説明

フレーバリング成分としてのケト−エステル類

本発明は、例えば、緑茶、発酵茶、穀類、野菜及び/又はグリーン脂肪型の味のノートを付与又は強化するための、特定の濃度範囲における、1−メチル−2−オキソプロピルヘキサノエートのフレーバリング成分としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、フレーバーの分野に関し、特に以下に更に規定された特定のα−エステル−ケトン類のフレーバリング成分としての使用に関する。
【0002】
本発明はフレーバー産業における上記化合物の使用並びに上記化合物を含有する組成物又は物品に関する。
【0003】
従来技術
1−メチル−2−オキソプロピルヘキサノエートが先行技術に報告されている(H. Shiota in J.Agric.Food.Chem, 1991, 39, 1631参照のこと)。この化合物は成熟したポーポー果実の揮発性成分であると記載されている。この文献はまた1.1〜1.2%w/wの該化合物を含有する、天然油、更に成熟ポーポーの天然油を報告している。更に、この文献は40ppm(味評価に適した濃度であると示されている)において淡水中に組み込まれた時の化合物の味を記載している。しかしながら、先行技術は、低濃度で使用された時の本発明の化合物の特定の感覚刺激的な特性を教示又は示唆さえもしていない。
【0004】
発明の説明
本発明者らはここで驚くことに、式
【化1】

の1−メチル−2−オキソプロピルヘキサノエートが、例えば、緑茶、発酵茶、穀類、野菜及び/又はグリーン脂肪(green-fatty)型の味のノートを付与又は強化するために、特定の濃度範囲において、フレーバリング成分として使用できることを発見した。
【0005】
換言すれば、本発明はフレーバリングされた物品のフレーバー特性を付与、強化、改良又は改質する方法であって、上記物品の質量を基準として0.10から20ppmまでの式(I)の化合物を上記物品に添加することを含む方法に関する。本発明の特定の実施態様によれば、本方法は上記物品の緑茶、発酵茶、穀類、野菜及び/又はグリーン脂肪型のノートを付与、強化、改良又は改質することに特に適している。
【0006】
更に、更なる実施態様によれば、本発明の化合物は、上記物品の質量を基準として、0.5から10ppmまでを占める量で添加してよい。
【0007】
実際に、本発明者らは、先行技術の教示に反して、本発明の化合物が、上記の用量で使用された時に、上述のような味のフレーバーノートを付与できることを見出した。従って、それらの化合物が物品に添加され、該物品に付与された全体的な感覚刺激的な効果は、40ppmで使用された時の先行技術に記載された効果とは異なる。実際、フルーツ−エステル(トップノート)特性がないか又はほとんど目立たない。
【0008】
本発明の化合物は、純粋な立体異性体の形態で、又は上記立体異性体の任意の混合物の形態で使用してよい。
【0009】
更に、式(I)の化合物は、有利にはフレーバリングされる物品中に組み込まれて、上記物品の味を積極的に付与、又は改質することができ、従って、
i)フレーバリング成分として、上記物品の全質量を基準として0.1から20ppmまでの、上記で定義された少なくとも1種の式(I)の化合物;及び
ii)フレーバリングされたティーバック、茶抽出物ベース飲料、コーヒー抽出物ベース飲料、アルコール飲料、糖菓及びセイボリーからなる群から選択される食材ベース;
を含むフレーバリングされた物品もまた本発明の対象である。
【0010】
明確にするために、「食材ベース」とは、本明細書中では、他のフレーバーを任意に含む製造された消費者製品を意味することは言及されなければならない。従って、本発明によるフレーバリングされた物品は、機能的な配合物、並びに任意に追加された有益物質を含み、これは所望の食用製品、例えば、紅茶、コーヒー又はスナックに相当し、そして適当な量の少なくとも1種の本発明の化合物を含む。
【0011】
食材又は飲料の成分の性質及び種類については、ここで更なる詳細な説明を確約できず、いずれの場合にも網羅されないであろう。当業者であれば、一般的な知見を基にして且つ上記製品の性質に応じてそれらを選択することが可能である。
【0012】
本発明の特定の実施態様によれば、好適な食材ベースとして、紅茶又はコーヒーベース飲料、穀類ベースアルコール飲料、チューイングガム、野菜スープ及びスナックが挙げられる。
【0013】
更に、更なる実施態様によれば、式(I)の化合物は、上記物品の全質量を基準として、0.5から15ppmまでの範囲の量でフレーバリングされた物品中に存在してよい。
【0014】
本発明の別の対象は、配合されたフレーバリング組成物であって:
i)フレーバリング成分として、式(I)の化合物;
ii)フレーバー担体;及び
iii)任意にフレーバー担体及び/又は少なくとも1種のフレーバーアジュバント
を含む配合されたフレーバリング組成物である。
【0015】
「配合されたフレーバリング組成物」とは、本明細書中では、精油又は天然抽出物とは反対に、種々の成分を混合することによって得られた組成物を意味する。
【0016】
「フレーバー担体」とは、本明細書中では、フレーバーの観点から実質的に中性の材料、即ちフレーバリング成分の感覚刺激的な特性を有意に変えない材料を意味する。上記担体は、液体又は固体であってよい。
【0017】
液体担体としては、乳化システム、即ち、溶媒及び界面活性剤のシステム、又は通常フレーバーに使用される溶媒が非限定の例として挙げられる。通常フレーバーに使用される溶媒の性質及び種類の詳細な説明は網羅できない。通常フレーバーに使用される溶媒の非限定の例として、プロピレングリコール、トリアセチン、トリエチルシトレート、ベンジル型アルコール、エタノール、植物油、又はテルペンなどの化合物が挙げられる。
【0018】
固体担体としては、吸着ガム又はポリマー、又は更に封入材料が、非限定の例として挙げられる。かかる材料の例は、壁形成材料及び可塑化材料、例えば、モノ、ジ−又はトリサッカリド、天然又は改質スターチ、親水コロイド、セルロース誘導体、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、プロテイン又はペクチン、又は更に参考テキスト、例えばH. Scherz, Hydrokolloids: Stabilisatoren, Dickungs- und Gehermittel in Lebensmittel, Band 2 der Schriftenreihe Lebensmittelchemie, Lebensmittelqualitaet, Behr's VerlagGmbH & Co., Hamburg, 1996に引用された材料を含み得る。カプセル化は当業者に公知の方法であり、例えば、噴霧乾燥、アグロメレーション又は更に押出し成形などの技術を使用して行われ得るか;あるいはコアセルベーション及び複合コアセルベーション技術を含む、コーティングカプセル化からなる。
【0019】
一般に、「フレーバーベース」とは、本明細書中では、少なくとも1種のフレーバリング共成分を含む組成物を意味する。
【0020】
上記フレーバリング共成分は式(I)のものではない。更に、「フレーバリング共成分」とは、本明細書中では、快楽効果を与えるためにフレーバリング調製物又は組成物中で使用される化合物を意味する。換言すれば、このような共成分は、フレーバリング共成分であると考えられるが、当業者によって、単に味を有するだけでなく、プラスに又は快適に組成物の味を付与又は改質できるものであると解されなければならない。
【0021】
ベース中に存在するフレーバリング共成分の特性と種類については、ここで更なる詳細な説明を確約できず、いずれの場合にも網羅され得ないであろうが、当業者は一般的な知見を基にして且つ意図される使用又は用途及び所望の感覚刺激的な効果に応じてそれらを選択することが可能である。一般的には、これらのフレーバリング共成分は、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセテート、ニトリル、テルペン炭化水素、窒素複素環化合物又は硫黄複素環化合物及び精油のような種々の化学的種類に属し、上記フレーバリング共成分は天然又は合成由来であってよい。これらの共成分の多くは、いずれの場合も、例えば、S. Arctander, Perfume and Flavor Chemicals, 1969, Montclair, New Jersey, USA又はその最新版のような参考教本中に、又は類似のその他の論文中に、並びにフレーバー分野の多数の特許文献中に列挙されている。上記共成分はまた、様々な種類のフレーバリング化合物を制御された方式で放出することで知られた化合物であってもよいことが理解されている。
【0022】
一般に、「フレーバーアジュバント」とは、本明細書中では追加の付加的な利益、例えば、色、特に耐光性、化学安定性等を付与することが可能な成分を意味する。フレーバリングベースに通常使用されるアジュバントの特性と種類の詳細な説明は網羅できないが、上記成分が当業者に公知であることは言及されなければならない。
【0023】
少なくとも1種の式(I)の化合物を含む本発明の組成物、フレーバーベース及びフレーバー担体は本発明の有利な実施態様である。
【0024】
実施例
本発明は、ここで次の実施例により更に詳細に記載される。その際、略符号は当業界での通常の意味を有する。温度は摂氏度(℃)で示され;NMRスペクトルデータは(別記しない限り)CDCl中でH及び13Cについて360又は400MHzの機械で記録され、化学シフトδは標準としてのTMSに対してppmで示され、結合定数JはHzで表わされる。
【0025】
実施例1
1−メチル−2−オキソプロピルヘキサノエートの合成
ヘキサン酸ナトリウム:HO(80ml)に溶けたNaOH(20g、0.5mol)を氷/水浴で冷却されたフラスコ中に導入した。ヘキサン酸(58.0g、0.5mol)を滴下した。室温に温め(pH8)、混合物をエーテルで洗って遊離酸を除去した。粘着性の塩を乾燥及び減少させて乳鉢で微細粉末にした。
【0026】
従って得られたナトリウム塩(13.8g、0.1mol)、ヘキサン酸(23.2g、0.2mol)及び3−クロロ−2−ブタノン(10.65g、0.1mol)を130℃で7時間にわたり加熱した。反応混合物を室温に冷却した。エーテルを添加し、この混合物を氷浴で冷却した。飽和NaCO水溶液を添加し、この混合物を15分間撹拌した。2相に分離し、水相をエーテルで抽出した。組み合わされた有機相を水で洗い、MgSOで乾燥させて濃縮した。残留物(7.16g)を12mmHgにおいて67〜72℃でビグリュー(Vigreux)カラムを用いて蒸留するとエステル(9.59g、純度90%)が得られた。
【0027】
H−NMR:0.91(t,J=6.5,3H);1.33(m,4H);1.40(d,J=6.5,3H);1.66(m,2H);2.17(s,3H);2.39(m,2H),5.08(q,1H).
13C−NMR:205.8(s);173.2(s);74.7(d);34.0(t);31.3(t);25.7(q);24.5(t);22.3(t);16.0(q);13.9(q).
【0028】
実施例2
2種のフレーバリング組成物、オニオンスープ用の(A)と(B)は、次の成分を混合することによって製造された:
【表1】

【0029】
標準的なフレーバリングされていない缶詰オニオンスープのある部分に、スープの質量を基準として、100ppmのフレーバリング組成物(A)を添加した。
【0030】
上記のフレーバリングされていない缶詰オニオンスープの他の部分に、スープの質量を基準として、100ppmのフレーバリング組成物(B)を添加した。
【0031】
従って、一方は化合物(I)を含有し、他方はそれを含有しない、2種のフレーバリングされた缶詰オニオンスープが得られた。
【0032】
組成物(A)を含有するスープは、強烈な硫黄の、ローストされたオニオンの及びカラメルの特性を有していた。
【0033】
比較すると、組成物(B)を含有するスープはより自然なオニオン特性を備えたフレーバーを有し、新鮮なグリーンノートと有意に強化された野菜特性を備え、その際、ベース組成物(A)の強烈な硫黄特性が有意に減少した。
【0034】
果物風味(ポーポー又はリンゴ風味)ノートは組成物(B)を含有するスープ中で感知されなかった。
【0035】
実施例3
2種のフレーバリング組成物、コーヒーベース飲料用の(A)と(B)は、次の成分を混合することによって製造された:
【表2】

【0036】
標準的なフレーバリングされていないコーヒーベース飲料のある部分に、飲料の質量を基準として、50ppmのフレーバリング組成物(A)を添加した。
【0037】
上記のフレーバリングされていないコーヒーベース飲料の他の部分に、飲料の質量を基準として、50ppmのフレーバリング組成物(B)を添加した。
【0038】
従って、一方は化合物(I)を含有し、他方はそれを含有しない、2種のフレーバリングされたコーヒーベース飲料が得られた。
【0039】
組成物(A)を含有する飲料は、ローストされた強くて濃いノートを備えた伝統的なコーヒーフレーバーを有していた。
【0040】
組成物(B)を含有する飲料は、「新たに煎じられた」ノート、並びに軽いグリーンノート、豆ノート及びなめらかな味わい効果を備えたコーヒーフレーバーを有していた。
【0041】
果物風味(ポーポー又はリンゴ風味)ノートは組成物(B)を含有する飲料中で感知されなかった。
【0042】
実施例4
2種のフレーバリング組成物、シリアルバー用の(A)と(B)は、次の成分を混合することによって製造された:
【表3】

【0043】
標準的なフレーバリングされていないシリアルバーのある部分に、このバーの質量を基準として、200ppmのフレーバリング組成物(A)を添加した。
【0044】
上記のフレーバリングされていないシリアルバーの他の部分に、このバーの質量を基準として、200ppmのフレーバリング組成物(B)を添加した。
【0045】
従って、一方は化合物(I)を含有し、他方はそれを含有しない、2種のフレーバリングされたシリアルバーが得られた。
【0046】
組成物(A)を含有するバーは、麦芽のような、甘い、キャラメルの、発酵された特性を有していた。比較すると、組成物(B)を含有するバーは強化された甘いシリアル特性を備えたフレーバーを有し、フレーバー全体がより自然であった。
【0047】
果物風味(ポーポー又はリンゴ風味)ノートは組成物(B)を含有するバーの中で感知されなかった。
【0048】
実施例5
2種のフレーバリング組成物、緑茶のティーバック用の(A)と(B)は、次の成分を混合することによって製造された:
【表4】

【0049】
標準的なフレーバリングされていない緑茶のティーバックのある部分に、このバックの質量を基準として、50ppmのフレーバリング組成物(A)を添加した。
【0050】
上記のフレーバリングされていない緑茶のティーバックの他の部分に、このバックの質量を基準として、50ppmのフレーバリング組成物(B)を添加した。
【0051】
従って、一方は化合物(I)を含有し、他方はそれを含有しない、2種のフレーバリングされた緑茶のティーバックが得られた。
【0052】
組成物(A)を含有するティーバックは、緑茶の、葉の、花の、甘い、わずかに油状の特性を有していた。
【0053】
比較すると、組成物(B)を含有するティーバックは、新たに煎じられた緑茶の本物のグリーンの、わずかに発酵した特性並びに新たに煎じられた緑茶の脂肪質のトップノートを有していた。
【0054】
果物風味(ポーポー又はリンゴ風味)ノートは組成物(B)を含有する茶の中で感知されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーバリングされる物品のフレーバー特性を付与、強化、改良又は改質する方法であって、前記物品の質量を基準として、0.10から20ppmまでの式
【化1】

の化合物を、純粋な立体異性体の形で又は前記立体異性体の任意の混合物の形で前記物品に添加することを含む、フレーバリングされる物品のフレーバー特性を付与、強化、改良又は改質する方法。
【請求項2】
前記化合物(I)を、緑茶、発酵茶、穀類、野菜及び/又はグリーン脂肪型の味のノートを付与又は強化するためのフレーバリング成分として添加することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物(I)を、前記物品の質量を基準として、0.5から10ppmまでを占める量で添加することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
フレーバリングされた物品であって:
i)フレーバリング成分として、前記物品の全質量を基準として、0.1から20ppmまでの、請求項1で規定された、少なくとも1種の式(I)の化合物;及び
ii)フレーバリングされたティーバック、茶抽出物ベース飲料、コーヒー抽出物ベース飲料、アルコール飲料、糖菓及びセイボリーからなる群から選択される食材ベース
を含む、フレーバリングされた物品。
【請求項5】
式(I)の化合物が、前記物品の全質量を基準として、0.5から15ppmまでの範囲の量でフレーバリングされた物品中に存在することを特徴とする、請求項4記載のフレーバリングされた物品。
【請求項6】
前記食材ベースが紅茶又はコーヒーベース飲料、穀類ベースアルコール飲料、チューイングガム、スープ又はスナックであることを特徴とする、請求項4記載のフレーバリングされた物品。
【請求項7】
配合されたフレーバリング組成物であって:
i)フレーバリング成分として、請求項1で規定された、式(I)の化合物;
ii)フレーバーベース;及び
iii)任意にフレーバー担体及び/又は少なくとも1種のフレーバーアジュバント
を含む、配合されたフレーバリング組成物。

【公表番号】特表2009−545661(P2009−545661A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523380(P2009−523380)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052760
【国際公開番号】WO2008/015597
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】