説明

フィルタ回路

【課題】 可変する回路定数を減らし、かつ、回路定数の可変範囲を同じにしても、Qの変動が大きくならないようにする。
【解決手段】 VCVS型の2次HPF20B、30Bを縦続接続し、HPF20Bの内、抵抗値を大から小へ可変したときカットオフ周波数が低から高へ変化し、Qが大から小へ変化する抵抗R22と、HPF30Bの内、抵抗値を大から小へ可変したときカットオフ周波数が低から高へ変化し、Qが小から大へ変化する抵抗R32を互いに連動して抵抗値が可変するようにする。可変抵抗R22とR32を連動して可変したとき、各HPF20B、30BのQが相補的に変動するようにしたので、Qの変動を小さく抑えることができる。各HPF20B、30Bはカットオフ周波数の可変範囲、Qに対する設計自由度が高く、R22とR32の可変範囲を同じにしながらQがほぼ一定にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルタ回路に係り、とくに周波数特性の可変なフィルタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
2ウェイ方式のスピーカシステムに用いられるオーディオ装置では、各スピーカの再生帯域を制限するためにオーディオ信号をチャンネルデバイダで低域成分と高域成分に周波数分割して低域用と高域用の別個のパワーアンプで電力増幅し、低音用スピーカと中・高音用スピーカを駆動するようにしている。チャンネルデバイダのLPFとHPFには、VCVS型(電圧ソース型)、多重帰還形等の種々のタイプがあり、カットオフ周波数を可変できるものもある。
図1にVCVS型の2次HPFの一般的な回路例を示す。入力端子INと差動増幅器OP1の非反転入力端子(+)の間に、コンデンサC1、C2が直列に接続されており、C1、C2の接続点と差動増幅器OP1の出力端子の間に抵抗R1、差動増幅器OP1の非反転入力端子(+)とグランド間に抵抗R2が接続されている。差動増幅器OP1の出力端子はフィルタ回路の出力端子OUTと反転入力端子(−)にも接続されている。今、電圧と電流を図1の如く決め、C1、C2のインピーダンスをZ1、Z2とすると、
V1−V3=Z1I1 (1)
V3−V4=Z2I2 (2)
V3−V2=R1I3 (3)
V4− 0=R2I2 (4)
I1=I2+I3 (5)
V4=V2 (6)
の関係が成立する。
これらを連立させて各電流とV3を消去し、Z1=1/sC1、Z2=1/sC2として入力端子INからの出力端子OUTまでの伝達関数H(s)=V2(s)/V1(s)を求めると、
H(s)=s2 R1R2C1C2/{s2 R1R2C1C2+sR1(C1+C2)+1} (7)
となる。(7)式はゲイン1のHPFを示し、カットオフ周波数fcとQ(先鋭度)は各々次のようになる。
fc=(1/2π)√(1/R1R2C1C2) (8)
Q={1/(C1+C2)}√(R2C1C2/R1) (9)
なお、√(X)はXの平方根を表す。
【0003】
(8)式から、R1またはR2を可変することでカットオフ周波数fcを可変できることがわかる。但し、R1またはR2を可変したとき(9)式からQが変動してしまい、周波数−ゲイン特性にピークが生じることがある。(8)、(9)式から、R1とR2を、比を一定に保ちながら可変することでカットオフ周波数fcの可変時にQを一定に保つことができることがわかる。図2に2連の可変抵抗器を用いて2つの抵抗比を一定に保ちながら連動して可変できるようにした回路例を示す。
図2は図1と同様のVCVS型の2次HPFであり、図1のR1を抵抗R11と可変抵抗R12に置き換え、R2を抵抗R21と可変抵抗R22に置き換え、可変抵抗R12とR22を2連可変抵抗器(2連VR)10で構成し、カットオフ周波数fcを可変としたものである。一例としてC1=C2=0.22μF、R11=11kΩ、R21=27kΩ、R12=0〜20kΩ、R22=0〜50kΩとすれば2連可変抵抗器10を回すことで、R1=R11+R12、R2=R21+R22として、R1:R2≒2:5、Q≒0.8の関係を保ちながらカットオフ周波数fcを14.81〜41.98Hzの範囲で可変することができる。このカットオフ周波数可変特性(周波数−ゲイン特性)を図3に示す。G31はR12=20kΩ、R22=50kΩ、fc=14.81Hz、G32はR12=10.8kΩ、R22=27kΩ、fc=21.08Hz、G33はR12=4.58kΩ、R22=11.45kΩ、fc=29.56Hz、G34はR12=2.02kΩ、R22=5.05kΩ、fc=35.41Hz、G35はR12=0kΩ、R22=0Ω、fc=41.98Hzである。
【0004】
周波数特性の遷移域をより急峻にしたい場合は、図2のVCVS型の2次HPFを2組用意して図4の如くシリーズ接続し、4次HPFを構成すれば良い。この場合、前段の2次HPF20のR21、R22と後段の2次HPF30のR32、R42は4連可変抵抗器40により構成し、互いに連動して、R1=R11+R12、R2=R21+R22、R3=R31+R32、R4=R41+R42として、R1:R2=R3:R4≒2:5の関係を保ちながらカットオフ周波数fcを可変することができる。このカットオフ周波数可変特性(周波数−ゲイン特性)を図5に示す。R12、R22、R32、R42を連動して大から小へと可変したとき、周波数−ゲイン特性はG51、G52、G53、G54、G55の順に変化する。
【0005】
ところで、図2の例の場合、2連可変抵抗器10は可変抵抗範囲が異なる2種類の抵抗体を有する特殊なタイプとしなければならず構成が複雑で高価となり、図4の例では、4連可変抵抗器40は可変抵抗範囲の異なる2種類の抵抗体を2組有するタイプとしなければならず構成がより複雑で大型なものとなってしまう。図2の2連可変抵抗器10として1種類の可変抵抗範囲を有する通常のタイプを使用し、R11=R21とし、R12=R22=0〜Rmaxとすることが考えられるが、R11+R12=R21+R22とするとQが最大でも0.5と小さくなり過ぎてしまう。また、R11≠R21にしたとしても、R12=R22の場合は、R1=R11+R12とR2=R21+R22の比が一定にならないので、カットオフ周波数fcを可変したときのQの変動が大きくなってしまう。このQの変動を目立たなくするには、Qをそれほど大きくすることはできない。C1=C2=0.47μF、R11=12kΩ、R21=9.1kΩ、とし、R12=R22=0〜50kΩの範囲で可変したときのQは0.63〜0.46の範囲で変動する。このときのカットオフ周波数可変特性を図6に示す。G61はR12=R22=50kΩ、fc=7.25Hz、G62はR12=R22=27kΩ、fc=10.79Hz、G63はR12=R22=11.45kΩ、fc=17.30Hz、G64はR12=R22=5.05kΩ、fc=23.76Hz、G65はR12=R22=0Ω、fc=34.48Hzである。
【0006】
また、VCVS型の2次HPFを2組シリーズ接続して4次フィルタとする場合、図7の如く、前段の2次HPF20Aのみに1種類の可変抵抗範囲を有する2連可変抵抗器10を用い、後段の2次HPF20Aは回路定数を固定として簡単化した構成が従来から使用されている。前段のC1=C2=0.47μF、R11=12kΩ、R21=9.1kΩ、とし、R12=R22=0〜50kΩの範囲で可変するとき、前段の2次HPF20Aを単独で見たQは0.63〜0.46の範囲で変動する(図6参照)。後段のC1=C2=0.47μF、R1=16kΩ、R2=36kΩとすると、後段の2次HPF20Aを単独で見たカットオフ周波数fc=14.11、Q=0.75となる(図8参照)。このときの4次フィルタ全体のカットオフ周波数可変特性を図9に示す。R12、R22を連動して大から小へと可変したとき、周波数−ゲイン特性はG91、G92、G93、G94、G95の順に変化する。図5に比して肩特性がなだらかなことがわかる。
【0007】
VCVS型の2次LPFにおいても、従来から2連可変抵抗器を用いてカットオフ周波数を可変とするフィルタ回路が提案されているが、上述したHPFの場合と同様に、1種類の可変抵抗範囲を有する通常のタイプを使用すると、Qの変動が大きくなってしまう欠点がある(特許文献1)。
こように、従来のカットオフ周波数可変フィルタでは、設計の自由度が小さく、Qの変動が大きくならないようにすることと、多連可変抵抗器の構成を簡単化することの両立が難しかった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−107588号公報の図7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した従来技術の問題に鑑み、設計の自由度が高く、連動して可変させる複数の回路定数可変素子の可変範囲を同じにしてもQの変動が大きくならないようにできるフィルタ回路を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフィルタ回路は、複数のアクティブフィルタを縦続接続したフィルタ回路において、前記各アクティブフィルタに、回路定数が可変することで全体の周波数特性を可変させる回路定数可変素子を設け、各回路定数可変素子は連動して回路定数が可変するようにするとともに、各回路定数可変素子を可変したとき、各アクティブフィルタのQが相補的に変動するようにしたこと、を特徴としている。
前記回路定数可変素子は多連の可変抵抗としても良い。
また、前記各アクティブフィルタは2次のVCVS型フィルタとしても良く、或いは2次の多重帰還型フィルタとしても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、縦続接続した各アクティブフィルタに回路定数可変素子を設け、各回路定数可変素子は連動して回路定数が可変するようにするとともに、各回路定数可変素子を可変したとき、各アクティブフィルタのQが相補的に変動するようにしたので、全体としてQの変動が小さくなる。加えて、各アクティブフィルタの設計自由度が高くなり、各回路定数可変素子の可変範囲を同じにしながらQがほぼ一定にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の最良の形態を実施例に基づき説明する。
【実施例1】
【0013】
図10を参照して本発明の第1実施例を説明する。図10は本発明に係るフィルタ回路の構成を示す回路図である。
図10において、INは入力端子、20Bと30Bは各々VCVS型の2次HPFであり、シリーズ接続されて遷移域の急峻な4次HPFが形成されている。前段の2次HPF20Bは、入力端子INと差動増幅器OP1の非反転入力端子(+)の間に、コンデンサC1、C2が直列に接続されており、C1、C2の接続点と差動増幅器OP1の出力端子の間に抵抗R1、差動増幅器OP1の非反転入力端子(+)とグランド間に抵抗R21と可変抵抗R22が直列接続されている。差動増幅器OP1の出力端子は後段の2次HPF30Bの入力側と反転入力端子(−)にも接続されている。2次HPF30Bは、2次HPF部20Bの出力側と差動増幅器OP2の非反転入力端子(+)の間に、コンデンサC3、C4が直列に接続されており、C3、C4の接続点と差動増幅器OP2の出力端子の間に抵抗R31と可変抵抗R32が直列に接続されている。差動増幅器OP2の非反転入力端子(+)とグランド間に抵抗R4が接続されている。差動増幅器OP2の出力端子は全体の出力端子OUTと反転入力端子(−)にも接続されている。可変抵抗R22とR32は2連可変抵抗器(2連VR)50により構成されている。
【0014】
前段の2次HPF20Bを単独で見た場合、可変抵抗R22の抵抗値を大から小へ可変すると、(8)式からカットオフ周波数fcが低から高へと変化し、この際、Qは(9)式から大から小へと変化する。
一方、後段の2次HPF30Bを単独で見た場合、可変抵抗R32の抵抗値を大から小へ可変すると、(8)式からカットオフ周波数fcが低から高へと変化し、この際、Qは(9)式から小から大へと変化する。2次HPF20BのQと30BのQは増減方向が逆向きとなっており、互いに相補的に変動する。従って、2次HPF20Bと30Bをシリーズ接続し、R22とR32を連動して可変することで、Qの変動を小さく抑えることができる。また、2次HPF20Bと30Bを各々単独で見たカットオフ周波数fcの可変範囲、Qに対する設計自由度が高いため、R22とR32の可変範囲を同じすることも簡単である。
2次HPF20BのC1=0.47μF、C2=0.68μF、R1=6.8kΩ、R21=6.8kΩ、R22=0〜50kΩとすると、2次HPF20Bを単独で見たQは1.4〜0.5の範囲で大きく変化する。2次HPF20Bの単独でのカットオフ周波数可変特性を図11に示す。G111はR2=50kΩ、fc=14.32Hz、Q=1.42、G112はR22=27kΩ、fc=18.57Hz、Q=1.10、G113はR22=11.45kΩ、fc=25.27Hz、Q=0.81、G114はR22=5.05kΩ、fc=31.36Hz、Q=0.65、G115はR22=0Ω、fc=41.40Hz、Q=0.49である。
【0015】
2次HPF30BのC3=0.15μF、C4=0.22μF、R31=6.8kΩ、R32=0〜50kΩ、R4=62kΩとすると、Qは0.5〜1.4の範囲で大きく変化する。2次HPF30Bの単独でのカットオフ周波数可変特性を図12に示す。G121はR32=50kΩ、fc=14.76Hz、Q=0.51、G122はR32=27kΩ、fc=19.14Hz、Q=0.66、G123はR32=11.45kΩ、fc=26.05Hz、Q=0.90、G124はR32=5.05kΩ、fc=32.32Hz、Q=1.12、G125はR32=0Ω、fc=42.67Hz、Q=1.48である。
図11と図12を比較すると、同じ可変範囲のR22とR32を連動して可変したとき、2次HPF20BのQと30BのQは変動幅が同程度で増減方向が逆向きとなっており、互いに相補的に変動している。2次HPF20Bと30Bを図10の如くシリーズ接続し、R22とR32を連動して大から小へ可変したとき、フィルタ回路全体の周波数−ゲイン特性は図13のG131、G132、G133、G134、G135の順に変化する。図13からフィルタ回路全体のカットオフ周波数fcは小から大へ変化し、この際、フィルタ回路全体のQの変動は小さく、0.5より大きな値でほぼ一定に保たれることがわかる。図13ではカットオフ周波数fc=40Hz付近で小さなピークが生じているが、全体としては概ね良好な4次HPFのカットオフ周波数可変特性を示している。
【0016】
この実施例によれば、VCVS型の2次HPF20Bを構成する抵抗素子の内、抵抗値を大から小へ可変したときカットオフ周波数fcが低から高へ変化し、Qが大から小へ変化する抵抗素子と、VCVS型の2次HPF30Bを構成する抵抗素子の内、抵抗値を大から小へ可変したときカットオフ周波数fcが低から高へ変化し、Qが小から大へ変化する抵抗素子とを互いに連動して抵抗値が可変するようにし、2次HPF20Bと30Bをシリーズ接続して4次HPFを構成し、各可変抵抗素子を連動して可変したとき、各2次HPF20B、30BのQが相補的に変動するようにしたので、Qの変動を小さく抑えることができる。
加えて、各2次HPF20B、30Bはカットオフ周波数fcの可変範囲、Qに対する設計自由度が高く、各可変抵抗素子の可変範囲を同じにしながらQがほぼ一定にすることができるので、可変範囲の同じ抵抗体を有する構成の簡単、安価な2連可変抵抗器を使用できる。
【実施例2】
【0017】
次に、本発明の第2実施例を説明する。まず、図14を参照して第2実施例の原理的な説明をする。図14は多重帰還型の2次HPFの一般的な回路を示す。
図14において、入力端子INと差動増幅器OP1の反転入力端子(−)の間に、コンデンサC1、C2が直列に接続されており、C1、C2の接続点と差動増幅器OP1の出力側との間にコンデンサC3、C1とC2の接続点とグランドとの間に抵抗R1が接続されている。差動増幅器OP1の反転入力端子(−)と出力側との間に抵抗R2が接続されている。差動増幅器OP1の非反転入力端子(+)はグランドと接続されており、出力側は出力端子OUTと接続されている。今、電圧と電流を図14の如く決め、C1、C2のインピーダンスをZ1、Z2とすると、
V1−V3=Z1I1 (10)
V3−V4=Z2I2 (11)
V3−V2=Z3I3 (12)
V3− 0=R1I4 (13)
V4−V2=R2I2 (14)
I1=I2+I3+I4 (15)
V4=0 (16)
の関係が成立する。
これらを連立させて各電流とV3、V4を消去し、Z1=1/sC1、Z2=1/sC2として入力端子INからの出力端子OUTまでの伝達関数H(s)=V2(s)/V1(s)を求めると、
H(s)=s2 R1R2C1C2/{s2 R1R2C2C3+sR1(C1+C3)+1} (17)
となる。カットオフ周波数fc、Q(先鋭度)、ゲインG0は各々次のようになる。
fc=(1/2π)√(1/R1R2C2C3) (18)
Q={1/(C1+C3)}√(R2C2C3/R1) (19)
G0=C1/C3 (20)
【0018】
(18)、(19)式から、R1とR2を比を一定に保ちながら可変することでカットオフ周波数fcの可変時にQを一定に保つことができることがわかる。但し、R1とR2の可変範囲を同じにすると、図1で説明したのと同様にQの変動が大きくなってしまう欠点がある。
【0019】
図15は本発明の第2実施例を示すフィルタ回路の回路図である。
図15において、INは入力端子、20Cと30Cは各々多重帰還型の2次HPFであり、シリーズ接続されて遷移域の急峻な4次HPFが形成されている。前段の2次HPF20Cは、入力端子INと差動増幅器OP1の反転入力端子(−)の間に、コンデンサC1、C2が直列に接続されており、C1、C2の接続点と差動増幅器OP1の出力側との間にコンデンサC3、C1とC2の接続点とグランドとの間に抵抗R1が接続されている。差動増幅器OP1の反転入力端子(−)と出力側との間に抵抗R21と可変抵抗R22が直列に接続されている。差動増幅器OP1の非反転入力端子(+)はグランドと接続されており、出力側は後段の2次HPF30Cと接続されている。
2次HPF30Cは、2次HPF20Cの出力側と差動増幅器OP2の反転入力端子(−)の間に、コンデンサC4、C5が直列に接続されており、C4、C5の接続点と差動増幅器OP2の出力側との間にコンデンサC6、C4とC5の接続点とグランドとの間に抵抗R31と可変抵抗R32が直列に接続されている。差動増幅器OP2の反転入力端子(−)と出力側との間に抵抗R4が接続されている。差動増幅器OP2の非反転入力端子(+)はグランドと接続されており、出力側は出力端子OUTと接続されている。可変抵抗R22とR32は2連可変抵抗器(2連VR)50により構成されている。
【0020】
前段の2次HPF20Cを単独で見た場合、可変抵抗R22の抵抗値を大から小へ可変すると、(18)式からカットオフ周波数fcが低から高へと変化し、この際、Qは(19)式から大から小へと変化する。一方、後段の2次HPF30Cを単独で見た場合、可変抵抗R32の抵抗値を大から小へ可変すると、(18)式からカットオフ周波数fcが低から高へと変化し、この際、Qは(19)式から小から大へと変化する。2次HPF20CのQと30CのQは増減方向が逆向きとなっており、互いに相補的に変動する。従って、2次HPF20Cと30Cをシリーズ接続し、R22とR32を連動して可変することで、Qの変動を小さく抑えることができる。また、2次HPF20Cと30Cを各々単独で見たカットオフ周波数fcの可変範囲、Qに対する設計自由度が高いため、R22とR32の可変範囲を同じすることも簡単である。
2次HPF20CのC1=C2=C3=0.56μF、R1=6.8kΩ、R21=6.8kΩ、R22=0〜50kΩとすると、2次HPF20Cを単独で見たQは1.4〜0.5の範囲で大きく変化する。2次HPF20Cの単独でのカットオフ周波数可変特性を図16に示す。G161はR2=50kΩ、fc=14.46Hz、Q=1.45、G162はR22=27kΩ、fc=18.75Hz、Q=1.11、G163はR22=11.45kΩ、fc=25.51Hz、Q=0.82、G164はR22=5.05kΩ、fc=31.66Hz、Q=0.66、G115はR22=0Ω、fc=41.79Hz、Q=0.50である。
【0021】
2次HPF30CのC4=C5=C6=0.18μF、R31=6.8kΩ、R32=0〜50kΩ、R4=62kΩとすると、Qは0.5〜1.4の範囲で大きく変化する。2次HPF30Cの単独でのカットオフ周波数可変特性を図17に示す。G171はR32=50kΩ、fc=14.90Hz、Q=0.52、G172はR32=27kΩ、fc=19.31Hz、Q=0.68、G173はR23=11.45kΩ、fc=26.29Hz、Q=0.92、G174はR23=5.05kΩ、fc=32.62Hz、Q=1.14、G175はR23=0Ω、fc=43.06Hz、Q=1.51である。
図16と図17を比較すると、同じ可変範囲のR22とR32を連動して可変したとき、2次HPF20CのQと30CのQは変動幅が同程度で増減方向が逆向きとなっており、互いに相補的に変動している。2次HPF20Cと30Cを図15の如くシリーズ接続し、R22とR32を連動して大から小へ可変したとき、フィルタ回路全体の周波数−ゲイン特性は図18のG181、G182、G183、G184、G185の順に変化する。図18からフィルタ回路全体のカットオフ周波数fcは小から大へ変化し、この際、フィルタ回路全体のQの変動は小さく、0.5より大きな値でほぼ一定に保たれることがわかる。図18ではカットオフ周波数fc=40Hz付近で小さなピークが生じているが、全体としては概ね良好な4次HPFのカットオフ周波数可変特性を示している。
【0022】
この実施例によれば、多重帰還型の2次HPF20Cを構成する抵抗素子の内、抵抗値を大から小へ可変したときカットオフ周波数fcが低から高へ変化し、Qが大から小へ変化する抵抗素子と、多重帰還型の2次HPF30Cを構成する抵抗素子の内、抵抗値を大から小へ可変したときカットオフ周波数fcが低から高へ変化し、Qが小から大へ変化する抵抗素子とを互いに連動して抵抗値が可変するようにし、2次HPF20Cと30Cをシリーズ接続して4次HPFを構成し、各可変抵抗素子を連動して可変したとき、各2次HPF20C、30CのQが相補的に変動するようにしたので、Qの変動を小さく抑えかつQが小さく抑えることができる。
加えて、各2次HPF20C、30Cはカットオフ周波数fcの可変範囲、Qに対する設計自由度が高く、各可変抵抗素子の可変範囲を同じにしながらQがほぼ一定でかつ小さくなり過ぎないようにすることができるので、可変範囲の同じ抵抗体を有する構成の簡単、安価な2連可変抵抗器を使用できる。
【0023】
なお、上記した各実施例では、HPFを例に挙げて説明したが、LPF、BPFなど他の種類のフィルタ回路にも同様に適用できる。また、可変素子として抵抗を例に挙げて説明したが、容量可変型のコンデンサを可変素子としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、オーディオ機器、通信機器、情報処理装置等のフィルタ回路に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のVCVS型の2次HPFの回路図である。
【図2】2連可変抵抗器を用いたカットオフ周波数可変型の2次HPFの回路図である。
【図3】図2の周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図4】4連可変抵抗器を用いたカットオフ周波数可変型の4次HPFの回路図である。
【図5】図4の周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図6】図2の2連可変抵抗器を同じ可変範囲としたときの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図7】2連可変抵抗器を用いたカットオフ周波数可変型の4次HPFの回路図である。
【図8】図7の後段の2次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図9】図7の4次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図10】本発明の第1実施例に係る4次HPFの回路図である(実施例1)。
【図11】図10の前段の2次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図12】図10の後段の2次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図13】図10の4次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図14】本発明の第2実施例の原理を説明するための多重帰還型の2次HPFの回路図である。
【図15】本発明の第2実施例に係る4次HPFの回路図である(実施例2)。
【図16】図15の前段の2次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図17】図15の後段の2次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【図18】図15の4次HPFの周波数−ゲイン特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0026】
20B、30B VCVS型の2次HPF
20C、30C 多重帰還型の2次HPF
40 2連可変抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアクティブフィルタを縦続接続したフィルタ回路において、
前記各アクティブフィルタに、回路定数が可変することで全体の周波数特性を可変させる回路定数可変素子を設け、
各回路定数可変素子は連動して回路定数を可変したとき、各アクティブフィルタのQが相補的に変動するようにしたこと、
を特徴とするフィルタ回路。
【請求項2】
前記回路定数可変素子は多連の可変抵抗としたこと、
を特徴とする請求項1記載のフィルタ回路。
【請求項3】
前記各アクティブフィルタは2次のVCVS型フィルタであること、
を特徴とする請求項1または2記載のフィルタ回路。
【請求項4】
前記各アクティブフィルタは2次の多重帰還型フィルタであること、
を特徴とする請求項1または2記載のフィルタ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−21811(P2010−21811A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180824(P2008−180824)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【出願人】(595120530)株式会社ケンウッド・エンジニアリング (22)
【Fターム(参考)】