説明

フッ素化ナノダイヤモンドを含むヴィトン定着器部材

【課題】定着器の最外層の機械的性質及び耐摩耗性を改善するためのコーティング組成物を提供する。
【解決手段】エラストマーポリマー122と、エラストマーポリマー122に混合された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125とを含むコーティング組成物であり、複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125の各粒子がダイヤモンドコアの上に化学的に活性なシェル層を有し、該シェル層がフッ素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、静電写真装置のために用いられる定着器部材に関し、より詳細には、エラストマーマトリックス中に分散されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子を含む最外層を有する定着器部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼログラフィ、電子写真画像形成又は静電写真画像形成としても知られる静電写真技術において、画像形成プロセスは、支持体表面(例えば、1枚の紙)上に可視のトナー像を形成することを含む。可視トナー像はしばしば、静電潜像を含む受光体から転写され、通常は、定着器部材を用いて支持体表面に固定又は定着されて恒久的な画像を形成する。
【0003】
現在の電子写真プロセスにおいて、2つの主要なタイプの定着器外層材料が定着技術のために用いられている。2つの主要なタイプの材料は、フッ素エラストマー、例えば、E.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、デラウェア州)のVITON(登録商標)、及びフッ素プラスチック、例えば、これもまたE.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、デラウェア州)のTEFLON(登録商標)を含む。
【0004】
VITON(登録商標)フッ素エラストマーは、定着器部材に衝撃エネルギーを吸収する能力を有する良好な機械的柔軟性を与えるために用いられる。また、VITON(登録商標)フッ素エラストマーは、高い印刷品質で高速動作を可能にする。VITON(登録商標)フッ素エラストマーは、「ゴム的」性質をより多く有し、剥離剤又は定着オイルと組み合わせて用いることができる。
【0005】
TEFLON(登録商標)フッ素プラスチックは、オイルレス定着用に広く用いられており、すなわち定着動作の間に定着オイルを必要としない。TEFLON(登録商標)フッ素プラスチックは、順応性のシリコーン層の上に配置されたTEFLON(登録商標)PFA(パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー)表面を含むことができ、これにより、粗い紙固定及び良好な均一性を可能にする。さらに、TEFLON(登録商標)PFA表面は、定着器部材に対して耐熱性/耐化学薬品性を与えることができる。しかしながら、TEFLON(登録商標)材料の機械的強度が十分でないこと、及び耐摩耗性が劣ることに起因する問題がいまだに生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの問題を解決する従来の手法は、定着器部材の最外層材料に充填剤を添加することを含む。従来の充填剤は、カーボンブラック、金属酸化物、及びカーボンナノチューブ(CNT)を含む。しかしながら、最外層定着器材料の機械的性質(例えば、弾性率及び/又は硬度)及び耐摩耗性をさらに改善するための他の充填剤が、依然として所望されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】本教示の種々の実施形態による、フッ素化ダイヤモンド含有粒子のために用いられるダイヤモンドコアの例示的な構造を示す模式図である。
【図1B】本教示の種々の実施形態による、例示的な定着器ロール部材の部分を示す。
【図1C】本教示の種々の実施形態による、図1Bの定着器部材のために用いられる例示的な最外層を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
例示的な実施形態は、最外層定着器材料及び関連の定着器部材用のコーティング組成物のための材料及び方法を提供する。コーティング組成物及び最外層定着器材料は、1つ又はそれ以上のエラストマーポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子を含むことができる。開示された最外層定着器材料を含む定着器部材は、電子写真印刷装置及びプロセスにおいて用いることができる。例示的な定着器部材は、改善された機械的性質、表面耐摩耗性、及び寿命を有することができる。
【0009】
本明細書において用いられる場合、特に断りのない限り、「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」という用語は、フッ素の原子を含むいずれかの「ダイヤモンド含有粒子」のことを指す。例えば、「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」は、ダイヤモンド含有粒子に物理的に結合した(例えば、イオン結合、水素結合、又はファンデルワールス)又は化学的に結合した(すなわち共有結合)フルオロ官能基を含むことができる。
【0010】
本明細書において用いられる場合、特に断りのない限り、「ダイヤモンド含有粒子」は、化学的に不活性なダイヤモンドコアの周囲に化学的に活性なシェル層を有するコア−シェル構造を含むことができる。例えば、化学的に活性なシェル層は、sp3炭素のダイヤモンドコアの周囲を殻で覆う、sp2炭素のカーボンブラックを含むことができる。sp2カーボンブラックシェルは、種々の官能基(フルオロ基を含む)で修飾することができるが、sp3ダイヤモンドコアは、ダイヤモンドコアの炭素が飽和しているので化学的に修飾することはできない。
【0011】
種々の実施形態において、「ダイヤモンド含有粒子」は粉末又は分散体の形態で、例えばNanoblox,Inc.(Boca Raton、フロリダ州)から商業的に入手することが可能である。市販のダイヤモンド含有粒子の例としては、50パーセントのsp3炭素コアと50パーセントのsp2炭素シェルとを含む未加工のナノダイヤモンドブラック(例えば、製品NB50)、及び90パーセントのsp3炭素コアと10パーセントのsp2炭素シェルとを含むナノダイヤモンドグレー(例えば、製品NB90)を挙げることができる。
【0012】
種々の実施形態において、「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」もまた、例えばNanoblox,Inc.(Boca Raton、フロリダ州)から商業的に入手することが可能である。市販のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の例としては、90パーセントのsp3炭素コアと、フッ素化された10パーセントのsp2炭素シェルとを含む製品NB90−Fを挙げることができる。
【0013】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、ダイヤモンド含有粒子の化学的に活性なシェル、例えばカーボンブラックsp2をフッ素化することによって形成することができる。例えば、コア−シェル型ダイヤモンド含有粒子は、フッ素と反応させることによって処理することができるが、その際、特定の所望の粒子を生成するためにフッ素の量を変化させることができる。種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、例えば、ポリ(カーボンジフルオライド)、ポリ(ジカーボンモノフルオライド)又はそれらの組合せと共に濃縮することができる。具体的には、ポリ(カーボンモノフルオライド)は式CFxを有することができ、式中、xはフッ素原子の数を表し、約0.01から約1.5までの数であり、一方、ポリ(ジカーボンモノフルオライド)は通常、当業者に知られているように(C2F)nという簡略表記で表記される。
【0014】
一般に、フッ素化は、ダイヤモンド含有粒子のカーボンブラックシェルを元素フッ素と共に約150℃から約600℃のような高温にて加熱することによって行うことができる。窒素のような希釈剤をフッ素に混合することが好ましいことがある。得られたフッ素化粒子の性質及び特性は、反応条件によって、及び得られた最終生成物におけるフッ素化度によって様々であり得る。最終生成物におけるフッ素化度は、プロセス反応条件、主として温度及び時間を変更することによって変化させることができる。例えば、温度が高いほど、及び時間が長いほど、フッ素含有量は高くなる。
【0015】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、総粒子重量の約1パーセントから約40パーセントまでの範囲のフッ素含有量を含むことができる。さらなる例において、フッ素含有量は、フッ素化ダイヤモンド含有粒子の総重量の約2パーセントから約30パーセントまでの範囲にわたることができ、又はいくつかの場合においては、総粒子重量の約5パーセントから約20パーセントまでの範囲にわたる。
【0016】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、さらなる機能性表面を提供するように表面修飾することができる。例えば、粒子の化学的に活性なシェル層を修飾して、−OH、−COOH、−NH2、アルキル、−SO3H、カルボキシル化アミン及び四級化アミンから成る群より選択される化学官能基のスペクトルを有するようにすることができる。
【0017】
これらの官能基は、例えばsp2カーボンブラックシェルに対して直接結合することができ、さらなる所望の性質をフッ素化ダイヤモンド含有粒子に対して与えることができる。例えば、−OH、−COOH、−NH2、アルキル、−SO3H又はそれらの組合せによって表面修飾された場合、修飾された「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」は、未修飾の「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」と比べて、ポリマー/有機系(例えば、フッ素エラストマー有機系)内でより良好に分散することができる。別の例において、四級化アミン、カルボキシル化アミン又はそれらの組合せによって表面処理された場合、修飾された「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」は、未修飾の「フッ素化ダイヤモンド含有粒子」と比べて、水性ポリマー系(例えば、水性フッ素樹脂系)内でより良好に分散することができる。
【0018】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、約1nmから約1000nm(1ミクロン)までのナノメートルの範囲のサイズを有するナノダイヤモンド粒子を含むことができる。種々の実施形態において、フッ素化ナノダイヤモンド含有粒子は、約1nmから約100nmまで、又は約20nmから約50nmまでの範囲のサイズを有することができる。サイズ範囲は、具体的な使用又は具体的な用途の構成に応じて変更することができることに留意されたい。
【0019】
本明細書において用いられる場合、平均粒径は、粒子の形状に基づくダイヤモンド含有粒子のいずれかの特徴的な寸法、例えば、当業者に公知の、重量による中央粒子サイズ(d50)のことを指す。平均粒径は、実質的に球形の粒子の直径又は不規則な形状の粒子の公称直径に関して与えることができる。さらに、粒子の形状はいかなる様式によっても制限されるものではない。そのようなナノ粒子は、円形、長円形、方形、自形などを含む多様な断面形状を取ることができる。
【0020】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、例えば、ナノスフェア、ナノチューブ、ナノファイバ、ナノシャフト、ナノピラー、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノニードル、及びそれらの種々の機能化され、派生したフィブリル形態などの形態を取ることができ、これは、例示的な形態として糸、ヤーン、織物などであるナノファイバを含む。他の種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、球形、ウィスカ、ロッド、フィラメント、かご型構造、バッキーボール(例えば、バックミンスターフラーレン)、及びそれらの混合物の形態とすることができる。
【0021】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、モース硬度スケールで約9から約10までの硬度を有するダイヤモンドコアを有することができ、モース硬度スケールでは10が最大値、例えば純粋なダイヤモンド粒子の値である。いくつかの実施形態において、ダイヤモンドコアは、約9.5から約10まで、又はいくつかの場合には約9.7から約10までの硬度を有することができる。
【0022】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子のダイヤモンドコアは、天然若しくは合成ダイヤモンド又はそれらの組合せから形成することができる。天然ダイヤモンドは典型的には面心立方晶構造を有し、その構造中で炭素原子は四面体結合しており、これはsp3結合として知られる。具体的には、各炭素原子は、正四面体の頂点に各々が位置する4つの他の炭素原子によって囲まれ、それらと結合している。さらに、どの2つの炭素原子間の結合長も、周囲温度にて1.54オングストロームであり、どの2つの結合間の角度も、109度である。天然ダイヤモンドの密度は約3.52g/cm3である。ダイヤモンドを形成するために正四面体(normal or regular tetrahedron)構造で結合した炭素原子の表現を図1Aに示す。1つの実施形態において、ナノダイヤモンドは、ダイヤモンドブレンドのデトネーションと、例えばその後の化学的精製によって生成することができる。
【0023】
合成ダイヤモンドは、化学気相成長又は高圧といった化学的又は物理的プロセスによって形成される、工業的に製造されたダイヤモンドである。天然由来のダイヤモンドと同様に、合成ダイヤモンドは三次元炭素結晶を含むことができる。合成ダイヤモンドは、非晶質形態の炭素であるダイヤモンド様炭素とは同じではないことに留意されたい。
【0024】
例示的な実施形態のために有用であり得る合成ダイヤモンドの例としては、多結晶ダイヤモンド及び金属結合ダイヤモンドを挙げることができる。多結晶ダイヤモンドは、化学気相成長によって、例えば厚さ約5mmまで及び直径約30cmまでの平坦なウェファとして、又はいくつかの場合には三次元形状として、成長させることができる。多結晶ダイヤモンドは、ポップコーン様構造を有することができる。ダイヤモンドは通常は黒色であるが、完全に透明にすることができる。結晶構造は八面体となり得る。合成ダイヤモンドの金属結合形態は、グラファイトと金属粉末との混合物を高圧で長時間加圧することによって形成することができる。例えば、ニッケル/鉄ベースの金属結合ダイヤモンドは、グラファイト及びニッケル鉄ブレンド粉末を高圧高温(HPHT)プレス内に十分な時間置くことによって製造され、天然ダイヤモンドを模造する生成物が形成される。コバルトのような他の金属を用いることもできる。ダイヤモンドは、プレスから取り出された後、ミリングプロセスに供される。化学的及び熱的な洗浄プロセスを利用して、表面をこすり洗いすることができる。これは次に、所望のサイズ範囲を得るために微粉化される。このようにして形成された粒子は、一定の形状を持たないフレーク又は小さな破片(シャード)となり得る。結晶構造は、天然ダイヤモンドと同様に単結晶であり得る。
【0025】
種々の実施形態において、フッ素化ダイヤモンド含有粒子は、定着器部材の最外層として用いられる複合材料の形成のために用いることができる。
【0026】
説明の目的で「定着器部材」という用語がここで本出願の全体にわたって用いられているが、「定着器部材」という用語は、固定部材、加圧部材、加熱部材、及び/又はドナー部材を含むがそれらに限定されない、印刷プロセス又はプリンタにおいて有用な他の部材をも包含することが意図される。種々の実施形態において、「定着器部材」は、例えば、ローラ、ベルト、プレート、フィルム、シート、ドラム、ドレルト(drelt)(ベルトとドラムの中間)、又は定着器部材のための他の公知の形態などの形態を取ることができる。
【0027】
特定の実施形態において、定着器部材は、ベルト基材又はロール基材の形態の基材を含むことができる。ベルト構造における基材の厚さは、約50μmから約300μmまで、いくつかの場合には、約50μmから約100μmまでとすることができる。シリンダ又はロール構造における基材の厚さは、約2mmから約20mmまで、いくつかの場合には約3mmから約10mmまでとすることができる。
【0028】
図1Bは、本開示による例示的な定着器ロール部材100の一部を示す。当業者には、図1Bに示される部材100が一般化された模式図を示すこと、及び、他の成分/層/膜/粒子を付加すること又は既存の成分/層/膜/粒子を除去し若しくは変更することができることが明らかである。
【0029】
図示されるように、定着器部材100は、ロール基材110と、ロール基材110の上に配置された最外層120とを含むことができる。
種々の実施形態において、ロール基材110と最外層120との間に1つ又はそれ以上の機能層を配置することができる。例えば、最外層120は、ロール基材110の上に形成された弾性層の上に形成することができる。別の例において、弾性層と最外層120との間に界面層をさらに配置することができる。
【0030】
本明細書に開示される場合、ロール基材110は、シリンダ、ローラ、ドラム、又はドレルトを含むがそれらに限定されない少なくとも1つの円形の断面積形状を有するいずれかの基材を含むことができる。種々の実施形態において、ロール基材110は、金属、合金、ゴム、ガラス、セラミック、プラスチック、又は織物といった多様な材料を含むことができる。さらなる例において、用いられる金属としては、アルミニウム、陽極処理アルミニウム、鋼、ニッケル、銅、及びそれらの混合物を挙げることができ、用いられるプラスチックとしては、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0031】
種々の実施形態において、最外層120は、定着器部材100の改善された機械的堅牢性、表面耐摩耗性、表面疎水性、及び/又は熱若しくは電気伝導性を提供するために、ポリマーマトリックス中に分散された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子を含むことができる。
【0032】
本明細書において用いられる場合、開示される最外層120のために用いられる「ポリマーマトリックス」は、例えば、フッ素エラストマー、熱エラストマー、ポリパーフルオロエーテルエラストマー、シリコーンエラストマー、又は他の架橋材料といった、1つ又はそれ以上のエラストマーポリマーを含むことができる。種々の実施形態において、1つ又はそれ以上の架橋ポリマーは、フッ素化ダイヤモンド含有粒子と混合するために半軟質及び/又は溶融されたものとすることができる。
【0033】
種々の実施形態において、ポリマーマトリックスは、例えば、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、及びそれらの混合物から成る群より選択されるモノマー反復単位を有するフッ素エラストマーを含むことができる。フッ素エラストマーは、硬化部位モノマー(硬化剤)をさらに含むことができる。
【0034】
市販のフッ素エラストマーとしては、例えば、VITON(登録商標)A(ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とフッ化ビニリデン(VDF又はVF2)とのコポリマー)、VITON(登録商標)B(テトラフルオロエチレン(TFE)と、フッ化ビニリデン(VDF)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのターポリマー)、及びVITON(登録商標)GF(TFE、VF2、HFPのテトラポリマー)、並びにVITON(登録商標)E、VITON(登録商標)E60C、VITON(登録商標)E430、VITON(登録商標)910、VITON(登録商標)GH及びVITON(登録商標)GFを挙げることができる。VITON(登録商標)という名称は、E.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、デラウェア州)の商標である。
【0035】
他の市販のフッ素エラストマーとしては、例えば、3M Company(Two Harbors、ミネソタ州)から入手可能なDYNEON(商標)フルオロエラストマー、及びAFLAS(登録商標)(すなわち、ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン))、並びにSolvay Solexis(Bollate、MI、イタリア)から入手可能なFor−60KIR(登録商標)、For−LHF(登録商標)、NM(登録商標)、For−THF(登録商標)、For−TFS(登録商標)、TH(登録商標)、及びTN505(登録商標)として区別されるTecnoflonを挙げることができる。
【0036】
1つの例示的な実施形態において、ポリマーマトリックスは、ビスフェノール化合物、ジアミノ化合物、アミノフェノール化合物、アミノ−シロキサン化合物、アミノ−シラン、フェノール−シラン化合物又はそれらの組合せを含むがそれらに限定されない有効な硬化剤で架橋された、フッ化ビニリデン含有フッ素エラストマーを含むことができる。
【0037】
例示的なビスフェノール硬化剤としては、E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能なVITON(登録商標)Curative No.50(VC−50)を挙げることができる。Curative VC−50は、ビスフェノール−AFをクロスリンカーとして含み、塩化ジフェニルベンジルホスホニウムを促進剤として含むことができる。ビスフェノール−AFは、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールとしても知られている。
【0038】
特定の実施形態において、最外層20のために用いられるポリマーマトリックスはTFE、HFP、及びVF2、並びに臭素化ペルオキシド硬化部位を含むVITON−GF(登録商標)(E.I.du Pont de Nemours,Inc.)を含むことができる。
【0039】
図1Cは、本教示による図1Bの定着器部材100のために用いられる例示的な最外層120Aを模式的に示す。当業者には、図1Cに示される最外層が一般化された模式図を示すこと、及び、他の粒子/充填剤/層を付加すること又は既存の粒子/充填剤/層を除去し若しくは変更することができることが明らかである。
【0040】
図示されるように、最外層120Aは、ポリマーマトリックス122内に分散された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を含むことができる。種々の実施形態において、複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125は、充填剤材料として用いることでき、ポリマーマトリックス122全体にわたって、ランダム、均一及び/又は空間的に制御された状態で分散することができ、その結果、例えば、種々の定着サブシステム及び実施形態において定着器材料として用いられる、得られたポリマーマトリックスの機械的堅牢性、及び/又は熱/電気伝導性を含む物理的性質を実質的に制御すること、例えば強化することができる。その上、開示されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を配合することで、低い摩擦係数ことにより、最外層120の耐摩耗性を改善することができる。さらに、開示されたフッ素化ダイヤモンド含有粒子125を配合することで、最外層120の表面自由エネルギーを低下させ、及び/又表面疎水性を高めることができ、それゆえ、オイルレス定着表面をもたらすことができる。
【0041】
種々の実施形態において、最外層120は、開示された粒子125を用いない従来の最外層(例えば、VITON(登録商標)のみ)と比べて、改善された硬度といった、改善された機械的性質を有することができる。硬度は一般に、例えば、当業者に公知のように、ロックウェル硬度試験、ブリネル硬度試験、ビッカース硬度試験、及びヌープ硬度試験によって測定することができる。種々の実施形態において、最外層120は、鉛筆硬度試験によって測定された約1H又はそれ以上の硬度を有することができる。いくつかの場合において、最外層120の硬度は、約1Hから約4Hまでの範囲、又は約2Hから約4Hまでの範囲であり得る。
【0042】
種々の実施形態において、最外層120は、改善された電気伝導性、すなわち低下した電気抵抗率を有することができる。例えば、最外層120は約1015オーム/sq又はそれ以下の表面抵抗を有することができる。さらなる例において、最外層120の表面抵抗率は、約105オーム/sqから約1014オーム/sqの範囲、又は約107オーム/sqから約1012オーム/sqの範囲とすることができる。
【0043】
種々の実施形態において、最外層120は、オイルレス定着に適した所望の最外層表面を有することができる。具体的には、最外層表面は、開示された粒子125が配合されていない従来の材料(例えば、VITON(登録商標)のみ)と比べて、より高い疎水性であり得る。例えば、最外層表面は、約105度若しくはそれ以上、又はいくつかの場合には、約105度から約145度の範囲の水接触角を有することができる。特定の実施形態において、最外層表面は、約150度またはそれ以上の水接触角を有する超疎水性であり得る。
【0044】
種々の実施形態において、開示された最外層120aは、約1ミクロンから約200ミクロンまで、いくつかの場合においては、約10ミクロンから約150ミクロンまで、又は約20ミクロンから約100ミクロンまでの厚さを有することができる。種々の実施形態において、ポリマーマトリックス128は、最外層120aの重量の少なくとも約50パーセント、いくつかの実施形態においては、少なくとも約60パーセント又は少なくとも約70パーセントを占めることができる。複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子125は、最外層120aの重量の少なくとも約1パーセント、いくつかの実施形態においては、最外層120aの重量の少なくとも約5パーセント又は少なくとも約10パーセントとすることができる。
【0045】
種々の実施形態において、最外層120は、ポリマーマトリックス128内に無機粒子のような他の充填剤をさらに含むことができる。種々の実施形態において、無機粒子は、金属酸化物、非金属酸化物、及び金属から成る群より選択することができる。具体的には、金属酸化物は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銅、五酸化アンチモン、及び酸化インジウムスズから成る群より選択することができる。非金属酸化物は、窒化ホウ素及び炭化ケイ素(SiC)から成る群より選択することができる。金属は、ニッケル、銅、銀、金、亜鉛、及び鉄から成る群より選択することができる。種々の実施形態において、当業者に公知の他の添加剤をダイヤモンド含有コーティング複合材料内に配合することもできる。
【0046】
種々の実施形態において、開示された最外層120、120aを調製するためにコーティング組成物を形成することができる。コーティング組成物は、例えば、複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子、1つ又はそれ以上のポリマー及び/又は対応する硬化剤、並びに、随意に、無機充填剤粒子又は当業者に公知の界面活性剤を分散させるための、有効な溶媒を含むように調製することができる。
有効な溶媒は、水、又はメチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)及びそれらの混合物を含むがそれらに限定されない有機溶媒を含むことができる。適切な分散体を形成することができる他の溶媒は、本明細書における実施形態の範囲内であり得る。
【0047】
種々の実施形態は、被覆技術、押出技術及び/又は成形技術を含むがそれらに限定されない技術を用いて定着器部材100を形成するための方法を含むことができる。本明細書において用いられる場合、「被覆技術」という用語は、分散体を材料又は表面に塗工、形成、又は堆積させる技術又はプロセスのことを指す。したがって、「被覆」又は「被覆技術」という用語は特に現行の技術に限定されるものではなく、浸漬塗り、ペイント塗り、刷毛塗り、ローラ塗り、たんぽずり、吹付け塗り、スピンコーティング、キャスティング、又は流し塗りを利用することができる。例えば、ベルト又はプレートのような平坦な基材を被覆するためにはギャップコーティング(gap coating)を用いることができ、ドラム又は定着ロールのような円筒形の基材を被覆するためには流し塗りを用いることができる。被覆された部材はその後、種々の構成を有するように形成することができる。
【0048】
特定の実施形態において、コーティング組成物は、フッ素化ダイヤモンド含有粒子、VITON(登録商標)フッ素エラストマー、関連の硬化剤(例えば、ビスフェノール硬化剤VC−50)、及び、随意に無機充填剤(例えば、MgO)を有機溶媒(例えば、MIBK)中に含むことができる。有機溶媒中でより良好に分散するために、フッ素化ダイヤモンド含有粒子を、−CH3、−OH、−COOH、−NH2、アルキル、−SO3H又はそれらの組合せを含む官能基でさらに修飾することができる。次にコーティング組成物をロール基材のような基材上に堆積するか、被覆するか、又は押出することができ、その後、硬化プロセスが行われる。種々の実施形態において、最外層を形成するための硬化プロセスに先だって、コーティング組成物を、ある時間をかけて部分的に又は完全に蒸発させることができる。硬化プロセスは、用いられるポリマー及び硬化剤によって決定することができ、例えば、段階硬化プロセスを含むことができる。しかしながら、当業者に公知のいかなる硬化スケジュールも本明細書における実施形態の範囲内であり得る。
【実施例1】
【0049】
最外層定着器材料の調製
コーティング組成物を、フッ素化ナノダイヤモンド粒子(NB90−F、フロリダ州Boca RatonのNanoblox,Inc.から入手可能な90パーセントのsp3炭素及び10パーセントのフッ素化sp2炭素)とVITON(登録商標)GFとを、有機溶媒であるメチルイソブチルケトン(MIBK)中で2mmのステンレス・ショットを用いて200rpmで18時間ミリングすることによって調製した。コーティング組成物は、約10重量パーセントのフッ素化ナノダイヤモンド粒子NB90−F及び89重量パーセントのVITON(登録商標)GF、並びに1重量パーセントのビスフェノール硬化剤VC−50(デラウェア州WilmingtonのE.I.Du Pont de Nemours,Inc.から入手可能なVITON(登録商標)Curative No.50)を含んでいた。
【0050】
比較のために、別のコーティング組成物を、非フッ素化ナノダイヤモンド粒子(NB90、フロリダ州Boca RatonのNanoblox,Inc.から入手可能な90パーセントのsp3炭素及び10パーセントのsp2炭素)とVITON(登録商標)GFとを有機溶媒であるメチルイソブチルケトン(MIBK)中で2mmのステンレス・ショットを用いて200rpmで18時間ミリングすることによって同様に調製した。コーティング組成物は、約10重量パーセントの非フッ素化ナノダイヤモンド粒子NB90及び89重量パーセントのVITON(登録商標)GF、並びに1重量パーセントのビスフェノール硬化剤VC−50(デラウェア州WilmingtonのE.I.Du Pont de Nemours,Inc.から入手可能なVITON(登録商標)Curative No.50)を含んでいた。
【0051】
20μmのナイロン布を通して濾過した後、均一なナノコーティング組成物が得られ、次にこれで、例示的なガラスプレートを被覆して、ドローバー・コーティングプロセスによって膜を形成した。
コーティング組成物の被覆プロセスに続いて、硬化プロセスを、約49℃で約2時間、及び約177℃で約2時間、次に、約204℃で約2時間、次に後硬化のために約232℃で約6時間の傾斜温度にて行った。その結果として、厚さ20μmの複合膜が得られた。
【0052】
表1は、本教示による、i)VITON(登録商標)ポリマー(90重量パーセント又は80重量パーセント)及びフッ素化ナノダイヤモンド含有粒子(10重量パーセント又は20重量パーセント)を含む複合材料、ii)VITON(登録商標)ポリマー(90重量パーセント)及びナノダイヤモンド含有粒子(10重量パーセント)を含む複合材料、及びiii)フッ素化ナノダイヤモンド含有粒子もナノダイヤモンド含有粒子も含まないVITON(登録商標)ポリマーの水接触角及び表面抵抗率を比較する。
【0053】
水接触角は、約23℃の周囲温度にて、脱イオン水を用い、接触角システムOCA(モデルOCA15、Dataphysics Instruments GmbH、Filderstadt、Germany)の装置によって測定された。少なくとも10回の測定を行い、表1に示すように平均した。
表面抵抗率は、約23℃の温度にて、約65パーセントの湿度で測定した。形成された複合材料の種々のスポットにて、高抵抗率計(Hiresta−Up MCP−HT450、三菱化学株式会社、日本)を用いて、4回から6回の測定を行った。平均された結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
示されるように、非フッ素化ナノダイヤモンド粒子の配合は、得られた材料の接触角にわずかしか影響を及ぼさなかったが、フッ素化ナノダイヤモンド粒子の配合は、得られた最外層材料の接触角を大きくし、これは定着の際のトナー剥離性を改善することになる。さらに、VITON(登録商標)/フッ素化ナノダイヤモンドを含む最外層複合材料は、それ自体がVITON(登録商標)のみの最外層よりも伝導性が高いVITON(登録商標)/非フッ素化ナノダイヤモンドを含む材料と比べて、より伝導性が高い。
【符号の説明】
【0056】
100:定着器ロール部材
110:ロール基材
120、120A:最外層
122:ポリマーマトリックス
125:フッ素化ダイヤモンド含有粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーポリマーと、
前記エラストマーポリマーに混合された複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子とを含み、前記複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の各粒子がダイヤモンドコアの上に化学的に活性なシェル層を含み、前記化学的に活性なシェル層がフッ素を含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記化学的に活性なシェル層が、−CH3、−OH、−COOH、−NH2、−SO3H、アルキル及びそれらの組合せから成る群より選択される官能基を含み、
前記化学的に活性なシェル層がsp2カーボンブラックを含み、前記ダイヤモンドコアがsp3ダイヤモンドを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ロール基材と、
前記基材上に配置された最外層とを含み、前記最外層がフッ素エラストマーマトリックス中に分散された複数のフッ素化ナノダイヤモンド含有粒子を含み、前記複数のナノダイヤモンド含有粒子の各粒子が、化学的に不活性なダイヤモンドコアの上に、フッ素化された化学的に活性なシェル層を含むことを特徴とする、定着器部材。
【請求項4】
定着器部材を作成する方法であって、
ロール基材を提供し、
有機溶媒中にエラストマーポリマーと複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子とを含むコーティング組成物を形成し、前記複数のフッ素化ダイヤモンド含有粒子の各粒子が、ダイヤモンドコア上に化学的に活性なシェル層を含み、前記化学的に活性なシェル層がフッ素を含んでおり、
前記コーティング組成物を前記ロール基材に塗工して、前記定着器部材の最外層を形成する
ステップを含むことを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公開番号】特開2010−262291(P2010−262291A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103974(P2010−103974)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】