説明

フォイル軸受

【課題】フォイル軸受において、製造コストの低廉化、および軸受性能の調整作業の簡便化を同時に達成可能とする。
【解決手段】可撓性を有し、内周に挿入した軸部材2との間にラジアル軸受隙間Cを形成する円筒状のトップフォイル4と、トップフォイル4の外径側に配置され、トップフォイルを弾性的に支持する円筒状の弾性支持部材5と、トップフォイル4および弾性支持部材5を内周に収容した円筒状のハウジング3とを備えるフォイル軸受1において、弾性支持部材5として、多孔質体で円筒状に形成されたものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材と、軸部材を内周に収容した円筒状の外方部材との間に、可撓性を有する薄膜状のフォイルを介在させた、いわゆるフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従前、ガスタービンや過給機の主軸等、高温環境下で高速回転する軸を支持するための軸受として、油潤滑の転がり軸受の他、すべり軸受の一種である動圧軸受(流体動圧軸受)が使用されていた。特に、油循環用の補機を別途設けることが困難な場合、潤滑油のせん断抵抗が問題となる場合、油による汚染が問題となる場合等には、潤滑流体として空気を用いる空気動圧軸受が好適に使用されていた。
【0003】
一般的な動圧軸受(空気動圧軸受)は、回転側と静止側の双方の軸受面が剛体で構成される。この種の動圧軸受において、回転側と静止側の軸受面間に形成されるラジアル軸受隙間の隙間幅管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと称される自励的な主軸の振れ回りが生じ易くなる。従って、一般的な動圧軸受において、所望の軸受性能を安定的に発揮させ、かつそれを維持するには、ラジアル軸受隙間の隙間幅を高精度に管理(常時適正範囲内に維持)する必要がある。しかしながら、上記したガスタービンや過給機の支持軸受には、例えば下記の特許文献1に開示されているように一般的に300℃程度以上の耐熱性が要求される。このように高温となる環境下で動圧軸受を使用する場合には、熱膨張の影響でラジアル軸受隙間の隙間幅が変動し易く、所望の軸受性能を安定的に維持するのが困難である。
【0004】
そこで、フォイル軸受と称される軸受が提案され、また実用されるに至っている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(薄板)状のフォイルで軸受面を構成し、この軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものであり、例えば下記の特許文献2,3に開示されているものが公知である。詳述すると、同文献に開示されたフォイル軸受は、可撓性を有し、内周に挿入した軸部材との間に楔状のラジアル軸受隙間を形成するトップフォイルと、トップフォイルの外径側に配置され、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部材としてのバックフォイルと、トップフォイルおよびバックフォイルを内周に収容した円筒状の外方部材とを備える。このようなフォイル軸受において、軸部材が回転(偏芯回転)すると、軸部材の外周面とトップフォイルの内径面との間に楔状のラジアル軸受隙間が形成され、このラジアル軸受隙間に形成される流体膜(空気膜)で軸部材がラジアル方向に相対回転自在に支持される。そして、軸部材の回転中には、ラジアル軸受隙間における圧力分布の変動に応じてトップフォイルおよびバックフォイルが変形することにより、ラジアル軸受隙間の隙間幅が常時適正範囲内に維持される。また、このトップファオイルおよびバックフォイルの変形に伴ってトップフォイルに作用する摩擦力が軸・軸受系の振動を抑制するため、フォイル軸受は安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。
【0005】
また、一般的な動圧軸受のラジアル軸受隙間は、軸径の1/1000のオーダーで管理する必要があることから、例えば軸径が数mm程度の軸を支持する動圧軸受であっても、ラジアル軸受隙間の隙間幅を数μm程度に管理する必要がある。従って、製造時の公差、さらには熱膨張量まで考慮すると、一般的な動圧軸受において隙間幅管理を厳密に行うことは極めて困難であると言わざるを得ない。これに対してフォイル軸受の場合には、ラジアル軸受隙間を形成するトップフォイル自体が弾性変形するため、ラジアル軸受隙間の隙間幅を数十μm程度に管理すれば足りる。従って、製造や隙間管理を容易化することができる。
【0006】
なお、特許文献2のフォイル軸受は、矩形状の金属薄板を筒状に丸めてなるバックフォイルに複数設けた切り上げ部により、トップフォイルが弾性的に支持される構造となっており、また、特許文献3のフォイル軸受は、矩形状の金属薄板を筒状に丸めてなるバックフォイルに複数設けた折り曲げ部により、トップフォイルが弾性的に支持される構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2669419号公報
【特許文献2】特開2002−364643号公報
【特許文献3】特開2009−299748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2,3に記載のフォイル軸受では、バックフォイルとなる金属薄板に機械加工や塑性加工を施すことにより、トップフォイルを弾性的に支持する切り上げ部や折り曲げ部(以下、弾性支持部という)を形成していることから、所定形状のバックフォイルを製作するのに多くの手間を要するという問題がある。また、バックフォイルを外方部材の内周に組み付けるまでの間に弾性支持部が変形等すると、所望の軸受性能(支持能力)を発揮することができなくなるおそれがあることから、バックフォイルの取り扱いに格別の配慮を要する。以上のように、従来構成のフォイル軸受においてはバックフォイルの製造コストが嵩み、このことがフォイル軸受の製造コストを増大させているのが実情である。
【0009】
また、フォイル軸受の構造上、フォイル軸受の軸受性能は、バックフォイルの弾性支持能力(剛性)を調整することで変更することができる。しかしながら、特許文献2,3に記載されたバックフォイルの剛性を調整するには、バックフォイルを構成する金属薄板の材質や厚み等を変更したり、弾性支持部の形状を変更したりする必要がある。そのため、バックフォイルの剛性を調整するのに多大な手間を要し、フォイル軸受の軸受性能を要求レベルに簡便に適合させることができないという問題もある。
【0010】
このような実情に鑑み、本発明の目的は、この種のフォイル軸受において、製造コストの低廉化、および軸受性能の調整作業の簡便化を同時に達成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係るフォイル軸受は、可撓性を有し、内周に挿入した軸部材との間に楔状のラジアル軸受隙間を形成するトップフォイルと、トップフォイルの外径側に配置され、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部材と、トップフォイルおよび弾性支持部材を内周に収容した円筒状の外方部材とを備え、弾性支持部材を、多孔質体で形成したことを特徴とする。なお、ここでいう「多孔質体」には、いわゆる独立気孔タイプおよび連続気孔タイプの双方が含まれる。
【0012】
このように、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部材を多孔質体で形成すれば、この多孔質体の多孔質組織を、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部として機能させることができる。この場合、従来のバックフォイル(弾性支持部材)のように、適当な材質及び厚みの金属薄板に機械加工や塑性加工を施すことによって複雑形状の弾性支持部を形成せずとも、弾性支持部材の形成段階にて気孔率を調整するだけで弾性支持能力(剛性)を調整することができる。従って、弾性支持部材は、トップフォイルと接する内径面が平滑な円筒面状に形成された単純な円筒形態に形成すれば足りるので、この形状の単純化を通じて弾性支持部材の生産性を向上することができる。また、形状が単純化される分、弾性支持部材の取り扱い性が向上する。
【0013】
弾性支持部材を構成する多孔質体は、フォイル軸受の使用温度範囲内において、求められる弾性支持能力を発揮可能なもの(所望の態様でトップフォイルを弾性的に支持可能なもの)であれば、樹脂、金属又はセラミックスの何れの材料で形成されたものであっても良い。このうち、樹脂の多孔質体からなる弾性支持部材は、例えば、気孔形成材を配合した樹脂材料を用いて成形した略完成品形状の中間成形品から、これに含まれる気孔形成材を適当な溶媒で除去することにより、あるいは、適当な樹脂材料を発泡成形することにより得ることができる。
【0014】
以上の構成において、弾性支持部材は、周方向で有端の円筒状に形成されたもの(板状の多孔質部材を丸めることで円筒形態としたもの)であっても良いし、周方向で無端の円筒状に形成されたもの(予め円筒状に形成されたもの)であっても良い。特に、弾性支持部材が、周方向で無端の円筒状に形成されたものであれば、機械的又は人為的作業によって板状の多孔質部材を円筒形態に丸める手間を省略することができる他、フォイル軸受相互間で軸受性能にバラツキが生じ難くなる。
【0015】
弾性支持部材を外方部材に固定するための手段としては、圧入、接着、圧入接着(圧入と接着の併用)、あるいは溶着等を採用しても良いし、これに替えて、もしくはこれに加えて、外方部材と弾性支持部材の何れか一方に設けた凹部に、他方に設けた凸部を嵌合する、いわゆる凹凸嵌合を採用しても良い。外方部材と弾性支持部材を凹凸嵌合させる場合、何れか一方に設けた凹部に対し、他方に設けた凸部が軸方向および周方向の双方で係合するように凹部と凸部の形成態様を考慮するのが望ましい。使用中に外方部材と弾性支持部材が相対移動するのを確実に防止するためである。
【0016】
本発明に係るフォイル軸受は、トップフォイルおよび弾性支持部材の少なくとも一方の軸方向端部に設けた径方向の突出部を、外方部材の端面との間で(軸方向に)挟持固定する挟持部材をさらに有するものとすることができる。このようにすれば、外方部材に対し、トップフォイルおよび弾性支持部材の少なくとも一方を簡便に固定することが可能となるので、フォイル軸受の生産性向上を図ることができる。
【0017】
多孔質体からなるバックフォイルの内部気孔には、潤滑油を含浸させることもできる。
【0018】
フォイル軸受の構造上、トップフォイルとバックフォイル(弾性支持部材)は相対的に摺動移動させることが可能であり、この場合には、両者間で少なからず摩擦・摩耗が発生する。この摺動部での潤滑性を高めるため、一般的に固体潤滑材が用いられている。バックフォイルとして機能する弾性支持部材を多孔質体で形成した本発明においては、その内部気孔に潤滑油を含浸させることが可能であり、この場合には、バックフォイルの表面開孔から滲み出す潤滑油により、トップフォイルとバックフォイルの繰り返しの摺動接触による摩耗を抑制あるいは防止することができる。
【0019】
以上に述べた本発明に係るフォイル軸受は、ガスタービンのロータの他、過給機(ターボチャージャやスーパーチャージャ)のロータ等の支持に好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上より、本発明に係るフォイル軸受では、バックフォイルとして機能する弾性支持部材が、比較的低コストに製作可能で、取り扱い性に優れ、かつ剛性を容易に調整可能なものに置換される。これにより、この種のフォイル軸受において、製造コストの低廉化、および軸受性能の調整作業の簡便化を同時に達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係るフォイル軸受を概念的に示す軸平行断面図であり、(b)図は、同軸直交断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係るフォイル軸受を示す軸直交断面図である。
【図3】(a)図および(b)図共に、本発明の他の実施形態に係るフォイル軸受を示す軸平行断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るフォイル軸受を示す軸直交断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係るフォイル軸受1の含軸断面図を概念的に示す。同図に示すフォイル軸受1は、例えば、ガスタービンのロータや過給機のロータ等、高温環境下で高速回転する軸部材2を支持するためのものであり、内周に挿入した軸部材2との間にラジアル軸受隙間を形成するトップフォイル4と、トップフォイル4の外径側に配置され、トップフォイル4を弾性的に支持する弾性支持部材5と、トップフォイル4および弾性支持部材5を内周に収容した円筒状の外方部材3とを主要な構成部材として備える。軸部材2の外周面は、凹凸のない平滑な円筒面に形成されている。
【0024】
外方部材3は、ソリッド(非多孔質)の金属材料や樹脂材料により周方向で無端の円筒状に形成され、図示しない静止側部材の内周に固定されている。トップフォイル4は、略矩形状をなす金属薄板(薄膜)をその長手方向に沿って丸めることで略円筒状に形成されており、金属薄板としては、ラジアル軸受隙間における圧力分布の変動に応じて弾性変形可能な可撓性を有するものが使用される。トップフォイル4の周方向一端部は、弾性支持部材5の内径面に接着、溶着等の適宜の手段で固定されており、トップフォイル4の周方向他端部は、トップフォイル4の周方向一端部の内径面に摺動自在に接触している。トップフォイル4の周方向一端部を弾性支持部材5に固定した状態で、弾性支持部材5の内径面には、トップフォイル4の外径面が摺動可能に接触している。
【0025】
弾性支持部材5は、多孔質体、ここでは樹脂の多孔質体(多孔質樹脂)で周方向に無端の円筒状に形成され、圧入、接着、圧入接着、溶着等の適宜の手段で外方部材3の内周に固定される。本実施形態では、弾性支持部材5を外方部材3の内周に軽圧入(外方部材3と弾性支持部材5の相対的な摺動移動が許容される程度の締め代で圧入)することにより、外方部材3の内周に弾性支持部材5が固定されている。弾性支持部材5の内径面および外径面は、双方共に、凹凸のない平滑な円筒面状に形成されている。このような弾性支持部材5は、例えば、気孔形成材を配合した樹脂材料を用いて略完成品形状の中間成形品を射出成形した後、この中間成形品に含まれる気孔形成材を適当な溶媒で除去することにより得られる。なお中間成形品は、射出成形の他、ベース樹脂の材質等に応じて、圧縮成形、押出し成形などの手法を用いて得ることもできる。
【0026】
弾性支持部材5(中間成形品)の成形に用いるベース樹脂としては、射出成形や押出し成形等の一般的な成形手法を採用することができ、かつ求められる耐熱性や機械的強度等を満足できれば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を問わず使用可能である。ベース樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の汎用プラスチック、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のエンジニアリングプラスチック、およびポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のスーパーエンジニアリングプラスチックから選定された一または複数種混合したものが使用可能である。但し、この種のフォイル軸受1が300℃程度の高温環境下で用いられることを考慮すると、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でも特に高い耐熱性(融点が300℃以上)や機械的強度を具備するもの、具体的にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)や熱硬化性ポリイミドをベース樹脂とするのが望ましい。ベース樹脂には、強化材、潤滑剤、導電化材、寸法安定材等の各種充填材を一又は複数種配合することもできる。
【0027】
そして、弾性支持部材5(中間成形品)の成形に用いる樹脂材料は、上記のベース樹脂に、ドライブレンド、溶融混錬等、樹脂の混合に一般に使用する混錬法で気孔形成材や充填材を混合させることによって生成される。気孔形成材としては、成形時の融解を防止するため、選定されるベース樹脂の成形温度よりも高い融点を有し、ベース樹脂に配合して中間成形品を成形した後、ベース樹脂を溶解しない溶媒を用いて除去可能なものを使用することができる。この中でも、特に、中間成形品からの除去作業を容易に行い得る水溶性で、また、防錆剤としても機能するアルカリ性化合物からなる気孔形成材を好ましく使用することができる。
【0028】
使用可能な気孔形成材としては、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、あるいはステアリン酸ナトリウム等に代表される有機アルカリ金属塩や、炭酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等に代表される無機アルカリ金属塩等を挙げることができる。この中でも、高融点で、ベース樹脂の選定自由度を高められ、かつ水溶性に優れる安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウムが特に好ましい。気孔形成材は一種のみ使用する他、二種以上混合して使用しても良い。
【0029】
中間成形品から気孔形成材を除去するための溶媒としては、水の他、水と相溶するアルコール系、エステル系、あるいはケトン系の溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、一種のみ使用する他、二種以上を混合して使用することもできる。但し、廃液処理が容易で、かつ安価であることから、気孔形成材の除去溶媒としては水が最も好ましい。
【0030】
以上の構成からなるフォイル軸受1において、図1(b)に示すように、軸部材2に対して図示しない駆動機構から回転駆動力が付与されることによって軸部材2が回転(偏芯回転)すると、軸部材2の外周面とトップフォイル4の内径面との間に楔状のラジアル軸受隙間Cが形成され、このラジアル軸受隙間Cに形成される流体膜(空気膜)によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。そして、軸部材2の回転中には、ラジアル軸受隙間Cにおける圧力分布の変動に応じて(楔状のラジアル軸受隙間Cの形成領域が周方向および軸方向で変化するのに応じて)トップフォイル4および弾性支持部材5が弾性変形することにより、ラジアル軸受隙間Cの隙間幅が常時適正範囲内に維持(自動調整)される。
【0031】
また、トップフォイル4が弾性支持部材5によって弾性的に支持されていること、トップフォイル4の径方向他端部がトップフォイル4の径方向一端部の内径面に対して摺動自在に接触しており、トップフォイル4の拡縮変形が可能であること、さらに弾性支持部材5が外方部材3の内周に軽圧入されており、弾性支持部材5が外方部材3に対して摺動移動可能であること、などの理由から、ラジアル軸受隙間Cの隙間幅の自己調整能力が強化されると共に、振動の減衰効果が得られるため、高温・高速回転といった過酷な運転条件でも軸部材2の回転が一層安定的に支持される。
【0032】
本発明に係るフォイル軸受1では、トップフォイル4を弾性的に支持する弾性支持部材5を多孔質体(本実施形態では樹脂の多孔質体)で形成した。このようにすれば、多孔質体の多孔質組織を、トップフォイル4を弾性的に支持する弾性支持部として機能させることができる。この場合、従来のバックフォイルのように、適当な材質及び厚みの金属薄板に機械加工や塑性加工を施すことによって複雑形状の弾性支持部を形成せずとも、弾性支持部材5の形成段階で気孔率を調整するだけで剛性を調整することができる。従って、弾性支持部材5は、トップフォイル4と接する内径面が平滑な円筒面状に形成された単純な円筒形態に形成すれば足りるので、この形状の単純化を通じて弾性支持部材5の生産性を向上することができる。また、形状が単純化される分、弾性支持部材5の取り扱い性が向上する。このように、本発明に係るフォイル軸受1では、弾性支持部材5が、低コストに製作可能で、取り扱い性に優れ、かつ剛性を容易に調整可能なものに置換される。これにより、フォイル軸受1の製造コストの低廉化、および軸受性能の調整作業の簡便化を同時に達成することが可能となる。
【0033】
また、弾性支持部材5を、予め周方向で無端の円筒状に形成したので、機械的又は人為的作業によって板状の多孔質部材を円筒形態に丸める手間を省略することができる他、固体間(フォイル軸受1相互間)で軸受性能にバラツキが生じ難くなる。
【0034】
以上では、気孔形成材を配合した樹脂材料を用いて中間成形品を成形し、この中間成形品に含まれる気孔形成材を適当な溶媒で除去することで樹脂の多孔質体からなる弾性支持部材5を得る場合について説明を行ったが、樹脂の多孔質体からなる弾性支持部材5は、空気や炭酸ガス等を混練した溶融状態の樹脂材料を用いて所定形状に射出成形する(樹脂材料を発泡成形する)ことによって得ることも可能である。また、弾性支持部材5は、所望の剛性を有し、必要とされる弾性支持能力を発揮することができるのであれば、樹脂以外の多孔質体、具体的には金属又はセラミックスの多孔質体で形成することもできる。後述するその他の実施形態についても同様である。
【0035】
弾性支持部材5を金属の多孔質体で形成する場合には、例えば、発泡剤を混練した金属材料を発泡成形することで得られる発泡金属の多孔質体とすることができる。この場合に使用する金属材料としては、融点が300℃以上で、加工性に富み、かつ容易に入手することができる一般的なものが好ましく、純金属では銅やニッケル等を挙げることができ、合金ではステンレス鋼やニッケルクロム合金等を挙げることができる。
【0036】
また、弾性支持部材5をセラミックスの多孔質体で形成する場合、セラミックス材料としては、特に高融点のアルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)等を好ましく使用することができ、セラミックスの多孔質体は、例えば、以下に示す方法を用いて得ることができる。
【0037】
まず、所望の気孔率を有し、後述する焼成段階において焼失する紙製もしくはスポンジ(発泡樹脂)製の多孔質基材を準備し、この基材に金属アルコキシドの溶液を含浸させる。ここで、金属アルコキシドの溶液は、目的とするセラミックスに対応する金属のアルコキシドに、アルコール、水および酸を加えることで生成される。この溶液において、加える水の量は、金属アルコキシドが部分加水分解する程度の少量に抑える。加える水の量をあまりに多くすると、金属アルコキシドが一気に加水分解・重合し、基材の微小な気孔内に入り込み難い粒径のゾル粒子となるからである。
【0038】
金属アルコキシドの溶液を多孔質基材に含浸させる前には、(1)当該溶液の溶媒の沸点直下で還流し、(2)多孔質基材をアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含まない界面活性剤により洗浄し、(3)溶液が多孔質基材の微細な気孔内に入り込むように上記溶液を溶媒で希釈する。さらに、多孔質基材に金属アルコキシドの溶液を含浸させた後、これを焼成する前に、多孔質基材の分解温度以上に所定時間保ち、多孔質基材を炭化させる。これらの処理を行った後、金属アルコキシドの溶液を含浸させた多孔質基材を所定温度で焼成すると、多孔質基材は焼失する一方、金属アルコキシドは焼結されてセラミックスとなる。このようにして得られたセラミックスは、多孔質基材の気孔形状や気孔率が反映(転写)された多孔質構造を有する。
【0039】
以上では、圧入、接着、圧入接着、溶着等の手段によって弾性支持部材5を外方部材3の内径面に固定する場合について説明を行ったが、外方部材3に対する弾性支持部材5の固定手段はこれに限られない。
【0040】
例えば、図2に示すように、外方部材3の内径面に凹部12を設け、この凹部12に対して弾性支持部材5の外径面に設けた凸部11を嵌合させる凹凸嵌合構造によって両者を固定することもできる。この凹凸嵌合構造は、弾性支持部材5の外径面に設けた凹部12に、外方部材3の内径面に設けた凸部11を嵌合することによって構成することもできる(図示省略)。また、この凹凸嵌合構造は、外方部材3の内径面に弾性部材5を接着、圧入、圧入接着、溶着等で固定する場合にも追加的に採用することができる。なお、このような凹凸嵌合構造は、凸部11と凹部12が、周方向のみならず、軸方向でも係合するように形成することもできる。
【0041】
また、例えば図3(a)に示すように、外方部材3の軸方向外側に円筒状の挟持部材8をさらに設け、この挟持部材8と外方部材3とで、弾性支持部材5の軸方向端部(図示例では軸方向一端部としているが、軸方向両端部としてもよい)に設けた径方向の突出部13を軸方向に挟持固定するようにしても良い。この場合、突出部13は、全周に亘って設けても良いし、周方向一部領域に(扇状に)設けても良い。このような挟持構造を採用すれば、接着や溶着で弾性支持部材5を外方部材3に固定する場合に比べ、固定プロセスを簡便化しつつ、外方部材3の内周から弾性支持部材5が抜脱するのを効果的に防止することができる。この場合、突出部13は、外方部材3と弾性支持部材5の相対的な摺動移動が許容される程度の力で挟持しても良いし、外方部材3と弾性支持部材5の相対的な摺動移動が許容されないように強固に挟持しても良い。振動の減衰効果を高めたい場合には、外方部材3と弾性支持部材5の相対的な摺動移動が許容される程度の力で突出部13を挟持するのが望ましい。
【0042】
挟持部材8は、トップフォイル4を外方部材3に固定するための部材としても活用することができる。すなわち、図3(b)に示すようにトップフォイル4の軸方向端部(図示例では軸方向両端部)の周方向一又は複数箇所、あるいは全周に亘って径方向の突出部13を設け、この突出部13を挟持部材8と外方部材3とで軸方向に挟持固定することもできる。この場合、トップフォイル4の軸方向両端部に設けた突出部13により、外方部材3内周からの弾性支持部材5の抜脱を防止することができる。そのため、外方部材3に対する弾性支持部材5の固定方法の選択自由度が増す、というメリットもある。また、図示は省略しているが、弾性支持部材5の軸方向端部、およびトップフォイル4の軸方向端部の双方に径方向の突出部13を設け、これら突出部13の双方を、挟持部材8と外方部材3とで軸方向に挟持固定するようにすることもできる。
【0043】
また、以上で説明したフォイル軸受1においては、周方向で無端の円筒状に形成された弾性支持部材5を用いているが、フォイル軸受1の生産性の低下が問題とならないのであれば、弾性支持部材5は、図4に示すように、板状に形成した多孔質部材を丸めることで円筒形態としたもの(周方向で有端の円筒状に形成されたもの)を用いることも可能である。この場合、弾性支持部材5の周方向一端部と周方向他端部とは、切れ目9が形成されるように周方向に離隔配置しても良い(図4を参照)し、相互に当接するように配置(図示省略)しても良い。
【0044】
また、以上で説明したフォイル軸受1において、多孔質体からなる弾性支持部材5の内部気孔には、潤滑油を含浸させることも可能である。このようにすれば、トップフォイル4と弾性支持部材5が摺動接触する際に、弾性支持部材5の表面開孔から滲み出す潤滑油によりトップフォイル4と弾性支持部材5間での摩耗を抑制あるいは防止することができる。
【0045】
また、以上で説明したフォイル軸受1は、軸部材2を回転側、外方部材3(さらに、トップフォイル4および弾性支持部材5)を静止側としたものであるが、本発明は、軸部材2を静止側、外方部材3を回転側としたフォイル軸受1にも好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 フォイル軸受
2 軸部材
3 ハウジング
4 トップフォイル
5 弾性支持部材
8 挟持部材
11 凸部
12 凹部
13 突出部
C ラジアル軸受隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し、内周に挿入した軸部材との間に楔状のラジアル軸受隙間を形成するトップフォイルと、トップフォイルの外径側に配置され、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部材と、トップフォイルおよび弾性支持部材を内周に収容した円筒状の外方部材とを備え、ラジアル軸受隙間に生じた流体膜で軸部材と外方部材の相対回転を支持するフォイル軸受において、
弾性支持部材を、多孔質体で形成したことを特徴とするフォイル軸受。
【請求項2】
弾性支持部材を、樹脂、金属又はセラミックスの多孔質体で形成した請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項3】
弾性支持部材が、周方向で無端の円筒状に形成された請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項4】
外方部材と弾性支持部材の何れか一方に設けた凹部に、他方に設けた凸部を嵌合することにより外方部材と弾性支持部材を固定した請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項5】
トップフォイルおよび弾性支持部材の少なくとも一方の軸方向端部に設けた径方向の突出部を、外方部材の端面との間で挟持固定する挟持部材をさらに有する請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項6】
弾性支持部材の内部気孔に潤滑油を含浸させてなる請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項7】
ガスタービンのロータの支持に使用される請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項8】
過給機のロータの支持に使用される請求項1に記載のフォイル軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−177457(P2012−177457A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41844(P2011−41844)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】