説明

フィルタ用積層コンデンサとその製造方法

【課題】セラミックシート13a,13bの複数枚を積層一体化したセラミック積層チップ体12の内部に容量の異なる二つのコンデンサ素子14,15を並列に設けて成る積層コンデンサ11において,これをフィルタ回路に適用した場合に,高い周波数の領域における減衰特性を向上する。
【解決手段】前記二つのコンデンサ素子のうち容量の小さいコンデンサ素子15における内部電極15a,15bの積層枚数を,容量の大きいコンデンサ素子14における内部電極14a,14bの積層枚数よりも多くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,主として,電気回路におけるノイズの消去等に使用されるフィルタ用のコンデンサのうち,セラミック積層チップ体の内部に内部電極の複数枚を積層状に設けて成る積層コンデンサと,その製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,積層コンデンサを使用したフィルタ回路は,電気回路とグランドとの間に,容量の異なる二つの積層コンデンサを並列に接続することによって構成していることは良く知られている。
【0003】
すなわち,負荷2等への電気回路1とグランド3との間に,図1に示すように,一つの積層コンデンサCを介挿した場合,周波数に対する減衰量は,図2に示す減衰特性曲線のように,或る特定の周波数H1において最大値X1になるように周波数に比例して増加し,これより高い周波数領域においては,太い実線曲線A1で示すように,逆に周波数に比例して減少することになる。
【0004】
しかし,負荷2等への電気回路1とグランド3との間に,図3に示すように,容量が大きい第1積層コンデンサC1と,容量が小さい第2積層コンデンサC2との二つを並列に介挿した場合,図4に示す減衰特性曲線のように,前記第1積層コンデンサC1によって減衰量が最大値X1の周波数よりも高い周波数H2において,前記容量の小さい第2積層コンデンサC2によって減衰量を最大値X2にできることにより,高い周波数の領域(周波数のうち,前記容量の大きい第1コンデンサ素子によって減衰量が最大値X1よりも高い周波数の領域)における減衰特性が,太い実線曲線A2で示すようになるから,この高い周波数の領域における減衰特性を積層コンデンサが前記図1に示すように一つの場合よりも,改善することができる。
【0005】
一方,先行技術としての特許文献1には,セラミックシートの複数枚を積層一体化して成る一つのセラミック積層チップ体の内部に,複数個のコンデンサ素子を設けて成る多連の積層コンデンサが提案されている。
【0006】
そこで,従来は,前記多連の積層コンデンサを,一つのセラミック積層チップ体の内部に容量が大きいコンデンサ素子と容量が小さいコンデンサ素子との二つを設けて成る二連の積層コンデンサに構成し,この二連の積層コンデンサを,前記図3に示すフィルタ回路に適用することにより,容量の異なる二つの積層コンデンサを別々に組み付ける場合よりも,組み付けに要する手数を低減できるとともに,取付けスペースの縮小及び小型・軽量化を図るようにしている。
【特許文献1】特開平11−16776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,前記先行技術としての多連の積層コンデンサにおいては,一枚のセラミックシートに全てのコンデンサ素子における内部電極を形成し,このセラミックシートの複数枚を積層して一体化するという構成であることにより,この構成に基づいて,一つのセラミック積層チップ体に容量が大きい第1コンデンサ素子と容量が小さい第2コンデンサ素子との二つを設けて成る二連の積層コンデンサに構成した場合,両コンデンサ素子の各々における両端子電極間のESR(等価直列抵抗)は,その内部電極の積層枚数の増加に比例して小さくなるにもかかわらず,両コンデンサ素子における内部電極の積層枚数が同じになるという構成になっている。
【0008】
従って,前記一つのセラミック積層チップ体に設けられる二つのコンデンサ素子のうち容量の小さい第2コンデンサ素子においては,そのESRが,容量の大きい第1コンデンサ素子におけるESRよりも大きくなることにより,この容量の小さい第2コンデンサ素子による減衰量の最大値X2は,少なくとも,容量の大きい第1コンデンサ素子による減衰量の最大値X1より低くなるから,高い周波数の領域(周波数のうち,前記容量の大きい第1コンデンサ素子によって減衰率が最大値X1になる周波数よりも高い周波数の領域)における減衰量の低減,つまり,減衰特性の改善には,前記容量の小さい第2コンデンサ素子に存在する比較的大きいESRのために,一定の限界値が存在するという問題があった。
【0009】
本発明は,一つのセラミック積層チップ体に容量の異なる二つのコンデンサ素子を設けて,これをフィルタ回路に適用する場合において,前記二つのコンデンサ素子のうち容量の小さいコンデンサ素子におけるESRを低くすることにより,高い周波数の領域における減衰特性をより改善することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術的課題を達成するため本発明の積層コンデンサは,
「セラミックシートの複数枚を積層一体化したセラミック積層チップ体の内部に容量の異なる二つのコンデンサ素子を並列に設けて成る積層コンデンサにおいて,
前記二つのコンデンサ素子のうち容量の小さいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数を,容量の大きいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数よりも多くする。」
ことを特徴としている。
【0011】
また,本発明の製造方法は,
「セラミックシートの複数枚を用意する工程と,
前記各セラミックシートのうち一部の複数枚のセラミックシートに,容量の大きいコンデンサを構成する内部電極と,容量の小さいコンデンサを構成する内部電極とを並べて形成する工程と,
前記各セラミックシートのうち残りの複数枚のセラミックシートに,前記容量の小さいコンデンサを構成する内部電極を形成する工程と,
次いで,前記各セラミックシートを積層したのち焼成することによってセラミック積層チップ体にする工程と,
次いで,前記セラミック積層チップ体における両側面に,前記容量の大きいコンデンサにおける両端子電極及び前記容量の小さいコンデンサにおける両端子電極を形成する工程と,
を備えている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
積層コンデンサにおいて,その両端子電極間におけるESR(等価直列抵抗)は,当該積層コンデンサにおける内部電極の積層枚数の増加に比例して小さくなる。
【0013】
そこで,前記したように,一つのセラミック積層チップ体の内部に設けられる二つのコンデンサ素子のうち容量の小さいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数を,容量の大きいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数よりも多くすることにより,前記容量の小さいコンデンサ素子におけるESRを,当該容量の小さいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数を容量の大きいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数と同じにした場合よりも確実に低くすることができる。
【0014】
これにより,前記容量の小さいコンデンサ素子による減衰量の最大値を,当該容量の小さいコンデンサ素子におけるESRを低くできる分だけ,容量の大きいコンデンサ素子による減衰量の最大値に近づくように高くできるか,又はこれを越えて高くすることができるから,周波数のうち,前記容量の大きいコンデンサ素子によって減衰量が最大値になる周波数よりも高い周波数の領域における減衰特性を大幅に改善することができる。
【0015】
特に,請求項2に記載した構成にすることにより,前記した構造を有する積層コンデンサを,簡単な構成で容易に実現できる利点がある。
【0016】
また,請求項3に記載した製造方法によると,前記した機能を有する積層コンデンサを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,本発明の実施の形態を,図面について説明する。
【0018】
図4〜図8は,本発明の実施の形態によるフィルタ用の積層コンデンサ11を示す。
【0019】
この積層コンデンサ11は,セラミックシート13a,13bの複数枚を積層し一体化して成るセラミック積層チップ体12を備えて,このセラミック積層チップ体12の内部には,第1コンデンサ素子15と,容量の大きい第1コンデンサ素子14と,容量の小さい第2コンデンサ素子15とが並列に並べて設けられている。
【0020】
これらの両コンデンサ素子14,15のうち前記第1コンデンサ素子14は,前記複数枚のセラミックシート13aの表面に形成した陽極側内部電極14aと陰極側内部電極14bとの複数枚を交互に積層して成る構成であり,前記第2コンデンサ素子15は,複数枚のセラミックシート13a,13bの表面に形成した陽極側内部電極15aと陰極側内部電極15bとの複数枚を交互に積層して成る構成である。
【0021】
一方,前記セラミック積層チップ体12における左右両側面12a,12bのうち一方の側面12aには,前記第1コンデンサ素子14における各陽極側内部電極14aに電気的に導通する端子電極14cと,前記第2コンデンサ素子15における各陽極側内部電極15aに電気的に導通する端子電極15cとが設けられ,他方の側面12bには,前記第1コンデンサ素子14における各陰極側内部電極14bに電気的に導通する端子電極14dと,前記第2コンデンサ素子15における各陰極側内部電極15bに電気的に導通する端子電極15dとが設けられている。
【0022】
この積層コンデンサ11は,前記図3に示すフィルタ回路に対して,その両コンデンサ素子14,15における陽極側の端子電極14c,15cを電気回路1に,その両コンデンサ素子14,15における陰極側の端子電極14d,15dをグランド2に各々接続するようにして組み込まれる。
【0023】
そして,前記両コンデンサ素子14,15のうち容量の小さい第2コンデンサ素子15において,その各内部電極15a,15bにおける積層枚数を,容量の大きい第1コンデンサ素子14における各内部電極14a,14bの積層枚数よりも多くするという構成にしている。
【0024】
なお,前記第2コンデンサ素子15は,その各内部電極15a,15bの積層枚数を多くした場合においても,当該第2コンデンサ素子15における容量が前記第1コンデンサ素子14における容量よりも小さい構成であることはいうまでもない。
【0025】
この構成において,前記第1コンデンサ素子14の両端子電極14c,14d間におけるESR(等価直列抵抗),及び前記第2コンデンサ素子15の両端子電極15c,15d間におけるESRは,その各々における内部電極の積層枚数の増加に比例して小さくなる。
【0026】
そこで,前記したように,両コンデンサ素子14,15のうち容量の小さい第2コンデンサ素子15における内部電極の積層枚数を,容量の大きい第1コンデンサ素子14における内部電極の積層枚数よりも多くすることにより,前記容量の小さい第2コンデンサ素子15におけるESRを,当該第2コンデンサ素子15における内部電極の積層枚数を第1コンデンサ素子14における内部電極の積層枚数と同じにした場合よりも確実に低くすることができる。
【0027】
従って,この積層コンデンサ11を,前記図3示すフィルタ回路に対して適用した場合に,前記容量の小さい第2コンデンサ素子15による減衰量の最大値X3は,当該容量の小さい第2コンデンサ素子15におけるESRを低くできる分だけ,容量の大きい第1コンデンサ素子14による減衰量の最大値X1に近づくように高くなるか,又はこれを越えて高くなることにより,周波数のうち,前記第1積層コンデンサ14によって減衰量が最大値X1になる周波数H1よりも高い周波数の領域においては,周波数に対する減衰量は,図4に太い点線で示す減衰曲線A3のようになるから,この高い周波数の領域における減衰特性を大幅に改善できる。
【0028】
次に,前記した構成の積層コンデンサ11は,以下に述べる方法にて製造することができる。
【0029】
先ず,図9に示すように,前記セラミック積層チップ体12を構成する各セラミックシート13a,13bを用意して,この各セラミックシート13a,13bのうち一部におけるセラミックシート13aの複数枚には,その表面に前記第1コンデンサ素子14における各内部電極14a,14b及び前記第2コンデンサ素子15における各内部電極14a,14bの両方を並べて形成する一方,残りのセラミックシート13bの複数枚には,前記第2コンデンサ素子15における各内部電極15a,15bのみを形成して,前記第1コンデンサ素子14における内部電極14a,14bは形成しないようにする。
【0030】
次いで,前記各セラミックシート13a,13bを,図10に示すように,互いに密接するように積層して,その積層方向にプレスしたのち高い温度で焼成することによって一体化して,セラミック積層チップ体12にする。
【0031】
次いで,前記セラミック積層チップ体12における左右両側面12a,12bの各々に,前記第1コンデンサ素子14における両端子電極14c,14d及び前記第2コンデンサ素子15における両端子電極15c,15dを,導電性ペーストの塗布と,その乾燥又は焼成にて形成する。
【0032】
そして,前記各端子電極14c,14d,15c,15dの表面に,錫等の半田接合性に優れた金属のメッキ層を,バレルメッキ処理等にて形成する。
【0033】
これらの各工程を順次経ることにより,前記図5〜図8に示す構成の積層コンデンサ11を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】フィルタ回路を示す図である。
【図2】図1のフィルタ回路における減衰特性を示す図である。
【図3】別のフィルタ回路を示す図である。
【図4】図3のフィルタ回路における減衰特性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態による積層コンデンサを示す斜視図である。
【図6】図5のVI−VI視断面図である。
【図7】図5のVII −VII 視断面図である。
【図8】図5のVIII−VIII視断面図である。
【図9】本発明の実施の形態においてセラミックシートを示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態においてセラミック積層チップ体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
11 積層コンデンサ
12 セラミック積層チップ体
12a,12b セラミック積層チップ体の側面
13a,13b セラミックシート
14 第1コンデンサ素子
14a,14b 第1コンデンサ素子の内部電極
14c,14d 第1コンデンサ素子の端子電極
15 第2コンデンサ素子
15a,15b 第2コンデンサ素子の内部電極
15c,15d 第2コンデンサ素子の端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックシートの複数枚を積層一体化したセラミック積層チップ体の内部に容量の異なる二つのコンデンサ素子を並列に設けて成る積層コンデンサにおいて,
前記二つのコンデンサ素子のうち容量の小さいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数を,容量の大きいコンデンサ素子における内部電極の積層枚数よりも多くすることを特徴とするフィルタ用積層コンデンサ。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記セラミック積層チップ体を構成する各セラミックシートのうち一部に,前記容量の大きいコンデンサ素子における内部電極と前記容量の小さいコンデンサ素子における内部電極とを並べて形成し,残りに,前記容量の小さいコンデンサ素子における内部電極を形成することを特徴とするフィルタ用積層コンデンサ。
【請求項3】
セラミックシートの複数枚を用意する工程と,
前記各セラミックシートのうち一部の複数枚のセラミックシートに,容量の大きいコンデンサを構成する内部電極と,容量の小さいコンデンサを構成する内部電極とを並べて形成する工程と,
前記各セラミックシートのうち残りの複数枚のセラミックシートに,前記容量の小さいコンデンサを構成する内部電極を形成する工程と,
次いで,前記各セラミックシートを積層したのち焼成することによってセラミック積層チップ体にする工程と,
次いで,前記セラミック積層チップ体における両側面に,前記容量の大きいコンデンサにおける両端子電極及び前記容量の小さいコンデンサにおける両端子電極を形成する工程と,
を備えていることを特徴とするフィルタ用積層コンデンサ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−165801(P2007−165801A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363849(P2005−363849)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】