説明

ブリーザー構造及び動力伝達装置

【課題】特別なバルブを不要として組み付け、部品管理を容易とすることを可能とする。
【解決手段】内部空間Sを区画するクラッチ・ハウジング3及びローター5の内部圧力を逃がすためのブリーザー構造54であって、クラッチ・ハウジング3及びローター5の嵌合結合された嵌合内外周部13,44と、嵌合内周部13に設けられたオー・リング収容凹部30と、オー・リング収容凹部30に収容され嵌合外周部44に圧接されたシール・リング゛53と、内部空間Sに対しオー・リング53の圧接箇所よりも外部低圧側に設けられて内部空間Sの内部圧力が設定圧を上回ることでオー・リング53が圧接する当接部93とを備え、オー・リング53が当接部93に圧接して変形することに起因してオー・リング53による密閉性が損われることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力室のブリーザー構造及び動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載された動力伝達装置がある。この動力伝達装置は、外周側のケースと内周側のシャフトとからなる一対の回転部材間に係合する摩擦多板クラッチを電磁石の磁力で制御するものである。この駆動力伝達装置には、一対の回転部材間にシール部材が介在し、密閉された内部空間Sに潤滑オイルが封入されている。
【0003】
このように制御可能で潤滑オイルが封入された動力伝達装置は、アッセンブリ化されて搭載性が良く、種々の動力伝達経路に搭載されている。
【0004】
前記動力伝達装置を制御するアクチュエータは、主要構成として、ケース外に配置された前記電磁石と、この電磁石を支持するコア(以下、コア)と、ケースの一部に一体的に結合したリヤ・ハウジング(以下、ローター)と、ケース内に配置されたアーマチャとを備えている。
【0005】
前記電磁石が励磁されると、磁力線がコアとローターとアーマチャとを周回する磁束ループが形成されてアーマチャが吸引され、ローターとアーマチャとの間に配置されたパイロット・クラッチが締結調整される。
【0006】
このパイロット・クラッチの締結調整によりカム機構が働いてスラスト力に変換され、摩擦多板クラッチに所定の締結力を付与する。
【0007】
このように潤滑オイルが密封されてアッセンブリ化された動力伝達装置では、摩擦多板クラッチの摩擦熱により潤滑オイルの温度が上昇し、密閉された内部空間が圧力室となる。
【0008】
このような圧力の上昇時に、従来は特別なバルブを用いて圧抜きを行い、装置の保護を図っていた。
【0009】
しかし、特別なバルブを設けるため部品点数が多くなり、組み付け、部品管理が煩雑であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−144936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、特別なバルブを設けるため部品点数が多くなり、組み付け、部品管理が煩雑であった点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、特別なバルブを不要として組み付け、部品管理を容易とすることを可能とするため、圧力室を区画するハウジングの内部圧力を逃がすためのブリーザー構造であって、ハウジングの嵌合結合された嵌合内外周部と、前記嵌合内周部に設けられたシール・リング収容凹部と、前記シール・リング収容凹部に収容され前記嵌合外周部に圧接されたシール・リング゛と、前記圧力室に対し前記シール・リングの圧接箇所よりも外部低圧側に設けられて前記圧力室の内部圧力が設定圧を上回ることで前記シール・リングが圧接する当接部とを備え、前記シール・リングが前記当接部に圧接して変形することに起因し前記シール・リングによる密閉性が損われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、圧力室を区画するハウジングの内部圧力を逃がすためのブリーザー構造であって、ハウジングの嵌合結合された嵌合内外周部と、前記嵌合内周部に設けられたシール・リング収容凹部と、前記シール・リング収容凹部に収容され嵌合外周部に圧接されたシール・リング゛と、前記圧力室に対し前記シール・リングの圧接箇所よりも外部低圧側に設けられて前記圧力室の内部圧力が設定圧を上回ることで前記シール・リングが圧接する当接部とを備え、前記シール・リングが前記当接部に圧接して変形することに起因し前記シール・リングによる密閉性が損われる。
【0014】
このため、特別なバルブを不要とし、部品点数が少なくなり、組み付け、部品管理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電磁摩擦クラッチの断面図である。(実施例1)
【図2】要部拡大断面図である。(実施例1)
【図3】要部拡大断面図である。(実施例2)
【図4】要部拡大断面図である。(実施例3)
【図5】要部拡大断面図である。(実施例4)
【図6】要部拡大断面図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0016】
特別なバルブを不要として組み付け、部品管理を容易にすることを可能とするという目的を、シール・リングの変形を利用して実現した。
【実施例1】
【0017】
[動力伝達装置]
図1は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置としての電磁摩擦クラッチの断面図である。
【0018】
図1の電磁摩擦クラッチ1は、例えば四輪駆動車のリヤ側に配置され、終減速装置に備えられてプロペラシャフトに結合される。
【0019】
そして、プロペラシャフトへ伝達されたトルクは、電磁摩擦クラッチ1を介して終減速装置に入力され、リヤ・デファレンシャル、アクスル・シャフトを介して後輪へ伝達される。
【0020】
電磁摩擦クラッチ1は、クラッチ・ハウジング3及びローター5と、ハブ・シャフト7と、メイン・クラッチ9と、締結機構11とを備えている。
【0021】
クラッチ・ハウジング3は、例えばアルミ合金で形成され、一端の嵌合内周部13に開口部15が形成された外側回転部材であり、他端に結合部17を備えている。クラッチ・ハウジング3の内周には、インナー・スプライン19が形成され、インナー・スプライン19の端部側でクラッチ・ハウジング3に受圧面21が形成されている。
【0022】
嵌合内周部13の開口部15には、クラッチ係合部23が形成され、この嵌合内周部13外周面に、雄ねじ部25が形成されている。この雄ねじ部25に隣接して嵌合内周部13に嵌合外周面27が形成され、嵌合外周面27の基端部に突当部29が形成されている。嵌合外周面27には、シール・リング収容凹部としてのオー・リング収容凹部30形成されている。
【0023】
なお、結合部17には、オイル注入孔31が形成され、カシメ・ボール33が取り付けられている。
【0024】
ローター5は、例えばスチールで形成され、中間壁部35と外周壁部37と内周ボス部39とからなる閉鎖部材であり、軸方向外部の電磁石41による磁路を形成する。中間壁部35には、前記磁路形成のための非磁性体43が形成されている。
【0025】
外周壁部37の一端には、嵌合外周部44が形成され、嵌合外周部44の内周には、嵌合内周面45が形成されている。嵌合内周面45に隣接して雌ねじ部47が形成されている。内周ボス部39には、中間部にシール収容凹部49が形成され、端部側に軸受支持部51が形成されている。内周ボス部39の当接面には、後述するスラスト・ワッシャと軸方向に対向する複数の放射溝52が設けられている。
【0026】
このローター5は、雌ねじ部47がクラッチ・ハウジング3の雄ねじ部25に螺合結合されている。嵌合内周面45は、嵌合外周面27に嵌合し、オー・リング収容凹部30に収容されたオー・リング53が嵌合内周面45に圧接している。
【0027】
このオー・リング53を用いて圧力室を区画するハウジングの内部圧力を逃がすためのブリーザー構造54が構成されている。ブリーザー構造54の詳細は後述する。
【0028】
ハブ・シャフト7は、外側回転部材の内周側に配置された内側回転部材であり、クラッチ・ハウジング3及びローター5の内周側に配置されている。このハブ・シャフト7は、中空に形成され、中間部に隔壁55が設けられている。ハブ・シャフト7には、隔壁55を挟んで、軸方向一側の外周にスプライン57が設けられ、同他側の内周には、インナー・スプライン59が設けられている。
【0029】
このハブ・シャフト7は、ベアリング61によってクラッチ・ハウジング3に回転自在に支持され、ブッシュ63によってローター5の内周ボス部39に回転自在に支持されている。内周ボス部39のシール収容凹部49にシール・リングとしてのXリング65が支持され、このXリング65は、ハブ・シャフト7の外周面に密接している。
【0030】
このXリング65と前記オー・リング53及びカシメ・ボール33とは、ローター5を備えたクラッチ・ハウジング3とハブ・シャフト7との間の内部空間Sを外部から区画するシール部材を構成している。
【0031】
内部空間Sには、潤滑オイルが注入されており、メイン・クラッチ9等の摩擦熱により潤滑オイルの温度が上昇し、密閉された内部空間Sが圧力室となる。したがって、クラッチ・ハウジング3及びローター5は、圧力室を区画するハウジングを構成する。
【0032】
メイン・クラッチ9は、クラッチ・ハウジング3とハブ・シャフト7との間の内部空間Sに介設された摩擦クラッチであり、アウター・プレートがクラッチ・ハウジング3のインナー・スプライン19に係合し、インナー・プレートがハブ・シャフト7のスプライン57に係合している。
【0033】
締結機構11は、メイン・クラッチ9をローター5とクラッチ・ハウジング3の受圧面21との間で締結するものである。この締結機構11は、カム機構67と押圧プレート69とアーマチャ71とパイロット・クラッチ73とからなっている。
【0034】
カム機構67は、ボール・カムで構成され、カム・プレート75の背面側がニードル
・ベアリング77及びスラスト・ワッシャ79を介してローター5側に当接している。
【0035】
スラスト・ワッシャ79と軸方向に対向するローター5の複数の放射溝52は、ブッシュ63と締結機構11側の空間とを連通させ、潤滑オイルの流通が促がされる。
【0036】
カム・プレート75と押圧プレート69との間には、カム機構67のボール81が介設されている。押圧プレート69とスプライン57端部のストッパー・リング83との間には、リターン・スプリング85が介設されている。
【0037】
押圧プレート69は、内周側がカム機構67に連繋し、外周側がメイン・クラッチ9に対向している。押圧プレート69は、ハブ・シャフト7側にスプライン係合してカム機構67の働きによりメイン・クラッチ9に対し押圧移動する。
【0038】
軸方向に移動可能なアーマチャ71は、パイロット・クラッチ73を挟んでローター5の中間壁部35に対向し電磁石41の磁力によって引き付けられ、パイロット・クラッチ73を中間壁部35に対して締結するように移動する。
【0039】
パイロット・クラッチ73は、アーマチャ71と中間壁部35との間に介設され、アウター・プレートがクラッチ・ハウジング3のクラッチ係合部23に係合し、インナー・プレートがカム・プレート75にスプライン係合している。
【0040】
電磁石41は、クラッチ・ハウジング3、ローター5、及びハブ・シャフト7で囲まれた内部空間Sに対し、外部で前記ローター5の中間壁部35に軸方向に対向するように配置されている。電磁石41は、電流制御に応じた電磁力を発生するもので、コア87に固定されている。コア87は、ベアリング89を介して、ローター5の軸受支持部51を相対回転自在に支持している。コア87は、車体の固定側に回転不能に係合支持されている。電磁石41は、車体側の電源及びコントローラに対してハーネス91を介し電気的に接続されている。
[トルク伝達]
電磁石41への通電制御によって、ローター5、コア87、アーマチャ71間で周回状の磁路が形成される。この磁路の形成によって、アーマチャ71がローター5側へ引き付けられる。
【0041】
アーマチャ71は、周回状の磁路の形成により吸引され、パイロット・クラッチ73がローター5に対して締結される。この締結によって、カム・プレート75がクラッチ・ハウジング3側に回転方向に係合する。
【0042】
一方、ハブ・シャフト7側にスプライン係合する押圧プレート69は、カム・プレート75に対して回転変位し、カム・ボール81がカム面に乗り上げる。このカム・ボール81の乗り上げによりカムが働き、ニードル・ベアリング77及びスラスト・ワッシャ79を介したローター5側に対する反力として推力を発生する。
【0043】
この推力は押圧プレート69に作用し、押圧プレート69がリターン・スプリング85に抗して移動し、メイン・クラッチ9を締結する。メイン・クラッチ9は、締結力に応じ、例えばクラッチ・ハウジング3からハブ・シャフト7へトルク伝達を行う。
【0044】
電磁石41への通電制御が解除されると、パイロット・クラッチ73のインナー・プレート及びアウター・プレート間が滑り、カム機構67が働かなくなる。このため、押圧プレート69による押圧移動もなくなり、メイン・クラッチ9の締結が解除され、フリー状態となる。
[ブリーザー構造]
図2は、要部拡大断面図である。
【0045】
図2のように、ブリ−ザー構造54は、前記嵌合内外周部13,44と、オー・リング収容凹部30と、オー・リング53を備える他、当接部93を備えている。
【0046】
この当接部93は、クラッチ・ハウジング3及びローター5とハブ・シャフト7との間に形成される密閉された内部空間Sに対し前記オー・リング53の圧接箇所よりも外部低圧側に設けられて内部空間Sの内部圧力が設定圧を上回ることでオー・リング53を圧接させるものである。
【0047】
こうして非相対回転部材間である嵌合内外周部13,44間にオー・リング53が当接部93に圧接して変形することに起因してオー・リング53による密閉性が損われることになる。
【0048】
本実施例においてオー・リング53のオー・リング収容凹部30及び嵌合内周面45間での潰し代は、40%前後若しくは40%を超えるものとしている。一般に、オー・リング53の潰し代は、30%を僅かに上回る程度である。これを前記潰し代としたのは、限界までの内部圧力の上昇により故障モードを形成するためであり、且つ故障個所をオー・リング53に特定するためである。
【0049】
オー・リング収容凹部30の幅は、収容圧接状態でオー・リング53の幅よりも大きく形成されている。このオー・リング収容凹部30の幅とオー・リング53の幅との設定により、内部空間Sの内部圧力が上昇してもオー・リング53が鋭利部95に直ちに圧接されることはない。内部圧力が設定圧を上回ることでオー・リング53がオー・リング収容凹部30を移動し、鋭利部95に圧接される状態となる。オー・リング53のオー・リング収容凹部30に対する移動前の位置は、設定された圧接位置となる。
【0050】
当接部93は、オー・リング53の圧接箇所よりも外部低圧側でオー・リング収容凹部30の縁部に形成した鋭利部95を備えている。鋭利部95は、オー・リング収容凹部30と突当部29との間に、嵌合外周面27よりも小径の周面97を形成することで構成している。したがって、鋭利部95は、嵌合内周面45に対して間隔を有し、鋭利部95及び嵌合内周面45を含めて当接部93を構成している。
【0051】
嵌合外周部44の端部内周には、テーパー面99が形成され、嵌合外周部44の端面には、溝101が形成されている。溝101の設定は自由である。
【0052】
したがって、オー・リング収容凹部30がテーパー面99及び周面97間及び溝101をブリーザーとして外部へ連通し、オー・リング収容凹部30の鋭利部95側が外部低圧側となっている。
【0053】
前記トルク伝達時に、メイン・クラッチ9の摩擦熱により潤滑オイルの温度が上昇し、密閉された内部空間Sの圧力が上昇する。この内部圧力は、パイロット・クラッチ73側から嵌合内外周部13,44間を通り、オー・リング53に作用する。
【0054】
内部空間Sの圧力上昇が設定された範囲内であれば、オー・リング53の設定された圧接位置でシール機能が維持され、メイン・クラッチ9の締結制御によりトルク伝達制御を行わせることができる。
【0055】
内部空間Sの圧力上昇が設定された範囲を超えるとオー・リング53がオー・リング収容凹部30内を移動し始め、鋭利部95に接触し始める。内部空間Sの圧力上昇が限界圧力に圧するとオー・リング53が内部圧力により鋭利部95及び嵌合内周面45間に強く当接し、鋭利部95によりオー・リング53に傷がつけられ、シール機能が損われる。
【0056】
このオー・リング53によるシール機能の喪失時は、Xリング65及びカシメ・ボール33のシール機能は損なわれず、クラッチ・ハウジング3の変形等もない。
【0057】
オー・リング53によるシール機能の喪失により、内部圧力はオー・リング収容凹部30からテーパー面99及び周面97間及び溝101を通って外部へ逃がされる。
【0058】
傷ついたオー・リング53は、ローター5のクラッチ・ハウジング3に対する螺合を緩め、突当部29に対し嵌合外周部44を軸方向へ離間させてオー・リング収容凹部30外周側を開放させ、或いはローター5をクラッチ・ハウジング3から離脱させることで交換することができる。
[実施例の効果]
本願発明実施例は、内部空間Sを区画するクラッチ・ハウジング3及びローター5の内部圧力を逃がすためのブリーザー構造であって、クラッチ・ハウジング3及びローター5の嵌合結合された嵌合内外周部13,44と、嵌合内周部13に設けられたオー・リング収容凹部30と、オー・リング収容凹部30に収容され嵌合外周部44に圧接されたシール・リング゛53と、内部空間Sに対しオー・リング53の圧接箇所よりも外部低圧側に設けられて内部空間Sの内部圧力が設定圧を上回ることでオー・リング53が圧接する当接部93とを備え、オー・リング53が当接部93に圧接して変形することに起因しオー・リング53による密閉性が損われる。
【0059】
このため、特別なバルブを不要とし、部品点数が少なくなり、組み付け、部品管理を容易にすることができる。
【0060】
また、内部圧力が限界圧力を超えたときの装置の密閉性喪失モードを特定することができ、2輪駆動での走行を可能とし、修理も容易となる。
【0061】
密閉性喪失モードを特定することができるため、Xリング65等のシール構造を簡易で安価なものにすることも可能となる。クラッチ・ハウジング3等の材質変更も可能となり、安価にすることもできる。
【0062】
当接部93は、オー・リング53の圧接箇所よりも外部低圧側でオー・リング収容凹部30の縁部に形成した鋭利部95を備えた。
【0063】
このため、オー・リング53を設定した限界圧で確実に傷つけることができ、正確に密閉性喪失モードを特定することができる。
【実施例2】
【0064】
図3は、本発明の実施例2に係る要部拡大断面図である。なお、基本的な構成は実施例1と同様であり、同一又は対応した構成部分には同符号又は同符号にAを付して重複した説明は省略する。
【0065】
本実施例の電磁摩擦クラッチ1Aのブリ−ザー構造54Aは、当接部93Aに、鋭利部材103を備えた。
【0066】
鋭利部材103は、嵌合内外周部13,44間に挟持されシール・リングとしてのオー・リング53の圧接箇所よりも外部低圧側でオー・リング収容凹部30に先端103aが臨む構成となっている。
【0067】
具体的には、鋭利部材103がL字断面で周回形状に形成され、鋭利部材103の基部103bが突当部29及び嵌合外周部44間に挟持されて鋭利部材103が嵌合内外周部13,44間に配置されている。鋭利部材103の鋭利な先端103aは、オー・リング収容凹部30に臨まされている。
【0068】
なお、嵌合外周部44の端面等にオー・リング収容凹部30を外部へ連通させる溝等を設けることもできる。
【0069】
そして、本実施例においても、圧力上昇が設定された範囲を超えるとオー・リング53がオー・リング収容凹部30内を移動し始める。内部圧力が限界圧力になるとオー・リング53が当接部93Aに当接して鋭利部材103の鋭利な先端103aで傷つけられ、オー・リング53による密閉性が損われる。
【0070】
したがって、本実施例においても、実施例1と同様な作用効果を奏することができる。また、本実施例では、鋭利部材103をシムとして機能させることも可能である。この場合、周面97及び嵌合内周面45間の間隔を鋭利部材103の厚みの変更に対応できるように設定する。
【実施例3】
【0071】
図4は、本発明の実施例3に係る要部拡大断面図である。なお、基本的な構成は実施例1と同様であり、同一又は対応した構成部分には同符号又は同符号にBを付して重複した説明は省略する。
【0072】
図4の電磁摩擦クラッチ1Bのブリ−ザー構造54Bは、当接部93Bが、シール・リング収容凹部としてのオー・リング収容凹部30Bの外部低圧側の縁部95B及びブリーザー孔105を備えたものである。
【0073】
オー・リング収容凹部30Bの幅方向両縁の高さは同一であり、共に嵌合外周面27Bに一致している。
【0074】
そして、本実施例においても、圧力上昇が設定された範囲を超えるとオー・リング53がオー・リング収容凹部30B内を移動し始める。内部圧力が限界圧力になるとオー・リング53が当接部93Bに当接して縁部95B及びブリーザー孔105に押し付けられ、ブリーザー孔105側に対する押し出しによるシール切れ、或いは変形が起こり、オー・リング53による密閉性が損われる。
【0075】
したがって、本実施例においても、実施例1と同様な作用効果を奏することができる。
【実施例4】
【0076】
図5は、本発明の実施例4に係る要部拡大断面図である。なお、基本的な構成は実施例3と同様であり、同一又は対応した構成部分には同符号を付し又は符号のBをCに代えて付し重複した説明は省略する。
【0077】
図5の電磁摩擦クラッチ1Cのブリ−ザー構造54Cは、当接部93Cが、シール・リング収容凹部としてのオー・リング収容凹部30Cの外部低圧側の縁部95C及びブリーザー孔105Cを備えたものである。
【0078】
オー・リング収容凹部30Cの幅は通常の設定とし、オー・リング53の潰し代は、通常の設計により30%を僅かに上回る程度としている。ブリーザー孔105Cは、拡大部105Caを備え、オー・リング収容凹部30Cの外部低圧側に臨んでいる。
【0079】
そして、本実施例においても、圧力上昇が設定された範囲を超えるとオー・リング53が当接部93Cに当接し始める。内部圧力が限界圧力になるとオー・リング53が縁部95C及び拡大部105Ca側に対して強く押し付けられ、ブリーザー孔105C側に対する押し出しによるシール切れ、或いは変形が起こり、オー・リング53による密閉性が損われる。
【0080】
したがって、本実施例においても、実施例3と同様な作用効果を奏することができる。
【実施例5】
【0081】
図6は、本発明の実施例5に係る要部拡大断面図である。なお、基本的な構成は実施例1と同様であり、同一又は対応した構成部分には同符号又は同符号にDを付して重複した説明は省略する。
【0082】
図6の電磁摩擦クラッチ1Dのブリ−ザー構造54Dは、当接部93Dが、斜面107及びブリーザー孔105Dを備えたものである。
【0083】
斜面107は、シール・リング収容凹部としてのオー・リング収容凹部30Dの外部低圧側に連続形成され漸次嵌合外周面27へ傾斜している。ブリーザー孔105Dは、嵌合外周部44に設けられ一端がオー・リング収容凹部30Dと斜面107との間に臨み他端が外部に連通している。
【0084】
そして、本実施例においても、圧力上昇が設定された範囲を超えるとオー・リング53がオー・リング収容凹部30D内を移動し始めて斜面107及びブリーザー孔105D側に当接しつつ斜面107を登り始める。内部圧力が限界圧力になるとオー・リング53が当接部93Dの斜面107を登ってブリーザー孔105Dを超え、オー・リング53による密閉性が損なわれる。
【0085】
したがって、本実施例においても、実施例1と同様な作用効果を奏することができる。また、本実施例では、オー・リング53が当接部93Dにおいて傷つくことが抑制され、再利用することもできる。
【0086】
なお、図示は省略するが、シール・リングとしてのXリング65においても各実施例におけるオー・リング53と同様の周辺構成を備えることによりブリーザー機能を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
1,1A,1B,1C,LD 電磁摩擦クラッチ(動力伝達装置)
3 クラッチ・ハウジング(ハウジング)
5 ローター(ハウジング)
13 嵌合内周部
30,30C,30D シール・リング収容凹部

44 嵌合外周部
53 シール・リング
54,54A,54B,54C,54D ブリ−ザー構造
93,93A,93B,93C,93D 当接部
95 鋭利部
95B,95C 縁部
103 鋭利部材
103a 鋭利部材の先端
105,105C,105D ブリーザー孔
107 斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室を区画するハウジングの内部圧力を逃がすためのブリーザー構造であって、
前記ハウジングの嵌合結合された嵌合内外周部と、
前記嵌合内周部に設けられたシール・リング収容凹部と、
前記シール・リング収容凹部に収容され嵌合外内部に圧接されたシール・リングと、
前記圧力室に対し前記シール・リングの圧接箇所よりも外部低圧側に設けられて前記圧力室の内部圧力が設定圧を上回ることで前記シール・リングが圧接する当接部とを備え、
前記シール・リングが前記当接部に圧接して変形することに起因し前記シール・リングによる密閉性が損われる、
ことを特徴とするブリーザー構造。
【請求項2】
請求項1記載のブリーザー構造であって、
前記当接部は、前記シール・リングの圧接箇所よりも外部低圧側で前記シール・リング収容凹部の縁部に形成した鋭利部を備えた、
ことを特徴とするブリーザー構造。
【請求項3】
請求項1記載のブリーザー構造であって、
前記当接部は、前記嵌合内外周部間に配置され前記シール・リングの圧接箇所よりも外部低圧側で前記シール・リング収容凹部に先端が臨む鋭利部材を備えた、
ことを特徴とするブリーザー構造。
【請求項4】
請求項1記載のブリーザー構造であって、
前記当接部は、前記シール・リング収容凹部の外部低圧側の縁部及び前記嵌合外周部に設けられ一端が前記シール・リング収容凹部の外部低圧側の縁部に臨み他端が外部に連通したブリーザー孔である、
ことを特徴とするブリーザー構造。
【請求項5】
請求項1記載のブリーザー構造であって、
前記当接部は、前記シール・リング収容凹部の外部低圧側に連続形成され漸次嵌合外周面へ傾斜する斜面及び前記嵌合外周部に設けられ一端が前記シール・リング収容凹部と前記斜面との間に臨み他端が外部に連通したブリーザー孔である、
ことを特徴とするブリーザー構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のブリーザー構造を用いた動力伝達装置であって、
前記シール・リング収容凹部、シール・リング、及び当接部を備えたハウジングと、
前記ハウジングの内周側に配置されたハブ・シャフトと、
前記ハウジングとハブ・シャフトとの間にシール部材により区画形成され温度上昇により前記圧力室となる内部空間に配置され該ハウジングとハブ・シャフトとの間に介設された摩擦クラッチと、
電磁石の通電に応じて前記摩擦クラッチを締結する締結機構と、
を備えたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6記載の動力伝達装置であって、
前記ハウジングは、前記摩擦クラッチを前記ハブ・シャフトとの間に介設するクラッチ・ハウジング及びこのクラッチ・ハウジングの開口部に螺合結合され前記電磁石の磁路を形成する非磁性体を備えたローターからなり、
前記シール・リング収容凹部、シール・リング、及び当接部を前記クラッチ・ハウジング及びローター間に備えた、
ことを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−252539(P2011−252539A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126308(P2010−126308)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】