フォトミキサおよび光電子集積回路
【課題】入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることを可能とする。
【解決手段】1つの基板上に、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18、および高周波線路19を形成し、3dBカプラ13により、周波数の異なる2つの入力光信号S11,S12を合波して得られた光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、光ビート信号S14,S15のうちの一方、例えば光ビート信号S14の位相を位相シフタ16により調整し、得られた光ビート信号S16と光ビート信号S14とをそれぞれ、フォトダイオード17,18でOE変換し、得られた電気信号S17,S18を高周波線路19で電力合成して出力する。
【解決手段】1つの基板上に、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18、および高周波線路19を形成し、3dBカプラ13により、周波数の異なる2つの入力光信号S11,S12を合波して得られた光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、光ビート信号S14,S15のうちの一方、例えば光ビート信号S14の位相を位相シフタ16により調整し、得られた光ビート信号S16と光ビート信号S14とをそれぞれ、フォトダイオード17,18でOE変換し、得られた電気信号S17,S18を高周波線路19で電力合成して出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数の異なる2つの入力光信号から、これら入力光信号の差周波を持つ光ビート信号を生成する光信号処理回路技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波と光波の中間の周波数(波長)を持つ領域の電磁波、いわゆるテラヘルツ波に関する基礎的研究、応用研究が活発になってきている。テラヘルツ波は概ね0.1[THz]から10[THz]の周波数を持つ電磁波を指し、ミリ波のような低い周波数の電波と、より高い周波数の光の両方の特長を併せ持った優れた特性を持っている。
このような特性を活かし、HD映像をリアルタイムで電送できる大容量無線通信システム、絵画や危険物質を映像化して検査する非破壊検査、イメージングシステム、電波天文で使われる電波望遠鏡の分光装置、危険ガスや薬品などを非接触で検知、分析する分光センシングシステム、などへの応用が盛んに行われている。
【0003】
このようなテラヘルツ波応用システムを実現するためには、安価で小型軽量、高出力広帯域でかつ広い範囲の周波数領域を掃引可能なテラヘルツ波発生器が必要となる。
テラヘルツ波発生器を実現する一つの方法として、超高速なフォトダイオードを利用するフォトミキサがある(例えば、非特許文献1、2など参照)。
【0004】
このようなテラヘルツ波発生技術は、テラヘルツ周波数で振動する光を超高速フォトダイオードに入射して、同じ周波数で振動する電気信号に変換して取り出し、さらに空間に放射する方式である。特に、テラヘルツ波発生の原理として光電変換機能を用いているので、元となるテラヘルツ周波数で振動する光信号を生成する技術は、フォトミキサを構成する上で重要な技術の一つとなる。
【0005】
この種の光信号を生成する技術のうち、最も良く用いられているのが、2つの異なる周波数f1,f2を持つレーザ光を3dBカプラで結合して差周波の光ビート信号(以下、単に光ビート信号と呼ぶ)を作る方法である。光ビート信号の発生は音波における唸りの発生と原理的に同一の現象である。
すなわち、f1およびf2の振動のちょうど山(あるいは谷)同士が重なり合う時に光の電界は強め合い、山と谷が重なり合う時に光の電界は打ち消し合う。光ビート信号の振動周波数はΔf=f1−f2で表わされる。例えば、光源としてレーザを考えた場合、各レーザの波長が1.5500μmと1.5385μmであった時にΔfは約1THzとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Ito, T. Furuta, T. Ito, Y. Muramoto, K. Tsuzuki, K. Yoshino, T. Ishibashi, "W-band uni-travelling-carrier photodiode module for high-power photonic millimetre-wave generation", Electronics Letters(2002), 23th October 2002 Vol. 38 No. 22, pp. 1376-1377
【非特許文献2】H. Ito, T. Furuta, Y. Muramoto, T. Ito, T. Ishibashi, "Photonic millimetre- and sub-millimetrewave generation using J-band rectangularwaveguide-output uni-travelling-carrier photodiode module", Electronics Letters(2005), 23rd November 2006 Vol. 42 No. 24, pp. 1424-1425
【非特許文献3】Shigetaka Itakura, Kiyohide Sakai, Tsutomu Nagatsuka, Eitaro Ishimura, Masaharu Nakaji, Hiroshi Otsuka, Kazutomi Mori, and Yoshihito Hirano, "High-Current Backside-Illuminated Photodiode Array Module for Optical Analog Links", Journal of Lightwave Technology, Vol. 28, Issue 6, pp. 965-971 (2010)
【非特許文献4】Yang Fu, Huapu Pan, Campbell, J.C., "Photodiodes With Monolithically Integrated Wilkinson Power Combiner", IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 46, NO. 4, April 2010, pp. 541-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は、従来のフォトミキサの構成例である。フォトミキサ100において、周波数f1とf2(周波数の高さをf1>f2とする)を持つ2つの光信号が3dBカプラ101の入力ポートに入った場合、その出力ポートPA,PBには、それぞれ差周波Δf=f1−f2の周波数を持つ光ビート信号SA,SBが出力される。これら光ビート信号SA,SBの位相は、光電力振幅で見ると、λ1信号、λ2信号の位相関係にかかわらず、互いに逆位相の状態で固定される。
【0008】
図9は、3dBカプラの接続図である。図10は、3dBカプラのビート位相を示す説明図である。
3dBカプラに対して、λ1信号がポートAから導入されるとともに、λ2信号がポートBから導入された場合、3dBカプラの特性に基づいて、ポートAからポートCを経由するλ1出力111に対して、ポートDのλ1信号出力112は光位相がπ/2遅れる。
【0009】
同様に、ポートDのλ2信号出力113に対して、ポートCのλ2信号出力114は光位相がπ/2遅れる。結局、Cポート、Dポートで合波されたλ1+λ2の電界115,116に従って、光ビートの振幅は互いに反転した関係となってしまう。このため、Cポート、Dポート出力のビート位相が独立していないので、独立なアンテナへの光ビート電力の供給源として用いることはできない。
【0010】
したがって、図8に示した従来のフォトミキサ100では、3dBカプラ101から得られた2つの光ビート信号SA,SBのうち、光ビート信号SAのみがフォトダイオード102に入力されて、OE変換(光電変換)によって周波数Δfの高周波電気信号SCがフォトミキサ100から出力される。
【0011】
この例では、電気信号の出力デバイスはマイクロストリップ線路あるいはコプレーナ線路などの高周波線路である(例えば、非特許文献3、4など参照)。図8に示す通り、電磁波の発生に使用されるのは光ビート信号SAのみであり、光ビート信号SBは使用されず、半分程度が使用されず無駄になる。このため、従来のフォトミキサ100では、入力された光信号の光入力パワーを有効に利用できない、という問題点があった。
【0012】
また、フォトミキサ100の出力電力は、フォトダイオード102に入る光ビート信号のパワーに比例する。しかしながら、一般にフォトダイオードには空間電荷効果という現象があり、ある程度以上の強い光入力では電気出力が飽和してしまう特性がある。出力飽和する光入力パワーはフォトダイオードの材料や構造等に依存するが、1個のフォトダイオードの出力電力には限界がある。このため、従来のフォトミキサ100では、入力された光信号の光入力パワーを有効に利用できない、という問題点があった。
【0013】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることが可能な光信号処理回路技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明にかかるフォトミキサは、基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号を合波し、これら入力光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、基板上に形成されて、第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、基板上に形成されて、位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された第1および第2の光ビート信号を、それぞれ別個に電気信号にOE変換して出力する2つのフォトダイオードと、基板上に形成されて、フォトダイオードから出力された2つの電気信号を電力合成して出力する高周波線路とを備えている。
【0015】
この際、位相シフタで、第1および第2の光ビート信号の間における第1の光ビート信号の半波長分の位相差に加えて、当該フォトミキサの製造ばらつきに起因して発生する1および第2の光ビート信号の間の位相誤差を調整するようにしてもよい。
【0016】
また、高周波線路に代えて、2つの電気信号ごとに基板上に形成されて、これら電気信号をそれぞれ電磁波として空間に放射することにより、当該空間でこれら電磁波を合成する2つのアンテナを備えてもよい。
【0017】
また、位相シフタとして、位相制御電圧端子に印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する半導体光位相変調器を用いてもよく、あるいは、第1の光ビート信号の半波長に相当する線路長を有する光導波路を用いてもよい。
【0018】
また、本発明にかかる光電子集積回路は、基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号のそれぞれを、N組(Nは2以上の整数)の周波数の異なる2つの光信号に分岐して出力する光スプリッタと、光スプリッタから出力された2つの光信号ごとに基板上に形成されて、当該2つの光信号を合波し、これら光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、基板上に形成されて、第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、基板上に形成されて、位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された第1および第2の光ビート信号を、当該基板の外部へ出力する光出力導波路とを備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、周波数の異なる2つの入力光信号から、これらの差周波を周波数とする、互いに同相の光ビート信号を複数生成することができる。したがって、これら光ビート信号の一方だけではなく、これら両方をそれぞれOE変換して得られた電気信号を電力合成することにより、より大きな出力電力を得ることができる。このため、入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図2】位相誤差を含む光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。
【図3】位相誤差調整後の光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。
【図4】光遅延回路を用いたフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図5】第2の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図6】第3の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図7】第4の実施の形態にかかる光電子集積回路の構成を示す回路図である。
【図8】従来のフォトミキサの構成例である。
【図9】3dBカプラの接続図である。
【図10】3dBカプラのビート位相を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるフォトミキサ10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図であり、フォトダイオードが2個の場合に適用したものである。
このフォトミキサ10は、全体として、周波数の異なる2つの光信号を入力として、これら光信号の差周波の光ビート信号に基づき、テラヘルツ周波数波を発生させる機能を有している。
【0022】
図1の構成例では、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18、および高周波線路19は、半導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0023】
3dBカプラ13は、光導波路11,12を介して入力された、異なる周波数f1,f2(f1>f2)の2つの入力光信号S11,S12を合波し、これら入力光信号S11,S12の差周波f1−f2の周波数を持ち、互いに逆位相となる光ビート信号(第1の光ビート信号)S14と光ビート信号(第2の光ビート信号)S15とを、それぞれ出力ポートPA,PBから出力する機能を有している。
【0024】
位相シフタ16は、光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、3dBカプラ13の出力ポートPAから光導波路14を介して入力された光ビート信号S14の位相を調整して出力する機能を有している。この場合、位相シフタ16で、光ビート信号S14,S15のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力すればよいが、本実施の形態では、光ビート信号S14の位相を調整して出力する例について説明する。なお、位相シフタ16で、光ビート信号S14,S15の両方の位相を調整して出力する例については、第2の実施の形態で後述する。
【0025】
フォトダイオード17は、位相シフタ16で位相調整された光ビート信号S16を電気信号S17にOE変換して出力する機能を有している。
フォトダイオード18は、3dBカプラ13の出力ポートPBから光導波路15を介して入力された光ビート信号S15を電気信号S18にOE変換して出力する機能を有している。
高周波線路19は、電気信号S17,18を電力合成し、得られた合成出力信号S19を、フォトミキサ10の外部へ出力する機能を有している。
【0026】
フォトミキサ10を構成する基板が半導体基板の場合、InPやGaAsなどの、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18の作製に適した基板材料を用いればよい。また、高周波線路19は、半導体基板の上にAuなどの金属薄膜をパターニングして作製すればよい。
【0027】
一方、フォトミキサ10を構成する基板が石英基板の場合、光導波路11,12,14,15や3dBカプラ13は、石英基板に作製し、フォトダイオード17,18はInPなどの半導体で作製し、位相シフタ16は半導体あるいは強誘電体材料で作製し、これらチップを適当な方法を用いて石英基板に貼り付けるなどの方法がある。また、高周波線路19は、半導体基板の場合と同様に、石英基板の上に作製すればよい。
【0028】
どちらの基板においても、高周波線路19は、マイクロストリップ線路やコプレーナ導波路、グラウンデッドコプレーナ導波路、スロット線路などを用い、合成器の構成としては、ウィルキンソン型、ブランチライン型、ラットレース型などの合成器を用いる。図1の構成例では、マイクロストリップ線路によるウィルキンソン型合成器の場合を示している。
【0029】
[第1の実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかるフォトミキサ10の動作について説明する。
フォトミキサ10に入力された、異なる周波数f1,f2を持つ2つの入力光信号S11,S12は、3dBカプラ13に入力されて合波され、これら入力光信号S11,S12の差周波f1−f2の周波数を持ち、互いに逆位相となる光ビート信号S14,S15が出力される。
【0030】
光ビート信号S14は、位相シフタ16で半波長分だけ位相調整された光ビート信号S16となり、フォトダイオード17へ入力されて、差周波f1−f2の周波数を持つ、高周波の電気信号S17へOE変換される。
一方、光ビート信号S15は、位相調整されずにそのままフォトダイオード18へ入力されて、差周波f1−f2の周波数を持つ、高周波の電気信号S18へOE変換される。
この後、これら電気信号S17,S18は、高周波線路19で電力合成され、合成出力信号S19としてフォトミキサ10から出力される。
【0031】
図2は、位相誤差を含む光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。図3は、位相誤差調整後の光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。
【0032】
図1において、3dBカプラ13から出力されて位相シフタ16で半波長分だけ位相が調整された後にフォトダイオード17へ入力される光ビート信号S16と、3dBカプラ13から、位相調整せずに、直接、フォトダイオード18へ入力される光ビート信号S15との間には、フォトミキサ10を構成する各光導波路の作製寸法誤差や材料パラメータなどの製造ばらつきに起因して、位相誤差が発生する。
【0033】
したがって、この位相誤差が存在したまま、位相シフタ16で光ビート信号S14を半波長分だけ位相調整した後、それぞれ別々のフォトダイオード17,18に入力してOE変換し、これらフォトダイオード17,18から得られた電気信号S17,S18を電力合成した場合、図2に示すように、その合成出力信号S19の電界強度は、電気信号S17,S18の電界強度の2倍には到達しない。
特に、光ビート信号S16,S15の周波数が10[THz]を超えるような場合、位相誤差が180度になることも想定され、最悪の場合は打ち消しあって合成出力信号S19の電界強度がほぼゼロになってしまう可能性もある。
【0034】
これを避けるためには、位相誤差を解消し、光ビート信号S16,S15を同相にする必要がある。本実施の形態では、3dBカプラ13の出力ポートPAとフォトダイオード17との間に設けた位相シフタ16によって、光ビート信号S14を半波長分だけ位相調整するのに加えて、フォトミキサ10の製造ばらつきに起因する位相誤差を調整して光ビート信号2と同相にしている。これにより、図3に示すように、電気信号S17,S18が互いに強めあって、合成出力信号S19は電気信号S17,S18の電界強度のほぼ2倍になる。
【0035】
この場合、位相シフタ16としては、例えば、位相制御電圧端子16Tに印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する、一般的な半導体光位相変調器を用いてもよい。
あるいは、位相シフタ16として、ヒータなどによって光路長を可変できる光遅延回路を用いてもよい。この場合、位相シフタ16の位相制御電圧端子16Tに所定の位相制御電圧を印加することで、光ビート信号S14の位相を可変調整することができる。
【0036】
図4は、光遅延回路を用いたフォトミキサの構成を示す回路図である。ここでは、位相シフタ16に替えて、光路長が光ビート信号S14の半波長分の光路長を有する光遅延回路16Aを配置した例が示されている。
【0037】
図4に示すように、光ビート信号S14が通過する光路に、光遅延回路16Aを配置すれば、その光路長の分だけ、光ビート信号S15との間で光路長差が発生する。したがって、光路長が光ビート信号S14の半波長分の光路長を有する光遅延回路16Aを配置すれば、光ビート信号S14の位相を光ビート信号S15と同相にすることができる。これにより、電気信号S17,S18が互いに強めあって、合成出力信号S19は電気信号S17,S18の電界強度のほぼ2倍になる。
【0038】
また、光遅延回路16Aの光路の途中にヒータ16Bを設け、位相制御電圧端子16Tに所定の位相制御電圧を印加することで、光路を加熱して光路長を調整して、光ビート信号S14の位相を可変調整するようにしてもよい。これにより、フォトミキサ10の製造ばらつきに起因する位相誤差を調整することができる。
【0039】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、1つの基板上に、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18、および高周波線路19を形成し、3dBカプラ13により、周波数の異なる2つの入力光信号S11,S12を合波して得られた光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、光ビート信号S14,S15のうちの一方、例えば光ビート信号S14の位相を位相シフタ16により調整し、得られた光ビート信号S16と光ビート信号S14とをそれぞれ、フォトダイオード17,18でOE変換し、得られた電気信号S17,S18を高周波線路19で電力合成して出力するようにしたものである。
【0040】
これにより、周波数の異なる2つの入力光信号S11,S12から、これらの差周波を周波数とする、互いに同相の光ビート信号S14,S15を生成することができる。したがって、これら光ビート信号S14,S15の一方だけではなく、これら両方をそれぞれOE変換して得られた電気信号S17,S18を電力合成することにより、より大きな出力電力を得ることができる。このため、入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることが可能となる。
【0041】
また、本実施の形態では、位相シフタ16で、光ビート信号S14,S15の間における光ビート信号S14,S15の半波長分の位相差に加えて、フォトミキサ10の製造誤差に起因して発生する光ビート信号S14,S15の間の位相誤差を調整するようにしたので、極めて高い精度で同相の光ビート信号S14,S15を生成することができる。入力された光信号S11,S12の光入力パワーを、極めて効率よく利用してミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることができる。
【0042】
また、本実施の形態では、位相シフタ16として、位相制御電圧端子16Tに印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する半導体光位相変調器を用いてもよい。これにより、位相制御電圧を調整すれば、高い精度で光ビート信号S14,S15を同相とすることができる。
また、本実施の形態では、位相シフタ16として、光ビート信号S14の半波長に相当する線路長を有する光導波路を用いてもよい。これにより、極めて簡素な構成で、光ビート信号S14,S15を同相とすることができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるフォトミキサ10について説明する。図5は、第2の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
第1の実施の形態では、光ビート信号S14,S15のうちの一方の位相を調整する場合を例として説明した。本実施の形態では、光ビート信号S14,S15の両方の位相を調整する場合について説明する。
【0044】
図5の構成例では、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ21,22、フォトダイオード17,18、および高周波線路19が、半導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0045】
位相シフタ21は、光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、3dBカプラ13の出力ポートPAから光導波路14を介して入力された光ビート信号S14の位相を調整して出力する機能を有している。
位相シフタ22は、光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、3dBカプラ13の出力ポートPBから光導波路15を介して入力された光ビート信号S15の位相を調整して出力する機能を有している。
【0046】
この場合、位相シフタ21,22での位相調整は、結果として光ビート信号S14,S15の位相が同相となればよい。したがって、位相シフタ21,22において、等しい位相分だけ互いに反対方向に位相調整する方法に限定されるものではなく、例えば、異なる位相分だけ、互いに反対方向にあるいは同じ方向に、位相調整するようにしてもよい。
【0047】
これにより、電気信号S17,S18が互いに強めあって、合成出力信号S19は電気信号S17,S18の電界強度のほぼ2倍になる。したがって、3dBカプラ13から出力される2つの光ビート信号S14,S15の一方だけではなく、これら両方を用いて合成出力信号19を生成することができ、入力された光信号S11,S12の光入力パワーを効率よく利用してテラヘルツ波を発生させることができる。
【0048】
また、第1の実施の形態と同様に、フォトミキサ10の製造バラツキに起因する位相誤差を、位相シフタ21,22の両方あるいはいずれか一方で調整するようにしてもよい。この場合、位相制御電圧端子21T,22Tをそれぞれ有する位相シフタ21,22のうち、いずれか一方で、光ビート信号S14(S15)の半波長分だけ位相調整し、いずれか他方でフォトミキサ10の製造バラツキに起因する位相誤差を調整するようにしてもよい。これにより、いずれか一方の位相調整幅を固定化できるなど、それぞれが調整すべき位相幅に合わせて作り込むことができ、それぞれのサイズファクタや位相調整精度を最適化することができる。
【0049】
[第3の実施の形態]
次に、図6を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかるフォトミキサ10について説明する。図6は、第3の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
第1および第2の実施の形態では、フォトダイオード17,18で得られた電気信号S17,S18を、ウィルキンソン型合成器を始めとした高周波線路19により合成する場合を例として説明した。本実施の形態では、電気信号S17,S18をアンテナから放射して空間で合成する場合について説明する。
【0050】
図6の構成例では、第2の実施の形態にかかるフォトミキサ10(図5参照)をベースとして、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ31,32、フォトダイオード17,18、アンテナ31,32、および高周波線路19が、半導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0051】
アンテナ31,32は、電気信号S17,S18ごとに形成されて、電気信号S17,S18をそれぞれ電磁波として空間33に放射することにより、当該空間33でこれら電磁波を電力合成する機能を有している。
これにより、3dBカプラ13から出力される2つの光ビート信号S14,S15の一方だけではなく、これら両方を用いて電力合成することができ、入力された光信号S11,S12の光入力パワーを効率よく利用してテラヘルツ波を発生させることができる。
【0052】
[第4の実施の形態]
次に、図7を参照して、本発明の第4の実施の形態にかかる光電子集積回路50について説明する。図7は、第4の実施の形態にかかる光電子集積回路の構成を示す回路図である。
【0053】
第1〜第3の実施の形態では、周波数の異なる2つの入力光信号から得られた2つ光ビート信号を、それぞれに対応して設けられたフォトダイオードで電気信号へOEM変換する場合を例として説明した。
通常、フォトダイオードが出力飽和する光入力パワーは、フォトダイオードの材料や構造等にも依存するが、1つのフォトダイオードで得られる出力電力には限界がある。より大きな出力電力を得たい場合には、第1〜第3の実施の形態のように、2つのフォトダイオードで得られる出力電力を電力合成しても足りない場合もある。
【0054】
本実施の形態では、より大きな出力電力に対応させるため、第1〜第3の実施の形態で説明した、3dBカプラと位相シフタとからなる光ビート信号生成回路を、N(例えば、N=2n:nは1以上の整数)個並列して設け、周波数の異なる2つの入力光信号をそれぞれN個に分岐して各光ビート信号生成回路へ供給し、各光ビート信号生成回路から得られたN個の同相の光ビート信号を、それぞれに対応して設けられたN個のフォトダイオードへ供給する場合について説明する。
【0055】
なお、本実施の形態では、フォトミキサのうち、別体として構成された各フォトダイオード(図示せず)へ、それぞれ対応する同相の光ビート信号を供給する光電子集積回路50(Opto-Electronic Integrated Circuit)について説明する。この光電子集積回路50で得られた同相光ビート信号は、光学レンズなどを介して、それぞれ対応するフォトダイオードへ供給すればよい。
【0056】
図7の構成例では、N=2の場合が示されており、1×2光スプリッタ53、接続導波路54、3dBカプラ61と位相シフタ62を含む光ビート信号生成回路60、および光出力導波路55が、2個並列的に、導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0057】
1×2光スプリッタ53は、入力ポート51,52から入力された周波数の異なる2つの入力光信号、すなわちλ1信号とλ2信号(光波長:λ1、λ2)を、2個の光信号に分岐して出力する機能を有している。この場合、λ1信号とλ2信号に対する分岐数が4より大きい場合には、1×2光スプリッタ53を階層的に接続すればよい。例えば、図7の1×2光スプリッタ53から分岐された4つの光信号ごとに、1×2光スプリッタ53を設けた場合、分岐数は全部で8となる。
【0058】
光ビート信号生成回路60は、接続導波路54を介して入力された1×2光スプリッタ53からの光信号を、3dBカプラ61で合波して光ビート信号を生成し、位相シフタ(光位相変調器)62で位相を調整することにより、同相の光ビート信号を出力する機能を有している。
光出力導波路55は、各光ビート信号生成回路60で生成された同相の光ビート信号を、光電子集積回路50から外部へ出力する機能を有している。
【0059】
[第4の実施の形態の動作]
次に、図7を参照して、本実施の形態にかかる光電子集積回路50の動作について説明する。
入力ポート51,52から入力されたλ1信号とλ2信号は、1×2光スプリッタ53でそれぞれ2分岐された後、接続導波路54を介して、光ビート信号生成回路60の3dBカプラ61へ分配される。この際、3dBカプラ61の一方の入力ポートp1にはλ1信号が入力され、他方の入力ポートp2にはλ2信号が入力される。
【0060】
このようにして、3dBカプラ61へ入力されたλ1信号とλ2信号は、第1〜第3の実施の形態と同様にして、3dBカプラ61で合波されて、λ1信号とλ2信号の差周波f1−f2の周波数を持ち、互いに逆位相となる2つの光ビート信号として、3dBカプラ61の出力ポートp3,p4から出力される。これら光ビート信号は、位相制御電圧端子62Tに印加された位相制御電圧に基づいて、位相シフタ62で位相調整されて、互いに同相の光ビート信号となり、光出力導波路55を介して、光電子集積回路50から光学レンズなどを介して別体のフォトダイオードへ供給される。
【0061】
この際、3dBカプラ61で合波されたλ1、λ2光信号からなる2つの光ビート信号は、前述したように、互いに当該光ビート信号の半周期分だけ位相差を持つ。また、光電子集積回路50を構成する各導波路の作製寸法誤差や材料パラメータなどの製造ばらつきに起因して、2つの光ビート信号間に位相誤差が発生する。
【0062】
ここで、λ1信号、λ2信号(角周波数ω1>ω2)の電界振幅を同一にした時、3dBカプラ61通過後の合成電力を検討する。図7において、出力ポートp3から出力される光ビート信号の出力光パワーPp3は、λ1信号と、このλ1信号に対してπ/2の位相遅れおよび位相誤差相当の位相遅れfを持つλ2信号との和であるから、次の式(1)で計算される。
【数1】
【0063】
また、出力ポートp4から出力される光ビート信号の出力光パワーPp4は、λ2信号に対してπ/2の位相遅れを持つλ1信号と、λ1信号に対して位相誤差相当の位相遅れfを持つλ2信号との和であるから、次の式(2)で計算される。
【数2】
【0064】
したがって、これら式(1),(2)によれば、出力ポートp3,p4から出力される光ビート信号は、ビート周波数(ω1−ω2)を持ち、その位相は、+π/2、−π/2だけ異なっていること、また、λ2信号の位相変化fが、ビート周波数の位相変化にも直接現れることがわかる。
【0065】
したがって、位相シフタ62のビート出力位相調整において、最大でも180度の位相変化を与えることが可能な変調電圧幅が確保されていればよい。光ビート信号の調整に関しては第1の実施の形態の場合と同様である。ただし、使用する光ビート周波数の範囲が小さい場合は、出力ポートp3,p4の光ビート位相が反転していることを考慮し、光出力導波路55B,55Dに、光ビート信号の半波長分の光路長を持つ遅延用光導波路(図7破線部)を追加すればよい。これにより、光出力導波路55A,55Cに対して、光出力導波路55B,55Dに遅延が発生するため、位相シフタ62における変調電圧幅を小さくすることができる。
【0066】
[第4の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、1つの基板上に、光スプリッタ53、3dBカプラ61、および位相シフタ62を形成し、光スプリッタ53により、周波数の異なる2つの入力光信号のそれぞれを、N組の、周波数の異なる2つの光信号に分岐し、3dBカプラ61で、これら2つの光信号をそれぞれ合波し、これら光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる2つの光ビート信号を出力し、位相シフタ62で、これら2つの光ビート信号の位相が同相となるよう、いずれか一方または両方の位相を調整して出力するようにしたものである。
【0067】
これにより、周波数の異なる2つの入力光信号から、これら差周波の周波数を持ち、互いに同相の2N個の光ビート信号を生成することができる。したがって、これら光ビート信号のそれぞれをフォトカプラでOE変換し、得られた電気信号を電力合成すれば、第1〜第3の実施の形態のフォトミキサのように、2つの同相光ビート信号を電力合成した場合と比較して、同じレベルの入力光信号から、より大きな出力電力を得ることが可能となる。
また、本実施の形態については、第1〜第3の実施の形態で説明した内容の一部を任意に選択して適用してもよく、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…フォトミキサ、11,12,14,15…光導波路、13,61…3dBカプラ、16,16A,21,22,62…位相シフタ、16T,21T,22T,62T…位相制御電圧端子、17,18…フォトダイオード、19…高周波線路、31,32…アンテナ、50…光電子集積回路、51,52…入力ポート、53…1×2光スプリッタ、54…接続導波路、55,55A,55B,55C,55D…光出力導波路、60…光ビート信号生成回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数の異なる2つの入力光信号から、これら入力光信号の差周波を持つ光ビート信号を生成する光信号処理回路技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波と光波の中間の周波数(波長)を持つ領域の電磁波、いわゆるテラヘルツ波に関する基礎的研究、応用研究が活発になってきている。テラヘルツ波は概ね0.1[THz]から10[THz]の周波数を持つ電磁波を指し、ミリ波のような低い周波数の電波と、より高い周波数の光の両方の特長を併せ持った優れた特性を持っている。
このような特性を活かし、HD映像をリアルタイムで電送できる大容量無線通信システム、絵画や危険物質を映像化して検査する非破壊検査、イメージングシステム、電波天文で使われる電波望遠鏡の分光装置、危険ガスや薬品などを非接触で検知、分析する分光センシングシステム、などへの応用が盛んに行われている。
【0003】
このようなテラヘルツ波応用システムを実現するためには、安価で小型軽量、高出力広帯域でかつ広い範囲の周波数領域を掃引可能なテラヘルツ波発生器が必要となる。
テラヘルツ波発生器を実現する一つの方法として、超高速なフォトダイオードを利用するフォトミキサがある(例えば、非特許文献1、2など参照)。
【0004】
このようなテラヘルツ波発生技術は、テラヘルツ周波数で振動する光を超高速フォトダイオードに入射して、同じ周波数で振動する電気信号に変換して取り出し、さらに空間に放射する方式である。特に、テラヘルツ波発生の原理として光電変換機能を用いているので、元となるテラヘルツ周波数で振動する光信号を生成する技術は、フォトミキサを構成する上で重要な技術の一つとなる。
【0005】
この種の光信号を生成する技術のうち、最も良く用いられているのが、2つの異なる周波数f1,f2を持つレーザ光を3dBカプラで結合して差周波の光ビート信号(以下、単に光ビート信号と呼ぶ)を作る方法である。光ビート信号の発生は音波における唸りの発生と原理的に同一の現象である。
すなわち、f1およびf2の振動のちょうど山(あるいは谷)同士が重なり合う時に光の電界は強め合い、山と谷が重なり合う時に光の電界は打ち消し合う。光ビート信号の振動周波数はΔf=f1−f2で表わされる。例えば、光源としてレーザを考えた場合、各レーザの波長が1.5500μmと1.5385μmであった時にΔfは約1THzとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Ito, T. Furuta, T. Ito, Y. Muramoto, K. Tsuzuki, K. Yoshino, T. Ishibashi, "W-band uni-travelling-carrier photodiode module for high-power photonic millimetre-wave generation", Electronics Letters(2002), 23th October 2002 Vol. 38 No. 22, pp. 1376-1377
【非特許文献2】H. Ito, T. Furuta, Y. Muramoto, T. Ito, T. Ishibashi, "Photonic millimetre- and sub-millimetrewave generation using J-band rectangularwaveguide-output uni-travelling-carrier photodiode module", Electronics Letters(2005), 23rd November 2006 Vol. 42 No. 24, pp. 1424-1425
【非特許文献3】Shigetaka Itakura, Kiyohide Sakai, Tsutomu Nagatsuka, Eitaro Ishimura, Masaharu Nakaji, Hiroshi Otsuka, Kazutomi Mori, and Yoshihito Hirano, "High-Current Backside-Illuminated Photodiode Array Module for Optical Analog Links", Journal of Lightwave Technology, Vol. 28, Issue 6, pp. 965-971 (2010)
【非特許文献4】Yang Fu, Huapu Pan, Campbell, J.C., "Photodiodes With Monolithically Integrated Wilkinson Power Combiner", IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 46, NO. 4, April 2010, pp. 541-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は、従来のフォトミキサの構成例である。フォトミキサ100において、周波数f1とf2(周波数の高さをf1>f2とする)を持つ2つの光信号が3dBカプラ101の入力ポートに入った場合、その出力ポートPA,PBには、それぞれ差周波Δf=f1−f2の周波数を持つ光ビート信号SA,SBが出力される。これら光ビート信号SA,SBの位相は、光電力振幅で見ると、λ1信号、λ2信号の位相関係にかかわらず、互いに逆位相の状態で固定される。
【0008】
図9は、3dBカプラの接続図である。図10は、3dBカプラのビート位相を示す説明図である。
3dBカプラに対して、λ1信号がポートAから導入されるとともに、λ2信号がポートBから導入された場合、3dBカプラの特性に基づいて、ポートAからポートCを経由するλ1出力111に対して、ポートDのλ1信号出力112は光位相がπ/2遅れる。
【0009】
同様に、ポートDのλ2信号出力113に対して、ポートCのλ2信号出力114は光位相がπ/2遅れる。結局、Cポート、Dポートで合波されたλ1+λ2の電界115,116に従って、光ビートの振幅は互いに反転した関係となってしまう。このため、Cポート、Dポート出力のビート位相が独立していないので、独立なアンテナへの光ビート電力の供給源として用いることはできない。
【0010】
したがって、図8に示した従来のフォトミキサ100では、3dBカプラ101から得られた2つの光ビート信号SA,SBのうち、光ビート信号SAのみがフォトダイオード102に入力されて、OE変換(光電変換)によって周波数Δfの高周波電気信号SCがフォトミキサ100から出力される。
【0011】
この例では、電気信号の出力デバイスはマイクロストリップ線路あるいはコプレーナ線路などの高周波線路である(例えば、非特許文献3、4など参照)。図8に示す通り、電磁波の発生に使用されるのは光ビート信号SAのみであり、光ビート信号SBは使用されず、半分程度が使用されず無駄になる。このため、従来のフォトミキサ100では、入力された光信号の光入力パワーを有効に利用できない、という問題点があった。
【0012】
また、フォトミキサ100の出力電力は、フォトダイオード102に入る光ビート信号のパワーに比例する。しかしながら、一般にフォトダイオードには空間電荷効果という現象があり、ある程度以上の強い光入力では電気出力が飽和してしまう特性がある。出力飽和する光入力パワーはフォトダイオードの材料や構造等に依存するが、1個のフォトダイオードの出力電力には限界がある。このため、従来のフォトミキサ100では、入力された光信号の光入力パワーを有効に利用できない、という問題点があった。
【0013】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることが可能な光信号処理回路技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明にかかるフォトミキサは、基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号を合波し、これら入力光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、基板上に形成されて、第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、基板上に形成されて、位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された第1および第2の光ビート信号を、それぞれ別個に電気信号にOE変換して出力する2つのフォトダイオードと、基板上に形成されて、フォトダイオードから出力された2つの電気信号を電力合成して出力する高周波線路とを備えている。
【0015】
この際、位相シフタで、第1および第2の光ビート信号の間における第1の光ビート信号の半波長分の位相差に加えて、当該フォトミキサの製造ばらつきに起因して発生する1および第2の光ビート信号の間の位相誤差を調整するようにしてもよい。
【0016】
また、高周波線路に代えて、2つの電気信号ごとに基板上に形成されて、これら電気信号をそれぞれ電磁波として空間に放射することにより、当該空間でこれら電磁波を合成する2つのアンテナを備えてもよい。
【0017】
また、位相シフタとして、位相制御電圧端子に印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する半導体光位相変調器を用いてもよく、あるいは、第1の光ビート信号の半波長に相当する線路長を有する光導波路を用いてもよい。
【0018】
また、本発明にかかる光電子集積回路は、基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号のそれぞれを、N組(Nは2以上の整数)の周波数の異なる2つの光信号に分岐して出力する光スプリッタと、光スプリッタから出力された2つの光信号ごとに基板上に形成されて、当該2つの光信号を合波し、これら光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、基板上に形成されて、第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、基板上に形成されて、位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された第1および第2の光ビート信号を、当該基板の外部へ出力する光出力導波路とを備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、周波数の異なる2つの入力光信号から、これらの差周波を周波数とする、互いに同相の光ビート信号を複数生成することができる。したがって、これら光ビート信号の一方だけではなく、これら両方をそれぞれOE変換して得られた電気信号を電力合成することにより、より大きな出力電力を得ることができる。このため、入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図2】位相誤差を含む光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。
【図3】位相誤差調整後の光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。
【図4】光遅延回路を用いたフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図5】第2の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図6】第3の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
【図7】第4の実施の形態にかかる光電子集積回路の構成を示す回路図である。
【図8】従来のフォトミキサの構成例である。
【図9】3dBカプラの接続図である。
【図10】3dBカプラのビート位相を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるフォトミキサ10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図であり、フォトダイオードが2個の場合に適用したものである。
このフォトミキサ10は、全体として、周波数の異なる2つの光信号を入力として、これら光信号の差周波の光ビート信号に基づき、テラヘルツ周波数波を発生させる機能を有している。
【0022】
図1の構成例では、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18、および高周波線路19は、半導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0023】
3dBカプラ13は、光導波路11,12を介して入力された、異なる周波数f1,f2(f1>f2)の2つの入力光信号S11,S12を合波し、これら入力光信号S11,S12の差周波f1−f2の周波数を持ち、互いに逆位相となる光ビート信号(第1の光ビート信号)S14と光ビート信号(第2の光ビート信号)S15とを、それぞれ出力ポートPA,PBから出力する機能を有している。
【0024】
位相シフタ16は、光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、3dBカプラ13の出力ポートPAから光導波路14を介して入力された光ビート信号S14の位相を調整して出力する機能を有している。この場合、位相シフタ16で、光ビート信号S14,S15のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力すればよいが、本実施の形態では、光ビート信号S14の位相を調整して出力する例について説明する。なお、位相シフタ16で、光ビート信号S14,S15の両方の位相を調整して出力する例については、第2の実施の形態で後述する。
【0025】
フォトダイオード17は、位相シフタ16で位相調整された光ビート信号S16を電気信号S17にOE変換して出力する機能を有している。
フォトダイオード18は、3dBカプラ13の出力ポートPBから光導波路15を介して入力された光ビート信号S15を電気信号S18にOE変換して出力する機能を有している。
高周波線路19は、電気信号S17,18を電力合成し、得られた合成出力信号S19を、フォトミキサ10の外部へ出力する機能を有している。
【0026】
フォトミキサ10を構成する基板が半導体基板の場合、InPやGaAsなどの、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18の作製に適した基板材料を用いればよい。また、高周波線路19は、半導体基板の上にAuなどの金属薄膜をパターニングして作製すればよい。
【0027】
一方、フォトミキサ10を構成する基板が石英基板の場合、光導波路11,12,14,15や3dBカプラ13は、石英基板に作製し、フォトダイオード17,18はInPなどの半導体で作製し、位相シフタ16は半導体あるいは強誘電体材料で作製し、これらチップを適当な方法を用いて石英基板に貼り付けるなどの方法がある。また、高周波線路19は、半導体基板の場合と同様に、石英基板の上に作製すればよい。
【0028】
どちらの基板においても、高周波線路19は、マイクロストリップ線路やコプレーナ導波路、グラウンデッドコプレーナ導波路、スロット線路などを用い、合成器の構成としては、ウィルキンソン型、ブランチライン型、ラットレース型などの合成器を用いる。図1の構成例では、マイクロストリップ線路によるウィルキンソン型合成器の場合を示している。
【0029】
[第1の実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかるフォトミキサ10の動作について説明する。
フォトミキサ10に入力された、異なる周波数f1,f2を持つ2つの入力光信号S11,S12は、3dBカプラ13に入力されて合波され、これら入力光信号S11,S12の差周波f1−f2の周波数を持ち、互いに逆位相となる光ビート信号S14,S15が出力される。
【0030】
光ビート信号S14は、位相シフタ16で半波長分だけ位相調整された光ビート信号S16となり、フォトダイオード17へ入力されて、差周波f1−f2の周波数を持つ、高周波の電気信号S17へOE変換される。
一方、光ビート信号S15は、位相調整されずにそのままフォトダイオード18へ入力されて、差周波f1−f2の周波数を持つ、高周波の電気信号S18へOE変換される。
この後、これら電気信号S17,S18は、高周波線路19で電力合成され、合成出力信号S19としてフォトミキサ10から出力される。
【0031】
図2は、位相誤差を含む光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。図3は、位相誤差調整後の光ビート信号による電力合成過程を示す信号波形図である。
【0032】
図1において、3dBカプラ13から出力されて位相シフタ16で半波長分だけ位相が調整された後にフォトダイオード17へ入力される光ビート信号S16と、3dBカプラ13から、位相調整せずに、直接、フォトダイオード18へ入力される光ビート信号S15との間には、フォトミキサ10を構成する各光導波路の作製寸法誤差や材料パラメータなどの製造ばらつきに起因して、位相誤差が発生する。
【0033】
したがって、この位相誤差が存在したまま、位相シフタ16で光ビート信号S14を半波長分だけ位相調整した後、それぞれ別々のフォトダイオード17,18に入力してOE変換し、これらフォトダイオード17,18から得られた電気信号S17,S18を電力合成した場合、図2に示すように、その合成出力信号S19の電界強度は、電気信号S17,S18の電界強度の2倍には到達しない。
特に、光ビート信号S16,S15の周波数が10[THz]を超えるような場合、位相誤差が180度になることも想定され、最悪の場合は打ち消しあって合成出力信号S19の電界強度がほぼゼロになってしまう可能性もある。
【0034】
これを避けるためには、位相誤差を解消し、光ビート信号S16,S15を同相にする必要がある。本実施の形態では、3dBカプラ13の出力ポートPAとフォトダイオード17との間に設けた位相シフタ16によって、光ビート信号S14を半波長分だけ位相調整するのに加えて、フォトミキサ10の製造ばらつきに起因する位相誤差を調整して光ビート信号2と同相にしている。これにより、図3に示すように、電気信号S17,S18が互いに強めあって、合成出力信号S19は電気信号S17,S18の電界強度のほぼ2倍になる。
【0035】
この場合、位相シフタ16としては、例えば、位相制御電圧端子16Tに印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する、一般的な半導体光位相変調器を用いてもよい。
あるいは、位相シフタ16として、ヒータなどによって光路長を可変できる光遅延回路を用いてもよい。この場合、位相シフタ16の位相制御電圧端子16Tに所定の位相制御電圧を印加することで、光ビート信号S14の位相を可変調整することができる。
【0036】
図4は、光遅延回路を用いたフォトミキサの構成を示す回路図である。ここでは、位相シフタ16に替えて、光路長が光ビート信号S14の半波長分の光路長を有する光遅延回路16Aを配置した例が示されている。
【0037】
図4に示すように、光ビート信号S14が通過する光路に、光遅延回路16Aを配置すれば、その光路長の分だけ、光ビート信号S15との間で光路長差が発生する。したがって、光路長が光ビート信号S14の半波長分の光路長を有する光遅延回路16Aを配置すれば、光ビート信号S14の位相を光ビート信号S15と同相にすることができる。これにより、電気信号S17,S18が互いに強めあって、合成出力信号S19は電気信号S17,S18の電界強度のほぼ2倍になる。
【0038】
また、光遅延回路16Aの光路の途中にヒータ16Bを設け、位相制御電圧端子16Tに所定の位相制御電圧を印加することで、光路を加熱して光路長を調整して、光ビート信号S14の位相を可変調整するようにしてもよい。これにより、フォトミキサ10の製造ばらつきに起因する位相誤差を調整することができる。
【0039】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、1つの基板上に、3dBカプラ13、位相シフタ16、フォトダイオード17,18、および高周波線路19を形成し、3dBカプラ13により、周波数の異なる2つの入力光信号S11,S12を合波して得られた光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、光ビート信号S14,S15のうちの一方、例えば光ビート信号S14の位相を位相シフタ16により調整し、得られた光ビート信号S16と光ビート信号S14とをそれぞれ、フォトダイオード17,18でOE変換し、得られた電気信号S17,S18を高周波線路19で電力合成して出力するようにしたものである。
【0040】
これにより、周波数の異なる2つの入力光信号S11,S12から、これらの差周波を周波数とする、互いに同相の光ビート信号S14,S15を生成することができる。したがって、これら光ビート信号S14,S15の一方だけではなく、これら両方をそれぞれOE変換して得られた電気信号S17,S18を電力合成することにより、より大きな出力電力を得ることができる。このため、入力された光信号の光入力パワーを効率よく利用して、ミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることが可能となる。
【0041】
また、本実施の形態では、位相シフタ16で、光ビート信号S14,S15の間における光ビート信号S14,S15の半波長分の位相差に加えて、フォトミキサ10の製造誤差に起因して発生する光ビート信号S14,S15の間の位相誤差を調整するようにしたので、極めて高い精度で同相の光ビート信号S14,S15を生成することができる。入力された光信号S11,S12の光入力パワーを、極めて効率よく利用してミリ波・テラヘルツ波の電磁波を発生させることができる。
【0042】
また、本実施の形態では、位相シフタ16として、位相制御電圧端子16Tに印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する半導体光位相変調器を用いてもよい。これにより、位相制御電圧を調整すれば、高い精度で光ビート信号S14,S15を同相とすることができる。
また、本実施の形態では、位相シフタ16として、光ビート信号S14の半波長に相当する線路長を有する光導波路を用いてもよい。これにより、極めて簡素な構成で、光ビート信号S14,S15を同相とすることができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるフォトミキサ10について説明する。図5は、第2の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
第1の実施の形態では、光ビート信号S14,S15のうちの一方の位相を調整する場合を例として説明した。本実施の形態では、光ビート信号S14,S15の両方の位相を調整する場合について説明する。
【0044】
図5の構成例では、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ21,22、フォトダイオード17,18、および高周波線路19が、半導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0045】
位相シフタ21は、光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、3dBカプラ13の出力ポートPAから光導波路14を介して入力された光ビート信号S14の位相を調整して出力する機能を有している。
位相シフタ22は、光ビート信号S14,S15の位相が同相となるよう、3dBカプラ13の出力ポートPBから光導波路15を介して入力された光ビート信号S15の位相を調整して出力する機能を有している。
【0046】
この場合、位相シフタ21,22での位相調整は、結果として光ビート信号S14,S15の位相が同相となればよい。したがって、位相シフタ21,22において、等しい位相分だけ互いに反対方向に位相調整する方法に限定されるものではなく、例えば、異なる位相分だけ、互いに反対方向にあるいは同じ方向に、位相調整するようにしてもよい。
【0047】
これにより、電気信号S17,S18が互いに強めあって、合成出力信号S19は電気信号S17,S18の電界強度のほぼ2倍になる。したがって、3dBカプラ13から出力される2つの光ビート信号S14,S15の一方だけではなく、これら両方を用いて合成出力信号19を生成することができ、入力された光信号S11,S12の光入力パワーを効率よく利用してテラヘルツ波を発生させることができる。
【0048】
また、第1の実施の形態と同様に、フォトミキサ10の製造バラツキに起因する位相誤差を、位相シフタ21,22の両方あるいはいずれか一方で調整するようにしてもよい。この場合、位相制御電圧端子21T,22Tをそれぞれ有する位相シフタ21,22のうち、いずれか一方で、光ビート信号S14(S15)の半波長分だけ位相調整し、いずれか他方でフォトミキサ10の製造バラツキに起因する位相誤差を調整するようにしてもよい。これにより、いずれか一方の位相調整幅を固定化できるなど、それぞれが調整すべき位相幅に合わせて作り込むことができ、それぞれのサイズファクタや位相調整精度を最適化することができる。
【0049】
[第3の実施の形態]
次に、図6を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかるフォトミキサ10について説明する。図6は、第3の実施の形態にかかるフォトミキサの構成を示す回路図である。
第1および第2の実施の形態では、フォトダイオード17,18で得られた電気信号S17,S18を、ウィルキンソン型合成器を始めとした高周波線路19により合成する場合を例として説明した。本実施の形態では、電気信号S17,S18をアンテナから放射して空間で合成する場合について説明する。
【0050】
図6の構成例では、第2の実施の形態にかかるフォトミキサ10(図5参照)をベースとして、光導波路11,12,14,15、3dBカプラ13、位相シフタ31,32、フォトダイオード17,18、アンテナ31,32、および高周波線路19が、半導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0051】
アンテナ31,32は、電気信号S17,S18ごとに形成されて、電気信号S17,S18をそれぞれ電磁波として空間33に放射することにより、当該空間33でこれら電磁波を電力合成する機能を有している。
これにより、3dBカプラ13から出力される2つの光ビート信号S14,S15の一方だけではなく、これら両方を用いて電力合成することができ、入力された光信号S11,S12の光入力パワーを効率よく利用してテラヘルツ波を発生させることができる。
【0052】
[第4の実施の形態]
次に、図7を参照して、本発明の第4の実施の形態にかかる光電子集積回路50について説明する。図7は、第4の実施の形態にかかる光電子集積回路の構成を示す回路図である。
【0053】
第1〜第3の実施の形態では、周波数の異なる2つの入力光信号から得られた2つ光ビート信号を、それぞれに対応して設けられたフォトダイオードで電気信号へOEM変換する場合を例として説明した。
通常、フォトダイオードが出力飽和する光入力パワーは、フォトダイオードの材料や構造等にも依存するが、1つのフォトダイオードで得られる出力電力には限界がある。より大きな出力電力を得たい場合には、第1〜第3の実施の形態のように、2つのフォトダイオードで得られる出力電力を電力合成しても足りない場合もある。
【0054】
本実施の形態では、より大きな出力電力に対応させるため、第1〜第3の実施の形態で説明した、3dBカプラと位相シフタとからなる光ビート信号生成回路を、N(例えば、N=2n:nは1以上の整数)個並列して設け、周波数の異なる2つの入力光信号をそれぞれN個に分岐して各光ビート信号生成回路へ供給し、各光ビート信号生成回路から得られたN個の同相の光ビート信号を、それぞれに対応して設けられたN個のフォトダイオードへ供給する場合について説明する。
【0055】
なお、本実施の形態では、フォトミキサのうち、別体として構成された各フォトダイオード(図示せず)へ、それぞれ対応する同相の光ビート信号を供給する光電子集積回路50(Opto-Electronic Integrated Circuit)について説明する。この光電子集積回路50で得られた同相光ビート信号は、光学レンズなどを介して、それぞれ対応するフォトダイオードへ供給すればよい。
【0056】
図7の構成例では、N=2の場合が示されており、1×2光スプリッタ53、接続導波路54、3dBカプラ61と位相シフタ62を含む光ビート信号生成回路60、および光出力導波路55が、2個並列的に、導体基板や石英基板などからなる1つの基板に集積化されている。
【0057】
1×2光スプリッタ53は、入力ポート51,52から入力された周波数の異なる2つの入力光信号、すなわちλ1信号とλ2信号(光波長:λ1、λ2)を、2個の光信号に分岐して出力する機能を有している。この場合、λ1信号とλ2信号に対する分岐数が4より大きい場合には、1×2光スプリッタ53を階層的に接続すればよい。例えば、図7の1×2光スプリッタ53から分岐された4つの光信号ごとに、1×2光スプリッタ53を設けた場合、分岐数は全部で8となる。
【0058】
光ビート信号生成回路60は、接続導波路54を介して入力された1×2光スプリッタ53からの光信号を、3dBカプラ61で合波して光ビート信号を生成し、位相シフタ(光位相変調器)62で位相を調整することにより、同相の光ビート信号を出力する機能を有している。
光出力導波路55は、各光ビート信号生成回路60で生成された同相の光ビート信号を、光電子集積回路50から外部へ出力する機能を有している。
【0059】
[第4の実施の形態の動作]
次に、図7を参照して、本実施の形態にかかる光電子集積回路50の動作について説明する。
入力ポート51,52から入力されたλ1信号とλ2信号は、1×2光スプリッタ53でそれぞれ2分岐された後、接続導波路54を介して、光ビート信号生成回路60の3dBカプラ61へ分配される。この際、3dBカプラ61の一方の入力ポートp1にはλ1信号が入力され、他方の入力ポートp2にはλ2信号が入力される。
【0060】
このようにして、3dBカプラ61へ入力されたλ1信号とλ2信号は、第1〜第3の実施の形態と同様にして、3dBカプラ61で合波されて、λ1信号とλ2信号の差周波f1−f2の周波数を持ち、互いに逆位相となる2つの光ビート信号として、3dBカプラ61の出力ポートp3,p4から出力される。これら光ビート信号は、位相制御電圧端子62Tに印加された位相制御電圧に基づいて、位相シフタ62で位相調整されて、互いに同相の光ビート信号となり、光出力導波路55を介して、光電子集積回路50から光学レンズなどを介して別体のフォトダイオードへ供給される。
【0061】
この際、3dBカプラ61で合波されたλ1、λ2光信号からなる2つの光ビート信号は、前述したように、互いに当該光ビート信号の半周期分だけ位相差を持つ。また、光電子集積回路50を構成する各導波路の作製寸法誤差や材料パラメータなどの製造ばらつきに起因して、2つの光ビート信号間に位相誤差が発生する。
【0062】
ここで、λ1信号、λ2信号(角周波数ω1>ω2)の電界振幅を同一にした時、3dBカプラ61通過後の合成電力を検討する。図7において、出力ポートp3から出力される光ビート信号の出力光パワーPp3は、λ1信号と、このλ1信号に対してπ/2の位相遅れおよび位相誤差相当の位相遅れfを持つλ2信号との和であるから、次の式(1)で計算される。
【数1】
【0063】
また、出力ポートp4から出力される光ビート信号の出力光パワーPp4は、λ2信号に対してπ/2の位相遅れを持つλ1信号と、λ1信号に対して位相誤差相当の位相遅れfを持つλ2信号との和であるから、次の式(2)で計算される。
【数2】
【0064】
したがって、これら式(1),(2)によれば、出力ポートp3,p4から出力される光ビート信号は、ビート周波数(ω1−ω2)を持ち、その位相は、+π/2、−π/2だけ異なっていること、また、λ2信号の位相変化fが、ビート周波数の位相変化にも直接現れることがわかる。
【0065】
したがって、位相シフタ62のビート出力位相調整において、最大でも180度の位相変化を与えることが可能な変調電圧幅が確保されていればよい。光ビート信号の調整に関しては第1の実施の形態の場合と同様である。ただし、使用する光ビート周波数の範囲が小さい場合は、出力ポートp3,p4の光ビート位相が反転していることを考慮し、光出力導波路55B,55Dに、光ビート信号の半波長分の光路長を持つ遅延用光導波路(図7破線部)を追加すればよい。これにより、光出力導波路55A,55Cに対して、光出力導波路55B,55Dに遅延が発生するため、位相シフタ62における変調電圧幅を小さくすることができる。
【0066】
[第4の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、1つの基板上に、光スプリッタ53、3dBカプラ61、および位相シフタ62を形成し、光スプリッタ53により、周波数の異なる2つの入力光信号のそれぞれを、N組の、周波数の異なる2つの光信号に分岐し、3dBカプラ61で、これら2つの光信号をそれぞれ合波し、これら光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる2つの光ビート信号を出力し、位相シフタ62で、これら2つの光ビート信号の位相が同相となるよう、いずれか一方または両方の位相を調整して出力するようにしたものである。
【0067】
これにより、周波数の異なる2つの入力光信号から、これら差周波の周波数を持ち、互いに同相の2N個の光ビート信号を生成することができる。したがって、これら光ビート信号のそれぞれをフォトカプラでOE変換し、得られた電気信号を電力合成すれば、第1〜第3の実施の形態のフォトミキサのように、2つの同相光ビート信号を電力合成した場合と比較して、同じレベルの入力光信号から、より大きな出力電力を得ることが可能となる。
また、本実施の形態については、第1〜第3の実施の形態で説明した内容の一部を任意に選択して適用してもよく、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…フォトミキサ、11,12,14,15…光導波路、13,61…3dBカプラ、16,16A,21,22,62…位相シフタ、16T,21T,22T,62T…位相制御電圧端子、17,18…フォトダイオード、19…高周波線路、31,32…アンテナ、50…光電子集積回路、51,52…入力ポート、53…1×2光スプリッタ、54…接続導波路、55,55A,55B,55C,55D…光出力導波路、60…光ビート信号生成回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号を合波し、これら入力光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、
前記基板上に形成されて、前記第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、前記第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、
前記基板上に形成されて、前記位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された前記第1および前記第2の光ビート信号を、それぞれ別個に電気信号にOE変換して出力する2つのフォトダイオードと、
前記基板上に形成されて、前記フォトダイオードから出力された2つの電気信号を電力合成して出力する高周波線路と
を備えることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトミキサにおいて、
前記位相シフタは、前記第1および前記第2の光ビート信号の間における前記第1の光ビート信号の半波長分の位相差に加えて、当該フォトミキサの製造ばらつきに起因して発生する前記1および前記第2の光ビート信号の間の位相誤差を調整することを特徴とするフォトミキサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフォトミキサにおいて、
前記高周波線路に代えて、前記2つの電気信号ごとに前記基板上に形成されて、これら電気信号をそれぞれ電磁波として空間に放射することにより、当該空間でこれら電磁波を合成する2つのアンテナを備えることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のフォトミキサにおいて、
前記位相シフタは、位相制御電圧端子に印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する半導体光位相変調器からなることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のフォトミキサにおいて、
前記位相シフタは、前記第1の光ビート信号の半波長に相当する線路長を有する光導波路からなることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項6】
基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号のそれぞれを、N組(Nは2以上の整数)の周波数の異なる2つの光信号に分岐して出力する光スプリッタと、
前記光スプリッタから出力された前記2つの光信号ごとに前記基板上に形成されて、当該2つの光信号を合波し、これら光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、
前記基板上に形成されて、前記第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、前記第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、
前記基板上に形成されて、前記位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された前記第1および前記第2の光ビート信号を、当該基板の外部へ出力する光出力導波路と
を備えることを特徴とする光電子集積回路。
【請求項1】
基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号を合波し、これら入力光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、
前記基板上に形成されて、前記第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、前記第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、
前記基板上に形成されて、前記位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された前記第1および前記第2の光ビート信号を、それぞれ別個に電気信号にOE変換して出力する2つのフォトダイオードと、
前記基板上に形成されて、前記フォトダイオードから出力された2つの電気信号を電力合成して出力する高周波線路と
を備えることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトミキサにおいて、
前記位相シフタは、前記第1および前記第2の光ビート信号の間における前記第1の光ビート信号の半波長分の位相差に加えて、当該フォトミキサの製造ばらつきに起因して発生する前記1および前記第2の光ビート信号の間の位相誤差を調整することを特徴とするフォトミキサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフォトミキサにおいて、
前記高周波線路に代えて、前記2つの電気信号ごとに前記基板上に形成されて、これら電気信号をそれぞれ電磁波として空間に放射することにより、当該空間でこれら電磁波を合成する2つのアンテナを備えることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のフォトミキサにおいて、
前記位相シフタは、位相制御電圧端子に印加された位相制御電圧に基づいて、入力された光ビート信号の位相を調整する半導体光位相変調器からなることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のフォトミキサにおいて、
前記位相シフタは、前記第1の光ビート信号の半波長に相当する線路長を有する光導波路からなることを特徴とするフォトミキサ。
【請求項6】
基板上に形成されて、周波数の異なる2つの入力光信号のそれぞれを、N組(Nは2以上の整数)の周波数の異なる2つの光信号に分岐して出力する光スプリッタと、
前記光スプリッタから出力された前記2つの光信号ごとに前記基板上に形成されて、当該2つの光信号を合波し、これら光信号の差周波の周波数を持ち、互いに逆位相となる第1および第2の光ビート信号を出力する3dBカプラと、
前記基板上に形成されて、前記第1および第2の光ビート信号の位相が同相となるよう、前記第1および第2の光ビート信号のうちいずれか一方または両方の位相を調整して出力する位相シフタと、
前記基板上に形成されて、前記位相シフタにより互いの位相が同相となるよう調整された前記第1および前記第2の光ビート信号を、当該基板の外部へ出力する光出力導波路と
を備えることを特徴とする光電子集積回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−70210(P2013−70210A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206849(P2011−206849)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]