説明

フッ素系重合体およびコーティング剤

【課題】コーティング剤の成分として用いた場合に、基材に充分な撥水性を付与可能なフッ素系重合体、及びコーティング剤を提供する。
【解決手段】本発明は、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系重合体および、このフッ素系重合体を含有するコーティング剤に関するものである。本発明のフッ素系重合体は、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基含有モノマー50質量%以上85質量%以下と、フッ素を含まない非フッ素系モノマーを15質量%以上50質量%以下とを、重合させてなる。非フッ素系モノマーには、炭素および水素からなる環状部分を有する環状モノマーが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系重合体およびコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品や皮革製品などの表面に塗布されて撥水撥油性を付与するコーティング剤においては、撥水性が優れるという観点から、有効成分として、炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体が用いられることが多かった(例えば特許文献1の段落[0018]、段落[0020]を参照)。
【0003】
この炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体が分解されるとパーフルオロオクタン酸(PFOA)を生成することがある。このPFOAという化合物は、生体への蓄積性が懸念されるため、近年では、撥水・撥油剤などの分野では、炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体に代わるものを用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−299016号公報
【非特許文献1】日本学術振興会・フッ素化学第155委員会編、「フッ素化学入門」第2刷、三共出版、2005年3月20日発行、p.267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体に代わるものとしては、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体が考えられる。しかしながら、公知の炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体は、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体と比較すると特に動的接触角の低下が著しい。これは炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基の結晶性が低いことに起因すると考えられる。このような事情があるため、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基をコーティング剤の成分として用いた場合、基材に充分な撥水性を付与できないと考えられていた(非特許文献1を参照)。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、コーティング剤の成分として用いた場合に、基材に充分な撥水性を与えることができ、その結果、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基含有フッ素系重合体に代えて、コーティング剤の成分として使用可能なフッ素系重合体を提供すること、ならびに、基材に充分な撥水性を与えるコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含有するモノマーを50質量%以上85質量%以下と、炭素および水素からなる環状部分を有する環状モノマーを含む非フッ素系モノマー15質量%以上50質量%以下とを、重合させて得られるフッ素系重合体をコーティング剤の成分として用いると、基材に充分な撥水性を与えることができるという知見を得た。
【0008】
すなわち、本発明は、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系重合体であって、下記一般式(1)で表されるパーフルオロアルキル基含有モノマー50質量%以上85質量%以下と、フッ素を含まない非フッ素系モノマーを15質量%以上50質量%以下とを、重合させてなり、前記非フッ素系モノマーには、炭素および水素からなる環状部分を有する環状モノマーが含まれることを特徴とするフッ素系重合体、および、前記フッ素系重合体を含むコーティング剤である。
【0009】
【化1】

〔一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基、mは0〜4の整数、nは1〜6の整数を示す。〕
【0010】
本発明によれば、コーティング剤の成分として用いた場合に、基材に充分な撥水性を与えることができ、その結果、炭素数が8以上のフルオロアルキル基含有フッ素系重合体に代えて、コーティング剤の成分として使用可能なフッ素系重合体を提供することができる。また本発明によれば、基材に充分な撥水性を与えるコーティング剤を提供することができる。
【0011】
本発明は、以下の構成であるのが好ましい。
非フッ素系モノマーには、非フッ素系モノマーの質量に対して、30質量%以上70質量%以下の環状モノマーと、30質量%以上70質量%以下の炭素数10以上の直鎖アルキル基含有化合物と、が含まれるのが好ましい。
このような構成としたフッ素系重合体は、フッ素を含有しないフッ素非含有炭化水素系溶剤(例えば、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタンなど)に溶解しやすくなる。
【0012】
環状モノマーは、環状部分に、炭素−炭素二重結合を有さない化合物であることが好ましく、特に、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、およびイソボルニルメタクリレートから選ばれる一種以上であることが好ましい。環状モノマーを非フッ素系モノマーに含むことによる効果の詳細は不明ではあるが、環状モノマーを含む非フッ素系モノマーを用いて作製したフッ素系ポリマーは、剛直であることから、パーフルオロアルキル基の運動が抑制され、結晶性の高いフッ素系樹脂と同様の撥水性を有するのではないかと考えられる。また、前記フッ素系ポリマーはかさ高いために、表面が密になり、水分子の進入を防ぐのではないかと考えられる。
【0013】
本発明のフッ素系重合体は、フッ素を含有しないフッ素非含有炭化水素系溶剤に溶解したものであるのが好ましい。フッ素非含有炭化水素系溶剤としてはn−ヘキサン、n−ヘプタンおよびイソヘキサンから選ばれる一種以上を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コーティング剤の成分として用いた場合に、基材に充分な撥水性を与えることができ、その結果、炭素数が8以上のフルオロアルキル基含有フッ素系重合体に代えて、コーティング剤の成分として使用可能なフッ素系重合体を提供することができる。また、本発明によれば、基材に充分な撥水性を与えるコーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフッ素系重合体は、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系重合体であり、下記一般式(1)で表されるパーフルオロアルキル基含有モノマーと、フッ素を含まない非フッ素系モノマーとを、重合させることにより得られる。
【0016】
【化2】

〔一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基、mは0〜4の整数、nは1〜6の整数を示す。〕
【0017】
以下において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリル酸エステル(メタクリレート)とアクリル酸エステル(アクリレート)とを一括して表記したものを意味する。
【0018】
一般式(1)で表されるパーフルオロアルキル基含有モノマー(以下、「フッ素系モノマー」ともいう)の具体例としては、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロペンチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、等が挙げられ、これらは一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの化合物のうち、優れた撥水性を付与可能なフッ素系重合体が得られるという観点から、炭素数が5〜6のものが好ましい。
【0019】
本発明において、非フッ素系モノマーには、炭素および水素からなる環状部分を有する環状モノマーが必須成分として含まれる。
環状モノマーとしては、環状部分に炭素−炭素二重結合を有さない化合物が好ましく、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、およびイソボルニル(メタ)アクリレートから選ばれる化合物が特に好ましい。これらの環状モノマーは単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明のフッ素系重合体は、フッ素系モノマーと非フッ素系モノマーの合計質量に対して、フッ素系モノマーを50質量%以上85質量%以下と、非フッ素系モノマーを15質量%以上50質量%以下とを、重合させることにより得られる。
フッ素系モノマーと非フッ素系モノマーとを、上記の割合で重合させることにより、充分な撥水性と充分な撥油性を基材に付与することができ、かつ、炭化水素系溶剤への溶解性の高い、フッ素系重合体が得られる。
【0021】
フッ素系モノマーと非フッ素系モノマーとの合計質量に対して、フッ素系モノマーの量が50質量%未満であると充分な撥水性能が得られず、フッ素系モノマーの量が85質量%を超えると溶剤に溶解させ難くなる。
【0022】
非フッ素系モノマーには、環状モノマー以外に、炭素数10以上の直鎖アルキル基含有化合物が含まれているのが好ましい。環状モノマーおよび炭素数10以上の直鎖アルキル基含有化合物を含む非フッ素系モノマーと、フッ素系モノマーとを重合させて得られるフッ素系重合体は、コーティング剤を作製する際に用いる溶剤(例えば、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタンなど)に対する溶解性が高いからである。
【0023】
炭素数10以上の直鎖アルキル基含有化合物としては、例えば、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの直鎖アルキル基含有化合物は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。炭素数10以上の直鎖アルキル基含有化合物としては、炭素数が10〜20の直鎖アルキル基を含有する(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
本発明では、非フッ素系モノマーの質量に対して、環状モノマーを30質量%以上70質量%以下、直鎖アルキル基含有化合物を30質量%以上70質量%以下の割合で含む非フッ素系モノマーを用いるのが好ましい。環状モノマーと直鎖アルキル基含有化合物とを上記割合で含む非フッ素系モノマーとフッ素系モノマーとを重合させて得られるフッ素系重合体は、コーティング剤を作製する際に用いる溶剤に対する溶解性が高いからである。
【0025】
非フッ素系モノマーには上記モノマー以外に水溶性モノマーが含まれていてもよい。水溶性モノマーを含む非フッ素系モノマーと、フッ素系モノマーとを反応させて得られるフッ素系重合体をコーティング剤の成分として用いると、コーティング剤が塗布される基材との密着性を向上させることができ、好ましい。
【0026】
水溶性モノマーとしては、アルコキシ基とポリエチレングリコールとを有する(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコールアクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから選ばれる一種以上の水溶性モノマーが好ましい。水溶性モノマーは、上述した基材との密着性を考慮すると、フッ素系モノマーと非フッ素系モノマーの合計質量に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下の割合で含まれるのが好ましい。
【0027】
フッ素系モノマーと非フッ素系モノマーとを重合させる際に用いる溶媒としては、モノマー(フッ素系モノマー、非フッ素系モノマー)を溶解又は懸濁し得るものであればよく、例えば、水、又はトルエン、キシレン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、およびイソヘキサン等を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNという)、2,2'−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系化合物の他、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸系重合開始剤を用いることができる。
【0029】
本発明のフッ素系重合体は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)換算の数平均分子量(Mn)が8,000〜18,000で、重量平均分子量(Mw)が15,000〜23,000であるのが好ましい。
【0030】
本発明のフッ素系重合体は、繊維などの撥水・撥油剤のほか、幅広い用途、例えば、電子基板の防湿コーティング剤などの添加剤に用い表面にフッ素を配向させ撥水性を向上させる用途や、塩水・電解液・腐食性ガス等から基材を保護する耐薬品保護コーティング剤、マイクロモーターの軸受けに用いる潤滑オイルの拡散を防止するオイルバリア剤、HDDモーターの流体軸受けに用いる潤滑オイルの拡散を防止するオイルバリア剤、サインペン・ボールペン等のインクの漏れを防止する漏れ防止剤、コネクタ・電子部品等の汚れ防止剤、絶縁樹脂の這い上がり防止剤、MFコンデンサのリード封止樹脂の付着防止剤、防水スプレー原液に使用することができる
【0031】
本発明のフッ素系重合体は、溶媒に溶解することによりコーティング剤として使用することができる。本発明のフッ素系重合体を溶解する溶媒としては、フッ素を含まない溶剤を用いることができ、具体的には、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族系溶剤(フッ素非含有炭化水素系溶剤に相当)、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アセトンなどのケトン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
これらのうちフッ素非含有炭化水素系溶剤が好ましく、特にn−ヘキサン、イソヘキサン、およびn−ヘプタンから選ばれる一種以上を用いるのが好ましい。本発明のフッ素系重合体の溶解性に優れるからである。
【0032】
本発明のフッ素系重合体は、固形分濃度が0.1〜5質量%となるように溶媒に溶解される。このようにして得られる本発明のコーティング溶液には、実用性を向上させるために、酸化防止剤、紫外線安定剤、フィラー、シリコーンオイル、パラフィン系溶剤、可塑剤等各種添加剤を添加することができる。
【0033】
本発明のコーティング剤を用いたコーティング方法としては、浸漬法、ハケ塗り法、スプレー法、ロールコート法など公知の方法が採用可能であり、コーティング剤を使用する基材の性質や形態などを考慮して適宜選択することができる。
【0034】
<実施例>
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
(実施例1)
(i)フッ素系重合体Aの合成
500mlの丸底フラスコに、パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート80g、ステアリルメタクリレート13g、シクロヘキシルメタクリレート6g、およびメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(重合度9)1gを量り入れた。
ここで、ステアリルメタクリレートは常温で固形であるため、あらかじめ50℃で溶解し、均一にかき混ぜてから計量した。
【0035】
上記各種モノマーを計り入れたフラスコに、重合溶媒としてn−ヘプタン30g及びイソヘキサン30gを入れ、さらに、重合開始剤としてAIBNを0.5g加えた。次に、フラスコに温度計、攪拌翼、冷却管、N配管をセットして回転数100rpmで攪拌を開始した。
【0036】
フラスコ内の内容物を撹拌しながら常温で空間部を窒素で30分置換した後、熱湯を加え、ヒーターを80℃にセットして重合を開始した。窒素は重合終了まで流し続けた。重合反応は5時間行った。その後、フラスコの内容物を室温まで冷却して、粘性のある液体(フッ素系重合体A)を得た。
このフッ素系重合体Aを真空乾燥し、ゲルパーミレーションクロマトグラフ(GPC)測定を行ったところ、PMMA換算で、数平均分子量(Mn)は12,000、重量平均分子量(Mw)は23,000であった。
【0037】
(ii)コーティング剤の作製
フッ素系重合体Aを、固形分濃度が1質量%になるようにn−ヘキサンで希釈して、実施例1のコーティング剤を得た。
【0038】
(実施例2)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを69g、ステアリルメタクリレートを18g、シクロヘキシルメタクリレートを12gとしたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Bを合成した。フッ素系重合体BのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
フッ素系重合体Bを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、実施例2のコーティング剤を得た。
【0039】
(実施例3)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを69g、ステアリルメタクリレートを10g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレート6gに代えてイソボルニルメタクリレートを20g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Cを合成した。フッ素系重合体CのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
フッ素系重合体Cを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、実施例3のコーティング剤を得た。
【0040】
(実施例4)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを69g用いたこと、ステアリルメタクリレート13gに代えて炭素数12〜15のアルキル基含有メタクリレートの混合物を18g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレート6gに代えてイソボルニルメタクリレートを12g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Dを合成した。フッ素系重合体DのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
ここで炭素数12〜15のアルキル基含有メタクリレートの混合物とは、当該混合物の質量に対して、ドデシルメタクリレートを40%、トリデシルメタクリレートを50%、およびペンタデシルメタクリレート10%で混合した混合物である。
フッ素系重合体Dを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、実施例4のコーティング剤を得た。
【0041】
(実施例5)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを60g、ステアリルメタクリレートを18g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレート6gに代えてイソボルニルメタクリレートを21g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Eを合成した。フッ素系重合体EのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
フッ素系重合体Eを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、実施例5のコーティング剤を得た。
【0042】
(実施例6)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート80gに代えてパーフルオロブチルエチルメタクリレート75g、ステアリルメタクリレートを9g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレート6gに代えてイソボルニルメタクリレートを15g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Fを合成した。フッ素系重合体FのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。 フッ素系重合体Fを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、実施例6のコーティング剤を得た。
【0043】
(比較例1)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを80gに代えて炭素数8〜12のパーフルオロアルキルエチルアクリレートの混合物を69g用いたこと、ステアリルメタクリレートを13gに代えてステアリルアクリレートを19g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレートを用いなかったこと、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート1gに代えてメトキシポリエチレングリコールアクリレート(重合度9)を1g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Gを合成した。フッ素系重合体GのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
ここで炭素数8〜12のパーフルオロアルキルエチルアクリレートの混合物とは、当該混合物の質量に対して、パーフルオロオクチルエチルアクリレートを50%、パーフルオロデシルエチルアクリレートを30%、パーフルオロドデシルエチルアクリレート10%の混合物である。
フッ素系重合体Gを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、比較例1のコーティング剤を得た。
【0044】
(比較例2)
ステアリルメタクリレートを19g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレートを用いなかったこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Hを合成した。フッ素系重合体HのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
フッ素系重合体Hを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、比較例2のコーティング剤を得た。
【0045】
(比較例3)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを40g、ステアリルメタクリレートを29g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレート6gに代えてイソボルニルメタクリレートを30g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Iを合成した。フッ素系重合体IのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
フッ素系重合体Iを用いたこと以外は実施例1の(ii)と同様にして、比較例3のコーティング剤を得た。
【0046】
(比較例4)
パーフルオロヘキシルエチルメタクリレートを90g、ステアリルメタクリレートを6g用いたこと、シクロヘキシルメタクリレート6gに代えてイソボルニルメタクリレートを3g用いたこと以外は実施例1の(i)と同様にしてフッ素系重合体Jを合成した。フッ素系重合体JのPMMA換算のMnおよびMwを実施例1と同様に測定した。
フッ素系重合体Jはn−ヘキサンに溶解せずコーティング剤を作製することができなかったため、後述の評価試験を行うことができなかった。
【0047】
(評価試験)
実施例1〜6のコーティング剤および比較例1〜3のコーティング剤を用いて以下の手順により試験片を作製した。
流量を28〜30g/分になるように調整したスプレーガン[アネスト岩田(株)製、LPH−50]を用いて、試験基材から20cm離したところからコーティング剤を4秒間塗布した。コーティング剤を塗布した試験基材を10秒間風乾した後、再度コーティング剤を4秒間塗布して試験片とした。
試験基材としては、15mm×60mmの大きさに切断したヌメ革を用いた。
【0048】
(1)転落角
協和界面化学(株)製、自動接触角計DM500を用いて、滑落法により動的接触角(転落角)を測定して結果を表1および表2に示した。水量は56μlで測定した。
転落角とは液体を水平な固体表面上に着滴させ、この固体試料を徐々に傾けていき、液体が下方へ滑り始めたときの傾斜角のことをいい、転落角が小さいものほど撥水性が優れている。
本評価試験においては、転落角が45°以下で、かつ、水残りがなければ、充分な撥水性を有していると判断した。
【0049】
(2)油の染込み時間(表中「耐油(染込み)」と記載)
試験片にn−ヘキサデカン2μlを垂らし、ヘキサデカンが完全に染み込むまでの時間(染込み時間)を計測して結果を表1および表2に示した。染込み時間が長いものほど耐油性に優れている。染込み時間が、10分以上であれば充分な撥油性を有していると判断した。なお、表中の「m」は「分」を示し、「S」は、「秒」を示す。
【0050】
表1および表2には、フッ素系重合体A〜Jの合成に用いたモノマー、重合開始剤、重合溶媒、反応条件、フッ素系重合体A〜Jの分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw)を併せて示した。
【0051】
表中、「パーフルオロアルキル(8,10,12の混合物)エチルアクリレート」とは、「炭素数12〜15のパーフルオロアルキルエチルアクリレートの混合物」を意味し、「アルキル(12〜15の混合物)メタクリレート」とは「炭素数12〜15のアルキル基含有メタクリレートの混合物」を意味する。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1および表2に記載の結果から以下のことがわかった。
環状モノマーを用いずに作製したフッ素系重合体Hを含むコーティング剤(比較例2)、および、40質量%のフッ素系モノマーと60質量%の非フッ素系モノマーとを重合させてなるフッ素系重合体Iを含むコーティング剤(比較例3)は、基材に充分な撥水・撥油性を付与することができなかった。
これに対して、本発明のフッ素系重合体(フッ素系重合体A,B,C,D,E,F)を含むコーティング剤(実施例1〜実施例6)は、基材に充分な撥水性と充分な撥油性とを付与することができるということがわかった。
【0055】
実施例のコーティング剤のうち、実施例1、実施例3、および実施例4のコーティング剤を用いたものでは転落角が30°以下であり、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体Gを含むコーティング剤(比較例1)と同等以上の優れた撥水性を基材に付与することができるといえる。
【0056】
また、実施例2、実施例3、および実施例4のコーティング剤を用いたものでは、比較例1のコーティング剤よりも染込みに要する時間が長く、優れた撥油性を基材に付与することができるといえる。
【0057】
以上より、本発明のフッ素系重合体は、コーティング剤の成分として用いた場合に、基材に充分な撥水と充分な撥油性を与えることができ、その結果、炭素数が8以上のフルオロアルキル基含有フッ素系重合体に代えて、コーティング剤の成分として使用することが可能であるといえる。
【0058】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例においては、本発明のコーティング剤を、ヌメ革に塗布して用いたが、本発明のコーティング剤は布などの他の基材に塗布して用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系重合体であって、
下記一般式(1)で表されるパーフルオロアルキル基含有モノマー50質量%以上85質量%以下と、フッ素を含まない非フッ素系モノマーを15質量%以上50質量%以下とを、重合させてなり、
前記非フッ素系モノマーには、炭素および水素からなる環状部分を有する環状モノマーが含まれることを特徴とするフッ素系重合体。
【化1】

〔一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基、mは0〜4の整数、nは1〜6の整数を示す。〕
【請求項2】
前記非フッ素系モノマーには、前記非フッ素系モノマーの質量に対して、30質量%以上70質量%以下の前記環状モノマーと、30質量%以上70質量%以下の炭素数10以上の直鎖アルキル基含有化合物と、が含まれることを特徴とする請求項1に記載のフッ素系重合体。
【請求項3】
前記環状モノマーは、前記環状部分に、炭素−炭素二重結合を有さない化合物であることを特徴とする請求項2に記載のフッ素系重合体。
【請求項4】
前記環状モノマーは、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、およびイソボルニルメタクリレートから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のフッ素系重合体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフッ素系重合体を含有するコーティング剤。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフッ素系重合体をフッ素を含有しないフッ素非含有炭化水素系溶剤に溶解してなることを特徴とするコーティング剤。
【請求項7】
前記フッ素非含有炭化水素系溶剤は、n−ヘキサン、n−ヘプタン、およびイソヘキサンから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項6に記載のコーティング剤。

【公開番号】特開2011−99077(P2011−99077A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256220(P2009−256220)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(591074091)株式会社野田スクリーン (17)
【Fターム(参考)】