説明

フェライト複合シートとその製造方法及びそのようなフェライト複合シートに用いられる焼結フェライト小片

【課題】フェライトグリーンシートの厚みを薄くしても、ハンドリングに耐え得る溝付きグリーンシートを有利に作製して、目的とするフェライト複合シートの品質や生産性を効果的に高め得る手法を提供する。
【解決手段】所定厚さのフェライトグリーンシートに対して、三角断面形状の第一の突条の複数と第二の突条の複数とが格子状に配設されてなると共に、それら2種の突条の交差する部位において、少なくとも一方の突条が非連続形態とされている溝成形型を押し付けることにより、それら2種の突条に対応した非交差格子状の溝を形成し、そしてその得られた溝付きフェライトグリーンシートを焼成した後、少なくとも一方の面に可撓性の支持シートを貼り付けて、かかる焼結フェライトシートを破断せしめることにより、多数の矩形平面状のフェライト小片が相互に分離・独立した形態において支持シートに貼着せしめられてなるフェライト複合シートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト複合シートとその製造方法及びそのようなフェライト複合シートに用いられる焼結フェライト小片に係り、特に、電子部品が外部から受ける電磁波又は電子部品自体が発する電磁波を吸収して遮断したり、NFC機器やアンテナコイルに貼り付けて、通信性能の向上や非接触型電力電送装置の性能向上等に使用したりする、矩形形状の小片に分割された焼結フェライトの面状の層を有する、屈曲可能なフェライト複合シートを、有利に製造し、またそれを用いた電磁波吸収製品を有利に提供することの出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器乃至は電子部品から放射される電磁波を吸収したり、電子機器乃至は電子部品に侵入する電磁波を吸収したりするために、板状のフェライト焼結体の小片を縦横に規則的に配列した面状のフェライト層と、それを支持するシート層とを含む電磁波吸収用積層体を用い、それを電子部品や電子機器に装着せしめることが、特開2009−99895号公報等において提案されている。また、そこでは、フェライトグリーンシートの表面に縦横方向の多数の分割用溝を形成し、それを焼成することで、板状のフェライト焼結体とした後、かかるフェライト焼結体の一方の面に両面粘着テープを、他方の面に保護テープを貼着し、次いでそれを曲面を備えた剛体に面的に圧接することで、縦横を規則的に細分割して、一個一個の独立した小片となし、且つ各小片同士が接してフレキシブルな状態としてなる形態の積層構造体を得る手法が、明らかにされている。
【0003】
しかしながら、かかる公報には、フェライトグリーンシートに分割用の溝を入れる手段として、ナイフブレードを用いることが開示されているのであるが、そのようなグリーンシートに対してナイフブレードで同じ程度の深さの切込みを複数入れるには、具体的にどのようにするかという点について、何等明らかにされていないのみならず、同時に多数本の分割用溝をどのようにしてグリーンシートに形成するかという点についても、何等明らかにされてはいない。即ち、そこでは、ナイフブレードによる切込みによって溝を形成するとされているのみであって、形成される複数の分割用溝の深さの精度を高めたり、複数の分割用溝を効率的に形成して、溝付きグリーンシートの生産性を向上せしめることについて、何等の考慮も払われていないのである。
【0004】
また、特開2008−296431号公報においては、薄板状のセラミック焼成体に対して、レーザ加工によって、複数の凹部又は穴部を破線状に形成し、そしてその破線に沿って、薄板状セラミック焼成体を割ったり、或いは、焼成前のグリーンシートに対して、予め刃や金型を用いて複数の凹部又は穴部を破線状に形成しておき、そしてそれを焼成した後、破線に沿って割ることにより、複数のセラミック小片を面状に配列してなるセラミック層を備えたセラミックシートを得る手法が明らかにされているが、そのような複数の凹部又は穴部を破線状に形成することは、手間の掛かる面倒な作業となるものであって、目的とするセラミックシートの生産性において問題を内在するものであり、また複数の凹部又は穴部にて構成される破線に沿って、薄板状セラミック焼成体を正確に割ることが難しく、更にその破断に際して、微細な破片が生じる等の恐れも内在するものであった。
【0005】
さらに、特開2009−182062号公報においては、フェライトシート複合体及びその製造方法として、それを構成するフェライトシートの小片を与える溝付きフェライトグリーンシートの作製に際して、ナイフ装置、レーザ装置又は金型を用いて、グリーンシート表面に格子状の溝を形成する手法を採用し得ることが明らかにされているが、そこには、溝形成のための具体的な手法については、何等明らかにされていない。
【0006】
加えて、意匠登録第1368549号公報においても、フェライトシートとして、無線通信機に取り付けて磁気を収束又は遮断するために使用される、焼結フェライト製のシートが提案され、そのシート表面には、不連続な縦横の溝が形成されてなる形態が明らかにされているが、そのような縦横の溝をどのようにして形成するかについて、そこには、何等明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−99895号公報
【特許文献2】特開2008−296431号公報
【特許文献3】特開2009−182062号公報
【特許文献4】意匠登録第1368549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、上述の如き面状のフェライト層とそれを支持するシート層とが少なくとも積層されてなる構造のフェライト複合シートの実用的な製造方法として、かかる面状フェライト層を与える溝付きフェライトシート(焼結体)の製造に用いられる溝付きフェライトグリーンシートにおいて、その溝の深さを高い精度において実現すると共に、そのようなグリーンシートの生産性を有利に向上せしめ得る手法について、鋭意、検討した結果、チップ型の抵抗器の製造において、そのような抵抗器を与えるセラミックシートに溝を形成するために用いられている、図23に示される如き溝成形用金型100が、利用出来ることを着想した。そのような金型100は、その金型基板102の裏(下)面であるセラミックシート押圧側の面に、三角断面形状の突条からなる縦溝成形刃104と横溝成形刃106とが格子状に突設されてなる構造を有しているところから、それを、本発明の対象とするフェライト複合シートの製造方法における溝付きグリーンシートの形成に用いることを着想したのである。そして、そのような溝成形用の金型100を使用して、それを所定厚みのグリーンシートの表面に押し付けるようにすることにより、ワンショットにて、図24に示される如く、グリーンシート110の表面に、断面がほぼV字形をなす所定深さの縦溝112と横溝114の多数を、それぞれ、同時に形成することが出来ることとなるところから、溝深さの精度を効果的に高めることが可能となると共に、溝形成における生産性を相当程度高めることが出来るということが明らかとなった。
【0009】
しかしながら、上述の如き溝成形用の金型100を用いた場合において、縦横の溝成形刃104、106によって形成される、分割溝となる縦溝112と横溝114とが、グリーンシート110の一方の表面の全領域に亘って、同一深さで形成されることとなるところから、グリーンシート110の厚さが薄くなると、そのようなグリーンシート110の一枚でのハンドリングに耐えられなくなると共に、そのようなグリーンシート110を焼成して得られる焼結シートの一枚でのハンドリングにも耐えられなくなるという事実に加えて、かかる焼成工程を経た焼結シートに自然破断が惹起されるという問題を生じることが明らかとなったのである。
【0010】
そこで、本発明者は、溝付きグリーンシートの焼成工程及びその前後の工程におけるハンドリングに耐え得る溝付きグリーンシートを得るために、更に鋭意研究を進めた結果、グリーンシートに形成される分割用の溝を特定の配設構造とすると共に、そのような特定の分割用溝を、特定の成形型の押し付けによって有利に形成し得る事実を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
従って、本発明の課題とするところは、フェライト複合シートの製造に際して、そこで用いられるフェライトグリーンシートの厚みを薄くしても、そのようなグリーンシートから、焼成工程及びその前後の工程のハンドリングに耐え得る溝付きグリーンシートを有利に作製して、目的とするフェライト複合シートの品質や生産性を効果的に高め得る手法を提供することにあり、またそのようにして得られた、優れた特性を有するフェライト複合シート、更にはそのようなフェライト複合シートを与える、優れた特性を有する焼結フェライト小片を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、有利に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0013】
(1) 所定厚さのフェライトグリーンシートを準備する工程と;三角断面形状の第一の突条の複数と、該第一の突条に直交する方向に位置する三角断面形状の第二の突条の複数とが、前記フェライトグリーンシートに対向する側の面に格子状に配設されてなると共に、それら2種の突条の交差する部位において、少なくとも一方の突条が非連続形態とされている溝成形型を準備する工程と;該溝成形型を前記フェライトグリーンシートの少なくとも一方の面に押し付けることにより、前記第一の突条及び第二の突条にそれぞれ対応したV字状断面の第一の溝とV字状断面の第二の溝とが格子状に形成されてなると共に、それら2種の溝の交差する部位において、少なくとも一方の溝が非連続形態とされた溝付きフェライトグリーンシートを形成する工程と;該溝付きフェライトグリーンシートを焼成して、前記第一の溝と第二の溝とによってそれぞれ形成される第一の分割溝と第二の分割溝とが格子状に配設されてなると共に、それら2種の分割溝の少なくとも一方が、それらの交差部位において非連続形態とされている焼結フェライトシートを得る工程と;該焼結フェライトシートの少なくとも一方の面に可撓性の支持シートを貼り付けて、積層シートを形成する工程と;該積層シートを、前記焼結フェライトシートにおける前記第一及び第二の分割溝の延びる方向においてそれぞれ屈曲させて、それら2種の分割溝部位において、該焼結フェライトシートを破断せしめることにより、焼結フェライトからなる多数の矩形の平面状小片を生成させて、それら多数の矩形平面状小片が相互に分離・独立した形態において前記支持シートに面状に貼着せしめられてなる構造とする工程と;を含むことを特徴とするフェライト複合シートの製造方法。
(2) 前記溝成形型の第一の突条及び第二の突条の少なくとも何れか一方が、それら2種の突条の交差する部位において欠除されて、前記非連続形態が形成されていると共に、該欠除された突条の端面が、該突条の基部から先端に向かって前記突条交差部位から漸次離隔する方向に傾斜する傾斜面にて構成されている前記態様(1)に記載のフェライト複合シートの製造方法。
(3) 前記傾斜面の下端が、前記突条交差部位から離隔して位置せしめられている前記態様(2)に記載のフェライト複合シートの製造方法。
(4) 前記第一の突条及び第二の突条の少なくとも何れか一方における前記非連続形態を構成する、前記突条交差部位における欠除部の間隔が、それら2種の突条にて形成される格子間隔の0.2倍以下である前記態様(2)又は前記態様(3)に記載のフェライト複合シートの製造方法。
(5) 前記溝成形型の第一の突条及び第二の突条の何れもが、それら2種の突条の交差する部位において、それぞれ非連続形態とされていると共に、前記溝付きフェライトグリーンシートに形成された第一の溝及び第二の溝が、それら2種の溝の交差する部位において、それぞれ非連続形態とされている前記態様(1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載のフェライト複合シートの製造方法。
(6) 前記溝成形型の第一の突条及び第二の突条の何れもが、それら2種の突条の交差する部位において、それぞれ非連続形態とされていると共に、該突条交差部位に、突起状の破断促進部形成手段が設けられていることにより、前記フェライトグリーンシートにおける前記第一の溝及び第二の溝が、それらの交差部位において非連続形態となっていると共に、該交差部位に、前記突起状の破断促進部形成手段に対応した凹所が独立して形成されている前記態様(1)乃至前記態様(5)の何れか1つに記載のフェライト複合シートの製造方法。
(7) 前記破断促進部形成手段がピラミッド状突起であり、このピラミッド状突起に対応した逆四角錐形状の凹所が、前記溝付きフェライトグリーンシートにおける第一の溝と第二の溝の交差部位に形成される前記態様(6)に記載のフェライト複合シートの製造方法。
(8) 前記焼結フェライトシートの一方の面に片面接着シートが貼り付けられる一方、該焼結フェライトシートの他方の面に、可撓性の両面接着シートが貼り付けられ、更に該両面接着シートの外側面に離型紙が貼り付けられて、前記積層シートが形成されている前記態様(1)乃至前記態様(7)の何れか1つに記載のフェライト複合シートの製造方法。
(9) 前記支持シートが、前記焼結フェライトシートの端部から所定長さ突出した形態において、該焼結フェライトシートに貼り付けられると共に、該支持シートの突出部分が折り曲げられて、少なくとも該焼結フェライトシートの端面を覆うように貼着されている前記態様(1)乃至前記態様(8)の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
(10) 前記積層シートの屈曲操作が、前記2種の分割溝の一方の延びる方向において該積層シートを屈曲させた後、該積層シートをその面内において90°回転させ、そしてその回転させられた積層シートを、前記2種の分割溝の他方の延びる方向において屈曲させることからなる前記態様(1)乃至前記態様(9)の何れか1つに記載のフェライト複合シートの製造方法。
(11) 前記積層シートの屈曲操作が、ローラを用いて実施される前記態様(1)乃至前記態様(10)の何れか1つに記載のフェライト複合シートの製造方法。
(12) 前記積層シートの屈曲操作が、該積層シートを第一のローラに接触させて屈曲させる第一の操作と、該第一のローラに対して90°の角度で軸心が交差するように配置した第二のローラに、該積層シートを接触せしめて屈曲させる第二の操作とを有する前記態様(1)乃至前記態様(11)の何れか1つに記載のフェライト複合シートの製造方法。
(13) V字状の第一の分割溝とV字状の第二の分割溝とが格子状に配設されてなると共に、それら2種の分割溝の少なくとも一方が、それらの交差部位において非連続形態とされている焼結フェライトシートを、それら第一及び第二の分割溝部位において、それぞれ破断せしめることによって得られる矩形の平面状焼結フェライト小片にして、その矩形の対応する辺部の端面が、該矩形の角部に位置する端部の厚さ方向の全域において、破断面とされていることを特徴とする焼結フェライト小片。
(14) V字状の第一の分割溝とV字状の第二の分割溝とが格子状に配設されて、それら2種の分割溝の何れもが、それらの交差部位において非連続形態とされていると共に、かかる非連続形態の交差部位に破断促進部が形成されてなる焼結フェライトシートを、それら第一及び第二の分割溝部位において、それぞれ破断せしめることによって得られる矩形の平面状焼結フェライト小片にして、その矩形の対応する辺部の端面が、該矩形の角部に位置する端部の厚さ方向の、前記破断促進部形成部位を除く全域において、破断面とされていることを特徴とする焼結フェライト小片。
(15) 前記態様(13)又は前記態様(14)に記載の焼結フェライト小片の多数が、直交する二方向にそれぞれ配列され、且つ隣接する二つの焼結フェライト小片が相互に突き合わされた形態において、それら焼結フェライト小片の少なくとも一方の面側に配された可撓性の支持シートに対して、マス目状に貼着されていることを特徴とするフェライト複合シート。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従うフェライト複合シートの製造方法にあっては、フェライトグリーンシートの少なくとも一方の面に対して、第一の突条と第二の突条とが特定配設形態において設けられてなる溝成形型を押し付けるだけで、溝深さの精度の高い第一の溝と第二の溝とが格子状に一挙に形成され得ることとなるのであり、これによって、溝付きフェライトグリーンシートの生産性が効果的に高められ得て、目的とするフェライト複合シートを生産性良く有利に得ることが出来るのである。
【0015】
しかも、そのような本発明に従って作製される溝付きフェライトグリーンシートにおいては、第一の突条と第二の突条の特定配設構造の溝成形型を用いることによって、V字状断面の第一の溝とV字状断面の第二の溝とが格子状に形成されると共に、それら2種の溝の交差が予定される部位において、少なくとも一方の溝が非連続形態とされた、換言すれば溝の形成されていない形態とされた構造となっているところから、通常の格子状溝の交差部位とは異なり、溝交差予定部位にフェライトグリーンシートの厚み方向に食い込む溝が存在せず、そのために、フェライトグリーンシートの厚み方向の強度が、溝交差予定部位における非連続形態部位にて補強されることとなるのであり、これによって、フェライトグリーンシートのハンドリング性が有利に向上せしめられ得、また、その焼成により焼結フェライトシートを得た後のハンドリング性も効果的に改善されて、焼結フェライトシートに自然破断が惹起される等の問題も有利に回避され得ることとなるのである。
【0016】
また、かかる溝付きフェライトグリーンシートにおいて、格子状に配設される第一の溝と第二の溝とが、それら2種の溝の交差予定部位において、それぞれ、非連続形態(溝非形成部位)とされるようにすれば、上記した補強効果は更に高められ得ることとなるのであり、加えて、それら第一の溝と第二の溝の非連続形態とされる交差予定部位において、溝成形型に設けた突起状の破断促進部形成手段に対応した凹所が独立して形成されるようにすることにより、それを焼成して得られる焼結フェライトシートの分割溝に沿った破断を、より容易に、また正確に行なうことが可能となる特徴が発揮される。
【0017】
さらに、本発明に従って得られたフェライト複合シートにあっては、焼結フェライトシートの第一及び第二の分割溝に沿った破断によって形成される多数の焼結フェライト小片が、それぞれ、その矩形の対応する辺部の端面において、かかる矩形の角部に位置する端部で厚さ方向全体(但し、破断促進部が設けられている場合には、その形成部位を除く領域)が破断面となる形態にて構成されているところから、それら多数の焼結フェライト小片を直交する二方向にそれぞれ突き合わせて、マス目状に配設することにより、平面状のフェライト層を有利に形成することが出来るのであり、また連続溝を設けたフェライトシートから得られる小片と比較して、隣接する二つの焼結フェライト小片の相対応する辺部間の空隙面積を少なくすることが出来るために、磁束漏れによる実効透磁率の低下を抑制し得ることとなると共に、破断特性を損なうこともないのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従うフェライト複合シートの製造方法を示す工程説明図である。
【図2】本発明に従うフェライト複合シートの製造方法において用いられる溝成形型の一例におけるフェライトグリーンシート押圧面側の一部を示す平面説明図である。
【図3】図2におけるA部拡大説明図であって、溝成形型における第一の突条と第二の突条の交差部位の一つを示している。
【図4】図2に示される溝成形型における第一の突条と第二の突条の交差部位の一つを取り出して示す斜視説明図である。
【図5】本発明において用いられる溝成形型における突条形成のための一工程を示す断面部分説明図である。
【図6】本発明において用いられる溝成形型における突条形成の他の一つの工程を示す断面部分説明図である。
【図7】本発明において用いられる溝成形型における突条形成の更に他の工程の一つを示す断面部分説明図である。
【図8】図5〜図7の工程を経て得られた溝成形型における突条形成形態を示す断面部分説明図である。
【図9】図4に示される溝成形型の突条交差部位における第一の突条と第二の突条とがフェライトグリーンシートに押圧されてゆく途中の段階を示す斜視部分説明図である。
【図10】図9に示される溝成形型の押圧操作によって第一の溝と第二の溝とが形成されてなるフェライトグリーンシートの表面を示す平面部分説明図である。
【図11】図10に示される溝付きフェライトグリーンシートにおける第一の溝と第二の溝の交差部位の一つの断面形態を示す斜視部分説明図である。
【図12】焼結フェライトシートに対して片面接着シート及び両面接着シートを積層する形態を示す斜視説明図である。
【図13】本発明に従って得られるフェライト複合シートの一例を示す一部切欠き斜視説明図である。
【図14】図13に示されるフェライト複合シートにおける焼結フェライトシートを分割して得られるフェライト小片の一つを示す斜視説明図である。
【図15】図14におけるB部の拡大説明図である。
【図16】図13に示されるフェライト複合シートにおける焼結フェライトシートを分割して得られる、隣接する二つのフェライト小片を離して示す部分斜視説明図である。
【図17】図14に示されるフェライト小片の一辺における一端側の端面の破断形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】図17における破断面部を拡大して示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図19】図17における溝部を拡大して示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図20】本発明に従って2種の分割溝が格子状に形成されてなる焼結フェライトシートの溝形成側の表面の他の一例を示す説明図であって、(a)は、その平面部分説明図であり、(b)は、(a)におけるC部の拡大説明図である。
【図21】本発明に従って得られる、2種の分割溝を格子状に設けてなる焼結フェライトシートの更に他の一例に係る溝形成側の表面を示す説明図であって、(a)は、その平面部分説明図であり、(b)は、(a)におけるD部の拡大説明図である。
【図22】支持シートによる焼結フェライトシートの端部の被覆形態の異なる例を示す断面説明図であって、(a)及び(c)は、それぞれ、支持シートとしての片面接着シートによる端面保護の異なる形態を示す断面説明図であり、(b)及び(d)は、それぞれ、支持シートとしての両面接着シートによる焼結フェライトシートの端面の異なる被覆形態を示す断面説明図である。
【図23】チップ型抵抗器を製造するのに用いられる溝成形用金型の一例を示す斜視説明図である。
【図24】図23に示される溝成形用金型を用いて得られた溝付きグリーンシートの溝成形側の表面を示す平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、図1には、本発明に従うフェライト複合シートの製造方法の工程図が示されており、そこにおいて、目的とするフェライト複合シートは、フェライトグリーンシートを準備する第一工程S1と、非交差格子状に配設されてなる三角断面形状の2種の突条を有する溝成形型を準備する第二工程S2と、非交差格子状の2種のV字状溝が形成された溝付きフェライトグリーンシートを形成する第三工程S3と、溝付きフェライトグリーンシートを焼成して焼結フェライトシートを得る第四工程S4と、焼結フェライトシートに対して支持シートを貼り付けて積層してなる構造の積層シートを得る第五工程S5と、積層シートを屈曲させることにより、焼結フェライトシートを多数の矩形状小片に分割して、それら多数の矩形状分割小片が縦横に規則的に配列されて、平面状のフェライト層が形成されてなる形態とする第六工程S6とを含む工程に従って、製造されることとなる。
【0021】
そして、そのようなフェライト複合シートを製造するための第一工程S1においては、所定厚さのフェライトグリーンシートが、従来と同様にして、準備されることとなる。即ち、Mn−Zn系フェライト、Mn−Ni系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、Ni−Zn−Cu系フェライト、Ba系フェライト、Li系フェライト等の公知のフェライト粉末を用いて、これに、ブチラール樹脂、ポリブチルメタクリレート等のバインダーや、ブチルアルコール、トルエン等の溶媒を配合せしめて、スラリーを調製した後、このスラリーを、長尺なポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、ドクタブレード法によりシート状に押し出す等の公知のシート製造手法に従って、目的とするフェライトグリーンシートが、一般に、約1〜2000μm程度、好ましくは50〜700μm程度の厚さにおいて製造されて、本発明において用いられることとなるのである。
【0022】
また、第二工程S2において準備される溝成形型10にあっては、図2〜図4に示される如く、金属等の硬質の材料からなる厚板状の基盤12の押圧面側となる一方の面に、三角断面形状の第一の突条14の複数が、所定の距離を隔てて互いに平行に非連続形態において配設されていると共に、三角断面形状の第二の突条16の複数が、かかる複数の第一の突条14に直交する方向において、所定の距離を隔てて互いに平行に非連続形態において配設されており、これによって、それら複数の第一の突条14と複数の第二の突条16とが、全体として格子状に配置されてなる形態とされている。しかも、それら第一の突条14と第二の突条16とは、図3及び図4から明らかなように、それらの交差部位(仮想上の交差部位)において、何れも欠如されて、そこでは、それぞれの突条の存在しない非連続形態の領域とされているのである。
【0023】
そして、そのような突条交差部位の中心に位置するように、それら第一の突条14及び第二の突条16とは分離・独立した形態において、四角錐形状のピラミッド状突起18が、それら突条14、16と同様な高さにて、破断促進部形成手段として配設されている。また、それら第一の突条14及び第二の突条16における交差部位(ピラミッド状突起18)側の端面は、それぞれ、突条14、16の基端部から高さ方向の先端に向かって、かかる交差部位から漸次離隔する方向に傾斜する傾斜面14a、16aにて、構成されているのである。しかも、それら傾斜面14a、16aの基端部とピラミッド状突起18の基端部との間には、所定の隙間20、22が形成されており、これによって、それら突条14、16とピラミッド状突起18とが接続されることなく、それらの間に谷間を形成して、ピラミッド状突起18が、二つの突条14、16から分離・独立せしめられてなる配設形態とされているのである。なお、ここで、ピラミッド状突起18の基端部の四辺の長さは、それぞれ、第一の突条14及び第二の突条16の基端部の幅とほぼ同一とされている(図3参照)。
【0024】
ところで、かくの如き溝成形型10における第一の突条14や第二の突条16は、公知の各種の加工方法や成形手法に従って形成することが可能であり、例えば、特開2009−297770号公報における図1に開示の如き切削加工手法によって、容易に形成することが可能である。
【0025】
具体的には、図5に示される如く、先ず、溝成形型10を与える、特殊鋼板等の厚板素材24の一方の面に対して、ストレートエンドミルの如き第一切削用工具26による切削加工が実施され、第一の突条14及び第二の突条16が形成される箇所が残るように、従って方形の凹所28が縦方向と横方向に規則的に配列されるように、切削される。これによって、図6に示される如き、断面が矩形の格子状突条30が、厚板素材24の一方の面に形成されることとなる。
【0026】
次いで、図7に示されるように、テーパーエンドミルの如き第二切削用工具32を用いて、格子状突条30の両側部をそれぞれ斜めに切削することにより、断面が三角形状(山形形状)を呈する格子状の突起30’が形成される一方、かかる第二切削用工具32又はそれとはテーパ角の相違した他の切削用工具を使用して、格子状突起30’の交差部を切削して、その交差部における突条30’を切除せしめることにより、突条30’が、交差部において非連続形態とされることとなる。これにより、図8に示される如く、基盤12上に、三角断面形状の第一の突条14と三角断面形状の第二の突条16とが、それらの交差部においてそれぞれ非連続形態となるように配設されると共に、その交差部の中央部位に、ピラミッド状突起18が配設されてなる、図2に示される如き溝成形型10が、完成されるのである。
【0027】
なお、このような切削加工方法によれば、第一の突条14や第二の突条16の形成と同時に、それら突条の交差部における非連続形態が実現されると共に、ピラミッド状突起18も、かかる交差部位に同時に形成されることとなるところから、溝成形型10の生産性が著しく向上する特徴がある。
【0028】
そして、本発明にあっては、かくの如き溝成形型10を用いて、フェライトグリーンシートに非交差格子状溝を成形する第三工程S3が、実施される。この第三工程S3において、溝成形型10の第一の突条14及び第二の突条16をフェライトグリーンシート34の一方の面に押し付けていくと、図9に示されるように、フェライトグリーンシート34に、それら第一の突条14と第二の突条16とが食い込んでいくようになる。そして、それら二つの突条14、16の侵入によって排除されたグリーンシート34を構成するフェライト材料の一部が、二つの突条14、16の側面側に盛り上がって、膨らみ34a、34bが形成されるようになる。しかし、二つの突条14、16は、図4に示される如く、その交差部位において非連続形態とされて、隙間20、22を有する谷間が存在せしめられているところから、前記した二つの膨らみ34a、34bは、それら隙間20、22にある程度吸収されるようになるのである。このため、フェライトグリーンシート34に対する溝成形型10の押圧エネルギーを少なくすることが可能となり、その結果、溝成形型10をフェライトグリーンシート34に押圧した後に、溝成形型10をフェライトグリーンシート34から離間させるときの離型性が改善されることとなるのである。
【0029】
このように、フェライトグリーンシート34の上に溝成形型10を押圧することによって、フェライトグリーンシート34には、図10に示されるように、第一の突条14及び第二の突条16に対応したV字状断面の第一の溝36とV字状断面の第二の溝38とが、格子状に形成されてなると共に、それら2種の溝の交差する部位(仮想上の交差部位)において、それぞれ非連続形態とされて、そこが、第一の溝36と第二の溝38とによって区画される矩形のグリーンシート領域と隣接するグリーンシート領域との連結部40とされてなる、溝付きフェライトグリーンシート42が得られることとなる。また、図11からも明らかな如く、第一の溝36と第二の溝38の交差部位における中央部には、前記ピラミッド状突起18に対応した逆四角錐形状の凹所44が、それらの溝36、38と同程度の深さにおいて形成されており、更に、それらの溝36、38の非連続形態とされた交差部位においては、グリーンシート42(34)の厚みtと同一厚みにおいて、連結部40が、存在せしめられているのである。このような連結部40の存在によって、溝付きフェライトグリーンシート42は、交差部位においても連続した溝が形成されてなる(非連続形態の溝を有していない)溝付きグリーンシートに比べて、機械的強度において優れており、これによって、溝付きフェライトグリーンシート42のハンドリング性の向上が有利に実現されているのである。
【0030】
なお、そのような溝付きフェライトグリーンシート42に形成される第一の溝36及び第二の溝38の深さdは、グリーンシート42の厚みtに対して、一般に1/12〜1/2程度、好ましくは1/4程度とされることとなる。それらの溝36、38の溝深さdが深くなり過ぎると、焼成後にフェライト小片に破断した際、隣接するフェライト小片との破断部位の接触領域が少なくなって、面状フェライト層の透磁率が低くなる等の問題があり、また、それらの溝深さdが浅くなり過ぎると、第一の溝36や第二の溝38に沿って直線的に破断することが困難となる等の不具合を生じ易くなる。
【0031】
次いで、本発明に従う第四工程S4では、上記のようにして得られた第一の溝36及び第二の溝38と共に、それらの交差部位に連結部40を有する溝付きフェライトグリーンシート42が、公知の焼成条件下において、例えば850〜1350℃の焼成温度を採用して、焼成されることにより、焼結フェライトシート50が得られる。この焼結フェライトシート50は、図12に示されるように、溝付きフェライトグリーンシート42における第一の溝36と第二の溝38とによって与えられる、それぞれ、それらの溝36、38に対応したV字状断面形状の第一の分割溝52と第二の分割溝54とが格子状に配設されていると共に、その仮想上の交差部位には、図11に示される如き形態に対応して、同様な連結部40’や逆四角錐形状の凹所44’が存在せしめられてなる構造とされているのである。
【0032】
従って、このような焼成過程(S4)において、溝付きフェライトグリーンシート42を焼成して得られる焼結フェライトシート50は、2種の分割溝52、54の仮想の交差部位において、それら分割溝52、54が非連続形態とされて、連結部40’が存在せしめられているところから、かかる連結部40’部分が耐撓み性を発揮して、焼結フェライトシート50全体を面状として効果的に保持することが出来、これによって、ハンドリングに際して、焼結フェライトシート50が耐撓み性を発揮することとなるところから、そのような焼結フェライトシート50の破断が惹起され難くなるのである。即ち、分割溝52、54の交差部位に連結部40’が設けられてなる焼結フェライトシート50は、そのような連結部40’が設けられていない焼結フェライトシートよりも、支持シートの貼着前に分割されて、不良が発生する割合は、格段に少なくなるのである。
【0033】
そして、第五工程S5においては、上記の第四工程S4において焼成して得られた焼結フェライトシート50に対して、その保護や支持のために、その少なくとも一方の面に、可撓性を有する支持シートが貼り付けられて、積層シート48が形成されることとなる。具体的には、図12に示される形態にあっては、支持シートとして、片面接着シート56と両面接着シート58とが用いられ、焼結フェライトシート50の一方の側に片面接着シート56が、また他方の側には両面接着シート58が、それぞれ貼り付けられて、積層構造の積層シート48が形成されるようになっている。なお、両面接着シート58は、その外側面、即ち焼結フェライトシート50への貼着面とは反対側の面に、剥離紙58aを有しており、この剥離紙58aを剥して、目的とする電子機器等に貼り付けられ得るようになっている。
【0034】
また、上記した片面接着シート56や両面接着シート58等の支持シートは、一般に、ある程度の伸長性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムの如き可撓性の樹脂フィルムを芯材とし、その表面に接着剤層が形成されてなるものが用いられることとなるが、また、紙等の他の材質のシートを接着剤にて焼結フェライトシート50に貼り付けるようにすることも可能である。更に、焼結フェライトシート50に対する片面接着シート56や両面接着シート58の貼り付け操作においては、それら接着シート56、58を、それぞれ連続的にリールから繰り出す一方、それらシート56、58間に焼結フェライトシート50を供給して、積層一体化する手法を採用することも可能である。
【0035】
そして、更に続く第六工程S6においては、上記で得られた積層シート48を構成する焼結フェライトシート50が、それに形成された第一及び第二の分割溝52、54に沿って、破断、分割せしめられて、多数の矩形平面状のフェライト小片が形成される。即ち、積層シート48を、焼結フェライトシート50における第一及び第二の分割溝52、54の延びる方向において、それぞれ屈曲させて、それら2種の分割溝部位において焼結フェライトシート50を破断せしめることにより、焼結フェライトからなる多数の矩形平面状のフェライト小片(図13における60)が形成されるのである。また、そのような積層シート48に対する直交する二方向への屈曲操作は、一般に、ローラ等の非平面体に対して、相対的に、積層シート48を押し付けることによって、行なうことが出来る。
【0036】
なお、積層シート48が前記した第五工程S5から連続的に供給される貼着物である場合にあっては、第六工程S6における屈曲操作の連続化の推進のために、先ず、長手方向(第一の分割溝52の方向)の屈曲を行ない、次いで、幅方向(第二の分割溝54の方向)の屈曲が実施されるようにすることが望ましい。勿論、積層シート48を停止させておき、その上から前記の二方向にローラを転がして、焼結フェライトシート50を多数のフェライト小片60に分割せしめることも可能であるが、本発明方法における生産性を更に向上させるには、好ましくは、移送中の積層シート48の少なくとも一方の表面を構成する支持シート(56、58)の上に、長尺な積層シート48の幅方向に軸心を有するローラを接触させて、一方向の分割溝(52)を起点として、焼結フェライトシート50を短冊形に分割し、次いで積層シート48の移送を停止させた状態として、積層シート48に対し、その長手方向、即ち短冊の幅方向に軸心を有するローラを、積層シート48の横幅方向に転動させる方法が採用される。なお、予め所定の長さに切断した積層シート48を、分割溝52、54の何れか一方の延びる方向に屈曲させて分割した後、それを略90°回転せしめ、そして他方の分割溝の延びる方向に屈曲させて分割を行なうようにすることも可能である。
【0037】
かくの如き積層シート48の屈曲操作により、その積層シート48を構成する焼結フェライトシート50が、それぞれ、第一及び第二の分割溝52、54の延びる方向において、屈曲せしめられ、以て、それら2種の分割溝部位において焼結フェライトシート50が破断せしめられて、多数の矩形平面状のフェライト小片60が形成されると共に、それら多数のフェライト小片60は、相互に分離、独立した形態において、片面接着シート56及び両面接着シート58に貼着されて、それらの間に面状のフェライト層として存在するフェライト複合シート62が形成されるのである。
【0038】
かくして得られたフェライト複合シート62は、図13に示されるように、片面接着シート56と両面接着シート58との間に、多数の矩形平面状のフェライト小片60が縦横に規則的に配列されてなる面状のフェライト層を挟持した構造を呈するものであって、必要に応じて所定の大きさ乃至はパターンに裁断されて、それぞれの用途に用いられることとなる。なお、そのようなフェライト複合シート62における、フェライト層を構成する多数の矩形平面状のフェライト小片60は、図14に示される如く、先の第六工程S6における焼結フェライトシート50の分割によって、その各辺における分割溝52、54の下方部位と、各角部における連結部40相当部位が、それぞれ破断面となっている。
【0039】
そして、そのようなフェライト小片60における破断面の存在する側面を観察すると、図15及び図16に拡大して示されるように、所定深さの第一の分割溝52によって形成される第一の溝痕52aと、所定深さの第二の分割溝54によって形成される第二の溝痕54aとが存在していると共に、それら第一の溝痕52a及び第二の溝痕54aからそれぞれフェライト小片60の下面に至る第一の破断面64と第二の破断面66が存在していることを認識することが出来る。また、フェライト小片60の矩形の各角部には、第一及び第二の分割溝52、54の交差部位に形成された連結部40’の破断面68が、その厚さ方向全域に亘って形成されていると共に、角部先端に位置するように、第一の溝痕52aや第二の溝痕54aと同様な深さの凹所痕44’aが存在しているのである。
【0040】
さらに、そのようなフェライト小片60の端面のうち、一方の角部に位置する端面部位(ここでは、凹所44’は設けられていない)を走査型電子顕微鏡で観察すると、図17に示される如く、分割溝52、54の溝痕52a、54aの露出面と、分割溝52、54の下方に位置する破断面64、66及び連結部40’の破断面68との間に、外観の相違が存在することが分かる。図18には、図17における破断面64、68部位の拡大された走査型電子顕微鏡写真が示されているが、そこでは、フェライト結晶の粒界を視認することが出来ない。これに対して、図19に示される如く、第一の溝痕52a、第二の溝痕54aの露出面の拡大走査型電子顕微鏡写真によれば、フェライト結晶の粒界をはっきりと視認することが出来る。このように、図18と図19を比較すると、それらの表面状態が全く異なっているものであることが、より一層明確に理解され得るのである。
【0041】
加えて、本発明に係るフェライト複合シート62にあっては、そのフェライト層を構成する多数のフェライト小片60の四つの角部には、何れも、連結部40’を分断する破断面68が、フェライト小片60の厚み方向全域に存在しているところから、隣接するフェライト小片60同士が、それらの平面に垂直な方向にずれるのを効果的に抑制することが出来ることとなる。その結果、一枚のフェライト複合シート62を、平らな電子部品の表面に対して、有利に貼り付けることが可能となるのであり、また曲面を有する電子部品の表面に対しても、フェライト小片60を外接させるようにして、貼り付けることが可能となるのである。
【0042】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等の限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0043】
例えば、先の実施形態においては、溝成形型10における2種の突条14、16の非連続形態となる交差部位に、破断促進部形成手段として、ピラミッド状突起18が設けられており、これによって、フェライトグリーンシート34や焼結フェライトシート50における2種の溝(36、38;52、54)の交差部位に形成される連結部40、40’の中心部に、かかるピラミッド状突起18に対応した逆四角錐形状の凹所44、44’が、破断促進部として形成されるようになっているが、そのような破断促進部形成手段としては、例示の如きピラミッド状突起18の他にも、他の角錐形状の突起や、円錐状等の各種の形状の突起を採用することが可能である。そして、そのような各種の形状の突起からなる破断促進部形成手段(18)の採用により、それに対応した形状の凹所(44’)が、最終的に、焼結フェライトシート50の2種の分割溝52、54の交差部位における連結部40’に形成されることとなるのである。
【0044】
そして、かかる焼結フェライトシート50の2種の分割溝52、54の交差部位の、連結部40’に設けられる凹所44’の存在により、第一の分割溝52及び第二の分割溝54に沿った分割操作(破断)が、有利に実現され得ることとなるのであるが、本発明にあっては、また、溝成形型10における2種の突条14、16の交差部位に破断促進部形成手段(18)を設けず、従って、図20(a)及び(b)に示される如く、焼結フェライトシート50の2種の分割溝52、54の交差部位に凹所(44’)が形成されることのない、平坦な連結部40’とすることも可能である。
【0045】
また、フェライトグリーンシート34や焼結フェライトシート50における2種の溝(36、38;52、54)は、生産性を考慮すると、それらシート34、50の一方の面にのみ形成されることが好ましいが、それらシート34、50の両側の面に設けることも可能である。更に、それらシート34、50の一方の面に1種の溝(36;52)を設ける一方、他の1種の溝(38;54)を、それらシート34、50の他方の面に設けるようにすることも可能である。尤も、それらシート34、50の両方の面に異なる種類の溝を設ける場合にあっては、それらシート34、50の平面視において、それら異なる種類の溝にて、空間的に格子形状が形成されることとなる。
【0046】
さらに、例示の実施形態においては、溝成形型10における2種の突条14、16、溝付きフェライトグリーンシート42における2種の溝36、38、そして焼結フェライトシート50における2種の分割溝52、54は、何れも、相互に、且つそれらの配設される二つの方向において、それぞれ等間隔とされて、分割により得られるフェライト小片60が、等しい長さの四辺からなる正方形形状とされているが、それら第一の突条14や第一の溝36、52の相互の間隔と、第二の突条16や第二の溝38、54の相互の間隔を異ならしめて、長方形形状のフェライト小片(60)が形成されるようにすることも可能であり、更には、それらの配設される二つの方向において、突条間隔や溝間隔を変化せしめることも可能である。なお、第一の分割溝52の配設間隔L1 や第二の分割溝54の配設間隔L2 としては、フェライト複合シート62の用途に応じて、一般に、0.1〜5mmの範囲、好ましくは1〜3mmの範囲において適宜に選択されることとなる。
【0047】
なお、例示の実施形態の如く、焼結フェライトシート50における第一の分割溝52及び第二の分割溝54の何れもが、それらの交差部位において非連続形態とされて、その非連続部の長さが、それぞれの分割溝52、54の延びる方向において長くなり過ぎると、それら分割溝52、54のそれぞれの方向における分割線の軌跡が、連結部40’の中心から外れる恐れが生じるところから、図20に示される如く、第一の分割溝52の配設間隔をL1 、及び第二の分割溝54の配設間隔をL2 としたとき、第一の分割溝52の非連続部の長さS1 及び第二の分割溝54の非連続部の長さS2 は、それぞれ、0.2×L2 以下及び0.2×L1 以下とすることが、望ましい。また、それらS1 、S2 の下限としては、それら2種の分割溝52、54が相互に接することがないようにすることが望ましく、従って、第一の分割溝52の基部の幅及び第二の分割溝54の基部の幅よりも大きな値となるようにすることが望ましいのである。
【0048】
また、例示の実施形態においては、2種の分割溝52、54は、何れも、それらの仮想の交差部位において非連続形態とされているが、それら分割溝52、54の何れか一方においてのみ、非連続形態とされていても、何等差し支えなく、例えば、その一例が、図21(a)及び(b)に示されている。それらの図において、焼結フェライトシート70における第一の分割溝72は、連続したV字状の溝として、焼結フェライトシート70の対向する二辺の一方から他方に向かって、連続的に形成されている一方、かかる第一の分割溝72に直交する第二の分割溝74は、第一の分割溝72との交差部位において、非連続形態とされているのである。即ち、第二の分割溝74は、第一の分割溝72の配設間隔(L1 )よりも短い長さにおいて断続的に配設されて、第一の分割溝72の左右に所定の距離を隔てて配設され、それら第一の分割溝72と第二の分割溝74との間に、連結部76が形成されるようになっている。
【0049】
そして、このように、一方の分割溝74のみが非連続形態において設けられてなる焼結フェライトシート70の分割に際しては、先ず、第一の分割溝72における分割を行なった後、第二の分割溝74の分割が行なわれるようにすることが望ましい。具体的には、焼結フェライトシート70に対して軸心が第一の分割溝72方向となるようにローラを配置し、このローラを、焼結フェライトシート70の第二の分割溝74方向(図において左右方向)に相対的に移動させて押し付けることにより、分割溝72における分割を行なった後、軸心が第二の分割溝74方向となるローラを、焼結フェライトシート70の第一の分割溝72方向(図において上下方向)に相対的に移動させて押し付けるようにすれば、非連続形態の分割溝74における分割が実現され、以て、多数のフェライト小片が面状に配列されてなる構造のフェライト層を有するフェライト複合シートが得られることとなるのである。
【0050】
さらに、例示の実施形態においては、焼結フェライトシート50を支持して保護するために、支持シートとして、片面接着シート56と両面接着シート58とが用いられて、前述の如く、積層シート48が形成されているが、それらの何れか一方を焼結フェライトシート50の一方の面に貼り付けて、積層シート(48)を構成するようにしても何等差し支えない。また、そのような支持シート(56、58)を、焼結フェライトシート50よりも少し大きくして、かかる焼結フェライトシート50の端部から外方(側方)に突出せしめ、そしてその突出した部分を、焼結フェライトシート50の端面を覆うように折り曲げて、固定するようにすれば、焼結フェライトシート50の端部を効果的に保護し得ることとなり、焼結フェライトシート50の端部の欠け等の問題の発生を有利に解消することが可能となる。なお、図22には、焼結フェライトシート50の端部を支持シート(56、58)にて保護してなる形態の各種の例が示されており、その(a)及び(b)には、それぞれ、片面接着シート56や両面接着シート58の端部を折り曲げて、焼結フェライトシート50の端部を被覆してなる形態が示されており、また(c)及び(d)には、それぞれ、片面接着シート56や両面接着シート58が折り曲げられて、反対側の面にまで延びている形態が示されている。
【0051】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0052】
10 溝成形型 12 基盤
14 第一の突条 16 第二の突条
14a、16a 傾斜面 18 ピラミッド状突起
20、22 隙間 26 第一切削用工具
30 格子状突条 32 第二切削用工具
34 フェライトグリーンシート 34a、34b 膨らみ
36 第一の溝 38 第二の溝
40 連結部 44 凹所
50 焼結フェライトシート 52、54 分割溝
52a、54a 溝痕 56 片面接着シート
58 両面接着シート 60 フェライト小片
62 フェライト複合シート 64、66、68 破断面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定厚さのフェライトグリーンシートを準備する工程と、
三角断面形状の第一の突条の複数と、該第一の突条に直交する方向に位置する三角断面形状の第二の突条の複数とが、前記フェライトグリーンシートに対向する側の面に格子状に配設されてなると共に、それら2種の突条の交差する部位において、少なくとも一方の突条が非連続形態とされている溝成形型を準備する工程と、
該溝成形型を前記フェライトグリーンシートの少なくとも一方の面に押し付けることにより、前記第一の突条及び第二の突条にそれぞれ対応したV字状断面の第一の溝とV字状断面の第二の溝とが格子状に形成されてなると共に、それら2種の溝の交差する部位において、少なくとも一方の溝が非連続形態とされた溝付きフェライトグリーンシートを形成する工程と、
該溝付きフェライトグリーンシートを焼成して、前記第一の溝と第二の溝とによってそれぞれ形成される第一の分割溝と第二の分割溝とが格子状に配設されてなると共に、それら2種の分割溝の少なくとも一方が、それらの交差部位において非連続形態とされている焼結フェライトシートを得る工程と、
該焼結フェライトシートの少なくとも一方の面に可撓性の支持シートを貼り付けて、積層シートを形成する工程と、
該積層シートを、前記焼結フェライトシートにおける前記第一及び第二の分割溝の延びる方向においてそれぞれ屈曲させて、それら2種の分割溝部位において、該焼結フェライトシートを破断せしめることにより、焼結フェライトからなる多数の矩形の平面状小片を生成させて、それら多数の矩形平面状小片が相互に分離・独立した形態において前記支持シートに面状に貼着せしめられてなる構造とする工程と、
を含むことを特徴とするフェライト複合シートの製造方法。
【請求項2】
前記溝成形型の第一の突条及び第二の突条の少なくとも何れか一方が、それら2種の突条の交差する部位において欠除されて、前記非連続形態が形成されていると共に、該欠除された突条の端面が、該突条の基部から先端に向かって前記突条交差部位から漸次離隔する方向に傾斜する傾斜面にて構成されている請求項1に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項3】
前記傾斜面の下端が、前記突条交差部位から離隔して位置せしめられている請求項2に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項4】
前記第一の突条及び第二の突条の少なくとも何れか一方における前記非連続形態を構成する、前記突条交差部位における欠除部の間隔が、それら2種の突条にて形成される格子間隔の0.2倍以下である請求項2又は請求項3に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項5】
前記溝成形型の第一の突条及び第二の突条の何れもが、それら2種の突条の交差する部位において、それぞれ非連続形態とされていると共に、前記溝付きフェライトグリーンシートに形成された第一の溝及び第二の溝が、それら2種の溝の交差する部位において、それぞれ非連続形態とされている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項6】
前記溝成形型の第一の突条及び第二の突条の何れもが、それら2種の突条の交差する部位において、それぞれ非連続形態とされていると共に、該突条交差部位に、突起状の破断促進部形成手段が設けられていることにより、前記フェライトグリーンシートにおける前記第一の溝及び第二の溝が、それらの交差部位において非連続形態となっていると共に、該交差部位に、前記突起状の破断促進部形成手段に対応した凹所が独立して形成されている請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項7】
前記破断促進部形成手段がピラミッド状突起であり、このピラミッド状突起に対応した逆四角錐形状の凹所が、前記溝付きフェライトグリーンシートにおける第一の溝と第二の溝の交差部位に形成される請求項6に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項8】
前記焼結フェライトシートの一方の面に片面接着シートが貼り付けられる一方、該焼結フェライトシートの他方の面に、可撓性の両面接着シートが貼り付けられ、更に該両面接着シートの外側面に離型紙が貼り付けられて、前記積層シートが形成されている請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項9】
前記支持シートが、前記焼結フェライトシートの端部から所定長さ突出した形態において、該焼結フェライトシートに貼り付けられると共に、該支持シートの突出部分が折り曲げられて、少なくとも該焼結フェライトシートの端面を覆うように貼着されている請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項10】
前記積層シートの屈曲操作が、前記2種の分割溝の一方の延びる方向において該積層シートを屈曲させた後、該積層シートをその面内において90°回転させ、そしてその回転させられた積層シートを、前記2種の分割溝の他方の延びる方向において屈曲させることからなる請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項11】
前記積層シートの屈曲操作が、ローラを用いて実施される請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項12】
前記積層シートの屈曲操作が、該積層シートを第一のローラに接触させて屈曲させる第一の操作と、該第一のローラに対して90°の角度で軸心が交差するように配置した第二のローラに、該積層シートを接触せしめて屈曲させる第二の操作とを有する請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載のフェライト複合シートの製造方法。
【請求項13】
V字状の第一の分割溝とV字状の第二の分割溝とが格子状に配設されてなると共に、それら2種の分割溝の少なくとも一方が、それらの交差部位において非連続形態とされている焼結フェライトシートを、それら第一及び第二の分割溝部位において、それぞれ破断せしめることによって得られる矩形の平面状焼結フェライト小片にして、その矩形の対応する辺部の端面が、該矩形の角部に位置する端部の厚さ方向の全域において、破断面とされていることを特徴とする焼結フェライト小片。
【請求項14】
V字状の第一の分割溝とV字状の第二の分割溝とが格子状に配設されて、それら2種の分割溝の何れもが、それらの交差部位において非連続形態とされていると共に、かかる非連続形態の交差部位に破断促進部が形成されてなる焼結フェライトシートを、それら第一及び第二の分割溝部位において、それぞれ破断せしめることによって得られる矩形の平面状焼結フェライト小片にして、その矩形の対応する辺部の端面が、該矩形の角部に位置する端部の厚さ方向の、前記破断促進部形成部位を除く全域において、破断面とされていることを特徴とする焼結フェライト小片。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の焼結フェライト小片の多数が、直交する二方向にそれぞれ配列され、且つ隣接する二つの焼結フェライト小片が相互に突き合わされた形態において、それら焼結フェライト小片の少なくとも一方の面側に配された可撓性の支持シートに対して、マス目状に貼着されていることを特徴とするフェライト複合シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−227506(P2012−227506A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234355(P2011−234355)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】