維。
【請求項9】
ポリマーの質量に対し、0〜0.4質量%の酸化チタンを含む、請求項8に記載のアクリル繊維。
【請求項10】
沸騰水中の残留収縮率が1%未満である、請求項8又は9に記載のアクリル繊維。
【請求項11】
引掛強さが4cN/tex以下、引掛伸長が1.5%以下、引掛強さ×引掛伸長の結果が6cN/tex以下である、請求項8〜10のいずれか1項に記載のアクリル繊維。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載のアクリル繊維を含み、標準的な方法BS-5811/86によるICI BOX Testでの最少ピリング値が1〜5のスケールにおいて4/5と等しい織物。
【請求項13】
請求項8〜11のいずれか1項に記載のアクリル繊維、及び、1〜50質量%の天然繊維、例えばウールを含み、標準的な方法BS-5811/86によるICI BOX Testでの最少ピリング値が1〜5のスケールにおいて4/5と等しい織物。

【公表番号】特表2009−528453(P2009−528453A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556664(P2008−556664)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011213
【国際公開番号】WO2007/098796
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(503237138)モンテフィーブレ ソシエタ ペル アチオニ (1)
【Fターム(参考)】