説明

フィルム及びその製造方法

【課題】複屈折性を有するフィルムについて、波長分散特性を容易に設計することができ、しかも、延伸及び重合を実施することがなくとも簡便に調製することのできるフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】分子内に、屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を有する化合物が分子間で会合してなるフィルムであって、該フィルムが複屈折性を有することを特徴とするフィルム、並びに、
屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を分子内に有する化合物を含む溶液を調製し、配向膜上にて該溶液を成膜することを特徴とするフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)や有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)などのフラットパネル表示装置(FPD)に用いられる光学補償フィルムなどに好適なフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRTと比較して省スペースや低消費電力である液晶表示装置(LCD)や有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)などのフラットパネル表示装置(FPD)は、コンピュータ、テレビ、携帯電話や、カーナビゲーションあるいは携帯情報端末の画面として、広く普及している。そして、FPDには、反射防止、視野角拡大などのためにさまざまな光学補償フィルムが用いられている。例えば、屈折率の異なる光学薄膜層を多層化して光の干渉効果で表面の反射率を低減させるアンチリフレクション(AR)フィルムなどの反射防止フィルム、特定の振動方向の光だけ透過させ他の光を遮断する偏光フィルム、STN方式やTN方式などのLCDの干渉色を光学的に色補償する位相差フィルム、偏光フィルムと位相差フィルムを一体化した楕円偏光フィルム、LCDの視野角を拡大する視野角拡大フィルムなどが挙げられる。
このような光学補償フィルムには複屈折性を有するフィルムが用いられており、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリカーボネートノルボルネン系樹脂を延伸により複屈折性を持たせたフィルムなどが用いられている。
また、ディスコティック液晶相を示す部位と、分子内に水素結合を与える部位と、重合性基とを有するディスコティック液晶化合物を溶解させた溶液を配向膜上で成膜して無配向層を形成したのち、120℃に加熱された金属ロールにより30秒間熱処理して、重合及び配向させて複屈折性を持たせたフィルムが報告されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−139950号公報(実施例1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、延伸により遅相軸等の光学軸の方向がずれるという問題があったり、フィルム材料によっては延伸倍率の制限があり、光学特性の一種である波長分散特性を任意に設計することは困難であるという問題があった。また、特許文献1の方法では、重合とともに配向も同時に制御しなければならならないことから、製造は必ずしも容易ではなく、重合を行わないで複屈折性を示すフィルムについては全く開示がない。さらに、波長分散特性の設計方法についても開示されていない。
本発明の目的は、複屈折性を有するフィルムについて、波長分散特性を容易に設計することができ、しかも、延伸及び重合を実施することがなくとも簡便に調製することのできるフィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、分子内に、屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を有する化合物が分子間で会合してなるフィルムであって、該フィルムが複屈折性を有することを特徴とするフィルム、並びに、
屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を分子内に有する化合物を含む溶液を調製し、配向膜上にて該溶液を成膜することを特徴とするフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフィルムは、複屈折性を有し、波長分散特性をフィルムの膜厚で簡便に調整することができる。
また、延伸や重合することがなくとも、配向膜上で成膜させるだけで優れた光学特性を有するフィルムを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられる、分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン受容性基を有する化合物は、屈折率異方性を与える構造に、プロトン受容性基が通常、1〜6個、好ましくは2〜6個結合している化合物である。
【0008】
ここで、プロトン受容性基は、3級アミノ基(≡N)、カルボニル基、又は、窒素原子を含む5員若しくは6員複素環である。
窒素原子を含む5員若しくは6員複素環としては、具体的には、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピロール環、ピラゾール環、アザシクロペンタン環、アザシクロヘキサン環、ジアザシクロペンタン環、ジアザシクロヘキサン環などが例示される。
【0009】
また、窒素原子を含む5員又は6員複素環には、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル墓、又は、5員若しくは6員環、例えば、5員若しくは6員芳香族環などが結合していてもよい。
窒素原子を含む5員又は6員複素環は、5員若しくは6員芳香族炭素環、又は、5員若しくは6員芳香族複素環と縮合していてもよく、具体的には、イミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環と縮合していてもよい。
【0010】
窒素原子を含む5員又は6員複素環の好適な具体例としては、例えば、下記式などが挙げられる。

(式中、Rは、炭素数1〜12程度のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又はフェニル基などの6員炭素環を表す。)
【0011】
プロトン受容性基としては、カルボニル基、及び、窒素原子を含む5員又は6員複素環が水素結合を強く形成させることから好適なプロトン受容性基である。
【0012】
プロトン受容性基は、屈折率異方性を与える構造と結合していることが好ましい。プロトン受容性基は、さらに、他のプロトン受容性基、水素原子、メチル基などの炭素数1〜12程度のアルキル基、フェニル基、後述するプロトン供与性基などと結合していてもよい。
尚、プロトン受容性基は屈折率異方性を与える構造と連結基を介して結合していてもよい。ここで連結基としては、例えば、炭素数1〜24程度のアルキレン基などの炭化水素基、フェニレン基などの2価の炭素環が挙げられる。該炭化水素基又は該炭素環の炭素原子は酸素原子、硫黄原子などに置換されていてもよい。
【0013】
屈折率異方性を与える構造とは、メソゲン基とも呼ばれ、具体的には、棒状構造、円盤状構造等が挙げられる。ここで、棒状構造とは、通常、ベンゼン環、ヘテロ六員環及びトランス置換シクロヘキサン環からなる群から選ばれる少なくとも1種の主要部を棒状構造内に少なくとも2つ有し、棒状構造内の主要部は直接結合又は下記連結基で結合されている構造である。

【0014】
棒状構造を例示すれば、アゾメチン類に由来する構造、アゾキシ類に由来する構造、シアノビフェニル類に由来する構造、シアノフェニルエステル類に由来する構造、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類に由来する構造、シアノフェニルシクロヘキサン類に由来する構造、フェニルジオキサン類に由来する構造、トラン類に由来する構造等のメソゲン基に由来する構造等が挙げられる。
【0015】
棒状構造及びプロトン受容性基を有する化合物としては、例えば、4,4’−ジピリジル、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、下記式で表される化合物などが挙げられる。

【0016】
円盤状構造とは、棒状構造とは異なる構造であって、会合後には該円盤状構造の積層体を与える構造であり、例えば、下記式で表される構造が挙げられる。

【0017】
円盤状構造及びプロトン受容性基を有する化合物としては、例えば、1,2−ビス(4−ピリジル)エタンなどのα,ω−ビス(4−ピリジル)アルカンが挙げられる。
【0018】
円盤状構造は、構成する炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子などに置換されて、屈折率異方性を与える構造がプロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を含む構造であってもよい。
【0019】
本発明に用いられる、分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン供与性基を有する化合物は、屈折率異方性を与える構造に、プロトン供与性基が、通常、1〜6個、好ましくは2〜6個結合している化合物である。
ここで、プロトン供与性基としては、例えば、水酸基、チオール基、1級アミノ基(-NH)、2級アミノ基(-NH-)などの水素結合し得るプロトンを有する基などが挙げられる。
中でも、水酸基及び2級アミノ基(=NH)が分子間水素結合を強く形成させることから好ましい。
【0020】
分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン供与性基を有する化合物に含まれる「屈折率異方性を与える構造」としては、前記プロトン受容性基を有する分子に含まれる「屈折率異方性を与える構造」と同じ意味を表す。
【0021】
屈折率異方性を与える構造及びプロトン供与性基を有する化合物であって、屈折率異方性を与える構造が円盤状構造である化合物としては、例えば、下記式が例示される。

(nは0〜6程度、好ましくは1〜4程度を表す。)
【0022】
本発明に用いられる化合物には、プロトン受容性の基及びプロトン供与性の基を含む基が含まれていてもよい。かかる基としては、例えば、カルボキシル基(-COOH)、アミド基(-CO-NH-)、イソシアネート基(-N=C=O)、尿素構造(-N(H)-C(=O)-N(H)-)、以下に示す構造を有する化合物などが挙げられる。
カルボキシル基(-COOH)は、プロトン供与性の水酸基(-OH)とプロトン受容性のカルボニル基(=C=O)を有する。アミド基(-CO-NH-)、イソシアネート基(-N=C=O)、尿素構造(-N(H)-C(=O)-N(H)-)は、プロトン供与性の1級アミノ基(-NH-)とプロトン受容性のカルボニル基(=C=O)を有することになる。
プロトン受容性の基及びプロトン供与性の基を含む基の具体例としては、例えば、以下の示す基などが挙げられる。
【0023】

【0024】
本発明のフィルムは、屈折率異方性を与える構造及びプロトン受容性基を分子内に有する化合物と、屈折率異方性を与える構造及びプロトン供与性基を分子内に有する化合物とが分子間で会合してなるフィルムの以外にも、屈折率異方性を与える構造、プロトン受容性基及びプロトン供与性基の3要素を分子内に有する化合物が分子間で会合してなるフィルムでもよく、このような3要素を有する化合物の場合には単独で使用してフィルムとしてもよい。
【0025】
分子内に3要素を有する化合物としては、例えば、

【0026】
分子内に3要素を有する化合物のその他の例示としては下記式が挙げられる。

【0027】
本発明に用いられる化合物は、分子内に、例えば、ビニル基、(メタ)アクリルロイル基、エポキシ基、イソシアネート基などの重合性基を有していると重合して構造が変化し、分子間水素結合による会合を阻害されることから、分子内に重合性基を有していないことが好ましい。
【0028】
本発明のフィルムは、分子内に、屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を有する化合物が分子間で会合してなるフィルムであって、該フィルムが複屈折性を有することを特徴とする。中でも、分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン受容性基を有する化合物と、分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン供与性基を有する化合物とが分子間で会合してなり、複屈折性を有するフィルム、又は、分子内に屈折率異方性を与える構造、プロトン受容性基及びプロトン供与性基を有する化合物が分子間で会合してなり、複屈折性を有するフィルムが好ましく、とりわけ、分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン受容性基を有する化合物、1種と、分子内に屈折率異方性を与える構造及びプロトン供与性基を有する化合物、1種とが分子間で会合してなり、複屈折性を有するフィルムが化合物の調製が容易なことから好ましい。
【0029】
本発明のフィルムは、前記化合物が分子間で互いに会合してフィルムを形成する。会合は通常、分子間水素結合で結合している。ここで分子間水素結合するとは、分子内水素結合とは異なり、会合に関与する水素結合が仮に切れると2つ以上の分子に分かれる水素結合を意味する。分子間水素結合は1つ形成されていてもよいし、複数形成されていてもよい。また、分子レベルでは一の化合物分子と、更に別の化合物分子との間で、更に、1つ又は複数の分子間水素結合が形成されていてもよい。分子間水素結合としては、例えば、下式のような結合が挙げられる。
【0030】

【0031】
尚、分子内水素結合としては、具体的には、例えば下式のように、プロトン供与性基の水素原子が、プロトン受容性基と6員環構造を形成する場合などが挙げられる。

【0032】
本発明の一実施態様では、フィルムは、分子間水素結合によってフィルムを形成するために、フィルムを構成する化合物に含まれるプロトン受容性基の合計数(HA)と、フィルムを構成する化合物に含まれるプロトン供与性基の合計数(HD)との比(HA/HD)で表せば、通常、1〜1.8程度、好ましくは、1.1〜1.6程度である。
【0033】
本発明のフィルムの製造方法としては、例えば、前記の化合物を含む溶液を調製し、配向膜上にて該溶液を成膜する方法などが挙げられ、該溶液中の溶媒を除去することにより分子間水素結合による会合が生じ、配向膜上で成膜することから、得られるフィルムは配向して複屈折性を示すと考えられる。具体的なフィルムの製造方法には、例えば、配向膜上に前記の化合物を含む溶液を流延したのち、溶媒を除去して成膜する方法、例えば、前記の化合物を含む溶液から溶媒をほとんど除去して会合体を形成したのち、配向膜に溶融、押出しなどによりフィルム状に成形する方法などが挙げられる。また、本発明のフィルムとしては異なる種類の会合体を多層化したものでもよい。
【0034】
ここで、配向膜としては、可溶性ポリイミドやポリアミック酸を100℃〜200℃で加熱しイミド化したポリイミド、アルキル鎖変性ポリビニルアルコール、ゼラチン等を成膜し、ナイロン等の布を用いてラビング処理したものや、感光性ポリイミドに偏光UV処理を施したもの等が挙げられる。
配向膜として、市販の配向膜をそのまま使用してもよい。
市販の配向膜としては、感光性ポリイミドに偏光UV処理を施したものとして、サンエバー(登録商標、日産化学社製)、オプトマー(登録商標、JSR製)などが挙げられ、変性ポリビニルアルコールとして、ポバール(登録商標、クラレ製)などが挙げられる。
【0035】
前記化合物を溶解する溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類:エチレングルコールジメチルエーテル、プロピレングルコールジメチルエーテル、テトラハイドロフランなどのエーテル類;γ―ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテートなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
溶媒として二種類以上の混合溶媒を用いてもよい。
【0036】
溶媒の使用量としては、前記化合物を溶解する程度に用いればよく、具体的には、前記化合物が1〜50重量%程度となるように調製する。
また、溶解された溶液の粘度としては、散布したのち、分子間水素結合を形成せしめ、平滑な面を与えるのに十分な粘度である必要があり、通常、約10mPa・s以下、好ましくは0.1mPa・s〜5mPa・s程度である。
【0037】
溶媒の除去方法としては、例えば、自然乾燥、通風乾燥、減圧乾燥などが挙げられる。
【0038】
成膜は、溶媒を除去して得られた会合体を成膜する方法等が挙げられ、成膜方法としては、例えば、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、CAPコーティング法、ダイコーティング法などでが挙げられる。
また、ディップコーター、バーコーター、スピンコーターなどのコーターを用いて溶液を塗工したのち、溶媒を除去して成膜してもよい。
【0039】
かくして得られたフィルムは、複屈折性を有している。複屈折性としては、例えば、チルト角、リタデーション値(位相差値)などが挙げられる。
複屈折性について図5に基づいて説明する。本発明のフィルム21の光学特性を示す屈折率楕円体22において、3次元の主屈折率na、nb、ncが定義される。Z軸と主屈折率ncとのなす角23がチルト角と定義され、Z方向から観察したときにフィルム上にできる垂直楕円面24の長軸nyと短軸nxが定義され、nyとnxの差と膜厚dの積(ny−nx)・dがリタデーション値と定義される。
リタデーション値の測定法としては、例えば、エリプソメータ測定などの方法が挙げられる。チルト角の測定法としては、例えば、リタデーション値の測定において、光の入射角依存性を測定し、理想屈折率楕円体のリタデーション値の入射角依存による変化の計算値を用いてカーブフィッティングから算出する方法などが挙げられる。
リタデーション値としては、通常、5〜700nm程度であり、好ましくは、50〜400nm程度である。
【0040】
本発明のフィルムは、通常、液晶性を有しており、具体的には、サーモトロピック液晶であることが好ましい。サーモトロピック液晶とは、ある温度範囲で、液晶になる物質をいう。サーモトロピック液晶は、通常、低い温度では固体結晶に、高い温度では液体になる。液晶パネルに使われているのは、ほとんどがサーモトロピック液晶である。サーモトロピック液晶には、分子配列の違いにより、ネマティック液晶、スメクティック液晶、コレステリック液晶が含まれる。現在実用化されている液晶ディスプレイは、ほとんどがネマティック液晶を使用している。ネマティック液晶は、分子がおおよそ一定方向を向く性質を有する液晶をいう。
【0041】
屈折率異方性を与える構造と、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基とを有する化合物が分子間で互いに会合して得られる会合体を配向膜上にて溶融すると、通常、該会合体はアイソトロピック状態になり、続いて冷却すると、ネマティック相を示す場合がある。このように、アイソトロピック状態からネマティック相に冷却して得られるフィルムは逆波長分散特性を与える。
【0042】
逆波長分散特性を有するフィルムは、フィルムの厚み(以下、膜厚という場合がある)を変化させてリタデーション値を任意に設定することができる。すなわち、フィルムの屈折率異方性をΔn、膜厚をdとして表すとリタデーション値Roは、
Ro=d・Δn
であることから、膜厚dを調整することによりRoを調整することができる。
【0043】
本発明のフィルムは、光学補償フィルムの他、反射防止フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルムとして使用することができる。
さらにその他の光学特性を有するフィルムを貼合して、フラットパネル表示装置(FDP)の部材として用いることもできる。具体的には、偏光フィルムに本発明の光学補償フィルムを貼合した楕円偏光フィルム、該楕円偏光フィルムにさらに広帯域λ/4板を貼合した広帯域円偏光板などが挙げられる。
【0044】
本発明の複屈折性を有するフィルムは、液晶表示装置(LCD)、有機ELなどのフラットパネル表示装置の部材として好適に使用することができる。具体的には、液晶表示装置は、電極、及び配向膜が形成された二枚の透明基板と、この透明基板に挟まれた液晶とを有する。一対の電極に電圧を印加することにより、液晶分子を駆動させて、光シャッター効果を有する。この透明基板には、偏光フィルム又は偏光板を貼合されていることが好ましい。本発明の一実施態様では液晶表示装置における偏光フィルム又は偏光板に本発明の光学フィルムが用いられる。
【0045】
表示装置、例えば、有機EL装置は、透明基板と透明基板上に被覆する第1電極と、第2電極と、第1電極及び第2電極との間に配置される少なくとも1層の発光層と、第1電極と反対側で透明基板上に被覆する偏光板、好ましくは、広帯域円偏光板とを含む。本発明の一実施態様では、有機ELにおける偏光板、好ましくは広帯域円偏光板に本発明の光学フィルムが用いられる。第2電極は、通常、金、銀、アルミニウム、白金等やそれらを含む合金である。発光層は導電性有機化合物を含む。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0047】
[トリ安息香酸誘導体の製造例1]
2−(2−クロロエトキシ)エタノール(1、0.18 mol)、4−ヒドロキシ安息香酸エチル(2、0.12 mol)及び炭酸カリウム(0.24 mol)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中にて120℃で10時間攪拌して、4−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)−エトキシ)安息香酸エチル3を得、続いて、常法によりトシル化して、化合物4を収率56%で得た。
続いて、化合物4(36.7 mmol)、2,5−ヒドロキシ安息香酸(18.4 mmol)及び炭酸セシウム(55.1 mmol)を25℃のDMF中にて2日間攪拌させて化合物5を得、最後にアルカリ加水分解して、プロトン供与性基のOH基と円盤状構造であるベンゼン環とを含む化合物であるトリ安息香酸誘導体6(化合物4からの収率61%)を得た。融点は203℃だった。トリ安息香酸誘導体6は、プロトン供与性基のOHを分子内に3個含み、屈折率異方性を有する構造としてベンゼン環を有する化合物である。
【0048】
トリ安息香酸誘導体6のH NMR(DMSO-d6,27℃,ppm)δ7.86(d,4ArH,H-5),7.16(s,1ArH,H-1),7.05(m,2ArH,H-2,H-3),7.01(d,4ArH,H-4),4.19−4.06(m,8H,-CH2CH2OAr),3.85−3.77(m,8H,- CH2CH2OAr)
トリ安息香酸誘導体6の13C NMR(DMSO-d6,27℃,ppm)δ167.2(-COOH),162.1,131.4,123.1,114.3(ArC,-C6H4COOH),152.3,147.7,123.6,123.3,114.4,112.8(ArC,ベンゼン環の4位と5位),69.0(-OCH2CH2OCH2CH2O-),68.5,68.3,67.5(-OCH2CH2OAr)
【0049】
[トリ安息香酸誘導体の製造例2]
2,5−ヒドロキシ安息香酸を代えて3,4−ヒドロキシ安息香酸を用いる以外にはトリ安息香酸誘導体の製造例1と同様に実施して、トリ安息香酸誘導体7を化合物4からの収率61%で得た。融点は203℃だった。
【0050】
トリ安息香酸誘導体7のH NMR(DMSO-d6,27℃,ppm)δ7.85(d,4ArH,H-4,J=8.4Hz),7.53(d.1ArH,H-1,J=8.5Hz),7.47(s,1Ar,H-3),7.06(d,1ArH,H-2,J=8.5Hz),6.97(D,4ArH,H-5,J=8.4Hz),4.14(m,8H,-CH2CH2OAr),3.82(m,8H,-CH2CH2OCH2CH2-)
トリ安息香酸誘導体7の13C NMR(DMSO-d6,27℃,ppm)δ167.2(-COOH),162.1,131.4,123.1,114.3(ArC,-C6H4COOH),152.3,147.7,123.6,123.3,114.4,112.8(ArC,ベンゼン環の4位と5位),69.0(-OCH2CH2OCH2CH2O-),68.5,68.3,67.5(-OCH2CH2OAr)
【0051】

【0052】
[フィルムの製造例1]
前記トリ安息香酸誘導体6とビスピリジルエチレン(アルドリッチ社製、融点152℃)とを2:3のモル比(HD/HAとしては1.33)で用いてピリジンに溶解し、ピリジンを90重量%含有する溶液を作成した。該溶液を減圧乾燥し、ピリジンをほとんど留去してトリ安息香酸誘導体とビスピリジルエチレンとからなる会合体を得た。
別途、ガラス基板上にポリイミドSE-610(日産化学社製)をスピンコートにより成膜した。そのポリイミド膜にラビング処理を施し、配向膜を形成した。
該配向膜上に該会合体を載せ、186℃まで加熱し該会合体を融解・流延させた。その後、室温まで冷却し、透明なフィルムを得た。
得られたフィルムは、偏光板(スミカランSR1862A、登録商標、住友化学製)でクロスニコルの状態に挟み、該フィルムを回転させると透過した光が遮断される軸があるので、複屈折性を有していることを確認した。
また、会合体を配向膜に置き、偏光顕微鏡で観察しながら加熱すると、180℃ネマティック相に転移し始め、200℃で完全にアイソトロピック状態になった。続いて冷却すると、195℃でネマティック相を示し、分子間水素結合によりモノドメインが形成されていることを確認した。なお、ビスピリジルエチレン、トリ安息香酸誘導体6はそれぞれ単独で液晶相は観察できなかった。
【0053】
[逆波長分散特性の測定例1]
フィルムの製造例1で得たフィルムの波長585.6nmの正面方向における位相差値と波長450nmから700nmの波長範囲における波長分散特性について、測定機(COBRA−WR,王子計測機器社製)を用いて測定した。正面方向の位相差値は456nmであり、波長分散特性の結果を図1に示す。測定波長550nmで測定した位相差値Ro(550)に対する測定波長450nmにおける位相差値Ro(450)の比である[Ro(450)/Ro(550)]は0.77で、測定波長550nmで測定した位相差値Re(550)に対する測定波長650nmにおける位相差値Ro(650)の比である[Ro(650)/Ro(550)]は1.12の逆波長分散特性を示した。
【0054】
[フィルムの製造例2]
トリ安息香酸誘導体6に代えてトリ安息香酸誘導体7を用いる以外はフィルムの製造例2と同様にして透明なフィルムを得た。フィルムの製造例2と同様にして複屈折性を有することを確認した。
また、会合体を配向膜に置き、偏光顕微鏡で観察しながら加熱すると、170℃で溶け始め、186℃で完全に溶解した。続いて冷却すると、165〜135℃でネマティック相を示し、分子間水素結合によりモノドメインが形成されていることを確認した。なお、トリ安息香酸誘導体7は単独で液晶相は観察できなかった。
【0055】
[逆波長分散特性の測定例2]
フィルムの製造例2で得たフィルムを用いて、光学特性の測定例1と同様に測定した。正面方向の位相差値は456nmであり、波長分散特性の結果を図2に示す。測定波長550nmで測定した位相差値Ro(550)に対する測定波長450nmにおける位相差値Ro(450)の比である[Ro(450)/Ro(550)]は0.83で、測定波長550nmで測定した位相差値Ro(550)に対する測定波長650nmにおける位相差値Ro(650)の比である[Ro(650)/Ro(550)]は1.09の逆波長分散特性を示した。
【0056】
[フィルムの製造例3〜8]
ビスピリジルエチレンに含まれるプロトン受容性基の合計数(HA)と、トリ安息香酸誘導体6に含まれるプロトン供与性基の合計数(HD)との比(HA/HD)を1.13〜1.51に変え、ジメチルアセトアミドに溶解し、ジメチルアセトアミドを77重量%含有する溶液を作成した。
ガラス基板上にポリビニールアルコール水溶液をコーティングし120℃60分乾燥し、ラビング処理を施した配向膜を形成した。上記ジメチルアセトアミド溶液を滴下し、スピンコーティング法でコーティングし、50℃5分乾燥し、無色透明なフィルムを作成した。そのフィルムを偏光板(スミカランSR1862A、登録商標、住友化学製)でクロスニコルの状態に挟み、該フィルムを回転させると、いずれのフィルムも透過した光が遮断される軸があるので、複屈折性を有していることを確認し、また、いずれのフィルムも偏光顕微鏡観察でモノドメイン配向していることを確認した。
同じフィルムをKOBRA−WR(王子計測社製)で位相差値(リタデーションRo)とチルト角を測定し、結果をHA/HDとともに、表1に示した。
さらに、上記フィルムを与えたものと同じ組成の溶液をスライドガラス上で乾燥し、結晶化させた後、一度、融点まで温度を上げたのちアイソトロピック状態からネマティック相に転移した温度(以下、N−I点という場合がある)をHA/HDとともに、表1に併せて示した。
【0057】
【表1】

【0058】
[液晶表示装置の製造例]
SAMSUNG社製17型液晶テレビ(LT17N23WB)の上下偏光板の面積の半分を剥がし、得られたA−プレートとCプレートの各々の楕円偏光板を図3に示すように貼合する。視野角特性を製品と本実施例と比較し、同様の広視野角特性の結果が得られる。
【0059】
[有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)の製造例]
有機EL素子は次の手順で作成する。まず、ガラス基板14に陽極となる電極15としてITO(インジウム錫酸化物)を形成し、ホール注入層として、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸ナトリウムの混合物を用いてスピンコーティング法により室温で成膜を行う。また、ポリビニルカルバゾールにAlq3を混合させたTHF溶液を用い、スピンコーティング法により室温で成膜を行う。そして、Al/Li(9:1)合金を蒸着し陰極として電極18を形成し、その上にポリイミドを用いて封止19して、有機エレクトロルミネッセンス発光素子を製造することができる(図4)。
ガラス基板上に本実施例の広帯域λ/4板付偏光板を貼合し、良好な黒表示と緑色の発光を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のフィルムは、延伸や重合する工程がなくとも、溶媒を除去・成膜するという簡便な方法で製造することができる。さらに、用いる化合物や膜厚を適宜選択することにより、[Ro(450)/Ro(550)]≦1≦[Ro(650)/Ro(550)]の波長分散特性、すなわち逆波長分散特性を有するフィルムを得ることができる。このことにより、本発明のフィルムは、1種類のフィルムでも、λ/4板又はλ/2板として用いることができる。
さらに、かかるフィルムは、光学異方性に優れることから、液晶表示装置(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスなどのフラットパネル表示装置(FPD)などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】フィルムの製造例1で得たフィルムの波長分散特性示すグラフである。縦軸は位相差値を波長550nmの位相差値で除した値[Ro(λ)/Ro(550)]を表し、横軸は波長(λ)を表す。
【図2】フィルムの製造例2で得たフィルムの波長分散特性示すグラフ
【図3】実施例で示す液晶表示装置の断面の模式図である。
【図4】実施例で示す有機エレクトロルミネッセンス表示装置の断面の模式図である。
【図5】本発明のフィルムにおける屈折率楕円体の模式図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を有する化合物が分子間で会合してなるフィルムであって、該フィルムが複屈折性を有することを特徴とするフィルム。
【請求項2】
屈折率異方性を与える第1構造及びプロトン受容性基を分子内に有する第1化合物と、屈折率異方性を与える第2構造及びプロトン供与性基を分子内に有する第2化合物とが分子間で会合してなるフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
第1化合物が、1〜6個のプロトン受容性基を有することを特徴とする請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
第2化合物が、1〜6個のプロトン供与性基を有することを特徴とする請求項2又は3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
屈折率異方性を与える第3構造、プロトン受容性基及びプロトン供与性基を分子内に有する第3化合物を含む、複屈折性を有するフィルムであって、該第3化合物のプロトン受容性基と、該第3化合物のプロトン受容性基が分子間で会合してなることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
第3化合物が、1〜6個のプロトン受容性基及び1〜6個のプロトン供与性基を有することを特徴とする請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
フィルムを構成する化合物に含まれるプロトン受容性基の合計数(HA)と、プロトン供与性基の合計数(HD)との比(HA/HD)が、1〜1.8であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
フィルムが、液晶相を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフィルム。
【請求項9】
フィルムが、逆波長分散特性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のフィルム。
【請求項10】
プロトン受容性基が、3級アミノ基(≡N)、カルボニル基、及び、1〜2個の窒素原子を含む5員又は6員複素環(該複素環は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、5員環、又は6員環で置換されていてもよく、他の環と縮合されていてもよい。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフィルム。
【請求項11】
プロトン供与性基が、水酸基、チオール基、1級アミノ基(-NH)、2級アミノ基(-NH-)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のフィルム。
【請求項12】
屈折率異方性を与える構造が、棒状構造又は円盤状構造であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のフィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のフィルムと該フィルムに被覆された配向膜とを含む積層体。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のフィルムを含むフラットパネル表示装置。
【請求項15】
屈折率異方性を与える構造、並びに、プロトン受容性基及び/又はプロトン供与性基を分子内に有する化合物を含む溶液を調製し、配向膜上にて該溶液を成膜することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項16】
溶液が屈折率異方性を与える第1構造及びプロトン受容性基を分子内に有する第1化合物と、屈折率異方性を与える第2構造及びプロトン供与性基を分子内に有する第2化合物とを含む溶液であることを特徴とする請求項15に記載のフィルムの製造方法。
【請求項17】
溶液が屈折率異方性を与える第3構造、プロトン受容性基及びプロトン供与性基を分子内に有する第3化合物を含む溶液であることを特徴とする請求項15に記載のフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−330710(P2006−330710A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120172(P2006−120172)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】