説明

フッ素樹脂フィルムの改質方法

【課題】短時間で簡易に、しかも親水性の経時劣化が生じにくいフッ素樹脂フィルムの改質方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂フィルムの改質方法は、フッ素樹脂フィルムに、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有する処理ガスを接触させることにより、当該フッ素樹脂フィルムの表面に親水性を付与する。前記フッ素樹脂フィルム中には、前記処理ガスに対し反応性を示す添加剤が含まれていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂フィルムの表面に親水性を付与するフッ素樹脂フィルムの改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用のバックシート材料としては、耐候性及びガスバリア性の向上のため、ポリフッ化ビニル(PVF)フィルム等のフッ素樹脂フィルム、アルミ箔ラミネート、アルミ蒸着やSi蒸着を施したポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム等が用いられている。これにより、湿度に弱い太陽電池セルを水蒸気から保護している。
【0003】
前記バックシート材料のうち、長期耐久性の観点からはフッ素樹脂フィルムが優れている。そのため、バックシート材料としての需要が高まってきている。しかし、一般にC−F結合を有するフッ素樹脂からなる材料は、その表面エネルギーが小さく、撥水・撥油性を示すため、接着性が低いという問題点がある。
【0004】
この様なフッ素樹脂フィルムの接着性を向上させる技術としては、例えば、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、フレーム処理等が挙げられる。これらの表面改質技術は、樹脂表面に親水性の官能基(例えば、−COOH基、−OH基、SOH基、SO基等)を導入することで、その接着性を改善している。
【0005】
しかし、前記処理方法であると、大掛かりな装置が必要となり、製造コストが増大する。また、表面改質後の経時劣化が激しく、長期にわたって接着性能を維持できないという問題点もある。
【0006】
一方、下記特許文献1には、合成若しくは天然高分子材料として、比重が1.6以下であってかつエーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、ウレタン結合の何れも含まない材料を選択し、前記合成若しくは天然高分子材料にフッ素ガスと酸素元素を含む1種類のガスとからなる混合ガスを接触させ、これにより、親水性を付与する表面改質方法が記載されている。当該公報によれば、その表面改質方法により、合成高分子又は天然高分子材料表面の水に対する接触角を10度以上小さくさせる旨の開示がある。
【0007】
しかしながら、前記先行技術は、比重が1.6〜2.2程度のフッ素樹脂に対して適用することはできない。比重1.6より大きい合成高分子又は天然高分子材料は、その結晶構造が発達していることから、フッ素ガスの拡散が容易でなく、そのため表面改質の機能が発現しにくいからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特許第3585833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、短時間で簡易に、しかも親水性の経時劣化が生じにくいフッ素樹脂フィルムの改質方法を提供することにある。また、その改質方法により得られたフッ素樹脂フィルムを備える太陽電池用バックシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、フッ素樹脂フィルムの改質方法及び太陽電池用バックシートについて検討した。その結果、下記構成を採用することにより、前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明に係るフッ素樹脂フィルムの改質方法は、前記の課題を解決する為に、フッ素樹脂フィルムに、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有する処理ガスを接触させることにより、当該フッ素樹脂フィルムの表面に親水性を付与することを特徴とする。
【0012】
前記方法によれば、フッ素樹脂フィルム表面に、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有する処理ガスを接触させることにより、製造コストを抑制しつつ、短時間で簡易に親水化処理を行うことができる。また、当該方法により、親水化処理されたフッ素樹脂フィルムは、その親水性の経時劣化も低減することができる。
【0013】
また、前記方法に於いては、前記フッ素樹脂フィルムが、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ETCFE)、又はエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)からなることが好ましい。
【0014】
前記方法に於いて、前記フッ素樹脂フィルム中には、前記処理ガスに対し反応性を示す添加剤が含まれていることが好ましい。
【0015】
フッ素樹脂フィルム中に処理ガスに対し反応性を示す添加剤を含有させることで、フッ素樹脂フィルム表面の親水性の付与を促進させる。これにより、親水化処理を一層効果的に行うことが可能になる。
【0016】
前記方法に於いて、前記添加剤の含有量はフッ素樹脂フィルムの全重量に対し0.1〜90重量%の範囲内であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る太陽電池用バックシートは、前記の課題を解決する為に、前記に記載のフッ素樹脂フィルムを、基材フィルムの両面に接着剤を介して貼り合わせた構造であることを特徴とする。
【0018】
前記に記載のフッ素樹脂フィルムは親水性が付与されているため、接着剤の密着性に優れている。従って、前記フッ素樹脂フィルムを基材フィルムの両面に貼り合わせ、この積層体を太陽電池用のバックシートとして用いることが出来る。また処理により付与された親水性は長期にわたりその性能を維持できるため、工程管理の面でも優れており、製品の信頼性の向上が図れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、フッ素樹脂フィルム表面に、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有する処理ガスを接触させることにより、製造コストを抑制しつつ、短時間で簡易に親水化処理を行うことができるので、製造効率の向上が図れる。また、当該方法により得られたフッ素樹脂フィルムは、例えば、太陽電池用のバックシートに好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るフッ素樹脂フィルムの親水化処理に用いる反応装置の一例を示す模式図である。
【図2】前記フッ素樹脂フィルムを備えた太陽電池用バックシートに概略的に示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態に係るフッ素樹脂フィルムの改質方法は、その臨界表面張力が比較的低く、濡れにくいフッ素樹脂フィルムに、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有する処理ガスを接触させることにより、親水化を行うものである。
【0022】
親水化処理前のフッ素樹脂フィルムの臨界表面張力が18mN/m以上、好ましくは 20mN/m以上であるフッ素樹脂を用いることが好ましい。処理前の臨界表面張力が18mN/m未満であると、十分に親水性を付与できないという不都合がある。
【0023】
また、フッ素樹脂フィルムの親水化は、その表面の臨界表面張力が25mN/m以上、好ましくは30mN/m以上、より好ましくは35mN/m以上になる様に行うのが好ましい。臨界表面張力が25mN/m未満であると親水化が不十分となり、接着剤との密着性の低下を生じるので好ましくない。
【0024】
前記臨界表面張力の値は、以下の様にして算出されたものである。即ち、表面張力(γ)が既知であるエチレングリコールモノエチルエーテルとホルムアミドの混合溶媒(28mN〜58mN/m)、及びホルムアミドとメチレンブルーの混合溶媒(60mN/m〜70mN/m)を用い、前記フッ素樹脂フィルム表面の接触角(θ)をそれぞれ測定する。次に、そのcosθ(Y軸)対γ(X軸)をプロットし、固/液の接触角でcosθ=1を与えるγLVの外挿値を算出することにより得られる。尚、濡れ性は、臨界表面張力の数値が大きい程高く、小さい程低下する。
【0025】
前記フッ素樹脂フィルムは単層でもよく、少なくとも2つのフィルムが積層された積層構造であってもよい。また、フッ素樹脂フィルムの厚さ(積層構造の場合は総厚)は特に限定されず、例えば、10〜100μmの範囲内であることが好ましい。更に、フッ素樹脂フィルムの平面形状は特に限定されず、適宜必要に応じて設定し得る。
【0026】
フッ素樹脂フィルムの構成材料は、その分子構造内において、窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基、硫黄含有基、炭化水素基、ハロゲン含有基の少なくとも何れかを有するものであれば、特に限定されない。前記窒素含有基としては、例えば、アミド基、アミノ基等が挙げられる。ケイ素含有基としては、例えば、トリアルキルシリル基、シリルエーテル基、−Si(CH)O−基等が挙げられる。酸素含有基としては、例えば、エステル基、カーボネート基、エーテル基等が挙げられる。リン含有基としては、例えば、ホスホリルコリン基等が挙げられる。硫黄含有基としては、例えば、スルホ基、スルホニル基等が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、メチル基、メチレン基、フェニル基等が挙げられる。ハロゲン含有基としては、例えば、−CHX−基、−CHX基、‐CX‐基、−CX基(XはF原子、Cl原子、Br原子及びI原子からなる群より選択される少なくとも何れか1種。)等が挙げられる。具体的には、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン‐クロロトリフルオロエチレン共重合体(ETCFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。これらの構成材料は単独で、又は二種以上を併用してもよい。
【0027】
また、フッ素樹脂フィルムが少なくとも2つのフィルムによる積層構造である場合、表面側のフィルムと裏面側のフィルムの構成材料は同一でもよく、相互に異ならせてもよい。両フィルムの構成材料を異ならせる場合、その組み合わせにより、同一条件下で親水化処理を行っても、表面のフィルムと裏面のフィルムとで親水性の程度を異ならせることができる。
【0028】
また、前記フッ素樹脂フィルム中には、前記処理ガスに対し反応性を示す添加剤が添加されていることが好ましい。これにより、前記処理ガスによる親水化処理に対し、その親水化を一層促進させることができる。
【0029】
また、フッ素樹脂フィルムが少なくとも2つのフィルムによる積層構造である場合、表面側のフィルムと裏面側のフィルムの添加剤の組成比は同一でもよく、相互に異ならせてもよい。添加剤の組成比を異ならせることにより、同一処理条件での親水化処理にも関わらず、表面側のフィルムと裏面側のフィルムとで、臨界表面張力の値を異ならせることが可能になる。即ち、添加剤の添加量が多いフィルム側程、同一処理条件であっても、より親水性の向上が図れる。
【0030】
前記添加剤としては、有機添加剤と無機添加剤に分類される。前記有機添加剤としては、フッ素樹脂フィルムの構成材料として例示した高分子化合物以外のものであって、分子構造内において前記処理ガスに対し反応性を示す官能基を備えた樹脂成分が好ましい。この様な樹脂成分が含まれていると、フッ素原子を含むガスが前記反応性を示す官能基と反応する結果、フッ素化処理の促進が図れる。これにより、親水性の向上が一層図れる。
【0031】
前記処理ガスに対し反応性を示す官能基としては、例えば、窒素含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、リン含有基、硫黄含有基、炭化水素基、ハロゲン含有基等が挙げられる。前記窒素含有基としては、例えば、アミド基、アミノ基等が挙げられる。ケイ素含有基としては、例えば、トリアルキルシリル基、シリルエーテル基、‐Si(CH)O‐基等が挙げられる。酸素含有基としては、例えば、エステル基、カーボネート基、エーテル基等が挙げられる。リン含有基としては、例えば、ホスホリルコリン基等が挙げられる。硫黄含有基としては、例えば、スルホ基、スルホニル基等が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、メチル基、メチレン基、フェニル基等が挙げられる。ハロゲン含有基としては、例えば、−CHX−基、−CHX基、‐CX‐基、−CX基(XはF原子、Cl原子、Br原子及びI原子からなる群より選択される少なくとも何れか1種。)等が挙げられる。
【0032】
前記樹脂成分はより詳細には、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロへキサンジメタノールテレフタレート(PCT)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン等である。これらの樹脂成分は単独で又は二種以上を併用してもよい。
【0033】
また、前記無機添加剤としては特に限定されず、例えば、酸化チタンや炭酸カルシウム等の白色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料が挙げられる。これらの無機添加剤は単独で、又は二種以上を併用してもよい。更に、有機添加剤と無機添加剤は併用してもよい。
【0034】
前記添加剤の添加量は特に限定されず、フッ素樹脂フィルムの全重量に対し、0.1〜90重量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜80重量%の範囲内であることがより好ましい。添加量が0.1重量%未満であると、親水化処理を行っても、例えば、十分な親水性が得られない場合がある。その一方、添加量が90重量%を超えると、フッ素樹脂自身の性能を維持できないという不都合がある。
【0035】
前記処理ガスは、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有するものであれば特に限定されない。フッ素原子を含むガスとしては特に限定されず、例えば、フッ化水素(HF)、フッ素(F)、三フッ化塩素(ClF)、四フッ化硫黄(SF)、三フッ化ホウ素(BF)、三フッ化窒素(NF)等が挙げられる。これらのガスは単独で、又は二種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明のフッ素樹脂フィルムの改質方法は、前記フッ素原子を含むガスを、処理ガスの全体積量に対し0.001〜99体積%の濃度範囲で行うことが可能である。但し、フッ素原子を含むガスの濃度が大きいと、被処理物であるフッ素樹脂フィルムに対しダメージを与える場合がある。従って、当該ガスは低濃度であることが好ましく、具体的には、例えば0.001〜50体積%、より好ましくは0.001〜10体積%である。
【0037】
また、酸素原子を含むガスとしては特に限定されず、例えば、酸素ガス(O)や二酸化硫黄ガス(SO)、フッ化カルボニル(COF)等が挙げられる。これらのガスは単独で、又は二種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明のフッ素樹脂フィルムの改質方法は、前記酸素原子を含むガスを、処理ガスの全体積量に対し0.001〜99体積%の濃度範囲で行うことが可能である。但し、酸素原子を含むガスは少量でもその効果を十分に発揮することが出来る。従って処理コストの観点からも当該ガスは低濃度であることが好ましく、具体的には、例えば0.01〜50体積%、より好ましくは0.1〜20体積%である。
【0039】
また、前記処理ガスには、ドライエアーや窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の不活性ガスを希釈のために混合させてもよい。
【0040】
本発明のフッ素樹脂フィルムの改質方法は、例えば、図1に示す反応装置を用いて行うことができる。先ず、フッ素樹脂フィルムの親水化処理を行う反応容器4を用意し、当該反応容器4内にフッ素樹脂フィルム5を載置する。反応容器4としては特に限定されず、例えば、ステンレス製、アルミニウム製、又はニッケル製等のものを使用することができる。
【0041】
次に、反応容器4内を減圧する場合は、真空ライン7の弁を開栓して真空排気し、所定の圧力下(例えば、10Pa)に達した後は、真空ライン7の弁を閉栓する。
次に、必要に応じて、フッ素原子を含むガスを供給する第1供給ライン1、酸素原子を含むガスを供給する第2供給ライン2、不活性ガスを供給する第3供給ライン3の弁を適宜必要に応じて開栓し、所定濃度に調整した処理ガスを反応容器4に導入する。
【0042】
これにより、フッ素樹脂フィルム5に処理ガスを接触させ、当該フィルム5の親水化処理を行う。親水化処理後のフッ素樹脂フィルム5の臨界表面張力は、処理ガスの濃度、処理時間、処理温度、ガス流量を適宜必要に応じて設定することにより制御可能である。但し、フッ素樹脂フィルム5の表面積が大きい場合は、当該大きさに対応した処理条件及び反応容器を用いる必要がある。反応は常圧下、加圧下、減圧下で処理ガスを連続的に供給しながら行ってもよく、又は大気圧封入下、加圧封入下、減圧封入下で行ってもよい。
【0043】
処理ガス中のフッ素原子を含むガスの濃度は、前記第1供給ライン1〜第3供給ライン3からそれぞれ供給されるガス量により調整可能である。
【0044】
親水化処理の処理時間は特に限定されないが、フッ素樹脂と処理ガスとの反応は反応初期に爆発的に生じる。そのため、比較的短時間の処理で親水化の効果が得られる。具体的には、例えば1秒〜600分の範囲内であり、好ましくは1秒〜100分、より好ましくは1秒〜30分である。処理時間が1秒未満であると、フッ素樹脂フィルム5に十分な親水性を付与することができない場合がある。
【0045】
親水化処理の処理温度は特に限定されないが、フッ素樹脂フィルム5の耐熱温度(添加剤が添加されている場合はその耐熱温度)を考慮に入れると、−50℃〜150℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0℃〜100℃である。処理温度が−50℃未満であると、フッ素樹脂フィルム5に十分な親水性を付与することができない場合がある。その一方、処理温度が150℃を超えると、フッ素樹脂フィルム5に熱変形が生じ、歩留まりが低下する場合がある。
【0046】
反応容器4の内部を流れる処理ガスのガス流量は特に限定されないが、ガス流量が早いと反応が爆発的に起こる場合がある。このため、反応初期に於いては、フッ化ガスの濃度、及び流量を適切に設定することが重要である。つまり反応の進行状況に応じて、濃度、流量を適宜大きくし、又は小さくしてもよい。また、ガス流量は、反応容器4の大きさ及びフッ素樹脂フィルム5の形状に合わせて適宜設定してもよい。
【0047】
親水化処理の終了後、第3供給ライン3の弁を開栓して不活性ガスを導入し、所定の流量で反応容器4内の処理ガスを不活性ガスに置換する。このとき排気ライン6の弁も開栓しておく。その後、第3供給ライン3及び排気ライン6の弁を閉栓すると共に、真空ライン7の弁を開栓し、反応容器4内が所定圧力(例えば、10Pa)以下になるまで真空排気する。
【0048】
次に、真空ライン7の弁を閉栓し、第3供給ライン3の弁を開栓し、不活性ガスを大気圧まで導入する。反応容器4内が大気圧を示したら、排気ライン6の弁を開栓し、親水化処理されたフッ素樹脂フィルム5を取り出す。
【0049】
反応容器4から取り出された親水化処理後のフッ素樹脂フィルムは、水やアルコール等の洗浄液で洗浄することができる。これにより、フッ素樹脂フィルム表面に吸着している未反応のFや、反応により生じたHFを除去することができ、安定性に優れた親水性表面を形成することができる。
【0050】
以上のような親水化処理により得られたフッ素樹脂フィルムは、例えば、太陽電池用バックシート等に好適に適用することができる。太陽電池用バックシートに用いる場合、例えば、図2に示すような態様が可能である。即ち、基材フィルム9の両面に、本発明に係るフッ素樹脂フィルム8を、接着剤を介して貼り合わせる。このとき、本発明のフッ素樹脂フィルム8は、上述の通り、親水化処理が施されているため、接着剤との密着性が良好であるので、経時劣化による剥離を防止することができる。このようにして作製された積層フィルムは水蒸気、酸素ガス等に対するガスバリア性を備えているため、信頼性に優れた太陽電池用バックシートを作製することができる。
【0051】
前記接着剤としては特に限定されず、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等を用いることができる。また、感圧性接着剤(粘着剤)を用いることも可能である。前記感圧性接着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤等を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0053】
(実施例1)
先ず、図1に示すように、フッ素樹脂フィルム5としてPVDFフィルム(ニチアス(株)製、商品名;ナフロン;厚み2mm)を反応容器4に導入した。次に、真空ライン7の弁を開栓して、反応容器4内が10Pa以下になるまで減圧にした。
【0054】
次に、真空ライン7の弁を閉栓し、フッ素原子を含むガスを供給する第1供給ライン1及び酸素原子を含むガスを供給する第2供給ライン2の弁を同時に開栓し、フッ素ガス/酸素ガス/窒素ガス=5:95:0(体積比)、トータル流量1.0L/minになるように調整した処理ガスを反応容器4内に大気圧まで導入した。更に、第1供給ライン1及び第2供給ライン2の弁を同時に閉栓し、反応容器内を密閉状態にし、そのまま5分間保持した。また、反応容器4内の温度は30℃に維持した。所定時間が経過後、不活性ガスを供給する第3供給ライン3及び排気ライン6の弁を開栓し、10L/minの流量で反応容器4内のフッ素ガス/酸素ガス/窒素ガスの混合ガスを窒素ガスに置換した。その後、第3供給ライン3及び排気ライン6の弁を閉栓し、真空ライン7の弁を開栓し、反応容器内が10Pa以下になるまで減圧にした。
【0055】
次に、真空ライン7の弁を閉栓し、第3供給ライン3の弁を開栓し、反応容器4内に1.0L/minの流量で窒素ガスを大気圧まで導入した。反応容器4内が大気圧を示した後、排気ライン6の弁を開栓し、親水化処理後のPVDFフィルムを取り出した。
【0056】
取り出したPVDFフィルムを室温のUPW(超純水)で1Hr攪拌洗浄した。洗浄後、表面のUPWを窒素ガスでブローし、その後室温で10Pa以下になるまで減圧乾燥した。乾燥したPVDFフィルムの接触角(θ)を、協和界面科学社製のDrop Master300を用いて測定した。測定液にはArcotest社製の表面エネルギー値測定試薬(表面張力(γ):25mN/m〜70mN/m)を用いた。更に、そのcosθ(Y軸)対γ(X軸)をプロットし、固/液の接触角でcosθ=1を与えるγLVの外挿値を算出することにより求めた。結果を下記表1に示す。
【0057】
(実施例2)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、PVFフィルム(デュポン社製、商品名;テドラー)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0058】
(実施例3)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、PFAフィルム(会社名;ニチアス(株)、商品名;ナフロン)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0059】
(実施例4)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、PCTFEフィルム(会社名;淀川ヒューテック(株)、商品名;ヨドフロン)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0060】
(実施例5)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、ETFEフィルム(会社名;淀川ヒューテック(株)、商品名;ヨドフロン)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0061】
(実施例6)
本実施例に於いては、処理ガスとして、フッ素ガス/二酸化硫黄ガス/窒素ガス=5:95:0(体積比)にした以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0062】
(実施例7)
本実施例に於いては、処理ガスとして、フッ素ガス/フッ化カルボニルガス/窒素ガス=5:95:0(体積比)にした以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0063】
(実施例8)
本実施例に於いては、処理ガスとして、フッ素ガス/窒素ガス=0.001:99.999(体積比)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。尚、反応容器4内部への処理ガスの供給は、真空ライン7の弁を閉栓し、フッ素原子を含むガスを供給する第1供給ライン1及び窒素ガスを供給する第3供給ライン3の弁を同時に開栓し、更に、酸素原子を含むガスを供給する第2供給ライン2を閉栓して行った。
【0064】
(実施例9)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、PVFフィルム(デュポン社製、商品名;テドラー)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0065】
(実施例10)
本実施例に於いては、処理時間を0.5分間とし、反応容器4内部の温度を100℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0066】
(実施例11)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、PVFフィルム(デュポン社製、商品名;テドラー)を用いたこと以外は、実施例10と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0067】
(実施例12)
本実施例に於いては、処理ガスとしてフッ素ガス/酸素ガス/窒素ガス=0.5:20:79.5(体積比)を用い、処理時間を1分間、反応容器4内部の温度を50℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。尚、反応容器4内部への処理ガスの供給は、真空ライン7の弁を閉栓し、フッ素原子を含むガスを供給する第1供給ライン1、酸素ガスを供給する第2供給ライン2及び窒素ガスを供給する第3供給ライン3の弁を同時に開栓して行った。
【0068】
(実施例13)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、PVFフィルム(デュポン社製、商品名;テドラー)を用いたこと以外は、実施例12と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0069】
(実施例14)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、その全重量に対し含有量が30重量%のPMMAを添加したPVFフィルムを用いたこと以外は、実施例2と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0070】
(実施例15)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、その全重量に対し含有量が30重量%のPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を添加したPVDFフィルムを用いた。また、処理時間を5分間とし、反応容器4内部の温度を30℃に変更した。それ以外は、実施例12と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【0071】
(実施例16)
本実施例に於いては、フッ素樹脂フィルムとして、その全重量に対し含有量が90重量%のPMMAを添加したPVDFフィルムを用いたこと以外は、実施例15と同様にして親水化処理を行い、その後、臨界表面張力の算出を行った。
【表1】

【符号の説明】
【0072】
1 第1供給ライン
2 第2供給ライン
3 第3供給ライン
4 反応容器
5 フッ素樹脂フィルム
6 排気ライン
7 真空ライン
8 フッ素樹脂フィルム
9 基材フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂フィルムに、フッ素原子を含むガスと、酸素原子を含むガス又は不活性ガスの少なくとも何れか一方とを含有する処理ガスを接触させることにより、当該フッ素樹脂フィルムの表面に親水性を付与するフッ素樹脂フィルムの改質方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルムが、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ETCFE)、又はエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)からなる請求項1に記載のフッ素樹脂フィルムの改質方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂フィルム中には、前記処理ガスに対し反応性を示す添加剤が含まれている請求項1又は2に記載のフッ素樹脂フィルムの改質方法。
【請求項4】
前記添加剤の含有量は、フッ素樹脂フィルムの全重量に対し0.1〜90重量%の範囲内である請求項3に記載のフッ素樹脂フィルムの改質方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のフッ素樹脂フィルムを、基材フィルムの両面に接着剤を介して貼り合わせた構造の太陽電池用バックシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24446(P2010−24446A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143545(P2009−143545)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】