説明

フェノール系極細炭素繊維を用いた電子放出源とその製造方法

【課題】電子放出部の露出化等の特別な処理を必要とせず、電子放出効率が高く、また均一な電子放出性に優れた電子放出源及びその製造方法を提供する。
【解決手段】海成分が熱可塑性樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である海島型複合繊維から熱可塑性樹脂のみ選択的に除去することより得られるフェノール系極細繊維を炭素化することで得られるフェノール系極細炭素繊維を電子放出物質として含む導電性ペーストを電極基板上に塗布し、焼成して電界電子放出源を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界放出型ディスプレイや電界放出顕微鏡などの用途に用いられる電子放出源に関するものであり、詳しくは電子放出部の露出化等の特別な処理を必要とせず、電子放出効率が高く、また均一な電子放出性に優れた電子放出源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、電界放出型ディスプレイや電界放出顕微鏡などの用途で電子放出源を構成する技術提案が数多くなされている。電子放出は真空下、金属材料や半導体材料に閾値以上の電界を印加することで金属や半導体表面のエネルギー障壁が下がり、トンネル現象によってこのエネルギー障壁を乗り越えることができる電子が増大するため、常温でも真空中に電子が放出される現象である。この目的には、低電圧で電子を放出できるという点から、電界を印加した際に先端に強電場を生じ易いカーボンナノチューブを用いる例が多い。
【0003】
カーボンナノチューブを用いる方法は従来の方法に比べてより安定的な電子放出をより低真空度・低電圧で可能となる点において優れている。このカーボンナノチューブを多数配置することで各々のカーボンナノチューブが微小な電子銃として働き、この結果多数の電子銃を配置することと等価となる。
【0004】
従来のカーボンナノチューブを用いた電子放出源の製造方法には化学気相成長法、所謂CVD法を用いて基板上に直接、カーボンナノチューブを成長させる方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)がある。これは従来に比べて基板上に直接カーボンナノチューブを一定方向に成長させることができる点で生産性や特性を大幅に向上できる方法であることは間違いないが、しかし、大掛りな設備を要する短所がある。
【0005】
これとは別に従来法で製造したカーボンナノチューブを適当な溶媒やバインダーと混合してペースト状としたものを基板上に塗布乾燥することで電極とする方法がある。このペーストを用いる技術としては例えば、導電性粒子などと共にカーボンナノチューブを有機系バインダーと混合し、これをスクリーン印刷技術等を用いて基板上に製膜・乾燥させた後、焼成して炭化させ、更に適当な方法によりカーボンナノチューブを表面に露出する方法が開示されている。(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)。この方法は生産性に優れたスクリーン印刷等の技術を用いることが可能であるが、焼成後に特殊処理で電極表面上にカーボンナノチューブを露出させる工程を含み、このことから結局は生産性に関する優位性は限定的なものでしかない。
【0006】
また、いずれの方法でもカーボンナノチューブの分布に偏りが生じるため、電子放出の均一性を実現することが困難であった。このため、CVD法とは別にカーボンナノチューブの分布を均一化すると同時に基板に対して垂直方向に配向させる目的で、カーボンナノチューブを分散させた液体中に電極を浸漬し、この電極に電気泳動法によりカーボンナノチューブを付着させる方法(例えば、特許文献5、特許文献6参照。)がある。これらの方法では、カーボンナノチューブの先端に電界を集中させることが可能である。しかし、カーボンナノチューブを垂直方向へ配向させるためには特別な操作や煩雑な手法が必要であり、このことが量産を妨げる要因となっている。これに対して量産の容易さを重視して敢えてカーボンナノチューブの方向を揃えず、この替わりに乱雑に放射される電子をゲート電極で方向性を揃えようとする方法もある(例えば、特許文献7参照。)。しかしながら、この方法ではカーボンナノチューブペーストの塗工は容易であるものの、ペーストからカーボンナノチューブの先端を露出させる特別な工程が必要である。
【0007】
一般にカーボンナノチューブが基板上の導電層内に埋もれる方法ではカーボンナノチューブの先端を露出させる必要がある。これはカーボンナノチューブが炭素六員環の連なった円筒形をなし、その側表面は極めて平滑で、電子放出できる突起部を持たない構造的要因によるためである。これとは別にグラファイト片などの突起を有するカーボン材料を補助的に添加するなどの方法も可能であるが、但しグラファイト片などの突起部は太さや先鋭度が一定しておらず、当然の結果としてその電子放出に不均一性を生じさせることとなる。
【0008】
以上に述べた様に、量産に適している上、電子放出効率が高く、また均一な電子放出性に優れた、充分なる特性をもった電子放出源は未だに得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2001−68016号公報
【特許文献2】特開2004−87213号公報
【特許文献3】特開2001−176380号公報
【特許文献4】特開2001−93404号公報
【特許文献5】特開2001−110303号公報
【特許文献6】特開2004−55484号公報
【特許文献7】特開2003−77410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カーボンナノチューブを用いた電子放出源は安定的な電子放出をより低真空度・低電圧で可能となる点で有望視されているものの、化学気相成長法やペーストを塗工する方法のいずれにも解決し得ない問題がある。特に塗工法は簡便であり、量産化には適しているものの、電子放出のためにカーボンナノチューブの先端部を露出させたり、他の突起状カーボン材を併用したりする点から、結局は煩雑な工程が必要であったり特性が不十分であったりする欠点に帰着する。
【0010】
以上の点に鑑み本発明者らは鋭意検討を進めてきた結果、遂に本発明を完成させることができたものである。即ち、その課題とするところは、電子放出部の露出化等の特別な処理を必要とせず、電子放出効率が高く、また均一な電子放出性に優れた電子放出源及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はカーボンナノチューブではなく、非晶質構造を有する極細炭素繊維を使用することが特徴となる。即ち、酸性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、あるいは塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂あるいはホウ素変性、ケイ素変性、リン変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等、公知の技法による各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物のフェノール樹脂を第一成分、該フェノール樹脂に非相溶もしくは低相溶の第二成分樹脂からなる複合樹脂を繊維化し、このうち海成分が第二成分樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である海島型複合繊維であって、島成分のフェノール樹脂を架橋化処理した後、海成分の第二成分樹脂のみ選択的に除去し、これを炭素化するかあるいは、海島型複合繊維の島成分のフェノール樹脂を架橋化処理した後、炭素化する工程で海成分の第二成分樹脂のみ選択的に熱分解させるいずれかの方法で得られるフェノール系極細炭素繊維のうち、更に直径が0.01μm〜1μmであり、その繊維長が0.5〜1000μmである特別なるフェノール系極細炭素繊維を使用することで目的を達する。
【発明の効果】
【0012】
以上のごとく本発明によれば、フェノール系極細炭素繊維を成分として用いることで、電子放出部の露出化等の特別な処理を必要とせず、電子放出効率が高く、また均一な電子放出性に優れた電子放出源及びその製造方法を提供できるものであり、良好な電子放出源として画像表示装置等に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明に用いるフェノール樹脂を得るために使用されるフェノール類としては、アルデヒド類と酸性あるいは塩基性触媒下で反応させてフェノール樹脂が得られるフェノール類であれば以下に例示したフェノール類に限定されるものではないが、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−エチルフェノール、m−プロピルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2−メチルレゾルシノール、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,5−ジメチルレゾルシノール、2−エトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−エチルレゾルシノール、3−エトキシ−4−メトキシフェノール、2−プロペニルフェノール、2−イソプロピルフェノール、3−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−ピロポキシフェノール、2−アリルフェノール、3,4,5−トリメトキシフェノール、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4−ベンゼントリオール、5−イソプロピル−3−メチルフェノール、4−ブトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、4−t−ペンチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、3−フェノキシフェノール、4−フェノキシフェノール、4−へキシルオキシフェノール、4−ヘキサノイルレゾルシノール、3,5−ジイソプロピルカテコール、4−ヘキシルレゾルシノール、4−ヘプチルオキシフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ジ−sec−ブチルフェノール、4−クミルフェノール、ノニルフェノール、2−シクロペンチルフェノール、4−シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどがある。また使用にあたってはこれらフェノール類単体でも混合物でも良い。このうちフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、4−フェニルフェノール、レゾルシノールが好ましく、更にフェノールは最も好ましい。
【0015】
次に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用されるアルデヒド類としては以下に例示したアルデヒド類に限定されるものではないが、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o−メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド等、或いはこれらの混合物等が使用できる。このうち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0016】
更に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される酸性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、硼酸または塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属との塩あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
また、本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される塩基性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0018】
次に本発明で用いる第二成分樹脂について説明する。本発明ではフェノール樹脂に非相溶もしくは低相溶性の第二成分樹脂を用いるがその主体は熱可塑性樹脂である。これらは特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマー、ポリスチレンに代表されるスチレン系ポリマー、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリアセタール系ポリマー、ポリブタジエン系ポリマー、石油樹脂等が挙げられ、これらの単体あるいは混合物更にはこれらの樹脂を主体とする共重合体でも良い。また、一般的に加熱操作の結果、可塑性を示す以前に分解するような樹脂であっても、前述の熱可塑性樹脂と混合あるいは共重合等の操作で得られる樹脂が熱可塑性であれば良く、その代表がABS樹脂やAS樹脂等である。これ以外に、後述するように紡糸方法として湿式あるいは乾湿式あるいは乾式紡糸を用いる場合に一般的に行うように、原料樹脂を溶剤へ溶解させて用いるために可塑性を示す以前に分解するような樹脂、例えばポリビニルアルコール系ポリマー、セルロース系ポリマー、セルロースエステル系ポリマー、タンパク系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー等を用いる事もできるうえ、これら単体だけでなく、混合物更にはこれらの樹脂を主体とする共重合体でも適宜選択して用いる事も出来る。
【0019】
第二成分樹脂の選定に当たっては取り得る技法に応じて適宜選択すれば良く、その分子量としては重量平均分子量で数百以上数百万未満の範囲が良い。具体例として、一般的なオレフィン系あるいはスチレン系ポリマー等では、好ましくは10万以上40万未満であり、最も好ましいのは15万以上30万未満である。これ以外に考慮すべき点としては、後の工程において複合繊維の中から第二成分樹脂を除去する際に熱分解法を用いる場合は熱分解されて消失する樹脂を選定する必要がある。
【0020】
次いで、本発明で用いる複合樹脂について説明する。本発明では先ず、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂あるいは各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物のフェノール樹脂を第一成分とし、該フェノール樹脂に非相溶もしくは低相溶性樹脂を第二成分として混合し、複合繊維の原料となる複合樹脂を得ることが必要である。その方法として例えば第一成分のフェノール樹脂類と第二成分樹脂の両者を溶解せしめる溶媒に溶解混合した後、溶媒を蒸発除去せしめ複合樹脂を得る方法を用いる場合、使用する溶剤は第一成分のフェノール樹脂類と第二成分樹脂の両者を溶解させるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、含窒素系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤などから適宜選択したものを単体、或いはこれら2種類以上の混合物として用いることができる。両成分の樹脂類を溶解するためには溶剤を攪拌しながら樹脂類を徐々に加えてゆくことが望ましい。この際、樹脂類が溶剤に溶けにくいようであれば加温する事が有効である。更には加圧する事で、常圧での溶剤の沸点以上に加温することが可能となり更に有効である。但し、高温に原料を曝すことで熱変性、劣化を及ぼす恐れがあることを考慮すれば、加熱は完全溶解させるまで限定的に用いるべきである。
【0021】
溶剤に溶解する第一成分のフェノール樹脂と第二成分樹脂の濃度については特に限定されるものではなく、原料の性状や後の紡糸方法により適宜選択される。
【0022】
これらの方法のうち、後に溶剤を除去する場合には、後の工程で溶剤の回収に多大な時間とエネルギーを要することを考慮すれば、両樹脂の溶解度を勘案し、出来得る限り高濃度にする事がより好ましい。
【0023】
次に第一成分のフェノール樹脂と第二成分樹脂両者を熱溶融して複合樹脂を得る場合、第二成分樹脂としては熱可塑性樹脂が相応しく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリアセタール系ポリマー、ポリブタジエン系ポリマー、石油樹脂等の単体あるいは混合物更にはこれらの樹脂を主体とする共重合体が好適であり、前述したようにABS樹脂やAS樹脂等であっても良い。その方法は特に限定されるものではなく公知の混練装置を用いる事が出来る。混練装置としては例えば押出機型混練機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、高速二軸連続ミキサーなどが挙げられる。熱溶融混練温度については原料の性状等により適宜選択すれば良く特に限定されるものではない。但し、高温に原料を曝すことで熱変性、劣化を及ぼす恐れがあることを考慮すれば、混練温度は200℃以下がより好ましい。
【0024】
第一成分のフェノール樹脂と第二成分樹脂を混合する際の混率については重量比でフェノール樹脂と第二成分樹脂=1:9〜9:1が適用可能範囲であり、特には3:7〜7:3が好適である。
【0025】
これ以外に、後の紡糸方法として乾式、或いは湿式、或いは乾・湿式を取り得る場合には第一成分のフェノール樹脂と第二成分樹脂の両者を溶解せしめる溶媒に溶解混合し、複合樹脂溶液を得る、この溶液を直接紡糸原液として供する方法も可能である。
【0026】
また両者を共に溶解または溶融しなくとも海成分の第二成分樹脂を溶解または溶融し、そこにフェノール樹脂類の微粒子を分散させる方法を用いても複合繊維の原料に供する複合樹脂を得る事が出来る。この場合の紡糸方法としては溶融紡糸法がより好ましい。
【0027】
更に、いずれの複合樹脂或いは複合樹脂溶液を得る場合でも、必要に応じて公知の添加剤、例えば可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤、増粘剤、防黴剤、染料、顔料、充填剤などを特定量加えることが可能である。特に、後述の溶融紡糸で第二成分樹脂の溶融粘度がフェノール樹脂類のそれに比べて極端に高い場合などは紡糸時に分離を生じたり、繊維径が不均一な複合繊維になることがあり、このような場合は可塑剤を使用することが望ましい。
【0028】
本発明では前述の方法等により得られた原料を紡糸して複合繊維とする必要がある。その紡糸方法は公知の方法を適宜選択する事が出来る。例えば湿式紡糸、乾式紡糸、乾・湿式紡糸、溶融紡糸、ゲル紡糸、液晶紡糸などであるが特にこれらに限定されるものではない。但し、例えば最も一般的方法として溶融紡糸を行う場合、第一成分のフェノール樹脂としてはノボラック型、レゾール型いずれもが使用可能であるが、紡糸方法に溶融紡糸を選択する場合、レゾール型はノボラック型に比べて熱安定性が悪く、溶融時の加熱で容易に重合が進むため溶融機器内での固化が避けられず、このため長期の安定紡糸が困難である等の制限もある。従って工業的に製造する場合の工程の容易さ、汎用性を勘案してノボラック型を選択することが望ましい。
【0029】
湿式紡糸、乾式紡糸、乾・湿式紡糸、ゲル紡糸、液晶紡糸などの中からいずれの方法を選択するかは原料の性状を勘案し、適宜選択できる。代表例として溶融紡糸を使用した場合について解説する。この場合、一般的な溶融紡糸装置が使用可能である。その溶融機器としてはグリッドメルター式や単軸押出し機方式、或いは2軸押出し機方式あるいはタンデム押出し機方式などが可能であり、更には溶融混合樹脂の酸化を防止するために窒素置換を行ったり、或いは微量の残留溶媒やモノマー類を除去するためにベントを具備した押出し機を使用するなど、通常行われている方法は本発明においても有効である。
【0030】
紡糸時の温度は特に限定されるものではないが、好ましくは120℃以上200℃未満の範囲であり、より好ましくは140℃以上170℃未満である。紡糸口金としては特に限定されるものではなく、通常のものが使用可能であるが、好ましくは孔径を0.05mm以上1mm未満、より好ましくは0.1mm以上0.5mm未満とし、キャピラー部のL/Dは0.5以上10未満、より好ましくは1〜5である。
【0031】
特別な用途の場合には、サイドバイサイド型やシースコア型、或いは海島型に第三成分のポリマーを組み合わせるコンジュゲート口金を使用することも可能である。
【0032】
紡糸速度は特に限定されるものではないが、好ましくは50m/分以上3000m/分未満、より好ましくは100m/分以上1500m/分未満、更に好ましくは200m/分以上800m/分未満の範囲である。
【0033】
更に得られた糸條を湿熱或いは乾熱にて延伸することも可能である。この操作は単糸が目的の太さとなるよう調整すると同時に、未硬化のフェノール樹脂を更に延伸させ均一な形状とすること、更に樹脂中の分子配列を均整化することである。湿熱で延伸する場合、例えば温水やエチレングリコールやプロピレングリコールなどの液に浸漬しながら常温から100℃の範囲、望ましくは30〜80℃の温度範囲において2倍から20倍程度に延伸することが良い。
【0034】
乾熱延伸の場合には60℃〜120℃、好ましくは80℃〜100℃の雰囲気下で2倍から20倍程度に延伸することが望ましい。
【0035】
次いでこの糸條は、第一成分のフェノール樹脂類の硬化を行うために硬化処理が必要である。用いたフェノール樹脂類がノボラック型の場合の処理方法についてはステープル状或いはトウ状で反応容器に入れてバッチ式で行う方法や、ボビン状やかせ状で処理をする方法や、或いはトウ状で連続的に処理するなど適宜選択して行えば良い。処理浴は触媒とアルデヒド類からなり、触媒としては例えば、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、硼酸または塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属との塩あるいはこれらの混合物等の酸性触媒、或いは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類或いはこれらの混合物等の塩基性触媒が挙げられるがこれらに限定されるものではない。更に使用されるアルデヒド類としては以下に例示したアルデヒド類に限定されるものではないが、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o−メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド等、或いはこれらの混合物等が使用できる。このうち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0036】
反応方法としては液相にて60℃以上110℃未満に3時間以上30時間未満加熱して硬化させることが一般的であるが、気相下で加熱して行っても良い。更には前述した通常硬化反応の後、水洗乾燥後、窒素・ヘリウム・炭酸ガス等の不活性ガス中100℃〜300℃の温度で加熱することにより硬化させる等、公知の硬化処理を行うことができる。この硬化処理が終了した時点で島を形成する第一成分のフェノール樹脂類が充分な強度を持った状態となり、本発明に用いる複合繊維を得ることができる。
【0037】
一方、特別な場合としてフェノール樹脂類としてレゾール型を使用する際は、湿熱あるいは乾熱法で加熱処理を行うことで硬化処理させることができる。熱処理条件は100℃〜220℃、好ましくは120℃〜180℃で5分から120分、好ましくは20分から60分行う方法が良い。
【0038】
続いて海を形成する第二成分樹脂のみを選択的に溶解する溶媒に浸漬する等の処理を行うことにより本発明のフェノール系極細繊維を得ることができる。この場合溶媒は第二成分樹脂の溶解性によって適宜選択すればよく、例えば、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、含窒素系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤などの単独或いは混合液に浸漬するなどの方法で容易に目的を達せられる。
【0039】
次いで得られたフェノール系極細繊維の炭素化について説明する。この処理も従来の公知の方法に従えば良く、例えば、炭素化で使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が挙げられる。炭素化の温度は例えば600℃〜1200℃の範囲で、より好ましくは800℃〜1000℃の範囲で決定すれば良い。
【0040】
本発明によるフェノール系極細炭素繊維を得るためには、海を形成する第二成分樹脂のみを溶解する等の溶解処理を行って得たフェノール系極細繊維を炭素化する方法は勿論、或いは第二成分樹脂を除去する前の複合繊維を直接炭素化するに伴い第二成分樹脂を熱分解除去せしめて、これを引き続き炭素化する方法のどちらでも良い。但し、複合繊維を直接炭素化する場合、複合繊維の海を形成する第二成分樹脂は不活性ガス中で炭素化温度よりも低い温度で熱分解する事が必要である。
【0041】
本発明では上述のように得られたフェノール系極細炭素繊維を電子放出物質として用いる。本発明のフェノール系極細炭素繊維はカーボンナノチューブのように高度の炭素結晶構造を持たず、全体が非晶質性炭素で構成されている。微視的に見るとその側表面には微小な針状突起部分が多数分散していることが大きな特徴となっている。本発明ではフェノール系極細炭素繊維の先端部と側表面の微小な突起が電子放出源として作用することができる。
【0042】
本発明では先ず、導電性炭素材とフェノール系極細炭素繊維を溶剤中で混合する必要がある。フェノール系極細炭素繊維としては直径が0.01μm〜1μmであり、その繊維長が0.5〜1000μmのものが使用可能であるが、電子放出源とした際での低電圧駆動を考慮すると太過ぎる繊維は望ましくなく、一方、製造面からは細過ぎるものは混合時の繊維損傷が著しくなるので望ましくない。実際上は0.05μm〜0.5μmの繊維径が好ましい。一方、繊維長については過度に短いものは繊維間接触による導電性への寄与が少なく、また脱落し易くなる。また極端に長い繊維は分散が難しく毛玉状となるので望ましくない。逆に繊維が毛玉状とはならず混合時に適度に拡がる範囲で適度な絡まりは脱落を防止し、且つ繊維間の接触点が多くなり導電性の点で効果的である。この意味から実質上の繊維長は0.5μm〜1000μmが望ましい。
【0043】
続いて、フェノール系極細炭素繊維と併用する導電性炭素材について説明する。この目的には黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチンブラック、グラッシーカーボン等が適している。黒鉛としては以下に説明する黒鉛材料に限定されるものではないが、例えば鱗片黒鉛や土壌黒鉛等の天然黒鉛や、石炭・石油コークスを熱処理することによって得られる人造黒鉛やこれらから作った膨張黒鉛などが使用可能である。一般的にはグラファイト、カーボンブラックが適している。これらはフェノール系極細炭素繊維間に入り込み、導電層を形成するものであって、この目的から粒径は0.01μm〜0.1μm程度で、できるだけ粒径の揃ったものが望ましい。
【0044】
本発明ではまた、導電性炭素材としてフェノール系極細炭素繊維以外の炭素繊維を併用することも可能である。例えばアクリル長繊維から製造されるPAN系炭素繊維、石油ピッチや石炭ピッチから製造されるピッチ系炭素繊維などが適切であって、これらを所定長さに微粉砕したものなどを用いることが出来る。
【0045】
また、電子放出物質という目的ではなく、導電性向上のためにカーボンナノチューブ、フラーレンを併用使用しても効果的である。
【0046】
本発明では導電性炭素材とフェノール系極細炭素繊維を水やあるいはアルコール等の有機溶剤を用いて適当な粘度のペースト状となるように混合する。原料の混合比については最終的に形成された導電層の比抵抗が10Ωcmを超えないように適宜選択すれば良い。この際、より塗工性を上げるためには溶剤だけでなく、適当なビヒクルを用いても良い。ビヒクルとしては例えば、ブチルカルビトールアセテートなどのグリコールエステル、もしくはテルピネオール等の単環式テルペンに属するアルコール等の溶剤にセルロースやアクリル樹脂を溶解したものが適当である。ビヒクルは基本的には絶縁物であるので焼成で残成分がある場合は電極の抵抗値が高くなる。従ってビヒクルの選定に当たってはでき得る限り分解及び揮発性の高いものを選定し、300℃〜400℃程の加熱で分解除去できるものが好ましい。
【0047】
本発明でペーストを作成するための混合方法はホモジナイザーやボールミルをはじめとする各種のミキサーが使用可能である
【0048】
次に電極材についてであるが、これには一般的には金属としてモリブテン、タングステン、金、銅等が使用可能である。これ以外には半導体、絶縁体も使用可能である。例えば半導体としてはシリコン、ゲルマニウム等が使用可能である。絶縁体としてはガラス、セラミック、石英板等が使用可能である。場合によってはこれらを組み合わせた形で使用することも可能である。例えば金属膜を蒸着した半導体や絶縁体が使用可能であるが、いずれにしても後工程の焼成時に溶融、変形、分解等が発生しないことが条件となる。
【0049】
この基板上へのペーストの塗工に関しては、半導体の製造に使用されるスピンコート法や多層セラミック基板等の製造に用いられるグリーンシート法などあるいはスプレー方式やダイ方式、ロール方式やディップ方式やカーテン方式が使用可能であるが、一方でスクリーン印刷法や転写法を用いることもできる。むしろスクリーン印刷法や転写法は塗工パターンや塗工厚を容易に決定、制御できるうえ、生産性に優れた方法といえる。
【0050】
次に本発明の電子放出源の製造法については特に限定されるものではないが、例えば所望の特性に応じて基板の選定を行い、これにスクリーン印刷法などで導電性炭素材とフェノール系極細炭素繊維、更には必要に応じてビヒクル等を混合したペーストを直接塗工することが望ましい方法である。当然のことながら塗工面の均一性や平滑性を考え、条件設定をする必要がある。
【0051】
ペーストを塗工し終えた基板は溶媒を除去する目的で乾燥機での乾燥を行う。この際、溶媒がフェノール系極細炭素繊維上に残留しないように充分な乾燥を行う必要がある。また、乾燥中に導電層にクラックが入ったり、変形しないよう急激な昇温は避けるべきである。このことから乾燥における条件、温度、昇温速度、雰囲気(窒素や真空中等)は用いる溶剤や導電性炭素材あるいはビヒクルなどの特性を充分考慮のうえ選定することが重要である。乾燥に用いる設備、方式に特別な限定があるものではないが、燃焼ガスの発生のない電気式が好ましい。
【0052】
引続き焼成を行うが、これは乾燥を行った後に改めて実施してもあるいは乾燥と連続的に実施してもよい。使用する機器についても乾燥と同様特別な限定があるものではないが、燃焼ガスの発生のない電気式乾燥機が好ましい。焼成は300℃〜600℃の熱履歴を与えることで完結できるが、フェノール系極細炭素繊維は空気雰囲気下では350℃以上の温度範囲で酸化されて二酸化炭素となり一部分解あるいは消失してしまうため、空気中での350℃以上高温処理は避けるべきである。好ましくは窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下での処理を行うべきである。
【0053】
本発明ではフェノール系極細炭素繊維はペースト中でネットワーク構造を取っており、この構造は形成された電子放出源中の材料の偏在を抑え、均質化すると共に自身も強度メンバーとして寄与することで強度向上効果をも与え得るのである。またフェノール系極細炭素繊維以外の炭素繊維を併用した場合は、このネットワーク構造中に保持されたりあるいは絡みつくなどの形で、維持されておりこのため更に導電性を上げるのである。本発明で用いるフェノール系極細炭素繊維には繊維径と繊維長に制限があるのはこの範囲外では本発明の目的を達し得ないためであり、中でも繊維長が長過ぎる場合にはペーストの流動性が悪化したり、フェノール系極細炭素繊維同士が絡まり合い前述のネットワーク構造が上手く形成できないためである。
【0054】
本発明では焼成が終了した導電層中にフェノール系極細炭素繊維が半ば埋もれた形で全面に分布しているのが特徴であって、導電層の表面にフェノール系極細炭素の小突起が露出された状態になっている。この小突起の露出は特別な操作を行わずとも形成されるのである。これを電子放出源に用いた場合にはこれらの小突起に電界が集中し、低電圧での電子放出が可能となるのである。また、放出された電子の方向を揃えるために、ガード電極で電子放出源の周囲を囲うのは高性能のエミッション効果を得るために有効な方法である。
【0055】
また、突起の露出を完全とするためにその表面をレーザーアブレーションなどの方法で処理することも有効な方法である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
〔フェノール系極細炭素繊維の調製1〕
フェノール100Kg、37%ホルマリン73Kg、シュウ酸0.5Kgを還流冷却器を備えた反応容器に仕込み、40分間で常温から100℃に昇温させ、更に100℃で4時間反応させた後、200℃まで加熱して脱水濃縮した後、冷却してノボラック型フェノール樹脂を得た。
次に攪拌機を備えた密閉式溶解槽にテトラヒドロフラン500Lを入れ、これにポリスチレン樹脂(エー・アンド・エム スチレン製679)50Kgと前述のノボラック型フェノール樹脂50Kgを徐々に加えた。これを攪拌しながら66℃まで加熱し、更に温度を保持しつつ、テトラヒドロフランを還流させてポリスチレン樹脂とフェノール樹脂の両者が完全に溶解するまで攪拌を行った。30分後、溶解液を減圧式蒸留器に移し変え、温度を50℃、50KPaに減圧し、冷却器でテトラヒドロフランを回収しながら混合樹脂溶液を濃縮した。ポリスチレン樹脂とフェノール樹脂の合計濃度をおよそ30重量%になるまで濃縮を続けた後、常圧に戻し樹脂溶液を取り出した。取り出した樹脂溶液の粘度は25℃において 150Pa・sであった。
この樹脂溶液を紡糸原液として、0.2mmのオリフィスを500個有する口金にて250m/分の速度で乾式紡糸を行った。紡糸筒内は180℃の窒素を上向に流し、テトラヒドロフランを蒸発させた。
得られた糸條5Kgを51mmにカットし、これをポリプロピレン製の多孔板で形成された円筒形バスケットに詰め、更にこれをオーバーマイヤー型試験反応装置に取り付けた。反応装置内で塩酸14%、ホルムアルデヒド8%の水溶液に常温で30分間浸漬した。この時の浴比は1:20であった。浸漬後、常温から90℃まで2時間で昇温し、更に90℃で2時間保持した。繊維を取り出し、充分に水洗した後、3%アンモニア水溶液で60℃、30分の中和を行った後、再度充分に水洗した。これを90℃、30分間乾燥することでフェノール樹脂とポリスチレン樹脂の複合繊維を得ることができた。得られた繊維の直径は約14μmの複合繊維であった。
これを再度、攪拌機を備えた密閉式溶解槽に入れ、30℃のテトラヒドロフラン中で緩やかに攪拌しながら5分間浸漬し海成分のポリスチレン樹脂を溶かした。攪拌を停止し、槽の底に沈降した極細繊維を濾過して取り出し乾燥した。この繊維を顕微鏡にて観察したところ繊維直径0.2〜0.5μm、最長繊維長1000μmのフェノール系極細繊維であることを確認した。フェノール系極細繊維を試験炭素化炉に入れ、窒素気流中900℃、30分の条件で炭素化し繊維直径0.1μm〜0.4μm、最長繊維長1000μmのフェノール系極細炭素繊維を得た。
〔フェノール系極細炭素繊維の調製2〕
フェノール系極細炭素繊維の調製1で得たノボラック型フェノール樹脂を粗粉砕機で粉砕し、粒径1〜3mmのフェノール樹脂粒子を得た。これに直径約3mmの高密度ポリエチレンのペレットを重量比で50:50となるようにブレンダ−にて混合した。
この混合樹脂5Kgを、二軸混練押出試験機を用いて、150℃で10分間混練した。このの混練操作を合計3回行った。
次に、得られた混合樹脂を0.2mmのオリフィスを500個有する口金にて150℃で溶融紡糸し、海島型の未硬化複合繊維を得た。得られた未硬化複合繊維を塩酸−ホルムアルデヒド水溶液(塩酸18重量%、ホルムアルデヒド10重量%)中に96℃、24時間浸漬し、硬化繊維を得た。次に、この硬化繊維を、窒素気流中、600℃、10分の条件で炭素化し、海成分のポリエチレンを熱分解除去して、繊維径0.1〜1μm、最長繊維長1000μmのフェノール系極細炭素繊維を得た。
〔電子放出特性の評価方法〕
電子放出特性は次のように測定した。すなわち、電子放出源を陰極とし、陽極には直径1mmのステンレス製円板を用いた。両極間の間隔は、50μm、圧力は5×10−5Paであった。印加電圧を0〜1000Vの間で掛けることにより電流密度と電圧との関係を測定し、0.1μAのエミッションが得られる電圧(これが電界電子放出の閾値電圧である)を測定した。
【0057】
〔実施例1〕
フェノール系極細炭素繊維の調製1で得たフェノール系極細炭素繊維1gと、平均結晶子サイズが60nmのカーボンブラック粉末2gを200mlのエタノールに加えホモジナイザーにて30分間の攪拌を行いエタノール中に粗分散させた。続いてこれをろ別し、回収した固形分にエタノールを2ml加えてペースト状とした。これをスピンコーターを用いて抵抗率0.01Ωcmのn型シリコン基体上に7μm厚で塗工した後、400℃2時間、窒素気流中で乾燥、焼成した。このようにして得られた電子放出源の抵抗率は2.5×10Ωcmであった。また電界電子放出の閾値電圧は450Vであった。
【0058】
〔実施例2〕
フェノール系極細炭素繊維の調製1で得たフェノール系極細炭素繊維1gと、平均粒子径が0.1μmの人造黒鉛粉末2gを200mlのエタノールに加えホモジナイザーにて30分間の攪拌を行いエタノール中に粗分散させた。続いてこれをろ別し、回収した固形分にエタノールを2ml加えてペースト状とした。これをスクリーン印刷法を用いてタングステン板に7μm厚で塗工した後、500℃1.5時間、窒素気流中で乾燥、焼成した。このようにして得られた電子放出源の抵抗率は2.0×10Ωcmであった。また電界電子放出の閾値電圧は430Vであった。
【0059】
〔実施例3〕
フェノール系極細炭素繊維の調製2で得たフェノール系極細炭素繊維1gと、直径10nm、繊維長0.2μmのカーボンナノチューブ0.1g、平均粒子径が0.1μmの人造黒鉛粉末2g、ビヒクルとしてブチルカルビトールアセテートを0.5gを200mlのアセトンに加えホモジナイザーにて20分間の攪拌を行いアセトン中に粗分散させた。続いてこれをろ別し、回収した固形分にアセトンを4ml加えてペースト状とした。これをスクリーン印刷法を用いてモリブテン板に8μm厚で塗工した後、空気中で150℃で0.5時間乾燥した。引続き、窒素気流中で600℃で1時間焼成した。このようにして得られた電子放出源の抵抗率は1.8×10Ωcmであった。また電界電子放出の閾値電圧は420Vであった。
【0060】
〔比較例1〕
フェノール系極細炭素繊維の代りに直径10nm、繊維長0.2μmのカーボンナノチューブ1gと、平均結晶子サイズが60nmのカーボンブラック粉末2gを200mlのエタノールに加えホモジナイザーにて30分間の攪拌を行いエタノール中に粗分散させた。続いてこれをろ別し、回収した固形分にエタノールを2ml加えてペースト状とした。これをスピンコーターを用いて抵抗率0.01Ωcmのn型シリコン基体上に7μm厚で塗工した後、400℃2時間、窒素気流中で乾燥、焼成した。このようにして得られた電子放出源の抵抗率は1.8×10Ωcmであった。また電界電子放出の閾値電圧は600Vであった。
【0061】
〔比較例2〕
比較例1と同一条件で作成した電子放出源の表面に、波長750nmのレーザーを照射してアブレーションさせながら電子放出源全面を食刻させた。この電子放出源の抵抗率は1.8×10Ωcmであった。また電界電子放出の閾値電圧は440Vであった。比較例1に対して閾値電圧が下がったのはレーザーアブレージョンにより電子放出源からカーボンナノチューブの先端が露出しの電子放出が起こりやすくなったためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の導電層中に非晶質炭素構造を有するフェノール系極細炭素繊維を電子放出物質として含有することを特徴とする電子放出源。
【請求項2】
フェノール系極細炭素繊維が、第一成分のフェノール樹脂と、該フェノール樹脂に非相溶もしくは低相溶性の第二成分樹脂からなる複合樹脂を繊維化し、このうち海成分が第二成分樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である海島型複合繊維であって、島成分のフェノール樹脂を架橋化処理した後、海成分の第二成分樹脂のみ選択的に溶解除去し、これを炭素化したフェノール系極細炭素繊維である請求項1に記載の電子放出源。
【請求項3】
フェノール系極細炭素繊維が、第一成分のフェノール樹脂と、該フェノール樹脂に非相溶もしくは低相溶性の第二成分樹脂からなる複合樹脂を繊維化し、このうち海成分が第二成分樹脂であり、島成分がフェノール樹脂である海島型複合繊維であって、島成分のフェノール樹脂を架橋化処理した後、炭素化する工程で海成分の第二成分樹脂のみ選択的に熱分解させることにより得られるフェノール系極細炭素繊維である請求項1に記載の電子放出源。
【請求項4】
請求項2及び3に記載のフェノール系極細炭素繊維の直径が0.01μm〜1μmであり、その繊維長が0.5〜1000μmであることを特徴とする請求項1に記載の電子放出源。
【請求項5】
導電性炭素材と極細炭素繊維を溶液中でペースト状に混合する工程と、該ペーストを基板上に塗布する工程と、塗布済みの基板を真空中または不活性ガス雰囲気中で焼成する工程からなることを特徴とする請求項1に記載の電子放出源の製造方法。

【公開番号】特開2006−172904(P2006−172904A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363955(P2004−363955)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】