説明

フッ素含有廃棄物からのフッ素除去処理方法および処理装置

【課題】従来よりも短時間で実施可能な、廃棄物のフッ素除去処理方法を提供する。
【解決手段】加熱炉、水蒸気供給手段、およびガス処理手段を用い、加熱炉に前記廃棄物を導入する導入工程、加熱炉に水蒸気または水を供給し、前記廃棄物と水蒸気とを接触させる反応工程、発生したフッ化水素含有ガスをガス処理手段において水と接触させ、フッ化水素水溶液として回収する回収工程とを含むフッ素除去処理方法。前記廃棄物が製鋼工程で生じるスラグである場合を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグ等のフッ素を含む廃棄物のフッ素除去処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程では、電炉、溶鉱炉などから生じる溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、二次精錬スラグ等があり、路盤材、セメント材料として再利用されたり、埋め立て処理されたりする。しかし、製鋼工程において融剤として蛍石が使用されるため、その過程で生じるこれらのスラグはフッ素を含有し、そのまま再利用又は廃棄(以下、「再利用等」と表記)がなされると環境汚染の原因となり得る。
スラグに含まれるフッ素の環境への流出を防止する従来の方法としては、破砕したスラグに水、水蒸気を散布してフッ素を溶出させることにより、スラグ中のフッ素含有量を低減させる方法(特許文献1)、固定剤を使用してスラグを安定化させることにより、フッ素の流出を抑える方法(特許文献2)、精練時に所定量以上のSiO2および/又は酸化鉄を含む酸化物を添加してフッ素溶出量の少ないスラグを調整する方法(特許文献3)等が知られる。
また、スラグ融体にアルミニウム系改質剤等を添加することにより、雨水等へのスラグの溶解に際して、カルシウムイオン、アルミニウムイオンを溶出しやくすることで、フッ素イオンとの反応によりフッ素を捕捉する方法が知られている。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−180073号公報
【特許文献2】特許第3620341号
【特許文献3】特許第3935113号
【特許文献4】特開2000−247694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法では処理に時間がかかり、加熱水蒸気を用いた場合であっても24時間以上を要する。特許文献2,3、4は、いずれも添加物を要するため、添加物供給設備の設置、またランニングコストの増大要因となり、経済的とはいえない。また、スラグ中のフッ素含有量自体を減じることが目的ではないため、スラグ中のフッ素含有量によっては、スラグの再利用や廃棄に制限が生じることもある。さらに、スラグ中にフッ素を固定化することを目的とするため、スラグからフッ素を回収しようとすると、多大なコストが必要となってしまう。
本発明の課題は、従来よりも短時間でフッ素を含む廃棄物を安定的に処理するとともに除去されたフッ素を有効に回収する除去回収処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
加熱炉、水蒸気供給手段、およびガス処理手段を用いるフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法であって、
加熱炉に前記廃棄物を導入する導入工程、
加熱炉に水蒸気または水を供給し、前記廃棄物と水蒸気とを接触させる反応工程、
発生したフッ化水素含有ガスをガス処理手段において水と接触させ、フッ化水素水溶液としてフッ素を回収する回収工程とを含む、ことを特徴とするフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0006】
(作用効果)
本発明によれば、フッ素を含有する廃棄物について、高温条件下で水蒸気を通気することで、フッ素をフッ化水素ガスとして飛散させ、従来よりも短時間で、廃棄物からフッ素を除去することが可能になるものである。水蒸気が存在しないとフッ化水素は発生せず、スラグからフッ素を除去することはできない。
従来、スラグ中に含まれるフッ素については、前述のように埋め立てやスラグへの固定化等の処理がなされてきた。しかし、本発明に係る装置の加熱炉からは、原料の蛍石より純度の高いフッ素をフッ化水素ガスとして短時間で得ることが可能である。さらに飛散したガスからフッ素をフッ化水素水溶液として回収することにより、フッ素による環境汚染の防止とフッ素の資源としての再利用とを可能にした。
本発明における「水蒸気供給手段」とは、直接加熱炉内に水蒸気を供給するものに限られず、加熱炉内に水を供給し炉内において水蒸気を発生させる手段、加熱炉内に燃料と空気を供給し加熱炉内で燃焼させることにより水蒸気を発生させる手段、工場内より発生した水蒸気を含むガスを供給する手段等、炉内の廃棄物に水蒸気を供給できる手段であれば、特に限定されるものではない。
【0007】
<請求項2記載の発明>
前記廃棄物は製鋼工程で生じるスラグである、請求項1に記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0008】
<請求項3記載の発明>
前記ガス処理手段は冷却吸収塔を有し、前記回収工程は冷却吸収塔内で第1の噴霧液をスプレーして、フッ化水素含有ガスと第1の噴霧液とを接触させる第1接触工程を含む、請求項1または2に記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0009】
(作用効果)
加熱炉からのガスは800〜1000℃の高温である。噴霧ノズルを有する冷却吸収塔を使用することで、このガスの温度を効率よく低下させ、かつ、含有するフッ化水素を噴霧液中に溶解させることができる。なお、第1の噴霧液としては、水やフッ化水素水溶液などが使用できる。
【0010】
<請求項4記載の発明>
前記前記ガス処理手段は吸収塔を有し、前記回収工程は、吸収塔内で第2の噴霧液をスプレーして、冷却吸収塔から排出されたフッ化水素含有ガスと第2の噴霧液とを接触させる第2接触工程と、第2接触工程後の第2の噴霧液を冷却吸収塔に供給する返送工程とを含む、請求項3に記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0011】
(作用効果)
本発明によれば、冷却吸収塔から排出される排ガス中のフッ化水素をさらに除去するとともに、得られるフッ化水素溶液を噴霧液として冷却吸収塔に再供給することで効率的にフッ化水素を回収することができる。なお、第2の噴霧液としては、第1の噴霧液と同様に水やフッ化水素水溶液などが使用できる。
【0012】
<請求項5記載の発明>
前記回収工程で得られたフッ化水素水溶液に水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを加えて混合し、フッ化カルシウムを生成する再生工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0013】
(作用効果)
回収されたフッ化水素水溶液からフッ化カルシウム(蛍石)を再生することで、再度製鋼工程の融剤としてフッ化カルシウムを使用することができる。これにより、製鋼工程の原料費コストを下げることが可能となる。
【0014】
<請求項6記載の発明>
前記水蒸気は、燃焼ガス中に生成する水蒸気、前記加熱炉内に供給された水より生成された水蒸気、および加熱炉外より供給された水蒸気のうちの1つ、または2つ以上を混合したものである、請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0015】
<請求項7記載の発明>
前記水蒸気は、予め気体と混合されて加熱炉に供給される、請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0016】
(作用効果)
加熱炉外および加熱炉上流部で水蒸気を生成し、気体、特に空気と混合して供給することで、水蒸気とスラグを効率よく接触させることが可能となる。
【0017】
<請求項8記載の発明>
前記廃棄物を、粒径10mm以下に粉砕した後に加熱炉に供給する、請求項1〜7のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0018】
(作用効果)
フッ素含有廃棄物の粒径を細かくすることで、水蒸気との接触面積を高め、より効率よくフッ素除去処理を行うことができる。
【0019】
<請求項9記載の発明>
前記加熱炉はロータリーキルンまたは流動層である、請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【0020】
(作用効果)
ロータリーキルン、流動層は、内部の廃棄物を撹拌させながら加熱するため、フッ素除去効率を高めることができる。
【0021】
<請求項10記載の発明>
加熱炉、水蒸気供給手段または水供給手段、およびガス処理手段を有し、
加熱炉に水蒸気または水を供給し、フッ素含有廃棄物と水蒸気とを接触させ、
発生したフッ化水素含有ガスからフッ化水素水溶液としてフッ素を回収するように構成された、
ことを特徴とするフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、フッ素を含有する廃棄物について、従来よりも短時間でフッ素を除去することが可能になる。さらに、除去されたフッ素を回収、再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るフッ素除去処理方法における、内燃式の加熱炉を使用した場合のフロー図である。
【図2】本発明に係るフッ素除去処理方法における、外熱式の加熱炉を使用した場合のフロー図である。
【図3】本発明に係るフッ素除去処理装置の一例を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る排ガス処理設備の一例を示すフロー図である。
【図5】本発明に係る反応分離設備の一例を示すフロー図である。
【図6】実施例のフッ素除去処理装置を示すフロー図である。
【図7】実施例における反応温度とフッ素除去されたスラグS’のフッ素含有量、炉内のフッ化水素分圧(Kp=[pHF2/pH2O)の関係を示すグラフである。
【図8】実施例における反応時間とスラグS’のフッ素含有量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。本発明において、「製鋼工程で生じるスラグ」とは、電炉、溶鉱炉から生じる、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、二次精錬スラグ等のうちの一種類または二種類以上の混合物を指すものとする。
本発明の実施形態において、フッ素を含有する廃棄物として製鋼工程で生じるスラグ(以下、単に「スラグ」と表記)を例示する。
なお、以下にフッ素除去・回収方法の一実施例を説明するが、本発明がこれのみに限定解釈されるものではない。
【0025】
<フッ素除去処理の原理>
図1に本発明に係るフッ素除去処理方法の原理のうち、内燃式加熱炉11を使用した場合を示す。スラグSをフッ素除去装置1の加熱炉11に投入し、炉内温度を上げるために必要な燃料Fおよび空気Aを加熱炉11に投入する。炉内で燃料が燃焼することにより燃焼ガス中に生じる水蒸気や炉外から供給された水蒸気Vなどと、スラグSとを接触させることにより、水蒸気とスラグS中のフッ素が下式のように反応し、フッ化水素が生じる。水蒸気が存在しないとフッ化水素は発生せず、スラグからフッ素を除去することはできない。
CaF2 + H2O → CaO + 2HF
生じたフッ化水素ガスは加熱炉より排出され、ガス処理設備12によりフッ素を回収し、無害化した後に排ガスWとして大気に放出される。一方、フッ素を除去されたスラグS’は炉内より取り出され、再利用等に供される。
【0026】
図2は、本発明に係るフッ素除去処理方法の原理のうち、外熱式加熱炉21を使用した場合を示す。フッ素除去装置2において外熱式の加熱炉21を使用する場合は、スラグSを加熱炉21に投入した後、加熱しながら炉外より供給された水蒸気Vと反応させる。発生したHFガスをより早く炉内から排出するために空気Aを炉内に供給してもよい。
【0027】
<処理装置の一例>
〔加熱炉〕
図3は本発明に係るフッ素除去処理装置の一例を示したフロー図である。
フッ素除去処理装置3における加熱炉としては、既知の焼成炉をいずれも使用可能であるが、投入されたスラグへの均一な熱伝導が可能な内燃式ロータリーキルン、外熱式ロータリーキルンの使用が好ましい。また、図示例には示されていないが、流動層も好ましく使用することができる。ロータリーキルンや流動層を使用することでスラグを流動させることができ、水蒸気との接触効率向上、さらに反応効率向上が実現する。図示例は、内燃式ロータリーキルン31を使用した例である。
【0028】
ロータリーキルン31に投入するスラグSは、後の加熱効率、フッ素除去効率を高めるために、投入前に粒径10mm以下、より好ましくは粒径1〜100μmまで粉砕することが好ましい。
【0029】
燃料Fおよび空気供給設備であるエアブロワ32からの空気Aをロータリーキルンのスラグ投入口とは反対側より供給し、加熱を開始する。なお、エアブロワに限らず、エアコンプレッサなど公知の空気供給手段を適用することも出来る。ロータリーキルン31内の温度が500〜800℃以上となった段階で、水蒸気Vを供給し、燃料を燃焼して発生した燃焼ガスと混合してロータリーキルン内に供給する。内熱式加熱炉を使用する場合、空気Aの供給量は燃料Fの燃焼を可能とし、かつ生成したフッ化水素の系外への送出を可能とする量であることが好ましい。なお、外熱式加熱炉を使用する場合(図示せず)、空気Aの供給量は生成したフッ化水素の系外への送出を可能とする量であることが好ましい。
【0030】
本例では、水蒸気Vを外部より供給しているが、燃焼ガス中の水蒸気のみを利用してフッ化水素を生じさせることも可能である。水蒸気Vを外部より供給する場合は、蒸発器等の水蒸気生成装置を用いる、製鋼工程等の他の工程で発生した蒸気を用いる、等の方法をとることができる。また、加熱炉内に水を供給できる手段(図示せず。たとえば、水スプレーなど。)を設け、直接炉内に水蒸気を発生させても良い。燃焼ガス中の水蒸気と、炉外からの水蒸気Vを組み合わせて利用することが、より効率よくフッ素を除去することができるため好ましい。一定量の水蒸気Vと燃料F、空気Aの供給を続けることにより、炉内の温度を効率よく反応温度にまで上昇させることが可能となる。
【0031】
反応温度はスラグが半溶融状態となる温度である、850〜1300℃、より好ましくは1000〜1200℃とする。半溶融状態とは、溶融する前の状態であり、固体の姿を保ち、固体同士が接触している状態をいい、JIS M 8801「石炭類−試験方法」12.灰の溶融性試験方法において、軟化点に達する直前の状態をいうものとする。半溶融状態となる温度はスラグの組成などにより異なるが、反応温度が1300℃を超えると、多くのスラグSは溶融状態となり、固体間にあった隙間がなくなるため、水蒸気との接触効率が悪くなってしまう。一方、温度が850℃より低いと短時間で充分な反応をさせることができない。すなわちスラグSが固体または半溶融状態にあるときに水蒸気とスラグSとを接触させ、効率よくフッ素除去できるものである。
【0032】
反応温度に達した炉内にスラグを投入し、水蒸気とスラグSを0.5〜10時間、より好ましくは1〜4時間反応させる。水蒸気供給量はスラグから除去するフッ素量の理論当量以上、好ましくは理論当量の10〜100倍とする。水蒸気の供給量が少ないとスラグの滞留時間が長く必要となり、多すぎると経済的に効率が悪くなる。
【0033】
フッ素除去装置3には、炉内温度計TIおよび流量計FIを設置することが好ましい。炉内温度に応じて流量を制御し、より効率よく水蒸気供給、フッ素除去反応を行うためである。反応により生じたフッ化水素は、燃焼ガスと余剰の水蒸気と余剰空気と共に炉外に取り出され、ガス処理設備4に送られた後、排気設備34から大気中に廃棄される。
【0034】
〔ガス処理設備〕
図4にガス処理設備4の一例のフロー図を示す。
図4に例示するガス処理設備は、冷却吸収塔41、吸収塔42、除外塔43、誘因ファン44で構成される。冷却吸収塔41は、上方側面に排ガス入口411、下方に排ガス出口412が設けられており、排ガスは、下方に向かって移動する。また、冷却吸収塔側面および頂部には、複数の噴霧ノズル413が設けられ、排ガスに第1の噴霧液をスプレーできる構造となっている。加熱炉31からの排ガスは、通常フッ化水素を0〜50%含んでいるが、冷却吸収塔41内で、第1の噴霧液と接触することにより、排ガス中のフッ化水素のほとんどが第1の噴霧液中に溶解する。フッ化水素を溶解した第1の噴霧液は、冷却吸収塔底部の貯留槽414に一旦貯留され、別途設けられた循環ポンプにより噴霧ノズルに供給される。冷却吸収塔41における排ガスの入り口温度は800〜1000℃と高温であることから、接触させる噴霧液温度を0〜50℃と低温〜常温とし、排ガス温度を低下させることが好ましい。このとき、必要に応じて、第1の噴霧液に補助水や吸収塔から供給される第2の噴霧液を混合することで噴霧液温度や噴霧液中のフッ化水素濃度を調整することができ、かつ、フッ化水素ガスの濃度も調整することができる。また、冷却媒体F−2を通した冷却吸収塔クーラー46を設け、第1の噴霧液を冷却した後、噴霧ノズルに供給してもよい。
【0035】
水に溶解しなかったフッ化水素は、排ガスとともに吸収塔42に送られる。吸収塔42は、下方に排ガス入口421、頂部に排ガス出口422が設けられ、排ガス入口421の上方には、充填物が充填された充填層423、さらにその上方に噴霧ノズル424が設けられている。吸収塔内に供給された排ガスは、吸収塔内を上方に移動する過程で第2の噴霧液と接触することで排ガス中のフッ化水素が噴霧液中に溶解する。フッ化水素を溶解した第2の噴霧液は、吸収塔底部の貯留部425に一旦貯留され、別途設けられた循環ポンプにて噴霧ノズルに供給される。また、貯留された第2の噴霧液の一部は、冷却吸収塔41に供給され、冷却吸収塔41での噴霧液として活用される。以上の構成をとることで、吸収塔42で溶解したフッ化水素も効率的に回収することができる。なお、吸収塔42の噴霧液温度や貯留量などに応じて、噴霧ノズル上流側に補助水を供給することが好ましい。吸収塔を通過した排ガスは除外塔に送られ、残存するフッ化水素が苛性ソーダ等のアルカリF−1で中和・除外され、ミストセパレーター44により気液分離された後、誘因ファン45を介して排気設備より外気に排出される。なお、加熱炉からの排ガス中のフッ化水素濃度が充分に低ければ、吸収塔42でのフッ化水素除去を省略してもよい。
【0036】
以上の工程でスラグから除去されたフッ素は、フッ化水素水溶液の状態で冷却吸収塔41より回収されるほか、冷却吸収塔クーラー46により冷却された後、反応分離手段5に供されてもよい。
【0037】
〔フッ化カルシウムの再生〕
図5にフッ化水素水溶液の反応分離手段5の一例のフロー図を示す。反応分離手段5は、反応槽51,52および分離器53で構成される。ガス処理設備4で生じたフッ化水素水溶液は反応槽に送られる。反応槽51に、水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを添加し、フッ化水素水溶液と反応させることにより、フッ化カルシウムが生成される。添加するカルシウムとしては、1〜10g/Lの水酸化カルシウム懸濁液の使用がコスト、フッ化カルシウム反応効率等に優れるため好ましい。フッ化カルシウムの生成反応は以下のとおりである。
2HF + Ca(OH)2 → CaF2 + 2H2
2HF + CaCO3 → CaF2 + CO2 + H2
反応後の析出液を遠心分離機等で固液分離することにより、フッ化カルシウムを得ることができる。回収されたフッ化カルシウムは、再度製鋼工程などで使用することができる。
【実施例】
【0038】
実施例として使用したフッ素除去処理装置6のフロー図を図6に示す。加熱炉として管状電気炉61、空気供給手段としてエアコンプレッサ62、水蒸気供給手段としてタンク63A、ポンプ63Bおよび蒸発器63C、ガス処理手段としてトラップフラスコ65を使用した。加熱炉には炉内温度計TI、空気ラインには流量計FIを設置した。
【0039】
スラグS40gを管状電気炉41の中央部分に設置し、空気を送りながら加熱を開始した。炉内温度が500℃となった段階から、水蒸気供給手段からの水蒸気の供給を開始した。水蒸気および空気の供給量は、それぞれ60NL/h、95NL/hとし、所定の反応温度に達し、反応が終了するまで継続して供給を続けた。
【0040】
所定の反応温度に達してからスラグSと水蒸気Vを4時間反応させた際の、残留したスラグS’のフッ素含有量および炉内気体中の水蒸気圧に対するフッ化水素分圧は、図7に示すような値となった。なお、フッ化水素分圧の指標としてはKp=[pHF2/pH2Oを使用した。
【0041】
スラグの再利用等を行う際に許容されるフッ素、およびフッ素化合物の含有量は4000mg/kg以下である(環境庁告示第19号試験より)。本発明に係るフッ素除去装置においては、反応温度が850〜1300℃のときに、環境基準を満たすレベルにまでスラグのフッ素除去を行うことができることが判明した。
【0042】
同様に、1100℃の反応温度に達してからスラグSと水蒸気Vをそれぞれ1,2,3時間反応させた場合の残留したスラグS’のフッ素含有量を図8に示す。併せて、1000℃、1300℃において水蒸気Vを供給せずにスラグSを4時間加熱した場合の残留S’のフッ素含有量を示す。1100℃において、反応時間が1〜3時間であっても、スラグに残留するフッ素量は再利用に許容される基準である4000mg/kgを下回ることが判明した。しかし、水蒸気の供給がない場合は、4時間反応させてもそのフッ素含有量はほとんど減少しなかった。
【0043】
表1に、スラグ1tonの処理時に発生する排ガス中より回収されるフッ化水素を、カルシウム塩とした場合のフッ化カルシウム生成量を示す。排ガスの処理には、図4および図5に例示したガス処理設備を採用し、排ガス中のフッ化水素を冷却吸収塔にて水と接触させることでフッ化水素水溶液として回収し、さらにフッ化カルシウム水溶液に炭酸カルシウムを添加し、フッ化カルシウムとして回収する。なお、表1の反応温度は、加熱炉内の反応温度である。このようにスラグ中のフッ素を除去することで後段の回収設備によりフッ化カルシウムとして回収することができる。なお、本実施例では、フッ化水素ガスをフッ化カルシウムとして再生したが、フッ化水素水溶液として利用することも可能である。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、鉄鋼スラグ等のフッ素を含む廃棄物の廃棄、再利用に利用可能なものである。
【符号の説明】
【0046】
1,2,3,6…フッ素除去処理装置、11…内燃式加熱炉、12…ガス処理設備、21…外熱式加熱炉、31…ロータリーキルン、32…エアブロワ、34…排気設備、4…ガス処理設備、41…冷却吸収塔、42…吸収塔、43…除去塔、44…ミストセパレーター、45…誘因ファン、46…冷却吸収塔クーラー、5…反応・回収設備、51,52…反応槽、53…遠心分離機、61…管状電気炉、63A…タンク、63B…ポンプ、63C…蒸発器、62…エアコンプレッサ、65…トラップフラスコ、A…空気、F…燃料、S…スラグ、S’…フッ素除去されたスラグ、V…水蒸気または水、W…排ガス、TI…炉内温度計、FI…流量計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉、水蒸気供給手段、およびガス処理手段を用いるフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法であって、
加熱炉に前記廃棄物を導入する導入工程、
加熱炉に水蒸気または水を供給し、前記廃棄物と水蒸気とを接触させる反応工程、
発生したフッ化水素含有ガスをガス処理手段において水と接触させ、フッ化水素水溶液としてフッ素を回収する回収工程とを含む、ことを特徴とするフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項2】
前記廃棄物は製鋼工程で生じるスラグである、請求項1に記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項3】
前記ガス処理手段は冷却吸収塔を有し、前記回収工程は冷却吸収塔内で第1の噴霧液をスプレーして、フッ化水素含有ガスと第1の噴霧液とを接触させる第1接触工程を含む、請求項1または2に記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項4】
前記ガス処理手段は吸収塔を有し、前記回収工程は、吸収塔内で第2の噴霧液をスプレーして、冷却吸収塔から排出されたフッ化水素含有ガスと第2の噴霧液とを接触させる第2接触工程と、第2接触工程後の第2の噴霧液を冷却吸収塔に供給する返送工程とを含む、請求項3に記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項5】
前記回収工程で得られたフッ化水素水溶液に水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを加えて混合し、フッ化カルシウムを生成する再生工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項6】
前記水蒸気は、燃焼ガス中に生成する水蒸気、前記加熱炉内に供給された水より生成された水蒸気、および加熱炉外より供給された水蒸気のうちの1つ、または2つ以上を混合したものである、請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項7】
前記水蒸気は、予め気体と混合されて加熱炉に供給される、請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項8】
前記廃棄物を、粒径10mm以下に粉砕した後に加熱炉に供給する、請求項1〜7のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項9】
前記加熱炉はロータリーキルンまたは流動層である、請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理方法。
【請求項10】
加熱炉、水蒸気供給手段または水供給手段、およびガス処理手段を有し、
加熱炉に水蒸気または水を供給し、フッ素含有廃棄物と水蒸気とを接触させ、
発生したフッ化水素含有ガスからフッ化水素水溶液としてフッ素を回収するように構成された、
ことを特徴とするフッ素含有廃棄物のフッ素除去処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242000(P2011−242000A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111965(P2010−111965)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(391018592)月島環境エンジニアリング株式会社 (27)
【Fターム(参考)】