説明

フィルム洗浄方法及びフィルム洗浄装置

【課題】フィルム表面に付着した微小な異物、特に加熱や加圧等によって扁平化した異物の除去するためのフィルム洗浄技術を提供すること。
【解決手段】フィルムを搬送しながら、表面処理部でゼータ電位制御物質を含む液による表面処理を行った後、洗浄部でブラシ洗浄を行い、乾燥部で乾燥を行う。表面処理部では、ゼータ電位の絶対値を大きくする物質により、静電的反発力を強めて、異物をフィルムから剥離しやすくする。洗浄部では、純水を用いてブラシ洗浄をすることで、ブラシと異物の摩擦力が増し、異物がフィルムから除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの洗浄技術に関し、高度な清浄度が要求される光学フィルム等の機能性フィルムの洗浄方法及びフィルムの洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや太陽電池などのエレクトロニクス分野においてフィルムの利用が増加している。フィルムは、液晶ディスプレイ分野においては、位相制御、視野角拡大、反射防止等の光学特性制御に用いられており、太陽電池等の分野では、素子の基板や保護等に用いられている。
【0003】
こうしたフィルムの需要増加に伴い、フィルムに対する要求も高度化している。具体的には耐湿、耐熱などの耐候性や耐薬品性等の向上、平滑性向上、そしてフィルム表面の清浄度向上が挙げられる。フィルム表面に異物が存在する場合、光学特性が乱れる、あるいは、フィルム上に成膜した際に膜ムラが発生する等の問題が生じる。
【0004】
フィルム上の異物を除去する方法として、特開2008−23467号公報(特許文献1)には、加圧した洗浄水を噴射してフィルムに付着した異物を浮き出させ、純水により洗い流すことで洗浄するフィルム洗浄装置が記載されている。また特開2007−245678号公報(特許文献2)には、フィルムを純水の浴槽中に浸漬し、超音波を用いて洗浄するフィルム洗浄装置が記載されている。
【0005】
また、特開平7−45600号公報(特許文献3)には、半導体ウェハ等の基板の洗浄においてゼータ電位制御物質を用いる事が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−23467号公報
【特許文献2】特開2007−245678号公報
【特許文献3】特開平7−45600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィルムの成膜工程で付着する異物の中には、加熱や加圧等によって扁平化する場合がある。扁平異物とは、幅に対する高さ(または、フィルムへの付着面の寸法(幅、又は長さ)に対する異物の厚さ方向の寸法)の比が1以下のものと定義する。このような異物はフィルムとの付着力が強く、前記特許文献1又は2に記載されるような従来のフィルム洗浄装置では除去が困難である。
【0008】
一方、特許文献3には半導体ウェハ等の基板の洗浄においてゼータ電位制御物質を用いる事が開示されているが、これは半導体ウェハから除去した異物が半導体ウェハに再付着するのを防止することが目的であり、半導体ウェハの表面に付着した異物を除去するのにゼータ電位制御物質を用いる事については記載されていない。
【0009】
本発明は、フィルム表面に付着した異物、特に、加熱や加圧等によって扁平化した異物の除去に有効なフィルム洗浄方法及びフィルム洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明ではフィルム洗浄装置を、フィルムをゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬する表面処理手段と、表面処理手段で処理されたフィルムを純水で洗浄する洗浄手段と、
洗浄手段で純水で洗浄されたフィルムをブラシで洗浄するブラシ洗浄手段と、ブラシ洗浄手段で洗浄されたフィルムを乾燥させる乾燥手段とを備えて構成した。
【0011】
また、上記した目的を達成するために、本発明ではフィルム洗浄装置を、ロール状に巻かれたフィルムを送り出すフィルム送り出し部と、フィルム送り出し部から送り出されたフィルムをゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬する表面処理部と、表面処理部で処理されたフィルムに純水を供給しながらフィルムをブラシで洗浄してフィルムに付着した異物を除去する洗浄部と、洗浄部で洗浄されたフィルムの表面を乾燥させる乾燥部と、乾燥部で乾燥させたフィルムを巻き取るフィルム巻き取り部と、フィルム送り出し部と表面処理部と洗浄部と乾燥部とフィルム巻き取り部とを制御する制御部とを備えて構成した。
更に、上記した目的を達成するために、本発明では、フィルムをゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬し、浸漬したフィルムを液中から取り出してゼータ電位制御物質を洗い流し、ゼータ電位制御物質を洗い流したフィルムをブラシで洗浄し、ブラシで洗浄したフィルムを乾燥させるフィルム洗浄方法とした。
【0012】
更に、上記した目的を達成するために、本発明では、ロール状に巻かれたフィルムをロールを回転させながら送り出し、送り出されたフィルムをゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬し、液中に浸漬されたフィルムを取り出して表面に付着したゼータ電位制御物質を純水で洗い流し、純水で洗い流したフィルムに純水を供給しながらブラシで洗浄し、洗浄されたフィルムの表面を乾燥させ、乾燥させたフィルムをロール状に巻き取ることを特徴とするフィルム洗浄方法とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のフィルム洗浄装置では除去困難であったフィルムの表面に付着した扁平な異物をフィルムに損傷を与えることなく容易に除去することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例に基づくフィルム洗浄装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例における洗浄工程の手順を示すフロー図である。
【図3A】本発明のフィルム洗浄方法の異物除去メカニズムを示す模式図でフィルム上に異物が付着した状態を示す異物とフィルムとの正面図である。
【図3B】本発明のフィルム洗浄方法の異物除去メカニズムを示す模式図でフィルムを表面処理した状態を示す異物とフィルムとの正面図である。
【図3C】本発明のフィルム洗浄方法の異物除去メカニズムを示す模式図でフィルムを純水で洗浄した状態を示す異物とフィルムとの正面図である。
【図3D】本発明のフィルム洗浄方法の異物除去メカニズムを示す模式図でフィルムをブラシで洗浄している状態を示異物とフィルムとの正面図である。
【図4】表面処理時とゼータ電位制御物質の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】フィルム洗浄方法の効果を検証する実験の結果を示すグラフ及び表である。
【図6】本発明の第2の実施例に基づくフィルム洗浄装置の概略構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3の実施例に基づくフィルム洗浄装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明のフィルム洗浄装置の第1の実施例を示す概略断面図である。
【0017】
本実施例のフィルム洗浄装置100は、フィルム2が巻き出されるフィルム巻き出し部3と、巻き出されたフィルム2を処理する表面処理部4と、表面処理されたフィルム2を純水21で洗い流した後にブラシ洗浄する洗浄部5と、洗浄されたフィルム2を乾燥する乾燥部6と、乾燥されたフィルム2を巻き取るフィルム巻き取り部7と、制御部8とを備えて構成される。そして、フィルム2の表面にごみが付着するのを防止するために、フィルム巻き出し部3と、表面処理部4と、洗浄部5と、乾燥部6と、フィルム巻き取り部7とは、チャンバ1で覆われている。
【0018】
各部の構成を説明する。フィルム巻き出し部3とフィルム巻き取り部7は、フィルム2の搬送を行う。フィルム巻き出し部3は巻き出し駆動部9により駆動され、フィルム巻き取り部7は巻き取り駆動部10により駆動される。
【0019】
表面処理部4は、ゼータ電位制御物質25を含んで界面活性作用が有る液体(以下、ゼータ電位制御物質25を含む液体という)26を貯蔵するゼータ電位制御物質貯蔵部11と、ゼータ電位制御物質浸漬部12とを備える。ゼータ電位制御物質25を純水21に混ぜたゼータ電位制御物質25を含む液体26はポンプ13aによりゼータ電位制御物質貯蔵部11とゼータ電位制御物質浸漬部12の間を循環し、フィルタ14aにより液中に混入したごみが除去されて純度が保たれている。このように表面処理部では、フィルム2をゼータ電位制御物質25を含む液中26で搬送することでにより表面処理が行われ、後述するようなメカニズムによりフィルム2とその表面に付着している異物24との間での静電的反発力を強めて、異物24をフィルム2から剥離しやすくする。
【0020】
洗浄部5は、純水貯蔵部15、純水供給部16、ブラシ部17とを備える。純水21はポンプ13bにより純水貯蔵部15と純水供給部16の間を循環し、フィルタ14bにより液中に混入したごみが除去されて純度が保たれている。ブラシ部17の1対のブラシ171はブラシ駆動部18により駆動され、フィルム2の両面を洗浄できるように一対になっている。ブラシ部17の1対のブラシ171(図3D参照)の材質はナイロン、ポリビニルアルコール等である。このように洗浄部5では、表面処理されたフィルム2を、純水21を用いてブラシ洗浄する。これにより、フィルム2から異物24を除去する。
【0021】
乾燥部6は、洗浄部5で洗浄されたフィルム2を乾燥する。圧縮機20から送り出された高圧のエアーをノズル19からフィルム2の表面に吹き付けてフィルム2の表面に付着した液体(純水21)を除去する。乾燥部6の構成としては高圧のエアを吹き付ける方法のほかに、フィルムのガラス転移点、融点未満の温度で保持する方法、乾燥部内を減圧しフィルム表面の液体を気化させる方法等も可能である。
【0022】
制御部8は、各部の動作を制御する部分であり、フィルム2の搬送速度やブラシ部17の回転速度の設定を行う。制御部8からの制御信号は、信号線31〜35を介して各部に送られる。
【0023】
制御部8は信号線31を介して、駆動部9を制御してフィルム2を送り出すためのフィルム巻き出し部3の回転を調整する。
【0024】
また、制御部8は信号線32を介して、ゼータ電位制御物質浸漬部12の図示していない液面センサからのゼータ電位制御物質25を含む液体26の液面高さ検出信号を受けて表面処理部4のポンプ13aを制御し、ゼータ電位制御物質貯蔵部11からゼータ電位制御物質浸漬部12へ供給するゼータ電位制御物質25を含む液体26の量を調整する。また、制御部8は信号線32を介してゼータ電位制御物質貯蔵部11内部のゼータ電位制御物質25を含む液体26の量を図示していないセンサでモニタした信号を受けて、ゼータ電位制御物質貯蔵部11内部のゼータ電位制御物質の量を監視し、ゼータ電位制御物質25を含む液体26の量が所定の量よりも少なくなった場合にはゼータ電位制御物質貯蔵部11へのゼータ電位制御物質25を含む液体26の補充を促す警告を発信する。
【0025】
更に、制御部8は信号線33を介して純水供給部16の純水液面センサ(図示せず)からの純水21の液面検出信号を受けてポンプ13bを制御し、純水貯蔵部15から純水供給部16へ供給するフィルム2に付着したゼータ電位制御物質25を含む液体26を洗い流すための純水21の量を調整する。
【0026】
また、制御部8は信号線33を介して純水貯蔵部15内部の純水21の量をセンサ(図示せず)でモニタした信号を受けて、純水貯蔵部15内部の純水21の量を監視し、純水21の量が所定の量よりも少なくなった場合には純水貯蔵部15への純水21の補充を促す警告を発信する。更に、駆動部18を制御して、ブラシ部17のフィルム2を挟んで対抗して配置した1対のブラシ171の回転速度及びフィルム2の表面への押し付け力を調整する。ブラシ部17の1対のブラシ171はフィルム2の進行方向と逆の方向に回転してゼータ電位制御物質25を含む液体26が洗い流されたフィルム2の表面を純水21中でこすることにより、付着している異物をフィルム2の表面から引き剥がす。
【0027】
更に、制御部8は信号線34を介して圧縮機20を制御し、ノズル19から常に一定の量の高圧のエアが噴出されるように圧縮機20から送り出される高圧エアの吐出量を調整する。
【0028】
更にまた、制御部8は信号線35を介して図示していないフィルム2のテンションセンサ(図示せず)からの検出信号を受けて駆動部10を制御して、フィルム2を巻き取るためのフィルム巻き取部7の回転を調整する。
【0029】
図2は、本実施例のフィルム洗浄装置における洗浄工程の手順を示す図である。以下に、手順に沿って説明する。
【0030】
S201:フィルムが巻き取られたフィルムロール(図示せず)を、フィルム巻き出し部3に取り付ける。
【0031】
S202:取り付けたフィルムロールからフィルム2を引き出し、表面処理部4、洗浄部5、乾燥部6の順に、引き出したフィルム2をセットし、フィルム2の先端をフィルム巻き取り部7に取り付ける。
【0032】
S203:制御部8から表面処理部4、洗浄部5に信号を送り、ゼータ電位制御物質と純水の供給を開始させる。
【0033】
S204:制御部8が巻き出し部3、洗浄部5、乾燥部6、巻き取り部7に信号を送り、フィルム2の搬送を開始させる。
【0034】
S205:表面処理部4にて、搬送中のフィルム2をゼータ電位制御物質浸漬部12の中を通過させてゼータ電位制御物質25を含む液26に浸漬させることにより、ゼータ電位制御物質25をフィルム2に付着した異物24とフィルム2の表面との隙間281に浸み込ませる。この異物24とフィルム2との隙間281に浸み込ませたゼータ電位制御物質25によりフィルム2の表面とフィルム2に付着している異物24の表面とを帯電させ、フィルム2と異物24との間で静電的な反発力を発生させて異物24がフィルム2から剥離されやすくする。
【0035】
S206:ゼータ電位制御物質浸漬部12の中を通過したフィルム2を純水供給部16を通過させて表面に付着したゼータ電位制御物質25を含む液26を純水21で洗い流しながらブラシ部17の一対のブラシ171でフィルム2を上下から挟んだ状態で一対のブラシ171をフィルム2の進行方向と逆方向に回転させてフィルム2の上下面をこすることによりフィルム2をブラシ洗浄して、フィルム2の表面に付着した異物24を除去する。
S207:ブラシ洗浄したフィルム2に乾燥部6にてノズル19から高圧のドライエアを吹き付けることにより表面に付着している純水を蒸発させてフィルム2を乾燥させる。なお、ノズル19の幅方向の寸法は、フィルム2の幅方向の寸法よりも大きく設定されており、ノズル17の下部を通過するフィルム2は、幅方向全体に亘ってノズル19から高圧のドライエアを吹き付けられる。
【0036】
S208:表面が乾燥したフィルム2を、フィルム巻き取り部7でロール状に巻き取る。
【0037】
S209:フィルム巻き出し部3にセットしたフィルム2が、全てフィルム巻き取り部7に巻き取られると、制御部8は、表面処理部4、洗浄部5に信号を送り、ゼータ電位制御物質と純水の供給を停止させる。これらが停止した後に、巻き出し部3、洗浄部5、乾燥部6、巻き取り部7に信号を送り、フィルム2の搬送とブラシ動作を停止させる。
【0038】
S210:フィルム巻き取り部7にロール状に巻き取られたフィルムを取り外して回収する。
【0039】
次に、本発明のフィルム洗浄方法の異物除去メカニズムを説明する。
【0040】
図3A乃至Dは、本発明のフィルム洗浄方法の異物除去メカニズムを説明する模式図である。図3Aに示すように、フィルム2には扁平な異物24が付着しているものとする。この状態で表面処理部4のゼータ電位物質浸漬部12におけるゼータ電位制御物質25を含む液26にフィルム2を浸漬させる表面処理によって、図3Bに示すようにフィルム2とその表面に付着している異物24に液26中に含まれるゼータ電位制御物質25を吸着させる。この結果、フィルム2と異物24の表面は吸着したゼータ電位制御物質25によりそれぞれ同極性の電荷を帯びた状態となる。続いて、図3Cに示すように純水でフィルム2の表面を洗い流してフィルム2の表面及び異物24の表面27に吸着されているゼータ電位制御物質25を除去する。ゼータ電位制御物質25は異物24とブラシ171との間の摩擦力を低下させるので、この工程を経ることにより、ブラシ洗浄工程における異物24とブラシ171との間の摩擦力の低下を防止することができる。この純水でフィルム2の表面の洗浄を開始した直後においては、フィルム2の表面および異物24のフィルム2への付着面とは反対側の表面27に吸着されたゼータ電位制御物質25は容易に除去されるが、異物24の面28の側とフィルム2の隙間281(図3Cでは隙間281を誇張して表記したが、実際には非常に狭い隙間になっている)に入り込んだゼータ電位制御物質25は、隙間281に洗浄用の純水が入り込むのに時間がかかるために洗浄開始後しばらくの間はゼータ電位制御物質25の一部が異物24の面28の側とフィルム2の隙間281に存在する状態が続く。このような状態においては異物24とフィルム2との間には静電的反発力が働いており、図3Dに示すようにゼータ電位制御物質25が洗い流されたフィルム2の表面をブラシ171でブラシ洗浄を行うことにより、異物24はフィルム2の表面から除去されやすくなる。
図4は、表面処理期間401と純水処理期間402におけるゼータ電位制御物質25の濃度の経時変化を示す模式図である。図には、異物24の表面27のゼータ電位制御物質25の濃度241と、異物24とフィルム2との隙間281のゼータ電位制御物質25の濃度242を示している。表面処理期間401において、表面処理部4で表面処理(S205)を十分行うことによって、異物24の表面27及び異物24とフィルム2の隙間281のゼータ電位制御物質25の濃度はそれぞれ一定値に達する。続いて、純水処理期間402において、洗浄部5でフィルム2の表面に付着したゼータ電位制御物質25を純水21で洗い流す純水処理(S206)を開始すると、異物24の表面27の側のゼータ電位制御物質25は比較的短い時間で純水21と置換されやすいのに対して、異物24とフィルム2の間の非常に狭い隙間281には純水21が入り込みにくいためにゼータ電位制御物質25が純水21と置換されるのに時間がかかるために、異物24の表面27の側と、異物24とフィルム2の隙間281の側のゼータ電位制御物質25の濃度減少率に差が生じる。この結果、純水処理が開始されてからある一定の期間(図4におけるブラシ洗浄有効期間403)、異物24の表面27と異物24とフィルム2の隙間281との間にゼータ電位制御物質25の濃度差が生じる。このような異物24の表面27のゼータ電位制御物質25が純水21に置換され、かつ、異物24とフィルム2の隙間281のゼータ電位制御物質25が十分存在してゼータ電位制御物質25の濃度差が生じている状態でブラシ洗浄(S206)を行うと、異物24とフィルム2の隙間281においては異物24とフィルム2との間に静電的反発力が生じ、異物24とブラシ171との間には摩擦力が作用するために、ブラシ洗浄(S206)により異物24はフィルム2から剥離しやすくなる。
【0041】
次に、本発明によるフィルム洗浄方法の実験結果を図5を用いて説明する。図5の実験では、扁平異物の一例として、ガラス基板上に粒径1μmのポリスチレン粒子を付着させて、220℃で10分間加熱処理し扁平化させたサンプルを用いた。また、ゼータ電位制御物質25の一例として、300ppmのドデシルベンゼンスルホン酸(C1225SOH)を用いた。サンプルをドデシルベンゼンスルホン酸を含む液に10秒間浸漬し、純水処理を開始してから10秒後にナイロンブラシで60秒間純水を用いて洗浄した。その結果、異物の約86%が除去された。これに対して、比較実験として、(1)ブラシ洗浄時に純水の代わりにゼータ電位制御物質を含む液を用いた場合、(2)純水処理を60秒間行った後に(図4のブラシ洗浄有効期間403を過ぎてから)純水を用いたブラシ洗浄を行った場合、(3)ゼータ電位制御物質を含む液に浸漬を行わず純水を用いたブラシ洗浄を行った場合を行った。その結果、図5に示すように上述した(1)〜(3)の比較実験においては異物は十分除去されず、本実施例の効果が確認できた。
【0042】
ゼータ電位制御物質としては、上記したドデシルベンゼンスルホン酸のほかに、はアルコール、グリコール、アミン、アミド、アミノアルコール、アルデヒド、有機酸、エステル、ケトン、界面活性剤等も有効である。
【0043】
本発明で用いるフィルム2としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリオレフィン、ナイロン等である。フィルムは撥水性であるので、フィルムと異物の隙間281にゼータ電位制御物質25を短時間で浸透させるためには、ゼータ電位制御物質25を含む液体26の表面張力を低下させる必要がある。ゼータ電位制御物質として上記したドデシルベンゼンスルホン酸のようにそれ自体に界面活性作用のある材料を用いた場合、この界面活性作用によりゼータ電位制御物質25を含む液体26の表面張力を低下させることが可能であるが、その他のゼータ電位制御物質でそれ自体に界面活性作用を持たない場合には、ゼータ電位制御物質を含む液体に界面活性剤を添加して短時間でフィルムと異物の隙間28に浸透させるようにしても良い。また、浸透性の向上には、加圧や加熱(40〜60℃)等による物理的方法を用いても良い。
【0044】
本実施例に拠れば、従来技術では難しかったフィルムに付着した扁平な異物を、フィルムに損傷を与えることなく確実に除去することができるようになった。
【実施例2】
【0045】
図6は、本発明のフィルム洗浄装置の第2の実施例を示す概略断面図である。
本実施例におけるフィルム洗浄装置600は実施例1で説明した図1のフィルム洗浄装置100の構成と基本的には同じであるが、実施例1より高速に洗浄を行うための構成として、表面処理部604と洗浄部605の一部が異なる。図6に示した構成において、フィルム巻き出し部603と乾燥部606、フィルム巻き取り部607の構成及びその動作についてはそれぞれ図1で説明した構成及びその動作と基本的に同じであるので、説明を省略する。実施例1と異なる点は、表面処理部604において、実施例1におけるゼータ電位制御物質浸漬部12に代わってスリットノズル部29を設けた点、および洗浄部605においてブラシ617の数を2組にした点である。
【0046】
図6に示した構成において、表面処理部604は、ゼータ電位制御物質貯蔵部611と、スリットノズル部29とを備える。ゼータ電位制御物質貯蔵部611に貯蔵されたゼータ電位制御物質25を含む液体26はポンプ613aによりフィルタ614aを介してスリットノズル部629へ供給される。フィルタ614aにより液中に混入したごみが除去されて純度が保たれている。スリットノズル部629の矢印はゼータ電位制御物質25を含む液体26の流れる方向を示す。スリットノズル部629には、ゼータ電位制御物質25を含む液体26を供給するスリット630があり、ポンプ613aにより加圧してスリットノズル部629の内部にゼータ電位制御物質25を含む液体26を供給することが可能な構成になっている。このようにータ電位制御物質25を含む液体26を加圧して供給することにより、フィルム2と異物24の隙間28にゼータ電位制御物質15をより短時間で浸透させることができ、図4に示した表面処理の時間を短縮できるのでフィルム2の搬送速度の高速化を実現できる。
【0047】
このようにフィルム2の搬送速度を高速化することに伴い、洗浄部605のブラシ部617を、上下2対のブラシ6171を備えて構成した。また2対のブラシ6171それぞれに対応する駆動部618を設けた。2対のブラシ6171の材質はナイロン、ポリビニルアルコール等である。このように洗浄部605では、表面処理されたフィルム2を、純水21を用いてブラシ洗浄する。これにより、フィルム2から異物24を除去する。
【0048】
制御部608は、実施例1で説明したのと同様に、フィルム巻き出し部603と表面処理部604、洗浄部605、乾燥部606及びフィルム巻き取り部607を制御する。
本実施例に拠れば、フィルムに付着した扁平な異物の除去を確実により高速に行うことができる。
【実施例3】
【0049】
図7は、本発明のフィルム洗浄装置の第3の実施例を示す概略断面図である。
本実施例におけるフィルム洗浄装置700は実施例1で説明した図1のフィルム洗浄装置100及び実施例2で説明した図6のフィルム洗浄装置600の構成と基本的には同じであるが、実施例1及び2より高速に洗浄を行うための構成として、表面処理部704と洗浄部705の一部が異なる。図7に示した構成において、フィルム巻き出し部703と乾燥部706、フィルム巻き取り部707の構成及びその動作についてはそれぞれ図1で説明した構成及びその動作と同じであるので、説明を省略する。
【0050】
実施例1と異なる点は、表面処理部704において、実施例1におけるゼータ電位制御物質浸漬部12に代わって加熱噴射ノズル部741を備え、加熱されたゼータ電位制御物質25を含む液体26をフィルム2の表面に噴射する構成とした点、および洗浄部705においてブラシ717の数を3組にした点である。
【0051】
図7に示した構成において、表面処理部704は、ゼータ電位制御物質貯蔵部711と、加熱噴射ノズル部741とを備える。加熱噴射ノズル部741は、ゼータ電位制御物質貯蔵部711からフィルタ614aを介して液中に混入したごみが除去されて純度が保たれて供給されたゼータ電位制御物質25を含む液体26を加熱・噴射することでフィルム2と異物24の隙間28にゼータ電位制御物質25をより短時間で浸透させることができ、フィルム2の搬送速度の高速化を実現できる。
【0052】
このようにフィルム2の搬送速度を高速化することに伴い、洗浄部705のブラシ部717を、上下3対のブラシ7171〜7173を備えて構成した。また3対のブラシ7171〜7173それぞれに対応する駆動部6181〜6183を設けた。ブラシ部717の3対のブラシ7171〜7173はそれぞれブラシ駆動部7181〜7183により駆動され、フィルム2の両面を高速洗浄できるようになっている。ブラシ7171〜7173の材質はナイロン、ポリビニルアルコール等である。このように洗浄部705では、表面処理されたフィルム2を、純水21を用いてブラシ洗浄する。これにより、フィルム2から異物を除去する。
【0053】
制御部708は、実施例1で説明したのと同様に、フィルム巻き出し部703と表面処理部704、洗浄部705、乾燥部706及びフィルム巻き取り部707を制御する。
【0054】
本実施例に拠れば、フィルムに付着した扁平な異物の除去を確実により高速に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のフィルム洗浄方法とフィルム洗浄装置は、光学素子や電子素子など高い清浄度が求められるフィルムの洗浄に適用が可能である。
【符号の説明】
【0056】
100,600,700…フィルム洗浄装置 2…フィルム 3,603,703…フィルム巻き出し部 4,604,704…表面処理部 5,605,705…洗浄部 6,606,706…乾燥部 7,607,707…フィルム巻き取り部 9…フィルム巻き出し駆動部 10…フィルム巻き取り駆動部 11,611,711…ゼータ電位制御物質貯蔵部 12…ゼータ電位制御物質浸漬部 13a,613a,713a…ポンプ 13b,613b,713b…ポンプ
14a,614a,714a…フィルタ 14b,614b,714b…フィルタ 15,615,715…純水貯蔵部 16,616,716…純水供給部 17,617,717…ブラシ部
18,618,718…ブラシ駆動部 21…純水 24…異物 25…ゼータ電位制御物質
629…スリットノズル部 630…スリット 741…加熱噴射ノズル部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを、ゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬する表面処理手段と、
該表面処理手段で処理されたフィルムを純水で洗浄する洗浄手段と、
該洗浄手段によって純水で洗浄されたフィルムをブラシで洗浄するブラシ洗浄手段と、
該ブラシ洗浄手段で洗浄されたフィルムを乾燥させる乾燥手段と
を備えたことを特徴とするフィルム洗浄装置。
【請求項2】
ロール状に巻かれたフィルムからフィルムを引き出して前記表面処理手段に供給するフィルム供給手段と、前記乾燥手段で乾燥させたフィルムをロール状に巻き取るフィルム巻き取り手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載のフィルム洗浄装置。
【請求項3】
前記ブラシ洗浄手段は、前記純水で洗浄されたフィルムをブラシで洗浄することにより、前記フィルムに付着した扁平状の異物を前記フィルムから剥離させて除去することを特徴とする請求項1記載のフィルム洗浄装置。
【請求項4】
ロール状に巻かれたフィルムを送り出すフィルム送り出し部と、
該フィルム送り出し部から送り出されたフィルムを、ゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬する表面処理部と、
該表面処理部で処理されたフィルムに純水を供給しながら該フィルムをブラシで洗浄して前記フィルムに付着した異物を除去する洗浄部と、
該洗浄部で洗浄されたフィルムの表面を乾燥させる乾燥部と、
該乾燥部で乾燥させたフィルムを巻き取るフィルム巻き取り部と、
前記フィルム送り出し部と前記表面処理部と前記洗浄部と前記乾燥部と前記フィルム巻き取り部とを制御する制御部と
を備えたことを特徴とするフィルム洗浄装置。
【請求項5】
前記洗浄部は、前記表面処理部でゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬されたフィルムを純水で洗浄する純水洗浄手段と、該純水洗浄手段で洗浄された前記フィルムを該フィルムと前記異物との間に前記ゼータ電位制御物質が未だ残っている状態で前記ブラシにより前記フィルムをブラシ洗浄するブラシ洗浄手段とを有することを特徴とする請求項4記載のフィルム洗浄装置。
【請求項6】
前記乾燥部は、高圧気体を供給する高圧気体供給手段と高圧気体を噴出すノズル手段とを備え、前記高圧気体供給手段から供給された高圧気体を前記ノズル手段から前記フィルムの表面に吹き付けることにより前記フィルムの表面を乾燥させることを特徴とする請求項4記載のフィルム洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄部は、前記表面処理部で処理されたフィルムに純水を供給しながら該フィルムをブラシで洗浄することにより前記フィルムに付着した扁平状の異物を前記フィルムから剥離させて除去することを特徴とする請求項4記載のフィルム洗浄装置。
【請求項8】
前記ゼータ電位制御物質がドデシルベンゼンスルホン酸(C1225SOH)であることを特徴とする請求項1または4に記載のフィルム洗浄装置。
【請求項9】
フィルムを、ゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬し、
該浸漬したフィルムを液中から取り出して前記ゼータ電位制御物質を洗い流し、
該ゼータ電位制御物質を洗い流したフィルムをブラシで洗浄し、
該ブラシで洗浄したフィルムを乾燥させる
ことを特徴とするフィルム洗浄方法。
【請求項10】
ロール状に巻かれたフィルムから引き出したフィルムを前記液中に浸漬する工程に供給するフィルム供給工程と、前記乾燥させたフィルムをロール状に巻き取るフィルム巻き取り工程とを更に有することを特徴とする請求項9記載のフィルム洗浄方法。
【請求項11】
ロール状に巻かれたフィルムを、ロールを回転させながら送り出し、
該送り出されたフィルムを、ゼータ電位制御物質を含む液中に浸漬し、
該液中に浸漬されたフィルムを取り出して表面に付着したゼータ電位制御物質を純水で洗い流し、
該純水で洗い流したフィルムに純水を供給しながらブラシで洗浄し、
該洗浄されたフィルムの表面を乾燥させ、
該乾燥させたフィルムをロール状に巻き取る
ことを特徴とするフィルム洗浄方法。
【請求項12】
前記ブラシで洗浄する工程において、前記表面に付着したゼータ電位制御物質を純水で洗い流したフィルムを、該フィルムと前記異物との間に前記ゼータ電位制御物質が未だ残っている状態で、前記ブラシで前記フィルムをブラシ洗浄することを特徴とする請求項11記載のフィルム洗浄方法。
【請求項13】
前記フィルムの表面を乾燥させる工程において、高圧気体をノズルから前記フィルムの表面に吹き付けることにより前記フィルムの表面を乾燥させることを特徴とする請求項11記載のフィルム洗浄方法。
【請求項14】
前記ブラシで洗浄することにより、前記フィルムに付着した扁平状の異物を前記フィルムから剥離させて除去することを特徴とする請求項9又は11に記載のフィルム洗浄方法。
【請求項15】
前記ゼータ電位制御物質がドデシルベンゼンスルホン酸(C1225SOH)であることを特徴とする請求項9または11に記載のフィルム洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−67752(P2011−67752A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220763(P2009−220763)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】