説明

フッ素含有エチレンオキサイド共重合体

【課題】医療及び医用材料において、特に膜やフィルター等に使用されるシリカを含む基材に対して、生体組織や細胞の接着抑制効果及び蛋白接着抑制効果を有し、生体適合性を有するフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される構造単位0.1〜50モル%、及び下記式(II)で表される構造単位50〜99.9モル%を有するエチレンオキサイド共重合体であって、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量が1000〜400000であるフッ素含有エチレンオキサイド共重合体。


(式(I)中、R1は特定のフッ素含有基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素含有エチレンオキサイド共重合体及びその使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の高分子材料を利用した医療及び医用材料の検討が進められており、人工腎臓用膜、血漿分離用膜、ウイルス除去膜、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、創傷被覆材、人工皮膚等への利用が期待されている。これらの分野においては、生体にとって異物である合成材料を生体組織や体液と接触させて使用する。したがって、これらの医療及び医用材料は、生体組織や体液と相互作用及び干渉作用を起こさないために、体液適合性及び生体組織適合性を有することが要求される。
【0003】
医療及び医用材料に要求される体液適合性及び生体組織適合性は、その目的及び使用法によって異なる。例えば血液と接する材料として使用する場合、血漿蛋白の接着抑制、細胞接着抑制、血液凝固系の抑制、血小板の粘着・活性化の抑制及び補体系の活性化の抑制という特性が求められている。この目的に対して、血液適合性が改善され種々のアクリレート系生体適合性材料が報告されてきた(例えば非特許文献1及び非特許文献2)。
【0004】
また、血液を用いた迅速診断においては、目的成分を捕捉するための抗体や蛋白を固定化したフィルター、不織布又は膜類を用いることで、特定の血液成分の分離や除去と同時に目的成分の捕捉又は結合を行うことのできる機能が求められている。特にシリカ素材によって構成されるガラスフィルターや不織布等の基材に対して、診断の障害となる非特異吸着の抑制が求められており、その主因である血漿蛋白の接着抑制、細胞接着抑制などの機能が求められている。
【0005】
機能材料として、アクリレート系以外の生体適合性材料であるエチレンオキサイド共重合体が報告されている。また、アルキルグリシジルエーテル類の重合による体液適合性及び生体適合性を有する共重合体に関しては、これまでに種々の提案がなされている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-281665号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Tanaka, T. Motomura, M. Kawada, T. Anzai, Y. Kasori, T. Shiroya, K. Shimura, M. Onishi, A. Mochizuki, Biomaterials, 21, 1471-1481 (2000)
【非特許文献2】K. Ishikawa, T. Ueda, N. Nakabayashi, Polymer Journal, 22, 355-360 (1990)
【非特許文献3】TSE-LOK HO, Hard and Soft Acid and Bases Principle in Organic Chemistry, Academic Press, New York, 1977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1において、例えばガラスフィルター等の、構成材料としてシリカを含む基材に対して特異的な効果を有する材料について検討がなされていない。体液又は生体組織と接する部分に使用する医療及び医用材料において、特にガラスフィルターや膜等に使用されるシリカを含む基材については、基材に対する濡れ性の向上、組織接着及び組織癒着の抑制、血漿蛋白の接着抑制、細胞接着抑制、血液凝固系の抑制、血小板の粘着・活性化の抑制及び補体系の活性化の抑制が特に望まれているが、未だ有効な材料が報告されていない。
【0009】
本発明は、医療及び医用材料において、特に膜やフィルター等に使用されるシリカを含む基材に対して、生体組織や細胞の接着抑制効果及び蛋白接着抑制効果を有し、生体適合性を有するフッ素含有エチレンオキサイド共重合体及びその使用等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、医療及び医用材料において、特に膜やフィルター等に使用されるシリカを含む基材に対して、生体組織や細胞の接着抑制及び蛋白接着抑制効果を賦与するために、生体適合性を有するフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を提供する。
【0011】
有機ケイ素化学の分野では、シリカカチオンは固い酸(Hard acid)として知られており、かつ、フッ素アニオンは固い塩基(Hard base)として知られ、両者の結合で生じる「シリカ−フッ素結合」は「シリカ−酸素結合」よりも強固であることが知られている(非特許文献3)。
【0012】
そこで、本発明者は、シリカを構成成分として含む基材に対して、フッ素原子を含有する側鎖を有するポリマーを作用させることで、より強固な被覆又は添加・混合が容易になるものと考えて実証し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
ここで、本発明におけるシリカとは、少なくとも表面にシロキサン結合部分又はシラノール基を有するケイ素化合物である。シリカの主成分は二酸化ケイ素であるが、本明細書で述べる「シリカを含む基材」は、少量成分として、アルミナ、アルミン酸ナトリウム等を含んでいてもよく、更に安定剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等の無機塩基、テトラメチルアンモニウムのような有機塩基等を含んでいてもよい。
【0014】
本発明は、以下のとおりである。
[1]下記式(I)で表される構造単位0.1〜50モル%、及び下記式(II)で表される構造単位50〜99.9モル%を有するエチレンオキサイド共重合体であって、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量が1000〜400000であるフッ素含有エチレンオキサイド共重合体。
【化1】

(式(I)中、R1は下記式(III)で表される1価の基を示す。)
【化2】

(式(III)中、m及びnはそれぞれ0≦m≦4、1≦n≦15の条件を満たす整数であり、R2はフッ素原子又は水素原子を示す。)
[2]ポリエチレンオキサイド換算の数平均分子量に対するポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量の比が1.1〜2.7である、[1]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体。
[3][1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体の生体組織又は体液と接触する部分への使用。
[4][1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のペプチド又は蛋白と接触する部分への使用。
[5]医療用具、生体由来蛋白精製、生体由来糖蛋白精製及びペプチド精製からなる群より選ばれる1種以上の用途に用いる樹脂材料への添加剤であって、[1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体からなる添加剤。
[6]前記樹脂材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン、シリカ及びポリフルオロカーボンからなる群より選ばれる1種以上からなる樹脂材料である、[5]の添加剤。
[7]医療用具、生体由来蛋白精製、生体由来糖蛋白精製及びペプチド精製からなる群より選ばれる1種以上の用途に用いる樹脂材料に対する被覆剤であって、[1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体からなる被覆剤。
[8]前記樹脂材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン、シリカ及びポリフルオロカーボンからなる群より選ばれる1種以上からなる樹脂材料である、[7]の被覆剤。
[9][1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を含有する繊維処理剤。
[10][1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を含有するコンタクトレンズ用保存液又は洗浄液。
[11]体液又は生体組織を用いた診断に用いる樹脂材料に対する添加剤又は被覆剤であって、[1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を含有する添加剤又は被覆剤。
[12][1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を、体液、生体組織、生体由来蛋白及びペプチドからなる群より選ばれる1種以上のものの精製又は診断に用いるシリカを含む膜、基板、フィルター及びビーズからなる群より選ばれる1種以上の医療及び医用部材に被覆する工程を有する、医療及び医用部材の製造方法。
[13][1]又は[2]のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を、体液、生体組織、生体由来蛋白及びペプチドからなる群より選ばれる1種以上のものの精製又は診断に用いるシリカを含む膜、基板、フィルター、ビーズからなる群より選ばれる1種以上の医療及び医用部材を構成する樹脂材料に添加又は混合する工程を有する、医療及び医用部材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、医療及び医用材料において、特に膜やフィルター等に使用されるシリカを含む基材に対して、生体組織や細胞の接着抑制効果及び蛋白接着抑制効果を有し、生体適合性を有するフッ素含有エチレンオキサイド共重合体及びその使用等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例2〜4の共重合体(2)〜(4)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートに対するヒト免疫グロブリンGの吸着抑制効果を示すプロット図である。
【図2】実施例2〜4の共重合体(2)〜(4)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートに対するヒトアルブミンの吸着抑制効果を示すプロット図である。
【図3】実施例2及び4並びに製造例1の共重合体(2)、(4)及び(6)をそれぞれ被覆したグラスフィルターに対するヒト免疫グロブリンGの吸着抑制効果を示すプロット図である。
【図4】実施例2〜4の共重合体(2)〜(4)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートに対するHELヒト肺細胞の接着抑制効果を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0018】
本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体(以下、単に「共重合体」ともいう。)は、上記式(I)及び(II)で表される構造単位を有し、好ましくはランダム共重合体である。
【0019】
式(I)中、R1は上記式(III)で表される1価の基を示す。また、式(III)中、m及びnは、それぞれ0≦m≦4、1≦n≦15の条件を満たす整数であり、mは1が好ましく、nは2〜8が好ましく、2〜6がより好ましい。また、R2はフッ素原子又は水素原子を示す。
【0020】
本実施形態の共重合体において、上記式(I)で表される構造単位と上記式(II)で表される構造単位の含有割合は、上記式(I)で表される構造単位が0.1〜50モル%、好ましくは0.1〜20モル%、上記式(II)で表される構造単位が50〜99.9モル%、好ましくは80〜99.9モル%である。上記式(I)で表される構造単位が0.1モル%以上、あるいは上記式(II)で表される構造単位が99.9モル%以下であることにより、シリカを含む基材に対して親和性をより効果的に付与することができる。一方、上記式(I)で表される構造単位が50モル%以下、あるいは上記式(II)で表される構造単位が50モル%以上であることにより、更なる生体組織や細胞の接着抑制及び蛋白接着抑制という効果が得られる。これらの構造単位の含有割合は、各構造単位に対応するモノマーの仕込み比により調整される。
【0021】
本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体の分子量は、ポリエチレンオキサイド(PEO)換算の重量平均分子量で1000〜400000である。その重量平均分子量が1000未満になると、共重合体は極めて水に溶けやすくなるものの体内からの排泄速度も極めて大きくなる。また、その重量平均分子量が400000を越えると、共重合体は水に溶けるものの粘度が上昇する。これらの観点から生体への安全性を考慮すると、共重合体の重量平均分子量は1000〜150000であると好ましく、1000〜100000であるとより好ましい。血中滞留性の抑制と腎排泄の容易さから判断して、その重量平均分子量が1000〜70000であると更に好ましい。生体中の血漿アルブミンの重量平均分子量(約67000)よりも低い場合、共重合体の体外への排泄が迅速に進行するためである。したがって、特に、体外への排泄が制御されながら生体への安全性も高い1000〜70000の重量平均分子量であることが好ましい。
【0022】
ここでPEO換算の重量平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により分子量の測定を実施する際に、ポリエチレンオキサイド(TSK standard Polyethylene Oxide、TOSOH(株)製)を標準試料とし、その重量平均分子量に換算して得られた分子量をいう。PEOは水溶性溶媒及び有機溶媒にも可溶なため、親水性重合体及び疎水性重合体の分子量測定の際に分子量標準物質として用いた。
【0023】
また、その重量平均分子量が1000〜400000であると、水やエタノールを始めとする広範な種類の有機溶媒のいずれかに溶解するので好ましい。一方で、その重量平均分子量が1000未満の場合、これを含む被覆剤の吸着安定性が低下するため、被覆対象となる基材表面から剥離する場合がある。また、その重量平均分子量が400000を越えると、フッ素含有エチレンオキサイド共重合体溶液の粘度が高くなるため、基剤をその共重合体溶液中に添加した時の基材粒子の分散又は共重合体の特性を均質に有する粒子表面の調製が困難になる場合がある。そのような観点から、この重量平均分子量は1000〜200000がより好ましく、1000〜100000が更に好ましい。
【0024】
本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、同一分子中における親水性部分と疎水性部分とをランダムに分散させるためにランダム共重合体であると好ましい。本実施形態の共重合体がブロック共重合体であると、界面活性剤として作用するポリエーテルが生成する可能性がある。そのような共重合体が生体内に取り込まれた場合、溶血作用を発現する可能性があり、生体にとって、ランダム共重合体を用いるよりも好ましくない。
【0025】
本実施形態の共重合体において、PEO換算の数平均分子量(Mn)に対するPEO換算の重量平均分子量(Mw)の比、すなわち重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)で表される分子量分布は、目的とする生体組織適合性をより十分に発揮するために品質の均一性が重要であることから、1.1〜2.7であることが好ましい。その共重合体に関し更に高度の品質を確保するためには、分子量分布が1.1〜2.5であるとより好ましく、1.1〜2.2であると更に好ましく、1.1〜1.8であると特に好ましく、1.0〜1.5であると極めて好ましい。
【0026】
本実施形態の共重合体は、モノマーとしてフッ素含有基が導入されているものを用いて製造されると好ましい。これにより、一段階の重合工程でポリマーに直接フッ素含有基を導入することができる。更に、フッ素含有基の導入量をエチレンオキサイドに対するモノマー使用量の調節によって制御可能である点でも好ましい。
【0027】
このように、フッ素含有基を有するモノマーを用いて、好ましくはランダム重合により得られた本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、従来技術であるPEOに比べ様々な点において優れている。すなわち、本実施形態の共重合体は、側鎖にフッ素含有基が導入されていることから、特に膜やフィルター等に使用されるシリカの他、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン又はポリフルオロカーボンを含む樹脂材料からなる基材に対して有効に作用することができる。本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、その側鎖のフッ素原子の効果により、該基材に対する親和性が向上する。これにより、本実施形態の共重合体は、濡れ性の向上、組織接着及び組織癒着の抑制、血漿蛋白の接着抑制、細胞接着抑制、血液凝固系の抑制、血小板の粘着・活性化の抑制及び補体系の活性化の抑制のための材料として、特に該基材表面に対する被覆、あるいは該基材への添加、混合のための有効な材料として利用され得る。
【0028】
さらに、本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、その側鎖のフッ素原子の効果により、DNA及び小分子マイクロアレー用ガラス基板を始めとするシリコン基板又は電子基板等の電子材料に対しても、蛋白吸着抑制、生体組織接着抑制を始めとする防汚効果を発揮することができる。ここで、「基板」としては、例えば電子回路基板、プリント配線板及びモジュール基板が挙げられる。
【0029】
本実施形態の共重合体のモノマー組成について、反応に用いる原料の種類、原料の質量、重合開始剤の種類、重合開始剤の添加量、反応溶媒の有無、反応溶媒の選択、反応温度、反応時間、原料濃度、重合開始剤濃度、反応雰囲気、反応圧力、撹拌状態、撹拌速度等の調整により、種々の組成比を有する共重合体が製造される。例えば、反応溶媒中又は無溶媒で、エチレンオキサイドと共に1種又は2種以上のグリシジルエーテル類を、金属重合開始剤又はそれ以外の重合開始剤を単独若しくは混合して用いて、アルゴンや窒素等の不活性気体雰囲気下、氷冷、室温下又は必要に応じて加熱下にて常圧又は加圧下で開環重合させることにより、本実施形態の共重合体が得られる。
【0030】
反応溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、2−メトキシエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。グリシジルエーテル類としては、例えば、3−(2,2,3,3−テトラフロロプロポキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H,5H−オクタフロロペンチルオキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H,7H−ドデカフロロヘプチルオキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H,9H−ヘキサデカフロロノニルオキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H−ペンタフロロプロポキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H−ナノフロロペンチルオキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H−トリデカフロロヘプチルオキシ)−1,2−プロペンオキサイド、3−(1H,1H−ヘプタデカフロロノニルルオキシ)−1,2−プロペンオキサイドが挙げられる。金属重合開始剤としては、例えば、三フッ化ホウ素エーテル錯体、トリアルキルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのルイス酸が挙げられる。それ以外の重合開始剤としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリムプロポキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムt−ブトキシド、カリウム−t−2−メチル−2−ブトシキドが挙げられる。
【0031】
本実施形態における共重合体の重量平均分子量は、前述のとおり、安全性の面から生体内からの体外への排泄が容易な分子量の大きさであることが重要である。例えば、GPCにおけるPEO換算の重量平均分子量を1000〜400000にするには、必要に応じて、公知の手法、例えば、出発原料の精製、反応後に高分子量分画又は低分子量分画の分別除去を採用してもよい。例えば、分子量分画の具体的方法は、サイズエクスクルージョンクロマトグラフィー(SEC)、GPC等のクロマトグラフィー、UFモジュール等を含む限外ろ過、超遠心分離法、エーテル、エタノールなどの有機溶媒等を用いた沈殿分画が挙げられる。
【0032】
以上のとおり、本実施形態の共重合体を、例えば体液又は生体組織と接する部分に使用する医療及び医用材料の分野における、特に膜やフィルター等に使用されるシリカの他、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン又はポリフルオロカーボンを含む樹脂材料からなる基材に対して用いる場合、最適な分子量を選択し、かつ側鎖のフッ素含有基を使用目的に応じて最適な量だけ導入することが可能となる。
【0033】
本実施形態は、体液又は生体組織と接触する部分、及びペプチド又は蛋白と接触する部分に用いることができ、また、医療用具に用い得るフッ素含有エチレンオキサイド共重合体からなるシリカ親和性ポリマーに関するものである。本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、生体組織の接着及び癒着抑制効果、蛋白接着抑制効果、細胞接着抑制効果だけでなく、シリカ、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン又はポリフルオロカーボンを含む樹脂材料からなる基材に対する濡れ性の向上、血小板の粘着及び活性化の抑制効果を有するものである。
【0034】
本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、体液又は生体組織と接触する部分、並びにペプチド又は蛋白と接触する部分に用いることができ、また医療用具に用い得るものである。また、本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、体液、生体組織、ペプチド、蛋白との相互作用や干渉作用を抑制するという効果を有し、生体組織の接着及び癒着抑制効果、血漿蛋白接着抑制効果、細胞接着抑制効果、血小板の粘着及び活性化の抑制効果、補体系活性化の抑制効果、ペプチド接着抑制効果、蛋白接着抑制効果を有する。更に本実施形態の共重合体は、ペプチド及び蛋白の分離、精製等を目的とした器材を構成する材料に混和又は該器材に対し被覆することで、目的とするペプチド及び蛋白の回収率が向上し、該器材の目的とする効果持続性、効果持続性が達成される。よって、本実施形態のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体は、医療用具、生体由来蛋白精製、生体由来糖蛋白精製及びペプチド精製からなる群より選ばれる1種以上の用途に用いる樹脂材料への添加剤又はその樹脂材料に対する被覆剤として有用である。
【0035】
本実施形態の共重合体は、例えば、医療用途として、人工腎臓用膜、血漿分離膜、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、創傷被覆材、人工皮膚、ウイルス除去膜、白血球除去膜等の生体材料、医療用材料や医療用具の構成成分又は被覆剤として使用することができる。本実施形態の共重合体は、更にフィルムの形態として床ずれ、火傷、潰瘍、外傷による創傷を被覆するため、あるいは、真皮、皮下組織、筋肉、筋、関節、骨に及ぶ組織破壊による創傷を被覆するために使用できる。さらに、本実施形態の共重合体は、親水性付与効果(保湿効果)及び蛋白吸着抑制効果を活用し、防汚効果を発揮することでコンタクトレンズ用保存液又は洗浄液としても使用できる。また、本実施形態の共重合体は、DNA及び小分子マイクロアレー用ガラス基板又はシリカ基板に対する蛋白吸着抑制効果を活用し、電子基板などの電子材料に対する防汚効果を発揮することも可能である。さらに、本実施形態の共重合体は、その親水性付与、保湿性付与効果を活用し、化粧用又は不織布等の繊維処理用としても使用できる。
【0036】
一方、本実施形態によると、膜やフィルター等に使用されるシリカからなる基材に対し、フッ素原子を含有する側鎖によるシリカ親和性向上の効果により、特異的に濡れ性の向上、生体組織の接着及び癒着抑制効果、蛋白接着抑制効果、細胞接着抑制効果、血小板の粘着及び活性化の抑制効果を賦与することを可能にする。
【0037】
本実施形態の共重合体は、例えば、ヒト、ほ乳類、は虫類、微生物、昆虫などを含む生物由来ペプチド又は蛋白の分離、精製、濃縮、濾過、脱塩濃縮用途等に使用することができる。あるいは、該ペプチド又は蛋白からなる医薬品、医薬品原体、医薬品原料の分離、精製、濃縮、濾過、脱塩用途等に使用することができる。また、本実施形態の共重合体は、これらの用途に用いるための器材を構成する基材に対する添加剤、あるいは、その器材に対する被覆剤として使用することができる。さらに、本実施形態の共重合体は、その保湿作用及び蛋白吸着抑制作用などの生体非認識作用を活用し、化粧料、例えば毛髪の帯電を抑制する目的での毛髪料化粧料として、また、刺激性物質の付着した繊維素材を低刺激化することのできる繊維用刺激抑制剤として使用することができる。
【0038】
本実施形態によると、上記フッ素含有エチレンオキサイド共重合体を、体液、生体組織、生体由来蛋白及びペプチドからなる群より選ばれる1種以上のものの精製又は診断に用いるシリカを含む膜、基板、フィルター及びビーズからなる群より選ばれる1種以上の公知であってもよい医療及び医用部材に被覆することで、上記各効果を奏する医療及び医用部材を製造することができる。また、本実施形態によると、上記フッ素含有エチレンオキサイド共重合体を、体液、生体組織、生体由来蛋白及びペプチドからなる群より選ばれる1種以上のものの精製又は診断に用いるシリカを含む膜、基板、フィルター、ビーズからなる群より選ばれる1種以上の公知であってもよい医療及び医用部材を構成する樹脂材料に添加又は混合することで、上記各効果を奏する医療及び医用部材を製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。また、本実施例におけるGPCの条件は、以下のとおりである。
カラム:G40000PWXL(東ソー社製)
移動相:20%アセトニトリル/50mM塩化リチウム
流速:0.8mL/分
カラム温度:40℃
GPC装置:LC−10Aシステム(島津製作所製)
検出器:RID−10A(RI:示差屈折計、島津製作所製)
化合物の分子量及び分子量分布を算出するための検量線は、スタンダードポリエチレンオキサイド(東ソー社製、重量平均分子量:2.4×104、5.00×104、10.7×104、14.0×104)を用いて作成した。
【0040】
(実施例1)
アルゴン雰囲気下、耐圧反応容器に3−(2,2,3,3−Tetrafluoropropoxy)−1,2−propenoxide 22.4g、エチレンオキサイド80mL、カリウムt−ブトキシド1Mテトラヒドロフラン溶液1mL及びトリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液10mL、並びに溶媒としてヘキサン300mLを加え、25℃で24時間反応を行った。反応終了後、反応生成物を回収し、減圧下で溶媒を除去することによって目的とするランダム共重合体(1)71gを白色固体として得た。得られたフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のPEO換算の重量平均分子量をGPCにより測定した結果は、51000であった。テトラメチルシランを標準とする重水素化メタノール(CD3OD)溶媒中での1H−NMR分析による、フッ素含有基(上記式(I)で表される構造単位。以下同様。)の導入率(含有割合。以下同様。)は、4.5モル%であった。
【0041】
(実施例2)
アルゴン雰囲気下、耐圧反応容器に3−(1H,1H,5H−Octafluoropentyloxy)−1,2−propenoxide 13.6g、エチレンオキサイド41mL、カリウムt−ブトキシド1Mテトラヒドロフラン溶液0.5mL及びトリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液4.5mL、並びに溶媒としてヘキサン200mLを加え、25℃で20時間反応を行った。反応終了後、反応生成物を回収し、減圧下で溶媒を除去することによって目的とするランダム共重合体(2)41gを白色固体として得た。得られたフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のPEO換算の重量平均分子量をGPCにより測定した結果は、46000であった。テトラメチルシランを標準とする重水素化メタノール(CD3OD)溶媒中での1H−NMR分析による、フッ素含有基の導入率は、3.2モル%であった。
【0042】
(実施例3)
アルゴン雰囲気下、耐圧反応容器に3−(1H,1H,7H−Dodecafluoroheptyloxy)−1,2−propenoxide 13.9g、エチレンオキサイド41.3mL、トリイソブチルアルミニウムの1モル濃度ヘキサン溶液4.5mL及びカリウムt−ブトキシド56mg、並びに溶媒としてヘキサン400mLを加え、25℃で20時間反応を行った。反応終了後、溶媒を除去して、目的とするランダム共重合体(3)36gを白色固体として得た。得られたフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のPEO換算の重量平均分子量をGPCにより測定した結果は43000であった。テトラメチルシランを標準とする重水素化メタノール(CD3OD)溶媒中での1H−NMR分析による、フッ素含有基の導入率は、2.9モル%であった。
【0043】
(実施例4)
アルゴン雰囲気下、耐圧反応容器に3−(2,2,3,3−Tetrafluoropropoxy)−1,2−propenoxide 9.3g、エチレンオキサイド70mL、カリウム2−メチル−2−ブトキシド1Mテトラヒドロフラン溶液1.1mL及びトリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液11.1mL、並びに溶媒としてヘキサン300mLを加え、25℃で6時間反応を行った。反応終了後、反応生成物を回収し、減圧下で溶媒を除去することにより、目的とするランダム共重合体(4)49gを白色固体として得た。得られたフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のPEO換算の重量平均分子量をGPCにより測定した結果は49000であった。テトラメチルシランを標準とする重水素化メタノール(CD3OD)溶媒中での1H−NMR分析による、フッ素含有基の導入率は、2.9モル%であった。
【0044】
(実施例5)
アルゴン雰囲気下、耐圧反応容器に3−(2,2,3,3−Tetrafluoropropoxy)−1,2−propenoxide 9.3g、エチレンオキサイド70mL、カリウムt−ブトキシド1Mテトラヒドロフラン溶液1mL及びトリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液10mL、並びに溶媒としてヘキサン300mLを加え、30℃で4.5時間反応を行った。反応終了後、反応生成物を回収し、減圧下で溶媒を除去することにより、目的とするランダム共重合体(5)50gを白色固体として得た。得られたフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のPEO換算の重量平均分子量をGPCにより測定した結果は、35000であった。テトラメチルシランを標準とする重水素化メタノール(CD3OD)溶媒中での1H−NMR分析による、フッ素含有基の導入率は、2.2モル%であった。
【0045】
(製造例1)
比較対照用として、フッ素原子を含有しないランダム共重合エチレンオキサイド共重合体を、特開2005−281665号公報を参照して製造した。アルゴン雰囲気下、耐圧反応容器にn−ブチルグリシジルエーテル14.2mL、エチレンオキサイド41.3mL、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液4.5mL及びカリウムt−ブトキシド1MのTHF溶液0.5mL、並びに溶媒としてヘキサン200mLを加え、25℃で20時間反応を行った。反応終了後、溶媒を除去して目的とする共重合体(6)46gを白色固体として得た。得られた共重合体のPEO換算の重量平均分子量をGPCにより測定した結果は、67000であった。1H−NMR分析によると、テトラメチルシランを標準とするCD3OD溶媒中での測定により、δ0.94、δ1.39及びδ1.54にn−ブチル基に由来する多重線ピークが観測された。さらにδ3.30〜3.90に、主にポリエチレングリコールに由来するピークが見られた。また、1H−NMR分析によるn−ブチル基の導入率は、2.8モル%であった。
【0046】
(実施例6)
上記実施例中の共重合体(2)、(3)及び(4)を、それぞれ、70%エタノール水溶液に10、1、0.1、0.01、0.001及び0mg/mLの濃度で溶解して試料液を得た。コーニング(株)社(Corning,NY,USA)製のCoaster 96穴EIAプレート(商品番号3590)に上記試料液を0.2mL/ウエルの割合で添加し、4℃で一晩静置することにより被覆した。同様に、対照ウエルには70%エタノール水溶液を添加した。その後、試料液を吸引除去し、プレートを乾燥することにより、上記共重合体を被覆したプレートを作製した。このプレートについて、以下の方法にて血漿蛋白吸着評価を行った。
【0047】
カペル(株)社製、精製ヒト免疫グロブリンG(Purified Human IgG;ICN/Cappel,USA)の5μg/mL溶液を、上記EIAプレートに0.1mL/ウエルの割合で添加し、ウエル表面を37℃で2時間接触させた。その後、ウエル表面に吸着したヒト免疫グロブリンG量を、カペル(株)社製、西洋わさび過酸化酵素標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンG(Horseradish peroxidase (HRP)- conjugated goat IgG fraction to human IgG (Whole molecule; ICN/Cappel, USA))を用いる酵素免疫定量法(ELISA;Enzyme-linked Immunosorbant Assay)により評価した。
【0048】
評価結果を図1に示す。図1は、実施例2の共重合体(2)(ここではC(2)と表記)、実施例3の共重合体(3)(ここではC(3)と表記)、及び実施例4の共重合体(4)(ここではC(4)と表記)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートに対するヒト免疫グロブリンGの吸着抑制効果を示すプロット図である。同一プレートに既知濃度の免疫グロブリン標準品を添加して測定することにより、検量線を作成した。この検量線をもとにプレート上の免疫グロブリンG吸着量を定量した。
【0049】
実施例2の共重合体(2)、実施例3の共重合体(3)、及び実施例4の共重合体(4)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートについて、図1に示されるように、未被覆ウエルに対する免疫グロブリンG吸着量は、ほぼ5μg/mLであり、更に被検試料については被覆量に応じたヒト免疫グロブリンG吸着抑制傾向が見られた。
【0050】
(実施例7)
上記実施例中の共重合体(2)、(3)及び(4)を、それぞれ、70%エタノール水溶液に10、1、0.1、0.01、0.001及び0mg/mLの濃度で溶解して試料液を得た。コーニング(株)社(Corning,NY,USA)製のCoaster 96穴EIAプレート(商品番号3590)に上記試料液を0.2mL/ウエルの割合で添加し、4℃で一晩静置することにより被覆した。同様に、対照ウエルには70%エタノール水溶液を添加した。その後、試料液を吸引除去し、プレートを乾燥することにより、上記化合物を被覆したプレートを調製した。このプレートについて、以下の方法にて血漿蛋白吸着評価を行った。
【0051】
カペル社製の精製ヒトアルブミン(Purified Human Albumin;ICN/Cappel,USA)の2μg/mL溶液を、96穴EIAプレートに0.1mL/ウエルの割合で添加し、ウエル表面を37℃で2時間接触させた。その後、ウエル表面に吸着したヒトアルブミン量をカペル社製の西洋わさび過酸化酵素標識ヤギ抗ヒトアルブミン(Horseradish peroxidase (HRP)-conjugated goat IgG fraction to human Albumin (ICN/Cappel, USA))を用いるELISAにより評価した。
【0052】
評価結果を図2に示す。図2は、実施例2の共重合体(2)(ここではC(2)と表記)、実施例3の共重合体(3)(ここではC(3)と表記)、及び実施例4の共重合体(4)(ここではC(4)と表記)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートに対するヒトアルブミンの吸着抑制効果を示すプロット図である。同一プレートに既知濃度のヒトアルブミン標準品を添加し、測定することにより、検量線を作成した。その結果、実施例2の共重合体(2)、実施例3の共重合体(3)、及び実施例4の共重合体(4)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートにおいて、図2に示されるように、未被覆ウエルに対する免疫グロブリンG吸着量は、ほぼ2μg/mLであり、更に被検試料については被覆量に応じたヒト免疫グロブリンG吸着抑制傾向が見られた。
【0053】
(実施例8)
上記実施例6中のEIAプレートの代わりに直径8mmのグラスフィルター(桐山製作所製ろ紙、GFP8mmφ)を用い、以下の方法にて血漿蛋白吸着評価を行った。すなわち、上記実施例中の共重合体(2)、(4)及び(6)並びに対照としてポリエチレングリコール(分子量20000、PEG20000、和光純薬製)を、それぞれ、70%エタノール水溶液に10、1、0.1、0.01、0.001及び0mg/mLの濃度で溶解して試料液を得た。細胞培養用24穴プレートに、メタノールで洗浄後乾燥した直径8mmのグラスフィルターを入れ、上記試料液50μLをグラスフィルターに添加し、減圧下で乾燥することにより上記共重合体を被覆したグラスフィルターを作製した。このグラスフィルターについて、以下の方法にて血漿蛋白吸着評価を行った。
【0054】
カペル(株)社製、精製ヒト免疫グロブリンG(Purified Human IgG;ICN/Cappel,USA)の5μg/mL溶液を、上記共重合体を被覆したグラスフィルターを入れた24穴プレートに0.4mL/ウエルの割合で添加し、グラスフィルターを37℃で2時間接触させた。その後、グラスフィルターに吸着したヒト免疫グロブリンG量を、カペル(株)社製、西洋わさび過酸化酵素標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンG(Horseradish peroxidase (HRP)- conjugated goat IgG fraction to human IgG (wholemolecule; ICN/Cappel, USA))を用いるELISAにより評価した。
【0055】
評価結果を図3に示す。図3は、実施例2の共重合体(2)(ここではC(2)と表記)、実施例4の共重合体(4)(ここではC(4)と表記)、及び製造例1の共重合体(6)(ここではC(6)と表記)をそれぞれ被覆したグラスフィルターに対するヒト免疫グロブリンGの吸着抑制効果を示すプロット図である。24穴プレートに既知濃度の免疫グロブリンG標準品を添加して測定することにより、検量線を作成した。この検量線をもとに24穴プレートに入れたグラスフィルター上に吸着したヒト免疫グロブリン吸着量を定量した。
【0056】
その結果、実施例2の共重合体(2)、実施例4の共重合体(4)、及び製造例1の共重合体(6)をそれぞれ被覆したグラスフィルターには、被覆量に応じたヒト免疫グロブリンG吸着抑制が見られた。一方、対照のPEG20000を被覆したグラスフィルターはヒト免疫グロブリンG吸着抑制が弱かった。また、共重合体(2)及び(4)を被覆したグラスフィルターは共重合体(6)を被覆したグラスフィルターよりもヒト免疫グロブリンG吸着抑制効果が高い傾向が見られた。
【0057】
(実施例9)
<ヒト細胞付着評価:細胞接着阻害効果及び細胞毒性を調べるための実験>
【0058】
上記実施例中の共重合体(2)、(3)及び(4)を、それぞれ70%エタノール水溶液に5、2.5、1.0、0.5、0.1及び0mg/mLの濃度で溶解して試料液を得た。この試料液を細胞培養用96穴プレートに各0.2mL/ウエルずつ添加し、4℃で一晩静置しプレートウエル内を被覆した。対照ウエルには70%エタノール水溶液を添加して被覆した。その後、試料液を吸引除去し、プレートを乾燥することにより、上記共重合体を被覆したプレートを作製した。なお、同一の共重合体を被覆したプレートを2枚ずつ作製した。
【0059】
この2枚のプレートについて、以下の方法にて細胞付着評価を行った。
【0060】
HELヒト肺細胞溶液(3×105 cells/mL)を上記被検試料液を被覆した96穴プレートに各0.1mL/ウエル加え、2時間培養した。培養終了後、プレートに付着した生細胞数を、CellTiter 96(R) AQueous Assayシステム(プロメガ(株)社(Madison,WI,USA)製)により評価した。更に上記共重合体(2)、(3)及び(4)の細胞毒性を評価するためにもう1枚のプレートを用いて、付着した細胞に加えて付着せず浮遊した細胞についても、すなわち、各ウエルに添加した全細胞を上記と同一条件下でCellTiter 96(R) AQueous Assayシステムにより評価した。
【0061】
評価結果を図4に示す。図4は、実施例2〜4の共重合体(2)〜(4)をそれぞれ被覆した96穴EIAプレートに対するHELヒト肺細胞の接着抑制効果を示すプロット図である。実施例2の共重合体(2)、実施例3の共重合体(3)、及び実施例4の共重合体(4)をそれぞれ被覆した96穴プレートには、図4に示されるように、対照被覆(ポリマー未被覆)ウエルに対する細胞接着量を100%としたときに、いずれの共重合体についても被覆量に対応したHELヒト肺細胞の接着抑制傾向が見られた(図中、C(2)、C(3)、C(4)で表示)。
【0062】
さらに細胞毒性に関しては、実施例2の共重合体(2)、実施例3の共重合体(3)及び実施例4の共重合体(4)をそれぞれ被覆した96穴プレートにおいて、図4に示されるように、いずれの共重合体についても、対照被覆(ポリマー未被覆)に対して生細胞数は80%以上であり、被覆量に関わらず細胞毒性を示さなかった(図中、C(2)*、C(3)*、C(4)*で表示)。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によると、体液又は生体組織と接する部分に使用する医療及び医用材料の分野における、特に膜やフィルター等に使用されるシリカを含む基材に対して有効に作用することができるフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を提供できる。本発明のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体における側鎖のフッ素原子の効果により、該基材に対する親和性が向上することで、濡れ性の向上、組織接着及び組織癒着の抑制、血漿蛋白の接着抑制、細胞接着抑制、血液凝固系の抑制、血小板の粘着・活性化の抑制及び補体系の活性化の抑制のための材料として、特に、該基材表面に対する被覆、あるいは該基材への添加、混合のための有効な材料として、該共重合体を利用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構造単位0.1〜50モル%、及び下記式(II)で表される構造単位50〜99.9モル%を有するエチレンオキサイド共重合体であって、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量が1000〜400000であるフッ素含有エチレンオキサイド共重合体。
【化1】

(式(I)中、R1は下記式(III)で表される1価の基を示す。)
【化2】

(式(III)中、m及びnはそれぞれ0≦m≦4、1≦n≦15の条件を満たす整数であり、R2はフッ素原子又は水素原子を示す。)
【請求項2】
ポリエチレンオキサイド換算の数平均分子量に対するポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量の比が1.1〜2.7である、請求項1記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体の生体組織又は体液と接触する部分への使用。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体のペプチド又は蛋白と接触する部分への使用。
【請求項5】
医療用具、生体由来蛋白精製、生体由来糖蛋白精製及びペプチド精製からなる群より選ばれる1種以上の用途に用いる樹脂材料への添加剤であって、請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体からなる添加剤。
【請求項6】
前記樹脂材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン、シリカ及びポリフルオロカーボンからなる群より選ばれる1種以上からなる樹脂材料である、請求項5記載の添加剤。
【請求項7】
医療用具、生体由来蛋白精製、生体由来糖蛋白精製及びペプチド精製からなる群より選ばれる1種以上の用途に用いる樹脂材料に対する被覆剤であって、請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体からなる被覆剤。
【請求項8】
前記樹脂材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリスルフォン、シリカ及びポリフルオロカーボンからなる群より選ばれる1種以上からなる樹脂材料である、請求項7記載の被覆剤。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を含有する繊維処理剤。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を含有するコンタクトレンズ用保存液又は洗浄液。
【請求項11】
体液又は生体組織を用いた診断に用いる樹脂材料に対する添加剤又は被覆剤であって、請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を含有する添加剤又は被覆剤。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を、体液、生体組織、生体由来蛋白及びペプチドからなる群より選ばれる1種以上のものの精製又は診断に用いるシリカを含む膜、基板、フィルター及びビーズからなる群より選ばれる1種以上の医療及び医用部材に被覆する工程を有する、医療及び医用部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のフッ素含有エチレンオキサイド共重合体を、体液、生体組織、生体由来蛋白及びペプチドからなる群より選ばれる1種以上のものの精製又は診断に用いるシリカを含む膜、基板、フィルター、ビーズからなる群より選ばれる1種以上の医療及び医用部材を構成する樹脂材料に添加又は混合する工程を有する、医療及び医用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84595(P2011−84595A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236038(P2009−236038)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】