説明

フェイズドアレイ超音波検査装置、フェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法およびコークドラム

【課題】高温の条件でも使用可能であるフェイズドアレイ超音波検査装置、フェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法およびコークドラムを提供する。
【解決手段】高温の検査対象Sの欠陥を検査するための装置であって、検査対象Sに対して超音波UWを供給するフェイズドアレイ探触子PAと、フェイズドアレイ探触子PAと検査対象Sとの間に配置されるウェッジ3とを備えており、ウェッジ3は、検査対象S表面に接触させる接触面3bと、接触面3bに対して傾斜したフェイズドアレイ探触子PAを取り付ける取付面3aとを備えている。ウェッジ3を介してフェイズドアレイ探触子PAを検査対象Sに接触させるので、フェイズドアレイ探触子PAの耐熱温度が低くても、高温の検査対象Sの検査をフェイズドアレイUT法によって検査を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェイズドアレイ超音波検査装置、フェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法およびコークドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コークドラムの溶接部等の検査は、コークドラムの稼働を停止し、コークドラムの温度が低下した状態、定修検査時に行われている。
この定修検査時におけるコークドラム溶接部の検査として、TOFD法とフェイズドアレイUT(PA−UT)法を併用する手法が開発され、実用化されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
近年、コークドラムの稼働率を向上するために、運転サイクル中の高温状態での検査が求められている。運転サイクル中のコークドラム溶接部(表面)の温度は150℃程度となっており、上述したTOFD法による検査は可能であるが、PA−UT法による検査は困難であった。なぜなら、PA−UT法では、測定用のプローブをコークドラム表面に接触させて検査をしなければならないが、従来のPA−UT法に使用するプローブは使用温度上限が約60℃であるため、稼働中のコークドラムでの使用には適していなかったからである。
【0004】
しかるに、TOFD法のみでは、コークドラムにおけるステンレスクラッド部やインコネルオーバーレイ溶接部に発生した欠陥を検出できないという欠点がある。
よって、ステンレスクラッド部やインコネルオーバーレイ溶接部の検査を行うために、稼働中のコークドラム表面のような高温の条件でもPA−UT法を用いて検査を行うことができる装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−50938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、高温の条件でも使用可能であるフェイズドアレイ超音波検査装置を提供することを目的とする。
また、かかるフェイズドアレイ超音波検査装置を用いて高温の検査対象を検査するフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法を提供することを目的とする。
さらに、フェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法によって検査されたコークドラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のフェイズドアレイ超音波検査装置は、高温の検査対象の欠陥を検査するための装置であって、検査対象に対して超音波を供給するフェイズドアレイ探触子と、該フェイズドアレイ探触子と前記検査対象との間に配置されるウェッジとを備えており、該ウェッジは、前記検査対象表面に接触させる接触面と、該接触面に対して傾斜した、前記フェイズドアレイ探触子を取り付ける取付面とを備えていることを特徴とする。
第2発明のフェイズドアレイ超音波検査装置は、第1発明において、前記ウェッジの素材が、ポリイミド樹脂であることを特徴とする。
第3発明のフェイズドアレイ超音波検査装置は、第1または第2発明において、前記検査対象がコークドラムであり、該コークドラムの溶接部検査に使用されるものであることを特徴とする。
第4発明のフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法は、フェイズドアレイ超音波検査装置を使用して高温の検査対象の欠陥を検査する方法であって、前記フェイズドアレイ超音波検査装置が、検査対象に対して超音波を供給するフェイズドアレイ探触子と、前記検査対象表面に接触させる接触面と、該接触面に対して傾斜した、前記フェイズドアレイ探触子を取り付ける取付面とを備えたウェッジとを備えており、該ウェッジを、その接触面が前記検査対象の表面と接触するように配置し、前記ウェッジの取付面に前記フェイズドアレイ超音波検査装置のフェイズドアレイ探触子を取り付け、該フェイズドアレイ探触子から前記検査対象に対して超音波を供給することを特徴とする。
第5発明のフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法は、第4発明において、前記ウェッジの素材が、ポリイミド樹脂であることを特徴とする。
第6発明のフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法は、第4または第5発明において、前記検査対象がコークドラムの溶接部であり、2つの前記フェイズドアレイ超音波検査装置のウェッジを、前記コークドラムの溶接部を挟んで対称となるように配置することを特徴とする。
第7発明のコークドラムは、第4、第5または第6発明に記載されたフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法によって検査されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、ウェッジを介してフェイズドアレイ探触子を検査対象に接触させるので、フェイズドアレイ探触子の耐熱温度が低くても、高温の検査対象をフェイズドアレイUT法によって検査することができる。また、ウェッジの取付面が接触面に対して傾斜しており、この取付面にフェイズドアレイ探触子を配置している。このため、ウェッジの位置からズレた位置であってもフェイズドアレイ探触子から超音波を供給することができ、検査対象内の欠陥の有無を検査することができる。
第2発明によれば、ポリイミド樹脂は、高温でも超音波の伝搬特性に優れているので、フェイズドアレイUT法による欠陥検査を正確に行うことができる。
第3発明によれば、TOFD法では検査が困難である、コークドラムの溶接部(例えば、インコネルオーバーレイ溶接部)であっても欠陥を検査することができる。
第4発明によれば、ウェッジを介してフェイズドアレイ探触子を検査対象に接触させるので、フェイズドアレイ探触子の耐熱温度が低くても、高温の検査対象をフェイズドアレイUT法によって検査することができる。また、ウェッジの取付面が接触面に対して傾斜しており、この取付面にフェイズドアレイ探触子を配置している。このため、ウェッジの位置からズレた位置であってもフェイズドアレイ探触子から超音波を供給することができ、検査対象内の欠陥の有無を検査することができる。
第5発明によれば、ポリイミド樹脂は、高温でも超音波の伝搬特性に優れているので、フェイズドアレイUT法による欠陥検査を正確に行うことができる。
第6発明によれば、コークドラムの溶接部を挟んで対称となるように、2つのフェイズドアレイ超音波検査装置のウェッジを配置するので、通常の超音波探傷では難しい、クラッド、オーバーレイ溶接内部の欠陥検出でも行うことができる。
第7発明によれば、稼働中でも検査を行うことができるので、検査のためにコークドラムを停止すること必要がなく、コークドラムの稼動効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(A)は本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置1の概略説明図であり、(B)はウェッジ3の単体説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置は、フェイズドアレイUT(PA−UT)法使用して検査対象の欠陥検査を行う装置であって、フェイズドアレイ探触子の耐熱温度よりも高温の検査対象であっても検査ができるようにしたことに特徴を有している。
【0011】
フェイズドアレイUT法とは、微細な超音波振動子(エレメント)を多数個配列したフェイズドアレイ探触子(PA探触子)から、タイミングを変えて発信した超音波を合成した主ビームを、特定の方向に発信し検査対象の任意の深さに集束させることにより、きず検出・サイジング能力を向上させる改良型パルスエコー方式の超音波探傷法である。以下では、フェイズドアレイUT法を、単にPA−UT法という。
【0012】
本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置は、高温の検査対象、例えば、圧力容器や配管の溶接部等の検査に適用することができる。コークドラムにおける検査においては、コークドラムの各部位(シェル溶接部、スカート部)等における欠陥検査に使用することができるし、オーバーレイ溶接部等の欠陥検査にも適用可能である。
【0013】
(フェイズドアレイ超音波検査装置1の説明)
つぎに、本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置1を説明する。
図1に示すように、本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置1は、フェイズドアレイ探触子(以下、PA探触子2という)と、ウエッジ3とを備えている。
【0014】
(PA探触子2の説明)
まず、PA探触子2は、個々に制御可能な微細な振動子が複数個配列されたものである。PA探触子2では振動子を振動させて超音波UWを発生させるのであるが、各振動子の振動するタイミングを制御して、超音波UWを集束させる深さや、超音波UWを集束させる位置を変化させることができる。
このPA探触子2は、図示しない制御装置に伝達されており、制御装置によって探傷条件(超音波UWの集束深さ等)が制御されている。
【0015】
具体的には、制御装置によって、PA探触子2における振動子同士の間で超音波UWを発生するタイミングを変えれば振動子同士が超音波UWを発生するタイミングの差に応じて、集束位置の深さを変化させることができる。例えば、隣接する振動子における超音波UW発生タイミングの差を大きくすれば集束位置の深さを浅くすることができ、超音波UW発生タイミングの差を小さくすれば集束位置の深さを浅くすることができる。また、振動させる振動子の位置を移動させれば、超音波UWが集束する位置を電子スキャンさせることもできる。
【0016】
また、このPA探触子2の各振動子は受信器としても機能し、PA探触子2から発せられた超音波UWが検査対象S内部の欠陥(例えば、疲労割れや融合不良など)や不連続部などで反射された反射波を受信することができる。
そして、PA探触子2は、受信した反射波の信号を制御装置に伝達できるようになっている。
【0017】
(ウェッジ3の説明)
図1(A)に示すように、PA探触子2はウェッジ3を介して、検査対象Sの表面に取り付けられるようになっている。このウェッジ3は、耐熱性を有し、しかも、高温になっても超音波UWの伝搬特性が優れているポリイミド樹脂によって形成されている。
また、図1(A)に示すように、ウェッジ3は、矩形の部材の一つの上端縁が、上面と側面とをつなぐ傾斜面によって切り取られたような形状をしている。そして、その傾斜面に、PA探触子2を取り付けるための取付面3aが形成されている。この取付面3aは、ウェッジ3を検査対象Sの表面に取り付ける面(接触面3b)に対して傾斜するように設けられている。
【0018】
以上のごとき構成であるから、高温用接触媒質を塗布した検査対象Sの表面にウェッジ3の接触面3bを接触させ、ウェッジ3の取付面3aにPA探触子2を取り付ければ、PA探触子2によって検査対象S内の欠陥を検査することができる。
【0019】
そして、PA探触子2はウェッジ3を介して検査対象Sの表面に接触させるので、PA探触子2の耐熱温度が低くても、高温の検査対象SをフェイズドアレイUT法によって検査することができる。つまり、PA探触子2の使用温度上限が約60℃程度のもの(常温で使用するもの)を使用して、表面温度が使用温度上限よりも高温となっている検査対象S、例えば、表面温度が150℃程度であるコークドラムを検査することが可能となるのである。
【0020】
また、ウェッジ3はその取付面3bが接触面3aに対して傾斜しており、この取付面3aにPA探触子2を配置している。このため、検査対象S表面において、ウェッジ3を配置した位置からズレた位置にも、PA探触子2から発振される超音波UWを到達させることができる。
よって、溶接部や形状急変部等のように、検査したい位置がPA探触子2の直下に位置するようにウェッジ3を配置できない場合であっても、フェイズドアレイ超音波検査装置1によって検査したい位置における欠陥の有無を検査することができる。
【0021】
(コークドラムの溶接部WL検査への適用)
また、本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置1によってコークドラムの溶接部WLを検査する場合には、以下のごとき構成を採用すれば、欠陥検査精度を高くすることができる。
【0022】
図1(A)に示すように、コークドラムの溶接部WLを検査する場合、2つのフェイズドアレイ超音波検査装置1を、溶接線WLを挟んで対称となるように対向配置する。このとき、いずれの装置でも、ウェッジ3の取付面3aが溶接部WLに向かって上傾するように、ウェッジ3の接触面3bを検査対象Sの母材B表面に取り付ける。
なお、検査対象Sの母材B表面には高温用接触媒質等の接触媒質を塗布しておき、この接触媒質を介してウェッジ3の接触面3bが検査対象Sの母材B表面に接するようにする。
【0023】
この状態で、2つのフェイズドアレイ超音波検査装置1から同時に超音波UWを供給する。すると、ウェッジ3の取付面3aが溶接部WLに向かって上傾するようになっているので、ウェッジ3の位置が溶接部WLの位置からズレていても、超音波UWを溶接部WLに供給することができる。
【0024】
そして、制御装置によって2つのフェイズドアレイ超音波検査装置1のPA探触子2を制御すれば、両PA探触子2から供給される超音波UWを、溶接線WLを挟んで対称となるように、検査対象Sに供給することができる。
すると、検査対象Sの母材Bだけでなく、通常の超音波探傷では難しい、クラッド、オーバーレイ溶接内部の欠陥検出でも行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のフェイズドアレイ超音波検査装置は、コークドラムにおけるオーバーレイ溶接部等や圧力容器や配管の溶接部等の高温部の検査に適している。
【符号の説明】
【0026】
1 フェイズドアレイ超音波検査装置
2 フェイズドアレイ探触子
3 ウェッジ
3a 接触面
3b 取付面
S 検査対象
WL 溶接部
UW 超音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の検査対象の欠陥を検査するための装置であって、
検査対象に対して超音波を供給するフェイズドアレイ探触子と、
該フェイズドアレイ探触子と前記検査対象との間に配置されるウェッジとを備えており、
該ウェッジは、
前記検査対象表面に接触させる接触面と、
該接触面に対して傾斜した、前記フェイズドアレイ探触子を取り付ける取付面とを備えている
ことを特徴とするフェイズドアレイ超音波検査装置。
【請求項2】
前記ウェッジの素材が、ポリイミド樹脂である
ことを特徴とする請求項1記載のフェイズドアレイ超音波検査装置。
【請求項3】
前記検査対象がコークドラムであり、
該コークドラムの溶接部検査に使用されるものである
ことを特徴とする請求項1または2記載のフェイズドアレイ超音波検査装置。
【請求項4】
フェイズドアレイ超音波検査装置を使用して高温の検査対象の欠陥を検査する方法であって、
前記フェイズドアレイ超音波検査装置が、
検査対象に対して超音波を供給するフェイズドアレイ探触子と、
前記検査対象表面に接触させる接触面と、該接触面に対して傾斜した、前記フェイズドアレイ探触子を取り付ける取付面とを備えたウェッジとを備えており、
該ウェッジを、その接触面が前記検査対象の表面と接触するように配置し、
前記ウェッジの取付面に前記フェイズドアレイ超音波検査装置のフェイズドアレイ探触子を取り付け、
該フェイズドアレイ探触子から前記検査対象に対して超音波を供給する
ことを特徴とするフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法。
【請求項5】
前記ウェッジの素材が、ポリイミド樹脂である
ことを特徴とする請求項4記載のフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法。
【請求項6】
前記検査対象がコークドラムの溶接部であり、
2つの前記フェイズドアレイ超音波検査装置のウェッジを、前記コークドラムの溶接部を挟んで対称となるように配置する
ことを特徴とする請求項4または5記載のフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法。
【請求項7】
請求項4、5または6に記載されたフェイズドアレイ超音波検査装置を用いた検査方法によって検査されるものである
ことを特徴とするコークドラム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−237234(P2011−237234A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107851(P2010−107851)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(500216466)住重試験検査株式会社 (11)
【出願人】(502369746)住友重機械プロセス機器株式会社 (29)
【出願人】(591041417)ジャパンプローブ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】