説明

ファブリペロー干渉計、それを用いた赤外線センサ装置

【課題】濃度を検知したいガスに複数の成分が含まれている場合でも、その濃度を検知したいガスを吸収する特性を持つ赤外線の波長を同時に透過させることができるファブリペロー干渉計を提供すること。
【解決手段】基板10上に設けられ、この基板10に固定された第1の干渉計ミラー20と、第1の干渉計ミラー20との間のギャップ60を介して対向配置された第2の干渉計ミラー30と、からなり、第1の干渉計ミラー20、または、第2の干渉計ミラー30の少なくとも一方は、段差50を有するように形成され、第1の干渉計ミラー20、および、第2の干渉計ミラー30間に、複数の異なるギャップ長が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファブリペロー干渉計、および、それを用いた赤外線センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの濃度を測定する赤外線センサ装置として、例えば、特許文献1に示すようなファブリペロー干渉計を用いたものが知られている。成分濃度を検知したいガス(被測定ガス)に赤外線を照射すると、被測定ガスに含まれる成分濃度によって、照射した赤外線に含まれる波長から特定の波長の赤外線が被測定ガスに吸収される性質がある。このような性質を利用し、ファブリペロー干渉計は、例えば、被測定ガスによって吸収される波長の赤外線と、被測定ガスに含まれるどの成分にも吸収されない波長(基準波長)の赤外線と、を透過させるように構成される。
【0003】
このようなファブリペロー干渉計の一例を図5に示す。図5に示すファブリペロー干渉計5cでは、電源82より干渉計ミラー20、30に設けられた電極80間に所定のタイミング毎に電位差(波長選択電圧)を与えて、基板10上に形成された第1の干渉計ミラー20と第2の干渉計ミラー30との間に静電気力を発生させる。すると、第2の干渉計ミラー30は波長選択電圧が与えられたタイミング毎に所定の変位量で第1の干渉計ミラー20の方向へ変位する。その結果、干渉計ミラー20,30間のギャップ長tは所望のギャップ長Tへと変化する。
【0004】
これらのギャップ長t、Tはそれぞれ上述した吸収波長赤外線と基準波長赤外線を透過するように設定される。これにより、入射赤外線70がファブリペロー干渉計5cに入射すると吸収波長赤外線と基準波長赤外線とが透過赤外線75として異なるタイミングで抽出される。この吸収波長赤外線と基準波長赤外線とを赤外線センサ6で検出し、その強度を比較すれば、被測定ガスの濃度を求めることができる。
【特許文献1】特開平6−241993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被測定ガスに含まれる成分濃度は刻々と変化し続けるものである。ファブリペロー干渉計をこうした刻々と変化し続ける成分濃度に対応させるためには、干渉計ミラーに設けられた電極80間に所定のタイミングで波長選択電圧を与えて、ギャップ長を変化させる必要がある。このため、第2の干渉計ミラー30は所定周期で振動する。
【0006】
しかし、ファブリペロー干渉計5cのギャップ長を所定のタイミング毎に変化させることによって、複数波長の赤外線を検出する場合、その検出までの時間が長くなってしまう。このような問題は検出すべき赤外線の数が増えるほど、顕著となる。また、第2の干渉計ミラー30を常時振動させると、第2の干渉計ミラー30が疲労を起こす。
【0007】
この疲労によって、第2の干渉計ミラー30の柔軟性や強度が低下した場合に、第2の干渉計ミラー30に塑性変形や損傷が起こりやすい。第2の干渉計ミラー30が塑性変形すると、反応速度の低下や、与えられる波長選択電圧と変位する量との相関的な関係の変化につながる。また、第2の干渉計ミラー30が損傷してしまうと、ファブリペロー干渉計5cは、もはやその機能を果たさなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、干渉計ミラーを振動させることなく、入射赤外線70がファブリペロー干渉計を透過する際に、同時に複数の特定の赤外線波長の赤外光を透過させることが可能なファブリペロー干渉計およびそれを用いた赤外線センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係るファブリペロー干渉計は、基板上に設けられ、この基板に固定された第1の干渉計ミラーと、第1の干渉計ミラーとギャップを介して対向配置された第2の干渉計ミラーと、からなり、第1および第2の干渉計ミラーの少なくとも一方は、段差を有するように形成され、第1および第2の干渉計ミラー間に、複数の異なるギャップ長が設定されることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、長さの異なるギャップ長を複数設定することができるので、照射赤外光がファブリペロー干渉を透過する際に、設定されたギャップ長とギャップ長の数とに応じて、同時に複数の特定の赤外線波長の赤外光を透過させることができる。
【0011】
請求項2に係るファブリペロー干渉計は、段差が階段状に形成されたことを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、ギャップ内にそれぞれ異なるギャップ長となる部分がより多く設定されるので、そのギャップ長に応じて、より多くの特定の赤外線波長の赤外光を同時に透過させることができる。
【0012】
請求項3に係る赤外線センサ装置は、赤外線光源と、複数のギャップ長に対応する赤外線センサと、上記した本発明に係るファブリペロー干渉計と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載のように、本発明に係るファブリペロー干渉計を赤外線センサ装置に適用することで、被測定ガスの複数の成分を同時に測定することができる赤外線センサ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の赤外線センサ装置100の構成図である。赤外線センサ装置100は、被測定ガスの入口2および出口3が設けられた試料セル4と、この試料セル4の内部に設けられ被測定ガスに照射する照射赤外光を発する赤外線光源1と、所望の波長の赤外線を透過させるファブリペロー干渉計5と、ファブリペロー干渉計5を透過した透過赤外線71、72の強度を検出する赤外線センサ6aおよび6bと、赤外線センサ6aおよび6bからの出力信号を出力する出力端子7と、を備える。
【0015】
赤外線センサ装置100では、試料セル4内に入口2から被測定ガスを流入させ、且つ、出口3から流出させる。この被測定ガスに向けて赤外線光源1は、入射赤外線70を照射する。
【0016】
入射赤外線70は、赤外線光源1からファブリペロー干渉計5に至る入射赤外線70の光路内に充満する被測定ガスによって、入射赤外線70の特定波長の赤外線が吸収される。
【0017】
ファブリペロー干渉計5は、そのギャップ長に応じた波長の赤外光のみを透過させる。本実施形態では、後に詳細に説明するように、被測定ガスによって吸収されない波長の赤外光と、その被測定ガスによって吸収される波長の赤外光とが、ファブリペロー干渉計5を同時に透過するようにファブリペロー干渉計5に二種類のギャップ長が設定されている。このため、ファブリペロー干渉計5を透過した透過赤外光71、72の一方を基準赤外光とし、他方を測定赤外光として、強度を比較することにより、被測定ガスの濃度を精度良く求めることができる。なお、赤外線光源1が略一定強度の赤外光を照射する場合には、基準赤外光は不要である。この場合、ファブリペロー干渉計5は被測定ガスに含まれる二種類のガス成分の濃度を同時に測定するために用いることができる。
【0018】
図2は、本発明のファブリペロー干渉計5の基本的な構成を説明するための模式的な断面図である。ファブリペロー干渉計5は、基板10と、段差50を有するように形成された第1の干渉計ミラー20と、第2の干渉計ミラー30とからなる。このため、第1の干渉計ミラー20に形成された段差50によって、第1の干渉計ミラー20と第2の干渉計ミラー30との間には、異なる長さのギャップ長t1、t2が設定されるようにギャップ60が形成されている。
【0019】
基板10は、赤外線を透過させる材料、例えば、シリコン、ゲルマニウム等で形成されている。
【0020】
第1および第2の干渉計ミラー20、30は基板10上において、上述したギャップ60を介して、それぞれ所定の膜厚となるように、赤外線透過材料によって形成される。
【0021】
第1および第2の干渉計ミラー20、30を形成するための赤外線透過材料としては、例えば、ポリシリコン、酸化シリコン、窒化シリコン等のシリコン化合物単体を用いることができる。このシリコン化合物が、所定の膜厚となるように、基板10上に単層膜、若しくは、多層膜として堆積される。第1および第2の干渉計ミラー20,30が多層膜からなる場合、その各薄膜の材料は同じであっても良いし、異なっていても良い(例えば、ポリシリコンと酸化シリコン等)。
【0022】
なお、第1の干渉計ミラー20は、一旦、ギャップ長t2に対応する膜厚となるように、シリコン化合物を基板10上に堆積し、その後、一部をエッチング除去することにより、段差50を形成する。若しくは、第1の干渉計ミラー20の段差50は、一旦、ギャップ長t1に対応する膜厚となるようにシリコン化合物を堆積し、その後、一部の領域のみにさらにシリコン化合物を段差50に相当する膜厚だけ堆積することによって形成することも可能である。
【0023】
また、第2の干渉計ミラー30を形成するためのシリコン化合物は、エッチング除去可能な、例えば、平坦化された酸化物が介して、第1の干渉計ミラー20と対向するように堆積される。その後、第2の干渉計ミラー30の周囲に酸化物層に達する貫通孔を形成し、その貫通孔にエッチング液を導入することによって、ギャップ60が形成される。
【0024】
なお、第1の干渉計ミラー20、第2の干渉計ミラー30の各ミラーの膜厚d1、d2は、赤外線光源(図示せず)から放射される入射赤外線70の中心波長をλとすると、それぞれ、λ/4=n1・d1(n1:屈折率)、λ/4=n2・d2(n2:屈折率)の条件をほぼ満たす光学膜厚(nd)を有するように形成されるものである。
【0025】
赤外線センサ6a、6bは、特定の波長の赤外線が被測定ガスに吸収された透過赤外線71、72の強度を検出する。赤外線センサ6a、6bは、透過赤外線71、72同士の干渉を避け、検知の精度を高めるために、所定の間隔を空けて配置することが望ましい。
【0026】
ところで、赤外線センサ6a、6bで検出される透過赤外線71、72において、ギャップの間隔長t1の部分を透過した透過赤外線71の波長をλ1、ギャップの間隔長t2の部分を透過した透過赤外線72の波長をλ2とすると、それぞれ、2・n1・t1=N・λ1(n1:屈折率、N:整数)、2・n2・t2=N’・λ2(n2:屈折率、N’:整数)の関係を満たす。
【0027】
なお、本実施形態では、透過赤外線の波長λ1、λ2が上式のように明確に定義されるので、λ1、λ2のどちらかを基準波長として用いることができる。
【0028】
以上、述べたように、本実施形態では、ファブリペロー干渉計5は、第1の干渉計ミラー20が段差50を有するように形成され、ギャップ60内には、複数の異なるギャップ長t1、t2が設定される。そして、ファブリペロー干渉計5は、設定されたギャップ長t1、t2に応じて、同時に2つの波長の赤外線を抽出可能となる。
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態に係る赤外線センサ装置について説明する。
【0029】
上述した第1の実施形態による赤外線センサ装置100ではファブリペロー干渉計が2つのギャップ長t1、t2を有するものであった。本実施形態に係る赤外線センサ装置では、さらに、多くの波長の赤外線を同時に検出することを可能とするために、図3に示すファブリペロー干渉計5aのギャップ60内に3種類のギャップ長を設定するものである。
【0030】
図3に示すファブリペロー干渉計5aは、基板10と、階段状の段差51を有するように形成された第1の干渉計ミラー20と、第2の干渉計ミラー30とからなる。
【0031】
第1の干渉計ミラー20上に階段状に形成された段差51によって、第1の干渉計ミラー20と第2の干渉計ミラー30との間には、異なる長さの3つのギャップ長t1、t2、t3が設定されるように、ギャップ60が形成されている。
【0032】
なお、第1の干渉計ミラー20は、一旦、ギャップ長t3に対応する膜厚となるように、シリコン化合物を基板10上に堆積する。次に、その一部をギャップ長t2に対応する膜厚となるようにエッチング除去する。その次に、ギャップ長t2の箇所の一部をギャップ長t1に対応する膜厚となるようにエッチング除去する。このようなプロセスで、階段状に形成された段差51を得ることができる。
【0033】
若しくは、一旦、ギャップ長t1に対応する膜厚となるように、第1の干渉計ミラー20上にシリコン化合物を堆積する。次に、ギャップ長t1に対応する膜厚となるように堆積したシリコン化合物層の領域内に、さらにギャップ長t2に対応する膜厚となるように、シリコン化合物を堆積する。その次に、ギャップ長t2に対応する膜厚となるように堆積したシリコン化合物層の領域内に、さらにギャップ長t3に対応する膜厚となるように、シリコン化合物を堆積することによって形成することも可能である。
【0034】
したがって、ファブリペロー干渉計5aは、設定されたギャップ長t1、t2、t3に応じて同時に3つの波長の赤外線を抽出可能となる。図1に示す赤外線センサ装置100のファブリペロー干渉計5をこのファブリペロー干渉計5bに置き換えれば、被測定ガスに含まれる成分濃度を3つ同時に測定することができる。なお、段差51の数を増やせば、同時に測定できる成分濃度を更に増やすことができる。
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態に係る赤外線センサ装置について説明する。
【0035】
図4に示すファブリペロー干渉計5bは、第1の干渉計ミラー20上に段差50を形成するとともに、ギャップ60を介して、第2の干渉計ミラー30上に、段差50と対向する位置に、段差50とは大きさが異なる段差52をさらに形成したものである。
【0036】
このように段差50,52を形成することで、ギャップ60内に3つのギャップ長t1、t2、t3を設定することができる。したがって、ファブリペロー干渉計5bは、照射赤外線70がファブリペロー干渉計5bを透過する際に、ギャップ長t1、t2、t3に応じて同時に3つの波長の赤外線を抽出可能となる。さらに、段差50、52の段差を増やして階段状にすると、ファブリペロー干渉計5bが同時に吸収できる赤外線波長をさらに増やすことができる。
【0037】
なお、段差52を有する第2の干渉計ミラー30を形成するためのシリコン化合物は、エッチング除去可能な、例えば、ギャップ長t1、t2、t3に対応する膜厚となるように順を追って堆積した酸化物を介して、第1の干渉計ミラー20と対向するように積層される。その後、第2の干渉計ミラー30の周囲に酸化物層に達する貫通孔を形成し、その貫通孔にエッチング液を導入することによって、ギャップ60が形成される。
【0038】
以上、述べたように、本願発明の構成を採用したファブリペロー干渉計では、第1の干渉計ミラー20、および、前記第2の干渉計ミラー30の少なくとも一方は、段差50、52を有するように形成されるので、ギャップ60内に複数の異なるギャップ長が設定される。そして、このファブリペロー干渉計は、照射赤外線が透過する際にギャップ長に応じて同時に複数の特定の波長の赤外線を透過させることができる。
【0039】
本実施形態のファブリペロー干渉計5bを、図1に示す赤外線センサ装置100のファブリペロー干渉計5と置き換えれば、被測定ガスに含まれる成分濃度を3つ同時に測定することができる。なお、段差50または52の数を増やせば、同時に測定できる成分濃度を更に増やすことができる。
【0040】
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、数々の変形実施が可能である。また、本発明のうち従属請求項に係る発明においては、従属先の請求項の構成要件の一部を省略する構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の赤外線センサ装置の構成図
【図2】本発明の第1の実施形態に係るファブリペロー干渉計の断面図
【図3】本発明の第2の実施形態に係るファブリペロー干渉計の断面図
【図4】本発明の第3の実施形態に係るファブリペロー干渉計の断面図
【図5】従来のファブリペロー干渉計の動作の概念を模式的に示した断面図
【符号の説明】
【0042】
1 赤外線光源
2 被測定ガス入口
3 被測定ガス出口
4 試料セル
5、5a、5b、5c ファブリペロー干渉計
6、6a、6b、6c 赤外線センサ
7 出力端子
10 基板
20 第1の干渉計ミラー
30 第2の干渉計ミラー
50、51、52 段差部
60 ギャップ
70 入射赤外線
71、72、73、74、75 透過赤外線
80 電極
82 電源
100 赤外線センサ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられ、前記基板に固定された第1の干渉計ミラーと、
前記第1の干渉計ミラーとギャップを介して対向配置された第2の干渉計ミラーと、からなり、
前記第1および第2の干渉計ミラーの少なくとも一方は、段差を有するように形成され、前記第1および第2の干渉計ミラー間に、複数の異なるギャップ長が設定されることを特徴とするファブリペロー干渉計。
【請求項2】
前記段差は、階段状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のファブリペロー干渉計と、
前記ファブリペロー干渉計に向けて赤外光を照射する赤外線光源と、
前記ファブリペロー干渉計における複数の異なるギャップ長部分を透過した赤外光をそれぞれ検出する複数の赤外線センサと、
を備えたことを特徴とする赤外線センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−220623(P2006−220623A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36707(P2005−36707)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】