説明

フィルムの製造方法

【課題】ガイドローラと基材とを接触させずに巻き取り可能な基材上に原子層堆積膜を連続的に形成する。
【解決手段】第一前駆体ガスが導入される第一真空気室と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室と、第一前駆体及び第二前駆体を排出するために用いられるパージガスが導入される第三真空気室と、基材の幅方向の両端部を保持する保持部を有し、基材を、第一真空気室,第二真空気室,及び第三真空気室に搬送する搬送機構とを備え、搬送機構が、第一真空気室,第二真空気室,及び第三真空気室のいずれかの室内に、かつ自身の一部が他の室内に位置しないように配置された巻き取り成膜装置を用いて、基材を巻き取りながら基材上に成膜を行う巻き取り成膜方法は、搬送機構により、基材を第一真空気室及び第二真空気室を交互に複数回通過させて、基材の表面に原子層を堆積させて原子層堆積膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き取り可能な可撓性基材の表面に、連続的に原子層を堆積させて成膜を行う原子層堆積法を用いた巻き取り成膜方法に関する。
本願は、2011年3月29日に出願された特願2011−072141号及び2011年9月27日に出願された特願2011−210048号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙又はプラスチックフィルム等の長尺の巻き取り可能な基材を真空中で巻き戻し、蒸着又はスパッタ等の成膜方法により金属又は金属酸化物等を連続的に成膜する技術が知られている。このような技術は、金銀糸に用いられる金属光沢フィルム、食品包装のガスバリアフィルム、フィルムコンデンサーの電極、反射防止等の光学フィルムの製造方法として利用されている。
ガスバリアフィルムの用途として、近年、有機半導体を利用した、可撓性基材の有機ELディスプレイ、有機EL照明、有機太陽電池の開発のために、水蒸気透過率が10−6[g/(m・day)]というガスバリア性の高い透明ガスバリアフィルムの商品化の要望が高まっている。
【0003】
この要望に応えるべく、原子層堆積法を利用した巻き取り装置が検討されている。
原子層堆積法は、緻密な薄膜を形成する方法として知られている。原子層堆積法の特徴の優位性の観点から、原子層堆積法は、DRAM又はTFTにおける絶縁膜を形成する際に使用されている。
従来、薄膜の堆積工程は、バッチ処理によって行われており、生産性を向上させるために、Siウエハを複数枚同時処理する装置が開発されているが、その生産性には限界がある。
また、これらのバッチ処理装置においては、巻き取り可能な基材に連続的に成膜を行うことはできない。
この問題を解決するために、特許文献1、2に示される装置が提案されている。
【0004】
特許文献1、2には、連続的に原子層堆積法で薄膜を形成する技術が示されている。
原子層を堆積する工程においては、第一前駆体を基材表面に吸着させる工程、余剰の第一前駆体をパージする工程、第一前駆体を第二前駆体に暴露させることによって第一前駆体と第二前駆体とを反応させる工程、及び余剰の第二前駆体をパージする工程からなる原子層堆積工程のサイクルが複数回繰り返される。
これにより、所望の膜厚の薄膜を得ることができる。
なお、前駆体としては、例えば、非特許文献1に記載の材料が使用できる。
一般的に、原子層堆積の1サイクルでは、0.01nm以上0.2nm以下程度、平均的には、0.1nm程度の層が形成される。
所望の膜厚は、用途によって変わるが、10−6[g/(m・day)]以下の水蒸気透過性の高バリア性の膜を得るには、酸化アルミニウムの場合、10nm以上必要であることが一般的に知られている。
従って、膜厚が10nmの酸化アルミニウム層を得るには、一般的な原子層堆積サイクルを100サイクル行う必要がある。
【0005】
一方、特許文献3では、回転ドラムを用いた巻き取り式原子層堆積装置が開示されている。
この装置では、基材が回転ドラム上に位置する間に、原子層が基材上に堆積される。
また、特許文献4では、散布マニホールドを用いた巻き取り式原子層堆積装置が開示されている。
この装置では、基材が散布マニホールドの近傍を通過する過程で原子層が基材上に堆積される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第07/112370号
【特許文献2】特表2009−540122号公報
【特許文献3】特表2007−522344号公報
【特許文献4】特表2009−531548号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】エム・リタラ(M.Ritala他1名、「アトミック・レイヤー・デポジション(AtomicLayerDeposition)」、ハンドブック・オブ・ティン・フィルム・マテリアルズ(HandbookofThinFilmMaterials)、アメリカ合衆国、アカデミックプレス(AcademicPress)、2002年、第1巻、第2章、P.103−159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載の装置では、10nmの膜厚の原子層堆積膜を得るために、基材は、100セットのガイドローラを通過しなければならない。
即ち、原子層堆積膜は、100回ガイドローラに接触する。
原子層堆積膜とガイドローラとの接触に伴う擦れ又はスリップにより、原子層堆積膜の損傷又はパーティクルの発生の恐れは皆無ではない。
また、損傷又はパーティクルが原子層堆積膜に付着することにより、原子層堆積膜の性能が低下する恐れがある。
従来の食品包装用ガスバリアフィルムに要求される性能は、水蒸気透過率で10−1[g/(m・day)]程度であり、小さな欠陥(擦り傷、ピンホール、パーティクル付着等)は問題とはならない。
しかしながら、有機ELディスプレイ又はポリマー太陽電池の用途として、また、有機半導体の用途として、高い性能、例えば、水蒸気透過率が10−6[g/(m・day)]以下という性能が要求されており、小さな欠陥が上記デバイスに生じている場合であっても許容できない性能の低下を起こす。
特許文献1の段落0007には、搬送機構の記述があるが、ローラを利用し、少なくとも基材の搬送方向の転換(ターン)の際に、基材を支持できるガイドが望ましいとの記述にとどまっている。
また、段落0030にも搬送機構の記述があるが、搬送機構としては、ローラの利用が開示されているにとどまっている。
一方、特許文献2では、搬送方法に関して、「なお、ローラ22と基材20との間の接触を最小限に維持すべきである。このことは、スプール形状の・・・・ローラ22の大きい直径部分に乗せることによって、達成できる。」(段落0013)と記述されている。
しかしながら、基材の厚みが薄く剛性が低い場合、基材は、直径の大きい箇所だけでなく、スプール形状の全体に接触する。
原子層堆積膜がガイドローラに触れると、原子層堆積膜に微小なピンホール等の欠陥が発生して目的とする性能を得ることができない。
特に、薄いプラスチックフィルム基材又は布等の剛性の低い基材を用いる場合では、ローラと基材との接触を防ぐことはできない。
また、特許文献2には、上記記述の他に、「或いはまた、基材20が各ローラ22のまわりに巻き付くにつれて基材20を保持する把持具をローラ22の縁部に設けることもできる。」(段落0013との記述もあるが、把持具及びローラ縁部への取り付け方法、搬送機構に関しての詳細な開示はない。
【0009】
また、特許文献3及び4に記載の装置では、回転ドラムに接している基材表面、又は、散布マニホールドに露出されない基材表面に原子層は堆積されない。このため、特許文献3及び4には、特許文献1、2に記載の装置を用いることにより生じる、処理過程でのガイドローラと基材との接触による原子層堆積膜の損傷及びその損傷によるガスバリア性能の低下といった課題についての示唆はない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ガイドローラと基材とが接触することなく、巻き取り可能な基材上に原子層堆積膜を連続的に形成する処理を行うことが可能な巻き取り成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室と、前記第一前駆体及び前記第二前駆体を排出するために用いられるパージガスが導入される第三真空気室と、基材の幅方向の両端部を保持する保持部を有し、前記基材を、前記第一真空気室,前記第二真空気室,及び前記第三真空気室に搬送する搬送機構とを備え、前記搬送機構が、前記第一真空気室,前記第二真空気室,及び前記第三真空気室のいずれかの室内に、かつ自身の一部が他の室内に位置しないように配置された巻き取り成膜装置を用いて、前記基材を巻き取りながら前記基材上に成膜を行う巻き取り成膜方法であって、前記搬送機構により、前記基材を前記第一真空気室及び前記第二真空気室を交互に複数回通過させて、前記基材の表面に原子層を堆積させて原子層堆積膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の巻き取り成膜方法によれば、ガイドローラと基材とが接触することなく、巻き取り可能な基材上に原子層堆積膜を連続的に形成する処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】参考例の巻き取り成膜装置の概略図である。
【図2】同巻き取り成膜装置におけるクリップ式挟持搬送機構の概念図である。
【図3】本発明の一実施形態の巻き取り成膜方法に用いる巻き取り成膜装置の概略図である。
【図4】同巻き取り成膜装置におけるベルト式挟持搬送機構の概念図である。
【図5】巻き取り成膜装置の他の例を示す概念図である。
【図6】同巻き取り成膜装置におけるローラ式挟持搬送機構の概念図である。
【図7】巻き取り成膜装置の他の例を示す概念図である。
【図8A】同巻き取り成膜装置におけるローラ式挟持搬送機構の概念図である。
【図8B】同ローラ式挟持搬送機構の断面図である。
【図8C】同ローラ式挟持搬送機構の平面図である。
【図9】巻き取り成膜装置の他の例を示す概略図である。
【図10A】同巻き取り成膜装置におけるスプロケット式支持搬送機構の概念図である。
【図10B】同巻き取り成膜装置におけるスプロケット式支持搬送機構の断面図である。
【図11】他の参考例の同巻き取り成膜装置の概略図である。
【図12A】巻き取り成膜装置に備えるガイドレールの概念図である。
【図12B】巻き取り成膜装置に備えるガイドレールの断面図である。
【図13】保護層形成部を備えた巻き取り成膜装置の概略図である。
【図14】比較例における巻き取り成膜装置の概略図である。
【図15A】比較例における巻き取り成膜装置の搬送機構の概念図である。
【図15B】比較例における巻き取り成膜装置の搬送機構の断面図である。
【図16】本発明の巻き取り成膜方法に用いる巻き取り成膜装置の他の構成例を示す図である。
【図17】同巻き取り成膜装置におけるサクション式搬送機構の概念図である。
【図18】同巻き取り成膜装置における巻き取り成膜装置の変形例の構成を示す図である。
【図19A】同巻き取り成膜装置の変形例におけるニップローラ式挟持搬送機構の概念図である。
【図19B】同巻き取り成膜装置の変形例におけるニップローラ式挟持搬送機構の概念図である。
【図19C】同巻き取り成膜装置の変形例におけるニップローラ式挟持搬送機構の概念図である。
【図20A】巻き取り成膜装置の変形例におけるガイドレールの構成を示す図である。
【図20B】巻き取り成膜装置の変形例におけるガイドレールの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の巻き取り成膜方法は、原子層堆積法を用いて、基材上に原子層を製膜する巻き取り成膜装置を用いて行う。この成膜装置は、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室と、余剰の第一前駆体及び第二前駆体を排出するために用いられるパージガスが導入される第三真空気室と、巻き取り可能な基材を各々の真空気室を搬送する搬送機構とを備える。
この搬送機構は、具体的には、複数のクリップ、ベルト、スプロケット等の保持部を利用して、巻き取り可能な基材の幅方向の両端部を挟持又は支持できる搬送機構である。
この搬送機構を用いることにより、巻き取り可能な基材は、成膜の過程で被膜される巻き取り可能な基材の表面が装置内に配置された機械部品に触れることなく、上記の各真空気室を順次通過することができ、機械的損傷の無い原子層堆積膜が形成される。
【0015】
巻き取り可能な基材の幅方向の両端部を保持する部材や装置としては、クリップのような挟持具を複数用いて端部を挟持する挟持部、ベルトのような連続した挟持具を用いて端部を挟持する挟持部、複数のローラを用いて端部の表面と裏面を挟持する部材や装置等が挙げられる。
また、巻き取り可能な基材の幅方向の両端部を保持する部材や装置としては、上記のような挟持部ではなく、端部の一方の面を支持する支持部が用いられてもよい。
例えば、予め幅方向の両端部にパンチ孔のような複数の孔部を有する基材を用意し、基材の搬送時にその孔部と嵌合する複数の凸部を有する支持具を用いて端部を挟持する支持部等が挙げられる。
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を用いて説明する。
なお、本発明の実施形態は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれるものである。
【0017】
巻き取り成膜装置の参考例を図1に示す。
この巻き取り成膜装置1は、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室である第一ゾーン21と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室である第二ゾーン22と、パージガスが導入される第三真空気室である第三ゾーン23とを備える。
巻き取り成膜装置1は、巻き出し室13に設置された巻き出しロール11と、巻き取り室14に設置された巻き取りロール12と、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの間で、巻き取り可能な基材15を搬送する搬送機構41a,41bとを備える。
【0018】
搬送機構41a,41bは、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部をクリップで挟持した状態で巻き取り可能な基材15を搬送するクリップ式挟持搬送機構である。
巻き取り可能な基材15の表面に連続的に原子層を堆積させるために、クリップ式挟持搬送機構41a,41bにより、巻き取り可能な基材15を第三ゾーン23,第一ゾーン21,第三ゾーン23,第二ゾーン22,及び第三ゾーン23の順に通過させることで、1つの原子層が基材上に堆積される。
この巻き取り成膜装置では、所望の膜厚を得るために必要なサイクル数で原子層を基材15の表面に堆積することができるように、搬送機構が基材を上述したゾーンを通過させる回数が所定回数となるように、成膜装置が設計されている。
【0019】
本発明で使用される巻き取り可能な基材15は、プラスチックフィルム、プラスチックシート、金属箔、金属シート、紙、不織布等の可撓性の材料から選択される。
巻き取り可能な基材15の厚みは、特に限定されないが、10μm以上1000μm以下の厚みを有する基材が使用できる。
【0020】
巻き取り可能な基材15は、巻き出しロール11により巻き出され、第三ゾーン23へ搬送される。
巻き出しロール11が設置されている巻き出し室13と第三ゾーン23との間には、仕切り板が設置されており、仕切り板には、巻き取り可能な基材15が通過するに必要な開口部16が設けられている。
巻き取り可能な基材15は、この開口部16を介して、巻き出し室13から第三ゾーン23へ搬送される。
【0021】
第三ゾーン23には、パージガスとして不活性ガスが導入されている(符号33参照、パージガスの流れ)。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等から適宜選択されたガスが用いられる。
【0022】
第三ゾーン23において、クリップ挟持開始位置45aで、クリップ式挟持搬送機構41のクリップ41aにより、基材15の幅方向の端部が挟持される。
【0023】
ここで、クリップ式挟持搬送機構の概念図を図2に示す。
クリップ式挟持搬送機構41は、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部を挟持する複数のクリップ42と、複数のクリップ42を連結させるチェーン43と、チェーン43を搬送方向へ移動させる駆動スプロケット44とを備える。
巻き取り可能な基材15は、クリップ式挟持搬送機構41のクリップ挟持開始位置45でクリップ42により端部が挟持される。
各クリップ42にはバネ(図示せず)が取り付けられていて、両端部が挟持された巻き取り可能な基材15は、適度なテンションで幅方向に張られ、搬送中、弛まず、実質的に平面状に保持される。
巻き取り可能な基材15は、駆動ローラ44の回転(符号36参照、駆動ローラの回転方向)により搬送方向へ搬送(符号35参照、巻き取り可能な基材の搬送方向)される。
クリップ42の材質は、巻き取り可能な基材15の両端部を挟持でき、適度なテンションで幅方向に張りながら巻き取り可能な基材15を搬送することができる材質であれば、特に限定されない。
また、巻き取り可能な基材15を挟持するときのクリップ42の開閉機構は、上記のバネ以外の機構でもよい。
【0024】
クリップ式挟持搬送機構41aにより挟持された巻き取り可能な基材15は、第三ゾーン23と第一ゾーン21との間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部17aを介して、第一ゾーン21に搬送される。
第一ゾーン21には、第一前駆体が導入されているので(符号31参照、第一前駆体ガスの流れ)、巻き取り可能な基材15が第一ゾーンを通過する際に、第一前駆体が巻き取り可能な基材15の両面に吸着する。
この間、巻き取り可能な基材15の両端部のみがクリップ式挟持搬送機構41aにより挟持されているため、第一前駆体が吸着した巻き取り可能な基材15の両面は、装置内に配置された機械部品に触れることはない。
【0025】
第一前駆体を構成する材料は、目的の堆積材料にあわせて適宜選択される。
例えば、基材105に堆積される材料(目的の堆積材料)が酸化アルミニウムの場合は、トリメチルアルミニウムが使用される。
なお、使用される第一前駆体の材料としては、非特許文献1に示されている材料が使用できる。
【0026】
第一ゾーン21における巻き取り可能な基材15の搬送速度は、第一ゾーン21を基材15が通過する時間が飽和吸着時間より長くなるように、飽和吸着時間と通過距離とから算出される。
【0027】
第一ゾーン21で第一前駆体が飽和吸着した巻き取り可能な基材15は、第一ゾーン21と第三ゾーン23との間に配置された仕切りの隔壁に設けた別の開口部を介して、再度、第三ゾーン23に搬送される。
なお、第一ゾーン21内のガスは、真空ポンプによって排気され(符号34a参照、真空ポンプによる排気)、第三ゾーン23内の圧力は、第一ゾーン21内の圧力より高く保たれている。
従って、第一ゾーン21に導入される第一前駆体は、第三ゾーン23に拡散しにくい条件下に維持されている。
このときの第一ゾーン21と第三ゾーン23との間の圧力差は、0.01Pa以上1Pa以下程度であることが好ましい。
【0028】
第三ゾーン23に搬送された巻き取り可能な基材15は、クリップ挟持終了位置46aでクリップから開放される。
【0029】
次に、クリップ挟持開始位置45bで、クリップ式挟持搬送機構41bのクリップにより、基材15の幅方向の両端部が挟持される。
クリップ式挟持搬送機構41bにより挟持された巻き取り可能な基材15は、第三ゾーン23と第二ゾーン22との間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部17bを介して、第二ゾーン22に搬送される。
第三ゾーン23を通過する間に、巻き取り可能な基材15に吸着した余剰の第一前駆体は気化し、パージされる。
第三ゾーン23における巻き取り可能な基材15の搬送速度は、十分なパージ時間が得られるように、通過距離から算出される。
【0030】
第二ゾーン22には、第二前駆体が導入されており(符号32参照、第二前駆体ガスの流れ)、巻き取り可能な基材15が第二ゾーン22を通過する間に、巻き取り可能な基材15の両面に吸着した第一前駆体吸着物は、第二前駆体と反応し、目的の材料が生成される。
この間、巻き取り可能な基材15の両端部のみがクリップ式挟持搬送機構41bにより挟持されているため、第一前駆体吸着物と第二前駆体が反応する際、巻き取り可能な基材15の両面は、装置内に配置された機械部品に触れることはない。
【0031】
第二前駆体を構成する材料は、目的の堆積材料にあわせて適宜選択される。
例えば、目的の堆積材料が酸化アルミニウムの場合は、水、オゾン、原子状酸素が使用される。
なお、使用される第二前駆体の材料としては、非特許文献1に示されている材料が使用できる。
【0032】
第二ゾーン22における巻き取り可能な基材15の搬送速度は、第二ゾーン22を基材15が通過する時間が反応時間より長くなるように、反応時間と通過距離とから算出される。
【0033】
第二ゾーン22で第一前駆体吸着物と第二前駆体とが反応した後、巻き取り可能な基材15は、第二ゾーン22と第三ゾーン23との間に配置された仕切りの隔壁に設けた別の開口部を介して、再度、第三ゾーン23に搬送される。
なお、第二ゾーン22内のガスは、真空ポンプによって排気され(符号34b参照、真空ポンプによる排気)、第三ゾーン23内の圧力は、第二ゾーン22内の圧力より高く保たれている。
従って、第二ゾーン22に導入される第二前駆体は、第三ゾーン23に拡散しにくい条件下に維持されている。
このときの第二ゾーン22と第三ゾーン23との間の圧力差は、0.01Pa以上1Pa以下程度であることが好ましい。
【0034】
第三ゾーン23に搬送された巻き取り可能な基材15は、クリップ挟持終了位置46bでクリップから開放される。
【0035】
以上の工程が、原子層堆積の1サイクルであり、この工程によって、1つの原子層が基材上に堆積される。
この1サイクルを複数回繰り返すことにより、巻き取り可能な基材15の表面に所望の膜厚の原子層堆積膜を形成することができる。
なお、上記1サイクルを複数回繰り返す際、巻き取り可能な基材15の搬送速度は、前述の第一ゾーン21,第二ゾーン22,及び第三ゾーン23に基材15を曝すために必要な時間と、基材15がゾーン21,22,23を通過する通過距離とから算出した搬送速度の中から一番低い速度に設定される。
【0036】
上記1サイクルを複数回繰り返し、巻き取り可能な基材15の表面に所望の膜厚の原子層堆積膜が形成された後、巻き取り可能な基材15は、巻き取りロール12により巻き取られる。
第三ゾーン23及び巻き取りロール12が設置されている巻き取り室14との間には、仕切り板が設置されており、仕切り板には、巻き取り可能な基材15が通過するに必要な開口部16が設けられている。
巻き取り可能な基材15は、この開口部16を介して、成膜後、第三ゾーン23から巻き取り室14へ搬送される。
【0037】
次に、本発明の一実施形態の巻き取り成膜方法に用いる巻き取り成膜装置の一例を図3に示す。
この巻き取り成膜装置2は、上述の巻き取り成膜装置1と同様、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室である第一ゾーン21と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室である第二ゾーン22と、パージガスが導入される第三真空気室である第三ゾーン23とを備える。
巻き取り成膜装置2は、巻き出し室13に設置された巻き出しロール11と、巻き取り室14に設置された巻き取りロール12と、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの間で、巻き取り可能な基材15を搬送する搬送機構51とを備える。
なお、巻き取り成膜装置2の構成は、搬送機構51を除いては、上述の巻き取り成膜装置1と同じである。
【0038】
搬送機構51は、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部を二つのベルトで挟持した状態で巻き取り可能な基材15を搬送するベルト式挟持搬送機構である。
【0039】
ここで、巻き取り成膜装置2におけるベルト式挟持搬送機構の概念図を図4に示す。
ベルト式挟持搬送機構51は、巻き取り可能な基材15の幅方向の端部を挟持する二つのベルト52と、二つのベルト52を搬送方向へ搬送させるプーリ53とを備える。
ベルト式挟持搬送機構51のベルト挟持開始位置54で、二つのベルト52により、巻き取り可能な基材15の両端部が挟持される。
両端部が挟持された巻き取り可能な基材15は、プーリ53の回転により(符号37参照、プーリの回転方向)、搬送方向へ搬送される(符号35参照、巻き取り可能な基材の搬送方向)。
【0040】
ベルト式挟持搬送機構51は、第一ゾーン21,第二ゾーン22,及び第三ゾーン23の各々に配置され、巻き取り可能な基材15の表面が装置内に配置された機械部品に触れることなく、基材15は、搬送される。
二つのベルト52の材質は、巻き取り可能な基材15の両端部を挟持でき、巻き取り可能な基材15を搬送することができる材質であれば、特に限定されないが、例えば、アラミド等の耐熱プラスチック製、又はスチール製を用いることができる。
【0041】
巻き取り成膜装置の他の例を図5に示す。
この巻き取り成膜装置3は、上述の巻き取り成膜装置1と同様、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室である第一ゾーン21と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室である第二ゾーン22と、パージガスが導入される第三真空気室である第三ゾーン23とを備える。
巻き取り成膜装置3は、巻き出し室13に設置された巻き出しロール11と、巻き取り室14に設置された巻き取りロール12と、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの間の巻き取り可能な基材15を搬送する搬送機構61とを備える。
なお、巻き取り成膜装置3の構成は、搬送機構61を除いては、上述の巻き取り成膜装置1と同じである。
【0042】
搬送機構61においては、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部の表面と裏面とを、異なった二つのローラで挟持し、一方又は両方のローラを駆動させることによって巻き取り可能な基材15を挟持し、搬送する。
前記二つのローラのセットは、基材15の一方の端部に配置されているだけでなく、他方の端部にも同様に設置され、巻き取り可能な基材15を挟持し搬送する。
以上の方法で、ローラ式挟持搬送機構が構成されている。
【0043】
ここで、巻き取り成膜装置3におけるローラ式支持搬送機構の概念図を図6に示す。
ローラ挟持搬送機構61は、二つのローラ62,63を用い、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部を挟持し、同時に動力を伝える。
【0044】
巻き取り成膜装置の他の例を図7に示す。
この巻き取り成膜装置4は、上述の巻き取り成膜装置1と同様、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室である第一ゾーン21と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室である第二ゾーン22と、パージガスが導入される第三真空気室である第三ゾーン23とを備える。
巻き取り成膜装置4は、巻き出し室13に設置された巻き出しロール11と、巻き取り室14に設置された巻き取りロール12と、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの間の巻き取り可能な基材15を搬送する搬送機構71とを備える。
なお、巻き取り成膜装置4の構成は、搬送機構71を除いては、上述の巻き取り成膜装置1と同じである。
【0045】
巻き取り成膜装置4における搬送機構71においては、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部の表面と裏面とを、異なった二つのローラで挟持し、一方又は両方のローラを駆動させることによって巻き取り可能な基材15を保持し、搬送する。
【0046】
ここで、巻き取り成膜装置4におけるローラ式挟持搬送機構の概念図を図8A及び図8Bに示す。なお、図8Bは、ローラ式挟持搬送機構の断面図である。
ローラ式挟持搬送機構71は、異なった二つのローラ72,73を用い、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部の表面と裏面とを挟持し、基材15に同時に動力を伝える。
また、図8Cは、本発明の第四実施形態におけるローラ式挟持搬送機構の平面図である。
ローラ挟持搬送機構71は、巻き取り可能な基材15の幅方向の両端部の表面と裏面とを挟持する二つのローラ72,73のうち、一方のローラ73(第1ローラ)が、回転軸を可変できる機構を有する。
具体的には、他方のローラ72(第2ローラ)の回転軸方向に対してローラ73(第1ローラ)の回転軸方向が傾斜するように、ローラ挟持搬送機構71はローラ73の回転軸を可変することができる。
ローラ挟持搬送機構71は、巻き取り可能な基材15の進行方向において基材15の幅が広がるようにローラ73の回転軸を可変させる。換言すると、ローラ72の回転軸方向に対してローラ73の回転軸方向が傾斜するようにローラ73の回転軸を可変させる。或いは、互いに対向するように配置されたローラ73のうち一方のローラの回転軸方向を他方のローラの回転軸方向に対して傾斜させる。これによって、巻き取り可能な基材15の弛みを調整することが可能である。
このような回転軸の可変機構をローラ挟持搬送機構71に設ける場合には、図8Cのように、回転軸が可変であるローラ73の径を他方のローラ72の径よりも小さくすることが好ましい。
また、他方のローラ72は、一方のローラ73と同様に、回転軸を可変できる機構を有していてもよい。
【0047】
巻き取り成膜装置の他の例を図9に示す。
この巻き取り成膜装置5は、上述の巻き取り成膜装置1と同様、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室である第一ゾーン21と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室である第二ゾーン22と、パージガスが導入される第三真空気室である第三ゾーン23とを備える。
巻き取り成膜装置5は、巻き出し室13に設置された巻き出しロール11と、巻き取り室14に設置された巻き取りロール12と、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの間の巻き取り可能な基材15を搬送する搬送機構81とを備える。
なお、巻き取り成膜装置5の構成は、搬送機構81を除いては、上述の巻き取り成膜装置1と同じである。
また、巻き取り成膜装置5においては、幅方向の両端部に予めパンチ孔が設けられた巻き取り可能な基材15を用いて、この基材15上に原子層を堆積させている。
【0048】
巻き取り成膜装置5における搬送機構81は、基材15に設けられたパンチ孔と嵌合するスプロケットにより巻き取り可能な基材15を保持し、搬送するスプロケット式支持搬送機構である。
【0049】
ここで、巻き取り成膜装置5におけるスプロケット式支持搬送機構の概念図を図10A及び図10Bに示す。なお、図10Bは、巻き取り成膜装置5におけるスプロケット式支持搬送機構の断面図である。
スプロケット式支持搬送機構81は、幅方向の両端部に複数のパンチ孔82を設けた巻き取り可能な基材15を用い、このパンチ孔82と嵌合するスプロケット83を備える。
巻き取り可能な基材15のパンチ孔82は、スプロケット式支持搬送機構81のスプロケット保持開始位置805でスプロケットの凸部84と嵌合する。
スプロケットの凸部84が巻き取り可能な基材15のパンチ孔82に嵌合することで、スプロケット83の回転により(符号38参照、スプロケットの回転方向)、巻き取り可能な基材15が搬送される(符号35参照、巻き取り可能な基材の搬送方向)。
特に、巻き取り可能な基材15は、パンチ孔62にスプロケットの凸部84と嵌合して搬送されるので、巻き取り可能な基材15搬送方向及び搬送方向と直交する方向ともに位置ずれの少ない搬送ができる。
図10A及び図10Bにおいて、スプロケットの凸部84の断面形状は矩形であるが、巻き取り可能な基材15のパンチ孔82に応じて、適宜形状は選択できる。
【0050】
上記の各巻き取り成膜装置には、以下のような変形が加えられていてもよい。
【0051】
(搬送機構を構成する部位の表面について)
上記の各搬送機構においては、搬送機構を構成する部位、例えば、上記クリップ、チェーン、又はベルト等の表面が、第一前駆体ガス又は第二前駆体ガスが化学吸着できる水酸基、カルボキシル基等の官能基を有する材料で構成されている場合、以下のような問題が生じる場合がある。
即ち、搬送機構が、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室と第二前駆体ガスが導入される第二真空気室とを通過すると、搬送機構を構成する部位の表面に原子層堆積膜が形成される。
この場合、上記部位の表面には、第一真空気室と第二真空気室とを繰り返し通過することで、巻き取り可能な基材よりも厚い原子層堆積膜が形成される。
この原子層堆積膜は、厚い膜となると脆性破壊し、異物(パーティクル)の原因となる。
従って、搬送機構を構成する部位の表面が、第一前駆体ガス又は第二前駆体ガスが化学吸着できる官能基を有する構成で形成されている場合、図1に示すように、第一ゾーン21と第二ゾーン22とを繰り返し通過しないように設計するべきである。
特に、図3のように、第一ゾーン21のみ、第二ゾーン22のみ又は第三ゾーン23のみに搬送機構51を設けることで、上記の問題は解消される。
【0052】
一方、搬送機構を構成する部位の表面が、第一前駆体ガス又は第二前駆体ガスが化学吸着できる官能基を有しない構成で形成されている場合、第一真空気室と第二真空気室とを繰り返し通過しても、搬送機構を構成する部位の表面に原子層堆積膜は形成されない。
例えば、ポリテトラフロロエチレン等のフッ素系ポリマー、ポリパラキシレン、オクタデシルトリクロロシラン等のカップーリング剤のコーティング膜が搬送機構を構成する部位の表面に形成されていると、原子層堆積膜が形成されない。
従って、搬送機構を構成する部位の表面が、上記コーティング膜のように第一前駆体ガス又は第二前駆体ガスの化学吸着を防止することができる材料で構成された搬送機構では、第一真空気室と第二真空気室とを繰り返し通過しても原子層堆積が生じない。
例えば、図11に示す巻き取り成膜装置6のように、第一ゾーン21と第二ゾーン22とを繰り返し通過する搬送機構51を用いる場合は、上記のようなコーティング膜によって表面が形成された部位で構成される搬送機構を用いる必要がある。
ただし、原子層堆積を行うに際し(基材上に原子層を堆積させる工程の際)、前駆体としてプラズマ活性種等を用いることによって、搬送機構を構成する部位が酸化し、部位の表面に官能基が生成される場合がある。この場合、その表面に原子層堆積膜が形成されるため、第一ゾーン21と第二ゾーン22とを繰り返し通過する搬送機構を用いることは好ましくない。
【0053】
(搬送機構が設置される位置について)
巻き取り成膜装置1では、図1のように、第一ゾーン21と第三ゾーン23を通過する搬送機構41a、第二ゾーン22と第三ゾーン23を通過する搬送機構41bが設置されているが、図3のように、第一ゾーン21のみ、第二ゾーン22のみ又は第三ゾーン23のみに搬送機構が設置されていてもよい。
このことは、図5に示す巻き取り成膜装置3でも同様である。
逆に、図3に示す巻き取り成膜装置2の搬送機構51は、第一ゾーン21と第三ゾーン23を通過する搬送機構、又は、第二ゾーン22と第三ゾーン23を通過する搬送機構として設置されていてもよい。
【0054】
(ガイドレールについて)
図12A及び図12Bは、巻き取り成膜装置2の搬送機構(ベルト式挟持搬送機構)を用いた場合の、第一ゾーンと第三ゾーンとの間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部、又は、第三ゾーンと第二ゾーンとの間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部を、巻き取り可能な基材が通過する際に用いるガイドレールを示している。
なお、図12Bは、ガイドレールの断面図である。
ガイドレール91は、ゾーンの間に配置された仕切りの隔壁18の開口部17を通過する巻き取り可能な基材15の位置の精度を高めるために用いられる補助具である。
ガイドレール91を用いることにより、巻き取り可能な基材15が精度よく開口部17へ搬送されるため、開口部の幅(X)をより小さく設計することができる。
そのため、第一ゾーン又は第三ゾーンにおける前駆体と第三ゾーンのパージガスとによって生成されるコンタミネーションを低く抑えることができる。
例えば、ガイドレール91がある場合、開口部の幅(X)を1mm程度に設定することが可能となる。
一方、ガイドレール91が設けられていない場合は、搬送中の巻き取り可能な基材15の位置の安定性を鑑み、開口部の幅(X)を5mm程度に設定する必要がある。
ガイドレール91は、開口部17に近い位置に、図12Bで示すように、巻き取り可能な基材15の両端部を挟み込むように設置することが好ましい。
ガイドレール91が設置される位置は、巻き取り可能な基材15の厚み、巻き取り可能な基材15の搬送速度等によって適宜決定される。
なお、図12A及び図12Bでは、例として、巻き取り成膜装置2の搬送機構であるベルト式挟持搬送機構51を示したが、クリップ式挟持搬送機構又はスプロケット式支持搬送機構が用いられた巻き取り成膜装置に適用されてもよい。
【0055】
(保護層形成部について)
上述の各巻き取り成膜装置では、巻き取り可能な基材の表と裏の両面に原子層堆積膜が形成される。
両面に原子層堆積膜が形成された巻き取り可能な基材は、装置内で最終的にロール状に巻き取られる。
このとき、巻き取り可能な基材の表面に形成された原子層堆積膜は、巻き取り可能な基材の裏側に形成された原子層堆積膜に接することになる。
従って、巻き取り可能な基材の表面及び裏面に堆積された原子層堆積層膜が互いに接する際にも、原子層堆積層膜に機械的損傷が生ずる恐れがある。
この場合、両面に原子層堆積膜が形成された巻き取り可能な基材を巻き取る前に、保護層を基材にコート(形成)することが好ましい。
保護層をコートする方法としては、例えば、化学気相蒸着(CVD)法等が利用できる。
具体的には、図13に示した巻き取り成膜装置7は、第三ゾーン23と巻き取り室14との間に、保護層を形成する保護層形成部である保護層コート室19を備える。保護層コート室19において、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)を原料ガスとして、TEOSをHeガスによるバブリング法で供給し、120℃に加熱されたチャンバ内でプラズマアシストによる分解反応を発生させ、Oガスと反応させ、原子層堆積層膜の表面にSiO膜を2μmの厚さに形成する。
なお、保護層は、巻き取り可能な基材の両面に形成された原子層堆積膜のうち、少なくとも一方の原子層堆積膜、望ましくは両面に形成される。
【0056】
巻き取り成膜装置の他の例についてさらに説明する。
この巻き取り成膜装置は、原子層堆積法を用いて、巻き取り可能な基材の表面に前駆体を吸着させて原子層堆積膜を形成する装置である。この成膜装置は、複数の前駆体ガスが導入される複数の真空気室、即ち、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室と、余剰の第一前駆体及び第二前駆体を排出するパージガスが導入される第三真空気室と、基材を複数の真空気室間を交互に複数回搬送するために用いられる搬送機構とを備える。
この搬送機構は、具体的に、巻き取り可能な基材の幅方向の両端部を保持する保持部を有する。保持部は、複数のローラによって構成され、基材両端部を保持、かつ、スリップを防止するために用いられるサクション式のガイドローラを用いている。
この搬送機構を用いることにより、巻き取り可能な基材は、成膜の過程で被膜される巻き取り可能な基材の表面が装置内に配置された機械部品に触れることなく、上記の各真空気室を順次通過することができる。これによって、基材に機械的損傷が生じることが防止され、また、基材搬送中のスリップによるパーティクルの発生及び不安定搬送が防止され、良質な原子層堆積膜が基材上に形成される。
【0057】
巻き取り可能な基材の幅方向の両端部を保持する保持部としては、基材がローラに吸着するために設けられた複数の穴が形成されたサクション式機構を備えたガイドローラ又は複数のローラを用いて端部の表面と裏面とを挟持する部材や装置等が挙げられる。
即ち、搬送機構は複数のローラによって構成され、保持部は、複数の前記ローラの表面に各々設けられた穴を通じて基材を吸引することによって基材を保持する。
また、保持部は、基材の表面及び裏面に設置された複数のローラで基材を挟持し、表面及び裏面に設置されたローラのうち少なくとも一つが駆動機構を有するようにしてもよい。
【0058】
上述した巻き取り成膜装置の具体例を図16に示す。
この巻き取り成膜装置100は、第一前駆体ガスが導入される第一真空気室である第一ゾーン201と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室である第二ゾーン202と、パージガスが導入される第三真空気室である第三ゾーン203とを備える。
巻き取り成膜装置100は、巻き出し室103に設置された巻き出しロール101と、巻き取り室104に設置された巻き取りロール102と、巻き出しロール101から巻き取りロール102までの間の巻き取り可能な基材105を吸着しながら搬送するために設けられた複数の穴を有するサクション機構を備えたサクション式搬送機構401(401a、401b、401c)とを備える。
【0059】
巻き取り成膜装置100におけるサクション式搬送機構401は、巻き取り可能な基材105の幅方向の両端部を吸着しながら搬送するために設けられた複数が形成されたサクション機構(保持部)を備えたガイドローラを用いて、巻き取り可能な基材105を搬送する。
巻き取り可能な基材105の表面に連続的に原子層を堆積させるために、サクション式搬送機構401により、巻き取り可能な基材105を第三ゾーン203、第一ゾーン201、第三ゾーン203、第二ゾーン202、第三ゾーン203の順に通過させることで、1つの原子層が基材上に堆積される。
この巻き取り成膜装置では、所望の膜厚を得るために必要なサイクル数で原子層を基材105の表面に堆積することができるように、搬送機構が基材を上述したゾーンを通過させる回数が所定回数となるように、成膜装置が設計されている。
【0060】
本発明で使用される巻き取り可能な基材105は、プラスチックフィルム、プラスチックシート、金属箔、金属シート、紙、不織布等の可撓性の材料から選択される。
巻き取り可能な基材105の厚みは、特に限定されないが、10μm以上1000μm以下の厚みを有する基材が使用できる。
【0061】
巻き取り可能な基材105は、巻き出しロール101により巻き出され、第三ゾーン203へ搬送される。
巻き出しロール101が設置されている巻き出し室103と第三ゾーン203との間には、仕切り板が設置されており、仕切り板には、巻き取り可能な基材105が通過するに必要な開口部106が設けられている。
巻き取り可能な基材105は、この開口部106を介して、巻き出し室103から第三ゾーン203へ搬送される。
【0062】
第三ゾーン203には、パージガスとして不活性ガスが導入されている(303)。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等から適宜選択されたガスが用いられる。
【0063】
第三ゾーン203において、巻き取り可能な基材105の両端部のみを保持するために、サクション機構を備えたサクション式搬送機構401cにより基材105がガイドされ、第三ゾーン203でも安定して基材105が搬送される状態が維持される。
【0064】
図17は、巻き取り成膜装置100のサクション式搬送機構の概念図である。
巻き取り成膜装置100におけるサクション式搬送機構401は、巻き取り可能な基材105の幅方向の両端部を吸着しながら搬送するために設けられた複数の穴が形成されたサクション機構を備える。
巻き取り可能な基材105は、サクション式搬送機構401のサクション式ローラ402によって基材105がローラ表面に吸着されることで保持される。
各サクション式ローラ402には、真空ポンプが接続されている。真空ポンプが駆動することによって、複数の穴を通じて吸引が行われ(符号305参照、サクション式ローラ排気)、巻き取り可能な基材105は、ローラ表面に吸着される。
ローラ402によって保持された巻き取り可能な基材105は、適度なテンションで幅方向に張られる。搬送中、基材105は、弛まず、実質的に平面状に保持される。
サクション式ローラ402の材質は、巻き取り可能な基材105の両端部を保持でき、適度な摩擦力を巻き取り可能な基材105と保ちながら搬送することができる材質であれば、特に限定されない。
また、サクション式ローラ402は吸引部402aと非吸引部402bが同時に回転する機構でも、また吸引部402aのみが単独で回転し、非吸引部402bは非回転のローラでもよい。
【0065】
図16の説明に戻り、サクション式搬送機構401cにより保持された巻き取り可能な基材105は、第三ゾーン203と第一ゾーン201との間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部107aを介して、第一ゾーン201に搬送される。
第一ゾーン201には、第一前駆体が導入されているので(符号301参照)、巻き取り可能な基材105が第一ゾーン201を通過する際に、第一前駆体が巻き取り可能な基材105の両面に吸着する。
この間、巻き取り可能な基材105の両端部のみがサクション式搬送機構401aにより保持されているため、第一前駆体が吸着した巻き取り可能な基材105の両面は、装置内に配置された機械部品に触れることはない。
【0066】
第一前駆体を構成する材料は、目的の堆積材料にあわせて適宜選択される。
例えば、基材105に堆積される材料(目的の堆積材料)が酸化アルミニウムの場合は、トリメチルアルミニウムが使用される。
なお、使用される第一前駆体の材料としては、例えば、非特許文献1に示されている材料が使用できる。
【0067】
第一ゾーン201における巻き取り可能な基材105の搬送速度は、第一ゾーン201を基材105が通過する時間が飽和吸着時間より長くなるように、飽和吸着時間と通過距離とから算出される。
【0068】
第一ゾーン201で第一前駆体が飽和吸着した巻き取り可能な基材105は、第一ゾーン201と第三ゾーン203との間に配置された仕切りの隔壁に設けた別の開口部107bを介して、再度、第三ゾーン203に搬送される。
なお、第一ゾーン201内のガスは、第一ゾーン内に配置され、かつ、真空ポンプに接続されたサクション式ローラのサクション機構によって排気され(符号305a参照、サクション式ローラ排気)、また、第一ゾーンに接続された排気機構(符号304a)によって排気されている。この排気機構の両者を使用することによって、第一ゾーン201内の圧力が保たれている。また、第三ゾーン203内の圧力は、第一ゾーン201内の圧力より高く保たれている。
従って、第一ゾーン201に導入される第一前駆体は、第三ゾーン203に拡散しにくい条件下に維持されている。
このときの第一ゾーン201と第三ゾーン203との間の圧力差は、0.01Pa以上1Pa以下程度であることが好ましい。
【0069】
次に、巻き取り可能な基材105は、第三ゾーン203と第二ゾーン202との間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部107cを介して、第二ゾーン202に搬送される。
基材105が第三ゾーン203を通過する間に、巻き取り可能な基材105に吸着した余剰の第一前駆体は気化し、パージされる。
このとき、巻き取り可能な基材105の搬送状態を安定させるため、第三ゾーン203内に、両端部のガイドローラとして、サクション式搬送機構401を設置することも可能である。
図16には、第三ゾーン203内にサクション式搬送機構401を設けた構成が図示されている。
【0070】
第三ゾーン203における巻き取り可能な基材105の搬送速度は、十分なパージ時間が得られるように、通過距離から算出される。
【0071】
第二ゾーン202には、第二前駆体が導入されており(符号302参照)、巻き取り可能な基材105が第二ゾーン202を通過する間に、巻き取り可能な基材105の両面に吸着した第一前駆体吸着物は、第二前駆体と反応し、目的の材料が生成される。
この間、巻き取り可能な基材105の両端部のみがサクション式搬送機構401bにより保持されているため、第一前駆体吸着物と第二前駆体が反応する際、巻き取り可能な基材105の両面は、装置内に配置された機械部品に触れることはない。
【0072】
第二前駆体を構成する材料は、目的の堆積材料にあわせて適宜選択される。
例えば、目的の堆積材料が酸化アルミニウムの場合は、水、オゾン、原子状酸素が使用される。
なお、使用される第二前駆体の材料としては、例えば、非特許文献1に示されている材料が使用できる。
【0073】
第二ゾーン202における巻き取り可能な基材105の搬送速度は、第二ゾーン202を基材105が通過する時間が反応時間より長くなるように、反応時間と通過距離とから算出される。
【0074】
第二ゾーン202で第一前駆体吸着物と第二前駆体とが反応した後、巻き取り可能な基材105は、第二ゾーン202と第三ゾーン203との間に配置された仕切りの隔壁に設けた別の開口部107dを介して、再度、第三ゾーン203に搬送される。
なお、第二ゾーン202内のガスは、第二ゾーン内に配置され、かつ、真空ポンプに接続されたサクション式ローラのサクション機構によって排気され(符号305b参照、サクション式ローラ排気)、また、第二ゾーンに接続された排気機構(符号304b)によって排気されている。この排気機構の両者を使用することによって第三ゾーン203内の圧力は、第二ゾーン202内の圧力より高く保たれている。
従って、第二ゾーン202に導入される第二前駆体は、第三ゾーン203に拡散しにくい条件下に維持されている。
このときの第二ゾーン202と第三ゾーン203との間の圧力差は、0.01Pa以上1Pa以下程度であることが好ましい。
【0075】
以上の工程が、原子層堆積の1サイクルであり、この工程によって、1つの原子層が基材上に堆積される。
この1サイクルを複数回繰り返すことにより、巻き取り可能な基材105の表面に所望の膜厚の原子層堆積膜を形成することができる。
なお、上記1サイクルを複数回繰り返す際、巻き取り可能な基材105の搬送速度は、前述の第一ゾーン201,第二ゾーン202,及び第三ゾーン203に基材105を曝すために必要な時間と、基材105がゾーン201,202,203を通過する通過距離とから算出した搬送速度の中から一番低い速度に設定される。
【0076】
上記1サイクルを複数回繰り返し、巻き取り可能な基材105の表面に所望の膜厚の原子層堆積膜が形成された後、巻き取り可能な基材105は、巻き取りロール102により巻き取られる。
第三ゾーン203及び巻き取りロール102が設置されている巻き取り室104との間には、仕切り板が設置されており、仕切り板には、巻き取り可能な基材105が通過するに必要な開口部106が設けられている。
巻き取り可能な基材105は、この開口部106を介して、成膜後、第三ゾーン203から巻き取り室104へ搬送される。
【0077】
巻き取り成膜装置100には、以下のような変形が加えられていてもよい。
【0078】
(ニップローラについて)
図18は、巻き取り成膜装置100の変形例の構成を示す図である。
この巻き取り成膜装置200は、図18に示すようなニップローラ式挟持搬送機構501を備えている。ニップローラ式挟持搬送機構501は、巻き取り可能な基材105にテンションをかけることで、即ち、搬送方向に沿って基材105を引っ張ることで、基材105の弛みを矯正したり、又は蛇行を修正したりする。図18に示すようなニップローラ式挟持搬送機構501を用いることで、より大きな効果を得ることができる。
ニップローラ式挟持搬送機構501においては、巻き取り可能な基材105の幅方向の両端部の表面及び裏面が、異なった二つのローラで挟持され、一方又は両方のローラを駆動することによって巻き取り可能な基材105を保持し、基材105が搬送される。
【0079】
図19A〜図19Cは、変形例におけるニップローラ式挟持搬送機構の概念図であり、図19Aはニップローラ式挟持搬送機構の斜視図、図19Bはニップローラ式挟持搬送機構の断面図、図19Cはニップローラ式挟持搬送機構の平面図である。
ニップローラ式挟持搬送機構501は、上述のサクション式ローラ402にニップを目的としたニップローラ502が設けられた構造を有する。このニップローラ式挟持搬送機構501を用いて、巻き取り可能な基材105の幅方向の両端部の表面と裏面を挟持し、同時に、基材105に動力を伝える。
即ち、ニップローラ式挟持搬送機構501は、基材の表面及び裏面に設置された複数のローラで基材を挟持し、表面及び裏面に設置されたローラのうち少なくとも一つ(第六実施形態ではサクション式ローラ402)が駆動機構を有するように構成されている。
また、図19Cに示すように、ニップローラ式挟持搬送機構501は、巻き取り可能な基材105の幅方向の両端部の表面と裏面とを挟持する二つのローラ402,502を備える。更に、ニップローラ502(第1ローラ)は、回転軸を可変できる機構を有する。
即ち、表面及び裏面に設置されたローラのうちいずれか(ニップローラ502)が回転軸を変更する機構を備える。
具体的には、サクション式ローラ402(第2ローラ)の回転軸方向に対してニップローラ502(第1ローラ)の回転軸方向が傾斜するように、ニップローラ式挟持搬送機構501はニップローラ502の回転軸を可変することができる。
ニップローラ式挟持搬送機構501は、巻き取り可能な基材105の進行方向において基材105の幅が広がるようにニップローラ502の回転軸を可変させる。換言すると、サクション式ローラ402の回転軸方向に対してニップローラ502の回転軸方向が傾斜するようにニップローラ502の回転軸を可変させる。或いは、互いに対向するように配置されたニップローラ502のうち一方のローラの回転軸方向を他方のローラの回転軸方向に対して傾斜させる。これによって、巻き取り可能な基材105の弛みを調整することが可能である。
このような回転軸の可変機構をニップローラ式挟持搬送機構501に設ける場合には、図19Cのように、回転軸が可変であるニップローラ502の径を他方のサクション式ローラ402の径よりも小さくすることが好ましい。
また、サクション式ローラ402は、ニップローラ502と同様に、回転軸を可変できる機構を有していてもよい。
【0080】
巻き取り可能な基材の弛みの矯正又は蛇行の修正は、ニップローラ502がサクション式ローラ402を押圧する圧力、ニップローラ502の方向、及びサクション式ローラ402のサクション力を調整することにより制御される。これによって、安定した走行(基材の搬送)を実現することができる。
【0081】
(ガイドレールについて)
図20A及び図20Bは、巻き取り成膜装置の他の変形例におけるガイドレールの構成を示す図であり、図20Aは、ガイドレールを用いた場合の開口部に近い位置を示す斜視図であり、図20Bはガイドレールの断面図である。
図20Aに示すように、巻き取り成膜装置511は、第一ゾーン201と第三ゾーン203との間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部107、又は、第三ゾーン203と第二ゾーン202との間に配置された仕切りの隔壁に設けた開口部107に近い位置に、巻き取り可能な基材105が通過する際に用いるガイドレール601を備えてもよい。
ガイドレール601は、ゾーンの間に配置された仕切りの隔壁108の開口部107を通過する巻き取り可能な基材105の位置の精度を高めるために用いられる補助具である。
ガイドレール601を用いることにより、巻き取り可能な基材105を精度よく開口部107へ搬送することができるため、開口部107の幅(X)をより小さく設計することができる。また、第三ゾーン203内に配置されるサクション式搬送機構401を省略することができ、第一ゾーン201又は第三ゾーン203における前駆体と第三ゾーン203のパージガスとによって生成されるコンタミネーションを低く抑えることができる。
例えば、ガイドレール601がある場合、開口部の幅(X)を1mm程度に設定することが可能となる。
一方、ガイドレール601が設けられていない場合は、搬送中の巻き取り可能な基材105の位置の安定性を鑑み、開口部の幅(X)を5mm程度に設定する必要がある。
ガイドレール601は、開口部107に近い位置に、図20Bで示すように、巻き取り可能な基材105の両端部を挟み込むように設置することが好ましい。
ガイドレール601が設置される位置は、巻き取り可能な基材105の厚み、巻き取り可能な基材105の搬送速度等によって適宜決定される。巻き取り可能な基材105が著しく不安定に走行する場合、基材105とガイドレール601との接触によりパーティクルが発生することが懸念されるために、第三ゾーン203内のサクション式搬送機構401を併用することが好ましい。
【実施例】
【0082】
<第1実施例>
次に、巻き取り成膜装置1を用いた本発明の巻き取り成膜方法の第1実施例について述べる。
図1の巻き取り成膜装置1を用い、巻き取り可能な基材15として、厚みが100μmのポリエステルフィルムを使用した。
巻き出しロール11の位置に取り付けられたポリエステルフィルムは、第三ゾーン23に搬送され、第三ゾーン23のクリップ式挟持搬送機構41aにより、クリップ挟持開始位置45aで、基材15の両端部がクリップで挟持され、基材15が第一ゾーン21に搬送された。
第一ゾーン21には、キャリアガスとして用いられた窒素ガスと、第一前駆体として用いられたトリメチルアルミニウムとを導入した。
ドライポンプにより排気(減圧)されている第一ゾーン21の圧力が、おおよそ50Paになるように、ガスの流量を調整した。
クリップ式挟持搬送機構41aによって第一ゾーン21内を移動しながら、ポリエステルフィルムの両面にトリメチルアルミニウムが飽和吸着した。
両面にトリメチルアルミニウムが飽和吸着したポリエステルフィルムは、再び第三ゾーン23に搬送された。
第三ゾーン23には不活性ガスとして窒素ガスを導入した。
第三ゾーン23の圧力がおおよそ50.5Paになるように、ガスの流量を調整した。
第三ゾーン23内を移動する間に、余剰のトリメチルアルミニウムはパージされた。
十分なパージの後、第三ゾーン23のクリップ式挟持搬送機構41bにより、クリップ挟持開始位置45bで、ポリエステルフィルムの両端部がクリップで挟持され、第二ゾーン22に搬送された。
第二ゾーン22には、キャリアガスとして用いられた窒素ガスと、第二前駆体として用いられたイオン交換水とを導入した。
ドライポンプにより排気(減圧)されている第二ゾーン22の圧力が、おおよそ50Paになるようにガスの流量を調整した。
クリップ式挟持搬送機構41bにより第二ゾーン22内を移動しながら、ポリエステルフィルムの両面のトリメチルアルミニウムがイオン交換水と反応し、1つの原子層が基材上に堆積された。
なお、ポリエステルフィルムの搬送速度は、第三ゾーン23における必要なパージ時間によって決められた。
また、第一ゾーン21,第二ゾーン22,及び第三ゾーン23の温度は、すべて90℃に保たれた。
また、上述の巻き取り成膜装置1の説明では、1回の搬送で3サイクルの原子層堆積が行われる例が示されているが、第1実施例では、100サイクルが可能な装置が用意され、100サイクルの原子層堆積が行われた。
この結果、ポリエステルフィルムに形成された酸化アルミニウム膜の厚みは10nmであった。
また、電子顕微鏡を使用して表面の損傷を観察した結果、酸化アルミニウム膜の表面の損傷は認められなかった。
【0083】
<比較例>
図14の巻き取り成膜装置を使用して酸化アルミニウムの堆積を行った。
巻き取り成膜装置8の基本的な構成は、図1の巻き取り成膜装置1と同じであるが、比較例の搬送機構は巻き取り成膜装置1の搬送機構41a,41bとは異なり、ガイドローラによる搬送機構1001を備える。
巻き取り可能な基材15は、図15A及び図15Bのように、ガイドローラ式支持搬送機構1001のガイドローラ1002を用いて搬送される。
従って、ガイドローラ式支持搬送機構1001は、巻き取り可能な基材15が原子層堆積の1サイクルにつき二つのガイドローラに接触する搬送機構を備える。
上記搬送方法の点で、比較例は第1実施例とは相違しているが、比較例においては、第1実施例に示された条件で酸化アルミニウムの原子層堆積を行った。
また、図14では、1回の搬送で3サイクルの原子層堆積が行われる装置が示されているが、実際には、100サイクルが可能な装置が用意され、100サイクルの原子層堆積が行われた。
この結果、ポリエステルフィルムに形成された酸化アルミニウム膜の厚みは10nmであった。
また、電子顕微鏡を使用して表面の損傷を観察した結果、損傷が認められた。
【0084】
<第2実施例>
次に、巻き取り成膜装置100を用いた本発明の巻き取り成膜方法の第2実施例について述べる。
図16の巻き取り成膜装置100を用い、巻き取り可能な基材105として、厚みが100μmのポリエステルフィルムを使用した。
巻き出しロール101の位置に取り付けられたポリエステルフィルムは、第三ゾーン203に搬送され、第三ゾーン203のサクション式搬送機構401cによって、第一ゾーン201に搬送された。
第一ゾーン201には、キャリアガスとして用いられた窒素ガスと、第一前駆体として用いられたトリメチルアルミニウムとを導入した。
第一ゾーン201の圧力が、おおよそ50Paになるように、サクション式ローラによって排気される排気量305aと、第一ゾーンから排気される排気量304aと、第一ゾーンに供給されるガスの流量301とを調整した。
ポリエステルフィルムは、サクション式搬送機構401aにより第一ゾーン201内を移動しながら、その両面にトリメチルアルミニウムが飽和吸着した。
両面にトリメチルアルミニウムが飽和吸着したポリエステルフィルムは、再び第三ゾーン203に搬送された。
第三ゾーン203には不活性ガスとして窒素ガスを導入した。
第三ゾーン203の圧力がおおよそ50.5Paになるように、サクション式ローラによる排気量305cとガスの流量303とを調整した。
ポリエステルフィルムが第三ゾーン203内を移動する間に、余剰のトリメチルアルミニウムはパージされた。
十分なパージの後、ポリエステルフィルムは、第二ゾーン202に搬送された。
第二ゾーン202には、キャリアガスとして用いられた窒素ガスと、第二前駆体として用いられたイオン交換水とを導入した。
第二ゾーン202の圧力が、おおよそ50Paになるように、サクション式ローラによって排気される排気量305bと、第二ゾーンから排気される排気量304bと、第二ゾーンに供給されるガスの流量302とを調整した。
サクション式搬送機構401bにより第二ゾーン202内を移動しながら、ポリエステルフィルムの両面のトリメチルアルミニウムがイオン交換水と反応し、1つの原子層が基材上に堆積された。
なお、ポリエステルフィルムの搬送速度は、第三ゾーン203における必要なパージ時間によって決められた。
また、第一ゾーン201,第二ゾーン202,及び第三ゾーン203の温度は、すべて90℃に保たれた。
また、上述の巻き取り成膜装置100の説明では、1回の搬送で3サイクルの原子層堆積が行われる例が示されているが、第2実施例では、100サイクルが可能な装置が用意され、100サイクルの原子層堆積が行われた。
この結果、ポリエステルフィルムに形成された酸化アルミニウム膜の厚みは10nmであった。
また、電子顕微鏡を使用して、端部を含む表面の損傷を観察した結果、酸化アルミニウム膜の表面の損傷は認められなかった。
【0085】
<比較例>
図16の巻き取り成膜装置100を用い、巻き取り可能な基材105として、厚みが100μmのポリエステルフィルムを使用した。
巻き出しロール101の位置に取り付けられたポリエステルフィルムは、第三ゾーン203に搬送され、第三ゾーン203のサクション式搬送機構401cによって、第一ゾーン201に搬送された。
この際、比較例の成膜装置においては、サクション式ローラによる排気305cは行わない。
第一ゾーン201には、キャリアガスとして用いられた窒素ガスと、第一前駆体として用いられたトリメチルアルミニウムとを導入した。
第一ゾーン201の圧力が、おおよそ50Paになるように、第一ゾーンから排気される排気量304a及びガスの流量301を調整した。
この際、サクション式ローラによる排気305aは行わない。
サクション式搬送機構401aにより第一ゾーン201内を移動しながら、ポリエステルフィルムの両面にトリメチルアルミニウムの飽和吸着が行われた。
両面にトリメチルアルミニウムが飽和吸着したポリエステルフィルムは、再び第三ゾーン203に搬送された。
第三ゾーン203には不活性ガスとして窒素ガスを導入した。
第三ゾーン203の圧力がおおよそ50.5Paになるように、ガスの流量303を調整した。
第三ゾーン203内を移動する間に、余剰のトリメチルアルミニウムはパージされた。
十分なパージの後、ポリエステルフィルムは、第二ゾーン202に搬送された。
第二ゾーン202には、キャリアガスとして用いられた窒素ガスと、第二前駆体として用いられたイオン交換水とを導入した。
第二ゾーン202の圧力が、おおよそ50Paになるように、第二ゾーンから排気される排気量304b及びガスの流量302を調整した。
サクション式搬送機構401bにより第二ゾーン202内を移動しながら、ポリエステルフィルムの両面のトリメチルアルミニウムがイオン交換水と反応し、1つの原子層が基材上に堆積された。
この際、サクション式ローラからの排気305cは行わない。
なお、ポリエステルフィルムの搬送速度は、第三ゾーン203における必要なパージ時間によって決められた。
また、第一ゾーン201,第二ゾーン202,及び第三ゾーン203の温度は、すべて90℃に保たれた。
また、上述の巻き取り成膜装置100の説明では、1回の搬送で3サイクルの原子層堆積が行われる例が示されているが、この比較例では100サイクルが可能な装置が用意され、100サイクルの原子層堆積が行われた。
結果、形成された酸化アルミニウム膜の厚みは10nmであった。
また、電子顕微鏡を使用して、端部を含む表面の損傷を観察した結果、巻き取り可能な基材105の幅方向の中央に位置するローラ非接触部の酸化アルミニウム膜の表面の損傷は認められなかったが、基材105のローラ接触部では微細な傷が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の巻き取り成膜方法は、巻き取り可能な基材に連続的に成膜を行い、緻密な薄膜を形成することができることから、金銀糸に用いられる金属光沢フィルム、食品包装のガスバリアフィルム、フィルムコンデンサーの電極、反射防止等の光学フィルムの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1,2,3,4,5,6,7,8,100,200・・・巻き取り成膜装置
11,101・・・巻き出しロール
12,102・・・巻き取りロール
13,103・・・巻き出し室
14,104・・・巻き取り室
15,105・・・巻き取り可能な基材
16,106・・・開口部
17,17a,17b,107、107a、107b・・・開口部
18,108・・・隔壁
19・・・保護層コート室
21,201・・・第一ゾーン
22,202・・・第二ゾーン
23,203・・・第三ゾーン
31・・・第一前駆体ガスの流れ
32・・・第二前駆体ガスの流れ
33・・・パージガスの流れ
34a,34b・・・真空ポンプによる排気
35・・・巻き取り可能な基材の搬送方向
36・・・駆動ローラの回転方向
37・・・プーリの回転方向
38・・・スプロケットの回転方向
39・・・ガイドローラの回転方向
41,41a,41b・・・搬送機構(クリップ式挟持搬送機構)
42・・・クリップ
43・・・チェーン
44・・・駆動スプロケット
45,45a,45b・・・クリップ挟持開始位置
46a,46b・・・クリップ挟持終了位置
51・・・搬送機構(ベルト式挟持搬送機構)
52・・・ベルト
53・・・プーリ
54・・・ベルト挟持開始位置
61・・・搬送機構(ローラ式挟持搬送機構)
62・・・ローラ
63・・・ローラ
71・・・搬送機構(ローラ式挟持搬送機構)
72・・・ローラ
73・・・ローラ
81・・・搬送機構(スプロケット式支持搬送機構)
82・・・パンチ孔
83・・・スプロケット
84・・・スプロケットの凸部
91・・・ガイドレール
301・・・第一前駆体ガスの導入
302・・・第二前駆体ガスの導入
303・・・パージガスの流れ
304a、304b・・・真空ポンプによる排気
305、305a、305b、305c・・・サクション式ローラ排気
401、401a、401b・・・搬送機構(サクション式搬送機構)
402、402a、402b・・・サクション式ローラ
501・・・搬送機構(ニップローラ式挟持搬送機構)
502・・・ニップローラ
511・・・ガイドレール機構
601・・・ガイドレール
805・・・スプロケット保持開始位置
1001・・・搬送機構(ガイドローラ式支持搬送機構)
1002・・・ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一前駆体ガスが導入される第一真空気室と、第二前駆体ガスが導入される第二真空気室と、前記第一前駆体及び前記第二前駆体を排出するために用いられるパージガスが導入される第三真空気室と、基材の幅方向の両端部を保持する保持部を有し、前記基材を、前記第一真空気室,前記第二真空気室,及び前記第三真空気室に搬送する搬送機構とを備え、前記搬送機構が、前記第一真空気室,前記第二真空気室,及び前記第三真空気室のいずれかの室内に、かつ自身の一部が他の室内に位置しないように配置された巻き取り成膜装置を用いて、前記基材を巻き取りながら前記基材上に成膜を行う巻き取り成膜方法であって、
前記搬送機構により、前記基材を前記第一真空気室及び前記第二真空気室を交互に複数回通過させて、前記基材の表面に原子層を堆積させて原子層堆積膜を形成する
ことを特徴とする巻き取り成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図20A】
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【図20B】
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【公開番号】特開2013−91858(P2013−91858A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−30445(P2013−30445)
【出願日】平成25年2月19日(2013.2.19)
【分割の表示】特願2012−550654(P2012−550654)の分割
【原出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】