説明

フェライト焼結磁石の製造方法

【課題】マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石を製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式:(A1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)(ただし、AはSr又はSr及びBaであり、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必ず含み、MはCo、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種であってCoを必ず含み、0.01≦x≦0.4、[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)]、及び5≦n≦6を満たす)により表される基本組成を有し、A元素の化合物と鉄化合物とを混合した後仮焼し、得られた仮焼物の粉砕工程でR元素の化合物、M元素の化合物及びFe元素基準でFe全含有量の0.1〜11重量%となるFe3O4を添加し、平均粒径0.7〜0.9μmの微粉にし、前記微粉のスラリーを磁場中成形し、焼結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広範囲な磁石応用品分野、例えば自動車又は電気機器用の回転機、複写機用のマグネットロール等において極めて有用なマグネトプランバイト型結晶構造を有する高性能フェライト焼結磁石であって、従来のフェライト焼結磁石に比較して高い保磁力iHc(又は高い保磁力iHc及び残留磁束密度Br)及び高い限界減磁界強度(ΔH)を有する高性能フェライト焼結磁石を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、例えばモータ、発電機等の回転機を含む種々の用途に使用されている。最近は特に自動車用回転機分野では小型・軽量化を目的とし、また電気機器用回転機分野では高効率化を目的として、それぞれより高い磁気特性を有するフェライト焼結磁石が求められている。
【0003】
従来からSrフェライト又はBaフェライト等の高性能焼結磁石は、例えば以下のような工程を経て製造されている。まず酸化鉄とSr又はBaの炭酸塩等を混合後、仮焼によりフェライト化反応を起こさせ、仮焼クリンカーを製造する。次いで仮焼クリンカーを粗粉砕し、それに焼結挙動の制御を目的としたSiO、SrCO3、CaCO3等や、iHcの制御を目的としたAl2O3又はCr2O3等を添加し、溶媒中で平均粒径が0.7〜1.2μmになるまで微粉砕する。微粉砕されたフェライト原料を含有するスラリーを磁場中で配向させながら湿式成形する。得られた成形体を乾燥後焼結し、最後に所望の形状に加工する。このような方法により製造するフェライト焼結磁石を高性能化するには、下記の通り主として5通りの方法がある。
【0004】
第1の方法は微粒化法である。焼結体における結晶粒の大きさが、マグネトプランバイト(M)型Srフェライト焼結磁石の臨界単磁区粒子径である約0.9μmに近いとiHcは最大となるため、焼結時の結晶粒成長を見込んで、平均粒径が例えば0.7μm以下になるように微粉砕すればよい。しかしながらこの方法には、微粒化するほど湿式成形時の脱水特性が悪くなり、生産効率が落ちるという問題がある。
【0005】
第2の方法は焼結体の結晶粒の大きさをできるだけ均一にすることである。理想的には結晶粒の大きさを極力均一にしてその値を上記の臨界単磁区粒子径値(約0.9μm)とすればよい。この値より大きな結晶粒も小さな結晶粒もiHcの低下につながるからである。この方式による具体的な高性能化の手段は微粉の粒径分布を改善することにあるが、工業的生産の場合にはボールミルやアトライター等の粉砕機を用いざるを得ず、微粉砕による磁気特性の改善の程度には自ずから限界がある。また近年、化学的沈殿法により均一な粒子径を有するフェライト微粒子を作製する試みが公表されているが、工業的大量生産に適合する方式とはいえない。
【0006】
第3の方法は磁気的異方性を左右する結晶配向度を向上させることである。本方法における具体的手段としては、界面活性剤を微粉砕スラリーに添加してスラリー中のフェライト粒子の分散性を向上させたり、配向時の磁場強度を強くしたりすることが挙げられる。
【0007】
第4の方法は焼結体の密度を向上させることである。Srフェライト焼結体の理論密度は5.15g/ccである。現在市販されているSrフェライト焼結磁石の密度は概ね4.9〜5.0g/ccの範囲にあり、この値は対理論密度比で95〜97%に相当する。高密度化すればBrの向上が期待されるが、上記密度範囲を超えてさらに高密度化するにはHIP等の高価な高密度化手段が必要であるが、このようなプロセスの導入はフェライト焼結磁石の製造原価の高騰に結びつき、廉価な磁石としての利点が失われる。
【0008】
第5の方法はフェライト焼結磁石を構成する主成分(主相)であるフェライト化合物自体の飽和磁化σs又は結晶磁気異方性定数を向上させることである。飽和磁化σsの向上は直接的に残留磁束密度Brの向上へ結びつく可能性を有している。また結晶磁気異方性定数の向上は保磁力iHcの向上へ結びつく可能性を有している。従来から生産されているM型の結晶構造を有するフェライト化合物より大きな飽和磁化を有するW型フェライトの検討も鋭意行われているが、焼結雰囲気の制御の困難さのため量産化は実現されていない。
【0009】
上記フェライト焼結磁石の高性能化方法のうち、現在広く行われているのは第1〜第4の方法であるが、SrO・nFe2O3で表される化合物を主相とするフェライトを上記第1〜第4の方法で格段に高性能化することは、下記の理由により困難である。即ち第1の理由は、上記第1〜第4の方法が生産性を阻害する条件を有していたり、量産工程を考慮した場合に実現が困難な工程を含んでいたりすることである。第2の理由は、磁気特性、特にBrが既に理論値に近いレベルに達しているために、さらなる向上が非常に困難になっていることである。
【0010】
特開平9-115715号(特許文献1)に記載の六方晶マグネトプランバイト型焼結フェライト磁石を検討した結果、高いiHcを実現することは困難であることが分かった。
【0011】
上記第5の方法の具体的手段として、AO・nFe2O3(ただし、AはSr及び/又はBaである。)で表されるフェライトに別種の金属化合物(金属酸化物等)を添加して、フェライトのA及びFe元素の一部を別種元素で置換することにより、その磁気特性を改善することが考えられる。
【0012】
マグネトプランバイト型フェライト焼結磁石の磁性はFeイオンの磁気モーメントが担っており、この磁気モーメントがFeイオンサイトにより部分的に反平行方向に配列したフェリ磁性体の磁気構造を有している。この磁気構造において飽和磁化を向上させるには2つの方法がある。第1の方法は、反平行方向に向いた磁気モーメントに対応するサイトのFeイオンを、Feイオンより小さな磁気モーメントを有するか又は非磁性の別種の元素で置換することである。第2の方法は、平行方向に向いた磁気モーメントに対応するサイトのFeイオンを、Feイオンより大きな磁気モーメントを有する別種の元素で置換することである。
【0013】
また上記の磁気構造において結晶磁気異方性定数を増加させるための方法は、Feイオンをより結晶格子との相互作用が強い別種の元素で置換することである。具体的には軌道角運動量に由来する磁気モーメントが残存しているか又は大きい元素で置換することである。
【0014】
以上の知見を念頭におき、種々の金属化合物(金属酸化物等)を添加することにより、Feイオンを種々の元素で置換することを目的として鋭意検討した結果、Mn、Co及びNiが磁気特性を顕著に改善する元素であることが分かった。しかしながら、単に上記元素を加えただけでは十分な磁気特性の改善効果は得られない。なぜならば、Feイオンを別種の元素で置換しようとすると、イオン価数のバランスがくずれ、異相が発生してしまうためである。この現象を回避するために、電荷補償を目的にSr又はSr及びBaのイオンサイトを別種の元素で置換する必要があり、そのためにはLa、Nd、Pr、Ce等を添加するのが有効である。これにより、高いBr又はそれとともに高い保磁力を有するマグネトプランバイト型フェライト焼結磁石を得ることができる。
【0015】
第5の方法により高性能フェライト焼結磁石を製造するために、La等の希土類元素の化合物及びCo等のM元素の化合物を添加する場合、普通は仮焼前、すなわちフェライト化反応の前に添加する方法(以下単に「前添加方式」という。)を採用している。しかしながら、前添加方式により形成されたフェライト焼結磁石は高いBr及び高いiHcを有するものの、特にR=La及びM=Coの場合に、これらの元素の添加量が大きくなるに従い、角形比(Hk/iHc)が顕著に劣化する傾向が認められる。前添加方式による角形比(Hk/iHc)の劣化傾向は、R=La及びM=Co+Zn又はM=Co+Mnの場合でも認められる。角形比(Hk/iHc)の劣化傾向により限界減磁界強度(ΔH)が小さくなるので、減磁しやすくなるという問題があり、特にフェライト焼結磁石を回転機等の所定の磁気回路に組み込んだ場合に減磁のしやすさが問題になる。そのため、より高い角形比(Hk/iHc)を有することが望まれる。
【0016】
このように、保磁力iHc(又は保磁力iHc及び残留磁束密度Br)と限界減磁界強度(ΔH)の両方が満足な高性能フェライト焼結磁石が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平9-115715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、広範囲な磁石応用品分野(例えば自動車又は電気機器用の回転機、複写機用のマグネットロール等)において極めて有用であり、従来のフェライト焼結磁石に比較して高い保磁力iHc(又は高い保磁力iHc及び残留磁束密度Br)及び高い限界減磁界強度(ΔH)を有し、マグネトプランバイト型結晶構造を有する高性能フェライト焼結磁石を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、Sr化合物と鉄化合物とを含む仮焼物の粉砕工程においてR元素の化合物、M元素の化合物及びFe3O4を添加(以下単に「後添加方式」という。)し、平均粒径0.7〜0.9μmに粉砕して得られた微粉のスラリーは、湿式磁場中成形時の脱水特性が良好であり、この成形体を焼結して得られたマグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石は、良好な保磁力iHc(又は良好な保磁力iHc及び残留磁束密度Br)及び高い限界減磁界強度(ΔH)を有することを発見し、本発明に想到した。
【0020】
さらに、後添加方式の粉砕工程で、R元素の水酸化物及びM元素の水酸化物を添加し、仮焼粉を粉砕して得られた微粉のスラリーを湿式磁場中成形し、焼結して得られたフェライト焼結磁石は高い磁気特性を有することが分った。
【0021】
すなわち、本発明のフェライト焼結磁石の第一の製造方法は、下記一般式:
(A1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)
(ただし、AはSr又はSr及びBaであり、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必ず含み、MはCo、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種であってCoを必ず含み、x、y及びnはそれぞれ下記条件:
0.01≦x≦0.4,
[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)],及び
5≦n≦6
を満たす数字である。)により表される基本組成を有し、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石を製造する方法であって、
A元素の化合物と鉄化合物とを混合した後仮焼し、得られた仮焼物の粉砕工程で前記基本組成となるようにR元素の化合物、M元素の化合物及びFe元素基準で前記基本組成のFe全含有量の0.1〜11重量%となるFe3O4を添加し、前記仮焼物を平均粒径0.7〜0.9μmの微粉にし、前記微粉のスラリーを磁場中成形し、焼結することを特徴とする。
【0022】
本発明のフェライト焼結磁石の第二の製造方法は、下記一般式:
(A1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)
(ただし、AはSr又はSr及びBaであり、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種でありってLaを必ず含み、MはCo、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種であってCoを必ず含み、x、y及びnはそれぞれ下記条件:
0.01≦x≦0.4,
[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)],及び
5≦n≦6
を満たす数字である。)により表される基本組成を有し、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石を原料の混合、仮焼、粉砕、磁場中成形及び焼結により製造する方法であって、
A元素の化合物と、鉄化合物と、R元素の化合物及び/又はM元素の化合物とを混合した後仮焼し、得られた仮焼物の粉砕工程で前記基本組成となるようにR元素の化合物及び/又はM元素の化合物、並びにFe元素基準で前記基本組成のFe全含有量の0.1〜11重量%となるFe3O4を添加し、前記仮焼物を平均粒径0.7〜0.9μmの微粉にし、前記微粉のスラリーを磁場中成形し、焼結することを特徴とする。
【0023】
第一及び第二の製造方法においては、R元素の化合物はR元素の水酸化物であるのが好ましく、M元素の化合物はM元素の水酸化物であるのが好ましい。
【0024】
第二の製造方法においては、A元素の化合物と鉄化合物とを均一に混合する工程で、前記R元素の化合物及び/又は前記M元素の化合物を0原子%超で80原子%以下の割合(元素基準)で添加し、得られた均一な混合物を仮焼し、得られた仮焼粉の粉砕工程で前記R元素の化合物及び/又は前記M元素の化合物の残量を添加するのが好ましい。
【0025】
第一及び第二の製造方法においては、R元素の化合物として、La等の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は有機酸塩を添加するのが好ましい。また第一及び第二の製造方法においては、M元素の化合物として、Co等の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は有機酸塩を添加するのが好ましい。またM元素の化合物として、Co化合物のみを添加するのも好ましい。
【0026】
R元素及びM元素の後添加又は前/後添加によって高性能フェライト焼結磁石を製造すると、前添加により得られたフェライト焼結磁石と比べてR元素及びM元素の置換量(x及びyの値)の増大に起因して角形比(Hk/iHc)の劣化傾向が著しく抑制される。
【0027】
本発明の製造方法により得られるフェライト焼結磁石は、20℃において4100 G以上の残留磁束密度Br及び4000 Oe以上の保磁力iHcとを有するとともに、4πI(単位kG)−H(単位kOe)の減磁曲線において、−40℃及びpi≧3(piはパーミアンス係数)の条件で1000 Oe以上の限界減磁界強度(ΔH)を有する。
【0028】
R元素及びM元素の後添加又は前/後添加により、Br及びiHcが劣化したり、焼結体の収縮率が変動する場合があるが、仮焼後の粉砕時に鉄化合物としてFe3O4を成形工程の成形体の磁場配向性を阻害しない程度に添加することによりBr及びiHcの劣化及び収縮率変動を防止することができる。具体的には、Fe3O4の後添加量は鉄の全含有量の0.1〜11重量%(鉄元素基準)とする。鉄化合物として、Fe3O4以外のものを併用しても良い。
【0029】
後添加方式を採用するとR元素とM元素の含有量(x及びyの値)が大きくなり、それに従いモル比nが低下するために、Br及びiHcも劣化するためであることが分かった。モル比nが低下すると焼結体の寸法のばらつきを招来することも分かった。モル比nの低下のメカニズムは以下の通りである。後添加方式を用いてフェライト焼結磁石を製造する例として、SrO・5.9Fe2O3、すなわちSrFe11.8O18.7の組成式で示されるモル比n=5.9の仮焼フェライト粉を用い、Srイオンサイトの約20%をLaで置換するためにLaの酸化物を微粉砕時に添加した場合について検討する。この場合、電荷補償条件によりLa原子とほぼ同数のCo原子を含有させるために、対応する量のCo酸化物を同時に添加する。それらがすべてM相に置換されたと仮定すると、最終的に得られるフェライト焼結体の組成は以下の通りとなる。
Sr0.8La0.2Fe9.60Co0.20O15.7、すなわち
(Sr0.8La0.2)O・4.9[(Fe0.98Co0.02)2O3]。
【0030】
このように仮焼粉の工程で5.9であったモル比nが、La酸化物及びCo酸化物の後添加により4.9に低下してしまう。モル比nが5未満になると、磁性を担っているFeイオンサイトに対応する成分の相対的比率が低下して、磁気特性が大きく低下する。それと同時に成形体から焼結体に至る際の寸法変化の程度を示す収縮率が大きく変化するため、加工して得られるフェライト焼結磁石製品の寸法のばらつきを招来する。
【0031】
後添加方式の採用によるモル比nの低下分を見込んで、仮焼粉のモル比nをあらかじめ高く設定しておくことも考えられるが、この対策は有効ではない。仮に、SrO・n1Fe2O3の組成式で示される仮焼粉を用いて、微粉砕時にLa酸化物及びCo酸化物を複合添加し、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)、
(ただし、0.01≦x≦0.4、x/(2.6n)≦y≦x/(1.6n)である。)
を有する高性能フェライト焼結磁石を製造したと仮定する。n1=6.5,n=5.9になるようにx及びyの値を選択すれば、最終的に得られるフェライト焼結磁石のモル比n=5.9であるので、フェライト焼結磁石として好適なモル比nの範囲(5〜6)に入る。しかし、この場合のフェライト焼結磁石の磁気特性は非常に低くなる。この原因は仮焼粉のモル比n1が6を超えると、仮焼粉にM相以外の異相(αFe2O3等)が生成するためである。前記異相は非磁性相であるので、湿式磁場中成形工程で得られる成形体の配向性を悪化させる。よって、仮焼粉のモル比n1が6を超えると、後添加方式により最終的に得られるフェライト焼結磁石のモル比nを5〜6の範囲に調整できた場合でも、Brや角形比(Hk/iHc)等が大きく低下してしまう。
【0032】
そのため、仮焼粉のモル比nを過大にせずに、後添加方式又は前/後添加方式により得られた焼結フェライト磁石のモル比nを所望の範囲(5〜6)に設定するのに酸化鉄等の鉄化合物を後添加するのが好ましい。後添加前の仮焼粉のモル比nは5〜6であるのが好ましい。
【0033】
この他に、フェライト焼結磁石の量産が簡便であるという理由でも、後添加方式又は前/後添加方式が有利である。何故なら、後添加方式又は前/後添加方式ではR元素及びM元素を含まないかその含有量が少ないSr又はSr及びBaフェライトの仮焼粉を用いることができるからである。さらに好都合なことは、仮焼後の微粉砕工程でR元素及びM元素の含有量を調節することにより、微粉砕ロット単位でR元素とM元素の含有量を変化させたもの(即ち多様な磁気特性を有するフェライト焼結磁石)の製造が容易になるためである。
【発明の効果】
【0034】
モル比nを自在に調整できる後添加方式又は前/後添加方式を用い、仮焼粉を平均粒径0.7〜0.9μmに粉砕し、得られた微粉のスラリーを湿式磁場中成形する本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、成形体の脱水特性が良好であるため、量産が容易である。
【0035】
本発明の方法により得られるフェライト焼結磁石は、R元素の化合物及び/又はM元素の化合物の添加効果によって従来と比べて高い保磁力iHc(又は高い保磁力iHc及び残留磁束密度Br)と高い限界減磁界強度(ΔH)とを有するため、各種の回転機、アクチュエータ等に非常に有用である。
【0036】
本発明の一実施例によるフェライト焼結磁石は、従来と同等以上のBrを保持しつつそれよりも高いiHcを有するので、ABS用やスタータ用モータへの応用が期待される。
【0037】
本発明の他の実施例によるフェライト焼結磁石は、従来と同等以上のiHcを保持しつつかつそれよりも高いBrを有するので、空調機(エアコン)用やコンプレッサー用モータ等への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】参考例12のフェライト焼結磁石の磁気特性を示すグラフである。
【図2】実施例1及び参考例13のフェライト焼結磁石におけるFe3O4添加量と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図3】収縮率を説明する概略図である。
【図4】実施例1及び参考例13のフェライト焼結磁石におけるFe3O4添加量と収縮率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3及び参考例14のフェライト焼結磁石の磁気特性を示すグラフである。
【図6】実施例4のフェライト焼結磁石におけるFe3O4添加量と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図7】前添加方式による比較例4のフェライト焼結磁石のEPMA分析結果を示すグラフである。
【図8】後添加方式による参考例12のフェライト焼結磁石のEPMA分析結果を示すグラフである。
【図9】後添加方式による実施例1のフェライト焼結磁石のEPMA分析結果を示すグラフである。
【図10】前/後添加方式による実施例6のフェライト焼結磁石のEPMA分析結果を示すグラフである。
【図11】前添加方式によるフェライト焼結磁石の磁化−温度曲線を示すグラフである。
【図12】後添加方式及び前/後添加方式によるフェライト焼結磁石の磁化−温度曲線を示すグラフである。
【図13】後添加方式による実施例8のフェライト焼結磁石における角形比と減磁耐力との相関を示すグラフである。
【図14】前添加方式による比較例8のフェライト焼結磁石における角形比と減磁耐力との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[1] フェライト焼結磁石
本発明を適用し得るフェライト焼結磁石の基本組成は、下記一般式:
(A1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)
(ただし、AはSr又はSr及びBaであり、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必ず含み、MはCo、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種であってCoを必ず含み、x、y及びnはそれぞれ下記条件:
0.01≦x≦0.4,
[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)],及び
5≦n≦6
を満たす数字である。)により表される。
【0040】
本発明によるフェライト焼結磁石に良好な磁気特性を付与するために、n値(モル比)は5以上6以下でなければならない。n値が6を超える場合にはマグネトプランバイト相以外の異相(例えばα-Fe2O3)が生成し、磁気特性が大きく低下する。またn値が5未満の場合にはBrが大きく低下する。
【0041】
x値は0.01以上0.4以下とする。x値が0.01未満であれば後添加又は前/後添加の効果が不十分であり、また0.4を超えれば逆に磁気特性が低下する。
【0042】
電荷補償と関連してR元素とM元素の添加量比の許容範囲について検討するために、A元素としてSr、R元素としてLa、M元素としてCoをそれぞれ選択し、SrCO3、Fe2O3、La2O3及びCo3O4を、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=0.77〜2.08x10-2、n=6.0。)になるように配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼し、得られた粗粉の磁気特性を測定した。その結果、電荷バランスが完全に満たされる条件、即ちy=x/2nが成り立つx/yの添加量比に限定されず、x/ny値が1.6から2.6の範囲にあれば、磁気特性の実質的な劣化は認められないことが分かった。y値がx/(2.0n)からずれた場合、Fe2+を含む場合があるが、何ら支障はない。一方、x/ny値が2.6を超えた場合又は1.6未満の場合には磁気特性の顕著な減少が認められた。従って、x/nyの範囲は1.6以上2.6以下である。これをyについて整理すると、yの範囲は下記の式:
[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)]
で示される。典型的な例では、yの範囲は0.04以下であり、特に0.005〜0.03である。なおRとM元素の含有量がy=x/(2.0n)を満足する場合でも、R及び/又はM元素が粒界近傍で高濃度であることがあるが、何ら支障はない。
【0043】
後添加方式又は前/後添加方式のいずれの場合でも、R元素はLa、Nd、Pr、Ceからなる群から選ばれた少なくとも1種であってLaを必ず含むのが好ましい。本発明によるフェライト焼結磁石の一例では、飽和磁化の向上のためにRに占めるLaの比率を好ましくは50原子%以上とし、より好ましくは70原子%以上とし、特に好ましくは99原子%以上とする。RがLa単独でも良い。
【0044】
M元素はCo単独であるか、CoとMn及び/又はNiであるのが好ましい。特に従来のフェライト焼結磁石と比べて高いBrとともに高いiHcを有するために、MとしてCoとMn及び/又はNiを選択するのが好ましい。Mnは、無添加の場合の電荷補償条件により規定されるより少ないR元素の添加量でも良好な磁気特性が得られるという作用を有する。
【0045】
Mnを含有する場合は、他のM元素との合計量を100原子%として、Mnの含有量を0.4原子%以上とするのが好ましい。例えば、MがCo及びMnからなる場合は、Co+Mnを100原子%として、Mn含有量を好ましくは0.4〜75原子%とし、より好ましくは0.7〜60原子%とし、特に好ましくは1〜50原子%とする。Mn含有量が0.4原子%未満ではMnの含有によるBrの向上効果が認められず、また75原子%を超えるとiHcが大きく低下する。
【0046】
M元素として、Co+Mn+Ni(Zn)を選択した場合、Co+Mn+Ni(Zn)を100原子%として、Mn含有量を好ましくは0.4〜75原子%とし、より好ましくは0.7〜60原子%とし、特に好ましくは1〜50原子%とする。
【0047】
MがCo及びNiからなる場合は、従来のフェライト焼結磁石と比べて高いBrとともに高いiHcを確保するために、M元素全体を100原子%として、Mに占めるNi含有比率を好ましくは10〜75原子%とし、より好ましくは10〜60原子%とし、特に好ましくは10〜50原子%とする。Mに占めるNiの比率が10原子%未満ではBrの向上効果が顕著でなく、また75原子%を超えるとiHcが大きく低下する。
【0048】
本発明の後添加方式又は前/後添加方式により得られたフェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト型結晶構造を有し、R元素がLaでかつM元素がCoである場合は20℃において4,100 G以上の残留磁束密度Brと4,000 Oe以上の保磁力iHcと92.3%以上の角形比(Hk/iHc)とを有し、またR元素がLaでかつM元素がCoとZnである場合は20℃において4,200 G以上の残留磁束密度Brと3,000 Oe以上の保磁力iHcと93.5%以上の角形比(Hk/iHc)とを有する。
【0049】
ここで、角形比を求めるのに測定するパラメータであるHkは、4πI(磁化の強さ)−H(磁界の強さ)曲線の第2象限において4πIが0.95 Brの値になる位置のH軸の読み値である。このHkを前記減磁曲線のiHcで除した値(Hk/iHc)が角形比として定義される。
【0050】
本発明によるフェライト焼結磁石においては、M元素がマグネトプランバイト型フェライト結晶粒内に十分固溶しているが、結晶粒界における濃度は結晶粒内における濃度より高い傾向がある。
【0051】
[2] 製造方法
前記基本組成物は、原料粉の混合、仮焼、仮焼物の粉砕、成形、焼結及び加工を基本とするフェライト焼結磁石の標準的な製造工程において、粉砕工程以降で実質的に形成することができる。
【0052】
R元素の供給原料として、R元素の酸化物又は水酸化物、特に水酸化物を添加するのが好ましい。具体的には、La2O3等の酸化物、La(OH)3等の水酸化物、La2(CO3)3・8H2O等の炭酸塩水和物、La(CH3CO2)3・1.5H2O、La2(C2O4)3・10H2O等の有機酸塩の1種又は2種以上を用いることができる。またLa以外のR元素(Nd、Pr、Ce)の酸化物、水酸化物、炭酸塩及び有機酸塩を用いることもできる。さらに混合希土類(La、Nd、Pr、Ce)の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩の1種又は2種以上を用いることもできる。R元素の水酸化物を添加すると、酸化物よりもBr、iHc及び角形比(Hk/iHc)が良好になる傾向がある。またLa、Nd、Pr及びCeの1種又は2種以上を50原子%以上含む安価なミッシュメタル(混合希土類金属)等を用いても良い。
【0053】
M元素の化合物として、M元素の酸化物、水酸化物又は炭酸塩を用いることができる。具体的には、Co3O4等の酸化物、Co(OH)2、Co3O4・m1H2O等の水酸化物(m1は正の数字である。)、CoCO3等の炭酸塩、m2CoCO3・m3Co(OH)2・ m4H2O等の塩基性炭酸塩(m2、m3、m4は正の数字である。)の1種又は2種以上を用いることができる。またZnの酸化物、水酸化物又は炭酸塩を用いることもできる。M元素の水酸化物を添加すると、酸化物よりもBr、iHc及び角形比(Hk/iHc)が良好になる傾向がある。
【0054】
後添加方式及び前/後添加方式のいずれの場合も、モル比nを調整するために、仮焼後の粉砕時(特に微粉砕時)に鉄化合物としてFe3O4を添加する。粉砕時に鉄化合物を添加することにより、微粉砕工程でy、n値を自在に調整することができる。
【0055】
Fe3O4の後添加量は、Fe元素基準で全Fe量の0.1〜11重量%とするのが好ましい。Fe3O4の後添加量が、0.1重量%未満では添加効果が不十分であり、また11重量%を超えると成形時の磁場配向性が低下し、Brが大きく低下する。
【0056】
Fe3O4以外の鉄化合物として、Fe2O3(α-Fe2O3、γ-Fe2O3)及びFeO等の酸化物、Fe(OH)2、Fe(OH)3、FeO(OH)等の水酸化物の1種又は2種以上を用いてもよい。
【0057】
鉄化合物の後添加によりモル比nが向上し、その結果、角形比も改善される。例えば、R元素がLaでM元素がCoのとき、フェライト焼結磁石は20℃において92.3%以上の角形比(Hk/iHc)を有し、またR元素がLaでM元素がCoとZnであるとき、20℃において93.5%以上の角形比(Hk/iHc)を有する。さらにいずれの場合も得られたフェライト焼結磁石は安定した収縮率を示す。
【0058】
仮焼後の粉砕工程において、Co化合物に替えてCoO・Fe2O3を、Mn化合物に替えてMnO・Fe2O3を、Zn化合物に替えてZnO・Fe2O3を、Co及びMn化合物に替えて(Co,Mn)O・Fe2O3を、Mn及びZn化合物に替えて(Mn,Zn)O・Fe2O3を、Co及びZn化合物に替えて(Co,Zn)O・Fe2O3を、CoとZnとMnとの化合物に替えて(Co,Mn,Zn)O・Fe2O3で示されるスピネル型フェライト化合物を、それぞれ添加することにより、後添加方式によるモル比nの低下を抑えることができる。
【0059】
仮焼後の粉砕工程で、フェライト焼結体の最終組成と等しい組成になるようにR元素の化合物及び/又はM元素の化合物粉末、並びにFe3O4粉末を添加し、仮焼粉の平均粒径が0.7〜0.9μmになるまで湿式微粉砕する。微粉砕スラリーは濃縮又は乾燥、解砕し、続いて混練、湿式磁場中成形、焼結する。
【0060】
平均粒径で0.7μm未満まで湿式微粉砕すると、焼結時に異常な結晶粒成長が生じ保磁力が低下するとともに、湿式磁場中成形時の脱水特性が悪化する。また粉末の平均粒径が0.9μmを超えている場合は、フェライト焼結体の組織中に粗大な結晶粒が多く存在する。
【0061】
仮焼後の粉砕工程で、焼結現象を制御する元素としてSiO2、CaO、CaCO3等を添加するのが好ましい。SiO2は焼結時の結晶粒成長を抑制する添加物であり、その含有量はフェライト焼結磁石の基本組成を100重量%として0.05〜0.5重量%が好ましい。0.05重量%未満では焼結時に結晶粒成長が過度に進行し、保磁力が低下する。0.5重量%を超えると結晶粒成長が過度に抑制され、結晶粒成長とともに進行する配向度の改善が不十分となり、Brが低下する。
【0062】
CaOは結晶粒成長を促進する元素であり、その含有量はフェライト焼結磁石の基本組成を100重量%として0.35〜0.85重量%が好ましい。0.85重量%を超えると焼結時に結晶粒成長が過度に進行し、保磁力が低下する。また0.35重量%未満では結晶粒成長が過度に抑制され、結晶粒成長とともに進行する配向度の改善が不十分となり、Brが低下する。
【0063】
前/後添加方式によるフェライト焼結磁石は、前添加方式及び後添加方式のほぼ中間のミクロ組織を示すことが多い。前/後添加方式において、仮焼後の粉砕時(特に微粉砕時)に添加するR元素が全R含有量の20原子%以上、特に40原子%以上で100原子%未満、例えば50〜80原子%であると、角形比(Hk/iHc)の改善が良好である。また前/後添加方式において、仮焼後の粉砕時(特に微粉砕時)に添加するM元素が全M含有量の20原子%以上、特に40原子%以上で100原子%未満であると、角形比(Hk/iHc)の改善が顕著である。
【0064】
高性能のフェライト焼結磁石を得るには、組成が適当に制御されたフェライト粉末を準備することに加えて、フェライト粉末がスラリー中で凝集しないことが重要である。そこでフェライト粉末の各粒子がスラリー中で独立して存在し得る状態を作り出すべく種々検討した結果、フェライト粉末を湿式微粉砕後、微粉スラリーを乾燥又は濃縮した高濃度のスラリーとし、続いて分散剤を添加して混練する。これにより凝集が解かれ、フェライト磁石粉末の配向性が向上し、磁気特性が向上することが分かった。また混合時に分散剤を添加することにより、分散剤の吸着による表面改質で良好な分散状態となり、さらに磁力が向上することが分かった。
【0065】
分散剤としては、界面活性剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸石鹸、高級脂肪酸エステル等が知られているが、アニオン系界面活性剤の一種であるポリカルボン酸系分散剤を使用することによりフェライト粒子の分散性が向上し、フェライト粒子の凝集を有効に防止できることが分かった。ポリカルボン酸系分散剤にも種々あるが、フェライト粒子の分散性向上に特に有効なものはポリカルボン酸アンモニウム塩である。
【0066】
分散剤の添加量は微粉スラリーの固形分に対し、0.2〜2重量%が好ましい。0.2重量%未満では添加効果が認められず、また2重量%を超えると逆に残留磁束密度が低下する。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
参考例1〜参考例11及び比較例1〜比較例3
SrCO3、Fe2O3、R元素の酸化物及びM元素の酸化物を下記基本組成:
(Sr1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)
(ただし、n=6.0、x=0.15、y=x/2n=0.0125)になるよう配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。R元素として、Srイオンと類似のイオン半径を有することを基準にしてLaを選択した。またM元素として、Feイオンと類似のイオン半径を有することを基準として、表1に示すようにTi、V、Mn、Co、Ni、Cu及びZnを選択した。
【0069】
比較例1として、上記基本組成式においてn=6.0、x=y=0(即ちSrO・6.0Fe2O3)で示される組成物を同様な方法で仮焼した。また比較例2及び比較例3として、表1に示すように、R元素をLaとし、M元素をCu又はCo+Cuとした以外参考例1と同じ組成を有する仮焼物を作製した。
【0070】
各仮焼物をローラーミルにより乾式粗粉砕し、得られた各粗粉の磁気特性を振動試料型磁力計により測定した。測定条件は最大磁場強度が12 kOeであり、σ−1/H2プロットにより飽和磁化σs及びHcを求めた。さらにX線回折により生成した相の同定を行った結果を概略的に表1に示す。表1に示すように、M元素としてCuを含まない場合は、いずれもマグネトプランバイト相(M相)のX線回折ピークのみが認められた。さらに表1より、R元素ではLa、M元素ではMn、Mn+Co、Ni、Ni+Coをそれぞれ選択した場合に、比較例1に比較して高いσs(又は高いσsとHc)を有しており、焼結によりバルクの磁石とした場合に高性能フェライト磁石材料となりうるポテンシャルを有していることが分かる。
【0071】
本発明において、さらにLaとMn+Ni、LaとMn+Co+Ni、LaとMn+Co+Zn、LaとCo+Ni+Zn、LaとMn+Ni+Zn、LaとMn+Co+Ni+Znのいずれかの組み合わせを採用することができる。これらのうちでCoを含有する場合は従来と比べて高いBrと高いiHcとを具備するためにM元素におけるCoの含有比率を10原子%以上とすることが望ましい。
【0072】
【表1】

【0073】
参考例12
SrCO3及びFe2O3をSrO・nFe2O3(n=5.95)の基本組成になるよう配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後、アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.80μmの微粉を含むスラリーを得た。この際、各粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0〜2.5重量%のLa2O3及び0〜2.3重量%のCoOを添加した。また比較材として、粗粉の微粉砕工程の初期に1.3重量%のCr2O3を添加したスラリーを作製した。いずれの場合にも、粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0.50重量%のSrCO3、0.30重量%のSiO2及び0.80重量%(CaO換算で0.45重量%)のCaCO3を焼結助剤として添加した。例えばLa2O3を2.50重量%及びCoOを1.15重量%添加した場合の最終基本組成は、近似的に下記式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(x=0.15、y=x/2n、n=5.25)に相当する。
【0074】
0.80μmの各微粉を含むスラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形し、得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を図1に示す。
【0075】
図1において、La2O3を2.50重量%及びCoOを1.15重量%添加した場合(▽)には、無添加の場合(○)に比較して特にiHcが格段に改善されていることが分かる。またiHcを増加させるために通常添加するCr2O3添加の場合(×)に比べ、高iHc領域におけるBrの減少が著しく少ないことが分かる。さらにCoOの単独添加の場合(△,□)、又は電荷補償のバランスがくずれた場合(◇)には、iHcが低かった。
【0076】
参考例12より、Srフェライト焼結磁石の仮焼粗粉を作製した後で微粉砕する際に、La化合物及びCo化合物を添加することにより所望の基本組成に調整する後添加方式を採用すると、元のSrフェライト焼結磁石よりも高いBr及びiHcを有するようになることが分かる。
【0077】
次にLa2O3及びCoOを微粉砕工程で添加して作製した焼結体から適当なサイズに切り出してなる試料に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。この試料のマグネトプランバイト型フェライト結晶粒内及び結晶粒界のSEM分析結果を表2に示す。表2より、La(R元素)及びCo(M元素)はマグネトプランバイト型フェライト結晶粒内にも十分固溶しているが、結晶粒界にも多く存在することが分かる。さらにこの試料の結晶粒界及び結晶粒内のそれぞれ20箇所をSEM等により分析したところ、La(R元素)及び/又はCo(M元素)がマグネトプランバイト型フェライト結晶粒内よりも結晶粒界でより高濃度となる傾向があることが分かった。これは明らかに、仮焼後の微粉砕工程でLa2O3及びCoOを添加して焼結体の基本組成に調整する後添加方式によりフェライト焼結磁石を作製したことと密接に関連している。
【0078】
【表2】

【0079】
参考例12ではR=La、M=Coの場合を示したが、他のR元素及びM元素を組み合わせて形成したフェライト焼結磁石の場合でも、参考例12と同様のミクロ組織を持つ場合には高い保磁力iHc(又は高い保磁力iHc及び残留磁束密度Br)を有する。
【0080】
実施例1
実施例1は、後添加方式によりフェライト焼結磁石を製造するに際し、仮焼後の微粉砕時に鉄化合物(Fe3O4)を添加することにより、磁気特性及び収縮率の変動が低減することを示す。
【0081】
SrCO3及びFe2O3をSrO・nFe2O3(n=5.9)の基本組成になるように配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が約0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして2.5重量%のLa2O3及び1.2重量%のCo3O4を添加するとともに、2〜8重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加した。さらに粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0.1重量%のSrCO3、1.0重量%のCaCO3及び0.3重量%のSiO2を焼結助剤として添加した。得られた各微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形し、得られた各成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体の基本組成はほぼ下記組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.32〜5.67。)に対応している。
【0082】
各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を図2に示す。図2の縦軸はBr(kG)、横軸はiHc(kOe)である。
【0083】
参考例13
Fe3O4を添加しない以外は実施例1と同様にして、下記基本組成式:
(Sr1-xLax)O・5.20[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n。)により示されるフェライト焼結磁石を作製した。得られたフェライト焼結磁石のモル比nは5.20に低下していた。実施例1と同様にして測定した磁気特性を図2に示す。
【0084】
図2より、Fe3O4を2〜8重量%添加した場合には、Fe3O4の添加量が0重量%の場合と比べて、磁気特性が向上していることが分かる。例えばFe3O4を6重量%添加した場合はFe3O4の添加量が0重量%の場合(参考例13)と比べて、等しいiHcの値のときに比較して、Brが約100 G向上しており、また等しいBrの値のときに比較して、iHcが約600 Oe向上していた。
【0085】
さらに図2に関連した検討から、Fe3O4の添加量を0.1〜11重量%(Fe元素基準)とすれば、Fe3O4の添加量が0重量%の場合(参考例13)と比べてBr、iHc及び角形比(Hk/iHc)を改善できるとともに、収縮率も安定化できることが分かった。またFe3O4の添加量を0.1〜11重量%(Fe元素基準)とした場合では、20℃におけるBrが4,150〜4,400 Gで、iHcが4,050〜4,500 Oeで、角形比(Hk/iHc)が94.5〜96%の高保磁力型高性能フェライト焼結磁石が得られた。
【0086】
次に、Fe3O4の添加量と収縮率との相関を検討する。図3に示すように、収縮率には、湿式成形時の磁場印加方向にほぼ一致する磁気異方性方向(Mag.)に沿った収縮率(Sh//)と、それに垂直な方向の収縮率(Sh⊥)とがあり、それぞれ以下の通り定義される。
(Sh//)=(h1−h2)/h1×100(%),
(Sh⊥)=(l1−l2)/l1×100(%),
l1:成形体の長さ、l2:焼結体の長さ,
h1:成形体の厚さ、h2:焼結体の厚さ。
【0087】
実施例1及び参考例13で得られたフェライト焼結磁石のiHcと(Sh⊥)との相関に対するFe3O4の添加量(モル比n)依存性を図4に示す。図4において、例えばFe3O4添加量8.0重量%添加の5点の(◇)プロットは焼結温度1210〜1230℃による(Sh⊥)の変動範囲を示している。各Fe3O4添加量において(Sh⊥)の変動幅をΔ(Sh⊥)とし、Δ(Sh⊥)=(Sh⊥の最大値)−(Sh⊥の最小値)で定義する。図4より、Fe3O4添加量(モル比n)の増加とともに収縮率の変動幅Δ(Sh⊥)が小さくなることが分かった。さらに、Fe3O4添加量を15重量%まで増加すれば、モル比nを約6まで増加できると同時にΔ(Sh⊥)を非常に小さくすることができる。よって、後添加方式によるフェライト焼結磁石であって、(Sh⊥)=11〜13.5%でかつΔ(Sh⊥)=0.05〜0.9%の範囲内で(Sh⊥)及びΔ(Sh⊥)を自在に調整可能である。フェライト焼結磁石製品の寸法ばらつきを抑えるために、Δ(Sh⊥)をより好ましくは0.05〜0.8%、さらに好ましくは0.05〜0.5%、特に好ましくは0.05〜0.3%とする。
【0088】
さらに各Fe3O4添加量において(Sh⊥/Sh//)の変動幅をΔ(Sh⊥/Sh//)とし、Δ(Sh⊥/Sh//)=(Sh⊥/Sh//の最大値)−(Sh⊥/Sh//の最小値)で定義する。図4に関連した測定結果から、Fe3O4添加量(モル比n)の増加とともに収縮率の変動幅Δ(Sh⊥/Sh//)も小さくなることが分かった。さらにFe3O4添加量を15重量%に増加すれば、モル比nを約6まで増加できるとともに、Δ(Sh⊥/Sh//)を非常に小さくすることができる。よって、後添加方式によるフェライト焼結磁石であって、(Sh⊥/Sh//)=1.6〜2.4でかつΔ(Sh⊥/Sh//)=0.05〜0.30の範囲内で、(Sh⊥/Sh//)及びΔ(Sh⊥/Sh//)を自在に調整可能である。フェライト焼結磁石製品の寸法ばらつきを抑えるために、モル比nがほぼ6に近いほどΔ(Sh⊥/Sh//)は小さくなり、かつ(Sh⊥/Sh//)=1.9〜2.2に調整できるとともに、Δ(Sh⊥/Sh//)を、より好ましくは0.05〜0.20、さらに好ましくは0.05〜0.15、特に好ましくは0.05〜0.10にすることができる。
【0089】
比較例4
R元素としてLa、M元素としてCoをそれぞれ選択し、SrCO3、Fe2O3、La2O3、Co3O4を、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0〜0.5、y=x/2n、n=5.85。)になるよう配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉砕粉とした。その後、アトライターにより湿式微粉砕し、平均粒径が0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。微粉砕工程の初期に、微粉重量を基準にして0.40重量%のSiO2及び0.80重量%(CaO換算で0.45重量%)のCaCO3を焼結助剤として添加した。得られた微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形し、得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工した。
【0090】
実施例2
SrCO3及びFe2O3をSrO・nFe2O3(n=5.6)で示される基本組成になるよう配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。以降は実施例1と同様にして、後添加方式により粗粉の微粉砕工程の初期に2〜8重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加してフェライト焼結磁石を得た。得られた各焼結体の基本組成はほぼ下記組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.01〜5.35。)に対応している。
【0091】
このうちn=5.01〜5.20のフェライト焼結磁石は参考例13のものとほぼ同等の高い磁気特性を有しており、十分実用に供することができる。またnが5.20を超えるフェライト焼結磁石は、実施例1で得られた同モル比のフェライト焼結磁石とほぼ同等の高い磁気特性を有していた。
【0092】
比較例5
SrO・nFe2O3の基本組成式で示される仮焼前の混合時の配合モル比nを6.3に調整後仮焼するとともに、後添加方式により粗粉の微粉砕工程の初期に6重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加した以外は実施例1と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。得られたフェライト焼結磁石の組成はほぼ下記組成式:
(Sr1-xLax)O・5.94[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、y=x/2n、x=0.15。)に対応する。
【0093】
このフェライト焼結磁石の磁気特性は図2にプロットできない低い値だった。この比較例5の仮焼粉には、フェライト化反応が十分進行しなかったためと判断されるα-Fe2O3の析出がかなり認められた。このα-Fe2O3の析出によって最終的に得られるフェライト焼結磁石の磁気特性が劣化することが分かった。
【0094】
実施例3及び参考例14
SrCO3及びFe2O3をSrO・nFe2O3(n=5.9)で示される基本組成になるよう配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後、アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が約0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして2.5重量%のLa2O3及び1.2重量%のCo3O4を添加するとともに、6重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加した。さらに粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0.3重量%のSrCO3、1.0重量%のCaCO3及び0.3重量%のSiO2を焼結助剤として添加した。得られた2種の微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形し、得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結し、実施例3の焼結体を得た。
【0095】
6重量%のFe3O4(マグネタイト)を6.2重量%のFe2O3(ヘマタイト)に置き換えた以外は実施例3と同様にして、参考例14の焼結体を得た。
【0096】
実施例3及び参考例14の焼結体はほぼ下記の組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.55(6重量%のFe3O4添加の場合)、又はn=5.50(6.2重量%のFe2O3添加の場合)。)を有していた。
【0097】
得られた各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を図5に示す。図5の縦軸はBr(kG)、横軸はiHc(kOe)である。
【0098】
図5及びそれに関連した検討より、6重量%のFe3O4(マグネタイト)又は6.2重量%のFe2O3(ヘマタイト)を添加することにより、参考例13と比べて磁気特性及びΔ(Sh⊥)、Δ(Sh⊥/Sh//)が顕著に改善されることが分かった。このように、後添加方式においてFe3O4(マグネタイト)と同様Fe2O3(ヘマタイト)も有効である。
【0099】
実施例4
SrCO3及びFe2O3をSrO・nFe2O3(n=5.9)で示される基本組成になるよう配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後、アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして2.5重量%のLa2O3、0.6重量%のCo3O4及び0.6重量%のZnOを添加するとともに、2〜8重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加した。さらに粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0.1重量%のSrCO3、1.0重量%のCaCO3及び0.3重量%のSiO2を焼結助剤として添加した。得られた各微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体の基本組成はほぼ下記組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.32〜5.67。)に対応している。
各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を図6に示す。図6の縦軸はBr(kG)、横軸はiHc(kOe)である。
【0100】
参考例15
Fe3O4を後添加しない以外は実施例4と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、磁気特性を測定した。Fe3O4を後添加せずに得られたフェライト焼結体の基本組成はほぼ下記の組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.20。)に対応している。このフェライト焼結磁石の磁気特性を図6に示す。
【0101】
図6より、2〜8重量%のFe3O4を後添加した場合(実施例4)には、Fe3O4が無添加の場合(参考例15)と比べて、磁気特性が向上していることが分かる。例えばFe3O4を6〜8重量%添加した場合では、無添加の場合と比べて、等しいiHcのときに比較してBrが約100 G向上しており、また等しいBrのときに比較してiHcが約600 Oe向上していた。
【0102】
関連した検討から、Fe3O4の添加量を0.1〜11重量%(Fe元素基準)とすれば、Fe3O4が無添加の場合(参考例15)と比べて磁気特性が改善されるとともに、収縮率を安定化できることが分かった。具体的には、Fe3O4の後添加により、20℃において、Br=4,250〜4,450 G、iHc=3,000〜3,800 Oe、角形比(Hk/iHc)=94.5〜97%の高Br型高性能フェライト焼結磁石が得られた。このフェライト焼結磁石の(Sh⊥)=11〜13.5%でかつΔ(Sh⊥)=0.05〜0.9%の範囲内で、(Sh⊥)及びΔ(Sh⊥)を自在に調整することができる。またフェライト焼結磁石の寸法ばらつきを抑えるために、Δ(Sh⊥)をより好ましくは0.05〜0.8%、さらに好ましくは0.05〜0.5%、特に好ましくは0.05〜0.3%とすることができる。それとともに、(Sh⊥/Sh//)=1.6〜2.4でかつΔ(Sh⊥/Sh//)=0.05〜0.30の範囲内で(Sh⊥/Sh//)及びΔ(Sh⊥/Sh//)を自在に調整可能である。フェライト焼結磁石の寸法ばらつきを抑えるために、モル比nがほぼ6に近いほどΔ(Sh⊥/Sh//)は小さくなり、かつ(Sh⊥/Sh//)=1.9〜2.2に調整できるとともに、Δ(Sh⊥/Sh//)をより好ましくは0.05〜0.20、さらに好ましくは0.05〜0.15、特に好ましくは0.05〜0.10にすることができる。
【0103】
実施例5
SrCO3及びFe2O3をSrO・nFe2O3(n=5.6)で示される基本組成式になるよう配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。以降は実施例4と同様にして、後添加方式により粗粉の微粉砕工程の初期に2〜8重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加してフェライト焼結磁石を得た。得られた各焼結体の基本組成はほぼ下記組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.00〜5.34。)に対応している。
このうちn=5.00〜5.20のものは参考例15のものとほぼ同等の高い磁気特性を有しており、十分実用に供することができる。またnが5.20を超えるものは実施例4で得られた同モル比のものと同等の磁気特性を有していた。
【0104】
参考例16
粗粉の微粉砕工程の初期にFe3O4(マグネタイト)を添加しない以外は実施例5と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、磁気特性を測定した。得られたフェライト焼結磁石は角形比(Hk/iHc)が93.5%であった。
【0105】
実施例6
SrCO3、Fe2O3、La2O3及びCo3O4を下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.075、y=x/2n、n=5.9。)になるよう配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕し、平均粒径が約0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして1.25重量%のLa2O3及び0.6重量%のCo3O4を添加するとともに、1〜4重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加した。さらに粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0.1重量%のSrCO3、1.0重量%のCaCO3及び0.3重量%のSiO2を焼結助剤として添加した。各微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた各成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体の基本組成はほぼ下記組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、y=x/2n、x=0.15、n=5.61〜5.78。)に対応している。
【0106】
各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定したところ、いずれも図2のほぼ同モル比のものとほぼ同等の高い磁気特性を有していた。
【0107】
参考例17
粗粉の微粉砕工程の初期に、Fe3O4(マグネタイト)を添加しない以外は実施例6と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、その磁気特性を測定した。
【0108】
実施例6と参考例17の比較から、Fe3O4の添加量の増加とともに磁気特性が少しずつ向上し、かつΔ(Sh⊥)及びΔ(Sh⊥/Sh//)が小さくなる傾向が認められた。
【0109】
実施例7
SrCO3、Fe2O3、La2O3、Co3O4及びZnOを下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.075、y=x/2n、n=5.9。)になるよう配合し、湿式混合した後、1250℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして1.25重量%のLa2O3、0.3重量%のCo3O4及び0.3重量%のZnOを添加するとともに、1〜4重量%のFe3O4(マグネタイト)を添加した。さらに粗粉の微粉砕工程の初期に、0.1重量%のSrCO3、1.0重量%のCaCO3及び0.3重量%のSiO2を焼結助剤として添加した。得られた各微粉砕スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体の基本組成はほぼ下記の組成式:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.60〜5.77。)に対応している。
【0110】
各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定したところ、いずれも図6の同モル比のものとほぼ同等の高い磁気特性を有していた。またΔ(Sh⊥)も0.5%未満で安定していた。
【0111】
参考例18
粗粉の微粉砕工程の初期にFe3O4(マグネタイト)を添加しない以外は実施例7と同様にして、フェライト焼結磁石を作製し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。
【0112】
実施例7と参考例18の比較から、Fe3O4の添加量の増加とともに磁気特性が少しずつ向上し、かつΔ(Sh⊥)、Δ(Sh⊥/Sh//)が小さくなる傾向が認められた。
【0113】
La及びCoで複合置換してなるとともに、モル比nを自在に調整できる後添加方式又は前/後添加方式を採用することにより、0.1≦x<0.2の組成を選択すれば、20℃においてBr=4,400〜4,500 G、iHc=4,400〜4,500 Oe、(Hk/iHc)=95〜96%である高保磁力型の高性能フェライト焼結磁石を実現することができる。
【0114】
Brを低下させるがiHcを顕著に増加させるCr2O3及び/又はAl2O3を0.1〜2重量%、より好ましくは0.2〜1.5重量%、特に好ましくは0.3〜1.0重量%添加することにより、従来と比べて高いBrを保持しつつ、より高保磁力型の高性能フェライト焼結磁石を提供することができる。Cr2O3及び/又はAl2O3が0.1重量%未満では添加効果が認められず、2重量%を超えるとBrが大きく低下する。よって、本発明によるフェライト焼結磁石に例えば0.3〜1.0重量%のAl2O3及び/又はCr2O3を添加すれば、20℃においてBr=4,200〜4,300 G、iHc=4,800〜5,200 Oeの非常に保磁力の高い高性能フェライト焼結磁石を実現することが可能である。
【0115】
LaとCoとZnを複合置換してなるとともにモル比nを自在に調整できる後添加方式又は前/後添加方式を採用した場合、20℃においてBr=4,400〜4,600 G、iHc=3,300〜3,800 Oe、(Hk/iHc)=95〜97%である高Br型の高性能フェライト焼結磁石を実現することができる。
【0116】
上記実施例及び参考例では、マグネタイト又はヘマタイト等のFe化合物の後添加時期を微粉砕時としたが、本発明においては仮焼の後であればFe化合物の後添加時期は特に限定されず、フェライト化反応を終えた仮焼粉の状態から、成形に供されるまでの任意の時期において、Fe化合物を後添加できる。Fe化合物の後添加時期を微粉砕工程以外とする場合は、攪拌混合等の均一混合手段を併用するのが好ましい。またR元素の化合物及び/又はM元素の化合物を後添加する場合も、フェライト化反応を終えた仮焼粉の状態から、成形に供されるまでの任意の時期において可能である。
【0117】
本発明によるフェライト焼結磁石の製造に際し、希土類元素の化合物として水酸化物を添加すれば反応性が改善されて、磁気特性が向上することが分かった。この磁気特性の向上を実現する第一の因子は、La等のR元素の水酸化物は希土類酸化物に比較して微細な粉末になっているためであると考えられる。第二の因子は、仮焼又は焼結時の昇温過程において希土類元素の水酸化物が分解して酸化物に変化する際に、一次結晶粒が微細化し反応性が向上するためであると考えられる。第三の因子は、上記分解反応自体が反応性を高めるためである。これらの第一から第三の因子は、Co等の前記M元素の水酸化物においても同様に存在すると考えられる。
【0118】
量産に好適な一例は、仮焼後の粉砕時(特に微粉砕時)にR元素及びM元素の水酸化物を添加して、最終的に本発明によるフェライト焼結磁石の組成物にすることである。R元素及び/又はM元素の水酸化物の添加による磁気特性の向上効果は、後添加方式の場合に顕著である。後添加方式においては高温加熱過程を経るのは一回(焼結)のみのため、酸化物による後添加方式と比べて水酸化物の良好な反応性の効果が顕著に現れるからであると判断される。
【0119】
この応用例として、例えばM元素の水酸化物を後添加方式により添加する場合、その水酸化物粉末を直接添加する替わりに、CoCl2水溶液中にフェライト原料粉末を分散させた後NaOH又はNH4OH等のアルカリ性物質を加えて、M元素の水酸化物を形成せしめた状態のものを添加することも可能である。Laの場合も同様のことが可能である。
【0120】
参考例19
SrCO3及びFe2O3をSrO・5.9Fe2O3の基本組成になるよう配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後、アトライターにより湿式微粉砕し、平均粒径が0.7〜0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、La(OH)3及びCo(OH)2を添加し、さらに焼結助剤としてSrCO3、CaCO3及びSiO2を粗粉重量を基準にしてそれぞれ0.50重量%、0.80重量%及び0.45重量%添加した。得られた微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体は(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](x=0.15、y=x/2n、n=5.20)の組成を有していた。各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表3に示す。
【0121】
参考例20
粗粉の微粉砕工程の初期に、x=0.15、y=x/2nになるようにLa2O3及びCo3O4を添加した以外は参考例19と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表3に示す。
【0122】
比較例6
x=0.15になるように仮焼前の混合段階でLa2O3及びCo3O4を添加し、粗粉の微粉砕工程におけるLa(OH)3及びCo(OH)2の添加は行わなかった以外は参考例19と同様にして仮焼以降の処理を行い、フェライト焼結磁石を作製し、磁気特性を測定した。結果を表3に示す。
【0123】
【表3】

【0124】
表3のBr、iHc及び角形比(Hk/iHc)は20℃で測定した。(Hk/iHc)値は減磁曲線の角形比を表すだけでなく、M型フェライト焼結体のAイオンサイト及びFeイオンサイトへのLa元素及びCo元素の置換の有効性を表す一指標であると考えられる。
【0125】
表3の参考例19と参考例20及び比較例6の比較から、微粉砕時に、La化合物及びCo化合物としてLa(OH)3及びCo(OH)2を添加することにより、角形比(Hk/iHc)を良好に維持しつつ、iHcを顕著に向上できることが分かる。
【0126】
参考例21
1200℃で2時間大気中で仮焼することにより、SrO・6.0Fe2O3で表される基本組成の仮焼物を得た。続いて、ローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)O](ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.3。)で表される基本組成になるように、Co3O4、ZnO及びLa(OH)を添加した。
【0127】
また粗粉の微粉砕工程の初期に、焼結助剤としてSrCO3、SiO2及びCaCO3を粗粉重量を基準にしてそれぞれ0.50重量%、0.40重量%、0.80重量%(CaO換算で0.45重量%)添加した。次に、得られた微粉スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表4に示す。
【0128】
参考例22
微粉砕時の添加化合物として、La(OH)に替えてLaOを用いた以外は参考例21と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表4に示す。
【0129】
比較例7
Co3O4、ZnO及びLa(OH)を後添加する代わりに、仮焼前の混合時に添加した以外は参考例22と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、磁気特性を測定した。結果を表4に示す。
【0130】
【表4】

【0131】
表4において、参考例21、参考例22及び比較例7の比較から、La、Co及びZnを後添加することによりHk/iHcが改善する。またLa、Co及びZnを複合添加する場合のLa(OH)3の有効性は明らかである。
【0132】
参考例23
SrCO3、Fe2O3、La2O3及びCo3O4を下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3]
(ただし、x=0.075、y=x/2n、n=5.9。)になるよう配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.7〜0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、x=0.15、y=x/2n、n=5.55になるようにLa2O3及びCo3O4を後添加した。また粗粉の微粉砕工程の初期に、粗粉重量を基準にして0.50重量%のSrCO3、0.80重量%のCaCO3及び0.45重量%のSiO2を焼結助剤として添加した。このスラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表5に示す。
【0133】
参考例24
SrCO3、Fe2O3、La(OH)3及びCo3O4を、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.075、y=x/2n、n=5.9。)になるよう配合し、湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.7〜0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、x=0.15、y=x/2n、n=5.55になるようにLa(OH)3及びCo3O4を後添加した。また粗粉の微粉砕工程の初期に、焼結助剤としてSrCO3、CaCO3及びSiO2を粗粉重量を基準にしてそれぞれ0.50重量%、0.80重量%及び0.45重量%添加した。このスラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表5に示す。
【0134】
【表5】

【0135】
参考例25
SrCO3、Fe2O3、Co3O4、ZnO及びLaOを、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)O](原子比率)
(ただし、x=0.075、y=x/2n、n=6.0。)になるように湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、x=0.15、y=x/2n、n=5.65になるようにLa2O3、Co3O4及びZnOを後添加した。また粗粉の微粉砕工程の初期に、焼結助剤としてSrCO3、SiO2及びCaCO3を粗粉重量を基準にしてそれぞれ0.50重量%、0.40重量%、0.80重量%(CaO換算で0.45重量%)添加した。得られた微粉砕スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表6に示す。
【0136】
参考例26
SrCO3、Fe2O3、Co3O4、ZnO及びLa(OH)を、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCo0.5yZn0.5y)O](原子比率)
(ただし、x=0.075、y=x/2n、n=6.0。)になるように湿式混合した後、1200℃で2時間大気中で仮焼した。仮焼物をローラーミルで乾式粉砕を行い粗粉とした。その後アトライターにより湿式微粉砕を行い、平均粒径が0.8μmの微粉を含むスラリーを得た。粗粉の微粉砕工程の初期に、x=0.15、y=x/2n、n=5.65になるようにLa(OH)、Co3O4及びZnOを後添加した。また粗粉の微粉砕工程の初期に、焼結助剤としてSrCO3、SiO及びCaCO3を粗粉重量を基準にしてそれぞれ0.50重量%、0.40重量%、0.80重量%(CaO換算で0.45重量%)添加した。得られた微粉砕スラリーを10 kOeの磁場中で湿式成形した。得られた成形体を1210〜1230℃で2時間焼結した。得られた各焼結体を約10 mm×10 mm×20 mmの形状に加工し、B-Hトレーサにより20℃において磁気特性を測定した。結果を表6に示す。
【0137】
【表6】

【0138】
参考例27
本発明によるフェライト焼結磁石の温度特性を測定するために、x=0.15(参考例23)で作製したフェライト焼結磁石を所定形状に加工し、試料を作製した。またx=0,0.10、0.20とした以外は参考例23と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、前記と同様に所定形状に加工した試料を作製した。各試料を振動試料型磁力計(東英工業(株)製、VSM-3型)にセットし、−60〜+100℃で10℃毎に磁気特性を測定し、−60〜+100℃におけるBrの温度係数(α)及びiHcの温度係数(β)を求めた。結果を表7に示す。
【0139】
【表7】

【0140】
表7のデータ及び関連する検討から、La及びCoで複合置換したフェライト焼結磁石のβは約0.13〜0.36(%/℃)の範囲にあることが分かった。また関連した検討から、表7に代表されるフェライト焼結磁石のキュリー温度(Tc)は、0.01≦x≦0.4の組成範囲で、425℃<Tc<460℃の範囲にあることが分かった。
【0141】
参考例28
La、Co及びZnで複合置換してなるフェライト焼結磁石の温度特性を測定するために、参考例25(x=0.15)のフェライト焼結磁石を所定形状に加工し、試料とした。この試料を用いて、参考例27と同様にして−60〜+100℃における磁気特性を測定し、Brの温度係数(α)及びiHcの温度係数(β)を測定した。結果を表8に示す。
【0142】
【表8】

【0143】
表8のデータから、La、Co及びZnで複合置換したフェライト焼結磁石のβは0.26〜0.36(%/℃)の範囲にあることが分かった。
【0144】
図7に比較例4のフェライト焼結磁石(前添加方式、x=0.15、n=5.85)のEPMA分析結果を示す。図8に参考例12のフェライト焼結磁石(後添加方式、x=0.15、n=5.25、Fe3O4=0重量%)のEPMA分析結果を示す。図9に実施例1のフェライト焼結磁石(後添加方式、x=0.15、n=5.55、Fe3O4=6重量%)のEPMA分析結果を示す。図10に、(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)O](x=0.10、y=x/2n、n=6.0。)の基本組成を有する仮焼粗粉を作製し、微粉砕時にLa2O3、Co3O4及びFe3O4を所定量添加した以外は実施例6と同様にして作製したフェライト焼結磁石(前/後添加方式、x=0.20、n=5.90、Fe3O4=6重量%)のEPMA分析結果を示す。
【0145】
図7〜10のEPMA分析用試料は、それぞれフェライト焼結磁石のc面が表面になるように樹脂に埋め込み、粒径0.05μmのAl2O3研磨粉を用いて鏡面研磨し、EPMAライン分析に供した。EPMA装置として(株)島津製作所製の電子線マイクロアナライザー(型式:EPM−810Q)を用いた。測定条件は、加速電圧15kV、加速電流0.1μA、及び照射ビーム直径=1μmであった。図7〜10の縦軸はLa、Co、Sr、Fe各元素の計数c.p.s.(counts per second)であり、横軸は走査距離(μm)である。図7〜10の各々は計数及び走査距離のスケールを表示する。EPMA装置の分光結晶はLaのライン分析ではふっ化リチウム(LiF)を、Srのライン分析ではペンタエリスリトール[PET、C(CH2OH)4]を、Feのライン分析では酸性フタル酸ルビジウム[RAP、C6H4(COOH)(COORb)]を、Coのライン分析ではLiFをそれぞれ用いた。
【0146】
図7〜10に示すように、各試料表面の任意の位置における80μm走査分のEPMA分析結果から読み取ったLaのc.p.s.のばらつきをΔ(c.p.s.)と定義した。図7(前添加方式、x=0.15、n=5.85)では、Δ(c.p.s.)=0.119kc.p.s.であった。図8(後添加方式、x=0.15、n=5.25、Fe3O4=0重量%)では、Δ(c.p.s.)=0.512kc.p.s.であった。図9(後添加方式、x=0.15、n=5.55、Fe3O4=6重量%)ではΔ(c.p.s.)=0.557kc.p.s.を得た。図10(前/後添加方式、x=0.20、n=5.90、Fe3O4=6重量%)では、Δ(c.p.s.)=0.252kc.p.s.であった。図7及び関連した検討から、前添加方式によるとΔ(c.p.s.)=0.07〜0.15kc.p.s.の範囲になり、図8及び図9の後添加方式又は図10の前/後添加方式のものと比べてLaが均一に分布しているものと判断される。図8及び図9の検討により、後添加方式によるとΔ(c.p.s.)=0.35〜0.65kc.p.s.の範囲になり、Laの分布が最も不均一なことが分かる。さらに図8及び図9から、Fe3O4の添加によりΔ(c.p.s.)がやや増大する傾向が認められた。次に、図10の検討から、前/後添加方式によると、Δ(c.p.s.)は0.15〜0.35kc.p.s.の範囲になり、後添加方式と前添加方式との間のLa分布を有するものになると判断される。
【0147】
図11に、(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)(ただし、x=0.10〜0.40、y=x/2n、n=5.9。)の基本組成を有する前添加方式によるフェライト焼結磁石の磁化−温度曲線を示す。縦軸は磁化(相対値)を示す。x=0は従来組成(SrO・5.9Fe2O3)のフェライト焼結磁石の場合である。
【0148】
各曲線の接線(破線)と磁化=0(横軸)との交点を第1キュリー点(Tc1)とし、各曲線と磁化=0(横軸)との交点を第2キュリー点(Tc2)と定義する。図11から、前添加方式によるx=0〜0.40のフェライト焼結磁石の磁化−温度曲線において、Tc1に至る接線(破線)に対し、○で囲んだ曲線部分は凸になっていることが特徴である。
【0149】
図12は、図9(後添加方式、x=0.15、n=5.55、Fe3O4=6重量%)で用いたのと同じフェライト焼結磁石から切り出した試料を用いて測定した磁化−温度曲線を示す。さらに図12は、図10(前/後添加方式、x=0.20、n=5.90、Fe3O4=6重量%)で用いたのと同じフェライト焼結磁石から切り出した試料を用いて測定した磁化−温度曲線を示す。図12の後添加方式によるものはTc1=447℃、Tc2=453℃であり、Tc1に至る接線(破線)に対し、○で囲んだ曲線部分が凹になっている部分を含むのが特徴である。図12の前/後添加によるものはTc1=445℃、Tc2=453℃であり、Tc1に至る接線(破線)に対し、やはり○で囲んだ曲線部分が凹になっている部分を含んでいる。
【0150】
実施例8
SrO・5.9Fe2O3の基本組成を有する仮焼粗粉を用い、かつ微粉砕平均粒径を0.65μm、微粉砕時のFe3O4添加量を7重量%とした以外は実施例1と同様にして、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3](原子比率)
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.55。)を有する後添加方式によるフェライト焼結磁石を作製した。このフェライト焼結磁石の20℃、−40℃における4πI−H曲線を図13に示す。このフェライト焼結磁石は後添加方式でかつFe3O4を所定量添加するとともに、微粉砕平均粒径を0.4〜0.65μmという高Br化に好適な条件に調整することにより、20℃におけるBrが4.4 kGであり、iHcが4.5 kOeであり、角形比(Hk/iHc)が95%という極めて高いBr、iHc及び角形比(Hk/iHc)を実現した。
【0151】
この高性能フェライト焼結磁石の−40℃における限界減磁界強度(ΔH)の測定結果を以下に説明する。図13において、フェライト焼結磁石を配した磁気回路より求めた動作線piにおける、B-H曲線上の動作点はAにあり、4πI−H曲線上における対応点はQである。pi=pc+1=3(piは4πI−H曲線上のパーミアンス係数、pcはB-H曲線上のパーミアンス係数)の条件で測定したところ、図13に示す通り、ΔH=2240 Oeが得られた。pi’は動作線piに平行な動作線である。−40℃、pi=pc+1=3の条件において、ΔHが印加される前のA点の動作点磁束密度は(Bd1)である。ΔH=2240 Oeが印加されると動作線pi’と4πI−H曲線との交点Cに対応するB-H曲線上のD点に動作点が移動する。その後、減磁界が取り除かれた後ΔH=0の状態では実質上A点に動作点が復帰し重なる。このため、ΔH印加前のA点の磁束密度(Bd1)=3650 GとΔHを印加し除去した後の動作点(A点に戻っている)の磁束密度(Bd2)とはほぼ等しい。よって、[(Bd1−Bd2)/Bd1]×100(%)で定義される不可逆減磁率はほぼ0%である。
【0152】
比較例8
前添加方式により、下記基本組成:
(Sr1-xLax)O・n[(Fe1-yCoy)2O3]
(ただし、x=0.15、y=x/2n、n=5.85。)となるように原料を配合した以外は、比較例4と同様にしてフェライト焼結磁石を作製した。このフェライト焼結磁石の+20℃及び−40℃における4πI−H曲線を図14に示す。このフェライト焼結磁石は前添加方式により作製したために、20℃におけるBrは4.4 KGと高く、またiHcは4.5 kOeと高いが、角形比(Hk/iHc)は76%と悪かった。
【0153】
この角形比の悪いフェライト焼結磁石に対し、図13と同様にして−40℃における限界減磁界強度(ΔH’)を測定した結果を図14に示す。図14において、フェライト焼結磁石を配した磁気回路より求めた動作線piにおける、B-H曲線上の動作点はHにあり、4πI−H曲線上における対応点はKである。pi’、pi”は動作線piに平行な動作線である。図14に示す通り、−40℃、pi=3の条件で減磁しない限界の印加磁界強度:ΔH’=560 Oe(図13のΔH対比で25%)が得られた。次に、図13と同様に2240 Oeの減磁界を印加後除去した後の不可逆減磁率を測定した。−40℃、pi=3の条件において、減磁界(2240 Oe)が印加されると動作線pi’と4πI−H曲線との交点Fに対応するB-H曲線上のG点に動作点が移動する。その後、減磁界(2240 Oe)が取り除かれた状態では実質上H’点に動作点が復帰する。H’点の動作点磁束密度(Bd2’)=3240 Gである。減磁界(2240 Oe)を印加する前のH点の動作点磁束密度(Bd1’)=3640 Gなので、不可逆減磁率=[(3640−3240)/3640)×100(%)=11.0%になり、図13の場合と比べて大きく減磁することが分かった。
【0154】
図13及び図14について検討した結果、R=LaでかつM=Coとし、20℃において4100 G以上のBrと4000 Oe以上のiHcと92.3%以上の(Hk/iHc)とを有する本発明によるフェライト焼結磁石の場合、−40℃、pi≧3の条件下で、ΔHを好ましくは1000 Oe以上、より好ましくは1500 Oe以上、特に好ましくは2000 Oe以上にすることができる。さらにこの場合は4〜24極、より好ましくは4〜16極の対称又は非対称磁極を着磁形成できるラジアル異方性又は極異方性の中実円筒状磁石、リング磁石として好適である。さらに前記中実円筒状磁石又はリング磁石は一体構造体又は貼り合わせた構造体で構成してもよい。また例えば前記フェライト焼結磁石の一体構造体又は貼り合わせた構造体で複写機用の長尺マグネットロールを構成することができる。本発明による回転機、複写機等の性能向上、小型化への寄与は非常に大きい。
【0155】
さらに、R=LaでかつM=CoとZnとし、20℃において4200 G以上のBrと3000 Oe以上のiHcと93.5%以上の(Hk/iHc)とを有する本発明によるフェライト焼結磁石においても、ΔHを大きく改善し、かつ不可逆減磁率を小さく抑えることができる。
【0156】
上記実施例ではSr系フェライトにおいて(R、M)置換した場合を記載したが、(Sr、Ba)系フェライトにおいて(R、M)置換した場合にも同様に、従来と比べて高い保磁力iHc(又は高い保磁力iHc及び残留磁束密度Br)を有し、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石が得られる。
【0157】
本発明によるマグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石には、SiO2及びCaO以外に、B2O3、Bi化合物等の磁気特性向上に有用な化合物を添加しても良い。本発明によるフェライト焼結磁石は上記必須添加物の他に所定量以下の不可避的不純物を含有していても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式:
(A1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)
(ただし、AはSr又はSr及びBaであり、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必ず含み、MはCo、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種であってCoを必ず含み、x、y及びnはそれぞれ下記条件:
0.01≦x≦0.4,
[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)],及び
5≦n≦6
を満たす数字である。)により表される基本組成を有し、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石を製造する方法であって、
A元素の化合物と鉄化合物とを混合した後仮焼し、得られた仮焼物の粉砕工程で前記基本組成となるようにR元素の化合物、M元素の化合物及びFe元素基準で前記基本組成のFe全含有量の0.1〜11重量%となるFe3O4を添加し、前記仮焼物を平均粒径0.7〜0.9μmの微粉にし、前記微粉のスラリーを磁場中成形し、焼結することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記R元素の化合物がR元素の水酸化物であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記M元素の化合物がM元素の水酸化物であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
下記一般式:
(A1-xRx)O・n[(Fe1-yMy)2O3](原子比率)
(ただし、AはSr又はSr及びBaであり、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必ず含み、MはCo、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種であってCoを必ず含み、x、y及びnはそれぞれ下記条件:
0.01≦x≦0.4,
[x/(2.6n)]≦y≦[x/(1.6n)],及び
5≦n≦6
を満たす数字である。)により表される基本組成を有し、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト焼結磁石を製造する方法であって、
A元素の化合物と鉄化合物とR元素の化合物及び/又はM元素の化合物とを混合した後仮焼し、得られた仮焼物の粉砕工程で前記基本組成となるようにR元素の化合物及び/又はM元素の化合物、並びにFe元素基準で前記基本組成のFe全含有量の0.1〜11重量%となるFe3O4を添加し、前記仮焼物を平均粒径0.7〜0.9μmの微粉にし、前記微粉のスラリーを磁場中成形し、焼結することを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記R元素の化合物がR元素の水酸化物であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記M元素の化合物がM元素の水酸化物であることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−188420(P2009−188420A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92500(P2009−92500)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願平11−534823の分割
【原出願日】平成10年12月25日(1998.12.25)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】