説明

フィルム

【課題】高い光学特性と耐熱性を有しながら大きな固有複屈折を有するフィルムおよびそのフィルムを延伸してなる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなり、ガラス転移温度が120℃以上であり、応力光学係数が1.0×10−9(1/Pa)以上であるフィルム、および、そのフィルムを延伸してなる位相差フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、高い光線透過率を有する一方で光弾性率が低いなどの高い光学特性を有するとともに、表面光沢や耐候性に優れ、しかも、機械的強度、成形加工性、表面硬度のバランスがとれているので、自動車や家電製品などにおける光学関連用途に幅広く使用されている。さらに近年、透明性と耐熱性とを兼ね備えた主鎖に環構造を有するアクリル樹脂が開発され、光学フィルム用途などへの適用が検討されている。この主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、一般的なアクリル樹脂に比べてガラス転移温度(Tg)が高く、例えば、画像表示装置において光源などの発熱部に近接した配置が容易となるなど、実用上の様々な利点を有する。例えば特許文献1、2には、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体を環化反応させて得られた、環構造としてラクトン構造を主鎖に有するアクリル系重合体を含む樹脂が開示されている。特許文献3には、環構造としてグルタルイミド構造を主鎖に有するアクリル系重合体を含む樹脂が開示されており、特許文献4には、環構造としてグルタル酸無水物構造を主鎖に有するアクリル系重合体を含む樹脂が開示されている。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸して得た延伸フィルムは、延伸により生じた高分子鎖の配向に基づく様々な光学特性を示す。このような延伸フィルムの一種に、高分子鎖の配向により生じる複屈折を利用した位相差フィルムがある。位相差フィルムは液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置に広く使用されるが、近年、画像表示装置の薄型化が進むにつれてその薄膜化が強く求められており、その要求に応えるためには、薄いながらも大きな位相差を示す位相差フィルムが望まれる。前記の主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、正の固有複屈折を与える作用を有する環構造を導入することにより、延伸で正の位相差が発現できるため、例えば特許文献2に記載されているように、位相差フィルムとしての開発も行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96960号公報
【特許文献2】特開2008−9378号公報
【特許文献3】WO05/108438号公報
【特許文献4】WO05/105918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本来アクリル樹脂は弱いながら負の固有複屈折を有しており、正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である主鎖の環構造を導入しても打ち消しあうため、大きな正の固有複屈折を発現させることは容易ではなく、近年要望されている薄いながらも大きな位相差を示す位相差フィルムを実現することは延伸しても困難であった。また、主鎖に環構造を多く導入することにより位相差値は大きくなる傾向にあるが、剛直な環構造が増えることにより、残念ながら成形加工性やフィルム靭性の低下が見られることがあった。本発明は、高い光学特性と耐熱性を有しながら大きな固有複屈折を有するフィルムおよびそのフィルムを延伸してなる位相差フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなり、ガラス転移温度が120℃以上であり、応力光学係数が1.0×10−9(1/Pa)以上であるフィルムである。
【0007】
前記主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、炭素数2〜20の有機残基を側鎖に含むことが好ましい。
【0008】
前記フィルムは、23℃で測定した靭性が0.07(J)以上であることが好ましい。
【0009】
前記環構造は、ラクトン環構造であることが好ましい。
【0010】
前記ラクトン環構造は、下記一般式(1)で表されることが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】

(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいる場合、又は含んでいない場合がある。)
前記一般式(1)のRは、炭素数2〜20のアルキル基であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記フィルムを延伸してなる位相差フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィルムは、高い光学特性と耐熱性を有しながら大きな固有複屈折を有しており、延伸することにより、薄いながらも大きな位相差を示す位相差フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味する。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
《主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂》
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造と環構造を含む。(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位の含有率と環構造単位の含有率の合計を主鎖中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上含む。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。これらの構成単位を2種類以上有していてもよい。メタクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、アクリル樹脂ならびにアクリル樹脂を含む組成物および当該組成物を成形して得られたフィルムなどの成形品の熱安定性が向上する。
【0017】
主鎖の(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造の含有率は、好ましくは例えば5〜90質量%であり、好ましくは10〜80質量%であり、より好ましくは10〜70質量%であり、さらに好ましくは20〜60質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造の含有率が過度に小さくなると、アクリル樹脂の特徴である光学特性が低下する懸念がある。一方、前記含有率が過度に大きくなると、耐熱性が低下する。
【0018】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有していてもよい。環化反応により主鎖に環構造を導入するため、アクリル樹脂は重合時に水酸基やカルボン酸基を有する単量体を共重合することが好ましい。具体的には、水酸基を有する単量体として、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ブチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、また、カルボン酸基を有する単量体として(メタ)アクリル酸単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの単量体に由来する構成単位が挙げられる。これらの単量体を2種類以上共重合有していてもよい。水酸基やカルボン酸基を有する単量体は環化反応により環構造へと変化するが、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂に未反応の水酸基やカルボン酸基を有する単量体由来の構成単位が含まれていてもよい。
【0019】
また、アクリル樹脂はその他の構成単位を有していてもよく、このような構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの単量体に由来する構成単位である。アクリル樹脂は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。
【0020】
本発明のアクリル樹脂は主鎖に環構造を有する。そのため、アクリル樹脂およびアクリル樹脂のTgが高くなり、当該組成物から得た樹脂成形品の耐熱性が向上する。このように主鎖に環構造を有するアクリル樹脂から得た樹脂成形品、例えばフィルムは画像表示装置における光源などの発熱部近傍への配置が容易になるなど光学部材としての用途に好適である。
【0021】
アクリル樹脂が環構造を有することにより、アクリル樹脂のTgが高くなると、当該組成物の成形温度を高くする必要がある。成形温度が高くなると、成形時にポリマー主鎖間の架橋が生じやすく、成形体の異物が増加し、さらに、脆さが増加するため、特にフィルム成形時や成形後においてフィルム強度が不足しやすい。しかし、本発明のアクリル樹脂では、このような場合においても、ポリマー主鎖間の架橋が抑制でき、フィルム成形時や成形後において十分な機械的強度を有する成形体を得ることができる。
【0022】
なお、樹脂の固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。
【0023】
また、本明細書において、樹脂に正(あるいは負)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位(構造)とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が正(あるいは負)となる構成単位(構造)をいう。樹脂自体の固有複屈折の正負は、当該単位によって生じる複屈折と、樹脂が有するその他の構成単位(構造)によって生じる複屈折との兼ね合いにより決定される。
環構造の種類は特に限定されないが、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド由来の構造および無水マレイン酸由来の構造から選ばれる少なくとも1種である。大きな正の固有複屈折を発現させることから、ラクトン環構造、グルタルイミド構造が好ましい。
【0024】
アクリル樹脂の環構造の含有率は特に限定はされないが、例えば5〜90質量%であり、好ましくは10〜85質量%であり、より好ましくは20〜75質量%であり、さらに好ましくは30〜70質量%である。環構造の含有率が過度に小さくなると、アクリル樹脂ならびに当該組成物から得られるフィルムなどの成形品における耐熱性の低下や、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、前記含有率が過度に大きくなると、アクリル樹脂の成形性、ハンドリング性が低下する。
【0025】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は炭素数が2〜20の有機残基を側鎖に含むことが好ましい。なお、有機残基は酸素原子を含んでいる場合、又は含んでいない場合がある。樹脂に大きな正の固有複屈折を発現させるためには、環構造の含有率を増加させることが考えられるが、剛直な環構造の含有率が増加すると、成形して得られるフィルムの靭性が低下する傾向がある。また、溶媒への溶解性も低下するため、重合時に樹脂が不溶化して撹拌が困難となることがあった。さらには、低下するフィルムの靭性を向上させる手法としては高分子化が考えられるが、高分子化すると重合液粘度や溶融粘度が高くなりすぎるため、さらに重合時の撹拌が困難になったり、溶融時の成形加工性が低下したりしてしまうという現象が見られた。側鎖の有機残基の炭素数が2〜20であることにより、重合時や溶融時の粘度の抑制が可能となるため、環構造の含有率の増加と高分子量化の両立が可能となり、成形後のフィルムの靭性を維持しながら、延伸後の位相差フィルムの位相差値を向上させることが出来る。
【0026】
側鎖の有機残基の炭素数はより好ましくは2〜8、さらに好ましくは2〜4、特に好ましくは2である。炭素数が2未満の場合は成形後のフィルム靭性が不足する場合があり、炭素数が20を超える場合は耐熱性が不足することがある。特に、フィルム靭性は炭素数が2の時に最も大きくなる傾向があり、その原因として、以下のことが考えられる。すなわち、側鎖の有機残基の炭素数が1であるポリメチルメタクリレートと炭素数が2であるポリエチルメタクリレートと炭素数が4であるポリブチルメタクリレートを比較すると、絡み合い点間分子量がそれぞれ9200、8550、12200となり、炭素数が2であるポリエチルメタクリレートが最もポリマー鎖同士の絡み合いが大きくなる。環構造の側鎖に有機残基を有する場合も同様に、側鎖の有機残基同士の絡み合いが炭素数2で最も大きくなることが推測され、結果として、弾性率を維持したまま伸び率が向上するため、フィルムの靭性が向上すると考えられる。
【0027】
有機残基は、具体的には、例えば、エチル基、プロピル基などの炭素数2〜20の範囲のアルキル基、エテニル基、プロペニル基などの炭素数2〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基などの炭素数2〜20の範囲の芳香族炭化水素基であり、前記アルキル基、前記不飽和脂肪族炭化水素基、前記芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。その中では、耐熱性と光学特性から炭素数2〜20の範囲のアルキル基が好ましく、炭素数2〜8の範囲のアルキル基がより好ましく、炭素数2〜4の範囲のアルキル基がさらに好ましく、炭素数2のアルキル基すなわちエチル基が特に好ましい。炭素数が2未満の場合は成形後のフィルム靭性が不足する場合があり、炭素数が20を超える場合は耐熱性が不足することがある。
【0028】
有機残基は主鎖に環構造を有するアクリル樹脂の側鎖に含まれれば特に限定されないが、主鎖の環構造由来の剛直性を緩和する観点からは、有機残基が主鎖の環構造に直接あるいは置換基を介して接続されていることが好ましい。具体的には、たとえば環構造が6員環の場合は下記一般式(2)の構造が考えられるが、R、R、X、Yおよび/またはZの部分が炭素数2〜20の有機残基を含んでいればよい。R、RまたはRの少なくともひとつが炭素数2〜20の有機残基または炭素数2〜20の有機残基を含むエステル基であることが好ましい。
【0029】
【化2】

【0030】


(RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜20の有機残基または炭素数1〜20の有機残基を含むエステル基を表す。X、YおよびZはそれぞれ独立してO、N−RまたはC=Oを表す。ここでOは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子または炭素数1〜20の有機残基、Cは炭素原子、C=Oはカルボニル基である。)
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は公知の方法により製造できる。環構造が無水グルタル酸構造あるいはグルタルイミド構造であるアクリル樹脂は、例えば、WO2007/26659号公報あるいはWO2005/108438号公報に記載の方法により製造できる。環構造が無水マレイン酸構造あるいはN−置換マレイミド由来の構造であるアクリル樹脂は、例えば、特開昭57−153008号公報、特開2007−31537号公報に記載の方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル樹脂は、例えば、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報あるいは特開2007−63541号公報に記載の方法により製造できる。
【0031】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂の側鎖に炭素数が2〜20の有機残基を導入する方法としては特に限定されず、炭素数が2〜20の有機残基を含む共重合成分を共重合しても良いし、重合後に炭素数が2〜20の有機残基を導入しても良い。有機残基を主鎖の環構造に直接あるいは置換基を介して接続する方法としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合成分としてエステル基が炭素数2〜20の有機残基である2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステルを用いて重合後に環化反応を行えば、炭素数2〜20の有機残基を主鎖の環構造に置換基(エステル基)を介して接続した主鎖に環構造を有するアクリル樹脂が製造できる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合成分としてアルキル基の炭素数が2〜20のN−アルキル置換マレイミドを共重合することで、有機残基(アルキル基)を主鎖の環構造に直接接続した主鎖にマレイミド由来の環構造を有するアクリル樹脂が得られる。更には、アクリル樹脂の重合後に、アルキル基の炭素数が2〜20のN−アルキル置換アミンを用いて環化反応を行えば、有機残基(アルキル基)を主鎖の環構造に直接接続した主鎖にグルタルイミド環構造を有するアクリル樹脂となる。
【0032】
光学特性と耐熱性の観点から、主鎖にラクトン環を有するアクリル樹脂が好ましい。主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル樹脂が得られること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の一般式(1)に示される構造が好ましい。
【0033】
【化3】

【0034】
式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいる場合、又は含んでいない場合がある。
【0035】
一般式(1)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜20の範囲のアルキル基、エテニル基、プロペニル基などの炭素数1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基などの炭素数1〜20の範囲の芳香族炭化水素基であり、前記アルキル基、前記不飽和脂肪族炭化水素基、前記芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
【0036】
一般式(1)のRは、炭素数が2〜20のアルキル基であることが好ましい。樹脂に大きな正の固有複屈折を発現させるためには、環構造の含有率を増加させることが考えられるが、剛直な環構造の含有率が増加すると、成形して得られるフィルムの靭性が低下する傾向がある。また、溶媒への溶解性も低下するため、重合時に樹脂が不溶化して撹拌が困難となることがあった。さらには、低下するフィルムの靭性を向上させる手法としては高分子化が考えられるが、高分子化すると重合液粘度や溶融粘度が高くなりすぎるため、さらに重合時の撹拌が困難になったり、溶融時の成形加工性が低下したりしてしまうという現象が見られた。一般式(1)のRのアルキル基の炭素数が2〜20であることにより、重合時や溶融時の粘度の抑制が可能となるため、環構造の含有率の増加と高分子量化の両立が可能となり、成形後のフィルムの靭性を維持しながら、延伸後の位相差フィルムの位相差値を向上させることが出来る。
【0037】
一般式(1)のRのアルキル基の炭素数は、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは2〜4、特に好ましくは炭素数が2である。アルキル基の炭素数が2未満の場合は成形後のフィルム靭性が不足する場合があり、炭素数が20を超える場合は耐熱性が不足することがある。
【0038】
主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂に炭素数が2〜20の有機残基を導入する方法としては特に限定されず、炭素数が2〜20の有機残基を含む共重合成分を共重合しても良いし、重合後に炭素数が2〜20の有機残基を導入しても良い。炭素数が2未満の場合は成形後のフィルム靭性が不足する場合があり、炭素数が20を超える場合は耐熱性が不足することがある。特に、フィルム靭性は炭素数が2の時に最も大きくなる傾向があり、その原因として、以下のことが考えられる。すなわち、側鎖の有機残基の炭素数が1であるポリメチルメタクリレートと炭素数が2であるポリエチルメタクリレートと炭素数が4であるポリブチルメタクリレートを比較すると、絡み合い点間分子量がそれぞれ9200、8550、12200となり、炭素数が2であるポリエチルメタクリレートが最もポリマー鎖同士の絡み合いが大きくなる。環構造の側鎖に有機残基を有する場合も同様に、側鎖の有機残基同士の絡み合いが炭素数2で最も大きくなることが推測され、結果として、弾性率を維持したまま伸び率が向上するため、フィルムの靭性が向上すると考えられる。
【0039】
特に限定されないが、主鎖の環構造由来の剛直性を緩和する観点からは、有機残基は主鎖のラクトン環構造に直接あるいは置換基を介して接続されていることが好ましい。有機残基を主鎖の環構造に直接あるいは置換基を介して接続する方法としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合成分としてエステル基が炭素数2〜20の有機残基である2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステルを用いてアクリル樹脂を重合した後にラクトン環化反応を行えば、炭素数2〜20の有機残基を主鎖の環構造にエステル基を介して接続した主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂が製造できる。2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステルとしては、エステル基が炭素数2〜20の有機残基である2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸オクチルなどが挙げられ、耐熱性からは2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましい。2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルを共重合成分としてアクリル樹脂を重合し、ラクトン環化反応を行うことで、一般式(1)のRの炭素数が2〜20のアルキル基である主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂が得られる。なお、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルを共重合して主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂を合成する際には、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルの全単量体中の共重合量比は、40質量%以上、より好ましくは42質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である。40質量%より少ないと、所望の応力光学係数、すなわち位相差発現性が得られない場合がある。
【0040】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、特に限定されないが、押出成形や延伸成形などが容易であることから、主鎖に環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂であることが好ましい。架橋体や熱・光硬化性の樹脂であることも可能であるが、成形加工性が低下する。
【0041】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は好ましくは50000以上である。Mwは、より好ましくは80000以上、さらに好ましくは110000以上、特に好ましくは130000以上である。また、数平均分子量(Mn)は好ましくは20000以上である。Mnは、より好ましくは40000以上、さらに好ましくは50000以上、特に好ましくは50000より大きい。尚、重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。主鎖に環構造を有するアクリル樹脂の重量平均分子量を50000以上とすることにより、樹脂の成形加工性が向上し、フィルムとした時の靭性が改善される。
【0042】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、フィルムのTgが120℃以上であることから、通常120℃以上である。耐熱性の観点からは、アクリル樹脂のTgは125℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。なお、一般的なアクリル樹脂のTgは100℃程度である。
【0043】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、アクリル樹脂以外の成分を、当該組成物に占める割合にして50%未満、好ましくは10%未満の範囲で含んでいてもよい。
【0044】
アクリル樹脂以外の成分としてその他の熱可塑性樹脂を含む場合、その他の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィンポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン含有ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレンポリマー;トリアセチルセルロースなどのセルロースエステル;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;などである。
【0045】
前記例示した熱可塑性樹脂のなかでも、アクリル樹脂との相溶性、特に主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に優れることから、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位と芳香族ビニル単量体に由来する構成単位とを含む共重合体が好ましい。当該共重合体は、例えば、スチレン−アクリロニトリル共重合体である。
【0046】
本発明のアクリル樹脂は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤は特に限定されないが、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジーヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノン)−ブタン等が挙げられる。サリシケート系化合物としては、p−t−ブチルフェニルサリシケート等が挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。また、トリアゾール系化合物としては、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステルが挙げられる。さらに、トリアジン系化合物としては、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス「2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル」−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名:チヌビン477)が挙げられる。
【0047】
これらは単独で、または2種類以上の組み合わせて使用することができる。前記紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、耐熱アクリル樹脂を主成分とする層中に0.01〜25質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜10質量%である。添加量が少なすぎると耐候性向上の寄与が低く、また多すぎると機械強度の低下や黄変を引き起こす場合がある。
【0048】
本発明のアクリル樹脂は、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤は特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系あるいはイオウ系などの公知の酸化防止剤を、1種で、または2種以上を併用して用いることができる。特に、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート(例えば、住友化学工業製スミライザーGS)、および2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(例えば、住友化学工業製スミライザーGM)が、高温成形時におけるアクリル樹脂の劣化を抑制する効果が高いことから好ましい。
【0049】
酸化防止剤はフェノール系の酸化防止剤であってもよい。フェノール系酸化防止剤は、例えば、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アセテート、n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−1−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタントリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオールビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカンである。
【0050】
フェノール系酸化防止剤は、チオエーテル系酸化防止剤またはリン酸系酸化防止剤と組み合わせて使用することが好ましい。組み合わせる際の酸化防止剤の添加量は、アクリル樹脂に対してフェノール系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤の各々が0.01%以上、あるいはフェノール系酸化防止剤およびリン酸系酸化防止剤の各々が0.025%以上である。
【0051】
チオエーテル系酸化防止剤は、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートである。
【0052】
リン酸系酸化防止剤は、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイトである。
【0053】
本発明のアクリル樹脂における酸化防止剤の添加量は、例えば0〜10%であり、好ましくは0〜5%であり、より好ましくは0.01〜2%であり、さらに好ましくは0.05〜1%がである。酸化防止剤の添加量が過度に大きくなると、成形時に酸化防止剤のブリードアウトやシルバーストリークスが発生することがある。
【0054】
本発明のアクリル樹脂は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤は、例えば、位相差上昇剤、位相差低減剤などの位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAやABSなどのゴム質量体などである。本発明のアクリル樹脂における、前記その他の添加剤の添加量は、例えば0〜5%であり、好ましくは0〜2%であり、より好ましくは0〜0.5%である。

《フィルム》
本発明のフィルムは、応力光学係数(Cr)が1.0×10−9(1/Pa)以上である。Crとは、詳しくは『透明プラスチックの最前線(高分子学会編)』の37−44頁に記載されているが、ゴム状態では応力と複屈折が比例しており、その際の比例定数である。具体的には、Δn(=nx−ny)をy軸に、σをx軸にプロットし、最小二乗法で得られた直線の傾きである。ここで、nxはフィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyはフィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内においてnxと垂直な方向)の屈折率、σは応力[N/m2]である。Crは好ましくは、1.0×10−9〜4.0×10−9(1/Pa)であり、また、1.1×10−9〜3.0×10−9(1/Pa)がより好ましく、1.2×10−9〜2.0×10−9(1/Pa)がさらに好ましい。Crが1.0×10−9(1/Pa)以上であると、延伸後に大きな位相差を示す位相差フィルムが得られる。そのため、低倍率で高い温度での延伸が可能となり、フィルム内の位相差の振れが小さくなる。また、4.0×10−9(1/Pa)を超えると、延伸後の位相差値の制御が難しくなることがある。
【0055】
フィルムの靭性、引張弾性率および引張破壊ひずみは、試験片サイズを80mm×20mmで初めのチャック間距離40mmとした以外は、JIS K7161ならびにJIS K7127の規定に準拠して引張試験を行い求めた。具体的には、前記試験片サイズに切り出した未延伸フィルム6枚を恒温恒湿室(23℃、60%RH設定)で12時間以上調温調湿後、オートグラフ(AGS−100D、島津製作所製)を用いて、22℃、500mm/分の速度で引張試験を行い、得られた結果から靭性、引張弾性率および引張破壊ひずみを算出した。靭性[J]は、破断までの試験力をひずみで積分し求めた。また、試験力10Nから20Nに対応する応力をy軸、ひずみ[mm]をx軸として、最小二乗法で得られた直線の傾きを求め、その値を引張弾性率[N/mm]とした。引張破壊ひずみ[%]は試験片破壊時におけるチャック間距離の増加量ΔLの初めのチャック間距離Lに対する比として算出した。
【0056】
フィルムの靭性は、好ましくは0.07J以上、さらに好ましくは0.1J以上である。フィルムの靭性が0.07Jより低いと強度に乏しく、延伸を行う場合やトリミングなどの加工時に破断等が起こりやすい。引張弾性率は、好ましくは1300N/mm以上、より好ましくは1700N/mm以上、さらに好ましくは1900N/mm以上である。引張弾性率が1300N/mmより低いと、表面硬度が低下し、傷付きやすくなる。引張破断ひずみは2%以上、より好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは3.0%以上である。引張破談ひずみが2%より低いと、靭性が低下し、フィルム強度低下につながる傾向にある。
【0057】
本発明のフィルムは、その膜厚が好ましくは5〜1000μm、より好ましくは10〜500μmである。膜厚が1μmよりも薄いと強度に乏しく、延伸を行う場合に破断等が起こりやすい。また、膜厚が1000μmよりも厚い場合、膜厚が均一になりにくいために好ましくない。
【0058】
アクリル樹脂からフィルムを製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0059】
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
【0060】
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0062】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0063】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。

《位相差フィルム》
本発明の位相差フィルムは、前記フィルムを延伸してなる。延伸方法としては特に制限されず、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;フィルムの延伸時にその片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。耐折り曲げ性が向上する点で、二軸延伸が好ましい。さらに、フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、同時二軸延伸が好ましい。また、面内の任意の方向の耐折れ曲げ性と、大きな面内位相差値とを両立させやすい点で、逐次二軸延伸が好ましい。面内の任意の直交する二方向としては、例えば、フィルム面内の遅相軸と平行方向およびフィルム面内の遅相軸と垂直な方向が挙げられる。なお、所望の位相差値、所望の耐折れ曲げ性に応じて、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件を適宜設定すればよく、特に限定はされない。
【0064】
また、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内でnxと垂直方向の屈折率をny、フィルム厚さ方向の屈折率をnzとした場合、nx>ny=nzもしくはnx=nz>nyを満たす位相差フィルムが得られる点で、自由幅一軸延伸が好ましい。また、nx=ny>nzもしくはnx=ny<nzを満たす位相差フィルムが得られる点で二軸延伸が好ましい。さらには、nx>nyで0<(nx−nz)/(nx−ny)<1を満足する位相差フィルムが得られるという点で、フィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与する延伸方法が好ましい。
【0065】
延伸等を行なう装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これら何れの装置を用いても、本発明に係る位相差フィルムを得ることができる。
【0066】
延伸温度としては、フィルム原料の重合体、若しくは延伸前のフィルムのガラス転移温度近辺で行うことが好ましい。具体的には、(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+50)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+20)℃、さらに好ましくは(ガラス転移温度−10)℃〜(ガラス転移温度+10)℃である。(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。(ガラス転移温度+50)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
【0067】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.2〜10倍の範囲、さらに好ましくは1.3〜5倍の範囲で行われる。1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う位相差性能の発現や靭性の向上につながらないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
【0068】
ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、好ましくは1.05〜10倍の範囲、より好ましくは1.1〜5倍の範囲、さらに好ましくは1.2〜3倍の範囲で行われる。1.05倍よりも小さいと、所望の位相差値が得られない場合があり好ましくない。10倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
【0069】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
【0070】
本発明の位相差フィルムは、大きな位相差を示すことが可能である。具体的には、本発明の位相差フィルムにおける、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthは30〜400nmが好ましく、より好ましくは50〜300nm、更に好ましくは70〜250nmとなる。なお、厚さ方向の位相差Rthが正であることが好ましいことから、本発明の位相差フィルムは正の位相差フィルムであることが好ましい。また、波長589nmの光に対する面内位相差Reは、30〜500nmが好ましく、より好ましくは30〜400nm、更に好ましくは50〜350nmとなる。
【0071】
なお、「位相差」はレターデーション値ともいう。ここでいう面内位相差Reは、
Re=(nx−ny)×d
で、厚さ方向位相差Rthは、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
で、定義される。なお、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率が最大となる方向とする。また、延伸方向の屈折率が大きくなるものを正の複屈折性があると言い、フィルム面内で延伸方向と垂直方向の屈折率が大きくなるものを負の複屈折性があると言う。
【0072】
本発明の位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)は120℃以上が好ましく、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。
【0073】
本発明の位相差フィルムは、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
【0074】
本発明の位相差フィルムの用途は特に限定されず、従来の位相差フィルムと同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0075】
具体的には、本発明の位相差フィルムは、LCDの光学補償部材として好適である。例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCDなどの各種LCDの位相差フィルム、光学補償フィルム、偏光板との積層フィルム、偏光板光学補償フィルムに好適に使用できる。本発明の位相差フィルムの好ましい光学特性は、使用する液晶の表示モードによって異なる。
【0076】
また、本発明の位相差フィルムは、LCDの偏光板に用いる偏光子保護フィルムとして好適である。
【0077】
本発明の位相差フィルムは、例えば、VA型LCDなどにおいて、厚さ方向の位相差Rthが大きい正の位相差フィルムが必要な場合に、特に有効である。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0079】
[重量平均分子量および数平均分子量]
樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の測定条件に従って求めた。
【0080】
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSK guardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー製、TSK Gel Super HZM−M)、2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSK gel SuperH−RC)
[ガラス転移温度]
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0081】
[位相差]
フィルムの面内位相差(Re)は、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて測定波長589nmで求めた。また、厚さ方向の位相差(Rth)も同様に位相差測定装置を用いて測定波長589nmで、遅相軸を傾斜軸として40°傾斜して測定した値を基に算出した。
【0082】
[靭性、引張弾性率および引張破壊ひずみ]
靭性、引張弾性率および引張破壊ひずみは、試験片サイズを80mm×20mmで初めのチャック間距離40mmとした以外はJIS K7161ならびにJIS K7127の規定に準拠して引張試験を行い求めた。具体的には、前記試験片サイズに切り出した未延伸フィルム6枚を恒温恒湿室(23℃、60%RH設定)で12時間以上調温調湿後、オートグラフ(AGS−100D、島津製作所製)を用いて、22℃、500mm/分の速度で引張試験を行い、得られた結果から靭性、引張弾性率および引張破壊ひずみを算出した。靭性[J]は、破断までの試験力をひずみで積分し求めた。また、試験力10Nから20Nに対応する応力をy軸、ひずみ[mm]をx軸として、最小二乗法で得られた直線の傾きを求め、その値を引張弾性率[N/mm]とした。引張破壊ひずみ[%]は試験片破壊時におけるチャック間距離の増加量ΔLの初めのチャック間距離Lに対する比として算出した。
【0083】
[応力光学係数Cr]
延伸フィルムを60mm×20mmの長方形に切り出し、1N/mm以下の応力になるよう重りを選択し、フィルムの下端に取り付けた。これらをTg+3℃の定温乾燥機(DOV−450A、アズワン株式会社製)にチャック間40mmでセットした。そのままTg+3℃で約30分間保持して延伸をおこなった後加熱を止め、Tg−40℃になるまで約1℃/minで冷却した。その後、フィルムを取り出し、延伸後のフィルム長、厚み、ならびに重りの重量、また、得られた延伸フィルムの面内位相差Reを測定した。さらに、1N/mm2以下の応力になるよう4種類の重さの重りについて、同様に測定を行い、その結果から応力光学係数Crを算出した。Crについては『透明プラスチックの最前線(高分子学会編)』のp.37−44に記載されている。具体的には、Δn(=nx−ny)をy軸に、σをx軸にプロットし、最小二乗法で得られた直線の傾きを求め、その値をCrとした。ここで、nxはフィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyはフィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内においてnxと垂直な方向)の屈折率、σは延伸に対する応力[N/m]である。
【0084】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積30Lの反応容器に、39.2質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、30.8質量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル(RHMA−E)、重合溶媒として2質量部のメタノール、28質量部のトルエン、ならびに酸化防止剤として0.035質量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、95℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.004質量部のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス575)を添加するとともに、0.025質量部のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを8時間かけて滴下しながら、約95〜105℃の還流下で溶液重合を進行させた。
【0085】
また、重合開始2時間より20.6質量部のトルエンを6時間かけて滴下し、重合液を希釈した。
【0086】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.1質量部のリン酸ステアリル(堺化学工業製、Phoslex A−18)を加え、約80〜100℃の還流下において12時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。これに続き、オートクレーブにより重合溶液を240℃で30分間加熱して、環化縮合反応をさらに進行させた。
【0087】
このようにして得た重合溶液を、バレル温度250℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜670hPa(10〜500mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=40)に、樹脂量換算で2kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。脱揮時には、第2ベントの後から、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を0.04kg/時の注入速度で注入し、第1、3ベントの後から、イオン交換水を0.03kg/時の注入速度で注入した。
【0088】
酸化防止剤・失活剤混合溶液には、2.3質量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、2.3質量部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび10質量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)をトルエン86質量部に溶解させた溶液を用いた。
【0089】
この一連の操作により、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂のペレット(A1)が得られた。得られたペレットの分析結果を表1に示す。
【0090】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積30Lの反応容器に、44.8質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、35.2質量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル(RHMA−E)、重合溶媒として3.4質量部のメタノール、16.6質量部のトルエン、ならびに酸化防止剤として0.04質量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、95℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.004質量部のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス575)を添加するとともに、0.029質量部のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを4時間かけて滴下しながら、約95〜96℃の還流下で溶液重合を進行させた。
【0091】
また、重合開始3時間より8.4質量部のトルエンを1時間かけて滴下し、重合液を希釈した。
【0092】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.14質量部のリン酸ステアリル(堺化学工業製、Phoslex A−18)を加え、約80〜100℃の還流下において12時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。これに続き、オートクレーブにより重合溶液を240℃で30分間加熱して、環化縮合反応をさらに進行させた。
このようにして得た重合溶液を製造例1と同様の方法で脱揮した。脱揮時には、酸化防止剤・失活剤混合溶液を製造例1と同様に添加した。
【0093】
この一連の操作により、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂のペレット(B1)が得られた。得られたペレットの分析結果を表1に示す。
【0094】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積1000Lの反応釜容器に、30質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、15質量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(RHMA−M)、5質量部のメタクリル酸n−ブチル(BMA)、重合溶媒として50質量部のトルエンおよび酸化防止剤として0.025質量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03質量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)を添加するとともに、0.7質量部のトルエンに0.06質量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを溶解させた溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
【0095】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として0.1質量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A−8)を加え、約80〜105℃の還流下において12時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。
【0096】
このようにして得た重合溶液を、多管式熱交換機により240℃にまで昇温した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタを備えた、バレル温度250℃、回転速度170rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時の処理速度で導入し、環化縮合反応のさらなる進行と脱揮とを行った。このとき、第1ベントの後から、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を0.46kg/時の注入速度で注入した。
【0097】
酸化防止剤・失活剤混合溶液には、0.8質量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、0.8質量部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび9.8質量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛18%)をトルエン88.6質量部に溶解させた溶液を用いた。
【0098】
この一連の操作により、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂のペレット(C1)が得られた。
【0099】
(実施例1)
製造例1で作製したペレット(A1)を単軸押出機(シリンダー径20mm)を用いて以下の条件で溶融押出成形し、厚さ170μmの未延伸のフィルム(A2)を作製した。
【0100】
シリンダー温度:230℃
ダイ:コートハンガータイプ、幅150mm、温度240℃
キャスティング:つや付き2本ロール、第1ロールおよび第2ロールともに95℃に保持
次に、得られたフィルムのガラス転移温度(Tg)、靭性、弾性率を測定し、また、位相差発現性を確認するために応力光学係数(Cr)を算出した。得られたフィルムの物性値を表1に示す。
【0101】
(実施例2)
製造例2で作製したペレット(B1)を用い、単軸押出機のシリンダー温度を240℃、ダイの温度を250℃、キャスティングロールとして用いた第1および第2ロールの温度を100℃とした以外は実施例1と同様にして、厚さ170μmの未延伸のフィルム(B2)を作製し、評価を行った。得られたフィルムの物性値は表1にまとめて示す。
【0102】
(比較例1)
製造例3で作製したペレット(C1)を用い、実施例1と同様にして、厚さ170μmの未延伸のフィルム(C2)を作製し、評価を行った。得られたフィルムの物性値は表1にまとめて示す。
【0103】
(実施例3)
実施例1の未延伸フィルム(A2)を80mm×40mmの長方形に切り出した後、フィルムをオートグラフ(AGS−100D、島津製作所製)を用いて、Tg+5℃、40mm/分の速度でチャック間距離40mmから2.0倍に単軸延伸を行い、位相差フィルム(A3)を作製した。得られた位相差フィルムの物性値を表2に示す。
【0104】
(実施例4)
実施例2の未延伸フィルム(B2)を用いて、実施例3と同様に延伸して位相差フィルムを作成(B3)、評価を行った。得られた物性値は表2にまとめて示す。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の位相差フィルムは、従来の位相差フィルムと同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなり、ガラス転移温度が120℃以上であり、応力光学係数が1.0×10−9(1/Pa)以上であるフィルム。
【請求項2】
前記主鎖に環構造を有するアクリル樹脂が炭素数2〜20の有機残基を側鎖に含む請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
23℃で測定した靭性が0.07(J)以上である請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記環構造がラクトン環構造である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記ラクトン環構造が下記一般式(1)で表される請求項4に記載のフィルム。
【化1】

(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいる場合、又は含んでいない場合がある。)
【請求項6】
一般式(1)のRが炭素数2〜20のアルキル基である請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムを延伸してなる位相差フィルム。

【公開番号】特開2011−111466(P2011−111466A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266186(P2009−266186)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】