説明

フェライト焼結磁石の製造方法

【課題】残留磁束密度を向上できるフェライト焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】六方晶フェライトを主相とする粒子を粉砕する工程と、粉砕により得られた成形用粉末を磁場中成形する工程と、磁場中成形で得られた成形体を焼成する工程と、を備え、粉砕する工程における粉砕効率が0.01〜1.00(m/g)/hrであることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。分散剤を添加することにより、残留磁束密度の向上に加え、Hk/HcJの向上が顕著になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石の製造方法に関し、特に残留磁束密度(Br)を向上することのできるフェライト焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結磁石に用いられるフェライト磁性材料としては、六方晶系のBaフェライト又はSrフェライトが知られており、現在ではマグネトプランバイト型(M型)のBaフェライト又はSrフェライトが主に用いられている。
フェライト磁石は磁気特性として、一般に、残留磁束密度及び固有保磁力(HcJ)が大きいことが望まれる。M型フェライトはAFe1219の一般式で表され、元素Aを構成する元素としてBa、Srが一般的に適用されるが、元素Aの一部を希土類元素、典型的にはLa,Caで置換し、さらにFeの一部をCoで置換したM型フェライトは、高い磁気特性(残留磁束密度、固有保磁力)を有することが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−154604号公報
【特許文献2】特開2000−223307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の電子部品の小型化の要求により、フェライト焼結磁石にも小型化の要求がなされ、そのためには磁気特性、特に残留磁束密度のより一層の向上が要求される。そこで本発明では、残留磁束密度を向上できるフェライト焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、磁場中成形に供される成形用粉末を得る際の粉砕効率を特定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを知見した。この知見に基づく本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、六方晶フェライトを主相とする粒子を粉砕する工程と、粉砕により得られた成形用粉末を磁場中成形する工程と、磁場中成形で得られた成形体を焼成する工程と、を備え、粉砕する工程における粉砕効率が0.01〜1.00(m/g)/hrであり、粉砕により得られる成形用粉末の比表面積が7.0〜13.0m/gであることを特徴とする。
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、粉砕に先立って以下の分散剤を添加することが、高い残留磁束密度を得る上で有効である。
(1)ソルビトール及びマンニトールの1種又は2種
(2)グルコン酸Ca及びグルコノδラクトンの1種又は2種
【発明の効果】
【0006】
以上説明したように、本発明によれば、成形用粉末を得るための粉砕における粉砕効率を0.01〜1.00(m/g)/hrとすることにより、残留磁束密度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明によるフェライト焼結磁石の製造方法について詳述する。
フェライト焼結磁石は、通常、配合工程、仮焼き工程、粉砕工程、磁場中成形工程及び焼成工程という主要な工程を経て作製される。以下、各工程順に説明する。
【0008】
<配合工程>
配合工程は、出発原料を所定の割合となるように秤量後、湿式アトライター、ボールミル等で1〜20時間程度混合、粉砕処理する。出発原料としては、フェライト構成元素(例えば、Ba、Sr、Ca、La、Fe、Co)の1種を含有する化合物(例えば、BaCO、SrCO、CaCO、La(OH)、Fe及びCo)又はこれらの2種以上を含有する化合物を用いればよい。化合物としては酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等を用いる。出発原料の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい。出発原料は、仮焼き前にすべてを配合する必要はなく、各化合物の一部又は全部を仮焼きの後に添加することもできる。
【0009】
<仮焼き工程>
以上の配合工程を経た原料混合物は、造粒された後に仮焼きに供される。仮焼きは、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行われる。仮焼き温度は1100〜1450℃の温度範囲で行うことが好ましく、1150〜1400℃がより好ましく、1200〜1350℃がさらに好ましい。安定時間は1秒間〜10時間、さらには1秒間〜3時間が好ましい。
【0010】
<粉砕工程>
仮焼き体は、一般に顆粒状、塊状等になっており、そのままでは所望の形状に成形ができないため、粉砕する。また、所望の最終組成に調整するための原料粉末、及び添加物等を混合するために、粉砕工程が必要である。
本発明において、この粉砕における粉砕効率を0.01〜1.00(m/g)/hrの範囲とする。粉砕効率が0.01(m/g)/hr未満では粉砕時間が長くなり、工業的な生産に適さなくなる一方、粉砕効率が1.00(m/g)/hrを超えると本発明による残留磁束密度向上の効果が得られにくくなる。本発明における粉砕効率は、単位時間(hr)当たりに増加した比表面積(BET法による、以下同じ)で与えられる。つまり、粉砕の対象物である仮焼き体の比表面積をBETs、粉砕後の粉末の比表面積をBETeとすると、本発明による粉砕効率は、(BETe−BETs)/粉砕時間として求められる。粉砕効率は0.01〜0.75(m/g)/hrとすることが好ましく、0.01〜0.50(m/g)/hrとすることがより好ましい。
【0011】
粉砕後の粉末は、比表面積が7.0〜13.0m/gである。比表面積がこの範囲にある場合に、前述した粉砕効率を適用することにより、残留磁束密度に加えて角型比(Hk/HcJ)を向上できるという、本発明の固有の効果を得ることができるからである。粒子の比表面積が13.0m/gを超えると、粉砕時間が長くなり工業的な生産に適さなくなる一方、それに見合う残留磁束密度の向上効果が得られない。また、粒子の比表面積が7.0未満になると、本発明による残留磁束密度向上の効果が得られない。本発明による粉砕粉は、比表面積が7.0〜13.0m/gであることが好ましく、7.0〜11.0m/gであることがより好ましい。
粉砕粉の比表面積を7.0〜13.0m/gとすることにより、本発明により得られるフェライト焼結磁石の組織の平均結晶粒径を0.5〜0.7μm程度に微細にすることができる。本発明によるフェライト焼結磁石は、このような微細な組織を有することにより、高い固有保磁力を得ることができる。
なお、以上の粉砕は、通常、アトライター、ボールミルなどの湿式粉砕で行われ、特にアトライターが好ましい。
【0012】
本願発明において、上記粉砕工程に仮焼き体をそのまま供することもできるが、比表面積が0.2〜4.0m/g程度に乾式で解砕又は粉砕しておくのが生産工程上有利である。この場合、粉砕効率を求めるBETsは、上記比表面積:0.2〜4.0m/gに相当する。
【0013】
粉砕工程に先立って、副成分を添加することが好ましい。特に本発明では、Si成分としてSiOを、Ca成分としてCaCOを添加することが好ましい。この副成分の添加は、焼結性の改善、磁気特性の制御及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。また、本発明において、粉砕工程に先立って、以下の分散剤を添加することが、高い残留磁束密度を得る上で有効である。この分散剤の添加量としては、仮焼き体に対して0.1〜1.5wt%とすることが好ましい。なお、添加した分散剤は、焼成工程で熱分解して除去される。
(1)ソルビトール及びマンニトールの1種又は2種。ただし、本願発明は、ソルビトール及びマンニトールの1種又は2種を除く、一般式C(OH)n+2(n≧4)で表される多価アルコールの使用を排除するものでない。
(2)グルコン酸Ca及びグルコノδラクトンの1種又は2種。ただし、本願発明は、グルコン酸Ca及びグルコノδラクトンの1種又は2種を除く、水酸基およびカルボキシル基を有する有機化合物またはその中和塩もしくはそのラクトンであるか、ヒロドキシメチルカルボニル基を有する有機化合物であるか、酸として解離し得るエノール型水酸基を有する有機化合物またはその中和塩であって、有機化合物が、炭素数3〜20であり、酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子の50%以上に水酸基が結合するものの使用を排除するものではない。
【0014】
<磁場中成形工程>
粉砕により得られる成形用粉末は、磁場中成形される。磁場中成形は、乾式成形、もしくは湿式成形のいずれの方法でも行うことができるが、磁気的配向度を高くするためには、湿式成形で行うことが好ましい。
湿式成形を行う場合、粉砕工程を湿式で行い、得られたスラリを所定の濃度に濃縮し、湿式成形用スラリとすることができる。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行えば良い。この場合、成形用粉末が、湿式成形用スラリ中の30〜80wt%程度を占めることが好ましい。また、分散媒としては水が好ましいが、非水系溶媒を使用しても良い。非水系の分散媒を使用する場合には、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが好ましい。湿式による磁場中成形の成形圧力は0.1〜0.5ton/cm(0.98〜4.90MPa)程度、印加磁場は5〜15kOe(39.75〜119.25kA/m)程度とすれば良い。
【0015】
<焼成工程>
得られた成形体を焼成し、焼結体とする。焼成は、通常、大気中等の酸化性雰囲気中で行われる。焼成温度は1050〜1270℃、好ましくは1080〜1240℃の温度範囲で行い、保持する時間は0.5〜3時間程度とすれば良い。
【0016】
湿式成形で成形体を得た場合、成形体を充分に乾燥させないまま焼成工程で急激に加熱すると、成形体にクラックが発生する可能性がある。したがって、室温から100℃程度まで、例えば10℃/時間程度のゆっくりとした昇温速度にすることで、成形体を充分に乾燥し、クラック発生を抑制することが好ましい。また、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合、100〜500℃程度の範囲で、例えば2.5℃/時間程度の昇温速度とすることで脱脂処理を行い、分散剤を充分に除去することが好ましい。
【0017】
<本発明の対象>
本発明の製造方法は、フェライト焼結磁石全般に対して効果があり、適用される組成を特に限定するものでない。例えば、AFe1219の一般式で表される六方晶のM型フェライトに適用することにより、残留磁束密度を向上することができる。ただし、特に高い磁気特性を得たい場合には、前記一般式の元素Aの一部が希土類元素で置換され、Feの一部がCoで置換されたM型フェライトを主相とする焼結磁石に対して適用することが推奨される。この焼結磁石の一例として、特許文献1、特許文献2にその組成が示されている。
すなわち、特許文献1は、六方晶構造を有するフェライトを主相とし、かつSr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素であって、Srを必ず含むものをAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、A:1〜13原子%、R:0.05〜10原子%、Fe:80〜95原子%、M:0.1〜5原子%である組成を開示している。好ましい組成として、下記式(1)が示されている。
式(1) A1−x(Fe12−yMy)19
ただし、0.04≦x≦0.9、0.04≦y≦0.5、0.7≦z≦1.2
【0018】
また、特許文献2は、六方晶構造を有するフェライトを主相とし、Co、NiおよびZnから選択される1種または2種以上の元素をMとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものをRとしたとき、Ca、R、FeおよびMを含有し、Ca、R、FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、Ca: 1〜13原子%、R:0.05〜10原子%、Fe:80〜95原子%、M:1〜7原子%である組成を開示している。好ましい組成として、下記式(2)が示されている。
式(2) Ca1−x(Fe12−yMy)19
ただし、0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦1.0、0.5≦z≦1.2
【実施例1】
【0019】
以下本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
出発原料として、Fe粉末,SrCO粉末,Co粉末,La(OH)粉末を用意し、これらを以下の組成a、組成bになるように秤量した。なお、組成aは上記特許文献1に包含される。
組成a:Sr0.7La0.3Fe11.7Co0.319
組成b:Sr1.0Fe12.019
また、上記組成a、組成bによる出発原料粉末の混合物に対して、0.6wt%のSiO粉末、及び1.4wt%のCaCO粉末をそれぞれ用意した。
これらを湿式アトライターで混合・粉砕し、乾燥して整粒した後、空気中において1300℃で2.5時間仮焼きして、顆粒状の仮焼き体を得た。この仮焼き体を振動ミルにより乾式粗粉砕した。この粗粉砕体の比表面積は0.8m/gである。
【0020】
次いで、分散媒として水を、分散剤として仮焼き体に対し表1に示す物質を0.9wt%用意し、仮焼き体に添加、混合して粉砕用スラリを調製した。この際、用意したSiO粉末及びCaCO粉末も添加した。この粉砕用スラリを用いて、表1に示すように、アトライター(ATR)又はボールミル(BM)により湿式粉砕を行い、成形用粉末を得た。このアトライター又はボールミルによる粉砕の条件(回転速度、粉砕時間等)を種々変えた。得られた成形用粉末の比表面積(BET法による)を測定した。
湿式粉砕後、粉砕用スラリを吸引濾過して、成形用スラリとした。この成形用スラリから水を除去しながら0.4ton/cm(3.90MPa)の圧力で圧縮成形を行った。この成形は、圧縮方向に10kOe(79.5kA/m)の磁場を印加しながら行い、直径30mm、高さ15mmの円柱状の成形体を得た。
次に、空気中において、室温から安定温度までの昇温速度を3℃/minとして1200℃に1時間保持することにより焼成を行い、室温までの降温速度を昇温速度と同じ(ただし、絶対値)に保って降温することにより、焼結体を得た。各焼結体の上下面を加工した後、残留磁束密度(以下、Br)、固有保磁力(以下、HcJ)及び磁束密度が残留磁束密度の90%になるときの外部磁界強度(以下、Hk)を測定し、Br及び角型比(以下、Hk/HcJ)の向上率を求めた。その結果を表1に示す。また、粉砕効率とBrの向上率との関係を図1、粉砕効率とHk/HcJの向上率との関係を図2に示す。なお、各向上率は、比較例1のBr、Hk/HcJを100として求めている。
【0021】
【表1】

【0022】
表1、図1、図2に示すように、粉砕効率を本発明で規定する範囲とすることにより、Brが向上するとともにHk/HcJも向上する。なお、図1と図2との比較より、分散剤を添加した場合にHk/HcJは、顕著に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】粉砕効率とBrの向上率との関係を示すグラフである。
【図2】粉砕効率とHk/HcJの向上率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶フェライトを主相とする粒子を粉砕する工程と、
前記粉砕により得られた成形用粉末を磁場中成形する工程と、
前記磁場中成形で得られた成形体を焼成する工程と、を備え、
前記粉砕する工程における粉砕効率が0.01〜1.00(m/g)/hrであり、
前記粉砕により得られた前記成形用粉末の比表面積が7.0〜13.0m/gであることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕に先立って、ソルビトール及びマンニトールの1種又は2種を分散剤として添加することを特徴とする請求項1に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕に先立って、グルコン酸Ca及びグルコノδラクトンの1種又は2種を分散剤として添加することを特徴とする請求項1に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−270792(P2008−270792A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84136(P2008−84136)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】