説明

フレキシブル配線板

【課題】 熱可塑性樹脂からなる層間絶縁体層を有し、高周波信号の伝送特性に優れ、その多層化が容易になるフレキシブル配線板を提供する。
【解決手段】 フレキシブル配線板10では、熱硬化性樹脂からなるベースフィルム11の一主面に信号配線12とグランド配線13が配設されている。そして、信号配線12、グランド配線13およびベースフィルム11に接合一体化した熱可塑性樹脂からなるカバーレイフィルム14が形成されている。ここで、カバーレイフィルム14の一主面に外部端子15が所定の導体パターンに配置され、その表面にメッキ層(図示せず)が形成されている。また、ベースフィルム11の下方には、第1グランド層16と裏側樹脂フィルム17がこの順に接合し一体化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送配線、回路配線等が配設されたフレキシブル配線板に係り、特に、その配線層間に熱可塑性樹脂からなる絶縁体層を用い、高周波信号の優れた伝送特性を有して多層化が容易になるフレキシブル配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばネットワーク機器、サーバー、テスターのような電子機器に使用されるフレキシブル配線板では、数GHz〜数十GHz帯の高速デジタル信号の使用においてその高周波特性を損なうことなく高速伝送することが要求されている。また、例えば携帯機器類のようなモバイル電子機器では、その短小軽薄化に伴って、その高密度配線化および短小軽薄化が種々に進められている。そして、伝送配線あるいは回路配線等となる導体パターンの微細化とパターン間の縮小化、更にはその多層化が行われている。
【0003】
これまでフレキシブル配線板における導体パターン層間の好適な絶縁体層として、熱可塑性樹脂である液晶ポリマーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この熱可塑性液晶ポリマーは、その比誘電率および誘電正接が小さく、また吸水性および吸湿性が極めて低い特性をもつ。このため、フレキシブル配線板における高周波信号の優れた伝送特性、すなわち安定した低いリアクタンス、インピーダンスおよび伝送損失による優れた伝達・伝導特性が得られる。
【0004】
しかしながら、この熱可塑性の液晶ポリマーからなる層間絶縁体層を積層し、加熱加圧の処理(以下、熱プレスともいう)によりフレキシブル配線板を2層以上に多層化すると、導体パターンあるいはその導体パターン層間を接続する導通部材の位置ズレが生じ易くなる。それと共に、その積層における位置合わせ精度が悪くなり層間の電気接続に不具合が生じ易くなるために、導体パターン等の微細化が難しくなる。
【0005】
一般に、このような熱プレスによる配線板の多層化においては、層間絶縁体層となる熱可塑性樹脂が軟化することから、例えば一層毎のレイアップによる積層方法は極めて難しい。また、導体パターン等がそれぞれに形成された所要数の熱可塑性樹脂フィルムを重ね合わせて一度の熱プレスにより積層・一体化する方法(例えば、特許文献2参照)であっても、重ね合わせた熱可塑性樹脂フィルムの軟化あるいは溶融による接合における導体パターン等の位置ズレは不可避である。このため、その製造における高度な技術管理および高性能の製造設備が必須になる。
【0006】
このように、複数枚の熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスにより積層するフレキシブル配線板の多層化では、その高度の生産管理および品質管理が必要になり製造コスト低減が容易でない。そして、フレキシブル配線板の低コスト化が難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−135974号公報
【特許文献2】特開2009−302343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、熱可塑性樹脂からなる層間絶縁体層を有し、高周波信号の伝送特性に優れ、その多層化が容易になるフレキシブル配線板を提供することを目的とする。そして、高性能のフレキシブル配線板の製法が簡素化でき、その低コスト化が可能になるフレキシブル配線板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明にかかるフレキシブル配線板は、それぞれの主面に導体パターンが形成され互いに接合一体化した、熱可塑性樹脂からなる第1の絶縁体層および熱硬化性樹脂からなる第2の絶縁体層を有するフレキシブル配線板であって、前記熱硬化性樹脂の硬化温度は前記熱可塑性樹脂のガラス転移点あるいは融点よりも低く、しかも、前記熱硬化性樹脂からなる前記第2の絶縁体層の弾性率は前記熱可塑性樹脂からなる前記第1の絶縁体層の弾性率よりも小さい構成になっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、熱可塑性樹脂からなる層間絶縁体層を有し、高周波信号の伝送特性に優れ、その多層化が容易になるフレキシブル配線板を提供することができる。そして、高性能のフレキシブル配線板の低コスト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるフレキシブル配線板の一例を示す一部拡大斜視図。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかるフレキシブル配線板の他例を示す一部拡大斜視図。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかるフレキシブル配線板を示し、(a)は図1のX方向に切断したところの断面図、(b)は図1のY方向に切断したところの断面図、(c)は図2のZ方向に切断したところの断面図。
【図4】本発明の第1の実施形態にかかるフレキシブル配線板の一例の製造方法を示す製造工程別断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかるフレキシブル配線板の一例の製造方法を示す製造工程別断面図。
【図6】本発明の第3の実施形態にかかるフレキシブル配線板の一例の製造方法を示す製造工程別断面図。
【図7】図6の工程に続く製造工程別断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好適な実施形態のいくつかについて図面を参照して説明する。ここで、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。
【0013】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかるフレキシブル配線板について図1ないし図4を参照して説明する。この実施形態では高周波信号が伝送される配線が形成されたフレキシブル配線板の2例について説明される。図1、図3(a)、(b)に示すように、その一例のフレキシブル配線板10では、熱硬化性樹脂からなるベースフィルム11の一主面に複数のストリップ線路である信号配線12およびグランド配線13が導体パターンにされ配設されている。ここで、信号配線12はLVDS(Low Voltage Differential Signaling)に対応できる2本ペアの伝送配線として示されている。なお、このフレキシブル配線板はフラットケーブルとして使用できる。
【0014】
そして、信号配線12、グランド配線13およびベースフィルム11に接合して積層・一体化する熱可塑性樹脂からなるカバーレイフィルム14が形成されている。ここで、ベースフィルム11上に積層するカバーレイフィルム14の一主面には、例えば半導体素子等を搭載し表面実装するための外部端子15が所定の導体パターンに配置されている。
【0015】
また、ベースフィルム11の下方には、第1グランド層16と裏側樹脂フィルム17がこの順に接合し一体化している。更に、図3(b)に示すように、信号配線12およびグランド配線13は、導通部材となる第1導体バンプ18を通してそれぞれの外部端子15に接続されている。また、グランド配線13は、導通部材となる第2導体バンプ19を通して第1グランド層16に電気接続している。上記グランド配線13および第1グランド層16は、電磁シールドとして作用し信号配線12間の電磁干渉、あるいは外部からの電磁波による信号の擾乱を低減する。
【0016】
図2、図3(c)に示すように、他例のフレキシブル配線板10aでは、上述したフレキシブル配線板10において、カバーレイフィルム14の一主面の所定の領域に第2グランド層20および表側樹脂フィルム21が接合し積層している。そして、グランド配線13は、それが配設される方向に沿って設けられた多数の第1導体バンプ18を通して第2グランド層20に接続するようになっている。また、そのグランド配線13が配設される方向に沿って設けられた多数の第2導体バンプ19を通して第1グランド層16にも接続するようになっている。このように表側樹脂フィルム21を積層することにより、フレキシブル配線板10aでは、フレキシブル配線板10の場合よりも高い電磁シールド性能が得られる。
【0017】
上記フレキシブル配線板10,10aにおいて、カバーレイフィルム14に使用される好適な熱可塑性樹脂としては、液晶ポリマー、熱可塑性ポリイミド系樹脂、あるいはこれ等のコンポジット系樹脂が挙げられる。特に、液晶ポリマーは、優れた高周波伝送特性及びフレキシブル性を奏すること等から好ましい。ここで、液晶ポリマーとしては、例えばキシダール(商品名.Dartco社製)、ベクトラ(商品名.Clanese社製)で代表される多軸配向の熱可塑性ポリマーである。また、他の絶縁性樹脂を添加・配合し変性したものであってもよい。そして、ベクスターFAタイプ(融点285℃)、ベクスターCT-Xタイプ(融点280℃〜335℃)、BIACフィルム(融点335℃)などが例示される。
【0018】
上記熱可塑性樹脂としては、更にポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂等を使用することができる。
【0019】
そして、上記フレキシブル配線板10,10aにおいて、ベースフィルム11に使用される熱硬化性樹脂は、その熱硬化温度が上述した熱可塑性樹脂のガラス転移点Tgあるいは融点Tmよりも低い温度になるという条件を満たす。ここで、熱硬化性樹脂の硬化温度は、その未硬化樹脂フィルムを重合あるいは架橋させて硬化させる温度である。熱可塑性樹脂はガラス転移点Tgを有する場合と明確なTgを示さない場合があるが、明確なTgを示さない場合に上記熱硬化温度は熱可塑性樹脂の融点Tmより低くなるようにする。
【0020】
なお、ガラス転移点は、通常、ガラス転移温度測定方法(JIS C 6493に準ずる)により、TMA法とDMA法の2方法で求められる。ここで、TMA法は、試験片を室温から10℃/分の割合で昇温させ、熱分析装置にて厚さ方向の熱膨張量を測定し、ガラス転移点の前後の曲線に接線を引き、この接線の交点からTgを求める。DMA法(引張り法)は、試験片を室温から2℃/分の割合で昇温させ、粘弾性測定装置にて試験片の動的粘弾性および損失正接を測定し、損失正接のピーク温度からTgを求める。本発明ではDMA法に従う。
【0021】
更に、上記ベースフィルム11に使用される熱硬化性樹脂は、そのフィルムの弾性率が上記熱可塑性樹脂のフィルムの弾性率よりも小さくなる条件を満たす。ここで、弾性率としては樹脂フィルムの引張弾性率あるいは曲げ弾性率が用いられる。本発明では、上記弾性率はJIS K 7127あるいはASTM D 882に準じて測定される。
【0022】
上記熱硬化性樹脂のフィルムの弾性率は、その熱硬化性樹脂にエラストマーを混合させることにより適宜に調整できる。そのようなエラストマー成分には、ポリエステル樹脂、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の誘電正接が小さい樹脂が好適である。そして、熱硬化性樹脂のフィルムの例えば引張弾性率は100MPa〜1GPaの範囲になるように設定される。通常の熱可塑性樹脂のフィルムの引張弾性率は2GPa〜10GPa程度になるが、熱硬化性樹脂のフィルムを上記引張弾性率に調整することにより、でき上がったフレキシブル配線板は必要充分な屈曲性および柔軟性を呈するようになる。
【0023】
上記熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂あるいはこれ等のコンポジット系樹脂等から上述の条件を満たす樹脂が選択される。ここで、上述した熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の組み合わせは種々に考えられるが、更に、熱硬化性樹脂のフィルム状態における比誘電率あるいは誘電正接が上記熱可塑性樹脂のフィルム状態の比誘電率以下になるような条件にすると好適である。このようにすると、フレキシブル配線板10,10aにおける高周波信号の極めて優れた伝送特性が確保される。また、熱硬化性樹脂のフィルム状態における熱膨張係数が上記熱可塑性樹脂の熱膨張係数に近くなるような条件にすると好適である。このようにしてそれ等の積層体のフレキシブル配線板の反り等の表面歪みが抑制される。
【0024】
上記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の組み合わせでは、例えば熱可塑性樹脂として液晶ポリマーを用いる場合、熱硬化性樹脂にはオリゴフェニレンエーテルとスチレンブタジエン系のエラストマーからなる樹脂が好適である。この組み合わせでは、上述した条件が全て満足される。例えば、その未硬化状態のフィルムとしてADFLEMA OPE系(商品名.ナミックス社製)が例示される。
【0025】
上記の組み合わせでは、ベースフィルム11とカバーレイフィルム14の比誘電率は3以下になり、それ等の静電正接は0.003以下になる。そして、フレキシブル配線板10,10aにおける信号配線12は、数GHz〜数十GHz帯の高速デジタル信号の極めて優れた伝達・伝導特性を示す。また、フレキシブル配線板の適度な屈曲性および柔軟性が得られる。
【0026】
上記第1導体バンプ18および第2導体バンプ19は、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、ハンダ等の金属材料からなる。また、信号配線、グランド配線、グランド層等の導体パターンは通常のCuからなる。
【0027】
そして、外部端子15は、その金属材面(例えばCu材面)にAu、Ag、ニッケル(Ni)の単層、あるいはNi/Au、Ni/Ag等の複合層のメッキが施される。
【0028】
なお、裏側樹脂フィルム17および表側樹脂フィルム21には種々の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を使用できる。また、例えばポリイミドフィルム「カプトン」(商品名.東レ・デュポン社製)のような樹脂でも適用することができる。
【0029】
次に、フレキシブル配線板10の製造方法の一例について説明する。ここで、図4は、図1のY方向に切断したところの製造工程別断面図となっている。図4(a)に示すように、例えば厚さが15μm〜50μm程度の液晶ポリマーからなるカバーレイフィルム14の表裏面にそれぞれ第1金属箔22および第2金属箔23が張着された両面銅張積層板24を用意する。ここで、第1金属箔22および第2金属箔23の厚さは10μm〜20μm程度である。また、第1金属箔22および第2金属箔23の所定位置にこれ等の金属箔に電気接続する第1導体バンプ18が形成されている。この第1導体バンプ18は、公知のバンプ付き金属箔と樹脂フィルムを重ねて熱プレスし樹脂フィルムにバンプを埋め込む方法により形成される。
【0030】
次に、図4(b)に示すように、公知のエッチングにより第1金属箔22をストリップ線路として導体パターン化し信号配線12およびグランド配線13を形成する。そして、グランド配線13上に例えばスクリーン印刷により例えば円錐型の導体バンプ19のバンプ付けをする。
【0031】
次に、図4(c)に示すように、例えば厚さが35μm〜100μm程度で未硬化の熱硬化性樹脂フィルム25と、第1グランド層16および例えば15μm〜25μm厚の裏側樹脂フィルム17からなる片面銅張積層板26とを上方から重ね合わせる、その後、熱プレスして図4(d)に示すように、第1グランド層16に接続する第2導体バンプ19が埋め込まれたベースフィルム11を形成する。ここで、上記円錐型であった導体バンプ19の頭部は圧潰し塑性変形する。この熱プレスにより、ベースフィルム11は信号配線12、グランド配線13およびカバーレイフィルム14に熱圧着し、これ等に接合一体化する。
【0032】
上記熱プレスでは、雰囲気ガスは例えば減圧状態でありその時の加熱温度は、未硬化の熱硬化性樹脂フィルム25が熱硬化する温度であり、熱可塑性樹脂からなるカバーレイフィルム14のガラス転移点あるいは融点より低い温度になる。例えば180℃〜230℃程度の温度に設定される。また、加圧は例えば10〜40kgf/cm程度であり、小さい力で熱プレスが可能となるため撓みが小さいフレキシブル配線板10となる。
【0033】
そして、図4(d)の表裏面を引っくり返した状態である図4(e)において、第2金属箔23を導体パターン化し外部端子15とする。更に、外部端子15の表面にメッキ層(図示せず)を形成する。このようにして図3(b)に示した断面構造のフレキシブル配線板10を得る。
【0034】
上記フレキシブル配線板10の製造では、大きな定尺のものが上述したように積層・一体化され、所定の形状に切断されてフレキシブル配線板10が複数個取りにされる。上述した外部端子15表面のメッキ層形成は、上記切断前の大きな定尺状態において、導体パターン化した信号配線12およびグランド配線13を給電層にして行うと好適である。
【0035】
上記フレキシブル配線板10の製造方法において、片面銅張積層板26は樹脂フィルムの表面に金属箔を張着したものであってもよいし、電解メッキしたものであってもよい。
【0036】
なお、フレキシブル配線板10aの製造方法は、フレキシブル配線板10のそれと略同じである。この場合、第2金属箔23の導体パターン化において、外部端子15と共に第2グランド層20が形成される。そして、この第2グランド層20を被覆する例えば15μm〜25μm厚の表側樹脂フィルム21が熱可塑性樹脂シートあるいは熱硬化性樹脂シートの例えば熱ロールラミネート法により貼着される。
【0037】
本実施形態のフレキシブル配線板10,10aでは、第1の絶縁体層である熱可塑性樹脂からなるカバーレイフィルム14は、第2の絶縁体層である熱硬化性樹脂からなるベースフィルム11に接合一体化する。この接合において、ベースフィルム11は、カバーレイフィルム14のガラス転移点あるいは融点よりも低い硬化温度によりカバーレイフィルム14等に熱圧着される。このために、本実施形態のフレキシブル配線板における多層化では、熱可塑性樹脂からなるカバーレイフィルム14の例えば熱プレスによる軟化あるいは熱流動は抑制される。そして、カバーレイフィルム14の主面に形成された導体パターンである信号配線12およびグランド配線13、導通部材である第1導体バンプ18および第2導体バンプ19の位置ズレは防止される。このようにして、熱可塑性樹脂からなる層間絶縁体層を有するフレキシブル配線板の多層化が容易になる。
【0038】
また、ベースフィルム11と、上記導体パターンおよび導通部材を有するカバーレイフィルム14との接合においては、接着剤により特に誘電正接を大きくさせる接着層を設けなくてもよい。そして、上述したように熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の組み合わせにより、ベースフィルム11とカバーレイフィルム14の比誘電率、およびそれ等の誘電正接を小さくすることが容易になる。このため、上記フレキシブル配線板は、高周波信号の高速化、低い誘電損失化が容易であり、その優れた伝送特性を有した高性能なものにできる。
【0039】
また、本実施形態のフレキシブル配線板10,10aは、その積層・一体化において接着剤を不要とすることからフレキシブル配線板の製法を簡素化する。このようにして、高性能のフレキシブル配線板にあっても、その生産性向上が容易になり、その製造コストが低減しフレキシブル配線板の低コスト化が可能になる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態にかかるフレキシブル配線板について、その一例の製造方法を示す図5を参照して説明する。この実施形態は2層の回路配線が配設されるフレキシブル配線板の場合である。
【0041】
例えば厚さが25μm〜50μm程度の液晶ポリマーのような熱可塑性樹脂フィルムの一主面に張着された金属箔を有する片面銅張積層板を用意する。そして、図5(a)に示すように、その金属箔の選択的エッチングにより導体パターン化して、熱可塑性樹脂フィルムからなる第1の絶縁体層31の一主面に第1配線パターン32を形成する。
【0042】
次に、図5(b)に示すように、所定の第1配線パターン32上に第1の実施形態の場合と同様に導体バンプ33を設ける。そして、図5(c)に示すように、未硬化の熱硬化性樹脂フィルム34と金属箔35とを上方から重ねる。その後に熱プレスして、図5(d)に示すように、その頭部が圧潰し塑性変形して金属箔35に接続する導体バンプ33の埋め込まれた第2の絶縁体層36を形成する。この第2の絶縁体層36は、未硬化の熱硬化性樹脂フィルム34が熱硬化した樹脂フィルムからなり、第1の絶縁体層31および第1配線パターン32に熱圧着し接合している。上記熱プレスでは、第1の実施形態で説明したのと同様に、その加熱温度は未硬化の熱硬化性樹脂フィルム34が熱硬化し、第1の絶縁体層31のガラス転移点あるいは融点より低い温度に設定される。
【0043】
次に、図5(e)に示すように、金属箔35を導体パターン化して第2配線パターン37にする。そして、図5(f)に示すように、第2配線パターン37の所定の領域を露出するソルダーレジスト層38を形成する。
【0044】
このようにして、熱可塑性樹脂フィルムからなる第1の絶縁体層31、第1配線パターン32、熱硬化性樹脂フィルムからなる第2の絶縁体層36、および第2配線パターン37の接合一体化したプリント回路のフレキシブル配線板が作製される。
【0045】
ここで、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、それぞれ第1の実施形態で説明したものから選択される。この場合でも、特に熱可塑性樹脂の液晶ポリマーと熱硬化性樹脂のオリゴフェニレンエーテルとスチレンブタジエン系のエラストマーからなる樹脂との組み合わせが好適になる。
【0046】
第2の実施形態では、第1の実施形態で説明したのと同様な作用効果が奏される。そして、例えばコンピューターのCPUクロックのようにGHz帯に達する高周波数化に対応した配線回路を有するフレキシブル配線板が容易に提供できるようになる。
【0047】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態にかかるフレキシブル配線板について、その一例の製造方法を示す図6および図7を参照して説明する。この実施形態は3層以上の回路配線が配設されたフレキシブル配線板の場合である。
【0048】
例えば第1の実施形態で説明したような両面銅張積層板の両面の金属箔を導体パターン化し、図6(a)に示すような両面配線板41を用意する。この両面配線板41では、例えば液晶ポリマーからなる熱可塑性樹脂フィルム42の両面に配線パターン43が形成されている。そして、所定の表面の配線パターン43と所定の裏面の配線パターン43は互いに第1導体バンプ44で接続している。上記熱可塑性樹脂フィルム42が第1の絶縁体層になる。
【0049】
次に、図6(b)に示すように、第1の実施形態で説明したのと同様にして表面の配線パターン43上に例えばスクリーン印刷により例えば円錐型の第2導体バンプ45のバンプ付けをする。そして、図6(c)に示すように、熱プレスによりにより、未硬化状態にある熱硬化性樹脂フィルム46と樹脂等からなるシート状支持部材47とを上方から重ね、第2導体バンプ45を有する両面配線板41に積層・一体化する。ここで、熱プレスにおける温度は、未硬化状態にある熱硬化性樹脂フィルム46が硬化する所定の温度であり、熱可塑性樹脂フィルム42のガラス転移点あるいは融点より低い温度である。また、このときの加圧は例えば10〜40kgf/cm程度の範囲で設定され、小さい力で熱プレスが可能となるため撓みが小さいフレキシブル配線板10となる。
【0050】
そして、図6(d)に示すように、上記シート状支持部材47を剥離して積層配線板48を作製する。この積層配線板48では、上述したように熱可塑性樹脂フィルム42と熱硬化性樹脂フィルム46が互いに熱圧着し、これ等をそれぞれ層間絶縁体層とする配線パターン43が形成されている。また、上記2層の配線パターン43間は適宜に第1導体バンプ44で接続し、所定の配線パターン43には第2導体バンプ45が設けられている。上記熱可塑性樹脂フィルム42に熱圧着した熱硬化性樹脂フィルム46が第2の絶縁体層になる。
【0051】
このような熱可塑性樹脂フィルム42となる熱可塑性樹脂、および熱硬化性樹脂フィルム46となる熱硬化性樹脂は、それぞれ第1の実施形態で説明したものから適宜に選択される。この第3の実施形態であっても、特に熱可塑性樹脂の液晶ポリマーと熱硬化性樹脂のオリゴフェニレンエーテルとスチレンブタジエン系のエラストマーからなる樹脂との組み合わせが好適になる。
【0052】
そして、上述したような両面配線板41と積層配線板48を用いたビルドアップ法により、所要数の配線層を有するフレキシブル配線板を製造する。例えば図7(a)に示すように、1枚の両面配線板41と所要数枚の積層配線板48とをセットアップする。このセットアップ作業では、これ等の配線板を所定の位置に位置決めして重ね合わせる。ここで、両面配線板41あるいは積層配線板48の配線パターン43が第2導体バンプ45に接続するように位置合わせする必要がある。なお、両面配線板41の配線パターン43は、図6(a)で説明した場合と異なる所要パターンになるように適宜に形成されていてもよい。同様に、複数の積層配線板48では、それぞれの配線パターン43が所要パターンになるように適宜に形成されている。
【0053】
そして、所定の温度および圧力の熱プレスにより上記セットアップした両面配線板41と積層配線板48に多層化積層プレスを施す。このようにして、図7(b)に示すような多層化したプリント回路のフレキシブル配線板が得られる。ここで、熱プレスの温度は、熱可塑性樹脂フィルム42が軟化し熱硬化性樹脂フィルム46に熱圧着する温度である。また、このときの加圧は例えば10〜70kgf/cm程度の範囲で設定され、小さい力で熱プレスが可能となるため撓みが小さいフレキシブル配線板10となる。なお、この熱プレスでは、熱硬化性樹脂フィルム46は重合あるいは架橋により硬化しており、その加熱による塑性変形は生じない。
【0054】
上記多層になるプリント回路のフレキシブル配線板の製造では、その他に種々の方法がある。例えば、図6(c)に示した熱硬化性樹脂フィルム46の熱ロールラミネート法に換えて、未硬化状態の熱硬化性樹脂フィルム46の一主面に張着された金属箔を有する片面銅張積層板を用意する。そして、この熱硬化性樹脂フィルム46を下方にして熱プレスを施し、図6(b)状態にある両面配線板41に積層・一体化する。この場合の熱プレスは第1の実施形態で説明したのと同様な条件で行われる。そして、上記金属箔を導体パターン化し1層をビルドアップした3層の配線パターンを有するフレキシブル配線板が得られる。
【0055】
更に、未硬化状態の熱硬化性樹脂フィルム46と、所定の領域に導体バンプが設けられた金属箔とを上記1層をビルドアップした両面配線板41の下方から熱プレスし積層・一体化する。そして、上記導体バンプが設けられた金属箔を導体パターン化する。このようにして4層の配線パターンを有するプリント回路のフレキシブル配線板が作製される。
【0056】
第3の実施形態では、第1の実施形態で説明したのと同様な作用効果が奏される。また、3層以上のフレキシブル配線板の多層化においても、配線パターンおよび導体バンプの位置ズレが容易に抑制される。そして、複数の樹脂フィルムの積層における位置合わせ精度を向上させることが可能になり、配線パターン等の微細化が容易になる。このようにして、高密度配線化および短小軽薄化した高性能のフレキシブル配線板は、その製法が簡素化され、その製造における高度な技術管理および高性能の製造設備は必要でなくなる。そして、高性能のフレキシブル配線板の低コスト化が可能になる。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0058】
上記実施形態で説明した導体バンプの換わりとして、レイアップによる多層化で用いられる配線層間のメッキ形成によるビアが使用されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10,10a…フレキシブル配線板,11…ベースフィルム,12…信号配線,13…グランド配線,14…カバーレイフィルム,15…外部端子,16…第1グランド層,17…裏側樹脂フィルム,18,44…第1導体バンプ,19,45…第2導体バンプ,20…第2グランド層,21…表側樹脂フィルム,22…第1金属箔,23…第2金属箔,24…両面銅張積層板,25,34…未硬化の熱硬化性樹脂フィルム,26…片面銅張積層板,31…第1の絶縁体層,32…第1配線パターン,33…導体バンプ,35…金属箔,36…第2の絶縁体層,37…第2配線パターン,38…ソルダーレジスト層,41…両面配線板,42…熱可塑性樹脂フィルム,43…配線パターン,46…熱硬化性樹脂フィルム,47…シート状支持部材,48…積層配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの主面に導体パターンが形成され互いに接合一体化した、熱可塑性樹脂からなる第1の絶縁体層および熱硬化性樹脂からなる第2の絶縁体層を有するフレキシブル配線板であって、
前記熱硬化性樹脂の硬化温度は前記熱可塑性樹脂のガラス転移点あるいは融点よりも低く、しかも、前記熱硬化性樹脂からなる前記第2の絶縁体層の弾性率は前記熱可塑性樹脂からなる前記第1の絶縁体層の弾性率よりも小さいことを特徴とするフレキシブル配線板。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は液晶ポリマーであり、前記熱硬化性樹脂はオリゴフェニレンエーテルとスチレンブタジエン系のエラストマーとが混合した樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル配線板。
【請求項3】
前記第1の絶縁体層と前記第2の絶縁体層とが交互に積層し多層化していることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブル配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−119446(P2012−119446A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266989(P2010−266989)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000177690)山一電機株式会社 (233)
【Fターム(参考)】