説明

フィルタ装置、フィルタリング方法

【課題】注目画素にノイズ成分が含まれている場合であっても、エッジ部は保持され、平坦部は十分なノイズ除去が行なえるフィルタ装置を提供する。
【解決手段】注目画素と複数の周辺画素とで構成される画素ブロックについて、注目画素と各周辺画素との差分を算出し、その絶対値が判定値よりも小さい画素値に基づいて得られた値を注目画素の画素値とするフィルタ装置であって、画素ブロック内に複数のサブエリアを設定し、各サブエリアに含まれる画素の平均値を算出するサブエリア平均算出部と、サブエリア毎の平均値の相互関係に基づいて得られるエッジ評価値を出力するエッジ評価値算出部と、画素ブロック内の各画素の画素値の平均偏差に基づいて得られる平坦部ノイズ評価値を出力する平坦部ノイズ評価値算出部と、エッジ評価値および平坦部ノイズ評価値を用いて判定値を設定する設定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置においてデジタル画像のノイズを低減するフィルタ装置に関し、特に、注目画素にノイズ成分が含まれている場合であっても、エッジ部は保持され、平坦部は十分なノイズ除去が行なえるフィルタ装置およびフィルタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、デジタルカメラ等の撮像装置で撮影されたデジタル画像のノイズを低減する目的で、ガウシアンフィルタやメディアンフィルタが広く用いられている。ガウシアンフィルタは、例えば、デジタル画像内の注目画素を中心とした5×5の画素ブロック領域で、注目画素からの距離に応じて重み付けされた画素値により平均値を算出し、注目画素の値とすることで、主にランダムノイズを除去することができる。
【0003】
また、メディアンフィルタは、例えば、デジタル画像内の注目画素を中心とした3×3の画素ブロック領域のすべての画素について値が大きいものから順番に並べ替え、そのメディアン値(中央値)を注目画素の値とすることで、主にインパルス性ノイズを除去することができる。
【0004】
近年では、これらのフィルタに加えて、特許文献1に記載されているように、ε(イプシロン)フィルタが用いられるようになっている。εフィルタは、例えば、デジタル画像内の注目画素を中心とした5×5の画素ブロック領域に含まれるすべての周辺画素について、注目画素との画素値の差分を算出し、その絶対値が予め設定された判定値であるε値よりも小さい画素の画素値を平均して得られた値を注目画素の画素値とするフィルタである。εフィルタは、ガウシアンフィルタよりもデジタル画像内のエッジ成分を保ちながら、ランダムノイズを除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−124976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
εフィルタは、ガウシアンフィルタやメディアンフィルタより画像劣化を少なくしてノイズを除去することができる。しかしながら、画像のノイズは、エッジ部よりも、広い青空等の平坦部ほど目立ちやすいという性質を有しており、画像の平坦部分で良好にノイズが除去できるようなε値を設定すると、エッジ部が過剰に平滑化されエッジ部がぼけてしまい、逆に、エッジ部がぼけないようなε値を設定すると、平坦部分におけるノイズ除去が十分でなく、ノイズが目立ってしまうという問題がある。
【0007】
特許文献1には、画素値が大きいほど、すなわち、明るい部分ほどノイズの影響が大きくなることに注目して、画素値が大きくなるにつれて、ε値が大きくなるように設定することで、画像の明るい部分で良好にノイズを除去しつつ、暗い部分での過補正を防ぐことが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載された技術では、エッジ部も平坦部も明るさが同じであれば一律に平滑化してしまうため、暗い平坦部のノイズ除去が十分でなかったり、明るいエッジ部でボケが発生してしまうおそれがある。
【0009】
また、特許文献1に記載された技術を含め、従来のε判定値を用いたフィルタ装置では、注目画素自体にノイズ成分が含まれている場合には、適正でないε値が設定されてしまうという問題もある。
【0010】
そこで、本発明は、注目画素にノイズ成分が含まれている場合であっても、エッジ部は保持され、平坦部は十分なノイズ除去が行なえるフィルタ装置およびフィルタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様である、フィルタ装置は、注目画素と複数の周辺画素とで構成される画素ブロックについて、前記注目画素の画素値と各周辺画素の画素値との差分を算出し、その絶対値が判定値よりも小さい周辺画素の画素値に基づいて得られた値を前記注目画素の画素値とするフィルタ装置であって、前記画素ブロック内に複数のサブエリアを設定し、それぞれのサブエリアに含まれる画素の画素値の平均値を算出するサブエリア平均算出部と、算出されたサブエリア毎の平均値の相互関係に基づいて得られるエッジ評価値を出力するエッジ評価値算出部と、前記画素ブロック内の各画素の画素値の平均偏差に基づいて得られる平坦部ノイズ評価値を出力する平坦部ノイズ評価値算出部と、前記エッジ評価値および前記平坦部ノイズ評価値を用いて前記判定値を設定する設定部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記エッジ評価値算出部は、前記サブエリア毎の平均値の相互関係を所定のエッジ評価式に基づいて指標値化し、前記指標値が所定の閾値を超える場合は、前記指標値を前記エッジ評価値として出力し、前記所定の閾値を超えない場合は前記エッジ評価値として0を出力することができる。
【0013】
また、前記サブエリア平均算出部は、前記画素ブロックに、前記注目画素を含む中心領域である第1のサブエリアと、前記画素ブロック内から前記第1のサブエリアを除く全領域あるいは前記画素ブロック全体である第2のサブエリアとを設定し、前記エッジ評価値算出部は、両サブエリアの平均値の差の絶対値を前記指標値とすることができる。
【0014】
また、前記設定部は、前記エッジ評価値に応じて前記判定値が小さくなり、前記平坦部ノイズ評価値に応じて前記判定値が大きくなるように設定することができる。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第2の態様である、フィルタリング方法は、注目画素を含んだ画素ブロックを構成する複数個の画素について、前記注目画素との画素値の差分を算出し、その絶対値が判定値よりも小さい画素の画素値に基づいて得られた値を前記注目画素の画素値とするフィルタ装置におけるフィルタリング方法であって、前記画素ブロック内に複数のサブエリアを設定し、それぞれのサブエリアに含まれる画素の画素値の平均値を算出するサブエリア平均算出ステップと、算出されたサブエリア毎の平均値の相互関係に基づいてエッジ評価値を算出するエッジ評価値算出ステップと、前記画素ブロック内の各画素の画素値の平均偏差に基づいて平坦部ノイズ評価値を算出する平坦部ノイズ評価値算出ステップと、前記エッジ評価値および前記平坦部ノイズ評価値を用いて前記判定値を設定する設定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、注目画素にノイズ成分が含まれている場合であっても、エッジ部は保持され、平坦部は十分なノイズ除去が行なえるフィルタ装置およびフィルタリング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る非線形フィルタ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】εフィルタ部の構成を示すブロック図である。
【図3】ε値演算部の構成を示すブロック図である。
【図4】サブエリア設定パターン例を示す図である。
【図5】サブエリア設定パターン毎に定められた評価式の例を示す図である。
【図6】エッジ評価部の処理手順について説明するフローチャートである。
【図7】平坦部ノイズ評価部の処理手順について説明するフローチャートである。
【図8】補正部の処理手順について説明するフローチャートである。
【図9】本実施形態の具体的な効果について説明する図であり、原画を示す図である。
【図10】本実施形態の具体的な効果について説明する図であり、移動平均フィルタを用いた画像処理結果を示す図である。
【図11】本実施形態の具体的な効果について説明する図であり、ε値を固定してεフィルタを用いた画像処理結果を示す図である。
【図12】本実施形態の具体的な効果について説明する図であり、本実施形態のεフィルタを用いた画像処理結果を示す図である。
【図13】本実施形態の具体的な効果について説明する図であり、PSNR(Peak S/N Ratio)と、ノイズ除去性能と、エッジの保存性とを示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る非線形フィルタ装置の構成を示すブロック図である。非線形フィルタ装置は、例えば、デジタルカメラ等の撮像装置に搭載された画像処理装置や、画像処理装置として機能する情報処理装置等において用いられる。
【0019】
本図に示すように非線形フィルタ装置10は、ε値演算部100と、εフィルタ部200とを備えて構成される。これらの機能部は、ソフトウェアで実現してもよいし、ハードウェアで実現してもよい。非線形フィルタ装置10は、注目画素を含んだm×n画素ブロックを入力し、注目画素をεフィルタによって補正して出力する装置である。処理対象のデジタル画像において、注目画素を移動させて得られる画素ブロックを非線形フィルタ装置10に順次入力し、出力された値で注目画素を置き換えることにより、処理対象のデジタル画像にεフィルタを施すことができる。
【0020】
ε値演算部100は、注目画素を含んだm×n画素ブロックと、予め設定された標準ε値とを入力し、注目画素に適用するε値を算出して出力する。この処理を行なうため、ε値演算部100は、エッジ評価部110と、平坦部ノイズ評価部120と、補正部130とを備えている。
【0021】
本実施形態では、エッジ評価部110において、m×n画素ブロック内の注目画素がエッジ部に相当するかどうかを判定する。そして、注目画素がエッジ部に相当すると判定された場合には、補正部130において、ε値が小さくなるように標準ε値を補正する。これにより、ぼけの発生を防ぎ、エッジ部を保持することができる。
【0022】
また、平坦部ノイズ評価部120において、m×n画素ブロックのノイズレベルを評価する。そして、補正部130が、そのノイズレベルの評価に応じてε値が大きくなるように標準ε値を補正する。これにより、特にノイズの目立ちやすい平坦部において十分なノイズ除去を行なうことができる。
【0023】
εフィルタ部200は、注目画素を含んだm×n画素ブロックと、ε値演算部100が算出したε値とを入力し、注目画素に対してεフィルタ処理を行なう。そして、εフィルタ処理が施された注目画素を出力する。
【0024】
図2は、εフィルタ部200の構成を示すブロック図である。なお、m×nの画素ブロックは、注目画素X(x,y)と、周辺画素X(x,y)、周辺画素X(x,y)…周辺画素X(x,y)で構成されるものとする。ただし、x=x−m/2、x=x−m/2+1…x=x+m/2−1であり、y=y−n/2、y=y−n/2+1…y=y+n/2−1である。
【0025】
本図に示すように、εフィルタ部200は、ε判定部210と、加算部220と、バッファ230と、カウンタ240と、除算部250とを備えている。
【0026】
ε判定部210は、m×n画素ブロックを構成する各周辺画素(x,x…x)と注目画素との差の絶対値とε値とを比較し、差の絶対値がε値よりも小さい周辺画素の画素値を有効として出力する。本実施形態では、ε判定部210を、m×n−1個分備えて、全周辺画素について並列にε判定処理を行なうようにしている。
【0027】
加算部220は、ε判定部210により有効として出力された画素値を加算し、バッファ230は、加算部220の加算結果を一時期に保存する。カウンタ240は、ε判定部210により有効として出力された画素値の数をカウントする。
【0028】
除算部250は、バッファ230に格納された加算結果からカウンタ240のカウンタ値を割ることで、注目画素の画素値との差の絶対値がε値よりも小さい周辺画素の画素値の平均値を算出し、εフィルタ結果として出力する。
【0029】
注目画素を含むm×n画素ブロックをεフィルタ部200に入力することで、注目画素についての判定値εによるεフィルタ結果を得ることができる。なお、εフィルタ部200の構成は、本例に限られず、既知のεフィルタ技術を適用することができる。
【0030】
図3は、ε値演算部100の構成を示すブロック図である。本図に示すように、ε値演算部100は、エッジ評価部110と、平坦部ノイズ評価部120と、補正部130とを備えている。
【0031】
一般に、εフィルタでは、ε値が原画像のエッジ部の振幅より十分小さく、また、ランダムノイズによる注目画素と周辺画素との振幅変動より十分大きい適切な値に設定されれば、原理的に原画像のエッジ部のボケを発生させることなくランダムノイズを削減することができる。本実施形態では、エッジ評価部110において注目画素がエッジに相当するかどうかの評価を行ない、平坦部ノイズ評価部120において画素ブロックのノイズレベルの評価を行ない、それぞれの評価に応じてε値が適切な値になるように補正する。
【0032】
本図に示すように、エッジ評価部110は、サブエリア平均算出部111とエッジ評価値算出部112とを備えている。
【0033】
サブエリア平均算出部111は、m×n画素ブロック内に複数のサブエリアを設定し、それぞれのサブエリアに含まれる画素の画素値の平均値を算出する。
【0034】
図4は、サブエリア設定パターン例を示す図である。本図では、5×5画素ブロックにおいて複数のサブエリアを設定する例について3つのパターンを示す。サブエリア平均算出部111は、いずれかのサブエリア設定パターンに基づいて、それぞれのサブエリアに含まれる画素の画素値の平均値を算出する。ただし、本図に示したサブエリア設定パターンは例示であり、他のサブエリア設定パターンを採用してもよい。
【0035】
図4(a)は、サブエリア設定パターン1を示している。本図に示すように、サブエリア設定パターン1では、注目画素を含む中心領域の3つの画素で構成するサブエリア1と、その周辺領域の画素で構成するサブエリア2とが設定される。なお、サブエリア2は、サブエリア1の画素を含んで、5×5画素ブロックのすべての画素で構成するようにしてもよい。
【0036】
図4(b)は、サブエリア設定パターン2を示している。本図に示すように、サブエリア設定パターン2では、各サブエリアを3×3の矩形領域とし、サブエリア1を左上に、サブエリア2を右上に、サブエリア3を左下に、サブエリア4を右下に配置している。
【0037】
図4(c)は、サブエリア設定パターン3を示している。本図に示すように、サブエリア設定パターン3では、サブエリア1を、注目画素を含む中心領域とし、サブエリア2〜サブエリア5を、それぞれ6個の画素で構成される三角形状として、サブエリア2を左上に、サブエリア3を右上に、サブエリア4を左下に、サブエリア5を右下に配置している。
【0038】
このように画素ブロック内に複数のサブエリアを設定してそれぞれの平均値を算出することで、注目画素自体にノイズが乗っている場合の影響を低減することができ、適切なε値を設定することができるようになる。
【0039】
エッジ評価値算出部112は、サブエリア平均算出部111が算出したサブエリア毎の平均値に基づいてエッジ評価値を算出して出力する。エッジ評価値は、サブエリア毎の平均値の相互関係を所定の評価式を用いて得られる値である。評価式は、注目画素がエッジ部に相当すると見なせる度合いである指標値を算出する式であり、サブエリア設定パターン毎に定められる。
【0040】
図5は、サブエリア設定パターン毎に定められた評価式の例を示す図である。図5(a)は、サブエリア設定パターン1に対応した評価式を示している。サブエリア設定パターン1に対応した評価式では、サブエリア1の平均値とサブエリア2の平均値との差の絶対値を指標値とする。
【0041】
図5(b)は、サブエリア設定パターン2に対応した評価式を示している。サブエリア設定パターン2に対応した評価式では、水平方向、垂直方向、右45度方向、左45度方向についてそれぞれ異なる演算を行ない、最も大きい値を指標値とする。すなわち、サブエリア設定パターン2に対応した評価式では、エッジの方向も判定することができる。
【0042】
図5(c)は、サブエリア設定パターン3に対応した評価式を示している。サブエリア設定パターン3に対応した評価式では、水平方向、垂直方向、右45度方向、左45度方向、インパルスについてそれぞれ異なる演算を行ない、最も大きい値を指標値とする。すなわち、サブエリア設定パターン3に対応した評価式では、インパルス性のエッジを含めたエッジの方向も判定することができる。
【0043】
さらに、エッジ評価値算出部112は、評価式によって算出された指標値が予め定められたエッジレベル閾値を超えているかどうかを判定し、超えている場合には、注目画素がエッジ部に相当するものとし、エッジ評価値として指標値を出力する。一方、指標値がエッジレベル閾値を超えていない場合は、注目画素はエッジ部ではないとし、エッジ評価値として0を出力する。
【0044】
図3の説明に戻って、平坦部ノイズ評価部120は、平均偏差算出部121と平坦部ノイズ評価値算出部122とを備えている。
【0045】
平均偏差算出部121は、m×n画素ブロックに含まれる画素の画素値の平均偏差を算出する。ここで、平均偏差は、各画素値の、その平均値からの偏差の絶対値の平均であり、[数1]に示した式により算出することができる。ここで、xは、画素値、xAvgは、画素ブロックの画素平均値、m×nは画素ブロック内の画素数である。
【数1】

平坦部ノイズ評価値算出部122は、平均偏差算出部121によって算出された平均偏差が、予め定められたノイズレベル閾値を超えているかどうかを判定し、超えている場合には、画素ブロックにノイズが多いものとし、平坦部ノイズ評価値として平均偏差を出力する。一方、平均偏差が平坦部ノイズレベル閾値を超えていない場合は、画素ブロックにノイズは多くないとし、平坦部ノイズ評価値として0を出力する。
【0046】
図3に示すように、補正部130は、係数乗算部131と、ε値補正部132と、εリミッタ133とを備えている。
【0047】
係数乗算部131は、エッジ評価値と予め定められたエッジ部補正係数とを乗算することでエッジ補正値を算出し、また、平坦部ノイズ評価値と予め定められた平坦部補正係数とを乗算することで平坦部ノイズ補正値を算出し、それぞれの補正値を出力する。
【0048】
エッジ部補正係数は、本実施形態では、0から1.0の間の値とし、撮像素子のノイズ特性と、ノイズ除去を重視するのか、エッジ保持を重視するのか等の画像処理方針に基づいて定めることができる。例えば、エッジを保持するために、エッジ部により小さなε値を設定したい場合は、1.0に近い値を設定し、エッジ部でもε値の変動を少なくしたい場合は、0に近い値を設定する。
【0049】
また、平坦部補正係数は、本実施形態では、0から1.0の間の値とし、撮像素子のノイズ特性と、平坦部のノイズ除去を重視するのか、テクスチャを重視するのか等の画像処理方針に基づいて定めることができる。例えば、平坦部の十分なノイズ除去を望む場合は、より大きなε値にするために、1.0に近い値を設定し、平坦部でもテクスチャの保存を望む場合は、より小さなε値にするために、0に近い値を設定する。
【0050】
なお、平坦部ノイズ評価部120による平坦部ノイズ評価は、エッジ評価部110が出力したエッジ評価値が0で、エッジ部として判定されなかった画素ブロックに対してのみ行なうようにしてもよいが、本実施形態では、エッジ評価値にかかわらず、平坦部ノイズ評価部120による平坦部ノイズ評価を行なうようにしている。これにより、エッジ部の誤検出によってノイズ除去が不十分になることを防いでいる。
【0051】
ε補正部132は、予め定められた標準ε値に対して、エッジ補正値を引き、平坦部ノイズ補正値を加えることで、ε値を設定する。すなわち、ノイズが目立たないエッジ部であれば、フィルタリング効果を少なくしてエッジ部を保持するために、ε値が小さくなるように補正する。また、ノイズが多ければ、平坦部でのノイズ除去を十分に行なえるようにε値が大きくなるように補正する。
【0052】
ここで、標準ε値は、撮像素子のノイズ特性や撮像時のゲイン等に基づいて定めることができ、本実施形態では、撮像装置等の非線形フィルタ装置10の外部装置で設定されるものとする。
【0053】
ただし、標準ε値の補正は、加算、減算に限られず、例えば、エッジ評価値、平坦部ノイズ評価値に応じた係数を乗じることにより行なってもよい。この場合も、エッジ評価値が高ければε値が小さくなり、平坦部ノイズ評価値が高ければε値が大きくなるように係数を設定する。
【0054】
εリミッタ133は、ε補正部132によるε値の補正の結果、ε値が所定の最大値を超えた場合、あるいは、所定の最小値を下回った場合に、ε値が最大値を超えないように、あるいは、最小値を下回らないようにε値を制限する。ただし、εリミッタ133を備えない構成としてもよい。
【0055】
次に、本実施形態のε値演算部100における処理手順について説明する。まず、エッジ評価部110の処理手順について図6のフローチャートを参照して説明する。
【0056】
エッジ評価部110は、注目画素を含んだ画素ブロックを入力すると(S101)、予め定められたサブエリア設定パターンに従って、画像ブロックに複数のサブエリアを設定する(S102)。
【0057】
そして、各サブエリアについて、サブエリアに含まれる画素の画素平均値を算出し(S103)、算出された平均値を用いて、サブエリア設定パターンに対応した評価式に従った演算を行なう(S104)。
【0058】
サブエリア設定パターン1のように、評価式で1つの値が得られる場合には、その値を指標値とし、サブエリア設定パターン2、サブエリア設定パターン3のように、評価式で複数個の値が得られる場合には、最も大きい値を指標値とする(S105)。
【0059】
次いで、指標値がエッジレベル閾値より大きいかどうかを判定し(S106)、指標値がエッジレベル閾値より大きい場合(S106:Yes)には、エッジ評価値として指標値を出力する(S107)。一方、指標値がエッジレベル閾値より大きくない場合(S106:No)には、エッジ評価値として0を出力する(S108)。
【0060】
次に、平坦部ノイズ評価部120の処理手順について図7のフローチャートを参照して説明する。
【0061】
平坦部ノイズ評価部120は、注目画素を含んだ画素ブロックを入力すると(S201)、画素ブロック内の画素値の平均値を算出する(S202)。そして、各画素値の、平均値からの偏差の絶対値の平均を演算することで、平均偏差を算出する(S203)。
【0062】
次いで、平均偏差がノイズレベル閾値より大きいかどうかを判定し(S204)、平均偏差がノイズレベル閾値より大きい場合(S204:Yes)には、平坦部ノイズ評価値として平均偏差を出力する(S205)。一方、平均偏差がノイズレベル閾値より大きくない場合(S204:No)には、平坦部ノイズ評価値として0を出力する(S206)。
【0063】
次に、補正部130の処理手順について図8のフローチャートを参照して説明する。補正部130では、エッジ評価部110が出力したエッジ評価値と予め設定されたエッジ補正係数との乗算を行なってエッジ補正値を算出するとともに(S301)、平坦部ノイズ評価部120が出力した平坦部ノイズ評価値と予め設定された平坦部補正係数との乗算を行なって平坦部ノイズ補正値を算出する(S302)。
【0064】
そして、外部から入力された標準ε値に対して、エッジ補正値を引き、平坦部ノイズ補正値を加えることで、ε値を補正する(S303)。
【0065】
補正されたε値が、予め定められた最小ε値から最大ε値の範囲内であれば(S304:No)、補正されたε値をそのまま出力する(S306)。一方、補正されたε値が最小ε値より小さい場合、あるいは、最大ε値よりも大きい場合(S304:Yes)には、リミッタ処理によりε値が、最小ε値から最大ε値の範囲内に収まるように制限して(S305)、ε値を出力する(S306)。
【0066】
最後に、本実施形態の具体的な効果について図9〜図12および図13を参照して説明する。図9〜図12では、簡単のため、画像ブロックを1次元として、横軸にそれぞれの画素を対応させ、縦軸に画素値を示している。各画素には画素番号を付している。
【0067】
図9は、原画の画素値分布であり、図中の破線は、ノイズ成分を含まない画素毎の真の値、すなわち、被写体の輝度分布を示し、折れ線は、ノイズ成分を含んだ原画の画素値を示している。破線が示すように、被写体は、画素番号6、画素番号7がエッジ部となっており、画素番号1〜画素番号6、画素番号7〜画素番号19は、平坦部である。これに対して、原画では、画素番号が大きくなるにつれて(右にいくほど)、ノイズ成分大きくなっている。原画のPSNR(Peak S/N Ratio)は、図13に示すように、34.8dBであるとする。
【0068】
図10は、原画に対して5画素移動平均フィルタを施してノイズを除去した結果を示す図である。この場合、本図および図13に示すように、PSNRが48.0dBと向上し、ノイズ除去効果が高いことがわかる。しかしながら、画素番号6、画素番号7のエッジ部が滑らかにつながっており、エッジぼけが発生している。
【0069】
図11は、原画に対して、ε値を固定にしたεフィルタを施してノイズを除去した結果を示す図である。原画のエッジ部の輝度差は5であるが、平坦部のノイズの振幅も同等以上ある。そこで、エッジ部を保持するためε値は8に設定している。
【0070】
この場合のPSNRは、37.7dBとなった。これ以上ε値を大きくすると、S/Nは改善していくが、移動平均フィルタに近づき、エッジ部でぼけが発生してくる。また、このε値では、画素番号14以降のノイズ量が多い領域ではノイズ除去できていないことがわかる。
【0071】
図12は、本実施形態に従ってε値を適応的に変化させてノイズを除去した結果を示す図である。本例では、サブエリア設定パターン1を採用し、標準ε値を10、エッジレベル閾値を2、エッジ部補正係数を0.8、ノイズレベル閾値を5、平坦部補正係数を0.8に設定した。
【0072】
この結果、PSNRは、48.3dBと最も高くなり、なおかつ画素番号6、画素番号7のエッジ部が保持された画像を得ることができた。このように、本実施形態の非線形フィルタ装置10では、適応的にεフィルタのε値を変化させることができ、エッジ部を保持しつつ、ノイズ除去性能を高めることできる。
【符号の説明】
【0073】
10…非線形フィルタ装置、100…ε値演算部、110…エッジ評価部、111…サブエリア平均算出部、112…エッジ評価値算出部、120…平坦部ノイズ評価部、121…平均偏差算出部、122…平坦部ノイズ評価値算出部、130…補正部、131…係数乗算部、132…ε値補正部、132…補正部、133…εリミッタ、200…εフィルタ部、210…ε判定部、220…加算部、230…バッファ、240…カウンタ、250…除算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目画素と複数の周辺画素とで構成される画素ブロックについて、前記注目画素の画素値と各周辺画素の画素値との差分を算出し、その絶対値が判定値よりも小さい周辺画素の画素値に基づいて得られた値を前記注目画素の画素値とするフィルタ装置であって、
前記画素ブロック内に複数のサブエリアを設定し、それぞれのサブエリアに含まれる画素の画素値の平均値を算出するサブエリア平均算出部と、
算出されたサブエリア毎の平均値の相互関係に基づいて得られるエッジ評価値を出力するエッジ評価値算出部と、
前記画素ブロック内の各画素の画素値の平均偏差に基づいて得られる平坦部ノイズ評価値を出力する平坦部ノイズ評価値算出部と、
前記エッジ評価値および前記平坦部ノイズ評価値を用いて前記判定値を設定する設定部と、を備えたことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタ装置であって、
前記エッジ評価値算出部は、前記サブエリア毎の平均値の相互関係を所定のエッジ評価式に基づいて指標値化し、前記指標値が所定の閾値を超える場合は、前記指標値を前記エッジ評価値として出力し、前記所定の閾値を超えない場合は前記エッジ評価値として0を出力することを特徴とするフィルタ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルタ装置であって、
前記サブエリア平均算出部は、前記画素ブロックに、前記注目画素を含む中心領域である第1のサブエリアと、前記画素ブロック内から前記第1のサブエリアを除く全領域あるいは前記画素ブロック全体である第2のサブエリアとを設定し、
前記エッジ評価値算出部は、両サブエリアの平均値の差の絶対値を前記指標値とすることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルタ装置であって、
前記設定部は、前記エッジ評価値に応じて前記判定値が小さくなり、前記平坦部ノイズ評価値に応じて前記判定値が大きくなるように設定することを特徴とするフィルタ装置。
【請求項5】
注目画素を含んだ画素ブロックを構成する複数個の画素について、前記注目画素との画素値の差分を算出し、その絶対値が判定値よりも小さい画素の画素値に基づいて得られた値を前記注目画素の画素値とするフィルタ装置におけるフィルタリング方法であって、
前記画素ブロック内に複数のサブエリアを設定し、それぞれのサブエリアに含まれる画素の画素値の平均値を算出するサブエリア平均算出ステップと、
算出されたサブエリア毎の平均値の相互関係に基づいてエッジ評価値を算出するエッジ評価値算出ステップと、
前記画素ブロック内の各画素の画素値の平均偏差に基づいて平坦部ノイズ評価値を算出する平坦部ノイズ評価値算出ステップと、
前記エッジ評価値および前記平坦部ノイズ評価値を用いて前記判定値を設定する設定ステップと、を有することを特徴とするフィルタリング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−217001(P2011−217001A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81118(P2010−81118)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】