説明

フィードバック制御装置

【課題】制御開始時の値付近での実制御量の停滞による応答遅れの増大が発生したときの実制御量のオーバーシュートを好適に抑制することのできるフィードバック制御装置を提供する。
【解決手段】第2ピストンの実変位RYを含むCSC2の状態量の検出及び推定を行うオブザーバー6と、目標軌道に追従して実変位RYが推移するように上記状態量に基づきマスターシリンダー1の供給電流を操作するとともに、実変位RYと目標軌道との偏差Eの累積値である誤差積分値Zに応じて供給電流を操作する積分器5を有したスライディングモードコントローラー4と、を備えるフィードバック制御装置において、実変位RYが制御開始時の値付近で停滞しているか否かを判定するとともに、停滞有りと判定されたときに、目標軌道及び推定状態量X0,X1,X2の初期化を指示する停滞監視部7を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実制御量の検出を行う検出器と、その検出器により検出される実制御量を目標制御量へと制御すべく制御対象の操作量を操作するコントローラーと、前記目標制御量と前記実制御量との偏差の累積値に応じて前記操作量を操作する積分器と、を備えるフィードバック制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マニュアルトランスミッション車でのギア変速は、運転者がクラッチペダルを踏んでクラッチを開放した上で、シフトレバーを操作して変速ギアを切り換えた後、クラッチペダルを踏み離してクラッチを再締結することで行われる。しかしながら、円滑なギア変速を行うには、微妙なクラッチペダルの操作が必要であり、運転初心者には、容易ならざるものとなっている。そこで、ギア変速時のクラッチ操作を自動で行う自動クラッチが提案され、実用されている。
【0003】
こうした自動クラッチは、マスターシリンダーの発生するクラッチ作動油圧に基づき動作するコンセントリックスレーブシリンダー(CSC)を備えている。そして従来、そうしたCSCとして、特許文献1に見られるような、2分割構成のピストンを備えるものが知られている。
【0004】
図4に示すように、略円管形状のインナーハウジング51の外周には、略円管形状のアウターハウジング52が配設されている。インナーハウジング51とアウターハウジング52との間には、共に円環形状に形成された第1ピストン53及び第2ピストン54が当該CSCの軸方向に往復摺動可能に配設されている。第1ピストン53の図中右側には、上記マスターシリンダーの発生したクラッチ作動油圧が供給される圧力室55が区画形成されている。
【0005】
第2ピストン54は、ダイアフラムスプリングを介して摩擦クラッチ(共に図示略)に連結されており、ダイアフラムスプリングによって図中右方に付勢されている。また第2ピストン54は、スプリング56によって図中左方に付勢されている。そして圧力室55のクラッチ作動油圧が除荷されたときの第2ピストン54は、ダイアフラムスプリング及びスプリング56のばね力の釣り合う位置に位置される。
【0006】
以上のように構成されたCSCでは、圧力室55にクラッチ作動油圧が導入されると、第1ピストン53は、図中左方に変位されるようになる。そしてこうした第1ピストン53に押されて第2ピストン54が図中左方に変位され、それにより摩擦クラッチが解放される。
【0007】
一方、自動クラッチのフィードバック制御装置としては、特許文献2に記載の装置が知られている。同文献に記載のフィードバック制御装置は、CSCのピストン変位の目標値と実値との偏差の累積値に応じてフィードバック制御を行う積分器を備えている。また特許文献3には、ピストン変位の比例積分制御を行うとともに、フィードバック積分値が規定値以上となると制御を停止して、必要以上の油圧が作用することを防止する自動クラッチのフィードバック制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−164110号公報
【特許文献2】特開平11−193832号公報
【特許文献3】特開平01−269729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のような2分割構成のピストンを備える自動クラッチでは、通常時は、圧力室55内のクラッチ作動油圧で第1ピストン53が押され、第2ピストン54と接触した状態が保たれる。ここで図5(a)に示すように、圧力室55内のクラッチ作動油圧が除荷されているときに、当該CSCのシリンダー負荷となる摩擦クラッチ側から外力Fが作用すると、第2ピストン54が図中右方に押され、それに伴い第1ピストン53も図中右方に変位する。その後、外力が作用しなくなると、第2ピストン54は、スプリング56のばね力で、元の位置に復動するが、そうしたばね力の作用しない第1ピストン53は、変位した位置に留まる。そしてその結果、図5(b)に示すように、第1ピストン53と第2ピストン54との間に隙間Cが発生するようになる。
【0010】
図6には、同図に点線で示すように第2ピストン54の変位の目標軌道を設定したときの、ピストン間に隙間Cが発生していないときの第2ピストン54の実変位の推移が実線で示されている。また同図には、ピストン間に隙間Cが発生したときの第2ピストン54の実変位の推移が一点鎖線で示されている。
【0011】
圧力室55へのクラッチ作動油圧の供給を開始すると、第1ピストン53がシリンダー負荷側に変位し始める。ここで、ピストン間に隙間Cが発生していなければ、そうした第1ピストン53の変位と同時に第2ピストン54も変位する。ところが、ピストン間に隙間Cが発生していれば、第1ピストン53が移動を開始しても、隙間Cが詰るまでは、第2ピストン54は変位しない。そのため、このときの第2ピストン54の実変位の応答遅れは、ピストン間に隙間Cが発生していないときよりも増加する。そして応答遅れが増加すると、その間にフィードバック積分値の絶対値が増大してしまうため、実変位が目標変位を超えてオーバーシュートし易くなる。
【0012】
なお、ピストンが分割されていないCSCでも、一時的な固着等により、ピストン変位が制御開始点にて停滞して応答遅れが増大すれば、フィードバック積分値の絶対値が増大して、やはりオーバーシュートし易くなる。また自動クラッチのCSC以外のフィードバック制御系においても、実制御量が制御開始時の値付近で停滞することがあれば、フィードバック積分項の増大により、同様の問題が発生することがある。
【0013】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、制御開始時の値付近での実制御量の停滞による応答遅れの増大が発生したときの実制御量のオーバーシュートを好適に抑制することのできるフィードバック制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、実制御量の検出を行う検出器と、その検出器により検出される実制御量を目標制御量へと制御すべく制御対象の操作量を操作するコントローラーと、目標制御量と実制御量との偏差の累積値に応じて操作量を操作する積分器と、を備えるフィードバック制御装置をその前提としている。そして請求項1に記載の発明は、上記課題を解決するため、実制御量が制御開始時の値付近で停滞しているか否かを判定する判定部と、その判定部によって実制御量の停滞が発生していると判定されたときに、制御を初期化した上で、目標制御量への実制御量の制御のやり直しを指示する初期化部と、を備えるようにしている。
【0015】
上記構成では、制御開始時の値付近での実制御量の停滞が発生して応答遅れが増大すると、制御が初期化されて、最初からフィードバック制御がやり直されるようになる。そのため、実制御量の停滞による応答遅れ期間の偏差の累積値(フィードバック積分値)の絶対値の増大が抑制されるようになる。したがって上記構成によれば、制御開始時の値付近での制御量の停滞による応答遅れの増大が発生したときの実制御量のオーバーシュートを好適に抑制することが可能となる。なお、ここでの制御の初期化とは、目標制御量や制御対象の操作量、状態量を制御開始時の値に戻すことを言う。
【0016】
なお、請求項2によるような、実制御量を含む制御対象の状態量の検出及び推定を行うオブザーバーを検出器として備える構成では、オブザーバーの推定する状態量の初期化を行うように初期化部を構成することで、制御の初期化を行うことができる。
【0017】
また請求項3によるような、制御開始点から制御完了点までの実制御量の目標軌道を設定する目標軌道設定部を備える構成では、目標軌道の初期化を行うように初期化部を構成することで、制御の初期化を行うことができる。
【0018】
こうした本発明のフィードバック制御装置は、請求項4によるような、コントローラーにより操作される操作量に応じて動作するアクチュエーターにより変位される第1の移動体と、その第1の移動体からの押圧を受けて変位する第2の移動体と、からなる系を制御対象とするとともに、第2の移動体の変位を実制御量として検出するように検出器が構成された制御系への適用が特に好適なものとなっている。
【0019】
また、こうした本発明のフィードバック制御装置は、請求項5によるような、車両のトルク伝達を断接する自動クラッチのコンセントリックスレーブシリンダーのピストン変位を実制御量とする制御系に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフィードバック制御装置の構成を模式的に示すブロック図。
【図2】同実施形態における第2ピストンの目標軌道及び実変位の推移を示すタイムチャート。
【図3】同実施形態に採用されるクラッチサーボ制御ルーチンのフローチャート。
【図4】自動変速機のCSCの側部断面構造を示す断面図。
【図5】(a)、(b)外力作用前後のそれぞれにおける第1及びピストンの状態を各示す断面図。
【図6】従来のフィードバック制御装置における第2ピストンの目標軌道及び実変位の推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
以下、本発明のフィードバック制御装置を具体化した一実施の形態を、図1〜図3を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態は、本発明のフィードバック制御装置を、図4に示した2分割構造のピストンを備えた自動クラッチのCSCを制御対象とし、そのCSCの第2ピストン54の変位を実制御量とする制御系に適用したものとなっている。
【0022】
まず図1を参照して、本実施の形態のフィードバック制御装置の構成を説明する。本実施の形態のフィードバック制御装置は、マスターシリンダー1の供給電流を制御することで、コンセントリックスレーブシリンダー(CSC)2の第2ピストン54(図4参照)の実変位RYを目標変位TYとするためのクラッチサーボ制御を実施する。
【0023】
同図に示すように、このフィードバック制御装置には、目標軌道設定部3が設けられている。目標軌道設定部3は、クラッチ操作開始時の第2ピストン54の変位である制御開始点からクラッチ操作完了時の第2ピストン54の変位である制御完了点までの第2ピストン54の移動軌道(目標軌道TR)を設定する。そして目標軌道設定部3は、目標軌道TRから目標変位TYを算出して出力する。目標変位TYは、そのときどきの目標軌道TRの位置を示し、時間の経過に応じて制御開始点から制御完了点に向けて目標軌道TRに沿って推移する関数となっている。
【0024】
一方、第2ピストン54の実変位RYは、検出器としてのオブザーバー6により検出される。オブザーバー6は、実変位RYと後述する制御入力Uとを入力し、それらに基づいて推定状態量X0,X1,X2、及び推定変位PYを算出する。推定状態量X0,X1,X2は、第2ピストン54の動作モデルを構成する状態量のうち、実際に測定していない状態量を指している。そしてオブザーバー6は、推定状態量X0,X1,X2に基づいて第2ピストン54の推定変位PYを算出する。
【0025】
そしてこのフィードバック制御装置では、目標軌道設定部3の設定した目標軌道TRより求められる現時点の目標変位TYと、オブザーバー6の算出した推定変位PYとの偏差Eが積分器5に入力される。積分器5は、推定変位PYと目標変位TYとの偏差Eを時間で積分することで偏差Eの累積値である誤差積分値Zを算出して、スライディングモードコントローラー4に出力する。
【0026】
スライディングモードコントローラー4は、積分器5の算出した誤差積分値Zに加え、オブザーバー6の算出した推定状態量X0,X1,X2、及び上記偏差Eを入力する。そしてスライディングモードコントローラー4は、偏差E、推定状態量X0,X1,X2及び誤差積分値Zに基づいて制御入力Uを算出して、入力制限のためのガード処理を行った上でマスターシリンダー1に出力する。
【0027】
なお、制御入力Uは、マスターシリンダー1への供給電流に対応し、CSC2の第1ピストン53(図4参照)の変位速度を、ひいては同CSC2の第2ピストン54の変位速度を決定するものとなっている。すなわち、制御入力Uの値が増大すれば、マスターシリンダー1からCSC2の圧力室55に供給される油量が増大され、第1ピストン53の、ひいては第2ピストン54の変位速度が増大するようになる。一方、制御入力Uの値が減少すれば、マスターシリンダー1からCSC2の圧力室55に供給される油量が減少され、第1ピストン53の、ひいては第2ピストン54の変位速度が減少するようになる。ちなみに本実施の形態では、こうした制御入力Uであるマスターシリンダー1への供給電流が、制御対象の操作量に相当するパラメーターとなっている。
【0028】
更に本実施の形態のフィードバック制御装置には、判定部及び初期化部としての停滞監視部7が設けられる。停滞監視部7は、第2ピストン54の実変位RYを入力し、実変位RYがその制御開始点の近傍で停滞していないか監視する。そして停滞監視部7は、実変位RYの停滞が確認されると、推定状態量X0,X1,X2及び推定変位PYの初期化(リセット)をオブザーバー6に指示する。またこのときの停滞監視部7は、目標軌道TRの初期化を目標軌道設定部3に指示してもいる。
【0029】
図2に示すように、こうした本実施の形態においても、上述したような第1ピストン53、第2ピストン54間の隙間が発生していれば、制御開始後の実変位RYの応答遅れが増大するようになる。ただし、本実施の形態では、こうして応答遅れが増大しても、実変位RYの制御開始点付近での停滞が確認されると(時刻T1)、推定状態量X0,X1,X2及び目標軌道TRが初期化され、制御が最初からやり直されるようになる。そのため、目標変位TYと実変位RYとの偏差Eの累積値である誤差積分値Zの、応答遅れの増大に応じた増大が抑えられるようになり、オーバーシュートの発生が回避されるようになる。
【0030】
図3は、こうした本実施の形態に採用されるクラッチサーボ制御ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンは、クラッチサーボ制御の開始と共にフィードバック制御装置により実施されるものとなっている。
【0031】
さてクラッチサーボ制御が開始されると、まずステップS100において、第2ピストン54の実変位RYが制御開始時の値(制御開始点)付近で停滞しているか否かが判定される。ここでの判定では、下記(イ)〜(ハ)の仮停滞判定条件の全てが成立し、更に下記(ニ)の停滞判定条件が成立することで、停滞有りとの判定がなされるようになっている。
【0032】
(イ)マスターシリンダー1の供給電流がヌル電流±電流閾値αの範囲にない。
(ロ)目標変位TYと実変位RYとの偏差Eが偏差閾値β以上である。
(ハ)制御開始後の経過時間が判定値γ以上である。
【0033】
(二)規定時間内の実変位RYの変化量が変化量閾値ε以下の状態が規定の判定時間以上継続している。
なお、上記仮停滞判定条件(イ)は、マスターシリンダー1への供給電流が過大とならないようにするため、及び第2ピストン54を微速変位させようとしているときに停滞有りと誤判定しないために設定されている。また上記仮停滞判定条件(ロ)は、第2ピストン54を微速変位させようとしているときに停滞有りと誤判定しないために設定されている。更に上記仮停滞判定条件(ハ)は、制御開始後の無応答状態を、停滞有りと誤判定しないために設定されている。
【0034】
ここで停滞無しとの判定がなされれば(S100:NO)、ステップS103においてクラッチサーボ制御の通常処理が実施される。この通常処理においては、予め設定された目標軌道TRに沿って推移する目標変位TYに実変位RYが追従するように、マスターシリンダー1への供給電流がフィードバック調整される。
【0035】
一方、停滞有りとの判定がなされれば(S100:YES)、ステップS101において、推定状態量X0,X1,X2の初期化処理が行われ、推定状態量X0,X1,X2の値が初期値に戻される。また続くステップS102において、目標軌道TRの初期化処理が行われ、その時点を制御開始点とするように目標軌道TRが設定し直される。そしてこの場合には、こうして制御の初期化を行った上で、ステップS103におけるクラッチサーボ制御の通常処理が実施される。
【0036】
クラッチサーボ制御の通常処理が実施されると、ステップS104において、クラッチサーボ制御が完了したか否かの判定が、すなわち第2ピストン54の実変位RYが制御完了点に到達したか否かの判定が行われる。ここで、クラッチサーボ制御が完了していれば(S104:YES)、その時点で今回の本ルーチンの処理が終了され、そうでなければ(S104:NO)、ステップS100に処理が戻される。
【0037】
なお、以上説明した本実施の形態では、マスターシリンダー1が、操作量に応じて動作する上記アクチュエーターに、第1ピストン53が、そのアクチュエーターにより変位される上記第1の移動体に、第2ピストン54が、第1の移動体の押圧を受けて変位する上記第2の移動体に、それぞれ相当する構成となっている。
【0038】
以上の本実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、制御量である第2ピストン54の実変位RYが制御開始時の値付近で停滞しているか否かを判定し、実変位RYの停滞が発生していると判定されたときに、目標軌道TR及び推定状態量X0,X1,X2を初期化するようにしている。こうした本実施の形態では、第1ピストン53、第2ピストン54間の隙間の発生等により、制御開始時の値付近での実変位RYの停滞が発生して応答遅れが増大すると、目標軌道TR及び推定状態量X0,X1,X2が初期化され、最初から制御がやり直されるようになる。そのため、実変位RYの停滞による応答遅れ期間の誤差積分値Zの絶対値の増大が抑制されるようになる。したがって上記構成によれば、制御開始時の値付近での実変位RYの停滞による応答遅れの増大が発生したときの実変位RYのオーバーシュートを好適に抑制することが可能となる。
【0039】
(2)第1ピストン53と第2ピストン54との間に隙間が発生して応答遅れが増大する虞のある制御系においても、その応答遅れの増大によるオーバーシュートの発生を好適に抑えることができる。そのため、そうした制御系においても、好適にフィードバック制御を行うことができる。
【0040】
(3)オーバーシュートが発生しないため、ピストン間の隙間の発生時にも、クラッチ係合に際して正常時と同様の制御性能が得られる。
(4)オーバーシュートが発生しないため、アクチュエーター(マスターシリンダー1)のストッパー当り等を防ぐことができ、アクチュエーターを保護することができる。
【0041】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、コントローラーとしてスライディングモードコントローラー4を採用していたが、スライディングモードコントローラー以外のコントローラーを採用する制御系にも、その制御系が積分器を備えるものであれば、本発明は、上記実施の形態と同様あるいはそれに準じた態様で適用することが可能である。
【0042】
・上記実施の形態では、実変位RYを含むCSC2の状態量の検出及び推定を行うオブザーバー6を検出器として備え、そうしたオブザーバー6の推定する推定状態量X0,X1,X2を初期化することで、制御の初期化を行うようにしていた。オブザーバー6による制御対象の状態量の推定やその推定した状態量を用いたフィードバック制御を行わない制御系にも、本発明は適用することができる。そうした場合にも、目標軌道TRや目標制御量を初期化すれば、制御開始点での実制御量の停滞による誤差積分値Zの絶対値の増大を抑え、オーバーシュートを抑制することが可能となる。
【0043】
・上記実施の形態では、目標軌道設定部3の設定する、制御開始点から制御完了点までの目標軌道TRに追従して実変位RYが推移するようにフィードバック制御を行うようにしていた。そうした目標軌道TRの設定を行わない制御系にも、本発明は適用することができる。そうした場合にも、目標制御量や制御対象の状態量を初期化すれば、制御開始点での実制御量の停滞による誤差積分値Zの絶対値の増大を抑え、オーバーシュートを抑制することが可能となる。
【0044】
・上記実施の形態では、2分割構造のピストンを備えるCSCを制御対象としていたが、非分割構造のピストンを備えるCSCにおいても、そのピストンの一時的な固着などにより、ピストン変位が制御開始時の値付近で停滞して応答遅れが増大することがある。そしてそうした場合にも、その応答遅れの間に誤差積分値の絶対値が過大となって、オーバーシュートが発生することがある。こうした場合にも、そうした停滞の確認に応じて状態量や目標軌道を初期化すれば、オーバーシュートの発生を抑制することができる。
【0045】
・上記実施の形態では、車両のトルク伝達を断接する自動クラッチのCSCを制御対象としていたが、本発明のフィードバック制御装置及びフィードバック制御方法は、それ以外の制御系にも同様に適用することができる。すなわち、本発明は、実制御量の検出を行う検出器と、その検出器により検出される実制御量を目標制御量へと制御すべく制御対象の操作量を操作するコントローラーと、目標制御量と実制御量との偏差の累積値に応じて操作量を操作する積分器と、を備えるフィードバック制御装置であれば、その適用が可能である。
【0046】
なお、本発明は、コントローラーの操作する操作量に応じて動作するアクチュエーターにより変位される第1の移動体と、その第1の移動体からの押圧を受けて変位する第2の移動体と、からなる系を制御対象とするとともに、第2の移動体の変位を制御量として検出するように検出器が構成された制御系への適用が特に好適となっている。すなわち、本発明は、アクチュエーターによって直接変位される第1の移動体ではなく、その第1の移動体の押圧を通じて、アクチュエーターにより間接的に変位される第2の移動体の変位を検出してフィードバック制御を行う制御系への適用がより好適なものとなっている。
【符号の説明】
【0047】
1…マスターシリンダー(アクチュエーター)、2…コンセントリックスレーブシリンダー(CSC:制御対象)、3…目標軌道設定部、4…スライディングモードコントローラー(コントローラー)、5…積分器、6…オブザーバー(検出器)、7…停滞監視部(判定部、初期化部)、50…シリンダーハウジング、51…インナーハウジング、52…アウターハウジング、53…第1ピストン(第1の移動体)、54…第2ピストン(第2の移動体)、55…圧力室、56…スプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実制御量の検出を行う検出器と、その検出器により検出される実制御量を目標制御量へと制御すべく制御対象の操作量を操作するコントローラーと、前記目標制御量と前記実制御量との偏差の累積値に応じて前記操作量を操作する積分器と、を備えるフィードバック制御装置において、
前記実制御量が制御開始時の値付近で停滞しているか否かを判定する判定部と、
その判定部によって前記実制御量の停滞が発生していると判定されたときに、制御を初期化した上で、前記目標制御量への前記実制御量の制御のやり直しを指示する初期化部と、
を備えることを特徴とするフィードバック制御装置。
【請求項2】
前記検出器は、前記実制御量を含む前記制御対象の状態量の検出及び推定を行うオブザーバーであって、前記初期化部は、前記制御の初期化に際して、前記オブザーバーの推定する状態量の初期化を行う
請求項1に記載のフィードバック制御装置。
【請求項3】
制御開始点から制御完了点までの前記実制御量の目標軌道を設定する目標軌道設定部を備え、前記初期化部は、前記制御の初期化に際して、前記目標軌道の初期化を行う
請求項1又は2に記載のフィードバック制御装置。
【請求項4】
当該フィードバック制御装置は、前記コントローラーの操作する前記操作量に応じて動作するアクチュエーターにより変位される第1の移動体と、その第1の移動体からの押圧を受けて変位する第2の移動体と、からなる系を前記制御対象とするとともに、前記第2の移動体の変位を前記実制御量として検出するように前記検出器が構成された制御系に適用されてなる
請求項1に記載のフィードバック制御装置。
【請求項5】
当該フィードバック制御装置は、車両のトルク伝達を断接する自動クラッチのコンセントリックスレーブシリンダーのピストン変位を前記実制御量とする制御系に適用されてなる
請求項1又は2に記載のフィードバック制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−108776(P2012−108776A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257830(P2010−257830)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】