説明

フッ素化ポリマーをベースとする医療埋込み物被覆組成物

PVDFポリマーは、医療デバイスを基体とした被覆または物品でのそれらの使用を可能にする優れた特徴を所持するとはいえ、PVDFポリマーの不利であり得る1つの側面は、低い表面摩擦係数である。本発明は埋込み型デバイスのための被覆として改善された性能を示す、フッ素化モノマーおよびアクリレートおよびアルキルアクリレートのポリマーを開示する。このような被覆は、例えば、医療デバイスから生理活性薬剤を放出するのに使用できる。1つの具体的な応用は、ステントのための薬物溶出性被覆にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願との相互参照)
本願は、2008年4月16日に出願された米国仮特許出願第61/045,331号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
本発明は、改善された生体適合性ポリマー組成物に関する。フッ素化モノマーおよびアルキルアクリレートのポリマーは、埋込み型デバイス用の被覆として改善された性能を示す。このような被覆は、例えば、医療デバイスから生理活性薬剤を放出するのに使用することができる。1つの具体的応用が、ステントのための薬物溶出性被覆にある。ステントは、重要な医療上の用途を有するが、再狭窄および血栓症の問題が残ったままである。薬物送達ステントの形態での薬理学的療法は、これらの生物学的に誘導される問題に取り組むための実行可能な手段と思われる。ステント上に配置されたポリマー性被覆は、薬物リザーバーとしておよび薬物の放出を制御するための双方で機能を発揮するのに役立つ。被覆ポリマーの性質は、被覆の表面特性を規定する上で重要な役割を演じる。例えば、極めて低いTの非晶性被覆材料は、縮れ、バルーン拡張などの機械的摂動に対して許容できないレオロジー挙動を有することがある。一方、高いTまたは高結晶性被覆材料は、ステントパターンの高歪み領域に脆性破壊をもたらす。
【背景技術】
【0003】
ポリ(二フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロペン)(PVDF−co−HFP)などの現在使用されているポリマー性材料のいくつかは、良好な機械的特性、および許容できる生体適合性を有するが、また、薬物に対して低い浸透性を有する。PVDFポリマーは、医療デバイスを基体とした被覆または物品でのそれらの使用を可能にする優れた特徴を所持するとはいえ、PVDFポリマーの不利であり得る1つの側面は、低い表面摩擦係数である。このことは、このポリマー表面の本質的な特性である。この特性は、ステント固定の過程中に問題を引き起こし得る。本開示に包含される組成物は、表面の滑り易さを低減することを目標とし、あるいは被覆されたデバイスをより有利に扱い得るように表面摩擦を増大させる。疎水性のアクリレートまたはメタクリレートをベースにした、約35℃未満のガラス転移温度Tを有するコポリマーセグメントを使用すると、エラストマー性であり得、かつ、わずかにより高い摩擦を付与し得る。
【0004】
特許文献1で、Pacettiらは、疎水性ポリマーとポリマー性親水性添加物との混合物を含む医療インプラント用被覆であって、その疎水性ポリマーと親水性添加物とが、物理的にもつれた、または相互貫入している系を形成する被覆を開示した。Pacettiは特許文献2で、およびDingは特許文献3で、フッ素化モノマーと親水性モノマーとから形成されるポリマーを使用することによって、この領域の問題のいくつかに取り組むことを試みた。フッ素化モノマーは、ポリマーに、機械的強度および/または可撓性、生体適合性、ならびに生理学的耐久性を提供するとした。Stricklerらは、特許文献4で、少なくとも1種のフルオロカーボンを含むブロックコポリマー、すなわち(a)少なくとも1種のフルオロカーボンを含む、低いガラス転移温度(低T)のコポリマー鎖、および(b)少なくとも1種の、ガラス転移温度(高T)のポリマー鎖を有するコポリマーを開示している。その他の類似の試みには、Roordaらへの特許文献5および特許文献6;Hossainyらへの特許文献7が含まれる。
【0005】
本発明は、当技術分野における継続的問題に取り組み、埋込み型デバイスを被覆するためのポリマー性材料を提供することによって、さらに改善するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0224001号明細書
【特許文献2】米国特許第7244443号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0067908号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0117925号明細書
【特許文献5】米国特許第7175873号明細書
【特許文献6】米国特許第7247313号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0106204号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、広くは、ポリマー組成物、より具体的には薬物物質を溶出するためのポリマー組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、コポリマー組成物が存在し、前記コポリマー組成物は、フルオロモノマー単位;ならびに式Iのアクリレートモノマー単位、式IIのアクリレートモノマー単位、式IIIのアクリレートモノマー単位、およびこれらの組合せからなる群から選択されるアクリレートモノマー単位を含み、ここで、式I、II、およびIIは、本明細書中で定義され、式中、Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり;Rは、水素、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり、さらに、RおよびRは、同一または異なってよい。
【0009】
いくつかの実施形態において、アクリレートのモル%は50%以下である。いくつかの実施形態において、アクリレートのモル%は、10〜20%、10〜50%、および25〜50%からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、35℃未満のガラス転移温度を有する。他の実施形態において、コポリマー組成物は、20℃未満のガラス転移温度を有する。フルオロモノマー単位は、種々の実施形態において二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの組合せからなる群から選択できる。
【0010】
コポリマー組成物は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはグラフトコポリマーを含むことができる。
【0011】
コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、アクリレートモノマー単位は、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、メタクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0012】
いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、生理活性薬剤をさらに含む。このような生理活性薬剤の一例が、抗血栓薬である。
【0013】
コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、該組成物は、該組成物の10モル%未満で存在する付加的モノマー単位をさらに含む。
【0014】
別の実施形態において、コポリマー組成物が存在し、前記コポリマー組成物は、フルオロモノマー単位;ならびに式IVのアクリレートモノマー単位を含み、ここで、式IVは本明細書中で定義され、式中、Yは、−COOH、−NH、−SH、−OH、−Si(OCH、−C(O)NH、−N(H)C(O)NH、および−N(H)C(O)OHからなる群から選択される。
【0015】
いくつかの実施形態において、フルオロモノマー単位は、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、アクリレートのモル%は50%以下である。いくつかの実施形態において、アクリレートのモル%は、10〜20%、10〜50%、および25〜50%からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、35℃未満のガラス転移温度を有する。他の実施形態において、コポリマー組成物は、20℃未満のガラス転移温度を有する。いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはグラフトコポリマーを含む。
【0016】
コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、該組成物は、生理活性薬剤をさらに含む。このような生理活性薬剤の一例が、抗血栓薬である。
【0017】
いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、該組成物の10モル%未満で存在する付加的モノマー単位をさらに含む。
【0018】
別の実施形態において、コポリマー組成物が存在し、該コポリマー組成物は、フルオロモノマー単位;および式V、式VI、またはこれらの組合せからなるアクリレートモノマー単位を含み、ここで、式VおよびVIは本明細書中で定義される。コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、フルオロモノマー単位は、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの組合せからなる群から選択される。コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、アクリレートのモル%は50%以下である。コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、アクリレートのモル%は、10〜20%、10〜50%、および25〜50%からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、35℃未満のガラス転移温度を有する。いくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、20℃未満のガラス転移温度を有する。コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、コポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはグラフトコポリマーである。コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、該コポリマー組成物は、生理活性薬剤をさらに含む。このような生理活性薬剤の一例が、抗血栓薬である。コポリマー組成物のいくつかの実施形態において、コポリマー組成物は、該組成物の10モル%未満で存在する付加的モノマー単位をさらに含む。
【0019】
別の実施形態において、ポリマーブレンド組成物が存在し、該組成物は、フルオロポリマー;ならびに式Iのアクリレートモノマー単位、式IIのアクリレートモノマー単位、式IIIのアクリレートモノマー単位、およびこれらの組合せからなる群から選択される疎水性アクリレートモノマー単位を有するポリアクリレートを含み、ここで、式I、II、およびIIは、本明細書中で定義され、式中、Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり;Rは、水素、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり、さらに、RおよびRは、同一または異なってよい。ポリマーブレンド組成物のいくつかの実施形態において、該ブレンド組成物は、フルオロモノマーおよびアクリレートモノマーを実質上含まない第3ポリマーをさらに含む。
【0020】
これまで、後に続く本発明の詳細な説明をよりよく理解できるように、本発明の特徴および技術的利点をどちらかと言えばおおまかに概説してきた。本発明の特許請求の主題を構成する本発明のさらなる特徴および利点を、これより説明する。開示される概念および具体的実施形態を、本発明の同一目的を実施するために、その他の構成を修正または設計するための基礎として容易に利用できることを認識されたい。また、このような等価な構成は、添付の特許請求の範囲に示す本発明から逸脱しないことを理解されたい。本発明の特質であると思われる新たな特徴は、その構成および運用方法の双方に関して、さらなる目的および利点と一緒になって、添付の図面と合わせて熟考すれば、以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかし、各図面は、単に図解および説明の目的で提供されるものであり、本発明の限界を規定するものとは解釈されないことを明白に理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中で使用する場合、「a」または「an」は、1つ以上を意味することができる。本明細書中で特許請求の範囲において使用する場合、単語「含む(comprising)」と連結して使用される場合、「a」または「an」は、1つまたは2つ以上を意味することができる。本明細書中で使用する場合、「別の(another)」は、少なくとも2番目以上のものを意味することができる。
【0022】
本明細書中で使用する場合、「フルオロポリマー」は、1個以上のフッ素原子を有するモノマーを少なくとも含むポリマーである。例には、限定はされないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、フッ素化エチレン−プロピレン(FEP)、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(PETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン(PECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)が含まれる。対応するフルオロモノマーは、列挙したポリマーから明らかである。用語「フルオロポリマー」は、ホモポリマー、コポリマー(ランダム、ブロックまたはグラフトコポリマーを含む)、ならびにターポリマーおよびより高次のポリマーを包含する。
【0023】
本明細書中で使用する場合、特定の成分に関する用語「モル(mole)%」は、このような成分のモルによるパーセント量を意味する。それは、「モル(mol)%」と同義である。
【0024】
本明細書中で使用する場合、「ポリアクリレート」は、アクリレート部分を有するモノマーを少なくとも含むポリマーであり、用語「アクリレート」は、さらに本明細書中で定義した通りである。用語「ポリアクリレート」は、ホモポリマー、コポリマー(ランダム、ブロックまたはグラフトコポリマーを含む)、ターポリマー、およびより高次のポリマーを包含する。コポリマー、ならびにターポリマーおよびより高次のポリマーの場合、このようなポリマーは、1種または2種以上のアクリレートモノマー、および1種または2種以上の非アクリレート系モノマーを含むことができる。最も広義には、用語「アクリレート」は、(本明細書中で定義された)式Iからなるが、本明細書に記載の特定の基に限定されないRおよびR要素を有する組成物である。しかし、本発明のアクリレートは、本明細書に記載の特定のRおよびR要素に限定されたアクリレートである。ポリアクリレートは、アクリレートの下位集合である。
【0025】
用語「フルオロモノマー単位」は、フッ素含有モノマーおよびアクリレート含有モノマーの双方を含むコポリマーの部分を指す場合には、単一種のフルオロモノマー(fluoromonmer)(ヘキサフルオロプロピレンなど)または1種より多くのフルオロモノマー(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンなど)の双方を指すことができる。フルオロモノマーが1種より多い場合、各フルオロモノマーの相対量は、同一または異なってよく、変更できることを理解されたい。用語「アクリレートモノマー単位」は、フッ素含有モノマーおよびアクリレート含有モノマーの双方を含むコポリマーの一部を指す場合には、単一種のアクリレートモノマー(n−ブチルアクリレートなど)または1種より多くのアクリレートモノマー(n−ブチルアクリレートとメチルメタクリレートなど)の双方を指すことができる。アクリレートモノマーが1種より多い場合、各アクリレートモノマーの相対量は、同一または異なってよく、変更できることを理解されたい。
【0026】
いくつかの実施形態において、本発明は、哺乳動物の体内に埋め込まれ、後に体内から回収される医療デバイスのための、不活性で低表面エネルギー性の被覆である組成物を提供する。低表面エネルギー性の被覆は、デバイス表面の濡れ、およびその上へのタンパク質の堆積を困難にし、体内に封じ込める時間を延長し得、その時間の後にデバイスを容易に取り出し得る。本発明のいくつかの実施形態において、必須ではないが、被覆は、医薬品または治療薬を、所望の目的を達成するのに有効な、例えば、血栓症または再狭窄を低減するのに有効な量で含有することができ、このような被覆で被覆されたステントは、薬剤の徐放を提供することができる。本発明の組成物から調製されるフィルムは、デバイス、被覆およびフィルムが暴露される最大温度が比較的低温、例えば約100℃未満、好ましくはほぼ外界温度に限定される場合でさえ、慣用的な被覆型医療デバイスに必要とされる物理的および機械的特性を提供する。このことは、該被覆/フィルムを、医薬品/治療薬または熱に敏感な薬物を送達するために使用する場合に、あるいは限定はされないがカテーテルなどの温度に敏感なデバイス上に被覆を塗布する場合に、特に重要である。最大暴露温度が問題でない場合、例えば、イトラコナゾールなどの熱に安定な薬剤を被覆中に組み込む場合には、より高い温度で融解する熱可塑性ポリフルオロコポリマーを使用することができ、かつ、極めて大きな伸びおよび接着が要求されるなら、エラストマーを使用できる。所望されるまたは必要とされるなら、ポリフルオロエラストマーを、例えば、「Modern Fluoropolymers」J.Shires編、John Wiley &Sons、ニューヨーク、1997年、77〜87頁に記載の標準的方法によって架橋することができる。
【0027】
本発明は、医療デバイスに改善された生体適合性被覆を提供するポリマー組成物を包含する。これらの被覆は、哺乳動物、例えば、ヒトの体組織と接触する予定の不活性表面であって、血栓症または再狭窄、あるいはその他の望ましくない反応を低減するのに十分な不活性表面を提供する。ポリフルオロホモポリマーから作られた、報告されているほとんどの被覆は、不溶性であり、かつ/または埋込み型デバイス、例えば、ステント上で使用するのに十分な物理的および機械的特性を有するフィルムを得るためには、例えば約125℃を超える高熱を必要とするか、あるいは特に靭性でもエラストマー性でもないが、一方、本発明のポリフルオロコポリマー被覆から調製されるフィルムは、本明細書中で特許請求される医療デバイス上に形成された場合に、十分な接着性、靭性もしくは弾性、および割れに対する抵抗性を提供する。いくつかの実施形態において、このことは、被覆されたデバイスが、比較的低い最大温度、例えば、約100℃未満、好ましくは約65℃未満、より好ましくは約60℃以下にさらされる場合でさえそうである。いくつかの実施形態において、コポリマーは結晶性であるが、類似組成の非晶質コポリマーも採用される。
【0028】
本発明による被覆に使用されるコポリマーは、ワックス状または粘着性でないように十分な分子量を有するフィルム形成性ポリマーでなければならない。ポリマーおよびそれから形成されるフィルムは、ステントに接着し、かつステント上に堆積した後に、血流力学的応力によって移動させることができるほど容易に変形可能でないものでなければならない。ポリマーの分子量は、ポリマーからなるフィルムが、ステントを取り扱うまたは配置する間にこすれ落ちないような十分な靭性を提供するのに十分でなければならない。いくつかの実施形態において、被覆は、ステントまたはその他の医療デバイス(大静脈フィルターなど)の膨張が発生しても割れない。本発明で使用されるポリマーの流動点は、約40℃超、好ましくは約45℃超、より好ましくは50℃超、最も好ましくは55℃超である。
【0029】
医療用インプラントに使用される慣用的なポリフルオロホモポリマーは、結晶性であり、被覆を、ポリマーの融解温度(Tm)に相当する比較的高い温度に暴露しないで金属表面上に高品質のフィルムとして塗布することは困難である。高温は、このようなホモポリマー被覆から調製されるフィルムを提供するのに役立ち、該被覆剤はデバイスに対して十分なフィルム接着を示し、同時に、被覆された医療デバイスの膨張/収縮時のフィルムの割れに抵抗するのに十分な可撓性を好ましくは維持する。本発明のコポリマー組成物から作製されるいくつかのフィルムおよび被覆は、被覆およびフィルムが暴露される最大温度が約100℃未満、好ましくは約65℃未満である場合でさえ、これらの同じ物理的および機械的特性、または本質的に同じ特性を提供する。このことは、被覆/フィルムが、熱に敏感である、例えば化学的または物理的分解、またはその他の熱で誘発される負の作用にさらされる医薬または治療薬剤または薬物を含む場合に、あるいは医療デバイスの熱に敏感な基材を被覆する場合、例えば、熱で誘発される組成または構造的な劣化にさらされる場合に、特に重要である。
【0030】
本発明のコポリマーにとって好ましいフルオロモノマー単位は、PVDF、およびそのヘキサフルオロプロペンとのコポリマーであるPVDF−HEF(ポリフッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロペン)である。これらのポリマーは、各種応用のために医療デバイス産業で広範に使用されている。これらのポリマーの鍵となる属性は、それらが、PTFE(ポリテトラフルオロエチレンまたはテフロン(登録商標))とほとんど同様の化学的不活性を提供するのみならず、押出し、成型、被覆などの各種の工業的方法によって容易に加工することができることである。PVDFにコポリマーヘキサフルオロプロペンを添加すると、ポリマーの靭性が増加し、結晶性が低下する。また、PVDFまたはPVDF−HFPポリマーは、低い摩擦係数を有する。PVDFまたはPVDF−HFPを重合するのに使用される方法は、添加物不含の化学的および生物学的に安定なポリマーを提供するように最適化されている。最近の出願は、これらのポリマーの、薬物溶出性ステント(DES)製品のための被覆としての使用に関する。これらの被覆は、PVDFまたはPVDF−HFPポリマーおよび再狭窄を予防するための治療薬を含有する。
【0031】
これらの利点にもかかわらず、PVDFまたはPVDF−HFPをベースにしたポリマーは、3つの大きな欠点を有する。1つは、ステンレススチールなどの標準的な表面に対して得られる接着品質が不十分であることである。接着品質は、まず、基材上にプライマー層を付加し、続いてPVDFをベースにした層を堆積することによって改善できる。薬物がプライマー層に可溶性であると、薬物は長い間にプライマー層に蓄積し、そのため、ポリマーリザーバーが薬物の100%を放出する能力を低下させ得る。プライマー被覆法は役に立つが、同時に、その方法は、ステントに2種の別々のポリマーを塗布することを徹底的に必要とする。2番目の欠点は、ステント被覆の低い摩擦係数のためステント固定が不十分であることである。アクリル酸エステルの添加は、ステント固定を増強する。3番目の欠点は、治療薬のPVDFまたはPDVF−HEPポリマーへの溶解特性が不十分であるためであり、一様な薬物放出または調整可能な薬物送達を得ることが困難になる。薬物の制御放出または遅延放出を改善するために試みられたことは、薬物を含まないポリマーの薄い上塗り層を使用することである。アクリル酸エステルを含めると、ポリマーフィルムを通る薬物の透過性が増大する。コポリマーの種類および比率を操作すると、薬物放出を好都合に制御できるはずである。この制御は、生じるポリマー組成物のガラス転移温度を操作することを可能にする。アクリレートのモル%を大きくする、またはアクリレートの性質をより有機性を有するもの(例えば、エステル基をメチルからエチル、プロピル、ブチルなどへと変えることによって)に変更すると、結晶性およびガラス転移温度がより低くなる。そのようにする別の方法は、1種より多くのアクリレートコモノマーを組み込む(例えば、メチルアクリレートおよびn−ブチルアクリレートの双方を使用する)ことである。また、アクリレートまたはメタクリレートを加えると、PVDF中に通常的に見出される結晶性領域が減少し、かつステントの被覆として十分に機能するポリマーのための十分な弾性が得られる。このことは、フルオロポリマー中でのHFPコポリマーの必要性を排除できる。理想的には、最終的にほぼ100%の薬物を放出するDES型適用のほとんどにとって、毎日一様な用量の薬物放出が好ましい。本開示は、上述の3つの欠点に対する改善法を提供する、PVDFおよび/またはHFPをベースにした組成物を見出すことを目標とする。
【0032】
アクリルをベースにしたポリマーは、PVDFをベースにしたポリマーと混和性である。本発明の主題である、PVDFおよび/またはHFPポリマーまたはPVDF−HFPコポリマー内へのアクリレート、メタクリレート、および/またはその他のアルキルアクリレートエステルセグメントの特定の組み込みは、ポリマーステント被覆用の新規な組成物を提供する。また、接着性をさらに強化するために相応するアクリル、メタクリル、および/またはその他のアルキルアクリル酸を組み込み得る。そこで、生じるポリマー組成物は、多様な基材に対する良好な接着性、改善されたステント固定の双方を提供し、また、薬物放出の調整可能性を提供する。医療デバイスにとって関心のある典型的な基材は、ステンレススチールおよびその合金、ニチノールおよびその合金、白金をベースにした組成物、コバルト合金などである。薬物溶出性ステントの応用にとって関心のある典型的な薬物は、パクリタキセル、エベロリムスなどである。重要なことであるが、本発明のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、および/またはその他のアルキルアクリル酸エステルセグメントは、疎水性エステル基(以下の構造中のRを意味する)を有するセグメントである。本発明のポリマー組成物中で疎水性アクリレートモノマーを使用すると、水性組成物および高いまたは比較的高い極性を有するその他の組成物とより大きな接触角を有するポリマーが生じる。疎水性アクリレートの使用は、ポリマー組成物の典型的な生体分子への接着(生体接着)を最小化するのに役立つ。さらに、疎水性アクリレートを有する本発明のポリマー組成物は、親水性モノマーを含むポリマー組成物に比較して、医療用インプラントの使用に際して粘着性が少ない。
【0033】
いくつかの実施形態において、Rエステル基は、側鎖が、全体としての疎水性を保持するのに十分な長さの脂肪族性成分を有するなら、極性基または荷電基を有することができる。典型的には、この目的を達成するには、その脂肪族鎖が、少なくとも3個の炭素原子からなる長さであれば十分である。
【0034】
アクリレート成分を、4つの異なる方法でフルオロポリマー中に組み込んで、本発明の組成物を創出することができる。以下の具体例のほとんどは、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン(hexfluorpropene)、またはPVDF−HFPに焦点を当てているが、本発明のポリマーまたはブレンド中では、その他のフルオロモノマーも使用できることを理解されたい。
【0035】
二フッ化ビニリデンホモポリマー中にアクリレートコモノマーを組み込むと、生じるポリマー組成物の結晶性および弾性率を低下させることが可能になる。しかし、このことは、また、生じるポリマーの伸びのかなりの増大をももたらす。フルオロポリマー(好ましくは、二フッ化ビニリデンホモポリマーまたはPVDF−co−HFP)中に1種または複数のアクリレート(acylate)モノマーを組み込むと、生じるポリマー組成物の伸びのより少ない増加度を実質的に伴って結晶性および弾性率を低下させることが可能になる。さらに、アクリレートコモノマーの組込みは、生じるポリマー組成物中に極性部分を組み込む手段も提供し、該手段を使用して、ポリマーマトリックス中への医薬組成物および/または治療用組成物の装填量を修正することができる。
【0036】
好ましくは、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、0〜50モル%であるが、50モル%を超えてもよい。各種の実施形態において、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、10モル%、11モル%、22モル%、13モル%、14モル%、15モル%、16モル%、17モル%、18モル%、19モル%、20モル%、21モル%、22モル%、23モル%、24モル%、25モル%、26モル%、27モル%、28モル%、29モル%、30モル%、31モル%、32モル%、33モル%、34モル%、35モル%、36モル%、37モル%、38モル%、39モル%、40モル%、41モル%、42モル%、43モル%、44モル%、45モル%、46モル%、47モル%、48モル%、49モル%、または50モル%でよい。他の実施形態において、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、55モル%、60モル%、65モル%、70モル%、75モル%、または80モル%である。好ましくは最終ポリマー中でのアクリレートの水準範囲は、1〜50モル%である。別法として、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、10〜50モル%、10〜25モル%、または10〜20モル%である。別法として、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、20〜50モル%である。他の実施形態において、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、25〜50モル%、または25〜40モル%である。他の実施形態において、最終ポリマー中でのアクリレートの水準は、30〜50モル%、または30〜45モル%、または30〜40モル%、または30〜35モル%である。
【0037】
単純なポリマーブレンド:このブレンドは、50重量%までのポリアクリレート、ポリメタクリレート、またはその他のポリアルキルアクリレート、あるいはそれらのコポリマーを、PVDFおよびPVDF−HFPポリマーと混合することを含む。ポリアクリレートおよびポリメタクリレートをベースにしたポリマーは、PVDFおよびPVDF−HFPコポリマーと混和性であることが公知である。このようなポリマーのブレンドは、ブレンド内での各成分の分率に応じて単一相または二相混合物をもたらし得る。ブレンドは、作製し医療デバイスを被覆するのに使用するのが技術的に簡単である。好ましくは、フルオロポリマー(ホモポリマー、コポリマー、または3種以上の異なるモノマーからなるポリマーでよい)とポリアクリレート(ホモポリマー、コポリマー、または3種以上の異なるモノマーからなるポリマーでよい)とのブレンドは、成分が互いに混和性であるブレンドである。ブレンド中の個々のポリマーは、ランダム、ブロックまたはグラフトコポリマーでよい。
【0038】
コポリマー:このコポリマーは、アクリル、メタクリルまたはその他のアルキルアクリル系モノマーとフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデン+ヘキサフルオロプロペンモノマーとのランダムコポリマーを包含する。これらのコポリマーは、典型的には、懸濁重合または溶液重合で、あるいは超臨海CO重合またはことによるとイオン性流体媒質中で作製できる。アクリレートまたはメタクリレートのモル%は、好ましくは50%を超えないが、所望される物理的および化学的特性に応じて50%を超えてもよい。好ましくは、35℃未満のガラス転移温度を有するコポリマーを得るために、アクリレートのモル%およびアクリレートモノマー単位の種類を変更する。別法として、30℃未満、25℃未満、20℃未満、15度未満、10℃未満、5℃未満、または0℃未満のガラス転移温度を有するコポリマーを得るために、これらのパラメーターを変更することができる。おおまかには、体温(ほぼ37℃)未満のガラス転移温度を保持することが好ましい。ヒドロキシエチルメタクリレート型のモノマーを使用すると、被覆に親水性を付与できる。懸濁重合は、添加物の使用がより少ないので、好ましい方法である。しかし、溶液重合技術も使用し得るが、沈殿および乾燥を含む十分な洗浄工程を伴う後処理を行わなければならない。
【0039】
ブロックコポリマー:PVDFおよびPVDF−HFPを乳化重合で製造すると、それらのポリマーは、イオン性の末端基を含む。これらのイオン性末端基を利用して、アクリル、メタクリル、またはその他のアルキルアクリル系モノマーのホモ重合を開始することができる。このような重合により、セグメントAがアクリルまたはメタクリル部分であり、セグメントBがフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン部分である、ABA型ブロックコポリマーが得られる。同様に、リビングフリーラジカルまたはカチオン重合を利用して、まず、ポリアクリレートのリビング中間ブロックを形成し、次いで、該末端でフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンを重合させて、BAB型ブロック構造を作ることができる。2種のブロック材料の適合性のため、ブロック相の分離は観察されない可能性がある。しかし、特定の加工処理条件下で、PVDFブロックは、混和性のアクリル−フルオロポリマー相から結晶化し得る。
【0040】
グラフトポリマー:PVDFまたはPVDF−HFPポリマーから出発し、レドックス−ハロゲン交換反応またはその他のフリーラジカル開始剤によるATRP(CuIおよびPMDETAまたはPEDETAなどのリガンドを使用する原子移動ラジカル重合)を使用してポリマー主鎖のフッ素原子を引き抜くことによって、アクリレート、メタクリレートまたはその他のアルキルアクリレートセグメントを合成できる。ここで、PVDFまたはPVDF−HFP鎖上のフッ素部位は、アクリレートまたはメタクリレートポリマーを重合するための開始部位として作用する。典型的には、銅をベースにした触媒を使用してATRP重合を賦活する。この重合は、PVDFまたはPVDF−HFP主鎖に沿って付加されているアクリレートのブロックをもたらす。
【0041】
上記事例のすべてにおいて、1種以上のさらなる構成成分が存在していてよい。例えば、ブレンドの実施形態では、該ブレンド中に1種以上のその他のポリマーが存在していてよい。非限定的例には、ポリ(乳酸)またはポリ(酢酸ビニル)が含まれる。コポリマーの実施形態では、1種以上のさらなるモノマーが存在していてよい(したがって、本明細書中のコポリマーは、ターポリマーおよびより高次のポリマーを包含する)。好ましい例には、カルボキシ、アミン、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、およびその他の基を含むような親水性モノマーが含まれる。このようなモノマーが存在する場合、その好ましい範囲は、該組成物の10モル%未満である。
【0042】
本発明の組成物中のアクリレートモノマーは、疎水性アクリレートである。これは、カルボキシレート(−COOH)、アミン、アルコール、アミド、ニトロ、シアノなどの極性官能基を有するアクリレートである親水性アクリレートと対照的である。このような基は、アクリレートのエステル基の外側にかなりの電荷分離を有する。好ましいアクリレートは、本明細書中で「式I」と定義される次の一般構造で特徴付けられる:
【0043】
【化1】

およびRは、同一または異なってよく、Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルでよい。Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルでよい。さらに、Rは、水素またはエステル基(−COOR)でもよく、式中、Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルでよい。好ましい実施形態において、Rは水素である。好ましい実施形態において、Rは水素であり、かつRはC〜C10アルキルである。
【0044】
〜C10アルキルの非限定的例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル(すべての可能な異性体、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルを含む)、プロピル(そのすべての可能な異性体を含む)、ペンチル(そのすべての可能な異性体を含む)、ヘキシル(そのすべての可能な異性体を含む)、ヘプチル(そのすべての可能な異性体を含む)、オクチル(そのすべての可能な異性体を含む)、ノニル(そのすべての可能な異性体を含む)、およびデシル(そのすべての可能な異性体を含む)が含まれる。C〜C10アルケニルの非限定的例には、エチレニル、プロピレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ブチレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ペンチレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ヘキシレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ヘプチレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、オクチレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ノニレニル(そのすべての可能な異性体を含む)、およびデシレニル(そのすべての可能な異性体を含む)が含まれる。C〜C10アルキニルの非限定的例には、エチニル、プロピニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ブチニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ペンチニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ヘキシニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ヘプチニル(そのすべての可能な異性体を含む)、オクチニル(そのすべての可能な異性体を含む)、ノニニル(そのすべての可能な異性体を含む)、およびデシニル(decynykl)(そのすべての可能な異性体を含む)が含まれる。C〜Cシクロアルキルの非限定的例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが含まれる。本発明のC〜Cシクロアルキル基は、さらに、限定はされないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、およびシクロヘキセニルのように、1つ以上の不飽和部位を含むことができる。C〜C10アリールには、6〜10個の環原子を有するアリール基が含まれ;用語「アリール」は、全部で6〜10個の環員を有し、系中の少なくとも1つの環が芳香族であり、かつ系中の各環が3〜7個の環員を含む、単環式、二環式、および三環式環系を指す。アリールには、1つ以上のヘテロ原子(炭素以外の原子)を含む「ヘテロアリール」、「ヘテロアラルキル」、「ヘテロアラルアルケニル」、および「ヘテロアラルアルキニル」が含まれる。C〜C10アリールの非限定的例には、フェニル、ベンジル、トリル、キシリル(そのすべての可能な異性体を含む)、メシチル(そのすべての可能な異性体を含む)、およびナフチルが含まれる。上記例を混合した組合せも、ポリマーが1種より多いアクリレートモノマーを含む本発明の範囲に包含される。
【0045】
上記選択肢のいずれかで使用され得るポリアクリレートの部類の非限定的例には、ポリメタクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)、ポリブチルメタクリレート(PBMA)、ポリヘキシルメタクリレート(PHEMA)、ポリブタクリレート(PBA)、ポリエタクリレート(PEA)、PAM(ポリアクリルアミド)、およびその他の当技術分野で周知のものが含まれる。前述のポリアクリレート中の個々のアクリレートモノマーは、アクリレートホモポリマー中、およびアクリレートモノマーおよび1種以上の非アクリレート系モノマーを有するコポリマー中の双方で使用できるアクリレートモノマーの非限定的例を表す。
【0046】
本発明の組成物中で使用されるその他のアクリレートモノマーには、本明細書中で「式(II)」として定義される、次の一般構造:
【0047】
【化2】

を有するアクリレートが含まれる。
【0048】
式IIの化合物の非限定的例には、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリエタクリレート(PEA)、ポリプロピルアクリレート(PPA)、ポリブチルアクリレート(PBA)、ポリヘキシルアクリレート(PHA)、ポリプロパ−1−エン−アクリレートが含まれる。
【0049】
本発明の組成物中で使用されるその他のアクリレートモノマーには、本明細書中で「式(III)」として定義される、次の一般式:
【0050】
【化3】

を有するメタクリレートが含まれる。
【0051】
式IIIの化合物の非限定的例には、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(エチルメタクリレート)(PEMA)、ポリ(プロピルメタクリレート)(PPMA)、ポリ(ブチルメタクリレート)(PEMA)、ポリ(プロパ−1−エン−メタクリレート)などが含まれる。
【0052】
式Iの化合物の例には、ポリ(メチルエタクリレート)(PMEA)、ポリ(メチルブタクリレート)(PMBA)、ポリ(メチルペンタクリレート)(PMPA)、ポリ(エチルエタクリレート)(PEEA)、ポリ(プロピルエタクリレート)(PPEA)、ポリ(メチルプロパ−1−エン−エタクリレート)などが含まれる。
【0053】
式IIおよびIIIにおいて、Rは、式Iについて説明した場合と同様である。
【0054】
アクリレートの場合、出発モノマー原料は、アクリル酸のエステル:
【0055】
【化4】

である。
【0056】
メタクリレートの場合、出発モノマー原料は、メタクリル酸のエステル
【0057】
【化5】

である。
【0058】
アルキルアクリレートの場合、出発モノマー原料は、各種アルキルアクリル酸のエステル
【0059】
【化6】

である。
【0060】
およびRは、本明細書中でそれぞれ対応する類似の式について前に定義した通りである。これらの種の単独重合またはフルオロモノマー(最も注目すべきは、二フッ化ビニリデンおよび/またはヘキサフルオロプロピレン)との共重合は、末端炭素−炭素二重結合を利用する重合を伴う。
【0061】
さらに、本発明者らは、それらの単独および共重合の機構に関してアクリレートに類似したその他の構造体も、改善されたポリマー被覆をもたらすことを見出した。アクリレート、メタクリレートおよびその他のアルキルアクリレートをベースにした系と異なり、これらのその他の系の非フッ素化モノマーは、親水性および/または疎水性官能基を有することができる。
【0062】
一実施形態において、フッ素を含有しないコモノマーは、カルボン酸およびエステル官能基を含み、重合は、アクリレート、メタクリレートおよびその他のアルキルアクリレートをベースにした系と類似の様式で炭素−炭素二重結合間で起こる。mは0〜6のいずれかであってもよいが、いくつかの特定の実施形態ではm=4;いくつかの他の特定の実施形態ではm=5;他の実施形態ではm=6である。出発原料の一般構造を下に示す:
【0063】
【化7】

上記構造において、Yは、−COOH、−NH、−SH、−OH、−Si(OCH、および次の基:
【0064】
【化8】

【0065】
【化9】

(左への結合は−(CH基への連結を表す)のいずれかでよい。
【0066】
炭素−炭素二重結合間の式IVの重合は、ポリマー(次の一般構造を本明細書中で「式IV」と定義する)内に次のモノマー単位:
【0067】
【化10】

(式中、nは1以上であり、Yは前の通り定義される)をもたらす。
【0068】
別の実施形態において、フッ素を含まないコモノマーは、カルボン酸およびエステル官能基を含み、重合は、アクリレート、メタクリレートおよびその他のアルキルアクリレートをベースにした系と類似の様式で炭素−炭素二重結合間で起こる。
【0069】
アクリレートおよびフルオロモノマーを含むその他のポリマー系も、本発明に包含される。このような系は、付加的なモノマーを含む。1種以上のフルオロモノマーおよび/または1種以上のアクリレートモノマーと共に使用するための出発原料の非限定的例を下に示す:
【0070】
【化11】

環の二重結合間の重合は、無水マレイン酸構造から形成されるモノマー単位をもたらす。このようなモノマーは、フルオロモノマーおよびアクリレートモノマーを有するコポリマーまたはターポリマーの一部であり得る。当業者にとって明らかであるその他の類似構造も、本発明に包含される。
【0071】
他の実施形態において、アクリレートのエステル基のR基は、タウリンおよびタウリン様構造などの双性イオン性側鎖を含むことができる。
【0072】
【化12】

上記構造の重合は、次の一般構造(本明細書中で「式V」と定義する)をもたらす:
【0073】
【化13】

(式中、nは1以上であり、m=1〜6である)。
【0074】
その他のアミノ酸も使用できる。さらにその他の荷電基も使用することができ、
【0075】
【化14】

次のモノマー単位(次の一般構造を、本明細書中では「式VI」と定義する)をもたらす:
【0076】
【化15】

(式中、nは1以上であり、m=1〜6である)。
【0077】
フッ素化モノマーと親水性モノマーのコポリマーは、生体有益材料を任意選択で含めて被覆を形成することができる。組合せを、別々の層中に混合、ブレンドまたは被覆できる。本明細書に記載の被覆中で有用な生体有益材料は、ポリマー性材料または非ポリマー性材料でよい。生体有益材料は、好ましくは、非毒性、非抗原性、および非免疫原性である。生体有益材料は、非汚染性、血液適合性、積極的非血栓形成性、または抗炎症性であることによってデバイスの生体適合性を高めるものであり、すべて、薬学上の活性薬剤の放出に依存しない。
【0078】
生体有益材料の例には、限定はされないが、ポリ(エチレングリコール)などのポリエーテル;コポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA);ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)などのポリアルキレンオキシド、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、コリン、ポリ(アスピリン)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどのヒドロキシルを持つモノマーのポリマーおよびコポリマー、ポリ(エチレングリコール)アクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)およびn−ビニルピロリドン(VP)、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)などのカルボン酸をもつモノマー、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート、および3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メチルメタクリレート)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキシド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、フィブリン、フィブリノゲンなどの生体分子、セルロース、デンプン、コラーゲン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸のフラグメントおよび誘導体、ヘパリン、ヘパリンのフラグメントおよび誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖、エラスチン、キトサン、アルギン酸塩、シリコーン、可撓性ポリ(エチレングリコール)およびポリ(ブチレンテレフタレート)ブロック(PEGT/PBT)を有し、このようなPEGおよびPBTセグメントを有するAB、ABA、BAB型コポリマーを含むブロックコポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ブチレンテレフタレート)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)(PEG−PBT−PEG)、およびこれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態において、被覆は、前記ポリマーのいずれか1つを排除できる。
【0079】
本明細書に記載のポリマー組成物は、任意選択で、1種以上の生理活性薬剤を含んでよい。これらの生理活性薬剤は、治療薬、予防薬、または診断薬である任意の薬剤でよい。これらの薬剤は、抗増殖性または抗炎症性を有することができるか、あるいは抗腫瘍、抗血小板、抗凝固、抗フィブリン、抗血栓、抗有糸分裂、抗生、抗アレルギー、抗酸化、および細胞増殖抑制薬などのその他の特性を有することができる。適切な治療および予防薬の例には、治療、予防または診断上の活性を有する、合成の無機および有機化合物、タンパク質およびペプチド、多糖およびその他の糖類、脂質、およびDNAおよびRNA核酸配列が含まれる。核酸配列には、遺伝子、相補的DNAに結合して転写を阻害するアンチセンス分子、およびリボザイムが含まれる。その他の生理活性薬剤のいくつかの他の例には、抗体、受容体リガンド、酵素、接着ペプチド、血液凝固因子、ストレプトキナーゼおよび組織プラスミノゲン活性化因子などの阻害薬または血餅溶解薬、免疫化用抗原、ホルモンおよび増殖因子、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムなどのオリゴヌクレオチドならびに遺伝子療法で使用するためのレトロウイルスベクターが含まれる。抗増殖薬の例には、ラパマイシンおよびその官能または構造誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)およびその官能基および構造誘導体、パクリタキセルおよびその官能基および構造誘導体が含まれる。ラパマイシン誘導体の例には、メチルラパマイシン(ABT−578)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、および40−O−テトラゾール−ラパマイシンが含まれる。パクリタキセル誘導体の例には、ドセタキセルが含まれる。抗腫瘍および/または抗有糸分裂薬の例には、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン(例えば、Pharmacia & Upjohn、Peapack、ニュージャージー州からのAdriamycin(商標))およびマイトマイシン(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.、Stamford、コネティカット州からのMutamycin(商標))が含まれる。このような抗血小板、抗凝固、抗フィブリン、および抗トロンビン薬の例には、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体拮抗抗体、組み換えヒルジン、Angiomax a(Biogen,Inc.、Cambridge、マサチューセッツ州)などのトロンビン阻害薬、カルシウムチャネル遮断薬(ニフェジピンなど)コルヒチン、線維芽細胞増殖因子(FGF)拮抗薬、魚油(ω3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗薬、ロバスタチン(HMG−CoAレダクターゼの阻害薬)、Merck & Co.,Inc.、Whitehouse Station、ニュージャージー州からのロバスタチンおよび/またはシンバスタチンなどのコレステロール低下薬、モノクロナール抗体(血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なものなど)、ニトロプルシッド、ホスホジエステラーゼ阻害薬、プロスタグランジン阻害薬、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害薬、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗薬)、一酸化窒素または一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模擬体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌薬、各種ビタミンなどの食事サプリメント、およびこれらの組合せが含まれる。ステロイド性および非ステロイド性抗炎症薬を含む抗炎症薬の例には、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタソール、これらの組合せが含まれる。このような細胞増殖抑制性物の例には、アンジオペプチン、Bristol−Myers SquibbCo.(Stamford、コネティカット州)からのカプトプリルなどの、Merck & Co.,Inc.(Whitehouse Station、ニュージャージー州)からのシラザプリルまたはリシノプリルなどのアンジオテンシン転換酵素阻害薬が含まれる。抗アレルギー薬の例が、ペルミロラストカリウムである。適切であり得るその他の治療物質または治療薬には、α−インターフェロン、生理活性RGD、および遺伝子操作型上皮細胞が含まれる。前述の物質は、また、そのプロドラッグまたは併用薬の形態で使用できる。前述の物質は、例として列挙されるものであり、それらに限定することを意味しない。現在利用可能な、または将来に開発され得るその他の活性薬剤は、等しく適用可能である。
【0080】
好都合な治療効果をもたらすのに必要とされる生理活性薬剤の投与量または濃度は、該生理活性薬剤が毒性効果をもたらす水準未満であり、かつ治療結果が得られない水準を超えるものでなければならない。生理活性薬剤の投与量または濃度は、患者の個々の状況;外傷の性質;所望される療法の性質;投与された成分が血管部位に滞留する時間;および他の活性薬剤を使用するなら、該物質または物質の組合せの性質および種類などの因子に依存することがあり得る。治療上有効な投与量は、例えば、適切な動物モデル系からの血管に注入することによって、および免疫組織化学的方法、蛍光法または電子顕微鏡法を使用して薬剤およびその効果を検出することによって、または適切なin vitro研究を実施することによって経験的に決定することができる。当業者は、投与量を決定するための標準的な薬理学的試験法を理解している。
【0081】
その上に本発明の組成物を使用できる埋込み型デバイスは、ヒトまたは獣医学上の患者に埋め込むことのできる任意の適切な医療基材でよい。このような埋込み型デバイスの例には、自己拡張型ステント、バルーン膨張型ステント、ステント移植片、移植片(例えば、大動脈移植片)、人工心臓弁、脳脊髄液シャント、ペースメーカー電極、および心内膜リードが含まれる。デバイスは、股関節インプラントの屈曲部などの整形外科用インプラントであってよい。デバイスの基礎をなす構造は、実質上任意の設計でよい。デバイスは、金属材料、または限定はされないが、コバルト−クロム合金、ステンレススチール(316L)、高窒素ステンレススチールなどの合金から作製することができるが、ポリマー性材料などの非金属であってもよい。生体吸収性または生体内で安定なポリマーから作製されるデバイスも本発明の実施形態で使用し得る。ステントなどのデバイス自体も、説明した本発明のポリマーまたはポリマーブレンドから作製することができる。
【実施例】
【0082】
(典型的なPVDF−co−ブチルアクリレート・ランダムコポリマーの合成)
次の例では、PVDF−co−ブチルアクリレート・コポリマーの合成方法を提供する。同様の方法は、式I、II、およびIIIのポリマーを含む、本明細書に記載の一連のポリマーを調製するのに適用できる。出発原料のアクリレートは、RおよびR基を適切に置換することによって変更される。典型的な反応は、2000psi超に見積もられ、120℃までの温度を維持するように準備された高圧反応器の使用を含む。以下で、十分な空気流および窒素パージを備えたドラフトチャンバー内部でPVDF−co−ブチルアクリレートを調製するための作業を説明する。
【0083】
清浄な500mL反応器に、1gの過硫酸アンモニウムおよび4gのn−ブチルアクリレートを添加する。反応器を窒素で5分間パージする。次いで、反応器にフッ化ビニリデンモノマーを、反応器の圧力がフッ化ビニリデンモノマーのタンクの圧力と同じになるまで添加する。典型的には、反応器に、350〜400psiの反応器圧力で約40〜60gのフッ化ビニリデンモノマーを添加する。次いで、1/16インチのステンレススチール管を備えたWaters501HPLCポンプを使用して、窒素を吹き込んだ脱イオン水を反応器に添加する。ポンプで水を9mL/分で送液し、反応器を水で満たすと、内圧は増加し始める。反応器に約1時間で約400〜440mLの水を添加すると、内圧は500〜600psiになる。次いで、反応器の仕込み口を閉じ、内容物を水に徹底的に分散させるために、内容物を高回転数で撹拌する。温度調節器を70℃に設定し、反応器を、1〜2時間で設定温度に到達するように徐々に温める。設定点に到達すると、反応器の内圧は1200〜1400psiである。反応器を70℃に保持し、一夜絶えず撹拌する。
【0084】
半量の過硫酸アンモニウムを70℃で添加すると、10〜16時間以内に、または典型的には翌日の朝に、反応器の内圧は、VDFモノマーが重合したことを示す50psi未満に到達する。なんらかの未反応モノマーを除去するために、反応器の内容物に窒素を吹き込み、次いで内容物をガラスビーカーに移す。反応は、容量約400mLの水中のポリマー粒子の乳白色懸濁液をもたらす。これに、少なくとも1〜2Lの脱イオン水を添加し、内容物を一夜放置することができる。翌日、形成された沈降物を濾過により回収し、濾液を、水洗によってさらに精製し得る。次いで、沈降物を、真空オーブン中で乾燥し、粉末状のポリマー残渣を得る。PVDF−co−BAは、赤外分光法で同定することができ、ブチルアクリレートのカルボニルピークは、ほぼ1700cm−1に存在する。
【0085】
この非限定的例は、一般的な方法を説明している。変形形態もあり得るが、本発明の範囲に包含される。アクリレートコモノマーとしてブチルアクリレートを使用する場合、ブチルアクリレートの含有量は、より高い比率を使用し得るが、好ましくは1〜50%の範囲で変わる。ブチルアクリレートのより高い含有量は、フッ化ビニリデンとのコポリマーをより粘着性にし得る。その他のアクリレートの含有量は、所望される最終製品の特性に応じて変え得る。本報告で使用した水溶性過酸化物である過硫酸アンモニウムに加え、過酸化物のファミリー、ペルオキシカーボネートおよびペルオキシジカーボネートからなどのその他の開始剤を使用し得る。重合は、アセトン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中で、および懸濁重合に代わるその他の重合で実施し得る。
【0086】
(典型的なPVDF−co−HFP/ブチルアクリレート・グラフトコポリマーの合成)
グラトコポリマーのための方法の非限定的例は、次の通りである。この合成方法では、PVDF−co−HFPポリマー上のフッ素基から伸びるn−ブチルアクリレート基を有して生じるグラフトポリマーについて説明する。
【0087】
100mLのガラスフラスコに、熱電対および加熱マントル、ならびに磁気撹拌棒および撹拌板を取り付ける。まず、PVDF−co−HFPポリマーを70/30のアセトン/シクロヘキサノンに溶解して、固形分が5〜15%の溶液とする。この溶液を100mLのフラスコに添加し、窒素を1時間吹き込む。次いで、PVDF−co−HFP溶液に、ATRP触媒である臭化銅およびPMDETAを添加する。窒素吹込みをさらに1時間維持する。次いで、100mLフラスコに、その重合阻害剤を除去したブチルアクリレートモノマーを添加する。反応中、上部空間上での窒素吹き込みを維持する。フラスコの内容物を50℃まで加熱し、反応を1日間継続する。
【0088】
1日後、フラスコの内容物を過剰のアセトンに溶解する。この溶液を、メタノール中で沈殿させ、沈殿物を捕集する。さらにもう1回、溶解および沈殿を繰り返す。沈殿物を真空オーブンで乾燥する。調べてみると、それは触ると粘着性であることがわかった。このことは、ブチルアクリレートが、開始剤としてのPVDF−co−HFPと重合したことを示している。
【0089】
当業者は、目的を遂行し、その固有のものに加えて言及した最終目的および利点を獲得するように、本発明が適合されることを容易に認識するであろう。本明細書に記載のシステム、方法、手順および技術は、今のところ好ましい実施形態の典型であり、例示と解釈され、範囲を限定するものとは解釈されない。当業者は、本発明の精神に包含されるか、または特許請求の範囲によって規定されるその変更およびその他の使用を着想するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロモノマー単位;ならびに
式Iのアクリレートモノマー単位、式IIのアクリレートモノマー単位、式IIIのアクリレートモノマー単位、およびこれらの組合せからなる群から選択されるアクリルモノマー単位(式中、Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり;Rは、水素、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり、さらに、RおよびRは、同一または異なってよい)
を含むコポリマー組成物。
【請求項2】
アクリレートのモル%が、50%以下である、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項3】
アクリレートのモル%が、10〜20%、10〜50%、および25〜50%からなる群から選択される、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項4】
35℃未満のガラス転移温度を有する、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項5】
20℃未満のガラス転移温度を有する、請求項4に記載のコポリマー組成物。
【請求項6】
前記フルオロモノマー単位が、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項7】
ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはグラフトコポリマーを含む、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項8】
前記アクリレートモノマー単位が、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、メタクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項9】
生理活性薬剤をさらに含む、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項10】
前記生理活性薬剤が、抗血栓薬である、請求項9に記載のコポリマー組成物。
【請求項11】
該組成物の10モル%未満で存在する付加的モノマー単位をさらに含む、請求項1に記載のコポリマー組成物。
【請求項12】
フルオロモノマー単位;および
式IVのアクリレートモノマー単位(式中、Yは、−COOH、−NH、−SH、−OH、−Si(OCH
【化16】

からなる群から選択される)
を含むコポリマー組成物。
【請求項13】
前記フルオロモノマー単位が、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載のコポリマー。
【請求項14】
アクリレートのモル%が、50%以下である、請求項12に記載のコポリマー組成物。
【請求項15】
アクリレートのモル%が、10〜20%、10〜50%、および25〜50%からなる群から選択される、請求項12に記載のコポリマー組成物。
【請求項16】
35℃未満のガラス転移温度を有する、請求項12に記載のコポリマー組成物。
【請求項17】
20℃未満のガラス転移温度を有する、請求項16に記載のコポリマー組成物。
【請求項18】
ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはグラフトコポリマーを含む、請求項12に記載のコポリマー組成物。
【請求項19】
生理活性薬剤をさらに含む、請求項12に記載のコポリマー組成物。
【請求項20】
前記生理活性薬剤が、抗血栓薬である、請求項19に記載のコポリマー組成物。
【請求項21】
該組成物の10モル%未満で存在する付加的モノマー単位をさらに含む、請求項12に記載のコポリマー組成物。
【請求項22】
フルオロモノマー単位;および
式V、式VIのアクリレートモノマー単位、またはこれらの組合せ
を含むコポリマー組成物。
【請求項23】
前記フルオロモノマー単位が、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項24】
アクリレートのモル%が、50%以下である、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項25】
アクリレートのモル%が、10〜20%、10〜50%、および25〜50%からなる群から選択される、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項26】
35℃未満のガラス転移温度を有する、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項27】
20℃未満のガラス転移温度を有する、請求項26に記載のコポリマー組成物。
【請求項28】
前記コポリマーが、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはグラフトコポリマーである、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項29】
生理活性薬剤をさらに含む、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項30】
前記生理活性薬剤が、抗血栓薬である、請求項29に記載のコポリマー組成物。
【請求項31】
該組成物の10モル%未満で存在する付加的モノマー単位をさらに含む、請求項22に記載のコポリマー組成物。
【請求項32】
フルオロポリマー;ならびに
式Iのアクリレートモノマー単位、式IIのアクリレートモノマー単位、式IIIのアクリレートモノマー単位、およびこれらの組合せからなる群から選択されるアクリレートモノマー単位を有するポリアクリレート(式中、Rは、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり;Rは、水素、C〜C10アリール、5〜12員の複素環基、C〜C10アルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、またはC〜Cシクロアルキルであり、さらに、RおよびRは、同一または異なってよい)
を含むポリマーブレンド組成物。
【請求項33】
フルオロモノマーおよびアクリレートモノマーを実質上含まない第3ポリマーをさらに含む、請求項32に記載のポリマーブレンド。

【公表番号】特表2011−518247(P2011−518247A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505195(P2011−505195)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/040784
【国際公開番号】WO2009/146194
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】