説明

フィラメントワインディング装置

【課題】繊維束の巻付角度が異なるヘリカル巻処理を能率よく行えるフィラメントワインディング装置を提供する。
【解決手段】基台1に立設される固定フレーム20と、ヘリカル巻ヘッド21などでヘリカル巻装置4を構成する。ヘリカル巻ヘッド21は、マンドレルMの軸心に沿って隣接配置される2個のガイドリング27・28と、各ガイドリング27・28の周方向に等間隔おきに配置される一群のガイド筒31を含む。各ガイドリング27・28は周方向へ相対回転自在に連結する。さらに位相切換構造32で、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の位相位置が一致する第1状態と、ガイド筒31の位相位置が周方向へ均等にずれる第2状態との間で切り換え可能に構成する。第1状態において、各ガイドリング27・28に装着したガイド筒31の筒出口31aを接近配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカル巻装置を備えているフィラメントワインディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラメントワインディング法で圧力容器などを形成する場合には、樹脂が塗布された繊維束をマンドレルに対してフープ巻し、あるいはヘリカル巻することにより補強層を形成する(特許文献1参照)。本発明に関して、複数個のヘリカル巻リングで多数本の繊維束を案内し、一群の繊維束を同時にマンドレルに巻き付ける形態のフィラメントワインディング装置は、例えば特許文献2に公知である。そこでは、マンドレルの軸心に沿って2個のヘリカル巻リングを隣接配置し、各リングを介して送給される一群の繊維束をマンドレルに巻き付けている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−119138号公報(段落番号0002、図3)
【特許文献2】特開2004−314550号公報(段落番号0019、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、一群の繊維束をマンドレルに対して同時にヘリカル巻すると、ワインディング処理をより短時間で行うことができ、その分だけ圧力容器などを能率よく製造できる。その限りでは、ヘリカル巻によってマンドレルに巻き付けられる繊維束の本数が多いほど、ワインディング処理に要する時間を短くできることになる。
【0005】
しかし、マンドレルの直径寸法と、開繊状態の繊維束の平均幅寸法を一定とする条件下でヘリカル巻を行う場合には、繊維束の巻付角度と巻付本数とに相関関係のあることが知られている。例えば、ある直径のマンドレルにおいては、先の巻付角度が小さい場合には、多数本の繊維束を互いに重なることもなく均等に巻き付けることができる。しかし、巻付角度が大きくなるのに従い、隣接する繊維束が互いに重ならない状態で均等に巻き付けられる適正本数は減少する。この適正本数を無視して、巻付角度が小さい場合と同じ本数の繊維束を大きな巻付角度で巻き付けることはできるが、その場合には巻層の表面に凹凸を生じるうえ、繊維束の巻き付けに乱れを生じさせ、結果的に強度を低下させてしまう。つまり繊維束が無駄に消費されるのを避けられない。
【0006】
上記のような理由から、繊維束の巻付角度を変化させてヘリカル巻を行う場合には、巻付角度が大きい場合と巻付角度が小さい場合とで、マンドレルに巻き付けられる繊維束の本数を変更する必要があり、そのための段取り変更に多くの手間を要する。
【0007】
本発明の目的は、複数個のガイドリングを備えていて、繊維束の巻付角度が異なるヘリカル巻処理を能率よく行え、しかもヘリカル巻を適正に形成できるフィラメントワインディング装置を提供することにある。本発明の目的は、繊維束Rの巻付角度が大きな状態においても、各ガイドリングに装着したガイド筒から供給される繊維束Rの巻付角度を概ね一致させて、ヘリカル巻層を適正に、しかも能率よく形成できるフィラメントワインディング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフィラメントワインディング装置は、マンドレルの周面に繊維束を巻き付けるヘリカル巻装置を備えている。ヘリカル巻装置は、基台に立設される固定フレームと、固定フレームで支持されるヘリカル巻ヘッドとを含む。ヘリカル巻ヘッドは、マンドレルの軸心に沿って隣接配置されて、周方向へ相対回転自在に連結される複数個のガイドリングと、各ガイドリングの周方向に沿って等間隔おきに配置される一群のガイド筒と、可動側のガイドリングを回転操作する位相切換構造を含む。各ガイドリングは位相切換構造で、各ガイドリングにおけるガイド筒の位相位置が一致する第1状態と、各ガイドリングにおけるガイド筒の位相位置が周方向へ均等にずれる第2状態との間で切り換え可能に構成されている。以て、第1状態において、各ガイドリングに装着したガイド筒の筒出口が、マンドレルの軸心方向に沿って接近配置してあることを特徴とする。
【0009】
具体的には、各ガイドリングのひとつを固定フレームに固定支持し、他のガイドリングは固定支持されたガイドリングに対して周方向へ回転自在に連結する。位相切換構造は、回転変位できるガイドリングのひとつを切り換え操作する操作器と、隣接する各ガイドリングの間に設けられる位置決め構造を含んで構成する。
【0010】
直線筒状に形成したガイド筒を各ガイドリングに装着固定する。少なくともひとつのガイドリングに装着したガイド筒を傾斜させて、筒出口を接近配置する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、相対回転自在に連結される複数個のガイドリングと、各ガイドリングの周方向に配置される一群のガイド筒と、可動側のガイドリングを回転操作する位相切換構造などでヘリカル巻ヘッドを構成した。また、可動側のガイドリングを位相切換構造で回転操作することにより、各ガイドリングにおけるガイド筒の位相位置が一致する第1状態と、ガイド筒の位相位置が周方向へ均等にずれる第2状態とに切り換えられるようにした。
【0012】
上記のフィラメントワインディング装置によれば、各ガイドリングを位相切換構造で第1状態と第2状態とに切り換えて、ヘリカル巻ヘッド21から供給される繊維束Rの本数を、繊維束Rの巻付角度が異なるごとに変更できる。したがって、本発明装置によれば、繊維束の巻付角度が異なるヘリカル巻処理を能率よく行うことができ、しかも、繊維束Rの巻付角度が大きい場合でも、繊維束が無駄に消費されるのを避けながら、ヘリカル巻層を適正に形成できる。また、巻付角度が異なるヘリカル巻処理を連続して行えるので、段取り変更に要する手間を一掃できる利点もある。
【0013】
また、本発明においては第1状態において、各ガイドリングに装着したガイド筒の筒出口をマンドレルの軸心方向に沿って接近配置した。このように、筒出口が接近配置してあると、繊維束Rの巻付角度が大きい状態であっても、各ガイド筒から供給される繊維束Rの巻付角度を概ね一致させて、ヘリカル巻層を適正に、しかも能率よく形成できる。
【0014】
各ガイドリングのひとつを固定フレームに固定支持し、他のガイドリングは固定支持されたガイドリングに対して周方向へ回転自在に連結するヘリカル巻ヘッドによれば、各ガイドリングの支持構造を簡素化できる。例えば2個のガイドリングでヘリカル巻ヘッドを構成する場合には、片方のガイドリングを固定支持し、残るガイドリングを先のガイドリングに対して相対回転可能に連結すればよく、可動部分を片方のガイドリングに限ることができるからである。
【0015】
また、回転変位できるガイドリングのひとつを切り換え操作する操作器と、隣接する各ガイドリングの間に設けられる位置決め構造などで位相切換構造を構成すると、位置決め構造によって可動側のガイドリングの回転限界を規定できる。したがって、操作器による切り換え機能と、位置決め構造による位置決め機能とを個別に行って、位相切換構造の構造を単純化できるにもかかわらず、ガイドリングを常に正確に切り換え操作できる。
【0016】
各ガイドリングに直線筒状のガイド筒を装着固定し、少なくともひとつのガイドリングに装着されるガイド筒を傾斜させて筒出口を接近配置するヘリカル巻ヘッドによれば、ガイド筒の取付構造を単純化して、その分だけヘリカル巻ヘッドの構造を簡素化できる。これにより、各ガイドリングの加工の手間を削減できるうえ、組立や補修に掛かる手間を軽減できる。例えば、ガイド筒の中途部をく字状に折り曲げて筒出口を接近配置するような場合には、ガイド筒の各ガイドリングに対する固定構造が複雑になるため、加工や組立、あるいは補修に多くの手間が掛かるのを避けられない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例) 図1ないし図8は本発明に係るフィラメントワインディング装置(以下単にワインディング装置と言う)の実施例を示す。図2および図3においてワインディング装置は、図示していない繊維束供給構造と、巻付装置とで構成する。巻付装置は、左右に長い基台1の上部に配置されてマンドレルMを支持する支持台2と、フープ巻装置3と、ヘリカル巻装置4と、図示していないマンドレル交換装置などで構成する。支持台2およびフープ巻装置3は、それぞれ図示していない駆動機構で基台1の長手方向に沿って往復駆動できる。ヘリカル巻装置4は、基台1の中央位置に固定してあり、先の繊維束供給構造で支持された一群のクリールから送給される繊維束RをマンドレルMに送給案内する。
【0018】
最終製品が圧力容器である場合のマンドレルMは、高強度アルミニウム材、ステンレス材などの金属製容器からなる。必要があれば、プラスチック製の容器でマンドレルMを構成することもある。この実施例ではマンドレルMが、図2に示すように中央の円筒部と、円筒部の左右両端に連続するドーム部と、ドーム部の頂部に突設される口部とを一体に備えている場合について説明する。繊維束Rは、例えばガラス繊維や炭素繊維の束からなり、先のクリールに巻き込まれた状態の繊維束Rには、予め熱硬化性樹脂が含浸させてある。なお、クリールから繰り出された繊維束Rに樹脂を含浸させたのち、ヘリカル巻装置4に送給してもよい。
【0019】
支持台2は、基台1上の前後一対のレール7で移行案内されるベース8と、ベース8の両側端に立設される支持腕9・9と、両支持腕9・9の上端対向面に設けられるチャック10などで構成する。マンドレルMの左右両側には一対の取付治具11が固定してあり、これらの取付治具11を先のチャック10で掴み固定することにより、マンドレルMが左右の支持腕9・9の間に支持される。片方のチャック10は、図示していない駆動構造で回転駆動されてマンドレルMを同行回転させる。両支持腕9・9は、マンドレルMの交換を容易化するために、ベース8に対して起立姿勢から横臥姿勢へ倒伏できるように組み付けてある。
【0020】
フープ巻装置3は、基台1上のレール14で移行案内されるフレーム15と、フレーム15で回転自在に支持される円盤状の巻掛テーブル16と、巻掛テーブル16を回転駆動する駆動機構(図示していない)などで構成する。巻掛テーブル16の一側には、フープ巻時に繊維束を供給する複数個のボビン17が、テーブル周縁に沿って等間隔おきに配置してある。巻掛テーブル16の板面中央には、マンドレルMの往復移動を許す円形の開口が形成してある。この開口の開口面とマンドレルMとが直交する状態で、巻掛テーブル16を回転駆動しながらフープ巻装置3の全体を往復移動させることにより、マンドレルMの周面にフープ巻層を形成することができる。
【0021】
図2ないし図4においてヘリカル巻装置4は、基台1に立設される固定フレーム20と、固定フレーム20で支持されるヘリカル巻ヘッド21と、繊維束の一群をヘリカル巻ヘッド21へ向かって変向案内するガイドローラー(ガイド構造)22などで構成する。固定フレーム20の板面中央には、マンドレルMの往復移動を許す円形の開口20aが形成され(図5参照)、開口20aの周囲の板面に先のガイドローラー22が配置してある。繊維束供給構造から供給される繊維束Rは、固定フレーム20の前後両側に配置した変向ローラー23で案内されたのち、張力調整構造24を通過してヘリカル巻ヘッド21へと送給される。張力調整構造24は、後述する左右のガイドリング27・28に対応して、固定フレーム20の前後両側に一対ずつ配置してある(図3参照)。
【0022】
ヘリカル巻ヘッド21は、隣接配置される2個のガイドリング27・28と、各ガイドリング27・28の周方向に沿って等間隔おきに配置される一群のガイド筒31と、可動側のガイドリング28を回転操作する位相切換構造32などで構成する。この実施例では、図面を簡略化するために各ガイドリング27・28に装着されるガイド筒31の数を12個に限っているが、実際には数十個から百数十個もの一群のガイド筒31をガイドリング27・28に装着する。なお、ヘリカル巻を行う場合の繊維束Rの適正本数は、マンドレルMの直径寸法と、繊維束Rの巻付幅および巻付角度(図3に符号θで示す角度)を変数にして算出することができる。
【0023】
上記のガイドリング27・28のうち、一方のガイドリング27は固定フレーム20に設けた開口20aの周縁壁に固定し、他方のガイドリング28は、固定されたガイドリング27に対して回転自在に連結する。可動側のガイドリング28の側端には補助フレーム30が固定してある。補助フレーム30の板面中央には、マンドレルMの往復移動を許す円形の開口30aが形成され、開口30aの周囲の板面にガイドローラー22が配置してある(図5参照)。
【0024】
ガイド筒31は直線状の丸筒からなり、全体が傾斜する状態で各ガイドリング27・28にねじ込み固定してある。詳しくは、固定側のガイドリング27においては、ガイド筒31を、その筒出口31aが可動側のガイドリング28の内面内方を指向する状態に傾斜させている。また、可動側のガイドリング28においては、ガイド筒31を、その筒出口31aが固定側のガイドリング27の内面内方を指向する状態に傾斜させている。このように、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の傾斜角度を同じにし、傾斜する向きを逆向きとすることにより、各ガイド筒31の筒出口31aを可能な限り接近する状態で配置することができる。これにより、両筒出口31a・31aは、後述する第1状態において各ガイドリング27・28の隣接方向の中央部分で隣接する。その意味は後述する。
【0025】
マンドレルMの軸心に沿って隣接配置した両ガイドリング27・28は、図6に示すように連結する。固定側リング27の接合部にリング周面より小径の連結軸34を形成し、可動側リング28の接合部の内面に連結軸34に外嵌する連結穴35を形成する。さらに、可動側リング28の接合部分の周囲4箇所に、連結穴35で開口する位置決め溝36を形成する(図7参照)。両リング27・28を接合して連結穴35と連結軸34を嵌合し、さらに位置決め溝36に挿通した六角穴付ボルト37を連結軸34にねじ込むことにより、両リング27・28が相対回転可能に連結される。これにより、可動側のガイドリング28が、固定側のガイドリング27に対して分離不能に、しかも位置決め溝36と六角穴付ボルト37によって規定される範囲内で往復回転変位可能に連結される。
【0026】
位相切換構造32は、可動側のガイドリング28を切り換え操作するエアーシリンダー(操作器)40と、隣接する両ガイドリング27・28の間に設けられる位置決め構造とで構成する。図8に示すように、エアーシリンダー40のピストンロッドの端部は、補助フレーム30の下部に設けたブラケット42にピン43で連結し、エアーシリンダー40のシリンダー側の端部はブラケット44にピン45で連結する。後者ブラケット44は、固定フレーム20、あるいは基台1に固定する。これにより、図8に実線で示す状態から想像線で示すようにピストンロッドを伸長変位させると、補助フレーム30および可動側のガイドリング28を反時計回転方向へ回転操作することができる。また、ピストンロッドをシリンダー内へ退入移動させると、補助フレーム30および可動側のガイドリング28を時計回転方向へ回転操作することができる。位置決め構造は、先に説明した位置決め溝36と六角穴付ボルト37とが兼ねている。
【0027】
上記のように、両ガイドリング27・28を相対回転可能に連結し、さらに位相切換構造32で可動側のガイドリング28を回転操作することにより、両ガイドリング27・28に設けたガイド筒31の位相を、二つの状態に切り換えることができる。そのひとつは、図4に示すように、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の位相位置が一致する第1状態である。二つめは、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の位相位置が周方向へ均等にずれる第2状態(図8に実線と想像線で示す状態)である。第1状態から第2状態に切り換えたときのガイド筒31のずれ量は、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の周方向の隣接ピッチの半分となる。この第2状態においては、固定フレーム20と正対するときに視認されるガイド筒31の個数は24個となる。
【0028】
第1状態においては、同じ位相位置にあるガイド筒31から繊維束Rが供給されるので、繊維束Rの供給本数は擬似的に12本となる。また、第2状態においては、各ガイドリング27・28のガイド筒31の位相がずれるため、第1状態のときの繊維束Rの数の2倍の供給本数でヘリカル巻が行われる。
【0029】
因みに、繊維束Rの巻付角度が小さい場合には、多数本の繊維束を互いに重なることもなく同時に巻き付けることができる。しかし、巻付角度が大きくなるの従い、隣接する繊維束Rが互いに重ならない状態で同時に巻き付けられる本数は減少する。したがって、繊維束RのマンドレルMに対する巻付角度を変更する場合には、可動側のガイドリング28を位相切換構造32で操作して、繊維束Rの供給状態を第1状態と第2状態とに切り換えることにより、マンドレルMに供給される繊維束Rの本数を変更できる。このように、繊維束Rの供給状態を変更することにより、巻付角度が二つに異なるヘリカル巻処理を、段取り変更の手間を省いて連続して行えることになる。なお、繊維束Rの巻付角度は、マンドレルMの駆動回転数と支持台2の送り速度を選定することで変更でき、マンドレルMの形状と、繊維束Rの大きさおよび供給本数によって決定される。
【0030】
先に説明したように、第1状態における各ガイドリング27・28のガイド筒31の位相位置は一致している。しかし、各ガイドリング27・28をマンドレルMの軸心に沿って隣接配置する関係で、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の軸心方向の位置にずれが生じてしまう。とくに、図1に想像線で示すように、ガイド筒31が各ガイドリング27・28の直径線に沿って放射状に装着してある場合には、各ガイド筒31の筒中心軸の位置が、マンドレルMの軸心方向に大きく位置ずれする。
【0031】
この位置ずれは、各ガイド筒31から送給される繊維束Rの巻付角度に影響を及ぼす。具体的には、固定側ガイドリング27のガイド筒31で送給案内される繊維束Rの巻付角度が、可動側ガイドリング28のガイド筒31で送給案内される繊維束Rの巻付角度より大きくなる。繊維束RがマンドレルMに外接する位置と、各ガイド筒31の筒出口31aとの間の距離が、先のずれ寸法分だけ異なるためである。
【0032】
このように、マンドレルMの軸心方向に隣接するガイド筒31から供給される繊維束Rの巻付角度が僅かに異なると、繊維束Rの巻付角度が大きな第1状態において問題を生じる。各ガイド筒31から供給される繊維束Rの巻付角度が少しずつ違う状態でヘリカル巻を行うので、繊維束Rが内外に重ならず、周方向へずれた状態でマンドレルMに巻き付けられるからである。その結果、巻層の表面に凹凸が生じる。因みに、巻付角度が小さな第2状態においては、ガイド筒31の軸心方向の位置ずれの影響が殆ど現われないので、実用上問題のない状態のヘリカル巻層を形成できる。
【0033】
上記の第1状態における繊維束Rのずれを解消するために、先に説明したように各ガイドリング27・28に設けられる各ガイド筒31の筒出口31a・31aを、両リング27・28の隣接方向の中央部分において接近配置させている。両筒出口31aの隣接間隔は小さければ小さいほどよいが、可動側のガイドリング28の回動変位を円滑に行える余裕隙間を備えている必要がある。
【0034】
以下、ワインディング装置の巻き付け動作を説明する。フープ巻を行う場合には、巻掛テーブル16をマンドレルMの円筒部の一側端に位置させ、各ボビン17から繰り出された繊維束Rを、粘着テープでマンドレルMの表面に固定する。このとき、複数本の繊維束Rを、マンドレルMの周面に沿って隙間なく平行に配置する。この状態で、巻掛テーブル16を回転駆動しながら、フレーム15をマンドレルMの円筒部の他側端へ向かって移動させて、一層めのフープ巻層H1を形成する。引き続き、フレーム15をマンドレルMの円筒部の一側端(巻付始端側)へ反転移動させることにより、二層めのフープ巻層H1を形成できる。さらにフープ巻層H1を形成する場合には、先と同様にして巻付処理を必要回数行う。
【0035】
フープ巻層H1の外面にヘリカル巻層H2を形成する場合には、図2に示すようにフープ巻装置3を基台1の一側端に退避させる。ヘリカル巻装置4は、可動側のガイドリング28をエアーシリンダー40で回転操作して第1状態に保持し、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の位相位置を一致させておく。並行して支持台2を移動操作し、マンドレルMの口部の基端をヘリカル巻装置4のガイドリング27・28の内面に臨ませ、各ガイド筒31から引き出された繊維束Rを粘着テープで口部の周面に固定する。このとき、各ガイドリング27・28において位相が一致するガイド筒31から引き出された繊維束Rを、内外に重なる状態で口部の周面に固定する。
【0036】
上記の準備作業が終了したのち、チャック10およびマンドレルMを回転駆動しながら支持台2を一定速度で移動させて、先のフープ巻層H1の外面にヘリカル巻層H2を形成する。このときの繊維束Rの供給状態は第1状態であるので、繊維束Rの巻付角度が大きな状態でヘリカル巻が行われる。本発明においては、位相が一致するガイド筒31の筒出口31aを可能な限り近接させている。したがって、巻付角度が大きい状態でヘリカル巻を行っても、位相が一致するガイド筒31から送給される繊維束Rを、内外に重ねた状態で巻装でき、各繊維束Rが周方向へずれることはなく、適正にヘリカル巻層H2を形成できる。図3に、ヘリカル巻装置4より右側のマンドレルMの表面にフープ巻層H1が形成され、ヘリカル巻装置4より左側のフープ巻層H1の外面にヘリカル巻層H2が形成された状態を示している。
【0037】
マンドレルMの全体がヘリカル巻ヘッド21一方向へくぐり抜けた状態では、内外に二層のヘリカル巻層H2が形成されている。同様にして、支持台2をそれまでとは逆向きに移動させながらヘリカル巻を行うことにより、先のヘリカル巻層H2の外面に、二層のヘリカル巻層H2が形成される。さらにヘリカル巻層H2を形成する場合には、先と同様にして巻付処理を必要回数行う。
【0038】
巻付角度が大きなヘリカル巻処理に連続して、巻付角度が小さなヘリカル巻処理を連続して行うことができる。その場合には、可動側のガイドリング28をエアーシリンダー40で時計回転方向へ変位操作して第2状態に保持し、各ガイドリング27・28におけるガイド筒31の位相位置を異ならせておく。各ガイド筒31の位相位置を周方向へ均等にずらすことにより、全ての繊維束Rは、先のヘリカル巻層H2の周面に沿って隙間なく平行に配置される。この状態で、チャック10およびマンドレルMを回転駆動しながら支持台2を一方向へ一定速度で移動させることにより、巻付角度が小さなヘリカル巻層H2を形成することができる。
【0039】
また、支持台2をそれまでとは逆向きに移動させながらヘリカル巻を行うことにより、巻付角度が小さなヘリカル巻層H2を同様に形成することができる。ヘリカル巻処理が終了したら、繊維束Rを切断したのち、切断端を口部に粘着テープで固定する。以上のようにして、フープ巻とヘリカル巻とを交互に行ったのち、マンドレルMを支持台2から取り外して加熱処理し、繊維束Rに含浸させた樹脂を硬化させることにより、補強層とマンドレルMとからなる圧力容器が得られる。
【0040】
図9は、ヘリカル巻ヘッド21の別の実施例を示す。そこでは、隣接配置される3個のガイドリング27・28・29と、各リング27・28・29の周方向に沿って等間隔おきに配置される一群のガイド筒31と、右側端のガイドリング29を回転操作する位相切換構造32などでヘリカル巻ヘッド21を構成する。上記のガイドリング27・28・29のうち、図9に向かって左端のガイドリング27は固定フレーム20に設けた開口20aの周縁壁に固定する。中央のガイドリング28は、固定されたガイドリング27に対して回転自在に連結する。さらに、図9に向かって右端のガイドリング29は、中央のガイドリング28に対して回転自在に連結する。
【0041】
中央のガイドリング28と固定されたガイドリング27、および右端のガイドリング29と中央のガイドリング28とは、それぞれ図6および図7で説明した連結構造によって、相対回転可能に連結してある。但し、第2状態におけるガイド筒31のずれ量は、各ガイドリング27・28・29におけるガイド筒31の周方向の隣接ピッチの3分の1であるので、位置決め溝36の周方向長さはその分だけ短く形成してある。右端のガイドリング29の側端には補助フレーム30を固定し、補助フレーム30の板面中央に円形の開口30aを形成し、開口30aの周囲の板面にガイドローラー22を配置する。なお、中央のガイドリング28に向かって繊維束Rを案内するガイドローラー22は、固定フレーム20に設ける。
【0042】
この実施例では、第1状態における繊維束Rのずれを解消するために、各ガイドリング27・28・29に設けられる各ガイド筒31の筒出口31a・31a・31aを、中央のガイドリング28の内面の幅方向中央において接近配置させている。詳しくは、中央のガイドリング28においては、ガイド筒31をガイドリング28の直径線に沿って放射状に装着する。また、固定側ガイドリング27と、右端のガイドリング29においては、ガイド筒31を互いに逆向きに傾斜させる。これにより、隣接する3個のガイド筒31の筒出口31a・31a・31aを近接させることができる。
【0043】
以上のように構成したヘリカル巻ヘッド21によれば、可動側の2個のガイドリング28・29を位相切換構造32で回転操作することにより、各ガイド筒31の位相が一致する第1状態と、各ガイド筒31の位相が均等にずれる第2状態とに切り換えることができる。なお、エアーシリンダー40は、補助フレーム30を介して右端のガイドリング29を回転操作するが、このガイドリング29が限界位置まで回転変位したのち、中央のガイドリング28が回転操作される。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0044】
各ガイドリング27・28・29を第1状態に切り換えると、各ガイド筒31の位相を一致させ、さらに3個の筒出口31a・31a・31aをマンドレルMの軸心方向に沿って接近させることができる。これにより、各ガイド筒31から送給された繊維束RのマンドレルMに対する巻付角度を概ね一致させて、3本の繊維束Rを内外に重ねた状態で巻き付けることができる。したがって、巻付角度が大きな状態でヘリカル巻を行っても、巻層を適正に形成できる。また、同時に3本の繊維束Rを供給しながらヘリカル巻を行うので、ワインディング処理をさらに能率よく行うことができる。各ガイドリング27・28・29を第2状態に切り換えると、3個の筒出口31a・31a・31aの位相を均等にずらして、巻付角度が小さな状態でヘリカル巻を行える。とくにマンドレルMの直径寸法が大きい場合に、ワインディング処理を能率よく行うことができる。
【0045】
図1に示す実施例では、固定側と可動側の両ガイドリング27・28に装着されるガイド筒31のそれぞれを、互いに逆向きに傾斜させたがその必要はない。例えば、固定側のガイドリング27に装着されるガイド筒31を、図9の中央に位置するガイド筒31と同様に、ガイドリング27の直径線に沿って放射状に装着する。そのうえで、可動側のガイドリング28に装着されるガイド筒31のみを、先のガイド筒31へ向かって大きく傾斜させて、各ガイド筒31の筒出口31a・31aを接近させる。この場合には、両筒出口31a・31aが固定側のガイドリング27の内面内方において接近配置される。なお、固定側のガイドリング27に装着されるガイド筒31のみを大きく傾斜させて、両筒出口31a・31aを可動側のガイドリング28の内面内方において接近配置することもできる。
【0046】
上記の実施例以外に、ガイド筒31は直線筒状に形成する必要はなく、その筒出口31aの側が、隣接するガイド筒31の側へ向かって曲げてあってもよい。位相切換構造32は、隣接するガイドリング27・28の間に設けることができる。可動側のガイドリング28を回転操作する操作器40は、エアーシリンダー以外にソレノイドや電動シリンダーなどを適用することができる。位置決め構造は、各ガイドリングの連結構造とは別の専用の構造として形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ヘリカル巻ヘッドの概略構造を示す断面図である。
【図2】フィラメントワインディング装置の正面図である。
【図3】フィラメントワインディング装置の平面図である。
【図4】図3におけるA−A線断面図である。
【図5】図4におけるB−B線断面図である。
【図6】図8におけるC−C線断面図である。
【図7】図6におけるD−D線断面図である。
【図8】ガイドリングの位相をずらした状態の側面図である。
【図9】ヘリカル巻ヘッドの別の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
20 固定フレーム
21 ヘリカル巻ヘッド
27 ガイドリング
28 ガイドリング
31 ガイド筒
31a 筒出口
32 位相切換機構
M マンドレル
R 繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルの周面に繊維束を巻き付けるヘリカル巻装置を備えているフィラメントワインディング装置であって、
前記ヘリカル巻装置は、基台に立設される固定フレームと、前記固定フレームで支持されるヘリカル巻ヘッドとを含み、
前記ヘリカル巻ヘッドは、前記マンドレルの軸心に沿って隣接配置されて、周方向へ相対回転自在に連結される複数個のガイドリングと、各ガイドリングの周方向に沿って等間隔おきに配置される一群のガイド筒と、可動側のガイドリングを回転操作する位相切換構造を含み、
前記各ガイドリングが前記位相切換構造で、各ガイドリングにおけるガイド筒の位相位置が一致する第1状態と、各ガイドリングにおけるガイド筒の位相位置が周方向へ均等にずれる第2状態との間で切り換え可能に構成されており、
前記第1状態において、前記各ガイドリングに装着した前記ガイド筒の筒出口が、前記マンドレルの軸心方向に沿って接近配置してあることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
前記各ガイドリングのひとつが前記固定フレームに固定支持され、他のガイドリングが固定支持されたガイドリングに対して周方向へ回転自在に連結されており、
前記位相切換構造が、回転変位できる前記ガイドリングのひとつを切り換え操作する操作器と、隣接する前記各ガイドリングの間に設けられる位置決め構造を含んで構成してある請求項1記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
直線筒状に形成した前記ガイド筒が前記各ガイドリングに装着固定されており、
少なくともひとつの前記ガイドリングに装着した前記ガイド筒を傾斜させて、前記筒出口が接近配置してある請求項1又は2記載のフィラメントワインディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−119803(P2009−119803A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298704(P2007−298704)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】