フィルタ、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置
【課題】入力端子と2つの出力端子間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去することで、バランス型フィルタの抑圧度を向上する。
【解決手段】入力端子2cと、入力端子2cに入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子21,22と、フィルタ素子21,22から信号を差動出力する第1の出力端子2a及び第2の出力端子2bとを備えたバランス型のフィルタであって、入力端子2cと第1の出力端子2a及び第2の出力端子2bのうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量C3が接続されている。
【解決手段】入力端子2cと、入力端子2cに入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子21,22と、フィルタ素子21,22から信号を差動出力する第1の出力端子2a及び第2の出力端子2bとを備えたバランス型のフィルタであって、入力端子2cと第1の出力端子2a及び第2の出力端子2bのうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量C3が接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、フィルタ、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される無線通信機器のマルチバンド/システム化が進み、1台の電話機に複数の無線装置が搭載されるようになっている。複数の無線装置を搭載することにより無線通信機器が大型化することが懸念されているが、受信段間フィルタを省略してバランス出力とした受信フィルタを搭載することで、無線装置の小型化を図る方法がある。特許文献1は、バランス出力を有する受信フィルタを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−318308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バランス型フィルタは、入力端子と一方の出力端子との間、および入力端子と他方の出力端子との間に、それぞれ橋絡容量が生じる場合がある。橋絡容量が生じると、入力端子から入力される信号がフィルタを通らずに、橋絡容量にバイパスされてしまう。この時、2つの橋絡容量が同じ値であれば、入出力端子間のバイパスの影響は同相となるため、バランス変換の際に相殺される。しかし、2つの橋絡容量は、実際の弾性波フィルタを用いたバランス型フィルタ(ダブルモード型弾性波フィルタ等)では、バランス変換を実行するために、一般的には互いに異なる値となる。このように、橋絡容量の値が異なる(アンバランス)と、入出力端子間のバイパスの影響は相殺されないため、受信フィルタにおいて抑圧劣化が生じるという問題があった。
【0005】
本願の目的は、入力端子と2つの出力端子間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去することで、バランス型フィルタの抑圧度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示するフィルタは、入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されているものである。
【発明の効果】
【0007】
本願に開示によれば、バランス型フィルタの抑圧度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アンテナデュープレクサを使用するFDD(Frequency Division Duplex)方式携帯電話の1つの周波数バンドに対応する無線部のブロック図
【図2】図1に示す無線部から受信段間フィルタ104と送信段間フィルタ108とを削除した無線部のブロック図
【図3】バランス型アンテナデュープレクサのブロック図
【図4】受信フィルタの入出力間に発生する橋絡容量C1、C2の概念を示した図
【図5】本実施の形態にかかるフィルタの概念を示す図
【図6】本実施の形態にかかるバランス型フィルタの一例である受信フィルタの模式図
【図7】橋絡容量C1の値が0.03pF、橋絡容量C2の値が0.05pFのフィルタに、静電容量C3を付加した場合と付加しない場合における、受信フィルタの周波数特性を示す特性図
【図8】バランス型アンテナデュープレクサのブロック図
【図9】図8における受信フィルタ32の具体構成を示す模式図
【図10】静電容量が付加された受信フィルタを備えたデュープレクサと、静電容量が付加されていない受信フィルタを備えたデュープレクサの、送受信間のアイソレーション特性を示す特性図
【図11】本実施の形態にかかる受信フィルタの配線レイアウトを示す模式図
【図12】静電容量の配置パターンを示す図
【図13】通信モジュールのブロック図
【図14】通信装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0009】
フィルタは、入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されているものである。この構成においては、弾性波素子内に存在する入力端子と2つの出力端子間のそれぞれに存在する橋絡容量のアンバランスを低減でき、抑圧度向上を実現することが可能となる。
【0010】
フィルタにおいて、前記フィルタ素子は、ダブルモード型弾性波フィルタであり、前記静電容量は、前記ダブルモード型弾性波フィルタの入力端子と出力端子との間に接続されている構成とすることができる。
【0011】
フィルタにおいて、前記入力端子から前記第1の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性と、前記入力端子から前記第2の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性とが異なる構成とすることができる。このような構成とすることにより、入出力端子間に存在する橋絡容量のアンバランスやその他の影響よる同相成分のアンバランスを同時に低減でき、抑圧度を向上することが可能となる。
【0012】
フィルタにおいて、前記フィルタ素子は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間に接続された第1のダブルモード型弾性波フィルタと、前記入力端子と前記第2の出力端子との間に接続された第2のダブルモード型弾性波フィルタとを備え、第1のダブルモード型弾性波フィルタ及び第2のダブルモード型弾性波フィルタは、それぞれ入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとを備え、前記静電容量は、前記第1のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差と、前記第2のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差のうち、電位差が小さい方の経路に接続されている構成とすることができる。
とすることで、橋絡容量が小さいほうの経路のダブルモード型SAWフィルタに静電容量を付加することになり、もともと存在する橋絡容量のアンバランスを低減でき、抑圧度を向上することが可能となる。
【0013】
フィルタにおいて、前記静電容量は、前記フィルタ素子上に形成されている構成とすることができる。このような構成とすることにより、フィルタのサイズを大型化することなく静電容量を追加でき、小型のまま抑圧度向上が可能となり、さらに望ましい構造となる。
【0014】
(実施の形態)
〔1.フィルタの構成〕
近年、携帯電話に代表される無線通信機器のマルチバンド/システム化が進み、1台の電話機に複数の無線装置が搭載されるようになっている。このため、無線部における回路の複雑化や、使用部品の増大が深刻な問題となっている。
【0015】
図1は、アンテナデュープレクサを使用するFDD(Frequency Division Duplex)方式携帯電話の1つの周波数バンドに対応する無線部を示す。図1に示す無線部は、アンテナ101、デュープレクサ102、LNA(Low Noise Amplifier)103、受信段間フィルタ104、LNA105、受信回路106、送信回路107、送信段間フィルタ108、パワーアンプ109を備えている。マルチバンド携帯電話では、例えば図1に示す無線部が、周波数バンド分搭載されることになり、機器の大型化を招くという問題があった。
【0016】
図2は、図1に示す無線部から受信段間フィルタ104と送信段間フィルタ108とを削除した無線部を示す。図2に示すように、無線部から受信段間フィルタ104を削除した場合、デュープレクサ102の受信ポート102aがバランス出力でなければならなくなる。また、受信段間フィルタ104での不要波の抑圧機能をデュープレクサ102で受け持つことになる。つまり、アンテナ−受信端子間での高減衰特性(送信帯域)が要求されることになる。さらには、減衰すべき最大の不要波は、送信信号の受信側への漏れであることを考慮すると、デュープレクサ102としては、送信−受信端子間アイソレーション(送信帯域)をも向上することが重要となる。
【0017】
このように、受信段間フィルタ104が削除されたシステムでのデュープレクサ102においては、受信ポート102aがバランス出力であり、かつ、高減衰、高アイソレーションの特性を有するものが要求されることになる。
【0018】
図3は、バランス型アンテナデュープレクサのブロック図である。図3に示すように、バランス型アンテナデュープレクサは、シングルエンド型の送信フィルタ1、シングルエンド−バランス変換型の受信フィルタ2、および整合回路3を備えている。送信フィルタ1には、1つの送信端子1a(シングル入力)が接続されている。受信フィルタ2には、2つの受信端子2a及び2b(バランス出力)が接続されている。整合回路3には、アンテナに接続されたアンテナ端子4が接続されている。
【0019】
ここで、上述のアンテナ−受信端子間における送信帯域の減衰特性向上、および送信帯域における送信−受信間アイソレーション向上を達成するには、バランス型フィルタである受信フィルタ2の抑圧度向上が必須となる。そこで、バランス型フィルタの抑圧度向上を阻害する要因について考える。1つの要因としては、フィルタ内に存在する入出力端子間の橋絡容量(図4におけるC1、C2)の影響がある。図4は、受信フィルタ2の入出力間に発生する橋絡容量C1、C2の概念を示した図である。図4に示すように、受信フィルタ2内に橋絡容量C1、C2が存在すると、受信フィルタ2の入力端子2cに入力される信号は、フィルタ素子5を介さずに、橋絡容量C1、C2を介して出力端子2a及び2b側へ送られる。すなわち、入力端子2cに入力される信号は、受信フィルタ2をバイパスする。したがって、受信フィルタ2における抑圧度の劣化が生じる。
【0020】
受信フィルタ2のようなバランス型フィルタの場合、橋絡容量C1、C2が同一の大きさであれば、橋絡容量C1、C2を介した入出力端子間のバイパスの影響は同相同士であるため、バランス変換することで相殺される。しかしながら、実際の弾性波フィルタを用いたバランス型フィルタ(ダブルモード型SAWフィルタ等)では、バランス変換を実行するために、一般にはC1≠C2となってしまい、橋絡容量C1、C2のアンバランスの影響による抑圧劣化を免れてはいなかった。
【0021】
特開2005−318308号公報は、バランス型フィルタにおいて2つの入出力端子間経路にそれぞれ橋絡容量が存在することを開示しているが、2つの入出力端子間の橋絡容量はどちらもCcと記され、同一と見なされている。つまり、橋絡容量のアンバランスについては開示されておらず、理想的に同一の橋絡容量が存在する場合のみが示されている。さらに、特開2005−318308号公報は、バランス性を阻害する他の要因として、共通GNDインダクタンスLg3を開示しているが、その解決策としては、共通GNDインダクタンスLg3を低減することだけを開示しており、他の補正方法に関する記載はされていない。
【0022】
図5は、本実施の形態にかかるフィルタの概念を示す図である。図5に示すように、弾性波フィルタを用いたバランス型フィルタである受信フィルタ2は、入力端子2cと、2つの出力端子2a及び2bのうちいずれか一方の出力端子(図5に示す例では出力端子2a)との間に、静電容量C3が接続されている。このように、静電容量C3を接続することにより、入力端子2cと2つの出力端子2a及び2bとの間のそれぞれの経路に存在する橋絡容量のアンバランスを低減し、抑圧向上を実現することができる。なお、図5に示すフィルタは、橋絡容量C1、C2の値がC1<C2の関係にある場合であって、橋絡容量C1に静電容量C3を並列接続して入力端子2cと出力端子2aとの間の合成容量を増加させ、橋絡容量C2とのバランスを確保している。橋絡容量C1、C2がC1>C2の関係にある場合は、橋絡容量C2に静電容量C3を並列接続することで、受信フィルタ2の入出力間の2つの橋絡容量のバランスを確保することができる。すなわち、入力端子2c−出力端子2aの経路および入力端子2c−出力端子2bの経路のうち、少なくともいずれか一方の経路に任意の値の静電容量を接続することにより、受信フィルタ2の入出力間の2つの橋絡容量のバランスを確保することができる。以下、上記概念の本実施の形態にかかるフィルタの具体構成について説明する。
【0023】
図6は、本実施の形態にかかるバランス型フィルタの一例である受信フィルタの模式図である。図6に示す受信フィルタは、通過帯域2110〜2170MHz、阻止域1920〜1980MHzで設計されたダブルモード型SAWフィルタを備えている。図6に示す受信フィルタは、逆相および同相出力の2つのダブルモード型SAWフィルタ21及び22を接続したフィルタである。
【0024】
ダブルモード型SAWフィルタ21は、入力IDT電極21a、出力IDT電極21b及び21cを備えている。入力IDT電極21aは、入力端子2cに接続されている。出力IDT電極21b及び21cは、出力端子2aに接続されている。入力IDT電極21aは、対向する位置に、接地された接地IDT電極21hが配されている。出力IDT電極21bは、対向する位置に、接地された接地IDT電極21iが配されている。出力IDT電極21cは、対向する位置に、接地された接地IDT電極21jが配されている。入力IDT電極21a、出力IDT電極21b及び21cの配列方向の両端部には、それぞれ反射器21kが配されている。
【0025】
ダブルモード型SAWフィルタ22は、入力IDT電極22a、出力IDT電極22b及び22cを備えている。入力IDT電極22aは、入力端子2cに接続されている。出力IDT電極22b及び22cは、出力端子2bに接続されている。入力IDT電極22aは、対向する位置に、接地された接地IDT電極22hが配されている。出力IDT電極22bは、対向する位置に、接地された接地IDT電極22iが配されている。出力IDT電極22cは、対向する位置に、接地された接地IDT電極22jが配されている。入力IDT電極22a、出力IDT電極22b及び22cの配列方向の両端部には、それぞれ反射器22kが配されている。
【0026】
図6に示す受信フィルタにおいて、入力端子2cを介して入力される信号は、ダブルモード型SAWフィルタ21及び22に入力される。ダブルモード型SAWフィルタ21は、入力IDT電極21aの端部の電極指21dと出力IDT電極21bの端部の電極指21eとが同電位であり、入力IDT電極21aの端部の電極指21dと出力IDT電極21bの端部の電極指21eとが同電位である。よって、入力IDT電極21aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極21b及び21cにおいて逆相(180°反転した位相)で受信されることになる。したがって、出力端子2aから出力される信号は、入力端子2cに入力される信号に対して位相が反転(位相差180度)する。
【0027】
一方、ダブルモード型SAWフィルタ22は、入力IDT電極22aの端部の電極指22dと出力IDT電極22bの端部の電極指22eとに電位差があり、入力IDT電極22aの端部の電極指22dと出力IDT電極22bの端部の電極指22eとに電位差がある。よって、入力IDT電極22aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極22b及び22cにおいて同相で受信されることになる。したがって、出力端子2bから出力される信号は、入力端子2cに入力される信号と同相である。このように、バランス型フィルタである受信フィルタ2は、入力端子2cに入力される信号に基づき、逆相の信号を出力端子2aから出力し、同相の信号を出力端子2bから出力することができる。
【0028】
ここで、図6に示す受信フィルタは、入力端子2cと出力端子2a及び2bとの間に、それぞれ橋絡容量C1、C2が存在している。なお、図6における橋絡容量C1、C2は、受信フィルタ2内に存在する橋絡容量を等価的に示したものであり、実際にコンデンサ等が接続されているわけではない。橋絡容量C1、C2は、ダブルモード型SAWフィルタ21及び22の構造上、値がアンバランスとなってしまう。橋絡容量C1、C2は、ダブルモード型SAWフィルタ21及び22における隣り合う電極指間の電位差に基づいて生じる。例えば、ダブルモード型SAWフィルタ21における出力IDT電極21bの端部の電極指21dと、入力IDT電極21aの端部の電極指21e(電極指21dに隣り合う電極指)とは、いずれも信号電位であるため同電位であり、電極指21dと電極指21eとの間の橋絡容量は小さい値となる。同様に、入力IDT電極21aに対向する接地IDT電極の端部の電極指21fと、出力IDT電極21cに対向する接地IDT電極の端部の電極指21g(電極指21fに隣り合う電極指)とは、いずれも接地電位であるため同電位であり、電極指21fと電極指21gとの間の橋絡容量は小さい値となる。このように、ダブルモード型SAWフィルタ21においては、隣り合う電極指が同電位であるため、橋絡容量C1は小さい値となる。一方、ダブルモード型SAWフィルタ22における出力IDT電極22bの端部の電極指22dと、入力IDT電極22aの端部の電極指22e(電極指22dに隣り合う電極指)とは、電極指22dが信号電位で電極指22eが接地電位であるため異電位であり、電極指22dと電極指22eとの間の橋絡容量は大きい値となる。同様に、入力IDT電極22aに対向する接地IDT電極の端部の電極指22fと、出力IDT電極22cに対向する接地IDT電極の端部の電極指22g(電極指22fに隣り合う電極指)とは、電極指22fが信号電位で電極指22gが接地電位であるため異電位であり、電極指22fと電極指22gとの間の橋絡容量は大きい値となる。このように、ダブルモード型SAWフィルタ22においては、隣り合う電極指の電位差が大きいため、橋絡容量C2は大きい値となる。
【0029】
図6に示すフィルタにおいて、橋絡容量C1の値が0.03pF、橋絡容量C2の値が0.05pFであると仮定する。このような橋絡容量C1、C2の値のアンバランスを解消するために、橋絡容量C1側に0.02pFの容量を有する静電容量C3を付加した場合を考える。
【0030】
図7は、橋絡容量C1の値が0.03pF、橋絡容量C2の値が0.05pFのフィルタに、静電容量C3を付加した場合と付加しない場合における、受信フィルタの周波数特性を示す。図7において、実線で示す特性は、例えば図5に示すように静電容量C3を付加した受信フィルタ2の周波数特性である。破線で示す特性は、例えば図4に示すように静電容量C3を付加していない受信フィルタ2の周波数特性である。図7に示すように、受信フィルタ2に静電容量C3を付加することで、阻止域(約1920〜1980MHz)での減衰量を大きくすることができ、抑圧度を向上することができる。
【0031】
〔2.デュープレクサの構成〕
図8は、バランス型アンテナデュープレクサのブロック図である。バランス型アンテナデュープレクサは、送信フィルタ31、受信フィルタ32、インダクタ33、アンテナ端子34を備えている。送信フィルタ31は、複数の共振器をラダー型に接続したラダー型SAWフィルタを含む。本実施の形態では、7段構成のシングルエンド(シングル入力−シングル出力)型のラダー型SAWフィルタを備えた。送信フィルタ31は、送信端子31aが接続されている。受信フィルタ32は、ダブルモード型SAWフィルタを含む。受信フィルタ32は、シングル入力−バランス出力型のフィルタであり、受信端子32a及び32bが接続されている。インダクタ33は、送信フィルタ31と受信フィルタ32との間の位相整合用のインダクタである。アンテナ端子34は、アンテナ(不図示)に接続されている。図8に示すデュープレクサは、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式Band_Iの携帯電話に搭載可能であり、送信帯域は例えば1920〜1980MHz、受信帯域は例えば2110〜2170MHzである。
【0032】
図9は、図8における受信フィルタ32の具体構成を示す模式図である。図9に示す受信フィルタ32は、ダブルモード型SAWフィルタ41及び42、SAWフィルタ43〜46、入力端子47、出力端子48a及び48b、および静電容量C40を備えている。入力端子47には、SAWフィルタ43及び44が直列接続されている。SAWフィルタ44には、ダブルモード型SAWフィルタ41の入力IDT電極41a及びダブルモード型SAWフィルタ42の入力IDT電極42aが接続されている。ダブルモード型SAWフィルタ41の出力IDT電極41b及び41cは、SAWフィルタ45に接続されている。ダブルモード型SAWフィルタ42の出力IDT電極42b及び42cは、SAWフィルタ46に接続されている。SAWフィルタ45には、出力端子48aが接続されている。SAWフィルタ46には、出力端子48bが接続されている。静電容量C40は、SAWフィルタ43の入力側とSAWフィルタ45の出力側とに接続されている。
【0033】
図9に示すように、入力端子47と出力端子48aとの間に配置されたダブルモード型SAWフィルタ41においては、入力IDT電極41aと2つの出力IDT電極41b及び41cの最近接電極指同士(電極指41dと電極指41e、電極指41fと電極指41g)は、それぞれ同電位となっている。この構造においては、入力IDT電極41aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極41b及び41cにおいて逆相(180°反転した位相)で受信されることになる。これに対して、入力端子47と出力端子48bとの間に配置されたダブルモード型SAWフィルタ42においては、入力IDT電極42aと2つの出力IDT電極42b及び42cの最近接電極指同士(電極指42dと電極指42e、電極指42fと電極指42g)は、それぞれ異電位となっている。この場合、入力IDT電極42aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極42b及び42cにおいて同相で受信されることになる。このような原理で出力端子48aと出力端子48bとから、180°位相が異なる信号を出力することができる。
【0034】
ここで、入力端子47と出力端子48aとを結ぶ経路、及び入力端子47と出力端子48b間とを結ぶ経路に存在する橋絡容量について説明する。橋絡容量が発生する一つの原因は、入力IDT電極と出力IDT電極との間の最近接電極指間に発生する容量である。図9に示すように、ダブルモード型SAWフィルタ41とダブルモード型SAWフィルタ42の最近接電極指の電位は、アンバランス−バランス変換を実現するために、それぞれ異なる。具体的には、ダブルモード型SAWフィルタ41内の一組の最近接電極指間は接地同士になっており、ここで発生する静電容量は橋絡容量とは見なされなくなる。この結果、入力端子47と出力端子48aとの間に存在する橋絡容量は、入力端子47と出力端子48bとの間に存在する橋絡容量よりも小さいと考えられ、橋絡容量のアンバランスが存在することになる。このような橋絡容量のアンバランスを解消するために、図9に示すように、入力端子47と出力端子48aとの間に静電容量C40を接続することが好ましい。静電容量C40の値は、例えば3fFである。
【0035】
図10は、3fFの値を有する静電容量が付加された受信フィルタを備えたデュープレクサと、静電容量が付加されていない受信フィルタを備えたデュープレクサの、送受信間のアイソレーション特性を示す。図10において、実線の特性は、3fFの静電容量を付加した受信フィルタを備えたデュープレクサにおけるアイソレーション特性を示す。破線の特性は、静電容量が付加されていない受信フィルタを備えたデュープレクサにおけるアイソレーション特性を示す。図10の実線に示す特性結果を得るために使用したデュープレクサにおいて、送信フィルタおよび受信フィルタは42°回転Yカットのタンタル酸リチウム(LiTaO3)基板上に形成され、アルミニウム(Al)を主成分とする電極材料を用いて作製された。図10に示すように、受信フィルタの入出力間に3fFの静電容量C40を接続することによって、最大10dB以上のアイソレーション向上が見られた。
【0036】
図11は、本実施の形態にかかる受信フィルタの配線レイアウトを示す模式図である。図11に示すように、受信フィルタは、42°回転YカットのLiTaO3基板50上に形成した。基板50上には、ダブルモード型SAWフィルタ51及び52、SAW共振器53〜56、入力端子57等の配線パターンが形成されている。図11に示す配線パターンは、図9に示す受信フィルタの具体的な配線パターンの一例を示す。
【0037】
前述したように本実施の形態においては、入力IDT電極と出力IDT電極との間の最近接電極指間の電位差に着目して、静電容量を追加する経路を決定した。なぜなら、本実施の形態で作製した受信フィルタの配線レイアウトは、図11に示すように、入力端子57−出力端子58aの経路と、入力端子57−出力端子58bの経路とがほぼ同等であり、橋絡容量のアンバランスが存在する箇所がダブルモード型SAWフィルタ51及び52における入力IDT電極と出力IDT電極との間の最近接電極指間であると考えられたからである。このような橋絡容量のアンバランスを低減するために、入力端子57と出力端子58aとの間に静電容量59を接続した。静電容量59は、入力端子57から引き出されAlを主成分とする配線パターン59aと、出力端子58aから引き出されAlを主成分とする配線パターン59bと、配線パターン59aと配線パターン59bとの間の空隙59cとにより形成されている。配線パターン59a及び59bの寸法(入力端子57や出力端子58aからの長さ寸法、空隙59cの寸法L等)は、所望のアイソレーション向上が実現されるように、実験により決定することができる。例えば、静電容量59の値は、空隙59cの幅寸法Lに反比例するため、配線パターン59a及び59bの長さを調整して空隙59cの幅寸法Lを調整することにより、静電容量59の値を任意に調整することができる。
【0038】
なお、本実施の形態においては、図11に示すように、入力端子57と出力端子58aとから配線を引き出して静電容量59を追加したが、橋絡容量のアンバランスの発生箇所はダブルモード型SAWフィルタ51及び52であるので、少なくともダブルモード型SAWフィルタ51及び52を挟むように配置すれば、どのような配置であっても同等の効果が得られる。
【0039】
例えば、弾性表面波フィルタの配線レイアウトにアンバランスが存在する場合、入力端子57−出力端子58b側の経路に静電容量を追加してもよい。すなわち、配線レイアウトおよび最近接電極指間の容量等を考慮して、橋絡容量が多い方の経路に静電容量を付加すれば、抑圧向上の効果がより得られる。
【0040】
また、図12に示す符号C41〜C47のうちいずれか一つに示すように静電容量を接続してもよい。静電容量C40〜C43は、入力端子47−出力端子48a側の経路に接続した例であり、ダブルモード型SAWフィルタ41の入出力間に並列に接続した例である。静電容量C44〜C47は、入力端子47−出力端子48b側の経路に接続した例であり、ダブルモード型SAWフィルタ42の入出力間に並列に接続した例である。
【0041】
〔3.通信モジュールの構成〕
図13は、本実施の形態にかかるフィルタを備えた通信モジュールの一例を示す。図13に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62aは、本実施の形態にかかるフィルタを備えている。
【0042】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0043】
本実施の形態にかかるフィルタを通信モジュールに備えることで、受信フィルタ62aにおける抑圧度を向上することができる。また、受信フィルタ62a−送信フィルタ62b間におけるアイソレーションを向上することができる。
【0044】
さらには、図13の通信モジュール内において、アンテナ端子61と受信端子63aとの間、あるいはアンテナ端子61と受信端子63bとの間に、静電容量を接続することで、両端子間橋絡容量のアンバランスをさらに補正することができる。
【0045】
なお、図13に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本実施の形態にかかるフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0046】
〔4.通信装置の構成〕
図14は、本実施の形態にかかるフィルタ、または前述の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図14に示す通信装置は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図14に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77〜80は、本実施の形態にかかるフィルタを備えている。
【0047】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。
【0048】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0049】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0050】
本実施の形態にかかるフィルタ、または通信モジュールを通信装置に備えることで、受信フィルタ62aにおける抑圧度を向上することができる。また、受信フィルタ73a、77〜80におけるアイソレーションを向上することができる。
【0051】
〔5.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、バランス型フィルタに含まれる複数のダブルモード型SAWフィルタのうち少なくともいずれか一方に、任意の値の静電容量を接続したことにより、複数のダブルモード型フィルタにおいて生じる橋絡容量のアンバランスを抑制することができる。よって、フィルタの抑圧度を向上することができる。また、フィルタのアイソレーションを向上することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、2つのダブルモード型SAWフィルタのうちいずれか一方に静電容量を接続する構成としたが、2つのダブルモード型SAWフィルタにおいて生じる橋絡容量のアンバランスを抑制することができれば、2つのダブルモード型SAWフィルタにそれぞれ静電容量を接続してもよい。
【0053】
本実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
【0054】
(付記1)
入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、
前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されている、フィルタ。
【0055】
(付記2)
前記静電容量は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間および前記入力端子と前記第2の出力端子との間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去可能な値を有する、付記1記載のフィルタ。
【0056】
(付記3)
前記入力端子から前記第1の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性と、前記入力端子から前記第2の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性とが異なる、付記1または2に記載のフィルタ。
【0057】
(付記4)
前記フィルタ素子は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間に接続された第1のダブルモード型弾性波フィルタと、前記入力端子と前記第2の出力端子との間に接続された第2のダブルモード型弾性波フィルタとを備え、
第1のダブルモード型弾性波フィルタ及び第2のダブルモード型弾性波フィルタは、それぞれ入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとを備え、
前記静電容量は、前記第1のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差と、前記第2のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差のうち、電位差が小さい方の経路に接続されている、付記1記載のフィルタ。
【0058】
(付記5)
前記静電容量は、前記フィルタ素子上に形成されている、付記1記載のフィルタ。
【0059】
(付記6)
送信信号を出力する送信フィルタと、アンテナから入力される信号をフィルタリングする受信フィルタとを備えたデュープレクサであって、
前記受信フィルタは、付記1〜5のうちいずれか一項に記載のフィルタを備えた、デュープレクサ。
【0060】
(付記7)
付記1〜5のうちいずれか一項に記載のフィルタを備えた、通信モジュール。
【0061】
(付記8)
付記1〜5のうちいずれか一項に記載のフィルタを備えた、通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本願に開示は、フィルタ、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置に有用である。
【符号の説明】
【0063】
2 受信フィルタ
21、22 ダブルモード型SAWフィルタ
C3、C40 静電容量
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、フィルタ、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される無線通信機器のマルチバンド/システム化が進み、1台の電話機に複数の無線装置が搭載されるようになっている。複数の無線装置を搭載することにより無線通信機器が大型化することが懸念されているが、受信段間フィルタを省略してバランス出力とした受信フィルタを搭載することで、無線装置の小型化を図る方法がある。特許文献1は、バランス出力を有する受信フィルタを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−318308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バランス型フィルタは、入力端子と一方の出力端子との間、および入力端子と他方の出力端子との間に、それぞれ橋絡容量が生じる場合がある。橋絡容量が生じると、入力端子から入力される信号がフィルタを通らずに、橋絡容量にバイパスされてしまう。この時、2つの橋絡容量が同じ値であれば、入出力端子間のバイパスの影響は同相となるため、バランス変換の際に相殺される。しかし、2つの橋絡容量は、実際の弾性波フィルタを用いたバランス型フィルタ(ダブルモード型弾性波フィルタ等)では、バランス変換を実行するために、一般的には互いに異なる値となる。このように、橋絡容量の値が異なる(アンバランス)と、入出力端子間のバイパスの影響は相殺されないため、受信フィルタにおいて抑圧劣化が生じるという問題があった。
【0005】
本願の目的は、入力端子と2つの出力端子間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去することで、バランス型フィルタの抑圧度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示するフィルタは、入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されているものである。
【発明の効果】
【0007】
本願に開示によれば、バランス型フィルタの抑圧度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アンテナデュープレクサを使用するFDD(Frequency Division Duplex)方式携帯電話の1つの周波数バンドに対応する無線部のブロック図
【図2】図1に示す無線部から受信段間フィルタ104と送信段間フィルタ108とを削除した無線部のブロック図
【図3】バランス型アンテナデュープレクサのブロック図
【図4】受信フィルタの入出力間に発生する橋絡容量C1、C2の概念を示した図
【図5】本実施の形態にかかるフィルタの概念を示す図
【図6】本実施の形態にかかるバランス型フィルタの一例である受信フィルタの模式図
【図7】橋絡容量C1の値が0.03pF、橋絡容量C2の値が0.05pFのフィルタに、静電容量C3を付加した場合と付加しない場合における、受信フィルタの周波数特性を示す特性図
【図8】バランス型アンテナデュープレクサのブロック図
【図9】図8における受信フィルタ32の具体構成を示す模式図
【図10】静電容量が付加された受信フィルタを備えたデュープレクサと、静電容量が付加されていない受信フィルタを備えたデュープレクサの、送受信間のアイソレーション特性を示す特性図
【図11】本実施の形態にかかる受信フィルタの配線レイアウトを示す模式図
【図12】静電容量の配置パターンを示す図
【図13】通信モジュールのブロック図
【図14】通信装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0009】
フィルタは、入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されているものである。この構成においては、弾性波素子内に存在する入力端子と2つの出力端子間のそれぞれに存在する橋絡容量のアンバランスを低減でき、抑圧度向上を実現することが可能となる。
【0010】
フィルタにおいて、前記フィルタ素子は、ダブルモード型弾性波フィルタであり、前記静電容量は、前記ダブルモード型弾性波フィルタの入力端子と出力端子との間に接続されている構成とすることができる。
【0011】
フィルタにおいて、前記入力端子から前記第1の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性と、前記入力端子から前記第2の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性とが異なる構成とすることができる。このような構成とすることにより、入出力端子間に存在する橋絡容量のアンバランスやその他の影響よる同相成分のアンバランスを同時に低減でき、抑圧度を向上することが可能となる。
【0012】
フィルタにおいて、前記フィルタ素子は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間に接続された第1のダブルモード型弾性波フィルタと、前記入力端子と前記第2の出力端子との間に接続された第2のダブルモード型弾性波フィルタとを備え、第1のダブルモード型弾性波フィルタ及び第2のダブルモード型弾性波フィルタは、それぞれ入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとを備え、前記静電容量は、前記第1のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差と、前記第2のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差のうち、電位差が小さい方の経路に接続されている構成とすることができる。
とすることで、橋絡容量が小さいほうの経路のダブルモード型SAWフィルタに静電容量を付加することになり、もともと存在する橋絡容量のアンバランスを低減でき、抑圧度を向上することが可能となる。
【0013】
フィルタにおいて、前記静電容量は、前記フィルタ素子上に形成されている構成とすることができる。このような構成とすることにより、フィルタのサイズを大型化することなく静電容量を追加でき、小型のまま抑圧度向上が可能となり、さらに望ましい構造となる。
【0014】
(実施の形態)
〔1.フィルタの構成〕
近年、携帯電話に代表される無線通信機器のマルチバンド/システム化が進み、1台の電話機に複数の無線装置が搭載されるようになっている。このため、無線部における回路の複雑化や、使用部品の増大が深刻な問題となっている。
【0015】
図1は、アンテナデュープレクサを使用するFDD(Frequency Division Duplex)方式携帯電話の1つの周波数バンドに対応する無線部を示す。図1に示す無線部は、アンテナ101、デュープレクサ102、LNA(Low Noise Amplifier)103、受信段間フィルタ104、LNA105、受信回路106、送信回路107、送信段間フィルタ108、パワーアンプ109を備えている。マルチバンド携帯電話では、例えば図1に示す無線部が、周波数バンド分搭載されることになり、機器の大型化を招くという問題があった。
【0016】
図2は、図1に示す無線部から受信段間フィルタ104と送信段間フィルタ108とを削除した無線部を示す。図2に示すように、無線部から受信段間フィルタ104を削除した場合、デュープレクサ102の受信ポート102aがバランス出力でなければならなくなる。また、受信段間フィルタ104での不要波の抑圧機能をデュープレクサ102で受け持つことになる。つまり、アンテナ−受信端子間での高減衰特性(送信帯域)が要求されることになる。さらには、減衰すべき最大の不要波は、送信信号の受信側への漏れであることを考慮すると、デュープレクサ102としては、送信−受信端子間アイソレーション(送信帯域)をも向上することが重要となる。
【0017】
このように、受信段間フィルタ104が削除されたシステムでのデュープレクサ102においては、受信ポート102aがバランス出力であり、かつ、高減衰、高アイソレーションの特性を有するものが要求されることになる。
【0018】
図3は、バランス型アンテナデュープレクサのブロック図である。図3に示すように、バランス型アンテナデュープレクサは、シングルエンド型の送信フィルタ1、シングルエンド−バランス変換型の受信フィルタ2、および整合回路3を備えている。送信フィルタ1には、1つの送信端子1a(シングル入力)が接続されている。受信フィルタ2には、2つの受信端子2a及び2b(バランス出力)が接続されている。整合回路3には、アンテナに接続されたアンテナ端子4が接続されている。
【0019】
ここで、上述のアンテナ−受信端子間における送信帯域の減衰特性向上、および送信帯域における送信−受信間アイソレーション向上を達成するには、バランス型フィルタである受信フィルタ2の抑圧度向上が必須となる。そこで、バランス型フィルタの抑圧度向上を阻害する要因について考える。1つの要因としては、フィルタ内に存在する入出力端子間の橋絡容量(図4におけるC1、C2)の影響がある。図4は、受信フィルタ2の入出力間に発生する橋絡容量C1、C2の概念を示した図である。図4に示すように、受信フィルタ2内に橋絡容量C1、C2が存在すると、受信フィルタ2の入力端子2cに入力される信号は、フィルタ素子5を介さずに、橋絡容量C1、C2を介して出力端子2a及び2b側へ送られる。すなわち、入力端子2cに入力される信号は、受信フィルタ2をバイパスする。したがって、受信フィルタ2における抑圧度の劣化が生じる。
【0020】
受信フィルタ2のようなバランス型フィルタの場合、橋絡容量C1、C2が同一の大きさであれば、橋絡容量C1、C2を介した入出力端子間のバイパスの影響は同相同士であるため、バランス変換することで相殺される。しかしながら、実際の弾性波フィルタを用いたバランス型フィルタ(ダブルモード型SAWフィルタ等)では、バランス変換を実行するために、一般にはC1≠C2となってしまい、橋絡容量C1、C2のアンバランスの影響による抑圧劣化を免れてはいなかった。
【0021】
特開2005−318308号公報は、バランス型フィルタにおいて2つの入出力端子間経路にそれぞれ橋絡容量が存在することを開示しているが、2つの入出力端子間の橋絡容量はどちらもCcと記され、同一と見なされている。つまり、橋絡容量のアンバランスについては開示されておらず、理想的に同一の橋絡容量が存在する場合のみが示されている。さらに、特開2005−318308号公報は、バランス性を阻害する他の要因として、共通GNDインダクタンスLg3を開示しているが、その解決策としては、共通GNDインダクタンスLg3を低減することだけを開示しており、他の補正方法に関する記載はされていない。
【0022】
図5は、本実施の形態にかかるフィルタの概念を示す図である。図5に示すように、弾性波フィルタを用いたバランス型フィルタである受信フィルタ2は、入力端子2cと、2つの出力端子2a及び2bのうちいずれか一方の出力端子(図5に示す例では出力端子2a)との間に、静電容量C3が接続されている。このように、静電容量C3を接続することにより、入力端子2cと2つの出力端子2a及び2bとの間のそれぞれの経路に存在する橋絡容量のアンバランスを低減し、抑圧向上を実現することができる。なお、図5に示すフィルタは、橋絡容量C1、C2の値がC1<C2の関係にある場合であって、橋絡容量C1に静電容量C3を並列接続して入力端子2cと出力端子2aとの間の合成容量を増加させ、橋絡容量C2とのバランスを確保している。橋絡容量C1、C2がC1>C2の関係にある場合は、橋絡容量C2に静電容量C3を並列接続することで、受信フィルタ2の入出力間の2つの橋絡容量のバランスを確保することができる。すなわち、入力端子2c−出力端子2aの経路および入力端子2c−出力端子2bの経路のうち、少なくともいずれか一方の経路に任意の値の静電容量を接続することにより、受信フィルタ2の入出力間の2つの橋絡容量のバランスを確保することができる。以下、上記概念の本実施の形態にかかるフィルタの具体構成について説明する。
【0023】
図6は、本実施の形態にかかるバランス型フィルタの一例である受信フィルタの模式図である。図6に示す受信フィルタは、通過帯域2110〜2170MHz、阻止域1920〜1980MHzで設計されたダブルモード型SAWフィルタを備えている。図6に示す受信フィルタは、逆相および同相出力の2つのダブルモード型SAWフィルタ21及び22を接続したフィルタである。
【0024】
ダブルモード型SAWフィルタ21は、入力IDT電極21a、出力IDT電極21b及び21cを備えている。入力IDT電極21aは、入力端子2cに接続されている。出力IDT電極21b及び21cは、出力端子2aに接続されている。入力IDT電極21aは、対向する位置に、接地された接地IDT電極21hが配されている。出力IDT電極21bは、対向する位置に、接地された接地IDT電極21iが配されている。出力IDT電極21cは、対向する位置に、接地された接地IDT電極21jが配されている。入力IDT電極21a、出力IDT電極21b及び21cの配列方向の両端部には、それぞれ反射器21kが配されている。
【0025】
ダブルモード型SAWフィルタ22は、入力IDT電極22a、出力IDT電極22b及び22cを備えている。入力IDT電極22aは、入力端子2cに接続されている。出力IDT電極22b及び22cは、出力端子2bに接続されている。入力IDT電極22aは、対向する位置に、接地された接地IDT電極22hが配されている。出力IDT電極22bは、対向する位置に、接地された接地IDT電極22iが配されている。出力IDT電極22cは、対向する位置に、接地された接地IDT電極22jが配されている。入力IDT電極22a、出力IDT電極22b及び22cの配列方向の両端部には、それぞれ反射器22kが配されている。
【0026】
図6に示す受信フィルタにおいて、入力端子2cを介して入力される信号は、ダブルモード型SAWフィルタ21及び22に入力される。ダブルモード型SAWフィルタ21は、入力IDT電極21aの端部の電極指21dと出力IDT電極21bの端部の電極指21eとが同電位であり、入力IDT電極21aの端部の電極指21dと出力IDT電極21bの端部の電極指21eとが同電位である。よって、入力IDT電極21aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極21b及び21cにおいて逆相(180°反転した位相)で受信されることになる。したがって、出力端子2aから出力される信号は、入力端子2cに入力される信号に対して位相が反転(位相差180度)する。
【0027】
一方、ダブルモード型SAWフィルタ22は、入力IDT電極22aの端部の電極指22dと出力IDT電極22bの端部の電極指22eとに電位差があり、入力IDT電極22aの端部の電極指22dと出力IDT電極22bの端部の電極指22eとに電位差がある。よって、入力IDT電極22aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極22b及び22cにおいて同相で受信されることになる。したがって、出力端子2bから出力される信号は、入力端子2cに入力される信号と同相である。このように、バランス型フィルタである受信フィルタ2は、入力端子2cに入力される信号に基づき、逆相の信号を出力端子2aから出力し、同相の信号を出力端子2bから出力することができる。
【0028】
ここで、図6に示す受信フィルタは、入力端子2cと出力端子2a及び2bとの間に、それぞれ橋絡容量C1、C2が存在している。なお、図6における橋絡容量C1、C2は、受信フィルタ2内に存在する橋絡容量を等価的に示したものであり、実際にコンデンサ等が接続されているわけではない。橋絡容量C1、C2は、ダブルモード型SAWフィルタ21及び22の構造上、値がアンバランスとなってしまう。橋絡容量C1、C2は、ダブルモード型SAWフィルタ21及び22における隣り合う電極指間の電位差に基づいて生じる。例えば、ダブルモード型SAWフィルタ21における出力IDT電極21bの端部の電極指21dと、入力IDT電極21aの端部の電極指21e(電極指21dに隣り合う電極指)とは、いずれも信号電位であるため同電位であり、電極指21dと電極指21eとの間の橋絡容量は小さい値となる。同様に、入力IDT電極21aに対向する接地IDT電極の端部の電極指21fと、出力IDT電極21cに対向する接地IDT電極の端部の電極指21g(電極指21fに隣り合う電極指)とは、いずれも接地電位であるため同電位であり、電極指21fと電極指21gとの間の橋絡容量は小さい値となる。このように、ダブルモード型SAWフィルタ21においては、隣り合う電極指が同電位であるため、橋絡容量C1は小さい値となる。一方、ダブルモード型SAWフィルタ22における出力IDT電極22bの端部の電極指22dと、入力IDT電極22aの端部の電極指22e(電極指22dに隣り合う電極指)とは、電極指22dが信号電位で電極指22eが接地電位であるため異電位であり、電極指22dと電極指22eとの間の橋絡容量は大きい値となる。同様に、入力IDT電極22aに対向する接地IDT電極の端部の電極指22fと、出力IDT電極22cに対向する接地IDT電極の端部の電極指22g(電極指22fに隣り合う電極指)とは、電極指22fが信号電位で電極指22gが接地電位であるため異電位であり、電極指22fと電極指22gとの間の橋絡容量は大きい値となる。このように、ダブルモード型SAWフィルタ22においては、隣り合う電極指の電位差が大きいため、橋絡容量C2は大きい値となる。
【0029】
図6に示すフィルタにおいて、橋絡容量C1の値が0.03pF、橋絡容量C2の値が0.05pFであると仮定する。このような橋絡容量C1、C2の値のアンバランスを解消するために、橋絡容量C1側に0.02pFの容量を有する静電容量C3を付加した場合を考える。
【0030】
図7は、橋絡容量C1の値が0.03pF、橋絡容量C2の値が0.05pFのフィルタに、静電容量C3を付加した場合と付加しない場合における、受信フィルタの周波数特性を示す。図7において、実線で示す特性は、例えば図5に示すように静電容量C3を付加した受信フィルタ2の周波数特性である。破線で示す特性は、例えば図4に示すように静電容量C3を付加していない受信フィルタ2の周波数特性である。図7に示すように、受信フィルタ2に静電容量C3を付加することで、阻止域(約1920〜1980MHz)での減衰量を大きくすることができ、抑圧度を向上することができる。
【0031】
〔2.デュープレクサの構成〕
図8は、バランス型アンテナデュープレクサのブロック図である。バランス型アンテナデュープレクサは、送信フィルタ31、受信フィルタ32、インダクタ33、アンテナ端子34を備えている。送信フィルタ31は、複数の共振器をラダー型に接続したラダー型SAWフィルタを含む。本実施の形態では、7段構成のシングルエンド(シングル入力−シングル出力)型のラダー型SAWフィルタを備えた。送信フィルタ31は、送信端子31aが接続されている。受信フィルタ32は、ダブルモード型SAWフィルタを含む。受信フィルタ32は、シングル入力−バランス出力型のフィルタであり、受信端子32a及び32bが接続されている。インダクタ33は、送信フィルタ31と受信フィルタ32との間の位相整合用のインダクタである。アンテナ端子34は、アンテナ(不図示)に接続されている。図8に示すデュープレクサは、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式Band_Iの携帯電話に搭載可能であり、送信帯域は例えば1920〜1980MHz、受信帯域は例えば2110〜2170MHzである。
【0032】
図9は、図8における受信フィルタ32の具体構成を示す模式図である。図9に示す受信フィルタ32は、ダブルモード型SAWフィルタ41及び42、SAWフィルタ43〜46、入力端子47、出力端子48a及び48b、および静電容量C40を備えている。入力端子47には、SAWフィルタ43及び44が直列接続されている。SAWフィルタ44には、ダブルモード型SAWフィルタ41の入力IDT電極41a及びダブルモード型SAWフィルタ42の入力IDT電極42aが接続されている。ダブルモード型SAWフィルタ41の出力IDT電極41b及び41cは、SAWフィルタ45に接続されている。ダブルモード型SAWフィルタ42の出力IDT電極42b及び42cは、SAWフィルタ46に接続されている。SAWフィルタ45には、出力端子48aが接続されている。SAWフィルタ46には、出力端子48bが接続されている。静電容量C40は、SAWフィルタ43の入力側とSAWフィルタ45の出力側とに接続されている。
【0033】
図9に示すように、入力端子47と出力端子48aとの間に配置されたダブルモード型SAWフィルタ41においては、入力IDT電極41aと2つの出力IDT電極41b及び41cの最近接電極指同士(電極指41dと電極指41e、電極指41fと電極指41g)は、それぞれ同電位となっている。この構造においては、入力IDT電極41aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極41b及び41cにおいて逆相(180°反転した位相)で受信されることになる。これに対して、入力端子47と出力端子48bとの間に配置されたダブルモード型SAWフィルタ42においては、入力IDT電極42aと2つの出力IDT電極42b及び42cの最近接電極指同士(電極指42dと電極指42e、電極指42fと電極指42g)は、それぞれ異電位となっている。この場合、入力IDT電極42aで励振された弾性表面波は、出力IDT電極42b及び42cにおいて同相で受信されることになる。このような原理で出力端子48aと出力端子48bとから、180°位相が異なる信号を出力することができる。
【0034】
ここで、入力端子47と出力端子48aとを結ぶ経路、及び入力端子47と出力端子48b間とを結ぶ経路に存在する橋絡容量について説明する。橋絡容量が発生する一つの原因は、入力IDT電極と出力IDT電極との間の最近接電極指間に発生する容量である。図9に示すように、ダブルモード型SAWフィルタ41とダブルモード型SAWフィルタ42の最近接電極指の電位は、アンバランス−バランス変換を実現するために、それぞれ異なる。具体的には、ダブルモード型SAWフィルタ41内の一組の最近接電極指間は接地同士になっており、ここで発生する静電容量は橋絡容量とは見なされなくなる。この結果、入力端子47と出力端子48aとの間に存在する橋絡容量は、入力端子47と出力端子48bとの間に存在する橋絡容量よりも小さいと考えられ、橋絡容量のアンバランスが存在することになる。このような橋絡容量のアンバランスを解消するために、図9に示すように、入力端子47と出力端子48aとの間に静電容量C40を接続することが好ましい。静電容量C40の値は、例えば3fFである。
【0035】
図10は、3fFの値を有する静電容量が付加された受信フィルタを備えたデュープレクサと、静電容量が付加されていない受信フィルタを備えたデュープレクサの、送受信間のアイソレーション特性を示す。図10において、実線の特性は、3fFの静電容量を付加した受信フィルタを備えたデュープレクサにおけるアイソレーション特性を示す。破線の特性は、静電容量が付加されていない受信フィルタを備えたデュープレクサにおけるアイソレーション特性を示す。図10の実線に示す特性結果を得るために使用したデュープレクサにおいて、送信フィルタおよび受信フィルタは42°回転Yカットのタンタル酸リチウム(LiTaO3)基板上に形成され、アルミニウム(Al)を主成分とする電極材料を用いて作製された。図10に示すように、受信フィルタの入出力間に3fFの静電容量C40を接続することによって、最大10dB以上のアイソレーション向上が見られた。
【0036】
図11は、本実施の形態にかかる受信フィルタの配線レイアウトを示す模式図である。図11に示すように、受信フィルタは、42°回転YカットのLiTaO3基板50上に形成した。基板50上には、ダブルモード型SAWフィルタ51及び52、SAW共振器53〜56、入力端子57等の配線パターンが形成されている。図11に示す配線パターンは、図9に示す受信フィルタの具体的な配線パターンの一例を示す。
【0037】
前述したように本実施の形態においては、入力IDT電極と出力IDT電極との間の最近接電極指間の電位差に着目して、静電容量を追加する経路を決定した。なぜなら、本実施の形態で作製した受信フィルタの配線レイアウトは、図11に示すように、入力端子57−出力端子58aの経路と、入力端子57−出力端子58bの経路とがほぼ同等であり、橋絡容量のアンバランスが存在する箇所がダブルモード型SAWフィルタ51及び52における入力IDT電極と出力IDT電極との間の最近接電極指間であると考えられたからである。このような橋絡容量のアンバランスを低減するために、入力端子57と出力端子58aとの間に静電容量59を接続した。静電容量59は、入力端子57から引き出されAlを主成分とする配線パターン59aと、出力端子58aから引き出されAlを主成分とする配線パターン59bと、配線パターン59aと配線パターン59bとの間の空隙59cとにより形成されている。配線パターン59a及び59bの寸法(入力端子57や出力端子58aからの長さ寸法、空隙59cの寸法L等)は、所望のアイソレーション向上が実現されるように、実験により決定することができる。例えば、静電容量59の値は、空隙59cの幅寸法Lに反比例するため、配線パターン59a及び59bの長さを調整して空隙59cの幅寸法Lを調整することにより、静電容量59の値を任意に調整することができる。
【0038】
なお、本実施の形態においては、図11に示すように、入力端子57と出力端子58aとから配線を引き出して静電容量59を追加したが、橋絡容量のアンバランスの発生箇所はダブルモード型SAWフィルタ51及び52であるので、少なくともダブルモード型SAWフィルタ51及び52を挟むように配置すれば、どのような配置であっても同等の効果が得られる。
【0039】
例えば、弾性表面波フィルタの配線レイアウトにアンバランスが存在する場合、入力端子57−出力端子58b側の経路に静電容量を追加してもよい。すなわち、配線レイアウトおよび最近接電極指間の容量等を考慮して、橋絡容量が多い方の経路に静電容量を付加すれば、抑圧向上の効果がより得られる。
【0040】
また、図12に示す符号C41〜C47のうちいずれか一つに示すように静電容量を接続してもよい。静電容量C40〜C43は、入力端子47−出力端子48a側の経路に接続した例であり、ダブルモード型SAWフィルタ41の入出力間に並列に接続した例である。静電容量C44〜C47は、入力端子47−出力端子48b側の経路に接続した例であり、ダブルモード型SAWフィルタ42の入出力間に並列に接続した例である。
【0041】
〔3.通信モジュールの構成〕
図13は、本実施の形態にかかるフィルタを備えた通信モジュールの一例を示す。図13に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62aは、本実施の形態にかかるフィルタを備えている。
【0042】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0043】
本実施の形態にかかるフィルタを通信モジュールに備えることで、受信フィルタ62aにおける抑圧度を向上することができる。また、受信フィルタ62a−送信フィルタ62b間におけるアイソレーションを向上することができる。
【0044】
さらには、図13の通信モジュール内において、アンテナ端子61と受信端子63aとの間、あるいはアンテナ端子61と受信端子63bとの間に、静電容量を接続することで、両端子間橋絡容量のアンバランスをさらに補正することができる。
【0045】
なお、図13に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本実施の形態にかかるフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0046】
〔4.通信装置の構成〕
図14は、本実施の形態にかかるフィルタ、または前述の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図14に示す通信装置は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図14に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77〜80は、本実施の形態にかかるフィルタを備えている。
【0047】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。
【0048】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0049】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0050】
本実施の形態にかかるフィルタ、または通信モジュールを通信装置に備えることで、受信フィルタ62aにおける抑圧度を向上することができる。また、受信フィルタ73a、77〜80におけるアイソレーションを向上することができる。
【0051】
〔5.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、バランス型フィルタに含まれる複数のダブルモード型SAWフィルタのうち少なくともいずれか一方に、任意の値の静電容量を接続したことにより、複数のダブルモード型フィルタにおいて生じる橋絡容量のアンバランスを抑制することができる。よって、フィルタの抑圧度を向上することができる。また、フィルタのアイソレーションを向上することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、2つのダブルモード型SAWフィルタのうちいずれか一方に静電容量を接続する構成としたが、2つのダブルモード型SAWフィルタにおいて生じる橋絡容量のアンバランスを抑制することができれば、2つのダブルモード型SAWフィルタにそれぞれ静電容量を接続してもよい。
【0053】
本実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
【0054】
(付記1)
入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、
前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されている、フィルタ。
【0055】
(付記2)
前記静電容量は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間および前記入力端子と前記第2の出力端子との間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去可能な値を有する、付記1記載のフィルタ。
【0056】
(付記3)
前記入力端子から前記第1の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性と、前記入力端子から前記第2の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性とが異なる、付記1または2に記載のフィルタ。
【0057】
(付記4)
前記フィルタ素子は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間に接続された第1のダブルモード型弾性波フィルタと、前記入力端子と前記第2の出力端子との間に接続された第2のダブルモード型弾性波フィルタとを備え、
第1のダブルモード型弾性波フィルタ及び第2のダブルモード型弾性波フィルタは、それぞれ入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとを備え、
前記静電容量は、前記第1のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差と、前記第2のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差のうち、電位差が小さい方の経路に接続されている、付記1記載のフィルタ。
【0058】
(付記5)
前記静電容量は、前記フィルタ素子上に形成されている、付記1記載のフィルタ。
【0059】
(付記6)
送信信号を出力する送信フィルタと、アンテナから入力される信号をフィルタリングする受信フィルタとを備えたデュープレクサであって、
前記受信フィルタは、付記1〜5のうちいずれか一項に記載のフィルタを備えた、デュープレクサ。
【0060】
(付記7)
付記1〜5のうちいずれか一項に記載のフィルタを備えた、通信モジュール。
【0061】
(付記8)
付記1〜5のうちいずれか一項に記載のフィルタを備えた、通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本願に開示は、フィルタ、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置に有用である。
【符号の説明】
【0063】
2 受信フィルタ
21、22 ダブルモード型SAWフィルタ
C3、C40 静電容量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、
前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されている、フィルタ。
【請求項2】
前記静電容量は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間および前記入力端子と前記第2の出力端子との間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去可能な値を有する、請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
前記入力端子から前記第1の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性と、前記入力端子から前記第2の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性とが異なる、請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記フィルタ素子は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間に接続された第1のダブルモード型弾性波フィルタと、前記入力端子と前記第2の出力端子との間に接続された第2のダブルモード型弾性波フィルタとを備え、
第1のダブルモード型弾性波フィルタ及び第2のダブルモード型弾性波フィルタは、それぞれ入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとを備え、
前記静電容量は、前記第1のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差と、前記第2のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差のうち、電位差が小さい方の経路に接続されている、請求項1記載のフィルタ。
【請求項5】
前記静電容量は、前記フィルタ素子上に形成されている、請求項1記載のフィルタ。
【請求項1】
入力端子と、前記入力端子に入力された信号をフィルタリングするフィルタ素子と、前記フィルタ素子から信号を差動出力する第1の出力端子及び第2の出力端子とを備えたバランス型のフィルタであって、
前記入力端子と、前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子のうちいずれか一方の出力端子との間に、静電容量が接続されている、フィルタ。
【請求項2】
前記静電容量は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間および前記入力端子と前記第2の出力端子との間に存在する橋絡容量のアンバランスを解消し、不要な同相成分を除去可能な値を有する、請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
前記入力端子から前記第1の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性と、前記入力端子から前記第2の出力端子に向かう経路のフィルタ通過特性とが異なる、請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記フィルタ素子は、前記入力端子と前記第1の出力端子との間に接続された第1のダブルモード型弾性波フィルタと、前記入力端子と前記第2の出力端子との間に接続された第2のダブルモード型弾性波フィルタとを備え、
第1のダブルモード型弾性波フィルタ及び第2のダブルモード型弾性波フィルタは、それぞれ入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとを備え、
前記静電容量は、前記第1のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差と、前記第2のダブルモード型弾性波フィルタにおける入力インターディジタルトランスデューサと出力インターディジタルトランスデューサとの間の最近接電極指同士間の電位差のうち、電位差が小さい方の経路に接続されている、請求項1記載のフィルタ。
【請求項5】
前記静電容量は、前記フィルタ素子上に形成されている、請求項1記載のフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−49755(P2011−49755A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195544(P2009−195544)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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