フッ化物イオン電気化学セル
本発明は、優れた電子性能、特に、高い比エネルギー、有用な放電率能力及び優れたサイクル寿命が可能な電気化学セルを提供する。本発明の電気化学セルは用途が広く、携帯用電子デバイスにおける使用を含めた様々な重要な用途に有用な一次及び二次電池を含む。本発明の電気化学セルは、従来の最先端一次リチウム電池及びリチウムイオン二次電池に対して向上した安全性及び安定性も示す。たとえば、本発明の電気化学セルには、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電荷キャリアを用いる二次電気化学セルが含まれ、これらのアニオン電荷キャリアにより、これらの系における金属リチウム又は溶解したリチウムイオンの必要性が完全に排除される。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[001] 本願は、2006年3月3日に出願した米国特許仮出願第60779054号明細書、2007年1月25日に出願した発明者がRachid Yazamiである「Fluoride Ion Batteries(FIB)」という題名の米国特許仮出願明細書、代理人整理番号4823−P、2007年2月21日に出願した米国特許出願第一1677541号明細書、2007年2月15日に出願した米国特許出願第一1675308号明細書、2006年11月16日に出願した米国特許出願第一1560570号明細書の優先権の利益を請求する。これらの出願はそれぞれ、本明細書中の開示と矛盾しない程度までその全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
[発明の背景]
[002] 過去20〜30年間にわたって、携帯用電子デバイス、航空機及び宇宙機技術、並びに生物医学装置を含めた様々な分野におけるこれらのシステムの性能を拡張する電気化学的貯蔵及び変換デバイスにおいては、画期的な進歩がもたらされた。現在の最先端電気化学的貯蔵及び変換デバイスは、多様な用途要件及び動作環境との適合性を提供するように特に設計されるデザイン及び性能属性を有する。たとえば、埋め込み型医療用デバイス向けの非常に低い自己放電率及び高い放電信頼性を示す高エネルギー密度電池から、幅広い携帯用電池デバイスについて長いランタイムをもたらす安価で軽量の充電式電池、短時間で極めて高い放電率を提供することができる軍事的な用途及び航空宇宙的な用途向けの高容量電池の範囲にわたる、進歩した電気化学的貯蔵システムが開発されている。
【0003】
[003] この様々な進歩した電気化学貯蔵及び変換システム一式が開発され、広く採用されているにもかかわらず、これらのシステムの機能を拡張するよう大きな圧力が研究を刺激し続け、それによりさらに広範囲のデバイス用途が可能となる。高出力携帯用電子製品に対する需要の大きな成長により、たとえば、より高いエネルギー密度を提供する安全で軽量の一次及び二次電池の開発への多大な関心が喚起されている。加えて、家庭用電化製品及び計装の分野における小型化に対する需要が、高性能電池の寸法、質量及び形状因子を低減するために新規の設計及び材料戦略の研究を刺激し続ける。さらに、電気自動車及び航空宇宙工学の分野における絶え間ない開発により、有用な範囲の動作環境において優れたデバイス性能が可能な機械的に頑強で、信頼性が高く、高エネルギー密度及び高出力密度の電池の必要性も生じている。
【0004】
[004] 電気化学貯蔵及び変換技術における多くの最近の進歩は、電池構成要素向けの新しい材料の発見及び統合に直接起因する。リチウム電池技術は、たとえば、少なくとも一部にはこれらのシステム用に新規の電極及び電解質材料が発見されることにより急速に発展し続ける。フッ素化炭素材料及びナノ構造遷移金属酸化物など、正極向けインターカレーションホスト材料の先駆的な発見及び最適化から、高性能非水電解質の開発まで、リチウム電池システムのための新規の材料戦略の実施により、それらシステムの設計及び性能に革命がもたらされた。さらに、負極向けインターカレーションホスト材料の開発により、高い容量、優れた安定性及び有用なサイクル寿命を示すリチウムイオンをベースとする二次電池が発見され商業的に実施された。これらの進歩の結果、携帯用電子システム向け一次及び二次電気化学セル(electrochemical cells)を含めた様々な重要な用途に、リチウムをベースとする電池技術が現在広く採用されている。
【0005】
[005] 市販の一次リチウム電池システムでは通常、放電時に液相又は固相電解質を介して輸送され、インターカレーションホスト材料を含む正極でインターカレーション反応を受けるリチウムイオンを生成するためにリチウム金属負極が使用される。炭素(たとえば、黒鉛、コークスなど)、金属酸化物、金属窒化物、金属リン化物など、負極用リチウムイオンインターカレーションホスト材料でリチウム金属が置き換えられた二重インターカレーションリチウムイオン二次電池も開発されている。リチウムイオンの挿入及び脱挿入(de-insertion)反応が同時に起こると、放電及び充電時にインターカレーション正極とインターカレーション負極との間でリチウムイオンが移動することが可能となる。負極向けリチウムイオンインターカレーションホスト材料を組み込むことには、リチウムの高い反応性及び非エピタキシャル堆積特性に起因する安全性の問題を再充電時に起こしやすい金属リチウムの使用が回避されるという重要な利点がある。
【0006】
[006] リチウム元素は、電気化学セルで使用するためにリチウムを魅力的にする独特な組合せの特性を有する。第一に、リチウムは、原子質量が6.94AMUである周期表中で最も軽い金属である。第二に、リチウムは、非常に低い電気化学酸化/還元電位(すなわち、−3.045V対NHE(標準水素参照電極)を有する。この独特の組合せの特性により、リチウムをベースとする電気化学セルが非常に高い比容量を有することが可能となる。リチウム電池技術についての材料戦略及び電気化学セル設計の進歩により、(i)高い電池電圧(たとえば、最大約3.8V)、(ii)ほぼ一定の(たとえば、平坦な)放電プロファイル、(iii)長い貯蔵寿命(たとえば、最大10年)及び(iv)様々な動作温度(たとえば、摂氏−20〜60度)との適合性を含めた有用なデバイス性能を提供することができる電気化学セルが実現された。これら有益な特性の結果、一次リチウム電池は、様々な携帯用電子デバイスにおいて、また電子機器、情報技術、通信、医用生体工学、センシング、軍事及び照明を含めた他の重要なデバイス用途において電源として広く使用されている。
【0007】
[007] 最先端のリチウムイオン二次電池は、優れた充電−放電特性を提供し、したがって、携帯電話や携帯用コンピュータなどの携帯用電子デバイスにおける電源としてやはり広く採用されている。米国特許第6852446号明細書、第6306540号明細書、第6489055号明細書、及びGholam−Abbas Nazri及びGianfranceo Pistoia編“Lithium Batteries Science and Technology”,Kluer Academic Publishers,2004は、リチウム及びリチウムイオン電池システムを対象とし、参照によりそれら全体が本明細書中に組み込まれる。
【0008】
[008] 上述のように、リチウム金属は、特に水及び多くの有機溶媒との反応性が極めて高く、この特質により、リチウムをベースとする二次電気化学セルにおいては負極用インターカレーションホスト材料を使用することが必要となる。この分野における相当な研究により、LiC6、LixSi、LixSn、Lix(CoSnTi)など、これらのシステム向けの様々な有用なインターカレーションホスト材料が得られている。しかしながら、負極向けのインターカレーションホスト材料を使用することにより、インターカレーション電極中へのリチウムの挿入/溶解の自由エネルギーに対応する量だけ電池電圧が必然的に低くなる。その結果、従来の最先端二重インターカレーションリチウムイオン電気化学セルは現在、約4ボルト以下の平均動作電圧を提供するにとどまっている。負極の組成についてのこの要件により、これらのシステムにおいて利用可能な比エネルギーも大幅に失われる。さらに、負極向けインターカレーションホスト材料を組み込むことにより安全性のリスクが完全に取り除かれることはない。これらのリチウムイオン電池システムの充電は、たとえば、正極が分解してしまうことがある過充電又は加熱を回避するためにかなり制御された条件下で行わなければならない。さらに、リチウムイオンが関与する望ましくない副反応がこれらのシステムにおいて起こり、その結果、安全性に対する重大な懸念に影響を及ぼす反応性金属リチウムが形成されることがある。高速又は低温での充電時に、リチウムの堆積により、セパレータを横切って成長し、電池内で内部短絡を引き起こすことがあるデンドライドが形成され、有機電解質の燃焼並びに金属リチウムの空気中の酸素及び水分との反応により、熱、圧力及び場合によっては火災が発生する。
【0009】
[009] 電気化学的貯蔵用にリチウム挿入反応を利用する二重炭素電池も開発されている。これらの電池では、適当な電解質塩の分解によって生成されるアニオン及びカチオンにより、電極中に貯蔵される電荷の源がもたらされる。これらのシステムの充電時には、リチウムイオン(Li+)など電解質のカチオンが、炭素質カチオンホスト材料を含む負極で挿入反応を受け、PF6−など電解質のアニオンが、炭素質アニオンホスト材料を含む正極で挿入反応を受ける。放電時には、挿入反応は反転し、その結果、正極及び負極からカチオン及びアニオンがそれぞれ放出される。しかしながら、最先端の二重炭素電池は、これらのシステムにおいて得られる塩の濃度が実質的に制限されるため、リチウムイオン電池によってもたらされるエネルギー密度ほど大きなエネルギー密度をもたらすことはできない。加えて、一部の二重炭素電池は、PF6−などの多原子アニオン電荷キャリアの挿入及び脱挿入によって付与される圧力により、サイクル後に容量の大幅な損失を受けやすい。さらに、二重炭素電池は、達成可能な放電率及び充電率に関して制限され、またこれらのシステムの多くにおいて、リチウム塩を含む電解質が利用されるが、リチウム塩は、一部の動作条件下で安全性の問題を引き起こすことがある。二重炭素電池については、米国特許第4830938号明細書、第4865931号明細書、第5518836号明細書及び第5532083号明細書に、また“Energy and Capacity Projections for Practical Dual−Graphite Cells”,J.R.Dahn and J.A.Seel,Journal of the Electrochemical Society,147(3)899−901(2000)に記載されている。これらの文献は、本開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書中に援用される。
【0010】
[010] 電池は、正極(放電時のカソード)と、負極(放電時のアノード)と、電解質とで構成される。電解質は、電荷キャリアであるイオン種を含む。電池における電解質は、いくつかの異なるタイプ、(1)純粋なカチオン伝導体(たとえば、ベータアルミナはNa+のみで伝導する)、(2)純粋なアニオン伝導体(たとえば、O−又はO2−アニオンのみで伝導する高温セラミック)、(3)混合イオン伝導体(たとえば、一部のアルカリ電池では、OH−でもK+でも伝導するKOH水溶液が使用され、一方一部のリチウムイオン電池では、Li+でもPF6−でも伝導するLiPF6の有機溶液が使用される)であってよい。充電及び放電時には、電極が電解質とイオンを交換し、外部回路(負荷又は充電器)と電子を交換する。
【0011】
[011] 2種類の電極反応がある。
1.カチオンをベースとする電極反応:これらの反応において、電極は、電解質からのカチオンY+及び外部回路からの電子を捕獲又は放出する。
電極 + Y+ + e− → 電極(Y)
カチオンをベースとする電極反応の例には、(i)リチウムイオン電池における炭素アノード:6C + Li+ + e− → LiC6(充電)、(ii)リチウムイオン電池におけるリチウムコバルト酸化物カソード:2Li0.5CoO2 + Li+ + e− → 2LiCoO2(放電)、(iii)充電式アルカリ電池におけるNi(OH)2カソード:Ni(OH)2 → NiOOH + H+ + e−(充電)、(iv)食塩水Zn/MnO2一次電池におけるMnO2:MnO2 + H+ + e− → HMnO2(放電)が含まれる。
2.アニオンをベースとする電極反応:これらの反応において、電極は、電解質からのアニオンX−及び外部回路からの電子を捕獲又は放出する。
電極 + X− → 電極(X) + e−
アニオンをベースとする電極反応の例には、(i)ニッケル−カドミウムアルカリ電池におけるカドミウムアノード:Cd(OH)2 + 2e− → Cd + 2OH−(充電)及び(ii)マグネシウム一次電池におけるマグネシウム合金アノード:Mg + 2OH− → Mg(OH)2 + 2e−(放電)が含まれる。
【0012】
[012] 既存の電池は、純粋なカチオン型又は混合イオン型の化学的性質を有する。出願人の知る限りでは、現在純粋なアニオン型の化学的性質を有する電池は知られていない。純粋なカチオン型及び混合イオン型電池の例を以下に示す。
1.純粋なカチオン型の電池:リチウムイオン電池が、純粋なカチオン型化学的性質の例である。リチウムイオン電池についての電極半反応及び電池反応は以下のとおりである。
・炭素アノード:
6C + Li+ + e− → LiC6(充電)
・リチウムコバルト酸化物カソード:
2Li0.5CoO2 + Li+ + e− → 2LiCoO2(放電)
・電池反応:
2LiCoO2 + 6C → 2Li0.5CoO2 + LiC6(電荷)
2Li0.5CoO2 + LiC6 → 2LiCoO2 + 6C(放電)
2.混合イオン型の電池:ニッケル/カドミウムアルカリ電池が、混合イオン型の電池の例である。ニッケル/カドミウムアルカリ電池についての電極半反応及び電池反応は以下のとおりである。
・Ni(OH)2カソード(カチオン型):
Ni(OH)2 → NiOOH + H+ + e−(充電)
・カドミウムアノード(アニオン型):
Cd(OH)2 + 2e− → Cd + 2OH−(充電)
・電池反応:
Cd(OH)2 + 2Ni(OH)2 → Cd + 2NiOOH + 2H2O(充電)
Cd + 2NiOOH + 2H2O → Cd(OH)2 + 2Ni(OH)2(放電)
Zn/MnO2電池が、混合イオン型の電池の例である。Zn/MnO2電池についての電極半反応及び電池反応は以下のとおりである。
・Znアノード(アニオン型):
Zn + 2OH− → ZnO + H2O + 2e−(放電)
・MnO2カソード(カチオン型)
MnO2 + H+ + e− → HMnO2(放電)
・電池反応:
Zn + 2MnO2 + H2O → ZnO + 2HMnO2(放電)
【0013】
[013] 上記から明らかなように、高性能携帯用電子機器に対する急増する需要を含めた様々な重要なデバイス用途向けの二次電気化学セルが当技術分野では必要である。具体的には、優れた安定性及び安全性を示すと同時に有用な電池電圧、比容量及びサイクル寿命を提供することができる二次電気化学セルが必要とされる。一次及び二次電池システムにおけるリチウムの使用に固有の安全性の問題を排除又は低減する、代替の挿入/インターカレーションをベースとする電気化学セルが必要である。
【0014】
[発明の概要]
[014] 本発明は、優れた電源性能、特に、高い比エネルギー、有用な放電率能力及び優れたサイクル寿命が可能な電気化学セルを提供する。本発明の電気化学セルは用途が広く、携帯用電子デバイスにおける使用を含めた様々な重要な用途に有用な一次及び二次電池を含む。本発明の電気化学セルはまた、従来の最先端一次リチウム電池及びリチウムイオン二次電池に対して向上した安全性及び安定性をも示す。たとえば、本発明の電気化学セルには、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電荷キャリアを用いる二次アニオン性電気化学セルが含まれ、これらのアニオン電荷キャリアにより、これらの系における金属リチウム又は溶解したリチウムイオンの必要性が完全に排除される。
【0015】
[015] 本発明は、根本的に新しい一次及び二次電気化学セル類を可能にする新規の活性電極材料の戦略、電解質組成及び電気化学セル設計を提供する。正極及び負極並びに高性能電解質向けのアニオン電荷キャリアホスト材料が提供される。アニオン電荷キャリアホスト材料により、従来の最先端リチウムイオン電池における比エネルギーよりも高い比エネルギーなど、有用な性能属性を実現することができる新たな電気化学セルプラットホームが可能となる。一実施形態において、たとえば、本発明は、約3.5V以上の電池電圧を示すことができる二次電気化学セルを可能にする正極及び負極向けの異なるアニオン電荷キャリアホスト材料の組合せを提供する。加えて、本発明の正極電極材料と負極電極材料との組合せにより、サイクル寿命が大きくサイクル時に優れた放電安定性を示す二次電気化学セルが可能となる。さらに、高い電池電圧におけるデバイスの性能、安定性及び安全性を改善するために重要な相乗的な性能向上を提供する水性及び非水電解質組成物が提供される。たとえば、本発明は、高い電池電圧で安定した放電率が可能な二次電池を提供するアニオン電荷キャリア活性電極ホスト材料と適合するアニオン受容体及び/又はカチオン受容体を有する高性能の電解質を提供する。
【0016】
[016] 一態様において、本発明は、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電荷キャリアを利用するアニオン性電気化学セルを提供する。本発明のこの態様には、一次電気化学セルも二次電気化学セルも共に含まれる。一実施形態において、本発明のこの態様の電気化学セルは、正極と、負極と、正極と負極との間に設けられた電解質とを備え、電解質はアニオン電荷キャリアを伝導することができる。この実施形態の正極及び負極は、電気化学セルの充電又は放電中に電解質とアニオン電荷キャリアを可逆的に交換する異なるアニオンホスト材料を含む。この説明の文脈において、用語「交換する」は、電気化学セルの充電又は放電中に酸化及び還元反応により電極でアニオン電荷キャリアを放出する又は収容することを指す。この文脈において、アニオン電荷キャリアの「収容」には、ホスト材料によるアニオン電荷キャリアの捕獲、ホスト材料へのアニオン電荷キャリアの挿入、ホスト材料へのアニオン電荷キャリアのインターカレーション、及び/又はアニオン電荷キャリアのホスト材料との化学反応が含まれる。収容には、合金形成化学反応、ホスト材料との表面化学反応及び/又はホスト材料とのバルク化学反応が含まれる。
【0017】
[017] 放電中、正極で起こる還元半反応により、正極から電解質へとアニオン電荷キャリアが放出され、負極で起こる酸化半反応により、負極がアニオン電荷キャリアを収容する。したがって、これらの実施形態において、電気化学セルの放電中、アニオン電荷キャリアが正極から放出され、電解質を通って移動し、負極によって収容される。本発明の二次電気化学セルにおける充電中にはこの速度論的プロセスが反転する。したがって、これらの実施形態における充電中、負極で起こる還元半反応によりアニオン電荷キャリアが電解質へと放出され、正極で起こる酸化半反応により、アニオン電荷キャリアが電解質から正極へと収容される。したがって、電解質を通してアニオン電荷キャリアが輸送され、また正極及び負極に接続している外部回路を通して電子が輸送されるため、電気化学セルの放電及び充電中にアニオン電荷キャリアの放出及び収容が同時に起こる。
【0018】
[018] 本発明のこの態様における電極ホスト材料、電解質及びアニオン電荷キャリアの組成及び相の選択が、有用な電気化学セル構成にアクセスするためには本発明において重要である。第一に、正極及び負極用のアニオンホスト材料並びにアニオン電荷キャリアの組成を選択することにより、少なくとも部分的には、電気化学セルの電池電圧が決定される。したがって、電池電圧が所与の用途に有用となるように、負極で十分に低い標準電極電位を提供するアニオンホスト材料を選択すること、また正極で十分に高い標準電極電位を提供するアニオンホスト材料を選択することが一部の諸実施形態では有益である。第二に、正極及び負極用のアニオンホスト材料、電解質並びにアニオン電荷キャリアの組成を選択することにより、電極における速度論が確立され、したがって電気化学セルの放電率能力が決まる。第三に、充電及び放電中に正極及び負極で基本的な構造の変化又は劣化がない電極ホスト材料、電解質及びアニオン電荷キャリアの使用が、優れたサイクル性能を示す第二電気化学セルには有益である。
【0019】
[019] この態様の一実施形態において、本発明は、フッ化物イオン(F−1)をアニオン電荷キャリアとして有するフッ化物イオン一次及び二次電気化学セルを提供する。本発明のフッ化物イオン電荷キャリアを利用する電気化学セルは、フッ化物イオン電気化学セルと称される。本発明の電気化学セルにおいてフッ化物イオン電荷キャリアを使用することにより、多くの利点がもたらされる。第一に、低原子質量(18.998AMU)、フッ素の高電子親和力(−328kJmol−1)及びフッ化物イオン(F−)の約6V(−3.03V対NHE〜+2.87V対NHE)の酸化還元電圧安定性窓(stability window)により、高電圧、高エネルギー密度及び高比容量を有する電気化学セルがもたらされる。第二に、フッ化物イオンは小さい原子半径を有し、したがって、二次電気化学セルにおけるサイクル時に電極ホスト材料の重大な劣化又は重大な構造変形を生じることがない、多くの電極ホスト材料における可逆的な挿入及び/又はインターカレーション反応に関与することができる。この特性により、サイクル寿命が大きい(たとえば、約500サイクル以上)二次フッ化物イオン電気化学セルがもたらされる。第三に、フッ化物イオンは、有用な範囲の電圧(−3.03V対NHE〜+2.87V対NHE)では電極表面における分解に対して安定で、それにより電気化学セルの性能安定性及び安全性が高まる。第四に、かなりの数のフッ化物イオンホスト材料が正極及び負極に使用可能で、これにより比容量及び電池電圧が大きい電気化学セルがもたらされる。
【0020】
[020] 一方、当業者には明らかなように、本発明には、下記を含むがそれらに限定されないフッ化物イオン以外のアニオン電荷キャリアを有する幅広いアニオン性電気化学セル構成が含まれる。
【化1】
本発明の電気化学セルにおいて有用な他のアニオン電荷キャリアには、式中nが1よりも大きい整数である式CnF2n+1BF3−1を有するアニオン電荷キャリアが含まれる。フッ化物イオン以外のアニオン電荷キャリアの使用には、放電及び充電中にアニオン電荷キャリアを収容することができ、所望の電池電圧及び比容量を提供することができる正極及び負極電極向けの適切なホスト材料を組み込むことが必要となる。一実施形態においては、アニオン電荷キャリアが、OH−及びHSO4−以外のアニオン、或いはSO42−である。
【0021】
[021] 一実施形態において、本発明のフッ化物イオン電気化学セルの電解質は、溶媒及びフッ化物塩を含み、電解質中にフッ化物イオンが発生するように、フッ化物塩は少なくとも部分的には溶解した状態で電解質中に存在する。本発明の電気化学セルにおける電解質は、式中Mが金属でnが0よりも大きい整数である式MFnを有するフッ化物塩を含む。一部の諸実施形態においては、たとえば、Mが、Na、K、Rbなどのアルカリ金属である、或いはMがMg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属である。諸実施形態においては、従来の最先端リチウム電池及びリチウムイオン電池に対して安全性及び安定性が高まるように、Mがリチウム以外の金属である。一部の諸実施形態においては、電解質中のフッ化物塩の濃度は、約0.1M〜約2.0Mの範囲から選択される。
【0022】
[022] フッ化物イオン電気化学セルを含めた本発明のアニオン性電気化学セル用の電解質には、水性電解質及び非水電解質が含まれる。アニオン性電気化学セル向けの有用な電解質組成物は、好ましくは以下の特性のうちの1つ又は複数を有する。第一に、一部の用途向け電解質は、好ましくはアニオン電荷キャリアに関して、たとえば、フッ化物イオンについて高いイオン伝導率を有する。たとえば、本発明において有用な一部の電解質は、溶媒、溶媒混合物、及び/又は0.0001Scm−1以上、0.001Scm−1以上、又は0.005Scm−1以上の、フッ化物イオンアニオン電荷キャリアなどのアニオン電荷キャリア向けの伝導率を提供する添加剤を含む。第二に、一部の諸実施形態用の電解質が、電解質中に有用な濃度でアニオン電荷キャリア源が提供されるように、フッ化物塩などの電解質塩を溶解させることができる。第三に、本発明の電解質は、好ましくは電極における分解に対して安定である。たとえば、本発明の一実施形態の電解質は、溶媒と、電解質塩と、添加剤と、約4.5V以上の正極電圧と負極電圧との差など、高い電極電圧で安定であるアニオン電荷キャリアとを含む。第四に、一部の用途にとって好ましい本発明の電解質は、難燃性など優れた安全特性を示す。
【0023】
[023] 場合により、本発明の電気化学セルの電解質は、1種又は複数種の添加剤を含む。一実施形態において、電解質は、フッ化物塩のフッ化物イオンを配位させることができるフッ化物イオンアニオン受容体などのアニオン受容体、及び/又はカチオン受容体、たとえば、フッ化物塩の金属イオンを配位させることができるカチオン受容体を含む。本発明における有用なアニオン受容体には、フッ素化ボラン類、フッ素化ボロナート類、フッ素化ボラート類、フェニルボロンをベースとする化合物、アザ−エーテルボロンをベースとする化合物など、電子求引性配位子を有するフッ素化ホウ素をベースとするアニオン受容体が含まれるがこれらに限定されない。本発明の電気化学セルの電解質向けの有用なカチオン受容体には、クラウンエーテル類、ラリアートエーテル類、メタラクラウン(metallacrown)エーテル類、カリックスクラウン類(calixcrowns)(たとえば、カリックス(アザ)クラウン類)、テトラチアフルバレンクラウン類、カリックスアレン類、カリックス[4]アレンジキノン類、テトラチアフルバレン類、ビス(カリックスクラウン)テトラチアフルバレン類、及びこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。一部の諸実施形態において、本発明の電解質は、他の無機、有機又は気体状添加剤を含む。本発明の電解質中の添加物は、たとえば、固体電解質界面(SEI)の形成を促進することによって、又は放電生成物の蓄積(buildup)を減少させることによって、(i)アニオン電荷キャリアの伝導率を高める、(ii)可燃性を低下させる、(iii)電極濡れ性を高める、(iv)電子伝導率を低下させる、また(v)電極におけるアニオン電荷キャリアの速度論を強化するために有用である。一実施形態において、電解質は下記のようなルイス酸又はルイス塩基を含むが、これらに限定されない。
【化2】
(R=H又はアルキル基CnH2n+1、n=整数)
【0024】
[024] 本発明のフッ化物イオン電気化学セルの正極及び負極用活物質は、電気化学セルの放電及び充電中に電解質からのフッ化物イオンを収容することができるフッ化物イオンホスト材料を含む。この文脈において、フッ化物イオンの収容には、ホスト材料へのフッ化物イオンの挿入、ホスト材料へのフッ化物イオンのインターカレーション、及び/又はフッ化物イオンのホスト材料との反応が含まれる。収容には、合金形成反応、表面反応及び/又はホスト材料とのバルク反応が含まれる。サイクル時のフッ化物イオンホスト材料の重大な劣化なしに電解質とフッ化物イオンを可逆的に交換することができるフッ化物イオンホスト材料を使用することが、本発明の二次フッ化物イオン電池には好ましい。
【0025】
[025] 一実施形態においては、本発明のフッ化物イオン電気化学セルの負極が、標準還元電位が低い、好ましくは一部の用途では約−1V以下、より好ましくは一部の用途では約−2V以下である、フッ化物化合物などのフッ化物イオンホスト材料を含む。本発明の電気化学セルの負極向けの有用なフッ化物イオンホスト材料には、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFxが含まれるが、これらに限定されない。電気化学セルの負極向けの好ましいフッ化物ホスト材料は、式中Mがアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)である、Mが遷移金属である、Mが第一3族(B、Al、Ga、In、Tl)に属する、又はMが希土類元素(57と71との間の原子番号Z)である元素フッ化物MFxである。本発明には、アニオンイオン電荷キャリアを含むフッ化物イオンを可逆的に交換することができる1種又は複数種のポリマーを含む負極フッ化物イオンホスト材料も含まれる。このような共役ポリマーの例は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンであるが、これらに限定されない。本発明における負極に有用なポリマー材料は、本明細書中の開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書中に援用されるManecke,G.and Strock,W.,in“Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd Edition,Kroschwitz,J.,I.,Editor.John Wiley,New York,1986,vol.5,pp.725−755にさらに記載され、説明されている。
【0026】
[026] 一実施形態においては、本発明のフッ化物イオン電気化学セルの正極が、標準還元電位が高い、好ましくは一部の用途では約1V以上、より好ましくは一部の用途では約2V以上である、フッ化物化合物などのフッ化物イオンホスト材料を含む。一実施形態において、正極のフッ化物イオンホスト材料は、フッ化物イオン層間化合物を生成するためにフッ化物イオンを収容することができるインターカレーションホスト材料である。「インターカレーション」とは、フッ化物イオンなどの移動性ゲストイオンの挿入を伴う電気化学的電荷移動プロセスを含むホスト/ゲスト固相酸化還元反応によりホスト材料にイオンを挿入して層間化合物を生成するプロセスを指す。ホスト材料の主な構造的特徴は、インターカレーションによるゲストイオンの挿入後に保存される。一部のホスト材料においては、インターカレーションとは、ゲストイオンが層状ホスト材料の層間ギャップ(たとえば、ギャラリー)に引き付けられるプロセスを指す。
【0027】
[027] 本発明の電気化学セルの正極向けの有用なフッ化物イオンホスト材料には、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態においては、正極のフッ化物イオン材料が式CFxを有する部分フッ素化炭素質材料であり、式中xが炭素原子に対するフッ素原子の平均原子比率であり、約0.3〜約1.0の範囲から選択される。この実施形態の正極向けの有用な炭素質材料は、黒鉛、コークス、マルチウォールカーボンナノチューブ、多層カーボンナノ繊維、多層カーボンナノ粒子、カーボンナノウイスカ及びカーボンナノロッドからなる群から選択される。本発明には、アニオンイオン電荷キャリアを含むフッ化物イオンを可逆的に交換することができる1種又は複数種のポリマーを含む正極フッ化物イオンホスト材料も含まれる。正極に有用なこのような共役ポリマーの例には、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
[028] 一態様において、本発明は、リチウムイオン電池など最先端の電気化学セルに対して強化されたデバイス性能を示すフッ化物イオン電気化学セルを提供する。フッ化物イオン電気化学セルにおける正極及び負極向けの一部のフッ化物イオンホスト材料の組合せは、有用なデバイス性能にアクセスするために特に有益である。たとえば、xが約0.3〜1の範囲にわたって選択される部分フッ素化CFx正極と、LiC6又はLaFxを含む負極とを使用することは、約4V以上、一部の諸実施形態においては約4.5V以上の平均動作電池電圧にアクセスするために有用である。優れたデバイス性能をもたらす本発明の他の有用な正極ホスト材料/負極ホスト材料の組合せには、CuFx/LaFx、AgFx/LaFx、CoFx/LaFx、NiFx/LaFx、MnFx/LaFx、CuFx/AlFx、AgFx/AlFx、NiFx/AlFx、NiFx/ZnFx、AgFx/ZnFx及びMnFx/ZnFxが含まれる(電極の組合せを示すために、[正極ホスト材料]/[負極ホスト材料]に対応する慣習を使用する)。
【0029】
[029] 一実施形態においては、本発明のフッ化物イオン電気化学セルは、約3.5V以上の平均動作電池電圧、好ましくは一部の用途では約4.5V以上の平均動作電池電圧を有する。一実施形態において、本発明のフッ化物イオン電気化学セルは、約300Whkg−1以上、好ましくは約400Whkg−1以上の比エネルギーを有する。一実施形態において、本発明は、約500サイクル以上のサイクル寿命を有するフッ化物イオン二次電気化学セルを提供する。
【0030】
[030] 本発明の電解質向けの有用な溶媒は、フッ化物塩などの電解質塩を少なくとも部分的に溶解させることができ、これらの溶媒には、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、トルエン(tol)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピルメチルカーボネート(PMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルブチレート(MB、20℃)、n−プロピルアセテート(PA)、エチルアセテート(EA)、メチルプロピオネート(MP)、メチルアセテート(MA)、4−メチル−1,3−ジオキソラン(4MeDOL)(C4H8O2)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)(C5H10O)、1,2ジメトキシエタン(DME)、メチルホルメート(MF)(C2H4O2)、ジクロロメタン(DCM)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)(C4H6O2)、プロピレンカーボネート(PC)(C4H6O3)、エチレンカーボネート(EC、40℃)(C3H4O3)からなる群から選択される1種又は複数種の溶媒が含まれるが、これらに限定されない。溶媒、電解質塩及びアニオン電荷キャリアの完全に又は部分的にフッ素化された類似体を含む電解質及びそれらの成分は、一部の用途には有益である。というのは、これらの材料のフッ素化は、高い電極電圧における分解に対する安定性が高まり、難燃性など有益な安全特性をもたらすからである。この説明の文脈において、フッ素類似体には、(i)溶媒、塩又はアニオン電荷キャリア分子の各水素原子がフッ素原子に置換されている完全にフッ素化された類似体と、(ii)溶媒、塩又はアニオン電荷キャリア分子の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換されている部分的にフッ素化された類似体とが含まれる。電解質中の好ましいアニオン電荷キャリアには、下記アニオン電荷キャリアが含まれるが、これらに限定されない。
【化3】
【0031】
[031] 以下の文献には、完全にフッ素化された、また部分的フッ素化された溶媒、塩及びアニオン電荷キャリアを含めた、本発明の諸実施形態において有用な電解質組成物が記載されている。これらの文献は、本開示と矛盾しない程度まで参照によりそれら全体が本明細書中に援用される。(1)Li[C2F5BF3] as an Electrolyte Salt for 4V Class Lithium−Ion Cells,Zhi−Bin Zhou,Masayuki takeda,Takashi Fujii,Makoto Ue,Journal of Electrochemical Society,152(2):A351−A356,2005;(2)Fluorinated Superacidic Systems,George A.Olah,Surya G.K.Prakash,Alain Goeppert,Actualite Chimique,68−72 Suppl.301−302,Oct−Nov 2006;(3)Electrochemical properties of Li[CnF2n+1BF3] as Electrolyte Salts for Lithium−ion Cells,Makoto Ue,Takashi Fujii,Zhi−Bin Zhou,Masayuki Takeda,Shinichi Kinoshita,Solid State Ionics,177:323−331,2006;(4)Anodic Stability of Several Anions Examined by AB Initio Molecular Orbital and Density Functional Theories,Makoto Ue,Akinori Murakami,Shinichiro Nakamura,Journal of Electrochemical Society,149(12):A1572−A1577,2002;(5)Intrinsic Anion Oxidation Potentials,Patrik Johansson,Journal of Physical Chemistry,110_12077−12080,2006;(6)Nonaqueous Liquid Electrolytes for Lithium−based Rechargeable Batteries,Kang Xu,Chem.Rev.,104:4303−4417,2004;(7)The Electrochemical Oxidation of Polyfluorophenyltrifluoroborate Anions in Acetonitrile,Leonid A.Shundrin,Vadim V.Bardin,Hermann−Josef Frohn,Z.Anorg.Allg.Chem.630:1253−1257,2004
【0032】
[032] 別の態様において、本発明は、電気化学セルを作製するための方法を提供する。この方法は、(i)正極を設けるステップと、(ii)負極を設けるステップと、(iii)正極と負極との間に、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質を設けるステップとを含む方法であって、正極及び負極が、電気化学セルの充電又は放電中に電解質とアニオン電荷キャリアを可逆的に交換することができる。
【0033】
[033] 別の態様において、本発明は、電流を発生させるための方法を提供する。この方法は、(i)電気化学セルを提供するステップと、(ii)電気化学セルを放電するステップとを含み、電気化学セルが、正極と、負極と、正極と負極との間に設けられ、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質とを備え、正極及び負極が、電気化学セルの充電又は放電中に電解質とアニオン電荷キャリアを可逆的に交換することができる。本発明のこの態様の方法は、電気化学セルを充電するステップをさらに含むことができる。本発明のこの態様の一部の諸実施形態においては、アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)である。
【0034】
[034] 一態様において、本発明はフッ化物イオン二次電気化学セルを提供する。このフッ化物イオン二次電気化学セルは、(i)第一のフッ化物イオンホスト材料を含み、第一の標準電極電位を有する正極と、(ii)第二のフッ化物イオンホスト材料を含み、第二の標準電極電位を有する負極であって、前記第一の標準電極電位と前記第二の標準電極電位との差が約3.5V以上である負極と、(iii)前記正極と前記負極との間に設けられ、フッ化物イオン電荷キャリアを伝導することができ、フッ化物塩及び溶媒を含む電解質であって、前記フッ化物塩の少なくとも一部が溶解した状態で存在し、それにより前記電解質中に前記フッ化物イオン電荷キャリアが発生する電解質とを備え、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記フッ化物イオン電荷キャリアを可逆的に交換することができる。本発明のこの態様の一部の諸実施形態においては、アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)である。
【0035】
[本発明の詳細な説明]
[057] 図面を参照すると、同じ数字は同じ要素を示し、2つ以上の図面に現れる同じ番号は同じ要素を指す。加えて、以降では以下の定義が適用される。
【0036】
[058] 「標準電極電位」(Eo)とは、溶質の濃度が1M、ガス圧力が1atm、温度が摂氏25度である場合の電極電位を指し、本明細書中で使用する標準電極電位は、標準水素電極に対して測定される。
【0037】
[059] 「アニオン電荷キャリア」とは、電気化学セルの放電及び充電中に正極と負極との間と移動する、電気化学セルの電解質中で提供される負に荷電したイオンを指す。本発明の電気化学セルにおいて有用なアニオン電荷キャリアには、フッ化物イオン(F−)及び以下の他のアニオンが含まれるが、これらに限定されない。
【化4】
【0038】
[060] 「フッ化物イオンホスト材料」とは、フッ化物イオンを収容することができる材料を指す。この文脈において、収容することには、ホスト材料へのフッ化物イオンの挿入、ホスト材料へのフッ化物イオンのインターカレーション、及び/又はフッ化物イオンのホスト材料との反応が含まれる。本発明の電気化学セルにおける正極又は負極向けの有用なフッ化物イオンホスト材料には、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFx、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxが含まれるが、これらに限定されない。電気化学セルの負極向けの好ましいフッ化物ホスト材料は元素フッ化物MFxであり、式中Mがアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)である、Mが遷移金属である、Mが第一3族(B、Al、Ga、In、Tl)に属する、又はMが希土類元素(57と71との間の原子番号Z)である。
【0039】
[061] 「インターカレーション」とは、フッ化物イオンなどの移動性ゲストイオンの挿入を伴う電気化学的電荷移動プロセスを含む、ホスト/ゲスト固相酸化還元反応により、ホスト材料にイオンを挿入して層間化合物を生成するプロセスを指す。ホスト材料の主な構造的特徴は、インターカレーションによるゲストイオンの挿入後に保存される。一部のホスト材料においては、インターカレーションとは、ゲストイオンが層状ホスト材料の層間ギャップ(たとえば、ギャラリー)に引き付けられるプロセスを指す。層間化合物の例には、層状フッ化物ホスト材料や炭素ホスト材料などのホスト材料にフッ化物イオンが挿入されているフッ化物イオン層間化合物が含まれる。本発明の電極用の層間化合物を形成するために有用なホスト材料には、CFx、FeFx、MnFx、NiFx、CoFx、LiC6、LixSi及びLixGeが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
[062] 用語「電気化学セル」とは、化学エネルギーを電気エネルギーに、又は電気エネルギーを化学エネルギーに変換するデバイス及び/又はデバイス構成要素を指す。電気化学セルは、2つ以上の電極(たとえば、正極及び負極)と、電解質とを有し、電極表面で起こる電極反応により電荷移動プロセスがもたらされる。電気化学セルには、一次電池、二次電池及び電気分解システムが含まれるが、これらに限定されない。一般的な電池及び/又は電池の構造は当技術分野で公知である。たとえば、米国特許第6489055号明細書、第4052539号明細書、第6306540号明細書、Seel and Dahn J.Electrochem.Soc.147(3)892−898(2000)を参照のこと。
【0041】
[063] 用語「容量」は、電池などの電気化学セルが保持することが可能な電荷の総量を指す、電気化学セルの一特性である。容量は通常、アンペア−時間の単位で表される。用語「比容量(specific capacity)」は、電池などの電気化学セルの、単位重量当たりの出力容量を指す。比容量は通常、アンペア−時間kg−1の単位で表される。
【0042】
[064] 用語「放電率(discharge rate)」とは、電気化学セルを放電する電流を指す。放電電流は、アンペア−時間の単位で表すことができる。或いは、放電電流を、電気化学セルの定格容量に正規化することができ、式中Cが電気化学セルの容量であり、Xが変数であり、tが本明細書中で使用する1時間に等しい規定の単位時間であるC/(Xt)で表すことができる。
【0043】
[065] 「電流密度」とは、単位電極面積当たりに流れる電流を指す。一部の諸実施形態において、正極、負極又は両者がナノ構造材料である。用語「ナノ構造」とは、少なくとも1つの物理的寸法(たとえば、高さ、幅、長さ、断面寸法)が約1ミクロン未満である複数の不連続構造ドメインを有する材料及び/又は構造を指す。この文脈において、構造ドメインとは、特徴的な組成、形態及び/又は相を有する材料又は構造の特徴、成分又は一部分を指す。正極活物質として有用なナノ構造材料には、複数のフッ素化炭素ドメイン及び非フッ素化炭素ドメインを有するナノ構造複合粒子が含まれる。一部の諸実施形態において、本発明のナノ構造材料は、異なる組成、形態及び/又は相が非常に微細なスケールで(たとえば、少なくとも数十ナノメートルよりも小さい)混合された複数の構造ドメインを含む。負極活物質として有用なナノ構造材料には、複数のフッ素化金属ドメイン及び非フッ素化金属ドメインを有するナノ構造複合粒子が含まれる。電気化学セルの負極向けの好ましいナノ構造フッ素化金属ホスト材料には、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)、遷移金属、第一3族元素(B、Al、Ga、In、Tl)に属する、希土類金属(57と71との間の原子番号Z)が含まれるが、これらに限定されない。一部の諸実施形態において、本発明の負極向けのナノ構造材料は、異なる組成、形態及び/又は相が非常に微細なスケールで(たとえば、少なくとも数十ナノメートルよりも小さい)混合された複数の構造ドメインを含む。
【0044】
[066] 「活物質」とは、エネルギーを電気化学セルに蓄積及び/又は分配する電気化学反応に関与する、電極中の材料を指す。
【0045】
[067] 本明細書中で使用する表現「部分フッ素化炭素質材料」とは、非フッ素化炭素質成分を有する多相炭素質材料を指す。本明細書中で使用する「非フッ素化炭素質成分」には、黒鉛、コークス、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノウイスカ、多層カーボンナノ粒子、カーボンナノウイスカ及びカーボンナノロッドなど、非フッ素化炭素組成物及び/又は相が含まれ、またわずかにフッ素化された炭素組成物及び/又は相も含まれる。この文脈においてわずかにフッ素化されたとは、CF1及びC2F相に見られるように炭素がフッ素と共有結合した組成物とは対照的に、フッ素と弱く結合した炭素を指す。多相部分フッ素化炭素質材料は、1種又は複数種の非フッ素化炭素質相及び1種又は複数種のフッ素化相(たとえば、ポリ(一フッ化炭素(CF1)、ポリ(一フッ化二炭素)など)を含む炭素質相の混合物を含むことができる。部分フッ素化炭素質材料には、フッ素化及び非フッ素化ドメインを有するナノ構造材料が含まれる。部分フッ素化炭素質材料には、炭素質出発材料の不完全な又は部分的なフッ素化がもたらされる条件下でフッ素源にさらした炭素質材料が含まれる。本発明において有用な部分フッ素化炭素質材料、及び部分フッ素化炭素質材料を作製する関連の方法は、それぞれ2005年10月18日、2006年6月6日及び2006年11月16日にそれぞれ出願された米国特許出願第一1253360号明細書、第一1422564号明細書及び第一1560570号明細書に記載されている。これらの出願は、本記載と矛盾しない程度まで参照によりそれら全体が本明細書中に援用される。本発明の正極中の部分フッ素化活物質には、黒鉛、コークス、並びにマルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、多層カーボンナノ粒子、カーボンナノウイスカ、カーボンナノロッドなどの炭素質ナノ材料を含めた、様々な炭素質材料が有用である。
【0046】
[068] 本明細書中で使用するカーボンナノ材料は、少なくとも1つの寸法が1ナノメートル〜1ミクロンである。一実施形態においては、ナノ材料の少なくとも1つの寸法が2nm〜1000nmである。カーボンナノチューブ、ナノファイバー、ナノウイスカ又はナノロッドでは、チューブ、繊維、ナノウイスカ又はナノロッドの直径がこの寸法範囲内にある。カーボンナノ粒子では、ナノ粒子の直径がこの寸法範囲内にある。本発明と共に使用するために有用なカーボンナノ材料には、総不純物レベルが10%未満である材料、及びホウ素、窒素、シリコン、スズ、リンなどの元素をドープしたカーボン材料が含まれる。
【0047】
[069] 本明細書中で使用する用語「ナノチューブ」は、典型的には約1nm〜約20nmの直径によって通常特徴付けられるチューブ状の不連続な原繊維を指す。加えて、ナノチューブは通常、直径の約10倍を超える、好ましくは直径の約100倍を超える長さを示す。ナノチューブを記載するために使用する用語「マルチウォール(multi-wall)」は、層状構造を有するナノチューブを指し、したがってナノチューブは、秩序化した原子の複数の連続層の外側領域と、別個の内側コア領域又は内腔とを含む。これらの層は、原繊維の長手方向軸についてほぼ同心円状に配置される。カーボンナノチューブでは、これらの層がグラフェン層である。カーボンナノチューブは、それぞれSWCNT、DWCNT及びMWCNTと記される単層、二層及びマルチウォールカーボンナノチューブとして、異なる形で合成されている。直径の寸法は、SWCNT及びDWCNTにおける約2nm〜NWCNTにおける約20nmの範囲に及ぶ。一実施形態においては、本発明において使用するMWNTは、5nmを超える、10nmを超える、10〜20nm又は約20nmの直径を有する。
【0048】
[070] 電極とは、電解質及び外側回路とイオン及び電子を交換する電気伝導体を指す。「正極」と「カソード」とは、本記載において同義に使用され、電気化学セルにおいてより高い(すなわち、負極よりも高い)電極電位を有する電極を指す。「負極」と「アノード」とは本記載において同義に使用され、電気化学セルにおいてより低い(すなわち、正極よりも低い)電極電位を有する電極を指す。カソード還元とは、化学種の1つ又は複数の電子の獲得を指し、アノード酸化とは、化学種の1つ又は複数の電子の放出を指す。本電気化学セルの正極及び負極は、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末状黒鉛、コークス、炭素繊維、金属粉末などの導電性希釈剤をさらに含むことができ、及び/又はポリマー結合剤(polymer binder)などの結合剤をさらに含むことができる。一部の諸実施形態における正極向けの有用な結合剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフルオロポリマーを含む。本発明の正極及び負極は、薄膜電極構成など薄い電極設計を含めた、電気化学及び電池科学の技術分野で公知である様々な有用な構成及び形状因子で設けることができる。本明細書中に開示されているように、また、たとえば米国特許第4052539号明細書、第6306540号明細書、第6852446号明細書における開示を含め、当技術分野で知られているように、電極を作製する。一部の諸実施形態では、通常、電極材料、導電性不活性材料、結合剤及び液体キャリアのスラリーを電極集電体上に堆積させ、次いでキャリアを蒸発させて集電体と電気接触する粘性塊(coherent mass)を残すことによって電極を作製する。
【0049】
[071] 「電極電位」とは、異なる酸化(原子価)状態における化学種が電極内又は電極に接触して存在するために、通常参照電極に対して測定される電圧を指す。
【0050】
[072] 「電解質」とは、固体状態であっても、液体状態(最も一般的)又はより稀ではあるが気体(たとえば、プラズマ)あってもよいイオン伝導体を指す。
【0051】
[073] 「カチオン」とは、正に荷電したイオンを指し、「アニオン」とは負に荷電したイオンを指す。
【0052】
[074] 本発明は、フッ化物イオン電荷キャリアと、フッ化物イオンホスト材料を含む電極活物質とを利用する一次及び二次アニオン性電気化学セルを提供し、これにより従来の最先端リチウム電池及びリチウムイオン電池の代替物が提供される。リチウムをベースとする系に優る本発明の電気化学セルの利点には、より高い比容量へのアクセス、より大きい平均動作電圧及び安全性の向上が含まれる。
【0053】
[075] フッ化物イオン電気化学セルを含めた本発明のアニオン性電気化学セルは、異なるアニオン電荷キャリアホスト材料を含む正極及び負極によるアニオン電荷キャリアの収容及び放出を伴う同時に起こる酸化及び還元反応の原理に基づいて動作する。これらの系において、アニオン電荷キャリアは、アニオン性電気化学セルの放電及び充電中に正極と負極との間を行ったり来たりする。以下の電極半反応、電池反応及び電解質反応は、本発明のアニオン性電気化学セルが動作する基本原理を記載し説明するために提供されている。
1.電極反応
A−はアニオン電荷キャリア、PAnは正極アニオンホスト材料、NAmは負極アニオンホスト材料である。
一次電池においては、放電反応のみが起こる。
・正極では、A−が放出される。
【化5】
・負極では、A−が閉塞される。
【化6】
したがって、電池反応全体は以下のようになる。
【化7】
充電式電池において、式(1)及び(2)は充電時には逆向きになるため、電池反応全体は以下のようになる。
【化8】
2.電解質形成反応
本発明では、正極と負極との間の電解質中に溶解A−アニオン源がいくつか含まれる。
(i)塩CqApなどの可溶性化合物;式中、Cは一価、二価、三価のカチオン又は多価カチオン(Cn+、1≦n≦6)である。たとえば、Cが一価のカチオンである場合、塩溶解平衡は以下のように記載される。
【化9】
ここで、カチオン受容体R及び/又はアニオン受容体R’を使用すると、溶解度を高めることができる。
【化10】
(ii)A−を放出する可溶性アニオンXAp−;
【化11】
場合により、カチオン受容体R及び/又はアニオン受容体R’を電解質中に提供して、A−の溶解度を高めることができる。
【0054】
[076] これらの概念の例として、LiC6負極、CFx正極及びF−導電性電解質を含む本発明のフッ化物イオン電気化学セルの放電時における半反応、電池反応及び溶解液反応を以下に提供する。
放電反応:
負極:LiC6 + F− → 6C + LiF +e− (負極は放電時にF−を収容する)
正極:CFx + xe− → C + xF− (正極は放電時にF−を放出する)
電池反応:xLiC6 + CFx → (1+6x)C + xLiF (F−は放電時に正極と負極との間を移動する)
電解質:場合により、2種類の反応によりF−の溶解を高めることができる。
LiF + yLA → Li+ + (LA)yF−、又は
LiF + zLB → Li(LB)z+ +F−
(LA=PF5、BF3、アニオン受容体などのルイス酸、LB=PF6−、BF4−、カチオン受容体、すなわち、クラウンエーテルなどのルイス塩基)。
【0055】
[077] 本発明のアニオン性電気化学セルをさらに説明し記載するために、以下の議論では、本発明の系を従来のリチウムイオン電池技術と比較する。典型的なリチウムイオン電池(LIB)は、3つの基本要素:(1)炭素をベースとする負極(アノード)、(2)リチウムカチオン(Li+)伝導性電解質及び(3)遷移金属酸化物正極(カソード)(たとえば、LiCoO2)を備える。リチウムカチオン(Li+)はこれらの系における電荷キャリアであり、これらの電気化学セルは、電極間の電子移動に呼応して正極及び負極で同時に起こる挿入及び脱挿入(de-insertion)反応により動作する。リチウムイオン電池の充電及び放電時には、Li+イオンが負極と正極との間を往復する。これらの電池の可逆的二重インターカレーション機構(dual intercalation mechanism)により、用語「ロッキングチェア」又は「シャトルコック」電池が生まれる。
【0056】
[078] 図1Aは、充電時のリチウムイオン電池を示す概略図を提供する。充電時、リチウムイオンが正極(すなわち、図1Aでカソードと表されている)から放出され、電解質を通って移動し、負極(すなわち、図1Aでアノードと表されている)によって収容される。図1Aに示すように、充電時における電子の流れの方向は、正極から負極である。図1Bは、放電時のリチウムイオン電池を示す概略図を提供する。放電時、リチウムイオンが負極(すなわち、図1Bでアノードと表されている)から放出され、電解質を通って移動し、正極(すなわち、図1Bでカソードと表されている)によって収容される。図1Bに示すように、充電時における電子の流れの方向は、負極から正極である。
【0057】
[079] 図2は、異なる負極及び正極材料の平均作用電位、並びに従来のリチウムイオン電池についての電池電圧を示す概略図を提供する。電気化学セルの平均動作電圧は、一部には、負極と正極とにおけるLi+イオンの化学電位の差から生じる。図2に示す例では、LixC6とLixCoO2との電極電位の差が約4Vである。この例についてのLIB電池拡張反応は、以下のようになる。
【化12】
この例のLIB系の理論的エネルギー密度は、以下のように計算することができる。
【数1】
【0058】
[080] 本発明の電気化学セルにおいて、電荷キャリアは負に荷電したアニオンである。たとえば、フッ化物イオン電気化学セルにおいては、アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−1)である。リチウムイオン電池と同様に、本発明のフッ化物イオン電気化学セルは、電極間の電子移動に呼応して正極及び負極で同時に起こるフッ化物イオン挿入及び脱挿入反応により動作する。フッ化物イオン電気化学セルの充電及び放電時に、F−イオンは負極と正極との間を往復する。
【0059】
[081] 図3Aは、放電時のフッ化物イオン電気化学セルを示す概略図を提供する。放電時、フッ化物アニオンが正極(すなわち、図3Aでカソードと表されている)から放出され、電解質を通って移動し、負極(すなわち、図3Aでアノードと表されている)によって収容される。図3Aに示すように、放電時における電子の流れの方向は、負極から正極である。フッ化物イオン電気化学セルの充電時、フッ化物アニオンが負極から放出され、電解質を通って移動し、正極によって収容される。充電時における電子の流れの方向は、正極から負極である。放電及び充電時のフッ化物イオンの放出及び収容は、電極で起こる酸化及び還元反応によって生じる。
【0060】
[082] リチウムイオン電池に関する上記説明と同様に、フッ化物イオン電気化学セルにおける開回路電圧は、少なくとも一部には、負極と正極とにおけるフッ化物イオンの化学電位の差により生じる。正極及び負極は、それぞれ高電圧フッ化物及び低電圧フッ化物であり、電解質とF−を可逆的に交換することが可能である。正極及び負極はたとえば以下のようになる。
正極:CFx、AgF2−x、CuF3−x、NiF3−x、・・・
負極:LaF3−x、CaF2−x、AlF3−x、EuF3−x、・・・
【0061】
[083] 図3Bは、LaF3−x負極と、CFx正極と、有機電解質液に設けられる、式中MがKやRbなどの金属であるMFを含む電解質とに対応する一実施形態例についての平均作用電位を示す概略図を提供する。この例について、関連するパラメータ、半反応、電池反応を以下にまとめる。
負極:LaF3
正極:CFy
電解質:有機電解質中のMF(M=K、Rb、・・・)
電極反応:
負極:
【化13】
正極:
【化14】
電池反応:
【化15】
【0062】
[084] 図3Bに示すように、この例についての電極電位の差は約4.5Vである。理論的電池電圧はLa3+/La及びCFx/F−のレドックス対を考慮に入れ、充電終了時の開回路電圧OCVが約4.5Vであると見込まれる。この開回路電圧OCVは、従来のリチウムイオン電池の開回路電圧よりも大きい(上記計算を参照のこと)。このフッ化物イオン電池(FIB)系の例についての理論的エネルギー密度は、以下のように計算することができる。
FIBエネルギー密度:
電池反応(3)により、x=1、y=0である場合;
【化16】
理論的エネルギー密度は以下のようになる。
【数2】
この計算により、上述のフッ化物イオン電気化学セルの例及びリチウムイオン電池の例についての理論的エネルギー密度の比が3:7に等しいことがわかる。
【数3】
【0063】
[085] 表1は、上述のリチウムイオン電池及びフッ化物イオン電気化学セルの性能属性及び組成の比較を示す。本発明のフッ化物イオン電池(FIB)の利点には、(i)フッ化物イオン電気化学セルの安全性の向上、(ii)フッ化物イオン電気化学セルのより高い動作電圧、(iii)フッ化物イオン電気化学セルにおけるより大きいエネルギー密度、及び(iv)フッ化物イオン電気化学セルのより低いコスト、が含まれる。
【表1】
【0064】
[086] フッ化物イオン電池(FIBs)は、アノード及びカソード反応がフッ化物アニオンF−の収容及び放出を伴う純粋なアニオン型電池である。FIBsは、電極反応の可逆性に応じて一次電池であっても充電式電池であってもよい。しかしながら、一次FIBsも充電式FIBsも共に、F−アニオン導電性電解質を必要とする。フッ化物イオン電池は、2つのクラスにさらに分類することができる。
【0065】
[087] 第一のクラスでは、正極も負極も共にフッ化物アニオンを含む。LaF3アノード及びCFxカソードを有するフッ化物イオン電気化学セルがこの第一のクラスの例である。この(LaF3/CFx)系についての電極半反応及び電池反応は、以下のようになる。
LaF3アノード:
LaF3 + 3ye− → LaF3(1−y) + 3yF− (充電)
CFxカソード:
CFx + xe− → C + xF− (放電)
電池反応:
xLaF3 + 3yC → xLaF3(1−y) + 3yCFx (充電)
xLaF3(1−y) + 3yCFx → xLaF3 + 3yC
フッ化物イオン電気化学セルのこの第一のクラスの他の例には、(アノード/カソード)対:(LaF3/AgFx)、(LaF3/NiFx)、(EuF3/CFx)、(EuF3/CuFx)が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
[088] 第二のクラスでは、一方の電極のみがフッ化物アニオンを含む。LiC6アノード及びCFxカソードを有するフッ化物イオン電気化学セルが、この第二のクラスの例である。この(LiC6/CFx)系についての電極半反応及び電池反応は、以下のようになる。
LiC6アノード:
LiC6 + F− → 6C + LiF + e− (放電)
CFxカソード:
CFx + xe− → C + xF− (放電)
電池反応:
xLiC6 + CFx → (6x+1)C + xLiF (放電)
(6x+1)C + xLiF → xLiC6 + CFx (充電)
フッ化物イオン電気化学セルのこの第一のクラスの他の例には、(アノード/カソード)対:(LiC6/AgFx)、(LiC6/NiFx)、(LixSi/CFx)及び(LixSi/CuFx)が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
[089] 本発明の態様について、以下の実施例でさらに記載し説明する。
実施例1:Li/CFxハーフセル(half cell)構成を有するフッ化物イオン二次電気化学セル
1.a.序論
【0068】
[090] 本発明のフッ化物イオン電気化学セルの利点を実証するために、CFx正極及び金属リチウム負極を備える電池を構成し、電気化学的性能に関して評価した。ここに示す結果は、フッ化物イオン電気化学セルが室温における合理的な充電−放電率下で有用な充電可能容量を示すことを実証している。
1.b.実験
【0069】
[091] 2種類のフッ化炭素CFx;1)コークスに基づく化学量論の(市販の)CF1、並びに2)黒鉛及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)に基づく部分フッ素化CFx(x<1)を合成し、本実施例におけるリチウム電池の正極として使用した。フッ化炭素は、下記反応に従ってコークス黒鉛又はMWNT炭素粉末の高温フッ素化により得られる。
C(s) + x/2F2(g) → CFx(s) (s=固体及びg=気体)
CFxと称される、数種類の完全にフッ素化された炭素及び部分フッ素化された炭素を、正極用の活物質として使用するために本実施例において調査した。
(1)市販のCFx(式中x=1.0):この部分フッ素化炭素質材料は、米国ニューヨークのLodestar社から得た。この材料は、完全にフッ素化されたコークス材料であるそれら部分フッ素化炭素質材料のPC10製品に対応する。この部分フッ素化炭素質材料は、図面中で、また本実施例を通して「市販の」、「市販のCFx」及び「CFx(x=1)」と同義に称される。
(2)合成黒鉛のフッ素化によって合成された部分フッ素化炭素(式中x=0.530、0.674であるCFx):この部分フッ素化材料は、スイスのTimcal社によって製造されている合成黒鉛の部分的フッ素化により合成した。これらの部分フッ素化黒鉛材料は、図面中で、また本実施例を通して「KS15」と称される。これらの材料の組成は、炭素に対するフッ素の原子比率(すなわち、式CFx中の変数x)を参照することによってさらに特徴付けられる。
(3)マルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)のフッ素化によって合成された部分フッ素化炭素(式中x=0.21、0.59、0.76、0.82であるCFx):この部分フッ素化材料は、米国アリゾナ州トゥーソンのMERから得られるMWNTSの部分的フッ素化により合成した。この部分フッ素化材料は、図面中で、また本実施例を通して「カーボンナノファイバー」、「MWNT」及び「マルチウォールカーボンナノチューブ」と同義に称される。これらの部分フッ素化炭素質材料の組成は、炭素に対するフッ素の原子比率(すなわち、式CFx中の変数x)を参照することによってさらに特徴付けられる。
【0070】
[092] 正極は、選択されたCFx材料に、アセチレンブラック黒鉛(ABG)と、結合剤としてのPVDFとを添加して構成され、百分率はそれぞれ75wt%、10wt%及び15wt%であった。これら3つの材料を、ジブチルフタレートDBP(20wt%)を有するアセトン溶液中で混ぜ合わせた。次いでこの溶液を蒸発させ、最後に、CFx正極の薄膜を得た(厚さ100〜120μm)。この膜を直径(15.2mm)に合わせて切断し、メタノール中で洗浄し、真空中で一晩かけて80℃で乾燥させた。電極重量は10〜20mgである。コイン型のLi/CFx試験電池の構造:Li/PC−DME−LiBF4/CFxの2016個のコイン電池(セパレータ:Sanyo Celgard、直径(19mm)、厚さ(25μm)、強く、電気抵抗率が低く、気孔率が高い(55%))
1.c.実験結果
【0071】
[093] 図4は、フッ化炭素の結晶構造を提供する。図5は、市販のCF1と様々な部分フッ素化炭素質材料とを含む様々な評価する正極電極材料によるX線回折パターン(CuKα線)を提供する。様々な部分フッ素化カーボンナノファイバー試料(すなわち、MWNTs、x=0.210、0.590、0.760及び0.820であるCFx)、様々な部分フッ素化KS15黒鉛試料(すなわち、x=0.53及び0.647であるCFx)、並びに市販のCF1試料(すなわち、x=1であるCFx)についての回折パターンを、図5に示す。
【0072】
[094] 電気化学的方法によっても、様々なフッ素化炭素活物質を特徴付けた。これらの実験においては、循環クロノポテンショメトリ(定電流)を使用して、電池の放電及び充電を追跡する。適用電流は、理論容量から計算される。したがって、異なる固定したC/n比率(C/10〜1C)について、電流Iを決定することができる。
【数4】
mCFx=活性材料の質量(g)、Qth=理論容量(mAh/g)
注:Qthは、最初の放電時にはCFxのmAh/gで表され、サイクル時にはCのmAh/gで表される。
【0073】
[095] これらの測定において、最初の放電及びその後に続くサイクル反応は以下のとおりであった。
最初の放電:
CFx + Li+ + xe− → C + xLiF(3.2V〜1.5V対Li)
サイクル反応:
【化17】
(1.5V〜最大4.8V対Li)(A−=アニオン=F−)
【0074】
[096] 図6〜図12は、複数の正極炭素質活物質についての最初の放電曲線を提供する。図6は、C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温における市販のCF1正極についての放電プロファイルを提供する。図7は、C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.530KS15正極についての放電プロファイルを提供する。図8は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.647KS15正極についての放電プロファイルを提供する。図9は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.21カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。図10は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.59カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。図11は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.76カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。図12は、C/20〜4Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.82カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。観測されたこれらの放電プロファイルは、下記第一の放電電池反応と一致する。
CFx + Li+ + xe− → C + xLiF (3.2V−1.5V対Li)
【0075】
[097] 図13〜図15は、いくつかの正極炭素質活物質についてのサイクル試験を示すプロットを提供する。図13は、電圧範囲1.5V〜4.6VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを提供する。電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。図14は、電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを提供する。電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。図15は、電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF1正極についての充電−放電プロファイルを提供する。電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。これらの図は、試験した正極材料、特にCFx、x=0.82、MWNT(図13及び図14を参照のこと)が安定したサイクル容量を循環させ示す能力があることを示している。図16は、4.6V及び4.8VにおけるCFx、x=0.82、MWNT正極を有するLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対時間(時間)のプロットを提供する。4.6Vから4.8Vへの充電電圧の増加に対応する放電容量の0.25%増加が観測される。図17は、4.8V〜5.4Vの範囲に及ぶ電圧におけるCF0.647KS15正極を有するLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対相対容量(%)のプロットを提供する。図17に示すように、CF0.647KS15正極の容量は、4.8V〜5.4Vの範囲にわたって充電カットオフ電圧が高くなるにつれて増大した。図16及び図17は、試験したCFx材料についての充電電圧の上昇から生じる放電容量の測定可能な増加を示す。図13〜図17に示す観測された充電−放電プロファイルは、
【化18】
(1.5V〜最大4.8V対Li)(A−=アニオン=F−)のサイクル電池反応と一致し、Li+がサイクル反応に関与していないことを実証している。
【0076】
[098] 図18は、市販のCF1、部分フッ素化KS15黒鉛(CFx、x=0.53&0.647)並びに部分フッ素化MWNT(CFx、x=0.21、0.59、0.76及び0.82)を含めた、評価した様々な正極材料についてのサイクル数に対する放電容量(mAh/g−C)のサイクル容量曲線を提供する。これらの測定についての充電電圧は、4.8Vの充電電圧に対応する一番上のプロット(点鎖線)と、活物質がCFx、x=0.82である部分フッ素化MWNTを含む正極を除いて4.6Vであった。図16及び図17に示す充電−放電プロファイルと同様に、充電電圧を4.6Vから4.8Vへ上昇させると、CFx、x=0.82である部分フッ素化MWNTについて放電容量の著しい増加が観測される。
【0077】
[099] 図18に示すように、市販のCF1正極活物質を有する電池構成は、最初の放電時にCF1の構造的完全性(structural integrity)の大幅な劣化が生じる可能性が最も高いために、あまり優れたサイクルを示さない。この正極活物質の気孔率が、フッ化物イオンとリチウムイオンとの間の反応によって始まる剥離によって生じることがある正極活物質の劣化の一因となった可能性が高い。対照的に、調査した部分フッ素化炭素質材料(たとえば、黒鉛、MWNT)は、非常に優れたサイクル性能を示す。これは、市販のCFx、x=1と比較して、これらの材料のフッ素量がより少なく気孔率が低いためである可能性が高い。部分フッ素化MWNTは、その機械的完全性(mechanical integrity)が黒鉛及び市販のCF1と比較してより優れている可能性が高いため、最良のサイクル性能をもたらすことに留意することが重要である。
【0078】
[0100] 図18に示すデータは、正極がCFx、x=0.82である部分フッ素化MWNTを含む活物質を有するLi/CFx半電池構造において120mAh/g−Cの再充電可能容量が実現され、4.8Vまで2Cレートで充電されたことを実証している。比較のために、図20は、LiMn2O4正極についての放電率能力のプロットを提供する。これらの測定値は、マルチウォールカーボンナノチューブで作製された部分フッ素化CFx材料がリチウム充電式電池における正極としての市販のLiMn2O4よりも性能が優れていることを示している。
【0079】
[0101] 図19は、4.6V〜4.8Vに等しい電圧におけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての放電サイクル対サイクル数のプロットを提供する。これらのプロットにおいて、放電容量(y軸、mAh/g−C)は、任意単位のサイクル数に対するプロットである。図19は、少なくとも約50サイクルの間、この正極活物質について安定な放電特性が観測されることを示している。
【0080】
[0102] フッ化物イオンが電極における酸化及び還元反応に関与していたことを確認するために、異なる実験条件下で正極のX線回折パターンを取得した。図21Aは、X線回折パターンを取った2つの時点(1)及び(2)を示す放電電圧対時間のプロットを提供する。未使用の正極についてもX線回折パターンを得た。薄い黒鉛電極を使用した(厚さ50ミクロンで3〜4mg)。図21Bは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを示す。図21Cは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを倍尺で示す。
【0081】
[0103] 5.2Vまでの充電及びその後に続く3.2Vまでの放電に対応する図21B及び図21Cの回折パターンは、層間フッ化物イオン(段階2及び段階3の混合物)の段階形成を示す。特に、(002)−2、(003)−3及び(004)−3ピークの出現は、充電及び放電時には層間フッ化物アニオンが存在することを示している。未使用の正極と、5.2Vの正極と、3.2Vの正極とに対応する回折パターンの比較によって示されるように、黒鉛相が5.2Vまで充電すると完全に消失し、3.2Vまで放電すると再び現れる。3.2Vに対応する回折パターン中に存在するC(002)の黒鉛ピークは、フッ化物イオンのデインターカレーション(de−intercalation)時に黒鉛が存在することを示す。さらに、3.2Vの回折パターンにおけるC(002)の黒鉛ピークの鋭いピーク幅は、充電及び放電時に黒鉛がその構造的完全性を維持していることを示している。この結果は、フッ化物イオンのインターカレーション及びデインターカレーションプロセスが可逆的で、結晶性黒鉛から非晶質炭素相への相変化がないことを実証している。これらの結果は、下記サイクル電池反応と一致し、
【化19】
(1.5V〜最大4.8V対Li)(A−=アニオン=F−)、
Li+がサイクル反応に関与していないさらなる証拠を提供する。
【0082】
[0104] 正極向け部分フッ素化グラファイト活物質の組成をさらに特徴付けるために、5.2Vまでの電気化学セルの充電に対応する条件について電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を取得した。EELSは、試料中の元素の存在に対して非常に敏感で、材料中の元素を非常に正確に同定することができるため、材料の元素組成を特徴付けるために有用な技法である。図22は、5.2Vまで充電した正極活物質のEELSスペクトルを提供する。図22にはピークが2つだけ示されているが、これらのピークは共に、正極活材料中のフッ素の存在に割り当てることができる。BやPなど他の非炭素元素に対応するピークは存在しない。この観測は、PF6−やBF4−など電解質中の他のアニオンが挿入されなかった証拠を提供する。
1.d.結論
【0083】
[0105] 部分フッ素化炭素材料、CFxは、フッ化物アニオン充電式電池向け正極材料の優れた例である。それらは、安定なサイクル寿命、高容量、高放電電圧及び高レート能力(high rate capability)を示す。電子エネルギー損失分光法を伴うX線回折法は、電荷キャリアフッ化物アニオンが炭素マトリックスに可逆的に挿入されること、後者が黒鉛、コークス又はマルチウォールカーボンナノチューブで構成されているかどうかを示す。フッ化物アニオンインターカレーションの、LixC6負極へのリチウムカチオンインターカレーションとの類似性を引き出すステージング(staging)が生じる。フッ化物アニオン貯蔵容量が、充電カットオフ電圧と共に4.5Vと5.5Vとの間で約150%増大する。
実施例2:フッ化物イオン電気化学セル向けアニオン及びカチオン受容体
【0084】
[0106] この実施例は、本発明において有用なアニオン及びカチオン受容体の概要を提供する。フッ化物塩の溶解度を高めることができ、また本発明の電気化学セルにおける電解質のイオン伝導率を高めることができる複数のフッ化物イオン受容体を具体的に例示する。
【0085】
[0107] 一実施形態において、本発明の電解質は、下記化学構造AR1を有するアニオン受容体を含む。
【化20】
式中、R1、R2及びR3は独立に、F、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、芳香族、エーテル又はチオエーテルを含めた1つ又は複数のハロゲンで場合により置換された、アルキル基、芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、複素環基、アリール基又はヘテロアリール基からなる群から選択される。
【0086】
[0108] 一実施形態において、本発明の電解質は、下記化学構造AR2を有する、ボラートをベースとするアニオン受容体化合物を含む。
【化21】
式中、R4、R5及びR6は、F、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、芳香族、エーテル又はチオエーテルを含めた1つ又は複数のハロゲンで場合により置換された、アルキル基、芳香族基、複素環基、アリール基又はヘテロアリール基からなる群から選択される。一実施形態においては、R4、R5及びR6が同一である。一実施形態においては、R4、R5及びR6がそれぞれFを有する部分である。
【0087】
[0109] 一実施形態において、本発明の電解質は、下記化学構造AR3を有する、フェニルボロンをベースとするアニオン受容体化合物を含む。
【化22】
式中、R7及びR8は、F、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、芳香族、エーテル又はチオエーテルを含めた1つ又は複数のハロゲンで場合により置換された、アルキル基、芳香族基、複素環基、アリール基又はヘテロアリール基からなる群から選択される。一実施形態においては、R7及びR8が同一である。一実施形態においては、R7及びR8がそれぞれFを有する部分である。一実施形態においては、R7及びR8が一緒に、下記化学式AR4によって示されるように、Fである置換基及びそれら自体がFを有する部分である置換基を含めた、場合により置換されたフェニルを含めた芳香族から選択される。
【化23】
式中、XA及びXBは、Fを含めたハロゲン類、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、エーテル又はチオエーテルからなる群から独立に選択される1つ又は複数の水素、或いは非水素の環置換基を示す。一実施形態においては、これらの置換基の少なくとも1つがFを有する部分である。
【0088】
[0110] 一実施形態においては、本発明の電解質が、下記化学構造AR5を有するトリス(ヘキサフルオロイソプロピル)ボラート(THFIB;MW=511.9AMU)アニオン受容体、
【化24】
又は下記化学構造AR6を有するトリス(2,2,2−トリフルオロエチル)ボラート(TTFEB;MW=307.9AMU)アニオン受容体、
【化25】
又は下記化学構造AR7を有するトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFPB;MW=511.98AMU)アニオン受容体、
【化26】
又は下記構造AR8を有するビス(1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)ペンタフルオロフェニルボロナート(BHFIPFPB;MW−480.8AMU)アニオン受容体を含む。
【化27】
【0089】
[0111] 本発明の電解質において有用なアニオン受容体には、(CH3O)3B、(CF3CH2O)3B、(C3F7CH2O)3B、[(CF3)2CHO]3B、[(CF3)2C(C6H5)O]3B、((CF3)CO)3B、(C6H5O)3B、(FC6H4O)3B、(F2C6H3O)3B、(F4C6HO)3B、(C6F5O)3B、(CF3C6H4O)3B、[(CF3)2C6H3O]3B及び(C6F5)3Bからなる群から選択される式を有するアニオン受容体が含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
[0112] 本発明における有用なカチオン受容体には、クラウンエーテル類、ラリアートエーテル類、メタラクラウン(metallacrown)エーテル類、カリックスクラウン類(calixcrowns)(たとえば、カリックス(アザ)クラウン類)、テトラチアフルバレンクラウン類、カリックスアレン類、カリックス[4]アレンジキノン類、テトラチアフルバレン類、ビス(カリックスクラウン)テトラチアフルバレン類、及びこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
[0113] 以下の文献には、本発明の諸実施形態において有用なアニオン及び/又はカチオン受容体について記載されており、これらの文献は本開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書中に援用される。(1)Evidence for Cryptand−like Behavior in Bibracchial Lariat Ether(BiBLE) Complexes Obtained from X−ray Crystallography and Solution Thermodynamic Studies,Kristin A.Amold,Luis echeogoyen,Frank R.Fronczek,Richard D.Grandour,Vinicent J.Gatto,Banita D.White,George W.Gokel,J.Am.Chem.Soc.,109:3716−3721,1987;(2)Bis(calixcrown)tetrathiafulvalene Receptors.Maria−Jesus Blesa,Bang−Tun Zhao,Magali Allain,Franck Le Derf,Marc Salle,Chem.Eur.J.12:1906−1914,2006;(3)Studies on Calix(aza)crowns,II.Synthesis of Novel Proximal Doubly Bridged Calix[4]arenes by Intramolecular ring Closure of syn 1,3− and 1,2− to ω−Chloraolkylamides,Istavan Bitter,Alajos Grun,Gabor Toth,Barbara Balazs,Gyula Horvath,Laszlo Toke,Tegrahedron 54:3857−3870,1998;(4)Tetrathiafulvalene Crowns:Redox Switchable Ligands,Franck Le Derf,Miloud Mazari,Nicolas Mercier,Eric Levillain,Gaelle Trippe,Amedee Riou,Pascal Richomme,Jan Becher,Javier Garin,Jesus Orduna,Nuria Gallego−Planas,Alain Gorgues,Marc Salle,Chem.Eur.J.7,2:447−455,2001;(5)Electrochemical Behavior of Calix[4]arenediquinones and Their Cation Binding Properties,Taek Dong Chung,Dongsuk Choi,Sun Kil Kang,Sang Swon Lee,Suk−Kyu Chang,Hasuck Kim,Journal of Electroanalytical Chemistry,396:431−439,1995;(6)Experimental Evidence for Alkali Metal Cation−π Interactions,George W.Gokel,Stephen L.De Wall,Eric S.Meadows,Eur.J.Chem,2967−2978,2000;(7)π−Electron Properties of Large Condensed Polyaromatic Hydrocarbons,S.E.Stein,R.L.Brown,J.Am.Chem.Soc.,109:3721−3729,1987;(8)Self−Assembled Organometallic[12]Metallacrown−3 Complexes,Holger Piotrowski,Gerhard Hilt,Axel Schulz,Peter Mayer,Kurt Polborn,Kay Severin,Chem.Eur.J.,7,15:3197−3207,2001;(9)First− and Second−sphere Coordination Chemistry of Alkali Metal Crown Ether Complexes,Jonathan W.Steed,Coordination Chemistry Reviews 215:171−221,2001;(10)Alkali metal ion complexes of functionalized calixarenes−competition between pendent arm and anion bond to sodium;R.Abidi,L.Baklouti,J.Harrowfield,A.Sobolev;J.Vicens,and A.White,Org.Biomol.Chem,2003,1,3144−3146;(11)Transition Metal and Organometallic Anion Complexation Agents,Paul D.Beer,Elizabeth J.Hayes,Coordination Chemistry Review,240:167−189,2003;(12)Versatile Self−Complexing Compounds Based on Covalently Linked Donor−Acceptor Cyclophanes,Yi Liu,Amar H.Flood,Ross M.Moskowitz,J.Fraser Stoddart,Chem.Eur.J.11:369−385,2005;(13)Study of Interactions of Various Ionic Species with Solvents Toward the Design of Receptors,N.Jiten singh,Adriana C.Olleta,Anupriya Kumar,Mina Park,Hai−Bo Yi,Indrajit Bandyopadhyay,Han Myoung Lee,P.Tarakeshwar,Kwang S.Kim,Theor.Chem.Acc.115:127−135,2006;(14)A Calixarene−amide−tetrathiafulvalene Assembly for the Electrochemical Detection of Anions,Bang−Tun Zhao,Maria−Jesus Blesa,Nicolas Mercier,Franck Le Derf,Mark Salle,New J.Chem.29:1164−1167,2005。
【0092】
[参照による援用及びバリエーションに関する陳述]
[0114] 本願を通してすべての文献が、たとえば、発行又は登録された特許又は均等物、特許出願公報、並びに非特許文献又は他の原資料を含む特許文献が、各文献が本願の開示と少なくとも部分的には矛盾しない範囲で、あたかも参照により個別に援用されているかのように、参照によりそれら全体が本明細書中に援用される(たとえば、部分的に矛盾している文献は、この文献の部分的に矛盾している部分を除いて参照により援用される)。
【0093】
[0115] 本明細書中で採用されている用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、このような用語及び表現を使用する際に、示され説明されている特徴又はその一部の均等物を除外する意図はなく、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内で様々な変更形態が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい諸実施形態、例示的な諸実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に説明してきたが、本明細書中に開示されている概念の改良及びバリエーションを当業者が用いることができること、またこのような改良及びバリエーションは添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲内にあると見なされることを理解されたい。本明細書中に提供されている特定の諸実施形態は、本発明の有用な諸実施形態の例であり、本説明に記載されているデバイス、デバイス構成要素、方法ステップの多くの変形形態を用いて本発明を実施することができることが当業者には明らかであろう。当業者には明らかなように、本発明の方法に有用な方法及びデバイスには、多くの任意選択の組成物及び加工要素並びにステップを含めることができる。
【0094】
[0116] 本明細書中に置換基群が開示されている場合、群の要素の任意の異性体、エナンチオマー及びジアステレオマーを含め、その群及びすべての部分群のすべての個々の要素が別個に開示されているものと理解される。本明細書中でマーカッシュ群又は他の分類が使用されている場合、その群のすべての個々の要素、並びにその群の可能な組合せ及び下位の組合せのすべてが、本開示に個々に含まれるものとする。ある化合物が、その化合物の特定の異性体、エナンチオマー又はジアステレオマーを、たとえば、式で又は化学名で明記しないように本明細書中に記載されている場合、その記載は、記載されている化合物の各異性体及びエナンチオマーを個々に又は任意の組合せで含むものとする。加えて、他に特に規定がなければ、本明細書中に開示されている化合物のすべての同位体変異形が、本開示に包含されるものとする。たとえば、開示されている分子中の任意の1つ又は複数の水素を、重水素又は三重水素で置き換えることができることが理解されよう。分子の同位体変異形は通常、その分子についての検定における基準として、またその分子又はその分子の使用に関連する化学的及び生物学的研究において有用である。このような同位体変異形を製造するための方法は、当技術分野で公知である。化合物の具体的な名称は例示的なものであることを意図している。というのは、当業者が同じ化合物に異なる名称を付けることができるからである。
【0095】
[0117] 本明細書中に開示されている分子の多くは、1種又は複数種のイオン性基[そこからプロトンを取り除く(たとえば、−COON)又はプロトンを付加する(たとえば、アミン類)ことができる或いは四級化する(たとえば、アミン類)ことができる基]を含む。このような分子の可能なすべてのイオン型及びその塩が、本明細書中の開示に個々に含まれるものとする。本明細書中の化合物の塩に関しては、所与の用途のための本発明の塩の調製に適している様々な利用可能な対イオンの中から当業者が選択することができる。具体的な用途においては、塩の調製のための所与のアニオン又はカチオンの選択により、その塩の溶解度を増大又は減少させることができる。
【0096】
[0118] 本明細書中に記載又は例示されている成分のすべての調合又は組合せを、特に明記しない限り、本発明を実施するために使用することができる。
【0097】
[0119] ある範囲、たとえば、温度範囲、時間範囲、又は組成若しくは濃度範囲が本明細書中に与えられている場合、すべての中間範囲及び部分的範囲、並びに与えられている範囲内に含まれるすべての個々の値が本開示に含まれるものとする。本明細書中の記載に含まれるある範囲又は部分的範囲内の任意の部分的範囲又は個々の値を、添付の特許請求の範囲から除外することができることが理解されよう。
【0098】
[0120] 本明細書中に言及されている特許及び公報はすべて、本発明に関係する当業者の技術レベルを示す。本明細書中で引用されている文献は、それらの公開日又は出願日時点における最先端技術を示すために、参照によりそれら全体が本明細書中に援用され、この情報は、従来技術にある特定の諸実施形態を除外するために必要に応じて本明細書中で採用することができるものとする。たとえば、当該組成物が特許請求の範囲に記載されている場合、本明細書中で引用されている文献に実施可能な程度の開示が提供されている化合物を含め、出願人の発明よりも前に当技術分野で公知且つ入手可能な化合物は、添付の特許請求の範囲の当該組成物には含まれないものとすることを理解されたい。
【0099】
[0121] 本明細書中で使用される「comprising(含む)」は、「including」、「containing」又は「characterized by」と同義で、また包括的又は非限定的であり、追加の記載されていない要素又は方法ステップを排除しない。本明細書中で使用される「consisting of(からなる)」は、請求項の要素に規定されていないいかなる要素、ステップ又は成分も除外する。本明細書中で使用される「consisting essentially of(から本質的になる)」は、請求項の基本的な新規の特徴に実質的には影響を及ぼさない材料又はステップについては除外しない。本明細書中の各例においては、用語「comprising(含む)」、「consisting essentially of(から本質的になる)」及び「consisting of(からなる)」のいずれかを、他の2つの用語のうちの一方と置き換えることができる。本明細書中に適切に事例的に記載されている本発明は、本明細書中に具体的に開示されていない任意の1つ又は複数の要素、すなわち1つ又は複数の限定なしでも実施することができる。
【0100】
[0122] 本発明の実施に際して、具体的に例示されているモノ以外の出発材料、生物学的材料、試薬、合成方法、精製方法、分析方法、検定方法、生物学的方法を、過度の実験なしに採用することができることが当業者には理解されよう。任意のこのような材料及び方法の、当技術分野で公知の機能的均等物のすべてが本発明に含まれるものとする。採用されている用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、このような用語及び表現を使用する際に、示され説明されている特徴又はその一部の均等物を除外する意図はなく、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内で様々な変更形態が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい諸実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に説明してきたが、本明細書中に開示されている概念の改良及びバリエーションを当業者が用いることができること、またこのような改良及びバリエーションは添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲内にあると見なされることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】[035] 図1Aは、充電時のリチウムイオン電池を示す概略図であり、図1Bは、放電時のリチウムイオン電池を示す概略図である。
【図2】[036] 異なる負極及び正極材料の平均作用電位、並びに従来のリチウムイオン電池についての電池電圧を示す概略図である。
【図3A】[037] 図3Aは、放電時の本発明のフッ化物イオン電池(FIB)を示す概略図である。
【図3B】図3Bは、LaF3−x負極と、CFx正極と、有機電解質中に設けられる式中MがKやRbなどの金属であるMFを含む電解質とに対応する一実施形態例についての平均作用電位を示す概略図である。
【図4】[038] フッ化炭素の結晶構造を提供する図である。
【図5】[039] 評価する様々な正極電極材料によるX線回折パターン(CuKα線)を提供する図であり、カーボンナノファイバー、KS15及び市販のCF1についての回折パターンを示す。
【図6】[040] C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF1正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図7】[041] C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.530KS15正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図8】[042] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.647KS15正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図9】[043] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.21カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図10】[044] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.59カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図11】[045] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.76カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図12】[046] C/20〜4Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.82カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図13】[047] 電圧範囲1.5V〜4.6VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを示す図であり、電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。
【図14】[048] 電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを示す図であり、電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。
【図15】[049] 電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF1正極についての充電−放電プロファイルを示す図であり、電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。
【図16】[050] 4.6V及び4.8VにおけるLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対時間(時間)のプロットを示す図であり、4.8Vで放電容量の0.25%増加が観測される。
【図17】[051] 4.8V〜5.4Vの範囲に及ぶ電圧におけるCF0.647KS15正極を有するLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対相対容量(%)のプロットを示す図であり、示すように、CF0.647KS15正極の容量は、4.8V〜5.4Vの範囲にわたって充電カットオフ電圧が高くなるにつれて増大した。
【図18】[052] 評価した様々な正極材料についてのサイクル数に対する放電容量(mAh/g−C)のサイクル容量曲線を示す図であり、このデータは、Li/CFx半電池構造において120mAh/g−Cの再充電可能容量が実現され、2Cレートで4.8Vまで充電されたことを実証している。
【図19】[053] 14.6V〜4.8Vに等しい電圧におけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての放電サイクル対サイクル数のプロットを示す図である。
【図20】[054] LiMn2O4正極についての放電率能力のプロットを示す図である。
【図21】[055] 図21Aは、X線回折パターンを取った2つの時点(1)及び(2)を示す放電電圧対時間のプロットを示す図であり、薄い黒鉛電極を使用した(厚さ50ミクロンで3〜4mg)。図21Bは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを示す図である。
【図21C】図21Cは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを倍尺で示す図である。図21B及び図21Cの回折パターンは、層間フッ化物イオン(段階2及び段階3の混合物)の段階形成を示し、図21B及び図21Cの回折パターンには、黒鉛相が5.2Vで完全に消失し、3.2Vで再び現れたことも示されている。
【図22】[056] 5.2Vまで充電した正極材料の電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を示す図であり、試料においては純粋なフッ素のみが検知され、BやPなど他の種は存在しないことにより、電解質中の他のアニオンが挿入されなかったことを示している。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[001] 本願は、2006年3月3日に出願した米国特許仮出願第60779054号明細書、2007年1月25日に出願した発明者がRachid Yazamiである「Fluoride Ion Batteries(FIB)」という題名の米国特許仮出願明細書、代理人整理番号4823−P、2007年2月21日に出願した米国特許出願第一1677541号明細書、2007年2月15日に出願した米国特許出願第一1675308号明細書、2006年11月16日に出願した米国特許出願第一1560570号明細書の優先権の利益を請求する。これらの出願はそれぞれ、本明細書中の開示と矛盾しない程度までその全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
[発明の背景]
[002] 過去20〜30年間にわたって、携帯用電子デバイス、航空機及び宇宙機技術、並びに生物医学装置を含めた様々な分野におけるこれらのシステムの性能を拡張する電気化学的貯蔵及び変換デバイスにおいては、画期的な進歩がもたらされた。現在の最先端電気化学的貯蔵及び変換デバイスは、多様な用途要件及び動作環境との適合性を提供するように特に設計されるデザイン及び性能属性を有する。たとえば、埋め込み型医療用デバイス向けの非常に低い自己放電率及び高い放電信頼性を示す高エネルギー密度電池から、幅広い携帯用電池デバイスについて長いランタイムをもたらす安価で軽量の充電式電池、短時間で極めて高い放電率を提供することができる軍事的な用途及び航空宇宙的な用途向けの高容量電池の範囲にわたる、進歩した電気化学的貯蔵システムが開発されている。
【0003】
[003] この様々な進歩した電気化学貯蔵及び変換システム一式が開発され、広く採用されているにもかかわらず、これらのシステムの機能を拡張するよう大きな圧力が研究を刺激し続け、それによりさらに広範囲のデバイス用途が可能となる。高出力携帯用電子製品に対する需要の大きな成長により、たとえば、より高いエネルギー密度を提供する安全で軽量の一次及び二次電池の開発への多大な関心が喚起されている。加えて、家庭用電化製品及び計装の分野における小型化に対する需要が、高性能電池の寸法、質量及び形状因子を低減するために新規の設計及び材料戦略の研究を刺激し続ける。さらに、電気自動車及び航空宇宙工学の分野における絶え間ない開発により、有用な範囲の動作環境において優れたデバイス性能が可能な機械的に頑強で、信頼性が高く、高エネルギー密度及び高出力密度の電池の必要性も生じている。
【0004】
[004] 電気化学貯蔵及び変換技術における多くの最近の進歩は、電池構成要素向けの新しい材料の発見及び統合に直接起因する。リチウム電池技術は、たとえば、少なくとも一部にはこれらのシステム用に新規の電極及び電解質材料が発見されることにより急速に発展し続ける。フッ素化炭素材料及びナノ構造遷移金属酸化物など、正極向けインターカレーションホスト材料の先駆的な発見及び最適化から、高性能非水電解質の開発まで、リチウム電池システムのための新規の材料戦略の実施により、それらシステムの設計及び性能に革命がもたらされた。さらに、負極向けインターカレーションホスト材料の開発により、高い容量、優れた安定性及び有用なサイクル寿命を示すリチウムイオンをベースとする二次電池が発見され商業的に実施された。これらの進歩の結果、携帯用電子システム向け一次及び二次電気化学セル(electrochemical cells)を含めた様々な重要な用途に、リチウムをベースとする電池技術が現在広く採用されている。
【0005】
[005] 市販の一次リチウム電池システムでは通常、放電時に液相又は固相電解質を介して輸送され、インターカレーションホスト材料を含む正極でインターカレーション反応を受けるリチウムイオンを生成するためにリチウム金属負極が使用される。炭素(たとえば、黒鉛、コークスなど)、金属酸化物、金属窒化物、金属リン化物など、負極用リチウムイオンインターカレーションホスト材料でリチウム金属が置き換えられた二重インターカレーションリチウムイオン二次電池も開発されている。リチウムイオンの挿入及び脱挿入(de-insertion)反応が同時に起こると、放電及び充電時にインターカレーション正極とインターカレーション負極との間でリチウムイオンが移動することが可能となる。負極向けリチウムイオンインターカレーションホスト材料を組み込むことには、リチウムの高い反応性及び非エピタキシャル堆積特性に起因する安全性の問題を再充電時に起こしやすい金属リチウムの使用が回避されるという重要な利点がある。
【0006】
[006] リチウム元素は、電気化学セルで使用するためにリチウムを魅力的にする独特な組合せの特性を有する。第一に、リチウムは、原子質量が6.94AMUである周期表中で最も軽い金属である。第二に、リチウムは、非常に低い電気化学酸化/還元電位(すなわち、−3.045V対NHE(標準水素参照電極)を有する。この独特の組合せの特性により、リチウムをベースとする電気化学セルが非常に高い比容量を有することが可能となる。リチウム電池技術についての材料戦略及び電気化学セル設計の進歩により、(i)高い電池電圧(たとえば、最大約3.8V)、(ii)ほぼ一定の(たとえば、平坦な)放電プロファイル、(iii)長い貯蔵寿命(たとえば、最大10年)及び(iv)様々な動作温度(たとえば、摂氏−20〜60度)との適合性を含めた有用なデバイス性能を提供することができる電気化学セルが実現された。これら有益な特性の結果、一次リチウム電池は、様々な携帯用電子デバイスにおいて、また電子機器、情報技術、通信、医用生体工学、センシング、軍事及び照明を含めた他の重要なデバイス用途において電源として広く使用されている。
【0007】
[007] 最先端のリチウムイオン二次電池は、優れた充電−放電特性を提供し、したがって、携帯電話や携帯用コンピュータなどの携帯用電子デバイスにおける電源としてやはり広く採用されている。米国特許第6852446号明細書、第6306540号明細書、第6489055号明細書、及びGholam−Abbas Nazri及びGianfranceo Pistoia編“Lithium Batteries Science and Technology”,Kluer Academic Publishers,2004は、リチウム及びリチウムイオン電池システムを対象とし、参照によりそれら全体が本明細書中に組み込まれる。
【0008】
[008] 上述のように、リチウム金属は、特に水及び多くの有機溶媒との反応性が極めて高く、この特質により、リチウムをベースとする二次電気化学セルにおいては負極用インターカレーションホスト材料を使用することが必要となる。この分野における相当な研究により、LiC6、LixSi、LixSn、Lix(CoSnTi)など、これらのシステム向けの様々な有用なインターカレーションホスト材料が得られている。しかしながら、負極向けのインターカレーションホスト材料を使用することにより、インターカレーション電極中へのリチウムの挿入/溶解の自由エネルギーに対応する量だけ電池電圧が必然的に低くなる。その結果、従来の最先端二重インターカレーションリチウムイオン電気化学セルは現在、約4ボルト以下の平均動作電圧を提供するにとどまっている。負極の組成についてのこの要件により、これらのシステムにおいて利用可能な比エネルギーも大幅に失われる。さらに、負極向けインターカレーションホスト材料を組み込むことにより安全性のリスクが完全に取り除かれることはない。これらのリチウムイオン電池システムの充電は、たとえば、正極が分解してしまうことがある過充電又は加熱を回避するためにかなり制御された条件下で行わなければならない。さらに、リチウムイオンが関与する望ましくない副反応がこれらのシステムにおいて起こり、その結果、安全性に対する重大な懸念に影響を及ぼす反応性金属リチウムが形成されることがある。高速又は低温での充電時に、リチウムの堆積により、セパレータを横切って成長し、電池内で内部短絡を引き起こすことがあるデンドライドが形成され、有機電解質の燃焼並びに金属リチウムの空気中の酸素及び水分との反応により、熱、圧力及び場合によっては火災が発生する。
【0009】
[009] 電気化学的貯蔵用にリチウム挿入反応を利用する二重炭素電池も開発されている。これらの電池では、適当な電解質塩の分解によって生成されるアニオン及びカチオンにより、電極中に貯蔵される電荷の源がもたらされる。これらのシステムの充電時には、リチウムイオン(Li+)など電解質のカチオンが、炭素質カチオンホスト材料を含む負極で挿入反応を受け、PF6−など電解質のアニオンが、炭素質アニオンホスト材料を含む正極で挿入反応を受ける。放電時には、挿入反応は反転し、その結果、正極及び負極からカチオン及びアニオンがそれぞれ放出される。しかしながら、最先端の二重炭素電池は、これらのシステムにおいて得られる塩の濃度が実質的に制限されるため、リチウムイオン電池によってもたらされるエネルギー密度ほど大きなエネルギー密度をもたらすことはできない。加えて、一部の二重炭素電池は、PF6−などの多原子アニオン電荷キャリアの挿入及び脱挿入によって付与される圧力により、サイクル後に容量の大幅な損失を受けやすい。さらに、二重炭素電池は、達成可能な放電率及び充電率に関して制限され、またこれらのシステムの多くにおいて、リチウム塩を含む電解質が利用されるが、リチウム塩は、一部の動作条件下で安全性の問題を引き起こすことがある。二重炭素電池については、米国特許第4830938号明細書、第4865931号明細書、第5518836号明細書及び第5532083号明細書に、また“Energy and Capacity Projections for Practical Dual−Graphite Cells”,J.R.Dahn and J.A.Seel,Journal of the Electrochemical Society,147(3)899−901(2000)に記載されている。これらの文献は、本開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書中に援用される。
【0010】
[010] 電池は、正極(放電時のカソード)と、負極(放電時のアノード)と、電解質とで構成される。電解質は、電荷キャリアであるイオン種を含む。電池における電解質は、いくつかの異なるタイプ、(1)純粋なカチオン伝導体(たとえば、ベータアルミナはNa+のみで伝導する)、(2)純粋なアニオン伝導体(たとえば、O−又はO2−アニオンのみで伝導する高温セラミック)、(3)混合イオン伝導体(たとえば、一部のアルカリ電池では、OH−でもK+でも伝導するKOH水溶液が使用され、一方一部のリチウムイオン電池では、Li+でもPF6−でも伝導するLiPF6の有機溶液が使用される)であってよい。充電及び放電時には、電極が電解質とイオンを交換し、外部回路(負荷又は充電器)と電子を交換する。
【0011】
[011] 2種類の電極反応がある。
1.カチオンをベースとする電極反応:これらの反応において、電極は、電解質からのカチオンY+及び外部回路からの電子を捕獲又は放出する。
電極 + Y+ + e− → 電極(Y)
カチオンをベースとする電極反応の例には、(i)リチウムイオン電池における炭素アノード:6C + Li+ + e− → LiC6(充電)、(ii)リチウムイオン電池におけるリチウムコバルト酸化物カソード:2Li0.5CoO2 + Li+ + e− → 2LiCoO2(放電)、(iii)充電式アルカリ電池におけるNi(OH)2カソード:Ni(OH)2 → NiOOH + H+ + e−(充電)、(iv)食塩水Zn/MnO2一次電池におけるMnO2:MnO2 + H+ + e− → HMnO2(放電)が含まれる。
2.アニオンをベースとする電極反応:これらの反応において、電極は、電解質からのアニオンX−及び外部回路からの電子を捕獲又は放出する。
電極 + X− → 電極(X) + e−
アニオンをベースとする電極反応の例には、(i)ニッケル−カドミウムアルカリ電池におけるカドミウムアノード:Cd(OH)2 + 2e− → Cd + 2OH−(充電)及び(ii)マグネシウム一次電池におけるマグネシウム合金アノード:Mg + 2OH− → Mg(OH)2 + 2e−(放電)が含まれる。
【0012】
[012] 既存の電池は、純粋なカチオン型又は混合イオン型の化学的性質を有する。出願人の知る限りでは、現在純粋なアニオン型の化学的性質を有する電池は知られていない。純粋なカチオン型及び混合イオン型電池の例を以下に示す。
1.純粋なカチオン型の電池:リチウムイオン電池が、純粋なカチオン型化学的性質の例である。リチウムイオン電池についての電極半反応及び電池反応は以下のとおりである。
・炭素アノード:
6C + Li+ + e− → LiC6(充電)
・リチウムコバルト酸化物カソード:
2Li0.5CoO2 + Li+ + e− → 2LiCoO2(放電)
・電池反応:
2LiCoO2 + 6C → 2Li0.5CoO2 + LiC6(電荷)
2Li0.5CoO2 + LiC6 → 2LiCoO2 + 6C(放電)
2.混合イオン型の電池:ニッケル/カドミウムアルカリ電池が、混合イオン型の電池の例である。ニッケル/カドミウムアルカリ電池についての電極半反応及び電池反応は以下のとおりである。
・Ni(OH)2カソード(カチオン型):
Ni(OH)2 → NiOOH + H+ + e−(充電)
・カドミウムアノード(アニオン型):
Cd(OH)2 + 2e− → Cd + 2OH−(充電)
・電池反応:
Cd(OH)2 + 2Ni(OH)2 → Cd + 2NiOOH + 2H2O(充電)
Cd + 2NiOOH + 2H2O → Cd(OH)2 + 2Ni(OH)2(放電)
Zn/MnO2電池が、混合イオン型の電池の例である。Zn/MnO2電池についての電極半反応及び電池反応は以下のとおりである。
・Znアノード(アニオン型):
Zn + 2OH− → ZnO + H2O + 2e−(放電)
・MnO2カソード(カチオン型)
MnO2 + H+ + e− → HMnO2(放電)
・電池反応:
Zn + 2MnO2 + H2O → ZnO + 2HMnO2(放電)
【0013】
[013] 上記から明らかなように、高性能携帯用電子機器に対する急増する需要を含めた様々な重要なデバイス用途向けの二次電気化学セルが当技術分野では必要である。具体的には、優れた安定性及び安全性を示すと同時に有用な電池電圧、比容量及びサイクル寿命を提供することができる二次電気化学セルが必要とされる。一次及び二次電池システムにおけるリチウムの使用に固有の安全性の問題を排除又は低減する、代替の挿入/インターカレーションをベースとする電気化学セルが必要である。
【0014】
[発明の概要]
[014] 本発明は、優れた電源性能、特に、高い比エネルギー、有用な放電率能力及び優れたサイクル寿命が可能な電気化学セルを提供する。本発明の電気化学セルは用途が広く、携帯用電子デバイスにおける使用を含めた様々な重要な用途に有用な一次及び二次電池を含む。本発明の電気化学セルはまた、従来の最先端一次リチウム電池及びリチウムイオン二次電池に対して向上した安全性及び安定性をも示す。たとえば、本発明の電気化学セルには、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電荷キャリアを用いる二次アニオン性電気化学セルが含まれ、これらのアニオン電荷キャリアにより、これらの系における金属リチウム又は溶解したリチウムイオンの必要性が完全に排除される。
【0015】
[015] 本発明は、根本的に新しい一次及び二次電気化学セル類を可能にする新規の活性電極材料の戦略、電解質組成及び電気化学セル設計を提供する。正極及び負極並びに高性能電解質向けのアニオン電荷キャリアホスト材料が提供される。アニオン電荷キャリアホスト材料により、従来の最先端リチウムイオン電池における比エネルギーよりも高い比エネルギーなど、有用な性能属性を実現することができる新たな電気化学セルプラットホームが可能となる。一実施形態において、たとえば、本発明は、約3.5V以上の電池電圧を示すことができる二次電気化学セルを可能にする正極及び負極向けの異なるアニオン電荷キャリアホスト材料の組合せを提供する。加えて、本発明の正極電極材料と負極電極材料との組合せにより、サイクル寿命が大きくサイクル時に優れた放電安定性を示す二次電気化学セルが可能となる。さらに、高い電池電圧におけるデバイスの性能、安定性及び安全性を改善するために重要な相乗的な性能向上を提供する水性及び非水電解質組成物が提供される。たとえば、本発明は、高い電池電圧で安定した放電率が可能な二次電池を提供するアニオン電荷キャリア活性電極ホスト材料と適合するアニオン受容体及び/又はカチオン受容体を有する高性能の電解質を提供する。
【0016】
[016] 一態様において、本発明は、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電荷キャリアを利用するアニオン性電気化学セルを提供する。本発明のこの態様には、一次電気化学セルも二次電気化学セルも共に含まれる。一実施形態において、本発明のこの態様の電気化学セルは、正極と、負極と、正極と負極との間に設けられた電解質とを備え、電解質はアニオン電荷キャリアを伝導することができる。この実施形態の正極及び負極は、電気化学セルの充電又は放電中に電解質とアニオン電荷キャリアを可逆的に交換する異なるアニオンホスト材料を含む。この説明の文脈において、用語「交換する」は、電気化学セルの充電又は放電中に酸化及び還元反応により電極でアニオン電荷キャリアを放出する又は収容することを指す。この文脈において、アニオン電荷キャリアの「収容」には、ホスト材料によるアニオン電荷キャリアの捕獲、ホスト材料へのアニオン電荷キャリアの挿入、ホスト材料へのアニオン電荷キャリアのインターカレーション、及び/又はアニオン電荷キャリアのホスト材料との化学反応が含まれる。収容には、合金形成化学反応、ホスト材料との表面化学反応及び/又はホスト材料とのバルク化学反応が含まれる。
【0017】
[017] 放電中、正極で起こる還元半反応により、正極から電解質へとアニオン電荷キャリアが放出され、負極で起こる酸化半反応により、負極がアニオン電荷キャリアを収容する。したがって、これらの実施形態において、電気化学セルの放電中、アニオン電荷キャリアが正極から放出され、電解質を通って移動し、負極によって収容される。本発明の二次電気化学セルにおける充電中にはこの速度論的プロセスが反転する。したがって、これらの実施形態における充電中、負極で起こる還元半反応によりアニオン電荷キャリアが電解質へと放出され、正極で起こる酸化半反応により、アニオン電荷キャリアが電解質から正極へと収容される。したがって、電解質を通してアニオン電荷キャリアが輸送され、また正極及び負極に接続している外部回路を通して電子が輸送されるため、電気化学セルの放電及び充電中にアニオン電荷キャリアの放出及び収容が同時に起こる。
【0018】
[018] 本発明のこの態様における電極ホスト材料、電解質及びアニオン電荷キャリアの組成及び相の選択が、有用な電気化学セル構成にアクセスするためには本発明において重要である。第一に、正極及び負極用のアニオンホスト材料並びにアニオン電荷キャリアの組成を選択することにより、少なくとも部分的には、電気化学セルの電池電圧が決定される。したがって、電池電圧が所与の用途に有用となるように、負極で十分に低い標準電極電位を提供するアニオンホスト材料を選択すること、また正極で十分に高い標準電極電位を提供するアニオンホスト材料を選択することが一部の諸実施形態では有益である。第二に、正極及び負極用のアニオンホスト材料、電解質並びにアニオン電荷キャリアの組成を選択することにより、電極における速度論が確立され、したがって電気化学セルの放電率能力が決まる。第三に、充電及び放電中に正極及び負極で基本的な構造の変化又は劣化がない電極ホスト材料、電解質及びアニオン電荷キャリアの使用が、優れたサイクル性能を示す第二電気化学セルには有益である。
【0019】
[019] この態様の一実施形態において、本発明は、フッ化物イオン(F−1)をアニオン電荷キャリアとして有するフッ化物イオン一次及び二次電気化学セルを提供する。本発明のフッ化物イオン電荷キャリアを利用する電気化学セルは、フッ化物イオン電気化学セルと称される。本発明の電気化学セルにおいてフッ化物イオン電荷キャリアを使用することにより、多くの利点がもたらされる。第一に、低原子質量(18.998AMU)、フッ素の高電子親和力(−328kJmol−1)及びフッ化物イオン(F−)の約6V(−3.03V対NHE〜+2.87V対NHE)の酸化還元電圧安定性窓(stability window)により、高電圧、高エネルギー密度及び高比容量を有する電気化学セルがもたらされる。第二に、フッ化物イオンは小さい原子半径を有し、したがって、二次電気化学セルにおけるサイクル時に電極ホスト材料の重大な劣化又は重大な構造変形を生じることがない、多くの電極ホスト材料における可逆的な挿入及び/又はインターカレーション反応に関与することができる。この特性により、サイクル寿命が大きい(たとえば、約500サイクル以上)二次フッ化物イオン電気化学セルがもたらされる。第三に、フッ化物イオンは、有用な範囲の電圧(−3.03V対NHE〜+2.87V対NHE)では電極表面における分解に対して安定で、それにより電気化学セルの性能安定性及び安全性が高まる。第四に、かなりの数のフッ化物イオンホスト材料が正極及び負極に使用可能で、これにより比容量及び電池電圧が大きい電気化学セルがもたらされる。
【0020】
[020] 一方、当業者には明らかなように、本発明には、下記を含むがそれらに限定されないフッ化物イオン以外のアニオン電荷キャリアを有する幅広いアニオン性電気化学セル構成が含まれる。
【化1】
本発明の電気化学セルにおいて有用な他のアニオン電荷キャリアには、式中nが1よりも大きい整数である式CnF2n+1BF3−1を有するアニオン電荷キャリアが含まれる。フッ化物イオン以外のアニオン電荷キャリアの使用には、放電及び充電中にアニオン電荷キャリアを収容することができ、所望の電池電圧及び比容量を提供することができる正極及び負極電極向けの適切なホスト材料を組み込むことが必要となる。一実施形態においては、アニオン電荷キャリアが、OH−及びHSO4−以外のアニオン、或いはSO42−である。
【0021】
[021] 一実施形態において、本発明のフッ化物イオン電気化学セルの電解質は、溶媒及びフッ化物塩を含み、電解質中にフッ化物イオンが発生するように、フッ化物塩は少なくとも部分的には溶解した状態で電解質中に存在する。本発明の電気化学セルにおける電解質は、式中Mが金属でnが0よりも大きい整数である式MFnを有するフッ化物塩を含む。一部の諸実施形態においては、たとえば、Mが、Na、K、Rbなどのアルカリ金属である、或いはMがMg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属である。諸実施形態においては、従来の最先端リチウム電池及びリチウムイオン電池に対して安全性及び安定性が高まるように、Mがリチウム以外の金属である。一部の諸実施形態においては、電解質中のフッ化物塩の濃度は、約0.1M〜約2.0Mの範囲から選択される。
【0022】
[022] フッ化物イオン電気化学セルを含めた本発明のアニオン性電気化学セル用の電解質には、水性電解質及び非水電解質が含まれる。アニオン性電気化学セル向けの有用な電解質組成物は、好ましくは以下の特性のうちの1つ又は複数を有する。第一に、一部の用途向け電解質は、好ましくはアニオン電荷キャリアに関して、たとえば、フッ化物イオンについて高いイオン伝導率を有する。たとえば、本発明において有用な一部の電解質は、溶媒、溶媒混合物、及び/又は0.0001Scm−1以上、0.001Scm−1以上、又は0.005Scm−1以上の、フッ化物イオンアニオン電荷キャリアなどのアニオン電荷キャリア向けの伝導率を提供する添加剤を含む。第二に、一部の諸実施形態用の電解質が、電解質中に有用な濃度でアニオン電荷キャリア源が提供されるように、フッ化物塩などの電解質塩を溶解させることができる。第三に、本発明の電解質は、好ましくは電極における分解に対して安定である。たとえば、本発明の一実施形態の電解質は、溶媒と、電解質塩と、添加剤と、約4.5V以上の正極電圧と負極電圧との差など、高い電極電圧で安定であるアニオン電荷キャリアとを含む。第四に、一部の用途にとって好ましい本発明の電解質は、難燃性など優れた安全特性を示す。
【0023】
[023] 場合により、本発明の電気化学セルの電解質は、1種又は複数種の添加剤を含む。一実施形態において、電解質は、フッ化物塩のフッ化物イオンを配位させることができるフッ化物イオンアニオン受容体などのアニオン受容体、及び/又はカチオン受容体、たとえば、フッ化物塩の金属イオンを配位させることができるカチオン受容体を含む。本発明における有用なアニオン受容体には、フッ素化ボラン類、フッ素化ボロナート類、フッ素化ボラート類、フェニルボロンをベースとする化合物、アザ−エーテルボロンをベースとする化合物など、電子求引性配位子を有するフッ素化ホウ素をベースとするアニオン受容体が含まれるがこれらに限定されない。本発明の電気化学セルの電解質向けの有用なカチオン受容体には、クラウンエーテル類、ラリアートエーテル類、メタラクラウン(metallacrown)エーテル類、カリックスクラウン類(calixcrowns)(たとえば、カリックス(アザ)クラウン類)、テトラチアフルバレンクラウン類、カリックスアレン類、カリックス[4]アレンジキノン類、テトラチアフルバレン類、ビス(カリックスクラウン)テトラチアフルバレン類、及びこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。一部の諸実施形態において、本発明の電解質は、他の無機、有機又は気体状添加剤を含む。本発明の電解質中の添加物は、たとえば、固体電解質界面(SEI)の形成を促進することによって、又は放電生成物の蓄積(buildup)を減少させることによって、(i)アニオン電荷キャリアの伝導率を高める、(ii)可燃性を低下させる、(iii)電極濡れ性を高める、(iv)電子伝導率を低下させる、また(v)電極におけるアニオン電荷キャリアの速度論を強化するために有用である。一実施形態において、電解質は下記のようなルイス酸又はルイス塩基を含むが、これらに限定されない。
【化2】
(R=H又はアルキル基CnH2n+1、n=整数)
【0024】
[024] 本発明のフッ化物イオン電気化学セルの正極及び負極用活物質は、電気化学セルの放電及び充電中に電解質からのフッ化物イオンを収容することができるフッ化物イオンホスト材料を含む。この文脈において、フッ化物イオンの収容には、ホスト材料へのフッ化物イオンの挿入、ホスト材料へのフッ化物イオンのインターカレーション、及び/又はフッ化物イオンのホスト材料との反応が含まれる。収容には、合金形成反応、表面反応及び/又はホスト材料とのバルク反応が含まれる。サイクル時のフッ化物イオンホスト材料の重大な劣化なしに電解質とフッ化物イオンを可逆的に交換することができるフッ化物イオンホスト材料を使用することが、本発明の二次フッ化物イオン電池には好ましい。
【0025】
[025] 一実施形態においては、本発明のフッ化物イオン電気化学セルの負極が、標準還元電位が低い、好ましくは一部の用途では約−1V以下、より好ましくは一部の用途では約−2V以下である、フッ化物化合物などのフッ化物イオンホスト材料を含む。本発明の電気化学セルの負極向けの有用なフッ化物イオンホスト材料には、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFxが含まれるが、これらに限定されない。電気化学セルの負極向けの好ましいフッ化物ホスト材料は、式中Mがアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)である、Mが遷移金属である、Mが第一3族(B、Al、Ga、In、Tl)に属する、又はMが希土類元素(57と71との間の原子番号Z)である元素フッ化物MFxである。本発明には、アニオンイオン電荷キャリアを含むフッ化物イオンを可逆的に交換することができる1種又は複数種のポリマーを含む負極フッ化物イオンホスト材料も含まれる。このような共役ポリマーの例は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンであるが、これらに限定されない。本発明における負極に有用なポリマー材料は、本明細書中の開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書中に援用されるManecke,G.and Strock,W.,in“Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd Edition,Kroschwitz,J.,I.,Editor.John Wiley,New York,1986,vol.5,pp.725−755にさらに記載され、説明されている。
【0026】
[026] 一実施形態においては、本発明のフッ化物イオン電気化学セルの正極が、標準還元電位が高い、好ましくは一部の用途では約1V以上、より好ましくは一部の用途では約2V以上である、フッ化物化合物などのフッ化物イオンホスト材料を含む。一実施形態において、正極のフッ化物イオンホスト材料は、フッ化物イオン層間化合物を生成するためにフッ化物イオンを収容することができるインターカレーションホスト材料である。「インターカレーション」とは、フッ化物イオンなどの移動性ゲストイオンの挿入を伴う電気化学的電荷移動プロセスを含むホスト/ゲスト固相酸化還元反応によりホスト材料にイオンを挿入して層間化合物を生成するプロセスを指す。ホスト材料の主な構造的特徴は、インターカレーションによるゲストイオンの挿入後に保存される。一部のホスト材料においては、インターカレーションとは、ゲストイオンが層状ホスト材料の層間ギャップ(たとえば、ギャラリー)に引き付けられるプロセスを指す。
【0027】
[027] 本発明の電気化学セルの正極向けの有用なフッ化物イオンホスト材料には、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態においては、正極のフッ化物イオン材料が式CFxを有する部分フッ素化炭素質材料であり、式中xが炭素原子に対するフッ素原子の平均原子比率であり、約0.3〜約1.0の範囲から選択される。この実施形態の正極向けの有用な炭素質材料は、黒鉛、コークス、マルチウォールカーボンナノチューブ、多層カーボンナノ繊維、多層カーボンナノ粒子、カーボンナノウイスカ及びカーボンナノロッドからなる群から選択される。本発明には、アニオンイオン電荷キャリアを含むフッ化物イオンを可逆的に交換することができる1種又は複数種のポリマーを含む正極フッ化物イオンホスト材料も含まれる。正極に有用なこのような共役ポリマーの例には、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
[028] 一態様において、本発明は、リチウムイオン電池など最先端の電気化学セルに対して強化されたデバイス性能を示すフッ化物イオン電気化学セルを提供する。フッ化物イオン電気化学セルにおける正極及び負極向けの一部のフッ化物イオンホスト材料の組合せは、有用なデバイス性能にアクセスするために特に有益である。たとえば、xが約0.3〜1の範囲にわたって選択される部分フッ素化CFx正極と、LiC6又はLaFxを含む負極とを使用することは、約4V以上、一部の諸実施形態においては約4.5V以上の平均動作電池電圧にアクセスするために有用である。優れたデバイス性能をもたらす本発明の他の有用な正極ホスト材料/負極ホスト材料の組合せには、CuFx/LaFx、AgFx/LaFx、CoFx/LaFx、NiFx/LaFx、MnFx/LaFx、CuFx/AlFx、AgFx/AlFx、NiFx/AlFx、NiFx/ZnFx、AgFx/ZnFx及びMnFx/ZnFxが含まれる(電極の組合せを示すために、[正極ホスト材料]/[負極ホスト材料]に対応する慣習を使用する)。
【0029】
[029] 一実施形態においては、本発明のフッ化物イオン電気化学セルは、約3.5V以上の平均動作電池電圧、好ましくは一部の用途では約4.5V以上の平均動作電池電圧を有する。一実施形態において、本発明のフッ化物イオン電気化学セルは、約300Whkg−1以上、好ましくは約400Whkg−1以上の比エネルギーを有する。一実施形態において、本発明は、約500サイクル以上のサイクル寿命を有するフッ化物イオン二次電気化学セルを提供する。
【0030】
[030] 本発明の電解質向けの有用な溶媒は、フッ化物塩などの電解質塩を少なくとも部分的に溶解させることができ、これらの溶媒には、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、トルエン(tol)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピルメチルカーボネート(PMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルブチレート(MB、20℃)、n−プロピルアセテート(PA)、エチルアセテート(EA)、メチルプロピオネート(MP)、メチルアセテート(MA)、4−メチル−1,3−ジオキソラン(4MeDOL)(C4H8O2)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)(C5H10O)、1,2ジメトキシエタン(DME)、メチルホルメート(MF)(C2H4O2)、ジクロロメタン(DCM)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)(C4H6O2)、プロピレンカーボネート(PC)(C4H6O3)、エチレンカーボネート(EC、40℃)(C3H4O3)からなる群から選択される1種又は複数種の溶媒が含まれるが、これらに限定されない。溶媒、電解質塩及びアニオン電荷キャリアの完全に又は部分的にフッ素化された類似体を含む電解質及びそれらの成分は、一部の用途には有益である。というのは、これらの材料のフッ素化は、高い電極電圧における分解に対する安定性が高まり、難燃性など有益な安全特性をもたらすからである。この説明の文脈において、フッ素類似体には、(i)溶媒、塩又はアニオン電荷キャリア分子の各水素原子がフッ素原子に置換されている完全にフッ素化された類似体と、(ii)溶媒、塩又はアニオン電荷キャリア分子の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換されている部分的にフッ素化された類似体とが含まれる。電解質中の好ましいアニオン電荷キャリアには、下記アニオン電荷キャリアが含まれるが、これらに限定されない。
【化3】
【0031】
[031] 以下の文献には、完全にフッ素化された、また部分的フッ素化された溶媒、塩及びアニオン電荷キャリアを含めた、本発明の諸実施形態において有用な電解質組成物が記載されている。これらの文献は、本開示と矛盾しない程度まで参照によりそれら全体が本明細書中に援用される。(1)Li[C2F5BF3] as an Electrolyte Salt for 4V Class Lithium−Ion Cells,Zhi−Bin Zhou,Masayuki takeda,Takashi Fujii,Makoto Ue,Journal of Electrochemical Society,152(2):A351−A356,2005;(2)Fluorinated Superacidic Systems,George A.Olah,Surya G.K.Prakash,Alain Goeppert,Actualite Chimique,68−72 Suppl.301−302,Oct−Nov 2006;(3)Electrochemical properties of Li[CnF2n+1BF3] as Electrolyte Salts for Lithium−ion Cells,Makoto Ue,Takashi Fujii,Zhi−Bin Zhou,Masayuki Takeda,Shinichi Kinoshita,Solid State Ionics,177:323−331,2006;(4)Anodic Stability of Several Anions Examined by AB Initio Molecular Orbital and Density Functional Theories,Makoto Ue,Akinori Murakami,Shinichiro Nakamura,Journal of Electrochemical Society,149(12):A1572−A1577,2002;(5)Intrinsic Anion Oxidation Potentials,Patrik Johansson,Journal of Physical Chemistry,110_12077−12080,2006;(6)Nonaqueous Liquid Electrolytes for Lithium−based Rechargeable Batteries,Kang Xu,Chem.Rev.,104:4303−4417,2004;(7)The Electrochemical Oxidation of Polyfluorophenyltrifluoroborate Anions in Acetonitrile,Leonid A.Shundrin,Vadim V.Bardin,Hermann−Josef Frohn,Z.Anorg.Allg.Chem.630:1253−1257,2004
【0032】
[032] 別の態様において、本発明は、電気化学セルを作製するための方法を提供する。この方法は、(i)正極を設けるステップと、(ii)負極を設けるステップと、(iii)正極と負極との間に、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質を設けるステップとを含む方法であって、正極及び負極が、電気化学セルの充電又は放電中に電解質とアニオン電荷キャリアを可逆的に交換することができる。
【0033】
[033] 別の態様において、本発明は、電流を発生させるための方法を提供する。この方法は、(i)電気化学セルを提供するステップと、(ii)電気化学セルを放電するステップとを含み、電気化学セルが、正極と、負極と、正極と負極との間に設けられ、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質とを備え、正極及び負極が、電気化学セルの充電又は放電中に電解質とアニオン電荷キャリアを可逆的に交換することができる。本発明のこの態様の方法は、電気化学セルを充電するステップをさらに含むことができる。本発明のこの態様の一部の諸実施形態においては、アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)である。
【0034】
[034] 一態様において、本発明はフッ化物イオン二次電気化学セルを提供する。このフッ化物イオン二次電気化学セルは、(i)第一のフッ化物イオンホスト材料を含み、第一の標準電極電位を有する正極と、(ii)第二のフッ化物イオンホスト材料を含み、第二の標準電極電位を有する負極であって、前記第一の標準電極電位と前記第二の標準電極電位との差が約3.5V以上である負極と、(iii)前記正極と前記負極との間に設けられ、フッ化物イオン電荷キャリアを伝導することができ、フッ化物塩及び溶媒を含む電解質であって、前記フッ化物塩の少なくとも一部が溶解した状態で存在し、それにより前記電解質中に前記フッ化物イオン電荷キャリアが発生する電解質とを備え、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記フッ化物イオン電荷キャリアを可逆的に交換することができる。本発明のこの態様の一部の諸実施形態においては、アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)である。
【0035】
[本発明の詳細な説明]
[057] 図面を参照すると、同じ数字は同じ要素を示し、2つ以上の図面に現れる同じ番号は同じ要素を指す。加えて、以降では以下の定義が適用される。
【0036】
[058] 「標準電極電位」(Eo)とは、溶質の濃度が1M、ガス圧力が1atm、温度が摂氏25度である場合の電極電位を指し、本明細書中で使用する標準電極電位は、標準水素電極に対して測定される。
【0037】
[059] 「アニオン電荷キャリア」とは、電気化学セルの放電及び充電中に正極と負極との間と移動する、電気化学セルの電解質中で提供される負に荷電したイオンを指す。本発明の電気化学セルにおいて有用なアニオン電荷キャリアには、フッ化物イオン(F−)及び以下の他のアニオンが含まれるが、これらに限定されない。
【化4】
【0038】
[060] 「フッ化物イオンホスト材料」とは、フッ化物イオンを収容することができる材料を指す。この文脈において、収容することには、ホスト材料へのフッ化物イオンの挿入、ホスト材料へのフッ化物イオンのインターカレーション、及び/又はフッ化物イオンのホスト材料との反応が含まれる。本発明の電気化学セルにおける正極又は負極向けの有用なフッ化物イオンホスト材料には、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFx、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxが含まれるが、これらに限定されない。電気化学セルの負極向けの好ましいフッ化物ホスト材料は元素フッ化物MFxであり、式中Mがアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)である、Mが遷移金属である、Mが第一3族(B、Al、Ga、In、Tl)に属する、又はMが希土類元素(57と71との間の原子番号Z)である。
【0039】
[061] 「インターカレーション」とは、フッ化物イオンなどの移動性ゲストイオンの挿入を伴う電気化学的電荷移動プロセスを含む、ホスト/ゲスト固相酸化還元反応により、ホスト材料にイオンを挿入して層間化合物を生成するプロセスを指す。ホスト材料の主な構造的特徴は、インターカレーションによるゲストイオンの挿入後に保存される。一部のホスト材料においては、インターカレーションとは、ゲストイオンが層状ホスト材料の層間ギャップ(たとえば、ギャラリー)に引き付けられるプロセスを指す。層間化合物の例には、層状フッ化物ホスト材料や炭素ホスト材料などのホスト材料にフッ化物イオンが挿入されているフッ化物イオン層間化合物が含まれる。本発明の電極用の層間化合物を形成するために有用なホスト材料には、CFx、FeFx、MnFx、NiFx、CoFx、LiC6、LixSi及びLixGeが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
[062] 用語「電気化学セル」とは、化学エネルギーを電気エネルギーに、又は電気エネルギーを化学エネルギーに変換するデバイス及び/又はデバイス構成要素を指す。電気化学セルは、2つ以上の電極(たとえば、正極及び負極)と、電解質とを有し、電極表面で起こる電極反応により電荷移動プロセスがもたらされる。電気化学セルには、一次電池、二次電池及び電気分解システムが含まれるが、これらに限定されない。一般的な電池及び/又は電池の構造は当技術分野で公知である。たとえば、米国特許第6489055号明細書、第4052539号明細書、第6306540号明細書、Seel and Dahn J.Electrochem.Soc.147(3)892−898(2000)を参照のこと。
【0041】
[063] 用語「容量」は、電池などの電気化学セルが保持することが可能な電荷の総量を指す、電気化学セルの一特性である。容量は通常、アンペア−時間の単位で表される。用語「比容量(specific capacity)」は、電池などの電気化学セルの、単位重量当たりの出力容量を指す。比容量は通常、アンペア−時間kg−1の単位で表される。
【0042】
[064] 用語「放電率(discharge rate)」とは、電気化学セルを放電する電流を指す。放電電流は、アンペア−時間の単位で表すことができる。或いは、放電電流を、電気化学セルの定格容量に正規化することができ、式中Cが電気化学セルの容量であり、Xが変数であり、tが本明細書中で使用する1時間に等しい規定の単位時間であるC/(Xt)で表すことができる。
【0043】
[065] 「電流密度」とは、単位電極面積当たりに流れる電流を指す。一部の諸実施形態において、正極、負極又は両者がナノ構造材料である。用語「ナノ構造」とは、少なくとも1つの物理的寸法(たとえば、高さ、幅、長さ、断面寸法)が約1ミクロン未満である複数の不連続構造ドメインを有する材料及び/又は構造を指す。この文脈において、構造ドメインとは、特徴的な組成、形態及び/又は相を有する材料又は構造の特徴、成分又は一部分を指す。正極活物質として有用なナノ構造材料には、複数のフッ素化炭素ドメイン及び非フッ素化炭素ドメインを有するナノ構造複合粒子が含まれる。一部の諸実施形態において、本発明のナノ構造材料は、異なる組成、形態及び/又は相が非常に微細なスケールで(たとえば、少なくとも数十ナノメートルよりも小さい)混合された複数の構造ドメインを含む。負極活物質として有用なナノ構造材料には、複数のフッ素化金属ドメイン及び非フッ素化金属ドメインを有するナノ構造複合粒子が含まれる。電気化学セルの負極向けの好ましいナノ構造フッ素化金属ホスト材料には、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)、遷移金属、第一3族元素(B、Al、Ga、In、Tl)に属する、希土類金属(57と71との間の原子番号Z)が含まれるが、これらに限定されない。一部の諸実施形態において、本発明の負極向けのナノ構造材料は、異なる組成、形態及び/又は相が非常に微細なスケールで(たとえば、少なくとも数十ナノメートルよりも小さい)混合された複数の構造ドメインを含む。
【0044】
[066] 「活物質」とは、エネルギーを電気化学セルに蓄積及び/又は分配する電気化学反応に関与する、電極中の材料を指す。
【0045】
[067] 本明細書中で使用する表現「部分フッ素化炭素質材料」とは、非フッ素化炭素質成分を有する多相炭素質材料を指す。本明細書中で使用する「非フッ素化炭素質成分」には、黒鉛、コークス、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノウイスカ、多層カーボンナノ粒子、カーボンナノウイスカ及びカーボンナノロッドなど、非フッ素化炭素組成物及び/又は相が含まれ、またわずかにフッ素化された炭素組成物及び/又は相も含まれる。この文脈においてわずかにフッ素化されたとは、CF1及びC2F相に見られるように炭素がフッ素と共有結合した組成物とは対照的に、フッ素と弱く結合した炭素を指す。多相部分フッ素化炭素質材料は、1種又は複数種の非フッ素化炭素質相及び1種又は複数種のフッ素化相(たとえば、ポリ(一フッ化炭素(CF1)、ポリ(一フッ化二炭素)など)を含む炭素質相の混合物を含むことができる。部分フッ素化炭素質材料には、フッ素化及び非フッ素化ドメインを有するナノ構造材料が含まれる。部分フッ素化炭素質材料には、炭素質出発材料の不完全な又は部分的なフッ素化がもたらされる条件下でフッ素源にさらした炭素質材料が含まれる。本発明において有用な部分フッ素化炭素質材料、及び部分フッ素化炭素質材料を作製する関連の方法は、それぞれ2005年10月18日、2006年6月6日及び2006年11月16日にそれぞれ出願された米国特許出願第一1253360号明細書、第一1422564号明細書及び第一1560570号明細書に記載されている。これらの出願は、本記載と矛盾しない程度まで参照によりそれら全体が本明細書中に援用される。本発明の正極中の部分フッ素化活物質には、黒鉛、コークス、並びにマルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、多層カーボンナノ粒子、カーボンナノウイスカ、カーボンナノロッドなどの炭素質ナノ材料を含めた、様々な炭素質材料が有用である。
【0046】
[068] 本明細書中で使用するカーボンナノ材料は、少なくとも1つの寸法が1ナノメートル〜1ミクロンである。一実施形態においては、ナノ材料の少なくとも1つの寸法が2nm〜1000nmである。カーボンナノチューブ、ナノファイバー、ナノウイスカ又はナノロッドでは、チューブ、繊維、ナノウイスカ又はナノロッドの直径がこの寸法範囲内にある。カーボンナノ粒子では、ナノ粒子の直径がこの寸法範囲内にある。本発明と共に使用するために有用なカーボンナノ材料には、総不純物レベルが10%未満である材料、及びホウ素、窒素、シリコン、スズ、リンなどの元素をドープしたカーボン材料が含まれる。
【0047】
[069] 本明細書中で使用する用語「ナノチューブ」は、典型的には約1nm〜約20nmの直径によって通常特徴付けられるチューブ状の不連続な原繊維を指す。加えて、ナノチューブは通常、直径の約10倍を超える、好ましくは直径の約100倍を超える長さを示す。ナノチューブを記載するために使用する用語「マルチウォール(multi-wall)」は、層状構造を有するナノチューブを指し、したがってナノチューブは、秩序化した原子の複数の連続層の外側領域と、別個の内側コア領域又は内腔とを含む。これらの層は、原繊維の長手方向軸についてほぼ同心円状に配置される。カーボンナノチューブでは、これらの層がグラフェン層である。カーボンナノチューブは、それぞれSWCNT、DWCNT及びMWCNTと記される単層、二層及びマルチウォールカーボンナノチューブとして、異なる形で合成されている。直径の寸法は、SWCNT及びDWCNTにおける約2nm〜NWCNTにおける約20nmの範囲に及ぶ。一実施形態においては、本発明において使用するMWNTは、5nmを超える、10nmを超える、10〜20nm又は約20nmの直径を有する。
【0048】
[070] 電極とは、電解質及び外側回路とイオン及び電子を交換する電気伝導体を指す。「正極」と「カソード」とは、本記載において同義に使用され、電気化学セルにおいてより高い(すなわち、負極よりも高い)電極電位を有する電極を指す。「負極」と「アノード」とは本記載において同義に使用され、電気化学セルにおいてより低い(すなわち、正極よりも低い)電極電位を有する電極を指す。カソード還元とは、化学種の1つ又は複数の電子の獲得を指し、アノード酸化とは、化学種の1つ又は複数の電子の放出を指す。本電気化学セルの正極及び負極は、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末状黒鉛、コークス、炭素繊維、金属粉末などの導電性希釈剤をさらに含むことができ、及び/又はポリマー結合剤(polymer binder)などの結合剤をさらに含むことができる。一部の諸実施形態における正極向けの有用な結合剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフルオロポリマーを含む。本発明の正極及び負極は、薄膜電極構成など薄い電極設計を含めた、電気化学及び電池科学の技術分野で公知である様々な有用な構成及び形状因子で設けることができる。本明細書中に開示されているように、また、たとえば米国特許第4052539号明細書、第6306540号明細書、第6852446号明細書における開示を含め、当技術分野で知られているように、電極を作製する。一部の諸実施形態では、通常、電極材料、導電性不活性材料、結合剤及び液体キャリアのスラリーを電極集電体上に堆積させ、次いでキャリアを蒸発させて集電体と電気接触する粘性塊(coherent mass)を残すことによって電極を作製する。
【0049】
[071] 「電極電位」とは、異なる酸化(原子価)状態における化学種が電極内又は電極に接触して存在するために、通常参照電極に対して測定される電圧を指す。
【0050】
[072] 「電解質」とは、固体状態であっても、液体状態(最も一般的)又はより稀ではあるが気体(たとえば、プラズマ)あってもよいイオン伝導体を指す。
【0051】
[073] 「カチオン」とは、正に荷電したイオンを指し、「アニオン」とは負に荷電したイオンを指す。
【0052】
[074] 本発明は、フッ化物イオン電荷キャリアと、フッ化物イオンホスト材料を含む電極活物質とを利用する一次及び二次アニオン性電気化学セルを提供し、これにより従来の最先端リチウム電池及びリチウムイオン電池の代替物が提供される。リチウムをベースとする系に優る本発明の電気化学セルの利点には、より高い比容量へのアクセス、より大きい平均動作電圧及び安全性の向上が含まれる。
【0053】
[075] フッ化物イオン電気化学セルを含めた本発明のアニオン性電気化学セルは、異なるアニオン電荷キャリアホスト材料を含む正極及び負極によるアニオン電荷キャリアの収容及び放出を伴う同時に起こる酸化及び還元反応の原理に基づいて動作する。これらの系において、アニオン電荷キャリアは、アニオン性電気化学セルの放電及び充電中に正極と負極との間を行ったり来たりする。以下の電極半反応、電池反応及び電解質反応は、本発明のアニオン性電気化学セルが動作する基本原理を記載し説明するために提供されている。
1.電極反応
A−はアニオン電荷キャリア、PAnは正極アニオンホスト材料、NAmは負極アニオンホスト材料である。
一次電池においては、放電反応のみが起こる。
・正極では、A−が放出される。
【化5】
・負極では、A−が閉塞される。
【化6】
したがって、電池反応全体は以下のようになる。
【化7】
充電式電池において、式(1)及び(2)は充電時には逆向きになるため、電池反応全体は以下のようになる。
【化8】
2.電解質形成反応
本発明では、正極と負極との間の電解質中に溶解A−アニオン源がいくつか含まれる。
(i)塩CqApなどの可溶性化合物;式中、Cは一価、二価、三価のカチオン又は多価カチオン(Cn+、1≦n≦6)である。たとえば、Cが一価のカチオンである場合、塩溶解平衡は以下のように記載される。
【化9】
ここで、カチオン受容体R及び/又はアニオン受容体R’を使用すると、溶解度を高めることができる。
【化10】
(ii)A−を放出する可溶性アニオンXAp−;
【化11】
場合により、カチオン受容体R及び/又はアニオン受容体R’を電解質中に提供して、A−の溶解度を高めることができる。
【0054】
[076] これらの概念の例として、LiC6負極、CFx正極及びF−導電性電解質を含む本発明のフッ化物イオン電気化学セルの放電時における半反応、電池反応及び溶解液反応を以下に提供する。
放電反応:
負極:LiC6 + F− → 6C + LiF +e− (負極は放電時にF−を収容する)
正極:CFx + xe− → C + xF− (正極は放電時にF−を放出する)
電池反応:xLiC6 + CFx → (1+6x)C + xLiF (F−は放電時に正極と負極との間を移動する)
電解質:場合により、2種類の反応によりF−の溶解を高めることができる。
LiF + yLA → Li+ + (LA)yF−、又は
LiF + zLB → Li(LB)z+ +F−
(LA=PF5、BF3、アニオン受容体などのルイス酸、LB=PF6−、BF4−、カチオン受容体、すなわち、クラウンエーテルなどのルイス塩基)。
【0055】
[077] 本発明のアニオン性電気化学セルをさらに説明し記載するために、以下の議論では、本発明の系を従来のリチウムイオン電池技術と比較する。典型的なリチウムイオン電池(LIB)は、3つの基本要素:(1)炭素をベースとする負極(アノード)、(2)リチウムカチオン(Li+)伝導性電解質及び(3)遷移金属酸化物正極(カソード)(たとえば、LiCoO2)を備える。リチウムカチオン(Li+)はこれらの系における電荷キャリアであり、これらの電気化学セルは、電極間の電子移動に呼応して正極及び負極で同時に起こる挿入及び脱挿入(de-insertion)反応により動作する。リチウムイオン電池の充電及び放電時には、Li+イオンが負極と正極との間を往復する。これらの電池の可逆的二重インターカレーション機構(dual intercalation mechanism)により、用語「ロッキングチェア」又は「シャトルコック」電池が生まれる。
【0056】
[078] 図1Aは、充電時のリチウムイオン電池を示す概略図を提供する。充電時、リチウムイオンが正極(すなわち、図1Aでカソードと表されている)から放出され、電解質を通って移動し、負極(すなわち、図1Aでアノードと表されている)によって収容される。図1Aに示すように、充電時における電子の流れの方向は、正極から負極である。図1Bは、放電時のリチウムイオン電池を示す概略図を提供する。放電時、リチウムイオンが負極(すなわち、図1Bでアノードと表されている)から放出され、電解質を通って移動し、正極(すなわち、図1Bでカソードと表されている)によって収容される。図1Bに示すように、充電時における電子の流れの方向は、負極から正極である。
【0057】
[079] 図2は、異なる負極及び正極材料の平均作用電位、並びに従来のリチウムイオン電池についての電池電圧を示す概略図を提供する。電気化学セルの平均動作電圧は、一部には、負極と正極とにおけるLi+イオンの化学電位の差から生じる。図2に示す例では、LixC6とLixCoO2との電極電位の差が約4Vである。この例についてのLIB電池拡張反応は、以下のようになる。
【化12】
この例のLIB系の理論的エネルギー密度は、以下のように計算することができる。
【数1】
【0058】
[080] 本発明の電気化学セルにおいて、電荷キャリアは負に荷電したアニオンである。たとえば、フッ化物イオン電気化学セルにおいては、アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−1)である。リチウムイオン電池と同様に、本発明のフッ化物イオン電気化学セルは、電極間の電子移動に呼応して正極及び負極で同時に起こるフッ化物イオン挿入及び脱挿入反応により動作する。フッ化物イオン電気化学セルの充電及び放電時に、F−イオンは負極と正極との間を往復する。
【0059】
[081] 図3Aは、放電時のフッ化物イオン電気化学セルを示す概略図を提供する。放電時、フッ化物アニオンが正極(すなわち、図3Aでカソードと表されている)から放出され、電解質を通って移動し、負極(すなわち、図3Aでアノードと表されている)によって収容される。図3Aに示すように、放電時における電子の流れの方向は、負極から正極である。フッ化物イオン電気化学セルの充電時、フッ化物アニオンが負極から放出され、電解質を通って移動し、正極によって収容される。充電時における電子の流れの方向は、正極から負極である。放電及び充電時のフッ化物イオンの放出及び収容は、電極で起こる酸化及び還元反応によって生じる。
【0060】
[082] リチウムイオン電池に関する上記説明と同様に、フッ化物イオン電気化学セルにおける開回路電圧は、少なくとも一部には、負極と正極とにおけるフッ化物イオンの化学電位の差により生じる。正極及び負極は、それぞれ高電圧フッ化物及び低電圧フッ化物であり、電解質とF−を可逆的に交換することが可能である。正極及び負極はたとえば以下のようになる。
正極:CFx、AgF2−x、CuF3−x、NiF3−x、・・・
負極:LaF3−x、CaF2−x、AlF3−x、EuF3−x、・・・
【0061】
[083] 図3Bは、LaF3−x負極と、CFx正極と、有機電解質液に設けられる、式中MがKやRbなどの金属であるMFを含む電解質とに対応する一実施形態例についての平均作用電位を示す概略図を提供する。この例について、関連するパラメータ、半反応、電池反応を以下にまとめる。
負極:LaF3
正極:CFy
電解質:有機電解質中のMF(M=K、Rb、・・・)
電極反応:
負極:
【化13】
正極:
【化14】
電池反応:
【化15】
【0062】
[084] 図3Bに示すように、この例についての電極電位の差は約4.5Vである。理論的電池電圧はLa3+/La及びCFx/F−のレドックス対を考慮に入れ、充電終了時の開回路電圧OCVが約4.5Vであると見込まれる。この開回路電圧OCVは、従来のリチウムイオン電池の開回路電圧よりも大きい(上記計算を参照のこと)。このフッ化物イオン電池(FIB)系の例についての理論的エネルギー密度は、以下のように計算することができる。
FIBエネルギー密度:
電池反応(3)により、x=1、y=0である場合;
【化16】
理論的エネルギー密度は以下のようになる。
【数2】
この計算により、上述のフッ化物イオン電気化学セルの例及びリチウムイオン電池の例についての理論的エネルギー密度の比が3:7に等しいことがわかる。
【数3】
【0063】
[085] 表1は、上述のリチウムイオン電池及びフッ化物イオン電気化学セルの性能属性及び組成の比較を示す。本発明のフッ化物イオン電池(FIB)の利点には、(i)フッ化物イオン電気化学セルの安全性の向上、(ii)フッ化物イオン電気化学セルのより高い動作電圧、(iii)フッ化物イオン電気化学セルにおけるより大きいエネルギー密度、及び(iv)フッ化物イオン電気化学セルのより低いコスト、が含まれる。
【表1】
【0064】
[086] フッ化物イオン電池(FIBs)は、アノード及びカソード反応がフッ化物アニオンF−の収容及び放出を伴う純粋なアニオン型電池である。FIBsは、電極反応の可逆性に応じて一次電池であっても充電式電池であってもよい。しかしながら、一次FIBsも充電式FIBsも共に、F−アニオン導電性電解質を必要とする。フッ化物イオン電池は、2つのクラスにさらに分類することができる。
【0065】
[087] 第一のクラスでは、正極も負極も共にフッ化物アニオンを含む。LaF3アノード及びCFxカソードを有するフッ化物イオン電気化学セルがこの第一のクラスの例である。この(LaF3/CFx)系についての電極半反応及び電池反応は、以下のようになる。
LaF3アノード:
LaF3 + 3ye− → LaF3(1−y) + 3yF− (充電)
CFxカソード:
CFx + xe− → C + xF− (放電)
電池反応:
xLaF3 + 3yC → xLaF3(1−y) + 3yCFx (充電)
xLaF3(1−y) + 3yCFx → xLaF3 + 3yC
フッ化物イオン電気化学セルのこの第一のクラスの他の例には、(アノード/カソード)対:(LaF3/AgFx)、(LaF3/NiFx)、(EuF3/CFx)、(EuF3/CuFx)が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
[088] 第二のクラスでは、一方の電極のみがフッ化物アニオンを含む。LiC6アノード及びCFxカソードを有するフッ化物イオン電気化学セルが、この第二のクラスの例である。この(LiC6/CFx)系についての電極半反応及び電池反応は、以下のようになる。
LiC6アノード:
LiC6 + F− → 6C + LiF + e− (放電)
CFxカソード:
CFx + xe− → C + xF− (放電)
電池反応:
xLiC6 + CFx → (6x+1)C + xLiF (放電)
(6x+1)C + xLiF → xLiC6 + CFx (充電)
フッ化物イオン電気化学セルのこの第一のクラスの他の例には、(アノード/カソード)対:(LiC6/AgFx)、(LiC6/NiFx)、(LixSi/CFx)及び(LixSi/CuFx)が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
[089] 本発明の態様について、以下の実施例でさらに記載し説明する。
実施例1:Li/CFxハーフセル(half cell)構成を有するフッ化物イオン二次電気化学セル
1.a.序論
【0068】
[090] 本発明のフッ化物イオン電気化学セルの利点を実証するために、CFx正極及び金属リチウム負極を備える電池を構成し、電気化学的性能に関して評価した。ここに示す結果は、フッ化物イオン電気化学セルが室温における合理的な充電−放電率下で有用な充電可能容量を示すことを実証している。
1.b.実験
【0069】
[091] 2種類のフッ化炭素CFx;1)コークスに基づく化学量論の(市販の)CF1、並びに2)黒鉛及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)に基づく部分フッ素化CFx(x<1)を合成し、本実施例におけるリチウム電池の正極として使用した。フッ化炭素は、下記反応に従ってコークス黒鉛又はMWNT炭素粉末の高温フッ素化により得られる。
C(s) + x/2F2(g) → CFx(s) (s=固体及びg=気体)
CFxと称される、数種類の完全にフッ素化された炭素及び部分フッ素化された炭素を、正極用の活物質として使用するために本実施例において調査した。
(1)市販のCFx(式中x=1.0):この部分フッ素化炭素質材料は、米国ニューヨークのLodestar社から得た。この材料は、完全にフッ素化されたコークス材料であるそれら部分フッ素化炭素質材料のPC10製品に対応する。この部分フッ素化炭素質材料は、図面中で、また本実施例を通して「市販の」、「市販のCFx」及び「CFx(x=1)」と同義に称される。
(2)合成黒鉛のフッ素化によって合成された部分フッ素化炭素(式中x=0.530、0.674であるCFx):この部分フッ素化材料は、スイスのTimcal社によって製造されている合成黒鉛の部分的フッ素化により合成した。これらの部分フッ素化黒鉛材料は、図面中で、また本実施例を通して「KS15」と称される。これらの材料の組成は、炭素に対するフッ素の原子比率(すなわち、式CFx中の変数x)を参照することによってさらに特徴付けられる。
(3)マルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)のフッ素化によって合成された部分フッ素化炭素(式中x=0.21、0.59、0.76、0.82であるCFx):この部分フッ素化材料は、米国アリゾナ州トゥーソンのMERから得られるMWNTSの部分的フッ素化により合成した。この部分フッ素化材料は、図面中で、また本実施例を通して「カーボンナノファイバー」、「MWNT」及び「マルチウォールカーボンナノチューブ」と同義に称される。これらの部分フッ素化炭素質材料の組成は、炭素に対するフッ素の原子比率(すなわち、式CFx中の変数x)を参照することによってさらに特徴付けられる。
【0070】
[092] 正極は、選択されたCFx材料に、アセチレンブラック黒鉛(ABG)と、結合剤としてのPVDFとを添加して構成され、百分率はそれぞれ75wt%、10wt%及び15wt%であった。これら3つの材料を、ジブチルフタレートDBP(20wt%)を有するアセトン溶液中で混ぜ合わせた。次いでこの溶液を蒸発させ、最後に、CFx正極の薄膜を得た(厚さ100〜120μm)。この膜を直径(15.2mm)に合わせて切断し、メタノール中で洗浄し、真空中で一晩かけて80℃で乾燥させた。電極重量は10〜20mgである。コイン型のLi/CFx試験電池の構造:Li/PC−DME−LiBF4/CFxの2016個のコイン電池(セパレータ:Sanyo Celgard、直径(19mm)、厚さ(25μm)、強く、電気抵抗率が低く、気孔率が高い(55%))
1.c.実験結果
【0071】
[093] 図4は、フッ化炭素の結晶構造を提供する。図5は、市販のCF1と様々な部分フッ素化炭素質材料とを含む様々な評価する正極電極材料によるX線回折パターン(CuKα線)を提供する。様々な部分フッ素化カーボンナノファイバー試料(すなわち、MWNTs、x=0.210、0.590、0.760及び0.820であるCFx)、様々な部分フッ素化KS15黒鉛試料(すなわち、x=0.53及び0.647であるCFx)、並びに市販のCF1試料(すなわち、x=1であるCFx)についての回折パターンを、図5に示す。
【0072】
[094] 電気化学的方法によっても、様々なフッ素化炭素活物質を特徴付けた。これらの実験においては、循環クロノポテンショメトリ(定電流)を使用して、電池の放電及び充電を追跡する。適用電流は、理論容量から計算される。したがって、異なる固定したC/n比率(C/10〜1C)について、電流Iを決定することができる。
【数4】
mCFx=活性材料の質量(g)、Qth=理論容量(mAh/g)
注:Qthは、最初の放電時にはCFxのmAh/gで表され、サイクル時にはCのmAh/gで表される。
【0073】
[095] これらの測定において、最初の放電及びその後に続くサイクル反応は以下のとおりであった。
最初の放電:
CFx + Li+ + xe− → C + xLiF(3.2V〜1.5V対Li)
サイクル反応:
【化17】
(1.5V〜最大4.8V対Li)(A−=アニオン=F−)
【0074】
[096] 図6〜図12は、複数の正極炭素質活物質についての最初の放電曲線を提供する。図6は、C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温における市販のCF1正極についての放電プロファイルを提供する。図7は、C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.530KS15正極についての放電プロファイルを提供する。図8は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.647KS15正極についての放電プロファイルを提供する。図9は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.21カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。図10は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.59カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。図11は、C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.76カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。図12は、C/20〜4Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.82カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを提供する。観測されたこれらの放電プロファイルは、下記第一の放電電池反応と一致する。
CFx + Li+ + xe− → C + xLiF (3.2V−1.5V対Li)
【0075】
[097] 図13〜図15は、いくつかの正極炭素質活物質についてのサイクル試験を示すプロットを提供する。図13は、電圧範囲1.5V〜4.6VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを提供する。電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。図14は、電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを提供する。電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。図15は、電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF1正極についての充電−放電プロファイルを提供する。電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。これらの図は、試験した正極材料、特にCFx、x=0.82、MWNT(図13及び図14を参照のこと)が安定したサイクル容量を循環させ示す能力があることを示している。図16は、4.6V及び4.8VにおけるCFx、x=0.82、MWNT正極を有するLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対時間(時間)のプロットを提供する。4.6Vから4.8Vへの充電電圧の増加に対応する放電容量の0.25%増加が観測される。図17は、4.8V〜5.4Vの範囲に及ぶ電圧におけるCF0.647KS15正極を有するLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対相対容量(%)のプロットを提供する。図17に示すように、CF0.647KS15正極の容量は、4.8V〜5.4Vの範囲にわたって充電カットオフ電圧が高くなるにつれて増大した。図16及び図17は、試験したCFx材料についての充電電圧の上昇から生じる放電容量の測定可能な増加を示す。図13〜図17に示す観測された充電−放電プロファイルは、
【化18】
(1.5V〜最大4.8V対Li)(A−=アニオン=F−)のサイクル電池反応と一致し、Li+がサイクル反応に関与していないことを実証している。
【0076】
[098] 図18は、市販のCF1、部分フッ素化KS15黒鉛(CFx、x=0.53&0.647)並びに部分フッ素化MWNT(CFx、x=0.21、0.59、0.76及び0.82)を含めた、評価した様々な正極材料についてのサイクル数に対する放電容量(mAh/g−C)のサイクル容量曲線を提供する。これらの測定についての充電電圧は、4.8Vの充電電圧に対応する一番上のプロット(点鎖線)と、活物質がCFx、x=0.82である部分フッ素化MWNTを含む正極を除いて4.6Vであった。図16及び図17に示す充電−放電プロファイルと同様に、充電電圧を4.6Vから4.8Vへ上昇させると、CFx、x=0.82である部分フッ素化MWNTについて放電容量の著しい増加が観測される。
【0077】
[099] 図18に示すように、市販のCF1正極活物質を有する電池構成は、最初の放電時にCF1の構造的完全性(structural integrity)の大幅な劣化が生じる可能性が最も高いために、あまり優れたサイクルを示さない。この正極活物質の気孔率が、フッ化物イオンとリチウムイオンとの間の反応によって始まる剥離によって生じることがある正極活物質の劣化の一因となった可能性が高い。対照的に、調査した部分フッ素化炭素質材料(たとえば、黒鉛、MWNT)は、非常に優れたサイクル性能を示す。これは、市販のCFx、x=1と比較して、これらの材料のフッ素量がより少なく気孔率が低いためである可能性が高い。部分フッ素化MWNTは、その機械的完全性(mechanical integrity)が黒鉛及び市販のCF1と比較してより優れている可能性が高いため、最良のサイクル性能をもたらすことに留意することが重要である。
【0078】
[0100] 図18に示すデータは、正極がCFx、x=0.82である部分フッ素化MWNTを含む活物質を有するLi/CFx半電池構造において120mAh/g−Cの再充電可能容量が実現され、4.8Vまで2Cレートで充電されたことを実証している。比較のために、図20は、LiMn2O4正極についての放電率能力のプロットを提供する。これらの測定値は、マルチウォールカーボンナノチューブで作製された部分フッ素化CFx材料がリチウム充電式電池における正極としての市販のLiMn2O4よりも性能が優れていることを示している。
【0079】
[0101] 図19は、4.6V〜4.8Vに等しい電圧におけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての放電サイクル対サイクル数のプロットを提供する。これらのプロットにおいて、放電容量(y軸、mAh/g−C)は、任意単位のサイクル数に対するプロットである。図19は、少なくとも約50サイクルの間、この正極活物質について安定な放電特性が観測されることを示している。
【0080】
[0102] フッ化物イオンが電極における酸化及び還元反応に関与していたことを確認するために、異なる実験条件下で正極のX線回折パターンを取得した。図21Aは、X線回折パターンを取った2つの時点(1)及び(2)を示す放電電圧対時間のプロットを提供する。未使用の正極についてもX線回折パターンを得た。薄い黒鉛電極を使用した(厚さ50ミクロンで3〜4mg)。図21Bは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを示す。図21Cは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを倍尺で示す。
【0081】
[0103] 5.2Vまでの充電及びその後に続く3.2Vまでの放電に対応する図21B及び図21Cの回折パターンは、層間フッ化物イオン(段階2及び段階3の混合物)の段階形成を示す。特に、(002)−2、(003)−3及び(004)−3ピークの出現は、充電及び放電時には層間フッ化物アニオンが存在することを示している。未使用の正極と、5.2Vの正極と、3.2Vの正極とに対応する回折パターンの比較によって示されるように、黒鉛相が5.2Vまで充電すると完全に消失し、3.2Vまで放電すると再び現れる。3.2Vに対応する回折パターン中に存在するC(002)の黒鉛ピークは、フッ化物イオンのデインターカレーション(de−intercalation)時に黒鉛が存在することを示す。さらに、3.2Vの回折パターンにおけるC(002)の黒鉛ピークの鋭いピーク幅は、充電及び放電時に黒鉛がその構造的完全性を維持していることを示している。この結果は、フッ化物イオンのインターカレーション及びデインターカレーションプロセスが可逆的で、結晶性黒鉛から非晶質炭素相への相変化がないことを実証している。これらの結果は、下記サイクル電池反応と一致し、
【化19】
(1.5V〜最大4.8V対Li)(A−=アニオン=F−)、
Li+がサイクル反応に関与していないさらなる証拠を提供する。
【0082】
[0104] 正極向け部分フッ素化グラファイト活物質の組成をさらに特徴付けるために、5.2Vまでの電気化学セルの充電に対応する条件について電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を取得した。EELSは、試料中の元素の存在に対して非常に敏感で、材料中の元素を非常に正確に同定することができるため、材料の元素組成を特徴付けるために有用な技法である。図22は、5.2Vまで充電した正極活物質のEELSスペクトルを提供する。図22にはピークが2つだけ示されているが、これらのピークは共に、正極活材料中のフッ素の存在に割り当てることができる。BやPなど他の非炭素元素に対応するピークは存在しない。この観測は、PF6−やBF4−など電解質中の他のアニオンが挿入されなかった証拠を提供する。
1.d.結論
【0083】
[0105] 部分フッ素化炭素材料、CFxは、フッ化物アニオン充電式電池向け正極材料の優れた例である。それらは、安定なサイクル寿命、高容量、高放電電圧及び高レート能力(high rate capability)を示す。電子エネルギー損失分光法を伴うX線回折法は、電荷キャリアフッ化物アニオンが炭素マトリックスに可逆的に挿入されること、後者が黒鉛、コークス又はマルチウォールカーボンナノチューブで構成されているかどうかを示す。フッ化物アニオンインターカレーションの、LixC6負極へのリチウムカチオンインターカレーションとの類似性を引き出すステージング(staging)が生じる。フッ化物アニオン貯蔵容量が、充電カットオフ電圧と共に4.5Vと5.5Vとの間で約150%増大する。
実施例2:フッ化物イオン電気化学セル向けアニオン及びカチオン受容体
【0084】
[0106] この実施例は、本発明において有用なアニオン及びカチオン受容体の概要を提供する。フッ化物塩の溶解度を高めることができ、また本発明の電気化学セルにおける電解質のイオン伝導率を高めることができる複数のフッ化物イオン受容体を具体的に例示する。
【0085】
[0107] 一実施形態において、本発明の電解質は、下記化学構造AR1を有するアニオン受容体を含む。
【化20】
式中、R1、R2及びR3は独立に、F、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、芳香族、エーテル又はチオエーテルを含めた1つ又は複数のハロゲンで場合により置換された、アルキル基、芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、複素環基、アリール基又はヘテロアリール基からなる群から選択される。
【0086】
[0108] 一実施形態において、本発明の電解質は、下記化学構造AR2を有する、ボラートをベースとするアニオン受容体化合物を含む。
【化21】
式中、R4、R5及びR6は、F、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、芳香族、エーテル又はチオエーテルを含めた1つ又は複数のハロゲンで場合により置換された、アルキル基、芳香族基、複素環基、アリール基又はヘテロアリール基からなる群から選択される。一実施形態においては、R4、R5及びR6が同一である。一実施形態においては、R4、R5及びR6がそれぞれFを有する部分である。
【0087】
[0109] 一実施形態において、本発明の電解質は、下記化学構造AR3を有する、フェニルボロンをベースとするアニオン受容体化合物を含む。
【化22】
式中、R7及びR8は、F、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、芳香族、エーテル又はチオエーテルを含めた1つ又は複数のハロゲンで場合により置換された、アルキル基、芳香族基、複素環基、アリール基又はヘテロアリール基からなる群から選択される。一実施形態においては、R7及びR8が同一である。一実施形態においては、R7及びR8がそれぞれFを有する部分である。一実施形態においては、R7及びR8が一緒に、下記化学式AR4によって示されるように、Fである置換基及びそれら自体がFを有する部分である置換基を含めた、場合により置換されたフェニルを含めた芳香族から選択される。
【化23】
式中、XA及びXBは、Fを含めたハロゲン類、アルキル、アルコキシド、チオール、チオアルコキシド、エーテル又はチオエーテルからなる群から独立に選択される1つ又は複数の水素、或いは非水素の環置換基を示す。一実施形態においては、これらの置換基の少なくとも1つがFを有する部分である。
【0088】
[0110] 一実施形態においては、本発明の電解質が、下記化学構造AR5を有するトリス(ヘキサフルオロイソプロピル)ボラート(THFIB;MW=511.9AMU)アニオン受容体、
【化24】
又は下記化学構造AR6を有するトリス(2,2,2−トリフルオロエチル)ボラート(TTFEB;MW=307.9AMU)アニオン受容体、
【化25】
又は下記化学構造AR7を有するトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFPB;MW=511.98AMU)アニオン受容体、
【化26】
又は下記構造AR8を有するビス(1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)ペンタフルオロフェニルボロナート(BHFIPFPB;MW−480.8AMU)アニオン受容体を含む。
【化27】
【0089】
[0111] 本発明の電解質において有用なアニオン受容体には、(CH3O)3B、(CF3CH2O)3B、(C3F7CH2O)3B、[(CF3)2CHO]3B、[(CF3)2C(C6H5)O]3B、((CF3)CO)3B、(C6H5O)3B、(FC6H4O)3B、(F2C6H3O)3B、(F4C6HO)3B、(C6F5O)3B、(CF3C6H4O)3B、[(CF3)2C6H3O]3B及び(C6F5)3Bからなる群から選択される式を有するアニオン受容体が含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
[0112] 本発明における有用なカチオン受容体には、クラウンエーテル類、ラリアートエーテル類、メタラクラウン(metallacrown)エーテル類、カリックスクラウン類(calixcrowns)(たとえば、カリックス(アザ)クラウン類)、テトラチアフルバレンクラウン類、カリックスアレン類、カリックス[4]アレンジキノン類、テトラチアフルバレン類、ビス(カリックスクラウン)テトラチアフルバレン類、及びこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
[0113] 以下の文献には、本発明の諸実施形態において有用なアニオン及び/又はカチオン受容体について記載されており、これらの文献は本開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書中に援用される。(1)Evidence for Cryptand−like Behavior in Bibracchial Lariat Ether(BiBLE) Complexes Obtained from X−ray Crystallography and Solution Thermodynamic Studies,Kristin A.Amold,Luis echeogoyen,Frank R.Fronczek,Richard D.Grandour,Vinicent J.Gatto,Banita D.White,George W.Gokel,J.Am.Chem.Soc.,109:3716−3721,1987;(2)Bis(calixcrown)tetrathiafulvalene Receptors.Maria−Jesus Blesa,Bang−Tun Zhao,Magali Allain,Franck Le Derf,Marc Salle,Chem.Eur.J.12:1906−1914,2006;(3)Studies on Calix(aza)crowns,II.Synthesis of Novel Proximal Doubly Bridged Calix[4]arenes by Intramolecular ring Closure of syn 1,3− and 1,2− to ω−Chloraolkylamides,Istavan Bitter,Alajos Grun,Gabor Toth,Barbara Balazs,Gyula Horvath,Laszlo Toke,Tegrahedron 54:3857−3870,1998;(4)Tetrathiafulvalene Crowns:Redox Switchable Ligands,Franck Le Derf,Miloud Mazari,Nicolas Mercier,Eric Levillain,Gaelle Trippe,Amedee Riou,Pascal Richomme,Jan Becher,Javier Garin,Jesus Orduna,Nuria Gallego−Planas,Alain Gorgues,Marc Salle,Chem.Eur.J.7,2:447−455,2001;(5)Electrochemical Behavior of Calix[4]arenediquinones and Their Cation Binding Properties,Taek Dong Chung,Dongsuk Choi,Sun Kil Kang,Sang Swon Lee,Suk−Kyu Chang,Hasuck Kim,Journal of Electroanalytical Chemistry,396:431−439,1995;(6)Experimental Evidence for Alkali Metal Cation−π Interactions,George W.Gokel,Stephen L.De Wall,Eric S.Meadows,Eur.J.Chem,2967−2978,2000;(7)π−Electron Properties of Large Condensed Polyaromatic Hydrocarbons,S.E.Stein,R.L.Brown,J.Am.Chem.Soc.,109:3721−3729,1987;(8)Self−Assembled Organometallic[12]Metallacrown−3 Complexes,Holger Piotrowski,Gerhard Hilt,Axel Schulz,Peter Mayer,Kurt Polborn,Kay Severin,Chem.Eur.J.,7,15:3197−3207,2001;(9)First− and Second−sphere Coordination Chemistry of Alkali Metal Crown Ether Complexes,Jonathan W.Steed,Coordination Chemistry Reviews 215:171−221,2001;(10)Alkali metal ion complexes of functionalized calixarenes−competition between pendent arm and anion bond to sodium;R.Abidi,L.Baklouti,J.Harrowfield,A.Sobolev;J.Vicens,and A.White,Org.Biomol.Chem,2003,1,3144−3146;(11)Transition Metal and Organometallic Anion Complexation Agents,Paul D.Beer,Elizabeth J.Hayes,Coordination Chemistry Review,240:167−189,2003;(12)Versatile Self−Complexing Compounds Based on Covalently Linked Donor−Acceptor Cyclophanes,Yi Liu,Amar H.Flood,Ross M.Moskowitz,J.Fraser Stoddart,Chem.Eur.J.11:369−385,2005;(13)Study of Interactions of Various Ionic Species with Solvents Toward the Design of Receptors,N.Jiten singh,Adriana C.Olleta,Anupriya Kumar,Mina Park,Hai−Bo Yi,Indrajit Bandyopadhyay,Han Myoung Lee,P.Tarakeshwar,Kwang S.Kim,Theor.Chem.Acc.115:127−135,2006;(14)A Calixarene−amide−tetrathiafulvalene Assembly for the Electrochemical Detection of Anions,Bang−Tun Zhao,Maria−Jesus Blesa,Nicolas Mercier,Franck Le Derf,Mark Salle,New J.Chem.29:1164−1167,2005。
【0092】
[参照による援用及びバリエーションに関する陳述]
[0114] 本願を通してすべての文献が、たとえば、発行又は登録された特許又は均等物、特許出願公報、並びに非特許文献又は他の原資料を含む特許文献が、各文献が本願の開示と少なくとも部分的には矛盾しない範囲で、あたかも参照により個別に援用されているかのように、参照によりそれら全体が本明細書中に援用される(たとえば、部分的に矛盾している文献は、この文献の部分的に矛盾している部分を除いて参照により援用される)。
【0093】
[0115] 本明細書中で採用されている用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、このような用語及び表現を使用する際に、示され説明されている特徴又はその一部の均等物を除外する意図はなく、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内で様々な変更形態が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい諸実施形態、例示的な諸実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に説明してきたが、本明細書中に開示されている概念の改良及びバリエーションを当業者が用いることができること、またこのような改良及びバリエーションは添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲内にあると見なされることを理解されたい。本明細書中に提供されている特定の諸実施形態は、本発明の有用な諸実施形態の例であり、本説明に記載されているデバイス、デバイス構成要素、方法ステップの多くの変形形態を用いて本発明を実施することができることが当業者には明らかであろう。当業者には明らかなように、本発明の方法に有用な方法及びデバイスには、多くの任意選択の組成物及び加工要素並びにステップを含めることができる。
【0094】
[0116] 本明細書中に置換基群が開示されている場合、群の要素の任意の異性体、エナンチオマー及びジアステレオマーを含め、その群及びすべての部分群のすべての個々の要素が別個に開示されているものと理解される。本明細書中でマーカッシュ群又は他の分類が使用されている場合、その群のすべての個々の要素、並びにその群の可能な組合せ及び下位の組合せのすべてが、本開示に個々に含まれるものとする。ある化合物が、その化合物の特定の異性体、エナンチオマー又はジアステレオマーを、たとえば、式で又は化学名で明記しないように本明細書中に記載されている場合、その記載は、記載されている化合物の各異性体及びエナンチオマーを個々に又は任意の組合せで含むものとする。加えて、他に特に規定がなければ、本明細書中に開示されている化合物のすべての同位体変異形が、本開示に包含されるものとする。たとえば、開示されている分子中の任意の1つ又は複数の水素を、重水素又は三重水素で置き換えることができることが理解されよう。分子の同位体変異形は通常、その分子についての検定における基準として、またその分子又はその分子の使用に関連する化学的及び生物学的研究において有用である。このような同位体変異形を製造するための方法は、当技術分野で公知である。化合物の具体的な名称は例示的なものであることを意図している。というのは、当業者が同じ化合物に異なる名称を付けることができるからである。
【0095】
[0117] 本明細書中に開示されている分子の多くは、1種又は複数種のイオン性基[そこからプロトンを取り除く(たとえば、−COON)又はプロトンを付加する(たとえば、アミン類)ことができる或いは四級化する(たとえば、アミン類)ことができる基]を含む。このような分子の可能なすべてのイオン型及びその塩が、本明細書中の開示に個々に含まれるものとする。本明細書中の化合物の塩に関しては、所与の用途のための本発明の塩の調製に適している様々な利用可能な対イオンの中から当業者が選択することができる。具体的な用途においては、塩の調製のための所与のアニオン又はカチオンの選択により、その塩の溶解度を増大又は減少させることができる。
【0096】
[0118] 本明細書中に記載又は例示されている成分のすべての調合又は組合せを、特に明記しない限り、本発明を実施するために使用することができる。
【0097】
[0119] ある範囲、たとえば、温度範囲、時間範囲、又は組成若しくは濃度範囲が本明細書中に与えられている場合、すべての中間範囲及び部分的範囲、並びに与えられている範囲内に含まれるすべての個々の値が本開示に含まれるものとする。本明細書中の記載に含まれるある範囲又は部分的範囲内の任意の部分的範囲又は個々の値を、添付の特許請求の範囲から除外することができることが理解されよう。
【0098】
[0120] 本明細書中に言及されている特許及び公報はすべて、本発明に関係する当業者の技術レベルを示す。本明細書中で引用されている文献は、それらの公開日又は出願日時点における最先端技術を示すために、参照によりそれら全体が本明細書中に援用され、この情報は、従来技術にある特定の諸実施形態を除外するために必要に応じて本明細書中で採用することができるものとする。たとえば、当該組成物が特許請求の範囲に記載されている場合、本明細書中で引用されている文献に実施可能な程度の開示が提供されている化合物を含め、出願人の発明よりも前に当技術分野で公知且つ入手可能な化合物は、添付の特許請求の範囲の当該組成物には含まれないものとすることを理解されたい。
【0099】
[0121] 本明細書中で使用される「comprising(含む)」は、「including」、「containing」又は「characterized by」と同義で、また包括的又は非限定的であり、追加の記載されていない要素又は方法ステップを排除しない。本明細書中で使用される「consisting of(からなる)」は、請求項の要素に規定されていないいかなる要素、ステップ又は成分も除外する。本明細書中で使用される「consisting essentially of(から本質的になる)」は、請求項の基本的な新規の特徴に実質的には影響を及ぼさない材料又はステップについては除外しない。本明細書中の各例においては、用語「comprising(含む)」、「consisting essentially of(から本質的になる)」及び「consisting of(からなる)」のいずれかを、他の2つの用語のうちの一方と置き換えることができる。本明細書中に適切に事例的に記載されている本発明は、本明細書中に具体的に開示されていない任意の1つ又は複数の要素、すなわち1つ又は複数の限定なしでも実施することができる。
【0100】
[0122] 本発明の実施に際して、具体的に例示されているモノ以外の出発材料、生物学的材料、試薬、合成方法、精製方法、分析方法、検定方法、生物学的方法を、過度の実験なしに採用することができることが当業者には理解されよう。任意のこのような材料及び方法の、当技術分野で公知の機能的均等物のすべてが本発明に含まれるものとする。採用されている用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、このような用語及び表現を使用する際に、示され説明されている特徴又はその一部の均等物を除外する意図はなく、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内で様々な変更形態が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい諸実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に説明してきたが、本明細書中に開示されている概念の改良及びバリエーションを当業者が用いることができること、またこのような改良及びバリエーションは添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲内にあると見なされることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】[035] 図1Aは、充電時のリチウムイオン電池を示す概略図であり、図1Bは、放電時のリチウムイオン電池を示す概略図である。
【図2】[036] 異なる負極及び正極材料の平均作用電位、並びに従来のリチウムイオン電池についての電池電圧を示す概略図である。
【図3A】[037] 図3Aは、放電時の本発明のフッ化物イオン電池(FIB)を示す概略図である。
【図3B】図3Bは、LaF3−x負極と、CFx正極と、有機電解質中に設けられる式中MがKやRbなどの金属であるMFを含む電解質とに対応する一実施形態例についての平均作用電位を示す概略図である。
【図4】[038] フッ化炭素の結晶構造を提供する図である。
【図5】[039] 評価する様々な正極電極材料によるX線回折パターン(CuKα線)を提供する図であり、カーボンナノファイバー、KS15及び市販のCF1についての回折パターンを示す。
【図6】[040] C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF1正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図7】[041] C/20〜Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.530KS15正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図8】[042] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.647KS15正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図9】[043] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.21カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図10】[044] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.59カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図11】[045] C/20〜6Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.76カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図12】[046] C/20〜4Cの範囲に及ぶ様々な放電率について、室温におけるCF0.82カーボンナノファイバー正極についての放電プロファイルを示す図である。
【図13】[047] 電圧範囲1.5V〜4.6VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを示す図であり、電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。
【図14】[048] 電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての充電−放電プロファイルを示す図であり、電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。
【図15】[049] 電圧範囲1.5V〜4.8VにおけるCF1正極についての充電−放電プロファイルを示す図であり、電圧がY軸(左側)上にプロットされ、電流がY軸(右側)にプロットされ、時間がX軸上にプロットされている。
【図16】[050] 4.6V及び4.8VにおけるLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対時間(時間)のプロットを示す図であり、4.8Vで放電容量の0.25%増加が観測される。
【図17】[051] 4.8V〜5.4Vの範囲に及ぶ電圧におけるCF0.647KS15正極を有するLi/CFx半電池構成についての電圧(V)対相対容量(%)のプロットを示す図であり、示すように、CF0.647KS15正極の容量は、4.8V〜5.4Vの範囲にわたって充電カットオフ電圧が高くなるにつれて増大した。
【図18】[052] 評価した様々な正極材料についてのサイクル数に対する放電容量(mAh/g−C)のサイクル容量曲線を示す図であり、このデータは、Li/CFx半電池構造において120mAh/g−Cの再充電可能容量が実現され、2Cレートで4.8Vまで充電されたことを実証している。
【図19】[053] 14.6V〜4.8Vに等しい電圧におけるCF0.82マルチウォールナノチューブ正極についての放電サイクル対サイクル数のプロットを示す図である。
【図20】[054] LiMn2O4正極についての放電率能力のプロットを示す図である。
【図21】[055] 図21Aは、X線回折パターンを取った2つの時点(1)及び(2)を示す放電電圧対時間のプロットを示す図であり、薄い黒鉛電極を使用した(厚さ50ミクロンで3〜4mg)。図21Bは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを示す図である。
【図21C】図21Cは、図21Aに示す2つの時点(1)及び(2)で取得したX線回折パターンを倍尺で示す図である。図21B及び図21Cの回折パターンは、層間フッ化物イオン(段階2及び段階3の混合物)の段階形成を示し、図21B及び図21Cの回折パターンには、黒鉛相が5.2Vで完全に消失し、3.2Vで再び現れたことも示されている。
【図22】[056] 5.2Vまで充電した正極材料の電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を示す図であり、試料においては純粋なフッ素のみが検知され、BやPなど他の種は存在しないことにより、電解質中の他のアニオンが挿入されなかったことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられ、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質とを備える電気化学セルであって、
前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記アニオン電荷キャリアを可逆的に交換する電気化学セル。
【請求項2】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記電解質が溶媒及びフッ化物塩を含み、前記フッ化物塩が少なくとも部分的には溶解した状態で前記電解質中に存在し、それにより前記電解質中に前記フッ化物イオンが発生する、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記フッ化物塩が式MFnを有し、式中、Mが金属であり、nが0よりも大きい整数である、請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項5】
Mがアルカリ金属又はアルカリ土類金属である、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
Mがリチウム以外の金属である、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項7】
Mが、Na、K又はRbである、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記アニオン電荷キャリアが、
【化1】
からなる群から選択される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記アニオン電荷キャリアが、OH−及びHSO4−以外のアニオン、或いはSO42−である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記電解質がアニオン受容体をさらに含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記電解質が、前記フッ化物塩からのフッ化物イオンを配位させることができるフッ化物イオンアニオン受容体をさらに含む、請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記電解質が、前記フッ化物塩からの金属イオンを配位させることができるカチオン受容体をさらに含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記電解質が水性電解質である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記電解質が非水電解質である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)であり、前記負極がフッ化物イオンホスト材料である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料がフッ化物化合物である、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料が、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFxからなる群から選択される、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料が、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンからなる群から選択されるポリマーである、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項19】
前記負極の標準電極電位が−1V以下である、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項20】
前記負極の標準電極電位が−2V以下である、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項21】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)であり、前記正極がフッ化物イオンホスト材料である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項22】
前記正極のフッ化物イオンホスト材料が、フッ化物イオン層間化合物が生成されるようにフッ化物イオンを収容することができるインターカレーションホスト材料である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項23】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、フッ化物化合物である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項24】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxからなる群から選択される組成物である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項25】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、式中xが炭素原子に対するフッ素原子の平均原子比率であり、約0.3〜約1.0の範囲から選択される式CFxを有する部分フッ素化炭素質材料であり、前記炭素質材料が、黒鉛、コークス、多層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノ繊維、多層カーボンナノ粒子、炭素ナノウイスカ及び炭素ナノロッドからなる群から選択される、請求項24に記載の電気化学セル。
【請求項26】
前記正極の標準電極電位が1V以上である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項27】
前記正極の標準電極電位が2V以上である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項28】
前記正極及び前記負極が、異なるフッ化物アニオンホスト材料である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項29】
前記正極が第一のアニオン電荷キャリアホスト材料を含み、前記負極が第二のアニオン電荷キャリアホスト材料を含み、前記第一及び第二のアニオン電荷キャリアホスト材料の組合せ(X/Y)が、CFx/LiC6、CFx/LaFx、CuFx/LaFx、AgFx/LaFx、CoFx/LaFx、NiFx/LaFx、MnFx/LaFx、CuFx/AlFx、AgFx/AlFx、NiFx/AlFx、NiFx/ZnFx、AgFx/ZnFx及びMnFx/ZnFxからなる群から選択される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項30】
約3.5V以上の標準電池電圧を有する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項31】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオンであり、前記電気化学セルの放電中、フッ化物イオンが前記正極から放出され、前記負極によって収容される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項32】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオンであり、前記電気化学セルの充電中、フッ化物イオンが前記負極から放出され、前記正極によって収容される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項33】
一次電気化学セルを備える、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項34】
二次電気化学セルを備える、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項35】
約500サイクル以上のサイクル寿命を有する、請求項34に記載の電気化学セル。
【請求項36】
約300Wh・kg−1以上の比エネルギーを有する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項37】
前記正極、電解質及び負極がリチウムを含まない、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項38】
第一のフッ化物イオンホスト材料を含み、第一の標準電極電位を有する正極と、
第二のフッ化物イオンホスト材料を含み、第二の標準電極電位を有する負極であって、前記第一の標準電極電位と前記第二の標準電極電位との差が約3.5V以上である負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられ、フッ化物イオン電荷キャリアを伝導することができ、フッ化物塩及び溶媒を含む電解質であって、前記フッ化物塩の少なくとも一部が溶解した状態で存在し、それにより前記電解質中に前記フッ化物イオン電荷キャリアが発生する電解質と、
を備える二次電気化学セルであって、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記フッ化物イオン電荷キャリアを可逆的に交換する二次電気化学セル。
【請求項39】
前記フッ化物塩が式MFnを有し、式中、Mが金属であり、nが0よりも大きい整数である、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項40】
Mが、Na、K又はRbである、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項41】
前記電解質が、アニオン受容体、カチオン受容体又は両方をさらに含む、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項42】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料が、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFxからなる群から選択される、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項43】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxからなる群から選択される組成物である、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項44】
電気化学セルを作製する方法であって、
正極を設けるステップと、
負極を設けるステップと、
前記正極と前記負極との間に、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質を設けるステップと、
を含む方法であって、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記アニオン電荷キャリアを可逆的に交換する方法。
【請求項45】
電流を発生させる方法であって、
電気化学セルを提供するステップと、
前記電気化学セルを放電するステップと
を含み、前記電気化学セルが、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられ、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質と、
を備え、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記アニオン電荷キャリアを可逆的に交換する方法。
【請求項46】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンからなる群から選択されるポリマーである、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられ、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質とを備える電気化学セルであって、
前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記アニオン電荷キャリアを可逆的に交換する電気化学セル。
【請求項2】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記電解質が溶媒及びフッ化物塩を含み、前記フッ化物塩が少なくとも部分的には溶解した状態で前記電解質中に存在し、それにより前記電解質中に前記フッ化物イオンが発生する、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記フッ化物塩が式MFnを有し、式中、Mが金属であり、nが0よりも大きい整数である、請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項5】
Mがアルカリ金属又はアルカリ土類金属である、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
Mがリチウム以外の金属である、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項7】
Mが、Na、K又はRbである、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記アニオン電荷キャリアが、
【化1】
からなる群から選択される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記アニオン電荷キャリアが、OH−及びHSO4−以外のアニオン、或いはSO42−である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記電解質がアニオン受容体をさらに含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記電解質が、前記フッ化物塩からのフッ化物イオンを配位させることができるフッ化物イオンアニオン受容体をさらに含む、請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記電解質が、前記フッ化物塩からの金属イオンを配位させることができるカチオン受容体をさらに含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記電解質が水性電解質である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記電解質が非水電解質である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)であり、前記負極がフッ化物イオンホスト材料である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料がフッ化物化合物である、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料が、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFxからなる群から選択される、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料が、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンからなる群から選択されるポリマーである、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項19】
前記負極の標準電極電位が−1V以下である、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項20】
前記負極の標準電極電位が−2V以下である、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項21】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオン(F−)であり、前記正極がフッ化物イオンホスト材料である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項22】
前記正極のフッ化物イオンホスト材料が、フッ化物イオン層間化合物が生成されるようにフッ化物イオンを収容することができるインターカレーションホスト材料である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項23】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、フッ化物化合物である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項24】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxからなる群から選択される組成物である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項25】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、式中xが炭素原子に対するフッ素原子の平均原子比率であり、約0.3〜約1.0の範囲から選択される式CFxを有する部分フッ素化炭素質材料であり、前記炭素質材料が、黒鉛、コークス、多層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノ繊維、多層カーボンナノ粒子、炭素ナノウイスカ及び炭素ナノロッドからなる群から選択される、請求項24に記載の電気化学セル。
【請求項26】
前記正極の標準電極電位が1V以上である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項27】
前記正極の標準電極電位が2V以上である、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項28】
前記正極及び前記負極が、異なるフッ化物アニオンホスト材料である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項29】
前記正極が第一のアニオン電荷キャリアホスト材料を含み、前記負極が第二のアニオン電荷キャリアホスト材料を含み、前記第一及び第二のアニオン電荷キャリアホスト材料の組合せ(X/Y)が、CFx/LiC6、CFx/LaFx、CuFx/LaFx、AgFx/LaFx、CoFx/LaFx、NiFx/LaFx、MnFx/LaFx、CuFx/AlFx、AgFx/AlFx、NiFx/AlFx、NiFx/ZnFx、AgFx/ZnFx及びMnFx/ZnFxからなる群から選択される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項30】
約3.5V以上の標準電池電圧を有する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項31】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオンであり、前記電気化学セルの放電中、フッ化物イオンが前記正極から放出され、前記負極によって収容される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項32】
前記アニオン電荷キャリアがフッ化物イオンであり、前記電気化学セルの充電中、フッ化物イオンが前記負極から放出され、前記正極によって収容される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項33】
一次電気化学セルを備える、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項34】
二次電気化学セルを備える、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項35】
約500サイクル以上のサイクル寿命を有する、請求項34に記載の電気化学セル。
【請求項36】
約300Wh・kg−1以上の比エネルギーを有する、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項37】
前記正極、電解質及び負極がリチウムを含まない、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項38】
第一のフッ化物イオンホスト材料を含み、第一の標準電極電位を有する正極と、
第二のフッ化物イオンホスト材料を含み、第二の標準電極電位を有する負極であって、前記第一の標準電極電位と前記第二の標準電極電位との差が約3.5V以上である負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられ、フッ化物イオン電荷キャリアを伝導することができ、フッ化物塩及び溶媒を含む電解質であって、前記フッ化物塩の少なくとも一部が溶解した状態で存在し、それにより前記電解質中に前記フッ化物イオン電荷キャリアが発生する電解質と、
を備える二次電気化学セルであって、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記フッ化物イオン電荷キャリアを可逆的に交換する二次電気化学セル。
【請求項39】
前記フッ化物塩が式MFnを有し、式中、Mが金属であり、nが0よりも大きい整数である、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項40】
Mが、Na、K又はRbである、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項41】
前記電解質が、アニオン受容体、カチオン受容体又は両方をさらに含む、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項42】
前記負極の前記フッ化物イオンホスト材料が、LaFx、CaFx、AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、LixGe、Lix(CoTiSn)、SnFx、InFx、VFx、CdFx、CrFx、FeFx、ZnFx、GaFx、TiFx、NbFx、MnFx、YbFx、ZrFx、SmFx、LaFx及びCeFxからなる群から選択される、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項43】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、CeFx、MnFx、AuFx、PtFx、RhFx、VFx、OsFx、RuFx及びFeFxからなる群から選択される組成物である、請求項38に記載の電気化学セル。
【請求項44】
電気化学セルを作製する方法であって、
正極を設けるステップと、
負極を設けるステップと、
前記正極と前記負極との間に、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質を設けるステップと、
を含む方法であって、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記アニオン電荷キャリアを可逆的に交換する方法。
【請求項45】
電流を発生させる方法であって、
電気化学セルを提供するステップと、
前記電気化学セルを放電するステップと
を含み、前記電気化学セルが、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられ、アニオン電荷キャリアを伝導することができる電解質と、
を備え、前記正極及び負極が、前記電気化学セルの充電又は放電中に前記電解質と前記アニオン電荷キャリアを可逆的に交換する方法。
【請求項46】
前記正極の前記フッ化物イオンホスト材料が、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリパラフェニレンからなる群から選択されるポリマーである、請求項21に記載の電気化学セル。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図21C】
【図22】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図21C】
【図22】
【公表番号】特表2009−529222(P2009−529222A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558474(P2008−558474)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/063170
【国際公開番号】WO2007/146453
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(399129696)カリフォルニア・インスティテュート・オブ・テクノロジー (11)
【氏名又は名称原語表記】CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/063170
【国際公開番号】WO2007/146453
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(399129696)カリフォルニア・インスティテュート・オブ・テクノロジー (11)
【氏名又は名称原語表記】CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]