説明

フィルタ用磁性体及び通信コネクタ。

【課題】温度変化に対して高周波成分除去効果の変化を抑制することができるフィルタ用磁性体を提供する。
【解決手段】本発明は、磁性部材と、磁性部材と一体的に取り付けられ、熱膨張率が磁性部材の熱膨張率と異なる応力発生部材と、を備えたフィルタ用磁性体である。温度変化時に応力発生部材が磁性部材内に応力を発生させ、透磁率の変化を抑制し、高周波成分除去効果の変化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ用磁性体及び通信コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載LAN等の通信ネットワークの機器をつなぐコネクタにおいては、伝送信号の高周波成分のノイズを除去するため、バスバー(バス端子)周辺にフィルタとしてフェライトを収容したコネクタが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−159311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フィルタとして用いられるフェライトは、透磁率が温度によって変化する性質がある。そのため、フェライトによる高周波成分の除去効果も温度によって変化し、ノイズ除去を良好にできない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、温度変化に対して高周波成分除去効果の変化を抑制することができるフィルタ用磁性体及び通信コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、磁性部材と、磁性部材と一体的に取り付けられ、熱膨張率が磁性部材の熱膨張率と異なる応力発生部材と、を備えたフィルタ用磁性体を提供する。
【0007】
フィルタ用磁性体として用いられるフェライトコアは、周囲温度が低い時は透磁率が小さく、周囲温度が高い時は透磁率が大きいという特性を示す。このため、フェライトコアのインピーダンス特性は、低温時には低く(高周波成分の減衰が小)、高温時には高く(高周波成分の減衰が大)なり、温度変化により高周波成分の減衰効果のばらつきが生じてしまう。これに対し、本発明のフィルタ用磁性体は、磁性部材と、磁性部材と一体的に取り付けられ、磁性部材の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する応力発生部材を備える。フィルタ用磁性体として用いられるフェライトコアの透磁率及びインピーダンスが温度上昇に伴って上昇すると、高周波成分が過度に減衰して波形鈍りが発生する場合があるが、本発明のフィルタ用磁性体においては応力発生部材が熱膨張し、磁性部材の内部に応力を発生させることによって、透磁率及びインピーダンスの上昇を抑制することができ、温度変化による高周波成分の減衰効果のばらつき幅を低減させ、高周波成分除去効果の変化を抑制することが可能となる。
【0008】
本発明のフィルタ用磁性体においては、応力発生部材の熱膨張率が磁性部材の熱膨張率よりも大きいことが好ましい。応力発生部材の熱膨張率が磁性部材の熱膨張率よりも大きいと、温度上昇時に応力発生部材が熱膨張し、磁性部材の内部に応力を発生させる。これにより、磁性体としての透磁率及びインピーダンスの上昇を抑制することができ、温度変化に対する高周波成分除去効果の変化を抑制することが可能となる。
【0009】
また、本発明のフィルタ用磁性体においては、応力発生部材が磁性部材内に取り付けられていることが好ましい。磁性部材内に応力発生部材が取り付けられると、例えば磁性部材と応力発生部材を面同士で接合するよりもフィルタ用磁性体として一体化することが容易であり、より少量の応力発生部材で磁性部材の内部に応力を発生させることも可能となる。
【0010】
さらに、本発明は上記フィルタ用磁性体をバス端子部に備える通信コネクタを提供する。上記フィルタ用磁性体をバス端子部に備える通信コネクタは、温度変化に対して高周波成分除去効果の変化を抑制することができることから、データ通信の信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度変化に対して高周波成分除去効果の変化を抑制することができるフィルタ用磁性体及び通信コネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体の構成を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体がバス端子部に装着された構成を示す概略構成図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体の低温時の断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体の高温時の断面図である。
【図5】フェライトコアの温度と透磁率の関係を示す図である。
【図6】フェライトコアの温度とインピーダンスの関係を示す図である。
【図7】フェライトコアに加わる応力とインピーダンスの関係を示す図である。
【図8】フェライトコアに加わる応力に対する透磁率の低下率を示す図である。
【図9】フェライトコアの温度とインピーダンス低下率の関係を示す図である。
【図10】本発明の第一実施形態のフィルタ用磁性体と従来例(フェライトコアのみ)の温度とインピーダンスの関係を比較して示す図である。
【図11】フィルタ用磁性体(バス端子部へ装着)とインピーダンスZを示す模式図である。
【図12】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体をハウジングに収容する第一工程を示す図である。
【図13】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体をハウジングに収容する第二工程を示す図である。
【図14】本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体をハウジングに収容する第三工程を示す図である。
【図15】磁性部材と応力発生部材を焼成し、接合する例を示す図である。
【図16】本発明の第二実施形態に係るフィルタ用磁性体における製法の第一工程を示す図である。
【図17】本発明の第二実施形態に係るフィルタ用磁性体における製法の第二工程を示す図である。
【図18】(a)及び(b)は本発明の第二実施形態に係るフィルタ用磁性体における応力発生を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体1の構成を示す概略構成図である。フィルタ用磁性体1(以下、磁性体という場合がある)は、磁性部材2と、応力発生部材3を備え、磁性部材2と応力発生部材3の面同士が接合され一体的に形成されている。
【0015】
磁性部材2は、高周波におけるノイズ成分を除去できる性質を有する。例えば、透磁率が高いことによって、信号電流などにおいて発生する磁界による磁束を収束させ、熱エネルギーなどとして消費するものであればよい。これにより、電流エネルギーの一部が磁界から電波として放出されることによって発生するノイズを除去することが可能となる。
【0016】
磁性部材2としては、透磁率が高く、高周波領域で高インピーダンス特性を示すフェライトコアを用いることが好ましい。フェライトコアは、その透磁率によって、信号電流等において発生する磁界による磁束を収束させ、熱エネルギーとして消費することによりノイズを除去することができる。フェライトコアは、例えば、信号として使われている周波数に応じて、ニッケル・亜鉛系や、マンガン・亜鉛系などのフェライトコアを用いることができる。
【0017】
応力発生部材3は、磁性部材2に一体的に取り付けられており、磁性部材2の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する。このため、温度変化時に応力発生部材3が磁性部材2と異なる割合で熱膨張するため、一体化されている磁性部材2の内部に応力を発生させることができ、透磁率及びインピーダンスの上昇を抑制することができ、温度変化による高周波成分の減衰効果のばらつき幅を低減させ、高周波成分除去効果の変化を抑制することが可能となる。なお、応力発生部材3と磁性部材2の2つの熱膨張率の差が大きすぎると、例えば磁性部材2にクラックが入ってしまうなどフィルタ用磁性体1としての一体性や機能などが損なわれてしまう恐れもあるため、2つの熱膨張率の差はフィルタ用磁性体1としての一体性や機能などが損なわれない程度のものである。
【0018】
応力発生部材3の熱膨張率は、磁性部材2の熱膨張率よりも大きいことが好ましい。応力発生部材3の熱膨張率が大きい場合には、例えば温度上昇時に応力発生部材3が磁性部材2よりも熱膨張するため、一体化されている磁性部材2の内部に応力(例えば引張応力)を発生させることができる。
【0019】
また、応力発生部材3の熱膨張率は、磁性部材2の熱膨張率よりも小さくてもよい。応力発生部材3の熱膨張率が磁性部材2よりも小さい場合には、例えば温度上昇時に応力発生部材3が磁性部材2よりも熱膨張しないため、一体化されている磁性部材2は自ら熱膨張する範囲まで膨張することができなくなる。このため、磁性部材2の内部に応力(例えば圧縮応力)を発生させることができる。
【0020】
応力発生部材3は、磁性部材2がフェライトコアである場合、磁性部材2の熱膨張率と異なる熱膨張率を有するフェライトコアであることが好ましく、より好ましくは、磁性部材2の熱膨張率より大きい膨張率を有するフェライトコアである。また、応力発生部材3は、磁性部材2の熱膨張率より小さい膨張率を有するフェライトコアであってもよい。
【0021】
図2は、フィルタ用磁性体1がバス端子部5に装着された構成を示す概略構成図である。本実施形態においては、フィルタ用磁性体1は2つの貫通孔4を備えていることが好ましい。また、この2つの貫通孔4に2つのバス端子部5が挿入され、フィルタ用磁性体1が通信コネクタのフィルタとして保持されることが好ましい。フィルタ用磁性体1は2つのバス端子部5における信号電流の高周波成分を除去することができる。また、コネクタが差動伝送方式の場合、2つのバス端子部5は+及び−の端子となる。
【0022】
図3は、低温時のフィルタ用磁性体の断面図である。低温時には磁性部材2及び応力発生部材3は大きく熱膨張せず、応力もほぼ発生しない。一方、図4に示すように、高温時には磁性部材2及び応力発生部材3は熱により膨張するが、応力発生部材3の熱膨張率が磁性部材2よりも大きい場合には、磁性部材2よりも大きく膨張する。よって、応力発生部材3と一体的に接合されている磁性部材2は、熱膨張率が応力発生部材3よりも小さいにもかかわらず応力発生部材3とともに膨張し、内部に応力(例えば、引張応力)が発生することになる。このように磁性部材2に応力が発生すると、フィルタ用磁性体1の透磁率及びインピーダンスの上昇を抑制することができ、高周波成分が過度に減衰して波形鈍りが発生することを抑制し、温度変化による高周波成分の減衰効果のばらつき幅を低減させ、高周波成分除去効果の変化を抑制することが可能となる。
【0023】
図5は、フェライトコアの温度と透磁率の関係を示す。図5に示すように、フェライトコアの透磁率(μ)は、温度が低いときには低く、温度が高くなると透磁率は高くなるという特性を示す。
【0024】
また、インピーダンスは下記式(1)から、図6に示すように、透磁率と同様に温度が低いときにはインピーダンスが低くなり、一方、温度が高くなるとインピーダンスは高くなる。
Z=k・μ・μ”・ω+jk・μ・μ’・ω ・・・(1)
(Z:インピーダンス、μ:真空の透磁率(=4・10−7)、ω:2πf(f:周波数)、k:フェライト形状による係数、j:虚数単位)
【0025】
図7は、フェライトコアに加わる応力とインピーダンスZの関係を示す。図6及び図7は、温度が低いときには応力を加えず、温度が高いほど強い応力を加えることにより、温度によるインピーダンスの変動を抑制できることを示す。
【0026】
フィルタ用磁性体1において、磁性部材2(フェライトコア)の内部に発生する応力は下記式(2)で表され、基準温度との温度差に比例する。
σ=(α2−α1)(T−T)・E/2 ・・・(2)
(σ:応力、α1:フェライトコア線膨張係数、α2:応力発生部材線膨張係数、E:縦弾性係数、T:温度、T:基準温度(応力=0となる温度))
【0027】
図8は、フェライトコアに加わる応力に対する透磁率の低下率を示す図である。図8に示すように、応力がフェライトコアである磁性部材2に加わるほど、透磁率は低下する。また、上述のとおり透磁率と比例するインピーダンスZと応力の関係も図8と同様になる。
【0028】
図9は、フェライトコアの温度とインピーダンス低下率の関係を示す図であり、図7に示す応力とインピーダンスZの関係と上記式(2)に示す応力と温度の関係から得られる特性を示す。また、図10は第一実施形態に係るフィルタ用磁性体と従来例(フェライトコアのみ)の、温度とインピーダンスの関係を比較して示す図であり、図6に示す温度とインピーダンスの関係と、図9に示す温度とインピーダンス低下率の関係の積から得られるものである。図10に示すように、第一実施形態に係るフィルタ用磁性体(a)は、応力発生部材が熱膨張するため、一体化されている磁性部材の内部に応力を発生させることができ、透磁率及びインピーダンスの上昇を抑制することから、温度変化による高周波成分の減衰効果のばらつき幅を従来例(b)よりも低減させることができる。このため、温度変化による高周波成分の減衰効果のばらつきを考慮しなくてもよくなり、フィルタ用磁性体及び通信コネクタの設計自由度が大きくなる。図11は、バス端子部5に装着したフィルタ用磁性体1とインピーダンスZを示す。
【0029】
図12は本発明の第一実施形態に係るフィルタ用磁性体をハウジングに収容する第一工程を示す図である。図12のように、磁性部材2及び応力発生部材3からなるフィルタ用磁性体1は、2つの貫通孔4に2つのバス端子部5を挿入するように準備される。次に図13に示す第二工程のように、フィルタ用磁性体1はバス端子部5の付け根部に装着される。さらに図14に示す第三工程のように、バス端子部5に装着されたフィルタ用磁性体1を収容するハウジング15が被せられ、通信コネクタ20が形成される。
【0030】
図15は、磁性部材2と応力発生部材3を焼成して接合する例を示す図である。図15のように、磁性部材2と応力発生部材3を焼成して接合し、一体的に形成する場合には、例えば、磁性部材2と応力発生部材3が熱膨張率の異なる2種類のフェライトであれば、同系の材料のため焼成により強固に接合しやすく、同系の材料同士のため他の材料を使うよりも体積効率もよいことから好ましい。
【0031】
(第2実施形態)
図16は、本発明の第二実施形態に係るフィルタ用磁性体における製法の第一工程を示す図である。第二実施形態に係るフィルタ用磁性体1は、図16のように、磁性部材2は、あらかじめ設けられている2つの貫通孔4の周辺に、応力発生部材3を充填又は圧入させるための貫通孔6が設けている点で、第一実施形態に係るフィルタ用磁性体と相違する。貫通孔6に充填又は圧入される応力発生部材3は貫通孔6の形状に合うように調製される。次に、図17に示す第二工程のように、応力発生部材3は磁性部材2の貫通孔6に充填又は圧入される。これにより、応力発生部材3は磁性部材内に一体的に形成され、フィルタ用磁性体1となる。このように、磁性部材2の内部に応力発生部材3を充填又は圧入することは、磁性部材2と応力発生部材3を第一実施形態のフィルタ用磁性体のように面同士で接合して一体化するよりも容易に一体的に形成させることができる点や、より少量の応力発生部材3で磁性部材2の内部に応力を発生させることができる点で好ましい。
【0032】
図18(a)及び(b)は本発明の第二実施形態に係るフィルタ用磁性体における応力発生を示す図である。図18(a)及び(b)のように、磁性部材2の内部に充填又は圧入された応力発生部材3は、周囲の温度が上昇すると熱膨張するが、熱膨張率が磁性部材2の熱膨張率よりも大きい場合には、応力発生部材3の周囲の磁性部材2に応力(例えば、圧縮応力)が発生する。
【0033】
なお、以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。例えば、図1等においてフィルタ用磁性体1は、応力発生部材3が磁性部材2の上面側に設けられた構成を示しているが、磁性部材2の下面側に応力発生部材3を設けてもよい。
【0034】
また、図15においては、磁性部材2と応力発生部材3が焼成により接合されているが、フィルタ用磁性体1としての機能を損なわない範囲で磁性部材2と応力発生部材3が接着剤により接合されて一体的に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1・・・フィルタ用磁性体、2・・・磁性部材、3・・・応力発生部材、4・・・2つの貫通孔、5・・・バス端子部、6・・・充填又は圧入用貫通孔、10・・ハウジング、20・・・通信コネクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性部材と、
前記磁性部材と一体的に取り付けられ、熱膨張率が前記磁性部材の熱膨張率と異なる応力発生部材と、
を備えたフィルタ用磁性体。
【請求項2】
前記応力発生部材の熱膨張率が前記磁性部材の熱膨張率よりも大きい請求項1記載のフィルタ用磁性体。
【請求項3】
前記応力発生部材が前記磁性部材内に取り付けられた請求項1又は2記載のフィルタ用磁性体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のフィルタ用磁性体をバス端子部に備える通信コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−5029(P2012−5029A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140539(P2010−140539)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】