説明

フェライト及びその製造方法

【課題】バリスタと一体焼成した場合にバリスタ特性を良好に維持することができ、高い磁気共鳴周波数と高い初透磁率とを両立可能なフェライトを提供すること。
【解決手段】本発明のフェライトは、主成分として酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化マンガンを含有するフェライトであって、主成分は、酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有し、主成分は任意に酸化銅を含有し、主成分における酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下であり、主成分全体に対して、酸化ビスマスをBi換算で3〜10質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器には、ノイズの発生防止、外部からのノイズの侵入防止のために、回路基板の入出力部や回路内に積層型バリスタ、インダクタ(フェライトチップ)及びコンデンサチップ等が組み込まれている。
【0003】
しかし、積層型バリスタ、インダクタ及びコンデンサチップ等の部品を回路基板に設けた場合、これらの部品が基板面積を多く占有してしまい、実装スペースが大きくなってしまう。また、部品点数が増えることによりコストアップしてしまう傾向がある。
【0004】
このような問題に対応するため、各素子チップを互いに接合させた状態で一体化焼結させた複合部品を作製して回路基板に設置することによって、部品点数を減らすとともに部品をコンパクトにして実装スペースを削減することが試みられている。
【0005】
ところで、インダクタの素地材料として、従来からNi、Cu、Zn等を含有した酸化物磁性材料であるフェライト材料が用いられている。例えば、Ni−Cu−Znフェライトは、優れた磁気特性を備えており、各種電子部品のコア(磁心)材料として、または積層チップインダクタなどのインダクタ部品の材料として広く用いられている。このNi−Cu−Znフェライトに含まれるCu成分は、焼結を促進する効果があることが知られている。
【0006】
ところが、上述のような複合部品を作製する場合、インダクタの素地材料としてNi−Cu−Znフェライトを用い、このインダクタとバリスタとを一体化焼結すると、インダクタ素地を構成するNi−Cu−Znフェライトに含まれるCu成分がバリスタ素子側に拡散移行してしまうため、バリスタ特性が劣化しまうという問題があった。このため、Cuの含有量が低減されたZnフェライトが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−91539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のZnフェライトは非磁性であることから、例えば、インダクタ特性やノイズ抑制効果などを向上させるために、インダクタの素地材料自体に磁性を有することが求められる。このため、磁性を有するとともにバリスタやインダクタを含む複合部品の素地材料に適したフェライトが求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、バリスタと一体焼成した場合にバリスタ特性を良好に維持することが可能であり、優れた磁性を有するフェライト及び当該フェライトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、主成分として酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化マンガンを含有するフェライトであって、主成分は、酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有し、主成分は任意に酸化銅を含有し、主成分における酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下であり、主成分全体に対して、酸化ビスマスをBi換算で3〜10質量%含有するフェライトを提供する。
【0010】
このようなフェライトは、バリスタと一体焼成してもESD耐量などのバリスタ特性を良好に維持することができるとともに、高い初透磁率を得ることができる。かかる効果が得られる理由としては、例えば次の要因が挙げられる。本発明のフェライトは、酸化銅の含有量が十分に低減されるとともに、酸化ビスマスを特定量含有している。このため、例えばバリスタと一体焼成した場合に、Cu成分のバリスタ側への拡散を十分に低減してバリスタ特性を良好に維持することができ、また、低温で十分に焼結させて高い焼結密度を有する焼結体とすることができる。このように高い焼結密度を有することに加えて、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化マンガンを特定量含有しているため、高い磁気共鳴周波数と高い初透磁率とを両立させることができる。なお、効果が得られる理由は上述の要因に限定されるものではない。
【0011】
本発明のフェライトは、5.0g/cm以上の焼結密度を有することが好ましい。このようなフェライトは一層優れた初透磁率を有する。
【0012】
また、本発明では、酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有し、酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下である混合原料を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、仮焼体に、仮焼体全体に対して酸化ビスマスを3〜10質量%添加して焼成する焼成工程と、を有するフェライトの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の製造方法では、特定量の酸化ビスマスを添加しているため、低温焼成が可能であり、得られる焼結体の比抵抗を高くすることができる。また、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化マンガンを特定量含有する仮焼体を用いているため、高い磁気共鳴周波数と高い初透磁率とを両立可能な焼結体を得ることができる。
【0014】
本発明の製造方法における焼成工程では、酸化ビスマスを含有するビスマス系ガラスを仮焼体に添加することが好ましい。この場合も、酸化ビスマスと同様に、低温焼成が可能となり、焼結体の密度を高くすることができる。また、主成分の組成を調整すれば、酸化ビスマス単独で添加する場合に比べて、比抵抗を高くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バリスタと一体焼成した場合にバリスタ特性を良好に維持することが可能であり、優れた磁性を有するフェライト及び当該フェライトの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0017】
本実施形態のフェライトは、主成分の必須成分として酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化マンガンを含有し、主成分の任意成分として酸化銅を含有する。酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化マンガンの含有量は、主成分全体を基準として、酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有する。
【0018】
また、酸化銅は任意成分であるため、本実施形態のフェライトは酸化銅を全く含有しなくてもよい。フェライトが酸化銅を含有する場合、フェライトの主成分は、酸化銅を、0を超えて2mol%以下の範囲で含有する。
【0019】
本実施形態におけるフェライトは、主成分として、任意に酸化銅を含有していてもよい。主成分中の酸化銅の含有量は、焼結密度とバリスタのESD耐量とを高水準で両立させる観点から、CuO換算で1.5mol%以下であることが好ましく、1.0mol%であることがより好ましい。一方、酸化銅の含有量が2mol%を超える場合、Cu成分がバリスタ積層部7に拡散してESD耐量などのバリスタ特性を低下させる。酸化銅の含有量が低いほど、バリスタのESD耐量を一層良好に維持することができる。なお、主成分とはフェライトの主相を構成する成分である。
【0020】
また、フェライトは、上記主成分の他に、副成分として酸化ビスマスを含有する。酸化ビスマスの含有量は、上記主成分全体に対しBi換算で3〜10質量%であり、3〜9質量%であることが好ましく、4〜6質量%であることがより好ましい。当該含有量を3〜10質量%とすることによって、低温(900℃程度)焼結が可能となり、高密度のフェライト焼結体を得ることができる。
【0021】
酸化ビスマスの含有量が、上記主成分全体に対しBi換算で3質量%未満の場合、低温焼結が困難となり、十分に高い焼結密度が得られ難くなる傾向がある。一方、該含有量が10質量%を超える場合、焼結時に異常粒成長が発生しやすくなって得られる焼結体の比抵抗が低くなる傾向がある。
【0022】
本実施形態のフェライト全体に対する主成分の割合は、80〜97質量%であることが好ましく、85〜97質量%であることがより好ましく、90〜97質量%であることがさらに好ましい。これによって、初透磁率と磁気共鳴周波数とを一層高水準で両立することが可能となる。
【0023】
主成分中の酸化ニッケルの含有量は、NiO換算で25〜35mol%であることがより好ましい。当該含有量が高くなり過ぎると、十分に高い初透磁率μiが得られ難くなる傾向があり、積層チップインダクタの素地に用いた場合に十分なインダクタンスが得られ難くなる傾向がある。一方、当該含有量が低くなり過ぎると、磁気共鳴周波数frが低くなる傾向がある。
【0024】
主成分中の酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で15〜27mol%であることが好ましく、16〜24mol%であることがより好ましい。当該含有量が高くなり過ぎると、磁気共鳴周波数frが低くなる傾向がある。一方、当該含有量が低くなり過ぎると、十分に高い初透磁率μiが得られ難くなる傾向がある。
【0025】
本実施形態のフェライトは、酸化ニッケルと酸化亜鉛のそれぞれの含有量を振り替えて調整することによって、所望の初透磁率μiと磁気共鳴周波数frとを得ることができる。
【0026】
主成分中の酸化マンガンの含有量は、Mn換算で0.2〜2mol%であることが好ましく、0.5〜2mol%であることがより好ましい。当該含有量が高くなり過ぎると、良好な焼結性が損なわれるとともにフェライト焼結体の比抵抗が小さくなる。また、当該含有量が低くなり過ぎると、フェライト焼結体の比抵抗が小さくなり、積層チップインダクタの製造工程の一部である端子電極のメッキ工程において、メッキが伸びやすくなり、積層チップインダクタの特性に不具合が生じやすくなる傾向がある。
【0027】
主成分中の酸化鉄の含有量は、Fe換算で46〜49mol%であることが好ましく、46〜48mol%であることがより好ましい。当該含有量が高くなり過ぎると十分な焼結性が得られ難くなり、比抵抗も低くなる傾向がある。一方、当該含有量が低くなり過ぎると、比抵抗が低くなり、高い初透磁率が損なわれる傾向がある。
【0028】
本実施形態のフェライトは、焼結されていないフェライト組成物、例えば、粉末やスラリー、凝集物などの形態であってもよく、焼結体(フェライト焼結体)であってもよい。本実施形態のフェライトは、焼結性に優れているため、低温で焼成しても十分に高い焼結密度(焼結体の密度)を有する焼結体を得ることができる。このため、例えば低温で焼結させることが求められるAgを導体とする積層チップインダクタの材料として好適に用いることができる。また、本実施形態の粉末状またはスラリー状のフェライトを用いてバリスタと一体焼成して複合部品とした場合、ESD耐量などのバリスタ特性を良好に維持することができる。本実施形態のフェライト焼結体は、比抵抗が高く、高い磁気共鳴周波数と高い初透磁率とを両立することができる。
【0029】
次に、フェライト焼結体の製造方法の好適な実施形態について以下に説明する。
【0030】
本実施形態のフェライト焼結体の製造方法は、酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有し、酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下である酸化物混合粉末を調整する準備工程と、上記酸化物混合粉末を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、得られた仮焼体を粉砕して、酸化ビスマスを、仮焼体全体を基準として3〜10質量%添加する添加工程と、酸化ビスマスと仮焼体の粉砕物とを混合して得られた混合粉末を成形して焼成する焼成工程と、を有する。
【0031】
準備工程では、必須成分である酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化マンガンの各粉末を用意する。酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%となるように秤量し、例えばボールミルで混合して酸化物混合粉末を調製する。この際、任意成分である酸化銅を2mol%以下の割合で混合してもよい。なお、各酸化物の割合は、酸化物混合粉末中のモル含有割合である。
【0032】
酸化物混合粉末に有機溶剤と有機バインダとを含む有機ビヒクルを混合して、磁性体スラリーとして混合してもよい。このようにスラリー状、すなわち湿式で混合することによって、酸化物混合粉末を一層均一に混合することができる。
【0033】
仮焼工程では、準備工程で得られた酸化物混合粉末またはこれを含むスラリーを、空気雰囲気中、600〜1000℃、1〜20時間の条件で仮焼する。仮焼温度が低くなり過ぎた場合、または仮焼時間が短くなり過ぎた場合、得られるフェライト焼結体の均一性が損なわれる傾向がある。一方、仮焼温度が高すぎる場合、または仮焼時間が長すぎる場合、得られる仮焼体の凝集が進んで粉砕し難くなる傾向がある。
【0034】
添加工程では、仮焼体をボールミルなどで粉砕して、酸化ビスマス粉末を添加し混合粉末を得る。酸化ビスマスの添加量は、仮焼体全体を基準として3〜9質量%であることが好ましく、3〜6質量%であることが好ましい。該添加量が3質量%未満の場合、フェライト焼結体が緻密化し難くなり、低温で焼成することが困難になる傾向がある。一方、該添加量が9質量%を超えると、得られるフェライト焼結体の比抵抗が低下する傾向がある。
【0035】
酸化ビスマス源として、酸化ビスマス粉末の代わりにビスマス系ガラスを用いてもよい。ビスマス系ガラスとしては、一般的に市販されているものを用いることができる。ビスマス系ガラスは、通常、Biのほかに、SiO、B等を含有する。酸化ビスマス源としてビスマス系ガラスを用いた場合も、フェライト焼結体の緻密化が促進され、高い焼結密度を得ることが可能になる。これによって、高い比抵抗と初透磁率とを両立可能なフェライト焼結体を得ることができる。
【0036】
焼成工程では、仮焼体の粉砕物に酸化ビスマスを添加して得られた混合粉末を成形して成形体を作製し、該成形体を焼成して焼結体を得る。成形体は、プレス成形など一般的な方法によって作製することができる。成形体の焼成は、焼成温度800〜940℃、焼成時間1〜10時間の条件で行うことができる。焼成温度が低すぎる場合、または焼成時間が短過ぎる場合、高い焼結密度を有する焼結体が得られ難くなる傾向がある。一方、焼成温度が高すぎる場合、または焼成時間が長すぎる場合、得られるフェライト焼結体の異常粒成長が発生して、機械的強度が損なわれる傾向がある。
【0037】
このようにして得られるフェライト焼結体の組成は、通常、原料として用いた各酸化物の使用比率に一致する。本実施形態のフェライト焼結体の製造方法によって、焼成工程における焼成温度を900℃付近の低温としても、5.0g/cm以上の高い焼結密度を有する焼結体を得ることができる。このような焼結体は、高い周波数領域において高い初透磁率を有しており、また十分に高い比抵抗を有している。このためインダクタの磁性層として好適に用いることができる。また、バリスタ層のESD耐量を殆ど低下させないことから、インダクタとバリスタとの複合部品の材料として好適に用いられる。
【0038】
次に、本発明のフェライトを用いて作製された、インダクタとバリスタとの複合部品である積層型フィルタについて説明する。
【0039】
図1は、本発明のフェライトを用いた積層型フィルタの一例を示す外観斜視図である。積層型フィルタ1は、素体2の長手方向における両端部に、入力端子電極3及び出力端子電極4を有しており、その長手方向における両側面には、一対のグランド端子電極5を有する。
【0040】
図2は、図1に示す積層型フィルタ1の素体2部分を示す分解斜視図である。図2に示すように、素体2は、複数の磁性体層6a〜6iが順次積層された磁性体積層部6と、複数のバリスタ層7a〜7dが順次積層されたバリスタ積層部7とからなる。
【0041】
すなわち、積層型フィルタ1は、磁性体層6a〜6iと導体パターン8a〜8h及びビア導体9a〜9gを含む導体部とを有するインダクタ部10とバリスタ層7a〜7d及び電極11,12を有するバリスタ部20とを備えており、磁性体層6a〜6iは本実施形態に係るフェライトを有している。
【0042】
磁性体積層部6の磁性体層6b〜6i上のそれぞれには所望形状の導体パターン8a〜8hが形成される。具体的には、磁性体層6d、6f、6h上にはそれぞれ、コイルの略3/4ターン相当の略C字状の導体パターン8c、8e、8gが形成され、磁性体層6c、6e、6g上にはコイルの略3/4ターン相当の略U字状の導体パターン8b、8d、8fが形成される。また、磁性体層6b、6i上には入力端子電極3及び出力端子電極4とそれぞれ接続する引出電極8a、8hが形成される。更に、磁性体層6b〜6hをそれぞれ貫通し、これら磁性体層6b〜6hのそれぞれに接する導体パターン間を電気的に接続するビア導体9a〜9gが形成される。これにより、これら引出電極8a、8hと導体パターン8b〜8gとビア導体9a〜9gとが電気的に接続された略4.5ターンのらせん状のコイル(導体部)が形成され、磁性体積層部6にインダクタ部10が形成される。
【0043】
バリスタ積層部7のバリスタ層7b上には、グランド端子電極5と電気的に接続された略矩形状のグランド電極11が形成されている。また、バリスタ層7c上には、出力端子電極4と電気的に接続された略矩形状のホット電極11が形成されている。ホット電極11とグランド電極12とは、互いに対向しており、積層方向から見たときにバリスタ層7bを介して一部が重なり合っている。このようにして、バリスタ機能を発現するバリスタ部20が形成されている。
【0044】
上述の積層構造を有する積層型フィルタ1は、バリスタ電圧を越える高い電圧のノイズが入力側に印加された際に、バリスタ効果によって急激に流れた電流がノイズとなって通過するのを阻止することができる。
【0045】
磁性体層6a〜6iは、本実施形態のフェライト焼結体で構成される。本実施形態のフェライト焼結体は、通常のNi−Cu−Znフェライトよりも、酸化銅の含有量が十分に低減されているため、磁性体積層部6からバリスタ積層部7へのCu成分の拡散を十分に抑制することができる。このため、バリスタをインダクタと複合化しても、ESD耐量などのバリスタ特性を十分良好に維持することができる。
【0046】
バリスタ層7a〜7dは、例えば、ZnOを主成分とするセラミックス材料から構成される。このセラミックス材料中には、添加成分としてPr、Bi、Co、Al等を含んでいてもよい。Prに加えてCoを含むと、優れたバリスタ特性を有するものとなるほか、高い誘電率(ε)を有するものとなる。また、Alを更に含むと低抵抗となる。また、必要に応じて他の添加物、例えば、Cr、Ca、Si、K等の元素が含まれてもよい。
【0047】
ホット電極11及びグランド電極12に用いる導電材料は、バリスタ層7a〜7dを構成するセラミックス材料と同時焼成できる金属材料を用いる。すなわち、バリスタセラミックスの焼成温度は通常800℃〜1400℃程度であるため、その温度で融解しない金属材料を用いる。例えば、Ag、Pdこれらの合金等を好適に使用することができる。
【0048】
次に、上述した積層型フィルタの製造方法について説明する。
【0049】
上述のフェライト焼結体の製造方法における準備工程と同様にして、所定の割合で配合された酸化物混合粉末を含有する磁性体スラリーを調製する。ドクターブレード法等によりPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に磁性体スラリーを塗布し、例えば厚さ20μm程度の磁性体グリーンシートを形成する。
【0050】
続いて、磁性体グリーンシートの所望の位置、すなわち上述したようなビア導体9a〜9gが形成される予定の位置にスルーホールを形成する。スルーホールはレーザー加工機等により形成することができる。
【0051】
続いて、スクリーン印刷法等により磁性体グリーンシート上に導電パターン8a〜8hを形成する。また、磁性体グリーンシートに形成されたスルーホールに導電ペーストを充填してビア導体9a〜9gを形成する。導体パターン8a〜8h及びビア導体9a〜9gの印刷等に用いる導電ペーストは、PdやAg−Pd合金粉末を主成分として含んでいるものを用いることができる。
【0052】
続いて、焼成後にバリスタ層7a〜7dを構成するバリスタ原料粉末と、有機溶剤と有機バインダとを含む有機ビヒクルとを混合したバリスタスラリーを調製する。バリスタ原料粉末は、一体焼成した後に所定組成のバリスタとなれば、その形態は特に限定するものではない。主成分であるZnOに添加物として各種金属化合物、例えばPr11、CoO、Cr、CaCO、SiO、KCO及びAlを所定量含む混合粉末を用いることができる。また、所定組成のバリスタセラミックスを予め仮焼きして粉砕したバリスタ粉末を用いてもよい。
【0053】
続いて、ドクターブレード法等によりPETフィルム上にバリスタスラリーを塗布し、例えば、厚さ30μm程度のバリスタグリーンシートを形成する。
【0054】
続いて、スクリーン印刷法等によりバリスタグリーンシート上に導電ペーストを用いてホット電極及びグランド電極を形成する。導電ペーストは、PdやAg−Pd合金粉末を主成分として含んでいるものを用いることができる。
【0055】
続いて、所定形状の導体パターン8a〜8h及びビア導体9a〜9gが形成された磁性体グリーンシートと、電極が形成されていない磁性体グリーンシートと、ホット電極11又はグランド電極12が形成されたバリスタグリーンシートと、電極が形成されていないバリスタグリーンシートとを図2に示すように順次積層しプレスした後に所定形状に切断して、積層型フィルタ素子(素体)2のグリーン積層体を得る。その後、グリーン積層体を所定の条件(例えば、大気中で1100℃〜1200℃、2時間)で焼成を行い積層型フィルタ素子2が得られる。得られた積層型フィルタ素子2は、その磁性体積層部6とバリスタ積層部7との界面付近において、バリスタ積層部7へのCu成分の拡散はほとんどないので、良好なバリスタ特性が得られる。
【0056】
続いて、積層型フィルタ素子2の長手方向における端部及び長手方向における両側面中央に導電ペーストを塗布し、所定の条件(例えば、大気中で700℃〜800℃、2時間)で熱処理を行って端子電極を焼き付ける。導電ペーストは、Agを主成分とする粉末を含むものを用いることができる。その後、端子電極表面にめっきを施し、入力端子電極3、出力端子電極4及びグランド端子電極5が形成された積層型フィルタ1を得ることができる。なお、めっきは電解めっきが好ましく、その材料は、例えばNi/Sn、Cu/Ni/Sn、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、Ni/Ag等を用いることができる。
【0057】
以上のように、積層型フィルタ1は、磁性体層6a〜6iが特定の組成を有するフェライト焼結体によって構成されているので、磁性体積層部6とバリスタ積層部7と一体焼結しても、バリスタ特性の低下を十分に抑制することができる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
(製造例1〜30)
主成分の原料粉末として、市販のFe粉末、ZnO粉末、NiO粉末、Mn粉末及びCuO粉末を、表1または2に示す組成(mol%)となるように秤量した。これらの原料粉末を鋼鉄製のボールミルを用いて40時間湿式混合して酸化物混合粉末を得た。得られた酸化物混合粉末を、700℃、10時間の条件で仮焼した。得られた仮焼体に、Bi粉末を、仮焼体全量を基準として、表1または2に示す割合で添加し、鋼鉄製のボールミルにて36時間混合粉砕して、仮焼粉末を調製した。
【0061】
次いで、調製した仮焼粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール水溶液を添加して造粒し平均粒径70μmの顆粒を得た。こうして得られた顆粒をプレス成形して、成形密度3.10g/cmのトロイダル形状(外径13mm、内径6mm、高さ3mm)の成形体と、ディスク形状(外径:12mm、厚さ2mm)の成形体とをそれぞれ作製した。
【0062】
これらの成形体をそれぞれ、大気中、焼成温度900℃で2時間焼成して、トロイダル形状及びディスク形状のフェライト焼結体を得た。これらのフェライト焼結体は、それぞれ、表1及び2に示すように、所定組成の主成分と副成分(酸化ビスマス)とを含有する。
【0063】
<焼結密度の評価>
トロイダル形状の各フェライト焼結体の質量と、外径、内径、厚さの測定値より求めた焼結体の体積とから、焼結密度を求めた。結果は表1及び2に示す通りであった。
【0064】
<比抵抗の評価>
ディスク形状の各フェライト焼結体の抵抗Rを、測定電圧を10Vに設定して、高抵抗計(アドバンテスト製、商品名:R8340)を用いて測定した。抵抗Rの測定値から比抵抗ρ(ρ=R×焼結体の円形部分面積/焼結体の厚さ)を算出した。結果は表1及び2に示す通りであった。
【0065】
<初透磁率(μi)及び磁気共鳴周波数(fr)の評価>
トロイダル形状の各フェライト焼結体にワイヤを20回巻線した後、LCRメータ(ヒューレットパッカード社製、商品名:HP4192)を用いて、1MHzにおける初透磁率(μi)を測定した。また、同様の装置を用いて同様の方法で、フェライト焼結体の磁気共鳴周波数(fr)を評価した。
【0066】
<バリスタのESD耐量評価>
ESD耐量評価用のサンプルを以下の通り調製した。まず、原料粉末として、市販のFe粉末、ZnO粉末、NiO粉末、Mn粉末及びCuO粉末を、表1または2に示す主成分組成(mol%)となるようにそれぞれ秤量した。これら原料粉末と有機ビヒクルとを混合して磁性体スラリーを調製した。また、原料粉末の合計量に対して、表1または2に示す割合で、Bi粉末をスラリーに添加した。
【0067】
この磁性体スラリーをドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し厚み20μmの磁性体グリーンシートを作製した。その後、磁性体グリーンシート上の所定の位置にレーザー加工機によりスルーホールを形成し、Pdを主成分とする導電ペーストを用いてスクリーン印刷法により所定形状の導体パターンとスルーホール中にビア導体を形成し、インダクタ層形成用グリーンシートを作製した。
【0068】
続いて、所定量のZnO、Pr11、CoO、Cr、CaCO、SiO、KCO及びAlを混合したバリスタ原料粉末と有機ビヒクルとを混合してバリスタスラリーを調製した。
【0069】
このバリスタスラリーをドクターブレード法により、PETフィルム上に塗布し厚み30μmのバリスタグリーンシートを作製した。その後、バリスタグリーンシート上にPdを主成分とする導電ペーストを用いてスクリーン印刷法により所定のパターンの電極を形成し、バリスタ層形成用グリーンシートを形成した。
【0070】
続いて、インダクタ層形成用グリーンシート、バリスタ層形成用グリーンシート、導体パターンが印刷されていない磁性体グリーンシート及び導体パターンが印刷されていないバリスタシートを準備し、図2に示す順序で積層して積層型フィルタ用グリーン積層体を作製した。この積層型フィルタ用グリーン積層体を、焼成後に長さ2.0mm、幅1.2mm、厚み1.0mmの直方体になるように切断して、大気中で900℃、2時間焼成して積層型フィルタ用素体を作製した。その後、積層型フィルタ用素体の端部に銀を主成分とする導電ペーストを塗布し、大気中で700℃〜800℃、1時間焼成して端子電極を焼付けし、更に端子電極にNi/Sn(Ni、Snの順に)電気めっきを施して、ESD耐量試験用のサンプル(積層型フィルタ)を作製した。
【0071】
得られたサンプルを用いて次のとおりESD耐量試験を行った。ESD耐量試験では、IEC(International Electrotechnical Commission)の規格IEC61000−4−2に定められている静電気放電イミュニティ試験(レベル4,接触放電,試験電圧:8kV,放電回数:10回)によって測定し、ESD耐量が8kV以上である場合に、ESD耐量が十分であると判断して「A」と判定し、ESD耐量が8kV未満である場合には「B」と判定した。判断基準を8kV以上とした理由は、8kV以上であればIEC61000−4−2のレベル4を満たすからである。
【0072】
また、上述の静電気放電イミュニティ試験を行う前と後で、それぞれバリスタ電圧を測定し、その変化幅(ΔV1mA(%)、(試験後の値−試験前の値)/試験前の値×100で算出)を求めた。バリスタ電圧の測定は、ソース−メジャーユニット(KEITHLEY社製、型番:237)を用いて行い、サンプルの外部端子に印加する電圧を徐々に大きくしていって、サンプルに1mAの電流が流れた時点の電圧の値とした。ESD耐量試験の結果は表1及び2に示すとおりであった。
【0073】
(製造例31〜37)
Bi粉末の代わりにビスマス系ガラス(旭硝子株式会社製、商品名:ASF1100B)を用いたこと以外は、上記製造例1〜30と同様にしてフェライト焼結体及び積層型フィルタを作製した。なお、ビスマス系ガラスは、仮焼体全量(原料粉末合計量)に対するビスマス系ガラスの割合が、Bi換算で表3に示す割合となるように添加した。そして、上記製造例1〜30と同様にして、各評価を行った。結果は表3に示す通りであった。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
表1〜3の結果より、本発明のフェライトは、低温焼成が可能であるため焼結密度を十分に高くすることが可能であり、比抵抗、初透磁率、磁気共鳴周波数の全てを高水準の値にすることができた。また、バリスタと複合化した場合に、バリスタのESD耐量を良好に維持できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明のフェライトを用いた積層型フィルタの一例を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示す積層型フィルタ1の素体2部分を示す分解斜視図である
【符号の説明】
【0079】
1…積層型フィルタ、2…素体(積層型フィルタ素子)、3…入力端子電極、4…出力端子電極、5…グランド端子電極、6a〜6i…磁性体層、7a〜7d…バリスタ層、10…インダクタ部、11…ホット電極(電極)、12…グランド電極(電極)、20…バリスタ部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛、及び酸化マンガンを含有するフェライトであって、
前記主成分は、前記酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、前記酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、前記酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び前記酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有し、
前記主成分は任意に酸化銅を含有し、前記主成分における前記酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下であり、
前記主成分全体に対して、酸化ビスマスをBi換算で3〜10質量%含有するフェライト。
【請求項2】
5.0g/cm以上の焼結密度を有する請求項1記載のフェライト。
【請求項3】
酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化ニッケルをNiO換算で20〜40mol%、酸化亜鉛をZnO換算で14〜30mol%、及び酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%含有し、酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下である混合原料を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、
前記仮焼体に、前記仮焼体全体に対して酸化ビスマスを3〜10質量%添加して焼成する焼成工程と、を有するフェライトの製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程では、前記酸化ビスマスを含有するビスマス系ガラスを前記仮焼体に添加する請求項3記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18482(P2010−18482A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180447(P2008−180447)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】