説明

フィルムコーティング製剤

【課題】 優れた防湿性、隠蔽性及び外観を有しており、かつコーティング量の増加を抑えることが可能なフィルムコート製剤を提供する。
【解決手段】 有色成分、防湿剤及び隠蔽剤を有する医薬組成物であって、(1)有色成分を含有する固形組成物、前記固形組成物の外側に(2)防湿剤を含むが隠蔽剤を実質的に含有しない、防湿コーティングを有し、更に前記防湿コーティングよりも外側に(3)隠蔽剤を含有する隠蔽コーティングを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿性及び隠蔽性に優れたフィルムコート製剤、特にフィルムコート錠に関する。
【背景技術】
【0002】
糖衣コーティングは、薬物の不快味・不快臭のマスキング、薬物の光や湿度からの安定化、外観の向上、服用を容易にする等の種々の目的で医薬製剤に繁用される製剤加工技術である。特に、ビタミン剤等のいわゆる一般薬では、優れた外観や安定性の点から糖衣錠で開発される製品が多い。
【0003】
近年、特に各種ビタミンを含んだ一般薬の場合には、処方中に占める主薬成分の種類や量が多くなる傾向にある。糖衣錠の場合には、1錠剤当たりに占める糖衣部分の割合が高いため、処方中の主薬成分の量が多くなると錠剤が大型化してしまい、服用上の問題が発生する。更に、錠剤が大きくなると、それに合わせてコーティングする糖衣の量も増加するため、コーティングの際に時間がかかってしまい、製造コストの上昇を招いてしまうという問題もある。
【0004】
そこで、上記の問題のある糖衣錠に代わり、フィルムコート錠で開発される製品が増加してきている。特に、複数の主薬成分を含有する製剤の場合には、複数の種類の顆粒を混合し、打錠して得られた錠剤(素錠)を用いることが多いが、それぞれの種類の顆粒の色が異なる場合には、それらを打錠して得られた素錠の表面に色むらが発生してしまうため、素錠の上に隠蔽剤を含んだコーティング液を塗布することにより錠剤の外観を向上させることが多い。特許文献1には、錠剤上に隠蔽剤である酸化チタンを含有するフィルムコートを1層だけ施したフィルムコート錠が開示されている。
【特許文献1】2000−44464
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルムコートは錠剤の外観の向上の他、薬効成分の安定性の維持、苦味マスキングによる服用性向上、腸溶性、徐放性機能の付与による薬効発現の調整等に利用される。しかし、糖衣とは異なり錠剤に占めるコーティング量が少ないことから、1層のコーティングでは高い防湿性と隠蔽性とを同時に付与するのが難しく、有色成分を含有する錠剤では、加湿条件下で色が染み出してくる現象が認められる。一方、高い防湿性と隠蔽性を求めるために、コーティング量を増やすと、外観の劣化を引き起こすと共に、使用する原料も増え、更に製造時間が長くなることによるコストアップの要因となる。また、近年防湿効果に優れたフィルムコート基剤も市販されるようになったが、色の隠蔽効果を付与する目的で十分な量の隠蔽剤を添加すると、極端に防湿性が劣化してしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく、本願の発明者は鋭意研究を重ねた結果、意外にも有色成分を含有する錠剤に、防湿効果を有するフィルコート層を施し、その層の外側に更に隠蔽効果を有したフィルムコート層を形成することにより、防湿剤と隠蔽剤とを同時に含んだフィルムコートよりも少ないムコート量で、高い防湿効果と隠蔽効果を有するフィルムコート錠を得ることができることを発見した。即ち、本願発明は、防湿効果の高いフィルムコート層の外側に、隠蔽効果を有するフィルムコート層を形成することを特徴とする複層フィルムコートを施した医薬組成物、及び固形組成物に前記複層フィルムコートを施すことにより医薬組成物の着色を防止する方法、および固形組成物に前記複層フィルムコートを施すことによる医薬組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医薬組成物は、有色成分を含有した固形組成物上に、防湿剤を含有するが隠蔽剤を実質的に含有しない防湿コーティングを有し、更に前記防湿コーティングよりも外側に隠蔽剤を含有する隠蔽コーティングを有しているため、高い安定性、高い隠蔽効果及び優れた外観を有している。また、本発明の医薬組成物は、防湿剤および隠蔽剤を含有する1層のフィルムコートに比べて、フィルムコートの総量が少量で済むため、フィルムコートを施した錠剤全体の大きさを小さくすることができるため、服用しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いることのできる有色成分とは、医薬組成物中に用いられる、色を有している成分をいい、元々色を有している成分の他、加湿や、分解によって着色する成分をも意味し、有色の薬効成分の他、賦形剤、結合剤、安定化剤、矯味剤、着香剤、香料等の添加剤が挙げられる。有色成分に分類することのできる薬効成分としてはリボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、ヒドロキソコバラミン、チオクト酸アミド(アルファリポ酸)、ユビデカレノン(CoQ10)、葉酸、ニンジン、ヨクイニン等の生薬成分全般を挙げることができる。なお、本発明における医薬組成物中には、上述の有色成分の他に無色の薬効成分を含む場合であってもよいことは言うまでもない。
【0009】
本発明において用いることのできる防湿剤としては、防湿効果を有しているコーティング基剤であれば限定されることはなく、例えばポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、ポリビニルアルコールアクリル酸メタクリル酸メチルコポリマーを挙げることができるが、これらのうち、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを用いるのが好ましい。これらのコーティング基剤は、例えばHA(三共)、PVA-copolymer(大同化成工業)、オパドライAMB(カラコン)等として他のコーティング基剤とブレンドされたプレミックス品を用いることもできる。これらのプレミックス品のうちでは、HA(三共)を用いるのが好ましい。
【0010】
本発明で用いることのできる隠蔽剤としては、下地を隠す効果を有する成分であれば限定されることはなく、例えば酸化チタン、タルク、軽質無水ケイ酸等を挙げることができる。これらのうちでは、酸化チタンを用いるのが好ましい。本発明では、隠蔽剤は隠蔽コーティング中に含有させて用いるが、防湿コーティング中には実質的に含有させないようにして用いる。
【0011】
本発明で用いることのできる固形組成物としては、コーティングを施すことのできる固形組成物であれば特に限定されることはなく、例えば錠剤、顆粒剤などを挙げることができる。これらのうちの好ましい例としては、錠剤である。錠剤の場合には、有色成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤等を加え、必要であれば造粒後、整粒を行い、その整粒物に滑沢剤を混合し、打錠機(コレクト12、菊水製作所)(HT-AP-15,畑鐵工所)にて、打錠して得ることができる。顆粒の場合には、有色成分、賦形剤、崩壊剤等の混合末を、結合液を用い、転動流動コーティング機(グラニュレックス、フロイント産業)、(マルチプレックス、パウレック)にて造粒、コーティングして得ることができる。
【0012】
固形組成物に防湿コーティング、隠蔽コーティングを施す際には、コーティング工程において一般的に使用されている方法を用いることができる。例えば、それぞれ調製したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター、パウレック)、(ハイコーター、フロイント産業)にてコーティングを行い、フィルムコート錠を得ることができる。本発明では、防湿コーティング中に防湿剤以外に、賦形剤、可塑剤、結合剤、着色剤等の他の成分を含有させることができ、また、隠蔽コーティング中には隠蔽剤以外に、賦形剤、結合剤、可塑剤、着色剤、流動化剤、滑沢剤等の他の成分を含有させることができる。防湿コーティングおよび隠蔽コーティングを加えたフィルムコーティングの総重量が増加するほど、本発明の効果が認められるようになる。フィルムコーティングの総重量が固形組成物1重量部に対して0.065重量部以上あれば本発明による効果が認められるが、より好ましいフィルムコーティングの総重量としては0.074重量部以上であり、更に好ましい総重量としては0.09重量部以上である。
【実施例】
【0013】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
(実施例1)
素錠組成にFMN(リン酸リボフラビンナトリウム)等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表1に示した処方の防湿フィルムコートを1錠当たり10mg塗布した。その上層に表2に示した隠蔽フィルムコートを1錠当たり15mg塗布し、1錠当たり25mgの複層のフィルムコートを有する複層フィルムコート錠を得た。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
(比較例1)
素錠組成にFMN等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表3に示した処方のフィルムコートを1錠当たり25mg塗布し、1錠当たり25mgの単層のフィルムコートを有する単層フィルムコート錠を得た。
【0018】
【表3】

【0019】
(比較例2)
素錠組成にFMN等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表4に示した処方のフィルムコートを1錠当たり25mg塗布し、1錠当たり25mgの単層のフィルムコートを有する単層フィルムコート錠を得た。
【0020】
【表4】

(比較例3)
素錠組成にFMN等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表5に示した処方のフィルムコートを1錠当たり25mg塗布し、1錠当たり25mgの単層のフィルムコートを有する単層フィルムコート錠を得た。
【0021】
【表5】

【0022】
(実施例2)
素錠組成にFMN等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表1の防湿フィルムコートを1錠当たり10mg塗布した。その後、隠蔽層として表4中のTC-5RWをHAに代え表6に示した処方で隠蔽フィルムコートを1錠当たり15mg塗布し、1錠当たり25mgの複層のフィルムコートを有する複層フィルムコート錠を得た。
【0023】
【表6】

【0024】
(実施例3,比較例4)
素錠組成にFMN等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表7に示した各処方の防湿フィルムコートを1錠当たり20mg塗布した。その後、隠蔽層として表6に示した処方で隠蔽フィルムコートを1錠当たり15mg塗布し、複層フィルムコート錠を得た。
【0025】
【表7】

【0026】
(実施例4)
素錠組成にFMN等の着色成分を含む錠剤(250mg)に表8に示した処方の防湿フィルムコートを1錠当たり2.5〜5mg塗布した。その後、隠蔽層として表6に示した処方で隠蔽フィルムコートを1錠当たり15mg塗布し、複層フィルムコート錠を得た。
【0027】
【表8】

【0028】
(試験例1)
実施例1及び比較例1で得られたフィルムコート錠について、素錠の隠蔽状態を比較した。その結果、実施例1で得られた複層のフィルムコート錠では、素錠の色が完全に隠蔽された白色のフィルムコート錠であったのに対し、比較例1で得られた単層のフィルムコート錠では素錠の色が隠蔽されておらず、オレンジ色のフィルムコート錠となり、HA単層フィルムコートのみでは十分な隠蔽効果がないことが判った。
【0029】
(試験例2)
実施例1及び比較例2で得られたフィルムコート錠を60℃気密条件下で1週間保存し、外観の観察を行った。その結果を表9に示す。実施例1で得られた複層のフィルムコート錠では外観が変化しなかったのに対し、比較例2で得られた単層のフィルムコート錠では茶色の着色が認められ、複層コーティングにより、安定性が向上することが判った。
【0030】
【表9】

【0031】
(試験例3)
実施例1及び比較例3の錠剤を60度気密条件下で1週間保存し、外観の観察を行った。その結果を表10に示す。実施例1で得られた複層のフィルムコート錠では外観が変化しなかったのに対し、比較例3で得られた単層のフィルムコート錠では茶色の着色が認められ、HAに酸化チタンを配合した単層コーティングでは、十分な安定性が保てないことが判った。
【0032】
【表10】

【0033】
(試験例4)
実施例1及び実施例2で得られたフィルムコート錠において、製造直後の外観を比較した。その結果、どちらのフィルムコート錠も綺麗な外観を有しているということが確認された。これらのうちでは実施例2のフィルムコート錠では、更に綺麗な外観に仕上がっており、防湿層と隠蔽層に使用するフィルム基剤は同じものを使った方が、フィルムコート後の錠剤の外観が向上するということが判った。
【0034】
(試験例5)
実施例2,3および比較例4で得られたフィルムコート錠を60℃気密条件下で1週間保存し、外観の観察を行った。その結果を表11に示す。
【0035】
【表11】

【0036】
実施例2,3で得られた複層のフィルムコート錠では着色が認められなかったが、比較例4のフィルムコート錠では茶色の着色が認められた。この結果より、防湿層にはHA単独またはマンニトール添加のみの場合には防湿効果が得られるが、防湿層に隠蔽剤を加えると防湿効果が低下してしまうということが判った。素錠の色の隠蔽には、隠蔽剤である酸化チタン等の添加が不可欠であるが、防湿層のHAに酸化チタンを添加した処方では着色が認められたことから、HA単層に酸化チタンを添加して素錠の色を隠蔽した場合、期待する安定性が期待できないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有色成分、防湿剤及び隠蔽剤を含有する医薬組成物であって、
(1)有色成分を含有する固形組成物、
前記固形組成物の外側に(2)防湿剤を含むが隠蔽剤を実質的に含まない防湿コーティング、
及び、前記防湿コーティングの外側に(3)隠蔽剤を含有する隠蔽コーティングを、
有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記防湿剤が、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコールアクリル酸メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種の防湿剤である、請求項1に記載した医薬組成物。
【請求項3】
前記隠蔽剤が、酸化チタン、タルク及び軽質無水ケイ酸から選ばれる少なくとも一種の隠蔽剤である、請求項1または請求項2に記載した医薬組成物。
【請求項4】
前記有色成分が、リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、ヒドロキソコバラミン、チオクト酸アミド(アルファリポ酸)、ユビデカレノン(CoQ10)、葉酸、ニンジンおよびヨクイニンからなる群から選ばれる少なくとも一種の有色成分である、請求項1に記載した医薬組成物。
【請求項5】
前記固形組成物が、錠剤である、請求項1乃至5のいずれかに記載した医薬組成物。
【請求項6】
有色成分を含有する固形組成物の外側に、(1)防湿剤を含むが隠蔽剤を実質的に含有しない、防湿コーティングを施し、更に前記防湿コーティングよりも外側に(2)隠蔽剤を含有する隠蔽コーティングを施すことを特徴とする、有色成分、防湿剤及び隠蔽剤を有する医薬組成物の着色防止方法。
【請求項7】
前記防湿剤が、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコールアクリル酸メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種の防湿剤である、請求項6に記載した着色防止方法。
【請求項8】
前記隠蔽剤が、酸化チタン、タルク及び軽質無水ケイ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の隠蔽剤である、請求項6または請求項7に記載した医薬組成物の着色防止方法。
【請求項9】
前記有色成分が、リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、ヒドロキソコバラミン、チオクト酸アミド(アルファリポ酸)、ユビデカレノン(CoQ10)、葉酸、ニンジンおよびヨクイニンからなる群から選ばれる少なくとも一種の有色成分である、請求項6乃至請求項8のいずれかに記載した医薬組成物の着色防止方法。


【公開番号】特開2007−145717(P2007−145717A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338042(P2005−338042)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】