説明

ブラシレスモータおよびこれを備える車両

【課題】ロータの回転が不安定になることが抑制される構成を備え、そのうえでコストの低減に貢献することのできるブラシレスモータおよびこれを備える車両を提供する。
【解決手段】モータは、第1U相コイル32Aおよび第2U相コイル32Bと、第1V相コイル32Cおよび第2V相コイル32Dを有する2相の第1コイル32と、第1U相コイル42Aおよび第2U相コイル42Bと、第1V相コイル42Cおよび第2V相コイル42Dとを有する2相の第2コイル42とを有している。そして、各U相コイル32A,32Bおよび各V相コイル32C,32Dの周方向Wの位置と、各U相コイル42A,42Bおよび各V相コイル42C,42Dの周方向Wの位置とが互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場を生成する第1ステータおよび第2ステータと、これら第1ステータおよび第2ステータの磁場に基づいて回転するロータとを備えるブラシレスモータおよびこれを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のブラシレスモータは、3相の第1コイルと3相の第2コイルとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−298578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ブラシレスモータは、2相の第1コイルおよび2相の第2コイルを有するブラシレスモータと比較して、ロータの回転が安定する。しかし、同ブラシレスモータよりもコストが高い。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ロータの回転が不安定になることが抑制される構成を備え、そのうえでコストの低減に貢献することのできるブラシレスモータおよびこれを備える車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための手段を以下に示す。
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、磁場を生成する第1ステータおよび第2ステータと、これら第1ステータおよび第2ステータの磁場に基づいて回転するロータとを備えるブラシレスモータにおいて、前記第1ステータにA相コイルおよびB相コイルを有する第1コイルが設けられていること、前記第2ステータにA相コイルおよびB相コイルを有する第2コイルが設けられていること、ならびに、前記第1コイルのA相コイルと前記第1コイルのB相コイルと前記第2コイルのA相コイルと前記第2コイルのB相コイルとの周方向の位置が互いに異なることを要旨とする。
【0007】
この発明によれば、第1ステータに3相のコイルを有する第1コイルが設けられ、かつ第2ステータに3相のコイルを有する第2コイルが設けられる構成と比較して、コストが低減される。また、4つの相コイルの周方向の位置が互いに異なるため、デッドポイントが形成されにくい。このため、4つの相コイルのうちの少なくとも2つの相コイルについて、その周方向の位置が互いに同じものに設定される構成と比較して、ロータの回転が安定する。このように本発明によれば、ロータの回転が不安定になることが抑制される構成を備え、そのうえでコストの低減に貢献することのできるブラシレスモータを提供することができる。
【0008】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、前記ロータの回転方向において、前記第1コイルのA相コイル、前記第2コイルのA相コイル、前記第1コイルのB相コイル、および前記第2コイルのB相コイルの順に各相コイルが配置されていること、ならびに、前記第1コイルおよび前記第2コイルにより前記ロータを回転させるとき、前記第1コイルのA相コイル、前記第2コイルのA相コイル、前記第1コイルのB相コイル、および前記第2コイルのB相コイルの1つを起点として、前記ロータの回転方向において前記各相コイルの配置の順に通電することを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、第1コイルおよび第2コイルによりロータを回転させるとき、ロータの回転方向において順に磁場が形成される。このため、他の順序で各コイルに通電する構成と比較して、ロータの回転が安定する。
【0010】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項1または2に記載のブラシレスモータにおいて、前記ロータに対して個別にトルクを発生させる第1駆動系統および第2駆動系統を有すること、前記第1駆動系統は、前記第1コイルと、前記第1コイルに電流を供給する第1駆動回路とを有すること、前記第2駆動系統は、前記第2コイルと、前記第2コイルに電流を供給する第2駆動回路とを有すること、ならびに、前記第1駆動系統および前記第2駆動系統を駆動する第1駆動形態と、前記第1駆動系統および前記第2駆動系統のいずれか一方を駆動する第2駆動形態とを有することを要旨としている。
【0011】
この発明によれば、1つの駆動形態のみを有する構成と比較して、コイルの使用形態の選択の幅が広くなる。このため、電動モータに要求されるトルクに応じて適切な駆動形態が選択される頻度が高くなる。
【0012】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、請求項1〜3のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、停止している前記ロータを回転させるとき、前記第1コイルおよび前記第2コイルに通電することを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、第1コイルおよび第2コイルに通電することによりロータを回転させるため、第1コイルおよび第2コイルのいずれか一方に通電することによりロータを回転させる構成と比較して、ロータが回転し始めるときの速度が速やかに高くなる。
【0014】
(5)第5の手段は、請求項5に記載の発明すなわち、請求項1〜4のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、前記ロータが所定回転速度VL以下で回転する低速回転のとき、前記第1コイルおよび前記第2コイルに通電することを要旨とする。
【0015】
この発明によれば、ロータの回転が不安定になりやすい低速回転時に第1コイルおよび第2コイルに通電するため、低速回転時に第1コイルおよび第2コイルのいずれか一方に通電する構成と比較して、ロータの回転が不安定になりにくい。
【0016】
(6)第6の手段は、請求項6に記載の発明すなわち、請求項1〜5のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、前記ロータが所定回転速度VH以上で回転する高速回転のとき、前記第1コイルおよび前記第2コイルのいずれか一方に通電することを要旨とする。
【0017】
高速回転時に第1コイルおよび第2コイルのいずれか一方に通電するため、高速回転時に第1コイルおよび第2コイルに通電する構成と比較して、非通電のコイルの温度が上昇しにくい。また、ロータの回転が安定しやすい高速回転時において通電するコイルの数を少なくしているため、このことに起因してロータの回転が不安定になるおそれが小さい。このように本発明によれば、ロータを安定して回転させる状態を維持する効果と、一方のコイルの温度上昇を抑制する効果とが得られる。
【0018】
(7)第7の手段は、請求項7に記載の発明すなわち、請求項1〜6のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、前記第1コイルが前記第2コイルと比較して出力軸の先端部分の近くに設けられていること、ならびに、前記第1コイルおよび前記第2コイルのいずれか一方を用いて前記ロータを回転させる条件が成立しているとき、前記第1コイルを非通電かつ前記第2コイルを通電とすることを要旨とする。
【0019】
出力軸の先端部分に他の装置が接続される構成においては、出力軸の先端部分の近くに負荷容量が大きい軸受が設けられる。このため、第1コイルおよび第2コイルに通電されたとき、各コイルの磁力により生じる出力軸の先端部分の撓み量は、出力軸の先端部分から離れた部分の撓み量よりも小さくなる。上記発明では、撓み量が相対的に小さい部分に設けられる第1コイルに通電するため、各コイルのいずれか一方によりロータを回転させるときに第2コイルに通電する構成と比較してロータの回転が安定する。
【0020】
(8)第8の手段は、請求項8に記載の発明すなわち、駆動輪の動力源としてブラシレスモータを有する車両において、前記ブラシレスモータとして、請求項1〜7のいずれか一項に記載のブラシレスモータを有すること、ならびに、前記ブラシレスモータの出力軸の回転を減速する減速機を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ロータの回転が不安定になることが抑制される構成を備え、そのうえでコストの低減に貢献することのできるブラシレスモータおよびこれを備える車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態のブラシレスモータについて、同モータの断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態のブラシレスモータについて、ステータの説明のためのステータの模式的な構造を示す模式図。
【図3】同実施形態のブラシレスモータについて、図1のDA−DA線の断面構造を示す断面図。
【図4】同実施形態のブラシレスモータについて、駆動形態選択制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照して、同軸二輪車の駆動輪の動力源としてのブラシレスモータ(以下、「モータ1」)について説明する。
モータ1は、ハウジング10と、ハウジング10内に収容されたロータ20と、ハウジング10に取り付けられた第1ステータ30および第2ステータ40と、ハウジング10に対するロータ20の回転を可能な状態にロータ20を支持する第1軸受50および第2軸受60と、ロータ20の回転位置を検出するレゾルバ70とを有する。またこの他に、第1ステータ30の通電を制御する第1駆動回路80と、第2ステータ40の通電を制御する第2駆動回路90とを有する。
【0024】
モータ1の方向について以下のように定義する。
(A)モータ1の回転中心線(以下、「中心線C1」)に沿う方向を「軸方向Y」とする。また、軸方向Yに直交する方向を「径方向X」とする。また、モータ1の回転周方向を「周方向W」(図2参照)とする。
(B)軸方向Yにおいて、第1軸受50からレゾルバ70に向かう方向を「上方」とし、軸方向Yにおいて上方とは反対方向を「下方」とする。
(C)径方向Xにおいて、中心線C1に近づく方向を「内方」とし、中心線C1から離れる方向を「外方」とする。
(D)周方向Wにおいて、時計回り方向を「正転方向」とし、反時計回りを「逆転方向」とする。
(E)モータ1の任意の位置を基準として、軸方向Yにおいて相対的に上方にある位置を「上側」とし、軸方向Yにおいて相対的に下方にある位置を「下側」とする。
【0025】
ハウジング10には、ロータ20、第1ステータ30および第2ステータ40が収容されるモータ収容部分11と、ロータ20の回転を減速する減速機2が収容される減速機収容部分12とが形成されている。減速機収容部分12は、モータ収容部分11よりも下側に形成されている。
【0026】
ロータ20は、減速機2に接続される出力軸21と、出力軸21に固定されたロータコア22と、ロータコア22の外側面に固定された磁石23とを有する。磁石23は、図2の周方向Wに2極着磁されている。
【0027】
第1軸受50および第2軸受60は、ハウジング10に対する出力軸21の回転が可能な状態でハウジング10に取り付けられている。第1軸受50および第2軸受60には、転がり軸受が用いられている。第1軸受50は、第2軸受60よりも体格のサイズが大きい。すなわち、第1軸受50の負荷容量は、第2軸受60の負荷容量よりも大きい。
【0028】
また、第1軸受50は、第2軸受60よりも下側に設けられている。すなわち、第1軸受50は、出力軸21において減速機2と噛み合う先端部分の近くに設けられている。第2軸受60は、第1軸受50よりも出力軸21の先端部分の遠くに設けられている。
【0029】
レゾルバ70は、出力軸21に固定されたレゾルバロータ71と、ハウジング10に固定されたレゾルバステータ72とを有する。レゾルバ70は、レゾルバロータ71の回転によりレゾルバステータ72のコイルに励磁された電圧の変化に基づいてレゾルバロータ71の回転位置を検出する。検出された回転位置情報は信号として各駆動回路80,90に送信される。
【0030】
第1ステータ30および第2ステータ40は、軸方向Yに隣接した状態でハウジング10に固定されている。第1ステータ30は第2ステータ40よりも上側に設けられている。すなわち、第1ステータ30は出力軸21の先端部分の近くに設けられている。第2ステータ40は第1ステータ30よりも出力軸21の先端部分の遠くに設けられている。
【0031】
図2を参照して、各ステータ30,40の詳細な構成について説明する。
図2に示されるように、第1ステータ30は、磁気回路の一部を形成するステータコア31と、ステータコア31に巻きつけられた第1コイル32と、ステータコア31とコイル32とを電気的に絶縁するインシュレータ33とを有する。
【0032】
ステータコア31には、コアバック31Bと、コアバック31Bから内方に向けて延びる4本のティース31Aとが形成されている。コイル32は、各ティース31Aに導電線を集中巻きすることにより形成されている。
【0033】
第1コイル32は、第1U相コイル32Aおよび第2U相コイル32Bと第1V相コイル32Cおよび第2V相コイル32Dとにより構成されている。周方向Wにおいて、各U相コイル32A,32Bおよび各V相コイル32C,32Dが交互となるように配置されている。周方向Wに隣り合う各U相コイル32A,32Bおよび各V相コイル32C,32Dは、周方向Wにおいて互いに90°離れた位置に設けられている。なお、第1U相コイル32Aおよび第2U相コイル32Bは「第1コイルのA相コイル」に相当し、第1V相コイル32Cおよび第2V相コイル32Dは「第2コイルのB相コイル」に相当する。
【0034】
第2ステータ40は、磁気回路の一部を形成するステータコア41と、ステータコア41に巻きつけられた第2コイル42と、ステータコア41とコイル42とを電気的に絶縁するインシュレータ43とを有する。
【0035】
ステータコア41には、コアバック41Bと、コアバック41Bから内方に向けて延びる4本のティース41Aとが形成されている。コイル42は、各ティース41Aに導電線を集中巻きすることにより形成されている。
【0036】
第2コイル42は、第1U相コイル42Aおよび第2U相コイル42Bと第1V相コイル42Cおよび第2V相コイル42Dとにより構成されている。周方向Wにおいて、各U相コイル42A,42Bおよび各V相コイル42C,42Dが交互となるように配置されている。周方向Wに隣り合う各U相コイル42A,42Bおよび各V相コイル42C,42Dは、周方向Wにおいて互いに90°離れた位置に設けられている。なお、第1U相コイル42Aおよび第2U相コイル42Bは「第2コイルのA相コイル」に相当し、第1V相コイル42Cおよび第2V相コイル42Dは「第2コイルのB相コイル」に相当する。
【0037】
図3を参照して、各コイル32,42の周方向Wの詳細な位置関係について説明する。
第1U相コイル32Aを基準としたとき、各コイル32,42は次のように各ステータ30,40に設けられている。すなわち、正転方向において、第1U相コイル32A、第1U相コイル42A、第1V相コイル32C、第1V相コイル42C、第2U相コイル32B、第2U相コイル42B、第2V相コイル32D、および第2V相コイル42Dの順に各コイル32,42が各ステータ30,40に設けられている。また、周方向Wにおいて互いに隣り合う各相コイル32A〜32D,42A〜42Dのそれぞれは、周方向Wに互いに45°離れた位置に設けられている。
【0038】
図1を参照して、各駆動回路80,90の構成について説明する。
各駆動回路80,90は、複数のスイッチング素子、各スイッチング素子のオンおよびオフの切り替えを制御する制御部等を有する。各スイッチング素子は、各コイル32,42への通電および非通電を切り替えるものである。
【0039】
このように、各駆動回路80,90が設けられることにより、各駆動回路80,90のうちの一方が故障したとしても故障していない他方の駆動回路によりモータ1の回転を継続させることが可能となる。
【0040】
モータ1の駆動形態および同駆動形態における通電態様について説明する。なお、第1コイル32および第1駆動回路80を含んで構成されるモータ1の駆動系統を「第1駆動系統」とし、第2コイル42および第2駆動回路90を含んで構成されるモータ1の駆動系統を「第2駆動系統」とする。
【0041】
各駆動回路80,90は、ロータ20の回転速度(以下、「回転速度V」)に基づいて駆動形態を選択する。駆動形態としては、第1駆動系統および第2駆動系統を駆動する第1駆動形態と、第1駆動系統を駆動しかつ第2駆動系統を停止する第2駆動形態とが予め用意されている。
【0042】
図3を参照して、第1駆動形態の通電態様について説明する。
モータ1を正転方向に回転(以下、「正転」)させるとき、正転方向の各コイル32,42の配置順に通電される。ロータ20の磁極位置において、モータ1を正転させるときには、第1U相コイル32A、第1U相コイル42A、第1V相コイル32C、第1V相コイル42C、第2U相コイル32B、第2U相コイル42B、第2V相コイル32D、および第2V相コイル42Dの順に通電される。これにより、ロータ20が正転する。なお、ロータ20の磁極の位置によって最初に通電されるコイルが異なる。
【0043】
モータ1を逆転方向に回転(以下、「逆転」)させるとき、逆転方向の各コイル32,42の配置順に通電される。ロータ20の磁極位置において、モータ1を逆転させるときには、第2V相コイル42D、第2V相コイル32D、第2U相コイル42B、第2U相コイル32B、第1V相コイル42C、第1V相コイル32C、第1U相コイル42A、および第1U相コイル32Aの順に通電される。これにより、ロータ20が逆転する。なお、ロータ20の磁極の位置によって最初に通電されるコイルが異なる。
【0044】
図3を参照して、第2駆動形態の通電態様について説明する。
モータ1を正転させるとき、正転方向のコイル32の配置順に通電される。ロータ20の磁極位置において、モータ1を正転させるときには、第1U相コイル32A、第1V相コイル32C、第2U相コイル32B、および第2V相コイル32Dの順に通電される。これにより、ロータ20が正転する。なお、ロータ20の磁極の位置によって最初に通電されるコイルが異なる。
【0045】
モータ1を逆転させるとき、逆転方向のコイル32の配置順に通電される。ロータ20の磁極位置において、モータ1を逆転させるときには、第2V相コイル32D、第2U相コイル32B、第1V相コイル32C、および第1U相コイル32Aの順に通電される。これにより、ロータ20が逆転する。なお、ロータ20の磁極の位置によって最初に通電されるコイルが異なる。
【0046】
図1の各駆動回路80,90によるモータ1の駆動制御について説明する。
ロータ20が停止した状態から回転を開始するとき、またはロータ20の回転方向が切り替えられるとき、回転速度Vが「0」を含むため、ロータ20の回転位置としてデッドポイントが形成されやすい。このため、ロータ20の回転位置がデッドポイントにあるときには、ロータ20の回転が停止してしまうおそれがある。
【0047】
また、回転速度Vが低いとき、すなわちモータ1が低速回転のとき、ロータ20の慣性力が小さいため、回転速度Vが高いときよりも周方向Wに隣り合う一方のティースおよびコイルと磁石23との間の磁力と、他方のティースおよびコイルと磁石23との間の磁力とのばらつきの影響が大きくなる。このため、回転速度Vが低いときには、回転速度Vが高いときよりもロータ20の回転が安定しない。
【0048】
このため、モータ1が低速回転のときには、周方向Wにおいて隣り合うティースおよびコイルの間隔が狭くなる第1駆動形態とすることが望ましい。一方、回転速度Vが高いとき、すなわちモータ1が高速回転のときには、隣り合うティースおよびコイルの間隔が大きくなる第2駆動形態としてもロータ20を安定して回転させることができる。
【0049】
このような点に鑑み、各駆動回路80,90では、回転速度Vに応じて駆動形態を選択する駆動形態選択制御を行う。すなわち、回転速度Vが低いときに第1駆動形態を選択する。一方、回転速度Vが高いときに第2駆動形態を選択する。
【0050】
図4を参照して、駆動形態選択制御の手順について説明する。駆動状態選択制御は、モータ1の駆動要求があったときからモータ1の停止要求があるときまでの期間にわたり所定時間毎に繰り返し実行されている。
【0051】
本制御においては、回転速度Vが区間Aおよび区間Bのいずれかに該当するかを判定するため、ステップS11の処理を行う。
(区間A)回転速度Vが閾値XAよりも高い。
(区間B)回転速度Vが閾値XA以下。
【0052】
閾値XAは、モータ1が低速回転か否かを判定するための値であり、実験等により予め設定されている。また、回転速度Vが閾値XA以下のとき、第2駆動形態のときにロータ20と第1ステータ30とによりデッドポイントが形成されやすい、すなわち回転速度Vが安定しにくい。
【0053】
ステップS11においては、回転速度Vが閾値XA以下か否か判定する。
そして、この判定の結果に応じて次の(A)および(B)の処理を行う。
(A)ステップS11において肯定判定したとき、すなわちモータ1が低速回転のとき、ステップS12においてモータ1の駆動形態として第1駆動形態を選択する。
(B)ステップS11において否定判定したとき、すなわちモータ1が低速回転ではないとき、ステップS13においてモータ1の駆動形態として第2駆動形態を選択する。
【0054】
(実施形態の効果)
本実施形態のモータ1によれば、以下の効果が得られる。
(1)モータ1においては、各ステータ30,40が2相の第1コイル32および2相の第2コイル42を有する。この構成によれば、第1コイル32および第2コイル42に3相コイルを用いるブラシレスモータと比較して、各ステータ30,40の構成および各駆動回路80,90の回路構成を簡単化できる。したがって、上記3相コイルを用いるブラシレスモータと比較して、モータ1のコストを低減することができる。
【0055】
(2)モータ1においては、第1コイル32の周方向Wの位置と、第2コイル42の周方向Wの位置とが互いに異なる。この構成によれば、ロータ20と各ステータ30,40とによりデッドポイントが形成されにくい。このため、各第1コイル32の周方向Wの位置および各第2コイル42の周方向Wの位置のうちの少なくとも2つの相コイルが周方向Wに同じ位置となる構成のモータと比較して、ロータ20の回転が不安定となることが抑制される。
【0056】
(3)モータ1においては、ロータ20の回転方向の順に第1コイル32および第2コイル42を通電する。これにより、各コイル32,42によりロータ20を回転させるとき、ロータ20の回転方向に向けて順に各コイル32,42の磁場が生じる。このため、他の順序で各コイル32,42に通電する場合と比較してロータ20の回転が安定する。
【0057】
(4)モータ1においては、第1駆動形態および第2駆動形態を有する。この構成によれば、1つの駆動形態のみを有する構成と比較して、各コイル32,42の使用形態の幅が広くなる。このため、モータ1に要求されるトルクに応じて適切な駆動形態が選択される頻度が高くなる。
【0058】
(5)モータ1においては、ロータ20が停止している状態からロータ20を回転させるとき、各コイル32,42に通電する。このため、ロータ20が停止している状態からロータ20を回転させるときに第1コイル32および第2コイル42のいずれか一方に通電する場合と比較して、回転速度Vが速やかに高くなる。
【0059】
(6)モータ1においては、駆動形態選択制御においてモータ1が低速回転のとき、第1駆動形態を選択する。これにより、ロータ20の回転が不安定になりやすい低速回転時に各コイル32,42に通電するため、低速回転時に第2駆動系統を選択する場合と比較して、ロータ20の回転が不安定になることが抑制される。
【0060】
(7)出力軸21が減速機2に接続される構成においては、出力軸21の先端部分に負荷容量が大きい第1軸受50が設けられる。このため、各コイル32,42への通電によりロータ20が回転するとき、各ステータ30,40とロータ20との間の磁力により生じる出力軸21の先端部分の撓み量は、出力軸21の先端部分から離れた部分の撓み量よりも小さくなる。
【0061】
モータ1においては、第2駆動形態として第1コイル32に通電し、かつ第2コイル42への通電を停止する。このため、第2駆動形態として第2コイル42に通電し、かつ第1コイル32への通電を停止する場合と比較して、出力軸21の撓み量が小さくなるため、ロータ20の回転が安定する。
【0062】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記実施形態の内容に限られるものではなく、例えば以下のように変更することもできる。また、以下の変形例は上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0063】
・上記実施形態(図1)では、各ステータ30,40よりも内方に磁石23を設けているが、各ステータ30,40よりも外方に磁石を設けることもできる。この場合、各ステータ30,40のティースはコアバックから外方に向けて延びる。ロータ20は、出力軸21に接続された有蓋円筒形状のロータコアと、ロータコアの円筒部分の内周面に固定された磁石とを有する。
【0064】
・上記実施形態(図1)では、第1軸受50の負荷容量が第2軸受60の負荷容量よりも大きいが、第1軸受50の負荷容量と第2軸受60の負荷容量とを同じとすることもできる。また、第2軸受60の負荷容量を第1軸受50の負荷容量よりも大きくすることもできる。
【0065】
・上記実施形態(図1)では、第1軸受50および第2軸受60として転がり軸受を用いているが、第1軸受50および第2軸受60の少なくとも一方をすべり軸受に変更することもできる。
【0066】
・上記実施形態(図1)では、レゾルバ70によりロータ20の回転を検出しているが、ロータ20の回転を検出する回転位置検出手段はこれに限られない。例えば、回転位置検出手段として、レゾルバ70に代えて、ホール素子、エンコーダを用いることもできる。また、モータ1からレゾルバ70を省略することもできる。この場合、モータ1はセンサレス駆動制御により駆動される。
【0067】
・上記実施形態(図1)では、レゾルバ70により検出されたロータ20の回転位置情報の信号を各駆動回路80,90に送信しているが、各駆動回路80,90がロータ20の回転位置情報を取得する構成はこれに限られない。第1駆動回路80にロータ20の回転位置情報を送信するレゾルバ等の第1回転位置検出手段と、第2駆動回路90にロータ20の回転位置情報を送信するレゾルバ等の第2回転位置検出手段とを設けることもできる。
【0068】
・上記実施形態(図2)では、各ステータ30,40のスロット数を「4」としているが、各ステータ30,40のスロット数はこれに限られない。スロット数として「6」以上の偶数とすることもできる。
【0069】
・上記実施形態(図2および図3)では、周方向Wにおいて、第1コイル32と第2コイル42とを互いに45°離れた位置に設けているが、第1コイル32と第2コイル42との位置関係はこれに限られない。周方向Wにおいて隣り合う第1コイル32と第2コイル42との間の角度を「磁極間角度」として、磁極間角度は、0°よりも大きくかつ45°よりも小さい範囲とすることもできる。また、磁極間角度は45°よりも大きくかつ90°よりも小さい範囲とすることもできる。
【0070】
・上記実施形態(図2)では、軸方向Yにおいて、第1ステータ30および第2ステータ40を並べているが、軸方向Yの同位置に第1ステータ30および第2ステータ40を設けることもできる。この場合、第1ステータ30および第2ステータ40の構成は次のようになる。すなわち、ステータコアとして、各ステータ30,40に共通のコアバックと、コアバックから内方に向けて延びる4つの第1ティースおよび4つの第2ティースとを形成する。各第1ティースに導電線を巻きつけることにより第1ステータ30の第1相コイルおよび第2相コイルを形成する。各第2ティースに導電線を巻きつけることにより第2ステータ40の第1相コイルおよび第2相コイルを形成する。
【0071】
・上記実施形態(図3)では、磁石23の磁極数を2極としているが、磁石23の磁極数はこれに限られない。磁極数として4極以上に設定することもできる。
・上記実施形態(図3および図4)では、第2駆動形態が第1コイル32に通電し、第2コイル42への通電を停止するものであるが、第2駆動形態を第2コイル42に通電し、第1コイル32への通電を停止するものに変更することもできる。
【0072】
・上記実施形態(図4)では、駆動形態選択制御のステップS11において回転速度Vが閾値XA以下か否かを判定しているが、ステップS11として回転速度Vが閾値XB以上か否かを判定するものに変更することもできる。この場合、閾値XBは、モータ1が高速回転か否かを判定するための値であり、実験等により予め設定される。また、閾値XBは、閾値XAよりも大きい値および閾値XAと同じ値のいずれかに設定される。ここで、ステップS11において肯定判定されるとき、すなわちモータ1が高速回転のとき、ステップS13において第2駆動形態を選択する。一方、ステップS11において否定判定されるとき、すなわちモータ1が高速回転ではないとき、ステップS12において第1駆動形態を選択する。これにより、高速回転時に第1駆動形態を選択する場合と比較して、第2コイル42の温度が上昇にしにくい。また、ロータ20の回転が安定しやすい高速回転時において通電するコイルの数を減らしているため、このことに起因してロータ20の回転が不安定になるおそれが小さい。このように、ロータ20を安定して回転させる状態を維持する効果と、第2コイル42の温度上昇を抑制する効果とが得られる。
【0073】
・上記実施形態(図4)では、駆動形態選択制御において回転速度Vが1つの閾値XAにより駆動形態を選択しているが、2つの閾値XA,XB(XB>XA)により駆動形態を選択することもできる。このとき、回転速度領域は、回転速度Vが閾値XA以下の低速領域、回転速度Vが閾値XAよりも大きくかつ閾値XB未満の中間領域、および回転速度Vが閾値XB以上の高速領域に区分される。そして、駆動形態選択制御においては、回転速度Vが低速領域のときには、第1駆動形態を選択する。また、回転速度Vが高速領域のときには、第2駆動形態を選択する。また、回転速度Vが中間領域のときには、他の条件に基づいて第1駆動形態および第2駆動形態のいずれかを選択する。
【0074】
他の条件としては、各コイル32,42の温度が挙げられる。各コイル32,42の温度がともに閾値TX以上のとき、または各コイル32,42の温度が閾値TX未満かつ第1コイル32の温度が第2コイル42の温度以上のとき、第1駆動形態を選択する。一方、各コイル32,42の温度が閾値TX未満かつ第1コイル32の温度が第2コイル42の温度未満のとき、第2駆動形態を選択する。
【0075】
・上記実施形態(図1)では、車両としての同軸二輪車に対して本発明のブラシレスモータが適用された一例を示しているが、車両としての一輪の移動体、または三輪以上の移動体に対して本発明のブラシレスモータを適用することもできる。また、車両としての電気自動車、ハイブリッド車両、電車、および電動自転車に本発明のブラシレスモータを適用することもできる。要するに、モータにより駆動輪を回転させる車両に本発明のブラシレスモータを適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1…モータ(ブラシレスモータ)、2…減速機、20…ロータ、21…出力軸、30…第1ステータ、32…第1コイル、32A…第1U相コイル(A相コイル)、32B…第2U相コイル(A相コイル)、32C…第1V相コイル(B相コイル)、32D…第2V相コイル(B相コイル)、40…第2ステータ、42…第2コイル、42A…第1U相コイル(A相コイル)、42B…第2U相コイル(A相コイル)、42C…第1V相コイル(B相コイル)、42D…第2V相コイル(B相コイル)、80…第1駆動回路、90…第2駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を生成する第1ステータおよび第2ステータと、これら第1ステータおよび第2ステータの磁場に基づいて回転するロータとを備えるブラシレスモータにおいて、
前記第1ステータにA相コイルおよびB相コイルを有する第1コイルが設けられていること、
前記第2ステータにA相コイルおよびB相コイルを有する第2コイルが設けられていること、
ならびに、前記第1コイルのA相コイルと前記第1コイルのB相コイルと前記第2コイルのA相コイルと前記第2コイルのB相コイルとの周方向の位置が互いに異なること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のブラシレスモータにおいて、
前記ロータの回転方向において、前記第1コイルのA相コイル、前記第2コイルのA相コイル、前記第1コイルのB相コイル、および前記第2コイルのB相コイルの順に各相コイルが配置されていること、
ならびに、前記第1コイルおよび前記第2コイルにより前記ロータを回転させるとき、前記第1コイルのA相コイル、前記第2コイルのA相コイル、前記第1コイルのB相コイル、および前記第2コイルのB相コイルの1つを起点として、前記ロータの回転方向において前記各相コイルの配置の順に通電すること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブラシレスモータにおいて、
前記ロータに対して個別にトルクを発生させる第1駆動系統および第2駆動系統を有すること、
前記第1駆動系統は、前記第1コイルと、前記第1コイルに電流を供給する第1駆動回路とを有すること、
前記第2駆動系統は、前記第2コイルと、前記第2コイルに電流を供給する第2駆動回路とを有すること、
ならびに、前記第1駆動系統および前記第2駆動系統を駆動する第1駆動形態と、前記第1駆動系統および前記第2駆動系統のいずれか一方を駆動する第2駆動形態とを有すること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、
停止している前記ロータを回転させるとき、前記第1コイルおよび前記第2コイルに通電すること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記ロータが所定回転速度VL以下で回転する低速回転のとき、前記第1コイルおよび前記第2コイルに通電すること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記ロータが所定回転速度VH以上で回転する高速回転のとき、前記第1コイルおよび前記第2コイルのいずれか一方に通電すること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記第1コイルが前記第2コイルと比較して出力軸の先端部分の近くに設けられていること、
ならびに、前記第1コイルおよび前記第2コイルのいずれか一方を用いて前記ロータを回転させる条件が成立しているとき、前記第1コイルを非通電かつ前記第2コイルを通電とすること
を特徴とするブラシレスモータ。
【請求項8】
駆動輪の動力源としてブラシレスモータを有する車両において、
前記ブラシレスモータとして、請求項1〜7のいずれか一項に記載のブラシレスモータを有すること、
ならびに、前記ブラシレスモータの出力軸の回転を減速する減速機を有すること
を特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−21814(P2013−21814A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153134(P2011−153134)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】