説明

フレキシブルプリント配線板および電子機器

【課題】片面FPC構造において高周波帯の信号伝送線路における伝送損失の改善を図ったフレキシブルプリント配線板を提供する。
【解決手段】フレキシブルプリント配線板1Aは、一方面を露出したベース層10と、このベース層10の他方面に形成された信号層20と、この信号層20を覆い上記ベース層10に積層されたカバー層30と、このカバー層に被覆され上記信号層20を覆う、金属粉と金属ナノ粒子を配合した導電性ペーストにより形成されたグランド層33とを有して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動伝送方式の高周波帯信号を扱う回路に適用して好適なフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理機器においては、筐体内において屈曲状態で実装が可能な配線自由度の高いフレキシブルプリント配線板が多用される。情報処理機器における処理の高速化、回路の高密度化に伴い、同機器の筐体内に実装されるフレキシブルプリント配線板においても、マイクロ波(UHF)帯からセンチ波(SHF)帯、さらにセンチ波からミリ波(EHF)帯への移行を視野に、伝送損失を考慮した高周波帯信号のプリント配線による伝送線路形成技術が要求されている。
【0003】
信号の伝送速度が高速でない回路においては、シングルエンド形式の伝送線路が多用されるが、数百MHz以上の高周波帯の信号を伝送する場合、信号の低電圧化と差動伝送方式の組み合わせによる信号伝送形態の伝送線路が多用される。差動伝送方式は、一つの信号を順位相と逆位相の二つの信号に変えて、それぞれを平行した2本の伝送線路を介し伝送するもので、低電圧による信号伝送と耐ノイズ性に優れた特性を有している。
【0004】
この種、伝送線路形成技術として、従来では、一方端側に差動信号を扱う第1のデバイスを設け、他方端側に同じく差動信号を扱う第2のデバイスを設けて、この各デバイス間の間を一定インピーダンスの差動信号線ペアで接続した、2層銅箔構造のフレキシブル基板(両面FPC)が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−260066
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した両面FPCにおいては、第1層を信号層、第2層をグランド層とし、信号層に差動信号線路を設けることにより、伝送損失の少ない差動信号回路を形成することができる。しかしながら、この両面FPCは、絶縁基材の両面に銅箔の導電層が形成される構造であることから、単層銅箔構造のフレキシブル基板(片面FPC)に較べて、屈曲性に劣り、可動部への使用に対して耐久性に劣るという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した両面FPCの問題点を改善し、かつ高周波帯域での伝送損失の劣化を改善したフレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一方面を露出したベース層と、前記ベース層の他方面に形成された信号層と、前記信号層を覆い前記ベース層に積層されたカバー層と、前記カバー層に被覆され前記信号層を覆う、金属粉と金属ナノ粒子を配合した導電性ペーストにより形成されたグランド層と、を具備したフレキシブルプリント配線板を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高周波帯域での伝送損失の劣化を改善した片面FPC構造のフレキシブルプリント配線板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の要部の断面構造を図1に示し、同フレキシブルプリント配線板全体の平面構造を図2に示し、図2の一部を拡大した平面構造を図3に示している。図1は、図3に示すA−A線に沿う断面構造を示し、図3は、図2に示す部分1sを拡大して示している。
【0010】
本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1Aは、図1に示すように、一方面を露出したベース層10と、このベース層10の他方面に形成された信号層20と、この信号層20を覆い上記ベース層10に積層されたカバー層30と、このカバー層に被覆され上記信号層20を覆う、金属粉と金属ナノ粒子を配合した導電性ペーストにより形成されたグランド層33とを有して構成されている。
【0011】
ベース層10は、ベースポリイミド11と、ベースレイ接着剤12とにより構成されている。ベースレイ接着剤12の表面は信号層20のパターン形成面となり、銅パターンによる配線層を形成している。
【0012】
信号層20は、ベース層10のベースレイ接着剤12を絶縁基体として、該基体上に、対をなす信号ライン22a,22bと、この信号ライン22a,22bに並行するグランドライン21とを形成している。信号ライン22a,22bは、ベース層10の面上(接着剤12の面上)で、互いに平行する二本の配線パターン(銅パターン)により構成され、差動伝送方式の信号伝送線路(差動信号伝送線路)となる。グランドライン21は、図3に示すように、信号ライン22a,22bに沿い、信号ライン22a,22bと一定の間隔を存して信号ライン22a,22bの両側に設けられている。
【0013】
カバー層30は、カバーレイポリイミド31と、カバーレイ接着剤32とにより構成されている。カバー層30には、グランド層33が被覆され、さらにこのグランド層33に保護層(オーバコート)34が被覆されている。
【0014】
グランド層33は、銀粉と銀ナノ粒子とを配合した体積抵抗率(比抵抗)が30μΩ・cm以下のハイブリットペースト(銀ハイブリットペースト)により構成されている。因みに一般に用いられている銀ペーストの体積抵抗率は45μΩ・cm程度である。この銀ハイブリットペーストと銀ペーストとの構造上の違いについては図4(a),(b)を参照して後述する。
【0015】
上記信号層20に設けられたグランドライン21は、差動伝送線路を形成する信号ライン22a,22bの配線(布線)方向に沿い、所定の間隔でグランド層33に導電接合している。この実施形態では、図3に示すように、グランドライン21上に位置するカバー層30の領域部分に、所定の間隔で、グランドライン21の銅パターンが露出する導電接合用の開口(CH)を設け、この開口(CH)を介して上記ハイブリットペーストが塗り込まれ、このハイブリットペーストが図1に示すように開口(CH)を埋めることで上記グランドライン21がグランド層33にスポット状に導電接合されている。このグランドライン21とグランド層33の導電接合により、グランドライン21は延長方向に対して、低抵抗(低インピーダンス)・同電位状態で保持されている。上記グランド層33を構成するハイブリットペーストはオーバコート部材で被覆され、図1に示すようにグランド層33の上に表面が平坦な保護被膜(カバー層30)を形成している。
【0016】
上記信号層20に形成されたグランドライン21と差動伝送線路を形成する信号ライン22a,22bは図2に示すコネクタCNa,CNbを介して図示しない差動信号を扱う信号伝送回路にインピーダンスを整合させた状態で回路接続される(図6参照)。
【0017】
上記した構成によるフレキシブルプリント配線板1Aは、体積抵抗率(比抵抗)が30μΩ・cm以下のハイブリットペーストによりグランド層33を有する、単層の銅箔により構成された片面FPCであり、上記した両面FPCの問題点(片面FPCに較べて屈曲性に劣り、可動部への使用に対して耐久性に劣るという問題)を改善できるとともに、高周波帯域での伝送損失の劣化を改善できる。例えばSATA2(Serial ATA2)仕様による通信速度3Gbpsの信号伝送に十分適用可能な、高周波帯域での伝送損失が少ない伝送線路を実現できる。
【0018】
上記したグランド層33を形成する銀ハイブリットペーストの導電パスを、一般に用いられている銀ペーストの導電パスと対比させて、図4(a),(b)にモデル化して示している。図4(a)は一般に用いられている銀ペーストの導電パスを示し、図4(b)は上記グランド層33を形成する銀ハイブリットペーストの導電パスを示している。図4(a),(b)において、iは導電パス、4aは銀粉、4bは数ナノメートル程度の銀ナノ粒子である。図4(a)に示す銀ペーストは銀粉4aをバインダー樹脂(図示せず)と混合してペースト化したものであり、図4(b)に示す銀ハイブリットペーストは銀粉4aと銀ナノ粒子4bとバインダー樹脂(図示せず)とを混合してペースト化したものである。図4(b)において、銀ナノ粒子4bは銀粉4a間の電気的コンタクトを強化する。
【0019】
導電パス(i)は、ペースト中の金属粒子の物理接触によって形成されるため、図4(b)に示す銀ハイブリットペーストは、銀粉4a相互の間に銀ナノ粒子4bが介在して緻密な導電パス(i)が形成され、導電性が飛躍的に向上し、銀粉4aと銀ナノ粒子4bの配合比率を調整することで体積抵抗率を30μΩ・cm以下とすることができる。
【0020】
この図4(b)に示す銀ハイブリットペースト(体積抵抗率;26μΩ・cm)をグランド層に用いた差動伝送線路と、図4(a)に示す銀ペースト(体積抵抗率;45μΩ・cm)をグランド層に用いた差動伝送線路とにおける伝送損失の特性上の比較を図5に示している。図5において、実線で示すPaは図4(b)に示した銀ハイブリットペーストをグランド層に用いた差動伝送線路の伝送損失特性であり、破線で示すPbは図4(a)に示した銀ペーストをグランド層に用いた差動伝送線路の伝送損失特性である。一点鎖線で示すDSは両面FPCの1層分の銅箔をグランド層とした差動伝送線路の伝送損失特性である。因みにSPは金属スパッタ膜によりグランド層を形成した差動伝送線路の伝送損失特性である。この図5に示す伝送損失特性から、銀ハイブリットペーストをグランド層に用いた差動伝送線路の伝送損失は、銀ペーストをグランド層に用いた差動伝送線路の伝送損失より低く、銅箔によりグランド層を形成した差動伝送線路に近い伝送損失特性であり、3Gbps程度の高周波信号の伝送に十分適用可能であることが分かる。
【0021】
上記した本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1Aは、片面FPC構造であることから、両面FPCに較べて屈曲性に優れ、可動部への使用に対しても耐久性に優れている。さらに、グランド層33に銀ハイブリットペーストを用いて伝送線路を形成したことにより、高周波帯域での伝送損失が改善されて、SATA2(Serial ATA2)仕様による通信速度3Gbpsの信号伝送を可能にしている。
【0022】
図6は、上記した実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1Aを小型電子機器、例えばハンディタイプのポータブルコンピュータに適用した構成例を示している。
【0023】
図6に於いて、ポータブルコンピュータ50の本体51には、表示部筐体52がヒンジ機構を介して回動自在に設けられている。本体51には、操作入力部となるキーボード53が設けられている。表示部筐体52には例えば液晶パネルを用いた表示デバイス54が設けられている。
【0024】
また本体51には、上記したフレキシブルプリント配線板1A、およびこのフレキシブルプリント配線板1Aにコネクタ接続され、このフレキシブルプリント配線板1Aを介して相互に差動伝送方式による信号伝送を行う、リジッド基板で構成された回路板2A,2Bが設けられている。この回路板2A,2Bには差動伝送方式による信号の入出力ポートを構成する送受端回路素子PA,PBが設けられている。送受端回路素子PA,PBは、フレキシブルプリント配線板1Aに設けられた信号ライン(差動伝送線路)22a,22bを介して差動伝送方式による信号(差動伝送信号)を送受する。
【0025】
上記回路板2A,2Bを相互に回路接続するフレキシブルプリント配線板1Aは、上記図1乃至図3に示したように、一方面を露出したベース層10と、このベース層10の他方面に形成された信号層20と、この信号層20を覆い上記ベース層10に積層されたカバー層30と、このカバー層に被覆され上記信号層20を覆うグランド層33とを有して構成されている。このグランド層33は、銀粉と銀ナノ粒子とを配合した体積抵抗率(比抵抗)が30μΩ・cm以下の銀ハイブリットペーストにより構成されている。このフレキシブルプリント配線板1Aは、片面FPC構造であることから、両面FPCに較べて屈曲性に優れ、可動部への使用に対しても耐久性に優れている。さらに、グランド層33に銀ハイブリットペーストを用いて伝送線路を形成したことにより、高周波帯域での伝送損失が改善されて、SATA2(Serial ATA2)仕様による通信速度3Gbpsの信号伝送を可能にしている。
【0026】
なお、上記した実施形態では、グランド層33を銀ハイブリットペーストにより形成したが、例えば、金粉と金のナノ粒子を配合したハイブリットペースト、銀粉と金のナノ粒子を配合したハイブリットペースト等、銀以外の他の金属ナノ粒子を配合してもよい。また、上記した実施形態では、帯状のフレキシブルプリント配線板を例に、2本の信号ライン(差動伝送線路)と、この2本の信号ラインを挟むように同信号ラインに並行した2本のグランドラインを備えた信号層を示したが、これに限るものではなく、実施段階では本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の変形または変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の要部の構成を示す側断面図。
【図2】上記実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の構成を示す平面図。
【図3】上記実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の要部の構成を示す平面図。
【図4】上記実施形態に係るフレキシブルプリント配線板のグランド層を形成する導電性ペーストの導電パスをモデル化して示す図。
【図5】上記実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の伝送損失特性を示す図。
【図6】上記実施形態に係るフレキシブルプリント配線板を実装した電子機器の構成を示す側断面図。
【符号の説明】
【0028】
1A…フレキシブルプリント配線板、2A,2B…回路板、10…ベース層、11…ベースポリイミド、12…接着剤、20…信号層、21…グランドライン、22a,22b…信号ライン(差動伝送線路)、30…カバー層、31…カバーレイポリイミド、32…カバーレイ接着剤、33…グランド層(銀粉と銀ナノ粒子を配合した体積抵抗率30μΩ・cm以下の導電性ペーストにより形成されたグランド層)、34…保護層(オーバコート)、CH…導電接合用の開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面を露出したベース層と、
前記ベース層の他方面に形成された信号層と、
前記信号層を覆い前記ベース層に積層されたカバー層と、
前記カバー層に被覆され前記信号層を覆う、金属粉と金属ナノ粒子を配合した導電性ペーストにより形成されたグランド層と、
を具備したことを特徴とするフレキシブルプリント配線板。
【請求項2】
前記信号層は、差動伝送線路を具備することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項3】
前記信号層は、前記差動伝送線路に並行するグランドラインを具備することを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項4】
前記グランドラインは、前記差動伝送線路の配線方向に沿い所定の間隔で前記グランド層に導電接合していることを特徴とする請求項3に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項5】
前記グランドラインは、前記カバー層に設けられた導電接合用の開口を介してスポット状に前記グランド層に導電接合していることを特徴とする請求項4に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項6】
前記グランド層を前記導電接合部分を含んで保護層で被覆したことを特徴とする請求項5に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項7】
前記導電性ペーストは、銀粉と銀ナノ粒子を配合したハイブリットペーストであることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項8】
前記ハイブリットペーストは、体積抵抗率が30μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項7に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項9】
電子機器本体と、
前記電子機器本体に設けられた差動信号を扱う高周波回路と、
前記高周波回路の信号伝送路に接続されるフレキシブルプリント基板とを具備し、
前記フレキシブルプリント基板は、
一方面を露出したベース層と、
前記ベース層の他方面に形成された、差動伝送線路を有する信号層と、
前記信号層を覆い前記ベース層に積層されたカバー層と、
前記カバー層を介して前記差動信号線路を覆う、金属粉と金属ナノ粒子を配合した導電性ペーストにより形成されたグランド層と、
を具備して構成されていることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
前記導電性ペーストは、銀粉と銀ナノ粒子を配合した体積抵抗率が30μΩ・cm以下のハイブリットペーストであることを特徴とする請求項9に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−177010(P2009−177010A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15116(P2008−15116)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】