説明

フラットケーブル用絶縁フィルム及びそれを用いたフラットケーブル

【課題】 機械特性、電気特性、密着性及び難燃性が優れるとともに、高温時の接着力が高く、優れたフィルム加工性を有し、さらに接着力(密着性)の経時安定性にも優れるフラットケーブル用絶縁フィルム、及びそれを用いて製造されたフラットケーブルを提供する。
【解決手段】 絶縁性樹脂基材、接着剤層、及び難燃性接着剤層の順で積層されてなる、又は絶縁性樹脂基材、接着剤層、難燃性接着剤層、及び接着剤層の順で積層されてなるフラットケーブル用絶縁フィルムであって、前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層が、融点が80〜170℃の結晶成分を含有するポリエステルを25重量%以上含み、前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層の溶融張力が1〜10gであることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルム、及びそれを用いて製造されたフラットケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブルの被覆材として用いられる絶縁フィルム、及びそれを用いて製造されたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電気、電子機器の内部配線用等に使用されるフラットケーブルは、一般に、絶縁フィルム(被覆材)の間に、互いに平行に並べられた複数本の導体を挟み、絶縁フィルム同士を熱融着等により貼り合せて、一体化して製造されている。フラットケーブルの製造に用いられる絶縁フィルムは、通常、可撓性を有し機械特性や電気特性に優れた絶縁性樹脂基材、及び接着剤層から構成され、この接着剤層により、絶縁フィルム同士、フィルムと導体間の接着がされる。
【0003】
このようなフラットケーブル用絶縁フィルムには、優れた屈曲性等の機械特性、優れた絶縁性等の電気特性、フィルムと導体間の優れた密着性(接着性)等が求められ、さらに、フラットケーブルは高温環境下で使用されることもあるので、耐熱性や難燃性が求められる。そして、このような要求性能を満たし、低コストで製造できるフラットケーブル用絶縁フィルムが検討されており、種々提案されている。
【0004】
例えば、特開平6−320692号公報には、融点が115℃〜150℃で溶融粘度が5,000ポイズ〜20,000ポイズの結晶性のポリエステル系共重合体を、接着剤層に用いたフラットケーブル用積層フィルム(絶縁フィルム)が開示されている(請求項1、段落0007)。又、特開平11−7838号公報には、接着性樹脂層(接着剤層)に、分子量25,000〜45,000、融点100〜165℃、溶融粘度2,000〜7,000ポイズのポリエステル系共重合体を用いたフラットケーブル用被覆材(絶縁フィルム)が開示されている(請求項1)。
【0005】
このフラットケーブル用絶縁フィルムは、難燃性や初期の密着性に優れ、結晶性のポリエステル系共重合体を用いるため、高温時の接着力が改善されるが、ポリエステル系共重合体の結晶化が徐々に進むため、接着力(密着性)が経時的に低下するとの問題がある。又、結晶性のポリエステルは溶剤への溶解が困難であるので、絶縁フィルムの製造の際には、溶融押出でフィルム化する必要があるが、前記のポリエステル系共重合体のフィルム加工性は低く、フィルム化は困難であった。
【0006】
特開平11−7839号公報には、接着性樹脂層(接着剤層)を設けたフラットケ−ブル用被覆材(絶縁フィルム)であって、この接着剤層が多層からなり、各層の主成分の樹脂のガラス転移温度がそれぞれ異なる絶縁フィルムが開示されている(請求項1)。しかし、この絶縁フィルムには、各層の主成分として用いられている飽和ポリエステル樹脂が結晶性を有しないため、温度上昇とともに接着剤層が軟化し、充分な高温接着力が得られず、耐熱性が不充分であるとの問題があった。
【0007】
さらに、特開平11−7840号公報には、ヒ−トシ−ル性難燃剤層(接着剤層)を設けたフラットケ−ブル用被覆材(絶縁フィルム)であって、このヒ−トシ−ル性難燃剤層を構成する樹脂組成物が、樹脂分に対し硬化剤を0.1〜5重量%の配合割合で含有している絶縁フィルムが開示されている(請求項1)。しかし、この樹脂組成物において樹脂と硬化剤が徐々に反応するため、接着力(密着性)が経時的に低下する。従って、この絶縁フィルムは、その寿命(経時安定性)に問題があり低温での保管が必要で、しかも硬化反応を起させるためには、30〜40℃で長時間の静置、又は加熱が必要であった。
【特許文献1】特開平6−320692号公報
【特許文献2】特開平11−7838号公報
【特許文献3】特開平11−7839号公報
【特許文献4】特開平11−7840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の従来技術の問題点を解決し、機械特性、電気特性、密着性及び難燃性が優れるとともに、高温時の接着力(耐熱性)が高く、優れたフィルム加工性を有し、さらに接着力(密着性)の経時安定性にも優れるフラットケーブル用絶縁フィルム、及びそれを用いて製造されたフラットケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、検討の結果、接着剤層に所定範囲の融点を有する結晶性のポリエステルを使用し、接着剤層を、難燃性が付与された難燃性接着剤層及び難燃性が特に付与されていない接着剤層からなる多層とすることにより、優れた難燃性、接着力(密着性)が得られること、かつ難燃性接着剤層や接着剤層に、特定範囲の溶融張力を有する樹脂を用いることにより優れたフィルム加工性が得られることを見出し、本発明を完成した。なお、以後本明細書で、難燃性接着剤層とは、難燃性が付与された接着剤層を意味し、単に接着剤層と表現される場合は、難燃剤の含有等による難燃性の付与がされていない接着剤層を意味する。
【0010】
前記の本発明の課題は、次に示す構成により達成される。すなわち、本発明は、請求項1として、絶縁性樹脂基材、接着剤層、及び難燃性接着剤層の順で積層されてなる、又は絶縁性樹脂基材、接着剤層、難燃性接着剤層、及び接着剤層の順で積層されてなるフラットケーブル用絶縁フィルムであって、前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層が、融点が80〜170℃の結晶成分を含有するポリエステルを25重量%以上含み、かつ前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層の溶融張力が1〜10gであることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルムを提供する。
【0011】
この構成においては、絶縁性樹脂基材の片面に、接着剤層及び難燃性接着剤層の2層が、又は接着剤層、難燃性接着剤層及び接着剤層の3層が形成される。接着剤層は、接着性の樹脂からなる層であり、難燃性接着剤層は、接着性の樹脂に難燃性が付与された層である。難燃性の付与は、通常、難燃剤の添加により行われる。難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、テトラブロモエタン、テトラブロモビスフェノ−ルA、臭化アンモニウム等の含ハロゲン有機化合物又は無機化合物、赤リン、トリアリルフォスフェ−ト、アルキルアリルフォスフェ−ト、アルキルフォスフェ−ト、ジメチルメチルフォスフェ−ト、フォスフォリネ−ト、ハロゲン化フォスフォネ−トエステル、トリメチルフォスフェ−ト、トリエチルフォスフェ−ト、トリブチルフォスフェ−ト、トリオクチルフォスフェ−ト、トリブトキシエチルフォスフェ−ト、オクチルジフェニルフォスフェ−ト、トリクレジルフォスフェ−ト、クレジルジフェニルフォスフェ−ト、トリフェニルフォスフェ−ト、トリス(クロロエチル)フォスフェ−ト、トリス(2−クロロプロピル)フォスフェ−ト、トリス(2.3−ジクロロプロピル)フォスフェ−ト、トリス(2.3−ジブロモプロピル)フォスフェ−ト、トリス(ブロモクロロプロピル)フォスフェ−ト、ビス(2.3−ジブロモプロピル)2.3−ジクロロプロピルフォスフェ−ト、ビス(クロロプロピル)モノオクチルフォスフェ−ト、ポリフォスホネ−ト、ポリフォスフェ−ト等のリン酸エステル又はリン化合物、フォスフォネ−ト型ポリオ−ル、フォスフェ−ト型ポリオ−ル、含ハロゲンポリオ−ル等のポリオ−ル化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、三塩化アンチモン、五酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンチモン、ホウ酸、モリブデン酸アンチモン、モリブデン酸化物、酸化モリブデン、リン−窒素化合物、ジルコニウム化合物、錫化合物、アルミン酸カルシウム水和物、酸化銅、炭酸カルシウム、メタホウ酸バリウム等の金属粉又は無機化合物、トリアジン、イソシアヌレ−ト、尿素、グアニジン化合物等の窒素含有化合物等の難燃剤を使用することができる。
【0012】
接着剤層及び難燃性接着剤層には、それらの主成分である接着性樹脂や難燃剤の他に、充填剤、安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤等の添加剤を、さらに添加することができる。
【0013】
難燃性接着剤層は、通常、絶縁性樹脂基材との接着性が低い。そこで、難燃性接着剤層を絶縁性樹脂基材に貼り合せるために、難燃性接着剤層と絶縁性樹脂基材との間には接着剤層が設けられている。又、この接着剤層の上には、難燃性接着剤層のみが設けられてもよいし(2層の場合)、難燃性接着剤層の上にさらに接着剤層が設けられてもよい(3層の場合)。
【0014】
最上層の接着剤層又は難燃性接着剤層により、フラットケーブル用絶縁フィルム同士の貼り合わせ、及びフラットケーブル用絶縁フィルムと導体との接着が行われる。導体との接着を強固にするためには、難燃性接着剤層よりも接着剤層との貼り合わせが好ましい。すなわち、絶縁性樹脂基材上に、接着剤層、難燃性接着剤層及び接着剤層の順に3層が積層されると接着力に優れ、経時安定性も向上する。
【0015】
絶縁性樹脂基材上への接着剤層、難燃性接着剤層の形成は、各層の材料を溶融し、多層Tダイ等を用いて、基材上に同時に押し出す方法が好ましく採用される。従来、絶縁フィルムの製造においては、基材上に接着剤の溶液を塗工して、その上に難燃性接着剤層等を貼り合わせた後、エージング処理する方法等も採用されていたが、この方法よりも、前記の同時に押し出す方法によれば、はるかに短時間で各層の形成を行うことができる。接着剤層、難燃性接着剤層の厚みは、好ましくは、それぞれ1〜20μm、20〜100μmの範囲である。
【0016】
本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムは、前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層が、結晶成分を含有するポリエステル、すなわち結晶性のポリエステルを、各層の全重量に対して、25重量%以上、好ましくは35重量%以上含有することを特徴とする。結晶性のポリエステルを含有することにより、高温、低温いずれの場合でも優れた、安定した接着力が得られる。前記の従来技術のように、ガラス転移温度の高い樹脂を用いた場合は、高温での接着力はよいが、低温での接着力は低下する問題があり、また、ガラス転移温度以上では、温度の上昇とともに、接着力が低下する問題がある。しかし、本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムは、結晶性のポリエステルを用いているので、融点まで、安定した接着力が得られる。
【0017】
結晶性のポリエステルは、グリコ−ルとジカルボン酸との重縮合により得ることができる。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸パラフェニレンジカルボン酸、2,6−テフタレンジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、β−メチルアジピン酸、ピメリン酸、1,6−ヘキサンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸等が挙げられる。グリコ−ル成分としては、例えば、エチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、3−メチルペンタンジオ−ル、ビスフェノ−ルA−エチレンオキサイド付加物、1,3−ヘキサンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、水添ビスフェノ−ルA、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリテトラエチレングリコ−ル等のポリアルキレングリコ−ル等が挙げられる。結晶性を調整するために、エチレングリコ−ル、1,4−テトラメチレングリコ−ルを主成分とし、さらにジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等を使用する、又はトリメリット酸、ピロメリット酸等の三官能以上のポリオ−ル成分の微量を使用する方法が、好ましい方法として例示される。
【0018】
難燃性接着剤層及び接着剤層の形成に用いられるポリエステルの結晶成分の融点は、80〜170℃の範囲である。フラットケーブルの加工条件と使用環境に基づき、80〜170℃の範囲で適切な融点を有する結晶性のポリエステルが選択される。結晶成分の融点が80℃未満のポリエステルを用いた場合、フラットケーブルの高温での使用時に剥がれが発生し、一方170℃超のポリエステルを用いた場合、フラットケーブルの作製時に、高温が必要となり又貼り合せ速度を著しく低下させる必要が生じる。
【0019】
本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムの難燃性接着剤層及び接着剤層の各層は、その溶融張力が1〜10gであることを特徴とする。ここで溶融張力とは、毛管粘度計から押し出される溶融樹脂のストランドを引き取る際に必要な力を言い、本発明においては、ダイス径2mmのキャピラリーレオメーターから押し出される、温度160℃の溶融樹脂のストランドを引き取る際に必要な力と定義する。
【0020】
本発明において使用される、難燃性接着剤層及び接着剤層を構成するポリエステルは、結晶性であるので、フィルム化には、溶剤で溶かした溶液を塗布する方法は採用できず、溶融状態でフィルム化する必要がある。しかし、通常のポリエステルは、溶融状態でのフィルム加工性が低く、薄く引き延ばしてフィルム化することができなかった。本発明者は、フィルム加工性には、溶融粘度ではなく、前記のように定義した溶融張力が影響することを見出し、溶融張力が1〜10gの範囲のポリエステルを用いることにより優れたフィルム加工性が得られることを見出した。溶融張力が1g未満であっても、又10gを超えても、フィルム化(延伸薄肉化)が困難になる。
【0021】
1〜10gの範囲の高い溶融張力を有するポリエステルは、その原料モノマーに、所定粒径範囲の無機フィラーを所定量添加した後、この原料モノマーを重合することにより容易に得られる。ここで、所定粒径範囲とは、平均粒径3μm以下であり、平均粒径が3μmを超えると、溶融状態での伸びが低下し、延伸が困難となる。又、無機フィラーの添加量の所定量とは、原料モノマー全量に対し1〜5重量%の範囲であり、1重量%未満では、溶融張力の向上効果が不充分であり、5重量%を超えると、ポリエステルの重合度が上がりにくくなる。
【0022】
請求項2は、この好ましい態様に該当し、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムであって、ポリエステルとして、その原料モノマーに、平均粒径3μm以下の無機フィラーを前記原料モノマー全量に対し1〜5重量%含有させた後、前記原料モノマーを重合して得られるポリエステルを用いることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルムを提供するものである。なお、無機フィラーは、重合の時に添加されている必要がある。例えば、特公昭44−7542号公報には、重合後に無機粒子を添加したポリエステル等が記載されているが、このような場合は、溶融張力は向上されない。
【0023】
前記の無機フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ等の球状フィラー、タルク、マイカ等の板状フィラー、ホウ酸アルミ、チタン酸カリウム等の針状フィラーが例示されるが、中でもタルクが、接着力低下に及ぼす影響が小さいので好ましい。請求項3は、この好ましい態様に該当し、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムであって、無機フィラーがタルクであることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルムを提供するものである。
【0024】
前記のように、難燃性接着剤層及び接着剤層の各層は、結晶性のポリエステルを25重量%以上含有することを特徴とするが、難燃性接着剤層及び接着剤層の少なくとも1層が、さらに、ポリオレフィンを含有することにより、溶融張力が向上し、1〜10gの範囲の高い溶融張力が得られやすくなるので好ましい。請求項4は、この好ましい態様に該当し、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムであって、前記難燃性接着剤層及び/又は接着剤層が、さらにポリオレフィンを含むことを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルムを提供するものである。
【0025】
ここで、ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−酢酸エチル共重合体等が挙げられるが、融点90〜125℃、メルトフローレート0.5〜10のものが好ましい。ポリオレフィンを添加することにより、接着力の低下や相分離が起こる場合があるが、これらを防ぐように変性された変性ポリオレフィンが、好ましく使用される。変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性、エポキシ変性されたポリオレフィンが例示される。変性ポリオレフィンの含有量は、難燃性接着剤層及び接着剤層の各層の全重量に対して、1〜50重量%の範囲が好ましい。変性ポリオレフィンの含有量が1重量%未満の場合は、接着力の低下を防ぐ効果が小さく、又50重量%を越えると、融点が低下し耐熱性が低くなる場合がある。又、難燃性接着剤層及び接着剤層の各層は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、前記の結晶性のポリエステル及びポリオレフィンに加えて、さらに他の樹脂を含有してもよい。
【0026】
本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムを構成する絶縁性樹脂基材には、機械的強度、耐熱性、可撓性、屈曲性、耐薬品性、耐溶剤性、絶縁性等に優れた樹脂のフィルムが好ましく使用される。このような樹脂としては、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリテトラメチレンテレフタレ−ト等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン12、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエ−テルイミド等のポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素含有樹脂、ポリエ−テルスルフォン、ポリエ−テルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレ−ト、ポリエステルエ−テル、全芳香族ポリアミド、ポリカルボネ−ト等の各種の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂のフィルムの厚さは、6μm〜100μm程度が好ましく、10μm〜50μm程度がより好ましい。
【0027】
前記の例示の樹脂の中でも、接着力、吸湿性、価格の観点からは、ポリエステル系樹脂のフィルム(ポリエステルフィルム)が好ましく、特にポリエチレンテレフタレ−トのフィルムが好ましい。請求項5は、この好ましい態様に該当し、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムであって、前記絶縁性樹脂基材が、ポリエステルフィルムであることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルムを提供するものである。
【0028】
又、接着力、耐熱性、寸法安定性の観点からは、ポリイミド系樹脂のフィルム(ポリイミドフィルム)が好ましい。請求項6は、この好ましい態様に該当し、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムであって、前記絶縁性樹脂基材が、ポリイミドフィルムであることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルムを提供するものである。
【0029】
前記のポリエステルフィルム又はポリイミドフィルムである絶縁性樹脂基材を、コロナ放電処理、ポリエチレンイミン系化合物、有機チタン系化合物、イソシアネート系化合物、ポリエステルウレタン系化合物等により易接着プライマー処理をすることにより、その接着力をさらに向上させることができるので、好ましい。
【0030】
本発明は、さらに、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムを、被覆材として用いて製造されたフラットケーブルを提供する。本発明のフラットケーブルは、前記のフラットケーブル用絶縁フィルムの2枚を、絶縁性樹脂基材の反対側にある層、すなわち前記難燃性接着剤層(2層の場合)又は接着剤層(3層の場合)が互いに対向するように配置し、この間に、平行に並べられた複数本の導体を挟み、前記難燃性接着剤層又は接着剤層同士を貼り合せることにより製造される。請求項7は、このようにして製造されることを特徴とするフラットケーブルを提供するものである。このようにして製造されたフラットケーブルは、柔軟性、耐熱性、難燃性に優れ、さらに各種機械特性、電気特性等に優れ、各種の電気、電子機器の内部配線用等に好適に使用される。
【発明の効果】
【0031】
本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムは、機械特性、電気特性、接着力(密着性)及び難燃性が優れるとともに、高温時の接着力(耐熱性)が高く、優れたフィルム加工性を有し、さらに接着力(密着性)の経時安定性にも優れる。このフラットケーブル用絶縁フィルムを用いて製造されたフラットケーブルは、柔軟性、耐熱性、難燃性に優れ、さらに各種機械特性、電気特性等に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態への変更も可能である。
【0033】
図1は、絶縁性樹脂基材1の上に、接着剤層2及び難燃性接着剤層3の2層が積層されてなるフラットケーブル用絶縁フィルムを示す断面説明図である。図2は、絶縁性樹脂基材1の上に、接着剤層2、難燃性接着剤層3及び接着剤層4の3層が積層されてなるフラットケーブル用絶縁フィルムを示す断面説明図である。図3は、図2の例のフラットケーブル用絶縁フィルムを用いて製造されたフラットケーブルを示す断面説明図である。図3の例のフラットケーブルは、絶縁性樹脂基材1の上に、接着剤層2、難燃性接着剤層3及び接着剤層4が積層されたフラットケーブル用絶縁フィルムと、それと同じ構成を有する、すなわち絶縁性樹脂基材1’の上に、接着剤層2’、難燃性接着剤層3’及び接着剤層4’が積層されたフラットケーブル用絶縁フィルムとの間に、3本の導体5を挟み、接着剤層4と接着剤層4’とを熱有着させて得られたものである。2枚のフラットケーブル用絶縁フィルムとしては、この例のように構成が同じものを用いる必要はなく、互いに構成が異なるもの、例えば難燃性接着剤層上に接着剤層を有するもの及び、有しないものを用いてもよい。
【実施例】
【0034】
次に、図1の例又は図2の例のフラットケーブル用絶縁フィルムを製造し、各種の物性を測定した例を、実施例、比較例として示す。
【0035】
製造例1 結晶性ポリエステルの製造
テレフタル酸の84g、イソフタル酸の58.1g、アジピン酸の21.9g、1,4-ブタンジオールの135gに、触媒のテトラブチルチタネートを濃度が300ppmとなるように加え、さらにタルクを5重量%添加し、230℃で2時間、エステル化反応を行った。続いて、同量の触媒を追加し、2hPaに減圧して、250℃で2時間、重縮合反応を行い、結晶性ポリエステルを得た。この結晶性ポリエステルを、ポリエステル1とする。ポリエステル1の融点は、110℃、溶融張力は、2.2gであった。なお、溶融張力は、次に示す条件で測定した。他の製造例、実施例、比較例においても同様である。
【0036】
溶融張力の測定法
キャピラリーレオメーター(Rosand Precision Ltd.製、RH7−2型、ダイス径2mm、温度160℃)を用いて測定した。
【0037】
製造例2 結晶性ポリエステルの製造
テレフタル酸の74.7g、イソフタル酸の58.1g、アジピン酸の29.2g、1,4-ブタンジオールの135gに、触媒のテトラブチルチタネートを濃度が300ppmとなるように加え、さらにタルクを1重量%添加し、230℃で2時間、エステル化反応を行った。続いて、同量の触媒を追加し、2hPaに減圧して、250℃で2時間、重縮合反応を行い、結晶性ポリエステルを得た。この結晶性ポリエステルを、ポリエステル2とする。ポリエステル2の融点は、108℃、溶融張力は、2.0gであった。
【0038】
[フラットケーブル用絶縁フィルムの作製]
前記のポリエステル1及びポリエステル2、並びに以下に説明するポリエステル3、ポリエステル4、ポリオレフィン1、ポリオレフィン2、難燃剤、酸化防止剤及び顔料を用いて、表1に示す配合比率で溶融混合した材料(難燃性接着剤層用材料)、及び表2に示す配合比率で溶融混合した材料(接着剤層用材料)を、表3、表4、表5に示す組み合わせで、3層Tダイでフィルム状に押し出し、表3、表4、表5に示す基材フィルム(絶縁性樹脂基材)上に熱ロールでラミネートし、図1(接着剤層4がない場合)又は図2(接着剤層4がある場合)に示す多層構造のフラットケーブル用絶縁フィルムを作製した。
【0039】
ポリエステル3: バイロン300(商品名、東洋紡績株式会社製、非結晶性ポリエステル)
ポリエステル4: バイロンGM990(商品名、東洋紡績株式会社製、結晶性ポリエステル、融点110℃、無機フィラー含有なし。)
【0040】
ポリオレフィン1: アドマーNF308(商品名、三井化学株式会社製のオレフィン、融点125℃)
ポリオレフィン2: ハイミラン1707(商品名、三井化学株式会社製のオレフィン、融点87℃)
【0041】
難燃剤 : SAYTEX8010 (商品名、Ethyl Corporation製)
酸化防止剤: イルガノックス1010(商品名、チバガイギー社製、高分子量ポリフエノ−ル系酸化防止剤)
顔料 : 酸化チタン
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
[フィルム加工性の評価、接着力の測定]
前記の作成されたフラットケーブル用絶縁フィルムについて、下記に示す方法でフィルム加工性の評価及び接着力の測定を行った。その結果を、表3、表4、表5に示す。なお、接着力は、フラットケーブル用絶縁フィルムの作成直後(表中の「初期」)及び7日間25℃で放置後について測定した。
【0045】
フィルム加工性の評価:
前記の3層Tダイでフィルム状に押し出すときに、押し出されたフィルムの厚さが30μm以下に延伸できるものを「O」で表示し、30μm以下に延伸できないものを「×」で表示した。
【0046】
接着力測定法:
0.050mm〜0.1mmのスズメッキ軟銅箔を、作製したフラットケーブル用絶縁フィルムの接着剤面に熱ロール(180℃、1.0m/min)で貼り合わせ、剥離接着力を剥離速度100mm/minで測定した。
【0047】
耐熱性(高温時の接着力)の評価:
フラットケーブル用絶縁フィルム2枚を接着剤面が向かい合うようにして、その間に厚さ0.05mm×幅0.8mmのスズメッキ軟銅箔を1.25mm間隔で10本並べ、約130℃の熱ロールで加熱圧着させてフラットケーブルを作製した。このフラットケーブルの30cm長を、120℃の恒温槽に168時間放置後、その形状変化、剥離状態を目視した。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
表3〜表5の結果から明らかなように、溶融張力が本発明の範囲外の配合S3(比較例1)、配合S4(比較例2)、配合C3(比較例3)を用いた比較例1〜3では、フィルム加工性が悪く、厚さ30μm以下にフィルムを延伸できなかった。一方、溶融張力が本発明の範囲内のポリエステル、配合を用いた実施例1〜6は、フィルム加工性が優れていた。又、実施例1〜6は、優れた接着力を有することも、表3〜表5の結果から明らかである。特に、難燃性接着剤層3の上に接着剤層4を積層した実施例2〜5は、7日間の放置後の接着力の低下が小さく、経時安定性がさらに優れることも明らかになった。さらに、表3〜表4の結果から明らかなように、実施例1〜6は、耐熱性(高温時の接着力)も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムの一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明のフラットケーブル用絶縁フィルムの他の一例を示す断面説明図である。
【図3】本発明のフラットケーブルの一例を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1、1’ 絶縁性樹脂基材
2、2’ 接着剤層
3、3’ 難燃性接着剤層
4、4’ 接着剤層
5 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性樹脂基材、接着剤層、及び難燃性接着剤層の順で積層されてなる、又は絶縁性樹脂基材、接着剤層、難燃性接着剤層、及び接着剤層の順で積層されてなるフラットケーブル用絶縁フィルムであって、前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層が、融点が80〜170℃の結晶成分を含有するポリエステルを25重量%以上含み、前記難燃性接着剤層及び接着剤層の各層の溶融張力が1〜10gであることを特徴とするフラットケーブル用絶縁フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステルが、その原料モノマーに、平均粒径3μm以下の無機フィラーを前記原料モノマー全量に対し1〜5重量%含有させた後、前記原料モノマーを重合して得られることを特徴とする請求項1に記載のフラットケーブル用絶縁フィルム。
【請求項3】
無機フィラーがタルクであることを特徴とする請求項2に記載のフラットケーブル用絶縁フィルム。
【請求項4】
前記難燃性接着剤層及び/又は接着剤層が、さらにポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のフラットケーブル用絶縁フィルム。
【請求項5】
前記絶縁性樹脂基材が、ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のフラットケーブル用絶縁フィルム。
【請求項6】
前記絶縁性樹脂基材が、ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のフラットケーブル用絶縁フィルム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のフラットケーブル用絶縁フィルムの2枚を、難燃性接着剤層又は接着剤層が互いに対向するように配置し、この間に、平行に並べられた複数本の導体を挟み、前記難燃性接着剤層又は接着剤層同士を貼り合せて製造されることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−156243(P2006−156243A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347427(P2004−347427)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】