説明

フラーレン誘導体、およびそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜

【課題】高いキャリア移動度とデバイスとしての安定した機能を両立でき、かつデバイス作成を容易にできるフラーレン誘導体の提供。
【解決手段】下記一般式:


で表されるフラーレン誘導体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、およびそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体デバイスは、以下のような利点:
1)デバイス作成時のコストが安く出来る;
2)大面積化が容易である;
3)シリコン等の無機材料と比較して、可撓性を付与しやすく、応用の幅が広がる;
を有することが期待され、その開発が盛んに行われている。その具体的な応用製品としては、例えば、EL素子、電界効果型トランジスタ(FET)、太陽電池等が挙げられる。
これらのデバイスに用いられる有機半導体材料の性能は最近向上してきている。特に、p型では有機材料の選択肢が大きいため、多くの化合物が検討されてきており、ペンタセンなどで、既にアモルファスシリコンと同等のキャリア移動度を達成している。一方で、n型機能を示す有機化合物は限られているが、このうちで、シリコンに対抗できるだけのキャリア移動度を実証できたものとして、フラーレン(C60)が挙げられる。
しかしながら、フラーレンを用いるデバイスの作成には蒸着工程が必要なので、有機材料を用いる利点が損なわれている。この問題に対して、塗布法によるデバイス作成を目的として、有機溶媒に可溶なフラーレン誘導体の開発が行われている。例えば、[6,6]−フェニル C61−酪酸メチル エステル([6,6]-phenyl C61-butyric acid methyl ester (PCBM))によるFETの作成が報告されている(非特許文献1)。また、さらなる高機能を目指した化合物デザインがなされ、長鎖のアルキル基の導入によりC60を高度に配列させ、PCBMを凌ぐ電子移動度が達成されている(特許文献1、非特許文献2)。さらには、C60の配列をより強固にするために、アルキル基の替わりに長鎖のペルフルオロアルキル基を導入すると、さらに高い電子移動度が達成できることが報告されている。また、この化合物は高い電子移動度を有するだけでなく、作成したデバイスの大気中での安定性も向上させていることも報告されている(特許文献2、非特許文献3)。
一方、有機半導体材料のうち、1分子内にn型半導体単位とp型半導体単位両方を有する化合物は、光照射時に高効率にキャリアが発生することが知られている(非特許文献4)。このような化合物の構造は、太陽電池を指向した有機半導体材料として有望な分子デザインである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−60169号公報
【特許文献2】特開2007−251086号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Christoph Waldaufら、Advance Materials、2003年、15巻、2084頁
【非特許文献2】近松ら、Applied Physics letters、2005年、87巻、203504頁
【非特許文献3】近松ら、Chemistry of Materials、2008年、20巻、7365頁
【非特許文献4】安蘇ら、Chemistry Letters、2007年、36巻、544頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが上記の公知化合物を詳細に検討したところ、実用上において以下の課題を有していることが判った。
1)化合物の有機溶媒への溶解度が非常に悪く、またデバイス作成時に用いられる材料や電極などの他の成分との親和性も低いため、塗布型デバイスを作成し難い。
2)さらには作成した後にも、作成したデバイスが温度変化や長時間の使用において安定した機能を発現できない。
これらは、高い電子移動度を達成するために導入したフッ素含有基の撥油効果による相分離、またはフッ素含有基の導入によるフラーレン分子の凝集阻害によるものと考えられる。
以上のことから理解されるように、高い電子移動度、デバイス作成の容易性、およびデバイスの安定性を同時に達成することは非常に困難であった。
本発明は、高い電子移動度、デバイス作成の容易性、およびデバイスの安定性を同時に達成することを可能にするフラーレン誘導体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、本発明者は、フルオロアルキル基を含有するフラーレン誘導体に、p型材料として作用する特定の分子単位を導入することによって、高いキャリア移動度(特に、電子移動度)、塗布時の溶解度向上、および他の素子成分(特に、p型ユニット)との親和性向上を同時に達成できることを見出し、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]
一般式(I):
【化1】

[式中、
1は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
mは、0、または1を表し、
Aは、各出現において同一又は異なって、
【化2】

(式中、
2は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
3は、各出現において同一又は異なって、アルキル基を表し、
4は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
5は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表す。)
から選択される2価の基を表し、n個のAのうち少なくとも1個は
【化3】

であり、
nは、1〜24の整数を表し、
Bは、
【化4】

(式中、
Lは、各出現において同一又は異なって、結合手、アルキレン鎖、またはアルキレンオキシド鎖を表し、
fは、各出現において同一又は異なって、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、またはペルフルオロポリエーテル基を表し、
6は、各出現において同一又は異なって、水素、アルキル基、または−L−Rfを表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。)
から選択される1価の基を表す。但し、Bが直接結合するAが
【化5】

であるとき、Bは、
【化6】

である。]
で表されるフラーレン誘導体;
[2]
一般式(I)中の
【化7】

で表される部分は、
【化8】

(式中、nは4〜16の整数を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。)
である前記[1]に記載のフラーレン誘導体;
[3]
mは、1である前記[1]または前記[2]に記載のフラーレン誘導体;
[4]
Bは、
【化9】

(式中、R6は、各出現において同一又は異なって、水素、アルキル基、または−L−Rf(式中、Lは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)を表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。)
である前記[1]〜前記[3]のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体;
[5]
Bは、−L−Rf(式中、Lは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)である前記[1]〜前記[3]のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体;
[6]
前記[1]〜前記[5]のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含有する半導体材料;
[7]
前記[1]〜前記[5]のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含有する半導体薄膜;
[8]
前記[7]に記載の半導体薄膜を含有する半導体素子;
[9]
前記[7]に記載の半導体薄膜を含有する電界効果型トランジスタ;および
[10]
前記[7]に記載の半導体薄膜を含有する有機薄膜太陽電池
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフラーレン誘導体は、有機溶媒への溶解性、および半導体デバイスにおける他の素子成分との親和性が高いので、高度な配列による高いキャリア移動度(特に、電子移動度)、デバイス作成の容易性、作成したデバイスの安定性を同時に達成できる。このため。例えば、塗布型半導体デバイスの材料として、好適に使用することができる。
また、本発明のフラーレン誘導体は、p型とn型の両方の性質を持つので、p型とn型の2種類の材料を適切に混合する必要が無いので、更にデバイス作成を容易にできる。
本発明の半導体素子は、高いキャリア移動度を有し、作成が容易であり、かつ安定が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明のフラーレン誘導体を含有する半導体薄膜を有する電界効果型トランジスタの概略図(実施例4)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語>
本明細書中、「ペルフルオロアルキル基」とは、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、またはアルキル基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基を意味する。
本明細書中、「ペルフルオロアルコキシ基」とは、アルコキシ基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、またはアルコキシ基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基を意味する。
本明細書中、「ペルフルオロポリエーテル基」とは、複数のペルフルオロアルキレンオキシド鎖を有し、末端にペルフルオロアルキル基を有する1価の基を意味する。
本明細書中、「ペルフルオロアルキレンオキシド鎖」は、−O−ペルフルオロアルキレン鎖、またはペルフルオロアルキレン−O−鎖を意味する。
【0011】
<フラーレン誘導体>
本発明のフラーレン誘導体は、前記一般式(I)で表される化合物である。
以下に、一般式(I)中の記号を説明する。なお、本明細書中、特に記載の無い限り、同じ記号は、同意義を表す。
【0012】
1は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表す。
1で表される「アルキル基」の炭素数は、1〜20が好ましく、4〜12がより好ましい。当該「アルキル基」は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0013】
mは、0、または1を表す。当業者に明らかなように、mが0であるとき、一般式(I)中の
【化10】

で表される部分は結合手である。
mは、好ましくは1である。
【0014】
Aは、各出現において同一又は異なって、
【化11】

(式中、
2は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
3は、各出現において同一又は異なって、アルキル基を表し、
4は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
5は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表す。)から選択される2価の基を表す。
【0015】
2、R3、R4、およびR5で表される「アルキル基」の炭素数は、それぞれ、1〜20が好ましく、4〜12がより好ましい。当該「アルキル基」は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0016】
有機溶媒に対する溶解性の観点から、好ましくは、複数のR2のうち少なくとも1個はアルキル基である。
【0017】
有機溶媒に対する溶解性の観点から、好ましくは、複数のR5のうち少なくとも1個はアルキル基である。
【0018】
n個のAのうち少なくとも1個は
【化12】

(式中の記号は、前記と同意義を表す。)
である。
好ましくは、Aは、全て、
【化13】

(式中の記号は、前記と同意義を表す。)
である。
【0019】
nは、1〜24の整数を表す。nは、好ましくは3〜16、より好ましくは3〜8の整数である。
【0020】
一般式(I)中の
【化14】

で表される部分は、好ましくは、
【化15】

(式中、nは4〜16の整数を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)
であり、より好ましくは、
【化16】

(式中、n’は1〜4の整数を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)
である。
【0021】
一般式(I)中の
【化17】

で表される部分が、前記のような特定の構造を有することにより、本発明のフラーレン誘導体は、高いキャリア移動度を有する。
【0022】
Bは、
【化18】

(式中、
Lは、各出現において同一又は異なって、結合手、アルキレン鎖、またはアルキレンオキシド鎖を表し、
fは、各出現において同一又は異なって、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、またはペルフルオロポリエーテル基を表し、
6は、各出現において同一又は異なって、水素、アルキル基、または−L−Rfを表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。)
から選択される1価の基を表す。
但し、Bが直接結合するAが
【化19】

であるとき、
Bは、
【化20】

である。
【0023】
Lで表される「アルキレン鎖」の炭素数は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜4であり、更に好ましくは1〜2である。
【0024】
Lで表される「アルキレンオキシド鎖」は、−O−アルキレン鎖である。ここで、−O−は、アルキレンオキシド鎖において、Rfとは反対側に位置する。Lで表される「アルキレンオキシド鎖」の炭素数は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜4であり、更に好ましくは1〜2である。
【0025】
Bが−L−Rfであるとき、Lは、好ましくは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖である。
【0026】
Bが
【化21】

であるとき、好ましくは、R6は、各出現において同一又は異なって、水素、アルキル基、または−L−Rf(式中、Lは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)を表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。
【0027】
fで表される「ペルフルオロアルキル基」の炭素数は、好ましくは1〜20であり、より好ましくは4〜12である。当該「フルオロアルキル基」は直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0028】
fで表される「ペルフルオロアルコキシ基」の炭素数は、好ましくは1〜20であり、より好ましくは4〜12である。当該「ペルフルオロアルコキシ基」は直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0029】
fで表される「ペルフルオロポリエーテル基」として好ましくは、例えば、末端にペルフルオロアルキル基を有し、−C36O−、C24O−、および−CF2O−から選択される1種以上の繰り返し単位を有する、炭素数2〜50のペルフルオロポリエーテル基が挙げられる。当該繰り返し単位としては、−C24O−が好ましい。前記繰り返し単位の繰り返し数は、好ましくは、2〜20である。
当該「ペルフルオロポリエーテル基」として具体的には、例えば、
(i)F−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−CF(CF3)−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
(ii)CF3O−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−(CF2O)m2−CF2−[式中、m1は0〜16の整数、m2は0〜20の整数である。]、
(iii)CF3−O−((CF22−O)m1−(CF2−O)m2−CF2−[式中、m1は1〜20の整数、m2は0〜20の整数である。]、
(iv)F−((CF23−O)m1−(CF22−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
(v)H−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−CF(CF3)−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
(vi)H−CF2O−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−(CF2O)m2−CF2−[式中、m1は0〜16の整数、m2は0〜20の整数である。]、
(vii)H−CF2−O−((CF22−O)m1−(CF2−O)m2−CF2−[式中、m1は1〜20の整数、m2は0〜20の整数である。]、および
(viii)H−((CF22−O)m1−(CF22−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
等が挙げられる。
更に、当該「ペルフルオロポリエーテル基」として具体的には、例えば、
(ix)F−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
(x)CF3O−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−(CF2O)m2−[式中、m1は0〜16の整数、m2は0〜20の整数である。]、
(xi)CF3−O−((CF22−O)m1−(CF2−O)m2−[式中、m1は1〜20の整数、m2は0〜20の整数である。]、
(xii)F−((CF23−O)m1−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
(xiii)H−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
(xiv)H−CF2O−(CF(−CF3)−CF2−O)m1−(CF2O)m2−[式中、m1は0〜16の整数、m2は0〜20の整数である。]、
(xv)H−CF2−O−((CF22−O)m1−(CF2−O)m2−[式中、m1は1〜20の整数、m2は0〜20の整数である。]、および
(xvi)H−((CF22−O)m1−[式中、m1は1〜16の整数である。]、
等が挙げられる。
【0030】
fとしては、ペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数4〜12のペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0031】
本発明のフラーレン誘導体として特に好ましくは、例えば、
1が、水素であり、
mが、1であり、
Aが、
【化22】

(式中、R2は、各出現において同一又は異なって、水素、または炭素数4〜12のアルキル基を表す。)
であり、
nが、4〜16の整数の整数であり、
Bが、
【化23】

(式中、R6は、各出現において同一又は異なって、水素、または−L−Rf(式中、Lは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖を表し、Rfは、炭素数4〜12のペルフルオロアルキル基を表す。)を表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。)
である化合物である。
【0032】
<フラーレン誘導体の製造方法>
本発明のフラーレン誘導体は、例えば、下記に記載する方法、またはそれに準じる方法によって製造することができる。
下記の反応スキームにおける記号は、特に記載の無い限り、前記と同意義を表す。
なお、本明細書中、特に断りの無い限り、「室温」とは、約10℃〜約35℃を示す。
【化24】

化合物(A)をN−メチルグリシンおよびC60(フラーレンC60)と反応させることによって、化合物(I)を得る。
化合物(A)は、公知の方法、例えば、Yuanら、Chem. Mater. 2008, 20, 2763-2772、Kimら、Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, 2002, Volume 40 Issue 8, 1173-1183、A.M. Assakaら、Polymer, 2004, 45, 7071-7081、Tangら、Chem. Mater., 2006, 18, 6250-6257、Ventelonら、Synthetic Metals, 2002, 127, 17-21、Odobelら、Chem. Eur. J., 2002, 8, No. 13, 3027-3046、Cremerら、Chem. Mater., 2007, Vol. 19, No. 17, 4155-4165、およびKrebsら、Solar Energy Materials & Solar Cells, 2005, 88, 363-37等に記載の方法、またはこれに準じる方法によって製造するか、市販品にて入手することができる。
N−メチルグリシンおよびC60は、公知の方法によって製造するか、市販品にて入手することができる。
化合物(A)、N−メチルグリシンおよびC60の量比は任意だが、収率を高くする観点から、化合物(A)、N−メチルグリシンは、それぞれ、C60の1モルに対して、通常0.1〜10モル、好ましくは0.5〜2モルを用いる。
当該反応は、無溶媒または溶媒中で行われる。
溶媒としては、二硫化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。なかでも、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン等が好ましい。これらの溶媒は、適当な割合で混合して用いてもよい。
反応温度は、用いた溶媒の沸点程度である。具体的には、通常、室温〜150℃であり、好ましくは80〜120℃である。
反応時間は、通常、1〜48時間であり、好ましくは10〜24時間である。
必要に応じて、得られた化合物は、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒としては、ヘキサン−クロロホルム、ヘキサン−トルエン、ヘキサン−二硫化炭素等が好ましい。)で精製後に、HPLC(展開溶媒としては、クロロホルム、トルエン等が好ましい。)でさらに精製することができる。
【0033】
<半導体材料および半導体薄膜>
本発明のフラーレン誘導体は、電荷移動材料または半導体材料として使用することができる。
本発明のフラーレン誘導体を、有機溶媒に溶解し、スピンコート法、キャスト法、デッピング法、インクジェット法、およびスクリーン印刷法等の公知の薄膜形成方法によって、例えばシリコン基板上に薄膜を形成することにより、本発明のフラーレン誘導体を含有する半導体薄膜が得られる。
当該有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、二硫化炭素、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼン、およびトリクロロベンゼン等を用いることができる。当該溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該方法によれば、低コストで、大面積の半導体薄膜が得られる。また、本発明のフラーレン誘導体は、優れた自己組織性を有し、かつ半導体デバイスにおける他の部材(例、電極材料、p型半導体材料、電荷移動材料)との親和性が高い。
【0034】
<適用>
本発明のフラーレン誘導体は、電荷移動材料または半導体材料として用いることができる。本発明のフラーレン誘導体から得られる半導体薄膜は、光、電子デバイス用途に応用できる。具体的には、有機薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型コンデンサ、有機薄膜太陽電池等の光電変換素子、EL素子等の発光素子として有効に機能する。
このような、本発明のフラーレン誘導体から得られる半導体薄膜を含有する、電界効果型コンデンサ(例、有機薄膜トランジスタ(TFT))、光電変換素子(例、有機薄膜太陽電池)、および発光素子(例、EL素子)等の半導体素子は、それらの属する技術分野で慣用の方法により、製造すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のフラーレン誘導体、フラーレン誘導体、それを含有する電荷移動材料またはそれを含有する半導体材料、およびそれを含有する半導体薄膜は、有機薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型コンデンサ、有機薄膜太陽電池等の光電変換素子等の半導体素子に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
HPLC(GPC)による精製は、下記の装置およびカラムを用いて実施した。
装置:日本分光LC−9201S
カラム:JAIGEL Hシリーズ(2H−1Hを2本連結で使用)
NMRスペクトルは、プロトンNMRを示し、内部標準としてテトラメチルシランを用いて、装置:JNM−LA400(日本電子)によって測定した。δ値をppmで表す。
以下の実施例等で用いる略号は、下記の意義を示す。
s :シングレット
br :幅広
d :ダブレット
t :トリプレット
m :マルチプレット
J :カップリング定数
Hz :ヘルツ
【0037】
実施例1
<化合物5の合成>
【化25】

【0038】
(1)化合物2の合成
化合物1(2.60g、3.89mmol)とテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA、904mg, 7.78mmol)のTHF(84mL)溶液に、−40℃で1.6M n‐ブチルリチウム(5.8mL, 9.3mmol)を加え、この温度で30分間攪拌した。これに塩化トリブチルスズ(3.17g, 9.73mmol)を加えて、反応液を室温で1時間攪拌した。反応液に水を加え、n-ヘキサンで反応物を抽出した。溶媒を溜去後、反応物をカラムクロマトグラフィー(アルミナ、展開溶媒:n-ヘキサン)で精製して、化合物2を得た(5.14g、収率100%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.87(24H, m), 1.09 (12H, t), 1.26(64H, m), 2.78(4H, t), 6.95(2H,s), 7.01(2H, d), 7.11(2H, d).
【0039】
(2)化合物3の合成
化合物2(2.0g、1.61mmol)と4−ブロモベンツアルデヒド(208mg, 1.12mmol)を5mol%のテトラトリフェニルホスフィンパラジウム(55mg, 0.048mmol)の存在下にトルエン(10mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(アルミナ、展開溶媒n-ヘキサン:クロロホルム=5:1)により精製して、化合物3を得た(608mg、収率36%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.85(15H, m), 1.09 (6H, t), 1.26 (52H, m), 2.78 (4H, m), 6.96 (1H, s), 7.03(1H, d), 7.10 (1H, d), 7.15 (2H, s), 7.32 (1H, s), 7.74 (2H, d), 7.89 (2H, d), 10.0 (1H, s).
【0040】
(3)化合物4の合成
化合物3(150mg、0.14mmol)と4−ペルフルオロヘキシルフェニル ブロミド(67mg、0.14mmol)を5mol%のテトラトリフェニルホスフィンパラジウムの存在下にトルエン(5mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒n-ヘキサン:クロロホルム=1:1)により分離後、HPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)で精製して、化合物4を得た(61mg、収率37%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.87(6H, t), 1.25(40H, m), 2.82(4H, t), 7.10(1H, d), 7.12(1H, d), 7.18(2H, d), 7.27(1H, s), 7.33(1H, s), 7.59(2H, d), 7.71(2H, d), 7.75(2H, d), 7.89(2H, d), 10.0(1H, s).
【0041】
(4)化合物5の合成
化合物4(30mg、0.026mmol)、フラーレン(37mg、0.051mmol)、N-メチルグリシン(23mg, 0.26mmol)を、トルエン(20mL)中120℃で36時間加熱した。溶媒を溜去後、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒クロロホルム)で分離し、さらにHPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)により精製して化合物5を単離した(15mg、収率30%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.86(6H, t), 1.25(40H, m), 2.80(4H, t), 2.84(3H, s), 4.28(1H, d), 4.96(1H, s), 5.01(1H, d), 7.06(1H, d), 7.09(1H, d), 7.15(2H, d), 7.21(1H, s), 7.26(1H, s), 7.58(2H, d), 7.66(2H, d), 7.70(2H, d), 7.81(2H, d)
【0042】
実施例2
<化合物7の合成>
【化26】

【0043】
(1)化合物6の合成
化合物3(188mg、0.18mmol)と4−(8,8,8,7,7,6,6,5,5,4,4,3,3-トリフルオロオクチル)フェニル ブロマイド(134mg、0.27mmol)を、5mol%のテトラトリフェニルホスフィンパラジウム(10mg、0.0089mmol)の存在下にトルエン(5mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去後、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒n−ヘキサン:クロロホルム=1:1)で分離後、さらにHPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)で精製して、化合物6を得た(80mg、収率38%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.87(6H, t), 1.25(40H, m), 2.34(2H, m), 2.80(2H, t), 2.82(2H, t), 2.94(2H, t), 7.07(1H, d), 7.12(1H, d), 7.15(1H, s), 7.17(2H, d), 7.23(2H, d), 7.33(1H, s), 7.55(2H, d), 7.75(2H, d), 7.89(2H, d), 10.0(1H, s).
【0044】
(2)化合物7の合成
化合物6(80mg、0.067mmol)、フラーレン(97mg、0.13mmol)、N-メチルグリシン(60mg, 0.67mmol)を、トルエン(20mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去後、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒クロロホルム)で分離し、さらにHPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)により精製して化合物7を単離した(14mg、収率11%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.86(6H, t), 0.89(3H, t),1.25(40H, m), 2.39(2H, m),2.78(4H, t), 2.84(3H, s), 2.93(2H, t), 4.28(1H, d), 4.96(1H, s), 5.00(1H, d), 7.05(1H, d), 7.06(1H, d), 7.14(2H, d), 7.14(1H, s), 7.21(1H, s), 7.23(2H, d), 7.55(2H, d), 7.66(2H, d), 7.82(2H, d)
【0045】
実施例3
<化合物9の合成>
【化27】

【0046】
(1)化合物8の合成
化合物3(109mg、0.10mmol)と4−ペルフルオロドデシルフェニル ブロミド(116mg、0.15mmol)を、テトラトリフェニルホスフィンパラジウム(6mg, 0.005mmol)の存在下にトルエン(5mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒n-ヘキサン:クロロホルム=1:1)により分離後、HPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)で精製して、化合物8を得た(59mg、収率40%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.87(6H, t), 1.25(40H, m), 2.82(4H, t), 7.10(1H, d), 7.12(1H, d), 7.18(2H, d), 7.27(1H, s), 7.33(1H, s), 7.59(2H, d), 7.71(2H, d), 7.75(2H, d), 7.89(2H, d), 10.0(1H, s).
【0047】
(2)化合物9の合成
化合物8(59mg、0.040mmol)、フラーレン(288mg、0.40mmol)、N-メチルグリシン(36mg, 0.40mmol)を、トルエン(20mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去後、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒クロロホルム)で分離し、さらにHPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)により精製して化合物9を単離した(17mg、収率19%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.86(6H, t), 1.25(40H, m), 2.80(4H, t), 2.83(3H, s), 4.28(1H, d), 4.96(1H, s), 5.00(1H, d), 7.05(1H, d), 7.08(1H, d), 7.14(2H, d), 7.19(1H, s), 7.24(1H, s), 7.58(2H, d) , 7.65(2H, d) , 7.69(2H, d) , 7.82(2H, d)
【0048】
参考例1
<化合物11の合成>
【化28】

【0049】
(1)化合物10の合成
化合物3(172mg、0.16mmol)と4−ヘキシルフェニル ブロミド(58mg、0.24mmol)を、テトラトリフェニルホスフィンパラジウム(9mg, 0.008mmol)の存在下にトルエン(5mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒n-ヘキサン:クロロホルム=1:1)により分離後、HPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)で精製して、化合物10を得た(90mg、収率60%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.87(6H, t), 0.89 (3H, t),1.25(48H, m), 2.62 (2H, t), 2.82(4H, t), 7.06 (1H, d), 7.11 (1H, d), 7.13 (1H, s), 7.16 (2H, d), 7.19 (2H, d), 7.32 (1H, s), 7.51 (2H, d), 7.74 (2H, d), 7.89(2H, d), 10.0(1H, s).
【0050】
(2)化合物11の合成
化合物10(90mg、0.090mmol)、フラーレン(670mg、0.97mmol)、N-メチルグリシン(86mg, 0.97mmol)を、トルエン(20mL)中120℃で15時間加熱した。溶媒を溜去後、反応物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒クロロホルム)で分離し、さらにHPLC(GPC:展開溶媒クロロホルム)により精製して化合物11を単離した(16mg、収率10%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.86(6H, t), 0.89(3H, t),1.25(48H, m), 2.61(2H, t),2.78(4H, t), 2.83(3H, s), 4.28(1H, d), 4.96(1H, s), 5.00(1H, d), 7.05(2H, d) , 7.12(1H, s) , 7.13(2H, d) , 7.18(2H, d) , 7.20(1H, s) , 7.50(2H, d) , 7.66(2H, d) , 7.82(2H, d)
【0051】
実施例4
<電界効果型トランジスタ作成および電子伝導度評価>
厚さ300nmのSiO2絶縁膜を有するp−ドープSi(シリコン)基板をトルエン、アセトン、脱イオン水、イソプロピルアルコールで各15分ずつ超音波洗浄した。その後、基板を30分オゾン洗浄し、ヘキサメチルジシラザンのトルエン溶液に1時間浸した。その後、基板をトルエン、アセトンで各15分超音波洗浄した。
これに、電極として金を真空蒸着した。さらにこの上にフラーレン誘導体の1wt%のo−ジクロロベンゼン溶液を滴下し、ホットプレートで70℃に加熱することでキャスト膜(有機層)を作製した。得られた素子の概略図を図1に示す。
得られた素子を150℃で30分間アニールした後、真空下でソース−ドレイン間電圧を80V印加し、ゲート電圧を−20V〜80Vの範囲で変化させ、FET性能を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

フルオロアルキル基を含まない化合物11に比較して、フルオロアルキル基を含む化合物はいずれも有意に高い電子伝導を示した。またフルオロアルキル基の炭素鎖長が長い方が電子伝導が高い傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[式中、
1は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
mは、0、または1を表し、
Aは、各出現において同一又は異なって、
【化2】

(式中、
2は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
3は、各出現において同一又は異なって、アルキル基を表し、
4は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表し、
5は、各出現において同一又は異なって、水素、またはアルキル基を表す。)
から選択される2価の基を表し、n個のAのうち少なくとも1個は
【化3】

であり、
nは、1〜24の整数を表し、
Bは、
【化4】

(式中、
Lは、各出現において同一又は異なって、結合手、アルキレン鎖、またはアルキレンオキシド鎖を表し、
fは、各出現において同一又は異なって、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、またはペルフルオロポリエーテル基を表し、
6は、各出現において同一又は異なって、水素、アルキル基、または−L−Rfを表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。)
から選択される1価の基を表す。但し、Bが直接結合するAが
【化5】

であるとき、Bは、
【化6】

である。]
で表されるフラーレン誘導体。
【請求項2】
一般式(I)中の
【化7】

で表される部分は、
【化8】

(式中、nは4〜16の整数を表し、その他の記号は前記と同意義を表す。)
である請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
mは、1である請求項1または2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
Bは、
【化9】

(式中、R6は、各出現において同一又は異なって、水素、アルキル基、または−L−Rf(式中、Lは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)を表し、5個のR6のうち1〜3個は、−L−Rfである。)
である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
Bは、−L−Rf(式中、Lは、結合手または炭素数1〜4のアルキレン鎖を、その他の記号は、前記と同意義を表す。)である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含有する半導体材料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含有する半導体薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体薄膜を含有する半導体素子。
【請求項9】
請求項7に記載の半導体薄膜を含有する電界効果型トランジスタ。
【請求項10】
請求項7に記載の半導体薄膜を含有する有機薄膜太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−121886(P2011−121886A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279903(P2009−279903)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】