説明

ブレーキブースタ制御装置

【課題】ブレーキブースタにおけるアシスト機構の作動の適正化を図り、ブレーキブースタの寿命を向上する。
【解決手段】ブレーキブースタ制御装置100は、変圧室24と定圧室22との差圧によって移動し制動装置の流体圧を高めるパワーピストンと、変圧室24へのエアの吸入が可能となるように変圧室24への経路を開く弁機構を作動させる入力ロッドと、入力ロッドとパワーピストンとの一定量の相対変位の発生で作動し、経路が開くように弁機構の動きを補助するアシスト機構と、アシスト機構の作動を抑制する遮蔽部材14と、を備える。遮蔽部材14によりアシスト機構の作動を抑制することで、アシスト機構を構成する部材の摺動による摩耗を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動を補助するブレーキブースタの動作を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキには、一般に運転者のブレーキ操作力を増大させるブレーキアシスト機能を有するブレーキブースタが搭載されている。このようなブレーキブースタは、内燃機関の吸気通路内で発生する負圧をブレーキブースタなどに設けた蓄圧機構に蓄え、ブレーキ操作時にはこの蓄圧機構の負圧をブースト圧として利用することでブレーキアシストを行っている。
【0003】
特許文献1には、車両停止後はホイールシリンダの液圧を車両が停止状態を保つのに必要な液圧とすることにより、ブレーキ構成部材にかかる負荷を低減するブレーキ装置が開示されている。また、特許文献2には、制御バルブの急激な作動に際しブレーキブースタによって発生されたブースタ力の急激な上昇を確実にする手段を備えた空圧式ブレーキブースタが開示されている。
【特許文献1】特開平6−305410号公報
【特許文献2】特表2001−519269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ブレーキブースタには、ブレーキアシスト機構を有するものがある。ブレーキアシスト機構は、例えば、ドライバによる緊急制動時において、ブレーキの操作速度は速いものの強く踏めず小さな制動力しか出せないような場合であっても、制動力を確保することができるものである。このようなブレーキアシスト機構においては、入力ロッドの動きによりロック部がはずれることで作動が行われる。
【0005】
しかしながら、ブレーキアシスト機構はブレーキペダルの操作速度に反応して作動するが、緊急制動時以外であっても、ドライバが停車時に強くブレーキペダルを踏んだ場合やブレーキ操作を何度か繰り返した場合等、ある値以上の入力が加わった場合にも作動してしまうことがある。このように緊急制動時以外にブレーキアシスト機構が作動する回数が多くなると、ブレーキアシスト機構の作動を規制しているロック部が摺動により摩耗し、ブレーキアシスト機構が緊急制動時以外の通常の制動時においても作動しやすくなってしまう。そのため、ドライバに対して制動時に違和感を与えたり、ブレーキアシスト機構が作動する際の異音が発生したりする。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキブースタにおけるアシスト機構の作動の適正化を図り、ブレーキブースタの寿命を向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキブースタ制御装置は、変圧室と定圧室との差圧によって移動し制動装置の流体圧を高めるパワーピストンと、前記変圧室へのエアの吸入が可能となるように該変圧室への経路を開く弁機構を作動させる入力ロッドと、前記入力ロッドと前記パワーピストンとの一定量の相対変位の発生で作動し、前記経路が開くように前記弁機構の動きを補助するアシスト機構と、前記アシスト機構の作動を抑制する抑制部材と、を備える。
【0008】
この態様によると、抑制部材によりアシスト機構の作動を抑制することで、アシスト機構を構成する部材の摺動による摩耗を抑えることができる。そのため、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。
【0009】
前記抑制部材は、前記変圧室へのエアが吸入される吸入口を塞ぐ。これにより、変圧室へのエアの吸入を抑えることができるため、変圧室と定圧室との差圧が大きくならず、パワーピストンの動きが抑制される。そのため、アシスト機構を作動するための入力ロッドとパワーピストンとの一定量の相対変位が発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。また、抑制部材はエアが吸入される吸入口を外部から塞ぐように構成することで、変圧室への経路の途中に抑制部材を設ける場合と比較して簡易な構成でアシスト機構の作動の抑制が可能となる。
【0010】
前記抑制部材は、操作者による制動操作を前記入力ロッドに伝達する伝達部材の動きを規制してもよい。これにより、抑制部材が伝達部材の動きを規制することで伝達部材に連なる入力ロッドの動きも規制されるので、アシスト機構を作動するための入力ロッドとパワーピストンとの一定量の相対変位が発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。
【0011】
前記定圧室の圧力を検出する圧力検出装置と、検出した前記定圧室の圧力に基づいて前記抑制部材が前記伝達部材の動きを規制する位置を制御する制御装置と、を備えてもよい。パワーピストンは、定圧室と変圧室との差圧によって移動する。そのため、例えば変圧室を大気圧とした場合であっても定圧室の圧力によっては差圧が異なり、パワーピストンの移動速度や移動量も異なるため、アシスト機構の作動する条件が変化する。そこで、抑制部材が伝達部材の動きを規制する位置を、検出した定圧室の圧力に基づいて制御装置により制御することで、伝達部材と連なる入力ロッドの動く量を制御できる。そのため、入力ロッドとパワーピストンとの一定量の相対変位の発生で作動するアシスト機構の作動を抑制しつつ適度な制動力の発生を確保することができる。
【0012】
車両の状態を検出する車両状態検出装置と、前記車両状態検出装置が検出した車両の状態に基づいて前記抑制部材の動きを制御する制御装置と、を備えてもよい。例えば、車両が停止もしくは低速であり、急制動が必要ないような車両状態の場合には、アシスト機構の作動は必要ない。そこで、アシスト機構の作動を抑制する抑制部材を車両の状態に基づいて制御することで、アシスト機構を構成する部材の摺動による摩耗を抑えることができ、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。
【0013】
前記アシスト機構は、前記入力ロッドと前記パワーピストンとの一定量の相対変位の発生により係止が解除される係止部材を有してもよい。係止が解除された前記係止部材は、前記変圧室への経路が開くように前記弁機構を構成する部材を直接または間接に付勢する。このような構成によれば、アシスト機構による作動により係止部材の係止や他の部材との摺動が繰り返され係止部材が摩耗することで、係止部材の係止が解除されやすくなるが、前記抑制部材によりアシスト機構の作動が抑制されるため、アシスト機構を構成する係止部材の摩耗を抑えることができる。そのため、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブレーキブースタにおけるアシスト機構の作動の適正化を図り、ブレーキブースタの寿命を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。図2は、図1のコントロールバルブ部を拡大した断面図である。図3は、実施形態に係るアシスト機構の概略を示す断面図である。
【0017】
ブレーキブースタ制御装置100は、エンジンの負圧を利用する真空式のブレーキブースタ10を制御するものである。ブレーキブースタ制御装置100は、ブレーキブースタ10と、ブレーキブースタ10のエア吸入口12を塞ぐことができる遮蔽部材14と、遮蔽部材14の駆動を行う駆動装置16と、駆動装置16による駆動力を遮蔽部材14に伝達する連結部材18と、駆動装置16の駆動を制御することで遮蔽部材14の動きを制御する制御装置としてのECU20と、備える。ブレーキブースタ10は、主に定圧室22と、変圧室24と、コントロールバルブ部26と、を備える。
【0018】
コントロールバルブ部26は、図2に示すように、変圧室24へのエアの吸入が可能となるように変圧室24への経路を開閉するエアバルブ28と、エアバルブ28が当接する弁座30と、ドライバ等の操作者によるブレーキペダル32(図1参照)の制動操作が伝達されエアバルブ28を作動させる入力ロッド34と、定圧室22と変圧室24との差圧によって移動しブレーキ(制動装置)の油圧(流体圧)を高めるパワーピストン36と、コントロールバルブ38と、を有する。
【0019】
本実施形態では、エアバルブ28と弁座30により弁機構が構成されている。つまり、入力ロッド34が弁機構を作動させるということもでき、弁機構を作動させることで変圧室24へのエアの吸入が可能となるように変圧室24への経路を開くことができる。
【0020】
パワーピストン36は、入力ロッド34に対して相対的に移動可能に設けられており、かつ、ブレーキペダル32の踏み込みにより図2の左方向に移動する。
【0021】
コントロールバルブ部26は、入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位の発生で作動し、外部から変圧室24への経路が更に開くように弁機構の動きを補助するアシスト機構として、フック40と、スライドバルブ42と、スプリング44と、を有する(図3参照)。
【0022】
(ブレーキブースタの動作)
次に、図2〜図6を参照してブレーキブースタの動作を説明する。図4は、ブレーキブースタが作動している状態を示す断面図である。図5は、ブレーキアシスト機構が作動し始める状態を示す断面図である。図6は、ブレーキアシスト機構が作動し、スライドバルブがコントロールバルブを押している状態を示す断面図である。
【0023】
図2に示すように、ブレーキ操作が行われていない状態では、コントロールバルブ38は開いており、定圧室22と変圧室24とは連通した状態で負圧を維持している。この状態で、操作者がブレーキペダル32を踏むと、図4に示すように、ブレーキペダル32に連結された入力ロッド34が矢印方向(図中左方向)に向かって移動する。その際、エアバルブ28も左方向に移動するが、スプリング46の付勢力により弁座30もエアバルブ28に付勢された状態で左方向に移動する。また、コントロールバルブ38の端部38aは、弁座30の台座30aと係合しており、スプリング46の付勢力によりコントロールバルブ38が左方向に移動することで定圧室22と変圧室24との連通路(不図示)を閉じ、定圧室22と変圧室24とを遮断する。
【0024】
更にブレーキペダル32が踏み込まれると、コントロールバルブ38の動きが規制されることで弁座30からエアバルブ28が離れ、変圧室24にエア吸入口12からエアが導入され、ブレーキブースタ10が作動する。
【0025】
この際、入力ロッド34とパワーピストン36との相対変位が所定の値以上となると、変圧室24への経路が更に開くように弁機構の動きを補助するアシスト機構が作動する。以下、アシスト機構の作動について説明する。
【0026】
図3、図5に示すように、エアバルブ28は肩部28aを有している。エアバルブ28が図中左方向に更に移動すると、パワーピストン36側に設けられたフック40の当接面40aと肩部28aが当接する。フック40の当接面40aは、肩部28aの移動方向に対して斜めに形成されており、肩部28aの左方向の動きに対してブレーキブースタ10の外周部に向かって開く(図中下方向)。これにより、それまでフック40に係止されていた係止部材としてのスライドバルブ42のロック(係止)が解除される。
【0027】
次に、図6に示すように、ロックが解除されたスライドバルブ42は、スプリング44により、変圧室24への経路が開くように弁機構を構成する弁座30の台座30aをコントロールバルブ38を介して間接的に矢印方向(図中右方向)に付勢する。そのため、ブレーキブースタ10の通常作動時よりも大きくエアバルブ28を開くことができる。これにより、変圧室24に更に多くのエアが導入されることになり、小さな入力であっても大きな出力を得ることができると共に強く踏めないような場合でも急制動が可能となる。なお、スライドバルブ42はその形状を工夫することで弁座30を直接付勢する構成としてもよい。
【0028】
(抑制部材)
上述のブレーキブースタ10に対して、本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置100は、図1に示すように、エア吸入口12を塞ぐ遮蔽部材14を備えている。本実施形態では、遮蔽部材14がアシスト機構の作動を抑制する抑制部材として機能する。
【0029】
アシスト機構を備えるブレーキブースタ10は、急制動を必要とする制動条件だけでなく、例えば、車両が停止もしくは低速であり、急制動が必要ないような車両状態の場合であっても、ブレーキペダル32の踏み込みストロークが大きいとアシスト機構が作動してしまうことがある。不必要なアシスト機構の作動は、アシスト機構を構成する部材が摺動や当接により摩耗することを促進し、ブレーキブースタ10の寿命を短くする要因となる。そこで、そのような場合に、アシスト機構の作動を抑制する抑制部材を備えることで、アシスト機構を構成する部材の摺動や当接による摩耗を抑えることができる。その結果、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。
【0030】
本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置100は、急制動が不必要な場合にアシスト機構が作動しないように、遮蔽部材14によりエア吸入口12を塞ぐことで、変圧室24へのエアの吸入を抑えることができるため、変圧室24と定圧室22との差圧が大きくならず、パワーピストン36の動きが抑制される。そのため、アシスト機構を作動するための入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位が発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。また、遮蔽部材14はエアが吸入されるエア吸入口12を外部から塞ぐように構成することで、変圧室24への経路の途中に遮蔽部材を設ける場合と比較して簡易な構成でアシスト機構の作動の抑制が可能となる。
【0031】
遮蔽部材14は、その一端14aが車両本体48に対してばね50により取り付けられている。また、一端14aは連結部材18の一端18aとばね52により連結されている。連結部材18は、支点54を中心に回動することができるように設けられている。連結部材18の他端18bは、駆動装置16に設けられた軸部材16aの端部と回動可能に連結されている。
【0032】
次に、駆動装置16の駆動により遮蔽部材14がエア吸入口12を塞ぐ動作を説明する。駆動装置16は、ECU20からの信号により駆動され、軸部材16aが図中の矢印F1方向に移動する。その結果、軸部材16aの端部と連結されている連結部材18の他端18bも矢印F1方向に移動し、連結部材18は支点54を中心に回動するため、連結部材18の一端18aは、矢印F2方向に移動する。その際、連結部材18の一端18aは、ばね52を介して遮蔽部材14の一端14aを矢印F2方向へ引っ張りエア吸入口12を遮蔽部材14により塞ぐ。
【0033】
この構成によれば、ブレーキペダル32の操作によりブレーキブースタ10の後端は図中左方向に前進するが、ばね52の働きにより遮蔽部材14はエア吸入口12を塞いだ状態を維持することができる。なお、遮蔽部材14は、弾性を有する材料であることが好ましい。これにより、エア吸入口12をしっかりと塞ぐことができ、エアの流入を防ぐことでアシスト機構の動作を抑制することができる。
【0034】
一方、遮蔽部材14がエア吸入口12を塞ぐ状態を解除する場合は、駆動装置16の駆動が解除され、軸部材16aにかかっていた矢印F1方向の力が解除されるため、それまで伸びていたばね52が縮み連結部材18の一端18aが矢印F2と反対方向に移動する。そして、それまでばね52によりエア吸入口12を塞ぐように遮蔽部材14に付勢されていた力が解除され、遮蔽部材14は、車両本体48に取り付けられているばね50によりエア吸入口12から離間する方向へ移動し、エア吸入口12からは通常通りエアの吸入が可能となる。
【0035】
前述のように、遮蔽部材14によりエア吸入口12を塞ぐのは急制動が不必要でアシスト機構が作動する必要のない車両状態であることが望ましい。そこで、本実施形態では、ECU20が、車両状態検出装置により検出した車両の状態に基づいて遮蔽部材14の動きを制御している。
【0036】
図7は、本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の制御ブロック図である。本実施形態に係る車両状態検出装置としては、ブレーキ操作がなされているか否かを判定するペダルSW56、車輪の速度を検出する車輪速センサ58、ブレーキブースタ10の定圧室や変圧室の圧力を検出する圧力検出装置60を用いることができる。
【0037】
車両が停止もしくは低速である場合にブレーキ操作がなされても、通常急制動は必要なくアシスト機構を作動させる必要はない。そこで、ECU20が、車輪速センサ58から車両が停止または低速であるという信号を受け、ペダルSW56によりブレーキ操作が行われているという信号を受けると、抑制部材としての遮蔽部材14によりエア吸入口12を塞ぐ必要があると判定し、駆動装置16を作動させる。
【0038】
その結果、ブレーキブースタ10の後端にあるエア吸入口12に押しつけられた遮蔽部材14により、ブレーキブースタ10の通常作動時に流入するエアが流入しなくなり、ブレーキブースタ10の倍力作用が働きにくくなる。そのため、エアの流入しないブレーキブースタ10は、ある一定の出力を発生させるために必要な入力(踏力)が増加することになるので、アシスト機構を作動するための入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位も発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。
【0039】
一方、ブレーキペダル32を戻したことがペダルSW56により検出されると、ECU20は、駆動装置16を制御することで遮蔽部材14がエア吸入口12から離間した初期位置となるようにし、ブレーキブースタ10をエアが流入することが可能な状態とする。初期位置は、ペダルストッパ62のストロークに支障をきたさない位置に定めるとよい。
【0040】
このように、アシスト機構の作動を抑制する抑制部材を車両の状態に基づいて制御することで、アシスト機構を構成する部材同士の摺動、例えば、フック40とスライドバルブ42との間の摺動による摩耗を抑えることができ、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。また、アシスト機構の作動が抑制されるため、アシスト機構を構成する部材が他の部材に当たる音の発生を軽減し、操作者に不快感を与えにくくすることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。なお、以下の説明では第1の実施形態と同じ部材には同じ符号を付し、重複する内容の説明は適宜省略する。
【0042】
ブレーキブースタ制御装置200は、エンジンの負圧を利用する真空式のブレーキブースタ10を制御するものである。ブレーキブースタ制御装置200は、ブレーキブースタ10と、操作者による制動操作を入力ロッド34に伝達する伝達部材としてのブレーキペダル32の動きを規制するペダルストッパ62と、ペダルストッパ62の駆動を行う駆動装置16と、駆動装置16による駆動力をペダルストッパ62に伝達する連結部材64と、駆動装置16の駆動を制御することでペダルストッパ62の動きを制御する制御装置としてのECU20と、備える。ブレーキブースタ10は、主に定圧室22と、変圧室24と、コントロールバルブ部26と、を備える。
【0043】
(抑制部材)
上述のブレーキブースタ10に対して、本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置200は、図8に示すように、ブレーキペダル32の動きを規制するペダルストッパ62を備えている。本実施形態では、ペダルストッパ62がアシスト機構の作動を抑制する抑制部材として機能する。
【0044】
アシスト機構を備えるブレーキブースタ10は、急制動等の必要とする制動条件だけでなく、例えば、車両が停止もしくは低速であり、急制動が必要ないような車両状態の場合であっても、ブレーキペダル32の踏み込みストロークが大きいとアシスト機構が作動してしまうことがある。
【0045】
本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置200は、急制動が不必要な場合にアシスト機構が作動しないように、ペダルストッパ62によりブレーキペダル32の動きを規制することで、入力ロッド34の動きが抑制される。そのため、アシスト機構を作動するための入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位が発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。
【0046】
ペダルストッパ62は、その一端62aが車両本体48に対してばね66により取り付けられている。また、他端62bは連結部材64の一端64aと連結されている。連結部材64の他端は駆動装置16に取り付けられており、駆動装置16の駆動により図中の矢印F3方向に移動可能に構成されている。
【0047】
次に、駆動装置16の駆動によりペダルストッパ62がブレーキペダル32の動きを規制する動作を説明する。駆動装置16は、ECU20からの信号により駆動され、連結部材64をばね66の付勢力に抗して図中の矢印F3方向に移動する。その結果、ブレーキペダル32の前方にペダルストッパ62が横から押し出される。このような状態で操作者がブレーキ操作を行おうとすると、ブレーキペダル32がペダルストッパ62に当接するため、それ以上ブレーキペダル32を踏み込むことができない。つまり、所定量のストローク以上のブレーキペダル32の踏み込みが規制される。
【0048】
一方、ペダルストッパ62がブレーキペダル32の動きを規制している状態を解除する場合は、駆動装置16の駆動が解除され、連結部材64がペダルストッパ62を矢印F3方向へ引っ張る力がなくなる。そのため、ペダルストッパ62は、車両本体48に取り付けられているばね66によりブレーキペダル32の動きを規制する位置から初期位置へ移動し、ブレーキペダル32による通常通りの制動が可能となる。
【0049】
前述のように、ペダルストッパ62によりブレーキペダル32の動きを規制するのは急制動が不必要でアシスト機構が作動する必要のない車両状態であることが望ましい。そこで、本実施形態では、第1の実施形態と同様にECU20が、車両状態検出装置により検出した車両の状態に基づいてペダルストッパ62の動きを制御している。
【0050】
車両が停止もしくは低速である場合にブレーキ操作がなされても、通常急制動は必要なくアシスト機構を作動させる必要はない。そこで、ECU20が、車輪速センサ58から車両が停止または低速であるという信号を受け、ペダルSW56によりブレーキ操作が行われているという信号を受けると、抑制部材としてのペダルストッパ62によりブレーキペダル32の動きを規制する必要があると判定し、駆動装置16を作動させる。
【0051】
その結果、ブレーキペダル32の前方に横から移動したペダルストッパ62により、ブレーキペダル32に連なる入力ロッド34のストロークが規制され、ブレーキブースタ10の倍力作用が働きにくくなると共に、ある一定の入力(踏力)以上加えることが抑えられる。そのため、アシスト機構を作動するための入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位も発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。
【0052】
一方、ブレーキペダル32を戻したことがペダルSW56により検出されると、ECU20は、駆動装置16を制御することでペダルストッパ62がブレーキペダル32の動きを規制する位置から離間した初期位置となるようにし、ブレーキブースタ10の通常動作が可能な状態とする。
【0053】
このように、アシスト機構の作動を抑制する抑制部材を車両の状態に基づいて制御することで、アシスト機構を構成する部材同士の摺動、例えば、フック40とスライドバルブ42との間の摺動による摩耗を抑えることができ、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。また、アシスト機構の作動が抑制されるため、アシスト機構を構成する部材が他の部材に当たる音の発生を軽減し、操作者に不快感を与えにくくすることができる。
【0054】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。なお、以下の説明では第1の実施形態、第2の実施形態と同じ部材には同じ符号を付し、重複する内容の説明は適宜省略する。
【0055】
ブレーキブースタ制御装置300は、エンジンの負圧を利用する真空式のブレーキブースタ10を制御するものである。ブレーキブースタ制御装置300は、ブレーキブースタ10と、操作者による制動操作を入力ロッド34に伝達する伝達部材としてのブレーキペダル32の動きを規制するペダルストッパ62と、ペダルストッパ62の駆動を行う駆動装置16と、駆動装置16による駆動力をペダルストッパ62に伝達する連結部材68と、駆動装置16の駆動を制御することでペダルストッパ62の動きを制御する制御装置としてのECU20と、備える。ブレーキブースタ10は、主に定圧室22と、変圧室24と、コントロールバルブ部26と、を備える。
【0056】
(抑制部材)
上述のブレーキブースタ10に対して、本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置300は、図9に示すように、ブレーキペダル32の動きを規制するペダルストッパ62を備えている。本実施形態では、ペダルストッパ62がアシスト機構の作動を抑制する抑制部材として機能する。
【0057】
アシスト機構を備えるブレーキブースタ10は、急制動等の必要とする制動条件だけでなく、例えば、車両が停止もしくは低速であり、急制動が必要ないような車両状態の場合であっても、ブレーキペダル32の踏み込みストロークが大きいとアシスト機構が作動してしまうことがある。
【0058】
本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置300は、急制動が不必要な場合にアシスト機構が作動しないように、ペダルストッパ62によりブレーキペダル32の動きを規制することで、入力ロッド34の動きが抑制される。そのため、アシスト機構を作動するための入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位が発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。
【0059】
ペダルストッパ62は、その他端62bは連結部材68の一端68aと連結されている。連結部材68の他端は駆動装置16に取り付けられており、駆動装置16の駆動により図中の矢印F4方向に移動可能に構成されている。
【0060】
駆動装置16は、ECU20からの信号により駆動され、連結部材68を図中の矢印F4方向に移動する。その結果、ブレーキペダル32の前方でペダルストッパ62が矢印F5方向にスライドする。このような状態で操作者がブレーキ操作を行おうとすると、ブレーキペダル32がペダルストッパ62に当接するため、それ以上ブレーキペダル32を踏み込むことができない。つまり、所定量のストローク以上のブレーキペダル32の踏み込みが規制される。なお、本実施形態に係るペダルストッパ62は、スライド可能に設けられているため、ブレーキペダル32がペダルストッパ62に当接するまでに踏み込むことができるストローク量を変化させることができる。
【0061】
前述のように、ペダルストッパ62によりブレーキペダル32の動きを規制するのは急制動が不必要でアシスト機構が作動する必要のない車両状態であることが望ましい。また、ブレーキブースタ10が作動する条件は、定圧室22や変圧室24における負圧値により異なる。つまり、パワーピストン36は、定圧室22と変圧室24との差圧によって移動するため、例えば変圧室24を大気圧とした場合であっても定圧室22の圧力によっては差圧が異なり、パワーピストン36の移動速度や移動量も異なるため、アシスト機構の作動する条件が変化する。
【0062】
そこで、本実施形態では、第1の実施形態と同様にECU20が、車両状態検出装置により検出した車両の状態に基づいてペダルストッパ62の動きを制御すると共に、図7に示す圧力検出装置60により検出した定圧室の圧力に基づいてペダルストッパ62がブレーキペダル32の動きを規制する位置を制御する。
【0063】
車両が停止もしくは低速である場合にブレーキ操作がなされても、通常急制動は必要なくアシスト機構を作動させる必要はない。そこで、ECU20が、車輪速センサ58から車両が停止または低速であるという信号を受け、ペダルSW56によりブレーキ操作が行われているという信号を受けると、抑制部材としてのペダルストッパ62によりブレーキペダル32の動きを規制する必要があると判定し、駆動装置16を作動させる。
【0064】
その結果、ブレーキペダル32の前方をスライドするペダルストッパ62により、ブレーキペダル32に連なる入力ロッド34のストロークが規制され、ブレーキブースタ10の倍力作用が働きにくくなる。そのため、アシスト機構を作動するための入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位も発生しにくくなり、アシスト機構の作動が抑制される。
【0065】
このように、アシスト機構の作動を抑制する抑制部材を車両の状態に基づいて制御することで、アシスト機構を構成する部材同士の摺動、例えば、フック40とスライドバルブ42との間の摺動による摩耗を抑えることができ、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上することができる。また、アシスト機構の作動が抑制されるため、アシスト機構を構成する部材が他の部材に当たる音の発生を軽減し、操作者に不快感を与えにくくすることができる。また、ペダルストッパ62がブレーキペダル32の動きを規制する位置を、検出した定圧室22の圧力に基づいて制御装置により制御することで、ブレーキペダル32と連なる入力ロッド34の動く量を制御できる。そのため、入力ロッド34とパワーピストン36との一定量の相対変位の発生で作動するアシスト機構の作動を抑制しつつ適度な制動力の発生を確保することができる。
【0066】
以上、本発明を各実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素およびプロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、そのような変形例を述べる。
【0067】
上述の抑制部材が作動するような条件であっても、例えば坂道ではある程度以上のストロークによる制動が必要な場合がある。そこで、傾斜センサ等により車両が坂道にあると判定された状態で車両が動きだした場合、抑制部材によるアシスト機構の作動停止状態を解除するとよい。
【0068】
また、上述のエア吸入口12を塞ぐ遮蔽部材14は、必ずしもブレーキブースタ10の後端を塞ぐものだけでなく、ブーツ円筒部の外周に設けられたエア吸入口を塞ぐものでもよい。その場合、遮蔽部材を、例えば、ブーツの蛇腹部のエア吸入口の形状に合わせた形状としてもよい。また、遮蔽部材によりエア吸入口を部分的に塞いでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1の実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1のコントロールバルブ部を拡大した断面図である。
【図3】実施形態に係るアシスト機構の概略を示す断面図である。
【図4】ブレーキブースタが作動している状態を示す断面図である。
【図5】ブレーキアシスト機構が作動し始める状態を示す断面図である。
【図6】ブレーキアシスト機構が作動し、スライドバルブがコントロールバルブを押している状態を示す断面図である。
【図7】本実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の制御ブロック図である。
【図8】第2の実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。
【図9】第3の実施形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0070】
10 ブレーキブースタ、 12 エア吸入口、 14 遮蔽部材、 16 駆動装置、 18 連結部材、 20 ECU、 22 定圧室、 24 変圧室、 26 コントロールバルブ部、 28 エアバルブ、 30 弁座、 32 ブレーキペダル、 34 入力ロッド、 36 パワーピストン、 38 コントロールバルブ、 40 フック、 42 スライドバルブ、 44 スプリング、 46 スプリング、 50 ばね、 52 ばね、 54 支点、 56 ペダルSW、 58 車輪速センサ、 60 圧力検出装置、 62 ペダルストッパ、 100 ブレーキブースタ制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧室と定圧室との差圧によって移動し制動装置の流体圧を高めるパワーピストンと、
前記変圧室へのエアの吸入が可能となるように該変圧室への経路を開く弁機構を作動させる入力ロッドと、
前記入力ロッドと前記パワーピストンとの一定量の相対変位の発生で作動し、前記経路が開くように前記弁機構の動きを補助するアシスト機構と、
前記アシスト機構の作動を抑制する抑制部材と、
を備えることを特徴とするブレーキブースタ制御装置。
【請求項2】
前記抑制部材は、前記変圧室へのエアが吸入される吸入口を塞ぐことを特徴とする請求項1に記載のブレーキブースタ制御装置。
【請求項3】
前記抑制部材は、操作者による制動操作を前記入力ロッドに伝達する伝達部材の動きを規制することを特徴とする請求項1に記載のブレーキブースタ制御装置。
【請求項4】
前記定圧室の圧力を検出する圧力検出装置と、
検出した前記定圧室の圧力に基づいて前記抑制部材が前記伝達部材の動きを規制する位置を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載のブレーキブースタ制御装置。
【請求項5】
車両の状態を検出する車両状態検出装置と、
前記車両状態検出装置が検出した車両の状態に基づいて前記抑制部材の動きを制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のブレーキブースタ制御装置。
【請求項6】
前記アシスト機構は、
前記入力ロッドと前記パワーピストンとの一定量の相対変位の発生により係止が解除される係止部材を有し、
係止が解除された前記係止部材は、前記変圧室への経路が開くように前記弁機構を構成する部材を直接または間接に付勢する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のブレーキブースタ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−210570(P2007−210570A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35765(P2006−35765)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】